元スレほむら「あなたの欠片を」
SS覧 / PC版 /みんなの評価 : ☆
1 :
空を見上げる。
夜を裂いて広がる銀河に、手を伸ばし、声を掛ける。
「まどか、元気にしてる?」
『うん、元気だよ』
「今日はね、面白いことがあったんだよ」
『何があったの?』
「えっとね……」
あなたと話しているだけで、私の心は満たされて。
あなたの笑い声も笑う顔も笑う仕草も、すべて私の中に。
でも、それは幻。
私に相槌を打ち、反応し、言葉を返してくれるまどかは、私の弱い心が作り出した幻。
そんなことは分かってる。
2 = 1 :
だから消えてしまう。
哀しそうな笑みと共に、彼女の姿は闇に溶ける。
私はいつまでもこの場から離れられない。
雨の降りしきる中、あなたを失ったこの場所を。
あなたの言ったお別れが、私の心を縛り付けて離さない。
この痛みが癒えるまできっと、ここに来ては独り宙へと語りかけるのだろう。
無駄と知っていながらも。
暁の焔が空を紅に焼く。
仄かに瞬いていた星たちは夜の果てへ。
また夜は明ける。
明けて一日が始まる。
あなたのいない日常がまた。
3 = 1 :
彼女が概念となった世界。
私は今も戦い続けている。
引き絞られた弦から、矢が放たれ。
高速で飛ぶ鏃に追従するように、魔力の弾丸が流星と流れ、魔獣を殲滅した。
「ふむ、相変わらず見事な技量だね」
「当たり前よ」
繁華街。
人の感情がよく集まるこんな場所は、魔獣どもにとって格好の餌場。
私たち魔法少女にとっては、格好の狩場。
投げかけられる称賛の言葉に、これといって感慨はない。
幾百の魔獣を屠っただろうか。
いつしか数えることは止めていた。
穢れを吸い取り終えたグリーフシードを、後ろ手に放る。
地を打つ音が無いことを確認して、歩みを進める。
瘴気を肌に感じながら。
彼女のリボンにそっと触れながら。
4 = 1 :
「今日は本当に瘴気が濃いね」
「全部潰すだけ」
迷いはない。
それは私の生きる意味。
ただ寂しさに溺れながら、今日も力を振るう。
あなたの力を。
ねえ、まどか。
会いたいよ。
思いは届かず、目の前に現れるのは醜い獣。
蒸し暑い空気を力任せに裂くように、翼を広げ空を舞う。
5 = 1 :
「あら、先客ね」
一人暗闇にたそがれる私に、声が投げ掛けられる。
言葉の主は巴マミ。
「こんな所に何の用が?」
「その言葉、そっくりそのまま返すわよ」
「それも、そうね」
魔獣を狩り終えると私はいつも、朝までの時間をここで過ごす。
かつてまどかと別れたこの場所で。
何の変哲もないビルの屋上、そんなところに腰掛ける私。
さぞかし彼女の目には奇妙に映るだろう。
だからこそ私も、彼女のことを不思議に思う。
「どうしてかしらね、パトロールをしていただけなのに」
「自然と迷い込んだのなら、夢遊病の気でもあるんじゃないかしら」
「もう、バカにしないで」
6 = 1 :
そんな会話を二つ三つ繰り返して、
少しの沈黙を経てから、ゆっくりと言葉が吐き出される。
「ここ、何かあったのかしら」
「何って?」
「どう言えばいいのか分からないけれど。
喪失感、虚無感、あたりが近いのかしら、それに誘われて、気付いたらここに居たのよ」
「……」
「美樹さんが導かれてしまった時。
あの時あなたが零した言葉が、何故か胸から離れなくて」
7 :
ほむほむ
8 :
『がんばって』
9 :
まどかSSは変態じゃないと見る気が起きない
10 :
これは久しぶりに
11 = 1 :
覚えているということではないだろう。
あったはずのものがなくなった、その不具合が出ているだけ。
知らんぷりをしてしまえば、きっと日常に埋もれていくだけの小さな齟齬。
だけど。
「知りたいというなら、教えてあげる」
「知りたいわ」
「そうね、魔法少女が当然のように解している理。
それがどのように作られたのか、考えたことがあるかしら」
ただの概念になり果てたはずのあなた。
