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    元スレほむら「さやかの唄」

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    タグ : - QBマンセー + - まどか達に救いはないんですか!? + - 沙耶の唄 + - 魔法少女まどか☆マギカ + 追加: タグについて ※前スレ・次スレは、スレ番号だけ登録。駄スレにはタグつけず、スレ評価を。荒らしタグにはタグで対抗せず、タグ減点を。
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    1 :

    (さやか魔女化直後)

    何度経験しても苦しいものは苦しい。気がつくと私は枕を濡らしていた。
    まどかからの拒絶。初めてでは無いにせよ、このワルプルギスの夜間際にくる精神的な波はいつも私を痛めつける。
    朝日が差し込む時間ではあるが、カーテンが閉められ今なお暗い隔離された空間が憂鬱な心をなお一層際立たせた。
    ……学校に行かなくてはならない。ベッドから徐に立ち上がると髪をかきあげる。
    制服のままベッドに身を投げたお陰でスカートに皺が目立つがこの際そんなことは気にしてなどいられない。
    ワルプルギスの夜の訪れまであまり日数が無いにせよ、精神状態が不安定なまどかを一人にしておくのは危険だ。
    このままインキュベーターの口車に載せられてはたまったものではない。
    冷蔵庫から栄養ゼリーを取り出し乱暴に扉を閉めると、玄関へ向かった。
    靴を履き、ドアノブに手をかけた。
    私はこの瞬間が大嫌いだ。この瞬間、私の焦りと言う名の時計が動き始める。
    ゆっくりと扉を開けた。するとそこには見慣れた姿があった。

    「……杏子」

    通路の転落防止柵の上に腰掛け、俯いていた彼女は罰悪そうに口を開いた。

    「悪いな、その……後をつけるような真似をして」
    「なんの用かしら」

    恐らくさやかを助けるために手を借りに来たとか大方そんな所だろう。
    まどかを頼らず自分のところに来た、という点が少々気になるが今は黙っておくことにした。

    「相談がある」

    3 :

    きたい

    4 :

    なげーよオッサン
    対話式にしろ

    5 :

    さやか「この世界を、あなたにあげます」

    6 :

    コミック裏か

    7 = 1 :

    杏子を部屋へ招き入れる事にした。
    恐らくインキュベーターがまどかに接触するのは下校のタイミングだ。
    それに相談といっても日が暮れるまでかかるような話ではないだろう。
    遅刻したところで特に不利益はない。どうせ義務教育だ。出席日数などあってないようなものなのだから。

    「あ、あのさ」
    「なにかしら」

    私は杏子に向かい合うように座ると彼女の顔に視線を向けた。
    いつもであればしっかり目を合わせ、寧ろ威嚇するほどの勢いで睨みつけるはずだが今日はなかなか目を合わせない。

    「恥ずかしい話なんだけど、ちょっと気になったんだよ」

    話の切り出し方が妙に歯切れが悪い。

    「夢を見たんだ」
    「は?」

    話の本筋が見えるまで黙っていようと思っていたのだが、思わず言葉が出てしまった。
    この期に及んで怖い夢の話でもしにきたというのだろうか。

    「き、気になる夢だったんだよ。さやかと関係あるんじゃないかと思った。
     お前何かと詳しそうだしさ、何か知ってるかもしれないって思ったんだよ」

    しばらく杏子の顔を眺めていたが、この状況で人を馬鹿にしに来る訳も無いだろう。
    彼女は彼女なりに真剣に考えた結果なのだろう。目元のくまがそれを物語っている。

    「いいわ、続けて頂戴」

    8 = 1 :

    「昨日の夜さ、あの後私なりにいろいろ考えたんだけど、途中で何か嫌になって横になったんだ。
     お前らが行ってる学校の近くの病院の屋上でさ。朝一でまどか捕まえて話を聞こうと思ってたし」

    話が始まると、杏子はいつもの様に私の目を見つめていた。
    この危機的な状況でこんな話をするのも決まりが悪いというのはよく分かる。

    「そんで夜遅くになんか足元に何かが垂れるような感覚で目が覚めたんだよ。
     そしたらいたんだよ、あたしの足元に使い魔がな」
    「使い魔?そんなに近づいていたのになんでわからなかったのよ?
     貴方ぐらいの魔法少女ならそのぐらいわかるはずでしょう」
    「それだよ。たとえ寝てたとしてもあたしが気配に気づかないわけがない。
     事実、ソウルジェムにはなんの反応もなかった」

    ソウルジェムに反応がない?そんなことがありうるのか。

    「だからもしかしたらさやかが呼んでるんじゃねえかと思ってさ……
     話しかけたんだ。おいさやかか、さやかなのかって。
     見た目はかなりエグかったけど、きっとアレはあたしに助けを求めてるんじゃないかって思ったんだ」

    杏子は立ち上がり、私の前に仁王立ちになった。

    「なあほむら……お前、そういう経験ないか。
     ソウルジェムに反応しない使い魔や魔女って、聞いたことないか?」

    9 :

    沙耶の唄関連か?

