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元スレ咲「誰よりも強く。それが、私が麻雀をする理由だよ」
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ネリー「サキっ!?」
フローリングに倒れ伏した咲の姿。すかさず飛び込む。
倒れ伏す咲に駆け寄ろうとして、ネリーは玄関の段差に足をひっかけた。
「うわああっ」倒れ込むと同時に二つの鞄が手からすっぽ抜ける。ぎっしり詰まっていたからだろう、咲の鞄の中身が滑り落ち、散乱していく。
倒れ込む刹那、見えたその中身は大量の紙束ーー牌譜だった。
ネリー「サ、キ……っ」
玄関口の傍で倒れる咲の元に慌ててにじり寄り、額に手を当てる。高温。猛烈な熱が伝わってくる。
咲「あ……っ」
意識はあったらしい。呻き声を上げた咲は駆けつけたネリーに目もくれず、震える手を伸ばすと、
咲「あ……った、……姉……ちゃんのはい、ふ……っ」
青息吐息で散乱した牌譜を掴もうとする。その姿にネリーはかちんときた。
ネリー「バカァァァァっ!!」
大喝。あまりに自身を省みない言動にネリーは感情を爆発させる。
咲「う、……あ……っ」
大音声を間近で叩きつけられた咲がふらつく。しまった。酩酊した咲を抱きとめ、素早く辺りを見回す。
まずはソファーまで運ぼう。
体格に差のある相手。咲が華奢とはいえ、ネリーには一先ずそれが精一杯だ。
できるだけ引きずらないように咲を運ぶと、寝室から掛け布団をひっぱりだしてきてかける。咲の手にある鞄から出てきた牌譜は取り上げて、リビング中央の丸テーブルに置いた。
咲「う、あ……うう……っ」
ネリー「サキ……」
横になった咲が熱に浮かされて呻くのを目に、ネリーは力なく呼びかける。
どうみても風邪だ。そして、原因はやっぱりーー。
ネリー『サキ、なんか顔赤くない?』
咲『またからかってるの? はいはい、またあとでね』
ネリー「看病して……自分が風邪になるなんて」
ネリー「バカっ、サキの間抜け……!」
埒のない事をぼやきつつ、どうするか考える。まずは風邪薬。常備薬を探すより、買ってきた方が早いだろう。後は……。
ネリー「病人食なんてつくれないよ……」
コンビニかどこかでレトルト食品。それくらいしか思いつかない。
ネリー「よしっ……」
頭の中で必要なものを整理し、すっくと立ち上がる。
ネリー「……サキ。いってくるからね」
聞こえているとも思えなかったが、何となく一声かけて部屋をあとにする。
ふと。背後から視線にさらされたような感覚に陥る。気のせいだろう。ネリーはアパートの部屋を飛び出した。
▼
ネリー「ふう、これでなんとか」
必要と思われるものを買い揃え、慌ただしくネリーが戻ってくると、ソファーには変わらずソファーで横になる咲の姿があった。
とりあえずは大人しくしていたようで一安心した。
薬局で市販されていた強めの風邪薬とミネラルウォーターのボトルをレジ袋から出し、目につきやすい場所にあったコップに水を注ぐ。
どうやって飲ませよう。
咲の元までいき錠剤を飲ませようと試みるが、中々口を開いてくれない。そのあと水を流し込めるかも不安なところだ。
ネリー「……しっ、しょうがないよね」
コップの水と錠剤を口に含む。
咲「……う……は、あ……」
熱っぽく上気した頬。物欲しそうに動く唇。
普段つんと澄ましていた咲の弱りきった表情。それは、思いの外ネリーの琴線に触れた。
じ、人工呼吸みたいなものだし。
い、いいよね……?
心中の問いかけに返事があるはずもなく。
悶絶しそうになるのを堪えつつ、咲の唇に顔を近づけていく。
唇同士が触れる。
咲「ん、……ふっ……」
さらに舌で口の中に割って入り、喉の奥に奥へと水と錠剤を押し込む。
ネリー「ぷはあっ」
無事流し込め、逆流する感じもないのを確認すると唇を離す。密着していた部分から温かな吐息が漏れた。
ネリー「アイスノンアイスノン……」
まるでうわ言のようにつぶやきながらレジ袋を漁り、額に貼る冷却シートを取り出して貼る。
ばしんっ!
