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元スレ佐々木「憂鬱だ」キョン「佐々木でも憂鬱になることがあるんだな」
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ID:oQx4MiFZ0
ハルヒの「驚愕」の佐々木さんがあまりに可愛かったので。佐々木さんSSです。
ハルヒの「驚愕」の佐々木さんがあまりに可愛かったので。佐々木さんSSです。
>>1
続けたまへ
続けたまへ
「――中学出身、佐々木です。不束者ですが、どうかよろしくお願いします」
振り返ると、そこに佐々木がいた。
中学からの付き合いだから別に振り返ってまで自己紹介を聞かなければいけないほど俺と佐々木の仲は浅いものではなかったのだが、
なんとなくここで振り返っておいたほうがいいような感じがした。
佐々木はゆっくりと、柔らかい皮肉に包まれた微笑を浮かべたままでクラスを見回し、最後に目の前の席に座る俺に視線を合わせた。
「どうかしたのかい、キョン? 不思議そうな顔で僕を見て。ここに僕がいることに何か不都合でも?」
振り返ると、そこに佐々木がいた。
中学からの付き合いだから別に振り返ってまで自己紹介を聞かなければいけないほど俺と佐々木の仲は浅いものではなかったのだが、
なんとなくここで振り返っておいたほうがいいような感じがした。
佐々木はゆっくりと、柔らかい皮肉に包まれた微笑を浮かべたままでクラスを見回し、最後に目の前の席に座る俺に視線を合わせた。
「どうかしたのかい、キョン? 不思議そうな顔で僕を見て。ここに僕がいることに何か不都合でも?」
「いや、そんなものはない」
佐々木はくくくと笑った。俺はなんだか恥ずかしくなって前を向いた。
ちなみに、佐々木のこの一言によって直前の俺の自己紹介でクラス全員の脳内メモリに新規作成されたはずの俺の本名は完全に『キョン』で上書きされてしまったらしいことを、俺は後から知ることになる。
新学期早々、やれやれなことだ。
佐々木はくくくと笑った。俺はなんだか恥ずかしくなって前を向いた。
ちなみに、佐々木のこの一言によって直前の俺の自己紹介でクラス全員の脳内メモリに新規作成されたはずの俺の本名は完全に『キョン』で上書きされてしまったらしいことを、俺は後から知ることになる。
新学期早々、やれやれなことだ。
>>9
アレってどれだよ
アレってどれだよ
佐々木とは席が前後の関係にあったので、よくホームルームの前に他愛のない話をした。
「ところで、キョン。キミは部活動に入るつもりはあるかい?」
「唐突だな。中学のときと同じで、帰宅部でいいと思ってるが」
「そんなところだろうと思ったよ。しかし、考えてもみてくれ。高校の勉強というのは中学のそれに比べて格段に難しいものになる。
恐らくキミは相当な苦労を強いられるだろう。ま、僕だってそんなキミの力になることに否やはないが、
それにしたって飛躍的に成績が伸びるとは、中学のときの経験上あまり期待できるとは言いがたい」
「何が言いたい?」
「課内で足りない分は課外でポイントを稼ぐ、ということだよ」
「ところで、キョン。キミは部活動に入るつもりはあるかい?」
「唐突だな。中学のときと同じで、帰宅部でいいと思ってるが」
「そんなところだろうと思ったよ。しかし、考えてもみてくれ。高校の勉強というのは中学のそれに比べて格段に難しいものになる。
恐らくキミは相当な苦労を強いられるだろう。ま、僕だってそんなキミの力になることに否やはないが、
