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>>50
つガッ
つガッ
少女「新耳……○くろ、○くろ? っていうDVDに似たような話があって」
「『続○』という題名だったと思う」と彼女は俯く。
五分にも満たない短編オムニバス形式のDVDで、文庫を映像化したものらしい。
簡単なあらすじとしては「夢の中で、段々女性が近づいてくる」という物だった。
少女「それで霊能力者の人が『強い怨念だけが辿り付いた』って言うんですよ」
淑女「……なんかその霊能力者、インチキくさくない?」
少女「あ~みたいですよ。その後も、結局その夢を見て……で終わりでした」
淑女「でもそれって夢の話だよね? 少女のアレって夢の中の話だったの?」
彼女は首を振った。
無論、横にである。
少女「強い怨念だけが……の部分が、似ているみたいなんです」
「『続○』という題名だったと思う」と彼女は俯く。
五分にも満たない短編オムニバス形式のDVDで、文庫を映像化したものらしい。
簡単なあらすじとしては「夢の中で、段々女性が近づいてくる」という物だった。
少女「それで霊能力者の人が『強い怨念だけが辿り付いた』って言うんですよ」
淑女「……なんかその霊能力者、インチキくさくない?」
少女「あ~みたいですよ。その後も、結局その夢を見て……で終わりでした」
淑女「でもそれって夢の話だよね? 少女のアレって夢の中の話だったの?」
彼女は首を振った。
無論、横にである。
少女「強い怨念だけが……の部分が、似ているみたいなんです」
淑女「……それって最後は死んじゃったの?」
少女「DVDでは曖昧になってますけど……死んでないと思いますよ」
淑女「えーどうして?」
少女「だって夢の内容なんですよ」
少女「その人が死んじゃったら、お話にならないですよー」
淑女「……あ。それもそっか?」
顔を青くしてみたり、急に冷静になったりする彼女の底が知れない。
割りきりが直線的なのだろうが、気付くと彼女の言葉に振り回されている。
ごめん俺はガッできない
やりたいけど書くの遅いからふざけられないんだ
どんな形でも居てくれるのは嬉しい
少女「DVDでは曖昧になってますけど……死んでないと思いますよ」
淑女「えーどうして?」
少女「だって夢の内容なんですよ」
少女「その人が死んじゃったら、お話にならないですよー」
淑女「……あ。それもそっか?」
顔を青くしてみたり、急に冷静になったりする彼女の底が知れない。
割りきりが直線的なのだろうが、気付くと彼女の言葉に振り回されている。
ごめん俺はガッできない
やりたいけど書くの遅いからふざけられないんだ
どんな形でも居てくれるのは嬉しい
>>51
お前はいつも優しいな…
お前はいつも優しいな…
淑女「じゃあ何だろ?」
少女「なんていうか、ストーカーみたいな奴らしいです」
淑女「ストーカー……なんだっけ、あのほら、ベッドの下とかに隠れてる奴、分かる?」
少女「うーん……聞いた事あるようなTVで見たような、ですね」
子供の頃のトラウマだったのだと思う。
「部屋の中に得体の知れないモノが居る」というのは、それだけで脅威だ。
そもそも屋内を題材とした怪談話の売りは、その閉鎖性によるのだろう。
少女「うわ、それは怖いッスよぉ」
淑女「その話は人間だったり幽霊だったりだけど……少女のはそれの幽霊バージョン?」
少女「……あ~男子もそんな事言ってました」
淑女「ちょ……ちょっとヤめて。なんか自分で言ってて怖くなってきた」
少女「なんていうか、ストーカーみたいな奴らしいです」
淑女「ストーカー……なんだっけ、あのほら、ベッドの下とかに隠れてる奴、分かる?」
少女「うーん……聞いた事あるようなTVで見たような、ですね」
子供の頃のトラウマだったのだと思う。
「部屋の中に得体の知れないモノが居る」というのは、それだけで脅威だ。
そもそも屋内を題材とした怪談話の売りは、その閉鎖性によるのだろう。
少女「うわ、それは怖いッスよぉ」