必要以上に勢いよく貼りつけてしまったのはえもいわれぬ衝動に駆られての事だった。
すみません>>382でシーンの切り方間違えたので修正させてください…
「あの子は貴女に心を開いていない。理由は三つある」
愕然とするネリーを尻目に赤い髪の女性は滔々と語り出す。
「第一に、あの子は貴女に過去、特に家族について語らない。中学時代のちょっとした思い出程度なら話しただろうけど」
その時、ネリーの脳裏に浮かんだのは、母親と電話していた咲の姿。
あの時、ネリーは咲の事を何にも知らないと自覚した。以前中学時代の話を電車で耳にして。あれから家族について話す機会は何度かあった。
けれど、咲は家族の事については一貫してはぐらかした。その事が、ネリーの中で徐々に大きな凝りとなりつつあった事を、薄々自覚していた。
その事実を改めて意識すると、ネリーの心に不安がにじみ出す。
「そして、あの子は貴女に対して遠慮している。何か嫌だと思ってもそれを口にしない。後ろめたい心を隠しながら、貴女と付き合っている」
「そんな関係から親友と呼べる信頼は生まれない」そう言い切る赤い髪の女性。しかしネリーは反論した。
ネリー「そんなことない! 確かに……サキは家族のこと何にも教えてくれなかったけど、嫌なことはちゃんと嫌っていってくれるよ!」
反論するネリーの姿を赤い髪の女性が冷ややかに見つめる。無知な子供を憐れむような瞳。矢のごとく鋭いそれに射抜かれ、思わずネリーはたじろぐ。
「敬語。忘れてるけどいいわ、そのままで。それより……知っていた?」
一拍置いて、続ける。
「咲はね、魚にトラウマがあるの。口にするものくらいなら大した抵抗はないけど」
「身につけるようなものは別。辛い思い出が蘇って相当なストレスを与える」
そこまで聞いて既にネリーの頭には痛烈な閃きが到来していた。魚。身につけるようなもの。顔色が崩れ、真っ青になっていくのがわかる。
「もうわかったかしら? 貴女が咲にプレゼントした魚を模したキーホルダー……あれは最悪のチョイスだった」
半ば悟っていた事実を容赦なく突きつけられたネリーは、慄然とその場に居竦んだ。
「あの子は貴女に心を開いていない。理由は三つある」
愕然とするネリーを尻目に赤い髪の女性は滔々と語り出す。
「第一に、あの子は貴女に過去、特に家族について語らない。中学時代のちょっとした思い出程度なら話しただろうけど」
その時、ネリーの脳裏に浮かんだのは、母親と電話していた咲の姿。
あの時、ネリーは咲の事を何にも知らないと自覚した。以前中学時代の話を電車で耳にして。あれから家族について話す機会は何度かあった。
けれど、咲は家族の事については一貫してはぐらかした。その事が、ネリーの中で徐々に大きな凝りとなりつつあった事を、薄々自覚していた。
その事実を改めて意識すると、ネリーの心に不安がにじみ出す。
「そして、あの子は貴女に対して遠慮している。何か嫌だと思ってもそれを口にしない。後ろめたい心を隠しながら、貴女と付き合っている」
「そんな関係から親友と呼べる信頼は生まれない」そう言い切る赤い髪の女性。しかしネリーは反論した。
ネリー「そんなことない! 確かに……サキは家族のこと何にも教えてくれなかったけど、嫌なことはちゃんと嫌っていってくれるよ!」
反論するネリーの姿を赤い髪の女性が冷ややかに見つめる。無知な子供を憐れむような瞳。矢のごとく鋭いそれに射抜かれ、思わずネリーはたじろぐ。
「敬語。忘れてるけどいいわ、そのままで。それより……知っていた?」
一拍置いて、続ける。
「咲はね、魚にトラウマがあるの。口にするものくらいなら大した抵抗はないけど」
「身につけるようなものは別。辛い思い出が蘇って相当なストレスを与える」
