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    元スレ日向「神蝕……?」

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    101 : 以下、名無しにか - 2017/03/27(月) 00:37:53.94 ID:GKCxb7Ki0 (+24,+29,-24)
    主は言いました…続きが待ちきれないでゲス…と
    102 : ヒヤコ ◆Xks - 2017/04/01(土) 10:38:10.77 ID:fPDAiR9v0 (+30,+30,+0)
    ケイタが『超高校級のバディ』として希望ヶ峰に入学するクロス
    書こうと思ったけど詰まったんでセブンだけ出す。

    ________




    『龍』が終わって四日目。俺たちは夕食後の食堂に残って作戦会議を開くことにした。

    豚神  「みんな集まったな。知ってのとおり明日から二日間、晴れの予報が出た。
         神蝕の発生は、ほぼ確実と言える。"龍"で、生徒同士の協力が必要になる蝕もあると分かった今、
         互いが互いの文字を把握し、正しい字義と能力を知るべきだと思ってな」

    日向  「そういえば…左右田、お前は大丈夫なのか?」

    左右田 「んあ?……あー、一応な」

    歯切れが悪い。明日の蝕が通常型なら、ついて行った方がよさそうだな。

    豚神  「まずは日向。霧切からの情報を皆に伝えてくれ」

    日向  「分かった」ガタッ

    日向  「霧切は知ってのとおり、索敵と分析に特化した能力を持っている。おかげで
         蝕について三つのタイプがあることが分かったんだ。
         
    一つは"固定型"。"始"がこのタイプだな。出現する日が決まっている蝕のことだ。
         二つ目は、"隔離型"。学園から異空間に転送されて、試練をクリアする。 
         生徒数が3の倍数の時に来て、3人1組のチームに分けられるのが特徴だ。
         三つ目が、"通常型"。これは普通の神蝕で、時間内に敵を倒す。
         で、今は……予備学科もあわせて1580人だ。明日は通常型が来るとみていいと思う」

    日向  「俺たち15人の中で、文字の能力が分からない奴はいるか?いたら、これで調べておけよ」バサッ

    俺が図書室から持ってきた漢和辞典を出すと、
    小泉が「じゃあ、アタシから……」と手を挙げて、ページをめくった。

    小泉  「あ、あった……えーと、"写(しゃ)"は、おおいの象形と、かささぎ?の象形……鳥?」

    田中  「鳥網スズメ目カラス科の一種で、天然記念物だ。カラスの仲間であるため脳が大きく知能が高い。
         樹上に球体の巣を作って繁殖し、穀類や虫を食べる。中国では瑞兆として崇められる鳥だ」

    小泉  「あ、分かりやすい解説ありがと……そういやあんた、飼育委員だったね。
         意味は"物の形をまねて、書き写す"……うーん、いまいち使い方が分かんないかも」

    日寄子 「大丈夫だよ、おねぇはわたしの後ろにいれば」

    小泉  「アタシだって……日寄子ちゃんの役に立ちたいの。……アタシがもっとしっかりしてれば、
         梓ちゃんを死なせないで済んだかもしれないのに」

    暗い表情で呟く小泉に、西園寺は「あいつは勝手に死……」と言いかけて止めた。
    中学時代からの後輩、佐藤梓は『龍』で命を落としている。小泉にしてみれば、そう簡単に
    割り切れることじゃないだろう。

    小泉  「まねて、書き写す」パンッ

    両手を合わせて、目を閉じる。小泉が意識を集中させると、テーブルの上に光が集まって……


    "写(しゃ)"

    すべすべしたテーブル板に、『始』の姿が転写された。

    小泉  「……使い方は分かったけど、どうやって闘えばいいんだろ?」ハァー

    九頭龍 「チッ…オレの文字はやっぱり"冬"以外に意味がねえか」

    豚神  「字義が狭い場合は、連想するといいらしい。冬から連想できるものはなんだ?」

    九頭龍 「ん、冬……ふゆ……雪……みかん……こたつ……」パッ
    103 : ヒヤコ ◆Xks - 2017/04/01(土) 10:39:13.08 ID:fPDAiR9v0 (+90,+30,+0)
    "冬(ふゆ)"


    九頭龍の手から出た光がおさまった後。俺たちの座るテーブルにはでっかいコタツがでーん!と
    鎮座していた。ご丁寧に山盛りのみかんが乗っかって、猫が「ごろにゃ~ん」と鳴き声を出している。

    左右田 「ギャハハハハ!!なんだよこれ!!よりによってコタツ!コタツって……」バンバン

    九頭龍 「うるせえ、テメーはコタツも知らねーのか!!日本人なら冬はコレ一本だろーが!!」

    辺古山 「坊ちゃん、昔みたいにみかん剥きましょうか?」

    終里  「いいからさっさとこのコタツ消せって、前が見えねーよ」

    日向  「終里、そういやお前の文字は何だっけか」

    終里  「おうっ、オレはシンプルに"闘(とう)"って書いたぜ!なんつーかこう、体中に力がみなぎって
         来るっつーか、とにかく強くなれる感じがすんだよ!」

    弐大  「終里の文字は美しいぞぉ!!両腕に蛇柄の装甲がついてな、始も一発で吹き飛ばしたくらいじゃあ。
         ワシは"助(じょ)"で、能力の限界値を伸ばしてやることができるぞ。いつでも頼め!!」ガッハッハ

    ソニア 「わたくしの"生"も、同じく能力を強化する文字ですので、みなさんのご応募をお待ちしておりますね」

    日向  「はは、頼りにしてるぞ」

    罪木  「あ、あのぉ…私の"癒(いやし)"は、致命傷までは治せないみたいですぅ…ちょっと、
         遺言を話す時間を作るくらいしか……あと、あんまり重い傷でも、
         完全には治せないみたい、なので……なので、皆さん…気をつけてくださいねぇ……」

    西園寺 「最初っから当てにしてないから。人殺しの手当てなんかいらないっての」ふんっ

    罪木  「西園寺さんは、何の文字……あああ、ごめんなさいぃ!私ごときが気安く話しかけてごめ「"舞"」え?」

    西園寺 「だから……なんか、説明めんどくさいし」カッ


    "舞(まい)"


    罪木  「ま……ひゃあっ!?」

    西園寺は立ち上がって、扇を広げる。それに合わせて罪木も自動で立ち上がり、全く同じ動きをした。
    くるくる回って、両手を広げる。一部の狂いもなく舞う二人に、小泉は「いいよー!」とシャッターを切った。

    罪木  「はっ、はあ……はあ……はひぃぃ……」ガクガク

    西園寺 「うっわー、ゲロブタの足が生まれたての小鹿みたいだよー。きんもーい」

    ……あれ?
    いつもだったらもっと嬉々として罵ってたと思うんだけどな。
    なんだか、西園寺が無理しているように見える。

    豚神  「舞には、相手を弄ぶ。転じて"弱いものをいたぶる"という意味もある」ペラッ

    西園寺 「それ……どういう意味?」ギョロッ

    豚神  「いや、ただ字義を教えたまでだ。覚えておくと役に立つぞ」フッ…

    まだ西園寺は相手を睨みつけている。十神らしい皮肉なんだが……言い返さないのが、らしくない。

    狛枝  「僕は"運"だよ。元々の才能を他人に対しても作用できるようにしたような能力だね……こんな形で
         才能をコントロールできて、しかもそのきっかけが、絶望を振りまくようになった
         学園長だなんて……ああ、ごめん。僕みたいなゴミ以下の才能がどうなろうと、
         君達とは何の関係もないよね。こんな無駄な言葉を聞かせてごめんね?」

    こいつは学園長に特別な思い入れがあるみたいだ。

    花村  「ところでみんな、お腹が空いてきたんじゃないかな?」

    豚神  「そういえば……夜食にはちょうどいい時間帯だな」

    花村  「ここでちょっと休憩にして、ぼくの新作レシピを味見してよ!」ガラガラ

    そう言うが早いが、花村は厨房から白い布のかかった台車を運んできた。
    こいつの文字はたしか『食』だったな。天からレシピが舞い降りてくるとか?
    しかし、そんな予想を裏切って、台車にあったのは。
    104 : ヒヤコ ◆Xks - 2017/04/01(土) 10:39:47.50 ID:fPDAiR9v0 (+85,+30,+0)
    花村  「じゃーん!!"龍のヒレカツサンド―始のブラッドソースがけ―"だよ!!!」

    豚神  「!!?」ブッフォ

    西園寺 「はあ!?これ、まさか神蝕の……」

    花村  「うん!!始の時も"この化け物、肉質が柔らかそうだなあ"って
         思ってたら、お肉がフライパンの中に落ちていてさ、龍の時に試してみたら、お肉だけ取れたんだよ! 
         味は保証するから、どうぞ召し上がれ!!」ドヤァッ

    全員  「……」

    ソニア 「いえ、さすがに…その、ちょっと……生徒の皆さんの命を奪った敵の肉というのは……」

    西園寺 「えー、あんたらが普段食べてる家畜の肉よりは倫理的にありじゃん?
         だってこれは花村が狩ったものなんだからさあ。……ゲロブタ、あんたからね」クルッ

    罪木  「わ、わたしが食べるんですかぁ!?…うう、でも……私なんかの毒味でよければ……」

    日向  「やめろ罪木!まずは俺が」

    止める間もなく、ぱくんっとヒレカツを頬ばった罪木。その顔がみるみるうちに赤くなって、

    小泉  「蜜柑ちゃん!?大丈夫っ、お水飲む!?」

    花村  「ごっ…ごめんなさいぃ!!変なもの作って「おいしい……」……へ?」

    罪木  「す、すっごくおいしいです!お肉もやわらかくて、ジューシーで…今まで、食べたこと
         ない味です……「感想言えっつってるの。気ィ利かせろよゲロブタ」
         ええと、味は鶏肉をもっと濃くしたみたいで……食感は銀ダラみたいな……」モグモグ

    豚神  「こっちの緑の皿は、シチューか?……!!なんだこれは……この世のものとも
         思えぬ味わい……スプーンが止まらないぞ!!」ガツガツガツ

    田  「じゃあ唯吹も食べるっすー!…うっひょー!!噛むごとにアドレナリン的な何かが染み渡るぅぅぅ!!」ガシッ

    左右田 「お、オレはぜってー食わねーぞ!食ったら元に戻れない気がす…「えいっ、和一ちゃんにも
         おすそわけっすよ!」……うんめえええ!!!今まで食ってた肉はなんだったんだ!?」ガツガツガツ

    元々中毒性の高い料理を作る花村だったが、調理された蝕の肉は本当に旨かった。
    そういえば、人肉は一口食べると他の肉が食べられなくなるとか、本で読んだな……。

    日向  (……口の中の肉が、粘膜にじんわりと旨味を伝える。今までに感じたことのない味わいだ!!
         旨味の大洪水というのがふさわしいかもしれない……!!)