それにしたって飛躍的に成績が伸びるとは、中学のときの経験上あまり期待できるとは言いがたい」
「何が言いたい?」
「課内で足りない分は課外でポイントを稼ぐ、ということだよ」
「なるほど。同じように勉強ができない状態だったら、部活動か何かをやっていたほうが内申で有利だってことだな?」
「そういうことだ。まったく、こういうところでは理解力を発揮するくせに、どうしてそれが勉学に生かされないものかね」
「それを言ってくれるな、佐々木。泣きたくなる」
「まあ、それは置いといて。部活動の話に戻ろう」
「どこかオススメの物件でもあるのか?」
「ある――と言ったらキミはどうするかな?」
佐々木がいつもの微笑で少しだけ首を傾けたちょうどそのときに、担任の教師が教室に入ってきた。
「そういうことだ。まったく、こういうところでは理解力を発揮するくせに、どうしてそれが勉学に生かされないものかね」
「それを言ってくれるな、佐々木。泣きたくなる」
「まあ、それは置いといて。部活動の話に戻ろう」
「どこかオススメの物件でもあるのか?」
「ある――と言ったらキミはどうするかな?」
佐々木がいつもの微笑で少しだけ首を傾けたちょうどそのときに、担任の教師が教室に入ってきた。
その日の放課後、帰り支度を整えていた俺に佐々木が声をかけてきた。
「おいおい、キョン。朝にした話をもう忘れてしまうとは、さすがの僕も少し悲しいな」
「ああ。部活動、だったな」
「暇ならちょっと付き合わないか?」
「いいぜ。どこに行くんだ?」
「それは、着いてからのお楽しみ」
佐々木は人差し指を唇に当てる。やけに楽しそうだった。珍しい。部活動に熱を入れるようなタイプではなかったと思うのだが。
「大丈夫だよ。僕は依然としてキミの知っている僕さ。良くも悪くも人間がそう簡単に変わるはずがない。
……あるいは、世界が一変するような聖パウロ的、またはコペルニクス的転回がない限り――ね」
佐々木は自分の鞄を持って肩にかける。
「では、行くとしよう」
「おいおい、キョン。朝にした話をもう忘れてしまうとは、さすがの僕も少し悲しいな」
「ああ。部活動、だったな」
「暇ならちょっと付き合わないか?」
「いいぜ。どこに行くんだ?」
「それは、着いてからのお楽しみ」
佐々木は人差し指を唇に当てる。やけに楽しそうだった。珍しい。部活動に熱を入れるようなタイプではなかったと思うのだが。
「大丈夫だよ。僕は依然としてキミの知っている僕さ。良くも悪くも人間がそう簡単に変わるはずがない。
……あるいは、世界が一変するような聖パウロ的、またはコペルニクス的転回がない限り――ね」
佐々木は自分の鞄を持って肩にかける。
「では、行くとしよう」
辿り着いたのは、文化系部の部室棟にある、一枚の扉の前だった。
文芸部。
そのように書かれたプレートが斜めに傾いで貼り付けられている。
「ここだよ」
「意外、ってほどでもないか。お前はよく本を読むしな」
「まあね。さ、早速中に入ろう」
「入ろうって、この部室、中から人の気配が感じられないが、勝手にそんなことをして大丈夫なのか?」
「鋭いね。実はこの文芸部、現在は去年まで残っていた三年生が全員卒業して部員ゼロ、という状態なんだ」
「ってことは……」
「僕たちが文芸部員になれば、この部屋を自由に使えるようになる、ということだよ」
自由、という言葉にアクセントを置いて、制服のポケットから前もって借りておいたらしい扉の鍵を取り出す佐々木は、
心なしか上気しているように顔が赤かった。
