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元スレ上条「まきますか?まきませんか?」
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なんかずいぶん長い事続いてるような気がしてるけど実は3日しか経ってないんだな
上条は街を走っていた。
学園都市の道路。学生の利便性第一に創られたこの街は、歩道が広く設定されている。
だがそうは言っても今日は連休初日だ。道行く人の数は多く、その方向も点でばらばらである。こんな中を全力疾走すれば、50メートルも進まないうちに誰かに衝突してしまう。
そのため、いま上条が駆けているのは、表通りから一本裏手に入ったいわゆる裏路地だ。
登校時には各地区に点在している学園に向かうため、ある意味にぎわうこの小さな路地も、いまは上条以外に走るものはいない。
表通りから微かに届く有線と宣伝の音。いつもの日常が続くその僅か隣の道で、上条の非日常は刻まれていく。
(くそ! 間に合えよこんちくしょう!)
整っているとは言いがたい彼の顔に浮かんでいるのは、紛れもない焦りだ。
学生寮からの脱出に予想以上の時間をとられた。
彼の脳裏に、この夏に出会った錬金術師との戦いが思い起こされる。
いまはもう記憶を失い、顔も名も変わっているだろうその男は、十分に準備された結界の中であれば文字通り何でもできる男だった。
あのときと同じ術を―――少なくとも上条には同じにしか思えない―――使うものが、この都市の中にいる。
それだけでも焦燥感が募るというのに、今回はさらにやっかいだ。上条の足止めという先手を打たれている。
こちらから乗り込み、向こうが受ける側だったときと、明らかに状況が違う。
捕獲用の魔術でも仕掛けられていたら、朝、インデックスがエレベーターに乗った時点で、勝負がついている可能性だってあるのだ。
彼の脳裏に、この夏に出会った錬金術師との戦いが思い起こされる。
いまはもう記憶を失い、顔も名も変わっているだろうその男は、十分に準備された結界の中であれば文字通り何でもできる男だった。
あのときと同じ術を―――少なくとも上条には同じにしか思えない―――使うものが、この都市の中にいる。
それだけでも焦燥感が募るというのに、今回はさらにやっかいだ。上条の足止めという先手を打たれている。
こちらから乗り込み、向こうが受ける側だったときと、明らかに状況が違う。
捕獲用の魔術でも仕掛けられていたら、朝、インデックスがエレベーターに乗った時点で、勝負がついている可能性だってあるのだ。
悪いことは重なる。
結界が張られたのはおそらく、上条が水銀燈と戦い、廊下に出たその直後。それまでは室内のものに普通に触れている。テーブルサンドイッチが、何よりあの段階では結界は張られていなかった証明である。
あの後、上条は部屋の中の物に何も触れることができなかった。ドア自体は開放状態だったので問題なかったが、中にある荷物はすべて『コインの表』だ。
(せめて携帯があれば、電話もできるっていうのによ!)
歯噛みする上条。
床に落ちた家具の破片すら拾えない上条。発見した携帯電話は幸いにも何かの下ではなく、床に落ちていたのだが、その端末には黒い羽がしっかりと突き立っていたのである。
携帯電話は壊れ、財布は残骸に埋もれて見つからなかった。小萌の家に電話して安否を確かめることもできないのだ。
すぐに駆けつけようとした上条であったが、それも叶わなかった。
エレベーターが使えないのは証明済み。その上、非常階段に通じる扉が、閉じられていたのである。
避難通路になるその階段の扉は通常閉じたりしない。設置義務でもあるのかいたずら防止のためなのか、一応設けられているその扉は少なくとも上条が入寮して―――いや『いまの上条』になってからこっち、閉じられているのを見たことがない。
誰かが閉めたのかはわからない。魔術師かもしれないし、寮生のだれかが異様な片付け魔で閉じていないのがいやだったのかもしれない。どちらにしても、その段階で上条は脱出の手段を奪われてしまっていた。
