元スレハルヒ「ねえキョン、バトルロワイアルって知ってる?」
SS覧 / PC版 /みんなの評価 : ★★★
1 :
「キョンくんおきてー」
妹の体が俺の背中にどすどすとのしかかる。ええい、俺はトランポリンじゃないぞ。
仕方なく布団から顔を出し、眠い目をこすりつつ目覚ましを見る。思わず血の気が引いた。短針は九を指している。
集合時刻は九時半だ。あと三十分しかない。
妹をなんとか振り切って大急ぎで身支度を整えて家を出た。
今日は合宿の日である。
なにが目的とか意義とかそういうことは置いといて、とにかく合宿なのだ。
いつもの公園に着くと、そこにはじれったそうに腕を組んで足をぱたぱたさせているハルヒがいた。
朝比奈さんは世界を救うような天使の、古泉は達観しきったような微笑みで俺を見ている。
言うまでもなく、長門は当然無表情。
谷口はナンパがどうだとか相変わらずなことを国木田に吹き込んでいて、鶴屋さんは状況を全く無視した天真爛漫な笑顔だった。
実は今回の合宿、SOS団+αなのである。
「遅いわよ! キョン!」
襟首を思い切り掴まれる。時刻はちょうど九時三十分、ハルヒに怒鳴られる筋合いはないはずだ。
「馬鹿ね、あたしより遅く来た人間はみんな遅刻なのよ!」
「へいへい。で、俺は何をおごればいいんだ?」
この八か月で染みついた奴隷根性である。
「あら、分かってるじゃない。そうねえ、考えとくわ。お茶代どころじゃ済まないわよ!」
俺は今のうちに破産申告をしておくべきだろうかと悩んでいると、
「んじゃ、全員揃ったし早く行こっ!」
と鶴屋さんがハルヒに促した。この合宿の立案者は彼女だ。なんでも山に大きな別荘を持っているらしい。
人は多ければ多いほどいいと言うことなので、それなりに面識のある谷口と国木田を誘ったというわけだ。
「あっ、待ってよハルにゃん! 一番乗りはこの私だよーっ!」
鶴屋さんとハルヒが猪のごとく駅まで駈け出して行った。朝っぱらから元気なことだ。
駅で切符を買って改札を通る時、前を歩く長門がこちらを少し振り向いた。が、そのまま何も言わずに進んでいってしまった。
長門も長門なりに楽しんでいるのだろうか。きっとそうだったら良いと思う。
今考えればここがターニングポイントだったのだ。
日常と非日常を分かつラインがこんなただの自動改札だったなんて、思わないだろ普通?
4 :
意味がわかりません
5 = 1 :
頭痛が痛い。
そんな定番なネタが真っ先に思いつくあたり俺の出来の良いとは言えない脳みそは問題なさそうだった。
この類の痛みは一日に十二時間以上寝てしまった時に起きるものと同じものだ。
ならばいっそ、もう一眠りしてこの頭痛から意識を手放してしまおう。ぼんやりと開いた瞼を再び閉じようとした。
眠りにつくかつかないかぎりぎりのところで、額に衝撃が走った。
「起きて、起きなさいよバカキョン!」
ハルヒが俺を見下ろしていた。珍しく不安そうな瞳をしている。
デジャヴ。
いつかの閉鎖空間を思い出す。おいおい、あんなのはもうゴメンだぞ。
違う、今日は合宿で鶴屋家の別荘に行くつもりだったのだ。
駅から電車に乗って、そういえば珍しく車両には他に誰一人としていなかったな。
それをいいことにみんな好き勝手に振る舞った。
ハルヒと鶴屋さんと朝比奈さんは一車両をまるまる使って鬼ごっこをしていた(もちろん朝比奈さんは
二人に無理やり誘われて、だ)。
谷口は座席に横たわっていびきをかいて寝ていた。ホームレスかお前は。と突っ込みを入れたはずだ。
俺は―――何をしていたんだっけな。あ、そうだ、吊り革を使って懸垂していたんだ。
しばらくすると、急にハルヒたちの騒ぎ声が聞こえなくなった。
俺は不思議に思ってそちらを見た。違う、見ようとしたのだが出来なかったのだ。
その後のことは何も思い出せなかった。
7 = 1 :
起き上がって辺りを見回す。どうやらここは教室のようだ。
掃除をする時のように机と椅子が後ろに下げられている。俺たちは前の空いたスペースに投げ出されていた。
俺のすぐそばにはハルヒと長門がいた。少し離れると顔が見えなくなるほどに室内は暗かったが、
目を凝らすと合宿のメンバー全員がぼんやり見えた。
全員が目を覚ましたらしく、この状況を訝しむ声が大きくなっていった。
窓には板が打ち付けられているし、扉にも鍵がかかっていて外に出ることはできなかった。
嫌な予感に背筋を震わせながら額を撫でつけた。
