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元スレ電「軍艦と人間、その境界で生きる」
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──────
「貴様は兵器だ。黙って人間様の指示に従っていればいい」
私が艦娘として初めてこの鎮守府に着任して告げられたのは、お前は人間ではなく、「駆逐艦・電」という、只の兵器として生まれた存在に過ぎないという事なのでした。
「返事は?」
「……はい、なのです」
その司令官さんは30代前半の若い司令官さんでした。
先の作戦では深海棲艦に大打撃を与えた立役者でもあり、司令官さんは他の司令官さんよりも圧倒的な戦果を挙げていました。
ですが、軍人さんとは思えない程、肥満体で、肌には油が浮き、目をギラつかせて、まるで怒鳴るように私たちに命令しました。
司令官さんにとって、私たち艦娘は人間以下の存在、戦争の道具としてしか見ていませんでした。
私たちがこの世に生まれた意味は、何時の時代からか出現した深海棲艦と戦い、戦果を上げることなのでした。
勿論、それを否定するだけの自己意識を艦娘ひとりひとりが持ち合わせています。
でも、そうはしませんでした。
それは艦娘として生まれた性のせいかもしれません。
例えこんな司令官さんでも、私たちにとっては絶対的存在、謂わばお父さんでもあり神さまでもありました。
当然、逆らえるはずも無く、その言葉通り私たちは戦いました。
当時の私は本当に何も知らない子供なのでした。
司令官さんは他の司令官さんよりも圧倒的な戦果を挙げていました。
――数多の艦娘の犠牲の上で、なのです。
敵の主力部隊に攻撃を仕掛け、その注意をひきつける事が、当時、私が所属していた部隊の任務でした。
私たちの部隊が先行して攻撃し、敵の注意がこちらに引いたところを狙い、主力部隊で挟撃する。
――言ってしまえば、囮、捨て駒でした。
私たちの部隊は、進軍する主力部隊の為、敵を釣り、消耗される、謂わば撒き餌となっていたのです。
私は戦争の道具どころか、道具以下の存在として扱われました。
朝起きて、碌に傷も癒えぬまま出撃し、突貫を繰り返しては敵艦の攻撃を受け、死に物狂いで主力部隊の到着まで戦い、帰還しました。
そんな日々の繰り返し。
私は何度も生死の境を彷徨い続けました。
それでも司令官さんからは、そんな私たちに対して何の言葉も無く、それどころか最低限の補給しか与えられませんでした。
本当は戦いたくない。
死にたくない。
誰も傷つけたくない。
今振り返ると、そんな感情を心の何処かに抑え付けて、戦っていたのだと思います。
それでも、私は疑問を抱くことをしなかったのです。
一緒になった部隊の皆も同じで、沈む事に何の疑問を持たず、光が消えた目で、ただ敵を見据え、突貫していきました。
私がこんな状況で生き残れたのは奇跡としか言いようがありませんでした。
──────
「よう、チビ! 別の囮部隊から転属してきたんだってな」
そんな生活が半年近く続いたある日、私は別の囮部隊に転属させられました。
そして、とある軽巡艦のお姉ちゃんと出会いました。
「可哀そうに、さっさとくたばった方がどれだけ楽だったか! 希望は持つなよ、転属したってやる事は変わらんぜ?」
「……」
そう言ってケラケラと吹っ切れたように笑うお姉ちゃんは、他の部隊に居た仲間とは違い、目に光がありました。
「まぁ、これも何かの縁だ、よろしくな」
「……よろしく、なのです」
これが、軽巡のお姉ちゃんとの最初の出会いなのです。
名前は聞きませんでした。
いえ、もしかしたらどこかで聞いていたかもしれません。
しかし、囮部隊という性質上、直ぐに沈むであろう互いの名前を憶えても無駄だろうと分かっていたから、無理に覚えようとはしませんでした。
その代わり、私はお姉ちゃんの事を「お姉ちゃん」と呼び、お姉ちゃんは私の事を「チビ」と呼びました。