あなたが生きた証は、記憶という形を取り私の心に残された。
消滅の運命を免れて。
それならば、語り伝えていくことで。
何かを起こせると信じよう。
12 = 7 :
ほむほむ
13 = 1 :
「……信じられない」
「聞いたのはあなたじゃない」
「ええ、そうなのだけれど、さすがにそう信じられるものじゃないわよ」
「僕も同じことを聞かされたけどね、その反応が妥当だろう」
「あらキュゥべえ、いたのね」
「ひどいなあ、マミ」
「もう少し詳しく話した方がいいかしら」
14 = 7 :
まみまみほむほむ
15 = 1 :
「興味はあるのだけど、ごめんなさい。
今は自分の中で情報を整理しないと、ちょっと混乱しちゃいそう」
「まあ僕も、作り話として切り捨てるには、あまりに出来すぎていると思うかな」
これくらいが限界だろうか。
信じられないのはきっと無理もないこと。
世界の在り様を変えてしまった魔法少女の存在なんて、作り話と思われない方が難しい。
でも、彼女には信じて欲しい。
あの子の師として。
「もう少し時間を頂戴」
「ええ」
16 = 1 :
それからは、やくたいもない世間話に花を咲かせた。
学校のことや進路のこと、最近駅前に出来たショッピングモールのこと。
夜になって幾分か空気も涼み、ビル風が程よく私たちの身体を冷やしていく。
「随分と忙しそうね」
「学生しながら魔法少女の仕事もこなさなきゃいけないんだもの、当たり前よ」
「大変じゃない?」
「今は佐倉さんやあなたが手伝ってくれているから、そうでもないわ」
「そう言えば、杏子はどうしたの」
「……また」
「そう」
「乗り越えるには、まだちょっと時間が要るみたい」
「無理もないわ」
17 :
こんな雰囲気も良い
18 = 1 :
「君達二人で回るには、ちょっとこの街は大きいし、早く復帰して欲しい所だけど」
「あまり女の子を急かすものじゃないわよ」
「ええ」
「やれやれ、君達のためを思って言っているのにな」
思わず耳を疑うような発言を努めて冷静に聞き流して。
空が白み始めたことを確認し、腰を上げる。
こんなビルにも、鳥の朝鳴きが聞こえてくる所は、いかにもこの街らしい。
「あら、行くのかしら」
「もう朝じゃない、学校はどうするつもり」
「このまま行こうかなって」
「お風呂くらい入りなさいよ」
「ふふ、そうよね」
19 = 1 :
*****************************************
「佐倉杏子」
「……ん、ほむら」
放課後を迎えた私の足は、自然とある場所へ向いていた。
とある市営地下鉄のホーム。
夕方ということもあり、多くの人が行き交う中、一人ベンチで佇む彼女。
とても小さく、儚げに。
「何の用さ」
「グリーフシード。 届けに来た」
「いらないって言ってんのに」
「好きでしていることよ」
ソウルジェムにグリーフシードを押し当てる。
口では拒否していたけれど、抵抗するような素振りは見せない。
片膝を抱えて縮こまる姿に、いつか見た雄雄しさは欠片もなく。
20 = 17 :
杏子かわいそう……
21 :
ほむぅ…
22 = 1 :
彼女は口を開かない。
ただ時間と人波だけが流れ続け、役目を終えたグリーフシードをキュゥべえに与えて。
それからしばらくの沈黙を経て、ようやく私の口は言葉を紡ぐ。
「ねえ」
「何だよ」
「どうして力尽きた魔法少女が消えてしまうのか、興味はある?」
「まあ、それなりに」
「話してあげる」
また私は語り始める。
そんな機会を与えてくれた、何処かの誰かに想いを馳せながら。
23 = 1 :
「世界の理そのものになった魔法少女ねえ、とんでもねえ話だな」
「信じられないかしら」
「そんな簡単に信じられるモンでもないだろ」
「まあ、それもそうね」
「大体、何でお前がそれを覚えてるんだよ。
存在が一切合切消えちまって、記憶だけ残ってるって訳わかんねーって」
「奇跡でも、起きたんじゃないかしら」