どうやらハルヒに殴られたらしく、未だにじんじんと痛む。どんだけ馬鹿力なんだこいつは。
ハルヒは眉根にしわを寄せて俺に疑問をぶつける。
「あたしたち、合宿に来たのよね?」
「ああ。そのはずだけどな。ここが鶴屋さんの別荘なのかもしれん」
「そんなわけないじゃない。どう見てもここは教室よ。しかも北高じゃないわ」
そう、どうみてもこの教室は見慣れた北高のものではない。それが余計に俺たちを心もとない気持ちにさせた。
「なんだか妙に息苦しいわ」
言われてみればと首に手をやると、なんだか金属質なものが指に触れた。
まさか、首輪―――ということは―――。
「キョン、これってもしかして……」
その時教室の明かりがついた。急な光に目がくらんだものの、ハルヒの首にがっちりとはまる
冷たい首輪ははっきりと見えた。
8 :
期待してみる
9 :
バトルロワイヤルというには、人数がなぁ……。
そこらへんはどうするんだろう支援
10 = 1 :
俺は完全に諦めモードだった。白旗を両手両足で挙げたい気分だった。
これは間違いなく“プログラム”だ。
他に比べりゃまともな国の中で唯一まともでない部分があるとすればこの法律に違いない。
『高等学校五十クラスを任意で選抜し、クラス内で最後の一人になるまで殺し合いをさせる』
本や専門家はもっと遠まわしに表現するけれど端的に言えばこのようになる。
ついこの間四十一号プログラムが行われたばかりだ。テレビの速報で優勝者のインタビューを放送していた。
溜息をついて、封印したはずの言葉を口にする。
「やれやれ」
担当教官とやらは女性だった。黒いスーツを身にまとい、勝気な瞳で俺達をねめつける。
「はじめまして。今日からあなたたちの担当教官よ」
彼女はすぐさまルール説明を始めた。
「まあみんなだいたいルールなんて知ってると思うんだけどね、ネットで優勝者のブログとか見てる人も多いでしょう?
でもこれも仕事だからね。とりあえず一から説明します」
そう言って黒板に地図を描きはじめる。やはりここはゴーストタウンと化した島のようだ。
彼女は地図を描き終えるとその上半分に斜線を引き始めた。
「今回は参加者が九人と少ないので、エリアを最初から限定します。こっちの」
カン、とチョークで斜線を引いた部分を指す。
「このエリアに入るとみんなの首についてる首輪が爆発するから近づかないように。下半分で戦ってね」
俺たちを支配しているのはこの首輪である。これが参加者を島に縛り付け、反抗する人間の首輪を吹き飛ばす。
「それと、禁止エリア制度は本プログラムでは採用されないことになりました。その代り、期間を一日とします。
一日経った時点で生き残りが複数いた場合、全員の首輪を爆発させます。優勝者は当然なしになるわね」
朝比奈さんのしゃくりあげるような嗚咽が聞こえた。
すかさず鶴屋さんがフォローに入っている。泣くなっ、みくる! とゴムまりのように弾んだ声で。
鶴屋さんの精神力は賞賛に値するなと思いつつ教室を見渡すと、おかしいことに気づいた。
ここにいるのは全部で八人だ。
さっき彼女は参加者は九人だと言っていた。一人人数が合わない。
「そうそう、転校生を紹介するわ。入ってらっしゃい、朝倉涼子さん」
―――またお前か。
朝倉涼子は素敵な笑顔でぺこりと頭をさげた
11 = 1 :
朝倉は本当の転校生のように、少し緊張した面持ちで話し始めた。
「パパの出張が予定よりもずっと早く終わってね、戻ってきちゃったの」
「ずっと涼宮さんのやってる『部活』に興味があったんだ」
「だからね、入部しようと思って。短い間だけどよろしくね」
何言ってやがる。おいハルヒ、なんか言ってやったらどうだ。
こいつの言ってることは全部嘘っぱちだ。
だいたいさっきから静かすぎるだろお前。なに考え込んでんだ。
いつものムチャクチャな論理でこのおかしい奴らを言い負かしてみろよ。
朝倉がプログラムに参加するだと? どうなるかなんて目に見えている。
朝倉涼子は床に腰を下ろすとそれきり黙ってしまった。
「あの、一つ質問をしたいのですが」
後ろからゆったりとした声が聞こえた。
「なんですか、古泉一樹君?」
古泉は柔和な微笑みを浮かべつつ、教卓に立っている担当教官に問いかける。
「プログラムは本来、クラス単位で行われるはずです。なぜクラスも学年も違う我々が選ばれたのでしょう」
「古泉君なら頭がいいからわかるでしょう?
