のくす牧場
コンテンツ
牧場内検索
カウンタ
総計:127,063,071人
昨日:no data人
今日:
最近の注目
人気の最安値情報

    私的良スレ書庫

    不明な単語は2ch用語を / 要望・削除依頼は掲示板へ。不適切な画像報告もこちらへどうぞ。 / 管理情報はtwitter
    ログインするとレス評価できます。 登録ユーザには一部の画像が表示されますので、問題のある画像や記述を含むレスに「禁」ボタンを押してください。

    元スレ古ジャンル「乗り物にて」

    新ジャンル スレッド一覧へ / 新ジャンル とは? / 携帯版 / dat(gz)で取得 / トップメニュー
    スレッド評価: スレッド評価について
    みんなの評価 :
    タグ : 追加: タグについて ※前スレ・次スレは、スレ番号だけ登録。駄スレにはタグつけず、スレ評価を。荒らしタグにはタグで対抗せず、タグ減点を。
    レスフィルター : (試験中)
    ←前へ 1 2 3 次へ→ / 要望・削除依頼は掲示板へ / 管理情報はtwitter
    51 : 以下、名無しにか - 2009/04/29(水) 06:53:53.06 ID:wE9HmE2yO (-22,-6,+0)
    >>50
    つガッ
    52 : 以下、名無しにか - 2009/04/29(水) 06:56:24.36 ID:OO+rjTIN0 (+95,+30,-275)
    「新耳……○くろ、○くろ? っていうDVDに似たような話があって」

     「『続○』という題名だったと思う」と彼女は俯く。
     五分にも満たない短編オムニバス形式のDVDで、文庫を映像化したものらしい。
     簡単なあらすじとしては「夢の中で、段々女性が近づいてくる」という物だった。

    「それで霊能力者の人が『強い怨念だけが辿り付いた』って言うんですよ」
    「……なんかその霊能力者、インチキくさくない?」

    「あ~みたいですよ。その後も、結局その夢を見て……で終わりでした」
    「でもそれって夢の話だよね? 少女のアレって夢の中の話だったの?」

     彼女は首を振った。
     無論、横にである。

    「強い怨念だけが……の部分が、似ているみたいなんです」
    53 : 以下、名無しにか - 2009/04/29(水) 07:04:39.55 ID:OO+rjTIN0 (+95,+30,-148)
    「……それって最後は死んじゃったの?」
    「DVDでは曖昧になってますけど……死んでないと思いますよ」

    「えーどうして?」
    「だって夢の内容なんですよ」

    「その人が死んじゃったら、お話にならないですよー」
    「……あ。それもそっか?」

     顔を青くしてみたり、急に冷静になったりする彼女の底が知れない。
     割りきりが直線的なのだろうが、気付くと彼女の言葉に振り回されている。


    ごめん俺はガッできない
    やりたいけど書くの遅いからふざけられないんだ
    どんな形でも居てくれるのは嬉しい
    54 : 以下、名無しにか - 2009/04/29(水) 07:14:00.23 ID:4wuaulVSO (-8,+29,-4)
    >>51
    お前はいつも優しいな…
    55 : 以下、名無しにか - 2009/04/29(水) 07:17:00.83 ID:OO+rjTIN0 (+95,+30,-245)
    「じゃあ何だろ?」
    「なんていうか、ストーカーみたいな奴らしいです」

    「ストーカー……なんだっけ、あのほら、ベッドの下とかに隠れてる奴、分かる?」
    「うーん……聞いた事あるようなTVで見たような、ですね」

     子供の頃のトラウマだったのだと思う。
     「部屋の中に得体の知れないモノが居る」というのは、それだけで脅威だ。
     そもそも屋内を題材とした怪談話の売りは、その閉鎖性によるのだろう。

    「うわ、それは怖いッスよぉ」
    「その話は人間だったり幽霊だったりだけど……少女のはそれの幽霊バージョン?」

    「……あ~男子もそんな事言ってました」
    「ちょ……ちょっとヤめて。なんか自分で言ってて怖くなってきた」
    57 : 以下、名無しにか - 2009/04/29(水) 07:32:48.70 ID:OO+rjTIN0 (+95,+30,-243)
    「……それで、結局どうなるの? その、少女の家の幽……幽霊?」
    「今は……両親の部屋で寝てるから大丈夫なんですよ」