文芸部。
そのように書かれたプレートが斜めに傾いで貼り付けられている。
「ここだよ」
「意外、ってほどでもないか。お前はよく本を読むしな」
「まあね。さ、早速中に入ろう」
「入ろうって、この部室、中から人の気配が感じられないが、勝手にそんなことをして大丈夫なのか?」
「鋭いね。実はこの文芸部、現在は去年まで残っていた三年生が全員卒業して部員ゼロ、という状態なんだ」
「ってことは……」
「僕たちが文芸部員になれば、この部屋を自由に使えるようになる、ということだよ」
自由、という言葉にアクセントを置いて、制服のポケットから前もって借りておいたらしい扉の鍵を取り出す佐々木は、
心なしか上気しているように顔が赤かった。
文芸部の部室は意外に広く、物もあまりない閑散としたところだった。
当然ながらそこにいるのは俺たち二人だけだった。
焦点を合わせるべきものが何もないから自然と俺の目は部屋の奥に固定された。ふと、俺は違和感を覚える。
「なんだか、もう一人くらい、ここに誰かがいるような気がするな」
「つい一ヶ月前までは現に部員がいたからね。多少は人の気配が残っているのかもしれない」
「いや、なんと言えばいいのか。何かが足りないというのか」
佐々木は首を傾げながら窓際に歩いていき、文芸部室の窓を開け放った。乾いた春の風が吹き込んできて、窓とは反対側の、半開きになっていた扉がバタンと閉まった。
それは、まるで風に飛ばされて誰かがここから出て行ったようだった。だからなのか、さっきまで感じていた違和感は綺麗に消えてなくなった。
当然ながらそこにいるのは俺たち二人だけだった。
焦点を合わせるべきものが何もないから自然と俺の目は部屋の奥に固定された。ふと、俺は違和感を覚える。
「なんだか、もう一人くらい、ここに誰かがいるような気がするな」
「つい一ヶ月前までは現に部員がいたからね。多少は人の気配が残っているのかもしれない」
「いや、なんと言えばいいのか。何かが足りないというのか」
佐々木は首を傾げながら窓際に歩いていき、文芸部室の窓を開け放った。乾いた春の風が吹き込んできて、窓とは反対側の、半開きになっていた扉がバタンと閉まった。
それは、まるで風に飛ばされて誰かがここから出て行ったようだった。だからなのか、さっきまで感じていた違和感は綺麗に消えてなくなった。
窓際の佐々木が微笑んだままで何も言わず、じっと俺を見つめていた。
また一陣の風が吹き込んできて、佐々木の短い髪をさらさらと揺らした。
佐々木はふいと俺から目を逸らして、乱れた髪を整えながら言った。
「キミさえよければ、文芸部としてここで放課後の時間を有意義に使ってみないか?
どうせキミのことだ、家に帰ったら真っ先にあの愛らしい妹ちゃんから構って攻撃を受けるのだろう?
キミはいい兄だからね。口では嫌と言いつつも相手をしてやって、そのうちに日が暮れている……なんてことばかりではないかと推察する。
しかし、せっかくこうして努力して進学校に入ったんだ、キミのご母堂の心労が溜まらないよう、僕はキミの学力向上に微力ながら協力したいと思う。
ひいては、それはもちろん僕のためであるんだけれどね。
迷惑……だったかな?」
また一陣の風が吹き込んできて、佐々木の短い髪をさらさらと揺らした。
佐々木はふいと俺から目を逸らして、乱れた髪を整えながら言った。
「キミさえよければ、文芸部としてここで放課後の時間を有意義に使ってみないか?
どうせキミのことだ、家に帰ったら真っ先にあの愛らしい妹ちゃんから構って攻撃を受けるのだろう?