そこまで聞いて既にネリーの頭には痛烈な閃きが到来していた。魚。身につけるようなもの。顔色が崩れ、真っ青になっていくのがわかる。
「もうわかったかしら? 貴女が咲にプレゼントした魚を模したキーホルダー……あれは最悪のチョイスだった」
半ば悟っていた事実を容赦なく突きつけられたネリーは、慄然とその場に居竦んだ。
>>382
「あの子は貴女に心を開いていない。理由は三つある」
愕然とするネリーを尻目に赤い髪の女性は滔々と語り出す。
「第一に、あの子は貴女に過去、特に家族について語らない。中学時代のちょっとした思い出程度なら話しただろうけど」
その時、ネリーの脳裏に浮かんだのは、母親と電話していた咲の姿。
あの時、ネリーは咲の事を何にも知らないと自覚した。以前中学時代の話を電車で耳にして。あれから家族について話す機会は何度かあった。
けれど、咲は家族の事については一貫してはぐらかした。その事が、ネリーの中で徐々に大きな凝りとなりつつあった事を、薄々自覚していた。
その事実を改めて意識すると、ネリーの心に不安がにじみ出す。
「そして、あの子は貴女に対して遠慮している。嫌だと思った事を口にしない。自分の気持ちに蓋をし、後ろめたい心を隠しながら……貴女と付き合い続けようとしている。これからも、ずっと」
「そんな関係から親友と呼べる信頼は生まれない」そう言い切る赤い髪の女性。
ネリーは困惑した。どうして断言できるのか。自分と咲の関係を逐一観察しているかのような言い草。もしそうだとしても、そこまで言われる筋合いはないし、そこに蓋然性もないはずだ。
しかし、不吉な言葉がもたらす不安を抱えながらも、紡ぎ出される言葉には到底無視できない、不可解な引力があった。
「嫌な事も……全く話さないという訳ではない。多少は話すでしょう。でもそこが限界。家族の事、語られるべき本心、貴女に打ち明けられた事は何一つない」
ネリー「そ、そんなことない! 確かに……サキは家族のこと何にも教えてくれなかったけど、嫌なことはちゃんと嫌っていってくれるよ!」
反論するネリーの姿を赤い髪の女性が冷ややかに見つめる。無知な子供を憐れむような瞳。矢のごとく鋭いそれに射抜かれ、思わずネリーはたじろぐ。
「敬語。忘れてるけどいいわ、そのままで。それより……知っていた?」
一拍置いて、続ける。
「咲はね、魚にトラウマがあるの。口にするものくらいなら大した抵抗はないけど」
「身につけるようなものは別。辛い思い出が蘇って相当なストレスを与える」
そこまで聞いて既にネリーの頭には痛烈な閃きが到来していた。魚。身につけるようなもの。顔色が崩れ、真っ青になっていくのがわかる。
「もうわかったかしら? 貴女が咲にプレゼントした魚を模したキーホルダー……あれは最悪のチョイスだった」
半ば悟っていた事実を容赦なく突きつけられたネリーは、慄然とその場に居竦んだ。
「あの子は貴女に心を開いていない。理由は三つある」
愕然とするネリーを尻目に赤い髪の女性は滔々と語り出す。
「第一に、あの子は貴女に過去、特に家族について語らない。中学時代のちょっとした思い出程度なら話しただろうけど」
その時、ネリーの脳裏に浮かんだのは、母親と電話していた咲の姿。
あの時、ネリーは咲の事を何にも知らないと自覚した。以前中学時代の話を電車で耳にして。あれから家族について話す機会は何度かあった。
けれど、咲は家族の事については一貫してはぐらかした。その事が、ネリーの中で徐々に大きな凝りとなりつつあった事を、薄々自覚していた。
その事実を改めて意識すると、ネリーの心に不安がにじみ出す。
「そして、あの子は貴女に対して遠慮している。嫌だと思った事を口にしない。自分の気持ちに蓋をし、後ろめたい心を隠しながら……貴女と付き合い続けようとしている。これからも、ずっと」
「そんな関係から親友と呼べる信頼は生まれない」そう言い切る赤い髪の女性。