     「今は」で、彼女は一旦言葉を切った。
     面と向かって戸惑われると、不安とは相手にダイレクトで伝わってくるものらしい。

    「……両親の部屋まで追っかけてくる、とか?」
    「……多分、そういう事でも無い……らしいです」

    「なんか要領を得ないけど……大丈夫? 顔が青くなってるよ?」
    「……すいません。なんか寒気が」

     寒気というには、車内は蒸し暑いくらいだ。
     しかし、私も寒気を感じずには居られなかった。怪談話の怖さは今が絶頂ではないのだ。
     たった一人で生活をしている自宅に戻ってからが、本命なのである。
    58 : 以下、名無しにか - 2009/04/29(水) 07:33:51.16 ID:NfR/eZ5q0 (+24,+29,-1)
    なんかいいなこういうの
    59 : 以下、名無しにか - 2009/04/29(水) 07:48:30.74 ID:OO+rjTIN0 (+95,+30,-265)
     結局、私は寝付けないままに朝を迎えた。
     終バスの雰囲気とは正反対のバスで、身体が頼りなく揺れる。

    「(……う~ん。なんで私こんなに怪談話にのめってんだろ?)」

     私は怪談、と括ってしまうよりもホラー全般を得意としていない。
     だからこそ彼女は「冗談です」と、笑い話にしようとしてくれたのだ。

    「(少女が真剣だから、私も真剣になっちゃってるのかなァ?)」

     良くも悪くも、真剣に事を成している人物には引っ張られてしまう。
     主体性の問題ではなく、その人の持っている魅力が物を言うのだろう。
     私は彼女に好感を抱いている。年下ではあったが、女性として感心できる面もあった。

    「(……あー……ねむ)」

     「果たして、本当にそれが理由か?」と自問自答する。
     生活リズムを脅かすほどの存在かと問われたならば、答えは明白なのだ。
    62 : 以下、名無しにか - 2009/04/29(水) 08:04:52.27 ID:OO+rjTIN0 (+95,+30,+0)
    「なんか……もしかして寝てなかったりしますか」
    「えー? 大丈夫よ大丈夫、どしたの?」

     気遣いの出来る人物は、時に土足で領地を踏み荒らすことがある。
     愚鈍であろうと賢明であろうと、その境界を隔てている壁は薄くもろい。

    「いや……なんか、顔色悪いッスよ?」
    「あ~……レポートとか色々とねェ……サークルもあるしー」

    「あ、テニサーですもんね」
    「そーそー、って言っても、私なんかはベンチで見てるだけだけどね~」

     自分では笑顔を作ったつもりだが、上手く顔が動いてくれない。
     ストレスが溜まると俗に表情筋と言われている筋が痙攣する、と聞いた話を思い出した。
     友人からの入れ知恵だったが、どうやらそれは事実のようである。

    「あとはー……そうそう。昨日のアレ、どうなった?」

     寝惚けていたのだろう。言ってから私は我に返った。
     今日も、自ら断頭台に上るような言葉を口にしてしまっていた。
    64 : 以下、名無しにか - 2009/04/29(水) 08:18:44.31 ID:OO+rjTIN0 (+95,+30,-171)
    「昨日も両親の部屋で寝たんで、なーんも無かったッスね」
    「そっかー……あれ、でも何か言ってたよね?」

    「あ、あー……追いかけてくる訳でも無い、ですかね?」
    「そうそう、それそれ。どういう意味なの?」

     前の座席に寄り掛かりながら、半開きになった目を彼女に向ける。
     視線の先に居る彼女は、例の癖で忙しい様子だった。
     周囲に人が居たのならば非常に滑稽な二人組に映ることだろう。

    「なんか、その……探す、らしいんですよ」
    「探すって……追い掛けると同じじゃない?」
    65 : 以下、名無しにか - 2009/04/29(水) 08:31:13.44 ID:OO+rjTIN0 (+95,+30,-238)
    「違いますよー全然っ」
    「そっかな~。どんな感じに違うの?」

