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    元スレ八幡「一色が死んだって……?」」

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    151 = 1 :

    ドアを開くと、その先にあったのはただの廊下だった。灯りが一つしかついていないせいで、ここもさっきの部屋ほどではないが薄暗い。

    すぐそこに彼がいるのではないだろうかという恐怖に駆られながら、出口を求める欲が足を進める。

    角を曲がるとまたその先にはドアが見えた。しかし今までのとは違い向こう側が透けて見える代物で、ドアの向こう側からは白く明るい光が漏れていた。

    「外……出られる……」

    これでこの地獄から逃げられる。そう確信した私の歩みは加速し、安堵から笑みすらもれた。

    ドアノブに手をかける。生きたい。逃げたい。その思いがノブを握る力を強めた。そして高鳴る鼓動を抑え込みながらドアを開いた。

    「えっ?」

    まず私の目に入り込んできた色は、赤だった。

    赤。

    赤。

    ――真っ赤な、血の色。

    152 = 1 :

    ――

    ――――

    「一色、こんなところにいたのか。探したぞ」

    「……先輩」

    「一体今までどこにいたんだ?」

    「別に先輩が知る必要はありませんよ」

    「はっ?」

    「だって先輩はこれから――」

    153 = 1 :

    ――

    ――――

    ドアの先は外ではなく普通の広さのリビングだった。そしてその部屋にはそこら中に『赤』が散乱していた。

    視界が赤で染められたことを認識したと同時に、強烈な異臭が鼻の奥を貫いた。腐った生ゴミの臭いを何百倍にもしたような生理的嫌悪感のかたまりのような臭いが。

    「ひぃっ! う……うおぇぇぇええ……っ」

    わけもわからずただ恐怖と吐き気が胃の底から湧き上がり、その中身を思いきり吐き出した。吐瀉物はすぐに地面の血溜まりで赤黒色に染まった。

    「はぁ……っ、はぁ……っ。……うっ」

    一通り胃の中が空っぽになっても気持ち悪さは消えてくれず、胃は存在しない中身を外へ押し出そうとする。そのせいで呼吸すらままならず涙がこぼれた。

    154 = 1 :

    それでもどうにか体勢を立て直し顔を前に向けると、赤色のこの部屋に不自然に青白い何かがテーブルの上に置いてあるのが見えた。

    やめなさい。

    自分の心の声が目を向けるなと忠告する。しかしそれが何なのかを知りたいという好奇心が目を逸らさせなかった。

    「…………ぁぁ……」

    もはや声すらその体をなさない。

    いやだ……。こんなのは……。

    「ぃやぁぁ……」

    言葉にならないなにかが胸の奥に押し付けられる。もしそれになにか名前があるとしたら――絶望という単語が最も相応しいだろう。

    そこにあったのは、城廻先輩の首だった。

    「いやああああああああああああああああっっ!!!」

    私の叫び声が部屋の中をこだまする。

    155 = 1 :

    グラりと視界が揺れて、そのまま身体が地面に倒れた。地面の血溜まりがバシャッと音を立てて飛沫を上げる。

    今のは……なに……?

    つい数秒前に目にした光景が今の私には理解できない。どうしてあんなところに人の顔があったのだろう。きっとこんなのは誰かがふざけているんだわ。そうに違いない。

    言い出しっぺは由比ヶ浜さんね。そこに比企谷くんが趣味の悪いアイデアを付け足して、ええ、そうに決まっている。

    じゃなければこんなこと……。

    ふと、目の前を何かが通り過ぎた。

    その目の前に浮かぶ物がさらに私を困惑させた。

    それは普段から目にするものだ。生きているなら必ずそれを見る瞬間がある。でも、それは普段は身体に付いていないといけないはずなのに、そこには『それ』だけがあった。

    ようやく回り始めた頭がそれを認識する。

    指だ。これは、人の指だ。

    156 = 1 :

    「きゃっ!?」

    それが指だとわかった瞬間に反射的に飛び上がり、また飛沫が上がる。

    目を逸らそうと別のところに目を移すと、そこにもまた顔があった。今度は葉山くんの顔だ。真っ赤な部屋の中でこれもまた不自然に青白い。

    「いや……っ!」

    そうだ、壁。壁にならば何もないはず……!