    10 = 1 :

    「残念ながら聞いたことも、実際に出会ったこともないわね。
     正直貴方の言っている話も信じられないわ」

    私は杏子に座るように促すと、足を組み直し大きくため息をついた。

    「そんなこと、或るはずがないもの」
    「じゃ、じゃあなんだよ!ほむらはさ!」

    私の胸ぐらを掴み顔を引き寄せ、怒鳴りつける。
    彼女の表情は必死そのもので、彼女なりに考えて相談しに来たというのに一蹴されたことに腹を立てているようだ。

    「ほむらは!あんな肉塊がそのへんを動きまわるっていうのかよ!」

    ……肉塊?

    「あの使い魔はなぁ!私に抱きついてきたんだぞ!助けてくれってな!
     ゴボゴボいってて聞き取れなかったけど、きっとあたし達に助けを求めてんだよ!苦しんだよ!」

    肩で息をしながらまくし立てる。心なしか目が充血してるように見えた。
    私をソファに放り出すと、杏子は私の隣に崩れるように腰掛ける。

    「抱きつかれた途端に頭痛がして気づいたら朝だったよ……
     もしかしたら夢だったのかもしんねぇ。だけさ、あたしは夢じゃないって思うんだ」

    そういうと杏子は天井を見上げた。前髪に隠れて見えないが、その目元に涙が溜まっているのがわかった。

    11 = 5 :

    さやかちゃんには是非開花してもらわないとね・・・

    12 = 1 :

    「貴方の言いたいことはよくわかったわ。要するに、さやかを助けるために力を貸せ、と」

    杏子は袖で顔を乱暴に拭うと、小さく頷いた。朝一番に彼女が私に相談に来たことはこれが初めてだ。
    いつも午後以降にまどかの様子を見に行って遭遇するか、魔女空間内に入ってから出会うことが多かった。
    彼女の苦痛にゆがむ表情に私の既に小さくなってしまった良心が締め付けられた。
    ワルプルギスの夜を迎え撃つにあって協調関係を結んでいるのだ。
    ここで下手に知りうる結果で杏子を失うよりは、満足行くまで付き合うというのも選択肢としてありだろう。

    「いいわ。協力してあげる」

    その言葉を聞いて杏子は一瞬驚いた様子だったが、すぐに立ち上がり私の両肩を掴んだ。

    「本当か!本当にやってくれんのか!?」
    「何度も言わせないで頂戴」

    私は彼女から目を背けた。冷徹を貫いているつもりでも、やはりこういう瞬間は少々恥ずかしいものだ。

    13 = 1 :

    「それにしても……」

    一つ気になる事がある。
    ソウルジェムに反応しない使い魔の存在。
    何度もループを繰り返し魔女との遭遇を繰り返してきたが、未だかつてそういう魔女に出会ったことはない。
    杏子も初遭遇、あの巴マミでさえソウルジェムの反応は魔女探しの基本と言っている辺り、これはやはり夢なのではないか。
    同じような状況のループは過去にも存在した。同じタイプの魔女と戦い続けているとは言え、突然にその様な変異が起こるものだろうか?
    魔女が元の魔法少女であることを考えると、ループ期間1ヶ月の間に他の新たな魔法少女が近辺で魔女化して気づかないという事もおかしいだろう。
    特にさやかの一件以来、インキュベーターの動きに注視しているのは私だけではない以上、その存在は明らかになる可能性が高い。

    「本当にそれは使い魔だったのかしら?」

    杏子は杏子で、これが夢物語であるに越したことはないだろう。なにせ、見知った人間が肉塊を散らしているなど想像もしたくないに違いない。
    また、使い魔なら使い魔でかなリ大きな脅威であるには違いない。これはかなり厳しい戦いを挑まれそうだ。

    「わ、わかんねえけど……でも、朝起きたら足首んところに赤黒いあとが残ってた」

    ほら、と杏子は足をソファの上に載せた。確かにその足首には太い筆で撫でたような跡が残っている。

    「何か血のようだけど」
    「あぁ、だけど怪我した記憶はないぜ」

    14 :