キミはいい兄だからね。口では嫌と言いつつも相手をしてやって、そのうちに日が暮れている……なんてことばかりではないかと推察する。
しかし、せっかくこうして努力して進学校に入ったんだ、キミのご母堂の心労が溜まらないよう、僕はキミの学力向上に微力ながら協力したいと思う。
ひいては、それはもちろん僕のためであるんだけれどね。
迷惑……だったかな?」
佐々木は普段よりずっと早口に喋った。まるで決められたセリフを何度も練習してきたみたいだった。
初めからそう言おうと決めていたのだろうか。
それにしても、佐々木がそこまで俺の学力を気にしてくれていたとは。正直、俺は驚きと申し訳なさでいっぱいになる。
「佐々木」
「なんだい?」
「ありがとな。こちらこそ、よろしく頼むぜ」
それを聞いた佐々木は、ほっとしたように胸に手を当てた。
「うん。ありがとう。よろしく……」
こうして、俺たちは全学で二人しかいない文芸部員となった。
初めからそう言おうと決めていたのだろうか。
それにしても、佐々木がそこまで俺の学力を気にしてくれていたとは。正直、俺は驚きと申し訳なさでいっぱいになる。
「佐々木」
「なんだい?」
「ありがとな。こちらこそ、よろしく頼むぜ」
それを聞いた佐々木は、ほっとしたように胸に手を当てた。
「うん。ありがとう。よろしく……」
こうして、俺たちは全学で二人しかいない文芸部員となった。
その帰り。思っていたよりも話していた時間は長かったようで、茜色の夕日が校舎から出た俺たちを迎えた。
「たいぶ遅くなってしまった。すまない」
「いいんじゃないか? 今の時間なら電車もそう混んでないだろうし」
「満員電車ほど慣れないし慣れたくないものはないね」
「同感だ」
校庭には入学式のときに満開だった桜がまだ残っていた。俺たちは運動部が占拠しているグラウンドを避けて、その下を歩いた。
桜の花びらがちらりちらりとなごり雪のように散っていた。
「佐々木、肩に桜がついてるぞ」
俺は佐々木の肩を軽くたたいて、薄ピンク色の花びらを落としてやる。
「子供じゃないんだから、言ってくれれば自分でやったのに」
佐々木はつんと口を尖らせた。その頬は、夕焼けのせいだろうか、ほのかに朱に染まっていた。
俺と佐々木が文芸部員になって、数日が経った、とある昼休み。
その日はたまたまいつも昼食を共にするアホどもが揃いも揃ってブルジョワなことに学食へ行くなどと言い出したから、
オフクロ印の弁当を持ってきていた俺は一人で昼休みを過ごさなければいけなくなった。
「仕方ないな」
俺は弁当を引っさげて文芸部室に向かった。
あそこの鍵は、職員室にあるマスターキーを除けば、学内では俺と佐々木しか持っていない。
たまには一人で静かに昼食をいただくというのも、しみじみとオフクロの味をかみ締めることができるし、悪くないアイデアだろう。
文芸部室に到着すると、扉の鍵は開いていた。
俺は、それがまるで当たり前のことのように、何の疑問も持たずに扉を開けた。
昼休みにはいつだってここの扉が開いてなければいけないような気がした。
それにしても俺は何を勘違いしていたんだろう。
文芸部室の鍵を持っている生徒は前述のように俺と佐々木だけなのだ。
ならば、部室の中にいるのが誰か、考えなくてもわかっていたはずなのに。
なぜか、扉を開けて、そこに佐々木がいたことに、俺はひどく驚いた。
否。ここで本当に驚くべきことは、佐々木がいたことではなくてむしろ。
「…………キョン?」
そう言って目を丸くしているのは、長机の上でスカートを丁寧に折りたたむ下着しか纏っていない佐々木だった。
俺は、それがまるで当たり前のことのように、何の疑問も持たずに扉を開けた。
昼休みにはいつだってここの扉が開いてなければいけないような気がした。
それにしても俺は何を勘違いしていたんだろう。
文芸部室の鍵を持っている生徒は前述のように俺と佐々木だけなのだ。
ならば、部室の中にいるのが誰か、考えなくてもわかっていたはずなのに。
なぜか、扉を開けて、そこに佐々木がいたことに、俺はひどく驚いた。
否。ここで本当に驚くべきことは、佐々木がいたことではなくてむしろ。
「…………キョン?」
そう言って目を丸くしているのは、長机の上でスカートを丁寧に折りたたむ下着しか纏っていない佐々木だった。