消えてしまうはずだった、あの子の記憶を。
私たった一人が引き継いだことが、奇跡でなくて何だろうか。
「まーた根拠のないことを」
「そうとしか言いようがないんだもの、しょうがないじゃない」
「なんだってそんな突拍子もない話を、あたしにしたのさ」
「道をあげようと思って」
「道?」
「ええ」
24 = 1 :
まどかが私に教えてくれたこと。
何もかもみな消えてしまうこと。
でも、心の中に残っている。
「美樹さやかは消えた、もう戻って来ない」
「でも、彼女が生きた証は、あなたの胸に傷跡として刻まれている」
「彼女の想いを知っているのは、私と巴マミ、それにあなただけ」
「誰よりも美樹さやかに近かったあなたが口を閉ざしてしまったら」
「彼女は埋もれてしまう、時の中に」
誰からも忘れ去られてしまうことは、きっととても怖い。
それは真の空虚。
だからこそ私が、世界を廻し続けた応報として、全ての記憶を保持し得たのかもしれない。
あの世界の営みを忘れ去ってしまわないように。
自分の事に多少の意識を取られていることを自覚し、改めて佐倉杏子に目を向ける。
25 = 17 :
まどかずっとOPの水の上に浮かんでいたようなとこに居るのかな
そもそも身体も無いか
26 = 7 :
ほむほむ
27 = 1 :
「あなたは、どうしたい」
「あたし、は」
本当はゆっくり考える時間をあげたかったけれど。
この世界は、そんなに甘いことを許してくれない。
結界が私たちを包み込み、魔獣がずるりと地面から生える。
「うん、決めた」
明朗な声と共に、炎が燃え上がるように。
朱を基調とした装いが彼女の身を包む。
「行きましょうか」
「ああ」
29 = 1 :
「こんなもんかね」
「久し振りにしては、まあ合格点かしら」
「なんでそんなに偉そうなんだよ」
「気のせいじゃない?」
杏子と一緒に戦うのはとても久し振りで。
それでも、自分の足で立つ彼女はとても強かった。
あっさりと魔獣を片付け終え、地下鉄のホームに二人佇む。
ラッシュの時間帯はいつの間にか過ぎていて、そこに人はほとんどいない。
変身を解いた杏子は、屈託のない笑みを私に向けて。
「ありがとな、もう大丈夫だよ」
「助けになれたのなら、よかった」
「あ、ただ一つ頼みがあってさ」
「頼み?」
「ほむらはさ、その魔法少女の事を語り継ごうとしてるんだよね」
「ええ、そうね」
30 = 7 :
あんあんほむほむ
31 = 1 :
一拍。
珍しく、言葉を選んでいるようで。
その思いを受け止めるべく、私も心の準備を整える。
そして。
「さやかのこともさ、時々話してあげてくれないかな」
「あいつはあいつなりにさ、ほむらとも折り合いを付けようとしてた」
「なかなか素直になれないって、あたしに相談に来てたんだよ」
「結局、こうして、だめだったけどさ」
「あたしの口からに、なっちゃった、けどさ」
32 = 1 :
美樹さやか。
ほとんどのループではいがみ合うばかりだったけれど、そういえば、確かに。
ごく初めの頃は、私の数少ない友達だったっけ。
もう記憶は薄れてしまっていて。
それに気付いた途端、罪悪感が私の心を握り潰す。
彼女を思い泣いている佐倉杏子の姿が、さらに胸を締め付ける。
「約束する」
「頼むわ」
弁解しても、伝わることはないだろう。
これからの行動で、消えてしまった彼女に報いよう。
自己満足かもしれないけれど。
33 = 7 :
さやさや
34 :
ほむほむ
35 = 17 :
さやかちゃん……
36 :
俺「僕が慰めてあげよう」
37 = 1 :
「んじゃ、またな」
そう言い残して佐倉杏子は去っていった。
どこへ向かうのかは知らないけれど、その目には力が込められていた。
きっと自分のすべき事を見つけたのだろう。
私のすべき事。
語り伝えていくにしても、どうしよう。
本でも書こうか。
そう思って、踵を返そうとした時に。
視界の端に、何かが映る。
「……?」
