私的良スレ書庫
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元スレ日向「神蝕……?」
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豚神 「さて、残りの編成だが……普段とは違う編成での相性が見たい。狛枝は小泉と西園寺の組に。罪木は澪田と俺の組だ」
狛枝 「二人とも、よろしくね」
二人とも、露骨に嫌そうな顔だ……。
西園寺 「ちょっとでも変な動きしたら、アタマ吹っ飛ばしてやるからね」ギロッ
豚神 「そうだ。罪木、今のうちに言っておく。俺たち二人が戦闘不能になった場合は、迷わず逃げろ」
罪木 「えっ……で、でも「お前しか、治せないからだ」
日向 「女子たちが調べてくれたんだけどな、本科で治癒系の文字はお前一人なんだ。お前の文字が戦局を立て直すこともありうる。
いざという時は、頼んだからな」
罪木 「……はい」ギュッ
エプロンを握りしめて、罪木は弱々しい声で答えた。
澪田 「ペコちゃんと冬彦ちゃんはいつも通り二人組っすね!んで、作戦方針は!」
日向 「目標は全員生還だ!確実に倒せる敵以外は無視しろ、とにかく逃げ切れ!」
オーッ!
石丸 「何というか、近寄りがたい雰囲気があるな」モグモグ
山田 「秘密結社という感じですな」モグモグ
不二咲 「いつも固まってるからね、先輩たち。一対一だと気さくな人たちなんだけどなぁ…
もっと仲良くしたいよねぇ」
霧切 「……苗木くん」こそっ
苗木 「心配しなくても、彼らが"絶望の残党"だってことはバレてないよ」ひそひそ
葉隠 「バレたら大パニックだべ」ぼそっ
十神 「少なくとも卒業までは隠し通す方がいいだろうな」ぼそぼそ
腐川 「じ、ジェノサイダーもたぶん、大丈夫です……ああ見えて口は堅いので……」
朝日奈 「でもさ、それってなんかさみしいよね」
十神 「俺たちがあいつらを許せているのは、"たまたま生き残ったから"というだけだ。
殺し合いの果てに惨たらしく死んだ奴らは、のうのうと生きる絶望の残党など許せないだろうな。
霧切 「そうよ。黒幕だった江ノ島さんを仲間として受け入れろという横暴を通したんだから、
これ以上は酷というものでしょう?」
朝日奈 「……そう、かな……」
十神 「そうだ」
朝日奈 「……」
__________
ガチャッ
左右田 「たっだいまー、元気してたかオメーら」
ナナミ 「……」かちかちかちかち
左右田 「なあ、そのピンボールゲーム楽しい?パソコンに入ってる奴だろそれ。七海はもっと歯ごたえあるゲーム
やってたぜ。ところで、解析は進んでっか?」
セブン 『ファイルの解析は終了した。今さっき千尋にすべてのデータを送ったところだ』キュゥン…
左右田 「おお、ありがとな!」
セブン 『しかし、気になるデータがある……和一、これを見てくれ』パッパッ
左右田 「なんだ?"なら……しか高校入学案内"?フツーのパンフレットじゃねーか」
セブン 『ナラカ、と読むらしい。日本中の地名を検索したが、こんな不吉な地名はどこにもない。
考えられるのは架空の学校か、それとも……』
この大人なケータイはそこで言葉を濁した。
左右田 「不吉な地名、ってどういう意味だよ」
セブン 『ナラカ、とはサンスクリット語で……"地獄"を意味するのだ』
左右田 「……!!」
セブン 『このパンフレットは、サーバーの最奥にプロテクトが何重にもかかった状態で保管されていた。まだ
すべて確認できていないが、おそらくこの怪奇現象のヒントになるものだろう』
左右田 「で……それをオレに聞かせてどうするんだよ、まさかオメー」
セブン 『私は、次の蝕までにそこからファイルをコピーしようと思う』
左右田 「分かってんのかよ……学園長に見つかったら潰されんぞ」
セブン 『だからこそ、千尋には任せられない。前にも言ったが、私は一度自我を失った身だ。再びの消滅は何も恐ろしくはない。
こんな奇妙な縁で君たちと出会った……助けになれるなら、本望だ』
左右田 「そうかよ……」
セブン 『……和一、君の心を受信した。君は、優しいな』フッ
左右田 「オメーがこのケータイに引き寄せられた理由が分かれば、なんか役に立つってだけだっつの」
セブン 『一つだけ頼みがある。私の自我が予定通り消滅した後は、私を七海に装着してくれ。きっと役に立つ』
左右田 「ああ、約束だ」
セブン 『では、後は頼んだぞ……バディ』
ふっ、とレベルメータの顔が消えた。もうサーバーの中に行っちまったんだな。
左右田 「……なんだろ、すげー嫌な予感すんな」
背筋がざわざわする。
直感は終里のスキルだろ?
なんとなく、次の蝕はやべーもんが来る。
そんな予感がした。
______
今日は短いけどここで切るよ。
次回は蝕だよ。
巻末にあるならかようちえんパロのようなもの
_____________
【きぼうがみねようちえん ぜつぼうぐみ】
日向 「はーい、みんなあつまれー。希望ヶ峰幼稚園の時間だぞー」
<わー(白衣を着た日向の周りに集まる77期生園児たち)
西園寺 「つーかさあ、なんで日向おにぃが先生役なの?」
日向 「苗字が原作キャラとかぶってるからだ」キリッ
小泉 「そんだけの理由なんだ……」
日向 「……素でスモッグが似合う高校生とか初めて見たな。
んじゃ、西園寺がキレる前に行くぞー」
【はなむらくんのしつもん みんなのもじがどこにあるのかおしえてください】
日向 「とりあえず一覧にしてみたぞ」
日向→『変』左手の甲 左右田→『機』うなじ 小泉→『写』喉元 田中→『獣』左胸
罪木→『癒』右手の甲 豚神→『偽』鎖骨 西園寺→『舞』左足首 終里→『闘』右太もも
ソニア→『生』左手首 弐大→『助』腹 九頭龍→『冬』うなじ 辺古山→『刀』右胸
澪田→『音』右二の腕 狛枝→『運』左足 花村→『食』尻
九頭龍 「お前……ケツに文字あんのか」
西園寺 「うえっ!?さすが下半身でモノ考える変態ヤローは違うよね!」
花村 「ぼくがやったわけじゃないってば!!」
日向 「おい、花村が変態なのは本当だけどそこまで言ってやるな」
花村 「」
日向 「というわけで、次回の希望ヶ峰幼稚園をお楽しみにー」ヒラヒラ
花村 「オチはないの!?」
>>1「さて、続き投稿するか」
>>1「ファッ!?公務員試験って四次まであるんか!時間NEEEE」
そんなわけで、とりあえず書きだめ分だけ投下してくよー
_________
コンコン…
日向 「九頭龍、飯持ってきたぞ」
花村 「ねえ、もう3日目だよ。そろそろ出てきてよ。今日の味噌汁は日向くんのエキスがたっぷり入った特製なんだよ!」
日向 「誤解を招く表現はやめろ、何も変なものは入れてないぞ、本当だ!」
ガチャッ
九頭龍 「うるせえな……後で食うから置いてけ」
3日ぶりに見た九頭龍は、いつもの迫力がそぎ落とされていて。
小さい体がますます小さく見えた。
日向 「……お前がずっと部屋に閉じこもっているのは、妹さんの姿が見えなくなったのと関係あるのか」
九頭龍 「だったら、何だってんだよ。腰抜けって笑うのか?」
日向 「どういう意味だ、俺はただお前が心配で……」
九頭龍 「余計なお世話だって言ってんだ!……っ、うるせえ!!」
九頭龍は部屋の中に振り返って叫んだ。
日向 「誰かいるのか?だったら悪か「とにかく、……オレのことはいいから、ほっとけ!」バタンッ
花村 「あーあ、やっちゃった……」ハァ
日向 「とりあえず食事だけ置いて戻るか」コトッ
<オーイ
日向 「なんだ、朝日奈?」
朝日奈 「ちょうどよかった!あのさ、一緒に葉隠の部屋に来てくんない!?」
日向 「はっ?……葉隠?」
【葉隠の部屋】
朝日奈 「はがくれー、日向連れてきたよー」キィッ
葉隠康比呂という男を、俺はよく知らない。
朝日奈いわく「ロクデナシ」の五文字で片付くらしいが、
布団をかぶってブルブルふるえてる葉隠には、「ビビリ」の三文字も加えてやりたいと思った。
葉隠 「あ、あああ日向っち……初めましてだべ……」ガタガタ
日向 「悪いが、時間がないんだ。介錯係の仕事があるからな」
朝日奈 「えっ」
日向 「日本刀の手入れと使い方講座だ。その道のプロ、辺古山ペコ先生をお招きしている」
朝日奈 「」
日向 「で、何の用だ」
聞くと、葉隠は「すー、はー」と深呼吸して、
やっと覚悟を決めた。
葉隠 「日向っち……いや、日向っちとカムクラっちの二人に、予言があるべ」
日向 「!」
葉隠 「俺の"予"は10割当たる。だから、今から俺が話すのは……絶対にやってくる未来の話、って思ってくれ」
日向 「それで、なんで俺なんだ?苗木に話す方がいいんじゃないのか?」
葉隠 「それは、その……日向っちに聞いてほしいからだべ」
目が泳いでいる。嘘だな、と思った。
きっと、苗木には言えないような未来なのかもしれない。
葉隠 「日向っち……次の蝕は、たくさんの生徒が死ぬべ。"始"と同じ……いや、それ以上に。
カギを握るのは、朝日奈っち」
朝日奈 「わ、わたし?」
葉隠 「だから、朝日奈っちに万が一のことがあっちゃいけねえんだ」
日向 「……分かった。俺がそばについて守る」
朝日奈 「日向!」
葉隠 「それを聞いて安心したべ。……これが一つ目の予言。二つ目は、日向っち自身のことだ。
日向っちはいずれ、"神の力"を分け与えられる」
日向 「神?お前、何を」
葉隠 「日向っちは、神の後継者の一人に選ばれたんだべ」
バカバカしい予言だ。
でも、笑って済ませるのは、葉隠の真剣な目が許してくれない。
葉隠 「その力は、カムクラっちでは正しく使えない。だから、日向っち自身が選ぶ必要があんだ。
でも、それはまだ先の話だから、ちゃんと全部の真実を知った上で決めろよ。
そんで、いよいよ三つ目。最後の予言だ」
ごく、と喉が鳴る。
回避不可能な未来の話に、俺も緊張しているようだ。
葉隠 「六道紅葉」
日向 「ろくどう、もみじ?」
葉隠 「みんなを助けてくれる人の名前だべ。その時が来たら"呼ばなきゃ"いけねえから。
しっかり覚えとけよ」
日向 「分かった……」コクン
朝日奈 「ねえ、葉隠……どうしちゃったの?あんたらしくないじゃん」
葉隠 「俺、今まで人の役に立とうとか思ったこと、なかったんだべ。神蝕に巻きこまれてからも……死にたくねえって、
そればっか考えてた」
葉隠 「でも、これが"信頼"されるってやつなんだな……意外と悪くねえって思えたべ」
朝日奈 「葉隠……」
葉隠 「んじゃ、予言で疲れたから寝るべ」ゴソゴソ
日向 「分かった。……ありがとう」
葉隠 「どういたしましてだべ。……死ぬなよ、二人とも」
ちょっと清々しい表情の葉隠に見送られて、俺たちは部屋を出た。
そして――運命の水曜日がやってきた。
_________
豚神 「どうやら、隔離型の発生は避けられたようだな……お前たちは、作戦会議の通りに動け。
朝食分のカロリーをすべて消費するくらいでなければ、神蝕は生き延びられないぞ!」
澪田 「おーっ!!……輝々ちゃんも!」チラッ
花村 「お、おー!」グッ
日向 (そろそろか……)ガタッ
教科書を片付けて、立ち上がる。
机に立てかけておいた刀を握りしめて、窓の外を眺めた。
――次の蝕は、たくさんの生徒が死ぬべ。
日向 (そうだ……葉隠との約束があった。朝日奈を探し出して、守らないと)
大神は、西地区で予備学科の奴らのリーダー的なことをしているらしい。
そもそも朝日奈が「自分の身は自分で守る!」と俺の助けを拒否していた。
日向 (葉隠があそこまで言うってことは、今日の蝕は相当きついな。
少なくとも、文字を上手く使えない朝日奈じゃ乗り切れないレベルか)
<ガラッ
朝日奈 「日向、今日は……その、ごめん。メーワクかけるね」
罪木 「わ、私は朝日奈さんと一緒に行けてうれしいですよぉ!」
左右田 「七海ー。AI同士でブッキングとか起こってねーか?」カチャカチャ
ナナミ 「うん、大丈夫……だと、思うよ」
左右田 「あ、そうだ。あとで不二咲にメールでファイル送っとかねーと……よしっ、装填完了!
