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    元スレ日向「神蝕……?」

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    1 : ヒヤコ ◆Xks - 2017/03/07(火) 21:27:02.74 ID:IvyvkjHz0 (+125,+30,-212)
    日向「……神蝕?」


    ※アホリズムとロンパ無印、スーダンのクロス的なもの

    ※主人公は日向だけど、他キャラで『〇〇編』的な書き方をしていく予定

    ※苗木くん逆補正気味。

    ________________

    日向  (その日は、俺にとって単なる365分の1日ではなく……)

    日向  (あのコロシアイ修学旅行よりもっと理不尽で、残酷で、苦痛と哀しみに満ちた……)

    日向  ("毎日"の始まりだったんだ)  


    【日向創 Chapter0 "始"(ハジマリ)】



    日向  (俺の名前は日向創(ヒナタ ハジメ)。元は希望ヶ峰学園の予備学科生だ)

    日向  (常夏の島、ジャパウォック島でのコロシアイ修学旅行――。
         11人の犠牲を出しながらもなんとか生き残った俺たち5人は、
         現実のジャパウォック島で仲間たちの目覚めを待つことに決めた)

    日向  (未来機関へ帰る苗木たちの船を見送った俺たちは、ひとまずホテルを拠点とすることにした。
         そして明日からの探索に備え、それぞれのコテージに戻った……)

    日向  (……はず、だった)


    SSWiki :http://ss.vip2ch.com/jmp/1488889622
    2 : ヒヤコ ◆Xks - 2017/03/07(火) 21:27:41.10 ID:IvyvkjHz0 (+95,+30,+0)
    【???】


    日向  「う……、ん……」パチッ

    日向  「!?」

    日向  (背中に感じたのは、コテージのベッドではなく、固いパイプ椅子の冷たさ。
         そして……目の前に広がっていたのは、つい昨日見たばかりの景色だった)

    日向  「ここは、希望ヶ峰学園の体育館か……?」

    日向  (まるで、入学式のようだった。パイプ椅子に腰かけた奴らが眠っている。
         あちこちから聞こえる寝息が、異様な雰囲気を演出していた)

    日向  (よく見ると、そいつらは皆同じ制服を着ていた。見覚えのある茶色のジャケット…
         あれは、希望ヶ峰の制服だ……)

    日向  (何人いるのかは数え切れない。だが、おかしくないか……?たしか予備学科の生徒は
         集団自殺したはずだし、本科の学生も学園にはいないはず。それに何より)

    日向  「なんで俺は、プログラムの中と同じ姿なんだ?」

    左右田 「ん……」ガタッ

    日向  (隣で寝ていたそいつは、起きるなりつんざくような叫び声をあげた)

    左右田 「あれっ、日向?なんで朝からオレの部屋に……って、えええええ!!?」キョロキョロ

    日向  「落ち着け左右田、俺にも理由は分からな」

    左右田 「こ、ここ希望ヶ峰だよな!?ハッ、まさかオレらまだプログラムの中に」

    九頭龍 「いや、それはねーだろ」

    日向  (振り返った先には、やはり同じようにパイプ椅子に座った九頭龍がいた。
         眼帯も黒いベストも、修学旅行の時と全く同じ姿をしている)
    3 : ヒヤコ ◆Xks - 2017/03/07(火) 21:28:25.28 ID:IvyvkjHz0 (+95,+30,+0)
    九頭龍 「オレらはたしかに現実のジャパウォック島にいたんだ……寝てる間に拉致られたってのがまあ、
         妥当なとこだな」

    左右田 「つー事は、これも未来機関の差し金か!?」

    九頭龍 「さあな……そもそもオレら77期生の命を助けたのは苗木の独断だったろ。
         "希望"どもが黙ってるとも思えねえ。
         どうせ一度は死んだような命だしな……こいつが未来機関の意思だってんなら、
         煮るなり焼くなり好きにしてもらおうじゃねえか」フーッ

    左右田 「そんなあああ!!オレまだソニアさんと手もつないでねーってのに!!」ガーン

    九頭龍 「ま、未来機関の仕業って考えるとおかしい事だらけだ。日向、お前はどう思う?」

    日向  「どう……って」

    九頭龍 「前の列のコック帽……どっかで見覚えねえか?隣のおさげも」クイッ

    日向  「あ、あの二人は……!」

    日向  (前列で眠っているのは、"超高校級の料理人"花村輝々に間違いなかった。
         俺たちの目の前でヘリコプターに吊るされ、火山でカツにされたはずのあいつが……)

    日向  (その隣は、狛枝が手に入れていたファイルの中で見た顔だった)

    日向  「超高校級の文学少女……腐川冬子か!」

    九頭龍 「あいつらだけじゃねーぞ。周りよく見てみろ」

    日向  (周りを見渡すと、たしかに全員いた)

    左右田 「おいおい、どーなってんだこりゃ……!ソニアさんに小泉に西園寺、澪田、辺古山……
         狛枝も……十神までいやがる!あいつら今ごろ、島でグースカ寝てるはずだろ!?」

    日向  (ソニアを真っ先に見つけたので、目の前の左右田は偽物ではないと確信できた。
         あいつは……本名はないらしいし、俺たちにとっての十神はあいつ以外いない)

    西園寺 「うわあああん!!小泉おねぇぇぇ!!」ギュウウウ

    小泉  「ちょっ、日寄子ちゃん?どしたの?」

    日向  (遠くで、西園寺が小泉にしがみついて泣いている。
         俺は高鳴る心臓をおさえて、77期生の仲間全員がいるのを確認した)
    4 : ヒヤコ ◆Xks - 2017/03/07(火) 21:29:18.06 ID:IvyvkjHz0 (+95,+30,+0)
    日向  「77期生だけじゃないぞ。ちらほら見覚えのある顔がいる」

    左右田 「あーっ!あいつ、裁判場にいた……」

    日向  「霧切響子だな。…お、向こうも目が覚めたみたいだ」

    日向  (霧切は目を覚ましてあたりを見回す。俺たちを見つけると、一瞬だけ目を見開いたが、
         すぐに元の無表情に戻って、"あとでね"と声を出さずに言った)

    苗木  「霧切さん、ここは……体育館?」

    石丸  「う……しまった!個室以外での就寝は……ッ、僕はっ、いつの間に体育館に!?」ガタッ

    苗木  「!」

    石丸  「いや、それより……僕はたしか美術準備室に呼び出されて……うっ!」ズキッ

    苗木  「石丸クン?どうして、生きて…」

    石丸  「そうだ、後ろで気配がしたんだ。振り返ろうとした所を……誰だったんだ、
         あれは…あの影は……いっ、痛い!頭が痛いぞ!割れるみたいに……」ズキズキ

    苗木  「石丸クン、それ以上はやめるんだ!」

    舞園  「わ、私死んだんじゃ……なんで体育館なんかにいるんですか!?」

    苗木  「舞園さん?」

    舞園  「あれ、お腹……刺されたはずなのに」

    日向  (傷一つない腹を制服ごしに撫でて、舞園は困惑している)

    霧切  「これは、一体……」

    日向  (霧切は事態の把握に務めているが、さすがの名探偵でも無理らしい)

    桑田  「……」

    日向  (78期生から一人離れたパイプ椅子に、ぽつんと座っているあいつ……桑田怜恩か?)

    不二咲 「うう……ん、あれ…?ボク、ずいぶん長い間眠ってたみたいだ……」ゴシゴシ

    日向  (苗木たちの反応から言っても、間違いない。
         あいつらは……"コロシアイ学園生活で死んだ78期生"だ)

    日向  (しかし、78期生が生き返るなんてことがあるのか?いくら超高校級とはいえ、
         "実は絶望側の仕掛け人でした"くらいしか、生きている理由なんて……)

    日向  (そんな俺の思考は、懐かしくも不快な声によって遮られた)
    5 : ヒヤコ ◆Xks - 2017/03/07(火) 21:35:41.19 ID:IvyvkjHz0 (+103,+30,+0)
    狛枝  「やあ、ずいぶんと久しぶりに会ったような気がするけど……日向クンたちに
         間違いないよね?」ガタッ

    左右田 「げっ、唯一会いたくねえクラスメートが……」

    狛枝  「あはは、いくらボクが77期の屑鉄だからって、そこまで冷たくしなくてもいいじゃないか。
         一緒にあの島で過ごして、共に希望を追い求めた仲間ではあるんだからさ!」

    終里  「おい……!オメーがいつオレたちの仲間になったんだ……?」ユラリ

    狛枝  「あ、終里さんも目が覚めたんだ」

    終里  「黙ってろ!それ以上喋ったら、そのニヤケ面を七海の分ヘコませてやんぞ!!」ゴォッ

    日向  「七海…そうだ、七海は……!」キョロキョロ

    日向  「……そうか、いるわけ……ないんだったな……」ストン

    日向  (生徒たちの中には、ちらほらと78期生の姿もあった。数えてみたが、人数は16人……
         あの"コロシアイ学園生活"で死んだはずの奴までいたということは、ここはやっぱり
         ジャパウォック島と同じプログラムなんだろうか?)

    キーン、コーン、カーン、コーン……

    ??? 『みなさん、おはようございます』

    ??? 『これより…第××回、希望ヶ峰学園入学式を執り行います』

    日向  (××の所は、ノイズが混ざって聞こえなかった。そして、次の瞬間――


    ありえない人物が、壇上に姿を現した。


    『体育館で目覚めた者たちも、教室、あるいは
     武道場、水練場、寄宿舎……この学園で目覚めた希望ヶ峰の全生徒諸君。

     はじめまして……いや、"お久しぶり"かな?』

    『私の名前は霧切仁。希望ヶ峰の……君達の、学園長だ』


    霧切  「……おとう、さん?」フラッ

    日向  「――!!」

    日向  (誰もが、驚き……言葉を失っていた。死んだはずの希望ヶ峰学園長が、そこにいる。
         かたわらにモノクマのヌイグルミを抱えて。きっちりとスーツを着こんで。
         生前と髪の毛一本違わない姿で。……静かな微笑みを、浮かべていた)
    6 : ヒヤコ ◆Xks - 2017/03/07(火) 21:36:46.19 ID:IvyvkjHz0 (+103,+30,+0)
    学園長 「書けたかな。そうしたら次は、その漢字を声に出して読むんだ」

    腐川  「えっと…語(かたり)?」

    霧切  「……索(さく)」
         
    田  「音(おと)ー!」

    左右田 「きっ、機(き)!」

    辺古山 「刀(かたな)」

    十神  「皇(すめらぎ)」

    日向  (えっと……これは、"かわる"か?それとも"へん"?)

    日向  「変(へん)……!」

    日向  「いてっ…!」バチィンッ

    日向  (文字を読み上げた瞬間、紙が粉々に弾けた。火傷のような痛みに、思わず声が出る。
         痛みの走った手を恐る恐る確認すると…)

    日向  「なんだこれ……さっきの文字、なんだよな?」

    日向  (そこには、甲骨文字のような書体で"変"の一文字が浮かび上がっていた。
         こすっても、つねっても消えない。まるで刺青のようだ。
         隣を見ると、左右田がうなじに手を当てて"なんだ!?"と叫んでいる。
         周りの生徒たちも、体に刻まれた文字を見て目を丸くしている)

    学園長 「よし、無事に"儀式"は完了したみたいだね……ではそろそろ、試練の時間だ。 
         ここにいるうち一人でも多くが"生き残る"ことを、願っているよ」

    ズズズズ…

    日向  「なっ、なんだ、次は何が……」

    日向  (空間に、次々と黒い円が現れた。床、天井、壁に出た円の中から出てきたのは)

    生徒A 「きゃああああっ!!」

    生徒B 「なんだ、なんだよこの化け物…!」

    日向 (四本の足に、三つの目玉。鋭い牙の覗く口からは、よだれをダラダラと垂らしている。
        恐竜のような化け物たちの牙はまっすぐに、俺たちを狙っていた)
    7 : ヒヤコ ◆Xks - 2017/03/07(火) 21:37:44.02 ID:IvyvkjHz0 (+95,+30,-133)
    学園長 「全員、起立っ!!さあ、希望を背負った生徒たちよ、闘うんだ!!」

    日向 (生徒達の悲鳴と、化け物の唸り声が轟く体育館で、俺は知った)

    日向  (今日は、俺にとって単なる365分の1日ではなく……)

    日向  (あのコロシアイ修学旅行よりもっと理不尽で、残酷で、苦痛と哀しみに満ちた……)

    日向  ("毎日"の始まりなんだと)  

    _______

    今日はここまで。
    様子見ながら書いてきます。
    8 : ヒヤコ ◆Xks - 2017/03/07(火) 21:50:02.61 ID:IvyvkjHz0 (+109,+30,+0)
    >>5>>6の間に入れ忘れていた…しょっぱなからのミスで死にそうだ

    学園長 「ほとんどの生徒は驚いていることだろうね。"なぜ自分は生きている?"と……
         答えは簡単だ。君達は"試練"のために、再び生を受けたのだ」

    左右田 「試練……?また、あのコロシアイみてーなのがあんのか……?」

    日向  (コロシアイなら、まだマシだったかもしれない。学園長はスーツの胸ポケットから、
         何枚かの紙を取り出して見せると、気がふれているとしか思えない言葉を放った)

    学園長 「これから君達2500人の生徒には、命を賭して戦ってもらう!!」

    日向  (俺たちの手の中に、ひらりと小さな紙が落ちてきた。学園長が持っているのと同じ、
         円の周りに四つの三角形が描かれている。それだけでなく、俺の右手にはいつの間にか
         小さな鉛筆が握られていた)

    学園長 「その円の中に、各々が"闘う"ための漢字を書いてくれ。一文字しか書けないから、
         慎重に選ぶんだ」

    霧切  「待って!……どういうことなの、あなたはもう死んだはずよ。それに、"命を賭して"って
         何?私たちに何をさせようと言うの?」

    日向  (立ち上がった霧切には目もくれず、学園長は腕時計を見た)

    学園長 「あまり時間がないな……」

    霧切  「お願い、説明して!あなたは本当に私の」

    学園長 「まだ文字を決めていない生徒は、早く書くんだ!!」

    日向  (学園長の気迫に圧されて、俺たちは紙に目を落とす)

    左右田 「お、おい……漢字ってなんだよ、オレらもう命の心配とかしなくていいんじゃねーのかよ!」

    九頭龍 「嫌な予感がするな……」

    日向  (そう言いつつ、九頭龍はもう書きだしていた。周りを見ると、たかが漢字一文字に
         駄々をこねるのもバカらしいと気づいたのか、みんな半信半疑で書いている)

    日向  「書くしか、ないのか……!」

    日向  (闘う……闘う……)

    日向  (俺があの島でやったのは……手に入れたのは……"封じていた記憶"と、"汚い過去"……
         でも、そこから目を背けてはいけないんだ。俺は……今度こそ、誰の手も借りない。
         カムクライズルではなく、日向創として)

