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元スレ右京「聲の形?」
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相棒×聲の形のクロスオーバーssです。
舞台は2011年。聲の形のキャラたちは小学生時代の設定になります。
相棒役は神戸さんです。
SSWiki :http://ss.vip2ch.com/jmp/1497449781
舞台は2011年。聲の形のキャラたちは小学生時代の設定になります。
相棒役は神戸さんです。
SSWiki :http://ss.vip2ch.com/jmp/1497449781
「これは…あいつだ…」
「あいつのせいでこんなことに…」
「あの女の…呪いなんだ…」
数日前、ある数人組が恨みがましくそう叫んだ。
呪い。その言葉の意味がこれから起きるとある出来事へと繋がることになる。
右京「穏やかですねぇ。」
神戸「そうですねぇ。」
「たまには遠出というのも悪くはありませんね。」
「そうですねぇ。」
「あの…他に言うことないんですか…?」
「そうですねぇ。
キミが黙って安全運転を勤めてもらうため僕なりに配慮してるつもりですがねぇ。」
高速道路の中央自動車道を一台のGT-Rが縦横無尽に駆けていった。
乗車しているのは警視庁特命係の杉下右京。それに相棒の神戸尊の二人。
彼らはこれから所用のため岐阜県の大垣市に向かっていた。
これはその車内でのやりとりだが…
「そもそも僕は車ではなく新幹線で行くことを勧めたはずですよ。」
「いいじゃないですか。どうせ暇な特命係なんですから。
こうしてドライブでも洒落込んだ方が道中の楽しさも満喫出来ると思いませんか。」
「なるほど、確かにそれも一理あります。
ですが我々はあくまでも公務で行くわけですよ。公私混同は謹んでください。」
車内でそんないつもの日常的なやり取りを済ませる右京と神戸。
さて、その右京だが後部座席にある荷物を確かめていた。
それは出発する前に米沢から手渡されたとある道具の一式だ。
「出発する直前に米沢さんから持たされましたけどそれ何なんですか?」
「これは簡単な指紋の検出などが行える鑑識用の道具ですね。」
「何でそんなものを持っていくように言ったんですかね?」
「米沢さん曰く、どうせ行き先で事件に巻き込まれるだろうから必ず役立つとか…」
「うわ…もう事件に巻き込まれること前提ですね…」
そんな米沢のお節介というか余計なお世話に呆れた様子を見せる神戸。
これではまるで自分たちが事件を呼び寄せる死神扱いではないか。
そう心の中でツッコミならがも
どうか行き先で殺人事件が起きませんようにと願いつつ車は一路岐阜県大垣市へと向かった。
それから車は都内からこの大垣市まで
約3時間半近くの長旅を終えて高速道路を降りて市内へと入った。
さて、その道中のことだ。
「あーっ!」
突然道路に一人の少女が飛び出してきた。
赤いランドセルを背負った歳は恐らく小学校高学年。
それに茶髪の入り混じったセミロングの少女。
その少女がなにやら血相を変えて落ち着きのない様子で道路に飛び出した。
その行動を見て咄嗟に車のブレーキペダルを踏み急停止する車。
それから右京と神戸は車内から降りてこの飛び出してきた少女に注意した。
「突然飛び出してきて危ないじゃないか!それで怪我は大丈夫かい?」
「あ…あぅぅ…あ…」
神戸は車に接触していないか少女に尋ねるが何かがおかしい。
少女はどういうわけかまともな返答が出来ずにいた。
するとこのやり取りを見ていた右京がこの少女のある部分に注目した。それは耳だ。
「神戸くん、どうやらこの子は耳が聞こえないようですね。」
「あ、本当だ。耳に補聴器を付けてますね。」
髪の毛で耳元が隠れているがよく見るとこの少女は耳に補聴器を付けていた。
この少女だが衣服に付いている名札には水門小学校6年2組西宮硝子と記されていた。
どうやらこの近隣の女子小学生のようだ。
「西宮…硝子…もしかして…この子…」
「ええ、どうやら今回僕たちの所用に関係ある人物のようですね。」
耳の聞こえない硝子には右京たちが何の話をしているのかさっぱりわからないが
どうやら今回の右京たちの所用にこの西宮硝子が関係しているらしい。
硝子「あ…の゛…う…」
そんな翔子だがなにやら必死になって右京たちに何かを訴えていた。
だが硝子は聴覚障害を患っていてその話し声を聞き取ることができない。
そのため右京は手話を用いて硝子と話すことにした。
「へぇ、杉下さんって手話が出来るんですね。」
「以前にも耳の聞こえない少女とある事件で遭遇しましてね。
それに警察官なら手話くらい出来て当然なスキルだと思いますがね。」
「そこで一々皮肉は余計を付け足さなくてもいい思いますけどね…」
そんな苦笑いを浮かべる神戸は置いといて
硝子は二人をこの近隣にある公園に連れて行った。
「やべっ!人が来た!」
「もう行こうぜ!」
右京たちが駆けつけるとそこから二人組の少年たちが入れ替わりで走って逃げていった。
その二人が居た公園にある水場。そこでは一人の少年がずぶ濡れの状態で倒れていた。
少年は水場に落ちたせいで衣服はずぶ濡れ、
しかも誰かに暴行を加えられたのか全身傷だらけ。
硝子とちがい衣類に名札がないので名前はわからない。
だが背格好からして恐らく同級生であることは間違いない。
少年の所有物らしきランドセルから教科書やノートが散乱していた。
とにかく少年は散々な状態だった。
さらにその少年の手にはあるモノが握られていた。
それは筆談用と書かれた一冊のノート。それだけが大事に握り締められていた。
「キミ、大丈夫ですか?」
「酷いことになってるね。何があったか話してくれるかい。」
「あの…アンタたちは…?」
「警戒しなくてもいいですよ。我々は警察の者です。送りますからおうちはどこですか?」
そう言って警察手帳を見せて警察官であることを証明する右京たち。
だがそれでもこの少年は動揺しているようで落ち着きを取り戻せてはいなかった。
「うちは…その…これは…だから…」
どうやら暴行されたのが余程ショックだったのか少年は酷く怯えていた。
この状況を警察官として…いや大人として放っておくことはできない。
しかしここは岐阜県、自分たちの勝手が通用しない土地だ。
せめてどこかでこの少年の衣服を乾かせることは出来ないかと思った矢先のことだ。
「あ…うぅ…」