    左右田 「」ガツガツ

    狛枝  「ああ、素晴らしいよ……!僕の胃袋がもっと、もっとと求めている……!!」バクバク

    日向  (目をぎらつかせて肉にかぶりつく仲間たちを見て、正気に戻った俺はそっと箸を置いた……)
    105 : ヒヤコ ◆Xks - 2017/04/01(土) 10:40:14.62 ID:fPDAiR9v0 (+95,+30,+0)
    【翌日】

    一時間目の国語を終えて、俺たちは窓の近くに集まっていた。神蝕まで、残り10分を切っている。
    今日は通常型が来るという予想だったが、『始』から言って、命の危険があるのは間違いないだろう。

    日向  「もうすぐだな……ん、罪木?」ギュッ

    罪木  「あ、あのう…その……日向さんがお嫌じゃなかったら……」

    日向  「分かった。一緒に行こう」

    罪木  「ふえっ!?な、なんで私の言いたいことが分かるんですかぁ!?」

    日向  「エスパーだから……いや。俺も一人は怖いから、かな」

    そういえば、学園長室はこの校舎の四階にあったな。生徒たちが神蝕へ向けて動いている今なら、
    様子を見に行っても誰かに見咎められたりはしなそうだ。

    日向  「狛枝、不測の事態に備えてお前の"幸運"を頼ってもいいか?」

    狛枝  「えっ……こんな肉体にも精神にも起因しないゴミ以下の才能を、
         超高校級の希望があてにしてくれてるの?そんなわけないと思いたいけど、
         もしそうなら「ついて来い」……分かった」コクン

    罪木とは違う方向に卑屈なだけなんだが、いちいち相手をムカつかせるのが狛枝の不運な所だと思う。

    豚神  「気をつけろ…学園長のことだ。何か対策をしている可能性は高い」

    日向  「やっぱりお前には分かってたか。少し覗いて帰るだけだから、心配するな」ガラッ

    俺たち3人は教室を出て、階段を上った。まず、職員室をこっそり覗く。
    中では先生モノクマが何体か働いていた。人間の気配はない。次に、学園長室の扉の前に立つ。

    日向  「ちょっとでも中が見えたらいいんだがな……」

    狛枝の幸運が作用してくれたら――「そこで何をしてるの?」

    戦刃  「学園長先生に何か用?」

    狛枝  「君こそ……学園長のボディガードか何かかい?僕たちはただ、散歩していただけさ」アハハ

    戦刃  「私の許可なくそこに入ることは許さない。今すぐ退いて!!」ブンッ

    日向  「手榴弾!?」サッ

    ドカーンッッ

    罪木  「きゃあああ!?か、髪の毛が熱っ……」パッパッ

    日向  「だ、大丈夫か罪木!!……か、髪の毛が燃えっ……消してやるから落ち着け!!」

    俺は急いでブレザーを脱いで、罪木の頭を叩く。髪に燃え移った炎が消えると、
    罪木は尻餅をついたままぐすん、ぐすんと泣きだした。

    狛枝  「あーあ、派手にやったね。僕が吹き飛ばしたのよりはだいぶ威力が小さいけど」

    これじゃ停学は免れないね、と白々しい感想を言いながら、狛枝は両手を上げた。

    戦刃  「まだシラを切るつもり……?だったら、私にも考えが「な、何これ!?」……盾子」

    狛枝  「ナイスタイミング、江ノ島さん」ボソッ

    走ってきた江ノ島は、吹っ飛んだ扉と俺たちを見て「お姉ちゃん!!」と戦刃の頬を張った。

    戦刃  「ッ、……!」ジンジン

    江ノ島 「学校の中で銃火器は使っちゃダメって、何回も言ったじゃん!ほら、日向センパイたちに謝って!」

    戦刃  「……ごめん、なさい」ペコッ

    江ノ島 「もう……ごめんね。お姉ちゃんったら、ドジな上につい傭兵の血が騒いじゃうみたいでさ。
         このお詫びは蝕が終わった後にするから……ほら、さっさと行くよ!」ズルズル

    江ノ島が姉を引きずっていくと同時に、狛枝は「僕の能力、分かってもらえたかな」と笑っている。

    狛枝  「幸運の"運"は、運ぶ、巡らせるという意味があるんだ。戦刃さんの運勢を操作して、
         妹に怒られる不運を与えるくらいは簡単にできるんだよ」

    俺たちはそこで、誰からともなく振り返った。学園長室の固い扉が
    戦刃のおかげで破壊されて、中に入れるようになっている。
    これが狛枝の幸運パワーか!……夕飯のからあげ半分で手を打とう。
    106 : ヒヤコ ◆Xks - 2017/04/01(土) 10:40:44.39 ID:fPDAiR9v0 (+95,+30,+0)
    罪木  「でっ、でもぉ……おかしく、ないですか?こんな大きな音がしたのに、誰も来ないなんて……」

    日向  「職員室の先生モノクマも同じ動きを繰り返していたしな。ただのプログラムだろ。
         おまけに見てみろ、誰もいない」

    俺は瓦礫を跳び越えて中へ入った。艶やかなマホガニーの机。きっちり整理された本棚。来客用の革ソファ。
    全部がきれいすぎる。誰かがいた気配なんてまるでない。

    日向  「夜時間と朝の放送は、ここから行われていたんじゃなかったのか……」

    そこで、床にしゃがみこんでいた罪木が「こ、これ…落ちてたんですけど」と拾って見せた。

    日向  「人形……だよな?神社とかに奉納するやつだ」

    罪木  「あ、あのぉ…学園長先生って、いつの間にか消えてたり……ほんとに人間なのかなって
         疑っちゃいますよね……ふゆぅ、ごめんなさい!偉そうに"疑っちゃいますよね"なんて
         言っちゃって…でっ、でもっ…日向さんがそう思ってないなら……」

    日向  「いや、その意見に賛成だ。問題はこの人形が、学園長が生き返ったこととどう関係があるのか……」

    狛枝  「ますます謎が増えていくね。この先にどんな希望が見えるのか…今から楽しみになってきたよ。
         君が嫌じゃなければ、これからも協力を惜しまないつもりだけど?」

    日向  「まずは今日の蝕を乗り切ってからだな」

    狛枝  「分かった……あと一分か。僕達も外へ出たほうがいいよ」

    腕時計を見た狛枝が先に立って走る。階段を駆け下りて一階に出た所で、校庭に真っ黒な影が落ちた。

    カッ!!

    空島が太陽にぴたっと重なって、一瞬だけ光る。『始』と同じ黒い円が地面に浮かんで、そこから
    ずるっ…と化け物が出てきた。鬼だ。一つ角の鬼が、手に大きな団扇を持って、『祭』と書かれた
    ハッピを着ている。靴箱の所にいた江ノ島の隣にも円が出て、鬼が飛び出してきた。

    江ノ島 「うぅっ……毎回毎回、ほんっとうざったい!!」カッ


    "魅(み)"


    江ノ島の手から小さなハートが出て、鬼の額に『ぺたっ』と貼りつく。
    さっきまで殺意をみなぎらせていた鬼はあっという間に目をハートにして、ボディガードのように
    ぴたっと江ノ島の隣についた。

    日向  「あの文字が、絶望していた頃の江ノ島になくてよかったな」

    そのまま同じ鬼をなぎ倒していく鬼を見た俺の呟きに、狛枝と罪木が赤べこのようにブンブンと頷いた。
    罪木は、絶望から解放された今でも江ノ島に特別な思い入れがあるらしい。

    霧切  「祭……元は供物を捧げ、奉るという語源……私たちを殺してその死体を供物にするのが目的と
         いうのでしょうけど、そうは行かないわ」タッ

    走る霧切の向こう、校庭のど真ん中に、炎が立ち昇る祭壇が見えた。鬼たちは生徒の死体を運んでは、
    その炎に投げこんで、ケタケタと陽気に踊っている。

    霧切  「弱点は頭と心臓……人間と変わらないのね」スッ

    ホウキを構えた霧切は、そのまま鬼の頭にフルスイングした。ぐしゃっといい音を立てて倒れる鬼に、
    苗木が「ひいっ!?」とおびえている。

    苗木  「き、霧切さん!僕の制服に血がかかって……うわあ!!こっちに来ないで!!」ブンッ

    モップで鬼の団扇を弾き返した苗木の背中から、腐川が「しょうがないわね…」と進み出た。
    持っていた文庫本を開いて、眼鏡を直す。

    腐川  「"我輩は猫である、名前はまだない"!!」カッ


    "語(かたり)"


    光がおさまると、腐川の背後に巨大な三毛猫が現れた。ぎょろぎょろと目を動かし、鬼を見つけると
    「ニャーゴ」と鳴いて、その大きな前足で叩き潰す。ぐちゃっ、ぐちょっと嫌な音をたてて飛び散る鬼を
    見ないように目をつぶった腐川は、「"すると嘉助が突然高く言いました"」と続ける。

    腐川  「"そうだ、やっぱりあいづ又三郎だぞ。あいつ何がするときっと風吹いてくるぞ"」カッ

    ゴオッと風が吹いて、腐川に飛びかかろうとしていた鬼が吹き飛ばされた。

    又三郎 「……」

    天井にとんっと両足をついた赤毛の少年。マントの向こう側が透けて、きらきら輝いていた。
    風の又三郎がマントを翻すたびに、風が吹き抜ける。飛ばされた鬼は廊下の壁に背中を叩きつけられて、
    びくん、びくんと痙攣した後、動かなくなった。
    107 : ヒヤコ ◆Xks - 2017/04/01(土) 10:41:31.13 ID:fPDAiR9v0 (+95,+30,+0)

    苗木  「す、すごいね……腐川さん。さすが"文学少女"だね」

    腐川  「な、何よ……あんたに褒められたって、白夜様に比べたら一ミリの価値もないんだから……」ポッ

    苗木  「褒めてるってことが分かってもらえただけで嬉しいよ(腐川さんも少しずつ進歩してるんだなあ)
         ……あぶなッ!?」ビュンッ

    日向  「向こうは団扇の分リーチがある……飛び道具の方がよさそうだな」カッ


    "変(へん)"


    俺はポケットティッシュを拳銃に変化させると、両手に構えて鬼の頭を狙う。

    パンッ!!

    反動で手が持ち上がったのを、狛枝が受け止めて「跳弾には気をつけてね」とアドバイスしてきた。
    くそ、九頭龍に撃ち方を習っておくべきだった!

