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    元スレあずさ「プロデューサーさん、さよならってどういう意味ですか…?」

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    51 : 以下、名無しにか - 2012/06/09(土) 00:53:43.19 ID:sZtOs6yH0 (+35,+30,-231)
    店員さんが、オレンジジュースを2つテーブルに置いた。
    それまで、私と伊織ちゃんは一言も言葉を交わさず、ただ坂道を行き交う人を眺めていた。

    「ねぇ」
    厚い沈黙の殻を破ったのは伊織ちゃんだった。
    そういえば、こういう時はいつも伊織ちゃんが先ね。
    オレンジジュースを啜りながら、ぽつぽつと喋り出した。

    「765プロの皆は、元気にしてる」
    「えぇ、いつも見ているわ~」
    「まだ事務所に顔は出せない?」
    「……」
    「そう、その顔じゃ無理そうね」
    「……ごめんなさい」

    それきり、また静かになる。
    ジュースの氷が、崩れる音がひびく。
    それをきっかけに、伊織ちゃんはお腹の底から言葉を吐き出す。

    「……いつから?」
    「えっ?」
    「いつから、こんな事してるの?」
    「退院して、しばらくしてからかしら」
    「そう、あの時は大変だったわね」
    「うぅん、ダメね~、私ったら……」

    数か月前、アイドルを引退した。
    52 : 以下、名無しにか - 2012/06/09(土) 00:53:49.45 ID:IQGW8JXW0 (+12,+22,-3)
    寝たか?
    53 : 以下、名無しにか - 2012/06/09(土) 00:54:40.94 ID:uNxogBpb0 (+24,+29,-10)
    貴音かわいいよ貴音
    54 : 以下、名無しにか - 2012/06/09(土) 01:02:17.18 ID:bd/offsA0 (+18,+28,-3)
    引退…
    55 : 以下、名無しにか - 2012/06/09(土) 01:12:17.70 ID:bd/offsA0 (+1,+11,+0)
    56 : 以下、名無しにか - 2012/06/09(土) 01:13:53.68 ID:y7mmPTmN0 (-3,+11,+0)
    57 : 以下、名無しにか - 2012/06/09(土) 01:16:05.43 ID:sZtOs6yH0 (+35,+30,-220)
    いいえ、引退という言葉はちょっと違うかもしれないわ。
    形の上では、無期限休養。

    記者会見も何もしてない。
    週刊誌では、色々な憶測が飛び交っている。

    出来るかぎり、笑みを崩さずに、口調を変えずに、言った。
    「でも復帰は、無理よね」

    伊織ちゃんは何も言わない。
    ただ、ストローを噛みしめて、ひたすら何かに耐えている。

    「ごめんなさい、今のは意地悪だったわね」
    「席は、残ってる、わ」
    「無理よ、ね?」

    そう言って、右足の付け根の辺りを指差す。
    「ダンスは……」
    喉の奥が詰まった。
    つかえを取るみたいに、小さく息を吸って、勢いをつけながら言った。
    「ダンスは、一番苦手だったけれど、あの人が必死になって教えてくれたものだったの」
    「……」
    「満員のドームで踊れるようになったのは、あの人のお陰ね~」
    「……」
    「でも……」