淑女「その話は人間だったり幽霊だったりだけど……少女のはそれの幽霊バージョン?」
少女「……あ~男子もそんな事言ってました」
淑女「ちょ……ちょっとヤめて。なんか自分で言ってて怖くなってきた」
淑女「……それで、結局どうなるの? その、少女の家の幽……幽霊?」
少女「今は……両親の部屋で寝てるから大丈夫なんですよ」
「今は」で、彼女は一旦言葉を切った。
面と向かって戸惑われると、不安とは相手にダイレクトで伝わってくるものらしい。
淑女「……両親の部屋まで追っかけてくる、とか?」
少女「……多分、そういう事でも無い……らしいです」
淑女「なんか要領を得ないけど……大丈夫? 顔が青くなってるよ?」
少女「……すいません。なんか寒気が」
寒気というには、車内は蒸し暑いくらいだ。
しかし、私も寒気を感じずには居られなかった。怪談話の怖さは今が絶頂ではないのだ。
たった一人で生活をしている自宅に戻ってからが、本命なのである。
少女「今は……両親の部屋で寝てるから大丈夫なんですよ」
「今は」で、彼女は一旦言葉を切った。
面と向かって戸惑われると、不安とは相手にダイレクトで伝わってくるものらしい。
淑女「……両親の部屋まで追っかけてくる、とか?」
少女「……多分、そういう事でも無い……らしいです」
淑女「なんか要領を得ないけど……大丈夫? 顔が青くなってるよ?」
少女「……すいません。なんか寒気が」
寒気というには、車内は蒸し暑いくらいだ。
しかし、私も寒気を感じずには居られなかった。怪談話の怖さは今が絶頂ではないのだ。
たった一人で生活をしている自宅に戻ってからが、本命なのである。
結局、私は寝付けないままに朝を迎えた。
終バスの雰囲気とは正反対のバスで、身体が頼りなく揺れる。
淑女「(……う~ん。なんで私こんなに怪談話にのめってんだろ?)」
私は怪談、と括ってしまうよりもホラー全般を得意としていない。
だからこそ彼女は「冗談です」と、笑い話にしようとしてくれたのだ。
淑女「(少女が真剣だから、私も真剣になっちゃってるのかなァ?)」
良くも悪くも、真剣に事を成している人物には引っ張られてしまう。
主体性の問題ではなく、その人の持っている魅力が物を言うのだろう。
私は彼女に好感を抱いている。年下ではあったが、女性として感心できる面もあった。
淑女「(……あー……ねむ)」
「果たして、本当にそれが理由か?」と自問自答する。
生活リズムを脅かすほどの存在かと問われたならば、答えは明白なのだ。
終バスの雰囲気とは正反対のバスで、身体が頼りなく揺れる。
淑女「(……う~ん。なんで私こんなに怪談話にのめってんだろ?)」
私は怪談、と括ってしまうよりもホラー全般を得意としていない。
だからこそ彼女は「冗談です」と、笑い話にしようとしてくれたのだ。
淑女「(少女が真剣だから、私も真剣になっちゃってるのかなァ?)」
良くも悪くも、真剣に事を成している人物には引っ張られてしまう。
主体性の問題ではなく、その人の持っている魅力が物を言うのだろう。
私は彼女に好感を抱いている。年下ではあったが、女性として感心できる面もあった。
淑女「(……あー……ねむ)」
「果たして、本当にそれが理由か?」と自問自答する。
生活リズムを脅かすほどの存在かと問われたならば、答えは明白なのだ。
少女「なんか……もしかして寝てなかったりしますか」
淑女「えー? 大丈夫よ大丈夫、どしたの?」
気遣いの出来る人物は、時に土足で領地を踏み荒らすことがある。
愚鈍であろうと賢明であろうと、その境界を隔てている壁は薄くもろい。
少女「いや……なんか、顔色悪いッスよ?」
淑女「あ~……レポートとか色々とねェ……サークルもあるしー」
少女「あ、テニサーですもんね」
淑女「そーそー、って言っても、私なんかはベンチで見てるだけだけどね~」
自分では笑顔を作ったつもりだが、上手く顔が動いてくれない。
ストレスが溜まると俗に表情筋と言われている筋が痙攣する、と聞いた話を思い出した。
