元スレあずさ「プロデューサーさんを落としてみせます!」
SS覧 / PC版 /みんなの評価 : ★
51 :
あずささんをババアと言ってる=酒も飲めないガキ…がVIPに書き込んでる
これについて、どう思った?
52 = 1 :
律子「表の車で亜美を待たせてますから、ぼちぼち行きましょうか。伊織も迎えに行かなきゃですし」
あずさ「は、は~い。それでは音無さん、プロデューサーさん。行ってきますね」
小鳥「いってらっしゃ~い」フリフリ
P「頑張ってください。さて、俺もいい時間だし昼飯にするかな……」
律子さんに引っ張られて、私もお仕事に向かうことにしました。
今日のプロデューサーさんとの会話は、私としては、たくさん話せるように頑張ったほうかな、と思います。
でも、これからもっと頑張らないといけませんね。もちろんお仕事の邪魔をしない程度に、ですけれど。
……あら、プロデューサーさんが何かゴソゴソしているような~?
P「えっと、この辺に貴音が備蓄しているカップ麺が……。お、あったあった」
あずさ「……プロデューサーさん? お昼、カップラーメンなんですか~?」
53 = 1 :
P「ええ、最近はこればっかりですね。手軽ですし、夕飯もこれだけなんて日も……」
律子「ちょっとあずささん、そろそろ行かないと……」
あずさ「こんなんじゃダメです~!」
律子・P「!?」
プロデューサーさんったら、もう十代でもないのに健康のことを考えていなさすぎですね。
毎日カップラーメンなんか食べていたら、栄養が偏ってしまいます。
のんびり屋な私ですら、ちゃんと自炊しているというのに……。あ、朝ごはんは別として、ですけれど。
P「あ、あずささん? どうしたんですか、急に大きな声だして……。そりゃ、貴音にはいつも怒られますが」
あずさ「そういう問題ではありません。そのうち、お体を壊してしまいますよ~?」
P(あずささん、なんだかいつもと様子が違うような……)
54 = 1 :
貴音ちゃんも貴音ちゃんです。どうしてこんな偏食ばかりするのかしら?
こうして真似する人が出てきてしまうんだから、今度会ったとき、めっ! と言ってあげないといけませんね。
それに、ラーメンばっかり食べると、その……、余分なお肉がついてしまうでしょうに。
貴音ちゃんが体型崩れているところは見たことありませんけど……、体質というものですか?
好きなものを好きなだけ食べて太らないなんて、羨ましいわ~。
私なんて近頃、お酒を飲むようになったせいで……。
……あら、また話が脱線してしまいましたね。ですからつまり、私が言いたいことはですね、
あずさ「プロデューサーさんのご飯は、私が作りますっ。今度ゴチソウします~!」
P「えっ」
あずさ「ぁ」
55 :
お姫ちんのカップ麺勝手に食べてギルティされないのか?
56 = 1 :
あずさ「あ、いえ、その深い意味はなくてですね……、ご、ごめんなさい、なんか今日の私、変ですね~」カァァ
……ついつい、頑張りすぎてしまいました。まさにおったまげーしょん、ですね。
お料理をゴチソウするなんて、とっても特別な意味があるというのに……。
えっと、律子さんと音無さんは……
小鳥・律子「」
あらあら、固まってしまっていますね。
それはそうですよね、昨日の今日でこれですから……。あとで何を言われるのかしら……。
で、でもこのプロデューサーさんのことですから、きっと……、
「いいですいいです、迷惑かけるわけにはいきませんよ」なーんて、言ってくるんでしょうね。
そうです、この人は、そういうところがあるんです。だからそんなに、大事にはならないはず……。
P「本当ですか、じゃあお願いします! 手料理なんて久しぶりだなぁ」
あら~?
57 = 1 :
あずさ「い、いいんですか? 私、本当にお邪魔しちゃいますよ……?」
まさかのオーケーでした……。表向きなんてことない顔をしてますけど、信じられません!
