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    元スレ提督「…さぁ出撃してこい!」 曙「黙れクソ提督」

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    651 :

    再開に期待

    652 :

    続き待機です

    659 :

    何が楽しくて荒らすのか判らんわ

    660 :

    気違いの心を知ろうとするな

    661 :

    乙の少ない作者の嫉妬・粘着
    良い作品作るより潰すことにイキガイ見出したキチガイ

    662 :

    もう1もいないとおもうけど乙です
    面白かった

    663 :

    糞スレが潰されてて草生える

    664 :

    お盆にも生存報告なり来なかったらもう無理だろうな

    665 :

    保守はしとくぞ

    666 :

    この世界の艦娘は貴重らしいから総督が艦娘達を騙すとは考えにくいし、提督生存説に一票
    五月雨や不知火達に提督とシリアスでギャグで感動の再会してほしいな…

    667 :

    最後のSS投下からは一年か……ラスト読みたいなあ……

    669 :

    続きはよおおお

    670 :


    お久しぶりです。
    保守してくれていた方、本当にありがとうございます。
    まさかまだ応援してくれている人がいるとは思わず…。慌てて筆を取りました。

    亀更新になりますが、また生暖かい目で見守ってください。

    671 = 1 :

    青いケータイが鳴る。

    前までは鳴ることが楽しみで仕方なかったケータイ。
    大好きなあの人の声を耳元で聞けたケータイ。
    大好きだったケータイ。

    …しかし今は…。

    ???『もしもし五月雨か?次の作戦を伝える。すぐに行動に移るように』

    五月雨「…はい」

    鳴ることが怖くなってしまった私の青いケータイ。
    大好きなあの人と似た声を耳元で聞けるケータイ。
    嫌いになってしまった私の青いケータイ。

    電話の向こうの私の提督。
    永久戦犯として、ない罪を着せられ処刑されたという私の提督。
    しかしながら、実は生存しており、投獄されている牢屋から秘密裏に私たちに指示を出している…

    という設定で私の提督のフリをしている知らない誰か。

    その誰かが今日も私たちに指示を出す。

    ???『ーーーーーーーー』

    聞こえる不愉快な雑音に自然と顔がこわばる。
    無茶苦茶な作戦。
    聞いてて頭痛のする連戦。

    …分かっている。
    この電話の向こうにいる人間は私たちの提督ではないと。私たちの提督はこんな無茶な命令を出す人じゃないと。

    …しかし。

    川内「それで!提督は私たちになんて言ってた?!」

    時雨「いつでも出れるよ!」

    夕立「提督さんのお役に立つっぽい!」

    目をキラキラと輝かせながら…。

    …いや。
    もはや返り血か己の血かも区別できないようなボロボロの体に、不自然と目だけランランと輝かせながら、今しがた帰投したばかりの艦隊がこちらの命令を心待ちにするように、胸の前に手を組んで、静かに私の言葉を待っている。

    彼女達は私の青いケータイの先にいるのが、本物の提督だと信じているのだ。

    …いや違う。

    きっと本心では全員気づいている。
    私の青いケータイの先にいるのは私たちの提督ではないと。分かっている。気づいている。
    しかし、そうじゃないと。
    提督が生きていると思わないと。

    もはや彼女達は自分の心を支えることができないのだ。

    五月雨「…提督からの命令は…」

    一瞬の思考。

    672 = 1 :

    五月雨「…皆さん、連戦お疲れ様でした。しばらくゆっくり休んでください…とのことです」

    川内「…ッそっかぁ…」

    夕立「…ッ残念っぽい…」

    時雨「…」

    もちろん嘘だ。
    休めなんて言われていない。

    しかしこれ以上見てられなかった。

    …それはまるで自傷行為。
    自分を責めるように、追い詰め、傷つけ、まるで許しを乞うように、許される場を求めるように。
    無理難題の命令でも、彼女達は笑顔で出撃していく。

    そんな仲間たちをもうこれ以上。
    私は見てられなかったのだ。

    バラバラと。
    言葉も交わさず無言で、艦隊は解散していく。
    皆うつむきながら、静かに。

    五月雨「……ッ」

    私は立ち去るみんなの背中を見つめながら考える。

    あぁ。
    どうすれば。
    どうすればよかったのだろう。
    …どうすればこんな結末を防げたのだろう。

    673 = 1 :