大事にしろよ、セブンが自我と引きかえにくれた力だかんな」ギギッ
腕にケータイ型の通信機をつけられた七海は、「うん、大事にする」とうなずいた。
九頭龍 「………」ブツブツ
小泉 「ねえ、さっきからうるさいんだけど……誰としゃべってんの?」
九頭龍 「……そっか、菜摘は……ありがとな、教えてくれて……で、今日は……
ああ、蝕が来んだよ……それで……」ブツブツ
小泉 「……!」ゾッ
西園寺 「……ねえ、この学園の中に閉鎖病棟ってある?」
独り言を話す九頭龍の目は、焦点が合ってなかった。
ここまで追いつめられていたなんてな……気づいてやれなかった自分がふがいない。
この蝕が終わったら、ちゃんと話を聞いてやらないと。
九頭龍 「じゃあ、そろそろ時間だからよ。オメーらと話せて気が楽になったぜ、じゃあな」ガタッ
と、立ち上がった九頭龍はさっさと辺古山の方へ行く。
今のはなんだったんだ?
罪木 「わ、わたし…カウンセリングは専門外でっ……ふええ、肝心な時に役立たずな才能で
すみません……」ぐすぐす
狛枝 「彼の希望が潰されるのを黙って見ているしかないなんて……僕はなんて無力なんだ……」ブルブル
日向 「……悪いが、あいつのことは蝕が終わった後に考えろ。
今日は通常型だ!蝕が来る前に、早く外に出るぞ!」ガラガラッ
――カッ!!
日向 「なん、だ……!?いつもより、まぶしっ……」
とっさに、顔の前に手をかざす。
光がおさまった時、見えたのは。
罪木 「ひ、日向さん!空が……!」
灰色の空に現れた、いくつもの水紋だった。
【日向創:Chapter05:火(ヒ)】
外に出た俺たちは、誰からともなく空を見上げる。
灰色の空に、ゴロゴロ…と雷が鳴った。
霧切 「……」カッ!
"索(さく)"
霧切 「……火?」
ホログラムには、この蝕が『火』であるという以外に、何も情報が出なかった。
霧切の文字でも解析できない蝕ってことか?
豚神 「っ、お前たち、固まりすぎだ!!散れ!!!」
十神が叫んだ瞬間、空の水紋から『ジャラッ』と何かが下りてきた。
――蛇だ。白い骨だけの蛇。そいつらが、口を大きく開けて、俺たちを狙う。
狛枝 「まずい!あいつら、意思があるみたいだ!!」ダッ
日向 「くそっ……みんな、避けろ!!影に入れ!!」タッ
俺の号令で、みんなが一斉に走り出す。
蛇は『ガチガチ』と牙を咬み合わせて、ものすごいスピードで降りてくる。
豚神 「いつもの蝕より動きが早い……澪田、防壁を!」
澪田 「了解っす!!」カッ!
"音(おと)"
空中から龍の頭がついたギターを取り出した澪田は、弦に指をかける。
澪田 「まずはC4!」ジャアーンッ
二人を狙って降りてきた蛇は、見えない壁に弾かれて『ギイッ!』と吹き飛んだ。
澪田 「ひゃっほーう!!アドレナリンぜんかーいっ!!
いっくよー、それじゃあ一曲目!"10年ぶりに地元に帰ったら幼なじみが塀の中にいた"ー!!」ギャギャギャ
豚神 「やめろ!!せめて放課後ポヨヨンアワーとやらの曲を……ぐおおお!!耳が、あ……割れ……!」
攻撃判定のあるバリア。それが澪田の文字だ。
しかし、範囲はあまり広くない。俺たちは蛇を打ち返しながら、なんとか避けるありさまだった。
西園寺 「に、逃げなきゃ……あっ!」ドテッ
着物のすそに足を引っかけて、西園寺が転んだ。
日向 「西園寺!立て、はやく!!」
西園寺 「あ、足、ひねって……!」
小泉 「危ない!!」ドンッ
西園寺 「おねぇ?……きっ、きゃあああ!!」
突き飛ばされた西園寺が、悲鳴をあげた。
両足に蛇が噛みついた小泉は、西園寺が無事なのを見て「よかった……」と呟く。
小泉 「ううっ……!」
なんとか抜けようとするが、蛇はガッチリと小泉を地面に固定していた。
小泉 「ひよ、こちゃ……逃げ……」ゴフッ
西園寺 「いや、嫌だ!!小泉おねぇ!!」ブンブン
小泉 「いい、から!!」
西園寺 「!!」びくっ
小泉 「お願いだから……逃げてよ……日寄子ちゃ、んを…守れ、たら……アタシ……」
ゴオッ!!
小泉の体に噛みついた蛇が、青い炎へ形を変える。
西園寺 「あ、ああ、っ、ああああ!!おねぇぇぇ!!!」
叫ぶ西園寺の目の前で、小泉の体は炎に包まれた。
小泉 「……あー、あ…やっぱ、り……アタシ……」
小泉 「こん、な……役に、しか……たて、なかっ…た…か……」ガクッ
罪木 「西園寺さん!」ぐいっ
西園寺 「な、何するの!?まだおねぇが……離して、離してよぉ!!」ズルズル
日向 「あ……」ハッ
日向 「小泉……!小泉ぃぃ!!」バサッバサッ
ジャケットを脱いで、火を叩く。
そんな俺の手を、今度は朝日奈が「逃げよう!」と引っぱった。
朝日奈 「ごめん、小泉ちゃん……」ギュッ
日向 「そん、な……」
『だってアタシたち、まだ誰も死んでないんだから!』
作戦会議の食堂で、小泉は嬉しそうに言っていた。
どこかで油断していたんだ。
これが命がけの闘いだってことを、忘れていたんだ。
日向 (俺はまた、小泉を守れなかった……!!)ギリッ
朝日奈 「ねえ、日向!この蝕って、"火"なんだよね!?」
日向 「ああ!!」
走りながら答えると、朝日奈は「やっぱり」とうつむく。
朝日奈 「そっか……葉隠が"カギを握るのは朝日奈っち"って……そういうこと、だったんだ」ザッ
止まった朝日奈は、手のひらを空へかざす。
……そこで、動きが止まった。
日向 「どうした?」
朝日奈 「あ……」カタカタ
日向 「おい、朝日奈!早く水を」
その時の朝日奈が何を思い出していたか……それは想像がついた。
『始』が終わった後、体育館で初めて文字を発動した日の記憶だ。
____________
朝日奈 「ぐっ…ゴボッ、ガボッ……!」ボタボタ
日向 「朝日奈!?」
朝日奈 「ごぼっ…ご、ぐっ、ボォッ……!」ビチャビチャ
____________
日向 「……い、おい、朝日奈!!」
朝日奈 「……!」ハッ
日向 「大丈夫だ、お前ならできる。まずは水を使うものを」
朝日奈 「い、いや……」ガタガタ
朝日奈 「っ、できないっ!!…私には、できない!!」バッ
日向 「朝日奈!!」
朝日奈は俺の手を振り払い、目にも止まらぬ速さで逃げていく。
追いかけようとした俺の前に、蛇が立ちふさがった。
火 「……」ガチンガチン
日向 「仕方ないな……まずは、今日を切り抜ける!」ブンッ
刀を振りかぶって、蛇を切り伏せる。
それを繰り返すうちに、空が少しずつ晴れていった。
日向 「終わったか……」シュゥッ
刀をハンカチに戻して、ポケットに突っこむ。
日向 (とりあえず、みんなの安否を確認しよう)
そう思って校庭に向かった俺は、「日向さん!」と呼ばれる。
罪木 「よかった。日向さん、無事だったんですねぇ…」
日向 「お前もな……って、辺古山!?」
罪木の肩に手を回した辺古山は、血まみれで苦しげな呼吸を繰り返していた。
制服の袖がちぎれて、ポタポタと血が落ちている。
辺古山 「心配、するな……右腕を、持って…行かれた、だけだ」ゼーゼー
日向 「俺がおぶった方が早い、罪木!保健室は!?」ガバッ
罪木 「鍵ならここにありますぅ!さ、先に行って……ひゃああ!?」ステーン
日向 「っ、お前も!」ぐいっ
辺古山を背中にかついで、空いた右手で罪木を引っぱる。
保健室の前には、ケガをした生徒が集まっていた。
モブ生 「うう……いてえ、いてえよぉ…」
モブ生 「お母さん……」
罪木 「み、みなさぁん!順番に治しますから、押さないでくださぁい!」アタフタ
とりあえず、ベッドに辺古山を寝かせて額の脂汗を拭いてやる。
日向 「そういえば、九頭龍はどうしたんだ?」
辺古山 「はぐれ、て……しま、った……不覚、だが……」ゴホッ
罪木 「……」
辺古山 「どう、した……治せ、ない……のか?」
罪木 「ごっ…ごめんなさぁい!!」バッ
頭を下げた罪木は、そのまま「うう…」と泣き出した。
罪木 「わ、私の文字はっ……もうなくなった腕を、生やすことはっ、できないんです……!
血を止めて、傷口を塞ぐことしかっ……」
辺古山 「そうか……」フゥ
日向 「お、俺が探してくる!どこかに落ちているかも「無駄だ。あの蛇に食われてしまった」……くそっ!」
辺古山 「……気持ちだけで、十分だ。ありがとう」
罪木 「ふえっ……ぐすっ、せめて、左右田さんに義手を頼んでおきますねぇ……」
辺古山 「ああ、頼んだ」
それ以上見ていられなくて、俺はそっとベッドを離れた。
日向 (先に食堂へ行こう……)ガラッ
九頭龍 「!…日向か」
日向 「今は入らないでおいてやった方がいいかもしれない」
九頭龍 「なんでテメーにんな指図受けなきゃいけねえんだよ!」
日向 「分からないか!……辺古山だって、泣きたい時はある」
九頭龍 「……」
九頭龍 「なあ、日向……小泉、死んじまったんだよな」
日向 「ああ」
九頭龍 「なのによォ…オレだけ、ずっとペコの後ろで守られててよ……情けねえったら
ありゃしねえ!小泉は、ダチ守って死んだってのによ……!!」ガンッ
九頭龍 「なんでオレは……こんなに弱えんだよ……」
【夜・自室】
ベッドに入ってからも、目が冴えて眠れない。
日向 (……小泉真昼。男子には口うるさかったけど、しっかり者で……いい奴だった)
日向 (西園寺は、また祭壇を作ってやるんだろうか。二回も親友を失って、あいつは立ち直れるんだろうか)
そんなことを考えているうちに、いつの間にか眠りに落ちていた。
【翌日】
日向 「おはよう、みんな」ガラガラッ
日向 「……って、あれ?今日は自習か?」
田中 「ついさっき、闇の君主よりの使者が授業の中止を伝えに来たぞ」
日向 「このタイミングで自習か。……嫌な予感がするな」
左右田 「あーあ…今日から二日間晴れかァ……ホントついてねえ」ボリボリ
終里 「……?」スンスン
弐大 「どうしたんじゃ、終里」
終里 「匂うぞ……」
弐大 「そりゃ、蝕の前触れじゃあ。お前ほど鋭ければ匂うのも「ちがう、そんなチャチなもんじゃねえよ」
終里 「なんだ、これ……すげー怖え……なんでオレがこんな」ガタガタ
終里の言葉が終わらないうちに、空にゴロゴロ…と雷が鳴った。
空に浮かぶいくつもの水紋……まさか。
豚神 「お前たち、考えるのはあとだ、外へ出るぞ!」
ソニア 「おかしいではありませんか!なぜこんなに早く……」
田中 「それより…昨日と同じ予兆というのは、どういうことだ!」
日向 「……」
日向 「学園長が言っていたんだけどな、文字にはいくつか特殊なものがあるらしい」
ソニア 「特殊……?」
日向 「神、王、国、死……あとは四大元素。俺が聞いたのはこれだけだった。
今回の蝕は"火"だよな?」
弐大 「むっ?つまり、この"火"は普通のやり方では倒せないということか!?」
終里 「なあ、さっさと外出ようぜ!!ここにいても狙い撃ちされんぞ!」ダッ
弐大 「お、応!!…すまんが日向、その話は生き残ってからじゃあ!」タッ
日向 「……まずいぞ、俺の予想が当たってたら」
校庭に出た俺は、悪い予想が大当たりだったことを知った。
ザアアアッ…!