誰もいなかったら、思いっきりにこにこゆるんでしまっているところです~。
……ちょ、ちょっと展開が早すぎる気がしますけれど。いいんでしょうか……。
P「そうしてくれるなら助かりますよ。いやあ、あずささんの料理が食べられるなんて楽しみです!」
あずさ「……そ、それなら、期待しててくださいね? じゃあもう本当に、お仕事行ってきます~」
律子「……はっ! そ、そうですね! い、行きましょうか」
58 = 1 :
ブロロロロ……
あずさ「……」
亜美「あずさお姉ちゃん?」
あずさ「なぁに?」グルン
亜美「ひっ! さっきからなんかヘンな顔してるけど、どったのー? また車酔っちゃった?」
律子「亜美……、あずささんは頑張ったのよ。ただ、ちょっと飛ばしすぎちゃっただけ」
亜美「頑張った? なんのことー?」
あずさ「……うふ、ふふふふ……」ニヤニヤ
亜美「こ、こわすぎっしょ……」
59 = 1 :
律子「……あずささん」
あずさ「うふふ……。なぁに~?」
律子「また今夜、女子会ですね」
あずさ「う……は、はい。……あのー、律子さん。その」
律子「いいんです、ここでは何も言わないでください! でも……、ぷぷっ」
あずさ「もうっ……!」
亜美「なになに! なんなのさー! 仲間はずれよくないっしょ!」
律子「あんたにはまだ早いわよ。さあ、さっさと伊織を拾って、今日もお仕事頑張りましょー」
亜美「ずーるーいー!!」
ブロロロロ……
60 :
61 = 1 :
― メール編 ―
夢子『……それじゃあお姉様、おやすみなさい。メール、頑張ってくださいね!』
あずさ「やるだけやってみま~す……。夢子ちゃんも、涼ちゃんによろしくね。おやすみなさい……」ピッ
プロデューサーさんに手料理をご馳走する、と約束してから数週間が経ちました。
でも、まだその約束は果たされていません……。というか、いつにするのかも決めていません。
あれから毎日、一言でも二言でも、何かしらの会話をするように心がけてはいるのですけれど……、
なんだかプロデューサーさんの目の前では、あの約束に関する話題を繰り出せないでいるのでした。
あずさ「だって、もしかしたら社交辞令だったかもしれないじゃない……」
前までの私だったらきっと、
「お料理ゴチソウしますよ~。はい、なんだったら私のお家に来てくれても~うふふ~」
みたいなことも言えたのでしょうけど……。一旦妙に意識してしまうと、積極性もなくなってしまうみたいです。
63 = 1 :
小鳥『それでも着実に前進してるわ! だってプロデューサーさんったら……、いえ、今はやめときますか』
律子『そろそろ次の段階……、メールですね。今日あたり送ってみたらどうですか?』
自室のベッドに寝転がりながら、私は今日の飲み会でのお二人の言葉を思い出しました。
なんだか最近、進捗報告という名目でたくさん飲み会をしちゃってます~。
アイドルとして、これでいいのでしょうか……。でも、他ならぬ律子さんがいいって言うんですから、いいですよね。
あずさ「メール……、メールって、何を送ったらいいのかしらー……」
今まで私は、何度かプロデューサーさんにメールを送ったことがあります。
まだ自分の恋心がこんなに大きくなっていなくて、ただ彼を眺めていれば幸せだったあの頃です。
送信メールを見ると、ちょっと恥ずかしくて胸が苦しくなりますね~……。
64 = 1 :
―――
――
―
あずさ『メールの内容は、どんなものがいいんでしょうか~……』
小鳥『なんでもいいんじゃないですか? ありのまま気持ちを伝えるとか、そういうのでも男性は嬉しいはずです』
あずさ『こ、告白しろということですか?』
小鳥『気持ちといっても、何も恋愛感情だけではないはずよ。参考のために……、えーっと』ゴソゴソ
小鳥『ご覧あれ! ここに、ずっと前、春香ちゃんがプロデューサーさんに送ったというメールがあります!』
律子『……どこから手に入れてきたんですか? また勝手に覗いてコピーでもしたんじゃ……』
小鳥『見せてください、って言ったらすぐ見せてくれましたよ? 勝手にコピーしたのはあたしだけど』
律子『……あの人の鈍感っぷりは、もはや病気ですね』
小鳥『ま、それはともかく……、見てくださいよ~』
65 = 15 :
女子会という響きが気持ち悪いよな
66 = 1 :
…………………………………………………………
From:天海春香
Title:誕生石……☆
春香ですっ。プロデューサーさんに問題です。
さて、私の誕生石は、なんでしょう?