「それは本当ですか?」
「硝子ちゃんは何を伝えようとしているんですか?」
「この近くに自分の家があるのでそこで服を乾かすようにと言ってくれています。」
それから硝子の厚意で右京たちはずぶ濡れになったこのボロボロの少年を連れて
この近隣にある硝子の家のマンションへと訪れた。
「おや、硝子…とそれにあなた方は…?」
「失礼します。警察の者です。ちょっとこの少年を乾かしたいのでご協力願います。」
「本当にすいません。用が済んだらすぐに出ていきますので…」
出てきたのはこの硝子の祖母である西宮いと。
それにうしろからもう一人ひょっこりとある少女が現れた。
硝子よりも歳が3つほど離れた
ショートヘアなボーイッシュな雰囲気を漂わせたこの少女は…
結絃「婆ちゃん!お姉ちゃんに何かあったの!?」
いと「落ち着いてゆづ。硝子は無事だけど…」
どうやらこの結絃という少女は硝子の妹らしい。
その妹の結絃は右京たちの後ろに居た姉の硝子を庇うようにして家の中へと入れた。
さて、そんな中で祖母のいとは未だに右京たちとこの少年を不審に思っていた。
さすがに警察官が孫とずぶ濡れになった少年を連れてくれば
家族が不審に思うのも仕方がない。
だがこの祖母は明らかにそれ以外についても何か不審に思っている節があった。
このままでは埒が明かないのだが…
「ひょっとして…お前…石田…?」
「ゆづ…この子が…あの石田くんなのかい…」
「うん、間違いない。前にお姉ちゃんをイジメたところを見ていたから!」
石田という少年は硝子の家族に自分の素性を感づかれて酷く怯えていた。
妹の結絃が言ったように
この石田が硝子をイジメていたとなればその敵意を向けるのは無理もないことだ。
「お前!どのツラ下げて家に来た!お前のせいでお姉ちゃんは酷い目にあったんだぞ!?」
結絃はまるで親の敵でも取るかのように石田を恨みがましく睨みつけた。
その結絃に石田はただ怯え続けていた。
自分よりも3つも年下の女子にこうも言われて石田は反論することもできない。
それに祖母も…
「ゆづおやめ!
刑事さん…申し訳ありませんが…
うちではその子にしてあげることは何もありません。どうかお引き取りください。」
暴れだす結絃をなんとか宥める祖母。
しかしそんな祖母も石田に対してあまよい感情を持ち合わせてなどいない。
むしろ明らかに拒絶する節さえ見られた。
どうやらこの西宮家で石田が厚意を受けることなど無理だと察した右京たちは
諦めて退散しようとするのだが…
「ま゛…で…」
そこへ硝子がバスタオルを持ってきて石田に渡した。
これで身体を拭けとそう言っているらしい。
それから硝子は手話で祖母と妹に石田の衣類が乾くまでこの家に留めるようそう頼んだ。
こうなると二人としても断るわけにもいかない。
こうして不本意ながら石田とそれに右京たちはこの家に招かれることになった。
「御厚意に感謝します。」
「いえ…ただ…乾かしたらすぐに出て行ってもらえますか…」
「それはわかっています。ですが出来ればこうなった事情を説明頂けますか。」
西宮家に招かれた右京と神戸、それにもう一人。
ようやく名前がわかったが石田将也という少年はこの家のリビングに寛いでいた。
祖母が用意してくれた自家製のしそジュースを頂きながら
先ほど結絃が叫んでいたことの経緯を尋ねてみた。
「わかりました…実は…」
それから祖母は険しい顔をしながら事の詳細を説明してくれた。
発端となったのは今から数ヶ月前のこと。
西宮硝子が石田の通う水門小学校に転校してきたことがすべての始まりだ。
女子の転校生ということで当初クラスのみんなから硝子は歓迎されていた。
周りも硝子が聴覚障害を患っていても支えてあげて
当初は硝子もクラスのみんなと仲良く接することができていた。
だが…ある時を境にして何かが変わった。
「硝子はクラスのみんなから嫌がらせを受けるようになりました。
それを率先して行っていたのが…そこにいる石田くんだと聞いています…」
祖母の発言に石田は何も反論せず俯いたままだ。
話を聞くと石田は硝子のイジメを率先して行ったある意味リーダー的立場にいたそうだ。
そのイジメは上履きを隠したり机に落書きをするといった行いやそれだけでなく…
「筆談用のノート…
耳が聞こえない硝子のために
クラスの子たちとコミュニケーションを取るように持たせたノートです。
それにあからさまなまでに悪質な落書きが書かれるようになりました。」
それは先ほどずぶ濡れだった石田が唯一肌身離さず持っていたノートのことだ。
祖母は夢にも思わなかったはず。
障害を抱えた孫の為を思って持たせた筆談用のノートに悪質な落書きが書かれるなんて…
祖母としてこんな心苦しいことになるとは予想すらしていなかったにちがいない。
「なるほど、そんなことがありましたか。
ですがあなた方がここまで石田くんを嫌悪するのは
まだ彼が硝子さんに悪質な悪戯を行ったからではありませんか?」
その右京の疑問に祖母はさらに険しい顔になった。
どうやら右京の疑問は的中のようだ。
確かにいくら筆談用のノートが落書きされたからといって
ずぶ濡れの少年を家に上がらせずに拒んで追い出そうとした。
それには相応の理由があるはずだ。
そんな時、今まで黙って聞いていた結絃が我慢の限界を超えたのか石田の前であることを糾弾した。
「こいつがお姉ちゃんの補聴器を壊したからだッ!」
硝子の補聴器を壊した。
そう叫ぶ結絃に先程から俯いている石田は
さらに罪悪感に苦しめられるような表情で苦悶していた。
だがこれでようやく西宮一家が石田をここまで嫌悪する理由が判明した。
聴覚障害を患う硝子の補聴器が壊された。
この補聴器は耳の聞こえない硝子にしてみれば命綱みたいなものだ。
これが無ければ難聴の硝子は音が何も聞こえない。
そんな大事な物をこの石田は悪意を持って壊した。
そうなれば硝子の家族が石田に嫌悪感を抱いても仕方のないことだった。
だが問題はそれだけではなかった。
「しかもこいつ…8回も壊した!補聴器はお姉ちゃんにとって大事なモノなのに!?」
8回…それは確かに西宮一家にしてみればかなり大事だ。
しかもその際、石田は硝子の耳を傷つけてしまったらしい。
それに補聴器の被害が総額で170万円と大金になり当初の反応にも納得がいく。
いくらずぶ濡れでボロボロだろうと
大事な娘をこうまで傷つけたこの少年に善意を施すことなど出来るはずもない。
だがこれだと疑問が生じる。それでは何故石田はこうまでボロボロなのか?