お姉ちゃんの名前を聴けなかったのは、私の一生の後悔のひとつなのです。
──────
そのお姉ちゃんの戦い方は、正直言ってしまえばあまり真面目なものではありませんでした。
他の部隊の皆とは違い、敵を倒すつもりは最初っから無く、敵の眼前に砲撃し水柱を上げさせるなどして、なるべく相手の視界を遮ったり、こちらの攻撃が当たらないであろう遠距離から攻撃を仕掛けたりなどしていました。
そして、主力部隊が到着すれば適度に戦っているフリをし、戦いのドサクサに紛れて後退する。
他の部隊の皆が突貫を繰り返す中、お姉ちゃんだけが近からず遠からずの距離を保っていました。
それもあってか、部隊の皆からは嫌われ、孤立していました。
しかし、お姉ちゃんはどこ吹く風と言った様子なのです。
ある日、お姉ちゃんのそんな姿に居た堪れなくなり、私は声を掛けました。
「なぜ、こんな不真面目な戦い方をするのですか?」
「あ? どういう意味だ?」
「私たちは艦娘として生まれた以上、戦って死ぬべきではないのですか?」
そうお姉ちゃんに尋ねると、お姉ちゃんは皮肉な笑いを浮かべ、吐き捨てるように言いました。
「俺も艦娘に生まれた以上、死ぬなら戦って死にてぇよ」
「それなら……」
「でも、こんな囮なんてつまらない事、ましてはあのクソ野郎の下で死ぬのはごめんだね」
「えっ……?」
私はそのように司令官さんに悪態を付く艦娘を、この時初めて見ました。
艦娘は司令官さんに絶対服従。
そんな暗黙の了解をお姉ちゃんはいとも簡単に否定したのです。
私はそんなお姉ちゃんの言葉に少なからず驚愕しました。
「適切かつ、妥当にだ。要は適当でいいんだよ」
困惑する私を思ってか、お姉ちゃんは私の頭に手を乗せて、言葉を紡ぎました。
「所詮、俺たちは囮部隊だ。殴り合いは主力部隊にまかせときゃいい。俺たちは適当に敵の注意をひきつけて、適当なところで逃げるだけさ」
その手はとても温かかったのです。
「……俺の事がチビからどう見えるかは知らんが……俺だって必死なんだよ」
お姉ちゃんはそう言い、私の上に乗せた手で私の髪をぐしゃぐしゃと撫でてから、その場を立ち去りました。
その後ろ姿はどこか悲しそうなのでした。
──────
それ以来、私は行く先々でお姉ちゃんの後を追うようになりました。
理由は今でも分かりません。
ですが、少なくともお姉ちゃんの事が放って置けなかったのは確かなのです。
最初、お姉ちゃんは私の事を避けていました。
今思うと、他の部隊の皆から自分と同じように私が嫌われないようにする為の、お姉ちゃんなりの優しさだったのかもしれません。
でも、お姉ちゃんも思うところがあったのか、段々と私に接するようになり、戦場での戦い方や生き残り方を教えてくました。
「いいかチビ? 俺たちは所詮、兵器で人間様の言いなりだ。だが、海の上では多少なりとも自由は利く。だから、海での立ち回り方には注意しろ」
「海での立ち回り方、なのですか?」
「ああ。無謀に突っ込めば早死にするし、臆病だと人間様に目を付けられ、どっちみちあの世行きだ。ある程度、人間様のノルマを遂行できればそれでいい。主力部隊と違って、あのクソ野郎はあまりこちらの部隊の事なんで考えてないからな……程々に、その場の流れに身を任せればいいんだ」
「その場の流れに身を任せる……」
「そうだ。それが長生きするコツだ」
私はお姉ちゃんが言っている意味がいまいちピンと来ませんでした。
私は首を傾げた後に、お姉ちゃんに話しかけます。
「ええと……気を抜いて戦うって事ですか?」
私の言葉を聞いたお姉ちゃんは、腕を組み、しばらく考えた後に答えました。
「……ちょっと違うな。戦う時は常にリラックスして相手の出方を見ろって事だ。一瞬でも気を抜いたら反応が遅れるし、逆に入れすぎて敵が予想外の動きをしてきたら、対処できなくなる。固くならず柔軟に対処する事さ。力を入れるな、でも精一杯戦えってな……つまり」
お姉ちゃんは指先で自分のこめかみの辺りをトントンと叩きました。