プログラムの目的は戦闘データを収集することなの。それにはたくさんの異なるデータが必要なのよ」
「期間が短かったり禁止エリアがないといったことが、どう作用するかを見たいということですか」
彼女が満足げに笑った。
「その通り。クラスでなくて部活動単位、というところもミソね」
部活動。町の不思議なことを探しまわったり映画を作ったりクリスマスに鍋パーティをする部活動。
選ぶにしてももっとましな部活があるだろう。
例えばコンピュータ研究会とか。
「つうか、俺はこのSOS団とかいう訳のわからねえ部活になんて入ってねえぞ」
谷口が不服そうに呟いた。それでも決して反抗はしない。
いくらこいつがアホでもそんな事をしたらどうなるかくらい分かっているからだ。
13 = 1 :
「……まあ、そこは私の知るところではないわね。
私の仕事はこの名簿に載ってる生徒をプログラムに参加させることだから」
彼女は時計を見ると、教室の引き戸を開けた。
「そろそろ時間ね。じゃあ、名前を呼ばれたらここに積んであるディパックを一つとって出て行ってください。
それぞれ武器が入ってるから、それで戦いなさい」
軍服を着た男がディパックが積んであるカートを引っ張ってきた。
「誰も殺さないでスタートできそうでよかったわ、余計に少なくなっちゃうものね」
言いようの怒りを感じた所で、なすすべがない。
こいつに殴りかかっても腰に光る拳銃で頭に穴が開くか、取り巻きの兵士に蜂の巣にされるかだ。
もちろん俺はこんなところでは死にたくない。
子、孫、曾孫に囲まれながら眠るように死ぬ、という理想はさすがに実現しそうにないと思っているが
こんな若くにプログラムなんかで死ぬのは真っ平御免だった。
ハルヒは担当教官とやらが現われて以来、あぐらをかいて腕組みという格好で何事かを考えていた。
俺が声を掛けようとすると、それを制するように凛とした声が室内に響いた。
「午前零時。それでは2009年度第四十二号プログラムをはじめます。一番、朝倉涼子」
【残り九人】
14 = 1 :
俺は自身の立ち位置を学校を出るまでに決めようと思った。
脱出頑張っちゃうぞーなポジションか、それとも殺人鬼な感じか。
あるいは普段の俺どおりに、事なかれ主義を貫くか。
いくら考えても結論には行きつかず校庭に出てしまった。
しかし次に出てくるハルヒを待つということだけは、どのポジションの自分も一致していた。
とにかくハルヒと会わなければ。
よく考えて、いやよく考えなくとも、俺が殺戮マシーンになることなど不可能だった。
俺は教室から校庭に出るまでのあいだ支給武器の確認すらしていなかったのだ。
それくらい危機感に欠けた人間はどう見ても不適正だろう。
そしてそのお陰で今俺は見事に狩られる側になっている。
ひゅん、と風を切る音と共に金属の矢が地面に突き刺さった。
あと数十センチずれていたら足を貫いていたはずだ。
「キョン、逃げないでよ」
全力で逃げようと躍動する足を止めないまま振り返る。
国木田はその小柄な体には似合わない重厚なクロスボウを向けて、引き金に指をかけていた。
国木田は自分の次に出てくる俺を待っていた。国木田は俺に至極フレンドリーに話しかけ、一言二言交わしたのちに
俺の頭めがけて撃った。
至近距離だったのに矢が逸れたのは幸運としか言いようがない。
まあその幸運も後数分で無意味になってしまうかもしれないのだが。
友人に命を狙われているという事実を甘んじて受け入れている自分がいた。
