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    元スレ佐々木「憂鬱だ」キョン「佐々木でも憂鬱になることがあるんだな」

    SS覧 / PC版 /
    スレッド評価: スレッド評価について
    みんなの評価 : ★★
    タグ : - ジョン + - ハルヒ + - 佐々キョン + - 佐々木 + - 神スレ + 追加: タグについて ※前スレ・次スレは、スレ番号だけ登録。駄スレにはタグつけず、スレ評価を。荒らしタグにはタグで対抗せず、タグ減点を。
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    101 = 73 :

     佐々木は驚いたように目を大きくして、ぱっと窓の外を向いてしまった。

    「素直に褒め言葉と受け取ろう。嬉しいよ」

     佐々木は顎のラインで切り揃えられた髪を手の甲に乗せるようにして後ろに流す。
     薄着になって露になった佐々木の華奢な首や、喉、鎖骨にかけての白さが、目に痛かった。

    「ん、どうしたのかな?」

     俺の視線に気付いたのか、佐々木が振り返る。

    「なんでもない」

    「嘘だね。怪しい」

     佐々木は椅子に座っている俺の元に跳ねるように近寄ってきて、上半身を屈めて俺の顔を覗きこんでくる。
     ブラウスが重力に引っ張られ、佐々木の地肌との間に間隙が生まれる。俺は顔を顰めるフリをして目を閉じた。

    「テストの見直しをするんじゃなかったのか、佐々木よ?」

     佐々木はくくくと喉を鳴らすだけで、何も言わなかった。

    102 = 80 :

    なんでおれには佐々木のような存在がいないんだ

    104 :

    こういうスレを見るたびに漫画にしたくなる衝動にかられる

    105 = 91 :

    >>102
    主人公じゃないからだろ

    106 = 73 :

     梅雨入り宣言はまだ正式発表されていなかったものの、じめじめとカタツムリやナメクジが喜ぶ季節がやってきた。

     その日も予報では雨だった。

     しかし、朝目覚めると、外は布団を干したくなるようないい天気だった。

     気象予報士の言うことなど当てにならんなと俺は思った。

     そして、手のひらを返して、ついでにバケツも返したように天気が崩れ出したのは、掃除当番で遅れた俺が佐々木の待つ文芸部室に着いたときだった。

     扉を開けると、まるでそれが合図だったように窓の外で稲光が瞬いた。

    「やあ、キョン」

     佐々木は雷に臆することもなく、定位置の窓際からちらりと俺に振り返った。
     直後、ゴロゴロと轟音が胸を叩く。

    「やれやれ。朝は晴れていたんだけどね」

     佐々木が溜息をつく。俺も全く同意だった。

    「本当に、やれやれだぜ」

    107 = 73 :

     俺は鞄を長机の上に置いて、教科書を取り出しながら訊く。

    「佐々木、今日は何をやろうか。お前のおかげで最近の俺は理数系の調子がわりとよくてだな……あ、そうだ。
     あれがどうしてもダメなんだ、古典。ありゃ本当に俺たちの母国語なのか?
     そもそもなんであいつらはあそこまで五七五七七に命をかけているんだ?
     もう少し説明してくれないとあれじゃ何を意図して言ってるのかまるでわからんじゃないか」

     佐々木は何も答えなかった。じっと、窓の外を見つめている。

     外は雨雲に覆われて暗く、俺の角度からは、窓硝子に写る、どこか遠くを見ている佐々木の顔が見えた。

    「佐々木……?」

     佐々木が呆然と物思いに耽っているのを見ると、なぜか俺は不安な気持ちに駆られた。

    109 = 73 :

     こういう暗い雨の日の、なんてことのない日常にひそむ無言が、俺には何かが起きる前兆のように思えてならなかった。

     昨日と変わらない今日。

     今日と変わらないはずの明日。

     その法則から僅かにはみ出す瞬間。

     それを見逃すと、取り返しのつかないことになる。

     どうしてか俺は胸が騒いだ。

     前にもこんなことがあったような気がする。

     もっと寒々しい季節に、やはり天気はぐずついていて、その冷たさから逃げるように、俺は日常という名のぬるま湯に頭からつかって、目を閉じて、

     それを見落とした。

     しかし、それとは何だ? わからない。というか、俺の記憶のどこを探ってもそのような事件は見つからない。それなのに。ホワイ、なぜ。

     窓の外にある黒雲が俺の心の中に這入ってくるような感じがした。

    113 :

    がんばりたまえ

    114 :

