元スレ勇者「魔王の呪いで、かかしにされてんのよ」
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101 :
勇者「(……楽しかったな)」
勇者「(久しぶりに、人と会話が出来た)」
勇者「(……猫だったけど。まぁいいとしよう)」
勇者「(…………)」
勇者「(商人のやつが元気そうで良かった)」
勇者「(……猫だったけど。まぁいいとしよう)」
勇者「(…………)」
勇者「(でも、猫……)」
勇者「(猫か……)」
勇者「(…………)」
勇者「(元のあいつのイメージにピッタリだよな。猫って)」
勇者「(あいつは、動物に例えたら猫だったよ)」
勇者「(いろんな所が、猫っぽいやつだった)」
勇者「(…………)」
102 = 101 :
勇者「(何となく、魔王の遊び心を感じたな)」
勇者「(あいつへの呪いに、猫化を選ぶあたりに)」
勇者「(…………)」
勇者「(……魔王も、いい趣味してやがる)」
勇者「(…………)」
勇者「(俺達は、分かり合えるのかもな)」
勇者「(猫耳が世界を救うとか……)」
勇者「(…………)」
勇者「(さすがに、それは無理か)」
勇者「(…………)」
勇者「(でも一瞬だが……)」
勇者「(魔王GJとか思っちまった)」
勇者「(…………)」
103 :
魔王GJ
104 = 101 :
勇者「(しかし。猫……)」
勇者「(可愛かったな)」
勇者「(…………)」
勇者「(……頭を撫でたかった……)」
勇者「(……耳をさわりたかった……)」
勇者「(……機会があれば、お腹もふもふしてやりたい……)」
勇者「(…………)」
勇者「(……エロい意味じゃなく、純粋な猫好きとして……)」
勇者「(…………)」
勇者「(何を考えとるんだ俺は)」
勇者「(外見は猫でも、あれの中身は商人だぞ)」
勇者「(くわばらくわばら。危ない所であった……)」
105 = 101 :
勇者「(…………)」
勇者「(そうか。これはきっと、狡猾なる魔王の罠)」
勇者「(おのれ魔王め。なんて卑劣な)」
勇者「(温もりに餓えた、俺の心を攻めるとは……)」
勇者「(…………)」
勇者「(なんてな)」
勇者「(…………)」
勇者「(いかんな)」
勇者「(孤独なかかしやってると、アホな独り言が多くなる)」
勇者「(…………)」
勇者「(ふぅ……)」
…………
……
106 = 101 :
勇者「(一人でぶつぶつ言ってたら……)」
勇者「(いつの間にか朝になってた)」
勇者「(…………)」
農夫「おはようさん。かかしさん」
少年「おはよう。かかしさん」
勇者「(オッス。今日も頑張ってな)」
農夫「……ん?」
勇者「(ん? どしたの)」
農夫「何か良い事あったか? かかしさん」
勇者「(え?)」
少年「どうしたの? 父ちゃん」
農夫「いやな。今日のかかしさん。ちょっと笑ってるだろ?」
勇者「(ぬぉっ……)」
少年「うーん。いつもと同じ顔に見えるけどなぁ」
農夫「そうか? まぁいいか。さて、仕事始めるべ」
少年「うん。お仕事お仕事」
勇者「(…………)」
勇者「(いつか喋れるよな。このオッサンとも……)」
勇者「(まぁ人間に戻れば、確実に話せるわな)」