    日向  (俺自身を、"変えて"みせる!)ガリッ
    9 : 以下、名無しにか - 2017/03/07(火) 22:31:36.01 ID:YtLrdVV+o (-7,+2,-4)
    期待
    10 : ヒヤコ ◆Xks - 2017/03/08(水) 17:27:00.71 ID:r4P7jXfa0 (+29,+30,+0)
    >>9ありがとう。

    日向  「どっ……どうすれば……」

    辺古山 「坊ちゃん!ここは危険です、早く!」

    目にも止まらぬスピードで走ってきた辺古山は、九頭龍の手をぐいっと引っぱって
    立たせた。九頭龍は「先に行ってんぞ!」と叫んで、体育館を後にする。

    ソニア 「あ、あ……!」ガタガタ

    田中  「……思考は本能を鈍らせるぞ、雌猫。しかしこの怪奇……再会を喜ぶ暇もなさそうだな」

    ソニア 「田中さん……!」

    田中  「これが罪深き我らに与えられた蜘蛛の糸か……いいだろう、地獄より還りしこの魂、
         後は野となれ山となれ!……雌猫、貴様が望むなら、その立会人にしてやってもいい」

    ソニア 「わ、私は……」

    ソニア 「……」グッ

    ソニア 「行きましょう!」スクッ

    左右田 「あーっ!!チックショー、また田中に抜け駆けさせてたまっかよ!!」ダダダダッ

    左右田も二人を追って出て行ってしまう。ソウルフレンドに激励の言葉はないのか?
    ……気づくと、この一分足らずで体育館からほとんどの生徒が消えていた。

    学園長 「君達、何をしているんだ?」コツッ…

    霧切  「……」ギリッ

    学園長 「すでに試練は始まっているよ。早く外に出て闘うんだ。その"文字"を使ってね」

    ズズズッ

    日向  「!床にも円が出て……」グイッ

    学園長 「ちなみにこの化け物たちは、"始"という漢字から生まれた。
         漢字から生まれた本能だろうね……君達の体に刻まれた文字の"匂い"を追う。
         学園のどこに逃げようと、闘いからは逃れられない」

    学園長はその言葉を証明するかのように、抱えていたモノクマのぬいぐるみを
    ポイッと化け物たちの群れへ放り投げる。
    ……化け物は見向きもせず、生徒たちを追い回していた。

    霧切  「何を、他人事のように……これを仕組んだのはあなたでしょう!?」

    豚神  「日向、走るぞ!」

    足がすくんでいる俺を引っ張ったのは、十神だった。
    その肥った体をものともしない走りは健在だ。
    十神はそのまま、空いた左手で泣いている赤いジャージの襟首をつかむ。

    朝日奈 「あ、あんた……十神?」

    豚神  「説明は後だ、とにかくこの体育館を出るぞ!この狭さだ、囲まれたら……」

    グチュッ…ガシュッ、ギャアアアアア!!

    俺たちの後ろで、肉が引きちぎれるような音と、悲鳴が聞こえた。

    グチュ、グチョッ…ゴリゴリ…ブシュゥゥ…

    豚神  「……ああなる」

    霧切の声ではなかったことに、少しだけホッとする。
    ちらっと振り返った向こうでは、何体もの化け物が下半身のない女子生徒にかぶりついていた。
    血しぶきが上がるたび、まだ生きている女子生徒は体をびくつかせて、悲鳴をあげる。

    日向  「うぶっ……」オエッ

    豚神  「吐くな、貴重なエネルギーを無駄にする気か!
         ……おい、愚民ども!お前たちがまだ生きることを諦めていないなら、すぐにここを出ろ!
         これは忠告ではない、"超高校級の御曹司"の命令だ!!」

    十神の声に、残っていた生徒たちも弾かれたように逃げ出した。
    俺たちの手を握る十神の手に、じっとりと冷や汗がにじむ。

    朝日奈 「いやだ……こわいよ……さくらちゃん、どこにいるの……?」グスッ
    11 : ヒヤコ ◆Xks - 2017/03/08(水) 17:30:11.99 ID:r4P7jXfa0 (+93,+30,+0)
    体育館前のホールを抜けて、廊下を走る。化け物の足元をくぐりぬけて、
    床に浮かぶ円……化け物の召還陣を跳び越えて、俺たちはただひたすらに、外を目指した。

    バタァンッ!

    日向  (しかし、廊下の扉を蹴破った俺たちが見たのは……さらなる地獄だった)

    豚神  「くそっ……もうこんなに死者が!」ワナワナ

    化け物が出てきてから、まだ4、5分しか経っていない。その短い時間で、
    校庭は血の海になっていた。薄暗い中、頭のない死体を引きずる化け物。泣き叫ぶ生徒を
    バリバリと足から食らっていく化け物。まだ温かい内臓を……舐めて……しゃぶって……

    朝日奈 「う、うぅっ……!」

    へたりこんだ朝日奈は、わずかな胃液だけを吐いた。口元をジャージの袖でぬぐって、
    「ひどい……!」とつぶやく。そんな中、十神はネクタイをゆるめて鎖骨の文字を見せた。
    やわらかい脂肪に埋まった鎖骨に、文字がある。

    豚神  「日向、お前の文字は何だ?」

    日向  「えっ、と……"変"だ。変わるって字だよ」

    豚神  「なるほど、使い勝手はよさそうだな。ちなみに俺は"偽"(いつわり)だ。
         あの学園長が言っていたな。"文字を使え"と。つまり、俺たちに与えられた能力は……
         "漢字を具現化する能力"だと考えられる」

    豚神  「死者が蘇り、消えたはずの学園が存在するこの世界…何が起こってもおかしくはあるまい。
         しかし、まさか本当の意味で"闘い"とはな……分かっていたら、もっと使い勝手のいい
         文字にしたぞ!」

    十神は手ごろな枝を拾い上げると、近づいてきた化け物の口に

    豚神  「お、おおおッ!!」ブンッ

    つっかえ棒にして差しこんだ。

    化け物 「……グルルッ……」ガジガジ

    化け物 「ガアアアアア!!」バキンッ!

    豚神  「!……やはり、この文字でなければ対抗できないのか!」

    枝を噛み砕いた化け物は、その勢いのまま十神に飛びかかって倒した。
    胸に乗りかかられて、十神は化け物のアゴをがっしりつかむ。

    豚神  「くっ……日向、そいつをっ、朝日奈を連れて逃げろ!」

    日向  「バカ野郎、お前を見捨ててなんて行けるか!」

    豚神  「この俺が"頼んで"いるんだぞっ……十神の信念を、曲げてまでっ…ぐっ、」

    化け物はさらに力をこめる。鋭い牙をつたって、十神の高級そうな服にダラァッ…と
    よだれがこぼれた。十神は気持ち悪そうに眉をひそめて、もはやこれまでかと目をつぶる

    日向  「仲間が死ぬところなんて……もう二度と見たくないんだよ……」シュルッ

    俺は、深緑色のネクタイを外して握りしめた。
    もう、うんざりだ。仲間の涙を見るのも……成すすべもなく、死んでいく仲間を見送るのも……
    自分の無力さに苛まれるのも。

    日向  「変……変……変わる……」

    だから、俺に、武器を。現実に立ち向かう、力を!

    日向  「変われ……変われぇっ!!」カッ


    "変"(へん)


    朝日奈 「……きゃっ!」

    朝日奈 「……ひな、た?」

    まばゆい光がおさまった後。俺の右手にはネクタイが変化した、一振りの刀が握られていた。
    辺古山が使っていたのと同じ、切れ味のよさそうな日本刀だ。

    日向  「らあああッ!!」ブンッ

    化け物 「!?」

    肉を斬る確かな手ごたえが、刃から手につたわる。十神の顔を噛み千切ろうとしていた
    化け物のアゴは、俺の一閃で血を吹き出して地面に転がった。
    その隙に這い出した十神は、朝日奈を背中にかばって立つ。
    12 : ヒヤコ ◆Xks - 2017/03/08(水) 17:31:04.04 ID:r4P7jXfa0 (+95,+30,+0)
    日向  「やっぱりか……"超高校級の剣道家"は、持ってたはずなんだけどな……
         まあ、カムクラが消えたんならそれでいい!」

    その時だった。化け物と対峙する俺の耳に、ふと声が届く。

    生徒A  「よっ……っと、登れないことは、ないけど……キツいな」ズルズル

    生徒B  「頑張れ、もうちょっと……」ググッ

    生徒C  「おい桑田、無理そうだしさっさと"出口"作ってくれよ」

    桑田   「……たりめーだろ……こんなとこ、一秒でもいられっかよ」ボソッ

    予備学科の生徒たちと一緒にいたのは、意外な人物だった。
    "超高校級の野球選手"桑田怜恩は、塀に手を当てて「すうっ」と深呼吸する。


    "出"(いずる)


    パアッと光が放たれて、真っ白な壁に教室の扉が生まれた。

    生徒A 「やりぃっ!俺いーちばんっ♪」ストンッ

    塀の上にいた生徒は、飛び降りるなり扉を開けて……

    生徒A 「……って、あれっ?」

    塀の中から、扉を開けて出てきた。

    生徒B 「おい桑田、お前ちゃんと出口作ったのかよ!」

    生徒C 「出らんねーじゃねえか!もっかいちゃんと……」

    桑田   「お、おい!前……」

    生徒C 「あ?」

    桑田の生み出した扉の上に、ズズッ…と召還陣が現れた。
    予備学科の生徒たちは悲鳴を上げる間もなく、ばくんっと呑みこまれる。

    桑田  「あ、あっ……!」ガタガタ

    桑田  「あ゛っ、あああああああっ!!」

    腰を抜かしていた桑田は転がるように立ち上がって、逃げ出した。
    化け物の腹の中で、丸呑みされた生徒が暴れている。人の形に出っ張った『それ』は
    出してくれ、というように腹を叩く。しかし…みるみるうちに消化されてしまった。
    残酷だ……。
    13 : ヒヤコ ◆Xks - 2017/03/08(水) 17:32:03.04 ID:r4P7jXfa0 (+95,+30,+0)
    日向  「くそ、敵が多すぎるっ……!」ブンッ、ザクッ

    日向  「ああっ!」ボキッ

    ネクタイを『変化』させた刀は耐久性もあまりなかったらしく…
    二体目をどうにか切り伏せたところで真っ二つに折れてしまった。
    もう変化させられるものは残ってないぞ……
    俺たちのパーティーは、文字の使い方が分からない十神と、闘える状態ではない朝日奈だ。
    かくなる上は。

    日向  「逃げるぞ!朝日奈、今度こそ走れるか?」

    朝日奈 「う、うん!」タッ

    豚神  「助かったぞ日向……やはり、お前はやる男だな」タタッ

    とはいえ、学園内に逃げ場はない。俺たちはだだっ広い校庭を縦横無尽に走って逃げた。
    途中、小泉が西園寺の手を引いて走っているのとすれ違ったり、
    化け物に囲まれてなぜか高笑いしている狛枝を見たが、他の仲間には出くわさない。

    日向  (まさか……死んだりはしていないよな?狛枝は"幸運"だし、ソニアや
         澪田はなんとなく大丈夫そうな気がする。こうなるとやっぱり、
         仲間もいなそうな上に、すぐに怯える罪木が一番心配だ……)タッタッタッ

    体育館の出口の所に、霧切が立っているのが見えた。
    彼女はこめかみに指を当てて、意識を集中させて行く。太もものあたりにチラッと、
    文字が浮かび上がっているのが見えた。


    "索"(さく)


    瞬間、霧切の前にパッとホログラムが現れた。

    霧切  「この現象は"神蝕"というのね……学園長は"始"と言っていたけど……これからもっと
         様々な蝕が現れるということかしら。
         弱点は見た目の通り、頭と心臓部分……四足ということを考えると、脳天を狙うのが
         最も効率がいいようだわ。動きはそこまで素早くない。三つ目ではあるけれど、
         視力も大してよくない……」

    その時、一頭の化け物が霧切に気づいた。「ウウ…」と唸る化け物は、前足を振り上げて、

    霧切  「――ふっ!」タンッ

    さっきまで霧切の立っていた場所に、大きな穴が空く。

    霧切  「知能も低いようね。避けるだけなら簡単だわ。私には武器もないし……蝕が終わるまで
         あと数分もない……最初は驚いたけれど、もう大丈夫かも」タタタッ

    日向  ("名探偵"に相応しい一文字だな……)
    14 : ヒヤコ ◆Xks - 2017/03/08(水) 17:33:05.76 ID:r4P7jXfa0 (+95,+30,+0)
    そして、霧切の言葉通り……数分で、俺たちの足元がすうっと明るくなる。
    それが、空を覆っていた雲が晴れたからだと気づくのに、そう時間はかからなかった。
    『始』の化け物たちも首をもたげて、唸り声をあげながら歩き出す。化け物が一歩進むごとに
    その体躯は透けて、やがて跡形もなく消え去った。
    残されたのは血と体液の、すえたような匂いと、血でぬかるんだ地面、そして……
    数え切れない死体の山だけだ。


    豚神  「……おい、日向。あれはなんだ?」スッ

    日向  「島?空に島が浮かんでるのか?」

    空に浮かんでいるのは、島だった。
    城のようなものが建っていて、目を凝らすと風にはためく布も見える。
    さっきまでやけに校庭が薄暗かったのは、あの島が学園をすっぽり覆うように
    影を作っていたからか。

    朝日奈 「船みたいにも見えるよ!…でも、あんなの見たことない。もしかしてこの変な現象って、
         あの島のせいだったり……」

    豚神  「そうとしか考えられんな。決めつけは禁物だが、変化といえる変化はあの島だけだ」


    【初日:始
     死亡者数:876名
     生存者数:1624名
     総生徒数:2500名→1624名】

    日向  「俺たちは……これからどうなるんだ」

    豚神  「それを考えるのは、全員の安否を確認してからだ。……ひとまず体育館に戻るぞ。
         生きているなら、あそこに戻ってくるはずだ」スッ

    日向  「あ、ああ……」

    日向  (やっぱり、こいつは冷静だな……不思議と頼りになる感じがある)

    成り行きで仲間になった朝日奈も連れて、俺たちはひとまず体育館へ帰ることにした。

    _______

    一旦切ります。Rで立て直すほうがいいのか、それとも…
    16 : ヒヤコ ◆Xks - 2017/03/10(金) 12:47:57.39 ID:lcFU0T5b0 (+18,+30,+0)
    >>15
    分かった、ありがとう。
    SS速報VIPの冒頭に『グロ禁止』とあったので迷ってた。
    __________________


    俺たちが体育館へ戻ると、生き残った生徒たちがちらほらと帰ってきていた。
    とりあえず三人で並んで腰を下ろしたが、仲間達が全員集まるのにはまだ時間がかかりそうだ。
    苗木たち未来機関組とも話をしたいので、77期、78期の双方が集まるまでこうして待つ事にした。

    罪木  「……ふんっ!」パァァ


    "癒"(いやし)


    罪木  「ふうっ…あっ、一応治ったと思うので……腕、回してくださぁい……」

    声をかけようかと思ったが、忙しそうだ。後にしよう…。
    "超高校級の保健委員"である罪木の前には、負傷した生徒がずらりと列を作っている。
    罪木は俺の視線に気づくと、「あ、日向さん…」となんともいえない表情をした。
    ……俺だって、記憶を消せるものなら、消してやりたい。

    西園寺 「ふんっ、ゲロブタの奴…いい子ちゃんぶって治療なんかしちゃってさ。
         ああやってりゃ誰にも責められないって思ってんだよ。見え見えだっつーの」

    小泉  「日寄子ちゃん、悪口は聞き苦しいよ」

    西園寺 「うぐっ…だって、だってあいつ……わたしを殺したんだよ!わたし何もしてないのに!」

    小泉  「日寄子ちゃんだって、ずっとあの子をいじめてたじゃない。口を開くたんびに
         "黙れ"とか"あんたに聞いてない"とか、酷い事ばっか言って……パーティーの時だって
         転んだのを笑い者にしてみんなの前で恥をかかせたでしょ。蜜柑ちゃんも悪いけど……
         何もしてないっていうのは違うんじゃないかな」

    西園寺 「小泉おねぇ、まさかあいつの肩持つ気なの!?」

    西園寺が罪木への仕打ちを正当化するのは間違っているが……
    罪木には(絶望病の所為とはいえ)クロだという挽回しようのない負い目がある。
    「本当は死んでなかったんだし、いいじゃないか」なんてことは言えるわけがない。
    この二人は、なるべく交流させないようにしておくしかなさそうだ……。

    朝日奈 「ねえ日向、聞いてる?」

    日向  「あっ、ああ…聞いてる……」

    朝日奈 「なんか…今日はほんと、二人ともありがとね。私、わけが分かんなくてさ……
         さっきも情けないとこ見せちゃって……ほんと、恥ずかしいや」

    頬をかいている朝日奈に、俺たちは「気にするな」と首を振った。
    ちらほらと人数が増えてきたのを見て、十神は「ちょっと77期生を集めてくる」と行ってしまう。
    苗木たち生き残り組以外との付き合いはどうすればいいんだ?