ネリーは困惑した。どうして断言できるのか。自分と咲の関係を逐一観察しているかのような言い草。もしそうだとしても、そこまで言われる筋合いはないし、そこに蓋然性もないはずだ。
しかし、不吉な言葉がもたらす不安を抱えながらも、紡ぎ出される言葉には到底無視できない、不可解な引力があった。
「嫌な事も……全く話さないという訳ではない。多少は話すでしょう。でもそこが限界。家族の事、語られるべき本心、貴女に打ち明けられた事は何一つない」
ネリー「そ、そんなことない! 確かに……サキは家族のこと何にも教えてくれなかったけど、嫌なことはちゃんと嫌っていってくれるよ!」
反論するネリーの姿を赤い髪の女性が冷ややかに見つめる。無知な子供を憐れむような瞳。矢のごとく鋭いそれに射抜かれ、思わずネリーはたじろぐ。
「敬語。忘れてるけどいいわ、そのままで。それより……知っていた?」
一拍置いて、続ける。
「咲はね、魚にトラウマがあるの。口にするものくらいなら大した抵抗はないけど」
「身につけるようなものは別。辛い思い出が蘇って相当なストレスを与える」
そこまで聞いて既にネリーの頭には痛烈な閃きが到来していた。魚。身につけるようなもの。顔色が崩れ、真っ青になっていくのがわかる。
「もうわかったかしら? 貴女が咲にプレゼントした魚を模したキーホルダー……あれは最悪のチョイスだった」
半ば悟っていた事実を容赦なく突きつけられたネリーは、慄然とその場に居竦んだ。
これで最後です、もうしません絶対しません(戒め)
宮永母に関して情報が少ないのでさっぱりという人がほとんどかと思いますが、この言い回しの真意に気づける人がいたらその推察力はたぶん神(情報少なすぎるのでわからなくて当たり前ですが)
もし気づける人がいたらすごく嬉しい、それではまた次の更新日の目処が立ったら報告しにきます
宮永母に関して情報が少ないのでさっぱりという人がほとんどかと思いますが、この言い回しの真意に気づける人がいたらその推察力はたぶん神(情報少なすぎるのでわからなくて当たり前ですが)
もし気づける人がいたらすごく嬉しい、それではまた次の更新日の目処が立ったら報告しにきます
回想そろそろ書き終わります
推敲が終わり次第あげるので今日か明日に更新します
推敲が終わり次第あげるので今日か明日に更新します
・
・
・
ネリー「……うん、こんなものかな」
締め括るようにそう言ってフローリングに座り込む。
咲の具合はあれから小康の様相を呈し始め、汗だくになった咲の汗を拭いたり、着替えさせるのに苦心して諦めるなどの過程を経て、何とか咲の容態を安定させる事に成功していた。
熱に浮かされる咲だが意識はいつの間にかなくなっていたらしい。
ネリーとしては、治療行為のあれやこれに気づかれなくてよかったと安堵するばかりだ。
徐に時計を見やる。夜の七時を半分ほど回ったところ。
咲「……あ、れ……」
その時、閉じていた咲の瞼が開き、瞳に光が宿った。
ネリー「サキ? 起きた?」
咲「……ネリー、ちゃん……?」
咲「わた、し……なんで……」
ネリー「風邪ひいて倒れたんだよ。大変だったんだから」
部屋に押し入った時、既に咲はぐったりと倒れていた。ネリーが来たのも半分偶然みたいなものだ。本当に危機一髪だったのではないかと思う。
咲「……看病、……してくれたんだ……」
ぼうっとした目でごちる咲。ネリーはこくりと頷いた。
その言葉を最後に会話が途絶える。無言の時間。お互いをじいっと見つめる。
咲が不意に沈黙を破った。
咲「は、いふ……牌譜、みなかった……?」
呂律の回らない口調で尋ねてくる。
ネリー「牌譜って……忘れた鞄にあったやつなら」
咲「それ……とってくれない、かな……?」
牌譜をどうしようというのか。あの時、玄関で意識が朦朧としていた咲の行動を思いだし、身構えた。