    しかしそこも血で真っ赤になっていて、肉片がそこら中に張り付いていた。

    「いやあ! いやああ!! いやあああああああああああああ!!!!!」

    外に、外に出れば……。そう思ってドアを探すが見つからない。

    「えっ? どうして……。どこ……どこなの……?」

    叫んで掠れた声を漏らしながら出口を探す。強烈な色で塗りつぶされた私の目はドアすら認識できないのだろうか。もはやさっき私がここに入るのに使ったドアすら見つけられない。自分の音以外無音で異臭と異物が占めるこの部屋は、私の精神を着実に追い詰めた。

    「助けて……、誰か……そうだ、一色さんは……!」

    周りを見渡しても姿が見えない。どうして? ついさっきまで一緒にいたのに……。

    「一色さん……どこ……どこなの……」

    157 = 1 :

    ピチャリ。

    血が滴る音が一つ。

    そして視界の中心で赤い花が咲く。

    薔薇だ。

    真っ赤な薔薇が一つ、何もない空中に突然現れ、そして赤い花びらを開かせた。

    ピチャリ。

    また同じ音がすると、もう一つ薔薇が隣に咲いた。

    ピチャリ、ピチャリ、ピチャリ。

    音はどんどん増え、それと比例するように薔薇は急速にこの部屋を埋め尽くし始めた。

    ピチャリ、ピチャリ、ピチャリ。

    薔薇の大群は私の元へ追い迫ってくる。恐怖で逃げ出すが狭いこの部屋の中に他に逃げ場はなく、すぐに部屋の隅に追いやられてしまった。

    158 = 1 :

    ピチャリ、ピチャリ、ピチャリ。

    ピチャリピチャリピチャリ。

    ピチャリピチャリピチャリピチャリピチャリピチャリピチャリピチャリピチャリピチャリピチャリピチャリピチャリピチャリピチャリピチャリピチャリピチャリピチャリピチャリピチャリピチャリピチャリピチャリピチャリピチャリピチャリピチャリピチャリピチャリピチャリピチャリピチャリ。

    「やめてぇっっ!!!」

    目の前にまで迫った薔薇を右手で払いのけると、今度はぬるぬるした厭な感触が腕に絡みついた。

    もはやそれが何なのか見ずともわかった。血だ。これは人の血だ。この薔薇は人の血で出来ている。

    ……違う。こんなの幻……。

    突然何もないはずの空中で薔薇が咲いたりするはずがない。これは現実から逃れたいだけの私が作り出した幻想に過ぎない。……そのはずなのに、腕に絡みつく感触は虚構と呼ぶにはあまりにもハッキリし過ぎていた。

    「うぁぁ……。あぁぁあぁぁああぁぁぁぁ…………」

    声が言葉ではなく声帯から漏れるただの音と化している。

    『雪ノ下さん』

    159 = 1 :

    「……ぇ…………?」

    『僕が殺されちゃったのは雪ノ下さんのせいだよ』

    「とつ……か……く……ん……?」

    ついさっきまで部屋中にあった薔薇は消え、逆に戸塚くんの顔が私の前に不自然に位置している。目がだらんと見開かれて、口は操り人形のようにただ上下を繰り返す。

    『雪ノ下さんは最初から八幡が犯人だってわかってたんだよね? もしも教えてくれていたら僕は殺されなかったのに』

    「ちが……」

    『俺も、殺されずに済んだのにな』

    今度は葉山くんの顔が現れた。首から下は戸塚くんと同じように何もなく、首だけがぼんやりと浮かび上がっている。

    『私もだよね。雪ノ下さん』

    「葉山くん……、城廻先輩……」

    『雪ノ下さんのせいだ』

    戸塚くんが言う。

    『雪ノ下さんのせいだ』

    葉山くんが言う。

    『雪ノ下さんのせいだ』

    城廻先輩が言う。

    160 = 1 :

    「私の……せい……?」

    『そうだよ』

    『雪ノ下さんが比企谷を止めていれば俺たちは死ななかったのに』

    『どうして警察に通報してくれなかったの?』

    「違う……私は……」

    私のせいじゃない……。私が悪いんじゃない……。だってあなたたちを殺したのは比企谷くんなのに……。どうして私のせいだってみんな言うの……?