    正直……朝日奈とは初対面だ。お互いのことを知るためにも、何か話すか。
    17 : ヒヤコ ◆Xks - 2017/03/10(金) 12:49:17.05 ID:lcFU0T5b0 (+95,+30,+0)
    日向  「そういえば、お前の文字は何なんだ?」

    朝日奈 「あのね……」スルッ

    何気なく聞いた俺に、朝日奈はジャージをめくって二の腕に刻まれた文字を見せる。

    日向  「水……か。そういえばお前は"超高校級のスイマー"だったな」

    朝日奈 「正直、闘うって言われてもピンと来なくて…ドーナツが大好きだから"輪"と
         最後まで迷ったんだけど、結局これにしちゃった」テヘヘ

    『輪』だったら、チャクラムでも出たんだろうか?
    それとも巨大ドーナツがホカホカと湯気をたてて……じゅるり。

    朝日奈 「じゅるり?」

    日向  「悪い、ちょっと空腹のせいで意識が……もう油芋でもジャパ塩でもいいから食いたい……
         あ、今のは忘れろ。ビームは出ないけど忘れろ」

    日向  「でも、イメージだけなら簡単そうだな」

    朝日奈 「ほんと?じゃあちょっとここでやってみていいかな。練習。今度は役に立って
         二人に恩返ししなきゃだし……あ、そんないっぱいは出さないよ!ちょっとだけ!」

    俺が頷くと、朝日奈は「むむむ…」と眉をしかめ、両手を胸の前で合わせた。


    "水"(みず)


    朝日奈 「あ、出た!見て見て、すごいよー!」キャーッ
    日向  「よかったな、おかげで断水しても安心だ!」

    はしゃぐ朝日奈の手のひらで、水が踊っている。どうやら成功したようだ。
    これを高圧で出したら、ハイドロポンプみたいに武器として使えるかもしれない。
    ……が、その想像は朝日奈の「カハッ!」という苦しげな吐息でかき消された。

    朝日奈 「ぐっ…ゴボッ、ガボッ……!」ボタボタ

    日向  「朝日奈!?」

    朝日奈 「ごぼっ…ご、ぐっ、ボォッ…!」ビチャビチャ

    日向  「朝日奈!おいっ……しっかりしろ!!」ユサユサ

    一体、何が起こっているんだ!?
    朝日奈は苦しそうに宙を引っかきながらもがいている。口からは酸素を吸うのに
    合わせて水が吐き出され、腕の中の朝日奈は少しずつ重くなって行く。
    俺は頭が真っ白になっていた。どうすればいい、どうすれば……
    18 : ヒヤコ ◆Xks - 2017/03/10(金) 12:50:22.04 ID:lcFU0T5b0 (+93,+30,+0)
    罪木  「日向さん、私に!」

    騒ぎを聞きつけて走ってきた罪木は、朝日奈の背中を強く叩いて揺さぶると、
    胸の中の水を一気に吐かせた。ぐったりと目を閉じた朝日奈を床に寝かせて、人工呼吸を繰り返す。

    朝日奈 「ケホッ…げほっ!はっ、はぁっ…!」

    罪木  「!大丈夫ですか!?」

    ヒュー、ヒューと苦しげに息をしている朝日奈が、ぼんやりと視線をさまよわせた。
    と、そこで成り行きを見守っていた学園長が近づいてくる。

    学園長 「水、か……正直、朝日奈さんには余る文字かもしれないな」

    学園長 「四大元素、神、王、国、死……文字には体系があってね。いくつかの"特殊な"文字は、
         扱いに気をつけないと自分に跳ね返るんだ。"水"には形がない。そのまま具現化はできないよ」

    罪木  「あ、あの…学園長先生っ……朝日奈さんを念のためにお医者さんに……」

    学園長 「それはできない」

    罪木  「他にもっ、すごい怪我をしている人がたくさんいるんです!こんな所じゃ
         満足な治療なんて……」

    学園長 「ここは、神に見放されし穢れた土地……"卒業"まで、出ることはまかりならない。
         門の鍵で出ようが、塀に穴を空けようが、空を飛んで逃げようが。
         必ずこの学園の中へ戻ってくるようになっている」

    罪木  「そんな……」

    卒業……というのは、どういうことだ。
    コロシアイでは『クロになって学級裁判を生き残る』というゴールがあったが、この場合は……

    俺は目を閉じて、ロジカルダイブを行う。学園長は『試練』という言葉を使った。
    試練とはすなわち、この『神蝕』のことだ。つまり、卒業とは『神蝕を生き延びる』こと。
    『文字を与えた』ということは、『学園長は俺たちの全滅を希望していない』
    推理はつながった!

    日向  「……仲間を[ピーーー]よりは、ずっとマシだ。お互いを疑って、欺いて、残酷な処刑の
         スイッチを押すよりは……だって、守るのは命一つだけなんだからな」

    泣いている罪木と、まだ呼吸が整わない朝日奈の背中をさすって、自分に言い聞かせる。
    そこで、演台に戻った学園長がマイクのスイッチを入れる。『あー、あー』とテストをして、
    思い出したようにモノクマのぬいぐるみ(スペア)を取り出しマイクの横に置く。
    持ってないと死ぬ病気なのか?
    テディベアをパーティーに代理出席させた英国首相はいたけどな……

    学園長 『さて、生き残った1624名の生徒たちよ、まずは素直に"おつかれさま"と言わせてくれ。
         そして、命を落とした876名の希望たちには、"おやすみなさい"の一言を送ろう。
         時間がなかった所為で、"蝕"について説明できないままだったことは、すまなかった』

    学園長 『――空に、島が浮かんでいることに気づいた生徒はいるかい?
         知らないというなら、夕食の後にでも見てみるといい。
         あれは"空島(そらじま)"と云う。この穢れた地とは違う。神聖なる神のおわす処だ』

    田 「あの学園長……いつの間にカルト宗教にハマりやがったんだ」

    女子に大人気だったのによお、と大和田が吐き捨てる。
    生き残った生徒たちは、もはや学園長に怒鳴る気力すらないのか、ぐったりと話を聞いていた。

    学園長 『"空島の影が、この地に重なる刻(とき)、怪異現る。これすなわち神蝕なり"――。
         あの空島が太陽と重なって、この学園に影を落とすと……"蝕"が発生する。
         今日発生した"始"は、いうなればオリエンテーリングさ。あの化け物たちに遭うことは
         二度とない。……蝕は全て、君たちが刻んでいるのと同じ"文字"から生まれる』

    学園長 『今日は、そうだな……2011年4月1日と"しておこう"』

    日向  (しておこう……?ということは、外の時間は違うのか?この学園だけ時間の流れが
         隔絶されている?……ダメだ、まだ情報が少ない!)

    学園長 『ああ、ただ闘えと言われても、ご褒美がないと張り合いがないだろう』

    そう云うと、学園長は見覚えのある青い欠片を取りだしてみせる。
    俺たちだけでなく、78期生の手の中にも次々と舞い下りて、輝く。

    学園長 『これは、"希望のカケラ"だ。君たちが蝕を生き残るたびに"戻して"あげよう。
         この中には、君たちが忘れてしまった"記憶"が入っている。
         中にはとても思い出したくない過去があるかもしれないが……これも試練と思って、
         受け止めたまえ』

    学園長 『卒業式までの一年間、頑張って生き残ってくれ。
         ああ、安心したまえ。予備学科の生徒たちのために、西地区にも二人一部屋の
         学生寮を用意してある……何も心配はいらない。君たちはただ――』


    闘うんだ――その先にある"希望"のために。
    19 : ヒヤコ ◆Xks - 2017/03/10(金) 12:51:33.67 ID:lcFU0T5b0 (+93,+30,+0)
    その言葉を最後に、学園長は美しいお辞儀をして、舞台袖へ引っこんだ。
    残された生徒たちも困惑の表情で顔を見合わせていたが、本科と同じ空間にいるという
    居心地の悪さ、血なまぐさい記憶に耐え切れなくなったのか……
    一人、また一人と体育館を出て行く。

    朝日奈 「罪木ちゃん、さっきはほんとにありがとねー!罪木ちゃんは命の恩人だよ!」ブンブン

    罪木  「えっ?えっ?えぇ……?なんでそんなに感謝してるんですかぁ……これを盾に
         何をさせられるんですかぁ……?」オロオロ

    朝日奈 「あ、罪木ちゃんのほうは知らないんだっけ。朝日奈葵!"超高校級のスイマー"だよ!」

    握りしめた手をブンブンと上下に振られて、罪木はおろおろしている。
    一応罪木のほうが先輩にあたるはずだが……まあ、罪木に友達が増えるならそれでいい。

    朝日奈 「で、さ。ずっと考えてたんだけど…十神はなんて呼べばいいのかな。
         あっ、太ってる方の十神ね。さっきちらっと聞いたんだけど……あいつ、
         名前ないんでしょ?だけどこのまんまじゃややこしいし……権兵衛じゃ可哀想だし」

    そんなことを真剣に考えてくれるのか。

    朝日奈 「だから、十神がいる時は"七志 太郎(ななし たろう)"なんてどうかな?」

    豚神  「七志か…初めて食した時、肉厚ながらしっとりと柔らかいチャーシューには感動したものだ……
         豚骨系チェーン店では三本指に入る。いいぞ、俺は今日から七志太郎だ」

    朝日奈 「あははっ、名付け親になっちゃった!よろしくね、七志!」

    日向  「はは…順応性が高いな二人とも」

    普通『詐欺師』なんて聞いたらもっと警戒しないか?
    そんな俺の思考をよそに、苗木は78期生を集めていた。

    苗木  「あれっ、大神さんは?」キョロキョロ

    朝日奈 「さくらちゃん、まだ来ないの?……どこ行っちゃったんだろ」

    霧切  「安心して、西地区で彼女らしき座標を探知したわ。
         私たちが体育館にいることも知らないかもしれないわね。責任感の強い大神さんだもの。
         きっと予備学科生たちを落ち着かせるのに忙しいんじゃないかしら?後で行ってみましょう」

    大神……ドッキリハウスにあった銅像のモデルか。
    "索"で探した霧切は「彼女が死ぬということはないわ」と確信しているようだった。

    葉隠  「つーか、さっそく文字使いこなしてるとかすげえ……俺なんか発動したらあとは自動だから
         わけわかんねーままだべ」

    苗木  「葉隠クンは"予"だっけ?」

    葉隠  「的中率はまだ計算できてねーけど、3割は超えてるはずだべ!ただ、ビジョンが次々頭ん中に
         流れこんでくっから、全然便利じゃねーよ……この文字で大儲けしようって思ったのに」ハァ…

    十神  「ふん……安直だな」

    苗木  「あ、十神クンはなんの文字……ごめん、なんでもない。舞園さん…大丈夫?」

    まだ体を抱えて小さく震えている舞園に向き直った苗木は、落ち着かせるように視線を合わせて聞く。
    舞園はこっくりとうなずいて、「怖いです」とだけ答えた。

    苗木  「無理もないよ…あんな"怖いこと"があって、今度は化け物が出てくるなんて……
         でも、大丈夫だよ。今度こそ僕が舞園さんを守るから。絶対だよ」

    舞園  「……桑田君、行っちゃいましたね」

    苗木  「……」

    舞園  「やっぱり…怒ってるんでしょうか」

    苗木  「今は、生き残る事だけを考えよう。少なくとも僕は、また舞園さんに会えてすっごく嬉しいよ」

    不二咲 「あ…待って!ねえ、大和田君!僕、大和田君に話が……ああ、行っちゃった」

    石丸  「そういえば、僕達を[ピーーー]計画をたてたクロはセレスくんだと聞いたが……彼女は大丈夫だろうか。
         蝕の最中も見なかった……まさか死んだりはしていないと思いたいが……」

    石丸  「山田くんもいないな……僕も複雑な心境だが、少なくとも彼らを恨んではいない。
         ただ、"超高校級の風紀委員"を名乗りながら、彼らの不安を取り除いてやれなかったことが
         悔やまれるだけだ。あの極限状況だ。誰もクロとなった者を責められないだろう……全ては
         "運が悪かった"とでも言うしかない。しかしそれを伝えるには、彼らの心の鎧が硬すぎる」

    不二咲 「僕ねえ…大和田君にごめんなさいって言いたいんだぁ……知ってるような口きいて、
         傷つけて、死なせることになって、ごめんねって……あんな事になっちゃったけど…
         バカって言われるかもしれないけど…それでも僕、大和田君とまたお友達になりたいんだ」

    苗木  「石丸クン、不二咲クン……今は落ちこんでいる時じゃないんだ……こんな時
         だからこそ、皆で力を合わせないと。その前に、紹介したい人たちがいるんだ」
    20 : ヒヤコ ◆Xks - 2017/03/10(金) 12:52:45.33 ID:lcFU0T5b0 (+95,+30,+0)
    日向  「……悪い、まずは77期生で情報を共有したいんだ。後にしてくれないか?」