    狛枝  「跳弾は素人だと避けづらいし……二人の幸運を操作して、回避率を上げておくよ」カッ


    "運(うん)"


    罪木  「あ、あれ?体があったかいですぅ……」ポワポワ

    日向  「それに、心なしか体が軽くなったような…危ないっ!!」ビュッ

    鬼の団扇が、俺の耳ギリギリのところをかすめる。攻撃を危ない所で避けた俺は、そのままカチャッと銃を構えて、
    そいつの脳天に弾丸を撃ちこんだ。回避からの見事な反撃……これが狛枝の文字か。

    日向  「そうだ、苗木に武器をやっとくか」ギュッ

    俺はポケットから鉛筆を取り出して握りこむ。パアッと光が出て、鉛筆は細身の槍に変わった。

    日向  「苗木、受けとれ!!」ブンッ   苗木  「!?」パシンッ  日向 「それをお前の武器にしろ!」

    苗木  「……ありがとう、日向クン」

    槍を受けとった苗木は、お礼を言って鬼を薙ぎ払う……と、次の瞬間又三郎の風に吹き飛ばされた。
    廊下をゴロゴロと転がって、消火器でしたたか背中を打った苗木に、腐川の怒声が落ちる。

    腐川  「ドジ、ちゃんと下がってろって言ったじゃない!!」

    苗木  「あ、あの……せめて"大丈夫?"くらいは……言って、ほしいかな」ゴホゴホ

    ……あいつは本当に『超高校級の幸運』なのか。
    そうこうしているうちに、蝕の時間が終わった。陽気に踊っていた鬼達の動きが止まって、すうっと消えていく。

    『祭』
     死亡者数:56名
     生存者数:1524名
     総生徒数:1524名  】

    罪木  「わ、私は保健室に行ってますねぇ……「ゆっくり歩けよ。血で足が滑るぞ」……は、はいぃっ!」トテトテ

    狛枝  「回避率UPの効果はまだあるから、保健室に着くまで転ぶことはなさそうだね」

    日向  「……この際ハッキリさせておこうか。狛枝、お前は蝕についてどう思ってるんだ?」

    狛枝  「どう、って……希望をより輝かせるための試練だと思ってるよ。そういう意味では学園長と近い考え
         かもしれないね。でも……正直、僕の信念は少し揺らぎかけているんだ。答えが出るまではまだかかり
         そうな気がするよ」

    日向  「そうか……」

    狛枝  「安心してよ。生きるも死ぬも君達次第なんだから。僕はゆっくりとその行方を見守らせてもらうよ」スタスタ

    日向  (……あいつが歪んだ理由も俺は知っていて、だけど認めることができなかった。それはただ、
         自分達に危害が加わると思っていたからで)

    日向  (それがないと知ってやっとあいつを仲間として認める気になっている。俺は、やっぱり不完全なんだな)

    日向  (……やめよう。まずは仲間の無事を確認するんだ)

    そう思い直した俺の耳に、「きゃあああ!?」という悲鳴が届いた。
    108 : ヒヤコ ◆Xks - 2017/04/01(土) 10:42:00.23 ID:fPDAiR9v0 (+93,+30,+0)
    日向  「今の声、罪木か!?」

    保健室の方へ走る。負傷した生徒でごった返す入口をかき分けて中に入ると、血まみれの江ノ島が
    ベッドに横たわっていた。

    罪木  「江ノ島さん、しっかりしてください!…あなたが、あなたがいなきゃ、私……」

    日向  「これは……一体「やられたの」……戦刃」

    江ノ島の手を握る戦刃は、「盾子は、"魅"に制限時間があることを知らなかったの」と呟く。

    戦刃  「盾子の文字は、敵を魅了する能力……だけど、魅了できるのは三体まで。おまけに
         制限時間があって……魅了した敵が多いほど、短くなる。私が気がついた時には、鬼の団扇で頭を……」

    日向  「超高校級の分析能力……絶望時代のあれがあったら、一瞬で察したんだろうに」

    罪木  「ううっ……」

    肩を落とす戦刃の隣で、罪木は泣きながら文字を解放する。


    "癒(いやし)"


    右手のひらにハート、左手のひらに十字のマークが浮かび上がった。罪木の手から出る光が、江ノ島を覆う。
    鬼にかち割られた頭の傷は少しずつ塞がって、血が止まる。しかし、体の修復があらかた終わっても、
    江ノ島の目は開かない。それどころか……

    日向  「こいつ、呼吸が止まってるぞ!」

    罪木  「ど、どうしましょう……江ノ島さんの脈が、どんどん弱く……」

    戦刃  「!?」ガタッ

    日向  「何とかならないのか!?」

    罪木  「わ、わたしの文字では体を修復するのが限界でっ…そ、それも完璧には無理なんですぅ!!はわわ、
         そんな事説明する暇があったら人工呼吸でもなんでもしろって話ですよねぇ……!!」

    罪木が江ノ島の顎を持ち上げ、まさに口付けようとした所で。

    ガラッ

    保健室の扉が開いた。

    九頭龍 「よお、罪木いるか?ちょっと肩入れなおして……って、江ノ島!?」

    入ってきたのは九頭龍だった。鬼との闘いでダメージを負ったらしく、右肩をおさえている。
    ベッドに横たわる江ノ島を見ると、つかつかと寄ってきて「江ノ島!!」と呼びかけた。

    九頭龍 「……いつまで寝てんだ絶望キ〇ガイ!!起きやがれ江ノ島盾子!!」ユサユサ

    日向  「やめろ!下手に揺するな!」

    戦刃  「絶望キ…盾子ちゃんを馬鹿にしないで!!」

    九頭龍 「テメエは最後の蝕が終わった後にオレがブチ[ピーーー]って決めてんだよ!!
         んなチンケな蝕で死んでんじゃねえ!!!」

    瞬間。仄白い光が江ノ島の胸元にともった。びくん、とかすかに痙攣した江ノ島が、ゆっくりと目を開ける。

    江ノ島 「……あせったー。おばーちゃんがお花畑で手振ってた」

    罪木  「え、江ノ島さぁん……?」グスッ

    江ノ島 「盾子ちゃん大復活!!なんちて…えっ、罪木センパイ!?」

    罪木  「よかった……よかったです……!江ノ島さんが生きててくれて……」ギューッ

    九頭龍 「チッ、悪運だけは強い奴だな」

    江ノ島 「ちびっ子ギャングはあたしになんの恨みがあるわけ!?あと罪木センパイ、そろそろ
         離れいたたたた!!」

    罪木  「はわぁぁ!!わ、私ったら嬉しすぎて力加減をまちがっ……ごめんなさぃぃ!!おわびとして好きな所に
         落書きしていいですからぁ!!」ガバッ

    日向  「やめろ、脱ぐな!!」

    江ノ島 「よーし、じゃあお言葉に甘えてそのパイオツに「お前も乗るな!!」
    109 : ヒヤコ ◆Xks - 2017/04/01(土) 10:42:29.43 ID:fPDAiR9v0 (+95,+30,+0)

    【食堂】


    20年の短い人生の間で、全知全能になったり世界を破壊してみたりバーチャルでコロシアイをしてみたり。
    もう脳が許容量を超えてしまったというか、たいていの事では驚かないくらいの体験をしてきた。

    でも。

    今、目の前にあるこいつは。

    日向  「な、七海……?」

    ナナミ 「……うん。私だよ、七海千秋だよ……会いたかった、日向く」がくんっ

    日向  「な、七海……七海!?」

    左右田 「あーあー、エネルギー切れか。ちょっと補給してやっから待ってろよ」ゴソゴソ

    トレイを持ったまま立ち尽くす俺をよそに左右田は、椅子にぐったりと座った七海のうなじにコードを繋ぐ。
    七海の頭がパカッと左右に開いて、中の基盤が丸見えになった。左右田はそこに手を突っこんで
    何か調節している。

    日向  「七海……お前、生き「おいおい日向……よく見ろよ、これが人間の関節か?」

    よく見ると、黒いワンピースから覗く手足は球体関節だった。
    目を閉じた七海の顔も、そっくりに造ってあるだけの人形だ。

    俺の反応が思わしくないのを見て、左右田は「なあ、なんでそんな顔してんだよ」と不満げだ。

    左右田 「オメーがあんまりショック受けてたみたいだからよ、七海を生き返らしてやったんじゃねえか。
         そりゃ飯は食えねーし生身じゃねーけど、ちゃんと日向のことも覚えさせたんだぞ。
         あ、そっか。ゲームできなきゃ七海じゃねーよな。うっし、待ってろ!今ちょっと人工知能の
         基盤作り変えてやっからよ!!」

    日向  「違う……こいつは、七海じゃない……」

    左右田 「オメーの言わんとすることは分かっけどよ、七海だってプログラムだったんだろ?
         このナナミ-Rと何がちげーんだよ」

    日向  「違う!!七海には魂があった!!!心もあった!!!お前が……お前がやったのは、七海の死への冒涜だ!!」

    左右田 「だから、人間の七海はとっくにあの世行ってんだろ!!いつまでもプログラムにこだわってねーで
         前向けよ!!そのために七海の見た目が必要ならオレが造ってやったこいつを使えばいーだろ!?」

    日向  「そんなッ……そんなことを、言うなぁぁぁ!!!」


    気がつくと、俺の拳が左右田の頬を殴っていた。
    殴られた左右田は床に転がって(なんでだ)と言いたげな目で俺を見上げる。
    それ以上何も言う気になれなくて……俺はさっさと食堂を出た。

    □ □ □ □ □ □

    ざわついていた食堂が、少しずつ静まっていく。小泉は「あのさ……」と言い辛そうに肩をすくめた。

    小泉  「アタシは……左右田の意見も分かるよ。だけど……日向は、千秋ちゃんのこと、本当に好きだったんだよ。
         ……だから、あんなストレートに言うのは、ちょっと……」

    豚神  「しかし、左右田にしてみればよかれと思ってしたことだ。一方的に責めるのも不公平だろう?」

    小泉  「だけど……!人の心があったら、あんな言い方「今、こいつを人非人と表現するのは、人として
         正しいことか?」……う」

    豚神  「お前は自分の感情に振り回されて、本質を見られない所がある」

    豚神  「だが左右田、日向の怒りはプログラムの七海を否定されたことだけではないと思うぞ。
         そこにいる七海の姿をした人形……お前がそれを道具として軽んじたと、感じたのではないか?」


    ―― 七海の見た目が必要なら、オレが造ってやったこいつを使えばいーだろ!?

    ―― そんなッ……そんなことを、言うなぁぁぁ!!!


    左右田 「……!!」

    豚神  「人間の心は、機械のように測定できないからな。……そのケータイは別のようだが」

    セブン 『白夜、私はケータイではない。フォンブレイバー・7だ』

    テーブルの上に置かれた左右田のケータイが、パカッとひとりでに開いた。
    真っ暗な画面に、緑色のドットで出来た目と、レベルメータの口が表示される。
    110 : ヒヤコ ◆Xks - 2017/04/01(土) 10:43:21.34 ID:fPDAiR9v0 (+95,+30,+0)
    セブン 『……君たちは、"絶望"と呼ばれる存在だったと聞いた』

    左右田 「んだよ、またお説教か?」

    セブン 『絶望も希望も、同じ"望"という漢字が入る。すなわち、元は一つということだ。
         和一、君が望むなら、そのどちらにも立つことができる。だがあえて絶望を選ぶ理由があるなら、
         私は止めはしない。ただ』

    左右田 「ただ?」

    セブン 『君のHDDに隠している秘密がどうなるか、保証はできない』

    左右田 「ぬあっ!?お、おまっ……ケータイのくせに人間を脅迫すんのか!!?」

    セブン 『……ふっ。それが嫌なら、君のすべきことはただ一つ。……創を探し出し、分かり合うことだ。
         創の心はまだ、君の圏内にある』

    左右田 「……だーっ、くそ!!」ガタッ

    セブン 『待て、創を追いかける前に私をバッテリーに繋いでくれ。そろそろ充電が「わーったよ、ほれ!!」……では、
         しばらくスリープモードに入る。健闘を祈るぞ、和一』プツンッ…

    カシャッ。

    左右田があわただしく出て行った後の食堂で、小泉は充電中のセブンをカメラに収めた。

    小泉  「ねえ、このケータイって左右田の文字のせいで動くの?」 

    豚神  「いや……セブンの話によると、"引きよせられた"というのが正しいらしい。気がつくと、
         左右田のケータイに入っていたとか。左右田の文字が偶然発動したんだろうな。
         "アンカー社を知らないか"とか、わけの分からない質問をしてくるが、悪い奴ではない」

    小泉  「ふーん。左右田の文字って、機械に魂を入れられるんだっけ……じゃあ、千秋ちゃんの中に入ってるのも?」

    豚神  「いや……あれはただ、教えこまれた情報を再生するだけの機械だ。七海千秋の人格はないだろうな」

    小泉  「そっか。なんだか、さみしいね……」

    二人の視線の先には、開きっぱなしの頭から青い電流を放つ七海の人形がいた。
    111 : ヒヤコ ◆0tW - 2017/04/01(土) 12:32:27.69 ID:b2tuWQ8/0 (+24,+29,-2)
    一旦切ります。
    多分今日はここまで。
    112 : 以下、名無しにか - 2017/04/01(土) 12:57:30.80 ID:M4tIeY8B0 (+22,+29,-6)