    「んー……追い掛ける、だと私に掛かるじゃないですか?」
    「……待って。分かった、ごめん。言わないで」

     彼「すいません」と項垂れた。
     初対面の頃に比べて、どうも彼女に謝らせる回数が増えている気がした。

    「……なんか、そういうの嫌だなー」
    「ですよね……だから、なんかお祓いとかした方が良いって……」

     追い掛けるは彼女に掛かる。
     ならば「探すらしいんですよ」は誰に掛かるのだろう。
     そんな事は考えなくても答えが出るのだ。

    「お祓い、するの?」
    「……親になんて言ったらいいのか、分からなくて」

     「やっぱり冷静なんだよなァ」と、私は頭を抱えたくなった。
     流行で騙っているにしては、彼女は真面目すぎるのだ。
    66 : 以下、名無しにか - 2009/04/29(水) 08:57:16.65 ID:OO+rjTIN0 (+95,+30,+0)
     話が進展しないまま、私は停留所で降りた。
     等間隔で並んだ外灯の隙間に、バスの明かりが吸い込まれていく。

    「(お祓いかー)」

     待合室とは名ばかりの、ベニヤで作られた小屋に足を向ける。
     何年前から置いてあるのか、瓶コーラが描かれたベンチに腰を下ろした。

    「あーもう二十三時かー」

     時計を見て天井を仰いだ。腐りかけている天井に、白熱灯だけが真新しい。
     しばらくそうしていると生ぬるい風が首筋を這い回った。
     その感触に「もう梅雨が間近だなァ」と妙な感想を抱いた時だ。
     不意に、風の質感が意思のある動きに変わったような錯覚を覚えた。

    「ひッ!?」

     咄嗟に立ち上がり、背後を振り返った。
     しかし、停留所の簡易待合室の中なのだ。
     あったのは変色したベニヤの壁と、主の居ない蜘蛛の巣だけである。

    「……帰ろ」

     首筋を指でなぞった後、私は逃げるように停留所を出た。
     暗い家路を急いでいる途中で、ふと後ろを振り返ってみる。
     等間隔で並んだ外灯と、停留所の灯りが闇にポツポツと浮かんでいるだけだった。
    67 : 以下、名無しにか - 2009/04/29(水) 08:58:50.69 ID:OO+rjTIN0 (+84,+29,-3)
    もう朝なのか
    大失敗だ畜生
    68 : 以下、名無しにか - 2009/04/29(水) 09:13:39.60 ID:NfR/eZ5q0 (+23,+28,-4)
    ん、もう書かないのか?
    69 : 以下、名無しにか - 2009/04/29(水) 09:15:48.24 ID:OO+rjTIN0 (+95,+30,-229)
     一日、二日と眠れぬ日々を過ごした私は限界だった。
     化粧はしているのだが、かえって雰囲気の悪い顔になっている。

    「今度は淑女さんが不眠症ですか」
    「そーなのよねー……あ、でも首は絞められてないわよ?」

    「あー私も、いまだに親の部屋に居候中です」
    「あははっ……私のはただの疲労じゃない? 明日は休みだし、ゆっくり休むわ」

     しかし、本来ならばバイトのシフト日だったのだ。
     今日のシフトインで「体調ヤバそうだから」と、店長直々の休暇命令が出たのである。

    「マッサージ良かったです。けっこー効果あったッスよ」
    「うんうん……私もお世話になってみる」


    いや、落ちるまで続けさせて下さい
    70 : 以下、名無しにか - 2009/04/29(水) 09:31:17.11 ID:NfR/eZ5q0 (-21,-11,-1)
    おk支援
    71 : 以下、名無しにか - 2009/04/29(水) 09:34:18.06 ID:OO+rjTIN0 (+89,+29,-10)