    いつだったかの鶴屋さん×ちゅるやさんスレぐらい緊張してる④

    115 = 73 :

     ずっと黙っていた佐々木は、僅かに目を伏せ、自嘲するように苦笑したかと思うと、ごくごく普通に喋り出した。

    「ああ、ごめん、キョン。つい見入ってしまっていて。雷というのは非常に興味深いね。

     知っているかい? あれが一種の放電現象であると人間が理解したのはわりかし最近のことなんだよ。

     そして、その正体を知った人間は避雷針を作り出したんだ。これもすばらしい発明だね。

     ま……どんなことでもそうだけれど、それまでずっと謎であった事象の正体が明かされてしまうと、多くの人は夢から覚めたみたいに拍子抜けしてしまう。

     なんだそれだけのことか、とね」

     佐々木は窓硝子にそっと触れて、表面をなぞった。
     露が拭われて硝子に佐々木の指の跡が残った。

    116 = 80 :

    緊張

    118 = 73 :

    「世界はどこまでもシンプルにできている。と、僕は信じているよ。
     人間にはどんなに複雑に見えても、そこには確固たる法則と、強固なる真実が隠れている」

     佐々木は濡れた指先を見て、それから、二、三度その手を握ったり開いたりした。

    「きっと、同じことは人の内面世界にも言えるだろうね。
     悩んでいる本人には非常に複雑に見えても、本人ではない誰かがその人間に関するある程度の客観的データを一望すれば、
     存外たちどころに心の本質やその人の本音を言い当ててしまったりするものだ。
     それも、ひどくあっさりと……」

     握った拳を佐々木は額に当てて、目だけでこちらを見る。

    「ねえ、キョン。……キミは僕のことをどう思っている?」

    122 = 73 :

    「お前のことは尊敬しているよ。お前くらい頭のいいやつはいないと思うし、性格のいいやつもいないと思う」

    「なら、キミにとって僕はなんだ?」

     微笑む佐々木の目は、今の空模様みたいに光が足りなかった。

    「お前は俺の親友だよ」

     他に言いようがなかった。全人類の中で、俺にとって佐々木以上に親しい友人はいない。

    「親友、ね……」

    「そういうお前は俺のことをどう思っているんだ?」

     俺が聞き返すと、佐々木はまた窓の外に目を向けてしまった。
     しかし、それは外の景色を見るためではないだろう。
     俺から目を逸らしてすぐ、佐々木が何かをこらえるように目を閉じた――のが窓硝子に映って見えた――からだ。

    「わからないんだ……それが、僕にも……」

     俺にも、今の佐々木はよくわからなかった。

    123 = 104 :

    これだから朴念仁は

    124 = 73 :

     次に佐々木が目を開けたとき、佐々木はいつもの佐々木に戻っていた。

    「すまない。妙なことを言ったね」

    「いや、そんなことはないが」

    「今日の僕はちょっと疲れているみたいだ。
     キミの日本文化と短歌に対する偏見を今すぐにでも是正したいのだが、それはまた今度にしよう」

    「そんなのはいつでもいい。それより、本当に大丈夫なのか?」

    「大丈夫。僕は大丈夫じゃないときは大丈夫じゃないと言うからね」

    「その言葉、信じるぜ」

    「ありがとう。じゃ、帰ろうか」

    「そうだな……って、あ」

    「どうした?」

    「傘を持ってきてなかったんだ」

     それを聞いた佐々木は、くくくと笑って、部室の扉の横のあたりを指差した。

     ひび割れた壁に、佐々木のものと思われるライトブルーの傘が、ちょこんと立てかけてあった。

    126 = 73 :

    「キョン、もっと寄ってくれていいよ。濡れるだろう?」

    「いや、俺が寄ったらお前が濡れるだろ。いいんだよ。鞄さえ守れれば、制服も俺も帰ったら洗えばいいだけだしな」

    「それは僕だって同じことさ。だから、ここは痛み分けといこう」

    「元々はお前の傘じゃないか」

    「それを言うならキョン、なおさら所有者の言うことには黙って従うべきじゃないかな」

    「ああ言えばこう言うやつだ」

    「キミにだけは言われたくないよ」

     俺と佐々木は一つ傘の下で、ひっそりと互いの身を寄せていた。

    「もう二ヶ月も経つんだな、高校生になって」

    「そうだね。時間に対して主観を述べるのはなんだか愚かしいことのようで憚られるが、敢えて明言するとしよう」

     佐々木はありったけの実感を込めて、言った。

    「あっという間だった」

    127 = 73 :