勇者「(……楽しみだな。その時が……)」
…………
……
107 = 101 :
勇者「(……そんで、いつの間にか夕方だよ。早いなぁ)」
勇者「(…………)」
ガサガサ トトトッ……
勇者「(んっ、足音?)」
トトトッ トコトコ トトッ
勇者「(おっ、商人か? なんだ。今日も来てくれたのk……)」
犬「クゥーン」
勇者「(…………)」
犬「……キューン」
トコトコ トトトッ
勇者「(……お前だったのか)」
犬「クゥーン」
トコトコ ウロウロ……
108 = 101 :
勇者「(おっす。犬)」
犬「……クゥーン」
トコトコ モソモソ
勇者「(今日は悪さすんなよな。犬)」
犬「…………」
クンクン スンスン……
勇者「(んっ? おいおい……。だからおい!? お前またっ!?)」
犬「…………」
スッ サッ シャッ
勇者「(やっ、やめれぇぇええええーっ!?!)」
犬「…………」
シャーッ……
勇者「(あぁぁ。バカ。……ばか……やろ……ぉぉ……ぉ……)」
犬「クゥーン……」
勇者「(ワン……ちゃん……)」
犬「キューン」
トコトコ トトッ タタタッ……
…………
……
109 = 101 :
勇者「(うぅっ。また……やられた……)」
勇者「(かかしの宿命か……)」
勇者「(はぁ……)」
バサバサッ バサッ……
カラス「(おいおい。ざまぁねぇなぁ)カァー」
勇者「(ん?)」
カラス「(犬に小便ひっかけられる勇者か。こいつぁ、おもしれぇ)カァカァー」
勇者「(…………)」
カラス「(なんだ。どうした?)カァー」
勇者「(……九官鳥?)」
カラス「(俺がそんな洒落た鳥に見えるか?)カァー」
勇者「(見えんな)」
カラス「(だろう)」
勇者「(お前。盗賊だな?)」
盗賊(姿はカラス)「(そうだよ。よく分かったなぁ。相棒)カァー」
111 = 101 :
勇者「(……なるほど。お前はカラスに……)」
盗賊「(そう言うこった。まぁ、そこの小便小僧よりゃあマシな呪いだわな)」
勇者「(俺はかかしだ。さすがに小便小僧にされてりゃ自殺物だ……)」
盗賊「(いや、自殺も出来ねぇと思うがな。動けねぇんだろ?)」
勇者「(生意気な鳥だな。焼いて食われちまえよ)」
盗賊「(なんだと? 頭つつかれてぇのかコラ)カァー」
勇者「(やめてくれ。穴あくだろが)」
盗賊「(はははっ。冗談だよ)カァー」
勇者「(ははっ)」
盗賊「(しっかし殺風景な畑に立ってるなぁ。ナンボも仕事ねぇだろ?)」
勇者「(ほっとけ。ちょっと前までは野菜でいっぱいだったんだよ)」
盗賊「(おぅ。焼き討ちくらったらしいな。おかげで俺の食いもんもねぇや)」
勇者「(あってもこのへんの畑からは盗むなよ。つーか川で魚でも捕って食え、ハゲ鷹)」
盗賊「(バカ、よく見ろってんだ。ハゲ鷹じゃねぇぞ。カラス様だ)カァーカァーカァー」
勇者「(カァーカァー鳴くな。やかましわ)」
盗賊「(はははっ)カァー」
…………
……
112 = 101 :
盗賊「(魔王のかかしってのを拝みに来たんだが、やっぱりお前だったか)」
勇者「(そうか。噂ってのは便利だな)」
盗賊「(ん?)」
勇者「(昨日は商人が来てくれたんだよ。お前と同じような事言ってな)」