正解は、ダイヤモンド☆でした。
なんかちょっとショックですぅ……。
今度の誕生日に、はじめて自分で、ちゃんとした
アクセサリーを買おうって思ったんです。
誕生石にしようと思ったら、ダイヤモンドだなんて……。
ぜったいムリですよぉ~(>_<)
ダイヤモンドなんて、まだ私には早すぎますし。
だけどいつかは、ダイヤモンドの似合うような
ステキな女の人になりたいですっ♪
その日まで、誕生石はおあずけ、ですね。
…………………………………………………………
67 = 24 :
春香さんかわええなぁ
68 :
逆に高くない誕生石ってなんだよ
オパールか?アクアマリンか?
69 = 1 :
律子『これはまた見事な……、春香ったら、プロデューサーのことを友達か何かだと思ってるんじゃないの?』
小鳥『でもでも、春香ちゃんらしくてとってもかわいいじゃないっ! あたしもこういうメールが欲しいわ……』ブツブツ
あずさ『んー……、確かにかわいいですけれど、私にできるかしら~……』
音無さんの話によると、プロデューサーさんの担当になっている子(つまり竜宮小町と千早ちゃん以外の子)は
いつもみんな、こういうメールのやりとりをしているそうです。音無さんはなんでも知っていますね~。
だからちょっぴり恥ずかしくても、私も負けていられません。
律子『まぁ、どんな内容を送るかは自由ですが……、前も言ったように、相手は一応社会人なんですからね』
あずさ『社会人だと、何か気をつけるポイントがあるんですか?』
律子『あんまりダラダラ続かせるようなメールはダメ、ということです。一言二言の雑談メールは好き嫌いもありますし』
小鳥『一発でバシッ! とノックアウトさせてやるんですね、わかります!』
70 = 55 :
これが春香さんの男に貢がせるテクニックか
71 = 1 :
―――
――
―
あずさ「一発でばしっ、ばしっばしっ……、ふふっ、メールであなたのハートをノックアウト~♪」
いろいろと考えているうちに、なんだか楽しくなってきました~。
春香ちゃんのメールを参考に、プロデューサーさん宛てに何かメッセージを作ってみましょう。
返信は期待しないで、とにかく今のこの気持ちを形にすることから。
えっと、今日はなんだか調子がよくなさそうだったから、それを心配するように……。
あずさ「……だ・い・じょ・う・ぶ・ですか……、っと。本文はどうしましょう……」
ポチ、ポチ……
72 = 1 :
…………………………………………………………
To:プロデューサーさん
Title:大丈夫ですか?
プロデューサーさん、大丈夫ですか? あずさです~。
今日は、プロデューサーさんの顔色があまり
すぐれなかったようなので……、
心配になって、ついついメールしちゃいました。
ご迷惑をかけっぱなしの私が言うのもなんですけれど……、
プロデューサーさんあっての私なので、どうかくれぐれも
ムリはなさらないでくださいね。ちゃんと栄養、とれてます~?
本当は毎日、プロデューサーさんのお家まで
お食事とか作りに行きたいんですけれど……、
そんなことして変な噂でもたったら、逆にプロデューサーさんに、
ご迷惑かけちゃいますものね……。
…………………………………………………………
あずさ「こんな感じ……で、いいかしら? んんー……、そうだわ、夢子ちゃんに採点してもらいましょうー♪」ピッ
73 = 1 :
~♪
…………………………………………………………
From:夢子ちゃん
Title:120点!!
