私的良スレ書庫
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元スレ男「余命1年?」女「……」
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男「あの、面会なんですけれども。女さんです。……ええ、分かりました」
エレベーターに乗り、階数表示が段々と数字を上げる様子を、ただ茫然と見つめていた。
やがて、目的地の5Fで床の上昇がゆっくりと止まる。
十数秒歩き、待ち合わせの部屋へ到着すると、彼女の姿が視界に入った。
女「……あ、今日は来てくださったんですね」
男「ええ、お邪魔します。それで……調子はどうですか?」
女「もちろん順調ですよ。……はい、これが原稿です。病院のコピー機で印刷させていただきました」
男「いや、その……具合の方は……?」
女「ああ……何も変わりません。可も不可も無し、と言ったところですね」
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女は、取ってつけたような笑顔でそう言った。
こうしている今も、彼女の小さな身体が蝕ばまれ続けているだなんて……想像もつかない。
女「それで、前回の修正点は? その様子だと、また駄目だったんですよね?」
男「え……は、はい。前回は、キャラクターの心理描写に物足りなさを感じました。ですから、今回は……」
女「別に……夢なんて、どうだっていいんですよ?」
男「っ……そんなことないですよ。編集長もおっしゃってました。
段々、執筆に磨きがかかっていると。もう少しですよ、頑張ってください!」
女「……これでも、頑張ってるんですけどね」
男「あっ……すみません、失言でした」
訪れた、数秒の沈黙。
時間が経てば経つほど、息をするのが辛くなってくる。
男「……こちらの原稿、拝見させて戴きます」
女「あの……男さん」
男「はい、何でしょう」
女「……いつもありがとうございます。何の価値も無い私の原稿を、こうして取りに来てくださって」
男「……いえ、仕事ですから」
女「……はい、そうでしたね」
多少の打ち合わせを行った後、逃げるように病室を後にして。
駐車場に止めた自分の車へ乗り込むと……思わず、ため息が出た。
男(どうして、もっと気の利いた事を言ってあげられなかったんだろう。よりにもよって、仕事だからって……最低だろ)
それほど傷ついた様子には見えなかったのが、唯一の救いか。
……いや。まずもって、およそ感情と言えるものが彼女の顔に出た事が無い。
その表情の下では、本当は傷ついていたのかも。
でも、それはお互い様だ。
彼女だって、自分に心の内を打ち明けたことが、ただの一度だってないのだから。
会って1ヵ月と言えど、仕事上のパートナーであることに変わりはない。
やり辛さは、日に日に増していった。
男「本当は……叶えたいんでしょう? あの夢を……」
彼女との出会いは、重なった偶然により生まれたものだった。
選考で落ちた彼女の作品が、たまたま選考委員の目に留まり、たまたま俺が担当につけられて。
電話越しに告げられた、待ち合わせの場所。
彼女との初対面は、まさかの病院だった。
生まれつき心臓に持病を抱えていて……彼女曰く、もう長くないとのこと。
余命1年の作家の卵。それが彼女だ。
死ぬ前に、足跡を……自分がこの世に存在していたという証を残したい。
きっとそれが彼女の望みなのだ……俺は勝手にそう思っていて、勝手に感情が高ぶっていた。
何としてでも、出版までこぎつけてみせる。
そう思って、病室へ入ったんだが。
いざ彼女と話してみると、何だか拍子抜けしてしまった。
この世に未練など、欠片も無いとでも言いたげな雰囲気だったのだ。
既に死を覚悟しているだとか、死を認識していないだとか、そんな雰囲気ではなかった。
まるで……いつ死んだって構わないとでも言いたげな。
初めて女さんと出会ったのは、1ヵ月程前の事だった。
男『必ず出版しましょう! 私も、全力でサポートさせていただきます!』
女『……それなら、これは私とあなたの夢ですね』
男『え、俺……じゃない、私もですか?』
女『フフッ、そんなにかしこまらなくてもいいですよ、変に気を遣わないでください。
……だって、仮に本を出版できた時、あなたが一番喜びそうだから』
男『……分かりました。では、これは俺とあなたの夢です。必ず……必ず、2人で叶えましょう!』