    大きく息を吸って、言った。
    「失ってしまったの」
    そう、ダンスは、あの人が遺した証そのものだった。
    58 : 以下、名無しにか - 2012/06/09(土) 01:17:15.44 ID:9XNx3N4E0 (+24,+29,-3)
    名作の予感がするから頑張ってほしい
    59 : 以下、名無しにか - 2012/06/09(土) 01:18:15.79 ID:jGhP8kxY0 (+19,+29,+0)
    遺した、かよ
    60 : 以下、名無しにか - 2012/06/09(土) 01:19:29.09 ID:sZtOs6yH0 (+10,+15,+0)
    フォゥ!フロッ!
    61 : 以下、名無しにか - 2012/06/09(土) 01:24:13.31 ID:bd/offsA0 (+7,+17,+0)
    はよあがれ
    62 : 以下、名無しにか - 2012/06/09(土) 01:28:47.97 ID:jGhP8kxY0 (+31,+29,-23)
    睡眠は美希、食事は貴音
    入浴代行は誰がやるんだ?
    63 : 以下、名無しにか - 2012/06/09(土) 01:30:58.22 ID:qDwmCjNM0 (+14,+12,+0)
    >>62
    ピヨ
    64 : 以下、名無しにか - 2012/06/09(土) 01:32:13.99 ID:xFq0kR1F0 (+19,+27,+0)
    >>63
    俺得
    65 : 以下、名無しにか - 2012/06/09(土) 01:35:47.89 ID:QYSOEKAO0 (+26,+29,-2)
    >>63
    よく分かってらっしゃる
    66 : 以下、名無しにか - 2012/06/09(土) 01:36:51.41 ID:bd/offsA0 (+24,+29,-2)
    あずささんお風呂好きだったよね…
    67 : 以下、名無しにか - 2012/06/09(土) 01:43:22.17 ID:9XNx3N4E0 (+1,+11,+0)
    68 : 以下、名無しにか - 2012/06/09(土) 01:50:21.94 ID:bd/offsA0 (-22,-12,-1)
    69 : 以下、名無しにか - 2012/06/09(土) 01:51:10.66 ID:sZtOs6yH0 (+35,+30,-266)
    周りのお客さんたちは、楽しそうに談笑している。
    大体の人は、坂道にまつわる噂を楽しそうに話している。

    ある人は、共有の手帳に同じペンで予定を書かきこんで、
    ある人は携帯電話で友人と来週の約束を交わす。

    この坂道は、都内でも有名なスポットだった。
    春は桜の並木がアスファルトに模様を作って、冬は雪で真っ白なウェディングロードが出来あがる。
    そして……。
    ここを登りきった先には、煌めく街の大パノラマが広がる。

    それを目当てにやってきたお客さんで、テラスは連日、賑わっていた。
    だから、ここには自然と笑顔が溢れる。みんなゴールの景色を、心待ちにしている。

    その中で、私と伊織ちゃんの席だけ、明るい笑顔が抜け落ちていた。
    店員さんが、怪しがるのもわかるわ。

    ……私は、もうこの坂道を一人では登りきれない。

    目を伏せて、言った。
    「アイドルは、楽しかったわ、とっても」
    「……」
    「でもダンスも踊れないアイドルなんて、ちょっと困りものよね」

    伊織ちゃんは私の言葉に、ただただ耳を傾ける。
    乱暴に氷をかき混ぜるストローが、くしゃくしゃに折れ曲がっていた。
    70 : 以下、名無しにか - 2012/06/09(土) 01:52:25.70 ID:qDwmCjNM0 (+24,+29,+0)
    足がなんかあったんか
    71 : 以下、名無しにか - 2012/06/09(土) 02:02:43.53 ID:bd/offsA0 (+24,+29,-4)
    歌があるじゃない…
    72 : 以下、名無しにか - 2012/06/09(土) 02:09:54.88 ID:xbUAkHPi0 (+17,+27,+0)
    ふむ
    73 : 以下、名無しにか - 2012/06/09(土) 02:13:05.21 ID:9XNx3N4E0 (+1,+11,+0)
    74 : 以下、名無しにか - 2012/06/09(土) 02:13:07.43 ID:sZtOs6yH0 (+35,+30,+0)
    伊織ちゃんは、テーブルに肘をついて、頬に手を当てている。
    丁度、横顔を向けている形ね。唇には、ストローを咥えている。

    不機嫌そうな表情を変えずに、小さな声で言った。
    「千早は、最近CDのレコーディングをはじめた」
    「えっ……?」
    「けれど、その前まで、ずっと上の空で、声がまるで出なかったのよ」
    そのまま、無表情で続ける。