ネリー「牌譜をどうするの?」
つい刺のある言葉が突いて出る。
咲「……研究、しないと……」
ネリー「はあ? そんな状態で何いってるの」
こんなときに研究。いらいらする。何を考えているのか。
所詮他人事なのに怒りが込み上げる。いやこんな、非常識な話を聞かされたら当然だ。
咲「でも……」
ネリー「でもじゃない! ネリーが来たとき倒れてたんだよ!? 状況わかってるの!?」
尚も食い下がろうとする咲に大声で怒鳴りつける。
怒鳴り声を出すなんていつぶりだろう。怒りをこうして表すなんて本当に久しぶりだった。
いつも明るく無害なイメージを装うために。明日をも知れぬ過酷な競争の中で培った本能が警告を鳴らす。それは利口な選択ではないと。
賢く生きる判断。油断させ、だまくらかし、陥れるため。陽気なお調子者の仮面をかぶり、本性を隠す。
そんな当たり前の皮が剥がれていく。底知れない感情が胸の裡で暴れまわる。
ネリー「だれを対策して研究するのかしらないけど! そんなのでやったって意味ないんだから!」
咲「でも……でも、研究しないと……また強くなってるのに……」
焦燥に駆られたように咲が口にし、ふらふらとした手が何かを求めてさ迷う。
それをみて。
床に散らばった牌譜を掴もうと咲が震える手を伸ばした光景を思い出す。
これと似たものを、生まれ故郷で目にした事があった。
進退が懸かった勝負に臨む女の子。不注意で体調を崩し、瀬戸際に立たされた彼女は、病床にあって、それこそ死に物狂いで練習に励んでいた。
その時、将来を左右する局面で体調管理に失敗した愚をネリーは嘲り、それでも尚足掻く様を憐れみの目で見つめた。
それと同じ事。
咲も、あの女の子も、ネリーには同じような事をしているように思える。
なのに。
ネリー「……意味わかんないよ」
ふらふらとさ迷う咲の手をつかむ。
あのとき選ばなかった選択。
あのとき生まれなかった感情。
つかんだそれを自分の胸に抱き寄せ、両手で優しく包み込む。
ネリー「……こんなことしないでよ。お願いだから」
しっとりと濡れる声。胸のうちから滾々とあふれる感情。
あのとき、体調を崩して苦しんでいたとき。
咲も手を握ってくれた。暖かかった。意識は朦朧としていても、ちゃんと感じていた。
人のぬくもり。ささやかな優しさ。
心のどこかで求めていたもの。
咲「…………ちゃん……?」
その時、咲の声が震えるように誰かの名前を呼ぶ。
ネリーじゃなかった。聞き覚えのない名前。
こちらを見上げる咲の瞳がまた浮かされるように潤み、再来した熱のせいか、やや舌の回らない話し方で喋りだす。
咲「ごめん、ね……わたし馬鹿だから……最後まで気づかなくって」
咲「お母さんともお姉ちゃんとも……手、離しちゃったよ……」
わからない。家族の話をしているんだろうか。漠然と考える。
ただ、今にも泣き出しそうなその悲痛な声色が。
耳に、胸の奥に、嫌な疼きを呼び起こす。
咲「わたしの麻雀は……大好きな人たちが願いを込めてくれたのに」
咲「わたしの麻雀が、みんなから笑顔をなくして……」
ネリー「……サキ」
咲は見ていなかった。
同じ部屋に居合わせ、同じ時間を過ごし、目と目が合って。
鳶色の瞳は確かに自分を映しているのに。
ネリー「しっかりしろバカァっ!」
咲「……えっ?」
涙の粒が浮かんだ目をぱちくりとさせる咲。
飛ばした怒号が、届いた。
ネリー「サキは自分を粗末にあつかいすぎ! それってすっごく最低なことなんだから!」
きっと睨みつける。
重い風邪に喘ぐ咲が、何を思い、何に苦しんでいるのかなんて知らない。
短い付き合いだ。咲には避けられている節すらある。大切な事なんて。何一つ打ち明けてはくれないだろう。
けれど。
ネリー「頑張って、無理して、ぼろぼろになって!