「身体は使うな、頭を使えって事だ」
やはり、ちょっとピンときません。
「何て言うか、難しいのです……」
「まぁ、最初の内は難しいさ。それは慣れろとしか言えん。だが、これを意識するのとしないとでは大違いだ。多少なりとも生き残ることが出来るぜ」
生き残る、というお姉ちゃんの言葉に私はうなだれました。
「生き残ると言っても私たちは囮部隊なのです……いくら頑張ってもいつかは……」
そうなのです。
いくら頑張っても、行き着く先は「死」という現実なのです。
しゅんとした表情で言葉を紡ごうとする私に対して、お姉ちゃんは私の頭に上に手を乗せて、いつものように私の髪をぐしゃぐしゃと撫でました。
「チビ、そう悲観するなよ。こう考えればいいんだ」
その顔はとても優しい顔でした。
「どうせ何時か死ぬなら、流されるだけ流されて、ギリギリまで生きてやろうってな」
私はお姉ちゃんのそんな顔を見て、私も生きれるだけ精一杯生きてみようかなと思いました。
それから私は、お姉ちゃんが言った事を守りました。
兵器として生まれてきた私たちとしては、この戦い方は間違った戦い方なのかもしれません。
ただ、お姉ちゃんの言った通りにしなければ、私はとっくの昔に沈んでいたのです。
──────
お姉ちゃんと出会ってから1年近く経った、ある大規模作戦の時です。
私たちの部隊はいつも通り囮部隊として、敵の主力部隊をひきつける役割を担っていました。
途中までは順調でした。
いえ、いつも以上に順調なのでした。
「……チビ、気をつけろよ。こりゃあ、何かあるぜ……」
お姉ちゃんもいつもと違う敵の様子に怪訝そうな顔で私に忠告しました。
やがて主力部隊が到着し、司令官さんの指示の下、いつも通り敵の部隊の殲滅にあたります。
ここで空母の誰かが索敵を行っていたら、敵の動向を探る事が出来てたかもしれません。
結論から言うと、お姉ちゃんの予想は当たりました。
気が付いた時にはもう遅く、主力戦力を含めた私たち前線部隊は敵の挟撃にあっていました。
司令官さんが命令して突貫を仕掛けた部隊は、敵の主力部隊ではなく、敵の囮部隊なのでした。
それは、私たちが今までやっていた囮作戦と同じ戦法なのでした。
敵部隊の弾幕が主力部隊を囲みました。
沢山の敵戦艦からの一斉砲撃です。
嵐のような横殴りの砲弾の雨が、一瞬にして辺り一帯に降り注ぎました。
今までにない事である為、司令官さんもパニック状態になっており、司令塔を無くした主力部隊はまともな指示を受けないまま、次々と沈んでいきました。
当然、囮部隊も無事では居られず、様々な方向からの砲弾で、部隊の皆が瞬く間に沈んでいきます。
私は気は抜いてはいません。
いつでも動けるように頭を働かせていました。
ですが、あまりにも降り注ぐ砲弾が多い為、私は対処のしようがありませんでした。
1発目。私の脇腹を掠め、小破しました。
2発目。私の右腕を掠め、大破しました。
3発目。私の目の前に着弾。恐らく戦艦の夾叉弾なのです。
そして、4発目。砲弾が私の眼前に迫りました。
――ああ、あっけないのです。
そう思い、私は目を瞑り、その瞬間を待ちました。
そして、横から何かに押されるような衝撃を受けました。
──────
「畜生……痛てぇなあ……おいチビ、目を開けろ。どんな事があろうとも、目の前に起きている出来事に最後まで目を背けるな」
その声に私は目を開きます。
そして、私の眼前に飛び込んできたのは、片腕が吹き飛ばされ、その腕先から大量の鮮血を流す、お姉ちゃんの姿なのでした。
「お……お姉ちゃん……そ、その腕……!」
「……なぁに、腕が1本無くなった程度だ……それよりも」
私は直ぐにお姉ちゃんに駆け寄り、失った腕先から流れる血を止めようと両手で押さえつけました。
ですが、お姉ちゃんはそれを拒み、携帯していた包帯を腕に巻きつけながら、私に言葉を投げかけます。
「よく聴けチビ……この戦はどう見たってこっちの大敗だ……この様子だと後援部隊もすぐ撤退を始めるだろうな……このままだと俺たちは主力もろとも海に沈む事になる」