    苗木  「えっ?あ、うん」

    俺が強めの語気で言うと、苗木は不思議そうな顔をしながら引き下がった。
    78期生から少し離れた所に、全員で腰を下ろす。ひい、ふう、みい…よし、全員いるな。
    無事だったことに、改めてホッとした。

    小泉  「あのさ、さっき十神が教えてくれたんだけど」

    豚神  「十神こと七志太郎だ。78期生のいるところでは七志と呼べ」

    小泉  「……七志が、"あのジャパウォック島はバーチャルの世界だった"って……千秋ちゃんは
         そのプログラムが作ったAIだったって教えてくれたけど、
         それって、ホントなの?」

    どうやら77期生を集めている間に、七志の方で簡単に流れを説明してくれていたらしい。
    小泉は「あの千秋ちゃんが人間じゃないなんて……」と悲しむような表情をしている。

    九頭龍 「おう。ちなみに現実に出られたのはオレと日向と、終里と……あと、左右田にソニア。
         そんだけだ。後は全員クロになっておしおきか、殺されたか……今ごろお前らは、
         脳死状態でカプセルん中に寝てるはずなんだがな」

    花村  「とても信じられないよ……」

    狛枝  「でも、大事なのはもう一つの秘密の方だよ。
         ……僕たちが"絶望の残党"だったという事」

    声をひそめた狛枝に、西園寺は「えええーー!!?」と叫んでその気遣いをぶち壊す。
    78期生が一斉に振り返った。あわててその口をおさえたソニアが「なんでもありませーん……」と
    引きつった笑顔で首を横に振る。

    日向  「まず、"絶望"という言葉の意味は……」

    俺がかいつまんで説明して行くと、仲間たちの表情がどんどん沈んだものに変わって行く。
    話を終える頃には、固まって座らされた理由を知った仲間達の蒼白な顔があるだけだった。

    小泉  「何よ、それ……あたし達こそが、"世界の破壊者"だったってこと……?」

    弐大  「にわかには信じられん……あの島はいわば、現実から離れた流刑地だったというわけか!!」

    辺古山 「では、モノクマが我々にコロシアイを強要した理由は……体のいい処刑ということか?」

    日向  「空になった肉体を乗っ取るっていうのが真の目的だけどな。未来機関から見れば処刑の手間が
         省けて、かえって都合がよかったかもしれない」

    自分で言っていて気分が悪くなる……。
    21 : ヒヤコ ◆Xks - 2017/03/10(金) 12:53:24.19 ID:lcFU0T5b0 (+95,+30,+0)
    西園寺 「でもさー。わたし達、なんにも覚えてないんだよ?それで責められたって……」

    狛枝  「どうかな。罪木さんは全部思い出していたはずだよ。だからこそ澪田さんを……そして、
         西園寺さんを躊躇なく手にかけられたんだからね」

    罪木  「ううっ……」

    日向  「おい狛枝、少しは言葉を選べよ。お前だって希望の方にベクトル行ってるだけで
         似たようなもんだろ……五十歩百歩だ」

    左右田 「それを言うなら、どんぐりの背比べじゃねーのか?全員が高校中退でS級犯罪者とか、
         裁判ナシで死刑だろ。このカルマ来世まで持ち越しだな」

    しかし、不思議な連帯感が生まれているのも事実だ……。

    ソニア 「田中さんもファイナルデッドルームをクリアしたんですよね?だったら、狛枝さんが見たのと
         同じファイルを見ていたんですか?」

    田中  「いや……俺が込めた弾丸は、ロシアンルーレットの作法に則り一発だけだった。
         手に入れたのはオクタゴンへのパスだけだ。ファイルとやらの存在も、狛枝からの又聞きでな」

    豚神  「そういえば、学園長が言ってたな。この"希望のカケラ"に、
         俺たちの忘れている記憶が入っていると。それが、その"人類史上最大最悪の絶望的事件"を
         封じ込めているのか?」

    そう言って俺は、いつの間にかポケットに入っていた青い欠片を取りだして見せた。
    他の面々も同じように貰っていたらしく、手のひらに希望のカケラを出す。

    九頭龍 「…で、こいつをどうするんだ?」

    日向  「それは……」


    パアッ…


    真っ白い光が、視界を包み込む。
    それが晴れると……少しずつ、視界がクリアになって……俺の目の前に、テレビがあった。
    薄暗い部屋で、古いブラウン管テレビの光だけがある。

    『続いてのニュースです。"超高校級の絶望"と名乗るグループによる一連のテロ行為と、
     希望ヶ峰学園との関与が明らかになりました。犯行グループの人数は15人。全員が希望ヶ峰学園の
     77期生であるとの情報が……』

    俺は……いや、『カムクライズル』が、ニュースを見ている。
    退屈そうに髪をいじりながら、カムクラはリモコンに手を伸ばしてチャンネルを切り替えた。

    『ヨーロッパにあるノヴォセリック王国が陥落しました。王宮には暴徒と化した国民が押しよせ……
     ソニア.ネヴァーマインド第一王女はいまだ行方が……』

    『各地で猛獣が放たれ、自衛隊が出動しました……指揮しているのは"超高校級の飼育委……』

    『日本政府は、非常事態を宣言……もはや国家としては機能しておらず、陥落も近……』

    『これが最後の放送です、皆さん、さようなら……世界よ、さようなら……』

    テレビ画面がぷつんっと消える。
    同時に、俺の視界も晴れた。
    22 : ヒヤコ ◆Xks - 2017/03/10(金) 12:53:55.58 ID:lcFU0T5b0 (+95,+30,+0)
    石丸  「なっ……なんだ、今のは……"才能研究科"?僕はそんな教室は知らないぞ……しかし、
         興味深い授業だったな、脳波を調べて才能の出所を探るとは……」

    苗木  「僕は文化祭のステージを見ていたよ……舞園さんと澪田さんが一緒に歌っていて……
         山田クンがドラムを叩いてた。他のメンバーはよく見えなかったけど、すごく楽しい記憶だったよ」

    霧切  「私は、体育祭の準備で紙の花を作っているところだったわ」

    78期生たちが口々に語り合うのを聞きながら、
    俺はじっとりと冷や汗が背中に垂れるのを感じた。楽しげな思い出を語り合う78期生とは正反対に、
    こちらは。

    田  「い、今……唯吹が流してたのって……サブリミナル、って奴っすか?ひ、人が……
         一斉に燃えて……あばばばばばばばば」ブクブク

    花村  「誰かぁぁぁ!早く火を消してよ、お母ちゃんが天ぷらになっちゃうよおおお!!」

    終里  「騒ぐんじゃねーよ花村……空きっ腹のドタマに響くだろーが……」

    西園寺 「……ねえ、何なのその扇……なんで針がついてんの……?捨ててよ、それ捨ててぇぇ!!」

    石丸  「だ、大丈夫か君たち!?」

    不二咲 「保健室に連れてってあげた方が……」

    78期生の中から優しいおせっかいが立ち上がるのを、
    「そっとしておいてあげて」と苗木が必死に止めてくれた。

    九頭龍 「クソッ…!まだ右目が疼いてやがる……!」

    狛枝  「今すぐにでも切り落としたい気分だよ…絶望を受肉するなんて、
         過去の僕は一体何を考えていたんだ?」プルプル

    罪木  「うう……」ペラッ

    罪木  「!手術跡が……ない?」スベスベ

    そういえば、江ノ島の体を移植したのは誰だった?……口ぶりから言うと、
    狛枝が左手、罪木が子宮、九頭龍は右目だったな。
    三人はそれぞれの部位をおさえて、うずくまっている。
    脂汗を垂らし、ぐっしょりと濡れた服からは、苦痛の度合いが分かるというものだ。
    23 : ヒヤコ ◆Xks - 2017/03/10(金) 12:54:26.43 ID:lcFU0T5b0 (+95,+30,+0)
    日向  「何が見えたのか、嫌じゃなかったら教えてくれないか?」

    九頭龍 「フラスコとビーカーのある部屋だ。台の上にすっぱだかの江ノ島が置いてあって……
         んで、三人でジャンケンして……狛枝が左手を」ウプッ

    日向  「無理するな、聞いた俺が悪かった」

    九頭龍 「いや、ここまで来たら最後まで言うぞ。左手を、ノコギリで……んで、次勝ったオレが
         ビニールの手袋で右目を……人体が味わう最も強い苦痛を感じて絶望したいとかいう
         理解不能な理由で、麻酔なしで指突っこんでえぐってた……手術の方はお前だよな、罪木?」

    罪木  「は、はひぃぃ…狛枝さんの手をつけたのも、私みたいですぅ……
         ごめんなさい、ごめんなさい!今すぐ外しますからぁ!!」

    九頭龍 「おい錯乱すんな!眼帯から手ェ離せ!!」ギャー

    辺古山 「可哀想な坊ちゃん……」

    聞いているだけで俺も痛くなってきた……。

    豚神  「俺たちが思い出したのは、"絶望"の記憶……それに対して、78期生に与えられるのは
         幸福な学園生活の記憶……まさに"希望のカケラ"だな」

    日向  「でも、それは本当に希望といえるのか?だってあいつらは、"仲良しのクラスメート"で
         殺しあった"絶望"を同時に感じているんだぞ。むしろ楽しい記憶なんて、思い出さない
         ままの方が幸せだったんじゃないのか」

    豚神  「確かにな……」

    日向  「ところでお前、いつまでその見た目のままなんだ?」

    豚神  「しばらくはこれで行くつもりだ。そこそこ慣れているしな」

    しばらく話している内に、みんなが落ち着いてきた。
    そこで、俺はずっと考えていた『方針』を伝えることにする。

    日向  「みんな、断片だけど"絶望"については思い出せたよな。だったら……俺がこれから
         言う事もうなずけるはずだ」

    日向  「78期生とはなるべく交流を持つな。予備学科生ともだ。俺たち77期はなるべくお互いで
         固まって過ごそう。蝕の時も、それ以外も」

    その提案に、全員が少なからず動揺する。

    罪木  「えっ……朝日奈さんとも、だめなん…ですか?」

    日向  「いや、苗木たち6人とは話してもいい」

    ソニア 「どうしてですか!?この非常事態を生き延びるには、78期の皆さんとも力を合わせないと……」

    日向  「あいつらを学園に閉じ込めて殺し合わせたのは、俺たちだぞ?」

    元を辿れば江ノ島盾子だが、
    誰が好き好んで『世界の破壊者』なんかとお近づきになりたいだろうか。

    日向  「いいな、お互いが傷つけあわないためだ。78期の奴らには近づくな」

    全員の顔を見回して、繰り返す。
    ごく、と誰かが唾液を飲み込む音がした。やがて「分かった」「言うとおりにするよ」と答えが返る。
    本当は、責められるのが怖いだけかもしれない……。ただ、これが一番いい選択だと、
    俺も、仲間たちも心のどこかで信じていた。
    24 : 以下、名無しにか - 2017/03/10(金) 13:43:57.31 ID:lcFU0T5b0 (+87,+27,-4)
    × オクタゴン
    ○ 武器庫 

    一旦切ります
    25 : 以下、名無しにか - 2017/03/10(金) 19:41:21.47 ID:ufg7JIS9O (+38,+30,-23)

    ジャバウォック島ではなくジャパウォック島なのは何か意味が…?
    26 : ヒヤコ ◆Xks - 2017/03/10(金) 21:27:15.71 ID:tQCVqxeW0 (+24,+29,-37)
    今日はここまで。次回は繋ぎ回になりそう。 
    蝕って考えるのむずいね。
    27 : ヒヤコ ◆0tW - 2017/03/10(金) 21:46:40.61 ID:tQCVqxeW0 (+95,+29,-20)
    >>25

    単純なミスだよ!意味もなにもないよ!
    初投稿でミスを連続していて死にそうだよ!
    28 : ヒヤコ ◆Xks - 2017/03/12(日) 19:13:34.65 ID:uk5v1yXc0 (+16,+30,+0)
    それから一時間ほど経ったころ、体育館の扉のロックが解除された。
    ……廊下に出ると、死体は全て片づけられたらしく、血の匂いがわずかに残っている。

    日向  (死体の匂いってのは、何回嗅いでも慣れないな……)


    【食堂】



    体育館を出た俺たちは、夕食のために一階にある食堂へ向かった。
    探索の時は行かなかったからな……廊下の壁紙も普通のものだし、窓の鉄板もなくなっている。
    ただ、モニターと監視カメラはちゃんとあった。何のためなんだ?また中継しているのか、
    それとも学園長がモニタリングしているのか……答えはまだ出そうにないな。

    食堂の柱には巨大なテレビがある。画面は真っ暗だ。
    そもそも、テレビ局があるかどうかすら微妙な所だろう……。


    終里  「おっわ!!すっげー豪華なバイキングじゃねーか!!これ全部食っていいのか!?」

    弐大  「こら、ちゃんとトレイに乗せんか!」ガシッ

    用意されていたのは、サラダからデザートまで何十種類もの料理たち。食い尽くさんばかりの
    勢いで飛んで行く終里を弐大が捕まえて、「ワシが入れたる!」とバランスよく乗せていた。
    外は崩壊しているはずなのに、学園はどこから食料を調達しているんだ?

    終里  「……」じーっ

    弐大  「何じゃ、ワシの顔になんかついとるのか?」

    終里  「いや…マジで弐大猫丸なんだなって思って……」ペタペタ

    終里  (何でかな、おっさんが生身で動いてるってだけでうれしくて、他なんも考えらんねーよ……)グスッ

    弐大  「どうした終里ぃ!飯が豪華すぎて嬉し泣きか!?」ガッハッハ

    終里  「そう……だよ。そういうことにしとくよ……」ウルウル

    日向  「なんか……あれみたいだな」

    豪華な食事を見た俺の口から、その不吉な例えが言葉となって出る前に、事件は起こった。

    ガッシャーン!!