    『雪ノ下さんのせいだ』

    『雪ノ下さんが私たちを殺したんだ』

    『僕、もっと生きていたかったのにな……』

    「ちがう……、だってこれは比企谷くんが……」

    『そうやってお兄ちゃんのせいにするんだ』

    161 = 1 :

    「小町さん……?」

    小町さんの声が聞こえて辺りを見回すが顔は見えない。どこにも小町さんの姿はなかった。

    『どこを探しているの、雪乃さん。ここだよ』

    「ここ……?」

    声のする方へ目を向ける。その方向は……私の真下だ。

    『自分のせいだってわかってるのに、それでもまだお兄ちゃんのせいだって言い張るんだ』

    「ひぃっ!!」

    下へ目を向けると、床の血溜まりいっぱいに小町さんの顔が並んでいた。そのどの目も虚ろに私を睨んでいる。何十という小町さんの目が一斉に私を見ている。

    『そもそも奉仕部なんて変な部活に入ったからお兄ちゃんは変になっちゃったんだ』

    「えっ……?」

    『そうでしょ? 文化祭のことも、修学旅行も、全部お兄ちゃんから聞いた。あんなの気が狂って当然だよ。奉仕部になんて入らなければこうはならなかったのに』

    『奉仕部は雪乃さんがいたから出来たんだよね。つまりお兄ちゃんがこんなふうになったのは雪乃さんがいたせいだよ』

    血溜まりに映る小町さんの顔が私を責め立てる。

    162 = 1 :

    『奉仕部なんか、雪乃さんなんかいなければよかった』

    『お兄ちゃんを壊したのは奉仕部だよ。つまり、奉仕部を作った雪乃さんだよ』

    「私が……いなければ……」

    『そう。雪乃さんがいなかったらお兄ちゃんは犯罪者にならなかったんだよ。そうすれば小町も、お父さんもお母さんも城廻さんも結衣さんも戸塚さんも葉山さんも死なずに済んだんだよ』

    『雪乃さんの『世界を変えたい』なんて幼稚なお願いのせいでみんな壊れちゃった』

    「私のせい……私の…………」

    私が比企谷くんを壊した。

    だから私がみんなを殺した。

    こんなことになってしまっているのも全部、私の自業自得。

    『そうだよ。だから……』

    「だから……」

    「『私なんて、いなければよかった』」

    163 = 1 :

    「あ……あ……。私は……どうして……っ」

    後悔が頭の中に浮かんでは全身に流れる。それに拒否反応を示してまた吐き気が私を襲う。

    「うっ……うっ、おえええぇぇぇぇぇ……っ」

    私のせいだ……。みんな死んだのは、私のせいだ……。

    あんなにも楽しかったのに。そんな日々を、空間を壊してしまった私。

    ああああああああああああああああああああああ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ。

    私なんか生まれてこなければよかった。私なんかこの世界にいなければよかった。

    たくさんの人を不幸にして私はどうして生きているの? どうして生きていられるの?

    164 = 1 :

    「もう……」

    このまま死んでしまおう。

    そう思い、立ち上がる。するとその時――。

    バチンッ。

    と、どこかで聞いたような音が頭の奥で鳴り響くと、四人の首が消え入れ替わるように『黒』がこの世界を侵食し始めた。

    『黒』の正体はこれもまたやはり薔薇だった。真っ黒な薔薇が部屋中に咲き乱れる。

    私の視界を、世界を、意識を、その『無』の色である『黒』が喰い尽くす。

    私の意識が、消えていく。

    私という意識が、記憶が、魂が、闇の中に飲み込まれていく。

    薄れゆく意識の中で最後に見えたものは、黒い部屋で咲き誇る一輪の真っ赤な薔薇だった。

    165 = 1 :

    ――

    ――――

    陽乃「……はっ!」

    陽乃「……!」グッグッ

    八幡「……クスッ」

    陽乃「! 比企谷くん……」

    八幡「やっぱり姉妹ですね。反応が全く一緒です」

    陽乃「雪乃ちゃんは――」

    八幡「自分のことよりも先に妹の心配ですか。さすが、姉の鏡です」

    陽乃「…………」ギリッ

    八幡「心配しないでください。何も手を出していませんよ」

    166 = 1 :

    陽乃「君の言うことを信じられるとでも?」

    八幡「信じるか信じないかは、あなた次第です、ってやつですよ」

    陽乃「……私はどうして君に…………? 君がどんな手を使ってきても大丈夫なように、そうとう注意をしていたはずだったのに……」

    八幡「ぷっ……!」

    陽乃「な、なにがおかしいの!?」

    八幡「いえ、ついおかしくなってしまって。……まだ気づいていないなんて、雪ノ下さんも抜けているんですね」

    陽乃「……!」ギリッ

    八幡「じゃあ答え合わせとしましょう」

    八幡「あの時も言いましたよね」

    八幡「思い込みは怖いと。大切なものを見失わせてしまうと」

    陽乃「…………」

    八幡「つまり、雪ノ下さんはある思い込みのせいで重大なことを見落としていたんです」

    ??「そういうことです♪」

    陽乃「!?」

    167 = 1 :