「えっと、まずは扉を閉めてくれ。いくら僕でも、誰かにこんなはしたない姿を見られるのは恥ずかしいんでね」
「すまん!」
俺は飛び上がって、部屋の内側から扉を閉めた。
気まずい沈黙が二秒ほど流れる。
「…………キョン?」
「わ、悪いっ。わざとじゃないんだ!」
俺はあろうことか半裸の女のいる空間に押し入って扉まで閉めてしまった。スリーではきかないほどにアウトである。
しかし、佐々木はクスリと苦笑して、言う。
「いいよ、キョン。今キミが扉を開けたとして、廊下に別の誰かがいたらどうするんだい? 二次災害はごめんだよ。
だから、キミはそうやって、廊下側を向いてじっとしていてくれればいい」
「…………本当にすまん」
背後から聞こえてくる衣擦れの音が、やけに生々しかった。
「すまん!」
俺は飛び上がって、部屋の内側から扉を閉めた。
気まずい沈黙が二秒ほど流れる。
「…………キョン?」
「わ、悪いっ。わざとじゃないんだ!」
俺はあろうことか半裸の女のいる空間に押し入って扉まで閉めてしまった。スリーではきかないほどにアウトである。
しかし、佐々木はクスリと苦笑して、言う。
「いいよ、キョン。今キミが扉を開けたとして、廊下に別の誰かがいたらどうするんだい? 二次災害はごめんだよ。
だから、キミはそうやって、廊下側を向いてじっとしていてくれればいい」
「…………本当にすまん」
背後から聞こえてくる衣擦れの音が、やけに生々しかった。
体操服に着替えた佐々木は開け放った窓の縁にもたれていた。
俺はといえば、扉の前のスペースに土下座していた。
「申し訳ないね。迂闊だったよ。キミはいつも教室で昼食をとっているから、今日もそうなのだとばかり思っていた」
「佐々木は、いつも昼はここに来るのか?」
「いつもではないが、午後に体育があるときはよくここで着替えているよ」
「それは……悪かった」
「いいよ。油断して鍵を掛けていなかった僕が悪い。
あ、でも、あそこでキミがこちら側に残ったことについては、うん、全面的にキミの非だ。大いに謝罪してくれ」
「本当に……本当にすまん」
「じゃあ、帰りに何か奢ってくれるか?」
佐々木は窓辺でくつくつと笑った。その声が、風に乗って俺の耳を撫でた気がした。
俺はといえば、扉の前のスペースに土下座していた。
「申し訳ないね。迂闊だったよ。キミはいつも教室で昼食をとっているから、今日もそうなのだとばかり思っていた」
「佐々木は、いつも昼はここに来るのか?」
「いつもではないが、午後に体育があるときはよくここで着替えているよ」
「それは……悪かった」
「いいよ。油断して鍵を掛けていなかった僕が悪い。
あ、でも、あそこでキミがこちら側に残ったことについては、うん、全面的にキミの非だ。大いに謝罪してくれ」
「本当に……本当にすまん」
「じゃあ、帰りに何か奢ってくれるか?」
佐々木は窓辺でくつくつと笑った。その声が、風に乗って俺の耳を撫でた気がした。
放課後、俺たちは文芸部室には向かわずに学校を出た。
目的地は、俺たちの降りる駅の近くにある喫茶店だった。
そこでパフェとコーヒーを俺が佐々木に奢ることになっていた。
あんなことをしでかしたんだ。それで佐々木が許してくれるのならこんなに慈悲深く有難い話はない。
「そんな気に病むことはないよ、キョン」
駅に向かっている途中、鉛の枷でも嵌められたような俺とは反対に、佐々木は羽でも生えたようにうきうきと歩いていた。
「所詮は下着姿なんて、露出度を考えれば下手な水着よりもよっぽど防御力が高いだろう?
キミだって年頃の健全たる男子なんだから、例えばアイドルのグラビアくらいは見たことがあると思うが、
それと比べればあの程度、何も取り立てて騒ぐようなものではない、と冷静になれば理解できるはずだけどね?」
目的地は、俺たちの降りる駅の近くにある喫茶店だった。
そこでパフェとコーヒーを俺が佐々木に奢ることになっていた。
あんなことをしでかしたんだ。それで佐々木が許してくれるのならこんなに慈悲深く有難い話はない。
「そんな気に病むことはないよ、キョン」
駅に向かっている途中、鉛の枷でも嵌められたような俺とは反対に、佐々木は羽でも生えたようにうきうきと歩いていた。
「所詮は下着姿なんて、露出度を考えれば下手な水着よりもよっぽど防御力が高いだろう?
