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元スレあずさ「プロデューサーさん、さよならってどういう意味ですか…?」
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店員さんが、オレンジジュースを2つテーブルに置いた。
それまで、私と伊織ちゃんは一言も言葉を交わさず、ただ坂道を行き交う人を眺めていた。
「ねぇ」
厚い沈黙の殻を破ったのは伊織ちゃんだった。
そういえば、こういう時はいつも伊織ちゃんが先ね。
オレンジジュースを啜りながら、ぽつぽつと喋り出した。
「765プロの皆は、元気にしてる」
「えぇ、いつも見ているわ~」
「まだ事務所に顔は出せない?」
「……」
「そう、その顔じゃ無理そうね」
「……ごめんなさい」
それきり、また静かになる。
ジュースの氷が、崩れる音がひびく。
それをきっかけに、伊織ちゃんはお腹の底から言葉を吐き出す。
「……いつから?」
「えっ?」
「いつから、こんな事してるの?」
「退院して、しばらくしてからかしら」
「そう、あの時は大変だったわね」
「うぅん、ダメね~、私ったら……」
数か月前、アイドルを引退した。
それまで、私と伊織ちゃんは一言も言葉を交わさず、ただ坂道を行き交う人を眺めていた。
「ねぇ」
厚い沈黙の殻を破ったのは伊織ちゃんだった。
そういえば、こういう時はいつも伊織ちゃんが先ね。
オレンジジュースを啜りながら、ぽつぽつと喋り出した。
「765プロの皆は、元気にしてる」
「えぇ、いつも見ているわ~」
「まだ事務所に顔は出せない?」
「……」
「そう、その顔じゃ無理そうね」
「……ごめんなさい」
それきり、また静かになる。
ジュースの氷が、崩れる音がひびく。
それをきっかけに、伊織ちゃんはお腹の底から言葉を吐き出す。
「……いつから?」
「えっ?」
「いつから、こんな事してるの?」
「退院して、しばらくしてからかしら」
「そう、あの時は大変だったわね」
「うぅん、ダメね~、私ったら……」
数か月前、アイドルを引退した。
いいえ、引退という言葉はちょっと違うかもしれないわ。
形の上では、無期限休養。
記者会見も何もしてない。
週刊誌では、色々な憶測が飛び交っている。
出来るかぎり、笑みを崩さずに、口調を変えずに、言った。
「でも復帰は、無理よね」
伊織ちゃんは何も言わない。
ただ、ストローを噛みしめて、ひたすら何かに耐えている。
「ごめんなさい、今のは意地悪だったわね」
「席は、残ってる、わ」
「無理よ、ね?」
そう言って、右足の付け根の辺りを指差す。
「ダンスは……」
喉の奥が詰まった。
つかえを取るみたいに、小さく息を吸って、勢いをつけながら言った。
「ダンスは、一番苦手だったけれど、あの人が必死になって教えてくれたものだったの」
「……」
「満員のドームで踊れるようになったのは、あの人のお陰ね~」
「……」
「でも……」
大きく息を吸って、言った。
「失ってしまったの」
そう、ダンスは、あの人が遺した証そのものだった。
形の上では、無期限休養。
記者会見も何もしてない。
週刊誌では、色々な憶測が飛び交っている。
出来るかぎり、笑みを崩さずに、口調を変えずに、言った。
「でも復帰は、無理よね」
伊織ちゃんは何も言わない。
ただ、ストローを噛みしめて、ひたすら何かに耐えている。
「ごめんなさい、今のは意地悪だったわね」
「席は、残ってる、わ」
「無理よ、ね?」
そう言って、右足の付け根の辺りを指差す。
「ダンスは……」
喉の奥が詰まった。
つかえを取るみたいに、小さく息を吸って、勢いをつけながら言った。
「ダンスは、一番苦手だったけれど、あの人が必死になって教えてくれたものだったの」
「……」
「満員のドームで踊れるようになったのは、あの人のお陰ね~」
「……」
「でも……」
大きく息を吸って、言った。
「失ってしまったの」
そう、ダンスは、あの人が遺した証そのものだった。
>>62
ピヨ
ピヨ
>>63
俺得
俺得
>>63
よく分かってらっしゃる
よく分かってらっしゃる
周りのお客さんたちは、楽しそうに談笑している。
大体の人は、坂道にまつわる噂を楽しそうに話している。
ある人は、共有の手帳に同じペンで予定を書かきこんで、
ある人は携帯電話で友人と来週の約束を交わす。
この坂道は、都内でも有名なスポットだった。
春は桜の並木がアスファルトに模様を作って、冬は雪で真っ白なウェディングロードが出来あがる。
そして……。