    粉々に砕けた食器の下には、ぐちゃぐちゃのチーズドリアがある。
    突き飛ばされて転んだ罪木の尻餅になって割れたものだ。「ふええ…」と涙をにじませる罪木を
    見下ろした西園寺は、いつもの調子で「ふんっ」と馬鹿にしたように鼻を鳴らした。


    日向  「お前、また罪木をいじめて遊んでるのか。その態度は
         いざという時にお前の首を絞めるぞ。……身をもって学習しただろ」

    西園寺 「うっ…だ、だって、こいつがふざけた事抜かしてんだもん!"最後の晩餐みたい"だって!」

    罪木  「だって……だってぇ、こんなにたくさんのご馳走……ぜったい、おかしいですってばぁ……
         私たち、もうずっとここから出られな」

    西園寺 「あーーっ、そうかよ!じゃあ一人で死んでろゲロブタ!ちょうどいいじゃん、
         わたしを殺した天罰が下ってくれるかもよー?
         そのブサイクな面見なくて済むんなら、明日にでも蝕が来ればいい!!」

    日向  「西園寺!聞きたくもない暴言を聞かされる奴らの身にもなってみろ!」

    蝕が来ればいい、と西園寺が叫んだ瞬間、周りの生徒たちが冷ややかな視線を向けてくる。
    中には歯を食いしばって、恨みがましい目で睨んでいる女子もいた。
    とりあえず、ぐすん、ぐすんと泣いている罪木に手を貸して立たせる。
    エプロンに皿の破片がついて汚れているので、ナプキンを渡す。
    「大丈夫か?」と聞くと泣きながら頷く。

    日向  (罪木に悪気はないんだろうが、西園寺もどこで爆発するか分からないのが厄介だな)

    日向  「俺が新しいのを取ってきてやるから、お前は朝日奈のテーブルに行ってろ。な?
         それと西園寺……気が立ってるのは皆同じだ。もう子供じゃないんだから、
         言葉は一旦呑みこんでから口に出せ」


    ふんっとそっぽを向いている西園寺にも、釘を刺しておく。
    とりあえず、罪木の好きそうなおかずを取っていってやる事にした。山盛りのトレイを持って
    食堂をきょろきょろ見回すと、すぐに目的の人物と目が合う。
    29 : ヒヤコ ◆Xks - 2017/03/12(日) 19:14:23.34 ID:uk5v1yXc0 (+95,+30,+0)
    朝日奈 「おーっす、日向!先にいただいちゃってるよー」パクパク


    罪木も泣き止んで落ち着いたのか、ジュースをちびちび飲んでいた。
    ……と、そこで朝日奈の隣からものすごい覇気を感じる。このすさまじい筋肉……まさか……


    大神  「大神さくらだ……話は聞いている。朝日奈が世話になったようだな、礼を言おう」ギュッ

    日向  「日向創だ、よろしく。…なんで俺の手をニギニギしてんだ?」

    大神  「いや、立派な体格に似合わず細い指だと思ってな。あまり鍛えておらぬ者の手だ。
         実に惜しい……お主、格闘技の道に進む気はないのか?」

    日向  「ラグビーは微妙に興味があるんだが、格闘技はちょっとな」

    日向  (こいつが"超高校級の格闘家"か…ドッキリハウスの像は等身大だったんだな)


    食事の間、大神から西地区の話を聞いた。
    予備学科の校舎で目覚めた大神は、戸惑う予備学科の生徒たちを率いて『始』を撃破して回っていたらしい。
    あれと生身でやり合ったのか?

    大神  「予備学科はまさに地獄だ……戦闘に使える文字を持つ生徒がほとんどおらぬ。
         隣で目覚めた女子は"優"であったし、椅子を投げて"始"に対抗した勇敢な男子もいたが、
         そやつの文字は"勉"であった。昼間死んだのは、全員が予備学科だ……。
         我はこれからも、西地区で蝕からあの者たちを守りたいと思っている……それが贖罪となるかは
         分からぬが」

    日向  (贖罪……確かこいつは、江ノ島の内通者だったんだっけか。体育館に顔を出さなかったのは
         それも理由のうちなんだろうな)

    日向  「でも、一人で大丈夫なのか。だって、闘えるのはお前くらいしかいないんじゃないのか」

    大神  「我を案じてくれるのか?よいのだ。それに、予備学科の生徒たちも我を必要としてくれる。
         それだけで十分だ」

    罪木  「……強いんですね、大神さんは……それに比べて、私は……」

    大神  「罪木よ、あまり己を卑下するな。傷つけることは容易いが、癒すのは難しい」

    罪木  「でも…私、ひどいことを言われても言い返せないし……いつも、足がすくんじゃって……」

    大神  「"強い"や"弱い"で人を括ることに何の意味がある?
         現在(いま)を満足できる物にする方がよほど、有意義ではないのか。
         我には、人を癒せるお前の方がよほど強いように思えるぞ」

    しかし、言われた罪木は浮かない表情だ。

    罪木  「わ、わたし……私……さっき、西園寺さんに突き飛ばされた時、ほんとに一瞬ですけど……
         あの人のこと、すっごく"憎い"って思ったんです。私、全然強くなんか…ないんです…」

    日向  「!」

    罪木  「私がこんなに我慢して"あげてる"のに、それにも気づかないで……色々な理由をつけて、
         人を傷つけて……なのに、皆の輪の中に入れてもらっていて……ずるいって、思ったんです。
         悪いことをしたなって思う前に、"なんでまた会っちゃったんだろう"って……
         日向さんが止めてくれなかったら、私……また」

    日向  「罪木、それは当たり前の感情だ。お前が理不尽だと思うのも、悪いことじゃない。
         いつかその気持ちを素直に西園寺へぶつけてみればいい。それをどう受け止めるかは
         あいつ次第だけどな。その時にあいつと分かり合う努力を続けるか、それとも西園寺を
         自分の世界から追い出すかを選ぶのは、お前の自由なんだから」

    罪木  「私、また西園寺さんに取り返しのつかないことをするかもしれないんですよ!」

    日向  「そうなったら俺が、この厚い胸板で止めてやる。弐大のお褒めにあずかったこの胸板でな!」ドヤァッ

    そう答えると、罪木は「ぷっ」と吹き出した。いつもの愛想笑いとは違って、本当に
    こみ上げてきた、という感じの笑顔だった。俺は、学級裁判で全てさらけ出したのが、
    いい方向に吹っ切れてくれている事を願った。

    大神  「日向……お主、本当に予備学科とやらなのか?」

    日向  「ああ。俺は正真正銘の凡人だぞ」

    大神  「それにしては、随分と77期の者たちから重んじられておるのだな……」

    日向  「便利に使われてるだけだ。俺が持ってる才能なんて、せいぜいパンツを脱がせる程度のもんだ」

    大神  「パン……なんと?」

    おっと、うっかりしていた。
    俺は失言を誤魔化すように、ガツガツとチーズドリアをかっこむ。
    30 : ヒヤコ ◆Xks - 2017/03/12(日) 19:15:29.50 ID:uk5v1yXc0 (+95,+30,+0)
    朝日奈 「あーあ、明日もあさっても、ずーっと蝕が来なきゃいいのになあ」

    大神  「空島の影、学園に重なる刻――つまり、午前11時ごろから正午までの60分か。
         その時間帯は要注意だな。一時限目の授業は午前10時から始まる。ちょうど終わる頃だな」

    朝日奈 「さくらちゃんは、明日も予備学科に行くんだよね?」

    大神  「無論だ。……どうした、浮かぬ顔をして」

    朝日奈 「……ううん、やっぱりいいや。さくらちゃんには沢山話したいことがあったんだけど……
         さくらちゃんが決めたんだったら、私は何も言えないや。
         また、生きているさくらちゃんに会えただけで……それだけでいいよ」


    かなり無理をしているのは見れば分かった。目じりに涙をためて言う台詞じゃないだろ。
    しかし、俺が何か言う前に、朝日奈は「もう、私の見てない所で死なないで」と大神に抱きつく。


    大神  「すまぬ……我は知らぬうちに、お主を傷つけておったのだな……」ポンポン

    朝日奈 「約束だよ。今度こそ一緒に卒業しよう、さくらちゃん」ギュー

    日向  (ますます俺たちの正体は言えないな……)



    【寄宿舎】


    日向  (えーと、マップによると……)

    食堂を出て、向かいがランドリーと大浴場か。浴場の奥にはサウナ、廊下の突き当りには
    男女のトイレ。反対側には二階へ上がる階段と、倉庫がある。
    二階にはロッカールームと学園長のプライベート・ルームがあるらしい。

    日向  「ええと、俺の部屋は……ここか」

    『ヒナタ』と書かれたネームプレートを確認してから、ドアを開ける。
    コテージに負けず劣らず広い室内には、大きなベッドが一つと壁に備え付けの机、棚があった。
    窓からは外の景色も見えて、なかなか快適そうだ。

    日向  「うわっ、寝心地最高!」ボスッ

    日向  「本科の寄宿舎ってこんないい部屋だったのか……憧れてたけど、俺なんかが入っていいのかな」ゴロン

    モノクマ『知らざあ言って聞かせやしょう!』ニュウッ

    日向  「うわっ!!なんでお前がここに!?」

    モノクマ『あっ、安心して!今回はボク、君たちを殺し合わせたりするためにいるんじゃないから!
         言うなればあれだよ、Windowsの端っこに出てくるイルカ!あれみたいなもんだよ!』

    日向  「お前みたいなヘルプはいらないぞ!」

    モノクマ『つれないなあ、日向君は…あの常夏の島でくんずほぐれつ、アッツアツの夜を過ごした
         仲じゃないか!』

    日向  「モノケモノとの戦いをわざわざ誤解を招く表現に直すなよ!ていうか、お前を操ってんのって
         誰なんだ、まさか学園長か!?」

    モノクマ『中の人などいなーーい!!ボクはモノクマ、ゆりかごから墓場まで正真正銘のクマだよ!!!』

    ひとしきり叫ぶと落ち着いたのか、モノクマは『まあいいから、ユーの電子手帳をごらんよ』と言った。

    日向  「……"超高校級の???"だって?」

    モノクマ『だって、日向君も一応は"超高校級の希望"でしょ?でもさ、袋とじって見えないからこそ
         興奮するものでしょ?だから隠したの。ミステリアスな男子って素敵だよね……現実じゃ
         たいてい詐欺師かDV男だけどさ。
         あ、もしかして"パンツハンター"の方がよかった?』

    ムカつく事を抜かしながらも、
    モノクマは『キミだって、立派な77期の仲間じゃないのさ』と手(前足?)を広げる。


    モノクマ『……国籍、民族、石油、資源、国境……文明から生まれた人間どもの下らない争いに、
         "絶望"で終止符を打った、英雄の一人じゃないか』

    日向  「――ッ!?」
    31 : ヒヤコ ◆Xks - 2017/03/12(日) 19:16:08.01 ID:uk5v1yXc0 (+88,+30,+0)
    モノクマ『絶望が息づき始めた頃はね……人間たちは手を取り合ってそれに対抗しようとしたんだ。
         イスラム教徒もキリスト教徒も、黒人も白人も、今まで争ってた奴らみんなで。
         でも、それが段々絶望に侵食されて……最後はもう、しっちゃかめっちゃかさ』

    モノクマ『だけど、いわゆる"戦争"も"犯罪"も、統計の上ではゼロになった。これって、形を変えた世界平和かもね!
         弱者だった側から見れば、君たち"絶望"こそが"希望"だったんだからさ!
         空き地に行っていじめっ子のリサイタルを聞かなくていい!
         オッサン上司にイビられながら誰にでもできるような仕事をしなくていい!
         クルアーンとかいう本のせいで殺されなくていい!……君たちは世界の"歪"を正したんだからさ』

    モノクマ『だから君たちは全然気に病む必要なんてないんだ!ドンウォーリー、ビーハッピー!
         蝕を生き残って、サクラの季節を迎えよう!ほんじゃ、ばいばいっ!』

    言いたいことだけ言って、モノクマはぴょーんっと何処かへ消えた。
    残された俺は電子手帳を握りしめて、考える。

    日向  「……なんで、モノクマなんかの言葉を素直に聞いてんだ、俺は」

    ____________

    翌日。

    日向  「……」シャコシャコ

    シャワールームで歯磨きをしている俺に、ドアを『コンコン』と叩く音が聞こえた。
    あわてて出ると、ソウルフレンド左右田が「よお…」と気まずい表情をしている。

    左右田 「あの、さ…一緒に食堂行かねーか?なんつーか……一人でいるのが心細いっつーか……」

    日向  「分かった、ちょっと待ってろ」

    パジャマから着替える間も、左右田はそわそわしている。その目が赤い事に気づいて、
    俺は自分の神経の図太さに感謝した。夢も見ないで深い眠りについた俺と違って、小心者の
    こいつは一晩中『始』の悪夢にうなされていたらしい。

    食堂に行くと、すでに何人か起きてきて、朝食をかきこんでいた。

    田  「和一ちゃん、創ちゃん、おはうぃーっす!!」

    日向  「おはよう。…お前、朝から元気だな」

    暗に「怖くないのか?」と聞いたのだが。澪田は「ギターかき鳴らすだけでいいんで、
    唯吹的には問題ナッシング!」と二の腕の『音』を見せる。

    田  「今はとにかく生き残ることを考えるっすよ。反省も後悔も、生きてないとできないっすからね」

    日向  「誠実だな。左右田、ついでに俺の分の麦茶も頼んだ」ガタッ

    豚神  「なるほど、"偽"にはこんなに意味があるのか……ただ"欺く"だけかと思ったが、
         "化ける"や"習慣を変える"というような意味もあるらしい。奥が深いな」ペラッ

    そんな澪田の隣で食べながら漢字辞典を引いていた十神は、メモ翌用紙に手早く字義をメモすると、
    待っていた他の生徒に「助かったぞ」と渡した。

    左右田 「国語辞典とか、漢和辞典が図書室にあったんだけどよ…数が足んねーからああやって、
         順番に回し読みしてんだ。パッと見意味わかんねー文字でも、意外な意味があったり
         すっからな……ほい日向、麦茶」コトン

    まるで爆弾ゲームのごとく、生徒たちの間を回される辞典。

    日向  (俺も念のために後で調べといた方がいいんだろうか?)

    左右田 「なあ…今日って、"アレ"来んのかな……」ソワソワ

    豚神  「いや、おそらく今日はないだろう」

    左右田 「んな希望論は聞いてねーんだよ!俺なんてメカニックだから"機"なんて分かりやすい
         漢字書いたのに、全ッ然なんも出ねーでよぉー!昨日は時間内ずっと逃げ回ってたんだぞ!」

    どうやら十神には、「今日は蝕がない」という確信があるらしい。
    その答えは、朝食の後に行った教室で分かった。

    生徒A 「大丈夫……私は大丈夫……生き残れる……生きる生きる生きる」ブツブツブツ

    生徒B 「うっ、ううっ…ただ希望ヶ峰に憧れてただけだっつーのに……なんでこんな」グスッ

    予備学科はAからGまでの7クラスに分けられ、本科は78期、77期それぞれが教室を与えられた。
    廊下を歩く間も、文字の入った所をおさえてなにやら呟いている女子やら、
    もう絶望し切って泣いている男子やらとすれ違う。そういえば、九頭龍の妹も蘇っているのか?
    本人から特に何も言ってこないなら、触れないほうがよさそうだ。
    32 : ヒヤコ ◆Xks - 2017/03/12(日) 19:17:05.50 ID:uk5v1yXc0 (+95,+30,+0)

    ガラッ

    罪木  「あ、日向さん……左右田さん、おはよう、ございますぅ……」

    九頭龍 「よお、昨日は寝れたかよ?」

    そう言う九頭龍も目が赤い。

    西園寺 「きゃははっ、なんでみんなお通夜ムードなの?
         蝕って、気に入らない奴をまとめて消せる大チャンスじゃーん!」

    小泉  「……怖い」ボソッ

    西園寺 「えっ?今なんて言ったの?」

    小泉  「……なんでもないよ」

    無理して微笑んだ小泉に、西園寺はそれ以上の追及をしなかった。
    そういえば、こいつらの文字を聞いてなかったな。後でそれとなく小泉から聞きだすか?