友人からの入れ知恵だったが、どうやらそれは事実のようである。
淑女「あとはー……そうそう。昨日のアレ、どうなった?」
寝惚けていたのだろう。言ってから私は我に返った。
今日も、自ら断頭台に上るような言葉を口にしてしまっていた。
淑女「えー? 大丈夫よ大丈夫、どしたの?」
気遣いの出来る人物は、時に土足で領地を踏み荒らすことがある。
愚鈍であろうと賢明であろうと、その境界を隔てている壁は薄くもろい。
少女「いや……なんか、顔色悪いッスよ?」
淑女「あ~……レポートとか色々とねェ……サークルもあるしー」
少女「あ、テニサーですもんね」
淑女「そーそー、って言っても、私なんかはベンチで見てるだけだけどね~」
自分では笑顔を作ったつもりだが、上手く顔が動いてくれない。
ストレスが溜まると俗に表情筋と言われている筋が痙攣する、と聞いた話を思い出した。
友人からの入れ知恵だったが、どうやらそれは事実のようである。
淑女「あとはー……そうそう。昨日のアレ、どうなった?」
寝惚けていたのだろう。言ってから私は我に返った。
今日も、自ら断頭台に上るような言葉を口にしてしまっていた。
少女「昨日も両親の部屋で寝たんで、なーんも無かったッスね」
淑女「そっかー……あれ、でも何か言ってたよね?」
少女「あ、あー……追いかけてくる訳でも無い、ですかね?」
淑女「そうそう、それそれ。どういう意味なの?」
前の座席に寄り掛かりながら、半開きになった目を彼女に向ける。
視線の先に居る彼女は、例の癖で忙しい様子だった。
周囲に人が居たのならば非常に滑稽な二人組に映ることだろう。
少女「なんか、その……探す、らしいんですよ」
淑女「探すって……追い掛けると同じじゃない?」
淑女「そっかー……あれ、でも何か言ってたよね?」
少女「あ、あー……追いかけてくる訳でも無い、ですかね?」
淑女「そうそう、それそれ。どういう意味なの?」
前の座席に寄り掛かりながら、半開きになった目を彼女に向ける。
視線の先に居る彼女は、例の癖で忙しい様子だった。
周囲に人が居たのならば非常に滑稽な二人組に映ることだろう。
少女「なんか、その……探す、らしいんですよ」
淑女「探すって……追い掛けると同じじゃない?」
少女「違いますよー全然っ」
淑女「そっかな~。どんな感じに違うの?」
少女「んー……追い掛ける、だと私に掛かるじゃないですか?」
淑女「……待って。分かった、ごめん。言わないで」
彼女は「すいません」と項垂れた。
初対面の頃に比べて、どうも彼女に謝らせる回数が増えている気がした。
淑女「……なんか、そういうの嫌だなー」
少女「ですよね……だから、なんかお祓いとかした方が良いって……」
追い掛けるは彼女に掛かる。
ならば「探すらしいんですよ」は誰に掛かるのだろう。
そんな事は考えなくても答えが出るのだ。
淑女「お祓い、するの?」
少女「……親になんて言ったらいいのか、分からなくて」
「やっぱり冷静なんだよなァ」と、私は頭を抱えたくなった。
流行で騙っているにしては、彼女は真面目すぎるのだ。
淑女「そっかな~。どんな感じに違うの?」
少女「んー……追い掛ける、だと私に掛かるじゃないですか?」
淑女「……待って。分かった、ごめん。言わないで」
彼女は「すいません」と項垂れた。
初対面の頃に比べて、どうも彼女に謝らせる回数が増えている気がした。
淑女「……なんか、そういうの嫌だなー」
少女「ですよね……だから、なんかお祓いとかした方が良いって……」
追い掛けるは彼女に掛かる。
ならば「探すらしいんですよ」は誰に掛かるのだろう。
そんな事は考えなくても答えが出るのだ。
淑女「お祓い、するの?」
少女「……親になんて言ったらいいのか、分からなくて」
「やっぱり冷静なんだよなァ」と、私は頭を抱えたくなった。
流行で騙っているにしては、彼女は真面目すぎるのだ。
話が進展しないまま、私は停留所で降りた。
等間隔で並んだ外灯の隙間に、バスの明かりが吸い込まれていく。
淑女「(お祓いかー)」