    原作さやのうたやればいいかなって

    15 = 1 :

    私は立ち上がると髪をかき上げた。

    「兎に角、まずはさやかを探しに行くことね」
    「そうだな。多分まだ線路近くの廃墟の中に結界があると思う」

    杏子は突然立ち上がった私に一瞬躊躇ながらも一歩後ろから部屋を出るべく歩き出した。
    再び玄関を開き外へ出る。下の市道には既に見滝原中学の生徒の姿は無い。
    本来であればもう既に一限の授業が始まる頃だろう。遠くでチャイムの音が聞こえる。

    「ところでさやかの体はどこにあるの?」
    「駅前の空きビルの小部屋さ。冷房つけっぱなしだし鍵もかけたし多分大丈夫だ」
    「そう」

    私は軽く相槌を打つと学校とは逆方向に歩き出した。まずはさやかの結界の様子を見に行くのが先決だろう。
    制服のまま出歩くのは少々リスクを伴うが、魔法少女の格好で出歩くよりはマシだ。
    喧騒な繁華街を杏子とともに早足で進んでゆく。程なくしてソウルジェムがさやかの居場所を指し示し鈍く光を放った。

    「あいつ……本当に魔女になっちまったんだな」
    「ええそうよ。美樹さやかは汚れを溜めすぎたわ……私の警告も聞かずに」

    杏子が機嫌悪そうに舌打ちをしたが、私は聞かないふりをした。

    16 = 1 :

    廃ビルの中に一歩足を踏み入れると、すぐにその空間の異変を実感できた。
    勿論魔女空間があるということも含めてであるが、なぜか空気が異様に重い。
    そして何よりも、何かが腐るような、本能的に接近を拒絶するような臭いが漂っている。
    まるでヘドロの中を泳いでいるような不快感に吐き気を誘われるが、それを体の奥に押し戻す。

    「昨日来た時と髄分様子が違うようね」
    「あ、あぁ……この様子だとどうも昨日の夜あたしが見たもんは夢じゃないみたいだな」

    タイルが剥がれ、薄汚れたコンクリートがむき出しの階段を上がってゆく。
    不意に靴底に薄べったい筒状のものを感じ、足元に視線を落とす。

    「な、何よこれ……」

    赤く、薄べったい膜のようなものが落ちていた。
    それは生物の臓器を連想させ、踏んだ靴底から染みこんでくるような感覚に襲われた。
    私は階段のへりに靴底を何度も擦りつけた。

    「きもちわりい、なんでこんなもんが……」
    「と、兎に角先を急ぐわ」

    嫌な予感がした。

    17 = 1 :

    「この奥のようね」
    「あ、ああ……」

    私と杏子は緑色のペンキが剥げかけた、両開きの扉の前に居た。
    床には落書きがあるが、その上を何かが貼ったようで文字が扉の方向に向かってこすれて読みにくい。

    「Love me do、ね……」
    「どういう意味だ?」
    「さあ?それよりも準備はいいかしら」

    私は足元の「m」を踏みにじるように右足を強く踏み込んだ。
    この先に見覚えがある空間が広がっているのか、それとも未知の空間が広がっているのか。
    あわよくば前者のほうが良い、と思ってしまう自分がなんとなく寂しかった。
    知らない空間があり、そこで新たに再び人間に戻れる可能性を探れる方が良い、と思える自分は随分遠くに行ってしまったようだ。
    目をつぶりくだらない邪念を振り払う。私は進まなければならない。進むために有利な選択肢を選んでいるだけ、と強く念じる。

    「行くわよ」

    私は勢い良く扉を開くと中に駆け込んだ。
    そして、すぐにその足を止める。

    19 = 1 :

    こんな光景をかつて見たことがあっただろうか。簡潔に言うならば、答えは後者だった。
    未知の光景。それも、恐らくこの地球上の誰もが見たことのないであろう空間。いや、口にする事すら厭わしい。
    なんと邪悪な空間だろう。私はその場に釘付けにされたように動けなくなった。

    「なんだよ……なんなんだよこれ……!昨日と全然違うじゃねえか!」

    言葉を発する事のできる杏子はまだ良いほうだろう。私は言葉を発することすら忘れ、その壁の、天井の、床の、悍ましい光景に凍りついた。

    肉塊。

    空間の平面という平面に張り巡らされた血管とうごめく臓器のようなもの。
    それは静かに脈打ちながら、どす黒い静寂を保っていた。
    黒いリノリウムの床を這うように肉塊が地を這っていた。それは互いに繋がっており、まるで何かの体内であるようだ。