    俺がそんなことを考えている間に、時計が『カチッ』と針を合わせる。
    午前11時……"蝕"の時間だ!

    ……


    ……

    終里  「って…あれ?来ねーぞ?」

    と、終里の言葉が終わるか終わらないかのうちに、ザーッと雨が降ってきた。
    俺たちは窓にはりついたが、空島は灰色の雲に覆い隠されて見えない。

    豚神  「思った通りだ…空島の影が学園に重なる時、ということは、雨や曇りでは蝕は起こらない。
         これで、夜には蝕が起こらなかった理由も繋がったな」

    辺古山 「つまり、梅雨時には蝕の心配がないんだな。安心した」

    ソニア 「はあああ…一気に緊張が解けましたっ…」ヘナヘナ

    なるほど。十神が余裕だったのは、雨を見越していたからだったのか。

    さすがの神蝕も、天気には勝てなかった。
    そして俺たちは――また一日、この罪深い命を長らえた。
    33 : ヒヤコ ◆Xks - 2017/03/12(日) 19:17:43.42 ID:uk5v1yXc0 (+89,+29,-5)
    今日は此処まで。明日は二回目の蝕に行きます。
    34 : 以下、名無しにか - 2017/03/13(月) 21:35:18.76 ID:XXAPrf1A0 (-25,+29,-7)
    人間の七海や松田とかは生き返ってないのかな
    35 : ヒヤコ ◆Xks - 2017/03/13(月) 21:49:04.77 ID:ccxguUJC0 (+28,+30,+0)
    >>34
    今の所、生き返ってませんということで進めてます。

    大浴場に行った後、火照った体を冷やすために外へ出る。
    ……静かだ。とてもあんな惨劇が起こった場所とは思えない。
    しかし、深呼吸する俺のすぐ側を、担架が通りすぎる。袋からはみ出してるあれは…人の手?

    作業員A「おい、西地区の寄宿舎で二人首吊ってたらしいぞ。これ終わったら回収な」

    日向  (なんだって!?首吊り……まさか)

    作業員B 「シャワールームも確認しとかないとな。あそこで手首切ってる奴もいるだろうし……」

    作業員A 「死体の回収は"モノクマ"の仕事だろ?」

    作業員B 「夜時間だからな。さっさと安置所に送っちまおう」


    コトダマゲット!【モノクマの仕事】

    死体の運搬も含めたそれらの仕事は『モノクマ』がやっているらしい。
    しかし、夜時間は動けないようだ。


    日向  (久しぶりの感覚だな。次の雨の日あたりに、今までの情報もコトダマにして整理しておくか?)

    ツナギを着た二人の作業員は、すぐそばにいた俺を無視して行ってしまった。

    九頭龍 「……やっぱりな」ガサッ

    日向  「お前、今の見てたのか?」

    九頭龍 「俺はまあ、そこそこ慣れてるけどよ……カタギでこの状況に耐えられねー奴が出てきても
         おかしかねーだろ。運ばれてた死体袋の数、ちょうど10人分だったぜ」

    胸糞悪い、と吐き捨てる九頭龍の手が、わずかに震えているのを俺は見逃さなかった。

    【死亡者数:10人
     生存者数:1614名
     総生徒数:1624名→1614名】

    日向  「あいつらは、外部から来た人間なのか?」

    九頭龍 「いや、学園長以外の職員は見てねーぞ……結局、授業は
         モニターに映されるだけだったし、食堂も無人だったろ」

    あのバイキングは誰が作ったのか。花村に聞いてみると「あんな深みのない味わいの
    料理、"超高校級の料理人"が作るわけないじゃないか!」と怒っていたが……
    購買部はセルフレジで、大浴場の掃除もいつの間にか終わっている。

    日向  (いや、考えるにはまだ手がかりが足りない。今はとにかく、次の蝕をどう乗り切るか考えよう)

    しかし、夜が明けた蝕で俺は後悔する。
    何であの時、ロジカルダイブでも何でもして考えなかったのか、と――。


    36 : ヒヤコ ◆Xks - 2017/03/13(月) 21:49:35.11 ID:ccxguUJC0 (+95,+30,+0)
    狛枝  「蝕の予定時刻まであと1分を切ったよ。今日は雲ひとつない快晴だ。脱出も不可能、
         外の情報からも遮断され……この八方塞がりな状況に絶望から立ち直った
         みんなが立ち向かう。その先にはどんな素敵な希望が待っているんだろうね!」アハハハ

    日向  (一時間目の数学の間から、狛枝はずっとそわそわしていた。蝕よりこいつをどうにか
         した方がいい気がするが、校則には"生徒同士の殺傷を禁じる"とある……わざわざこんな
         のを校則に定める理由が不可解すぎて怖い)

    弐大  「こいつはいっそ清々しいくらい変わらんのう」

    終里  「どんな敵が来ようが、まとめてブッ倒す!!そんだけだろ!!!」

    西園寺 「ぷっ!この脳筋ちゃんは学習しなかったのかなー?そーやって突っこむ奴から死んでくんだよー?
         ま、あんたが死んでも77期は全然困んないからいいんだけどー」

    辺古山 「今のうちに出しておくか」カッ

    "刀(かたな)"

    辺古山は唐草模様の刻印が施された剣を二本出すと、両手に構えた。
    後ろの九頭龍は「わりーな…俺の文字が使えねーせいで」と気まずそうだ。
    うなじにある『冬』をおさえてため息をついている。

    辺古山 「いいのですよ、坊ちゃん……私にできる償いなど、せいぜいこの程度ですから」

    私の後ろにいてください、と頼んだ辺古山は、黒板の上にある時計をちらっと見て表情を険しくする。

    辺古山 「小泉……よければ、一緒に来ないか」

    小泉  「ごめん。日寄子ちゃんといたいんだ…あっ、ペコちゃんが怖いとかそういうのじゃなくて!
         その……私の文字、役に立たないし。…まだ、距離感とか分かんないから」

    小泉は「だから、ゆっくり仲直りしてこう?」と微笑んだ。
    喉元に『写』の文字が見える。辺古山はしばらくぽかんとしていたが、少し泣きそうな顔で
    「……ああ」と目を伏せた。

    田  「ひょー!!絶好の野外音響日和っすねー!!」ピョンピョン

    豚神  「気をつけろよ、澪田。特に背後と上からの気配にはな」

    花村  「ね、ねえ。このフライパンで蝕に対抗できると思う?僕の文字、"食"なんだよ……
         いまいち分かんないんだけど、テフロン加工だから大丈夫かな!?」テルテルテル

    狛枝  「君の希望が負けなければね!!死んだら性癖を解放することだって出来ないんだ、
         頑張って生き延びよう!!」

    日向  「来る……」

    日向  「命がけの闘い……命がけの試練……命がけの……神蝕!」

    そして、針が『カチッ』と12の所に来る。

    瞬間、視界が真っ白な光に包まれた。



    【日向創:Chapter2『龍』】



    日向  「…………」

    ??? 「……い……おーい……大丈夫かね?」

    日向  「ん……」

    最初に感じたのは、草の匂い。頬を滑る風。そして、知らない声。
    ゆっくりと目を開ける。視界に入ったのは、意志の固そうな眉毛の白学ラン。
    次に、ドリルのようなツインテールで、フリルの沢山ついたドレスを着た女子。
    37 : ヒヤコ ◆Xks - 2017/03/13(月) 21:52:39.38 ID:ccxguUJC0 (+95,+30,+0)
    ??? 「むっ、君は確か……予備学科の日向くんではなかったか?」

    日向  「あ、ああ…日向創だ。お前らはたしか、78期の……」

    名前が出てこない。本科なら有名人のはずなんだが、
    俺の記憶力ではファイルにあった16人の顔を覚えるのが限界だった。

    安広  「ともかく、これでやっと話が出来ますわね。私はセ……安広多恵子と申します。
         人呼んで"超高校級のギャンブラー"。以後、お見知りおきを」

    ドレスの裾をつまんで優雅なお辞儀をする安広に、俺もつられてきれいなお辞儀を返す。

    石丸  「"超高校級の風紀委員"石丸清多夏だ!本来なら77期は先輩に当たるのだが、苗木くんが
         "上下関係を作らないほうがいい"と言うのでな、……不快ではないか?」

    日向  「いや、それでいい。どう見ても同い年だしな」

    日向  (……俺たちに、気を遣われる権利なんか本当はない)

    安広  「――で、ここはどこですの?」

    彼女の疑問点に答えるため、俺はあたりを見回した。木と草むらしか見えない。
    つまりは森……の中の、ぽっかりと開けた場所。
    視線を上にやると、晴れ渡った空に……数字が五つほど並んだスロットのようなものが浮かんでいる。
    今の数字は『伍伍参弐壱』。何かのパスワードか?

    石丸  「少なくとも、希望ヶ峰学園でないことは確かだ。おそらく"蝕"の一種なのだろうが、霧切くんがいない以上、答えは望めないな」

    日向  「あのスロットは……」

    安広  「制限時間でしょう。先ほどから少しずつ、一番右の数字が減っています。
         それに、"試練"にルールはつきものですから」

    石丸  「とにかく、これが蝕だというなら敵がいるかもしれないのだが……さっきから、やけに静かだと
         思わないか?もしかすると、"始"と同じような方法ではクリア出来ないのかもしれないな」

    日向  「なら、とにかく歩いてみよう。向こうに道がある」

    安広  「罠かもしれませんわよ?」

    日向  「先へ進まないと、どうしようもないだろ」


    そう言って歩き出した俺に、安広と石丸が少し離れてついて来る。
    おそらくまだ打ち解けていない所為なんだろうけど……『警戒されてるんじゃないか』なんて
    考えちまうのは、悲しいな。

    一方その頃。


    朝日奈 「うう……ここ、どこ?なんか森みたいな所だけど……おーい、さくらちゃーん!
      なえぎー!!……ひなたー!!ななしー!!……つみきちゃーん!いたら返事してー!!」

    朝日奈 「……うう」

    ガサガサ

    朝日奈 「うひゃあ!!!?」ビクーン

    ??? 「ふっ……我が覇王の気に中てられたか。些か退屈していたところだ。草臥れ果て、
         彷徨い続ける運命を選択する前に、我が眷属が道を示そう」ザッ

    朝日奈 (なんかヤバい人きたーーー!!!)

    ??? 「もう、田中さん。彼女が怯えているじゃありませんか」

    朝日奈 (増えたー!!それに意外と普通の名前だったーー!!)

    ??? 「制圧せし氷の魔王……畜生道のやしない主……人の子は俺をどうとでも、好きなように呼ぶ。
         我が名は田中眼陀夢っ!!この愚かなる旋回舞踏の夢に生きる計算表の一つの点だ!!」

    朝日奈 「ええと……」

    ??? 「そなたの真名は、"特異点"より聞いている。徒花のウンディーネよ、永久に膨張する宇宙卵たる  
         お前たちと我らの間に降る雨はない」

    ??? 「"超高校級の飼育委員"田中眼陀夢です。プログラムを脱出した77期の一人です。朝日奈さん、
         希望を生み出すあなた達78期と77期の間に壁はないので、どうか気を遣わないでください……
         ふふ、田中さんはいつもこうなんです。分からなかったら聞いてくださいね」

    朝日奈 「は、はあ……」

    ??? 「申し遅れました、私は"超高校級の王女"ソニア・ネヴァーマインドと申します。
         よきにはからってくださいな」

    朝日奈 (なんか……悪い人たちじゃないっぽいんだけど……疲れるなあ。蝕始まったばっかなのに)
    38 : ヒヤコ ◆Xks - 2017/03/13(月) 21:53:53.82 ID:ccxguUJC0 (+95,+30,+0)
    田中  「戯言はそのくらいにして……向こうにある扉はどうする?」

    朝日奈 「へっ、扉!!?」

    言われてみると、道の先にたしかに、龍が刻印された白い扉があった。

    田中  「とりあえず、壊すか」カッ


    "獣(けもの)"


    言うなり田中は文字を発動させ、両手に獣の皮がついた鉤爪をまとう。

    朝日奈 「わー!!やめて、せめてもうちょっと考えて……」

    ソニア 「当たって砕けろという奴ですね!!」カッ

    "生(せい)"

    文字を発動させたソニアは、田中のスカーフをつかんで「えいっ!」と意識を集中させる。
    その手から青い光が流れこんで、田中の鉤爪がぼんやりと光をまとった。

    朝日奈 「ええと……ソニアちゃんは、補助系なの?」

    ソニア 「私の文字は、人の能力を強化することができるようなのです。朝日奈さんも行きますか?」

    朝日奈 「あー…ごめん、私まだ上手く扱えないからさ。今度頼むね」

    その時、扉の龍が『ギョロッ』と目を動かし、口を開く。

    龍   『我は"龍"……この試練を生き延びたくば、我を倒し、この中にある鍵を手に入れよ。
         そなたらの持つ"力"か、"知恵"か……それにて道を示』

    田中  「くどい」ザクッ

    龍の話が終わる前に、田中の鉤爪が扉を引き裂く。

    朝日奈 「ちっ…ちょっと!!まだ話が途中だったじゃない!!つーか、扉から血っぽいものが
         垂れて……」

    どくどくと血が垂れる白い扉を指さして、朝日奈が怒鳴る。

    龍   『"力"を選ぶか……よかろう。では、闘いを始めるぞ!!』ズルッ

    扉からズズズ…と抜け出した龍が、空へ舞い上がる。それをぽかんと見送った朝日奈は
    「追いかけなきゃ!」と走り出そうとした。

    田中  「いや…その必要はなさそうだ」

    朝日奈 「へ?」

    ソニア 「向こうから来てくださるようですよ?」

    龍は空中でぐるっと旋回し、三人目がけて勢いよく下降する。口ががぱっと開いて、牙がむき出しになった。
    それに朝日奈が悲鳴をあげたのが先か、田中が地面を蹴ったのが先かは分からなかった。



    同時刻、別の場所では――頭脳派チームができあがっていた。
    十神、霧切、さらに……大弓を構えた予備学科の『佐藤梓』だ。クラスメイトからは揶揄を込めて
    『超高校級の弓道家』などと呼ばれているが、彼女自身にそこまで弓の才能があるわけではない。

    佐藤  (いやだなあ…この十神って人、あいつのお兄ちゃんと同じ77期だもん。
         気まずいったらありゃしないよ。まあ、何も言ってこないだけいいけどさ)

    彼女は九頭龍の妹とひと悶着起こした過去がある。
    この学校で目覚めて蝕が始まってから忘れていたが、十神とチームになったことで図らずも
    それを再確認する羽目になっていた。

    佐藤  (まあ、いいもんね。さっき龍が言ってたもん。"ここから出られるのは、鍵を持った人間だけ"……
         私にしか聞こえてなかったみたいだし、使わせてもらうわよ)
    39 : ヒヤコ ◆Xks - 2017/03/13(月) 21:54:50.78 ID:ccxguUJC0 (+95,+30,+0)
    豚神  「力か、知恵……霧切、この蝕について基本データは出せるか?」

    霧切  「待って、トレースが……終わったわ。この蝕は"龍(りゅう)"タイプは"隔離型"とあるわ。
         前の"始"が固定型。出現する日が決まっている蝕だったみたいよ」

    豚神  「学園から異空間へ転送される蝕か……発生の条件が分かればいいのだが。どうやら
         チーム分けもランダムのようだ。まずはここから脱出するのが最優先か」

    佐藤  「あの……私にも何か、できることありますか?」

    豚神  「焦るな。まずは敵の弱点を探るぞ」ペタッ


    "偽(いつわり)"


    扉の龍に手をついた十神は、目をつぶって集中する。『偽』の字は、人が象を手なずける象形文字だ。
    そこから転じて『ありのままの姿に戻す』という意味を持つ。彼の手の下で、
    龍はみるみるうちに透けて、中にぼんやりと『鍵』の形を出した。

    豚神  「見えたな。尾に近い下腹のあたりだ」

    霧切  「なら、今度は佐藤さんの出番ね。十神くん、外へ誘い出してちょうだい」

    豚神  「了解した!」ドカッ

    扉を勢いよく蹴った十神に、龍が『力か…よかろう!』と応える。外へ這い出た龍を、
    きりり…と弓を引き絞った佐藤が狙う。

    佐藤  「はあっ!!」バシュッ

    ズドン!!