     その翌日。
     私はストレスからくる精神的疲労で倒れた。
    72 : 以下、名無しにか - 2009/04/29(水) 09:47:41.35 ID:4wuaulVSO (-28,+19,+0)
    久しぶりぬるぽ
    73 : 以下、名無しにか - 2009/04/29(水) 09:48:06.19 ID:NfR/eZ5q0 (+18,+29,-3)
    見てるのは俺だけ・・だと・・!
    75 : 以下、名無しにか - 2009/04/29(水) 09:49:17.45 ID:OO+rjTIN0 (+95,+30,-148)
     胃に痛みを感じて目を覚ますと、まず自宅では無いと気付いた。
     首だけで周囲を見渡すと、
     可愛い笑顔を浮かべた母親が、私を見つめて涙ぐんでいた。

     医師には「胃に潰瘍が出来かけている」と診断された。
     「学生で大変だろうけどセーブしなきゃ駄目だ」と、ついでに諭されてしまった。

     自身で分からずとも、
     心身に過剰な負荷が掛かっているというのは、日常で頻繁に起こり得る事だそうだ。


    ごめんね本当にごめんね
    見てくれてありがとう
    76 : 以下、名無しにか - 2009/04/29(水) 09:55:07.93 ID:OO+rjTIN0 (+95,+30,-155)
     それから一週間ほど、ベッドの上での生活を余儀なくされた。
     しかし不謹慎ではあるが、たまの入院というのは良い物かもしれない。
     お見舞いに来てくれる家族や友人がいるというのは、嬉しいものである。

     私が倒れているのを発見してくれたのも、大学の友人だ。
     いくら携帯を鳴らしても返事が無い事を不思議に思ったそうだ。

    「(……あー退院したらお礼しないと)」

     両親から幾らでも感謝されたとは思うが、そういう問題ではない。
     娘の命の恩人であるのと、命の恩人であるのとでは訳が違う。
    77 : 以下、名無しにか - 2009/04/29(水) 10:01:06.85 ID:hoP1Vu+oO (+19,+29,-5)
    Tさん「俺も見てるぜ」
    80 : 以下、名無しにか - 2009/04/29(水) 10:07:26.42 ID:OO+rjTIN0 (+95,+30,-102)
     連日の体調不良が嘘のように快方に向かっていくと、気分は右肩上がりだった。
     病院食は多少物足りなくも感じたが、顔色も幾分マシになっている。

     何か後ろ暗いことを考えていた気がするが、それが何なのか思い出せなかった。
     あるいは、本能が無意識に守っていてくれたのかもしれない。

     入院からほぼ一週間が経ち、私は晴れて退院する事になった。
     清々しい気分でロビーを出ると、
     絡み付くような湿気と、今にも落ちてきそうな分厚い暗雲が、私を待っていた。
    82 : 以下、名無しにか - 2009/04/29(水) 10:15:17.13 ID:OO+rjTIN0 (+95,+30,-226)
    「あっ!」

     こうして彼女との奇妙な交友が再開される。
     雨間の日差しは凶悪なものだったが、彼女はあまり日焼けしていなかった。
     剣道部と言っていたから、紫外線とはほぼ無縁なのだろうか。

    「うわー結構酷かったんですね」
    「みたいだねェ。でも、私としては反って良かったのかも?」

    「あー……胃潰瘍寸前ですもんね」
    「そうそう。なんか地味ィ~に痛いんでしょ、あれ?」

    「友達で入院した人居たんですけど、注射を内側からされて」
    「ストーップ! 想像するだけで痛いからヤメてっ」

     彼女が以前、風邪から回復した時もこうやって談笑していた気がした。
     「病み上がりには笑顔が一番」とは母親の言だが、最高の特効薬である。
    83 : 以下、名無しにか - 2009/04/29(水) 10:23:49.00 ID:OO+rjTIN0 (+95,+30,-225)
    「いや、それにしても病院食には参ったです」
    「なんか不味いって言いますよね? 病院食って」