待合室とは名ばかりの、ベニヤで作られた小屋に足を向ける。
何年前から置いてあるのか、瓶コーラが描かれたベンチに腰を下ろした。
淑女「あーもう二十三時かー」
時計を見て天井を仰いだ。腐りかけている天井に、白熱灯だけが真新しい。
しばらくそうしていると生ぬるい風が首筋を這い回った。
その感触に「もう梅雨が間近だなァ」と妙な感想を抱いた時だ。
不意に、風の質感が意思のある動きに変わったような錯覚を覚えた。
淑女「ひッ!?」
咄嗟に立ち上がり、背後を振り返った。
しかし、停留所の簡易待合室の中なのだ。
あったのは変色したベニヤの壁と、主の居ない蜘蛛の巣だけである。
淑女「……帰ろ」
首筋を指でなぞった後、私は逃げるように停留所を出た。
暗い家路を急いでいる途中で、ふと後ろを振り返ってみる。
等間隔で並んだ外灯と、停留所の灯りが闇にポツポツと浮かんでいるだけだった。
等間隔で並んだ外灯の隙間に、バスの明かりが吸い込まれていく。
淑女「(お祓いかー)」
待合室とは名ばかりの、ベニヤで作られた小屋に足を向ける。
何年前から置いてあるのか、瓶コーラが描かれたベンチに腰を下ろした。
淑女「あーもう二十三時かー」
時計を見て天井を仰いだ。腐りかけている天井に、白熱灯だけが真新しい。
しばらくそうしていると生ぬるい風が首筋を這い回った。
その感触に「もう梅雨が間近だなァ」と妙な感想を抱いた時だ。
不意に、風の質感が意思のある動きに変わったような錯覚を覚えた。
淑女「ひッ!?」
咄嗟に立ち上がり、背後を振り返った。
しかし、停留所の簡易待合室の中なのだ。
あったのは変色したベニヤの壁と、主の居ない蜘蛛の巣だけである。
淑女「……帰ろ」
首筋を指でなぞった後、私は逃げるように停留所を出た。
暗い家路を急いでいる途中で、ふと後ろを振り返ってみる。
等間隔で並んだ外灯と、停留所の灯りが闇にポツポツと浮かんでいるだけだった。
一日、二日と眠れぬ日々を過ごした私は限界だった。
化粧はしているのだが、かえって雰囲気の悪い顔になっている。
少女「今度は淑女さんが不眠症ですか」
淑女「そーなのよねー……あ、でも首は絞められてないわよ?」
少女「あー私も、いまだに親の部屋に居候中です」
淑女「あははっ……私のはただの疲労じゃない? 明日は休みだし、ゆっくり休むわ」
しかし、本来ならばバイトのシフト日だったのだ。
今日のシフトインで「体調ヤバそうだから」と、店長直々の休暇命令が出たのである。
少女「マッサージ良かったです。けっこー効果あったッスよ」
淑女「うんうん……私もお世話になってみる」
いや、落ちるまで続けさせて下さい
化粧はしているのだが、かえって雰囲気の悪い顔になっている。
少女「今度は淑女さんが不眠症ですか」
淑女「そーなのよねー……あ、でも首は絞められてないわよ?」
少女「あー私も、いまだに親の部屋に居候中です」
淑女「あははっ……私のはただの疲労じゃない? 明日は休みだし、ゆっくり休むわ」
しかし、本来ならばバイトのシフト日だったのだ。
今日のシフトインで「体調ヤバそうだから」と、店長直々の休暇命令が出たのである。
少女「マッサージ良かったです。けっこー効果あったッスよ」
淑女「うんうん……私もお世話になってみる」
いや、落ちるまで続けさせて下さい
胃に痛みを感じて目を覚ますと、まず自宅では無いと気付いた。
首だけで周囲を見渡すと、
可愛い笑顔を浮かべた母親が、私を見つめて涙ぐんでいた。
医師には「胃に潰瘍が出来かけている」と診断された。
「学生で大変だろうけどセーブしなきゃ駄目だ」と、ついでに諭されてしまった。
自身で分からずとも、
心身に過剰な負荷が掛かっているというのは、日常で頻繁に起こり得る事だそうだ。
ごめんね本当にごめんね
見てくれてありがとう
首だけで周囲を見渡すと、
可愛い笑顔を浮かべた母親が、私を見つめて涙ぐんでいた。
医師には「胃に潰瘍が出来かけている」と診断された。
「学生で大変だろうけどセーブしなきゃ駄目だ」と、ついでに諭されてしまった。