それは透明な欠片。
グリーフシードと同じ、立方体の結晶。
かつて美樹さやかが逝った場所に、不思議な存在感と共に。
見て見ぬ振りをすることも出来たけれど。
何故か放っておけず、拾って灯りにかざしてみる。
「綺麗」
きらきらと光を反射する。
まるで吸い込まれてしまいそうなその欠片に、何故か親近感を覚えて。
「キュゥべえにでも、聞いてみようかしら」
38 = 7 :
ほむほむ
39 = 1 :
*****************************************
「この世界の物質ではないようだね」
「グリーフシードと、何か共通点はあるかしら」
「似てはいる。
けれど、本質的には違うような……いや、分からないな」
「随分と曖昧なのね」
「勘弁してくれよ、僕も全知全能って訳じゃあないんだ」
そこまでのことを期待していたわけではない。
むしろ、分からないという答えにこそ、価値はある。
「イレギュラー、と捉えていいの?」
「意思を持った人間ならばともかく、ただの石ころをそう呼ぶのは抵抗があるけど」
40 = 7 :
ほむっ
41 = 1 :
「ただの石ころなの?」
「いや、まあそうとも言い切れないけど」
「そう」
キュゥべえにも分からないのなら。
きっと私が考えても、分かることはないだろう。
この欠片が、あの子と何か関わりのあるものだといいな、と、そんな楽観を抱きながら。
「聞きたいことも聞いたし、今日は寝るわね」
「杏子も復活したみたいだし、ゆっくりお休み」
久しくまどろみに落ちていく。
せめて夢の中では、幸せに過ごせますように。
42 = 7 :
ほむほむ
43 = 1 :
『ほむらちゃん、お願いがあるんだ』
『この世界に広がってしまった、私の欠片を集めて』
『魔獣に奪われてしまわないように』
夢か現か。
金縛りにあったように動かない私の体へ、想い人の声が降る。
言葉の意味は、分からない。
頭が動かず、ただ文字として耳を通り抜けていく。
せめて忘れてしまわぬよう、その音を脳髄に刻み付ける。
視界は闇。
黒の中に少しずつ白が混じり。
薄れる声と共に、闇は晴れていく。
44 = 7 :
まどまど
45 = 1 :
目を覚ましたら、そこは戦場だった。
「起きたかい、暁美ほむら!」
「状況を!」
「魔獣がいきなり湧いた!
マミがすぐに駆け付けてくれたけど、いつもとは違う、数が凄まじい!」
「何を言っても起きないんだもの!
あなたのソウルジェムを守るのも必死だったわよ、早く手伝って!」
46 = 7 :
ほむほむ
47 = 1 :
言われずとも、とうに戦装束は纏っている。
結界の中には私と、巴マミと、キュゥべえと、魔獣の群れ。
そして、あの欠片。
この腕の中に。
「ええ」
頭の中で言葉を反芻させる。
彼女の声が鮮明に蘇る。
あなたの欠片を、
決して離すものか。
背から白い翼を生やし、空へと飛び上がる。
感じる力は尽きる気配もない。
エネルギーの塊を、弓に番えて撃ち放った。
48 = 7 :
ほむほむ
49 = 1 :
「ようやく……片付いたわね」
「そう、ね」
「お疲れ様、二人とも」
疲弊しきった顔を、巴マミと突き合わせる。
魔獣の量は怒涛の如く、こうして殲滅し終えたことが奇跡と感じられるくらいだった。
数に押し潰されてしまえばそれで終わり。
気付けば魔力の殆どを使い果たし、それでもなんとか生き永らえていた。
結界が解けていく。
戻る視界は、私の部屋の中。
こんな所に、あんな数の魔獣どもが湧いたとは、この目で見ても信じられない。
それは彼女も同じようで。
「何だったのよ」
「話すけれど、ちょっと休まないかしら」
「そうね、さすがに、疲れたわ……」
「出来れば、佐倉杏子も交えて話したいのだけれど」
50 = 7 :
ほむほむまみまみ
みんなの評価 : ☆
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