いくら仲良くやってきたやつらとは言ったって、自身の命と天秤にかけたらそりゃあ自分のほうが大切に決まっている。
だから国木田が俺を襲ってくるのは想定内だ。本当さ、ショックなんざ受けちゃいない。
しかしただ命を狙われるのと、命を奪われるのとは当然別問題だ。
―――友達からであろうと誰であろうと俺は殺されたくないのだ。
ポケットから携帯を引っ張り出す。こうなったら一か八かだ。このまま逃げ切れるとは思えない。
振り向きざまに携帯を思い切り投げた。そりゃもう、甲子園の名ピッチャー並の球速で。
ごつっ。鈍い音がして国木田が頭を押さえているのが見えた。
俺はすぐさま林立する木々の隙間を縫うようにして奥へと逃げ込んだ。
15 = 1 :
木の幹に寄りかかって様子を窺ったが、国木田が追いかけてくる気配はなかった。
真っ暗な森の中にいると夜空が変に明るく見える。
数年来の友人は俺に容赦なく引き金を引いた。
矢が少しでもずれれば俺は今この場所にいなかったのだ。
「くそ、感傷的になってる場合か、本当に死ぬぞ」
そうだ、まずは武器の確認だ。ディパックを開けて何が入っているのか探ると、固いものが指先に触れた。
俺の支給武器は探知機だった。
今日はなんとなくツイてるようだ。まさに不幸中の幸いと言える。
この探知機さえあればこっちから人に接触することができる。
範囲は割と狭いようだが、ないよりは全然マシだ。
とにかく学校の方に戻ってみよう、まだその近くにハルヒがいるかもしれないしな。
少し移動してから再び探知機に目を落とすと、画面の端に一つ反応があった。
もしかしたらまだ国木田が誰かを待ち伏せているのかもしれない……が、ある希望を捨てきれなかった。
そのぴくりとも動かない青い点は、普段の彼女の姿そのもののような気がした。
何度も窮地から自分を救いだしてくれた存在。
この状況を地から一変させてくれるかもしれない。
俺は探知機片手にそいつのところまで走った。筋肉が変にこわばっている。明日はきっと筋肉痛だ。
「やっぱりお前か、長門」
息も絶え絶えに声をかける。長門有希はベンチに腰かけたまま、視線だけをこちらに寄こした。
吸い込まれそうな瞳が俺を見つめる。
煌々と月明かりが差す公園はかなり目立つだろう。探知機には俺達以外の反応はなかったが、注意しなくてはならない。
実際にもう乗ってしまった人間がいるのだ。
「教えてくれ、これは現実なのか?」
閉鎖空間か、それとも別の時間平面に全員が迷い込んでしまったのか。
きっと正確に答えられるのは長門しかいない。
「そう」
にべもない答えが返ってくる。
16 :
読みにくい
その上につまらないってどうよ
18 = 1 :
「俺達は本当に選ばれたのか、プログラムに」
「そう」
「政府がいう『公平な抽選によって』でか?」
「そうではない」
まさか。嫌な予感が頭をよぎった。直後にそう思った自分を焼却処分したい気持ちになった。
あいつがこんなことを望むはずがないだろ、いくらなんでも。
「涼宮ハルヒによって世界は改変された」
出し抜けに長門が言った。
つい何週間か前にも世界が改変されたっけな。なんだかひどく昔のことに思える。
その時に長門を頼りすぎては駄目だと決意したのだが……結局アテが他にないのだ。
「それはどんな風に変わったんだ?」
「このプログラムが作品中のフィクションである世界から、プログラムが実在する世界になった」
ちょ待てよ! 某アイドルの台詞が脳内再生される。
いや待て。待て待て待て。
フィクション? プログラムが作品の中のフィクションだって?
