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元スレあぎり「ソーニャが、死んだ?」
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あぎり「……終わりましたね」
私は殺し屋の死体を見下ろしながら、左手の吹き矢を慎重にしまった。
革製のケースは、にじみ出た猛毒によってすっかり変色している。
アナログなのもいいけれど、今度からは注射器とかも使おうか。
あぎり「すみませんねえ……苦無で刺したくらいじゃ死にそうになかったので」
あぎり「ちょっとだけ、強めのお薬を使わせてもらいました」
そばに屈みこんで、すこしごわっとした茶髪を撫でる。
干したての布団のような匂いがした。
元気な所といい、どこか子犬のような少女だ。
あぎり「苦しかったですか?……馬鹿ですね、私みたいな人間に背を向けるなんて」
もう少し賢ければ、長生きできたかもしれないのに。
それでなくても、こういう馬鹿で素直な人はあの娘を連想していけない。
別にためらったりはしない。 悲しいわけでもない。
ただ、もし彼女を殺せと言われたら……簡単に殺せてしまえそうで、気分が悪い。
あぎり「……さてと」
いつまでも遊んでいるわけにはいかない。 今は誰も居ないが、ここもいずれ人が通るだろう。
それまでにこの死体を、なんとかしなければ。
そもそもそのために、わざわざ学校の近くまで来たのだから。
……
――空き教室。 ここは元忍者同好会の部室でもある。
私はその隅に置かれたロッカーを、死体の隠し場所として選んだ。
隠し場所といっても、組織の連中が回収に来るまで、それほど長くはかからないだろう。
なら埋めたりする必要はない。 一時的に人の目を遠ざけられれば十分だ。
それなら、ここはかなり適した場所と言える。
ここには私と、彼女しか来ないから。
一応ロッカーの鍵を閉めた後、私はソーニャの遺品では無い方の携帯を取り出した。
走りながらメールした同僚には、私の格好をしてあの娘を見張っておくように頼んである。
しかし、電話に出た同僚は開口一番謝ってきた。
偽あぎり「すみませーん、対象の補足に失敗しましたー」
あぎり「……は?」
偽あぎり「今回の給料は要りませんのでー、それではー」
あぎり「はいはい逃げないで説明してください」
偽あぎり「それが……連絡があった直後に指定場所へ向かったんですが」
偽あぎり「折部……さんでしたっけ? もう居なかったんですよ」
あぎり「……追いかけましたか?」
偽あぎり「もちろん……でも、彼女の家まで行っても居ませんでした」
まずい。 殺し屋はあの一人だけじゃなかった……?
なら、彼女は人質に取られた? いや、とりあえずの情報源として? それとも関係者に間違われたか?
それなら今頃彼女は、どこかの組織に拘束されている? 尋問されている?
……殺された?
体中の血液が冷たく感じる。 頭だけが燃えるように熱い。
前髪を伝った冷や汗が、小さな音を立てて床に落ちた。
なぜすぐに確認しなかったのだろう。 死体なんて放っておけばよかったのに。
あの娘に何かあったら、誰を何人殺そうが意味ないのに。
偽あぎり「……ちょっと、聞いてます?」
あぎり「……は、い」
息が乱れて、上手く返事をすることができない。
一度深呼吸してから、改めて電話に注意を向ける。
偽あぎり「はあ……ちょっと落ち着いてくださいよ」
あぎり「…………」
偽あぎり「……たぶん、殺し屋は一人だけです」
偽あぎり「そもそも、ソーニャさんを殺ったのは単独の殺し屋ですよ?」
偽あぎり「それに、折部さんだって家にまっすぐ帰るとは限らないでしょう……」
あぎり「あ……」
偽あぎり「どうせ、大した説明も無いまま慌てて逃げてきたんでしょ?」
偽あぎり「おそらく、あなたを追いかけて行ったんだと思うんですけど」
あぎり「そ、そう……ですね」
あぎり「きっと、そうでしょう……」
思わずため息が漏れた。
急激に緊張がほぐれたからか、頭がガンガンする。
情けない話だ。
偽あぎり「それで? あなたは、今どこに居るんです?」
偽あぎり「……というか、どこに向かう、と言ったんですか?」
あぎり「えーと、学校の……」
空き教室に、と言いかけて口が止まる。
今、自分はどこにいて、彼女はどこに向かっている?