    「これは一体……」

    私は思わずソウルジェムを確認しなおした。ソウルジェムはさも当然とばかりにこの空間が魔女空間であることを示し輝いている。
    近くの壁を見る。そこには確かにさやかの魔女が飾ったであろう、演奏会のポスターのようなものがかけられている。
    勿論その上には血管と臓物が垂れ下がっており、奥へ続く廊下の壁も同様だ。

    「ま、魔女空間が何者かに侵食されている……?」

    そうとしか考えられない。昨日の魔女化の時点からこの空間に大きな変化があるとは思えない。

    「おい、ほ、ほむら……どうするんだよ」
    「ど、どうするって……それは……」

    この見ることすら嫌悪される廊下を進むしか無いだろう。

    21 :

    対話式以外のSSを全力で支援

    22 = 1 :

    私は床に巣食う肉塊を避けながら奥へと進んでゆく。
    やむおえず細い筋状の肉塊を踏むたびに背筋に冷たいものが走り、頭がクラクラと混濁する。
    むせ返るような汚臭をこらえ、一歩一歩と中へ進むも一向に扉からの距離は離れない。

    「ほむら、お前……爆弾とか持ってるんだろ?このへんの気持ちわりいブヨブヨ、ぶっ飛ばしてくんねーか?
     さっきから歩きにくくて仕方がねえよ……」
    「い、いやよ!下手に魔女を刺激したらどうするつもりよ……」

    それに飛び散った肉片のシャワーを浴びてしまったら正気を保てる自信がない。
    きっとそれは杏子もそうだと思う。たとえこれがさやかだったものの一部だったとしても耐えられるシロモノではない。
    寧ろ、そう思うからこそ耐えられないということもあるだろう。
    昨日まで普通に喋って、生活していた人間が今日こんな姿になっているとしたら……考えることすら悍ましい。



    23 :

    ホムラウタじゃないのか

    24 = 1 :

    とうとう最後の扉の前に立った。
    以前の経験からいえば、この扉の向こう側には巨大なホールが広がっているはずだ。
    そしてその空間の真ん中には「さやか」が鎮座し、彼女のためだけのコンサートが介されているはずである。
    だが、私はそんな生やさしいものが存在しているとは到底思えないのである。
    第一、この距離にいるにもかかわらず一向に音楽が聞こえて来ない。聞こえてくるのは何かの唸り声。
    絞め殺されているような、しぼり出すような、何か醜いものの叫び声のような。
    言葉では形容しがたい。粘性のある、気泡の破裂音とでもいえば良いだろうか。

    私にはこの扉を開ける勇気がなかった。
    どうしても、さやかがこの先に居るとは思えなかった。居ると信じたくなかった。
    魔女化した彼女のその悲痛な姿とはまた別に、恐らく私はこの先に居るであろう何かのその容姿を見る事が出来ない。
    やっぱり私は……耐えれらないのだ。どうしても過去のさやかが……忘れられないのだ。

    「あたしが開ける」

    扉に手をかけることすら出来ずに棒立ちしていた私の横から杏子が前へと進み出た。

    「さやかはあたしを呼んでるんだ。だから私はさやかを助け出さないといけない」

    ドアノブが回った。

    嗚呼。

    25 = 1 :

    扉の向こうの光景を見た瞬間、私はその現実から意識を遠ざけかけた。
    嗚呼。かくも邪悪で、かくも毒々しく、かくも悲痛な彼女の姿。

    「う、うぁ……!」

    扉を開けた杏子はそのままの体勢でこの赤黒い光景に飲み込まれていた。
    その口から漏れるのは救済の言葉でも、励ましの言葉でもない。全てに絶望を奪われ、言葉すら統制を失っているだけだ。

    空間に満ちたよどんだ汚水のような大気が肌を舐め、目に映る光景は全てを絶望一色に染めていた。
    ドームもステージも、生々しい肉塊に覆われていた。
    彼女を覆っていた甲冑も剥がれ落ち、溶けゆく肉体を支えられずに崩れ落ちるままの魔女。
    何処を見つめているのかわからない瞳が肉の間に白く光り、使い魔すらその周りに姿はない。

    「うっ……」

    思わず口元を抑え屈み込む。その屈みこんだ視線の下すら毒々しいものがうごめいている。
    もう私の精神が持たない。限界だ。呼吸が乱れる。

    その時である。

    「ほ、ほむら!後ろだ!」

    26 = 1 :

    振り向くまもなく私はバランスを崩し前に倒れこんだ。
    そのまま頭から赤黒い肉塊に飛び込み、肺いっぱいにあのドロドロした重たい空気が流れこんできた。
    嫌悪感と恐怖が限界を振り切り、どちらが床かもわからなくなりパニックに陥る。