男「……ハァ」
恐らく、このままいけば1冊は出版できるに違いない。
彼女の表現力は、目に見えて上がっているから。
軌道に乗れば、2冊目、3冊目だって可能かもしれない。
それだけに、彼女の纏う雰囲気は、俺には理解し難かった。
この世に生きた証を残せるだなんて、それほど名誉な事が存在するだろうか。
必死にならない方がどうかしている。
――もしも、自分が同じ立場だったなら。
男「……やめだやめだ。そんなこと考えたって、仕方がないじゃないか」
自分はもう、諦めたのだ。
自分には、執筆の才能がない。
そう思ったからこそ、せめて同じ夢を持つ者の手助けをしようと思い、この仕事を選んだ。
ここで彼女を支えないで、何が編集だ。
彼女の本を出版する事が、自分の使命。
……だからこそ、諦めないで欲しいのに。
女さんの、本音が聞きたい。
仮面のように変わらない表情の奥で、一体何を考えているのか。
彼女の第一印象は……まだ、拭われていなかった。
とりあえずここまで。かけたら更新します。
過去作も貼らせていただきます。
【バンドリ】沙綾「卒業?」香澄「そんなの私達にあるわけないじゃんwww」
http://elephant.2chblog.jp/archives/52197926.html
【バンドリ】沙綾「好きです////」有咲「へっ!?//////」
http://elephant.2chblog.jp/archives/52199334.html
過去作も貼らせていただきます。
【バンドリ】沙綾「卒業?」香澄「そんなの私達にあるわけないじゃんwww」
http://elephant.2chblog.jp/archives/52197926.html
【バンドリ】沙綾「好きです////」有咲「へっ!?//////」
http://elephant.2chblog.jp/archives/52199334.html
編集長「うーん……」
男「……どう……でしょうか」
編集長「悪くは無いんだけどねえ」
――やはり、まだ駄目か。
編集長「表現力は増してる。……ただ、味が無い」
男「……キャラの心理描写が、薄いということでしょうか?」
編集長「それもある」
男「それ……も?」
編集長「彼女だけの持つ何か。それが、この原稿からは抜け落ちている」
男「……分かりました」
――さっぱりわからん。
デスクに戻り、彼女の原稿を読み直すことにした。
他の作家も担当してはいるが、今はこっちが優先だ。
なんせ、彼女は……。
男「彼女だけが持つ何か……ね」
そんなもの、ただの個性というか……売れるかどうかに関係あるとは思えないが。
売れた作家こそが正義。要は、売れればいい。
世間に認められれば、その作家の個性が初めて『個性』として認識されるのだ。
男「……ここまで出来が良かったら、別に出版したっていいじゃないか」
読者に読んでもらうまで、何が売れるかなんて分からないんだから。
――嘆いていても、仕方がない。
男「まずは、心理描写からだな」
キャラクターの心情をどれだけ文字に表現できるかは、
どれだけ人の心に触れ、どれだけの文字に触れ、そしてどれだけ自分自身で考えて人生を過ごしてきたか。
その三点に掛かっていると言っても過言ではない。
というか、それが全てだ。
男「まさか……今まで、人付き合い自体が少なかったのか?」
大いに考えられる話だ。
彼女は、心臓病は生まれつきだと言っていた。
そのせいで、今まで人と触れ合う事が少なったのかもしれない。
男「うーん……そればっかりは、どうしようもないな」
今すぐどうこうできるとは思えないが……それは、どうにかしようとする努力を怠っていい理由にはならない。
男「とりあえず……やれるだけやってみよう」
彼女と出会ってから、5度目の週末。
俺はいつも通り、病院へ打ち合わせに来ていた。
男「……え? もう退院できるの?」
女「はい。あくまで、一時帰宅なんですけど」
男「そうだったんだ……」
彼女は俺よりも5歳も年下らしい。
俺達は次第に敬語が減り、フレンドリーに会話を交わすようになっていた。
とは言っても、彼女は敬語が抜けきっていないけれど。
それが、彼女の年上に対する接し方なのだろう。
女「あの。それで、前回は?」
男「あ……ああ」
原稿のダメ出しを何度も繰り返し行うのは、こちら側としても本当はしたくない。