それはもちろん……
やすな「ソーニャちゃん!……って、あれ?」
ここだ。
やすな「あぎりさん?」
あぎり「あ、ああ……久しぶり、ですね」
……
――空き教室。
急に開いたドアの向こうには、ソーニャを探しに来た彼女が立っていた。
当然、そんな急なことに反応できるはずがない。
殺し屋を騙したときはマスクを剥ぐだけで良かったが、一瞬で逆をするのは不可能だ。
私は久々に素顔で……呉織あぎりとして、彼女に接しなければならなくなった。
やすな「久しぶり……?」
あぎり「あー……体感時間的に、ですよ」
やすな「はあ……まあいいや」
あぎり「あはは……」
やすな「それより、どうしたんですか? 一人で……」
あぎり「別に、大したことじゃありませんよ」
あぎり「ちょっと電話を……仕事のことで」
状況を察したのか、すでに通話が切れた携帯を持ち上げてアピールする。
単調な電子音が、虚しく部屋に響いた。
やすな「はあ……あ、そうだ」
やすな「あの、あぎりさん?」
あぎり「はい、なんでしょう?」
彼女は、特に疑問を持たなかったようだ。
好都合だけど、同時に、何か引っかかったような感触を覚える。
やすな「えっと、ソーニャちゃん見ませんでした?」
あぎり「ソーニャ?……はい、まあ」
やすな「本当!? どこに居たんですか?」
あぎり「あの、何かありました?」
やすな「ああ、その……さっき、忘れ物があるとか言って走って行っちゃって」
やすな「でも、なんだか、様子が変だったというか」
やすな「目が仕事をするときの目になっていたというか……」
あぎり「ああ、なるほどー……」
やすな「それで追いかけてきたんですけど、どこにも居なくて」
あぎり「なら、ちょうど行き違いになっちゃったんですねー」
あぎり「ソーニャなら、ついさっきここを出ていったばかりですよ?」
やすな「えっ? そうなんですか!?」
あぎり「ええ、何か探してたみたいですけど?」
やすな「……なんだ、本当に忘れ物かあ……」
彼女は明らかに怪しい言い訳を素直に信じているようだ。
それは彼女が単純だからか、それとも、それが望んでいた答えだからなのだろうか。
やすな「じゃあ、今から戻ろうかな……」
あぎり「たぶん、追いつけないとおもいますよー?」
あぎり「あなたを待たせてる、って言って急いで出て行きましたから」
やすな「あちゃあ……そうですか」
どちらにせよ、私には好都合だった。
このまま彼女が帰ってくれれば、それで終わりのはずだった。
やすな「ありがとうございました……それじゃあ」
あぎり「あ、ちょっと待って下さい」
やすな「え? なんですか?」
あぎり「……あなたは――」
それなのに、私はどうしても我慢できなかった。
あぎり「――どうして、ソーニャの仕事を邪魔するんですか?」
やすな「……え?」
あぎり「あなたが慌てて帰ってきたのは、ソーニャが仕事をするんじゃないかと思ったからでしょ?」
やすな「あ、まあ……そうですけど」
あぎり「どうしてですか?」
やすな「どうして、って……」
こんなこと聞く必要は無い。
それどころか、変な勘ぐりをされかねない。
それでも、私の口は止まらなかった。
あぎり「……あなたは、何故彼女に人を殺させたくないんですか?」
やすな「そ、そんなの……悪いことだからに決まって」
あぎり「嘘ですね」
やすな「えっ?」
あぎり「悪いことだと思ってるなら、その悪いことをしてきた彼女を軽蔑するでしょう」
あぎり「そんなこと……全然、ないじゃないですか?」
やすな「あ……えっと」
今の私は、どんな顔をしているんだろうか?