     続けて佐々木は言う。

    「あっという間だったけれど、学んだことも多かった。そのどれもが、僕の存在などごく小さなものであると教えてくれた」

    「佐々木がごく小さいなら俺は水素原子並みにミニマムだぜ」

    「いや、キミの存在はそんなに小さくはないよ。少なくとも僕にとってはね」

     佐々木はたまに俺を過大評価するときがある。そういうときは、きっと佐々木は何らかの性質の悪い病にでも侵されて参っているんだ、と俺は考えることにしている。

     案の定、

    「ああ……憂鬱だ」

    「佐々木でも憂鬱になることがあるんだな」

    「それはあるさ。僕だって心は普通の少女なんだよ」

    「そんな風には見えないがな」

    「見せてないだけだよ。ただの強がり」

     そうこうしているうちに、俺たちは駅に着いた。

    128 = 73 :

     消毒液のような汚水のような、雨の日特有の匂いが充満する電車に詰め込まれて、俺たちは俺たちの家のある街の駅に着いた。

    「今日は自転車は無理だろう。歩いて帰ろう」

     いつも二人とも自転車だったから、こうして歩いて家に向かうのは、中三のとき以来、いつ振りだろう。

    「大袈裟だな。高校に入ってからもたまに歩いて帰っていたよ」

    「そうだったか?」

     俺たちは再び肩を並べて雷雨の下に入っていく。俺と佐々木は足元の水溜りに気をつけながら、注意深く歩いた。

     そして、それはほんの数メートル歩いただけのところ、まだ駅のロータリーを抜けていくらもいかないところでの、出来事だった。

    「ジョン!!?」

     その女の声が聞こえたとき、俺はリアルに雷に打たれたかと思った。

    130 = 91 :

    ハルヒが出たぞーーーーーー!!!!!

    131 = 104 :

    修羅場の予感

    133 = 73 :

    「ジョン! ジョン、ジョン!!」

     知らない高校の制服を着た女が、長い黒髪を振り乱して、犬または外国人の名前を大声で連呼しながら、傘も差さずに猛ダッシュでこちらにやってきた。

     女は全速力で走ってきてそのままノンストップに俺に飛び掛ってきた。俺は雨で濡れた歩道に押し倒される。

    「ジョン……」

     女は顔をぐちゃぐちゃに歪めて、雨だか涙だか鼻水だかを俺の服に垂らしてくる。

    「会いたかった……」

     女はパーフェクトに意味不明なことを言って、俺の胸に顔をうずめてくる。俺はまったく動けない。

     例えば、ざけんなこのキチガイが、と叫んで蹴り飛ばせばよかったのかもしれない。

     なのに、どうしても、俺は動けなかった。

     逆に、どうしてか、気付くと俺は俺の胸で泣くその女の頭を撫でてやっていた。

    134 = 80 :

    おいハルヒはいらんよ

    135 = 73 :

     わけのわからない感情が俺の中で渦を巻いた。まさしく渦中というやつだ。

     そして、事態はますます混然と混沌と混迷を深めていく。

     女に続いて、俺の周りに、これまた俺の脳の奥深くを刺激する人間が現れた。それもわらわらと。大量に。

     ショートカットの無表情な女。この世の天使みたいな女。雑誌から抜け出してきたようなハンサム男。
     ナイフの似合いそうなロングヘアの女。大人しそうな緑色の髪の女。
     頭の悪そうな男。頭の良さそうな男。常人離れしたオーラを放つ八重歯の女。妙齢の女。執事が似合いそうな老人。兄弟っぽい中年の男二人、
     ツインテールの小柄な少女。眉を顰めたしかめっ面の男。髪の毛の塊みたいな黒い女。

     ほんとうにわらわらと、示し合わせたように、次から次へと湧いてきた。

    136 = 73 :

     しかも全員が全員とも俺のことを知っているみたいだった。

     しかし、神に誓って、俺はそいつらを知らない。

     否……。

     思い出せない……?