    これ終わるのしばらく先そうだな
    113 : 以下、名無しにか - 2017/04/01(土) 22:03:18.62 ID:Z1htlMkA0 (+28,+29,-38)

    江ノ島が蘇生したのは九頭龍の文字が関係してるのかな…?
    114 : ヒヤコ ◆Xks - 2017/04/05(水) 12:18:14.43 ID:pssxomK80 (+30,+30,+0)
    >>112
    このスレで終わるかどうかも怪しくなってきた。

    >>113
    九頭龍の文字は次回あたりで出したいな。



    【朝日奈の部屋・ドア】


    朝日奈 「あっちゃー、それはまずかったね……たぶん、日向のやつ激おこだよ」

    ちょっと日向に同情しちゃう、と朝日奈は肩をすくめた。
    まあ、ラブドールの七海でガマンしろっつったようなもんだしな。オレも"なんとなく"気持ちは分かるけど。

    大神  「メールを送ってみたが、返事はない……日向の方もよほど参っているようだな」

    電子生徒手帳を眺めて、大神はため息。

    朝日奈 「学園中走り回って探すのはきついっしょ、葉隠のバカに占わせよっか?」

    「さくらちゃん殴った件ダシにしたら、タダで占ってくれんだよあいつ!」と朝日奈。
    自業自得とはいえ、ちょっと葉隠が可哀想になってきた。


    左右田 「……いや、そこまで面倒かけんのはわりーし、自分で探すわ」

    朝日奈 「そっか。じゃあせめて、このドーナツBOX持ってきなよ」ドサッ

    左右田 「いーのかよ、これオメーらのおやつだろ?」

    朝日奈 「いや、お腹がいっぱいになったら許してくれるかもしれないじゃん?」

    大神  「日向がそこまで単純な男とは思えんが……空気を和ませるという意味では必要かもしれぬな」

    左右田 「なんかほんと、サンキューな……オレがバカやっただけなのに」

    朝日奈 「いいよ。その代わりこれ朝5時から行列できる限定セットだから、今度買ってきてね!!」グッ

    大神  「明日の蝕が無事で済むとは限らん……喧嘩など生きているうちしかできぬ」

    左右田 「分かった…じゃあ、「和一ちゃーん!!いたいた、やっと見つけたっす!!」……澪田?」

    田  「もーっ、めっちゃ探したんすよー!!はいこれ、係のお知らせっす!」

    押しつけられたプリントには、『学園長からのお知らせ』とある。
    どうやら学園長が、俺たちの係を勝手に決めてくれたらしい。


    田  「和一ちゃんは"介錯係"に決まったっす!!」

    左右田 「は?かい…なんだって?」


    聞き間違えの可能性も考えて聞き返すと、澪田は「死にかけの生徒にとどめを刺してあげる係っす!!」と
    恐ろしい答えをくれた。

    左右田 「待て待て待て!!んなこええ係があってたまっかよ!!!」

    大神  「我のところにも来たぞ。なんでも"毒味係"とか……他にも"切腹係"や"影武者係"というものもあるらしい。
         学園長はどうやら、クラスの係というものを理解していないようだな」

    朝日奈 「あれっ、私は飼育係だったよ?」きょとん

    左右田 「いいなあフツーの係!代わってくれよ!!」

    朝日奈 「あー…代わってくれるなら代わってほしいというか……」ずぅぅーん
    115 : ヒヤコ ◆Xks - 2017/04/05(水) 12:19:26.73 ID:pssxomK80 (+95,+30,+0)


    【回想・屋上庭園】


    朝日奈 『飼育係かあ……なんかすっごい嫌な予感する』てくてく

    朝日奈 『あれ?あそこの紫のマフラー、なんかすごく見覚えが……』

    田中  『むっ、我が結界を破ったのは貴様か!』

    朝日奈 『げっ!?』

    田中  『再びあい見えるとは思わなかったぞ、徒花のウンディーネよ!
         我らには何らかの縁があるらしいな……ではさっそく、魔獣どもに
         魔力を供給する手伝いを頼もうか!』

    朝日奈 『やっぱり……』ずぅぅーん

    _____________


    朝日奈 「……それだけじゃないんだよ、図書委員も夏のプール大会の実行委員も田中と一緒なの!
         もうこれ、なんかの呪いじゃない!?」

    左右田 「なんつーか……うん。がんばれ……」

    田  「ちなみに唯吹は"雨乞い係"っす!」

    左右田 「おお、責任重大じゃねーか」

    田  「はい!今さっきおんなじ係の紋土ちゃんと千尋ちゃんにお知らせしてきた所っす!
         ホラ貝担当として、明日からのステージは盛り上げてくっすよー!」

    左右田 「ほ、ほら貝……雨乞いってそんなもんだっけ?」

    田  「経験はないっすけど、ソウルがあればどうにかなるっす!!」むふー

    プリントを見ると、介錯係はオレと終里、辺古山、日向、松田の5人らしい。
    ……松田?

    左右田 (超高校級の神経学者、っていうと……松田夜助だよな)

    頭ん中に、目つきの悪いロン毛が浮かぶ。あいつも生き返ってたのか?
    じゃあなんで授業も全部バックれてんだあいつ。

    左右田 (それより、目下の問題は日向だな。明日は隔離型が来るし、さっさと探して話し合わねーと)


    しかし、日向の怒りはすさまじかった。
    ドーナツは受け取り拒否。大浴場ではフルチンで逃げられ、個室のインターホン連打もシカトされた。

    ……もしかして、オレたちこのまま絶交とか……ねえよな、うん!!だってオレらソウルフレンドだかんな!!


    左右田 「そうと決まればさっさと寝るか……明日は蝕だし」ゴソゴソ

    左右田 「…………」

    左右田 「明日死んだら、オレは日向と仲違いしたまんま死ぬんだな……」グスッ
    116 : ヒヤコ ◆Xks - 2017/04/05(水) 12:20:01.49 ID:pssxomK80 (+93,+30,+0)


    【朝・食堂】


    オレの文字のせいで喋るようになったとはいえ、ケータイに説教されるというのはあんまりいい気がしない。


    セブン 『和一。カロリーメイトだけでは空腹はおさまらないぞ。
         そんなバランスの悪い朝食で、命がけの試練を乗り切れると思うのか?』ピロンッ

    左右田 「それどころじゃねーよ!!今のオレには蝕より親友の怒りの方が大問題なんだよ!!
         メールも返ってこねーし、これはいよいよやべーぞ……」もぎゅもぎゅ

    田中  「貴様の自業自得だろう……いっそ、あの人形を破壊して特異点に許しを乞うのはどうだ?」

    セブン 『……それでは、かえって火に油を注ぐことになると思うぞ』

    左右田 「あああ、オレはなんてバカなことを言っちまったんだ……!」

    頭を抱えるオレに、向かい合って飯を食う田中は「怒りが解けるのを待つしかないな」と
    珍しく役に立つアドバイスをくれた。

    ソニア 「あら、おはようございます田中さん、左右田さん」

    左右田 「間が空かなくなっただけでも嬉しいです」キリッ

    ソニア 「今日は隔離型が来るそうですね……できればこの3人でチームになれたら嬉しいのですが」

    左右田 「えっ!?」ガタッ

    田中  「何を期待している。俺と雌猫は"始"から共に行動しているが、雌猫は体力が足りないからな。
         俺一人では守り切れない可能性があるから、というだけの話だ」

    左右田 「あ、そうですよね……分かってましたよ、はい」

    ソニア 「あら。左右田さんと一緒に行きたいとおっしゃったのは、田中さんじゃありませんでした?」

    田中  「なっ……俺が雑種の力にひれ伏すなど、万に一つもありえ「もしかして……オレと仲良く
         なりたいとか?」……今すぐ口を閉じろ「……はい」しかし、残酷な審判の刻まで猶予がないな……」

    左右田 「あと5分しかねーじゃねーか!!」ガタッ

    ソニア 「日曜日ですから、つい朝寝坊してしまいましたね。チョベリバですわ」

    左右田 「チョベリバどころじゃねー!!つーか、ナナミ取ってこねーと!!」ガタッ

    セブン 『私を七海に装着してくれるという話はいつやってくれるのかね』

    左右田 「あーあー、帰ったら即やってやる!!丸腰で蝕なんてゴメンだ!!」ダッシュ


    そうやってオレが焦ってる間にも、時計の針は進んで――


    カッ!!


    窓から見える空島が、太陽と重なってものすごい光を放った。


    【日向創:Chapter3『夢』(ユメ)】


    日向  「ん……」むくっ

    日向  「無事に転送されたか……隔離型ということは、あと二人いるはずだ。早めに合流しないとな」

    ポケットからボールペンを取り出して、指先で回しながら歩く。
    今回の蝕は、雰囲気が重苦しい。暗く、淀んだ灰色の空。瓦礫の広がる地面。赤い水で満たされた池――。
    子供のころお寺で見せられた地獄絵図が思い出された。
    117 : ヒヤコ ◆Xks - 2017/04/05(水) 12:20:34.31 ID:pssxomK80 (+90,+30,+0)

    日向  「そんなに広くないな。どこかに出口が……、誰だ!」ブンッ

    ボールペンを刀に変化させて構える。瓦礫の影にいた奴は「ひいっ!」と情けない声をあげた。
    やがて出てきたニット帽に、オレはゆっくりと刀を下ろす。地面にへたりこんだ左右田の背中を、
    「しっかりする!」と小泉が叩く。

    小泉  「左右田と会う前に歩き回ってみたんだけど……出口っぽいものはなかった。
         広い道が一本あったけど、まずは合流しようと思って帰ってきたの。
         歩く間に敵にも合わなかったから、そんなに怖い蝕じゃないかもね」

    日向  「危ないだろ。もし敵が出てきたら――「アタシは、それくらいしか役に立てないし」

    小泉  「分かってるわよ。油断大敵、でしょ?」


    一方、その頃。


    霧切  「奥に行きましょう。そこに夢の主がいるはずよ」カッ

    蝕の解析を終えた霧切が先に立って歩く。

    西園寺 「さんせーい!ゲロブタの息で汚れた空気吸うのも限界きてたところだし、早く行っちゃおうよー!」

    罪木  「あれ……?」

    霧切  「どうしたの、罪木さん?」

    罪木  「あ、あの赤い水……なんでしょう、かね……池、みたいに見えますけど……」

    霧切  「さあ、手がかりがあるかしら?どうやら危険ではなさそうよ」

    西園寺 「ふーん……じゃあ、あんたが行って調べてきてよ!」ドンッ

    罪木  「へっ……きゃあああ!?」ドボーン

    霧切  「罪木さん!……あなた、何を考えてるの?危険では"なさそう"というだけなのよ」

    怒る霧切を、西園寺は反抗的な目で見上げる。そんな二人の後ろで、罪木がザバアッと上がった。

    罪木  「ゲホッ、げほっ…!う、うっ…!」ビシャビシャ

    霧切  「隔離型は3人1組でのクリアが絶対。罪木さんとの禍根は知っているけれど、
         協力してもらわなければあなたも死ぬわよ」

    分かっているの?と問われて、西園寺は言葉につまった。居心地が悪そうに
    もじもじと指を突きあわせる。

    西園寺 「う……」

    西園寺 「だって、だって、分かんないんだもん……どうやって接すればいいのかなんて……!!
         あんたとチームになるなんて、思ってなかった!!」

    叫ぶなり、西園寺はくるっと踵を返して走っていく。
    霧切は「使って」とハンカチを渡した。

    霧切  「追いかけましょう。西園寺さんの座標はまだ近くにあるわ」

    罪木  「は、はい!」
    118 : ヒヤコ ◆Xks - 2017/04/05(水) 12:21:39.49 ID:pssxomK80 (+95,+30,+0)
    _____________