それでうまくいったとしてサキの好きな人たちは喜ぶの!? やったよってサキは胸を張っていえるの!?」
これだけは伝えたい。
柄にもなく他人事に必死になって、声を振り絞っても、自分を蔑ろにするなと。
他ならぬネリーが嫌なんだと叫びたかった。
ネリー「サキは……謝ってばっかだよね」
すっかり黙りこくった咲が呆然と見つめ返し、話を聞いている。
上半身を起こした体勢。
鳶色の瞳が当惑の色を浮かべ揺れている。
ネリー「麻雀に勝ったときの対局のお礼、ごめんなさいって聞こえるよ」
咲「だって……私が勝っても誰も喜ばないから」
消え入りそうな掠れた声で返事が返ってくる。
ネリー「普通、勝ったら自分が喜ぶんじゃない?」
咲「私……勝っても嬉しくない」
勝利を渇望する人が聞けば怒鳴りそうな台詞だ。
ネリー「勝つのが当たり前だから?」
しかし、頭ごなしに考えない。何か別の意味があり話しているのだと考える。
咲「……勝って楽しかったり、負けて悔しいっていうのがわからない」
根本的な話か。不感症。そもそも、勝負という概念に感情がつき纏わない気質なのか。
「でも」と咲が一貫してか細い声で継ぎ足す。
咲「……負けて辛いのはわかる。私が負けて残念がる人をみると辛いし……悲しい」
その言葉にぴんときた。何食わぬ顔で尋ねる。
ネリー「じゃ、サキが勝って喜ぶ人がいたら?」
咲が双眸を開く。
咲「あ……嬉しい、かも」
そこでの推量は肯定と同義だと知っていた。
ネリー「なんだ、サキも嬉しくなるね」
したり顔で笑う。
咲にないのは恐らく、自ら勝利を求め、敗北を厭う気概。闘争心というやつではないか。
実際この説得には根本的な穴が存在していたが。あえて言及はしない。この場では。
咲「……そっ、か……」
蒼白だった顔に一瞬血色が戻った気がした。
直後、力を失ったように咲の上半身が横倒しになる。
風邪の容態が芳しくないのだろう。ネリーはおたおたとする。長話にうっかり付き合わせてしまった、弁明の余地もない。
それに……ベッドまで連れそびれた。散々だ。全く格好がつかない。
何とも言えないネリーの煩悶は咲が安らかに寝息を立て始めるまで続いた。
▼
東の空に昇る太陽がガラスの窓越しに日差しを降り注ぐ。
布団だけ拝借しフローリングに雑魚寝していたネリーは、すやすやと眠る咲の顔を興味深そうに眺めていた。
やがて重たげに瞼が開く。
ネリー「おはよー」
咲「……お、おはよう」
掛け布団を掴みながら、おずおずとした返事。半身を起こし、二人が向き合うと。
咲「……」
ネリー「……」
どこからか奇妙な音が鳴り響く。空腹を訴える消化器官のそれと似ていた。というかそうだった。
ネリー「おかゆ……食べる?」
咲「……う、うん」
掛け布団で顔を隠した咲が言った。裏返りそうなほど声が震えていた。
ネリー「あ、サキ。今日はどうするの?」
レトルトの食事を済ませ、静かに窓の外を見つめていた咲に訊く。
咲「学校? ……うーん」
ややあって「今日は休む事にするよ」窓の外から視線を外し返答した。
前日に倒れたのだ。考えずともよさそうなものだが。腑に落ちないものを感じながら、ネリーは長ソファーの上で半身を起こす咲の元に歩み寄っていき、すとんと座る。
ネリー「じゃ、ネリーも部活までここにいるねっ!」
留学生は授業に出る必要がない。勿論、出る事も自由だがこの期に及んで出る気にはなれない。
咲は申し出を断らなかった。正確に言うと遠慮がちな空気を漂わせていたのだが、素直に厚意を受け入れたのか、「ありがとう」と伝えてきた。
