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元スレ純小説「朝物語」
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ある朝、私が晩い朝食を未だかろうじて朝と呼べる時間に摂りながら、ふと朝顔の咲く庭を見ると、朝子が居た。
「朝太郎さん、お早う御座います」朝子は朝日のやうに白い笑顔でさう言つた。
「ヤァ朝子さん、もしかして僕の朝立ちを慰めに来てくれたのかい?」
私が冗談でさう言ふと、朝子は赤い朝顔の顔になつた。
「嫌ですわ、朝はかなことを仰らないでよ」
私が冗談でさう言ふと、朝子は赤い朝顔の顔になつた。
「嫌ですわ、朝はかなことを仰らないでよ」
「ねヱ朝太郎さん、ロマンチツクは何処から来るか御存知?」
「それは難問だね」私は少し考えてから、朝子の魂胆に気づいた。「少なくとも朝立ちの話からではない」
「さうでせう?」朝子は勝ち誇ったやうに笑う。「ロマンチツクな話をしませうよ。こんな気持ちの良い朝ですもの」
「それは難問だね」私は少し考えてから、朝子の魂胆に気づいた。「少なくとも朝立ちの話からではない」
「さうでせう?」朝子は勝ち誇ったやうに笑う。「ロマンチツクな話をしませうよ。こんな気持ちの良い朝ですもの」
「サアサアサアサア早く御飯を始末してお出掛け下さいよ」
使用人のアサが忙しそうに云つた。
使用人のアサが忙しそうに云つた。
「いつの間にか七時半を過ぎていますわ」
「何と云ふことだらう! さつきまで十時だつたのに」
「何と云ふことだらう! さつきまで十時だつたのに」
「そしていつの間にかお昼の3刻半ですわ」
「止めろ、我々は朝にしか生きられぬ種族なのだ!」
「止めろ、我々は朝にしか生きられぬ種族なのだ!」
朝太郎「ところで朝子さん、『朝ぼらけ』といふ言葉ヲ知つていますか?」
朝子「まア、それくらい知つていますわ! 早朝のことでせう?」
朝太郎「さすがは帝大出の才媛だ。だが、その語源までは御存じないだろうね?」
朝子「アラ馬鹿になさらないで! 朝もおぼろあけ、ですわ」
朝太郎「……ググったな?」
朝子「え?」
朝太郎「テメェ! 今、ググりやがったな!?」
朝子「まア、それくらい知つていますわ! 早朝のことでせう?」
朝太郎「さすがは帝大出の才媛だ。だが、その語源までは御存じないだろうね?」
朝子「アラ馬鹿になさらないで! 朝もおぼろあけ、ですわ」
朝太郎「……ググったな?」
朝子「え?」
朝太郎「テメェ! 今、ググりやがったな!?」
「朝太郎さん、起きてくださいまし。もう7時半ですよ」
「う、ウーンなぜ朝子さんが僕の家に居るんだね?」
「覚えていらっしゃらないの? ゆうべ、あんなにハッスルしたじゃない!」
「記憶がない」
「う、ウーンなぜ朝子さんが僕の家に居るんだね?」
「覚えていらっしゃらないの? ゆうべ、あんなにハッスルしたじゃない!」
「記憶がない」
おはようございます。
私は幽霊です。
なぜ皆さん、私のことを嫌うのでせう?
私はただ、そこに居るだけだと云ふのに。
ただそこに居るだけで嫌われる。
究極のいじめられッ子ではないでしょうか?
私は幽霊です。
なぜ皆さん、私のことを嫌うのでせう?
私はただ、そこに居るだけだと云ふのに。
ただそこに居るだけで嫌われる。
究極のいじめられッ子ではないでしょうか?