    ー食堂ー

    天龍「ッ今こそ反旗を翻す時だ」

    行くあてもなくさまよい、気づいたら私は食堂の前にいた。中から天龍さんの声が聞こえてくる。

    天龍「大本営のやり方はずっと前から気に入らなかった。…そもそも、俺たちは望んで艦娘になったわけじゃねぇ。…家族を奪われ、艦娘になる以外の道を奪われ、それでも。この国のためだと信じて戦ってきた」

    天龍「ッなのに、そんな俺たちから、あいつらは提督さえ奪っていった…!!」

    天龍「許せるはずないだろう…!そのくせ、今度は提督のフリをして、俺たちを騙し、命令してきているなんて…!!」

    五月雨「…」

    入り口の前でたたずむ。
    見なくてもわかる。
    上ずった天龍さんの声。
    …きっと彼女は泣いている。

    瑞鶴「…でも。きっと私達の提督は…」

    龍驤「大本営に謀反するなんてこと望んでない…とか言いたいんやろ?…でもな。…だったら」

    龍驤「ッうちらはこの怒りをどこにぶつけたらええねん…!!」

    場が静まりかえる。

    みんな壊れてしまった。
    提督がまだ生存していると盲信するもの。
    提督の死を受け入れて、その増悪を誰かに向けるもの。

    私はどうすればよかったのだろう。
    …あの人はどこで間違えたのだろう。
    大本営はなぜ、本当にあの人を殺してしまったのだろう。

    考えて。
    分からなくて。

    私はそっと食堂を後にした。

    674 = 1 :

    ー波止場ー

    あてもなく歩き続けた私は、気づいたらこの場所にいた。
    視線の先には青い海。
    白いしけがウサギのように跳ね、どこまでも、遠く、遠くへ広がっている。
    太陽は傾き始め、西の空はだんだんと紅に染まり、東の空は黒い静寂が飲み込んで行く。

    提督のいなくなった私の時間は、あの時止まってしまった。
    しかし世界は変わらず、私だけを置いて時間を進めて行く。

    …そんな錯覚に囚われる。

    どうすればよかったのだろう。

    毎日そればかりを考え。

    …そして毎日同じ結論に至る。

    五月雨「…私のせいだ」

    提督はいい人だということをみんなに早く伝えていれば。
    囚われた提督をすぐに助けに行ってれば。
    提督のやろうとしていることに気づいていれば。

    きっとこんな結末にはならなかった。

    青いケータイ「pppppp…」

    五月雨「ッ」

    不意に。
    ポケットの中の青いケータイが鳴る。

    …気付いたのだろう。
    私が命令を無視していることに。

    手が震える。
    電話を取るのが怖い。

    でも。

    ポケットの中のケータイを取り出し、固唾を飲んで、そっと電話に出る。

    その瞬間、私の青いケータイは隣から引ったくられ、海に投げ込まれた。

    675 = 1 :

    五月雨「ッ!!??」

    突然のことに驚く私を、誰かが抱きしめる。

    息苦しいほど強く抱きしめられながら、混乱する私の耳元に、誰かが囁いた。

    「…あんたのせいじゃない」

    五月雨「…あけ…ぼのちゃん…?」

    「…ッあんたは何も悪くない!!!」

    耳元で出される大声に体がビクリと震える。

    「…全部一人で抱え込まないで」

    五月雨「ッ…」

    …そうだ。そういえば。
    みんな壊れてしまったが。

    彼女だけは違った。

    五月雨「…曙ちゃんは強いね…」

    「…本当に強いのはあんたでしょ?」

    彼女だけは。
    曙ちゃんだけは。
    みんなと同じように悲しみ、震え、泣きながらも、懸命に前を向いて、周りを叱咤激励し、鼓舞し、背中を押し、少しでも前を向くように、時に悪役に周りながら、周りを励まし続けていた。

    676 = 1 :