先程よりも砲弾の雨はおさまっていましたが、それは敵戦艦が次弾装填の為、砲撃を行っていないからでした。
ですが、それも時間の問題です。
もうすぐ、2回目の斉射が私たちを取り囲むことは分かりきっていました。
「……チビは、南に20海里言った所に小さな島が点々としている場所に全速力で向かえ。あそこなら敵をうまく撒いて、撤退する部隊と合流出来るはずだ」
「じゃあ、早く行くのですっ! 」
しかし、お姉ちゃんは首を左右に振りました。
「悪いがこの傷だ。もう逃げ切れるだけのスピードが出ないんだよ……」
「そんな……」
「それに残党狩りの追っ手も直ぐやってくるだろうしな……誰かが少しでも止めなきゃならねぇ……だからな、チビ」
私はお姉ちゃんの諦観した表情で察しました。
私はその先の言葉が聞きたくありませんでした。
「お前だけで行け。敵艦は俺がひきつける」
でも、時間がそれを許してくれませんでした。
「い……いやです! 嫌なのです! お姉ちゃんも一緒に行こうよっ……!」
私はお姉ちゃんに詰め寄り、必死に止めようとしました。
「チビ、分かってくれ。少しでも追っ手の注意を引かなきゃ、俺たちまとめてあの世行きなんだ」
「それでも、お姉ちゃんとなら一緒に生きて帰れるよ……その腕もきっと治るのです!……もしダメでも、私がお姉ちゃんの腕の代わりになってあげるのです!……だから……だからっ!」
私は怖かったのです。
この時分かったのが、私は他の艦娘とは違い、私にとって最も大切な存在が、司令官さんの存在ではなく、お姉ちゃんの存在だという事なのでした。
私はその存在を失う事がとても怖かったのです。
私の目からは、ぼろぼろと涙が零れ落ちました。
お姉ちゃんは何時もの優しい笑みを浮かべ、口を開きます。
「泣くなよ。所詮、俺は艦娘だ。生まれた時から戦って死ぬつもりだったぜ。それに、誰かを守って死ねるなら……これ以上の名誉はねぇよ」
「死んじゃダメなのです……! 私……お姉ちゃんが居なきゃダメなのです……」
そうなのです。
私はお姉ちゃんが居たからここまで頑張ってこれたのです。
今まで生きてこれたのです。
私はお姉ちゃんが居なくなった後、私ひとりで生きていく自信がありませんでした。
「お姉ちゃんが行かないのなら……私も一緒に……!」
私のその先の言葉を遮るように、お姉ちゃんは泣きじゃくる私の頭の上に、残された側の手を乗せ、いつものように私の髪をぐしゃぐしゃと撫でました。
「はは……思えば碌な事がない一生だったが、今になってやっと分かったわ」
その時のお姉さんの顔は、先ほどの諦観した表情とは違い、今まで見たことないほど、生き生きとしていました。
そうして、お姉ちゃんは迫りくる多数の敵艦を見据えました。
「チビ……俺からの最後の頼みだ。お前は生きろ。それで俺が今まで生きてきた意味を証明させてくれ」
「お姉ちゃん……」
私はもう、お姉ちゃんに何を言っても無駄だろうと思いました。
そして、お姉ちゃんの最後の頼みを、私は断る事なんて出来ませんでした。
私は、もはや何も言えませんでした。
「行けっ! もうすぐ2回目の斉射がくる!」
私は泣きながらお姉ちゃんに大きく頷き、その場を全速力で離れ、南へ向かいました。
私はわんわん泣きながら、一度もお姉ちゃんの方を振り返らず、お姉ちゃんが言っていた場所へと向かいました。
そして、お姉ちゃんが最後に私に投げかけた言葉だけが、ずっと頭に残り続けました。
「じゃあな、電……強く生きろよ」
――お姉ちゃんの名前を聴けなかったのは、私の一生の後悔のひとつなのです。
──────
敵の追っ手はなく、私は撤退する部隊に上手く合流する事が出来ました。
でも、お姉ちゃんが戻ってくる事は最後までありませんでした。
結局、主力・囮部隊問わず、前線で生き残ったのは私を含む、数名の艦娘だけでした。
帰港して直ぐに目に入ったのは、先程の戦いで混迷を極めた鎮守府の姿でした。
慌しく重傷者を運ぶ衛生班。