    「嫌、嫌アアアアァァァァァッ!」

    盾から武器を取り出すことすら忘れ肉塊から離れようと我武者羅にもがく。
    だがそれを背中にのしかかった肉塊が許さず、頭を押さえつけられたまま動ける限り暴れまくる。
    口に腐った血液のような粘性のある液体が流れ込み、猛烈な吐き気を覚えた。
    嘔吐するも昨晩から何も食べてない胃には何も入っておらず、胃液の酸味が尚も吐き気を助長する。

    「―――――!!」

    杏子が何かを叫んでいるのが聞こえた。
    だがその声も突然遠くなり、どうやら私同様に魔女に拿捕されたようだ。

    頭を覆われ呼吸も難しくなると、不意に強い頭痛に襲われた。
    脳をかき回されているような、今までに経験もしたことのないほどの痛み。
    手足の先の感覚が凍ったように冷たくなる。

    私はここで死ぬのか……
    痛みが徐々に心地よくなってゆく。だがまだ嘔吐は収まらない。
    私はこの現実を逃れ、意識を手放すことにした。

    ごめんなさいまどか。私は貴方を苦しめただけだった。こんなどうしようもない私を、どうか許して下さい。

    ごめんね。ごめんねまどか。

    27 :

    あら

    28 :

    マジキチ

    29 = 1 :

    ――どのぐらいの時間が経っただろうか。
    眼を開くと、そこには「さやか」の魔女空間が広がっていた。
    狂気に見を飲まれるような肉壁はいつの間にか姿をけしている。周りを使い魔がうろうろしていた。
    気づけば例の「コンサート」も開催されているようで、なんとなく聞き覚えのある音楽が聞こえる。

    私は身を起こすと辺りを見回した。

    「……杏子?」

    その呼び声に反応する者はいない。何処へ行ったのだろうか。
    改めて周囲を見回す。さやかの魔女がステージの上で指揮を取っており、彼女を使い魔が囲っている。
    魔女はほむらをまっすぐ見つめており、その存在に気づいていないはずはないが、何故か攻撃は仕掛けてこない。
    今まで苦しんでいたあの残酷な空間はどうなったのか。そして魔女はなぜ攻撃をしてこないのか。
    疑問が積もるばかりであるが、ふと背後に気配を感じ時を止めようと盾に手を触れた。
    しかし。

    「ひぃっ!?」

    指先にぬめりと生暖かさを感じ、咄嗟にのけた。
    盾が例の肉塊に覆われていた。先ほどと同じように不気味に脈打ち、気色悪い粘液を分泌している。
    必死に肉片を引きちぎり放るが、事態は一向に好転しない。

    「何?何なのよ!?」
    「その盾はしかたがないよ。沙耶にはどうしようもなかった」




    30 = 1 :

    背後に深緑色の長い髪を靡かせ、白いワンピースに身を包んだ少女が立っていた。

    「あ、貴方は……?」
    「沙耶だよ」

    その少女……沙耶は、サンダルをぺたぺたと鳴らしながら歩み寄ってきた。
    背は私と同じぐらい。年齢もさほど変わらないように見える。
    沙耶はまじまじと顔を覗きこむと、んー、と顔をしかめた。

    「やっぱりイマイチだったかなぁ……貴方達、不思議な体してるんだね」
    「……貴方は魔法少女ではないのかしら?」
    「魔法……少女?」

    首をかしげる様子から、彼女がそういったものから無縁な存在であることがわかる。
    だとすれば、魔女空間に居るのはかなリまずい。私は盾が洋服に付かないよううでを伸ばしたまま、彼女の肩をとって扉へと促した。

    「ここは危ないわ。早くここから出ないと魔女に襲われてしまうわ」
    「魔女……?ふぅーん。じゃあ、さやかは魔女?それとも魔法少女?」

    その言葉に私は思わず沙耶の両肩を持ち強く迫る。

    「さやか!?あなたあれがさやかだってわかるの!?」
    「えー?貴方は分からないの?普通に沙耶には教えてくれたよ」

    32 = 1 :

    その言葉に私は言葉を失った。この少女……沙耶は魔女の言葉がわかるというのか。
    そういった能力を持った魔法少女が居てもおかしくはないが、彼女は魔法少女を知らない様子だ。
    であるとすると、彼女は一体全体どのような存在だというのだろうか?
    沙耶もまた、このような容姿をしているだけで魔女なのだろうか?