そんな八方塞の彼を助けたのは、
「当麻、少し落ち着くのだわ」
上条の耳に、静かな声が響く。
真紅だ。
魔術師が水銀燈と関係がない―――つまり、真紅も結界適用範囲外であることを指摘したのは、結界がどういうものなのかを把握していない真紅の方だったのだ。
エレベーターが危険なのは三沢塾で知っていたので、彼女の手で非常階段の扉ドアノブを開けてもらったのである。
エレベーターが使えないのは証明済み。その上、非常階段に通じる扉が、閉じられていたのである。
避難通路になるその階段の扉は通常閉じたりしない。設置義務でもあるのかいたずら防止のためなのか、一応設けられているその扉は少なくとも上条が入寮して―――いや『いまの上条』になってからこっち、閉じられているのを見たことがない。
誰かが閉めたのかはわからない。魔術師かもしれないし、寮生のだれかが異様な片付け魔で閉じていないのがいやだったのかもしれない。どちらにしても、その段階で上条は脱出の手段を奪われてしまっていた。
そんな八方塞の彼を助けたのは、
「当麻、少し落ち着くのだわ」
上条の耳に、静かな声が響く。
真紅だ。
魔術師が水銀燈と関係がない―――つまり、真紅も結界適用範囲外であることを指摘したのは、結界がどういうものなのかを把握していない真紅の方だったのだ。
エレベーターが危険なのは三沢塾で知っていたので、彼女の手で非常階段の扉ドアノブを開けてもらったのである。
人の多さに危険を感じたことと、左腕に座る真紅の存在が異様に目立つこともあって、裏路地に入ったのは正解だった。学生寮からの全力疾走は止まることなく続いていた。
上条の左腕に腰掛けて首に手を回した姿勢の彼女が、彼の顔をじっと見ている。
「落ち着いてなんかいられるか! こうしてる間にも、あいつらがやべぇかもしれねーんだ!」
全力疾走で荒れた息そのままで言い返す上条。
インデックス、小萌、姫神。
自分が大事だと思う人が危険に晒されているかもしれない。そう思うと―――八つ当たりだとはわかっているが―――冷静そのものの真紅の声が苛立ちを生んでしまう。
だが怒鳴り返された真紅は、
「落ち着きなさい、と言っているの」
「っ!?」
同じ言葉を繰り返し、上条の耳を右手で引っ張った。
上条の左腕に腰掛けて首に手を回した姿勢の彼女が、彼の顔をじっと見ている。
「落ち着いてなんかいられるか! こうしてる間にも、あいつらがやべぇかもしれねーんだ!」
全力疾走で荒れた息そのままで言い返す上条。
インデックス、小萌、姫神。
自分が大事だと思う人が危険に晒されているかもしれない。そう思うと―――八つ当たりだとはわかっているが―――冷静そのものの真紅の声が苛立ちを生んでしまう。
だが怒鳴り返された真紅は、
「落ち着きなさい、と言っているの」
「っ!?」
同じ言葉を繰り返し、上条の耳を右手で引っ張った。
「いてえっ!? 真紅何してっ、いててていってえ千切れる千切れる!」
くい、という可愛らしいレベルではない。耳たぶを引っこ抜こうかというほどの力で引っ張られて、上条は痛みに脚を止めた。
反射的に右手を真紅に伸ばそうとして―――あわててその手を止める。包帯で巻いていても、もし緩んでいて素肌が真紅に触れれば彼女を殺してしまう。
さきほど脱出の際に上条の『幻想殺し』について説明を受けた真紅だ。理解力と応用力はインデックス以上に思える彼女は、左手のふさがった彼は自分に抵抗できないことを承知でしているのだ。
「いいこと、当麻」
ぱっ、と耳たぶを放し、真紅が上条の顔を覗き込む。
「貴方が焦ることで走る速さがあがるのなら、私は止めない。でも、そうではないのでしょう?」
「そ、そりゃそうだけどだからって落ち着いてなんか・・・」と、上条。
だが真紅は、いいえ、と首を振った。
くい、という可愛らしいレベルではない。耳たぶを引っこ抜こうかというほどの力で引っ張られて、上条は痛みに脚を止めた。
反射的に右手を真紅に伸ばそうとして―――あわててその手を止める。包帯で巻いていても、もし緩んでいて素肌が真紅に触れれば彼女を殺してしまう。