盗賊「(ほぅ。あいつは元気にしてたか?)カァー」
勇者「(元気は元気なんだろうが、猫だったな)」
盗賊「(あぁ。アイツは猫だったな)」
勇者「(知ってたのか)」
盗賊「(見てたからな。お前は気絶してたな?)」
勇者「(そうらしいな)」
盗賊「(情けねぇ勇者だぜ)カァー」
勇者「(うるせえよ)」
113 = 101 :
盗賊「(で、その猫は、今どうしてんだ?)」
勇者「(また来るって言って帰ったわ)」
盗賊「(いい寝床持ってるのか?)」
勇者「(あぁ。どっかで、女の子のペットになってんだとさ)」
盗賊「(おいおい。勝ち組かよ。ずりぃなぁ商人)カァー」
勇者「(どうなんだろうな)」
盗賊「(俺もなりてぇよ。美女のペットに)」
勇者「(カラスじゃ無理じゃね?)」
盗賊「(こら、差別はいかんぞ。差別は)カァー」
勇者「(現実を言ったまでだよ。カラスくん)」
盗賊「(黙れよ。テメェはかかしの分際で)」
勇者「(口の減らないカラスだな)」
盗賊「(口っつーか、クチバシだぜ)カァー」
…………
……
114 = 101 :
勇者「(しかし、お前がカラス。カラスな……)」
盗賊「(ん?)」
勇者「(やっぱり、魔王の遊び心を感じるのな)」
盗賊「(遊び心?)」
勇者「(あぁ。お前は元々、カラスかハゲ鷹みたいな男だったからな。イメージピッタリだわ)」
盗賊「(テメェ。さっきから、なにげに俺がハゲって言ってるべ?)」
勇者「(こらこら。怒ると抜けるべ)」
盗賊「(ちっ。でもそう言やぁ商人も、なーんか猫っぽいやつだったわなぁ)」
勇者「(ほらな。そう思うだろ)」
盗賊「(あぁ。猫耳つけて呼び込みでもさせりゃ、酒場が大繁盛てタイプだったなありゃ)」
勇者「(そうそう。分かってらっしゃる)」
盗賊「(集まる客の質は察しろって所だがな)カァー」
勇者「(…………)」
盗賊「(よぅ。どしたのさ相棒)カァー」
勇者「(いや。べつに……)」
…………
……
115 :
つまり勇者は
117 :
勇者「(しかし、かかしと猫とカラスねぇ……)」
盗賊「(マヌケな面子にされたもんだな)」
勇者「(あぁ。ちょっと前に魔王と戦ったメンバーって言っても、誰も信じないだろな)」
盗賊「(笑い話だわ)カァー」
勇者「(あっ、そうだ)」
盗賊「(ん?)」
勇者「(賢者だよ。賢者)」
盗賊「(…………)」
勇者「(アイツはお笑い系じゃ無いよな? 一人だけシリアス路線走ってたし)」
盗賊「(……あぁ)」
勇者「(なぁ。賢者は何にされたんだ?)」
盗賊「(……商人からは、聞かなかったのか?)」
勇者「(あぁ。アイツの話は脱線しまくってな。いつも肝心な所が抜けるんだよ)」
盗賊「(案外。わざとじゃねぇかな)」
勇者「(え?)」
盗賊「(…………)」
118 = 117 :
勇者「(……賢者に、何かあったのか?)」
盗賊「(あった)」
勇者「(何がだよ)」
盗賊「(…………)」
勇者「(スゲェ変な動物にでもされたのか?)」
盗賊「(いや。賢者は賢者のままだ。呪いの類いはかけられてねぇ)」
勇者「(…………)」
盗賊「(…………)」
勇者「(……まさか、死んだとか言うなよ?)」