炎をまとって下りてくる、白骨の蛇。その数は昨日の倍以上だ!
日向 「くそっ、さばき切れない!!」ガンッ、ギインッ!
ナナミ 「……」ガガガガガッ
七海の腕に仕込まれたガトリングガンは、一寸の狂いもなく蛇の脳天を撃ち抜く。
左右田 「おい七海、一旦下がれ!あぶねーぞ!!」
ナナミ 「大丈夫…それより、日向くんが」
ナナミ 「!」ダッ
日向 「あっ…!」
いつの間にか、すぐ目の前に蛇が迫っていた。
ナナミ 「日向くん!」ドンッ
炎の舌をちろちろ出す蛇を、七海の膝が蹴り飛ばした。
グシャアッ!
蛇は校舎の壁にぶち当たって、粉々になった。
ナナミ 「日向くん、大丈夫!?」
日向 「あ、ああ……」
ナナミ 「よかった……」ホッ
ただの機械のはずなのに。
眉を下げて胸に手を当てる仕草は、本当に七海千秋そのままで。
左右田 「二人とも無事か!?」
日向 「俺は平気だから、西園寺の所へ行ってやってくれ!!」
ナナミ 「分かった、行ってくるね」トコトコ
歩き出した七海の後ろ姿を、左右田は不思議そうな顔で見る。
左右田 「……そういやあいつ、さっきコマンドなしで動いたよな……」
日向 「なんだって?」
左右田 「いや…なんでもない」タッ
そのうち、空が少しずつ明るくなって蛇が消えていく。
シュゥッ…
俺は刀を消して、昨日より血なまぐさい校舎に入った。
日向 「そうだ、辺古山!」ダッ
血で滑る廊下を、保健室目指して走る。
もしものことがあったら……!
日向 「辺古山!」ガラッ
罪木 「治りましたよ。起き上がってみてください」パアア
花村 「よっ……と、お?……すごいね!さっきまで引きつれて痛かったのが、もう治ってる!!」
日向 「花村、お前もケガを」
花村 「うん。とっさに手をかばったら、背中をね……さっきまでズル剥けのグジュグジュ。
あの痛みと、治療中腰に乗ってた罪木さんのお尻の感触は忘れないよ」
字面だけ聞くといやらしいが、相当な重傷だったらしい。
料理人らしく手をかばって、背中に噛みつかれたのか。
日向 「大変だったな……今日はおやつなんていらないから、休んでろ」
花村 「ううん、やらせてよ。ぼくの才能って、蝕では役に立たないから……せめてみんなを
元気づけることしか、ね?」
そう言われると、返す言葉もない。
花村 「それに……これが、ぼくにできる精一杯の償いだから」ガラガラッ
西園寺 「……」ベチーンッ
狛枝 「いったあ!……西園寺さん、ばんそうこうはもっと優しく貼ってくれないかな。
一応僕もけが人だよ?」ヒリヒリ
西園寺 「はぁ?私が消毒してやっただけでもありがたいと思いなよ」
狛枝 「そうか……この程度の不運では、罪木さんのお尻と等価交換できないのか……」ボソッ
西園寺 「ど う い う 意 味?」ギロッ
狛枝 「いたたたっ!やめて、髪の毛引っぱらな……あ、日向くん!助けて!!」
日向 「……今のはお前が悪い」
そこで、ベッドで寝ていた辺古山が起き上がった。
辺古山 「日向?来てくれたのか」
日向 「ああ、お前が心配でな」
辺古山 「嬉しいことを言ってくれる……ここにも蛇は来たが、
今日は澪田がついていてくれたからな、片腕でもどうにか対応できた」
澪田 「唯吹バリアーは無敵っす!」グッ
日向 「そうか…よかった」ホッ
澪田 「んじゃ、唯吹は一旦失礼するっす!ペコちゃん、安静にしてなきゃダメっすよ!
お腹冷やさないように、ちゃんとお布団かけるっす!」
辺古山 「分かった」くすくす
澪田 「あとでご飯持ってきてあげるっすねー!」
パタン…
澪田が出ていくと、辺古山は暗い表情で布団を握りしめた。
辺古山 「……小泉のことなんだが」
日向 「聞いたのか」
辺古山 「私が……全力で走れば、小泉を助けられたかもしれない」
日向 「……」
辺古山 「だが、私の後ろには坊ちゃんがいた。あの人を守らなければと……その想いが、
勝っていたのだろう。あと一歩で、間に合わなかった」
日向 「辺古山……お前が気に病む必要は」
辺古山 「分かってる。きっと小泉も、この場にいれば同じことを言うだろう。だが、私は……」
辺古山 「私は、今度こそ……小泉を生かしたかった……!」ポタッ
九頭龍 「……入れねえじゃねーか」
九頭龍 「……」
九頭龍 「また、オレが……小泉を死なせたんだな……」
九頭龍 「くそっ!」ガンッ
_________
コンコン…ガチャッ
学園長 「やあ、戦刃さん。おつかれさま、ちょっと甘味でもどうだい?」ボリボリ
戦刃 「いただきます」ボリッ
学園長 「さすが花村君は、お菓子作りも一流だね。冷蔵庫に入っていたのを勝手に持ってきちゃったけど、
彼が死ぬのは惜しい」ボリボリ
戦刃 「……学園長先生は、みんなを根絶やしにするつもりなんですか?
私でも、かすり傷が出来たくらいなのに……」
学園長 「嫌だなあ、人聞きの悪い。あとは朝日奈さんが勇気を出すだけでこの蝕は終わるよ。
そういえば……戦刃さんはいつまでここにいるつもりだい?」
戦刃 「分からない…だけど、学園長先生が"盾子ちゃんの代わりに絶望を見せてあげる"って……」
戦刃 「そう、言ったから……それを見届けるまでは、私があなたを守りたい」
学園長 (そんなことも言ったっけ。……まあ、戦刃むくろは莫迦なりに使えるしな。
しばらくは機嫌をとっておくか)
学園長 「……っ」チクッ
戦刃 「先生?」
学園長 「いや、何でもないよ」
学園長 (死して尚、心は肉体に……霧切仁という男も、たいがい化け物だな)
________
【食堂】
さすがの西園寺も、もう一回あの禍々しい祭壇を作る気にはなれなかったらしい。
真っ赤に泣き腫らした目で、罪木が背中をさするのも振り払わない。
田中 「人の悲しみには、波がある。想い出は静けさの中で蘇り、遺された者をさいなむ。
西園寺は今、その時なのだろう」
ソニア 「私たちに何かできることは……」
田中 「強いて言うなら、生きることだ。……いつ、誰がそうなるとも限らないということを、
心に刻みつけることだ」
田中の言葉は、集まった仲間たちの胸の奥底へ沈みこむ。
みんな、ふとした拍子に一人分空いた席を見ていた。
豚神 「小泉が死に、花村と辺古山が負傷した……今回の蝕は桁違いの強さだな」
日向 「昨日より蝕の始まる時間が早かった。敵の数も多かった。……ということは、
弱点となる文字で致命傷を与えない限り、日々パワーアップして襲いかかってくる」
左右田 「こいつに全滅させられた年は何度もあっからなァ」
日向 「左右田?お前、何か知ってるのか」
左右田 「いや……話すと長くなっから、今はしねえ。まずはこの"火"をどうにかしねーとな」
日向 「それなんだが……"火"の弱点は、"水"。つまり、78期の朝日奈葵が鍵なんだ」
西園寺 「だったらっ…だったら、すぐその女に」
日向 「いや……朝日奈は"始"の時に文字の発動を一回失敗しているんだ。
それからあとは、せいぜい水の入ったコップを出す程度で……大がかりな水を出すのが
恐ろしいんだと思う」
罪木 「"火"の一日目でも……逃げてしまったそうなんです」
西園寺 「何それ……そいつがちゃんと闘えば、小泉おねぇが死なないで済んだのにっ……!」
豚神 「……日向、行くぞ。まずは話をしてみよう」ガタッ
日向 「ああ。対抗できる文字は朝日奈しかいないからな」ガタッ
【朝日奈の個室】
コンコン…
苗木 「朝日奈さん、僕だよ。苗木だよ。話がしたいんだ。明日の蝕のことなんだけど……」
ギイッ…
朝日奈 「……なに?」
苗木 「あのね、日向クンたちが食堂で集まって話しているのを聞いたんだけど、"火"を倒すためには
朝日奈さんの文字が必要なんだ。明日は僕たちと一緒に来ない?」
朝日奈 「……私、一回逃げたんだよ。今さらどうやって……」
霧切 「私たちがあなたを守るわ。みんなで蝕を倒しましょう」
苗木 「そうだよ、僕たちがいるよ!怖くなんかないよ、あんな蝕、朝日奈さんの文字なら一発じゃないか!」
朝日奈 「やめて!!!」
苗木 「!?」ビクッ
朝日奈 「お願いだから、やめてよ……!私、私にはできないっ…無理だよ……!!」ズルズル
石丸 「弱音を吐くとはらしくないぞ!生徒全員の命がかかっているのだ、できる、できないは
問題ではなかろう!!!」
安広 「朝日奈さん、死ぬならどうぞご勝手に。
ですが、わたくしはあなたのくだらない恐怖心のために命を落とすなんて、
まっぴらですわ。それだけはお忘れなきよう」
朝日奈 「お願いだから、あっち行ってよ……私にはっ、みんなの命を預かるなんて……そんな責任……!!!」
「何をしてるんだ?」
朝日奈 「ひな、た……ななし……?」ボロボロ
日向 「寄ってたかって、圧迫尋問か?俺たちが話すからどいてろ」
石丸 「日向くん!生徒全員の命運がかかっているのだぞ!!「だからどうした」なっ……」
日向 「力ずくで引っぱり出せば朝日奈が闘ってくれるのか?確実に"火"を倒せるのか?
……俺にはそうは思えない」
豚神 「一旦下がっていろ、愚民め!」シッシッ
苗木たちはとりあえず廊下の角まで下がった。
朝日奈からは見えないが、じーっと様子をうかがっている。
豚神 「……お前が、恐ろしいと思うのは分かる」
朝日奈 「……!」びくっ
豚神 「俺はな、実のところ……そこまで己の生に執着があるわけではない。いつ死んでも、大した後悔はない。
だから、お前に"闘ってくれ"と命乞いをしに来たわけではない」
豚神 「朝日奈、お前はどうなんだ。死にたいのか、それともみっともなくあがいて、生きていきたいのか?」
朝日奈 「わた、しは……」
豚神 「お前が生きたいと思うなら、そのために文字を使え」
日向 「それとな、策がないわけじゃないんだ。何せこっちには"超高校級のメカニック"がいるからな。
あいつに巨大水鉄砲でも作ってもらって、屋上に配置して空に向けて撃てば、どうにかなるかもしれないぞ」
日向 「お前ひとりに何もかも背負わせるなんて、そんなことはしない。
生きるためには、責任が伴う。それを俺たちはよく知ってるから」ポンポン
朝日奈 「う、うう……!」ボロボロ
朝日奈 「嫌だ、嫌だよ……みんなが死ぬのは嫌だ……!」ぐすぐす
日向 「まだ死ぬって決まったわけじゃない。もしかしたら左右田で何とかなるかもしれない」
朝日奈 「無理だよ、分かってるもん!私じゃなきゃ、ダメなんでしょ……?」ポロポロ
「そうだ、お主でなければならぬ」
のそっと入ってきた大神は、俺たちを下がらせて朝日奈の肩に手を置いた。
苗木 「!?」ビクッ
朝日奈 「お願いだから、やめてよ……!私、私にはできないっ…無理だよ……!!」ズルズル
石丸 「弱音を吐くとはらしくないぞ!生徒全員の命がかかっているのだ、できる、できないは
問題ではなかろう!!!」
安広 「朝日奈さん、死ぬならどうぞご勝手に。
ですが、わたくしはあなたのくだらない恐怖心のために命を落とすなんて、
まっぴらですわ。それだけはお忘れなきよう」
朝日奈 「お願いだから、あっち行ってよ……私にはっ、みんなの命を預かるなんて……そんな責任……!!!」
「何をしてるんだ?」
朝日奈 「ひな、た……ななし……?」ボロボロ
日向 「寄ってたかって、圧迫尋問か?俺たちが話すからどいてろ」
石丸 「日向くん!生徒全員の命運がかかっているのだぞ!!「だからどうした」なっ……」
日向 「力ずくで引っぱり出せば朝日奈が闘ってくれるのか?確実に"火"を倒せるのか?