泣け叫び戦友を弔う艦娘。
大本営からの応援や憲兵さん達でごった返す港。
私も大破していたという事もあり、有無を言わさず入渠ドッグに運び込まれました。
運ばれる途中、数名の憲兵さんに拘束された司令官さんの姿が目に映りました。
最初は抵抗していましたが、大本営から派遣された高官さんの顔を見るや大人しくなり、そのまま憲兵さんに引き摺られて行きました。
後から聞いた話によると、艦娘庇護派が多い大本営にとって、司令官さんの存在は目に余るものがあり、今回の作戦の大失敗で近々軍事法廷にかけられるみたいです。
その司令官さんがどうなったかは私にはわかりません。
ですが、司令官さんは、私たちの目の前に二度と姿を見せる事はないだろうと思いました。
そして、その大本営の高官さんが臨時としてその場の指揮を引き継ぎ、この事態は収束したのです。
――――――だから、電ちゃんは兵器なんかじゃないよ。立派な「人間」だよ。
──────
「やぁ、新しく着任した――だ。よろしく頼むよ」
先日の地獄から抜け出してから、しばらくゴタゴタが続いた後、新しい司令官さんが着任しました。
そして、司令官さんの指揮の元、鎮守府内の組織の見直しが行われました。
その司令官さんも30代前半の若い司令官さんなのでした。
ですが、軍人さんとは思えない程、性格は温厚で、背は低く、顔立ちは幼く、そして大きく輝かせた目が特徴で、私たちにいつもニコニコと話しかけてくれたのです。
他の艦娘の話によると、大本営の重鎮である海軍中将さんの一人息子との事でした。
私が以前所属していた囮部隊は、組織の見直しの際、最初から存在しないように静かに解散され、その存在は大本営の暗部として戦争の闇に葬られました。
そして、私は前線から、しかも囮部隊で生き残ったという実績を買われ、秘書艦および後援部隊の旗艦に抜擢されました。
私は秘書艦業務を行いながら、遠征任務や近海防衛任務の旗艦として戦い、他の艦娘たちに戦い方を教えました。
以前の囮部隊と比べればずっと楽ではありました。
それでも私は、軽巡のお姉ちゃんの教えに従い、程々に任務を遂行し、そして一度たりとも気を緩める事はしませんでした。
──────
司令官さんが着任して以来、ひとりも沈む事はありませんでした。
ですが、それは主な任務が近海防衛や遠征任務が中心だからなのです。
その分、戦果は上がりません。
普通なら、結果を出さない司令官さんに対して、大本営から何かしらの通達があってもいいものでしたが、海軍中将さんの息子と言う事もあってか、あまり大本営も強くは言えませんでした。
仲間が沈まないという事はとても良い事なのだと思います。
しかし、私にとっては、戦場で生死を彷徨っていた日常が、私の日常だった為、この任務が少ないという非日常は、とてもむず痒く感じました。
それは一部の艦娘たちも同じで、口には出さないものの「自分は実は必要とされていないんじゃないか」というフラストレーションが溜まる一方なのでした。
──────
「何故、司令官さんは前の司令官さんみたいに、もっと私たちに命令を与えないのですか?」
私はそれもあり、秘書艦業務の際、執務机に座っていた司令官さんにその事を投げかけました。
「……電ちゃん?」
「私たちは兵器なのです」
「……それは……」
司令官さんは苦虫を噛んだような顔をして言葉を詰まらせましたが、それを気にせず、私は言葉を紡ぎます。
「艦娘として生まれた以上、戦って死ぬべきではないのですか?」
突然、感情を爆発させた司令官さんの返答に、私は思わずぎょっとしました。
普段、温厚だと思っていた司令官さんだからこそ、尚更なのです。
司令官さんは、執務机から椅子を蹴り倒しながら立ち上がると、ずかずかと私の前に歩み寄ります。
正直、怖かったのです。
そして、司令官さんは私の両肩に手を置き、その大きな目で私の顔を覗き込みました。
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