さきほど脱出の際に上条の『幻想殺し』について説明を受けた真紅だ。理解力と応用力はインデックス以上に思える彼女は、左手のふさがった彼は自分に抵抗できないことを承知でしているのだ。
「いいこと、当麻」
ぱっ、と耳たぶを放し、真紅が上条の顔を覗き込む。
「貴方が焦ることで走る速さがあがるのなら、私は止めない。でも、そうではないのでしょう?」
「そ、そりゃそうだけどだからって落ち着いてなんか・・・」と、上条。
だが真紅は、いいえ、と首を振った。
「自分では気がついていないでしょうけれど、いまの貴方は倒れる寸前よ。生身で水銀燈と戦い、契約した私が力を振るった。その上で、今までずっと走ってきている。このままじゃ先に貴方が倒れてしまうのだわ」
「・・・・・・」
上条は荒く息を吐きながらも沈黙を返した。
そんなことはない。
彼はそう思う。もっともっと体力を失った状況で戦ったこともある。
だが真紅の瞳に浮かぶ光が、その反論を喉元で押しとめていた。自分を真摯に心配してくれる相手の言葉を、大きなお世話だ、と切り捨てられるような人間ではないのだ。
真紅は言葉を続ける。
「お願い当麻。無理を言っているのはわかる。だけど、少しでいいから冷静になってちょうだい。貴方がここで気を失っても、私にはどうすることもできない。私には行き先がわからないし、迂闊に人前に出ればそれどころじゃなくなってしまうのだわ」
「・・・・・・」
上条は荒く息を吐きながらも沈黙を返した。
そんなことはない。
彼はそう思う。もっともっと体力を失った状況で戦ったこともある。
だが真紅の瞳に浮かぶ光が、その反論を喉元で押しとめていた。自分を真摯に心配してくれる相手の言葉を、大きなお世話だ、と切り捨てられるような人間ではないのだ。
真紅は言葉を続ける。
「お願い当麻。無理を言っているのはわかる。だけど、少しでいいから冷静になってちょうだい。貴方がここで気を失っても、私にはどうすることもできない。私には行き先がわからないし、迂闊に人前に出ればそれどころじゃなくなってしまうのだわ」
ここは学園都市だ。精巧な人形も自立駆動する機械も珍しくない。それでも真紅はそれとは別格だ。彼女が他の誰かに見つかれば、騒ぎにならないわけがなかった。
魔術を理解しないこの都市において、彼女は研究材料として格好の的になるだろう。
「・・・・・・」
上条は真紅から目を逸らし、大きく息を吸った。腹に息を呑み、ゆっくりと吐き出す。それを数回繰り返した。
いままで魔術師や能力者との戦いで、いつの間にか身についた腹式呼吸だ。バクバクと動く心臓が着実に酸素を全身にめぐらせ、代わりに本当に不要な分の二酸化炭素を排出していった。
荒い呼吸は容易に過呼吸を引き起こす。息が切れるような状況ほど、的確な呼吸が大切なのである。
そうしてわかるのが、予想以上の自分の疲労だった。上条は体力と打たれづよさ、回復力には自信がある。
その彼にして、体の芯にねばりつくような疲労を明確に感じた。
魔術を理解しないこの都市において、彼女は研究材料として格好の的になるだろう。
「・・・・・・」
上条は真紅から目を逸らし、大きく息を吸った。腹に息を呑み、ゆっくりと吐き出す。それを数回繰り返した。
いままで魔術師や能力者との戦いで、いつの間にか身についた腹式呼吸だ。バクバクと動く心臓が着実に酸素を全身にめぐらせ、代わりに本当に不要な分の二酸化炭素を排出していった。
荒い呼吸は容易に過呼吸を引き起こす。息が切れるような状況ほど、的確な呼吸が大切なのである。
そうしてわかるのが、予想以上の自分の疲労だった。上条は体力と打たれづよさ、回復力には自信がある。
その彼にして、体の芯にねばりつくような疲労を明確に感じた。
「ごめんなさい当麻」と、その表情を見て取った真紅が言った。「・・・契約は私の力を引き出すために必要な手続きに過ぎないのだわ。私が力を振るうには、どうしても、貴方の体力を奪ってしまう」
「そうなのか?」
「ええ」
平静だがどこか申し訳なさそうな響きを持つ声の真紅。
だが上条は、そんな彼女にちらり、と笑みを浮かべてみせた。
「んなもん、気にするこたぁないさ。必要ならどんどん使ってくれりゃいい」