……俺にはそうは思えない」
豚神 「一旦下がっていろ、愚民め!」シッシッ
苗木たちはとりあえず廊下の角まで下がった。
朝日奈からは見えないが、じーっと様子をうかがっている。
豚神 「……お前が、恐ろしいと思うのは分かる」
朝日奈 「……!」びくっ
豚神 「俺はな、実のところ……そこまで己の生に執着があるわけではない。いつ死んでも、大した後悔はない。
だから、お前に"闘ってくれ"と命乞いをしに来たわけではない」
豚神 「朝日奈、お前はどうなんだ。死にたいのか、それともみっともなくあがいて、生きていきたいのか?」
朝日奈 「わた、しは……」
豚神 「お前が生きたいと思うなら、そのために文字を使え」
日向 「それとな、策がないわけじゃないんだ。何せこっちには"超高校級のメカニック"がいるからな。
あいつに巨大水鉄砲でも作ってもらって、屋上に配置して空に向けて撃てば、どうにかなるかもしれないぞ」
日向 「お前ひとりに何もかも背負わせるなんて、そんなことはしない。
生きるためには、責任が伴う。それを俺たちはよく知ってるから」ポンポン
朝日奈 「う、うう……!」ボロボロ
朝日奈 「嫌だ、嫌だよ……みんなが死ぬのは嫌だ……!」ぐすぐす
日向 「まだ死ぬって決まったわけじゃない。もしかしたら左右田で何とかなるかもしれない」
朝日奈 「無理だよ、分かってるもん!私じゃなきゃ、ダメなんでしょ……?」ポロポロ
「そうだ、お主でなければならぬ」
のそっと入ってきた大神は、俺たちを下がらせて朝日奈の肩に手を置いた。
大神 「朝日奈よ……1438人の命など、お主の細い肩には背負えぬだろう。だが、始で命を救った十神と日向。
そして、溺れたお主を助けた罪木……3人の命なら、どうだ」
大神 「せめてこの3人は救う。そう考えるだけでも、胸が楽にならぬか」
朝日奈 「……」
大神 「我はもう二度と、お主に生を諦めてほしくない」
朝日奈 「!さくらちゃん……」
大神 「言いたかったのはそれだけだ。朝日奈葵は一人ではないぞ」
たくましい筋肉に抱きしめられた朝日奈の目から、ぽろっと涙が落ちる。
俺は十神に目くばせして部屋を出た。
パタン…
苗木 「あ、どうだった?」
日向 「友は強し……ってとこかな」
豚神 「同じ言葉でも、友に言われるのとでは重みが違うということだ」
行くか、と歩き出した俺たちに、苗木は「えっ?ちょっと、どういうこと?ねえ!」と困惑していた。
【夜.左右田の個室】
左右田 「しっかしよぉ、今日はマジでビックリしたぜ。コマンド入力してねえのに自動で動いて
日向をかばったんだもんな。あれか、やっぱお前、七海の生まれ変わりとか?
……なわけねーか」カチャカチャ
ナナミ 「左右田くん」
左右田 「ん?」
ナナミ 「ちょっと……お腹の回線をいじられるのは恥ずかしい、かな」
左右田 「なんだよ、メンテしとかねーとフリーズしちまうかもしれねーんだぞ」ガチャンッ
ナナミ 「うーん、男子に見られるっていうのは……ちょっと」
左右田 「着がえ見られるみてーなモンなのか?機械の考えることってのはわかんねーなあ」ガガッ、ピーッ
ナナミ 「……日向くんだったら、いいかも」
左右田 「はぁ!?……んじゃ、今度からメンテには日向立ち会わすか?」ガキッ
ナナミ 「そういうのじゃ、ないんだけどな……」
ナナミ (なんだろ、この気持ち……日向くんを見てると、胸の回路が動かなくなっちゃうの)
ナナミ (何なんだろう……)
ザーッ…
『これからもわたしに…色々教えてくれる?』
『…あたりまえだろ』
『七海が知りたいこと、俺が何だって教えてやるよ』
ザザッ…
左右田 「……い……おい、七海?」
ナナミ 「……っ!」ハッ
左右田 「島の七海もよくボーッとしてたっけなあ、立ったまんま寝てたのはマジでビックリしたわ」ハハハ
ナナミ (今のは……?)
_______
今日で『火』は三日目だ。
学園長のアナウンスと同時に飛び起きた俺は、制服を身に着けるといそいで外へ出る。
カッ!
日向 「せめて朝食が終わるまでは待ってほしかったな……」
西園寺 「泣いても笑っても、たぶん今日が最後だよ」
扇をいじる西園寺は、珍しくブレザーを着ていた。
「わたしが転んだせいで、おねぇが死んだんだ」と泣いていたのを、俺は知っている。
日向 (朝日奈はまだ個室か……?)タッ
【同時刻.朝日奈の個室】
朝日奈 「!もう来てる……」ギュッ
朝日奈 「やらなきゃ……私がやらなきゃ……」
コンコン
朝日奈 「っ、だれ……さくらちゃん?」ガチャッ
十神 「迎えに来てやったぞ、臆病者め」
朝日奈 「……え」
石丸 「本来はこんな使い方をしたくないのだが……朝日奈くん、"出てきたまえ"!!」カッ
"正(せい)"
朝日奈 「!?あ、足が勝手に……」トッ
石丸 「許してくれ……みんなの命がかかっているのだ……"ついてくるんだ"」
朝日奈 「え、えっ?なんで、なにがっ……」トコトコ
__________
日向 「朝日奈、どこだ!!」タタッ
日向 「……なんだ、あれは」
俺の視線の先には、朝日奈の肩に手を置いた十神(本物)と
気まずそうに立っている石丸がいた。
日向 「おい、何をしてるんだ!!!」
十神 「お前こそ、何をしている?朝日奈が初日の時点で"水"を解放していればよかったんだ……こいつが
怖気づいて闘わなかったせいで、どれだけ生徒が無駄死にしたと思ってる!!!」
日向 「なんだと……」
十神 「――発動!」カッ
"皇(すめらぎ)"
空中から二振りのまさかりを取り出した十神は、その切っ先で座りこんだ朝日奈を囲むように円を描く。
削れた地面がパアッと青い光を放った。
今日で『火』は三日目だ。
学園長のアナウンスと同時に飛び起きた俺は、制服を身に着けるといそいで外へ出る。
カッ!
日向 「せめて朝食が終わるまでは待ってほしかったな……」
西園寺 「泣いても笑っても、たぶん今日が最後だよ」
扇をいじる西園寺は、珍しくブレザーを着ていた。
「わたしが転んだせいで、おねぇが死んだんだ」と泣いていたのを、俺は知っている。
日向 (朝日奈はまだ個室か……?)タッ
【同時刻.朝日奈の個室】
朝日奈 「!もう来てる……」ギュッ
朝日奈 「やらなきゃ……私がやらなきゃ……」
コンコン
朝日奈 「っ、だれ……さくらちゃん?」ガチャッ
十神 「迎えに来てやったぞ、臆病者め」
朝日奈 「……え」
石丸 「本来はこんな使い方をしたくないのだが……朝日奈くん、"出てきたまえ"!!」カッ
"正(せい)"
朝日奈 「!?あ、足が勝手に……」トッ
石丸 「許してくれ……みんなの命がかかっているのだ……"ついてくるんだ"」
朝日奈 「え、えっ?なんで、なにがっ……」トコトコ
__________
日向 「朝日奈、どこだ!!」タタッ
日向 「……なんだ、あれは」
俺の視線の先には、朝日奈の肩に手を置いた十神(本物)と
気まずそうに立っている石丸がいた。
日向 「おい、何をしてるんだ!!!」
十神 「お前こそ、何をしている?朝日奈が初日の時点で"水"を解放していればよかったんだ……こいつが
怖気づいて闘わなかったせいで、どれだけ生徒が無駄死にしたと思ってる!!!」
日向 「なんだと……」
十神 「――発動!」カッ
"皇(すめらぎ)"
空中から二振りのまさかりを取り出した十神は、その切っ先で座りこんだ朝日奈を囲むように円を描く。
削れた地面がパアッと青い光を放った。
十神 「俺の文字は、このまさかりで囲んだ部分を"支配"することができる。
そこに化け物を入れようが、安全地帯にしようが、俺の気分次第だ」
炎をまとった蛇が、まっすぐに朝日奈を狙った。
朝日奈 「きゃっ……!」
バチィンッ!!
見えない壁に弾かれて、蛇がのけぞる。地面でビク、ビクッと痙攣する白骨の蛇を、
十神の革靴がぐしゃっと踏みつぶした。
日向 「こっちにも来た……!」カッ
"変(へん)"
日向 「う、ら、あああああっっ!!!」ブンッ
バキッ!
日向 「もう一発!」ブンッ
グシャッ!
金属バットで、蛇を殴り倒していく。
昨日よりさらに数が増えている……キリがない!!
朝日奈 「や、やめて……やめて!」
朝日奈 「日向、こっちに入……」がくんっ「……え?」
十神 「言っただろう。その円の中は俺の支配圏だ。勝手に出ることは許さん」
十神 「せいぜいそこで、仲間が無残に死んでいくのを指をくわえて眺めてろ」コッ…
朝日奈 「あ……」
石丸 「十神くん……本当にこのやり方が正しいのか?」
十神 「今さら何を言う。お前も、この女が尻込みしたせいで死ぬのはごめんだと思ったんだろう?」
石丸 「それは……」ギュッ
バキッ!ゴシャッ!!
日向 「どうすれば……どうすればいいんだ!!!」
視界を埋め尽くす蛇に、俺は思わず叫んだ。
瞬間。
そこに化け物を入れようが、安全地帯にしようが、俺の気分次第だ」
炎をまとった蛇が、まっすぐに朝日奈を狙った。
朝日奈 「きゃっ……!」
バチィンッ!!
見えない壁に弾かれて、蛇がのけぞる。地面でビク、ビクッと痙攣する白骨の蛇を、
十神の革靴がぐしゃっと踏みつぶした。
日向 「こっちにも来た……!」カッ
"変(へん)"
日向 「う、ら、あああああっっ!!!」ブンッ
バキッ!
日向 「もう一発!」ブンッ
グシャッ!
金属バットで、蛇を殴り倒していく。
昨日よりさらに数が増えている……キリがない!!
朝日奈 「や、やめて……やめて!」
朝日奈 「日向、こっちに入……」がくんっ「……え?」
十神 「言っただろう。その円の中は俺の支配圏だ。勝手に出ることは許さん」
十神 「せいぜいそこで、仲間が無残に死んでいくのを指をくわえて眺めてろ」コッ…
朝日奈 「あ……」
石丸 「十神くん……本当にこのやり方が正しいのか?」
十神 「今さら何を言う。お前も、この女が尻込みしたせいで死ぬのはごめんだと思ったんだろう?」
石丸 「それは……」ギュッ
バキッ!ゴシャッ!!
日向 「どうすれば……どうすればいいんだ!!!」
視界を埋め尽くす蛇に、俺は思わず叫んだ。
瞬間。
カッ!!