    「真も今、ドラマで活躍してるのは、あのポスターを見れば分かるわね」
    「……」
    「だけど、キャンセルしたドラマのオファーは数十本はある」

    唇だけで、無理やり笑顔をつくって、伊織ちゃんは言った。
    「ま、私はそんな軟弱ものじゃないけどね」

    よく見ると、伊織ちゃんの頬に、うっすらと影が入ってた。

    「みんな、なんとか前に進めた」
    そう呟いて……
    伊織ちゃんは、正面に向き直って、私の瞳をまっすぐ見据えた。
    そのルビーのような瞳に、吸い込まれそうになる。汚れのない瞳だった。

    私の手を、強く握る。
    ほんのりと熱がこもっていて、心地よい体温が、肌の下へそのまま伝わってくるようだった。

    温かい。久々ね……。

    それからハッキリと、大きな声で言った。
    「あんたは、いつよ」
    75 : 以下、名無しにか - 2012/06/09(土) 02:25:08.05 ID:FsUxnP2S0 (+4,+14,-12)
    しえん
    76 : 以下、名無しにか - 2012/06/09(土) 02:26:00.71 ID:5JKP5UDxi (+14,+29,-1)
    隣にか、これ
    77 : 以下、名無しにか - 2012/06/09(土) 02:28:42.68 ID:wBUxgfj8i (-25,-10,+0)
    支援
    78 : 以下、名無しにか - 2012/06/09(土) 02:33:40.02 ID:sZtOs6yH0 (+35,+30,-223)
    そのまま、伊織ちゃんは眼を決して逸らさない。
    震える唇が、ゆっくりと開く。
    「別に、復帰しろとも、頑張れとも言わない」

    握った手に、力がこもっていく。
    「だけど、こんなこと毎日、毎日……同じこと繰り返してて……」
    少しだけ、握られた手が、痛くなってきた。
    なんだか伊織ちゃんから伝わるこの熱で、体が焼けてしまいそう。

    視線が、真っ白なテーブルへと下がっていく。
    「何になるのよ……」

    ……。

    「留守番電話……」
    「えっ……」
    伊織ちゃんの俯いた顔が、持ちあがる。
    目じりに涙がかすかに、溜まっていた。

    伊織ちゃんの瞳を、見据える。
    「留守番電話に、残っていたメッセージの1つ」
    「……?」
    「AM10:00に、ここで待ち合わせをしましょう」
    「……」
    「ただ、私は捜しているの。あの日を」

    それから私は、奥底に溜まっていた言葉を紡いでいく。
    自分でもビックリするくらい、迷いの無い声だった。
    79 : 以下、名無しにか - 2012/06/09(土) 02:37:16.51 ID:bd/offsA0 (+24,+29,-3)
    まさか繋がってるとは…
    80 : 以下、名無しにか - 2012/06/09(土) 02:43:46.17 ID:FsUxnP2S0 (+19,+29,+0)
    俺のあずさ
    81 : 以下、名無しにか - 2012/06/09(土) 02:48:05.20 ID:xbUAkHPi0 (+23,+28,-16)
    これ何かのssの続編?
    82 : 以下、名無しにか - 2012/06/09(土) 02:48:49.14 ID:bd/offsA0 (+24,+29,+0)
    勘違いだった。すまん
    83 : 以下、名無しにか - 2012/06/09(土) 02:53:38.71 ID:QYSOEKAO0 (+34,+29,-2)
    もし神様がいるとしたらあの人を返して
    84 : 以下、名無しにか - 2012/06/09(土) 03:02:22.95 ID:9XNx3N4E0 (+24,+29,+0)
    最後まで行ってほしい
    85 : 以下、名無しにか - 2012/06/09(土) 03:02:31.47 ID:sZtOs6yH0 (+35,+30,-130)
    そっと、数十メートル先を指さす。
    つられて伊織ちゃんの視線がそっちへ向く。

    「待ち合わせ場所は、あそこの電話ボックスなのは、わかったわ」
    「えっ……?」
    「それからプリンを買って、二人で、食べた気がするの」
    「……気がする?」
    「えぇ、さっきこめかみが痛くなったから」