    左右田 「あー……んじゃ、さっさと行こうぜ。オレも一応今回は武器持ってっからよ」

    小泉  「武器……って、あんたまさか」

    地面に膝をついた左右田は、抱えていたコンテナの鍵を外す。中に入っていたのは、七海だった。
    スイッチを押すと『ぱちっ』と目を開けて起き上がる。

    日向  「七海……」

    ナナミ 「…………」

    七海は微動だにしない。

    左右田 「あー、アクティブモードだからよ。喋ったりはできねーぜ」

    小泉  「あんたねぇ……千秋ちゃんに闘わせて自分は安全な所にいようってわけ!?」ぐいっ

    左右田 「お、オレが作った武器だぞ、それを使って何がわりーんだよ!!オメーなんて自分の文字も
         ろくに扱えねーくせによ!!」

    日向  「やめろ!!二人とも興奮するな!!……脱出するのが先だ「だって!」
         左右田、いいんだ。もう……絶望しなくてもいいんだ」

    左右田 「んだよ、分かったみてーな口きいてよ……」

    日向  「だから……何が罪滅ぼしになるかとか、いい人ぶってるみたいで恥ずかしいとか、
         そんな事は考えなくていい。ただの左右田和一として生きていていいんだ。
         元はといえば……俺が元凶なんだから」

    左右田 「…………」

    日向  「今やるべきことをやるだけだ。……制限時間も心配だし、早く行こう」

    とはいえ、闇雲に歩いても出口は見つからない。とりあえず、小泉が探し当てたという道まで戻ってみた。

    日向  「これか……この奥に蝕の"主"がいるんだろうな。前の"龍"は鍵を探す試練があったけど、
         今回はどうなんだろうな」

    小泉  「あのさ、ここまで来て言うのもあれかもしれないけど……気づいた?」

    日向  「?」

    小泉  「この空間……影がないの」

    左右田 「うおっ、マジだ!?」

    日向  「俺たちの影も映らないか……龍の時はあったんだけどな。あとで霧切に聞くしかないか」


    ____________

    霧切  「影がない……ということは、私たちは精神体のようなものかもしれないわ」たったったっ

    罪木  「つまり、体は……」たったったっ

    霧切  「現実の希望ヶ峰学園にそのまま残っている。この蝕は"夢"でしょう?つじつまは合うと思うけど。
         もしここで死ねば、現実の体が取り残されることになってしまうかもしれないわ。
         気をつけていきましょう」

    罪木  「ふひいぃ……!じ、じゃあ…さっき西園寺さんを行かせちゃったのって……とっても
         危ないんじゃ……」

    霧切  「いえ。この蝕においての"敵"はただ一人よ……ただ、それがまずいの……」

    罪木  「ふえっ?」

    ___________
    119 : ヒヤコ ◆Xks - 2017/04/05(水) 12:22:36.59 ID:pssxomK80 (+95,+30,+0)


    さらに奥まで進むと……そこにいたのは、巨大な『女』だった。
    長い髪で、ニヤニヤと不気味な笑みを浮かべた女が、俺たちを見下ろしている。


    日向  「お前が主か?」

       『いかにも……妾はこの"夢"の主。人間の子が来るのはずいぶんと久しぶりよのう……されど、
         骨のなさそうな奴らよ』

    左右田 「んだと!?」

    日向  「やめろ左右田、挑発に乗るな!」

    しかし、時すでに遅し。
    飛び出した七海が、腕に仕こんだガトリングを女に向けて撃っていた。

       『ふん。夢も見られぬからくりが、無粋な真似を……』


    ――ドンッ!!


    『髪』がムチのようにしなって、七海を狙う。

    左右田 「あぶねえ!!……くそっ、オメーに任せた!」ブンッ


    ビシッと蜘蛛の巣状にひびが入ったが、
    床に縫いつけられた七海は悲鳴ひとつあげず、持ちこたえていた。

    日向  「七海!」

    左右田 「強化合金で作ってんだ……ちょっとやそっとじゃ壊れねーようにしてあんだよ」

    そう言ってニット帽をずり下げた左右田は、「もう、七海が死ぬとこは見たくねーかんな」と呟く。

    小泉  「左右田、あんた……」

    小泉  「……でも、今ので分かった。あの攻撃、私たちだったらひとたまりもない。うかつに
         手出さない方がいいかも……」

    そんな小泉の言葉が終わるか終わらないかのうちに、女は『退屈だのう』と自らの腹に手を当てた。
    瞬間、女の腹が『カパッ』と割れて、中から無数の手が出てくる。

    左右田 「ギャー!!なんだ、なんだこれ!!」

    小泉  「放して!……放しなさいってば!!」じたばた

    パンッ!!

    日向  「弾丸がきかない!?」

       『しばし、妾の夢を味わうがよい』

    _________

    ______


    左右田 「ん……ん?」ぱちっ

    左右田 「!?!?!?」


    あたりをきょろきょろと見回す左右田……は、ギロチンに首を落とされているのに気づくと
    「ぎゃあああ!!オレの首があああ!!」と期待を裏切らない叫び声をあげた。


    日向  「落ち着け左右田、痛くないだろ?」(十字架にハリツケ。血みどろ)

    左右田 「痛てえとか痛くねえとか、そういう問題じゃねーんだよ!!」

    小泉  「なんかよく分かんないけど……これが試練ってこと?悪趣味……」(in鋼鉄の処女。血まみれ)

    ナナミ 「…………」

    左右田 「あれ、なんで七海はなんともねーんだ?」
    120 : ヒヤコ ◆Xks - 2017/04/05(水) 12:23:11.34 ID:pssxomK80 (+95,+30,+0)

    日向  「あいつは文字がないから、蝕には巻きこまれないってことだろ。扱いとしては小泉のカメラと
         同列なんだろうな」

    小泉  「ちょ、千秋ちゃんをモノみたいに言わないでよ!事実かもしれないけど!
         そういえば、あいつ"夢の主"って言ってたっけ……」



    『……知恵の回る奴らだのう。これでは張り合いがない』

    『そなたらと遊んでもつまらぬ。どれ、出してやろう』


    女の声と共にパアッと光が満ちて、俺たちは元の姿に戻された。
    目の前に、三つの扉がある……。


       『その扉の行き先はどれも同じ……されど、一人ずつしかくぐれぬ』

    日向  「つまり、出口まではたった一人で行くしかないということか?」

       『それもまた、試練ぞ』

    左右田 「うう……こえーけど、しょうがねーよな……ん?」ギュッ

    小泉  「千秋ちゃんは一緒に行ってくれるってさ」

    日向  「じゃあ二人とも、学園でまた会おうな」ガチャッ

    小泉  「うん。気をつけてね」ガチャッ

    左右田 「……じゃ、あとでな」ガチャッ

    ぱたんっ。

    扉が閉まると、ひたすら真っ暗な空間が広がっている。足元は道になっていて、ずっと遠くに光が見えた。

    日向  「……よし、行くか」

    __________


    霧切  「西園寺さん!その女に攻撃してはだめ!!」

    必死の声に、扇を構えていた西園寺が「え」と目を驚きに見開く。巨大な女の手足にからまっていた糸が、
    はらり、ひらりと落ちていった。

       『ほう……あやつりの能力(ちから)か。なんとも味なものよの』

    西園寺 「わたしの文字が……きいてない!?」

    霧切  「その女は夢の主にして術者……文字の力がきかないの!下手に手出しをしたら……」

       『せっかく妾の夢を味わわせてやろうと思うたに、水を刺しおって。……消えろ、小娘ぇ!!!』カッ


    微笑んでいた女が、恐ろしい形相になった。両目はカッと見開かれ、
    ゆらゆらと揺れていた髪が逆立つ。


    霧切  「逃げて、西園寺さん!!!」

    がたがたと震える西園寺は、女の髪がしなるのから目を離せないままその場に立ち尽くしていた。
    121 : ヒヤコ ◆Xks - 2017/04/05(水) 12:23:41.37 ID:pssxomK80 (+88,+30,+0)

    バッ!!

    罪木  「ぐ、かはっ…!」ボタボタ

    西園寺 「ゲロブタ…あんた、何やって……」

    すんでのところで割って入った罪木の下敷きになって、西園寺には傷一つつかなかった。
    代わりに背中で斬撃を受けた罪木が、口からこぼれる血を手で受け止めている。

    罪木  「こ、こで……死ん、だら……西園寺、さんの、体……」ゴフッ

    罪木  「さ、さいおん…じ、さんの……着物、は……たかい、から……汚すわけにはっ……」ボタボタ

    西園寺 「な……こんな時に、何言ってるのよ……ほんとに、バカなんじゃないの、あんたっ…!」


    "癒(いやし)"


    罪木の体から光が放たれた。切り裂かれたブレザーの下、えぐれた肉が少しずつ盛り上がって、血が止まる。
    傷は一分ほどで、赤い痣を残して消え去った。


       『神にも似た力よの。……どれ、気が変わった。よいものを見せてもろうた礼をやる。ちこう』かぱっ

    西園寺 「げえっ!気持ち悪……」

    霧切  「……行きましょう」

    西園寺 「えっ?で、でも」

    霧切  「あの女の体内に出口があるわ。挑発に乗らずに黙っていれば、ほんの少し悪夢を見るだけで試練を
         突破できる。簡単な蝕だったのよ」

    西園寺 「…………」

    霧切  「あとはまっすぐ歩くだけ。……先に出て待っているわ」

    霧切は背中を向けて、女のぱっくりと割れた腹の中に飛びこむ。

    罪木  「じ、じゃあ私も……行きますねぇ……」ぴょんっ

    一人残された西園寺は、「きもいきもいきもい」と呟きながら、目をつぶって女の方へ歩く。

    西園寺 「…………何よ。ありがとうなんて、言わないんだからね」

    西園寺 「ありがとう、なんて……」

    西園寺 「……今さら、言えるわけないじゃん……あたしみたいな奴が」

    __________

    日向  「……ん、終わった……のか?」むくっ

    起き上がると、そこは元の広場だった。他にも何人か生徒が倒れている。ちゃんと胸が上下しているのに
    安心した。たぶん、この蝕では俺たちの意識だけが転送されていたんだろうな。

    日向  「"夢"か。その名のとおりってわけだな」

    ベンチに座ると、手の中に青い欠片が落ちてくる。今回はどんな記憶が入っているのか。
    前回は、江ノ島が死んだ後に絶望の残党たちを集めて演説しているカムクラが見えたが……

    日向  「今回はスプラッターのない記憶がいいな……」グッ


    ぱあっと光が満ちて。
    122 : ヒヤコ ◆Xks - 2017/04/05(水) 12:24:14.37 ID:pssxomK80 (+95,+30,+0)