カムクラ 「ふぅ……」シュゥッ
カムクラ 「僕がいなければ、彼は何回死んでいるんでしょうか」ブンッ
ゴッ、グシャッ、ゴスッ
十神 「カムクライズル……あいつに朝日奈を助けられては困る」すっ
石丸 「!?十神くん、何を」
ふっ、と朝日奈を囲む円の光が消えた。代わりに、赤い光が炎のように立ち上る。
十神 「円の中に出していた"命令"の種類を変えた。早く闘わなければ、四方八方から喰われるぞ」
ギギッ…ガチンガチン
赤い光を見た蛇たちが、今度は朝日奈目がけてまっさきに突っこんでいった。
石丸 「くっ……やめろ!"朝日奈くんを傷つけるな"!」カッ
"正(せい)"
石丸の声に合わせて、朝日奈を狙った蛇が小さな盾に弾かれる。
朝日奈 「あ、ああっ、あああ……!!」ガタガタ
朝日奈 「どうしよう……出さなきゃ、って、分かってるのに」スルッ
二の腕の『水』を見つめて、朝日奈はぽろぽろ泣き出した。
朝日奈 「どうしても……怖い、怖いよ……!!」
______________
澪田 「……はあっ、はあーっ、ハア……!」
豚神 「澪田、一旦逃げるぞ!建物の影の方が安全だ!」ぐいっ
澪田 「は、ははっ……ほんと、キリがないっすね……」がくんっ
豚神 「澪田、あきらめるな!立て!!!」
澪田 「……ほんとに、勝てるんすか?」
豚神 「なんだと?」
澪田 「敵はわんさか来るし、朝ごはんも食べてないからお腹ペコペコだし」
澪田 「もう……唯吹たちみんな、ここで」
豚神 「そんなことは絶対にさせない!!!」
澪田 「……!」
豚神 「"僕"が、決めたんだ……絶対に、みんなでこの学園を出るって!!だから澪田さんも
それに協力しなきゃ、ダメなんだ!!!」
澪田 「そんな、むちゃくちゃな……」
カムクラ 「ふぅ……」シュゥッ
カムクラ 「僕がいなければ、彼は何回死んでいるんでしょうか」ブンッ
ゴッ、グシャッ、ゴスッ
十神 「カムクライズル……あいつに朝日奈を助けられては困る」すっ
石丸 「!?十神くん、何を」
ふっ、と朝日奈を囲む円の光が消えた。代わりに、赤い光が炎のように立ち上る。
十神 「円の中に出していた"命令"の種類を変えた。早く闘わなければ、四方八方から喰われるぞ」
ギギッ…ガチンガチン
赤い光を見た蛇たちが、今度は朝日奈目がけてまっさきに突っこんでいった。
石丸 「くっ……やめろ!"朝日奈くんを傷つけるな"!」カッ
"正(せい)"
石丸の声に合わせて、朝日奈を狙った蛇が小さな盾に弾かれる。
朝日奈 「あ、ああっ、あああ……!!」ガタガタ
朝日奈 「どうしよう……出さなきゃ、って、分かってるのに」スルッ
二の腕の『水』を見つめて、朝日奈はぽろぽろ泣き出した。
朝日奈 「どうしても……怖い、怖いよ……!!」
______________
澪田 「……はあっ、はあーっ、ハア……!」
豚神 「澪田、一旦逃げるぞ!建物の影の方が安全だ!」ぐいっ
澪田 「は、ははっ……ほんと、キリがないっすね……」がくんっ
豚神 「澪田、あきらめるな!立て!!!」
澪田 「……ほんとに、勝てるんすか?」
豚神 「なんだと?」
澪田 「敵はわんさか来るし、朝ごはんも食べてないからお腹ペコペコだし」
澪田 「もう……唯吹たちみんな、ここで」
豚神 「そんなことは絶対にさせない!!!」
澪田 「……!」
豚神 「"僕"が、決めたんだ……絶対に、みんなでこの学園を出るって!!だから澪田さんも
それに協力しなきゃ、ダメなんだ!!!」
澪田 「そんな、むちゃくちゃな……」
豚神 「……澪田、楽器を変えてみたことはあるか?」
澪田 「へっ?いや、いつもギターだったっす」
豚神 「もしかすると、お前の防壁が全方位に対応できないのはそのせいかもしれない……
試さないで死ぬのはお前も後味が悪いだろう、何か他の楽器を出してみろ!」
澪田 「他!?他って……」むむむ
"音(おと)"
澪田 「……これとか」チーンッ
トライアングルを鳴らすたび、蛇の脳天が次々に爆破される。
澪田 「ほいっ、ほいっ、ほいっ!」チーンチーンチーン
澪田 「めっさつかれる……」グター
豚神 「また数が増えたぞ!」
澪田 「ああああっ、もう!!これ以上デカい音出る楽器は知らねーっすよ!!」カッ
ボンッ!!
豚神 「……ピアノ?」
澪田 「とりあえず、ペダル踏んで……両手10本の指で和音を!」
ガァァァーンッ……!!
それは、すさまじい衝撃。
地面を震わせた音が、青い稲妻となって蛇たちを食い尽くす。
豚神 「すごいぞ、澪田!四方の敵が一気に……」
澪田 「ふふっ、唯吹は無敵っすからね!!」
――ドスッ。
澪田 「!!??」
十神の体に、何匹もの蛇が噛みついた。
背骨がぐしゃっ、とつぶれる音。
白夜ちゃん、と叫んだつもりだった。だが、声となっては出なかった。
背中をくの字に曲げた十神は、澪田の腕の中でぼんやりと空中を見ている。
その体がもはや呼吸をしていないことに気づいた澪田の脳裏に、蘇る声。
『気をつけろよ、澪田。特に背後や上からの気配にはな』
澪田 「ふっ、うぐぅぅ……!」
澪田 「なんで、なんでっすか、白夜ちゃん……唯吹には、気をつけろって言っといて……」ポロポロ
澪田 「白夜ちゃん……!!」
澪田 「へっ?いや、いつもギターだったっす」
豚神 「もしかすると、お前の防壁が全方位に対応できないのはそのせいかもしれない……
試さないで死ぬのはお前も後味が悪いだろう、何か他の楽器を出してみろ!」
澪田 「他!?他って……」むむむ
"音(おと)"
澪田 「……これとか」チーンッ
トライアングルを鳴らすたび、蛇の脳天が次々に爆破される。
澪田 「ほいっ、ほいっ、ほいっ!」チーンチーンチーン
澪田 「めっさつかれる……」グター
豚神 「また数が増えたぞ!」
澪田 「ああああっ、もう!!これ以上デカい音出る楽器は知らねーっすよ!!」カッ
ボンッ!!
豚神 「……ピアノ?」
澪田 「とりあえず、ペダル踏んで……両手10本の指で和音を!」
ガァァァーンッ……!!
それは、すさまじい衝撃。
地面を震わせた音が、青い稲妻となって蛇たちを食い尽くす。
豚神 「すごいぞ、澪田!四方の敵が一気に……」
澪田 「ふふっ、唯吹は無敵っすからね!!」
――ドスッ。
澪田 「!!??」
十神の体に、何匹もの蛇が噛みついた。
背骨がぐしゃっ、とつぶれる音。
白夜ちゃん、と叫んだつもりだった。だが、声となっては出なかった。
背中をくの字に曲げた十神は、澪田の腕の中でぼんやりと空中を見ている。
その体がもはや呼吸をしていないことに気づいた澪田の脳裏に、蘇る声。
『気をつけろよ、澪田。特に背後や上からの気配にはな』
澪田 「ふっ、うぐぅぅ……!」
澪田 「なんで、なんでっすか、白夜ちゃん……唯吹には、気をつけろって言っといて……」ポロポロ
澪田 「白夜ちゃん……!!」
______________
両手を広げた石丸が、「大丈夫だ」と笑った。
石丸 「君のことは、絶対に守る。それが、僕の責任だ」
朝日奈 「石丸……」
石丸 「……すまない。君を苦しめてばかりで」カッ!
目の前に、ひときわ大きな盾が浮かんだ。
カムクラがすうっと目を閉じる。同時に、戻ってきた日向が「くっ」と膝をついた。
日向 「まだ無事か、朝日奈!」
朝日奈 「……っ、バカ…それ、こっちの台詞!」
朝日奈 (やらなきゃ……!みんなが、ここまで命かけてくれたんだから……!!)ギュッ
朝日奈 (落ち着いて……プール、池、なんでもいい……とにかく水のある場所を……)
頭を抱えてイメージを始めた朝日奈は、
だんだんと呼吸が落ち着いてくるのが分かった。
周りの景色が、少しずつ明瞭になっていく。
朝日奈 (……あれ?)
そこで、朝日奈は何かに気づいた。
茂みの中、人の手が飛び出している。
骨ばった、細い指。よれた袖口から覗く手首に、茶色い数珠が……
朝日奈 (……え、嘘。だって、だって、あいつが死ぬわけ)
朝日奈 (でも、あんな趣味の悪い数珠してるやつ、あいつしか)ヨロッ
立ち上がった朝日奈は、そのまま固まった。
茂みの中に倒れている人間の正体が、分かってしまったから。
朝日奈 「あっ……あ、ああああアああぁぁあ゛ああ!!!!」カッ!!
両手を広げた石丸が、「大丈夫だ」と笑った。
石丸 「君のことは、絶対に守る。それが、僕の責任だ」
朝日奈 「石丸……」
石丸 「……すまない。君を苦しめてばかりで」カッ!
目の前に、ひときわ大きな盾が浮かんだ。
カムクラがすうっと目を閉じる。同時に、戻ってきた日向が「くっ」と膝をついた。
日向 「まだ無事か、朝日奈!」
朝日奈 「……っ、バカ…それ、こっちの台詞!」
朝日奈 (やらなきゃ……!みんなが、ここまで命かけてくれたんだから……!!)ギュッ
朝日奈 (落ち着いて……プール、池、なんでもいい……とにかく水のある場所を……)
頭を抱えてイメージを始めた朝日奈は、
だんだんと呼吸が落ち着いてくるのが分かった。
周りの景色が、少しずつ明瞭になっていく。
朝日奈 (……あれ?)
そこで、朝日奈は何かに気づいた。
茂みの中、人の手が飛び出している。
骨ばった、細い指。よれた袖口から覗く手首に、茶色い数珠が……
朝日奈 (……え、嘘。だって、だって、あいつが死ぬわけ)
朝日奈 (でも、あんな趣味の悪い数珠してるやつ、あいつしか)ヨロッ
立ち上がった朝日奈は、そのまま固まった。
茂みの中に倒れている人間の正体が、分かってしまったから。
朝日奈 「あっ……あ、ああああアああぁぁあ゛ああ!!!!」カッ!!
叫んだ朝日奈の足元がボコッ、と割れた。割れ目はどんどん大きくなって、校庭を埋め尽くす。
"水(みず)"
ブシャアアアッ!!
割れ目の間から吹き出した水が、空へ向かう。
十神 「……やっとか」
石丸 「見たまえ、蛇が……!」
石丸の指さした先では、炎をまとった蛇が水の中でのたうちまわる姿。
朝日奈 「うう、うわあああああ!!!!」
『火』にぶつけられた水は、周りにいる生徒たちをも吞み込み始めた。
日向 「朝日奈!!俺だ!!分かるか、日向創だ!!!」ガバッ
朝日奈 「よくも、よくも葉隠をっ……消えろぉぉぉ!!!!」
日向 「落ち着け、朝日奈!もういいんだ、やめろ!!石丸が溺れかけてる!!!」グイッ
額に血管を浮き上がらせて、暴れる朝日奈を押さえつける。
俺には分からないが、これ以上の解放は危険だ。本能がそう告げている。
シュゥッ…
やがて、腕の中の朝日奈がぐったりと力を抜いた。
朝日奈 「うううっ……うわああああ!葉隠……葉隠ぇ……!!」ぽろぽろ
朝日奈 「うえっ……私が……私が、ちゃんと…ぐすっ、できてたら……!」
日向 「大丈夫だ。もう終わったんだ。全部」ポンポン
朝日奈 「葉隠ぇ……!!」
日向 「がんばったな。よくがんばった。ありがとうな」
石丸 「……」ギュッ
血なまぐさい匂いの立ちこめる中、朝日奈の泣き声が空に響き渡った。
【火(特殊型)三日間
死亡者数:1126名
生存者数:274名
総生徒数:1430名→274名】
___________
切ります。やっと十神、石丸の文字が出せた…
"水(みず)"
ブシャアアアッ!!