    五月雨「…」

    「泣いてもいいから。辛っかたら私達を頼ればいいから。…もう1人で抱え込まないで…」

    あぁ。
    もし。
    もしもだ。

    彼女なら。

    提督の嘘に初めて気づいたのが私ではなく彼女なら。

    曙ちゃんなら。

    こんな結末を防げたのではないだろうか。

    五月雨「曙ちゃん…。きっとあなたなら…」

    「…?なによそれ?」

    説明はしない。
    ポケットの中から取り出した箱。
    小さな押しボタン付きの箱。
    明石さんが作り上げた、銀色の箱。

    それを曙ちゃんの手に握らせ、曙ちゃんの細い指をボタンにあてがう。

    「ちょ、五月雨、なにこれ?ボタン?」

    五月雨「曙ちゃんなら。…きっと」

    ボタンを握る曙ちゃんの手を私の手で包み込むように握り、そして、曙ちゃんの指を私の指が軽く押す。

    カチリという小さな音。

    明石さんはこのボタンを、リセットボタンと呼んでいた。

    677 = 1 :


    ー ふと目が醒める。

    「…ふぅ。やれやれ。…世話がやけるわね…」

    「…はぁ?雷が好きで世話を焼いてるんでしょう?」

    「スパシーバ。…二人とも子供じゃないんだから…」

    「け、喧嘩は良くないのです!」

    …どうやら私は鎮守府の廊下の壁に寄りかかりながらうたた寝してしまっていたらしい。

    目の前では第六駆逐艦隊の子たちが『いつもの』喧嘩という名の言い争いを繰り広げている。

    ぼんやりとその光景を眺めながら、私は小首をかしげた。
    …なんだろう。
    …時間にしたら短いはずだが、なんだかずいぶん長い夢を見ていた気がする。

    「電もいい加減、艤装の装着くらい一人で出来るようになりなさいよ…!」

    「や、やってもらわなくても一人でやろうと思えば出来るのです!」

    「もういいわよ、先に私自分の部屋に帰ってるから!」

    「…はぁ。じゃ私も自分の部屋に帰るよ。じゃまた集まるのは午後だね」

    678 = 1 :


    …耳をすませば遠くから加賀さんと瑞鶴さんが言い合う声や、どこかで激しい喧嘩でも起きてるのか、爆発音も聞こえてくる。

    …よかった。『いつもの』クソ鎮守府だ。

    私は廊下の壁から背を離し、大きく伸びをする。
    なんだか頭に靄がかかっている。
    そして異様に気だるい。

    「あ、曙ちゃん。…お、おはようなのです」

    「…ん。おはよ」

    窓から差し込む太陽の光に目を細める。
    まずはとりあえず食堂に向かおうか。
    今日も、うるさい1日が始まる。

    679 = 1 :


    ー 司令室 ー

    加賀「…このマヌケな五航戦を艦隊から外してください。…足手まとい以下です。気が散ります」

    瑞鶴「はぁあ??!それはあんたが勝手に対抗意識燃やしてるからでしょう!!?」

    加賀「あなたがでしゃばらなければ、大破撤退なんて結果にはなりませんでした」

    瑞鶴「私が前に出なかったら今頃みんな海の藻屑よ!!」

    小さな言い争いから始まった二人の喧嘩はどんどんヒートアップして行く。
    今までの優しい提督の前なら私も黙って聞き流していただろうが、今度の提督はそうはいかない。

    山城「…あ、あの…ふ、二人とも…」

    目の前に座る最近着任した新しい提督は机を指で叩きながら、メンドくさそうな、うっとうしいものを見るような…。…いや、まるで不良品の道具を見るような目つきで私たちの方を見てくる。

    瑞鶴「ーあなたのせいでー!」

    加賀「ー誰のせいですって?ー」

    提督「ーで?」

    氷のように冷たい低い声に、あれだけ熱くなっていた2人が一瞬にして黙り込む。

    提督は一枚の紙を指差しながら、なお冷たい声で言い放った。

    提督「俺はお前らの中のどの不良品を解体すればいいんだ??」

    皆、おし黙る。

    提督「いいかよく聞け。今まではどうだったか知らないが、今は違う。ここは俺様の城で、お前たちは俺様の駒だ。よって、俺の出世の足を引っ張る出来そこないは容赦なく切り捨てるし、くだらぬ喧嘩する馬鹿どもも容赦なく解体する」