じゃあ俺のこのプログラムに関する知識はなんだ。
正式名称“戦闘実験第六十八番プログラム”
毎年高校から五十ものクラスが選抜されて、最後の一人になるまで殺しあう。
優勝者には一生の生活保障が約束される。著名人にも経験者が結構な数いて
その人たちの本やらブログやらには生々しい戦いの様子が述べられている。
俺は高校に入学した後、知的好奇心をフル活動させてそれらを隅々まで読みつくした。
自分が選ばれることないと思っていながらも、『もしかしたら』と考えていたからかもしれない。
ちょうど宇宙人や未来人や超能力者の存在を思惟するような、そんな気持ちで。
20 = 1 :
「あなたたちの記憶はプログラムが実在するものとして一から作り直されている」
俺の鮮明な記憶を長門が否定する。
子供のころに見た、優勝者が血にまみれた笑顔でインタビューを受けていたの今でも思い出す事が出来る。
あれも嘘だったのか。
なあ長門、にわかには信じがたいぜ。
お前の言葉じゃなかったら俺は0.5秒で相手に『この人は不思議ちゃんなんだな』とレッテルを貼るところだ。
長門は俺から視線を逸らし俯いた。制服のスカートから伸びる足が明りに照らされて白く輝いている。
寒そうに見えたので上着でもかけてやろうと、俺はブレザーを脱いだ。
ふとなにかがおかしいことに気づいた。しかしそれがなんなのかが咄嗟に出てこない。
俺たちは元々何をしにきたんだ―――そうだ、合宿だ。
なのになぜ俺は制服を着ているんだ。
当然私服を着ていたはずなのに。
おかしい、辻褄が合わない。
なにかずれている―――。
「改変される以前の記憶を、あなたはまだ持っている」
21 = 1 :
「ねえキョン、バトルロワイアルって知ってる?」
「聞いたことはあるな」
「あたし今読んでるんだけど、これが結構面白いのよ。下手な恋愛小説よりも全然マシだわ」
「もう十年以上前の本だよな。お前が読書なんて珍しい」
「なによ。あたしだって有希まではいかないけど、結構読書するんだから」
そんな会話を、確かにした。
23 :
さっさとプログラム修正施せよ
あっ制御されてるんすかwwwサーセンwwww
25 = 1 :
とりあえず書き溜めてあるところまでだらだら投下します
見づらくてすまん
26 :
せめて台詞と地の文の間にスペースを入れてくれ
27 = 1 :
「長門、ようやくお前の言うことを信じられそうだ」
今脳内では、二つの異なった世界での記憶が混同している。
片一方は事実で、もう片一方は作り物である。
ただこれだけは言えるだろう、長門は俺に嘘はつかない。
「やっぱりこれは、ハルヒが望んだ世界なのか?」
「そういうことになる」
俺は次の言葉を言おうか迷った。
また余計な負担をかけてしまえば、今度こそ長門は壊れてしまうかもしれない。
しかし。俺はため息をついた。
俺にはどうしようもできないのだ。
「お前の力でここから抜け出せないか?」
長門は目を伏せたまま、どこかさびしそうに言った。
「わたしの力をこの空間で使うことは不可能。情報統合思念体との連結が遮断されている」
今は悲劇的なBGMが流れてもいいところだ。
「ここでのわたしは人間の女性の平均的な身体能力しか保持していない」
これまで数々の障害を潜り抜けてきた、半ばチート気味でもあった『長門の力』という手段が使えない。
ここから出る方法はないのか。まさか本当に殺しあって最後の一人になれと?
「今世界を元に戻そうとするよりも、先にこの島から脱出したほうが可能性は高い」
ここで俺たちに与えられた時間は一日だ。
タイムリミットと戦いつつ方法を模索するよりかは一旦島から脱出し、直接命の危険がないところで
改変のキーを探ったほうが安全、ということか。
「脱出か……なにか考えはあるのか」
一つの記憶では、「脱出なんてしようとしても絶対に失敗する」
もう一つの記憶では、「そういえば主人公とヒロインが二人で生き残ってたな」
「今その方法を考えている」
長門は少しの沈黙ののちに答えた。
なにか俺にも出来ることはあるのか。そう言おうとした時だった。
ぴこん、電子的な音がした。
探知機に目をやると、それほど遠くないところに反応が二つあった。
28 = 1 :
>>26
わかった。30行制限があるから変なところで切れちゃうかもしれないけど…
29 = 1 :
朝比奈みくるは嗚咽を止められなかった。
無論プログラムに選ばれてしまったこともその一因であったが、
未来と連絡がとれない、TPDDが使えない、自分のバックホーンが消えてしまったことが
より彼女をパニックにさせた。
どうしよう。あたし、帰れない。帰れなくなっちゃった。
なんで? どうして連絡が取れないの?