割れ目の間から吹き出した水が、空へ向かう。
十神 「……やっとか」
石丸 「見たまえ、蛇が……!」
石丸の指さした先では、炎をまとった蛇が水の中でのたうちまわる姿。
朝日奈 「うう、うわあああああ!!!!」
『火』にぶつけられた水は、周りにいる生徒たちをも吞み込み始めた。
日向 「朝日奈!!俺だ!!分かるか、日向創だ!!!」ガバッ
朝日奈 「よくも、よくも葉隠をっ……消えろぉぉぉ!!!!」
日向 「落ち着け、朝日奈!もういいんだ、やめろ!!石丸が溺れかけてる!!!」グイッ
額に血管を浮き上がらせて、暴れる朝日奈を押さえつける。
俺には分からないが、これ以上の解放は危険だ。本能がそう告げている。
シュゥッ…
やがて、腕の中の朝日奈がぐったりと力を抜いた。
朝日奈 「うううっ……うわああああ!葉隠……葉隠ぇ……!!」ぽろぽろ
朝日奈 「うえっ……私が……私が、ちゃんと…ぐすっ、できてたら……!」
日向 「大丈夫だ。もう終わったんだ。全部」ポンポン
朝日奈 「葉隠ぇ……!!」
日向 「がんばったな。よくがんばった。ありがとうな」
石丸 「……」ギュッ
血なまぐさい匂いの立ちこめる中、朝日奈の泣き声が空に響き渡った。
【火(特殊型)三日間
死亡者数:1126名
生存者数:274名
総生徒数:1430名→274名】
___________
切ります。やっと十神、石丸の文字が出せた…
次はまたちょっと桑田編行くか
大和田で和むか
苗木視点か...
大和田で和むか
苗木視点か...
更新やったーからのおわおああ絶望…! とうとう犠牲者ががが 菜摘ちゃんもどうなったのか不安だし、朝比奈さんのメンタルも大丈夫かこれ…
>>179
そのつもりだけど、それは後々。
_________
菜摘 「……」ペラッ
<『求む アマチュアカメラマン! 写真部】
菜摘 「……」グシャグシャ、ポイッ
丸めた紙をゴミ箱へ投げて、菜摘は顔の前に手をかざした。
菜摘 「今日もまぶしいなあ……」スウッ
菜摘 「!?」
手の向こうに、青空が見える。
まばたきする間にまた肌色になった視界。
桑田 「よっ、ヒマか?」ヒョイッ
菜摘 「……あんた、部活見に行ったんじゃなかったの」
桑田 「いつ死ぬか分かんねーのに、のんびり部活なんかやってられっかよ」
菜摘 (今の……気のせい?)
菜摘 「ねえ、今日も空島って見えてる?」
桑田 「あー、昨日よりちょっと北北西?のあたりに浮かんでる」
学園で空島の見えない生徒は、菜摘だけだ。
菜摘 「ふーん……私もいつか、見えるようになるかな」
菜摘 「……」
菜摘 「ねえ、あんたは死なないでよね。絶対にここを出て、自由になりなよ」
お前もな、と言いかけた口は、
菜摘の沈んだ表情につぐまれる。
そうやって二人はしばらく、中央広場のベンチから空を眺めていた。
そのつもりだけど、それは後々。
_________
菜摘 「……」ペラッ
<『求む アマチュアカメラマン! 写真部】
菜摘 「……」グシャグシャ、ポイッ
丸めた紙をゴミ箱へ投げて、菜摘は顔の前に手をかざした。
菜摘 「今日もまぶしいなあ……」スウッ
菜摘 「!?」
手の向こうに、青空が見える。
まばたきする間にまた肌色になった視界。
桑田 「よっ、ヒマか?」ヒョイッ
菜摘 「……あんた、部活見に行ったんじゃなかったの」
桑田 「いつ死ぬか分かんねーのに、のんびり部活なんかやってられっかよ」
菜摘 (今の……気のせい?)
菜摘 「ねえ、今日も空島って見えてる?」
桑田 「あー、昨日よりちょっと北北西?のあたりに浮かんでる」
学園で空島の見えない生徒は、菜摘だけだ。
菜摘 「ふーん……私もいつか、見えるようになるかな」
菜摘 「……」
菜摘 「ねえ、あんたは死なないでよね。絶対にここを出て、自由になりなよ」
お前もな、と言いかけた口は、
菜摘の沈んだ表情につぐまれる。
そうやって二人はしばらく、中央広場のベンチから空を眺めていた。
ザワザワ…カチャカチャ…
キョウノテストドウダッタ? コノパスタウメーナ ダレカオチャトッテキテー
桑田 (スパゲッティと、野菜のスープ。デザートのドーナツ率が高いのは誰の策略なんだ?)モグモグ
桑田 (今日も今日とてぼっち飯。今気がついたけど、この一ヶ月菜摘以外と会話してねえ)ゴクゴク
桑田 (頼むぜ、九頭龍菜摘。オメーが死んだらオレはマジのぼっちになっちまうかんな、
ぜってー死なないでくれよ)チラッ
ワイワイ…
石丸 「なるほど、そんな考え方もあるのだな!参考になったぞ苗木先生!!」
苗木 「あはは、久しぶりにその呼ばれ方したよ」
不二咲 「そういえば、だいぶ暑くなってきたけど…衣がえはやっぱり6月1日かな?」
石丸 「あと一ヶ月もあるのか……蝕で走り回ると制服が蒸れる。融通を利かせてはもらえないだろうか」
腐川 「あんたの口から"融通"なんて言葉が出る日が来るなんてね……」
石丸 「僕は常に成長を続けているのだよ!」
アアハハ…
大和田 「よ、よぉ…ここ、いいか?」ガタッ
桑田 「……なんか用かよ」
苗木が差し向けやがったのか、と思ったけどちがうらしい。
コイツとは仲良かったらしいけど、実感がねえから、オレの中では他人とそんなに変わらない。
大和田 「いや、特に用とかねえけどな……その、お前は平気なのか?」
桑田 「何がだよ」(イライラすんなこいつ、でけえ図体してモジモジ喋りやがって)
大和田 「不二咲が生きて喋ってるって言ってもよ…オレがテメエの勝手な都合であいつをブッ殺したって
罪は消えねえんだよ……お前もそうなんだろ?」
桑田 「……」プチッ
ハッキリ言えよ、『傷の舐めあいがしたいです』ってよ。
桑田 「オメーは悪くねえよ」
大和田 「……!」
桑田 「悪いのはあんな事させたモノクマだろ?不二咲もオメーを許すつもりなんだろ?だったら
それでいいじゃねえかよ。な?」
大和田 「やめろよ…」
桑田 「もう楽になれって。辛かったんだろ?」
大和田 「やめろっつってんだろうが!!!」ガタンッ
なんと総長は、親切にもなぐさめてやったオレの胸ぐらをつかんできた。
あいかわらずの短気。こいつ、不二咲の事件から何も学んでねーな。
苗木 「やめなよ、大和田クン!手離して!」ぐいっ
桑田 「あー、どれが気に食わなかったのか知んねーけど、落ち着けよ」
大和田 「離せ苗木!桑田のヤロー、やっぱ何も分かっちゃいねえ!!」
『つづいてはスポーツです!』
そこで、テレビのニュースがスポーツの話題に切りかわった。
『まずはメジャーリーグで活躍中の大谷選手。二刀流はアメリカでも……』
キョウノテストドウダッタ? コノパスタウメーナ ダレカオチャトッテキテー
桑田 (スパゲッティと、野菜のスープ。デザートのドーナツ率が高いのは誰の策略なんだ?)モグモグ
桑田 (今日も今日とてぼっち飯。今気がついたけど、この一ヶ月菜摘以外と会話してねえ)ゴクゴク
桑田 (頼むぜ、九頭龍菜摘。オメーが死んだらオレはマジのぼっちになっちまうかんな、
ぜってー死なないでくれよ)チラッ
ワイワイ…
石丸 「なるほど、そんな考え方もあるのだな!参考になったぞ苗木先生!!」
苗木 「あはは、久しぶりにその呼ばれ方したよ」
不二咲 「そういえば、だいぶ暑くなってきたけど…衣がえはやっぱり6月1日かな?」
石丸 「あと一ヶ月もあるのか……蝕で走り回ると制服が蒸れる。融通を利かせてはもらえないだろうか」
腐川 「あんたの口から"融通"なんて言葉が出る日が来るなんてね……」
石丸 「僕は常に成長を続けているのだよ!」
アアハハ…
大和田 「よ、よぉ…ここ、いいか?」ガタッ
桑田 「……なんか用かよ」
苗木が差し向けやがったのか、と思ったけどちがうらしい。
コイツとは仲良かったらしいけど、実感がねえから、オレの中では他人とそんなに変わらない。
大和田 「いや、特に用とかねえけどな……その、お前は平気なのか?」
桑田 「何がだよ」(イライラすんなこいつ、でけえ図体してモジモジ喋りやがって)
大和田 「不二咲が生きて喋ってるって言ってもよ…オレがテメエの勝手な都合であいつをブッ殺したって
罪は消えねえんだよ……お前もそうなんだろ?」
桑田 「……」プチッ
ハッキリ言えよ、『傷の舐めあいがしたいです』ってよ。
桑田 「オメーは悪くねえよ」
大和田 「……!」
桑田 「悪いのはあんな事させたモノクマだろ?不二咲もオメーを許すつもりなんだろ?だったら
それでいいじゃねえかよ。な?」
大和田 「やめろよ…」
桑田 「もう楽になれって。辛かったんだろ?」
大和田 「やめろっつってんだろうが!!!」ガタンッ
なんと総長は、親切にもなぐさめてやったオレの胸ぐらをつかんできた。
あいかわらずの短気。こいつ、不二咲の事件から何も学んでねーな。
苗木 「やめなよ、大和田クン!手離して!」ぐいっ
桑田 「あー、どれが気に食わなかったのか知んねーけど、落ち着けよ」
大和田 「離せ苗木!桑田のヤロー、やっぱ何も分かっちゃいねえ!!」
『つづいてはスポーツです!』
そこで、テレビのニュースがスポーツの話題に切りかわった。
『まずはメジャーリーグで活躍中の大谷選手。二刀流はアメリカでも……』
桑田 「あ……」
食堂のテレビに映った野球選手が、ホームランを打った瞬間。
オレは短い悲鳴を上げてその場にぶっ倒れた。
______________
「ネームプレート、よし。返り血防止のシーツ、よし。ドアの鍵、よし。
あとは桑田くんを待つだけですね」
「なーんか怪しいなあ……あの流れだったらフツー苗木じゃね?
でも二人っきりってトコはやっぱ、期待しちゃうよなあ」
「でも、あの手紙に引っかかってくれるでしょうか。
自分で言うのもなんですけど、かなり怪しいのに」
「あれだ、吊り橋効果ってやつを期待したってバチは当たんねーだろ、うん。ぶっちゃけ不安だしな、オレも」
「……大丈夫。きっと桑田くんは来てくれます。だって、桑田くんと私は」
「ま、舞園ちゃんに限って変なことはねーだろ!だってオレと舞園ちゃんは」
――ともだちだから!
【保健室】
桑田 「……」
桑田 「……あれ?」パチッ
シャアッ
罪木 「よかった…!あ、あのぉ…何があったか、覚えてますか……?」
桑田 「オレ、たしか……食堂で」
罪木 「はい…食堂で倒れた桑田さんを、大和田さんが運んできたんです」
起き上がって見ると、外はもう真っ暗だった。
オレのせいで夕飯を食いそこねたらしい罪木先輩は、おにぎりをかじってる。
桑田 「大和田が…?」
特に理由のない暴力はこの働きでチャラにしてやっか。やさしーなオレ。
罪木 「はい…すっごく心配してました。"オレがまた八つ当たっちまったんだ"……って。
あ、お部屋まで付き添いましょうかぁ?」
桑田 「いや、一人で歩けるんでへーきっす」ガラッ
罪木 「そうですかぁ…でも、具合が悪くなったらすぐに言ってくださいねぇ……
私は超高校級の保健委員ですから…お注射でも点滴でも……手術だって……」モジモジ
桑田 「は、はあ…」(この人まだ絶望なんじゃねーの?)
なんか危険な匂いがする。保健室はなるべく行かないようにしとこう。
今日は大安吉日だったはずなのに、不運の連続だ。
電子生徒手帳を見ると、菜摘から『おだいじにー』とメールが来てた。
桑田 「……ん?」
個室のドアの前に、クリアファイルが置かれてる。
堅っ苦しい字と分かりやすい図は、気絶してる間にあった午後の授業の内容らしい。
桑田 「……自覚のねえ悪口が一番タチ悪いよなあ」
でも追試は正直めんどくせーし、ここは石丸の言うとおり勉強しておいた方が後々楽そうだ。
どーせ帰宅部だし、毒見係は仕事ないし。
桑田 「そーいや、明々後日が晴れだっけ。死んだら追試受けなくていいんだよな」カリカリ
桑田 「……何考えてんだオレは、葉隠のアホが伝染ったか」ペラッ
葉隠 「へくしっ!!」
【数日後】
教師 『で、あるからして…マルクスの三頭政治。これがローマの共和制を……』
キーンコーンカーンコーン
教師 『では、本日の授業はここまで。明日のテストで70点以下の生徒は追試があるので、気をつけるように』
大和田 「」
朝日奈 「」
葉隠 「」
忘れてた。希望ヶ峰学園は偏差値も超高校級なんだった。
桑田 (えーと、明日は雨だし……暗記すればなんとか)ダラダラ
そんなことを考えてる間に、空島が太陽に重なった。
カッ!!