そんな石田に神戸があることを質問した。
「石田くん、ひょっとしてキミはクラスでイジメを受けてるんじゃないか?」
その質問に石田は思わず身震いした。
この反応からしてどうやら図星のようだ。
恐らく硝子に代わって新たなイジメの標的にされてしまったらしい。
だが何故そうなってしまったのか?
仮にも石田は硝子を率先して虐めていた張本人。
それがいきなり虐められる側に回るということは何かがあったはず。
だがそれが何であるのか?
さすがにその事情をこの祖母も妹の結絃も知らないらしい。
それに石田も先程から口を閉ざしたまま。これでは埓が明かないわけだが…
「あ…うぅ…」
そんな右京たちに硝子が手話で語りかけてきた。
それで大体の事情が判明する。
先日、石田と硝子のクラスで緊急のクラス会が行われた。
その内容は硝子の補聴器が壊れたことについて。
そこで石田はクラスのみんなから硝子へのイジメを糾弾されてその責任を取らされた。
それからすぐに硝子イジメだけではなく石田に対するイジメも行われた。
それが先ほど公園での惨事の原因だった。
「俺…だけじゃないのに…」
「それはどういう意味ですか?」
「西宮に嫌がらせしてたのは…俺だけじゃないんだ…」
「つまりクラスのみんなで硝子さんを虐めていたというのかい?」
右京と神戸の質問に石田は小さく頷いた。
石田の話によると硝子へのイジメがクラス内で始まったのは合唱コンクールからだった。
当時、クラスでは必ずコンクールで一番になろうと意気込んでいた。
だがそんな最中、練習を開始してみれば硝子の発音だけが音を外していた。
原因は幼い頃より難聴の症状がある硝子には発音の仕方がわからないせいだ。
練習中にクラスの誰もが
硝子をコンクールに参加させれば一番どころか最低評価を下されることを予想した。
そこで担任の竹内は硝子だけを不参加にしようとしたが
音楽担当の喜多先生が硝子だけを仲間外れにさせまいとその参加を補佐する。
だがその甲斐虚しく結果は散々なもので終わった。
これによりクラス内で硝子へのイジメが本格化したとのことだ。
その話を聞いて確かにその可能性は否定出来なかった。
何故ならクラス全員が石田の行いをここまで見過ごしていたとは考えにくい。
つまり石田の言うようにクラス全員で西宮硝子にイジメを行ったという見解が正しいはず。
だがそれを証明することはできない。
それが出来るのは精々この石田の証言くらいなのだが…
「その補聴器を拝見させてもらえますか。」
「わかりました…これです…」
それから祖母はこれまで石田によって壊されたであろう補聴器を右京たちに見せた。
それは片方だけだったり大事な部品だけが壊れたりと散々なモノばかり。
部外者である右京と神戸もこの仕打ちに思わず呆れるほどだ。
「これは酷いですね。どれも全部ボロボロですよ。」
「ええ、以前から学校に訴えようと何度も言ったのですが…
それを娘が硝子のためにならないと言って自分一人で解決させようとしていました。
けどこれを見かねて娘もようやく重い腰を上げたんです。」
確かにこんな壊され方をすれば学校に苦情を訴えるのも無理はない。
だがここまで仕出かすとなれば最早子供の悪戯では済まされないはず。
さて、そんな時だった。
八重子「硝子!まだ家に居たのね!?」
右京たちが話し合っているこの部屋に
物凄い剣幕をまくし立てながら一人の女性が駆け込んできた。
その女性が現れた瞬間、硝子はオドオドしはじめ妹の結絃がそれを庇うように前に出た。
「やめなよお母さん…お姉ちゃん嫌がってるじゃん…」
「結絃、退きなさい。
学校から硝子がまだ登校していないから病欠なのかって連絡があったのよ。
まったくどこに行ったのかお母さん探したじゃないの!」
「でもお姉ちゃんが学校でどんな目に遭っているのか知ってるだろ!」
「そんなのは硝子がしっかりしていれば問題はないわ。それに…あら…?」
どうやらこの女性は硝子と結絃の母親らしい。
そんな彼女だが今更になってあることに気づいた。
それは訪問者である右京と神戸、
それに本来ならこの家に招かれることなど許されない石田の存在だ。
そんな彼女に怯える石田に対して母親は睨みつけながらこう告げた。
「あなた…石田くん…どうしてここにいるの…?」
「あの…それは…」
「娘にあんな惨たらしい仕打ちを仕出かしてよくもこの家に上がれたわね!」
「どうせここに来たのも今日のことをやめてほしいと懇願にでも来たのでしょう。」
「出て行きなさい。
ここはあなたのようなクソガキが来るような場所ではないわ。
ほら硝子、さっさと付いてきなさい。学校を休むなんて許さないわよ!」
怒鳴り声を上げながら嫌がら硝子を無理やり引っ張り学校へと連れて行く母親。
目の前に右京たちが居るのにそんなこともお構いなし。
いくら他人さまの家のこととはいえさすがにやりすぎだと思うほどだった。
「すいません…娘の八重子が見苦しい真似をして…」
「いえ、事情を知らなかったとはいえ不躾にお邪魔した僕たちにも非があります。
どうかお気になさらないでください。
ですが娘さんはお孫さんに対して随分と過剰な教育をなさるのですね。」
「仕方ありません。
八重子は硝子たちの父親と離婚してシングルマザーだから…
それで自分がしっかりしなければと気丈に振舞っているんです。」
確かに祖母の言うようにこの家に男の気配はない。
長年この家で暮らしているようで
生活臭溢れているが見たところその生活用品はほとんど女ものばかり。
しかし何故八重子は
聴覚障害の娘を抱えているのに夫と離婚しなければならなかったのか?