できる事ならば、今すぐにでも出版したい。
だが、そうもいかないのが現実だ。
男「……やっぱり、心理描写が甘いね。それで、俺からの提案なんだけど」
女「……提案?」
もしかすると彼女は、人付き合いの数が人よりも劣っているのかもしれない。
人付き合いが嫌いな作家は、何度も見てきたが。
彼女の場合、好きで人を避けているわけではないはずだ。
男「本当は、週末だけの予定だったんだけど。
女さんが退院できるのなら、できるだけ毎日。コミュニケーションの練習をしよう」
女「……誰と、ですか?」
男「それは勿論、俺と」
すると彼女は、初めて明確に表情を変化させた……とんでもなく嫌そうに。
女「……嫌です」
男「え? ……な、なんで?」
女「男さんは、編集者としては信用できますが。男性としては信用できません」
男「へ? だ、男性としてって……俺、君に何かしたっけ?」
どういうわけか、俺は唐突に彼女からの信用を失ったらしい。
全く身に覚えのない不信感をジト目で向けてきた彼女。
初めて俺に、女さんが感情の起伏を見せたように感じた。
女「だって男さん……この間、看護婦さんと仲が良さそうに会話してました。初対面なのに」
男「この間……ああ、あれね」
先々週のことだ。病室を訪れると、彼女は席を外していて、病室内は空っぽだった。
立ち尽くしていた俺に、年の近そうな看護婦さんが世間話を持ち掛けてきたのだ。
男「あれは別に……普通だよ、仲良くなんて……」
女「何だか、すっごく親し気でした。鼻の下を伸ばしているようにも見えました」
男「誤解だよ……本当に、ただの世間話だって」
女「初対面なのに、口説いてました」
男「いくらなんでも、飛躍しすぎだよ」
本当に、ただの誤解だ。
あの時の看護婦さんとは、女さんについての会話ばかりしていたのだから。
病院での彼女は、とても元気そうだとか。
優しいお父さんがいるだとか。
彼女の病気は……元々、お母さんのものだったとか。
男「とにかく、君の考え違いだよ」
女「……まあいいです。えっと……コミュニケーションの練習でしたっけ?」
男「うん。毎日俺と会話すれば、何か参考になるかもしれないよ。
俺も、君の小説を一刻も早く本にしたいんだ」
本心だった。
彼女の病気を差し引いても、彼女の書いた小説は、俺の胸を強く打った。
女「でも……毎日って、具体的には?」
男「この病院で、色々……世間話とか」
女「私、もう退院するんですけど」
――そうだった。
退院の話を聞くまでは、週末だけの予定だったから。
男「そうだな……俺が、君の家に――」
女「嫌です」
即答だった。
男「そんな……露骨に嫌がらなくても」
女「……ハァ。分かりました。家の近くに、公園があるんです。
そこでならいいですよ……外でなら何もできないでしょうし」
随分と警戒されてんなあ……。
男「別に、何もしないよ。それに……」
女「な……なんですか、そんなにジロジロ見て。ナースコールしますよ?」
男「待って待って、違うから。だから、あれだよ。君は、女としてはみれない」
女「……どうして、ですか」
男「だって、5歳も離れてるし。俺の好みは年上なの。ロリコンじゃないんだ、分かった?」
その時だ。
一瞬、彼女の表情が凍ったように見えた……のだが、気のせいだったみたいだ。
すぐに、さっきの嫌そうな表情が復活した。
女「うえー……なおさらキモチワルイです。それを、女の子の前で言うんですか」
男「どうしろってんだよ……」
それからも、何度か嫌そうな顔をされたのだが。
渋々了解したみたいだった。
男「……暑い」
男(ちびっ子達……元気そうに走り回ってんな)
男(無邪気な子供達を、日曜日の昼間に、たった一人で公園のベンチに腰掛けて見つめている私服姿の冴えない独身男性)
男(……平日じゃないのが、唯一の救いだ)
男(早く来ねえかな……さっきから母親達の視線が痛い)
女「お待たせしました」
男(え、マジか……私服じゃん、今風のファッションなのかな)
女「……って、何ですか、その酷い顔」
男「ああ……待ってたよ。酷い顔?」
女「はい、すごく酷い顔です。まるで、この世の全てを恨んでいるかのように」
男(一体どんな顔だよ。想像もつかないわ)
女さんは俺から少し離れた位置に腰かけた。
男「えーっと……お久しぶりです?」
女「昨日会ったばかりですよ」
男(いつも病院服しか着ていなかったから、気が付かなかったけど)
男「スタイル……いいな……」