     そこまで思考が飛躍して、俺はやっと我に返る。

     そうだ、佐々木は? こんなやつらに構っている暇はないんだ。いくら佐々木だってこんな状況では驚愕しているに違いない。
     早く、俺はこいつらと何も関係がないことを説明しなくては……。

     俺は首を捻って周囲を見回した。しかし、佐々木はどこにもいなかった。

     ただ、ライトブルーの傘だけが、その場に開かれたままで転がっていた。

    139 :

    >>130
    なぜかフイタ

    140 = 73 :


     俺はいつまでも俺の上に乗っかっている変態女を力ずくで引っぺがし、佐々木の行方を追った。

    「ジョン!!」

     女の叫びを振り払うように俺はその場から走り去った。

    「佐々木!!」

     俺は親友の名を呼んだ。

     ここであいつを見失っては大変なことになる気がする。

     しかし、どこに行けば……?

    「佐々木!!」

     俺の叫びは、無数の雨粒に吸い込まれ、空しく雷鳴に掻き消されるばかりだった。

    141 = 120 :

    なんてことだ

    できることなら佐々キョンでハッピーエンドにしてくれたまえよ(´・ω・`)

    142 = 80 :

    同意

    143 = 88 :

    ハルヒの仕業か

    144 :

    145 = 88 :

    >>144お前じゃない

    146 = 73 :

     そのとき、けたたましくクラクションを鳴らしながら、後方から一台の黒塗りの車が俺の目の前にドリフトで滑り込んできた。

     車の扉が内側から開いて、そこからあのイカれ女が飛び出して俺の手を掴み、俺を車内に引き込む。

     俺は必死に抵抗するが、追い討ちで背後から走ってきたハンサム男に身体ごと車に押し込まれ、敢えなく拉致された。

     車の中は七人乗りで、後部座席には俺と、俺の両脇にイカれ女とハンサム男。

     中の座席には無表情の女と、天使のような女。

     運転席には妙齢の女が座っていて、助手席にはツインテールの女がいた。

     全員ともついさっき会ったばかりの、見知らぬやつらだ。

     なのに。どうしてなんだよ。今すぐ誰か俺にわかりやすく説明してくれ。

     こんな状況を、心が懐かしいと叫んでいるのは、一体全体どういうわけなんだ。

    147 = 73 :

    「この方向で確かなのですか?」

    「漠然とですけど、気配を感じます」

    「……信用させていただきますよ」

     運転席と助手席の二人が小声でそんな話をしているのが聞こえる。俺は呼吸することすら忘れてしまいそうなくらい気が動転していた。

    「ジョン……」

     隣のイカれ女が俺のことを心配そうにそう呼ぶが、そもそもその名前はなんなんだ。あんまり何度も呼ぶんじゃない。頭が割れそうに痛い。

     息を乱して両手で頭を抱え込む俺を見てどう思ったか、さっきまでのドタバタが嘘みたいに、車内では誰もが口をつぐんでいた。

     やがて、信号無視上等で公道を爆走していた車が、止まったことにも気付かせないくらい丁寧に停車した。

     俺の隣の女が扉を開けて外に出る。俺はそいつに手を掴まれて、無理やり外に連れ出された。

    148 = 73 :

     そこは、うちの学校の校門だった。

     女は今にも倒れそうな俺を校門まで引きずるようにして歩いていく。どこまでも自己中で強引なやつだ。

     校門に着くと、女は何も言わずに俺の後ろに回って、校内に押し込むようにして俺の背中を両手で押した。

     校内に一歩踏み込むと、そこは――俺は夢でも見ているのだろうか――静寂に包まれたセピア色の空間だった。

    「なんだよ……これは」

     俺は慌てて後ろを振り返るが、そこにさっきの黒塗りの車は見えなかった。降っていたはずの雷雨もやんでいる。なんの匂いも音もしない。

     校門から外に出てみようとすると、目に見えない寒天みたいなものが俺の進行を阻んだ。

    「どうなってんだよ。ちくしょう!」

    149 :

    追い付いちまった支援

    150 = 73 :

     待て。悪態をついても始まらない。冷静になれ。俺の今やるべきことはなんだ。

    「佐々木……」

     佐々木に会いたかった。佐々木に会って話をしたかった。そうしなければいけないような気がしていた。

     何かがおかしい。何かがおかしかった。

     でなければ、どうして俺はこの現実離れしたセピア色の空間に立っている今が現実で、佐々木と過ごしてきた高校の二ヶ月間のほうが夢のようだったと感じるんだ。

     思えば、佐々木との日々はどこか現実感がなかった。でも、あれが現実じゃなかったとしたら、何が現実だって言うんだろう。

     それを見極めなくては――と、俺が当てもなく歩き出したときだ。

    「ここまで来たのは初めてだね、キョン」

     いつからそこにいたのか、佐々木が、セピア色の葉を茂らせる桜の木の下に立っていた。


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