わからない。怖いよ。
みくるは誰かに会いたい一心で辺りを見回した。
ここは住宅街のようで、古い家屋が密集している。
「朝比奈さんですか?」
背後からの声にびくりと体を震わせた。こんな状況だから、声の主が分かっていても驚いてしまう。
「こ、古泉くん……?」
振り返ると柔和な笑みを浮かべた古泉一樹がいた。
手には鋭く光る日本刀が握られている。みくるは息を飲んだ。
「ああすみません。朝比奈さんがやる気だとは思ってなかったのですが、念には念をと思って」
古泉は刀を鞘に収めた。
それでもみくるの頭は、突然古泉が日本刀で襲いかかってくるシーンを再生してしまう。
この時初めて恐怖を感じた。
未来うんぬんを考えている場合じゃない。きっと自分はこの時間平面上で死ぬのだと思った。
あたしはもう未来人じゃなくて、ただの人間なんだ。
31 :
ふむ。
32 = 1 :
「恐らく僕とあなたは同じことを考えているのではないでしょうか」
古泉は横目でみくるを見た。
「僕たちの『役割』と僕たち自身の『命』、どちらを重視するかについて」
涼宮ハルヒ。自分は彼女を監視するために未来から送られた存在だ。
だけど今のこの状況でその任務を続ける意味はあるのだろうか。
それどころか生命の危機だ。
「あっ、あたし……未来に帰れないし、何をすればいいか……」
「結局のところ、僕たちはただのコマとして動くしかないのかもしれません」
古泉の口調が打って変って鋭くなる。
「あなたも僕も、ここでは力を発揮できませんしね。仕事か命か。
あなただったらどちらを取りますか? 聞くまでもないことですが」
古泉は一歩みくるに近づいた。みくるは反射的に一歩下がった。逆光で表情が読めない。
殺される。
直感でそう思った。
「あ、あ……やめて、こないでぇ!」
小石につまずきみくるは尻もちをついた。古泉は日本刀を片手にそれを見下ろしている。
体が硬直してから動き出せるようになるまで、随分時間がたった気した。
だがそんなことは今のみくるには関係のないことだ。
みくるは彼女自身が持つ全ての力を使って逃げ出した。
行く先なんてどこだって良かった。彼のいないところならば。
33 = 1 :
もちろん誰かはわからない。
俺はすでに長門という信頼できる人間と接触できている。リスクを冒してまで会いに行くべきではない……が。
探知機に再度目を落とすと、つい先ほどまで固まっていた二つの点のうちの一つが
つつーっと右方向へ滑っていき画面外へと消えていった。
きっとこいつは危険なやつだ。襲われたかなにかで彼あるいは彼女は逃げていったに違いない。
誰だ? やはり国木田か―――そうだ、あいつを今まですっかり忘れていた。
朝倉涼子。
俺にとっていつだって危険な存在でしかなかったもう一人のヒューマノイド・インターフェース。
ついこないだ会って殺されかけたばかりだ。
「どうしてこの世界では朝倉がいるんだ」
長門は下を向いたまま答えない。恐らく分からないのだろう。
この世界は長門でさえ把握できないことだらけだ。
全員の話を繋ぎ合わせていけば、もしかしたら突破口があるかもしれない。
刑事物でも探偵物でも関係者からの情報収集はお約束だ。
「長門、俺は今からこいつと会ってくる。お前も行くか?」
長門はこちらを向いて即答した。いい、と。
いくら探知機で状況がわかっているとは言え、ここに一人にしておくのも心配だった。
「わたしは平気」
長門は足もとに置いてあったディパックから黒い塊を引っ張り出した。
それはどう見ても拳銃だった。長門は弾倉を銃に押し込みスライドを引き、一瞬でコッキング状態にした。
扱いを知っているのだろうか。少しくらいなら、きっと大丈夫だろう。
俺は長門にいざという時の集合場所を教え、急ぎ足でそいつのところへ向かった。
34 = 26 :
しえん
36 :
読みにくい……のが解消されてるw
37 = 1 :
「ああ。僕としてはこんなに早くあなたと会えてうれしい限りです」
俺は全く嬉しくない。まあ朝倉涼子よりかは古泉のほうがマシか。あいつとは話し合いで解決できる気がしないからな。