    食事「不味くは無いんだけどなァ……物足りなかった、すごーく」
    「うわ。夕食の時間も早いんですっけ?」

    「早い早い。深夜に目が覚めて『小腹空いた』ってなる」
    「あははっ。それ、眠り姫ですよね?」

    「あ~分かった? でも、冗談抜きでお腹空いてたなー」
    「わたしなんか、量食べるから入院したらダイエット出来るかもッスね」

    「えーそんなに太ってないよー?」
    「いや~やばいッスよ最近」

     スナップを利かせた腹太鼓を鳴らしてみせる彼女に、私は笑った。
     「あ、笑うって酷いですよー」と肩を小突かれたが、何となく、それを嬉しいと感じた。


    俺の部屋で家鳴りするのはじめてだなー
    84 : 以下、名無しにか - 2009/04/29(水) 10:35:02.92 ID:OO+rjTIN0 (+95,+30,-173)
    「あれ……そういえば、何だっけ……あ、例のストーカーはどうなった?」

     前の座席に寄り掛かって彼女に問いかけた。
     一瞬、彼女は思案するような表情になったが、すぐに歯を見せて笑ってくれた。

    「あ~やりましたよお祓い!」
    「本当に!?」

    「そうなんですよー勇気出して親に言ったら、やってくれたんですっ」
    「うわーなんていうか、良かったァ……で、成功だったんだ?」

    「みたいですねー。お祓いの後に自室で寝たんですけど、バッチリでした」
    「じゃ霊能力者……でいいのかな? 本物だったんだねェ」
    85 : 以下、名無しにか - 2009/04/29(水) 10:43:17.62 ID:OO+rjTIN0 (+95,+30,-241)
     霊能力者と言えば「胡散臭い人たちだよね」が共通認識である。
     それらしく言った者勝ちの世界と言い切れなくも無いのだ。
     彼女の性格が無ければ、この話もきっと物笑いの種になっていただろう。

    「DVDみたいに成らなくてホッとしましたよ~」
    「あーあー……新……新、耳○だっけ?」

    「そうですそうです。お父さんに廊下で待機してて貰いましたもん」
    「あ、お父さんと仲良いんだ?」

    「いやー反抗期は中学で卒業しましたっ」
    「あはははっ。そりゃそーだよね~……あーでも良かったァ」

    「ですよねぇ……ってそうだ!」
    「うん?」

     彼女は鞄から大きめの冊子を取り出した。
     その際、大きめのタオルが床に落ちたが、彼女は睥睨しただけで私に向き直った。
    88 : 以下、名無しにか - 2009/04/29(水) 11:03:43.29 ID:OO+rjTIN0 (+95,+30,-147)
    「これこれ、もし予定が無かったら見に来て下さいよ~」
    「××高校文化……あ~文化祭のパンフレット?」

    「そろそろ何ですよ~体調とかも大丈夫だったら是非!」
    「(○日……あ~これなら行けるかもしれないわねー)」

     「予定は入れないで置くね」と言うと、彼女は嬉しそうに歯を覘かせた。
     今更、高校生の文化祭を好んで訪れようとは思わないが、これは別物である。
     知り合い程度ならば当日キャンセルだが、友人の誘うを無下には出来ない。
    89 : 以下、名無しにか - 2009/04/29(水) 11:18:01.95 ID:OO+rjTIN0 (+95,+30,-237)
    「出し物の製作は順調?」
    「ばっちりですよ。皆、気合入れて残業してますもん」

    「しかも美術部の子が居るんで……結構、怖いと思いますよォ~」
    「……ちょっとー行くの躊躇っちゃうよ? そんな事言われたらー」

     他愛無い会話が弾むと、時間は早く流れていく。
     今日は久しぶりという事もあって、いつも以上に騒がしかったのだろう。
     いつもの停留所で降りる際、運転手に軽く舌打ちをされた。

    「(まーココからは静かだから、ごめんなさい)」

     内心で運転手に頭を下げて、足早にバスを降りる。
     振り返って後部座席の彼女に手を振ると、巨大な車体を震わせてバスが動き出した。
     それを追って視線を走らせると、いつもより闇が大きく感じられる。
     不意に、ここでの奇妙な体験が脳裏に閃くと、言い様のない不安に襲われた。