「失礼ながら離婚の原因は硝子さんの聴覚障害にあったのではありませんか。」
「あれは…仕方のないことでした…」
娘夫婦の離婚話しに祖母は悔いるように呟いた。
障害を持つ子供の親というのは我が子に障害があることに否定的な傾向がある。
恐らく父親は硝子の聴覚障害について否定的だったのかもしれない。
だから父親は幼い子供たちを八重子に押し付けて離婚した。
「硝子の障害が発覚したのはあの子が3歳の頃でした。」
「他の子とちがって様子がおかしかったからそれを察して…」
「けどそのことを聞きつけた向こうの親御さんが…」
「障害を持つ子をよくも産んだなと文句を突きつけて…」
「それで離婚ということになりました。」
忌まわしい過去の出来事を語る祖母。
確かにそんなことがあれば先ほどの八重子にも納得がいく。
シングルマザーであるが故に気丈に振舞っているのも理解出来なくもない。
だが難聴の娘に対してあの行いは明らかにやりすぎだ。
しかも母親の行いはそれだけではなかった。
結絃「お母さん…この前も…お姉ちゃんの髪を切ろうとした…」
神戸「髪を切るくらい普通じゃないか?」
結絃「ちがう…お姉ちゃんの髪を切って補聴器が見えるようにするって…そんなことしたら…」
結絃はそれ以上のことを言わなかったがその理由を察することはできた。
硝子の髪型はセミロング、そのおかげで耳の補聴器も辛うじて目立たずに済んだ。
だがもしも髪型をショートに変更すればどうなるだろうか?
そうなればこれまで目立たなかった補聴器がどうしても悪目立ちしてしまう。
イジメの原因となったのは硝子の難聴が原因。
恐らく母親はそれでも気丈であれと教えたいのだろうが…
そんなことをすればイジメ問題が悪化するのは目に見えていた。
「ところで硝子さんは3歳以前の頃ならまだ聴覚が正常だったのですね。」
「ええ、娘がそう言っていましたから。
でも何かの影響で聴覚に異常を来たしてしまい…
だから八重子は心を鬼にして娘たちに接しているんです。
それを私がとやかく言うことなんて出来ませんよ…」
それから祖母は部屋の隅にあるモノを右京たちに見せた。
それは随分年季の入った子供用の玩具だ。
「お婆ちゃん、それお母さんが捨てるように言っていた昔の玩具じゃん。まだ持ってたの?」
「ええ、昔が懐かしくてどうしても捨てられなくてね…
今でもよく思い出すわ。硝子が木琴を楽しんで叩いていたもの。
それを結絃は面白がって見ていたわよね。」
その玩具たちを大事に抱える祖母。
それはピアノや木管、ラッパ、ハーモニカなどの子供用の玩具。
しかし恐らく余程粗末に扱っていたのだろうかその殆どがボロボロに近い状態。
それでも祖母はそれらをまるで宝物のように大事に取っておきたいようだ。
その後、石田の服を乾いたので西宮家をあとにして硝子から遅れること1時間。
右京たちは石田を車に乗せて彼が通う水門小学校へと連れて行った。
「それじゃあ…もうここでいいよ…」
「一人で大丈夫ですか?よければ僕たちが担任の先生に説明しておきますよ。」
「いい…どうせ俺のことなんてみんなシカトするだろうから…」
そう呟くように石田は去ろうとするのだが…
「その前にひとつだけよろしいですか。
先ほど硝子さんのお母さんが今日のことと言っていました。
これから何か行われるのですか?」
そのことを聞かれて石田は苦い顔になった。
それから石田はこれから行われるあることを話し出した。
「これから…うちの親が…お金を持って西宮の母ちゃんに謝るって…」
「お金とは補聴器の損害金である170万円のことですね。」
「それをクラスのみんなの前で払って…謝れって言われた…」
それがこれから石田に行われる仕打ちのようだ。
この後、クラスのLHRを利用して石田一家が西宮親子に揃って謝るというものだ。
確かに補聴器を8回も壊された西宮家にしてみれば
この仕打ちでもまだ物足りないのかもしれない。
「お金を払うということはキミのご両親も学校へ来るのですか?」
「うん…けど俺の家…母ちゃんしかいないから…」
どうやら石田の家は母親しかいないらしい。
その母親は一人で美容室を営んでいて今日はその店を休業させて学校へ駆けつけるようだ。
「じゃあ…もう行くから…」
こうして一人寂しく校内へ入っていく石田。
そんな石田を見送りつつ右京と神戸はどうにも心中に言い表せない蟠りを感じていた
「それで…どうしますか…?」
「今回の件は石田くんに非があることは間違いありません。
ですが問題なのは悪いのは本当に石田くんだけなのかということです。」
「確かにその疑問に関しては同感です。
でもどうしますか?現段階では石田くんの証言くらいしかありませんよ。」
今の段階で他の子たちによるイジメを証明させるには石田の証言しかない。
だが問題はその石田自身がイジメの主犯だということだ。
そんな石田の証言など誰が信じてくれるのか?時間のない状況でそれが問題だった。
「それでは補聴器の方を調べてみましょうか。
実は西宮家から壊れた補聴器を預かってきました。
もし石田くんの話が正しければこの補聴器には他の子たちの指紋が付いているはずです。」
西宮家から持ち出した壊れた補聴器を取り出す右京。
確かに補聴器は聴覚障害者が肌身離さず身につけている大事なものだ。
それを取り外すのは風呂や就寝時でもなければありえない。
つまり学校で硝子が補聴器を取り外すことは絶対にない。
その補聴器に硝子と石田以外の第三者の指紋が付着していれば
それは石田以外の人間が硝子を虐めた証拠になるはずだ。
「調べるってどうやって?この近辺の所轄に頼む気ですか?」
神戸の言うようにいくら右京たちが警察官でも