盗賊「(アホ。そこまで深刻じゃねーよ)カァー」
勇者「(……そうか。安心した)」
盗賊「(ドアホ。安心すんな)」
勇者「(じゃあ、何があったか言えよ)」
盗賊「(あぁ……)」
勇者「(…………)」
119 = 117 :
盗賊「(賢者は今。魔王の下で働いてるよ)」
勇者「(え?)」
盗賊「(賢者は魔王の部下になった)」
勇者「(……嘘だろ?)」
盗賊「(嘘じゃねぇ)」
勇者「(…………)」
盗賊「(教えたぞ。満足か?)」
勇者「……でもそんな……。なんで……」
盗賊「(…………)」
勇者「(…………)」
盗賊「(……スカウトされたんだよ。あいつは優秀だからな)」
勇者「(…………)」
盗賊「(呆けてんじゃねぇよ。かかし)カァー」
勇者「(あっ、あぁ……)」
盗賊「(…………)」
120 = 117 :
盗賊「(……一応、言っとくわ。賢者が魔王に寝返った理由)」
勇者「(…………)」
盗賊「(半分くらいは、俺達のせいだ)」
勇者「(俺達の?)」
盗賊「(あぁ。でも決めたのは、あいつ本人だからな)」
勇者「(…………)」
盗賊「(ついでだし話してやるよ。お前が気絶してた時の事)」
勇者「(あぁ。頼む……)」
盗賊「(あの時な。魔王は俺達に『貴様らはいらん』とか言いやがったんだ)」
勇者「(いらん?)」
盗賊「(そうだよ。俺とお前の二人は『いらん』のだそうだ。腹立つだろ?)カァー」
勇者「(…………)」
121 = 117 :
盗賊「(そんでだ。まずは、お前がかかしにされた)」
勇者「(俺か……)」
盗賊「(気絶してるお前に、魔王が変な薬をかけて、呪文を唱えたらだな……)」
勇者「(…………)」
『……なんということでしょう……』
『あの、ボロボロだった勇者が、不細工な、かかしになっているではありませんか』
盗賊「(……みたいな感じだった)」
勇者「(……とりあえず、ボロボロとか不細工とかの説明いらなくね?)」
盗賊「(怒るな。遊び心だ)カァー」
勇者「(遊び心な……)」
盗賊「(そんで、その後のお前は、どうせ動けねぇからってんで)」
勇者「(…………)」
盗賊「(ほとんど無視されて、そのまま床に転がされてたな。ゴミみてぇに)」
勇者「(……なによ、そのあつかい……)」
122 = 117 :
盗賊「(次に俺様だ。俺も、ほとんどお前と同じでな)」
勇者「(…………)」
盗賊「(違いは、気絶して動けなかったか、縛られて動けなかったかって事くらいだな)」
勇者「(商人が、ちょっとだけ言ってたな。それ)」
盗賊「(そうか)」
勇者「(あぁ)」
盗賊「(まぁそんなんでだ。薬と呪文と魔王の力で、可愛いいカラスの出来上がりよ)カァー」
勇者「(薄汚い盗賊が、不細工なカラスにと……)」
盗賊「(薄汚いとか、不細工とかいらねーべ?)」
勇者「(遊び心だよ)」
盗賊「(へいへい)」
勇者「(…………)」
盗賊「(でも俺は、お前と違って飛べるってんでさ)」
勇者「(鳥だしな)」
盗賊「(あぁ。だからその場で、鳥籠に閉じ込められちまったよ)」
123 = 117 :
勇者「(鳥籠か……)」
盗賊「(牢屋には、昔からちょくちょく世話になってるが、さすがに鳥籠は初めてだったぜ)」
勇者「(おい……)」