    「さやかがね、助けて、苦しいって言ってたんだよ」

    続かない会話に焦れったく思ったのか、再び沙耶が口を開いた。

    「さやかは別の女の子に好きだった男の子を取られちゃったんだって。
     ずっとずっと好きだったのに、命を投げ出すぐらい大好きだったのに。
     さやかには勇気が無かったの。その子に好きっていう、その一言が言えなかった」

    この沙耶という少女はさやかが魔法少女になった経緯をどうやら知っているようだ。

    「だからね、私と一緒だなって思ったんだ。
     私も好きな人に好きって言えなかったから。私もずるかったんだ。
     ずっと待ってた。好きって言ってくれるのをずっと待ってた。だから、手遅れになっちゃった」

    沙耶は寂しそうに微笑むとさやかの魔女を見上げた。

    33 = 1 :

    「さやかはとても悲しんでた。こんな体じゃもう誰にも愛してもらえない。
     もう誰も私を見てくれないってね。でも、それは違うと思うし、それじゃあいけないって思ったんだ」

    沙耶はくるりと踵を返すと、もういちどほむらに向き直った。

    「だからね、もう一度さやかが愛されるような世界を作ろうと思ったんだ。
     そうすればきっと愛してもらえると思う。それに……」

    彼女は私から視線をそらすと、悲しそうに笑った。

    「もう一度私も、郁紀に会って、愛してもらいたいから」
    「郁紀……?」

    沙耶はえへへ、とごまかすように笑った。

    「でも、貴方はその世界には行けないかもしれない。
     だって貴方、作り替えたそばからすぐに元に戻ろうとするんだもん。
     今までそんな人間には会ったことがないから驚いちゃったよ」
    「作り変える……?」

    そう、と沙耶は強く頷いた。

    「だから貴方は……」

    その瞬間、扉が勢い良く開け放たれた。

    34 = 1 :

    「ほ旡ラ!大襄――お、淤前マ豐蔬ん梁……!?」

    扉から飛び出してきたのは、あの肉塊だった。
    汚らしく唾液を飛ばしながら、金切り声を上げて私をじっと見つめていた。

    「こ、来ないで……!!」

    その言葉は伝わらないのか、逆にその悍ましい怪物は、一歩一歩、ゆっくり距離を縮めてくる。

    「大丈ブ橢憑蜂む騾……淤前は痲橢間に合甕!」
    「やめてっ!!」

    盾の中から拳銃を取り出そうとするも、うまく立てが動作しなかった。
    纏わりつく肉片に邪魔されうまく機能しない。

    「動いて……!動いてよ……!」
    「爾ッとシ點廬!」

    恐怖のあまりに身動きの出来ないほむらをよそに、ジリジリとその距離を詰め、遂には匂いすら感じる距離にまで迫る。
    肉塊はその容姿に似合わない俊敏さでほむらに襲いかかると、頭を手に持っていた汚物まみれのパイプで殴った。
    強い衝撃にほむらの視界は暗転し、再び意識が遠くなる。
    体が痙攣を起こし体が弓状に反る。手足が冷たくなりだんだんと肉塊の叫び声が小さくなる。
    沙耶が何かを言っている声が聞こえた気がしたが、何を言っているのかを聞き取ることは出来なかった。

    36 = 9 :

    杏子か?

    37 = 1 :

    再び目を開けると、そこには見慣れた天井が広がっていた。
    どのぐらい時間がたったのかは分からないが、個人的には随分短時間で2回も昏倒したような気がしていた。
    私は自宅のソファの上で横になっていたようだ。私はこのなんとも言えない控えめな弾力がなかなか気に入っている。
    上体を上げると、そこには杏子の姿があった。床に座り、ソファにもたれかかるようにして寝ていた。
    彼女の手にはタオルと保冷剤が握られていた。床には使いきったグリーフシードが転がっている。

    「杏子、貴方……」

    自分にかかっていたタオルケットを杏子の肩にかけると、そばにしゃがみこんだ。
    目に涙を浮かべ、悲しそうな表情で唸り声を上げている。かなりうなされているようだ。
    私は杏子の肩をぽんぽん、と二度叩く。彼女は驚いたように顔を上げ、すぐに私の顔を見てもう一度小動物のように驚いた。

    「お、ほむらぁ!」

    杏子はそう言うと柄にもなく私に飛びついた。

    「よ、よかったほむら……あたし……お前まであのままああなっちゃんじゃないかって……」

    彼女はしゃくりを上げて泣いていた。私にはよくわからないが、今日この背中をゆっくりと撫でた。

    「バカね。私があんなになるわけ無いでしょう……」

    すると彼女は三度驚き私の顔をまじまじと眺めた。

    「ほむら……もしかしてお前、覚えてないのか?」
    「は?」

    私は再びこの聞き返しを使うことになった。

    38 :