ここを登りきった先には、煌めく街の大パノラマが広がる。
それを目当てにやってきたお客さんで、テラスは連日、賑わっていた。
だから、ここには自然と笑顔が溢れる。みんなゴールの景色を、心待ちにしている。
その中で、私と伊織ちゃんの席だけ、明るい笑顔が抜け落ちていた。
店員さんが、怪しがるのもわかるわ。
……私は、もうこの坂道を一人では登りきれない。
目を伏せて、言った。
「アイドルは、楽しかったわ、とっても」
「……」
「でもダンスも踊れないアイドルなんて、ちょっと困りものよね」
伊織ちゃんは私の言葉に、ただただ耳を傾ける。
乱暴に氷をかき混ぜるストローが、くしゃくしゃに折れ曲がっていた。
大体の人は、坂道にまつわる噂を楽しそうに話している。
ある人は、共有の手帳に同じペンで予定を書かきこんで、
ある人は携帯電話で友人と来週の約束を交わす。
この坂道は、都内でも有名なスポットだった。
春は桜の並木がアスファルトに模様を作って、冬は雪で真っ白なウェディングロードが出来あがる。
そして……。
ここを登りきった先には、煌めく街の大パノラマが広がる。
それを目当てにやってきたお客さんで、テラスは連日、賑わっていた。
だから、ここには自然と笑顔が溢れる。みんなゴールの景色を、心待ちにしている。
その中で、私と伊織ちゃんの席だけ、明るい笑顔が抜け落ちていた。
店員さんが、怪しがるのもわかるわ。
……私は、もうこの坂道を一人では登りきれない。
目を伏せて、言った。
「アイドルは、楽しかったわ、とっても」
「……」
「でもダンスも踊れないアイドルなんて、ちょっと困りものよね」
伊織ちゃんは私の言葉に、ただただ耳を傾ける。
乱暴に氷をかき混ぜるストローが、くしゃくしゃに折れ曲がっていた。
伊織ちゃんは、テーブルに肘をついて、頬に手を当てている。
丁度、横顔を向けている形ね。唇には、ストローを咥えている。
不機嫌そうな表情を変えずに、小さな声で言った。
「千早は、最近CDのレコーディングをはじめた」
「えっ……?」
「けれど、その前まで、ずっと上の空で、声がまるで出なかったのよ」
そのまま、無表情で続ける。
「真も今、ドラマで活躍してるのは、あのポスターを見れば分かるわね」
「……」
「だけど、キャンセルしたドラマのオファーは数十本はある」
唇だけで、無理やり笑顔をつくって、伊織ちゃんは言った。
「ま、私はそんな軟弱ものじゃないけどね」
よく見ると、伊織ちゃんの頬に、うっすらと影が入ってた。
「みんな、なんとか前に進めた」
そう呟いて……
伊織ちゃんは、正面に向き直って、私の瞳をまっすぐ見据えた。
そのルビーのような瞳に、吸い込まれそうになる。汚れのない瞳だった。
私の手を、強く握る。
ほんのりと熱がこもっていて、心地よい体温が、肌の下へそのまま伝わってくるようだった。
温かい。久々ね……。
それからハッキリと、大きな声で言った。
「あんたは、いつよ」
丁度、横顔を向けている形ね。唇には、ストローを咥えている。
不機嫌そうな表情を変えずに、小さな声で言った。
「千早は、最近CDのレコーディングをはじめた」
「えっ……?」
「けれど、その前まで、ずっと上の空で、声がまるで出なかったのよ」
そのまま、無表情で続ける。
「真も今、ドラマで活躍してるのは、あのポスターを見れば分かるわね」
「……」
「だけど、キャンセルしたドラマのオファーは数十本はある」
唇だけで、無理やり笑顔をつくって、伊織ちゃんは言った。
「ま、私はそんな軟弱ものじゃないけどね」
よく見ると、伊織ちゃんの頬に、うっすらと影が入ってた。
「みんな、なんとか前に進めた」
そう呟いて……
伊織ちゃんは、正面に向き直って、私の瞳をまっすぐ見据えた。
そのルビーのような瞳に、吸い込まれそうになる。汚れのない瞳だった。
私の手を、強く握る。
ほんのりと熱がこもっていて、心地よい体温が、肌の下へそのまま伝わってくるようだった。
温かい。久々ね……。
それからハッキリと、大きな声で言った。
「あんたは、いつよ」
そのまま、伊織ちゃんは眼を決して逸らさない。
震える唇が、ゆっくりと開く。
「別に、復帰しろとも、頑張れとも言わない」
握った手に、力がこもっていく。
「だけど、こんなこと毎日、毎日……同じこと繰り返してて……」
少しだけ、握られた手が、痛くなってきた。
なんだか伊織ちゃんから伝わるこの熱で、体が焼けてしまいそう。
視線が、真っ白なテーブルへと下がっていく。
「何になるのよ……」
……。
「留守番電話……」
「えっ……」
伊織ちゃんの俯いた顔が、持ちあがる。