女「……は?」
男(やっべ、声に出てた)
男「いや、何でもない」
彼女は両手で自分の身体を抱きかかえ、俺から離れるように、すぐさまベンチの一番端へ腰を滑らせた。
女「いやいやいや、誤魔化せないですから。何ですか、誘ってるんですか? 警察呼びますよ?」
男「ちょっとちょっと、本当にそんなんじゃないって!」
女「……それで、何でしたっけ。コミュニケーションの練習?」
男「そうそう、コミュニケーションね。とりあえず……世間話でもしようか」
男(世間話っつってもな……何を話せばいいのやら。言い出しっぺは俺なんだけど)
女「……元気そうですよね。あの子達」
男「ああ……羨ましいの?」
女「……少し、思います」
男(まただ……この表情。何もかも、どうでもいいと思っているような)
男「思いっきり走ったこと、ある?」
女「いえ……小学校の時、マラソンで倒れてから……一度も」
男「……なら、思いっきり走ろうか」
女「……はい?」
男「だあー! 強すぎだろ! 君、本当に初心者?」
女「車の免許なら持ってますよ。マニュアルです」
男「なるほど……俺、5年以上ペーパードライバーだからなあ……」
女「見苦しい言い訳はやめてください。男さんが言ったんじゃないですか、ゲーセンでレースゲームしようって」
男「いや、確かに言ったけども」
女「フフッ、こんなに気持ちよく走ったの、久しぶりです」
男(ゲームだけどね。しかもただのカーレース)
男「じゃあ、次は何やる?」
女「え? これ、もう一度やりません?」
男「マジか……分かった、やろう」
女「さっき負けたの男さんですから、今回は男さんが払ってくださいね」
男「その約束生きてたのね……」
男(野口さんが消えていく……なんだろう、この財布の寂寥感)
男(あー、すっかり夜になっちまった)
男(あのゲーセン、案外いいな。女さんの家から近いし。また行くかもな)
男「大丈夫? 親御さんに心配されたりしない? 家まで送って行くけど、挨拶とかしとく?」
女「あー、別に大丈夫ですよ……多分、まだ帰って来てないんで」
男「帰って……ない?」
男(確か……優しいお父さんがいるって聞いたような……)
女「ウチ、父子家庭なんです。父はいつも、遅くまで仕事……なんて言ってるけど。多分、遊んでるんだと思います」
男「え、だって……優しいお父さんだって」
女「それ、誰から聞いたんです? 別に、ウチはそんなんじゃないですよ。
お父さんは、私の事なんてどうだっていいんですよ。もうすぐ……いなくなるんですから」
男「それ……は……」
男(すっかり忘れていた。いや……考えないようにしていた)
男(彼女は……もうすぐ……)
女「……フフッ、そんな顔しないでください。今更、何とも思ってませんから。それに……」
男「え……どうしたの?」
男(なんか、近い、近いよ! ジト目可愛いし……なんかいい匂いするし)
女「……いーえ。何でもありません。じゃあ、また明日」
男「あ、ああ。また明日……」
男(行ってしまった……何だったんだ、一体)
今日は平日。女さんと直接会って話すのは、難しいと思っていたんだが。
女「どうも、よろしくお願いします」
男「あ、うん。よろしくね」
男(まさか、直接編集部まで来てくれるとは)
女「それで、原稿持ってきたんですけど……」
男「え、もう?」
男(以前から感じていたことだが……いくら何でも、執筆のスピードが速すぎる)
編集長「驚きの才能だな」
男「編集長……そうですね。類希な程に速筆ですよ、彼女」
女「……どうも」コクッ
編集長「毎週、1作ずつ書くことができるなんて。君は将来有望だね」
男(将来……ね)
女「ありがとうございます。ですが、出版できるレベルに達していないのなら……」
編集長「ん、そうだね。男、あとは任せたぞ」
男「あ、はい。了解です」
女「……その」
男「ああ、編集長には言ってない」
女「やはり、そうでしたか」
男「……ごめんね。気を悪くしたのなら謝るよ」
女「いえ、気にしないでください。大学時代から慣れているので」
男「今も、大学に通ってるんだよね?」
女「いえ……先日、余命宣告されてすぐに中退しました」
男「えっ……そうなんだ」
男(確かに、人としてその選択は正しいことなんだろうけど。
こっちとしては、大学生活で得られるものだってあると思うし、辞めないで欲しかったな)
男(……いや何考えてんだよ。
彼女の人生だぞ。彼女の好きにして何が悪いんだよ。