自身で分からずとも、
心身に過剰な負荷が掛かっているというのは、日常で頻繁に起こり得る事だそうだ。
ごめんね本当にごめんね
見てくれてありがとう
それから一週間ほど、ベッドの上での生活を余儀なくされた。
しかし不謹慎ではあるが、たまの入院というのは良い物かもしれない。
お見舞いに来てくれる家族や友人がいるというのは、嬉しいものである。
私が倒れているのを発見してくれたのも、大学の友人だ。
いくら携帯を鳴らしても返事が無い事を不思議に思ったそうだ。
淑女「(……あー退院したらお礼しないと)」
両親から幾らでも感謝されたとは思うが、そういう問題ではない。
娘の命の恩人であるのと、命の恩人であるのとでは訳が違う。
しかし不謹慎ではあるが、たまの入院というのは良い物かもしれない。
お見舞いに来てくれる家族や友人がいるというのは、嬉しいものである。
私が倒れているのを発見してくれたのも、大学の友人だ。
いくら携帯を鳴らしても返事が無い事を不思議に思ったそうだ。
淑女「(……あー退院したらお礼しないと)」
両親から幾らでも感謝されたとは思うが、そういう問題ではない。
娘の命の恩人であるのと、命の恩人であるのとでは訳が違う。
連日の体調不良が嘘のように快方に向かっていくと、気分は右肩上がりだった。
病院食は多少物足りなくも感じたが、顔色も幾分マシになっている。
何か後ろ暗いことを考えていた気がするが、それが何なのか思い出せなかった。
あるいは、本能が無意識に守っていてくれたのかもしれない。
入院からほぼ一週間が経ち、私は晴れて退院する事になった。
清々しい気分でロビーを出ると、
絡み付くような湿気と、今にも落ちてきそうな分厚い暗雲が、私を待っていた。
病院食は多少物足りなくも感じたが、顔色も幾分マシになっている。
何か後ろ暗いことを考えていた気がするが、それが何なのか思い出せなかった。
あるいは、本能が無意識に守っていてくれたのかもしれない。
入院からほぼ一週間が経ち、私は晴れて退院する事になった。
清々しい気分でロビーを出ると、
絡み付くような湿気と、今にも落ちてきそうな分厚い暗雲が、私を待っていた。
少女「あっ!」
こうして彼女との奇妙な交友が再開される。
雨間の日差しは凶悪なものだったが、彼女はあまり日焼けしていなかった。
剣道部と言っていたから、紫外線とはほぼ無縁なのだろうか。
少女「うわー結構酷かったんですね」
淑女「みたいだねェ。でも、私としては反って良かったのかも?」
少女「あー……胃潰瘍寸前ですもんね」
淑女「そうそう。なんか地味ィ~に痛いんでしょ、あれ?」
少女「友達で入院した人居たんですけど、注射を内側からされて」
淑女「ストーップ! 想像するだけで痛いからヤメてっ」
彼女が以前、風邪から回復した時もこうやって談笑していた気がした。
「病み上がりには笑顔が一番」とは母親の言だが、最高の特効薬である。
こうして彼女との奇妙な交友が再開される。
雨間の日差しは凶悪なものだったが、彼女はあまり日焼けしていなかった。
剣道部と言っていたから、紫外線とはほぼ無縁なのだろうか。
少女「うわー結構酷かったんですね」
淑女「みたいだねェ。でも、私としては反って良かったのかも?」
少女「あー……胃潰瘍寸前ですもんね」
淑女「そうそう。なんか地味ィ~に痛いんでしょ、あれ?」
少女「友達で入院した人居たんですけど、注射を内側からされて」
淑女「ストーップ! 想像するだけで痛いからヤメてっ」
彼女が以前、風邪から回復した時もこうやって談笑していた気がした。
「病み上がりには笑顔が一番」とは母親の言だが、最高の特効薬である。
淑女「いや、それにしても病院食には参ったです」
少女「なんか不味いって言いますよね? 病院食って」
食事「不味くは無いんだけどなァ……物足りなかった、すごーく」
少女「うわ。夕食の時間も早いんですっけ?」
淑女「早い早い。深夜に目が覚めて『小腹空いた』ってなる」
少女「あははっ。それ、眠り姫ですよね?」