まだ事件にもなっていない出来事を調べることなど出来るはずがない。
さらに問題はここが岐阜県だということ。
管轄違いの特命係にこの近辺の所轄がそこまで協力してくれるわけがないのだが…
「だから米沢さんがこういったモノを預けてくれたわけですね。」
右京は車の後部座席から米沢から預かった鑑識道具を引っ張り出した。
これなら硝子の補聴器を調べることが可能だが…
しかしそれでもさすがにこんな事態を想定されるとは
神戸は自分たちが事件を呼び寄せる死神扱いされても仕方ないなと思わずため息をついた。
「どうやら出てきましたよ。硝子さんと石田くん以外の指紋がベッタリと付着しています。」
「これで石田くんの証言は正しかったことが証明できましたね。」
補聴器から複数の指紋が検出されたことによりこれで一応石田の証言は証明できた。
やはり硝子のイジメはクラス全体で行われていたという証言は事実だ。
しかしそれでもまだ問題があった。
「ですが問題はこの指紋をどうやって子供たちのモノだと検証するかですね。
ご存知だと思いますが硝子さんにイジメを行った子供たちは小学生の児童に辺ります。
つまりイジメを行った子供たちの指紋を採取するには保護者の承諾が必要です。」
神戸が指摘するが児童への取り調べを行うには保護者の承諾が必要だ。
だがイジメの主犯である石田が既に犯人扱いされているこの状況で
他の保護者たちがそんなことを承諾するのかそこが問題だった。
しかも今回の件で動いているのは特命係のみ。
現状で近隣の所轄も動かない以上、子供たちの指紋を採取することは困難だ。
「いえ、待ってください。どうやらその問題も解決出来るようですよ。」
右京は8個全ての補聴器を調べながらそんなことを告げた。
「でもどうしますか。まだ色々と難題が残っていますよ。」
「そうですねぇ。それでは手分けしましょうか。」
「手分けってどこを調べろと?」
「そうですね。とりあえずは…」
それから補聴器を調べ終えた右京は二手に分かれることを提案した。
右京はこのまま小学校へ。そして神戸は車を走らせある場所へと向かった。
さて、神戸と分かれて学校内に入った右京。
そして硝子と石田が所属する6年2組へと足を運んだ。
するとその教室ではある怒鳴り声が響いていた。
「石田ぁっ!何で今頃になって遅刻してんだ。」
「すいません…服が乾かなかったんで…」
「そういう言い訳はいい。さっさと席に座れ!」
遅刻してきた石田を事情も聞かずに叱るのは担任教師の竹内先生。
そんな叱られている石田をクラスメイトたちがクスクスと嘲笑していた。
その中には先ほど右京が公園で遭遇した石田をイジメていた二人の少年たちの姿があった。
どうやらあの二人は石田や硝子と同じクラスメイトだったようだ。
笑っていないのは硝子とそれにもう一人、
石田の席の近くにいた長い黒髪の少女が心配層に見つめていた。
こうして説教も終わり着席する石田。
それから竹内は授業を再開。その授業は国語の朗読。
席順から順番に朗読が開始されていき、そして硝子の番になった時だ。
「次は西宮か。おい植野、西宮に今どこを読んでいるのか教えてやれ。」
担任の竹内から指示が入り
先ほど石田を心配そうに見つめていた植野という少女が
硝子にどこを読むのか教えることになった。
だがその指示を聞いた植野は思わず不機嫌そうな顔で硝子を睨みつけた。
「チッ…またですか…いい加減にしてよ…」
それは小声だが耳の聞こえない硝子以外のクラス全員はハッキリとそれを聞き取れた。
それから植野がこのページを読めと硝子に指示を促すのだが…
「あ…う…あ…が…」
当然のことだが硝子は耳が聞こえない。
そのせいで声は出せてもどんな発声で行えばいいのかまるで理解出来ていない。
だからこんな呂律が狂った言葉になってしまうのだが…
「プッ…フフ…」
硝子が朗読している最中、とある少女がクスクスと笑いだした。
それはみつ編みの髪型にメガネをかけたこのクラスの委員長である川井みきだ。
当初、川井はその笑い声を堪えていたがそのうち我慢出来なくなり口に出してしまう。
その後、そこかしこから笑い声が発せられた。
女子だけでなく男子までも…
朗読中の硝子が一生懸命なのをいいことに誰もが笑い声を上げていた。
「オイ、うるさいぞ。笑うならあとにしろ。」
担任が注意したのは硝子が朗読を終えた直後だった。
その頃には笑い声もパッタリと止んだ。
この光景を覗きながら右京はクラスで何が起きているのか大体のことを察した。
それから授業も終わりLHRの時間がやってきた。
6年2組のクラスには校長先生と音楽教師の喜多先生。
その他に二人の成人女性が姿を見せた。
それは先ほど出会った硝子の母親である西宮八重子。
もう一人は金髪の女性。
石田に話しかけていることから恐らくは石田の母親である石田美也子だ。
美也子「この度は息子の将也が取り返しのつかないことをして申し訳ありませんでした…」
クラスに駆け込むと同時にまるで土下座をするかの勢いで八重子に謝る美也子。
しかしそんな誠意ある謝罪をしたところで八重子は何の素振りも見せない。
教師たちも同様だ。
今の謝罪を見ても我関せずの態度を取る竹内。
未だに状況を把握できずにいる校長に居た堪れない喜多。
クラスメイトたちもこうなったのは当然の報いだと関係ないフリをしていた。
「そんな謝罪なんてどうでもいいです。
さっさとお金を支払ってもらえますか。うちも暇ではないんですよ。」
謝罪はいい。早く損害金の支払いをしろと八重子はそう言ってのけた。
そんな八重子に従い持ってきたカバンから現金を取り出そうとする美也子