    佐藤  「外したっ……もう一回!!」バシュッ

    続けざまに二、三発撃つと、さすがの龍も失速した。そして、四発目でとうとう鍵をかすめる。
    空中を落ちてくる鍵を、佐藤は走りよってキャッチした。

    豚神  「よくやったぞ、そのまま……」ドスッ 「……あ?」ドクドク

    霧切  「佐藤さん、あなた何を――っ!?」グサッ

    佐藤  「邪魔しないで下さいよ……さんざん予備学科を足蹴にしてきたあなた達本科を、
         今度は私が踏み台にしてあげるんですから」

    くるっと背を向けた佐藤に、足を撃ちぬかれた霧切が「待ちなさい!」と叫ぶ。
    しかし、佐藤は振り返ることはなかった。腹を刺された十神も、起き上がろうとして
    痛みに悲鳴をあげ、再び地面へ突っ伏す。

    豚神  「くそ……!!なぜだ、なぜなんだ……!!予備学科も、本科も、この蝕では
         壁などないはずなのに!…ぐっ…」ボタボタ

    霧切  「それより、まずいことになったわ……鍵はまだ、佐藤さんの手に」

    豚神  「追いかけるぞ…」

    霧切  「でも、その出血じゃ……「傷など、おさえていればいい!!お前だけでも生還しろ!!」

    十神はハンカチを引き裂いて、傷口に押し当てる。
    なんとか立ち上がる十神を見た霧切は「……似ているのは、見た目だけね」と小さく呟いた。


    その頃。日向、石丸、安広チームは……。

    安広  「あら、今不思議な声がしましたわ。"此処から出られるのは二人だけ"ですって」

    石丸  「なっ…!!」ガーン

    安広  「おおかた、嘘でしょうけど。この前の始もそうでしたけど、試練は常に、生き延びる道があります。
         一人の犠牲も出さずに脱出することは可能でしょう?でも、蝕の方でも考えているのですね。
         わざわざチームの一人にだけ嘘を吹き込むなど、惑わそうという意図が見え見えで、   
         張り合いがありませんわ」

    石丸  「そういう問題かね!!?」

    日向  (やれやれ…こいつを敵に回すのは勘弁したいな)ハァ…
    40 : ヒヤコ ◆Xks - 2017/03/13(月) 21:55:31.71 ID:ccxguUJC0 (+95,+30,+0)
    日向  「で、どうする?龍を誘い出したのはいいが、俺は弓なんて使えないぞ」

    『変』で出した鉄パイプを構えた俺が聞くと、安広は「あら、簡単ですわ。私の文字を使えば」と微笑む。


    "罠(わな)"


    安広  「日向君、龍の気を引いてくださいます?石丸君は反対方向に逃げて小石でも投げながら、
         龍を少しずつ私の方へおびき寄せてくださいな。気が向いたら文字を使っても構いませんことよ」

    石丸  「了解した!!」ダッ

    日向  「分かった……信じるぞ、安広!!」

    安広  (……信じる、ですか……この私が、信頼を受けるなんて……)

    安広  (もうそろそろ、嘘をつくのも疲れましたし……悪くありませんけど)カッ!

    手を振って、地面に『罠』を仕掛けていく。元はウサギを捕る網からできた象形文字だが、
    彼女の想像力――地下のギャンブル階を巡る中で見てきた数多のゲーム器具。
    たとえば電流の流れたつり橋、たとえば針天井。それらが文字に広がりを与える。

    日向  「――ら、あああっ!!こっちだ!!」ブンッ

    石丸  「日向くん、深追いは禁物だ、"下がりたまえ"!!」カッ

    日向  「……えっ?」ガクッ

    石丸が声をあげると同時に、日向の足が操られるように後ろへ下がる。
    次の瞬間、日向が今までいた地面に龍の爪が突き刺さっていた。

    石丸  「僕はこうして、相手を"支配"することができるのだよ。恐ろしい文字だろう?」

    日向  「いや…おかげで助かった。いい文字だ」

    石丸  「……まったく、君という男は分からないな」スッ

    差し伸べられた手をありがたく取ると、ちょうど安広も準備が終わったらしい。

    安広  「行きますわよ……」カッ

    地面すれすれを低空飛行する龍の口が、がぱっと開く。
    安広が手を挙げると、その巨体を地面から現れたトラバサミが次々に挟んだ。
    まるで活け作りのように、龍は地面に縫いつけられる。じたばた暴れる龍の口を指さして
    「日向君、今です!」と安広が合図した。

    日向  「は、あああっ!!」ザシュッ

    龍の口を、真一文字に切り裂く。真っ赤な血が視界に飛び散って――その向こう、
    喉奥に白く光るものが見えた。俺はその勢いのまま龍の首に刀を差し込んで、
    ぐいっと切り落とす。

    日向  「あった……鍵だ」

    安広  「呆気ないものでしたわね。ともかくこれで脱出できますわ……早く学園へ帰りましょう」

    日向  「だな。森の景色にも飽きたところだ」

    俺たちは並んで歩き出す。闘って龍を誘き出しているうちに、扉からだいぶ離れたところまで
    来てしまっていた。石丸がつけておいた樹の印に従って、白い扉を目指す。

    石丸  「しかし、君は不思議な人だな。予備学科でありながら癖の強い77期をまとめあげ、
         彼らの司令塔として君臨している……一体、君は何者なんだ?」

    安広  「私も不思議ですわ。何の才能もないといいながら、こんな非常事態でも全く
         あわてふためくことがない……今までどんな日常を過ごしていらっしゃったのか、
         興味が沸いて来ました」

    日向  「……別に、普通だ」

    しまった、78期とはなるべく距離を置くつもりだったのに……。
    石丸と安広は、正体不明の予備学科生に興味を持ったらしい。

    どう遠ざけようか考えながら扉に鍵を差しこみ、開ける。
    そこは学校の校庭だった。俺たちが出てきたのと同じ、白い扉が沢山浮かんでいる。
    バスケットゴールの下に仲間達が集まっているのを見つけると同時に、向こうからも声があがった。
    41 : ヒヤコ ◆Xks - 2017/03/13(月) 21:55:57.04 ID:ccxguUJC0 (+95,+30,+0)
    西園寺 「あ、日向おにぃだー!!モブ顔のくせに案外速かったね!死んでたらお焼香くらいは
         してあげようかなって覚悟してるとこだったよー!」

    弐大  「応ッ!!お前以外はもうほとんど脱出しておるぞ!!ガッハッハ、一位はこの弐大猫丸が
         いただいた!!残念だったのう!!」

    西園寺 「あれれー?わたしの目がおかしくなったのかなー。おにぃの後ろに鹿鳴館とエセ右翼の
         コスプレした頭おかしい奴がいるよー?」

    終里  「しっかし、78期の奴らおせーな。まだほとんど出てきてねーぞ?」ガシガシ

    左右田 「おい、何ボーッと突っ立ってんだよ!早くこっち来いって!」

    日向  「……じゃ、俺はここで」

    石丸  「あ、日向君。よかったら今度話を……」

    まだ名残惜しそうな石丸を置いて、俺は逃げるように77期の仲間達が座っている所へ戻った。
    俺たちは、肩を寄せ合って生きる罪人だ。

    ……『希望』たちに触れるわけには行かない。

    日向  「あ、あいつらは……」

    遠くで、扉が開いた。苗木と…たしか舞園さやか、そして桑田怜恩がチームだったらしい。
    ものすごく気まずそうなパーティーだが、なんとか協力できたのか、よかっ……

    た、と思う前に。
    出てきた苗木と桑田はなにやら言い争いを始めた。しばらくして、桑田はぷいっとそっぽを向く。
    舞園が止めるのを振り払って、桑田はさっさと歩いて行ってしまった。

    日向  (元々は仲良しのクラスメートだったのに……俺たちの所為で……)

    日向  (いや、それは後だ…まだ、後回しにしよう……俺にはまだ勇気が出ない……)

    考えている間も、次々と扉が開く。その中から、見覚えのある顔が高笑いをしながら出てきた。

    田中  「フハハハハッ!!仰々しく形作られた儀式の場だったが、造作もなかったな!!」

    ソニア 「うふふ、とにかく脱出できてよかったですね」

    朝日奈 「…………」ずぅぅーん

    まさかのパーティーだ。日本語の通じない田中と一緒で、よく龍を倒せたな。

    日向  「あ、朝日奈…大丈夫か?」

    朝日奈 「ひなたぁ……なんなのこの濃ゆい人たち……何言ってるか分かんないし……
         ソニアちゃんはなんかずっと笑ってるし……」はぁぁぁ

    日向  「安心しろ、俺たちも全然分かんないし、もう笑うしかないと思ってる」

    朝日奈はしばらくすると、元気が出たのか「ねえ」と聞いてくる。
    42 : ヒヤコ ◆Xks - 2017/03/13(月) 21:56:25.59 ID:ccxguUJC0 (+95,+30,+0)
    朝日奈 「あの扉さ……人が出てきたのは白いけど、あっちは黒いじゃない?あれ何なのかな…
         あっ、今あっちの扉も黒くなった!!」

    日向  「多分……"失敗"したってことじゃないのか」

    朝日奈 「失敗って……」

    日向  「向こうで、龍に負けたって事だ。現に、あの黒い扉からはまだ誰も出てきてない」

    朝日奈 「ね、ねえ……七志は?あいつ、すっごい頭いいし、絶対さっさと出てきてると思ったんだけど」

    校庭の扉が次々真っ黒になっていくのを見て、朝日奈が恐る恐る聞いてくる。

    ソニア 「だ、大丈夫ですよ。私たち、たまたま早く出られただけで……ほら、まだ78期の方々でも
         出てきてない方が……」

    そう言うソニアの背中側で、葉隠が出てきていた。これで78期のメンバーは霧切以外全員そろったことになる。

    朝日奈 「七志……霧切ちゃん……大丈夫かな……あの二人に限って、まさか失敗なんて」

    心配そうにぎゅっと胸元をおさえる朝日奈に釣られて、
    俺の心臓もどくどくと嫌な鼓動を打ち始めた。第一の事件で倒れていたあいつの死に顔が浮かぶ。
    ……大丈夫だ。十神なら、きっと。自分に言い聞かせながらも、その不安が消えることはなかった。


    ――私は生きる。絶対に生きてやるんだ。

    九頭龍を殺した時だって、そうだ。あれっ、あいつ下の名前なんて言ったっけ?
    思い出せないな……ま、いっか。今さらどうでも……。

    佐藤梓は、走りながら思い出していた。
    予備学科での鬱屈した日々。九頭龍との因縁。そして――

    佐藤  「そうだ、私には力があるんだ……今度こそ本当に、"超高校級の弓道家"になるんだ!!」

    不条理なことは、自分でどうにか打開するしかないんだ。
    私にはその力があったんだ。だから、私こそ生きるべきなんだ!

    龍を狙ううち、いつの間にかずいぶん遠くまで来ていたらしい。
    あと少し――あと少しで、出口に……


    佐藤  「はあっ、はあ、はあ……あれ?」

    そこで、佐藤は違和感に気づいた。
    ――黒い。ここから白い扉だったはずなのに、そこに鎮座しているのは黒く、血のような生臭い
    液体をボタボタとたらす真っ黒な龍だ。

    佐藤  「ね、ねえ…何よこれ、なんなの!!?」

    龍   『我は人の子に試練を与える白き龍にあらず……人道を踏み外した者に罰を与える黒き龍』

    佐藤  「意味分かんないこと言ってないで、早くここから出してよ!!鍵だってここにあるわ!!」

    龍   『残り二人の仲間はどうした?』

    佐藤  「だって、あんたが言ったんじゃない!!鍵を持った奴だけ出られるって!!」

    龍   『戯れの嘘に騙され、仲間を裏切るか……その罪、赦し難し。死をもって償え』

    佐藤  「――え?」

    逃げる間もなく、黒龍の口からゴオッと炎が吐き出される。
    それはみるみるうちに地面を這って、佐藤の体を包み込む。

    佐藤  「きゃあああああーーーっっ!!」

    そこで、悲鳴を聞きつけた十神と霧切が追いついた。

    豚神  「佐藤ッ!?待て、今消して……」バサッ、バサッ

    上着を脱いで一生懸命に消そうとするが、もだえ苦しむ佐藤にまとわりつく炎を消すには間に合わない。
    数秒も経たないうち、佐藤の体は崩れ落ち、跡形もなく焼き尽くされた。
    43 : ヒヤコ ◆Xks - 2017/03/13(月) 21:57:04.97 ID:ccxguUJC0 (+93,+30,+0)
    霧切  「こんな……こんな、むごいことが……」

    黒龍  『その者は大罪を犯した。よって罰を与えた。……お前たちは試練に失敗したのだ。
         この扉が開くことは未来永劫ない』

    霧切  「……それは、どうかしら」

    黒龍  『なに?』

    霧切  「この座標……さっきの白の龍がいた扉と同じよ。つまりあなたは、白の龍が姿を変えただけの存在。
         だったら、その先にあるのは希望ヶ峰学園でしょう?」