     その原因に気付いたのは、やはり家路の途中で背後を仰いだ時だ。
     外灯の綺麗な等間隔のカーブが、所々で途切れて、不恰好な姿をさらしていた。
    93 : 以下、名無しにか - 2009/04/29(水) 11:35:03.85 ID:OO+rjTIN0 (+95,+30,-86)
     それから幾日かは平穏そのものだったと言える。
     受験の不安、進路についてなどの高校生らしい相談も受けた。
     「なんとなく大学行っておかないと~」と大学受験をした私は、少し胸が痛んだ。

    「いやーわたしも適当ですよ? 勉強、嫌いですからねー」

     そうやって笑う彼女に、私は果たして何と答えたのか。
     彼女が言う適当と、私の言う適当ではベクトルの向きが違いすぎるのだ。
    96 : 以下、名無しにか - 2009/04/29(水) 11:50:05.94 ID:OO+rjTIN0 (+95,+30,-151)
     日曜日のバイト帰りの事だった。
     車内ではエンジン音、羽音のような音を立てる扇風機の音だけが喧しい。
     さすがに土日ともなると、彼女との遭遇率は極端に低くなった。
     それでもゼロでは無かったが、彼女以外の客と乗り合わせる事の方が多い。

    「(あー……早く寝たいよー……)」

     舟をこぎながら、薄ぼんやりと考える。
     何気なく目をやった窓から、だらしない姿勢で前のめりになっている私が覘いている。

    「(……姿勢、悪いなァ)」

     普段は気にならない事が、やけに気になった。
     小さな溜息を吐いて、背筋を弓なりに張ってみる。
    98 : 以下、名無しにか - 2009/04/29(水) 12:01:47.12 ID:OO+rjTIN0 (+95,+30,-265)
    「え?」

     その時だ。
     窓に、黒いパーカーのような物を羽織った人影が見えた。

    「(……散歩中の人?)」

     車内には私以外だと、やや恰幅の良い運転手のみである。
     一瞬だけ見えた人影は、どうも細身の体型に見えた。

    「(うわー……こっちに着てたらどうしよう。もうすぐ停留所だし)」

     眠気が冴え渡ると、何気なく背後を振り返ってみる。
     バックライトに照らされた道路だけが明るく、
     外灯の弱々しい灯りでは、黒服の人影を照らし出すには不十分だった。

     「気のせいか、駅方面に行く人でありますように」と、何者かに強く祈る。
     普段はおよそ信心深いとは言えない私だが、どうやら無事に届いたようだった。
     バスの背後に怪しい人影は見当たらず、何とか停留所までたどり着く事が出来た。
    100 : 以下、名無しにか - 2009/04/29(水) 12:13:28.40 ID:OO+rjTIN0 (+93,+30,-212)
    「(困った時の神頼みだなァ)」

     停留所にバスが停車すると、私はフラフラと立ち上がった。
     眠気が取れたと言っても、どうやら身体は疲労したままのようだ。
     そのまま浮遊感を楽しみながら、運転手に定期券を見せる。

    「(さーて早く家に帰ってと)」

    運手「……ああ、姉ちゃん姉ちゃん」

    「……あ、はい?」

     流れ作業で通り過ぎようとしたが、運転手に呼び止められる。
     その体型と、深い皺が走っている顔からはイメージし難いくらい声が高かった。

    運手「姉ちゃんなーアレやろ? 演劇の人とかなんか?」

    「……は?」

    運手「いやな~稽古熱心なんはえーけど、さすがに毎晩やられると結構キツイだわ」

    「……えっと、人違いじゃないですか?」

     演劇に携わった事はない。
     そもそも、彼が何を言っているのか理解出来なかった。
    ←前へ 1 2 3 次へ→ / 要望・削除依頼は掲示板へ / 管理情報はtwitterで / 新ジャンル スレッド一覧へ
    スレッド評価: スレッド評価について
    みんなの評価 :
    タグ : 追加: タグについて ※前スレ・次スレは、スレ番号だけ登録。駄スレにはタグつけず、スレ評価を。荒らしタグにはタグで対抗せず、タグ減点を。

    類似してるかもしれないスレッド


    トップメニューへ / →のくす牧場書庫について