    おさまった時、目の前にいたのは左右田だった。
    どうやらここは、奴のラボであるらしい。


    左右田 『おっ?カムクラさんじゃねーか。めっずらしーのな、こんな地下まで来るなんてよぉ、
         もしかしてオレに会いたかったとか?』

    ヒャハハハッと笑った左右田は、機嫌がいいみたいだ。
    手術台の上にベルトで縛りつけた『何か』をいじりだす。そいつは、左右田によく似た顔をしていた。

    『んーっ!!ぐ、んぐっ、んうぅぅーー!!!』

    猿ぐつわをはめられた全裸の男が、必死に体をばたつかせている。
    きっと、左右田が年を食ったらああいう感じになるんだろうな、と思うと同時にカムクラが聞いた。


    カムクラ 『それは、あなたの父親ですか?』

    左右田  『せいかーい。カムクラさんは会話がサクサク進むっから楽だよなー。江ノ島はキャラが
          ゴロゴロ変わっからよー、見てて面白れーけど話すんのはクッソだりぃんだよな』

    カムクラ 『……脳と脊髄を生体で調達した自立型のロボットですか』

    左右田  『そ。実の家族で造る殺戮マシーン。イカしてんだろ?』

    父親   『……!!』ジタバタ

    左右田は、頭蓋骨が取り外されて脳がむき出しになった父親にコードを繋ぎ始めた。
    コードの先に、ガトリングガンをたずさえたロボットが見える。カプセル部分には溶液が満たされていた。
    あそこに、左右田の父親の脳が入るのか。

    『やめろっ………和一、やめてくれ!!目を覚ませ!!』

    口が自由になると、父親は必死に叫んだ。


    やめろ。

    それだけはやめろ。



    日向  「やめろ!!!」

    九頭龍 「うわっ!?」バッ

    日向  「………九頭龍か。……悪い、驚かせて」

    九頭龍 「オメーといると寿命が縮むぜ……相当やばいモン見えたらしいな」バクバク

    心臓をおさえて「いい加減慣れろよ」と九頭龍。カタギに無茶を言うな。


    左右田 「……思い出したかよ」

    隣に座る左右田は、両手で顔を覆ってため息をついた。

    日向  「お前の家族は、みんな兵器に」

    左右田 「オレだけじゃねーよ。ソニアさんは家族を田中の動物の餌にしちまったし。小泉の親は江ノ島の実験台。
         西園寺の家は皆殺し。花村のお袋さんはとんかつ。オレだけじゃねえんだよ……」
    123 : ヒヤコ ◆Xks - 2017/04/05(水) 12:26:21.29 ID:pssxomK80 (+95,+30,-213)
    左右田 「怒りをぶつける江ノ島はいねえし、家族の死を悲しむ権利もねえ。普通に生きていくのも苦しい。
         ……オレ、帰ってきてよかったのかな」

    左右田 「いっそ、あのまま絶望してりゃよかっ「それは違うぞ!」

    日向  「俺は……まだ記憶があいまいで、実感がない。だけど、絶望の方が楽だったなんて思わない。  
         お前がやっているのはただの現実逃避だ。絶望していた頃の自分を部分的に再生して、
         答えを出すのを先延ばしにしているだけだろ」

    左右田 「…………オメーって、人の心えぐるのが上手いよな」

    日向  「俺が怒っているのは、お前が全部抱えこんだことだ。七海を造ってくれたのは……感謝してるんだぞ」

    左右田 「!」

    日向  「……ありがとう。また、七海に会わせてくれて……俺もムキになって悪かった」

    日向  「ゆっくり、やり直してこう。俺も、お前も……みんなで」

    そう言うと、左右田は泣きながらうなずいた。


    _______

    一旦切ります。
    次回は不二咲の文字が出せるかな。78期でまだ文字が不明なキャラ多すぎ。
    124 : ◆XksB4A - 2017/04/06(木) 10:59:28.48 ID:aF6711jD0 (+28,+30,+0)

    九頭龍 「青春ドラマは終わったかよ?……だったら、次はオレの話を聞いてくれよ」

    九頭龍 「学園のデータベースを見てえんだ……左右田、オメーから"超高校級のプログラマー"に話つけてくんねえか」

    日向  「……!!まともにはアクセスできない代物か」

    九頭龍 「いざという時は、オレが一人で泥を被るからよ……オメーらは関係ねえで押し通せ」

    日向  「………そんな悲しい事を言うな。俺たちは仲間じゃないか。泥を被るのも一緒だ」

    左右田 「おう!大体、んなヘマ打ってたら超高校級じゃねーしな!あいつの能力を信じようぜ!」

    九頭龍 「お前ら……!」



    【数分後:不二咲の個室】



    不二咲 「ええと、つまり……学園のデータベースにハッキングするってことですか?」

    九頭龍 「バカ、んな大声で言うな!」シーッ

    不二咲 「あ、大丈夫ですよぉ、個室の監視カメラは収音マイクの質が悪いから、僕たちの会話の細かいところは
         聞きとれてないと思います……」

    生身の不二咲とは初対面だった。男子の制服を着ているのに、逆の意味で違和感を覚える……。

    日向  (パソコンの前に座っている姿は、本当にかっこいいな。……七海が言ってたとおりだ)

    セブン 『では、私が学園長のアクセス権に侵入して囮役をしよう。千尋はその間にデータベースから学生名簿だけを
         このパソコンにコピーしてくれ』

    左右田 「いいのかよ……オメー、マザーコンピュータが応答してねーんだろ。いざという時のバックアップが取れねえのに
         危険な橋を渡るなんて」

    セブン 『私は一度、データの海に消えた身だ……それに、冬彦の疑問はこの学園の真実を解き明かす鍵の一つとなるだろう。
         その手助けができるなら本望だ。……私がこのケータイに引きよせられたのも、おそらく同じ"力"によるものだ』

    日向  「同じ力……?」

    セブン 『無駄話をしている時間はない』

    左右田の胸ポケットから飛び出したセブンは、パソコンの前に立って機械の手を伸ばす。
    それを見ている不二咲は「わあ……」と目を輝かせていた。
         

    不二咲 「このケータイ、左右田先輩の文
    125 : ◆XksB4A - 2017/04/06(木) 11:00:16.75 ID:aF6711jD0 (+93,+30,+0)
    字なんですか!……すごいなあ、みんな自分に合った
         文字を選んでいるものなんだなぁ……」

    不二咲 「よし。じゃあ、行きますよ……」カッ


    "電(でん)"


    セブン 『イニシエイト.クラック.シークエンス……アクセス開始!』カッ

    不二咲 「よし、入った……!!」バチバチ


    俺たちはただ、ぽかんとそれを眺めることしかできなかった。不二咲の手が0と1の数字に変わっていく。
    ずぶ、とパソコンの画面に入った不二咲の手が、何かを探るように動いた。

    セブン 『学園長のシステムに侵入完了した。千尋、今のうちに学生名簿を出してくれ』

    不二咲 「よっ……と、セキュリティがきついけど、なんとか……」


    警告音と共に、ポップアップがいくつも出てくる。不二咲はそれをグシャッと握りつぶしてさらに奥へと手を進めた。
    やがて、電脳体の手がずるりっと何かを引きずり出してくる。『希望ヶ峰学園 生徒名簿』とあった。


    不二咲 「出ました……調べるのは、ええと……「九頭龍菜摘だ」……クズリュウ、ナツミ。……検索。
         …………あれ?」

    九頭龍 「どうした?」

    不二咲 「名前が、出ない……」

    九頭龍 「ば、バカ言ってんじゃねえ!!あいつはたしかに……」

    不二咲 「ど、同窓会と本科の名簿も検索したんですけど……この学園に九頭龍って名字の人は、先輩一人しか……」

    九頭龍 「らちが明かねえ、どけ!」


    九頭龍は不二咲を押しのけて画面をスクロールしていく。
    しかし。


    『クズリュウ ナツミ』

    『検索結果:0件』


    九頭龍 「どうなってやがんだ……!」





    不二咲の部屋を出て、混乱する九頭龍をなんとか落ち着かせる。
    食堂へ着くころには、九頭龍もなんとか話ができるようになっていた。


    小泉  「ええと、つまり……菜摘ちゃんのデータがないってこと?うーん……でも、菜摘ちゃん一人のデータを消す理由がないし……」

    日向  「どこかにまぎれている可能性も考えて、全部のデータをスキャンしたんだが」
    126 : ◆XksB4A - 2017/04/06(木) 11:00:52.69 ID:aF6711jD0 (+95,+30,+0)

    左右田 「結果は0件。九頭龍菜摘ってやつはこの希望ヶ峰学園にはいねーとさ」

    九頭龍 「データの上だけの話だ!!」ドンッ

    小泉  「テーブル叩くのはやめな!……予備学科のほうには聞いてみたの?」

    日向  「俺が教室に行ってみた。佐藤も九頭龍もたしかにそのクラスにはいたらしいんだけどな。
         出席名簿にはなかった。幻の生徒ってやつだ」

    花村  「やあ、みんなそろって何の話だい?そんな辛気くさい顔をしてないで、ボクの新作チョコレートをお食べよ!」

    日向  「そうだ……花村だ!」ガタッ

    花村  「ンフフ、待ちきれないっていうんだね?いいよ日向くん、さあ!このチョコレートに舌をはわせて、先っちょの
         ベリーをいやらしく舐めまわして、そして口にずっぽりと含ん「お前、南地区のパン屋で九頭龍の妹を見たって言ってたよな!」……え」

    花村  「ま、まあ……見た、というか会った、というか……」

    九頭龍 「お前、それをなんで言わねーんだよ!」

    花村  「ええっ!?じゃああの子が九頭龍くんの妹って本当の話だったの!?」

    左右田 「……んん?どういう意味だ?」

    花村  「だって九頭龍くん、一人っ子でしょ!」


    その言葉に、小泉が「ちがうよ!」と反論する。


    小泉  「あ、アタシ……菜摘ちゃんのことは中学のころからずっと知ってるんだよ?花村が覚えてないだけだって」

    花村  「弐大くんも一緒にいたけど、彼も覚えてないって言ってたよ!」

    日向  「あの、記憶力がたいして悪くない弐大が……?たしかにおかしいな」

    左右田 「……」

    左右田 「なあ。オレ今、すっげー嫌なこと思いついちまったんだけど、言っていいか?」

    左右田 「あのプログラムに入る前、オレたち記憶消されてたよな。もともとの記憶を消せるってことはよ……逆に
         "偽の記憶を植えつける"ってこともできんじゃねーのか?」

    九頭龍 「テメエ、言っていいことと悪いことがあんだろーが!!」

    左右田 「可能性の話をしてんだよ!!」

    九頭龍 「それがマジなら……マジなら、オレの思い出もっ……あの島でオレとペコが小泉を殺したのも、全部っ……」

    小泉  「九頭龍……」

    九頭龍 「偽モンの記憶に振り回されて、いもしねえ妹のために、小泉を殺しちまったってことになんじゃねーかよ!!!」

    日向  「ちがう!!それなら、九頭龍の妹がここに存在する理由が分からないだろ!!」

    花村  「な、なになに?ぼく、地雷踏んじゃった……?」てるてるてる

    神代  「いや、むしろファインプレーだよ」もぐもぐ

    花村  「うわあああ!?」

    日小左九「「「「!?」」」」


    第一印象、小学生。
    そいつは、テーブルに置かれたチョコレートバーをかじっていた。
    127 : ◆XksB4A - 2017/04/06(木) 11:01:19.34 ID:aF6711jD0 (+95,+30,+0)