    陽乃「一色……ちゃん……!?」

    八幡「あなたは二つ、決定的な虚実を事実だと思い込んだ」

    八幡「一つは、俺が一人で動いていること」

    いろは「もう一つは、わたしが死んだということです」

    陽乃「そんな……っ、どうして……?」

    いろは「最初に見つかった死体はわたしのではなく、先輩のお母さんのです」

    いろは「そしてその事件に対して、死体が誰のものであるかは、警察もまだ発表していないんですよ。特定はできているのかもしれませんけどね」

    八幡「でも、ほぼ同時に一色が行方不明になり、みんな、全員が『一色が死んだ』と思い込んだ」

    八幡「誰も一色が生きているなんて思わなかったんです。雪ノ下さんを含めて」

    168 = 1 :

    陽乃「……初めから、二人でグルだったってわけね」

    いろは「……まー、そんな感じですかね」

    陽乃「……?」

    八幡「それにしてもとても面白かったですよ。玄関から出た俺に気を取られている様は」

    いろは「すぐ後ろにわたしがいても全く気づかなかったですからねー」

    陽乃「そういうこと……。まんまと君たちの思惑にハマっちゃったんだ、私……」

    陽乃「……ねぇ」

    八幡「はい?」

    陽乃「どうして、こんなことをするの……?」

    八幡「そんなのすぐにわかりますよ」

    陽乃「えっ……?」

    八幡「好きなんですよ。こういうのが」

    169 = 1 :

    ――

    ――――

    きっかけは些細なことだった。

    道端に猫が落ちていた。

    いたのではなく、落ちていたのだ。

    恐らく車にでも轢かれたのであろう。ぺしゃんこに変形し内蔵やら血やらをコンクリートの地面に撒き散らしていた。

    その時、俺に湧き上がってきた感情は生理的嫌悪感ではなく、むしろ高揚感であった。

    『動く物』と書く動物の中身をその瞬間初めて目にし、それが俺にはどうしようもなく美しい物に見えたのだ。

    コンクリートを流れるドロドロとした血。

    衝撃で身体から飛び出した肉片や骨。

    恐らく少し前には元気に生きて動いていたであろうそれが、全く身動きしない様がただただ美しくて、見惚れ、魅入られた。

    170 = 1 :

    その光景は俺の目に強く焼きついて決して離れることはなかった。

    授業を受けていても、ネットでくだらない動画を見ていても、勉強をしていても、本を読んでいても、奉仕部であの二人と同じ時間を過ごしていても、あの猫の死骸のことばかり考えるようになった。

    そのうち、死をたまらなく求めるようになった。

    だから最初は虫を殺してみた。たまたま巣にいた蜘蛛を一匹捕まえて、木の枝でその腹を潰す。

    それは思ったよりもやわらかく、すぐに枝の先は地面につく。蜘蛛は真っ二つに別れその間からはなんとも形容し難い色の液体がドクドクと溢れ出した。

    蜘蛛はビクッビクッと痙攣して、それから少しも動かなくなった。

    それで蜘蛛は死んだのだとわかった。

    その時、それまで非現実的にしか考えられなかった『死』という現象が初めてリアルに感じられた。

    171 = 1 :

    それからも週に一回くらいのペースで虫を殺した。

    蜘蛛、毛虫、蟻、芋虫、他にも、たくさん。

    そんなふうに何かの命を奪い、血や中身を見ることが俺の人生のちょっとした楽しみになっていた。

    その興味の対象が人間へと移り変わるのにそう時間はかからなかった。

    俺の理性と自意識はやめろと叫んだ。

    しかし一度開いた狂気の扉はその化物すら飲み込み、俺自身を狂気が支配し始めた。

    172 = 1 :