    提督「…もう一度聞くぞ?…誰が今回の戦犯だ?」

    不自然に手が震える。
    怖い人だ。
    恐ろしい人。
    誰もが目線をそらし、肩をふるわしたその時

    680 = 1 :


    長門「私だ」

    生つばを飲み込んだ私の隣に立つ長門さんが、一歩前に進みでた。

    長門「艦隊の責任は、旗艦の私の責任。戦犯は私だ」

    提督「…ほう。少しは話のわかる奴がいるじゃないか」

    長門「よって解体するなら私を指名してもらいたい。この長門の首をはねる勇気が貴様にあるならな」

    提督「ククク。貴様はうちの最重要戦力だ失うわけにはいかん。…救われたな、後ろのバカ空母ども。上官に感謝しておけよ。…ただし次はない」

    長門「肝に命じておく」

    加賀「…ッ」

    瑞鶴「…長門さん…」

    提督「話が済んだなら早急に出て行け。貴様らと話をするとオイル臭くてたまらん。…私の一張羅にオイルの匂いが染み込んだらどうするつもりだ?」

    山城「で、出ましょう、皆さん!?」

    まだ何か言いたげな加賀さんの背を押し、ゾロゾロと提督の部屋から出る。

    なんて提督だ。
    艦娘のことを本当に物か道具だとしか思っていない。
    前提督が懐かしい。恋しい。
    どうしてこんなことになってしまったのでしょう。
    …あぁ、この鎮守府はこれからどうなっていくのでしょう。

    681 = 1 :


    ー 司令室 ー

    提督「…」

    提督「…行ったか?全員行ったな?」

    提督「あーもう疲れたもおおおおん!!!…はぁ。楽じゃないなぁ。…クソ提督になるっていうのは…」

    提督「オイル臭いだって?全員いい匂いだくそったれ!!!」

    提督「はぁ…いやぁもうほんと…心が…痛いなぁ…。…俺はこのやり方でいいんだよな…?続けていいんだよな…?自信を持っていいんだよな…?」

    682 = 1 :


    鎮守府ー廊下ー

    「ん?」

    ボンヤリする頭で廊下を歩いていると、前から書類が歩いてきた。
    …否。
    頭の高さより高く積んだ書類を抱え、フラフラと歩いている誰かに会った。
    特徴的な水色のポニーテールがアワアワと跳ねる。

    五月雨だ。

    そう思うと同時に予想した。

    間違いなくコケると。

    五月雨「ッキャッ!??」

    「ッ!!」

    脳裏によぎった光景通りに廊下に倒れこむ五月雨を咄嗟に受け止める。

    五月雨「あ、曙ちゃん!?…すすすすすみません!!…た、助かりました…」

    「はぁ。全く誰よ。ドジなあんたにこんなに書類を押し付けたのは…」

    五月雨「うぅ…それがぁ…」

    床に散らばった書類を集めながら目を通していくと、どうやら五月雨が運んでいるのは、さまざまな艦娘の戦績記録や弾薬消費、燃料消費記録であることがわかった。
    これらの書類は本来なら、個人で提督に出すか、旗艦に預けて、旗艦の人がまとめて出しに行かなければ行けないのだが…。

    おおかた、お得意のお人好しで、みんなの分を引き受けてるうちに、この量になってしまったのだろう。

    683 = 1 :


    「はぁー。まったく。このお人好しめ」

    五月雨「…別に重たいものを運ぶのはいいんです。何が一番辛いかって…」

    少し肩を震わせながら、五月雨は宙を仰ぐ。

    言わなくてもわかる。

    最近きた、新しい提督に会うことだろう。

    毒舌で唯我独尊、クソの中のクソの新しいキングクソ提督は、グズでノロマな五月雨には皆の前でかなり辛く当たっていた。…そんな彼女にとって提督と会うほど辛いことはないだろう。それなのにこんな仕事を引き受けてしまうとあたり、ほんとどこまでお人好しなのか…。