残りの人生を、自分自身のために過ごす為に中退したんだ。
素晴らしいじゃないか。美しいじゃないか。
そもそも、正しい選択なんて存在しないんだから)
女「……男さん?」
男「うん? どうしたの?」
女「大丈夫ですか? 少し、怖い顔してました」
男「え、そうかな? ……何でもないよ。それで、原稿見せてもらえる?」
女「ええ、どうぞ」
男(うわ……普通に1冊分の分量だぞ、これ)
男「うん、ありがとう。読んでもいいかな?」
女「え……今ですか?」
男「うん。ダメかい?」
女「……いえ、ダメではありませんが」
男「では、拝見させて頂きます」
男「うん? どうしたの?」
女「大丈夫ですか? 少し、怖い顔してました」
男「え、そうかな? ……何でもないよ。それで、原稿見せてもらえる?」
女「ええ、どうぞ」
男(うわ……普通に1冊分の分量だぞ、これ)
男「うん、ありがとう。読んでもいいかな?」
女「え……今ですか?」
男「うん。ダメかい?」
女「……いえ、ダメではありませんが」
男「では、拝見させて頂きます」
男(……これ、まさか)
男「ね、ねえ……これ」
女「……////」
男(め……メッチャ赤くなってる)
男(これ、もろ俺達のことじゃん)
男(最初の十数ページで分かる。
病院で入院していた主人公を、とある男性が訪れる所から始まって。
そこから、2人が約束を交わすのだ)
『必ず夢を叶えよう。2人で、一緒に』
男(いける……か? いや、いけるだろ)
男「ね、ねえ……これ」
女「……////」
男(め……メッチャ赤くなってる)
男(これ、もろ俺達のことじゃん)
男(最初の十数ページで分かる。
病院で入院していた主人公を、とある男性が訪れる所から始まって。
そこから、2人が約束を交わすのだ)
『必ず夢を叶えよう。2人で、一緒に』
男(いける……か? いや、いけるだろ)
男「これ……通るよ。多分、いや絶対」
女「ほっ、ホントですか!?」
男「わっ、ビックリした」
男(彼女、こんな表情もするんだな)
女「この原稿は、絶対に通したいって……そう思ってたので。そう言ってもらえて、嬉しいです」
男「編集長に通してからだから、俺だけじゃ確定とは言えないんだけど。
これは面白いよ、通せる。自信を持ってそう言えるよ」
女「……良かったあ」
男(うわっ、メッチャ笑顔。……可愛いな)
男(残りのページも読んでしまおう)
男「お茶ならいくらでも出せるから。ゆっくりしていって」
女「はい……ありがとうございます」
男(全部読み終わったけど、これは……)
男(ちょっと、マズイかも……しれない)
編集長「うーむ……」
男「……どうでしょうか」
編集長「面白い……が」
男(……冷や汗が、鬱陶しい)
編集長「……難しいな」
男「やはり……そうですか」
編集長「出版できないわけじゃない。寧ろ……売れるだろうな」
男「では……!」
編集長「ただ……読者がこれを読んだ時、どう思うだろう」
男「……それは」
男(もしかすると、出版は難しいかもしれない。
最後まで読んだ時、俺はそう感じた)
男(彼女の書いた、この作品は)
男(とんでもない、救いようのないバッドエンドなのだ)
編集長「これが、彼女の持ち味なのだとしたら……」
男(ヤバイ、メチャクチャ睨まれてる)
編集長「男、お前……何か隠してないか?」
男(うわ……やっぱバレてる)
男(小説ってのは、良くも悪くも、作家本人の人生観を反映してしまう)
男(出そうと思って出るものでもないし、かといって意図的に隠せるものでもない)
男(つまり……読む人が読めば、分かってしまうのだ)
男(その作家が……どんな人間なのか)
男「……申し訳……ありません」
男(元々、隠しきれるわけが無かったのだ)
編集長「……なるほど、事情は分かった。ならば、この内容も納得できる」
男「やはり……出版は難しいと」
編集長「できないわけではない」
男「っ! 本当ですか!?」
編集長「ただ、な」
男「……?」
編集長「彼女がこれを、本当に作品として売りに出したいのか。そのつもりで書いたのか。
……それが知りたい」
男「それは、一体どういう……」
編集長「俺が今言ったことを、そのまま彼女に聞いてみてくれ。
多分……それで、彼女の本心が聞けるさ」
男「……分かりました」
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