    そして少しずつ俺は人の死を望み始めた。

    電車で投身自殺する輩はいないものだろうか。

    そこら辺で車に轢かれる子供はいないものだろうか。

    殺人事件が起こったりはしないだろうか。

    俺の目の前で。

    まだ一度も経験したことのない人の死を待ち焦がれる。しかしどれだけ待ってもそんな瞬間は訪れない。

    テレビのニュースを見れば今日もまた誰かが死んだようだ。そんな事件が日々起こっているのに、どうして俺はそれを目の当たりにすることができないのだろう。

    『死』が欲しい。

    『死』をこの目で見たい。

    その考えを不謹慎だと思うような倫理観はとっくのとうに消えてなくなってしまっていた。

    しかしどれだけ待てども『死』は俺の元を訪れなかった。

    そんなある日、俺はあることに気づいた。『死』が来ないのなら、自分自身で作り出せば良いのだと。

    どうしてこんな単純なアイデアに気づけなかったのだろう。

    そう思った時には俺の手は小町の首にかけられていた。

    173 = 1 :

    スースーと寝息を立てて眠る小町。

    その寝顔はこの世の何よりも可愛くて、美しくて、愛おしくて、だからそれを永遠に自分のものにしたいと思った。

    冷たい体温が手の中で脈を打つ。

    人を殺す方法なんて知らないから、推理小説に出てきた犯人の真似をして喉元に少しずつ力を込めた。

    苦しむ間もなく小町の呼吸はすぐに止まった。

    なんてあっけない。人とはこんなにも簡単に死ぬものなのか。

    初めての人の『死』はあまりにも一瞬で、期待外れなものだった。

    違う、こんなはずではない。

    『死』とはもっと劇的なものであるはずだ。

    一人の人間の『死』がこんなあっさりとしたものでいいはずがないのだ。

    そう思った俺は、今度は親父の首に思い切り包丁を突き刺した。

    174 = 1 :






    殺してやる。




     

    175 = 1 :

    眠いのでここまで
    次で終わるように頑張る
    僕は疲れた

    176 :

    お手本みたいなサイコパスですね

    177 :

    こわい

    178 :

    グロいだけで面白いとはいえないのが残念

    181 :

    ヘビィーすなあ

    182 :

    クトゥルフに出てきそうな描写好き

    183 :

    陽乃が気に入った人物を精神的に壊して
    八幡は物理的にも精神的にも両面でぶっ壊して

    184 :

    ゴメン
    正直あんまり面白くない

    185 :

    ――

    ――――

    八幡「…………」

    いろは「……なんかみんなあっさり死んじゃいましたねー」

    八幡「そりゃそうだろ。人なんて簡単に死んじまうんだ」

    八幡「……小町だって、そうだった」

    いろは「…………」

    八幡「みんな、死ぬのはあっさりとしてんだよ。劇的な死なんてあり得ねぇんだ」

    八幡「そのことにもっと早く気付いていればな……」

    いろは「……先輩、やっぱり狂ってますね」

    八幡「お前こそ。葉山を喜々として切り刻んでんのを見た時は正直ドン引きしたぞ」

    いろは「そうですかぁ?」

    八幡「いや、そうだろ」

    186 = 1 :

    いろは「でも、今までわたしのことを大して意識してなかった葉山先輩が、わたしの一挙一動に泣いたり叫んだりするのは……」

    いろは「……少し興奮したかもしれないですね」

    八幡「……やっぱりお前狂ってるな」

    いろは「先輩ほどじゃないですよ」

    八幡「バッカお前。俺なんてノーマルオブノーマルって言ってもいいほど普通の感覚の持ち主だぞ」

    いろは「普通の人が気持ち悪くニヤニヤしながら人のお腹を解剖したりしませんよー」

    八幡「……俺、そんなに気持ち悪い顔になってたか?」

    いろは「はい、ものすごく」

    八幡「マジか……」

    187 = 1 :

    いろは「……さて、これからどうします? せんぱい?」

    八幡「……もう終わりだな」

    いろは「…………」

    八幡「全部、終わっちまったな」

    いろは「そうですね」

    八幡「じゃあ、最初の約束通り――」スッ

    いろは「…………」

    八幡「――お前を殺そう」グッ

    いろは「……っ」

    188 = 1 :

    いろは「……ちょっとだけ」

    八幡「?」

    いろは「その前にあとちょっとだけ、待ってくれませんか?」

    八幡「は?」

    いろは「わたし、先輩に言いたいことがあるんです」

    八幡「なんだよ、辞世の句でも残すつもりか? お前らしくもない」

    いろは「違いますよっ。そんなのわたしのキャラじゃないじゃないですか!」

    八幡「じゃあさっさとしろ。もうじきに警察も来る。その前に全部済ませたい」

    いろは「では……」チュッ

    八幡「!?」

    189 = 1 :