    五月雨「…」

    ボンヤリと宙を仰ぎ続ける五月雨。

    「…」

    私も寝起きのボンヤリとした頭で、その五月雨を見つめる。

    …?
    何か忘れている気がする。
    なにか。

    …なにか。

    684 = 1 :


    五月雨&曙『あ、あの…』

    気まずい。
    声が重なってしまった。
    顎でしゃくり、五月雨に先に話すよう促す。

    五月雨「あ、あの…もし良かったら、この書類、提督の司令室まで代わりに運んでもらえないですか…?」

    「奇遇ね。私も今それを提案しようとしていたの」

    多分気のせいだけど。
    ガチャンと。
    どこからか。
    まるでレールが切り替わるような音がした気がした。

    五月雨「じゃ、じゃあ頼みました、曙ちゃん。…その。…よろしくお願いします」

    「…ええ。…任せなさい」

    五月雨から書類の山を受け取る。

    目指すは司令室。

    685 = 1 :


    ー司令室ー

    『遠征艦隊より入電!…敵艦隊と遭遇し現在交戦中!』

    川内『ッ提督聞こえる!??見たことない敵と交戦中!!ッでも私たちだけじゃちょっとキツイかも!!応援を…!!』

    提督「」ッブゥー!??

    飲んでいたコーヒーを吹き出し、無線機を引ったくる。

    提督『あ、あー。オホン。現状を教えろ』

    川内『駆逐艦の子が何人か、えーとあれは、吹雪ちゃんだっけ?…吹雪ちゃんが大破。え?深雪?…とりあえず1人大破、2人中破して…ッのやろおお!!ちょこまかと!!!この際、応援がなくても夜戦まで持ちこたえてやれば…!!』

    聞こえてきた報告に言葉を失う。
    もう何回目だろう。このような展開は。

    同じ艦隊のメンバーの顔と名前すら一致しないまま出撃し、武功を得るため無茶をし、挙句撤退の二文字はない。
    先陣を切り、怪我をする者。
    功を焦って、被弾する者。
    武功を取り合って、争う者。

    前提督と艦娘の間に絆はあっても、艦娘同士の間に絆はない。

    改めてこの現状を痛感する。

    提督『大破しているものがいるなら撤退しろ。全く使えない鉄くずどもだ』

    川内『撤退?…あー。じゃあもう帰りたい子は帰っていいよー。私1人でもやるから…!!』

    提督『ッ』

    私の言葉は届かない。

    ことは一瞬一秒を争う。

    恥をもう一度捨てよう。

    一旦無線を切り、館内放送へ切り替える。

    686 = 1 :


    ー鎮守府 廊下ー

    「ん?」

    提督妖精?『館内放送!今から呼んだ艦娘は大至急、艦隊を組み、第二艦隊の救助に向かってください!!…神通!島風!龍驤!…』

    「…ッ提督妖精だ」

    鎮守府内がざわつき、そして一気に慌ただしくなる。
    提督妖精とは数日前、長門さん率いる第一艦隊が正体不明の敵と交戦した時姿を現した、この鎮守府に昔から住む妖精だ。

    提督妖精はその類稀なる戦術とセンスにより、一時は全員揃っての帰港は不可能だと思われた絶望的な状態を切り抜け、正体不明の敵も大破撤退させるまで追い詰めた、猛者中の猛者。この鎮守府に所属する艦娘、全員が認めた、軍師中の軍師である。

    「…。さすがに、提督妖精が頑張ってる今、司令室にこんな書類を持っておじゃまするのは悪いわよね…」

    司令室はもう目と鼻の先だが、私はその場に資料を下ろし、ことがひと段落するまで待つことにした。

    687 = 1 :


    ー司令室ー

    提督妖精『聞こえますか!!川内さん!!私です、提督妖精です!!』

    川内『ッ!!?…て、提督妖精だって!?数日前のあの…!!?』

    提督妖精『索敵交戦立派でしたご苦労さまです!!…今、応援艦隊を派遣しました!!現在地から北西の方角に至急後退してください!道中、渦潮が発生している箇所があります!!その場では応戦せず、敵と距離を取ることだけに集中してください!!』

    川内『…わかった!』

    提督妖精『負傷者している方は応戦せず、北西へ急いで!周囲の索敵は忘れないように!』

    688 = 1 :