    神代  「僕の才能なら、お兄ちゃんたちの謎に賢者タイムのような明快な答えをあげられるかもよ」

    日向  「お前は……誰だ?」

    神代  「僕は神代優兎(かみしろ ゆうと)"超高校級の諜報員"なんて呼ばれている……もともと影は薄かったんだけど、
         この文字のおかげでますます仕事がやりやすくなってね」

    神代は頬にある『隠』を指さした。

    神代  「こうやって注目を浴びていると、露出[田島「チ○コ破裂するっ!」]の気分だよ。……妹さんの話だけど、"夢"で同じチームになるまでは
         会ってなかったんだよね?」

    九頭龍 「な、なんで同じチームだったことまで知ってんだ!?」

    神代  「僕の肩書、もう忘れた?」

    九頭龍 「ぐっ……」

    神代  「うん。妹……菜摘さんがどうして今まで当のお兄さんと接触しなかったのか。そこはブラックボックスだからさすがに分からないけど、
         菜摘さんは予備学科の生徒とも親しくしていないから、その方面から崩すのはむずかしいかな。
         ただ、意外な交友関係があるみたいだ」

    日向  「意外……?」

    神代  「"超高校級の野球選手"……桑田怜恩くん」

    左右田 「はぁ!?どんな接点だよ!!」

    神代  「桑田くんも78期の中では孤立していて、菜摘さん、あとは霧切さんくらいしか生徒と接点がないんだ。
         普段も蝕も一人で行動しているみたいだから、捕まえやすいよ。"始"の時から交流があるみたいだけど、菜摘さんの情報を得たいなら
         当たってみるのも手だね。……と、うわさをすれば」


    神代が指さした先には、トレイに料理をのせる桑田がいた。


    九頭龍 「……ちょっと聞いてみるか」ガタッ

    小泉  「あ、待って!いきなりはさすがに「おい桑田、テメエちょっと面貸せ」なんでそんなヤクザみたいな挨拶すんのよ!」

    九頭龍 「ヤクザなのは事実なんだから仕方ねーだろ!!……おい、テメエ菜摘とどこで知り合った?あいつについて洗いざらい吐いてもらおうじゃねーかよ」

    桑田  「わ、悪いんすけど……オレからはちょっと話せねーっていうか……話すなって言われてるっつーか……」

    九頭龍 「あぁ!?テメエあんま舐めた事抜かしてっと」ぐいっ
    128 : ◆XksB4A - 2017/04/06(木) 11:01:57.52 ID:aF6711jD0 (+95,+30,+0)

    カッ!


    "出(いずる)"


    胸ぐらをつかんだ九頭龍の目の前で、桑田は姿を消してしまった。

    九頭龍 「なっ……」

    神代  「あーあ。あんな早漏な聞き方するからだよ。桑田くんの文字は"出"だからね。
         今みたいな瞬間移動で逃げられるか……片玉にされちゃったりするかも」

    左右田 「こえーこと言うなよ!」

    神代  「さて。僕は君たちにヒントをあげたわけだけど……報酬はいらないよ。僕はほかに調べることがあるから、そのついでに得た情報を
         ちょっと見せてあげたまでだからね」ガタッ

    神代  「……江ノ島さんの安全も確認できた今なら、"あの人"も出てこられるだろうし……」

    日向  「あの人……?」

    神代  「じゃ、また近いうちに会おうね」

    菓子パンの袋を引っつかんで歩き出した神代は、あっという間に食堂の背景に溶けて消えていった。
    文字の能力なのか、それともあいつの才能なのか……。


    九頭龍 「……んだよ、なんでこんな……わけのわかんねえ事に……」


    頭を抱えた九頭龍は、「菜摘……」と小さく呟いた。

    存在しない生徒。隠れていた生徒。

    日向  「また謎が増えたな……一体どうすれば、真実にたどり着けるんだ……?」

    ________

    うっかりsaga忘れた




    129 : ◆XksB4A - 2017/04/06(木) 11:02:24.09 ID:aF6711jD0 (+89,+29,-7)
    いったん切るよ。
    次回はまた蝕が起こるよ。
    130 : 以下、名無しにか - 2017/04/06(木) 11:35:25.98 ID:VInOiWlrO (+22,+29,-7)

    なんとも複雑になってきたな
    131 : 以下、名無しにか - 2017/04/06(木) 15:49:44.61 ID:KrNQ5BQ6o (+28,+29,-35)
    そういえば、二章いなかった花村はともかく弐大は九頭竜に妹いること裁判で
    知ってるはずだよな。なんで知らなかったんだろう?
    132 : ◆XksB4A - 2017/04/10(月) 13:10:03.70 ID:SAXN2eMT0 (+34,+30,+0)
    地の文を減らす努力。

    >>130
    これからもっと複雑になるよ。

    >>131
    花村が知らないのは当たり前だけど。
    それだと弐大の発言も矛盾する。
    __________

    【夢
     死亡者数:13名
     生存者数:1511名
     総生徒数:1524名→1511名】

    __________


    【弐大の個室】


    ことのあらましを聞いた弐大は、難しい顔で腕を組んだ。

    弐大  「ワシはマネージャーという才能柄、人の顔は一度見れば忘れん。
        小泉の学級裁判で九頭龍の妹の写真は見ておったからのう」

    日向  「だったらなんで「結びつかんかったんじゃあ」

    弐大  「目の前におる女子と、九頭龍の妹として見せられていた写真……あれが同じものと気づいたのは
         部屋に戻ってからでのう。悪いことをしたと思うたが」

    今から思えばおかしな話じゃあ、と弐大は頭をかいている。

    弐大  「しかし……九頭龍に妹がおった、というのはあの島で初めて聞いた。ワシが知らぬだけかと思っとったんじゃあ」

    小泉  「ねえ九頭龍、そもそもあんた、なんで生徒名簿なんか見ようって思ったわけ?」

    九頭龍 「……"夢"の主、って女がいただろ。ニタニタ笑ってる、でけえ女。あいつが菜摘に言ったんだ」


    『久しいのう……我が娘よ』

    『うつつの寝心地はどうじゃ?』


    辺古山 「ただの戯言かと思ったが……私の記憶にもおかしな所があった。
         お嬢の名前が、坊ちゃんに言われるまで思い出せなかったのだ」

    小泉  「そういえば、私も……あの子の下の名前、度忘れしてた……」

    弐大  「この学園は、何が起こっても不思議ではないからのう」

    日向  「で、どうする。俺としては調べてやりたいんだけどな」

    豚神  「ひとまず九頭龍の妹のことは後回しだ。明日の予報も晴れだ……蝕の準備をする方が優先されるべきだろう」

    九頭龍 「けどよ!」

    豚神  「焦るな、せっかく神代がくれた手がかりだぞ。まずは定石どおりに行こうじゃないか。
         幸い、あさってからの予報は曇りだ。その間に桑田から情報を引き出せばいい。
         ……いいか。死んだら元も子もないんだぞ。まずは生き残ること。それだけだ」

    133 : ◆XksB4A - 2017/04/10(月) 13:10:30.36 ID:SAXN2eMT0 (+95,+30,+0)
    【翌朝】


    キーン・コーン・カーン・コーン………


    学園長 『みんな、おはよう。今日も一日頑張ろう、"希望"をつかみとるために』


    日向  (朝と夜のアナウンス。学園長室にあった人形を見せると、辺古山が"こいつは形代だ"と教えてくれた)もぞもぞ

    日向  (神社とかによくある、体の悪いところを撫でて奉納する身代わりの人形らしい。
         落ちていた場所を考えると、あれは学園長の身代わりなんだろう)ガバッ

    日向  (テレビが映ったあの日……食堂で突然消えたのも、本体の学園長は別の場所にいるからか)

    日向  (学園長がいるのは、俺たちが決して行けない場所……)


    着替えながら、窓の外を見る。
    忌々しい空島は、今日も変わらず浮かんでいた。


    日向  「いつかあそこに行って、化けの皮を?がしてやる!」

    日向  「……」

    日向  「最近、荒んでるな……俺」

    ___________


    豚神  「澪田、前から言おうと思っていたんだが……」

    田  「はいはい、なんでしょ!「はいは一回でいい」はっ、まさか結婚の約束……「違う」

    豚神  「はいは一回だ。お前の文字はたしか、音で防壁を張るんだったな。……全方位に対応できないと
         いう欠点を忘れていないか?」

    田  「あー、それは覚えてるっすけど……」

    豚神  「背後や上からの攻撃には無力だと分かっているなら、もっと工夫をだな」

    田  「むむっ、お説教の始まりそうな気配を受信したっす!そりゃ逃げろ~!」

    豚神  「澪田!」


    カッ…


    日向  「くっ……」


    空島が、まぶしい光を放つ。
    反射的に手を顔の前に出して……光がおさまった時、目の前にいたのは。


    日向  「!?」


    すっぱだかの、七海千秋だった。
    134 : ◆XksB4A - 2017/04/10(月) 13:11:10.19 ID:SAXN2eMT0 (+90,+30,+0)

    【日向創:Chapter04:『母』(ハハ)】



    日向  「なっ……え、えっ?」


    混乱する俺の隣で、左右田も「うわあああ!!」と叫んでいる。

    左右田 「そっ、ソニアさん!?」

    一糸まとわぬ姿のソニアが、左右田の頬を撫でた。
    する、と首に腕を回してそのまま口づけようと顔を近づける。


    ソニア 「きゃあああ!?な、なにが起こって……」

    左右田 「え、ソニアさんが二人!?」

    田中  「めっ、雌猫……やめろ!我が瘴気に触れれば貴様もただでは済まな……」

    左ソニ 「「三人!?」」


    裸のソニアが、田中の股に足を入れてそのまま押し倒す。二人の唇が重なった瞬間。


    パカッ


    田中  「……!?」


    ソニアの顔が割れて、中からたくさんの手が出てくる。
    田中を中へ引きずりこんだソニアの腹がふくらんで、透明なカプセルのようになった。


    豚神  「これが今日の蝕だと!?」

    裸の澪田に捕まった十神も、あっという間に引きずりこまれた。


    ソニア 「田中さん!……出して、出してください!!」ガンッ、ガンッ


    椅子で自分の偽物をぶん殴るソニアの後ろで、左右田がとうとう偽ソニアに食われる。


    ソニア 「左右田さん!なっ、何か刃物は……」オロオロ


    そんなソニアの前に、金髪の女が立った。


    ソニア 「おかあ、さま……?」ぱくんっ


    日向  「七海、ごめんな!」カッ


    "変(へん)"


    日向  「うらああッ!!」ブンッ


    ざくっと手ごたえがした。おそるおそる目を開ける。日本刀がめりこんだ七海の顔が、
    左右にパカッと開く。

    日向  「……やめろ、やめてくれよ……」

    しゅるしゅるっと伸びてきた手が、俺の体に巻きついて。

    日向  「やめろ、七海ぃぃーー!!!」

    俺の視界は、真っ暗になった。
    135 : ◆XksB4A - 2017/04/10(月) 13:11:59.34 ID:SAXN2eMT0 (+95,+30,+0)


    罪木  「…………」

    罪木  「……あれっ」ぱちっ

    罪木  「何が……起こったんですかぁ……?」きょろきょろ

    罪木  「ここ、どこでしょう?学校……じゃ、ありませんよね……」

    ベッドに眠っていた罪木は、あたりを不思議そうな顔で見回す。
    ハート柄のかわいいパジャマ。清潔なベッド。かわいい家具のある部屋。

    罪木  「おかしいですねぇ……私はいつも、押し入れで寝てたはず……」

    コンコン

    罪木  「ひゃうぅ!?」びくーん

    ガチャッ

    ??? 「蜜柑ー?まだ寝てたの?」

    罪木  「お……かあ、さん……」

    母   「もう、まだ寝ぼけてるの?朝ごはんできたわよ、下りてきなさい」


    あきれたように腰に手を当てた母親。

    罪木  (おかしいです……私を見ると、ぶつか怒鳴るかしかしてくれなかった、お母さんが……)

    母   「ほら、座りなさい。髪の毛やってあげるから……あんた、高校生にもなってそんなんじゃ、
         お嫁の貰い手がないわよ」

    優しい母親が、罪木の髪の毛をとかしてくれる。
    ざんばらに切られていたはずの髪は、なぜかきちんとしていた。

    とんとんとん……


    父   「おはよう、蜜柑」

    罪木  「おっ……おはようございますぅ……」

    父   「ハハハ、実の父親にそんなかしこまらなくていいんだぞ?」

    罪木  (この人も……誰なんでしょうか……?)