お姉様からそんなメールもらったら、
絶対嬉しいです!\(>▽<)/ウレシイヨー!
yume
…………………………………………………………
あずさ「まぁ……ふふっ、じゃあ、夢子ちゃんもぜひぜひ参考にしてね♪ っと……」ピッ
~♪
…………………………………………………………
From:夢子ちゃん
Title:無し
べ、べつに私はりょうにそういうメールなんて送ったりしみせ
…………………………………………………………
あずさ「しみせ? 何を伝えようとしたのかしら……、夢子ちゃん、もうおねむなのかも~」
75 = 1 :
あずさ「それじゃあ今度こそ、プロデューサーさんに……そうし~ん」ピッ
もうちょっと好き好き~、っていうのをアピールしてもよかったかもしれませんけど……、
私は奥手なので、美希ちゃんたちみたいに、上手に自分の気持ちを表現することができないのでした。
プロデューサーさんあっての私、という一文を書くので精一杯です。
でも急に、「あずさは俺のことが好きなのか~」なーんて思われても、ちょっぴり恥ずかしいですしね。
内容については、そんなに変じゃないですよね。夢子ちゃんも太鼓判を押してくれたし……。
体調を心配することはもちろんとして、お食事の件についても少し触れていますし、
今度の約束についても何か進展があるかもしれません。
ふふっ、私ったら策士かも~♪
あずさ「……だけど、返信、来るかしら? いえ来なくても……、まぁ、なんでも、いいですけれど~……」
76 = 1 :
あずさ「……」ソワソワ
あずさ「……」チラ
あずさ「…………はぁ」
~♪
あずさ「!!」パカッ
あずさ「……~♪」
あずさ「…………」ポチポチ… ピッ
あずさ「…………」ソワソワ
~♪
あずさ「!!」
78 = 1 :
あずさ「……んふふ~♪」
そのあと、私はプロデューサーさんと何通かメールのやりとりをしました。
結局、雑談メールみたいな形になってしまいましたけど……、
プロデューサーさんはそれほど、そういうのがキライなタイプではなかったようです。
「ご迷惑じゃないですか?」って聞いて、「大丈夫ですよ」って応えてくれたから……、そうですよね?
あずさ「もちろん、優しいからそういう風に、言ってくれたのかもしれないけど~……」
それはともかく……、手料理を作るというあの約束の件について、ついに触れることができたんです!
やっぱり顔が見えないと、ふだんできない話題を広げることもできますね。
今度の休みが重なったときにしよう、ということになりました~。
あずさ「ねぇ、ねぇ、ねぇ……、すきに~なってい~ですか~♪」パタパタ
その日は、人生でいちばん大切なチョメチョメになりそうです。
でも、それは……、今日からだいたい一ヶ月後の話なんですけどね。
79 = 1 :
― 電話編 ―
ピピピピピ
あずさ「……あら? メールだわ~」
80 = 1 :
…………………………………………………………
From:律子さん
Title:頑張ってください
律子です。オーディション、お疲れ様でした。
見てて気持ち良いくらいの快勝でしたね!
最近調子乗っちゃってる涼にも、いい刺激になったはずです。
あずささん、最近のあなたは、以前よりもずっとずっと綺麗になりました。
きっと恋しているからですね。
……あーあ、私もそんな相手さえいればなぁ、なーんて……。
っと、そんなことを言いたくてメールしたわけじゃなくてですね……、
……実は私。あのときはああ言いましたけど、本当は……、
あずささんの恋愛に関して、最初は心から賛成してはいなかったんです。
だってやっぱり、私はプロデューサーですから、立場上、
アイドルの恋愛に賛成できるはずがありません。
でもそれは、プロデューサーとしての私であって、
秋月律子本人の考えからすると……、
っと、こんなことまで書いたら長くなりそうですね。
とにかく! 私なりにいろいろ考えて、今ならこう言えるんです。
私はいま、心から応援しています!
だから……、後悔のないように、精一杯頑張ってください!!
それでは!