キミだって年頃の健全たる男子なんだから、例えばアイドルのグラビアくらいは見たことがあると思うが、
それと比べればあの程度、何も取り立てて騒ぐようなものではない、と冷静になれば理解できるはずだけどね?」
佐々木は偽悪的に詭弁を弄した。俺は言われるがままである。
「あるいは……もしかするとキミの中では、露出度や美しさ以外のファクターが重きを占めているのかもしれないけれど。
はて。では、そのファクターとは一体何かな?
僕の下着姿とアイドルのグラビアにおいて、一体何の差異が、そんなにもキミを動揺させているのかな?」
俺は今にも泣きそうだった。
「なんて、ね。悪かった。キミが取り乱している姿なんてなかなか貴重だからね。
ついからかいが過ぎてしまったようだ。許してほしい」
佐々木はとぼとぼ歩く俺の前に回りこんで、両手を顔の前で合わせ、ウィンクをしてみせた。
「あるいは……もしかするとキミの中では、露出度や美しさ以外のファクターが重きを占めているのかもしれないけれど。
はて。では、そのファクターとは一体何かな?
僕の下着姿とアイドルのグラビアにおいて、一体何の差異が、そんなにもキミを動揺させているのかな?」
俺は今にも泣きそうだった。
「なんて、ね。悪かった。キミが取り乱している姿なんてなかなか貴重だからね。
ついからかいが過ぎてしまったようだ。許してほしい」
佐々木はとぼとぼ歩く俺の前に回りこんで、両手を顔の前で合わせ、ウィンクをしてみせた。
> 佐々木はとぼとぼ歩く俺の前に回りこんで、両手を顔の前で合わせ、ウィンクをしてみせた。
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驚愕買ったが、分裂が家からなくなっていてストーリーが全くわからず読めない。
くそう
くそう
卯月から皐月へとカレンダーが捲られると、いい加減に佐々木も飽きてきたのかくだんの一件についてはあまり触れなくなった。
佐々木がうちにやってきたのは、そんな新緑の候だった。
家族は揃って親戚のうちに泊りに行っているから、現在俺の家には俺と佐々木しかない。
確か先週くらいにたまたま俺の家までやってきた佐々木を玄関先で妹が見つけ、次にその妹がオフクロを召喚し、
佐々木に全幅の信頼を置いているオフクロは佐々木を見るやいなや俺の学習事情についてあれこれ聞き出し、
どうやらさほど芳しい成績ではないとわかると、ならゴールデンウィークは遊んでいる暇なんてないわねという結論に至り、
家族はみんな田舎に出掛けてるってのに俺だけが自宅に置き去りで佐々木と勉強でもしてろという運びになったのである。
佐々木がうちにやってきたのは、そんな新緑の候だった。
家族は揃って親戚のうちに泊りに行っているから、現在俺の家には俺と佐々木しかない。
確か先週くらいにたまたま俺の家までやってきた佐々木を玄関先で妹が見つけ、次にその妹がオフクロを召喚し、
佐々木に全幅の信頼を置いているオフクロは佐々木を見るやいなや俺の学習事情についてあれこれ聞き出し、
どうやらさほど芳しい成績ではないとわかると、ならゴールデンウィークは遊んでいる暇なんてないわねという結論に至り、
家族はみんな田舎に出掛けてるってのに俺だけが自宅に置き去りで佐々木と勉強でもしてろという運びになったのである。
本日の気温は三十度に近かった。
これでテレビをつけて甲子園でもやっていようものなら誰が今日が黄金週間なのだと気付けるだろう。