彼の口調は先ほどよりもずっと落ち着いている。呼吸はまだ乱れているが、荒いわけではない。
「でも・・・」
「それにさっき、真紅は俺を助けてくれただろ? この程度で文句言ってたら、バチが当たっちまうよ」
ぐっ、と右手を握る上条。先ほどよりも力が入る。重かった脚も、幾分軽くなったようだ。
「そうなのか?」
「ええ」
平静だがどこか申し訳なさそうな響きを持つ声の真紅。
だが上条は、そんな彼女にちらり、と笑みを浮かべてみせた。
「んなもん、気にするこたぁないさ。必要ならどんどん使ってくれりゃいい」
彼の口調は先ほどよりもずっと落ち着いている。呼吸はまだ乱れているが、荒いわけではない。
「でも・・・」
「それにさっき、真紅は俺を助けてくれただろ? この程度で文句言ってたら、バチが当たっちまうよ」
ぐっ、と右手を握る上条。先ほどよりも力が入る。重かった脚も、幾分軽くなったようだ。
「・・・よし」
それを確認し、上条は前を見る。
路地の隙間から見える表通りの風景で、現在位置を確認。改めて小萌の家まで距離とルートを再検索した。
やや遠い。だが回復したいまの体力なら、途中数回の呼吸調整でたどり着けない距離ではなかった。逆に言えば、さっきまでの体調では途中で動けなくなっていた可能性のある距離だ。
「真紅、しっかり掴まってくれ。ここからなら一気にいけると思う」
「わかったのだわ」
真紅がうなずき、上条の首に手を回した。
「・・・真紅」
「?」
駆け出すと思ったところで名前を呼ばれて、真紅は上条の方に目を向けた。
それを確認し、上条は前を見る。
路地の隙間から見える表通りの風景で、現在位置を確認。改めて小萌の家まで距離とルートを再検索した。
やや遠い。だが回復したいまの体力なら、途中数回の呼吸調整でたどり着けない距離ではなかった。逆に言えば、さっきまでの体調では途中で動けなくなっていた可能性のある距離だ。
「真紅、しっかり掴まってくれ。ここからなら一気にいけると思う」
「わかったのだわ」
真紅がうなずき、上条の首に手を回した。
「・・・真紅」
「?」
駆け出すと思ったところで名前を呼ばれて、真紅は上条の方に目を向けた。
彼は横目で彼女を見ながら、
「さんきゅ、助かった」
「え・・・」
それだけ言って、上条は地面を蹴った。
もう彼は真紅を見ない。前だけを見て、路地を疾走する。
「・・・・・・」
再びゆれ始めた視界。
真紅は振り落とされないよう、両手に力を込めながら、
「まったく、世話のやけるマスターを持つと苦労するのだわ・・・」
と、言った。
「さんきゅ、助かった」
「え・・・」
それだけ言って、上条は地面を蹴った。
もう彼は真紅を見ない。前だけを見て、路地を疾走する。
「・・・・・・」
再びゆれ始めた視界。
真紅は振り落とされないよう、両手に力を込めながら、
「まったく、世話のやけるマスターを持つと苦労するのだわ・・・」
と、言った。
投下終了しました。
昼過ぎといいながら夜になってしまいました。すみません。
キーボードの進み具合にもよりますが、次はまた明日になるかと思います。
あと341さんが言っているネタバレについてですが、原作6巻までということでしたらネタバレも出てくることを付け加えておきます。
なるべくそういうのは避けるつもりですが、閲覧の際は考慮にいれておいてください。二次創作でネタバレなしはきつすぎるので。
では。
昼過ぎといいながら夜になってしまいました。すみません。
キーボードの進み具合にもよりますが、次はまた明日になるかと思います。
あと341さんが言っているネタバレについてですが、原作6巻までということでしたらネタバレも出てくることを付け加えておきます。
なるべくそういうのは避けるつもりですが、閲覧の際は考慮にいれておいてください。二次創作でネタバレなしはきつすぎるので。
では。
ローゼンのクロスはルパンとかハルヒとかなかなか良作が多い。
しえん
しえん
恐怖とは呼吸の乱れッ!呼吸を制するということは恐怖を制すると言うことッッッ!
みんなの評価 : ★★★
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