    伊織ちゃんは、眉を潜めて、私の顔をじっと見つめている。
    普段の伊織ちゃんだったら、
    何を言っているのか、さっぱり分からないわ!とでも言いそうなお顔ね。

    「後は、まだ捜しているの。まだ、たったこれだけ」
    「な、何を言ってるのか、さっぱりだわ……」
    86 : 以下、名無しにか - 2012/06/09(土) 03:04:14.91 ID:xFq0kR1F0 (+29,+29,-19)
    もしかしてさよ教的な流れじゃないだろうな・・・
    87 : 以下、名無しにか - 2012/06/09(土) 03:04:16.65 ID:xbUAkHPi0 (+33,+29,+0)
    >>83
    ありがとう
    探してみる
    88 : 以下、名無しにか - 2012/06/09(土) 03:05:19.75 ID:QYSOEKAO0 (+34,+29,-6)
    >>87
    いやなんか勘違いしてるみたいだけど、曲の歌詞書いただけだぞ
    89 : 以下、名無しにか - 2012/06/09(土) 03:06:26.42 ID:Lufl6KcM0 (-16,-6,-2)
    90 : 以下、名無しにか - 2012/06/09(土) 03:10:30.94 ID:sZtOs6yH0 (+35,+30,-170)
    「私は……ただ、知りたいだけなの」
    「……?」
    「どこに行って、何を食べたか」
    「えっ……?」
    「何を話して、どんな手の繋ぎ方をしたのか」
    「……」
    「そして最期に、あの人は何て言ったのか、どんな表情だったのか」
    「……!」
    「私は、最期に、あの人に、何を伝えられたのか」
    「まさか……」

    病院の真っ白い天井を見た時には、もう何もかもが終わっていた。
    起きたら、全てを失っていた。

    いくら"終わり"だけを、事細かに説明されても、
    写真をいくら見せられても、
    私にとっては、全て夢の中の出来事だった。

    涙も、一滴も出なかった。

    「何も思い出せないの」

    パズルのピースのように、バラバラに砕け散った、あの日。
    私は、ひたすら、この坂道で、破片をかき集めている。
    91 : 以下、名無しにか - 2012/06/09(土) 03:14:00.65 ID:sZtOs6yH0 (+29,+29,-14)
    だから、1秒だけでもいい。
    あなたを、たしかに、感じられたなら……。

    きっと、私は、この坂道を登りきれる気がする。
    92 : 以下、名無しにか - 2012/06/09(土) 03:15:39.27 ID:MgXCkLT+0 (+17,+27,-3)
    記憶喪失か?
    93 : 以下、名無しにか - 2012/06/09(土) 03:16:02.32 ID:QYSOEKAO0 (+30,+29,-5)
    抱きしめられた温もり忘れちゃったか…
    94 : 以下、名無しにか - 2012/06/09(土) 03:17:05.88 ID:MgXCkLT+0 (+34,+29,+0)
    >>93
    ならば俺が代わりに抱きしめる
    95 : 以下、名無しにか - 2012/06/09(土) 03:17:38.06 ID:sZtOs6yH0 (+29,+29,-1)
    第1部 完!

    一旦セーブしよ――――!!!
    96 : 以下、名無しにか - 2012/06/09(土) 03:18:30.91 ID:F5LXqNW/i (-21,-9,+0)
    はよ
    97 : 以下、名無しにか - 2012/06/09(土) 03:18:40.53 ID:QYSOEKAO0 (-5,+0,+0)
    セーブしたよー!!
    98 : 以下、名無しにか - 2012/06/09(土) 03:19:45.55 ID:MgXCkLT+0 (+29,+29,-4)
    ぼうけんのしょ1にセーブしますか?

    →はい
     いいえ
    99 : 以下、名無しにか - 2012/06/09(土) 03:21:14.08 ID:9Vwt2sZ60 (+18,+28,-5)
    雰囲気(何故か変換できた)がすげえ
    100 : 以下、名無しにか - 2012/06/09(土) 03:21:46.15 ID:/rM6DIPR0 (+29,+29,-8)
    P、眼鏡とあずささんを残して逝っちまうなんて……
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