    いろは「えへへ……。先輩の初めて、もらっちゃいました」

    八幡「お前……どうして……。葉山のことが好きだったんじゃ……」

    いろは「そうですよ? でもわたし先輩のことも好きなんです。それだけですよ」

    八幡「めちゃくちゃだ……」

    いろは「何人も人を殺してる先輩が言える話じゃないですからね?」

    八幡「それを言われると何も返せねぇ……」

    いろは「……じゃあ、わたしはもう満足できたんで、もういいですよ」

    八幡「なんか、こういうの初めてだからどうすればいいのかわからねぇな」

    いろは「そっか……結局あの二人は言えないまま……」ボソリ

    八幡「はっ?」

    190 = 1 :

    いろは「先輩って悲しい人ですよね」

    八幡「突然どうしたんだよ」

    いろは「勝手にそう思っただけですよ」

    八幡「なんだよそれ……」

    いろは「さあ、早くわたしを殺してください」

    八幡「…………」スッ

    いろは「『死ぬ』って、どんな感じなんでしょうね」

    八幡「……さぁな。死んでみねぇとわかんねぇよ」

    いろは「じゃあお先に見に逝ってきますね」

    八幡「もしも地獄なんてのがあったら……」

    いろは「その時は一蓮托生ですね」

    八幡「んな難しい言葉知ってんだな」

    いろは「これでもいちおー生徒会長ですからね。馬鹿にしないでくださいよ」

    191 = 1 :

    いろは「……大好きでしたよ。先輩」

    八幡「……ああ、俺もだ」グッ

    いろは「……っ! も……もしかして……っ、それ……て……くどい……てます……? もう……じ……かんも……な……い……ので……無理……です…………っ」

    いろは「ご……め……っ、んっ……な…………さ…………」

    いろは「……………………い」

    いろは「………………………………」

    いろは「……………………」

    いろは「…………」

    いろは「……」

    八幡「……最期まで、あいつはあいつだったな」クスッ

    192 = 1 :

    ――

    ――――

    カツカツ

    ガチャリ

    キィー

    「……!」

    「よお」

    「お……え……あ……い……」

    「…………」

    「くぉ……お……ひぃ……え……」

    「……ああ」

    193 = 1 :

    ――

    ――――

    部屋の中ではペンが掠れる音だけが不気味に鳴り響いている。

    「……こんなもんでいいな」

    「…………」

    「どうしてこうなっちまったんだろうな」

    「なぁ、雪ノ下」

    そう、彼女に問いかける。

    苦痛のあまり目を見開いたまま動かなくなった彼女は、ただその虚ろな目で俺を見つめている。顔にかかった赤黒い血が青白い肌に対してよく映えていた。

    「なんて聞いても仕方ないよな」

    194 = 1 :

    結局俺は何がしたかったのだろう。

    俺は嘘が嫌いだし、嘘で塗り固められたこの世界も嫌いだ。

    でも、それをさらなる嘘で重ね塗りしたのは誰だ?

    他でもない俺だ。

    今の俺には全てが嘘なんだ。

    この話も、この目に見える世界も、全てが非現実的な嘘なんだ。

    脳が電気信号で『存在していると錯覚している』世界を知覚しているに過ぎない。

    「本物が欲しい、か……」

    皮肉な話だ。つい数か月前までそれが欲しくて泣いていたやつが、今はこんなふうに血と嘘に囲まれて笑っているなんて。

    195 = 1 :

    傍らに置いてあった包丁を手に取り喉元に突き立てる。

    「結局最期も独りか」

    この包丁は一体今まで何人の血を吸ってきたことだろう。俺もこの包丁に血を吸われて死ぬべきだ。最後だからと、きっちり研いで準備は万端だ。

    「これで終わりだな」

    両手に力を込めて刃を喉の奥へ一気に押し込んだ。他の人を何度も刺してきたのと同じ感覚が手に来る。

    そして刹那遅れて痛烈な痛みが脳天を貫いた。

    「ぐふっ……! がはぁ……っ!」

    あまりの痛みに思わず叫びそうになったが、喉に大穴が空いたせいでそれは上手く言葉にならず、ただ空気が喉の穴から音を立てて漏れた。

    刺したところからだくだくと血が溢れ出る。綺麗だった床に俺の血で血溜まりが出来上がる。

    「ごふっ……、げふっ……」

    196 = 1 :