俺たちは、外界とは隔絶されたような俺の部屋に、机を挟んで向かいに座っていた。
「今年は暑くなるのが早いね。まだ五月になったばかりだというのに、真夏みたいだ」
佐々木はパタパタと片手を動かして、自分の白い喉元に風を送っていた。
しかし、リビングにならエアコンがあると言ったのになぜか俺の部屋がいいと言って譲らなかったのは、佐々木なのである。
そのくせ佐々木は暑い暑いと言って薄着になりどんどん俺の目のやり場を奪っていく。
困り者だ。わけがわからん。
「麦茶とってくる」
「お気遣いなく」
そう言えば、佐々木が俺の部屋まで上がるのは、これが初めてだったよな、と改めて思った。
これでテレビをつけて甲子園でもやっていようものなら誰が今日が黄金週間なのだと気付けるだろう。
俺たちは、外界とは隔絶されたような俺の部屋に、机を挟んで向かいに座っていた。
「今年は暑くなるのが早いね。まだ五月になったばかりだというのに、真夏みたいだ」
佐々木はパタパタと片手を動かして、自分の白い喉元に風を送っていた。
しかし、リビングにならエアコンがあると言ったのになぜか俺の部屋がいいと言って譲らなかったのは、佐々木なのである。
そのくせ佐々木は暑い暑いと言って薄着になりどんどん俺の目のやり場を奪っていく。
困り者だ。わけがわからん。
「麦茶とってくる」
「お気遣いなく」
そう言えば、佐々木が俺の部屋まで上がるのは、これが初めてだったよな、と改めて思った。
「佐々木、麦茶持ってきた――ぞ?」
俺がお盆に麦茶をのせて部屋に戻ってくると、佐々木は何やら俺のベッドの下を物色していた。
「……佐々木、お前はそこで何をやっているんだ?」
佐々木はとぼけた顔で振り返った。
「いや、男子の部屋に来たらこういうのがお約束かなと思っただけだ。他意はない」
「悪意はあるだろ」
「さすがはキョン。目の付け所が違う」
「誤魔化すな」
俺はお盆を机の上に置いて、どかりとその場に腰を下ろした。
俺がお盆に麦茶をのせて部屋に戻ってくると、佐々木は何やら俺のベッドの下を物色していた。
「……佐々木、お前はそこで何をやっているんだ?」
佐々木はとぼけた顔で振り返った。
「いや、男子の部屋に来たらこういうのがお約束かなと思っただけだ。他意はない」
「悪意はあるだろ」
「さすがはキョン。目の付け所が違う」
「誤魔化すな」
俺はお盆を机の上に置いて、どかりとその場に腰を下ろした。
佐々木は目を細めて、顎に手をやり、何事かロクでもないことを考えているようだった。
「む、キョン。さてはその余裕。既に何らかの対策を講じてあったのだな?」
「当たり前だろ。思春期男子の自意識過剰的な神経過敏をナメんな」
「やるじゃないか。だが、キミとも長い付き合いだ。僕にはわかっているよ。ベッドでないとすれば――その学習机が怪しいね」
こいつ……心を読めるのか……!?
「あ、その顔は見事に当たりだったようだね、キョン」
「勘弁してくれ」
「こら、往生際が良過ぎるぞ。つまらない。やれやれだ」
それはこっちのセリフだよ、やれやれ。
「む、キョン。さてはその余裕。既に何らかの対策を講じてあったのだな?」
「当たり前だろ。思春期男子の自意識過剰的な神経過敏をナメんな」
「やるじゃないか。だが、キミとも長い付き合いだ。僕にはわかっているよ。ベッドでないとすれば――その学習机が怪しいね」
こいつ……心を読めるのか……!?