ネリー、咲『……あ、あの』
奇しくも同時に沈黙を破ろうとして、顔を見合わせる。
ネリー「サキ……何か話あった?」
咲「ネリーちゃんこそ……」
ネリー「うーん、サキから話していいよ」
咲「ええっ?」
驚いたのだろう。咲は困惑気味に表情を固くした。
だがこのままでは埒が明かないと思ったのか、意を決するようにきゅっと唇をひきしめると口を開く。
咲「あの……昨日の事」
咲「ごめんね……おかしな事言って。頭がぼうっとしちゃって」
咲の言葉はある意味、予想通りだった。謝罪など望まないが概ねネリーがしようとした話でもあった。
ネリー「覚えてたんだ」
咲「ちゃんと記憶はあって……あの、本当にごめんね」
つまり、後悔しているのだろうか。居心地悪そうな佇まい。今にもなかった事にしてくれと頼んできそうな、一歩引いた態度。
冗談じゃない。昨日、ようやく近づけたと思ったのに。
ネリー「ネリーは嬉しかった」
咲「……えっ?」
ネリー「中々難儀な性格してるね。けどまあ想定の内かな」
にっと笑う。しみったれた空気を笑い飛ばすように。
ネリー「世界を回ってるんだよ。折り紙つきなの」
咲「……」
ネリー「だからさ、仲良くしようよ!」
咲の顔に明らかな迷いが浮かぶ。
また浮かない表情。違う。見たいのはこんなじゃない。
ネリー「それに……」
会った次の日の電車でみた、屈託のない笑顔。それが焼きついて離れない。
ネリー「サキは笑ってる顔が一番可愛いよっ!」
息を呑む音がした。咲が、目を剥いている。
長い沈黙が部屋を包む。
朝早く昇ったばかりの陽が二人を照らした。
次の瞬間。
咲「う、……あっ、あああっ……!!」
咲の頬を涙が伝っていた。
ネリー「サキって意外と泣き虫なんだね」
怒ったり、疎まれたり、落ち込んだりされてきた咲の、新しい一面。
その発見を、咲を胸の中に抱き寄せたまま微笑んで見届けた。
▼
あれから。
咲の部屋で暫くの時間を過ごして。
陽が沈み、茜色の光に部屋が満たされた頃、咲が言った。
咲「部活……休んじゃったね」
「皆勤だったのにな」少し残念そうにぼやく咲。
ネリーが笑った。
ネリー「真面目だね、サキは」
咲に黙っていた秘密。実は智葉から今日の部活は休みになったと連絡があった。
今になって伝えると、咲は小刻みに肩を揺らして吠えた。
咲「そ、そういうの早くいってくれないかなあ!」
ネリー「あはは、ごめんごめんっ」
掴みかかりそうに飛び上がってきた咲を制し、ベッドに落ち着ける。咲は見るからに不満そうだった。
咲「……ねえ、ネリーちゃん」
ふと。深刻な表情で咲が切り出す。
咲「昨日の話で気になったんだけど……」
咲「私、やっぱり勝負事はだめかもしれない」
ネリー「どうして?」
神妙な表情をしたネリーが聞き返す。
咲「私が勝って……心の底から喜んでくれる人はいないよ」
咲「最初にいったよね。私が勝っても誰も喜ばない」
咲の瞳が光を失ったように陰る。
ネリー「あちゃあ……気づいちゃったか」
ネリー「ま、あんなので説得されるの熱にでも浮かされてるときくらいだよね」
ネリーが苦笑した。
咲「それに……もし私が勝つ事を望んでくれる人がいたとしても、私が勝つ事で辛い思いをしたり、泣いちゃうほど苦しい人がいたら……やっぱり悲しいよ」
ネリー「サキは欲張りさんだね。普通、そんな事は考えないよ」
ネリー「でもね」
ネリー「ネリーは勝ってほしいな、サキに!」