そして今日も、試練が始まる。
___________
桑田 「ん……」パチッ
桑田 「隔離型か。気持ちわりー場所だな」スッ
立ち上がって、周りを観察。
灰色の空と、ガレキの山と、血の池。うん、こりゃ確実にやべーもんが来るわ。
ガラガラッ
終里 「あれ?お前……誰だっけ」
山田 「桑田怜恩殿!お久しぶりですなあ!」パァァ
桑田 「山田……と、終里先輩」
終里 「あれ、お前オレのこと知ってんのか?えーと……なあ山田、こいつ誰だ?」
山田 「終里赤音殿は人の名前を覚えるのが苦手なのです。なにか食べ物をあげるといいですぞ」ヒソヒソ
桑田 「ブーデーは何やったんだよ」
山田 「リュックの中にあった油芋チップスを……半分のつもりが全部取られてしまいまして……」ずぅぅん…
桑田 「チッ、しょうがねーなあ」ゴソゴソ
終里 「おわっ!?あんぱん!?なんでポッケからあんぱん出てくんだお前!すげえな!!」キラキラ
桑田 「食ってる間に覚えてほしいんすけど、オレは桑田怜恩っていいます」
終里 「おうっ!くわたな!おほへたへ!」モグモグ
腹いっぱいになった終里先輩と山田を連れて、出口を探した。
そんなに広くない空間で、山田が見つけた道を歩く。
山田 「もうすぐ出口……!?!?」
桑田 「……んだよ、あれ」
山田 「おうふっ!?き、きょきょきょ…リアル巨女キタ――(゚∀゚)――!!」
終里 「なんだあいつ!?すっげー倒しがいがありそうだぜ!!」ゴォッ
そこにいたのは、何cm…いや、何mの巨大な女だった。髪を揺らして、オレたちを見下ろしてる。
文字の先制攻撃だべ!……と思った瞬間、そいつが『妾は夢の主』と笑った。
『人の子よ……何を望む。永遠の吉夢か、それとも泡沫の凶夢か……』
山田 「そりゃもちろん、ぬっぷぬぷのぐっちょぐちょ「それ以上言ったら殺すぞ」男のロマンという
奴じゃありませんか!」
終里 「きょーむってなんだ?食えんのか?」
『ふむ……なかなかに骨のありそうな子らよ。どれ、しばし妾の夢を見せてやろう』ズズズ…
パカッと割れた腹から、白い手が出てきて、オレたちの体にからまる。
山田 「あああ!!そんなところ触らないでぇ!!触手プレイはらめぇぇ!!」ジタバタ
終里 「くそっ、ちぎれねーぞこいつ!」グイグイ
桑田 「うわ、ああああああ!!!」ズルズル
ぱくんっ。
___________
___
ピチャン…ピチャン…
桑田 「……あ……」パチッ
桑田 「オレ……たしか、あのデカい女に……」ゴソッ
桑田 「どこだ、ここ……?」
シャワーから水滴が落ちて、静かな中で響く。
暗がりに目が慣れてくると、そこがシャワールームだと分かった。
ガチャガチャッ!
桑田 「!?なんっ…いってぇ!」ズキッ
手首が痛い。熱をもったみたいだ。赤く腫れたそこに、金箔がついてる。
オレは、模擬刀を取ろうとしたのを舞園に先回りされて、手首を叩かれて……
シャワールームのドアをこじ開けて、中にこもった?
ガチャガチャ…ギイッ
桑田 「うそ、だろ……だって、女子の方は、鍵が」ハッ
桑田 (そうだ、あいつら、部屋入れ替えて……じゃあここは、苗木の)
ザクッ
桑田 「あっ……」ボタボタ
舞園 「……桑田くんが、いけないんですよ」ズズッ
腹から抜かれた包丁は、べっとりと血がついている。
そっか、オレは舞園に殺されるんだ。
桑田 (……あんまりじゃねーかよ、これ……)ズルッ
くそ、いいダイイングメッセージが思いつかねえ。なんかねーのか、まだらのひもみてーなやつ。
桑田 (そうだ、あれだったら……苗木はたぶん分かる)ズッ…
オレは最期の力を振り絞って、壁に『つる』とだけ書いた。
『それ、夢の時間はもう終わりじゃ』
桑田 「……は?」
パアッ…
気がつくと、オレたちは元の場所にいた。山田が「うげえええ」と吐いてるのを、
終里先輩が「大丈夫か?もう終わったぜ」と背中をさすってやってる。
『そなたら、よほど妾の夢が気に入ったようじゃの。今一度見てみるか?』
終里 「冗談じゃねーぞ…オレはもうあんなん見たくねえよ…」
『よう凶夢を耐えた。名残惜しいが、もう時間じゃ。どれでも好きな扉を選べ』
終里 「んじゃ、オレは一番右の行くぜ」
山田 「えええ、三人一緒ではないと!?」
桑田 「なあ、入った瞬間喰われるとかねーの?」
『どれも出口に繋がっておるゆえ、案ずるな』
桑田 「……だってよ、オレは真ん中行っから、オメーもさっさと来いよ」ガチャッ
山田 「うう、これは精神的にキツいですぞ…」ギィッ
____________
バタンッ
桑田 「あー、ひでえ目にあった……龍の方が楽だったわ、マジで」
出た先は、この前とは違って中央広場だった。
ベンチに座って休んでるオレの隣に、終里先輩が出てくる。
終里 「弐大のおっさーん!オレの方が先だったぜ!」ブンブン
弐大 「応ッ、じゃあ約束通り、放課後にアレをしてやるか!!」
山田 「安広多恵子殿はまだ……」
不二咲 「まだだよぉ。山田君は本当に安広さんが好きなんだね」ニコニコ
山田 「ふおあっ!?い、いやいや、僕はそんな、恋愛感情とかそういったものでは」ブンブンブン
安広 「あら、あなたを好きだなんて言う奇特な女性がいたなんて驚きですわ」
オレたちはかなり早めに出たみてーだ。
知ってる顔が次々に出てくる中で、見覚えのある金髪が歩いてくるのが見えた。
菜摘 「……」
桑田 「おせーぞ、お嬢。……あ?何泣いてんだおま」ガシッ
菜摘 「う、うえっ……あ、あああ……!!」ボロボロ
桑田 「はっ?あ、あああ!?やめろ、誤解だアホ!」
なんと、こいつはいきなり抱きついてきた。
生温かい目で見てくる山田に、オレは必死に弁解する。
菜摘 「助けて……」
桑田 「は?」
菜摘 「怖いよ、わたし……もう、どうしたらっ……」
桑田 「――っ、!!」
そこで、オレはやっと気づいた。山田たちからは影になって見えてないけど。
桑田 「お、お前……それ、なんなんだよ」カタカタ
オレのシャツをつかんでる菜摘の手が、顔が、
透けていた。
_______
切ります。
菜摘視点でちょっと書くかな。
乙
ザッピングシステムはサイレンみたいに視点変更する時日にちとか時間とかあるといいかも
どこまで戻ったかわからず混乱した
ザッピングシステムはサイレンみたいに視点変更する時日にちとか時間とかあるといいかも
どこまで戻ったかわからず混乱した
二次試験で落ちましたひゃっほーい
そして保守ありがとう
山田 「ほほう…桑田怜恩殿も隅に置けませんなあ……ではここで定番の、"リア充爆発しろ"!!」ビシィッ
安広 「まずはあなたから爆ぜてくださいます?……あらっ?あなた、その手」
桑田 「っ、!」カッ
"出(いずる)"
フッ…
安広 「……見間違えでしょうか」
【西地区.寄宿舎】
シュウッ…スタンッ
桑田 「いって!」ドサッ、ゴロゴロ
桑田 「くっそ…やっぱ、座標が遠いと着地むずいな」ガチャッ
キイ…
桑田 「自分で歩けよ……暗いな、電気つけ「やめて!……お願いだから、やめて」……わーったよ」
行こうとしたオレの手を、ベッドに寝かせた菜摘が引っぱった。
菜摘 「まだ帰んないで。ちょっとだけ……私の話、聞いてよ」
菜摘 「でなきゃ、本当に…消えてなくなっちゃいそうなんだ、私……」
それの名前を表すなら。
『不安』の二文字がふさわしいと、思った。
菜摘 「なん、で……お兄ちゃん……?」
【九頭龍菜摘 (クズリュウナツミ)
Chapter:幕間】
声をかけた、つもりだった。
しかし、兄――冬彦は、まるで自分なんか眼中にないように通り過ぎていく。
菜摘 「珍しいなあ、お兄ちゃんが冗談なんて」
アハハ、と笑ってはみたものの、心の中ではものすごいショックだ。
短気だが真面目な性格の兄が、仮にも妹を。しかもこんなサバイバルの後で
無視するなんてイタズラをするだろうか?
菜摘 「……ま、まあ……お兄ちゃんだって友達と話したいだろうし?
全然ショックじゃないけど?うん」
自分を納得させるようにひとりごと。
単純に気づかなかっただけかもしれない。
そして保守ありがとう
山田 「ほほう…桑田怜恩殿も隅に置けませんなあ……ではここで定番の、"リア充爆発しろ"!!」ビシィッ
安広 「まずはあなたから爆ぜてくださいます?……あらっ?あなた、その手」
桑田 「っ、!」カッ
"出(いずる)"
フッ…
安広 「……見間違えでしょうか」
【西地区.寄宿舎】
シュウッ…スタンッ
桑田 「いって!」ドサッ、ゴロゴロ
桑田 「くっそ…やっぱ、座標が遠いと着地むずいな」ガチャッ
キイ…
桑田 「自分で歩けよ……暗いな、電気つけ「やめて!……お願いだから、やめて」……わーったよ」
行こうとしたオレの手を、ベッドに寝かせた菜摘が引っぱった。
菜摘 「まだ帰んないで。ちょっとだけ……私の話、聞いてよ」
菜摘 「でなきゃ、本当に…消えてなくなっちゃいそうなんだ、私……」
それの名前を表すなら。
『不安』の二文字がふさわしいと、思った。
菜摘 「なん、で……お兄ちゃん……?」
【九頭龍菜摘 (クズリュウナツミ)
Chapter:幕間】
声をかけた、つもりだった。
しかし、兄――冬彦は、まるで自分なんか眼中にないように通り過ぎていく。
菜摘 「珍しいなあ、お兄ちゃんが冗談なんて」
アハハ、と笑ってはみたものの、心の中ではものすごいショックだ。
短気だが真面目な性格の兄が、仮にも妹を。しかもこんなサバイバルの後で
無視するなんてイタズラをするだろうか?
菜摘 「……ま、まあ……お兄ちゃんだって友達と話したいだろうし?