古泉一樹は木にもたれかかったまま、むかつくほど爽やかな笑顔をこちらに向けていた。
「お前、今誰といたんだ?」
「さて。なんのことでしょうか」
とぼけるな。ついさっきまで誰かがいたじゃねえか。どこかに逃げてったみたいだけどな。
俺は古泉が握っている刀を見た。こいつやっぱり―――
「それは……探知機ですか。嘘はつけませんねえ。僕はとある人物に襲われていたのですよ。
そして追い払うためにこの刀を使った。それだけです」
とある人物って誰だよ。
「あなたのお友達、確か……谷口君でしたっけ? 彼にですよ」
うわ、信憑性がある人物出してきやがった。これが朝比奈さんや鶴屋さんだったら全力で否定できたものを。
国木田にしろ谷口にしろ、なんだか連れてきた俺がとても申し訳ない気分だ。
「まあいいさ。それを信じるにしろ信じないにしろ、逃げていったやつは死んでないわけだし」
死んでないならそれだけで十分じゃないかと、俺は思った。
38 = 26 :
紫煙
39 = 1 :
古泉がため息混じりに言った。
「それにしても不運なものですね。まさかプログラムに選ばれてしまうなんて」
やはり改変前の記憶はないのだろうか。俺が長門の説をかいつまんで話すと、古泉は手を顎に当ててじっと考え込んでいた。
「残念ながら僕にはその記憶がないようです。そこであなたに伺いたいのですが、
こちらの世界のプログラムと作品中のプログラムとで、なにか差異はありますか?」
俺は二つの記憶を照らし合わせて、違う部分を抜き出そうとした。
しかしそもそも元の世界、つまりプログラムがフィクションの世界において俺はそのバトルロワイアルという
原作を読んでいないから、詳しくはわからないのだ。
「ええと、まず本だと対象は高校生じゃなくて中学生だな。それとこれはこっちでも異例だったが
部活で選ばれるんじゃなくてクラス単位だったはずだ」
「そうなると長門さんの論がより説得性を増してきますね」
今までなんとか上手にやってきたが、今回はもう駄目かもしれないな。本当にあいつはロクなことを考えない。
「涼宮さんが“望んで”このような世界になったとは思えません」
古泉は少し厳しい口調になって、「あなたはそう思うんですか?」と聞いてくる。
「……どうだかね」
41 = 1 :
「涼宮さんは本を読み終えた後、考えたのでしょう。高校生で、SOS団の団長である自身が
プログラムに巻き込まれたらどうなるだろうか。中学生でもクラスでもなかったのは
恐らく今が一番彼女にとって充実しているからで、そちらの方が想像して面白いですからね。
実際に涼宮さんは創造してしまったわけですが」
くそ、うまいこと言ったつもりかこの野郎。
俺だってハルヒが殺し合いとか、人が死ぬこととかを望んでるなんて思っちゃない。
ただそうなってしまうハルヒの絶大な能力に気押され、苛立たしいだけだ。
いったいあいつは今どこでなにを考えてるんだろうな。
まあ殺しても死なないようなやつさ。心配するなよ。
「我々が置かれている状況は恐らく今までで一番厳しいものでしょう。
きっちり構築された物語の中に迷い込んでしまった以上、抜け出すのは骨ですよ」
「長門が脱出方法を考えているところだ。お前も手伝え」
当然、古泉は首を縦に振ると思っていた。
でなかったら御託をいろいろ並べて別行動をとりたがるか。
俺はこの状況を楽観的に考えすぎていたのだと痛感した。
古泉のしたことはどちらでもなかった。
おもむろに刀を鞘から抜くと、俺の首筋に突きつけたのだ。
43 = 26 :
私怨
44 = 1 :
「おい。ふざけてる場合か」
「冗談に見えますか?」
やつの目は本気だった。
下手に動いたらきっと斬られる。俺が動かずにいると古泉がにじり寄ってきた。
顔が近いんだよ気色悪い。殴るぞ。
「僕はこのゲームに乗るべきなのでしょうか」
そんなこと知らん、俺に聞くな。
「我々が元の世界に戻ることは不可能だと僕は思っています。
この空間は涼宮ハルヒの精神活動が影響したものであるのは確かです。が、それだけじゃなく
おそらく外部からの要因もあるはずです。近頃安定している彼女の心にここまで残虐な思想が