…………………………………………………………
81 = 1 :
こんにちは……、いえ、こんばんはですね。最近はとっても調子がいいです、あずさです。
あまりにも絶好調すぎて、一日一回しか迷子にならないんですよ~。
プロデューサーさんにあのメールを送ってから、およそ二週間が経ちました。
今日のお仕事がようやく終わって、いまは夜道を帰宅中。
手の中で光る携帯電話の画面を見ながら、にこにこ顔で歩いています。
あずさ「うふふ、律子さんったら~……」テクテク
律子さんには、いつもお世話になりっぱなしです。
私がアイドルとして活動できるのも、こうして心置きなくプロデューサーさんに想いを寄せていられるのも……。
ぜんぶぜんぶ、律子さんのおかげなんです。もちろん、音無さんもですけどね。
あずさ「今度ちゃんとふたりでお話をして、お礼を言わなきゃね。……って、あら?」ジャリ
……ここはどこでしょう?
もうそろそろ家に着いている頃のはずなのに、いつの間にか私は、見たこともない公園の砂場に立っていました。
公園に入ったことすら気付かなかったわ……。不思議なこともあるものですね。
83 = 1 :
あずさ「……月が綺麗ですね~。なーんて……」ギコギコ
公園のブランコでゆらゆら。
澄んだ夜空に浮かぶまん丸なお月様を眺めながら、私はプロデューサーさんのことを考えていました。
本当は、道に迷ってしまったことについて、もっと焦らないといけないはずなのですけれど……。
なんだか今日は、こうして寄り道するのも悪くないかなーって思っていました。
たまには近道ならぬ、寄り道したい、なーんて……、だめかしら?
あずさ「……電話、してみようかな」
今まで私は私なりに、いろいろと彼に対してアタックをしてきました。
以前よりたくさんお話をするようにしたり、メールも……、実は、数は少ないけれど毎日続けているんですよ。
内容は、ナイショです。恥ずかしいですし……、もちろんほとんどが他愛のないことですけれど、それでも。
私にとっては、一通一通が心にしまっておきたい大切なものなのです。
だからそろそろ次のステップ。電話をかけてもいい頃合、なのかもしれませんね。
85 = 1 :
あずさ「でも電話って……、用もないのにかけるとなると、なんだか緊張するわ~……」
友美に電話するのとは、わけが違います。違いすぎます~……。
携帯電話はもうプロデューサーさんの電話帳を開いているので、あとはこの発信ボタンを押すだけ。
なのに、なんでこんなにもぷるぷる手が震えるのでしょうか……。
あずさ「話題は何かあるかしら……? やっぱりお仕事のこと? オーディションのこと?」
ダメです、プロデューサーさんは私の担当の方じゃないんだから……。
オーディションで成功したのは、プロデューサーさんのおかげです~! なんて、わけがわかりません。
ただの雑談でもいいんじゃないかしら? とも思いましたけど、「どうしてわざわざ電話で?」
なんて思われたらどうしましょう。明日、事務所で会ったときに話せばいいじゃない……。
86 = 1 :
でも、いつまでもこのままじゃいけませんね。こんなの、私らしくないです。
電話くらい、なんてことありません、なんてことないんです。
そんなに悩むなら、電話しなければいいんじゃない、とも思いますけど……、
きっと今日この瞬間にかけなければ、しばらく後悔でいっぱいになってしまいます。
思い立ったが吉日。
それに……、あんな励ましをくれた律子さんに、顔向けできませんから。
あずさ「そうだ……、道に迷っちゃったんです、っていう形にしましょう! それだわ~」
私って、案外ずるい女みたいです。迷子になったのは本当ですけどね。
「律子に頼ればいいだろう」、なんて思いませんように……。
あずさ「すぅー……はぁー……」
思いっきり深呼吸をして、心は晴れ色……。いきますー……!
この発信ボタンを……ついに、押し――
ピピピピピ!
88 = 1 :
あずさ「ひゃっ! こんなときに電話? だ、誰~?」
……………………………
着信:プロデューサーさん
……………………………
!!
私に電話をかけてきたのは、なんとプロデューサーさんでした。
まさかこのタイミングでなんて……、やっぱりあなたは、運命の人なのかしら~……!