織女「あ~分かった? でも、冗談抜きでお腹空いてたなー」
少女「わたしなんか、量食べるから入院したらダイエット出来るかもッスね」
織女「えーそんなに太ってないよー?」
少女「いや~やばいッスよ最近」
スナップを利かせた腹太鼓を鳴らしてみせる彼女に、私は笑った。
「あ、笑うって酷いですよー」と肩を小突かれたが、何となく、それを嬉しいと感じた。
俺の部屋で家鳴りするのはじめてだなー
少女「なんか不味いって言いますよね? 病院食って」
食事「不味くは無いんだけどなァ……物足りなかった、すごーく」
少女「うわ。夕食の時間も早いんですっけ?」
淑女「早い早い。深夜に目が覚めて『小腹空いた』ってなる」
少女「あははっ。それ、眠り姫ですよね?」
織女「あ~分かった? でも、冗談抜きでお腹空いてたなー」
少女「わたしなんか、量食べるから入院したらダイエット出来るかもッスね」
織女「えーそんなに太ってないよー?」
少女「いや~やばいッスよ最近」
スナップを利かせた腹太鼓を鳴らしてみせる彼女に、私は笑った。
「あ、笑うって酷いですよー」と肩を小突かれたが、何となく、それを嬉しいと感じた。
俺の部屋で家鳴りするのはじめてだなー
淑女「あれ……そういえば、何だっけ……あ、例のストーカーはどうなった?」
前の座席に寄り掛かって彼女に問いかけた。
一瞬、彼女は思案するような表情になったが、すぐに歯を見せて笑ってくれた。
少女「あ~やりましたよお祓い!」
淑女「本当に!?」
少女「そうなんですよー勇気出して親に言ったら、やってくれたんですっ」
淑女「うわーなんていうか、良かったァ……で、成功だったんだ?」
少女「みたいですねー。お祓いの後に自室で寝たんですけど、バッチリでした」
淑女「じゃ霊能力者……でいいのかな? 本物だったんだねェ」
前の座席に寄り掛かって彼女に問いかけた。
一瞬、彼女は思案するような表情になったが、すぐに歯を見せて笑ってくれた。
少女「あ~やりましたよお祓い!」
淑女「本当に!?」
少女「そうなんですよー勇気出して親に言ったら、やってくれたんですっ」
淑女「うわーなんていうか、良かったァ……で、成功だったんだ?」
少女「みたいですねー。お祓いの後に自室で寝たんですけど、バッチリでした」
淑女「じゃ霊能力者……でいいのかな? 本物だったんだねェ」
霊能力者と言えば「胡散臭い人たちだよね」が共通認識である。
それらしく言った者勝ちの世界と言い切れなくも無いのだ。
彼女の性格が無ければ、この話もきっと物笑いの種になっていただろう。
少女「DVDみたいに成らなくてホッとしましたよ~」
淑女「あーあー……新……新、耳○だっけ?」
少女「そうですそうです。お父さんに廊下で待機してて貰いましたもん」
淑女「あ、お父さんと仲良いんだ?」
少女「いやー反抗期は中学で卒業しましたっ」
淑女「あはははっ。そりゃそーだよね~……あーでも良かったァ」
少女「ですよねぇ……ってそうだ!」
淑女「うん?」
彼女は鞄から大きめの冊子を取り出した。
その際、大きめのタオルが床に落ちたが、彼女は睥睨しただけで私に向き直った。
それらしく言った者勝ちの世界と言い切れなくも無いのだ。
彼女の性格が無ければ、この話もきっと物笑いの種になっていただろう。
少女「DVDみたいに成らなくてホッとしましたよ~」
淑女「あーあー……新……新、耳○だっけ?」
少女「そうですそうです。お父さんに廊下で待機してて貰いましたもん」
淑女「あ、お父さんと仲良いんだ?」
少女「いやー反抗期は中学で卒業しましたっ」
淑女「あはははっ。そりゃそーだよね~……あーでも良かったァ」
少女「ですよねぇ……ってそうだ!」
淑女「うん?」
彼女は鞄から大きめの冊子を取り出した。
その際、大きめのタオルが床に落ちたが、彼女は睥睨しただけで私に向き直った。
少女「これこれ、もし予定が無かったら見に来て下さいよ~」
淑女「××高校文化……あ~文化祭のパンフレット?」
少女「そろそろ何ですよ~体調とかも大丈夫だったら是非!」