どうやらこれより損害金を渡そうとするようだ。
するとそこへ右京の携帯に神戸からの連絡が入った。
「もしもし、杉下さんですか。実は調べた結果なんですけど…」
「そうですか。やはり…」
何やら神戸に調べごとをさせていた右京。
それは右京が予想していた通りの結果らしい。
「それでどうしますか。僕もそっちへ合流した方がいいですか?」
「お願いします。まあその頃には大体のことが終わっているでしょうけどねぇ。」
クラスの様子を伺いながらそんなことを告げる右京。
恐らく神戸が合流するまで待っていればLHRは終了して
今回の一件は石田にすべての責任があるという形で解決してしまう。
そうなれば手遅れになってしまうからだ。
そのため右京はこれより単身でクラスに乗り込もうとするのだが…
「わかりました。けど今回の件ですが…下手したらまずいんじゃないですか…?」
「それはどういう意味ですか。」
「最悪の事態を想定するならそのクラスは崩壊してしまう可能性すらありますよ。」
「確かにその可能性は高いですね。
しかしこのまま真実を伝えずにいるというのも問題がありますよ。」
今回の一件を暴くということは最悪の場合は硝子たち6年2組の学級崩壊が起こりうる。
そう危惧する神戸だがそれでも真実を伝えようとする右京。
だが神戸が危惧するのはそれだけではなかった。
「もうひとつのことも暴くつもりですか?」
「ええ、この際ですからすべてを明らかにした方がいいでしょう。」
「それは何のためですか?
もしそれが杉下さんの自己満足の域なら僕はこれ以上手を貸しませんよ。」
「何のため…それはもちろん硝子さんのためですよ。」
「ですが今回の件…徹底的にやれば最悪の場合は西宮家が家庭崩壊の恐れが…」
今回の件において神戸が最も恐れているのはそれだ。
どうやらこれから行うことは最悪の場合だと西宮一家が家庭崩壊する恐れがあるらしい。
そうなれば今回行きがけの偶然で知り合っただけの右京たちが責任を取ることは出来ない。
下手をすればそれこそ取り返しのつかないことになるのではないかと危惧していた。
「ですがそれでも行う必要があります。
どのみち、このままではいずれ硝子さんは限界を迎えるはずです。
だからこそ僕たちは心を鬼にしてこの事態に関わる必要があります。」
『心を鬼にする』
それは先ほど西宮家で祖母が娘の八重子の決意を表した言葉だ。
つまりそうでもしないと今の硝子を取り巻く環境を変えることなど出来るはずがない。
そのことを覚悟して右京は6年2組の教室へと足を踏み込んだ。
最近別の相棒クロスSS見たな
相棒好きとしては相棒SSが増えて嬉しい
相棒好きとしては相棒SSが増えて嬉しい
一番糞なのは担任だけど音楽教師もなかなか酷い無責任
参加させるからには優勝はムリ(というかビリ確定)なのを生徒達に納得させなきゃいかんだろと
参加させるからには優勝はムリ(というかビリ確定)なのを生徒達に納得させなきゃいかんだろと
個人的には竹内先生はそこまで嫌いにはなれないな。
クソなほどにビジネスライクな奴だが、石田が苛めのせいで報いを受けることも忠告してたし、再登場した時の最後の「ほら、やはり立派になったじゃないか」ってセリフも微妙に響いてくる。
クソなほどにビジネスライクな奴だが、石田が苛めのせいで報いを受けることも忠告してたし、再登場した時の最後の「ほら、やはり立派になったじゃないか」ってセリフも微妙に響いてくる。
読み切りしか読んでないからその辺は知らないや。とりあえず子供といえど人間なんだから
きちんと対話するべきだと思うよ。高学年なんだから話せばある程度はわかるっしょ
きちんと対話するべきだと思うよ。高学年なんだから話せばある程度はわかるっしょ
「失礼、警察の者です。そのお金を渡すのは待ってもらえますか。」
突然の部外者の乱入にこのクラスにいた全員が驚いた。
何故いきなり警察の人間がこのクラスに駆け込んでくるのか?
誰もがそんな疑問を抱かずにはいられなかった。
「失礼ですが…これは学校の問題です。警察の方が関わるようなことでは…」
校長がこの事態をこれ以上大事にさせまいと右京に退室を求めた。
今回の件は口内で処理するため内密に行われる手筈になっている。
それを警察とはいえ部外者が乱入して事を大きくされては面倒なのだが…
しかしそんなことで引き下がる右京ではなかった。
「西宮さんのお婆さまから相談を受けました。
それにこの場において公正な対応が成されているとは言い難い状況だと思います。
どうか警察の介入を許可して頂きたい。」
「公正って…この件は石田が悪い。それで結論は出ています!」
右京の言動に堪らなくなった担任の竹内はすぐさま反論に出た。
悪いのは硝子イジメの主犯である石田であること。
その事実はクラスの全員が認めているのだと訴えてみせた。
「なるほど、確かに石田くんが悪いのは事実のようですね。」
「そうだよ!石田が悪いんだ!」
「そうよ!私たちだって見てたんだから!」
担任教師が認めている時点でこの事実を覆すことなど出来ない。
それに他の生徒たちも右京に対して一斉に石田が悪いと訴えた。
そのことで未だ俯いたままである石田の立場はさらに悪化するのだが…
「なるほど、石田くんが硝子さんに対してイジメを行ったことは
クラス全員が把握しているわけですね。
それではみなさんにお聞きしますよ。
そこまで知っていながら何故誰も石田くんのイジメを止めようとしなかったのですか?」
右京からの質問に先程まで騒いでいたクラス全員がピタッと黙り込んだ。
何故クラスの全員が石田による硝子イジメが行われていたのを知っていたのに
それを止めなかったのかと?