    続きはよ

    39 = 1 :

    「佐倉杏子……貴方は何を言っているのかしら」
    「な、なんだよ改まって……お前、本当に覚えてないのか?」

    杏子は何か言いたげに、しかしモゴモゴと言葉を濁らせた。

    「何よ」
    「いや……覚えてないなら覚えてないほうがいいかもしれねえって思ってさ」

    きまり悪そうに視線をそらし、お前のためだぜ、と小さく漏らした。
    煮え切らない態度にしびれを切らし、私は強く杏子を問いただす。

    「……本当に言っていいのか?」
    「えぇ。何かを隠されているよりはよっぽどいいわ」
    「それじゃあ……まぁ、うん、えっとだな……」


    「――私があの肉塊の仲間に?」
    「ああそうだ。まああそこまではひどくなかったけど体中の皮膚や臓器が剥がれ落ちてゾンビみてえだった。
     魔法少女とか、ああじゃなくて見た目的にまさにゾンビって感じ」
    「じょ、冗談でしょ?」

    だから言いたくなかったんだよと杏子は大きくため息をついた。
    この状況で冗談を言うとは思えないが、にわかには信じがたい話だった。

    「お前を見た瞬間もうダメかって思ったけどさ、キュウべえの言葉を思い出したんだ。
     魔法少女はソウルジェムさえあれば肉体はどうとでもなるって言ってだろ?
     だからお前は元に戻るって信じて気持ち悪いけどここまで担いで戻ってきた」

    40 :

    「佐倉杏子、あなたは私の幻術にはまった」
    「なんだと?」
    「これから72時間あなたを刀で刺し続ける」
    磔にされた杏子を無数の私が取り囲む
    刀を取りだし一人ずつ杏子を刺して行く
    「ぐわああ!」
    「これは幻術だけどこの痛みは幻術ではない」

    41 = 1 :

    気持ち悪いの一言にむっとしたが、ここで私が怒るのはお門違いというものだろう。
    だがどうも気になる。私の記憶では一度もその様な姿になった記憶はない。
    最初に怪物に襲われて気を失った時にも、二度目に襲われた時にも、私の体は間違い無く綺麗なままだった。
    しかし二度目に襲われる直前に出会った沙耶という少女や、汚染されていない魔女空間を見たことを考えるとかなり不可解である。

    「最初にお前が背後から襲われた時、あたしは別の肉の塊に捕まってた。だけど必死に抜け出してなんとか結界の外まで逃げたんだ。
     あの時なぜかお前の姿が見えなくて助けてやれなかった……それはまぁ、悪かったよ」
    「いえ、結果的に助けてくれたんだもの、気にしてないわ」
    「へへっそうかい……
     んでだ、あたしがもう一回あの魔女空間に突撃した時、お前は言ったとおりゾンビになってた。
     もし仮にだ、一回目の攻撃の時に気絶して、2回目あたしがぶん殴った時にも気絶したとしたら……
     お前がその綺麗な魔女空間を見てたのは、ゾンビ化してた時ってことになるよな」

    杏子が怪訝そうに首を傾げた。
    彼女の言うことが正しいとすれば、確かに私が「綺麗な魔女空間」を目撃するタイミングはそれ以外にないことになる。
    つまりそれは……私が怪物になった時にだけ、綺麗な魔女空間が生まれたことになる。

    「なあ……もしかしてさ」
    「ええ、多分私も同じ事を考えていると思うわ」
    「だよなぁ……
     怪物になると、綺麗なものとあの気持ちの悪いものが逆に見えるようになるってことじゃねえか?」

    すると、私があの空間で正気を保っていた時に話していたあの少女「沙耶」は本来であれば怪物ということになる。
    1度目に私を襲ったのが沙耶で、2度目に襲ったのが杏子だとすれば、全ての辻褄が合う。
    あの時私に盾が汚く見えたのも、うまく取り扱えなかったのも、体の機能が正常に働いていなかったからだとすれば納得がいく。

    42 = 1 :

    「だとすると、恐らく事の原因はあの沙耶という子にありそうね」
    「ああ、少なくとも二度目に踏み込んだ時、人間の形をした生き物はお前しかいなかったしな」

    杏子はうんうんと大きく頷くと、そばにあった紙袋からりんごを取り出しかぶりついた。

    「貴方、よくあんなものを見た跡にものが食べられるわね……」
    「見た目がぜんぜん違うだろ―?そりゃさすがに今寿司や焼肉食えって言われたらキツイさ。
     そもそもこれはお前に食わせてやろうかと思って買ってきたんだしよ」