淑女「(○日……あ~これなら行けるかもしれないわねー)」
「予定は入れないで置くね」と言うと、彼女は嬉しそうに歯を覘かせた。
今更、高校生の文化祭を好んで訪れようとは思わないが、これは別物である。
知り合い程度ならば当日キャンセルだが、友人の誘うを無下には出来ない。
淑女「××高校文化……あ~文化祭のパンフレット?」
少女「そろそろ何ですよ~体調とかも大丈夫だったら是非!」
淑女「(○日……あ~これなら行けるかもしれないわねー)」
「予定は入れないで置くね」と言うと、彼女は嬉しそうに歯を覘かせた。
今更、高校生の文化祭を好んで訪れようとは思わないが、これは別物である。
知り合い程度ならば当日キャンセルだが、友人の誘うを無下には出来ない。
淑女「出し物の製作は順調?」
少女「ばっちりですよ。皆、気合入れて残業してますもん」
少女「しかも美術部の子が居るんで……結構、怖いと思いますよォ~」
淑女「……ちょっとー行くの躊躇っちゃうよ? そんな事言われたらー」
他愛無い会話が弾むと、時間は早く流れていく。
今日は久しぶりという事もあって、いつも以上に騒がしかったのだろう。
いつもの停留所で降りる際、運転手に軽く舌打ちをされた。
淑女「(まーココからは静かだから、ごめんなさい)」
内心で運転手に頭を下げて、足早にバスを降りる。
振り返って後部座席の彼女に手を振ると、巨大な車体を震わせてバスが動き出した。
それを追って視線を走らせると、いつもより闇が大きく感じられる。
不意に、ここでの奇妙な体験が脳裏に閃くと、言い様のない不安に襲われた。
その原因に気付いたのは、やはり家路の途中で背後を仰いだ時だ。
外灯の綺麗な等間隔のカーブが、所々で途切れて、不恰好な姿をさらしていた。
少女「ばっちりですよ。皆、気合入れて残業してますもん」
少女「しかも美術部の子が居るんで……結構、怖いと思いますよォ~」
淑女「……ちょっとー行くの躊躇っちゃうよ? そんな事言われたらー」
他愛無い会話が弾むと、時間は早く流れていく。
今日は久しぶりという事もあって、いつも以上に騒がしかったのだろう。
いつもの停留所で降りる際、運転手に軽く舌打ちをされた。
淑女「(まーココからは静かだから、ごめんなさい)」
内心で運転手に頭を下げて、足早にバスを降りる。
振り返って後部座席の彼女に手を振ると、巨大な車体を震わせてバスが動き出した。
それを追って視線を走らせると、いつもより闇が大きく感じられる。
不意に、ここでの奇妙な体験が脳裏に閃くと、言い様のない不安に襲われた。
その原因に気付いたのは、やはり家路の途中で背後を仰いだ時だ。
外灯の綺麗な等間隔のカーブが、所々で途切れて、不恰好な姿をさらしていた。
それから幾日かは平穏そのものだったと言える。
受験の不安、進路についてなどの高校生らしい相談も受けた。
「なんとなく大学行っておかないと~」と大学受験をした私は、少し胸が痛んだ。
少女「いやーわたしも適当ですよ? 勉強、嫌いですからねー」
そうやって笑う彼女に、私は果たして何と答えたのか。
彼女が言う適当と、私の言う適当ではベクトルの向きが違いすぎるのだ。
受験の不安、進路についてなどの高校生らしい相談も受けた。
「なんとなく大学行っておかないと~」と大学受験をした私は、少し胸が痛んだ。
少女「いやーわたしも適当ですよ? 勉強、嫌いですからねー」
そうやって笑う彼女に、私は果たして何と答えたのか。
彼女が言う適当と、私の言う適当ではベクトルの向きが違いすぎるのだ。
日曜日のバイト帰りの事だった。
車内ではエンジン音、羽音のような音を立てる扇風機の音だけが喧しい。
さすがに土日ともなると、彼女との遭遇率は極端に低くなった。
それでもゼロでは無かったが、彼女以外の客と乗り合わせる事の方が多い。
淑女「(あー……早く寝たいよー……)」
舟をこぎながら、薄ぼんやりと考える。
何気なく目をやった窓から、だらしない姿勢で前のめりになっている私が覘いている。
淑女「(……姿勢、悪いなァ)」