盗賊「(はははっ)カァー」
勇者「(…………)」
盗賊「(そんで次。商人だ)」
勇者「(あぁ)」
盗賊「(……商人は俺達みたいに、魔王に『いらん』とは言われなかったんだよ)」
勇者「(ほぅ……)」
盗賊「(その代わりに商人は、魔王にこう言われた……)」
勇者「(…………)」
盗賊「(『欲しい』ってな)」
勇者「(……欲しい)」
盗賊「(そうだ)カァー」
124 = 117 :
勇者「(欲しい……)」
盗賊「(部下になれって事だと思うが。……お前は何を考えた?)」
勇者「(……お前と同じ事かもな)」
盗賊「(ほぅ……)」
勇者「(…………)」
盗賊「(…………)」
勇者「(それで商人は?)」
盗賊「(即答で断ったぜ。見事なお断りしますだったな)」
勇者「(やるなぁ)」
盗賊「(あぁ。でもな)」
勇者「(ん?)」
盗賊「(ここで魔王の次の台詞よ)」
勇者「(…………)」
盗賊「(『断れば、貴様もこうなる』だ)」
勇者「(こうなるってのは、俺達みたいに?)」
盗賊「(そう言う事だ。えげつねぇよな)」
125 = 117 :
勇者「(でも、じゃあ商人は……)」
盗賊「(あぁ、再び即答だ。また見事なお断りしますだったな)」
勇者「(商人……)」
盗賊「(そんで、その場で呪いをかけられましたとさ)」
勇者「(猫にされたと)」
盗賊「(そう言うこった)」
勇者「(ひでぇ話だな……)」
盗賊「(あぁ。もったいねぇ事しやがるよ)」
勇者「(…………)」
盗賊「(二つ返事で寝返る俺には、声すらかかってねぇのにさぁ)カァー」
勇者「(おいおい)」
盗賊「(はははっ)カァー」
勇者「(…………)」
126 = 117 :
盗賊「(さて、次でラストだ。賢者な)」
勇者「(賢者……)」
盗賊「(魔王は、賢者にはこう言いやがった)」
勇者「(…………)」
盗賊「(『お前だけは、絶対に私のものにする』)」
勇者「(……情熱的だな)」
盗賊「(あぁ。熱烈なラブコールよ。俺も美人に言われてみてぇよ)」
勇者「(…………)」
盗賊「(…………)」
勇者「(賢者は?)」
盗賊「(一回目と二回目は断ったよ)」
勇者「(二回?)」
盗賊「(あぁ。ここまでは商人と同じさ)」
勇者「(…………)」
盗賊「(分かるか?)」
勇者「(……呪いで動物にされるのが嫌で、魔王に寝返ったんじゃないんだな?)」
盗賊「(正解だ)カァー」
127 = 117 :
勇者「(…………)」
盗賊「(でも結局この後で、賢者は魔王に寝返った)」
勇者「(…………)」
盗賊「(さて、その理由は何でしょう? ってな)」
勇者「(…………)」
盗賊「(何でしょう?)」
勇者「(……人質か)」
盗賊「(そう。俺達だよ)」
勇者「(…………)」
盗賊「(正直言うと俺は、賢者に感謝してるんだぜ)」
勇者「(…………)」
盗賊「(賢者が寝返ってくれなけりゃ、俺はタレをつけて焼かれてたかもだ)」
勇者「(…………)」
盗賊「(お前も賢者に感謝しろよな)カァー」
勇者「(…………)」
盗賊「(おーい)カァー」
勇者「(…………)」
盗賊「(返事しろや。かかし)」
勇者「(あぁ……そうだな……)」
…………
……
128 :
おつ
129 :
乙乙!