咲が驚愕に目を見開く。
咲「どうして……?」
ネリー「サキの麻雀、すっごく綺麗なんだもん! ……はじめてみたとき、びっくりしたよ」
ネリー「サキがカンした瞬間、鮮烈なイメージが駆けめぐった。ピンク色の花弁が咲き乱れるみたいな……あとから知ったけど、あれ桜っていうんだね」
にっこりとネリーが笑いかける。
咲の表情は暗かった。
咲「花は……みんなが私に託した夢の形だから」
咲「最初は白かったの」
咲「桜は……此岸の花だから」
沈黙が落ちる。しばらくの間、咲もネリーも言葉を発する事はなかった。
傾いた陽が茜色に部屋を染める。ポケットに手を突っ込んだネリーがその手を差し出した。
ネリー「……サキ、これあげるっ!」
咲「これ、は……」
ネリー「お魚のキーホルダー! 可愛いでしょ、お揃いで買ったんだ」
戸惑う咲に話しかけ、説明するネリー。
ネリー「この前看病してくれたお礼! これからもよろしくねっ!」
夕陽に照らされたネリーが破顔する。
ゆっくりと伸ばされた咲の手がキーホルダーを受け取る。その手は震えていた。
咲「ありがとう……大事に、大事にするよ」
鳶色の瞳を縁取る睫毛に涙の粒を浮かべ、噛み締めるように咲は微笑んだ。
おわり
あー指痛い
次回はおまたせしましたインハイ二回戦当日です
ところで咲日和四巻買ったんですが…キャラが、間違えた…!
すみません…すみません…
あー指痛い
次回はおまたせしましたインハイ二回戦当日です
ところで咲日和四巻買ったんですが…キャラが、間違えた…!
すみません…すみません…
しばらく掌編や短編で小説書く練習に専念します
それらで空き時間使いそうですがいつか唸らせるSSを書けるよう腕を磨きます
今まで読んでくれた人ありがとう、そしてごめんなさい
それらで空き時間使いそうですがいつか唸らせるSSを書けるよう腕を磨きます
今まで読んでくれた人ありがとう、そしてごめんなさい
みなさん温かい言葉本当にありがとうございます
無理のない範囲で頑張ってみます
無理のない範囲で頑張ってみます
▼
チュンチュン…
ネリー「……」
パチッ
ネリー「ん、朝か……」
ネリー「準備しなきゃ」
▼
ネリー「おはよー」
ダヴァン「オハヨウございマス」
ハオ「おはよう」
明華「おはようございます」
ネリー「あれ」
キョロキョロ
ネリー「サキは?」
スタスタ…
智葉「来たかネリー。おはよう」
ネリー「サトハ」
智葉「ああ……咲だろ?」
ネリー「うん」
智葉「咲ならいない」
ネリー「え?」
智葉「朝早くに咲の縁者の人から連絡があってな。別口で会場入りするそうだ」
ネリー「そんな……縁者の人って」
智葉「……咲の母親の部下にあたる人らしい」
チュンチュン…
ネリー「……」
パチッ
ネリー「ん、朝か……」
ネリー「準備しなきゃ」
▼
ネリー「おはよー」
ダヴァン「オハヨウございマス」
ハオ「おはよう」
明華「おはようございます」
ネリー「あれ」
キョロキョロ
ネリー「サキは?」
スタスタ…
智葉「来たかネリー。おはよう」
ネリー「サトハ」
智葉「ああ……咲だろ?」
ネリー「うん」
智葉「咲ならいない」
ネリー「え?」
智葉「朝早くに咲の縁者の人から連絡があってな。別口で会場入りするそうだ」
ネリー「そんな……縁者の人って」
智葉「……咲の母親の部下にあたる人らしい」
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