ピッ
あずさ「も、もしもし~……」
P『あ、もしもし。あずささんですか? ――です。すみません、夜遅くに』
あずさ「いえ……、大丈夫ですよ。ど、どうしたんですか~?」
P『その、律子から伝達がありまして。明日の集合場所の変更の知らせです』
89 = 1 :
プロデューサーさんの用事は、ただのお仕事の連絡でした。ちょっとがっかり。
でも……、やっぱり彼とお話できるのが嬉しくて、嬉しくて……、ついつい、顔がほころんでしまいます。
ふふふ……。
P『……に集合、ということで、よろしくお願いします』
あずさ「はい、了解しましたー。わざわざありがとうございます♪」
P『何かあったらすぐ連絡してください。名古屋とかに行ってしまう前に、早めにお願いしますね』
あずさ「ふふっ。いくら私でも、名古屋までは行きませんよ~」
P『そ、そうですよね。すみません、なんだかそんな夢を見てしまって』
あずさ「……でも律子さん、どうして直接、私に連絡してこなかったのかしら~?」
P『なんでも、携帯の電池が随分前に切れてしまったみたいで……。さっきまで事務所にいたんですけどね』
あずさ「……!」
90 = 15 :
りっちゃん優しいなー
91 = 1 :
律子さん、あなたと言う人は……、どこまで私に、気を配ってくれるんでしょうか。
なんだかちょっと、涙が出てきました。
電池切れちゃったって、そんな、嘘までついて……。
それならさっき私に、精一杯頑張ってくださいって言ってくれたのは、誰だというの?
私、年上なのに……、律子さんにはいつも、いっぱいいっぱい、頼りっぱなしね……。
P『……あずささん?』
あずさ「……ぁ、いえ……、ぐす、す、すみません。なんでもないです……」
P『……そうですか。それなら、いいんですが』
あずさ「……」
ブロロロロ……
92 = 1 :
P『あずささん、もしかして今、迷子になったりしてませんか?』
あずさ「え、どうして……」
P『ときどき車の走る音が聞こえますから。こんな時間なのに外にいるなんて、また迷ってしまったのかなと』
この人は鈍いのか鋭いのかわかりません……。たぶん、両方なのでしょうね。
アイドルたちが抱えていることについては、誰よりも先に気が付いて……、理解してあげられる鋭さ。
そのアイドルたちが自分のことをどう思うかについては……、誰よりも理解できていない、鈍さ。
それでも、私はそのギャップもまた……、人を惹きつける何かなのかもしれない、と思ってしまうのでした。
あずさ「……いえ。今日は迷子にならずに、ちゃんと家に帰れました~。今はちょっと、ベランダに出ているんですよ」
P『そうですか……、それならよかった』
さっきまで考えていた電話の口実を、私はばっさりと捨ててしまいました。
きっと、頼めばプロデューサーさんは私を迎えに来てくれます。でも、今はなんとなく、会いたくありません。
彼の顔を見たら……、いろんな思いが溢れてきて、今度こそ涙がぽたぽた零れてしまうに決まっているからです。
そうして私は、小さなウソをついてしまったのでした。
93 = 1 :
P『それじゃあ、あんまり遅くなるのも悪いので、このへんで……』
あずさ「……」
プロデューサーさんが、電話を切ろうとしています。
それはそうですよね、彼の性格から考えて……、アイドルのためにならないことはしないはずです。
たとえば、こんな風に夜遅くまで電話をすること、とか……。
P『あずささん? そこにいますか?』
あずさ「い、いますよ~。すみません、少しぼーっとしちゃって……」
こうやって私が黙ってしまうと、ちゃんと確認してくれるのも……、彼の優しさ。
プロデューサーさんは、いつだって私を見つけ出してくれるんです。
あのときだって……、私が、この気持ちを初めて抱いたときだって、そうでした。
95 = 1 :
ここは誰もいない、夜の公園。
空から静かに月が見ています。初夏の虫がりんりんと鳴いています。
私は、胸がとくんとくん、と高鳴りすぎて……、いまにも、泣いてしまいそうです。
あずさ「……あの、プロデューサーさん? そこにいますか~……?」
P『いますよ、勝手にいなくなったりしません』
あずさ「……」