    ー鎮守府 廊下 司令室前ー

    提督妖精『ーー!』

    「…」

    扉の向こうから、おそらく、無線に向かって指示を飛ばしている提督妖精の声が聞こえる。

    分厚い扉を隔ているため、何を言っているのか詳しくは聞こえないが、まだ忙しそうだ。

    「…そういえば…」

    第二艦隊といえば、川内率いる艦隊だったはずだ。吹雪たちもそこにいたはず。

    吹雪とはそんな面識があるわけではないのだが、彼女とはよく廊下ですれ違う。
    たまにおはようと声をかけられる。

    私は無視するが、彼女はそれでもすれ違うたびに挨拶してくる。

    そんな関係、それだけの関係。

    「…」

    気がついたら、司令室の扉にそっと耳を当てていた。

    別に吹雪が心配なわけじゃない。
    ただちょっと気になっただけ。

    この鎮守府はこれまで大怪我する人や殉職する人が多かったから。

    そう、ちょっと気になるだけ。

    689 = 1 :


    提督妖精『…派遣艦隊の皆さんは第二艦隊と合流次第、負傷者を優先的に保護してください!』

    これまでくぐもって聞こえづらかった提督妖精の声が、こうするとハッキリ聞こえた。

    (ッ負傷者…)

    やはりだ、怪我人が出ている。
    …大怪我じゃなければいいのだが…。

    提督妖精『保護が終わったら、そのまま鎮守府へ帰港してください!…軽空母の皆さんはその際、爆撃で敵の目くらましを!』

    その後もテキパキと提督妖精は指示を飛ばす。

    提督『ぐああ。高い声出しすぎて喉が…』

    「ん?」

    提督妖精『合流できましたか!!よかったです!!あとは指示通りに!!』

    「…」気のせいか

    提督『…ふぅ。これでひと段落か…』

    「…は?」

    提督『いや、まだ気は抜けないな。皆が無事帰ってくるまでは…。しかしどういうことだ、あの安全な海域で第二艦隊を撤退に追い込む敵だと?…ありえん、何が起こってる?』

    「…」

    690 = 1 :


    とある時空で。
    同じように仲間を心配して司令室の扉に耳を当て。
    疑惑を抱き。
    そっと、扉を開けて司令室の中を覗き見た少女がいた。
    長い水色のポニーテールの少女は、そこで、提督の嘘に、秘密に気づいてしまった。



    そして今。



    「…あんた、何してんのよ」

    提督「」((((;゚Д゚)))))))



    運命は大きく変わりだす。

    691 = 1 :


    ービックセブンの部屋ー

    長門「…ふむ」

    陸奥「…どうしたのよ、難しい顔をして…」

    長門「…少し静かに。今、集中している」

    新しく来た提督。
    彼は皆から言わせれば恐ろしい提督だ。

    だがしかし。

    私は気づいている。
    提督妖精と提督が同一人物であることに。

    声のパターン、声の質。
    無理して彼が高い声を出しているのは想像に難くない。
    洞察力の優れたものなら、おそらくすぐ気付くことができるチャチなモノマネのレベルだ。

    もっとも。
    彼が、提督妖精になる時は生きるか死ぬかの瀬戸際なので、提督妖精の声のパターンに集中する、そんな余裕をさける者が果たしてそう何人もこの鎮守府にいるかは別の話だが。

    692 = 1 :


    長門(…仮に同一人物だとしたら)

    彼は嘘をついていることになる。
    周りに自分のことを恐ろしい人間だと、艦娘を物としか思っていない冷たい人間だと、思わせるようにワザと行動していることになる。

    なぜ?
    なんのメリットがあって?

    陸奥「…はぁーそれにしても気が滅入るわ。…また今日も午後にあの提督に会いに行かなきゃいけないなんて…」

    ブツブツと陸奥が文句を言う。

    …最近の陸奥は言葉が増えた。
    前提督の時にはお互い武功を取り合う関係にあって、ほとんど会話はなかったのだが、今はよく提督の悪口という話題で話を…。

    長門(…話?)