そのことを聞かれて硝子と石田以外の児童たちは険しい顔になった。
それもそうだ。自分たちがイジメを行ったことを疑われているのだから…
右京「つまりこのクラス全員が硝子さんを虐めていたということですね。」
竹内「待ってください!
それでも石田が一番悪いのは事実ですよ!補聴器を壊したんですから!」
確かに補聴器を壊したのは石田であることは間違いない。
その事実を石田自身も認めている。
だが右京がこのクラスに抱く疑惑はそれだけではなかった。
「補聴器を壊したのは本当に石田くんだけでしょうか。」
「それは…どういう意味ですか…?」
「今の問いに答えられない様子を見ると
このクラス全員で硝子さんにイジメを行ったことは間違いないでしょう。
しかしそうなるとある疑問が生じます。
補聴器を壊したのは本当に石田くんだけなのかということですよ。」
その疑問にクラス全員が思わず身震いした。
まさか自分たちが疑われることになるとは…
それもあと少しで石田にすべての罪を擦り付けることが出来る直前なのにだ。
児童たちは歯ぎしりをしながら自分はちがうと心の中で祈るように唱えていた。
「実は先ほど硝子さんの補聴器を調べさせてもらいました。
そしたら硝子さん以外の指紋がベッタリと付いていたのです。
小学6年生にでもなればわかりますよね。
補聴器とは難聴の人には命綱にも等しいモノです。
それを取り外して他人に触らせるなどということは決してありえない。
誰かが取り外さない限りは…」
右京は未だ沈黙を続けている児童たちを睨みつけるようにそう発言した。
その発言に児童たちは激しく怯えていた。
当然だ。既に証拠があるとなれば自分も必ず疑われると思っているからだ。
そんなクラスの誰もが怯える中、一人の児童が席を立ち右京に対してこう告げた。
川井「刑事さんこの二人です!
石田くんと仲の良かった島田くんと広瀬くん!
きっとこの二人が西宮さんの補聴器を壊したんだと思います!」
それは先ほど国語の授業で硝子の朗読を嘲笑していた川井みきだ。
その川井に名指しされたのは先ほど公園で石田をイジメていた少年たち。
名前は島田一旗と広瀬啓祐の二人。
委員長の川井から名指しされたことで二人は酷く狼狽えていた。
それもそのはず。
二人が石田をイジメた理由は硝子に対する嫌がらせ行為を押し付けるため。
それなのに自分たちまでもがその矛先になるとは予想すらしていなかったのだから…
「つまり悪いのは島田くんと広瀬くんの二人なのですね。」
「そうです!二人も西宮さんにイジメを行っていました!だから悪いのはその二人です!」
二人を名指しで否定する川井。
川井はまるで自分は何の関係もないように装いながらそう発言してみせた。しかし…
右京「それではこれよりみなさんに指紋の採取をお願いします。」
川井「何で…だって悪いのは島田くんと広瀬くんじゃ…?」
「いいえ、そうとも言えませんよ。
これを見ていただけますか。先ほど西宮家で拝見させてもらった筆談用のノートです。」
右京はクラス全員にわかるようにその筆談用のノートを見せた。
そこには多数の落書きの痕跡があった。
もし今の川井の話が正しければ硝子にイジメを行っていたのは
主犯の石田とそれに島田と広瀬の三人ということになる。
だがこの落書きの痕跡は三人だけで行われたにしてはどれも筆跡が異なる。
どう考えても数人以上で行われた可能性が高い。
つまり川井の証言が信憑性を欠けているということになる。
「そんな…何で私たちを疑うんですか…私はそんな悪いことなんてしていないのに…」
「ですからその疑いを晴らすために調べたいのです。どうかご協力願いますか。」
疑惑を晴らすためにこそ調べる必要がある。そうクラス全員に告げる右京。
そんな右京に川井は酷く動揺した様子を見せていた。
どうやら川井も補聴器を壊した身に覚えがあるようだ。
だがそんな右京の行動を阻むかのように教員たちが反論を唱えた。
竹内「待ってください!いくら警察でも児童に対してそれは…」
喜多「そうです。まずは保護者に承諾を取らないといけませんよ。」
やはり彼らも先ほど神戸が危惧したように
児童の指紋の採取には保護者の承諾を得なければならないことを指摘してきた。
いくら警察とはいえ勝手に子供たちへの取り調べなど許されるはずもない。
そのことを聞いて一旦は安堵する子供たち。
だがそれも束の間のこと、右京はさらなる指摘を行った。
右京「確かに児童への指紋採取には保護者の承諾が必要です。ですが先生方はどうですか?」
竹内「まさか…あなた…我々を疑っているんですか…?」
「当然ですよ。僕はこの場にいる硝子さんと石田くん以外の人間を疑っています。」
疑っているのは教師も例外ではない。
そのことを聞いて校長と担任の竹内、それに付き添いである喜多は狼狽えた。
まさか自分たちすら疑われるとは…
そしてその中で最も疑うべき人物を問い質した。
「担任の竹内先生。僕はあなたもこの補聴器を壊した人間の一人だと疑っています。」
「そんな…何で…俺が…」
「当然でしょう。
あなたは担任教師でありながら
このクラスで硝子さんの補聴器が8回も壊されていることを黙認していたのですから。」
右京が最初から怪しいと睨んでいたのは担任教師の竹内だった。
しかし何故児童ではなく担任教師を怪しいと思えるのか?