生まれるとは考えづらい。僕は彼女の心の動きについてはスペシャリストですからね」
と、普段のように饒舌に論を述べる古泉だが、一向に俺の首筋から刃を逸らそうとしない。
古泉が切先を少しスライドさせた。
首から鎖骨へ生暖かいものが流れていくのを感じると、さーっと血の気が引いていった。
遅れて痛みがやってくる。そのまた少し後に、恐怖が訪れる。
超能力者に日本刀で斬り殺される人間も、きっとそうはいないだろう。
46 = 1 :
「こうするだけでもう出血してしまうんですね」
一人で納得するように古泉が言う。
こいつはまだ迷っている。だがここで俺が逃げ出したらきっと反射的に俺を切り殺すだろう。
まだ動くべきじゃない、血だって大した量じゃないさと言い聞かせながらその場に立っている。
「最初に会った人を逃がしてしまった時、次こそはと思っていたんですが……やはり決心がつきませんね、特にあなただと」
古泉は日本刀を下ろした。しかし安心したのも束の間で、俺との間合いを一気に詰めて持っていた探知機に手を伸ばした。
「探知機をくれれば見逃してあげますよ」
そんな声が聞こえた気がしたが、俺は探知機を奪われまいと必死だった。
これがないと誰かに―――そうさ、『誰か』に―――会うのがもっと難しくなる。
せいぜい二十センチの鉄の塊を無心で守る様は、なんとも滑稽なことだろう。
気づけば俺は探知機を抱え込むようにして丸くなっていた。
脳裡にはにっかりと笑う団長様の姿があった。
軽率でしたね、と古泉の言葉が頭上から届いた。
「あなたがそれを使って涼宮さんと接触してくれれば、何か好転するかもしれません。失礼しました」
古泉は恐ろしく冷静だった。こいつの思考回路はどこもショートしちゃいない。
こいつはこいつなりに考え、最善の道を探している。
それが俺達と一緒に行動するということでないのは確かだった。
47 = 26 :
しぇーん
48 = 1 :
「僕はあなたに賭けますよ。いつかの閉鎖空間の時のようにね」
古泉は刀を鞘にしまい、ディパックを肩にかけた。
「それまで僕は数を減らすことにしますから。別に問題ないでしょう、もし世界が元通りのものになったら
僕はただの超能力者で、殺人者にはならないんですからね」
お前の答えはそれか。
説得は―――できないだろうな。俺がなんと言おうと、古泉は古泉の正しいと思ったことをするだけだ。
古泉は腸が煮えくりかえりそうなほどさらりとした笑みを向け、どこかへ去っていく。
誰かを殺すために。
俺は初めて、心から絶望的な気持ちになった。
なんだかんだ言ってもSOS団が集まれば何とかなるんじゃないかと思っていた。
今まで散々色々あったが、十二月まで生きてこられてのだ。
全員で元に戻って、はいハッピーエンド。そうなるだろうと期待していた。
ああ、違うんだな。これはプログラムなのだ。
大団円では終われない、そんな気がした。
49 = 31 :
完結したら評価する
50 = 1 :
「ねえ、ちゃんとわたしの話聞いてる?」
ぐり、と靴の底が柔らかいものを踏み込んだ。
あまりの痛みに涙が出そうになる。もう逃げ出せない、これ以上強くされたら―――。
朝倉涼子は潮風に髪をなびかせて、微笑みを浮かべながら自分を見下ろしている。
プログラムに選ばれてしまった。
以前クラスのまとめ役であった女子生徒がまた転入してきた。
そして今彼女は自分の股間を踏んでいる。
意味が分からない。整合性がとれない。俺は何故こんなことをされている?
「なんなんだ、意味わかんねえよお前!」
朝倉は端正な顔立ちを崩さないまま、軽く首をかしげる。
「谷口君ってやっぱり馬鹿なの? どうして理解できないの?」
谷口は言ったことを後悔した。朝倉がおしおきと言わんばかりに足に力を込め始めたからだ。
必死に止めるよう叫んでも彼女に声は届かないのか、ぐりぐりと抉るように足裏を動かす。
脳天を突き抜けるほどの激痛が走る。
「だからね」
出来の悪い子供に言い聞かせるように言った。
「涼宮ハルヒをレイプしてきて、と言ってるの」
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