目じりに涙がかすかに、溜まっていた。
伊織ちゃんの瞳を、見据える。
「留守番電話に、残っていたメッセージの1つ」
「……?」
「AM10:00に、ここで待ち合わせをしましょう」
「……」
「ただ、私は捜しているの。あの日を」
それから私は、奥底に溜まっていた言葉を紡いでいく。
自分でもビックリするくらい、迷いの無い声だった。
震える唇が、ゆっくりと開く。
「別に、復帰しろとも、頑張れとも言わない」
握った手に、力がこもっていく。
「だけど、こんなこと毎日、毎日……同じこと繰り返してて……」
少しだけ、握られた手が、痛くなってきた。
なんだか伊織ちゃんから伝わるこの熱で、体が焼けてしまいそう。
視線が、真っ白なテーブルへと下がっていく。
「何になるのよ……」
……。
「留守番電話……」
「えっ……」
伊織ちゃんの俯いた顔が、持ちあがる。
目じりに涙がかすかに、溜まっていた。
伊織ちゃんの瞳を、見据える。
「留守番電話に、残っていたメッセージの1つ」
「……?」
「AM10:00に、ここで待ち合わせをしましょう」
「……」
「ただ、私は捜しているの。あの日を」
それから私は、奥底に溜まっていた言葉を紡いでいく。
自分でもビックリするくらい、迷いの無い声だった。
そっと、数十メートル先を指さす。
つられて伊織ちゃんの視線がそっちへ向く。
「待ち合わせ場所は、あそこの電話ボックスなのは、わかったわ」
「えっ……?」
「それからプリンを買って、二人で、食べた気がするの」
「……気がする?」
「えぇ、さっきこめかみが痛くなったから」
伊織ちゃんは、眉を潜めて、私の顔をじっと見つめている。
普段の伊織ちゃんだったら、
何を言っているのか、さっぱり分からないわ!とでも言いそうなお顔ね。
「後は、まだ捜しているの。まだ、たったこれだけ」
「な、何を言ってるのか、さっぱりだわ……」
つられて伊織ちゃんの視線がそっちへ向く。
「待ち合わせ場所は、あそこの電話ボックスなのは、わかったわ」
「えっ……?」
「それからプリンを買って、二人で、食べた気がするの」
「……気がする?」
「えぇ、さっきこめかみが痛くなったから」
伊織ちゃんは、眉を潜めて、私の顔をじっと見つめている。
普段の伊織ちゃんだったら、
何を言っているのか、さっぱり分からないわ!とでも言いそうなお顔ね。
「後は、まだ捜しているの。まだ、たったこれだけ」
「な、何を言ってるのか、さっぱりだわ……」
>>87
いやなんか勘違いしてるみたいだけど、曲の歌詞書いただけだぞ
いやなんか勘違いしてるみたいだけど、曲の歌詞書いただけだぞ
「私は……ただ、知りたいだけなの」
「……?」
「どこに行って、何を食べたか」
「えっ……?」
「何を話して、どんな手の繋ぎ方をしたのか」
「……」
「そして最期に、あの人は何て言ったのか、どんな表情だったのか」
「……!」
「私は、最期に、あの人に、何を伝えられたのか」
「まさか……」
病院の真っ白い天井を見た時には、もう何もかもが終わっていた。
起きたら、全てを失っていた。
いくら"終わり"だけを、事細かに説明されても、
写真をいくら見せられても、
私にとっては、全て夢の中の出来事だった。
涙も、一滴も出なかった。
「何も思い出せないの」
パズルのピースのように、バラバラに砕け散った、あの日。
私は、ひたすら、この坂道で、破片をかき集めている。
「……?」
「どこに行って、何を食べたか」
「えっ……?」
「何を話して、どんな手の繋ぎ方をしたのか」
「……」
「そして最期に、あの人は何て言ったのか、どんな表情だったのか」
「……!」
「私は、最期に、あの人に、何を伝えられたのか」
「まさか……」
病院の真っ白い天井を見た時には、もう何もかもが終わっていた。
起きたら、全てを失っていた。
いくら"終わり"だけを、事細かに説明されても、
写真をいくら見せられても、
私にとっては、全て夢の中の出来事だった。
涙も、一滴も出なかった。
「何も思い出せないの」
パズルのピースのように、バラバラに砕け散った、あの日。
私は、ひたすら、この坂道で、破片をかき集めている。
だから、1秒だけでもいい。
あなたを、たしかに、感じられたなら……。
きっと、私は、この坂道を登りきれる気がする。
あなたを、たしかに、感じられたなら……。
きっと、私は、この坂道を登りきれる気がする。
>>93
ならば俺が代わりに抱きしめる
ならば俺が代わりに抱きしめる
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