それは先ほど右京が目撃したこの6年2組の授業風景にあった。
「先ほどクラスの授業内容を拝見させて頂きました。至って普通の授業でした。」
「そりゃそうでしょ…俺は西宮に対して何もやましいことはしていません…」
「確かに授業は至って普通のもの。だからこそですよ。
このクラスには難聴の硝子さんがいるのですよ。
それなのに先生はその配慮もせずに黒板への板書と教科書の朗読を当然のように行った。
これでは硝子さんが授業についていくことは難しいのではありませんか。」
右京が先ほど目撃したこのクラスでの授業風景を見ればそう思うのも無理はなかった。
口頭だけで説明しても難聴の硝子には授業の内容は理解出来るとは言い難い。
それなのに竹内はそんな硝子を気にせず授業を進めた。
つまりこのクラスでは硝子に対する配慮は一切なされていない。
それは竹内もまた硝子を疎んじているということだ。
「子供たちは無理ですが
大人である竹内先生なら同意していただければすぐに調べられますよ。
どうですか。疑惑を晴らすためにもそれに子供たちへの手本としても調べてみては…」
動揺を露にする竹内を問い詰める右京だが実は当初からこの竹内を疑っていた。
何故なら竹内は担任教師であるにも関わらず
自分が受け持つクラスで硝子の補聴器が8回も壊されていたことを見過ごしていた。
普通に考えてこんなことはありえない。
自らのクラスでそんなことが行われていれば必ずどこかのタイミングで気づくはず。
それなのに母親が学校に訴えるまでそのことが明るみにならなかったことを踏まえると…
「竹内さん、あなたもまたこのクラスの児童たちと同じく硝子さんを疎んでいましたね。」
「馬鹿な…俺は教師だぞ…そんなこと決してありえない…」
「いえ、むしろ担任教師だからこそですよ。
石田くんから聞きましたがこの学校では合唱コンクールがあったらしいですね。
そのコンクールで6年2組は散々な結果に終わったと聞きました。
あの時から誰もが足を引っ張った硝子さんをイジメるようになった。これは事実ですね。」
確かに合唱コンクールでこの6年2組の評価は最悪だった。
しかしそれが担任教師の竹内が硝子を貶めることとどう繋がるのか?
「言葉が悪いですが障害を患っている以上、硝子さんはこのクラスではお荷物の扱いです。
そんな児童を抱えていては担任教師である竹内先生の負担は大きくなるのは明らかだった。
児童たちは現在小学6年生、
小学校生活も残り一年ですがそれまでこの先も何のトラブルも起きないとは言い難い。
あなたは今後も硝子さん絡みの厄介事が起こると危惧していた。
ですがそんな矢先、石田くんたちクラスの児童たちがイジメを行うようになった。
その行動を目撃してあなたはこう思った。
このイジメがエスカレートすれば
やがては保護者にも知れ渡り硝子さんはイジメを苦にして学校を去ることになると…」
先ほど西宮家で聞いた石田の証言通りなら
竹内は間違いなく硝子のイジメを把握していたはず。
それを知りながら黙認していたことを踏まえると
つまり硝子をこの学校から追い出すために竹内は敢えて何もしなかったことになる。
だが我慢の限界だったのか物の弾みか
竹内も硝子の補聴器を子供たちのいないところで傷つけていたようだ。
右京「あなたの目論見はこうだった。
石田くんたちによる硝子さんのイジメをエスカレートさせる。
止める大人がいなければ子供たちは必然的に増長しますからね。
そして極めつけは石田くん。彼もまたあなたにとっては厄介な生徒になりつつあった。」
石田「何で…俺が…?」
「それはキミが授業妨害を行ったからでしょう。
竹内先生にしてみれば授業は業務の一環、それを妨げる石田くんなど邪魔者でしかない。
だからあなたはこの機会に厄介な二人を排除しようと考えた。」
右京の推理に石田は思い当たる節があった。
それは硝子イジメで竹内は何度もその現場を目撃したのにそれを強く止めなかったことだ。
だから自分の行いは許されるものだと勝手に解釈を行った。
そのせいでイジメは自分でも歯止めが効かなくなるほどエスカレートしてしまった。
それに竹内はかつてイジメを行った自分に対してこう告げた。
『でもまあお前の気持ちはわかるよ。』
あの時、竹内は注意をせず自分の行いを肯定した。
それは竹内自身も西宮を疎んでいたからと解釈していた。
今思えばあれは自分をスケープゴートさせるための罠ではなかったのかと疑うほどだ。
「そして竹内先生が石田くんのみを選んだことにも意味があった。
それは石田くんの家がシングルマザーだからですね。
父親がいない以上、強気に出られることはない。
大人しく170万円を払ってくれると踏んだからでしょう。」
美也子「そんな…嘘でしょ…」
さらに石田一家にのみ170万円の支払いを告げたことにも指摘をしてみせた。
硝子の補聴器の損害金は高額だ。
いざという時、その責任が自分に及ばないために
敢えて強気に出れないシングルマザーの家庭である石田一家を選んだのではないか。
そのことを聞いて思わず竹内に疑惑を向ける美也子。
確かに自分の息子がイジメの主犯だったことは間違いない
親として息子が余所の子を傷つけた以上は責任を負わなければならない。
それにしても…そんな理由で…
信頼していた教師に裏切られてしまい
この場にいる誰もが何を信じればよいのかわけがわからなかった。
喜多「竹内先生…あなた…なんてことを…」
校長「キミは自分が何をやったのかわかっているのか!」
そんな右京の推理をこれまで黙って聞いていた校長と喜多は竹内に対して怒りを顕にした。
これが教職の携わる者がやることかと!
しかし竹内はまるで開き直るかのように二人の前でこう告げた。
竹内「俺だけが悪いとでも言いたいんですか。
ちがうでしょ。そうじゃないですよね。
立場が違えば他の教師だって同じことをしましたよ!」
喜多「ふざけたことを言わないでください!誰が児童を貶めたりするものですか!」
「いいや、断言できますよ。
この学校には障害児を教育する体制なんて整ってないんですからね。」
竹内は呆れるように言ったがそれは事実だった。
この学校は普通学級であり障害児への教育を行う体制は整っていない。
つまり硝子のような難聴の児童に対する個別の指導など行われていなかった。
それなのに何故障害のある硝子を受け入れなければならなかったのか。
こんな障害児を安易に受け入れた学校側にこそ問題があるはずだ。
自分はその貧乏くじを引いてしまった。そう全員の前で告げた。
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