130 :
乙
わりとちゃんと戦ってたんだな
132 :
盗賊「(まぁ、そんなに落ち込むな)カァー」
勇者「(……あぁ)」
盗賊「(俺が言う事じゃねぇが、賢者が自分で決めた事なんだ)」
勇者「(…………)」
盗賊「(それになぁ。勇者)」
勇者「(なんだ?)」
盗賊「(これで良かったのかもだぜ)」
勇者「(良かった?)」
盗賊「(あぁ)」
勇者「(……何がだよ)」
盗賊「(俺は魔王に翼をもらったから、人間の時よりも行動範囲が広がってるんだがな……)」
勇者「(…………)」
盗賊「(悪くねぇぞ。魔王の作ってる国)」
勇者「(…………)」
133 = 132 :
盗賊「空からちょいと見ただけでも、俺達の国よりはだいぶ上だって分かんのよ」
勇者「(…………)」
盗賊「(まぁ、気に入らねぇのは、治安が良すぎるって事くらいだな」
勇者「(…………)」
盗賊「(…………)」
勇者「(……それ、いい事じゃね?)」
盗賊「(アホ。俺が失業しちまうんだよ)カァー」
勇者「(…………)」
盗賊「(…………)」
勇者「(……いい事じゃねえか)」
盗賊「(冷てぇなぁ。相棒)カァー」
勇者「(いい機会だろ。足でも洗えや)」
盗賊「(ははっ。無事に人間に戻れたら考えるわ)」
勇者「(そうしろ)」
盗賊「(…………)」
勇者「(…………)」
134 = 132 :
盗賊「(……だからな勇者。責任逃れの言い訳と自己弁護だとか思ってくれても構わんがよぉ)」
勇者「(…………)」
盗賊「(賢者が魔王の所で働いてるのは、別に悪い事じゃねぇって)」
勇者「(…………)」
盗賊「(……それにだな。この喧嘩はどうせ、魔王の勝ちで終るぜ)」
勇者「(……盗賊?)」
盗賊「(俺様がカラスの目線で見てきたんだ。間違いねぇよ)」
勇者「(…………)」
盗賊「(魔王の所に賢者がいた方が都合がいいんじゃね? 戦後処理やら何やらの時によぉ)」
勇者「(……一応は考えてるんだな。盗賊……)」
盗賊「(実はインテリなのよ。俺様って)」
勇者「(嘘つけ)」
盗賊「(ははっ)カァー」
…………
……
135 = 132 :
盗賊「(さて。そんじゃボチボチ……)」
勇者「(もう帰るのか?)」
盗賊「(おぅ。ねぐらを早めに探してぇのよ)」
勇者「(……あぁ、カラスだから鳥目とか?)」
盗賊「(いや。そんな極端に見えねぇ事もねぇけどな……)」
勇者「(ん?)」
盗賊「(……そうだなぁ。勇者)」
勇者「(なんだよ。盗賊?)」
盗賊「(このへんにさ。露天風呂のある宿屋とかあったら教えろよ)」
勇者「(露天風呂? 俺が知ってるはず無いだろ)」
盗賊「(つかえねぇなぁ。かかし)」
勇者「(うるせぇよカラス。つーか宿屋って、カラスでも泊めてくれるのか?)」
盗賊「(そんな宿屋ねぇだろ。あったら俺に教えろ)」
勇者「(じゃあなんで? あっ? テメェ……)」
136 = 132 :
盗賊「(はははっ。カラスで生きるのもいいもんだぜ)カァー」
勇者「(おまわりさん、こいつです!)」
盗賊「(あ? 何の事だ? カラスにゃ刑務所も学校も試験も無いんだぜ。はははっ)カァー」
勇者「(こっ、このカラス……)」
盗賊「(じゃあな。楽しかったぜ、相棒)」
勇者「(……ドジ踏んで駆除されんなよ。カラス)」
盗賊「(あんがとよ、かかし。また来るぜ)」
勇者「(おぅ。またな)」
盗賊「(はははっ。アバヨ)カァーカァー」
バサバサッ バサバサバサバサッ カァー カァー……
勇者「(…………)」
勇者「(……翼か)」
勇者「(……いいなぁ。あれ……)」
…………
……
137 = 132 :
勇者「(……しかし。賢者が魔王のな……)」
勇者「(…………)」
勇者「(まいったなぁ)」
勇者「(…………)」
勇者「(……俺達の命と引き換えか)」
勇者「(出会ったら、謝らねぇとな……)」
勇者「(賢者……)」