    そういえば陸奥だけではない。
    最近は、艦娘みんなが話し合うことが増えた。

    提督の悪口という話題を。

    昔は艦娘同士で任務のこと以外で話すことはごく稀だった。姉妹艦のように仲のいい間柄以外では、ろくに会話はなかった。

    だが今は。

    長門(…読めて来た)

    693 = 1 :


    つまりだ。

    提督は。
    私たちの共通の敵にあえてなることで、私たちを結束させようとしているのではないか。

    …なるほど。
    こう考えれば、一見チグハグの行動も、あの役者くさいクソ提督の真似事にも、全部説明がつく。

    全くなんという男だ。

    私たちのために、あえて己を外道に落とし、私たちのために、嫌われ役をその身に一身に引き受け。

    …私たちのために。

    ふむ。

    あの男はいいやつだ。

    素直に認めよう。前提督よりよほど、私は今、提督に好印象を抱いている。

    694 = 1 :


    長門(…さて、だとしたら)

    私がするべきことはなんだろう。
    提督のサポートをするためには。

    私から積極的に周りと会話をする?

    …いや、NOだ。私はそういうキャラではない。私から話しかけたところでみんな萎縮して逆効果だろう。…今までの行いからも容易に想像がつく。

    では提督に私が提督の嘘に気づいてることを伝え…

    …いや、NOだな。
    ただでさえあの大根役者っぷりだ。変に動揺を与えたくない。それに伝えたところでどうする?。私も騙されているていの方が提督もやりやすいだろう。

    長門「…むぅ」

    陸奥(今日はやけに考え込んでるわね…)

    695 = 1 :


    ???「ちょっとごめーん、失礼するよ」


    長門&陸奥『ん?』

    北上「陸奥さんは…あーいたいた。陸奥に用があって…」

    陸奥「あらあら。…北上さん?…どうかしたのかしら?」

    北上「昨日の洗濯当番、陸奥だったよね?…実はさぁ、私の下着が見当たらなくって…。もしかしたらどこかに紛れてないかなぁって…」

    陸奥「あらそれは大変ね。…でも確かに、洗濯し終わった後の下着は、お風呂場の北上さんのカゴに制服と一緒に畳んで置いておいたはずだけど…」

    北上「うーん。そっか。となると…まさか下着泥棒?」

    大井「ゆ、許せません!!北上さんの下着を盗むなんて!!」

    陸奥「そんな女の子しかうちには…いや。…まさかあの提督が…。いやまさかね…」

    696 = 1 :


    大井「まったくどこの不届きものですか!!北上さんのくまさんパンツを盗んだのは!!」

    北上「…」

    大井「…ん?どうしたんですか?北上さん、私の顔になにか…」

    北上「私はまだ大井っちに、無くなったのはくまさんパンツだなんて、一言も伝えてないんだけどなぁ」

    大井「あ…」

    陸奥「…」

    北上「…」

    697 = 1 :


    大井「い、いやですわ北上さん!ルームメイトだから察しがついただけで、その…あの…!!」

    北上「ごめーん、邪魔したね陸奥、長門さん。下着の場所分かりそうだからお暇するね」

    陸奥「え、えぇ」

    北上「…さて大井っち。…覚悟はいいかな?」ワキワキ

    大井「バッチリです」ハァハァ

    北上「…本音が漏れてるよ大井っち…」

    陸奥「…あまり深く考えないようにしましょう」

    長門(下着泥棒…。…ッ!!…なるほど、その手があったか!!…私は私で、艦娘たちの共通の敵を生み出せば…!!)

    長門「…ふふふ」

    陸奥(む。…あれは何か思いついて企んでる顔ね)

    698 = 1 :


    …というわけで『曙ルート』です。

    題名にいるのに出てこないという意見を聞き、なんとかボノたんを活躍させようと思ったら、いつのまにかこんな話になってたぜ…。ドウシテコウナッタ。

    前回ラストはハッピーエンドともバットエンドともとれるモヤモヤルートで、今回は、もし前回ラストがバットエンドだったら…ということで話が続きます。

    ややこしいですがよろしくお願いします。
    それでは、おやすみなさい。

    699 :

    生きてたのか盲腸で死んだものと思ってた

    700 :

    4レスしか出番のなかった曙がようやく


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