「これこれ朝っぱらから幽霊さんがお出ましするんじゃないよ。夜に出直しておいで」
朝太郎「もうすぐ10時だけど……まだ余裕で朝だよね?」
朝子「朝顔のやうに朝にだけ咲くスレ……ロマンティックですわ」
朝子「朝顔のやうに朝にだけ咲くスレ……ロマンティックですわ」
朝子「朝ご飯ならもう半日も前に食べましたよ、朝太郎さんッたら!」
朝子「疲れておるのです。今日一日ゆっくり休みましょう」
朝太郎「はるか昔から同じ朝の同じ一日を何回も何回も繰り返してるような気がするんだが・・」
朝太郎「はるか昔から同じ朝の同じ一日を何回も何回も繰り返してるような気がするんだが・・」
朝太郎「いや、それはさすがに朝から重たいね。荘子の中から『胡蝶の夢』の一節を読んで聞かせてくれないか」
朝子「昔者荘周夢に胡蝶と為る。栩々然として胡蝶なり。
自ら喩しみて志に適へるかな。周たるを知らざるなり。 俄然として覚むれば、則ち蘧々然として周なり。
知らず、周の夢に胡蝶と為れるか、胡蝶の夢に周と為れるかを。
周と胡蝶とは、則ち必ず分有らん。此を之れ物化と謂ふ。」
自ら喩しみて志に適へるかな。周たるを知らざるなり。 俄然として覚むれば、則ち蘧々然として周なり。
知らず、周の夢に胡蝶と為れるか、胡蝶の夢に周と為れるかを。
周と胡蝶とは、則ち必ず分有らん。此を之れ物化と謂ふ。」
朝太郎「日本で蝶がはばたいたらアメリカで嵐がおきる、みたいな?」
「以前のこと、わたし荘周は夢の中で胡蝶となった。喜々として胡蝶になりきっていた。
自分でも楽しくて心ゆくばかりにひらひらと舞っていた。荘周であることは全く念頭になかった。はっと目が覚めると、これはしたり、荘周ではないか。
ところで、荘周である私が夢の中で胡蝶となったのか、自分は実は胡蝶であって、いま夢を見て荘周となっているのか、いずれが本当か私にはわからない。
荘周と胡蝶とには確かに、形の上では区別があるはずだ。しかし主体としての自分には変わりは無く、これが物の変化というものである」
自分でも楽しくて心ゆくばかりにひらひらと舞っていた。荘周であることは全く念頭になかった。はっと目が覚めると、これはしたり、荘周ではないか。
ところで、荘周である私が夢の中で胡蝶となったのか、自分は実は胡蝶であって、いま夢を見て荘周となっているのか、いずれが本当か私にはわからない。
荘周と胡蝶とには確かに、形の上では区別があるはずだ。しかし主体としての自分には変わりは無く、これが物の変化というものである」
朝太郎「『これが』の意味がわからないよ、朝子さん。飛躍しずぎだ」
朝子「荘子様に仰って下さいな」
朝子「荘子様に仰って下さいな」
朝太郎「あっ、ところでいつの間にか又朝だね? 朝は何処からやつて来るのだらう?」
朝子「空からではないかしら?」
朝太郎「朝はかだね、君は。大地がなければ朝はないんだよ」
朝子「では、大地からですの?」
朝太郎「本當に朝はかだね、君は。照らすものが無ければ大地は真ツ暗なままだよ」
朝子「朝太郎さんの意地悪!」
朝子は臍を曲げてしまつた。
朝子「空からではないかしら?」
朝太郎「朝はかだね、君は。大地がなければ朝はないんだよ」
朝子「では、大地からですの?」
朝太郎「本當に朝はかだね、君は。照らすものが無ければ大地は真ツ暗なままだよ」
朝子「朝太郎さんの意地悪!」
朝子は臍を曲げてしまつた。
或る靄の立ち籠めた朝のことである。朝田朝助は書生の朝彦を連れて伊豆の温泉宿にやつて来た。
餓死した朝太郎の死体が見つかったのは1ヶ月後のことだった。
書生の朝彦「新聞には失踪した朝子と使用人のアサを重要参考人として行方を追っていると書いてますね」
アサコーリニコフというロシア人の学生が斧を持って歩いていたのが目撃されていた。
朝田朝助は漢字の「一」を懐から取り出すと、自分の名前に入れた。
朝田朝助は、朝田一 朝助になった。
朝田朝助は、朝田一 朝助になった。
書生の朝見朝彦は朝見刑事局長の弟であるが、朝田一はそれを知らなかった。
朝太郎「いやちょッと待ち給へよ。これが純小説だと云ふことを皆さん忘れては困る」
朝太郎「大体、推理小説なんてものは、人間心理の洞察に欠けてゐる。人間心理が事件の傀儡になつてゐるんだ」
「などと云つてゐる間に三つも朝を越えてしまつたぞ」
朝太郎は頭を抱え、鹿威しの音に合わせるやうに首をシエイクした。
朝太郎は頭を抱え、鹿威しの音に合わせるやうに首をシエイクした。
「おまへさんは猫である、名はまだない」
朝太郎はそう言ってから、ふと頭に浮かんだ疑問を口にした。
「この場合、名はまだない、名はまだなひ、名はまだなゐ……どれが正しいんだ?」
朝太郎はそう言ってから、ふと頭に浮かんだ疑問を口にした。
「この場合、名はまだない、名はまだなひ、名はまだなゐ……どれが正しいんだ?」
朝太郎「おいゝ。今は明治の世だよ。言文一致だ。江戸時代は遠い昔だらう」
さて朝太郎は縁側から下駄を履き、庭へと出た。玲瓏たる朝空を見んと欲したのであるが、生憎の梅雨空である。
「さう云へば最近の天気は気違い日和だつた。忘れていた」
「さう云へば最近の天気は気違い日和だつた。忘れていた」
朝太郎は部屋のほうを振り返ると声を投げた。
「今朝の朝飯は何だい?」
「今朝の朝飯は何だい?」
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