勇者「(…………)」
勇者「(思えば、賢者と商人は、まだ早いって反対してたんだよな)」
勇者「(魔王の城に攻め込むの)」
勇者「(情報が足りないとか、あと数年修行しろとか、仲間を増やせとか……)」
勇者「(…………)」
勇者「(俺は、チャンスだと思ってたんだが)」
勇者「(あれは、魔王の罠だったんだろうな)」
勇者「(…………)」
138 = 132 :
勇者「(魔王の城の警備が、意外に手薄な事が分かって)」
勇者「(城への潜入に、あっさりと成功して)」
勇者「(城内の敵も、あんまり強くなくて)」
勇者「(…………)」
勇者「(ちょっと強そうな中ボスみたいな奴は、何故か戦う前に逃げ出して)」
勇者「(そんで全員が、ほぼ無傷で魔王の前に到着したのに)」
勇者「(その魔王だけが、桁違いに滅茶苦茶に強くて……)」
勇者「(…………)」
勇者「(俺は確か、最初の一撃で気絶……戦闘不能……そしてかかし……)」
勇者「(……気がつけば、この畑に立っていた……)」
勇者「(…………)」
139 = 132 :
勇者「(…………)」
勇者「(……あれは卑怯だよな。レベル30もあれば楽に行けるような場所なのに)」
勇者「(理不尽にも、そこのボスだけが、レベル90以上推奨の超強敵)」
勇者「(……そんな感じだった)」
勇者「(…………)」
勇者「(しかし)」
勇者「(こうやって、短くまとめてみると……)」
勇者「(…………)」
勇者「(俺ってバカ?)」
勇者「(…………)」
勇者「(ふぅ……)」
…………
……
140 :
チュンチュン チュンチュン
勇者「(おはよう小鳥さん)」
チュンチュン チュンチュン
勇者「(つまり朝だ)」
少年「おはよう。かかしさん」
農夫「おはようさん。かかしさん」
勇者「(おはようさん。今日もよろしくな)」
農夫「んっ? 今日は元気が無さそうだな」
少年「うーん。そうかなぁ?」
勇者「(正解だよ、オッサン。ちょっとだけ、へこんでるのよ……)」
農夫「ほんと不思議なかかしさんだなぁ」
少年「魔王様のかかし様だもんね」
勇者「(…………)」
農夫「あぁ。うちの自慢のかかし様だよ」
勇者「(…………)」
勇者「(複雑な気分になるよな)」
勇者「(大事にされるのは嬉しいけど)」
勇者「(魔王のかかしって言われると……)」
…………
……
141 = 140 :
勇者「(もう日が沈んだな……)」
勇者「(つまり夜が来た)」
勇者「(…………)」
勇者「(夜は暇なんだよなぁ)」
勇者「(……寂しいし)」
勇者「(…………)」
勇者「(はぁ……)」
商人「(暗いですね)にゃあ」
勇者「(うわっ!?)」
商人「(どうしました?)」
勇者「(……びっくりしたんだよ……)」
商人「(あらあら)」
勇者「(足音しなかったぞ?)」
商人「(はい。私は猫ですから、足音くらい消せますよ)」
勇者「(消さんでいい)」
商人「にゃん」
勇者「(…………)」
…………
……
142 = 140 :
商人「(あの。何かありましたか? 溜め息ついてましたけど)」
勇者「(あぁ。昨日、カラスが遊びに来てな)」
商人「(……そうですか)」
勇者「(あぁ)」
商人「(…………)」
勇者「(…………)」
商人「(聞いちゃいました?)」
勇者「(何をかな?)」
商人「(…………)」
勇者「(…………)」
商人「(意地悪な人がいますね)」
勇者「(お前にゃ負けると思うがな)」
商人「にゃぉ……」
勇者「(……賢者の事だ)」
商人「(そうですか)」
勇者「(…………)」
143 = 140 :
商人「(あの。盗賊さんは、どこまで?)」
勇者「(俺が気絶してた間の事は、あらかた聞いたよ)」
商人「(そうですか)」
勇者「(あぁ。賢者が寝返った理由も聞いたし)」
商人「(…………)」
勇者「(お前が魔王を振ったって話も聞いた)」
商人「(おしゃべりなカラスさんですね)にゃぁ」