「あ、その顔は見事に当たりだったようだね、キョン」
「勘弁してくれ」
「こら、往生際が良過ぎるぞ。つまらない。やれやれだ」
それはこっちのセリフだよ、やれやれ。
佐々木がバカなことを言うから無駄に身体が熱くなってしまった。
俺は額の汗を拭って、麦茶に手を伸ばす。
「ところで、キョン」
「なんだ?」
俺は麦茶の入ったグラスに口をつけるところだった。まだ飲んではいない。
すぐに、口に液体を含んでいなくてよかったと思うことになる。
「その、僕はそんなに麦茶をオーダーした記憶はないのだけれども」
佐々木が細っこい指先でちゃぶ台の上を示す。
俺はびっくりして咳き込んだ。
きっと佐々木はそれを見越して、俺が麦茶を飲む前に指摘したんだろう。
俺は額の汗を拭って、麦茶に手を伸ばす。
「ところで、キョン」
「なんだ?」
俺は麦茶の入ったグラスに口をつけるところだった。まだ飲んではいない。
すぐに、口に液体を含んでいなくてよかったと思うことになる。
「その、僕はそんなに麦茶をオーダーした記憶はないのだけれども」
佐々木が細っこい指先でちゃぶ台の上を示す。
俺はびっくりして咳き込んだ。
きっと佐々木はそれを見越して、俺が麦茶を飲む前に指摘したんだろう。
「なんだこりゃ……?」
一、二、三、四、五……俺の持っているものを合わせて六つのグラスがこの部屋には存在していた。
「一人三杯ずつ、ってことでいいのかな?」
「わからん。やたら暑いからこれくらい水分が必要だと思ったのかもしれん」
佐々木は麦茶を手にとって、俯き加減にグラスに口をつける。グラスの露が佐々木の指と指の隙間に沁みていった。
「そうだね。今日は、本当に夏みたいだから」
「ああ、そう……だな」
しかし、耳を澄ませても蝉の声などは一切聞こえなかった。
当たり前のことだが、まだ、夏は来ていなかった。
一、二、三、四、五……俺の持っているものを合わせて六つのグラスがこの部屋には存在していた。
「一人三杯ずつ、ってことでいいのかな?」
「わからん。やたら暑いからこれくらい水分が必要だと思ったのかもしれん」
佐々木は麦茶を手にとって、俯き加減にグラスに口をつける。グラスの露が佐々木の指と指の隙間に沁みていった。
「そうだね。今日は、本当に夏みたいだから」
「ああ、そう……だな」
しかし、耳を澄ませても蝉の声などは一切聞こえなかった。
当たり前のことだが、まだ、夏は来ていなかった。
麦茶によって佐々木の悪戯心に灯った火も一時的に収まったのか、それから俺たちは時が経つのも忘れて勉強をした。
佐々木はときに、中学の頃の内容に戻ってまで、俺に講義をしてくれた。
「これは僕の失策なんだ。去年、僕がキミに教えていたのは受験対策の勉強であってね、本当の理解を促すものではなかった。
できることならもっとじっくり教えてあげたかったんだ。今、こうやっているみたいにね」
「お前はあの頃からそこまで考えていたのか? 恐れ入るぜ。でも、やっぱり中学のときは受験対策を優先して正解だったと思うぞ。
おかげで、俺たちはまたこうして机を囲めるんだからな」
「そうだね。キミと同じ高校に入れてよかった」
「佐々木、それは俺のセリフだよ」
俺が苦笑すると、つられて佐々木も笑った。
佐々木はときに、中学の頃の内容に戻ってまで、俺に講義をしてくれた。
「これは僕の失策なんだ。去年、僕がキミに教えていたのは受験対策の勉強であってね、本当の理解を促すものではなかった。
できることならもっとじっくり教えてあげたかったんだ。今、こうやっているみたいにね」
「お前はあの頃からそこまで考えていたのか? 恐れ入るぜ。でも、やっぱり中学のときは受験対策を優先して正解だったと思うぞ。
おかげで、俺たちはまたこうして机を囲めるんだからな」
「そうだね。キミと同じ高校に入れてよかった」
「佐々木、それは俺のセリフだよ」
俺が苦笑すると、つられて佐々木も笑った。
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