普段は気にならない事が、やけに気になった。
小さな溜息を吐いて、背筋を弓なりに張ってみる。
車内ではエンジン音、羽音のような音を立てる扇風機の音だけが喧しい。
さすがに土日ともなると、彼女との遭遇率は極端に低くなった。
それでもゼロでは無かったが、彼女以外の客と乗り合わせる事の方が多い。
淑女「(あー……早く寝たいよー……)」
舟をこぎながら、薄ぼんやりと考える。
何気なく目をやった窓から、だらしない姿勢で前のめりになっている私が覘いている。
淑女「(……姿勢、悪いなァ)」
普段は気にならない事が、やけに気になった。
小さな溜息を吐いて、背筋を弓なりに張ってみる。
淑女「え?」
その時だ。
窓に、黒いパーカーのような物を羽織った人影が見えた。
淑女「(……散歩中の人?)」
車内には私以外だと、やや恰幅の良い運転手のみである。
一瞬だけ見えた人影は、どうも細身の体型に見えた。
淑女「(うわー……こっちに着てたらどうしよう。もうすぐ停留所だし)」
眠気が冴え渡ると、何気なく背後を振り返ってみる。
バックライトに照らされた道路だけが明るく、
外灯の弱々しい灯りでは、黒服の人影を照らし出すには不十分だった。
「気のせいか、駅方面に行く人でありますように」と、何者かに強く祈る。
普段はおよそ信心深いとは言えない私だが、どうやら無事に届いたようだった。
バスの背後に怪しい人影は見当たらず、何とか停留所までたどり着く事が出来た。
その時だ。
窓に、黒いパーカーのような物を羽織った人影が見えた。
淑女「(……散歩中の人?)」
車内には私以外だと、やや恰幅の良い運転手のみである。
一瞬だけ見えた人影は、どうも細身の体型に見えた。
淑女「(うわー……こっちに着てたらどうしよう。もうすぐ停留所だし)」
眠気が冴え渡ると、何気なく背後を振り返ってみる。
バックライトに照らされた道路だけが明るく、
外灯の弱々しい灯りでは、黒服の人影を照らし出すには不十分だった。
「気のせいか、駅方面に行く人でありますように」と、何者かに強く祈る。
普段はおよそ信心深いとは言えない私だが、どうやら無事に届いたようだった。
バスの背後に怪しい人影は見当たらず、何とか停留所までたどり着く事が出来た。
淑女「(困った時の神頼みだなァ)」
停留所にバスが停車すると、私はフラフラと立ち上がった。
眠気が取れたと言っても、どうやら身体は疲労したままのようだ。
そのまま浮遊感を楽しみながら、運転手に定期券を見せる。
淑女「(さーて早く家に帰ってと)」
運手「……ああ、姉ちゃん姉ちゃん」
淑女「……あ、はい?」
流れ作業で通り過ぎようとしたが、運転手に呼び止められる。
その体型と、深い皺が走っている顔からはイメージし難いくらい声が高かった。
運手「姉ちゃんなーアレやろ? 演劇の人とかなんか?」
淑女「……は?」
運手「いやな~稽古熱心なんはえーけど、さすがに毎晩やられると結構キツイだわ」
淑女「……えっと、人違いじゃないですか?」
演劇に携わった事はない。
そもそも、彼が何を言っているのか理解出来なかった。
停留所にバスが停車すると、私はフラフラと立ち上がった。
眠気が取れたと言っても、どうやら身体は疲労したままのようだ。
そのまま浮遊感を楽しみながら、運転手に定期券を見せる。
淑女「(さーて早く家に帰ってと)」
運手「……ああ、姉ちゃん姉ちゃん」
淑女「……あ、はい?」
流れ作業で通り過ぎようとしたが、運転手に呼び止められる。
その体型と、深い皺が走っている顔からはイメージし難いくらい声が高かった。
運手「姉ちゃんなーアレやろ? 演劇の人とかなんか?」
淑女「……は?」
運手「いやな~稽古熱心なんはえーけど、さすがに毎晩やられると結構キツイだわ」
淑女「……えっと、人違いじゃないですか?」
演劇に携わった事はない。
そもそも、彼が何を言っているのか理解出来なかった。
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