自分でもよくわからない。 けれど、今まで彼女に、周りに向けてきた顔じゃないのはわかる。
柔和で、曖昧で、何を考えているのかわからない笑顔。
いつからかずっと、他人に対して浮かべてきた作り笑い。
私は今、きっとそれを顔に貼り付ける余裕なんて無い。
あぎり「……本当のことを言ってください」
やすな「あの、えっと……」
やすな「……この前、ソーニャちゃんが、結構長く休んでて」
やすな「帰ってきた時も、すごい大怪我してて」
彼女が語り始めた内容は、私が想像していた通りだった。
でも、望んでいたわけじゃなかった。
矛盾した行動は、当然私の精神をえぐりだす。
やすな「それで……やっぱりこの仕事って、危ないんだな、って思って」
やすな「もう一回、こんなことがあったら……」
やすな「二度と、ソーニャちゃんが帰ってこないんじゃないか、って、思って……」
あぎり「じゃあ、やすなさんは……」
あぎり「ソーニャに、死んで欲しくないから」
あぎり「だから……いつも付いて回って、仕事を邪魔するんですね」
やすな「……だ、大事な、友達ですから……」
彼女は、あの時のことを思い出したのか、どこか泣きそうな顔をしていた。
私も今こんな顔をしているのかな、とふと思った。
思えば最初から、私は気づいていた。
人を殺すのは悪いこと、そう語る彼女は、きっとそんなことを言いたいんじゃないと思っていた。
人が必死になる時は、いつも単純な理由で動いているものだ。
彼女はただ、自分の大事な友達を失いたくなかっただけだろう。
命のやりとりなんて、危険な行為に手を染めて欲しくなかっただけだろう。
明日いなくなるともしれない相手だからこそ、毎日全力で遊んでいたのだろう。
それほど大事な、親友だったから。
あぎり「あ……は、はは」
口が不自然に歪んで、まるで笑っているように息が漏れる。
手から、漫画みたいに携帯が滑り落ちた。
>>79
kwsk
kwsk
やすな「あぎり、さん……?」
二人には広すぎる部屋に、単調な電子音が響く。
携帯電話……そう、携帯電話だ。
これを、持っていたのに。
仕事の、電話をしていたのに。
あぎり「じゃあ……」
なんで。 どうして?
あぎり「どうして……」
あぎり「……私は、邪魔してくれないんですか?」
やすな「……あっ」
彼女の顔がさっと青ざめる。
こんなに優しい子に、私はなんて残酷なことを言っているんだろう?
あぎり「私も、ソーニャと同じ組織の人間です」
あぎり「方法に違いはあっても、仕事は同じ……人殺しです、玩具の販売じゃありません」
やすな「あ……えと」
これはただの八つ当たりだ。 彼女は何も悪くない。
頭では理解していても、言葉は止まらない。
あぎり「……忍術って、人を楽しませるためのものじゃないんです」
あぎり「それはマジシャンの仕事で、私にできるのは……本当は殺しだけなんですよ」
あぎり「だから……だからいつも、そんな、死ぬかもしれない仕事をしてお金を稼いでいるんです」
それはきっと、一つの事実を……認めたく無かったからだろう。
あぎり「あなたは……ソーニャに死んで欲しくないから、仕事を邪魔するんですよね?」
やすな「……それは」
あぎり「でも、私のことはそう思わないんですね」
やすな「そんなこと……!」
当然だ。 醜い本性を隠して、いつも上辺しか見せないこんな人間に何の魅力があると?
至って普通の……当然の事実だ。
それでも……
あぎり「ああ……そうなんですかー」
……それでも、そうじゃないと思っていたのに。
あぎり「私は、あなたの……大事な友達じゃないんだ……」
やすな「……ち、違います」
あぎり「何が違うっていうんですか?」
やすな「私は、あぎりさんも……」
あぎり「……適当なこと言わないでください!」
私は全部知っている。 あなたは知らないだろうけど。
ソーニャが仕事の電話をするだけで、どんな顔をするのか。
ソーニャが少し居なくなったら、どんな背中を見せるのか。
ソーニャに再会したとき、どんなに泣いて、怒って、笑って、喜んだか。
このSS見てたらあぎりさんがかわいそうになってきた
これからキルミーはあぎりさん一筋で行こう
これからキルミーはあぎりさん一筋で行こう
やすな「っ……」
あぎり「私も……何ですか?」
それと、同じだと?
目眩がする。
あぎり「……適当なこと、言わないでください」
やすな「………」
気づくと、彼女は泣いていた。
それが何故なのか、私にはわからない。
私はただ、やってはいけないことをした、ということしかわからない。
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