    お前の金だけどな、というと杏子はニシシと笑った。
    私は杏子からりんごを一口だけもらう。それを見て満足したのか再び笑を浮かべながらりんごを美味しそうにほうばっている。
    どうやら日付は変わっていないようだが、とっくに放課後というべき時間は過ぎていた。
    時計はまもなく午後8時を回ろうとしている。

    「あいつに取り込まれると互換の美しさの判別が全く逆になるのよね。
     正直ってこれはあいつを攻略して美樹さやかを連れ出すにあたってなんの意味もなさないわ。
     杏子、貴方何かあいつに攻撃を加えて気づいたことはないかしら」
    「気づいたこと……そうだなぁ」

    杏子は袋の中から新たなりんごを取り出し、袖で磨きながら視線を宙に泳がせた。

    「あー、あの怪物めちゃくちゃ回復が早いんだよな」
    「回復?」
    「ああ、普通に切ったり殴ったりする程度じゃすぐに修復されちまう。
     なんかこうもっと吹っ飛ばすとか粉々にするとか、そういう方法を探さないとな」



    43 = 1 :

    ふっとばすだけであれば手元に手製の爆弾も迫撃砲もある。しかしその回復力や取り込み能力を考えるに、大きなパーツが残るのはあまり良くない。
    飛ばした肉片からでも回復される可能性が高い上に、最悪の場合そこから別個体が生まれる可能性も否定出来ない。
    粉微塵にするぐらいの方法を取らないと危険だ。むしろその粉ですら残るのは怖い。

    「粉砕、か……細かい粒子にするのも不安ではあるけど一番現実的ではあるわ」
    「でもどうすんだよ、爆弾じゃあそんな粉にはならないぜ」
    「ええ、私もそれを考えていたところよ」

    「液化窒素を使って組織を殺した後に、回復しないよう粉砕するというのはどうだい?」

    「てめぇは……」

    いつの間にか、インキュベーターが私の背後に座っていた。
    何時でも人を見据える冷酷な瞳と変わらぬ表情が私に強い不快感を与える。

    「貴方の手出しは無用よ、インキュベーター」
    「いやぁ、実はそうも行っていられなくてね」

    きゅっぷい、とわざとらしく声を発すると、インキュベーターは杏子と私の間に位置する床に移動した。

    「君たちが今日の午前中に遭遇したあの生き物が僕達が構築したエネルギー回収システムに鑑賞していてね。
     どうやら魔女の成長とエネルギーを利用して自分の都合のいいように何かを散布するシステムを寄生させてしまっているんだ。
     あの1体だけならいいけど、あそこからプログラムを含んだウイスルを散布されたりすると、手が回らないレベルの事故が起きてしまう」

    44 = 1 :

    「だから私達を利用して駆除をしようと?」
    「まあ無理にとは言わないよ。でも駆除しないと君たちだって困るだろう?
     もしかしたら君たちが生きるために必要なグリーフシードを発生した端から横取りされてしまうかもしれないんだ」

    けっ!と悪態をつくと杏子はりんごを乱暴にかじった。シャリシャリという音だけが部屋の中を満たしている。

    「液化窒素で固めてそこを破壊すればいいというわけね?」
    「そうさ。杏子が戦う様子を観察させてもらったけど、君たちの知っての通りアレの修復力は尋常じゃないよ。
     すごい勢いで組織同士が付合してしまってね、手におえないよ」

    正直に言ってこれからまたあの空間に戻るのは気が進まない。
    だがこのままさやかを放っておくわけにも、また沙耶により魔女システムが更に厄介なものに変貌してしまっても困る。
    私は大きく息をつくと、立ち上がり髪をかき上げた。

    「……決まりね」
    「おい、その液化窒素とかいうのは何処で手に入れるんだ?」

    早足で歩き出した私を杏子が追いかけてきた。インキュベーターもその後ろについて着ているようだ。

    「病院よ、治療で使っているはずだからボンベ一本分ぐらいはあるはず」
    「そ、そんなんで足りるのかよ」
    「まぁあの沙耶を名乗る怪物を殺すだけならなんとかなるわ」

    アパートの階段を下る。頬を撫でる夜風が涼しい。

    「なんとかしなくてはならないのよ」


    46 :

    ほむ

    47 :

    寝た?

    48 = 20 :

    49 = 20 :

    50 = 20 :


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