    黒龍  『それを知って如何にする。すでにそなたらには――』

    豚神  「おおおおおッ!!」ダッ

    佐藤の焼け跡から立ち上がり、走り出した十神。黒龍が裁きの炎を吐き出すが、十神はそれを
    地面に転がって避けると、扉に手をかける。龍は首をもたげて、十神の顔面に炎を吐き出した。

    豚神  「ぐ、っ…これしき、のことで……開けッ……開けぇぇぇ!!!」カッ

    "偽"


    黒龍  『なっ……やめろ、理を曲げるなど、あってはならな……』シュゥゥゥゥ

    十神の文字の力で、黒龍がみるみるうちに、元の白龍に戻る。そこで、佐藤のいたところに落ちていた鍵を
    拾った霧切が、急いで扉に差し込む。鍵が回るか回らないかのうち、十神は扉をバターンッと蹴破った。

    朝日奈 「!霧切ちゃん、七志!!!」ダッ

    豚神  「うう……」ヨロヨロ

    朝日奈 「ひどい火傷……罪木ちゃん、お願い!」

    罪木  「は、はいっ!」パァァ

    全身に大火傷を負い、苦しげな呼吸を繰り返していた十神が、罪木の放つ光で少しずつ楽な表情になる。
    やがて目を開けた十神は、自分を心配そうに見下ろす仲間たちを見て「馬鹿者」と笑った。

    豚神  「十神白夜が……これくらいで死ぬわけがあるか。俺の心配などいらん……」

    朝日奈 「うっ……ううっ…よかったよぉ…二人が生きてて……」

    ぐすぐすと泣いている朝日奈に、霧切は自分達が出てきた扉を振り返る。
    真っ黒に染まった扉の向こう、白い龍が地面に倒れていた。どうやら他の黒い扉は閉じたままらしい。

    霧切  「運がよかっただけよ……彼の文字がなかったら、佐藤さんが裏切った時点で詰んでいたわ」

    日向  「七志、本当に大丈夫か?……心配したぞ」

    豚神  「だから、お前たちのような愚民が案ずるほど俺は落ちぶれて……いや、今はやめておこう」

    豚神  「それより、何か飲み物をくれないか。……龍の炎が思ったより熱かったんでな」フッ

    朝日奈 「じゃあ……」むむむ

    朝日奈 「はいっ!」

    笑顔で差し出した朝日奈の手には、冷たい水が波打つコップ。

    朝日奈 「えへへ、ちゃんと文字を使えたの初めてかも」

    豚神  「……ありがたい」

    受けとった『御曹司』は水を勢いよく飲み干して、今度こそ本当に笑顔になった。
    44 : ヒヤコ ◆Xks - 2017/03/13(月) 21:57:45.16 ID:ccxguUJC0 (+90,+30,+0)
    『龍』死亡者数:34名
     生存者数:1580名
     総生徒数:1614名→1580名】

    苗木  「霧切さん!!よかった……生きていて」ホッ

    霧切  「あなたもね。それに…外に出たおかげで分かったわ。この蝕の発生条件がね」

    霧切  「私たちは1614名いたわ。そして、扉の数はちょうど538個。
         ……一つの扉の中に、3人。つまり、この隔離型は」

    苗木  「生徒数が3の倍数の時に来る、だね?」

    霧切  「ええ、そうよ。生徒数が3で割り切れる時は要注意ね」

    そんな話を苗木たちがしている間、葉隠がなぜか申し訳なさそうな顔で突っ立っている。

    葉隠  「あ、あのー、苗木っち……さっき桑田っちがブチギレたのって、多分俺のせいなんだわ……」

    苗木  「え?」

    葉隠  「ほら、あの希望のパスワード……うっかり口すべらしちまって……このまんまじゃ俺、また
         うっかり江ノ島っちにやらかしそうなんだわ、なあ」

    苗木は何が何だか分からないよ、と葉隠を連れて遠くへ行った。

    西園寺 「ねえねえ、そろそろ"アレ"来るころじゃない?」

    小泉  「あれって?」

    西園寺 「決まってるじゃーん!ゲロブタの恥ずかしい所を封じた欠片だよー!!」

    罪木  「ひいい!!やっぱり私を狙い撃ちなんですねぇ…!!」

    左右田 「おっ、噂をすれば」

    空中から、ふわふわと下りてくる青い欠片。
    これが二つ目の『希望のカケラ』か……今回は一体どんな恐ろしいものが見えるんだろうか?

    日向  「じ、じゃあ……皆、腹ァくくろう、ぜ」

    九頭龍 「無理すんなよ。カタギが言うと似合わねーぞ」


    パアッ…と欠片が光を放って。
    また、どこかへ引っぱられるような感覚。
    45 : ヒヤコ ◆Xks - 2017/03/13(月) 21:58:40.62 ID:ccxguUJC0 (+95,+30,+0)
    そこは、医療器具とベッドしかない、簡素な病室だった。
    たしか希望ヶ峰でも一部の人間しか立ち入りを許されない区画の、さらに奥にあった。
    そこで、俺と学園長が話している。

    『学園長先生もやっぱり、希望ヶ峰学園のOBなんですか?』

    何気なく聞いたのだろう。聞かれた当の学園長もぽかんとしている。
    やがて『ああ、そうだよ』と頷いた。

    『超高校級の探偵という肩書きでね。霧切一族は代々探偵を生業としているんだ。
     学園創立から何度もスカウトは来ていたけど、入学したのは私が最初だ』
    『やっぱり探偵って、表には出ないものなんですか』
    『うん。だけど私は目立ちたがり屋だったんだ。学芸会でも堂々と主役に手を挙げるようなね。
     学園は私を客寄せパンダにしたから、卒業した後も探偵としては顔が売れすぎて、"完成"しなかった。
     親のすねをかじるのも申し訳ないから、思い切って家を飛び出したのさ』
    『……娘さんを置いて?』
    『松田君に聞いたのかい』
    『あ、はい……すいません』

    学園長は『今だって、学園長として顔を出しているのはその名残でね』と椅子にもたれかかる。

    『認められたい、もっと見て欲しい、褒め称えられたい、名を残したい。
     そんな欲も、ないと言えば嘘になる。というより、半分はそうかもしれない』

    『人生は希望を賭けたギャンブルさ、そうしてたいていは負けっぱなしに終わる。  
     君だってそれが嫌だから、才能を渇望してこの手術を望むんだろう?だけど』

    『生まれてこなければ……そもそも賭けることすらできない。
     そして、才能がなければ……勝ちを祈ることすらできない。
     だから、君は何も間違っていないよ。日向君』



    左右田 「うおっ、日向!オメー泣いてんのか!!?」

    九頭龍 「おい……大丈夫かよ、日向。今度はどんな惨いモンが見えたんだ?」

    言われて、俺はようやく自分が泣いていることに気づいた。
    涙をゴシゴシと袖でぬぐって「学園長」と答える。

    左右田 「は?」

    日向  「学園長と、話してたんだ。手術を受ける前の日に。それが見えた」

    九頭龍 「こ、今回はずいぶん呑気だな……」

    日向  「今分かった、学園長も俺と同じだったんだ……才能さえあれば、才能が全てだって……
         そう信じることで、何とか生きていたんだ。だから、カムクラプロジェクトも」

    左右田 「な、一旦落ち着け。いっこずつ話せって」

    日向  「悪い。ちょっと一人にしてくれないか」

    俺は慰めようとする左右田を振り払って、一人で寄宿舎に歩いた。
    後ろでやけに静かになった西園寺や、さめざめと泣いているソニアがいるのは分かっていた。
    だけど、今はそれどころじゃなかった。ただ、一人になりたかった。
    46 : ヒヤコ ◆Xks - 2017/03/13(月) 21:59:06.24 ID:ccxguUJC0 (+95,+30,-142)
    江ノ島 「うわー、最悪なんですけど……なんなの、この"蝕"とかいうやつ!!」

    戦刃  「ねえ、盾子ちゃん」

    江ノ島 「せっ…かく希望ヶ峰に入ったってのにサイアク!!あたしフツーのギャルだっつーの!!!
         ここ出たらあのイケメン学園長、訴えてやる!!マジ潰す!!!」ぷんすか

    戦刃  「ほんとに何も……覚えてないの?」

    江ノ島 「お姉ちゃんこそ頭大丈夫?あれ、PTSDとかいう奴なんじゃないの?」

    江ノ島 「あたしが"そんな怖いこと"するわけないじゃん!!!……ま、その"コロシアイ"とかいうやつ、
         ドラマとかになったら面白そうだけどさ。お姉ちゃん才能あんじゃない?」

    戦刃  「……」

    江ノ島 「そん時はあたしが主演してあげっからさあ、お姉ちゃんマジで書いてよ!!」

    戦刃  (……どういうことなの?)


    _______________

    ちなみに佐藤梓さんはあの『サトウ』さんです。梓=梓弓から。
    47 : 以下、名無しにか - 2017/03/15(水) 08:55:04.70 ID:uQHuqCjno (+33,+30,-42)


    セレスは賭じゃなくて罠とはな。石丸は規律の律かな?
    そして豚神のとにかく頼りになること…嬉しいけど死にそうで怖い
    48 : 以下、名無しにか - 2017/03/15(水) 14:54:44.34 ID:ZsHXnDB8O (+33,+29,-12)
    江ノ島さん真っ当な人になってて笑う
    本編でもこんな感じならなぁ……
    49 : ヒヤコ ◆Xks - 2017/03/16(木) 18:04:17.66 ID:IXfYRWfn0 (+30,+30,+0)

    キーン・コーン・カーン・コーン……

    聞き覚えのありすぎるチャイムの後、部屋のモニターに安楽椅子の学園長が映った。

    学園長 『時刻は、夜の10時を回ったよ。間もなく食堂のドアをロックする。まだ残っている生徒は早めに
         部屋へ戻りたまえ……そうそう、初めての隔離型をクリアした君たちに、ご褒美をあげるよ。
         明日の朝、"食堂のテレビモニター"を見たまえ。では、おやすみなさい』

    プツンッ…。

    日向  (もう夜時間か……今日も色々ありすぎて疲れたな)ボスッ

    日向  (生き返った学園長、神蝕、外の世界、俺たちの体……謎だらけだ)

    ベッドにうつ伏せになって考える俺の脳裏に、ふと昼間の光景が蘇った。

    葉隠  『このまんまじゃ俺、またうっかり江ノ島っちにやらかしそうなんだべ』

    日向  「!そうだ、江ノ島!!……江ノ島盾子も蘇ったって事か!!?」

    日向  「……でも、あいつがいるならなんで俺たち"絶望の残党"に何もコンタクトを取らないんだ?
         いや、すでに誰か江ノ島と接触しているのか?」

    それはない、とすぐに思った。
    77期生たちの動向には気を配っているが、隠し事が苦手な奴らばかりだ。
    初対面に近い俺でも『悩みがある』ぐらいはすぐに分かったんだ。そんな異変があったら
    とっくに気づいている。

    日向  「明日、苗木を問いつめるか?……いや、答えてもらえるわけがない。
         かえって俺たちの立場が悪くなるかもしれないな」

    日向  (でも、江ノ島の事は放っておけない……明日、こっそり探りを入れてみよう。その為に)

    俺は起き上がって、部屋に備えつけのメモ帳を取った。鉛筆でさらさらと簡単なメッセージを記す。

    ――江ノ島盾子が蘇っているらしい。お前たちは知らないふりをして探れ。  日向

    日向  (あとはこれを、全員の部屋のドアに挟んでおくだけだな。西園寺あたりが腹をたてそうな
         気もするが、江ノ島の存在次第で俺たちの命がどうなるか決まるんだ。
         苗木たちが動く前に正体を掴んでおかないとな)


    『龍』から一夜明けた日曜日。

    一晩考えてだいぶ頭がすっきりしたので、食堂に向かった俺は、テーブルで言い争う二人を見た。

    左右田 「だーかーらぁ!!誤解なんだって!!」

    西園寺 「人形に顔近づけてハァハァやってたじゃん、わたし見たんだからね!!」

    日向  「……左右田、俺たちは親友だ。お前がどんな性癖を持っていても、俺は受け止めるぞ」

    左右田 「だからちげーって!!!」

    事の起こりは今朝早く。夜明けごろに目が覚めてしまった西園寺は、食堂で水を飲もうと思って
    部屋を出た。……が。夜時間には食堂がロックされていることを思い出した西園寺は、
    仕方ないので部屋に戻ろうとした。
    50 : ヒヤコ ◆Xks - 2017/03/16(木) 18:04:47.14 ID:IXfYRWfn0 (+95,+30,+0)
    西園寺 「あんたの部屋のドアが半開きだったから、閉めてやろうと思って見たら、
         人間並みにでっかい球体関節人形に頬ずりしてハァハァしてたんだよこいつ!!
         しかも裸の、髪の毛もついてない人形に!!!」

    ……それはちょっと気持ち悪い。

    左右田 「オレにそんなアブノーマルな性癖はねえよ!!」

    花村  「左右田くん、今度ちょっとぼくの部屋で語らおうじゃないか。君もTENGAじゃ
         満足できなくなったクチかい?」キラーン

    九頭龍 「おいおい、お前、島でソニアに"内骨格を見せてください!!"って告白してなかったか?
         "あなたの骨格は完全なんです!大腸すら愛せます!"ってのも聞いたぞ?」

    西園寺 「ほら、どこがノーマルだっての!?こんな人形趣味の性的倒錯者と同じ空気吸いたくないよ!!」

    日向  「一旦落ち着け。左右田、西園寺の話は本当なのか?」

    左右田 「うう……」

    左右田はしばらくブルブルと震えていたが、「やっぱ言えねぇぇーーっっ!!」と叫び、
    食堂からびゅーんと飛び出していってしまった。

    西園寺 「もう自白してるようなもんじゃん」

    日向  (その意見に賛成だ!!…したくないけど)

    罪木  「だ、大丈夫ですかね…左右田さん……」

    西園寺 「ほっとけば?腹減ったら戻ってくるっしょ」

    一応クラスメイトをそんな動物みたいに言ってやるな。

    日向  (とりあえず、朝飯食った後に様子見に行ってやるか。その前にモニターだったな)

    テレビモニターを見上げると、しばらくして『ピッ』とスイッチが入る。
    そして……

    『関東地方の今日の天気です。午前中は小雨が降るでしょう。午後になると天気は一旦
     回復しますが、夕方には霧が見られる所もあるでしょう……』

    日向  「……は?」

    思わず驚きの声が漏れる。
    画面に映っていたのは、NHKの気象予報だった。

    西園寺 「えっ、外の世界って滅んだんじゃないの?何でフツーに天気予報とかやってるわけ?」

    学園長 「うんうん、不思議だよね」

    小泉  「そうだよ、だってテレビ局があるわけ……って、学園長!!?」

    ナチュラルに混ざってきた声に、俺たちは一斉に振り返る。
    そこにいたのは、学園長だ。……山盛りのシリアルを牛乳なしでボリボリ食べている。
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