勇者「(まったくだ)」
商人「(…………)」
勇者「(…………)」
商人「(あの……)」
勇者「(なんだ?)」
商人「(……ごめんなさい)」
勇者「(…………)」
商人「(…………)」
144 = 140 :
勇者「(いや、お前は悪くは……)」
商人「(でも……)」
勇者「(…………)」
商人「(ここで謝っておいた方が、好感度がアップしそうですし)」
勇者「(…………)」
商人「(…………)」
勇者「(どこまでが本気よ?)」
商人「にゃん」
勇者「(へいへい)」
商人「(…………)」
勇者「(とりあえずだな。俺も謝っておくわ)」
商人「(え?)」
勇者「(すまん)」
商人「(…………)」
勇者「(…………)」
商人「(えーと。好感度を上げておきましょうか?)」
勇者「(好きにせい)」
商人「(はい)にゃ」
…………
……
145 = 140 :
勇者「(ところでな。商人)」
商人「(はい)にゃ」
勇者「(盗賊と話した後で、ちょっと思ったんだが)」
商人「(何ですか?)」
勇者「(たぶんだけど。お前はその気になりゃ、人間に戻れるだろ?)」
商人「(…………)」
勇者「(お前は俺達と違って、魔王に欲しがられたんだろ?)」
商人「(えぇ。一応は)」
勇者「(なら、今からでも遅くないんじゃね?)」
商人「(…………)」
146 = 140 :
勇者「(……盗賊は、この喧嘩は魔王の側の勝ちだって言ってたよ)」
商人「(そうですか)」
勇者「(あぁ。あいつが空の上からあちこち見て回っての結論だし。あてになると思うぜ)」
商人「(…………)」
勇者「(それにな。最初に俺達が持ってた、魔王=悪者って情報やイメージはだな……)」
商人「(間違いだって言うんですね?)」
勇者「(…………)」
商人「(…………)」
勇者「(……そうだよ。やっぱり、お前もそう思ったか……)」
商人「(はい。この国に住んでみれば、猫でも分かりますよ)」
勇者「(だろうな。かかしでも気がつく事だもんな)」
商人「(…………)」
勇者「(…………)」
147 = 140 :
商人「(バカでしたよね。私達)にゃぉ」
勇者「(あぁ。大バカだったよ。俺と盗賊は特にな)」
商人「(…………)」
勇者「(だからさ)」
商人「(…………)」
勇者「(俺は怒らないぞ。むしろ、お前が人間に戻れたら喜ぶ)」
商人「(…………)」
勇者「(俺に気を使う必要は無いぞ。恥じる事もない)」
商人「(勇者さん)」
勇者「(まぁ、そう言う事でだ……)」
商人「(勇者さんは)」
勇者「(ん?)」
商人「(勇者さんは、私に魔王の物になれと?)」
勇者「(……意味深な言い方するなよ……)」
商人「(………)」
勇者「(………)」
148 = 140 :
商人「(とりあえずですが……)」
勇者「(ん?)」
商人「(私は、もうしばらくは猫でいいですよ)」
勇者「(……そうか)」
商人「(はい。猫の姿での生活も楽しいですしね)」
勇者「(そうなのか?)」
商人「(えぇ。飼い主がくれるご飯は美味しいですし、無くした玩具も見つかりましたし)」
勇者「(おもちゃ?)」
商人「にゃあ」
勇者「(…………)」
商人「(…………)」
149 = 140 :
勇者「(…………)」
商人「(えーと。勇者さん)」
勇者「(なんだ? 商人)」
商人「にゃおにゃおにゃお」
勇者「(……猫語で言われても困るんだがな……)」
商人「にゃんにゃん」
トコトコトコ トコトコトコ……
勇者「(あっ、商人?)」
トコトコトコ トトトッ……
商人「にゃお」
トトトトトッ……
勇者「(…………)」
勇者「(帰っちまったか)」
勇者「(やれやれ。気まぐれな猫だなぁ……)」
………………
…………
……
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