    とうとう目の前が少しずつ薄れ始めた。もうこうなってしまっては手遅れなのだろう。

    意識が朦朧として身体のバランスが保てなくなり、そのまま床に崩れ落ちる。

    あれだけ激しかった痛みが少しずつ小さくなる。それで自分の感覚が麻痺し始めているんだと悟った。

    ……。

    …………。

    ……俺は。

    俺は、何をまちがえたのだろう。

    この数日間、俺は何度もそう自分に問いかけた。

    しかしいくら問いかけ直しても、その答えは見つからなかった。もしかしたらそんなものは存在しないのかもしれない。

    ……そうだ、きっと存在しないのだ。

    まちがえたまま始まった俺の人生は、何度問い直しが行われても結局まちがえたままで終わる。

    何とも自分らしい結末だ。

    そう、一人苦笑する。

    197 = 1 :

    消える。

    もはや光すら消えた。

    何も見えない。

    暗闇の世界だけが今のぼんやりとした頭で知覚できる全てだ。

    暗闇の中で独り。

    人は、こんなふうに最期は独りで終わるのだ。

    どれだけ人との繋がりを求めても、もしも、存在しないはずの本物があったとしても、最終的に行き着く場所は同じ。

    やはりボッチがこの世の真理だったか。

    死ぬ寸前でもこんなくだらないことを考えるなんて、本当に俺はくだらない。

    くだらない……、くだらない……、くだらない……。

    くだらない人生。

    ……小町。

    守れなくて、ごめんな。

    198 = 1 :

    ――

    ――――

    「……お邪魔します」

    あたしはそう言ってその家に足を踏み入れる。

    あの事件からもう何年の月日が流れただろう。

    事件の概要を説明すると、ある日、あたしの学校の生徒会長である一色いろはが行方不明になり、それと同時に学校の近所の公園で身元の確認ができないほどに損傷した死体が発見された。

    多くの人はその生徒会長が死んだのだと思った。あたしもその一人だった。

    悲劇はそれだけでは終わらず、それから前生徒会長であった城廻めぐり、当時あたしのクラスメイトだった由比ヶ浜結衣と、次々と総武高の生徒が行方不明になったり殺されていった。

    そして、悪夢の日が訪れる。

    その日一日で戸塚彩加、葉山隼人、雪ノ下雪乃、雪ノ下陽乃、一色いろはの五人を同校の生徒である比企谷八幡が殺害した。

    そして五人の殺害の後、比企谷八幡は自分の喉を包丁でかっ切って自殺した。

    それだけでも十分に衝撃的な事件だが、そこで事件は終わらなかった。

    199 = 1 :

    比企谷家からさらに二人の遺体が発見されたのだ。

    一人は彼の父親の遺体。

    もう一人は彼の妹である比企谷小町の遺体だった。

    そして後に鑑定の結果、最初に公園で見つかった遺体は比企谷八幡の母親のものであったことが判明した。

    一人の男子高校生が総勢十人もの罪もない人々の命を奪ったというこの事件は、当然世間でも大きな話題となり第二の酒鬼薔薇聖斗とまで呼ばれた。

    連日のようにテレビに総武高が映され、校門には多くのマスコミが押し掛けた。

    しかし、あたしにはその事件が理解できなかった。

    彼が、比企谷八幡がそんなことをするような人間だと信じられなかったのだ。

    どこかのメディアに快楽殺人鬼とまで書かれているのを見たが、はたして彼が人殺しなどするだろうか。

    『愛してるぜ、川崎!』

    そんなことをあたしに言い放ったような人間が、十人もの人を殺すのだろうか。

    もしかしたら隠された真相がこの事件の裏に隠れているのではないだろうか。

    200 = 1 :

    だから事件について自分なりに調べ始めた。もしかしたらそうすることで自分を納得させようとしたかったのかもしれない。

    しかし、どこを探しても事件の残虐性や犯人の異常性を煽る記事ばかりでまともな情報はほとんど得られなかった。

    それからどれだけ調べたり、聞きこんだりしても、結果は変わらなかった。

    そうしてあたしの中のモヤモヤが残ったまま数年という月日が過ぎる。

    事件の話題はとっくに風化して、あたし自身も諦めかけた時にある人から電話がかかったのだ。

    その相手は、当時あたしたちのクラスの担任である平塚静だった。


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