全然ショックじゃないけど?うん」
自分を納得させるようにひとりごと。
単純に気づかなかっただけかもしれない。
◆◆◆◆
菜摘 「その理由に気づいたのは、ずっと後だったんだけど」
桑田 「……」
菜摘 「ほら、いつか買い物付き合ってもらった時にさ。パン屋で花村先輩と弐大先輩に会ったでしょ?」
菜摘 「二人が"知らない"って言った…あれが、本当だったんだ」
◆◆◆◆
佐藤 「……閻魔様ってのは、モウロクしてるらしいね。あんたみたいな悪党が
生き返るなんて」
菜摘 「あんたこそ、犬のくせに偉そうに机座ってんじゃないわよ。小泉の靴でも舐めてれば?」
佐藤 「なんだって!?」ガタッ
言い争う私たちを、クラスメイトは遠巻きにしている。
いつものことだ。私と佐藤がお互いの性質を嫌悪しているのは明らかだったから。
でも、その日は違った。
「……おい、誰か止めてこいよ」
「嫌だよ、怖えもん」
「つーかさァ」
――誰だっけ、あいつら。
◆◆◆◆
桑田 「……んん?あいつ"ら"ってことは、佐藤ってやつもか?」
菜摘 「うん。でも不思議なんだよ。机にはそれぞれ名札がついてるんだけど、私と佐藤の机、ちゃんとあるんだ。
寄宿舎にもちゃんと部屋があるし……でも、朝の出席で呼ばれたことは一回もなかった」
菜摘 「九頭龍菜摘の存在を証明してくれるのは、私自身と、それから……あんただけだったんだ」
菜摘 「少しずつ、記憶が鮮明になっていく。小泉真昼に嫉妬していたこと。予備学科で腐っている奴らを
笑って鬱憤晴らししてたこと。組の若いの使って、小泉のネガを全部燃やしたこと……」
菜摘 「最初は、自分ってこんなにひどい奴だったんだ……って苦悩した。
でもね……気づいたんだ。それら全てがあいまいで……そうだったみたいなようにも思えるし、
そうじゃなかったみたいな気もする」
菜摘 「自分の記憶すら……たしかに自分のものだと信じられない。
その孤独が、あんたに分かる?」
桑田 「……分かるよ」
菜摘 「そんなの、口ではどうとでも「大和田と、苗木と……あとは、不二咲か」
桑田 「男子ではそこらへんとつるんでたな。たまに舞園とか、朝日奈も一緒で……ゲーセン行ったり、
買い食いしたり、まあ普通の高校生やってた」
桑田 「オレってこんなに幸せだったんだ……って知った時にさ、すげえ後悔が来たよ。
なんで忘れてられたんだ、なんで……殺しちまったんだ、って」
菜摘 「……」
桑田 「オレはもう二度と、あんな幸せを感じる事は許されない。
なのに死にたくない、こんな怖い所から抜け出したい、そう思ってる自分に気づいて……」
桑田 「また、苦しくなる。その繰り返しだ」
菜摘 「……ははっ、私たち、ホント似た者同士だね」クスクス
◆◆◆◆
九頭龍 「いいかペコ、ちゃんと覚えろよ。こいつは菜摘。菜っ葉を摘むって書いて菜摘だ」
辺古山 「申し訳ありません……」
菜摘 「いいって。ペコもまだ調子悪いんでしょ」
九頭龍 「……」じーっ
菜摘 「な、なに?どしたの、お兄ちゃん」タジタジ
九頭龍 「……あいつになんかされてないだろうな」
菜摘 「あー、もしかして桑田のこと言ってる?ただの友達だって。何もないない」
九頭龍 「ならいいけどよ……いいか、ああいう奴は口説き文句がそれと分かんねえもんなんだ。大体…」
辺古山 「坊ちゃん。ひとまず話は後にして、まずはこの夢から出ませんか?」
九頭龍 「そ、そうだな…菜摘、足元気をつけろよ」
転ばないように手を差し出してくれる兄は、
記憶の中と同じように優しい。
なのに、それがまるで夢の中の出来事みたいに感じられるのは、どうしてだろう?
テクテク…
菜摘 「うわ、血の池だ、気持ち悪……二人とも、よく冷静でいられるね」
九頭龍 「ああ、隔離型が来るってのは分かってたからな。心の準備だけは、どうにか」
菜摘 「そっ、か。いいな、そういうの」
辺古山 「お嬢?」
菜摘 「あ、ううん。なんでもない」
菜摘 (お兄ちゃんには、仲間がいるんだ……いいなあ)
たいして広くない空間の、一本道を歩く。
そのうちに、開けた場所に出た。
菜摘 「……っ!?」ズキンッ
髪を揺らして笑う、巨大な女。
それを見た瞬間、頭に鋭い痛みが走る。
菜摘 (なに、これ……)ズキズキ
九頭龍 「……なるほど。テメエがここの主ってわけか」
夢の主 『いかにも。……されど、しばし待て』
辺古山 「……?」
女は、私を見つめて――本当に美しい、慈愛に満ちた笑みを浮かべた。
夢の主 『久しいのう……我が娘よ。うつつの寝心地はどうじゃ?』
菜摘 「……は?」
クズペコ「「わが……娘?」」
――何を、言ってるの?
夢の主 『まだ思い出せぬか。菜摘よ……そなたの甘く芳しき想い出も、その身に宿す心も。
頭の上から足の先まで、すべて』
夢の主 『妾が作り出したもの。そなたは、一つの泡のごときもの――』
九頭龍 「テメエ…何ふざけた事抜かしてやがる、菜摘が泡だと?」
夢の主 『分からぬか。なら……思い出させてやろうぞ』カッ
瞬間、女の腹がパックリと割れて、無数の白い手が伸びてくる。
声を上げる間もなく『それ』にからめとられて、私の意識は真っ暗な底へ落ちた。
◆◆◆◆
私は、暗い中を漂っていた。
その中でぼんやりと光る場所がある。そこに、糸で吊るされた人形がひょこひょこと歩いてきた。
モノクマ「ある所に、一組の夫婦がありました。お父さんは極道の組長。お母さんは元芸者。
日陰者の二人でしたが、仲良く、楽しく暮らしていました」
モノクマ「しかし、体の弱かったお母さんは、息子を産んですぐに死んでしまいました。
お父さんは、若頭をつとめる弟の裏切りにあい……」
パンパーン…ザァァァ……
モノクマ「ある雨の日に、殺されてしまいました」
お父さん人形が、ぐったりと血のりの海に沈む。
モノクマ「残されたのは、やっと歩けるようになったばかりの男の子。
その名を冬彦といいました」
パッと明るくなったそこには、赤ちゃんの人形が座っていた。
モノクマ「九頭龍組は二つに分かれます。裏切り者の若頭をいただく派閥と、直系の血筋である
冬彦くんを次期組長とする派閥です。二つの勢力は激しく争い、多くの血を流しました。
――冬彦くんの意志など無関係に」
しくしく。しくしく。折り重なって倒れる死体の中で、冬彦の人形が泣いている。
それをなぐさめる、ペコ人形。
モノクマ「冬彦くんの心の支えは、共に育ったペコちゃんだけでした。
誰もが自分を、権力の道具としか見てくれません。誰も、自分を愛してくれません。
冬彦くんはいつしか、逃れようのない運命を呪うようになりました」
九頭龍 『オレが九頭龍の直系だから……みんなオレが組長になるのが当たり前だと思ってる。
やめてくれ!!オレはそんなの嫌だ!!オレは、ペコがそばにいて、毎日が平和な……
そんな人生が欲しいだけなんだ!!』
モノクマ「その時。冬彦くんはひらめきます」
九頭龍 『そうだ、オレの代わりに組を継いでくれる奴がいればいいんだ!』
モノクマ「それが、冬彦くんの悲しい空想の始まりでした……」
九頭龍 『オレには妹がいるんだ。オレより背が高くて、オレに顔がそっくりで。
頼りがいがあって、組の若い奴らには姐さんって慕われてる』
九頭龍 『ちょっと口が悪くて、気が強くて……あ?ヤクザならそういう奴の方がいいだろ。
肝が据わってて、血を見てもビビりゃしねえ。本当にいい妹だぜ』
九頭龍 『九頭龍組を継ぐのにふさわしいのは、あいつの方だ』
モノクマ「しかし、空想の日々は終わりを告げます。次期組長としての正当性が欲しい冬彦派の人々が、
彼を"超高校級の極道"として希望ヶ峰学園に入れてしまったのです」
モノクマ「彼の逃げ道は、今度こそ完全に閉ざされてしまったかのように見えました。
――"人類史上最大最悪の絶望的事件"が起こるまでは」
また、場面が切りかわる。血まみれの人形たちの中で、冬彦人形が笑っている。
モノクマ「九頭龍冬彦は、運命に勝利しました。もう、空想の妹に呪われた運命を背負わせる
必要はないように思えました」
モノクマ「しかし……空想の妹はバーチャルの世界で復活を果たします。
偽物の記憶と"九頭龍菜摘"という名前を得て」
――え?
菜摘 「……嘘」
菜摘 「そんなの、嘘に決まってる!!!」
モノクマ「冬彦くんは、島での記憶と、外で生きてきた20年の記憶の両方を有している。
いわばキミは、空想上の妹に偽の記憶を肉づけされた人形……」
菜摘 「ちがう、ちがう、ちがう、ちがう!!!」ブンブン
モノクマ「どうして自分には空島が見えないのか、不思議に思っていただろう?
君という存在は、夢の主が九頭龍冬彦の記憶から作ったもの――つまり、文字と同質だから」
モノクマ「ヒトではない君は、常世と彼世を繋ぐ空島を認識できない」
菜摘 「黙れぇぇぇぇ!!!」ブンッ、スカッ
モノクマ「……これが現実なんだよ。そして、君の存在はすでに"揺らいで"いる」
菜摘 「なんっ…」
その時、気づいた。私の手が、また透けている。
モノクマ「身に覚えがあるようだね。……そう。九頭龍冬彦の記憶が、君の命の源。
しかし、彼は少しずつ"現実"を思い出してきている」ズズッ…
ストンッ
モノクマがいた場所に、学園長が現れた。その手には、希望のカケラがあった。
学園長 「すでに九頭龍組がないことも……両親や叔父の記憶が嘘であったことも……
君という存在が、いないことも。彼はたびたび、君の存在を認識できなかった」
その言葉に、私はハッと気づく。
私が見えているはずなのに、無視して通りすぎたお兄ちゃんのことを。
学園長 「九頭龍くんが"思い出す"につれて、君の存在は揺らぎ、やがて消え去るだろう。
君は、"夢"の文字に還るんだ」
菜摘 「そんなっ…そんなの、いやだよぉ……」ポロポロ
ザアッ…
段々明るくなっていく視界。学園長の「可哀想に」という声が、聞こえた気がした。
◆◆◆◆
菜摘 「……」パチッ
そこは、元の空間だった。お兄ちゃんとペコは、まだ出てきてない。
ゆらゆらと髪の毛を揺らして、夢の主――母親が、私を見下ろしている。
夢の主 『我が娘よ、悲しいか。それとも怒っておるか』
菜摘 「……分からないよ。だって私、人間じゃないんでしょ。私が感じているこの感情は、」ポロッ
菜摘 「……この心も、あんたに作られたものなの?」ポロポロ
夢の主 『そなたが外で何を想い、何を得、何を感じたか……それまでは、妾の手では作れぬ』
菜摘 「そっか。じゃあ、それだけで、いい」グスッ
菜摘 「私、先に出てるね。おに…冬彦さんと、顔合わせづらいから」クルッ
夢の主 『すまぬ。我がそなたを作ったのは、ほんの戯れであった。……そなたの涙を、見るためではなかった』
パァッ…
◆◆◆◆
どんな言葉をかければいいのか、分からない。
混乱しているオレに、菜摘は叫んだ。
菜摘 「そんなのっ……そんなの、嫌だよぉ……!!」ガバッ
桑田 「!!」
菜摘 「約束したもん!一緒に外に出るんだって!…っ、いっぱい、やりたいことあるの!!
私ッ……私、」ズルズル
菜摘 「消えたく、ないよ……!まだ、ここにいたいっ……」
本音を全部吐き出した菜摘が、オレにしがみついたまま大泣きする。
菜摘 「うっ……う、うわあああん……!!」
お兄ちゃんには言わないで、とか。人に会いたくない、とか言っているのを、
オレはどこか遠くで聞いていた。
◆◆◆◆
シュゥッ…スタッ
桑田 「あー、ひどい目にあったぜ。さすがヤクザ」コンコン
桑田 「よーっす、メシ持ってきてやったぞ。今日は塩パンに、サラダに、ラタトゥイユな。
デザートは苺のアイスだってよ」カチャッ
菜摘 「……ありがと」
ベッドに寝転がってる菜摘は、だいぶ透けて後ろの壁が見えていた。
透けてんのに食えるのかは謎だ。
菜摘 「……あんた、なんで私の世話してくれんの」
桑田 「いや、オメーがちゃんと飯食いに出てくるんならしねえよ?」
菜摘 「あ、そ……」
菜摘 「……」
菜摘 「私がいなくなっても、ちゃんとしなよ」
それが、九頭龍菜摘と交わした最後の会話だった。
おつでした 待ってましたが展開ががが 菜摘ちゃんと桑田くんのコンビは大好きなので最後の会話ってとこに号泣です
うう、続き待ってます
うう、続き待ってます
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