P『あずささん?』
あずさ「……っ……も、もう少し……、私とお話してください……」ドキドキ
P『……もちろん、喜んで。あずささん、ひょっとして……、何かありましたか?』
あずさ「……ふふっ、何もないですよ~……。ただ、なんだか寝付けなくて。いつもはもっと、早寝なんですけど」
感極まって涙をこぼしてしまわないないように、いつものあずさになりきって……。
私たちは、お電話を続けました。
96 = 1 :
―――
――
―
あずさ「……それで律子さんったら、『あ、アイドルとしてステージに立つなんてもう無理ですよ~!』って……」
P『はは、それはもったいないな。……そういえば律子は、最初はアイドルをやるつもりじゃなかったそうですね』
あずさ「ええ。ふふっ、でも律子さん、とっても可愛かったんですよ。またいつか、一緒にステージで歌えたらなぁ……」
P『……』
あずさ「プロデューサーさん? どうかしたんですか?」
P『いえ……、そういえば、あずささんはどうしてアイドルになったんですか?』
あずさ「…………え、そ、それは~……」
P『あ、すみません、言いたくないならいいんです。ただ、ちょっと気になっただけだから』
あずさ「……」
P『……』
あずさ「…………う、運命の人を」
P『運命の人?』
あずさ「……有名になれば、きっと……、運命の人が、私を見つけてくれるんじゃないかって、思っていたんです」
97 = 1 :
あずさ「お、おかしいですよねっ。いえ、一昨年までの私がそう思っていただけで、今は当然ちがって……」
もちろん、今だってそう思っていたり、いなかったりしますけど……。
こんなことを言ってプロデューサーさんに変に思われてしまったら、どうしましょう。
この話は友美と夢子ちゃんにしかしていなかったのに、どうして言っちゃったのかしら……。
P『……全然、変じゃないですよ』
あずさ「……ホントに? 変じゃないですか? 子どもっぽいとか、け……、軽蔑とか……」
P『するはずがありません、ちょっとビックリはしましたが……。運命の人は、見つかりましたか?』
あずさ「いえ……、それが、全然なんです~……」
ここで、「運命の人は、きっとあなたです」と言えるほどの勇気は……、
今の私にはありませんでした。
あずさ「……も、もう違う話をしましょう? ね?」
あずさ「そういえば、こないだ雪歩ちゃんがコーヒーを淹れてくれて……」
プロデューサーさんと、この夢について深く話すのは、まだちょっとだけ……、怖いです。
なんだか余計な言葉を、口にしてしまいそうで……、だから私は、ついつい誤魔化してしまいました。
98 :
あずささんマジ可愛い
100 = 1 :
……それから1時間。私たちはいろんな話をしました。
大好きな紅茶やコーヒーのこと、故郷の実家で飼っている愛犬のこと。
事務所の近くにある輸入食品屋さんで発見した、のヮのという顔をした不思議な生き物のこと……。
ほとんど自分のことを語る形になってしまいましたが、プロデューサーさんはどんな話でもしっかり聞いてくれて、
もちろん私は……、とても幸せでした。
あずさ「それで、その生き物は食べられてしまうときに『ヴぁいヴぁーい』と鳴くんだそうです。もう、こわくてこわくて……」
P『は、はは……、ちょっと想像したくないな……。話を聞くと、なんだか誰かを思い出しますね』
あずさ「プロデューサーさんも、そう思います? 実は私もなんです~。これは、一体誰なんでしょう?」
プロデューサーさんは、私が話す言葉のひとつひとつに、こんな風にちゃんと耳を傾けてくれています。
さっきまであんなにうるさかった、この胸のどきどきも、いつしか落ち着いていました。
今なら、アレを言えるわ……。いえ、今しかありません!
あずさ「プロデューサーさん、その……、お料理をご馳走するという、約束の件なんですけど」
P『ああ、もうそろそろ……、再来週の木曜日ですね。毎日メールで言ってくるんだから、ちゃんと覚えていますよ』
それは今バラさないでください……。恥ずかしいです~……。
みんなの評価 : ★
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