    コーヒーを飲みながら新聞を読んでいる父親は、スーツを着ている。

    罪木  (朝ごはんがもらえたのなんか、いつぶりでしょうか……でも、おいしいですぅ……)もぐもぐ


    朝日がさしこむリビング。キッチンに立つエプロン姿の母親。まるでドラマのような光景だ。


    ピンポーン


    母   「あら、創くん?ごめんなさいねえ、蜜柑ったらまだご飯食べてるのよ」

    日向  「いいんですよ。俺待ってますから」

    罪木  「日向さん!?」

    日向  「おいおい、幼なじみだろ。んなよそよそしく呼ばないで、"創"でいいっての」

    罪木  (日向さんが幼なじみ……?ますます分からなくなってきちゃいました……
         ここ、一体どこなんですかぁ!?)ぐるぐる
    136 : ◆XksB4A - 2017/04/10(月) 13:12:34.35 ID:SAXN2eMT0 (+95,+30,+0)
    _________


    左右田 (うおおおおソニアさんが!!ソニアさんがオレと手をつないで……)

    ソニア 「和一さん?どうかしましたか?」

    左右田 (もう覚めなくていいや)

    ソニア 「もう……また徹夜で機械いじりしてましたね?ほんとに困ったちゃんですね、和一さんは。
         朝ごはん作ってきましたから、学校に行く前に二人で食べましょう?」

    左右田 「あれ、ソニアさん……料理なんて出来たんですか?」

    ソニア 「当たり前だのクラッカーですわ!ほら、和一さんが大好きなツナサンドですよ!」

    左右田 「……なんだ、この違和感」

    左右田 「ま、いっか」もぐもぐ

    _________


    小泉  「お父さん、また仕事?」

    父   「ああ……まったく、残業続きで嫌になるよ」クキッ、コキッ

    父   「まあ、お前たちのためだと思えばがんばれるけどな」

    小泉  「そう……行ってらっしゃい。無理はしないでね」

    パタン…

    小泉  「そうだ……アタシ、お父さんがいつも家にいるのが嫌だった。よそのお父さんが
         バリバリ働くのがうらやましかったんだ」

    小泉  「……あれ?じゃあ今出てったお父さんは、一体なんなの?」

    小泉  「……」

    小泉  「……いいか、別に」

    _________


    西園寺 (……なんなの、これ)


    母   「あら、どうしたの日寄子さん。あなたの好きな里芋を煮ましたのよ」

    祖母  「日寄子や、今日のお稽古は疲れたろう。しっかりお食べ」

    中  「お嬢様、お召しがえですよ。お食事の前に浴衣に着がえましょうね」

    広々とした座敷で、鍋を囲んだ家族。
    食卓に並んでいるのは、西園寺が大好きなものばかり。


    西園寺 (……仲良しの家族って、こういうものなんだ)

    西園寺 (……気持ち悪い)

    母   「日寄子さん?」

    西園寺 「もういいっての」

    父   「今日のお前はおかしいぞ」

    西園寺 「おかしいのはあんた達だよ!」カッ


    "舞(まい)"


    西園寺 「わたしの家族は、こんなんじゃない!!」ブンッ

    137 : ◆XksB4A - 2017/04/10(月) 13:13:13.77 ID:SAXN2eMT0 (+95,+30,+0)

    扇の一閃。
    操られるままに、祖母が壁に頭をぶっつけて動かなくなる。


    西園寺 「家元の座に執着して……子供の食事に毒を盛って……婿養子のお父さんをいびって!!」


    次に、母親がぐつぐつ煮えたった鍋に頭を突っ込んだ。


    西園寺 「わたしの着物を破って……足袋に針を入れて……とても口に出せないようなことをたくさんしてくれて!!」


    女中たちが、包丁で首をかき切る。


    西園寺 「そのせいでわたしはこんなッ……こんな人間にしか、なれなくて!!」


    何度も床に頭を打ちつける父親を、西園寺は荒い息をついて見下ろす。


    西園寺 「ちがう……わたしが勝手に歪んで、勝手に人を傷つけてる……
         辛いのはわたしだけじゃない、分かってんだよそんなの!!!」

    西園寺 「でも、そんな生き方を選ばせたのはおまえらなんだよ!!」

    西園寺 「おまえらがッ……もっと、ちゃんとした家族だったら……」


    気がつくと、あたりは血の海になっていた。
    動かなくなった家族に背を向けて、西園寺はつぶやく。


    西園寺 「あのゴミクズみたいなやつらが、わたしの家族だよ」

    西園寺 「だから、わたしは帰る」


    スウッ……

    そう口にした瞬間、西園寺は光に包まれた。

    _______

    ___


    西園寺 「…………」

    西園寺 「……んっ…」ぱちっ

    西園寺 「な、なによ……これ」

    霧切  「あら、意外と早かったわね」


    そこが校庭だと気づいた瞬間、西園寺は目の前の異様な光景に言葉を失った。

    女。女、女。

    巨大な裸の女が、何十体と立っている。彼女たちの腹は子宮を思わせる透明なカプセルになっていて、
    その中で胎児のように、生徒たちが眠っていた。
    138 : ◆XksB4A - 2017/04/10(月) 13:13:42.38 ID:SAXN2eMT0 (+95,+30,+0)


    西園寺 「これ……なんなの?」ぺたっ

    霧切  「この蝕は、寄生型……生徒に寄生し、文字の力を食らう蝕なの。文字は"母"よ」

    西園寺 「母?」


    霧切はホログラムを出して説明する。

    霧切  「まず、裸の女が出てきたでしょう?あれが寄生型の蝕で"女"。それぞれが思い描く"理想の女性"の姿をとって
         現れ、生徒たちを誘惑する……そして、顔の中から手を出してからめとる」

    霧切  「すると、"女"は"胎"の中に生徒を引きずりこんで通常型の蝕である"母"へと変化する。
         その中で、生徒たちは幸せな夢を見る……それを夢だと看破できなければ、文字の力を少しずつ食べられて……」

    霧切の指さした先には、すでに受精卵まで戻ってしまっている生徒がいた。

    西園寺 「……!!」

    霧切  「ああなったらもう手遅れよ。"母"の中で永遠に幸せな夢を見続けるしかないわ」

    西園寺 「そうだ、おねぇは……」

    あわてて辺りを見回した西園寺は、小泉の眠っているカプセルを見つけて「おねぇ!!」と叩く。

    西園寺 「おねぇ、起きてよ!!おねぇ!!」

    霧切  「無駄よ。"母"そのものを破壊すれば、一心同体となっている生徒たちも同じように消えてしまう。
         小泉さんが自力で夢から覚めるしか、方法はないわ」

    西園寺 「だけどっ……あんたの文字、蝕の弱点が分かるんでしょ!何か方法はないの!?」

    霧切  「一つだけあるけど……かなりリスキーよ」

    西園寺 「教えて、小泉おねぇが助かるんだったら、わたし……」

    霧切  「……」ふっ

    霧切  「その心配はなさそうね。ほら」

    ピシッ、と小泉のカプセルにひびが入った。幼稚園児くらいの姿まで戻っていた小泉が、目を開ける。
    小泉の口が「ひよこちゃん」と動いた。


    西園寺 「おねぇ、聞こえてるの……わたしだよ!目を覚まして!!」


    ひびはどんどん大きくなって、元の小泉が転がり出る。とたんに"母"はしぼんで、すうっ……と消えていった。

    小泉  「う……頭痛い……」ズキズキ

    西園寺 「うっ、ううっ……うわあああん!!よかったよぉぉぉ!!」がしっ


    泣いている西園寺の後ろで、隣り合ったカプセルに入っていた十神と澪田が出てくる。
    139 : ◆XksB4A - 2017/04/10(月) 13:14:31.73 ID:SAXN2eMT0 (+95,+30,+0)


    山田  「幸せな夢といいますが……もともと現実が満たされていた僕にはあまり関係ありませんでしたぞ!」ふんす

    安広  「なのに私より遅いというのは、いかがなものでしょうか」

    山田  「うぐっ……」

    安広  「ふふ、ちょっと意地悪を言ってみたくなっただけですわ。胎内で見る夢は刺激がありませんでしたもの」

    山田  「多恵子殿にとっては蝕も遊びですか……ジャンプの打ち切り漫画もビックリの斜め上な発想には
         もうついていけませんぞ……」げんなり

    安広  「誰がついてきてくれと言いました?」にっこり


    次々に出てくる生徒たちを見て、西園寺が思い出したのは。


    西園寺 「……そういえば、ゲr」

    西園寺 「あいつ……どうして」

    小泉  「日寄子ちゃん?」

    ふらふらと歩き出した西園寺は、やがて目的のカプセルを見つけて立ち尽くす。

    西園寺 「……嘘」

    小泉  「蜜柑ちゃん……あの子、辛い育ちだって聞いてたから……夢から逃げられないんだ……」

    カプセルの中で眠る罪木は、赤ん坊の姿になっていた。
    楽しそうに笑っているが、だぼだぼの制服に包まれた彼女にもはや時間が残されていないのは、明白。

    西園寺 「…………」

    西園寺 「霧切、教えて。"母"の中に入る方法」

    霧切  「負ければ死ぬわよ」

    西園寺 「こいつが勝手に死ぬことの方が許せない!!わたし、まだこいつのこと許してないんだから!!」

    霧切  「…………」

    霧切  「いいわ。……必ず二人とも帰ってくると約束できるなら」

    こっくりとうなずいた西園寺に、なにか言いかけた小泉も黙る。
    140 : ◆XksB4A - 2017/04/10(月) 13:15:01.25 ID:SAXN2eMT0 (+95,+30,-213)

    霧切  「"母"の顔が二つに割れているのが見えるでしょう?あそこから夢の中に入れるわ。……終里さん」

    終里  「なんだ?」

    霧切  「あなた、西園寺さんを抱えてあそこへ投げこめるかしら」

    終里  「おうっ!よーするにバスケのダンクだな!?」ひょいっ

    西園寺 「ちょっ、何するの!やめてよ!!」じたばた

    霧切  「西園寺さんの身長じゃ届かないでしょ」

    西園寺 「やめてってばー!!土食べさせたのは謝るからあああ!!」

    終里  「行くぜ!!歯ァ食いしばってろよ……」

    西園寺 「やめてーーー!!」ぶんっ

    なんと、終里赤音はダンクシュートを理解していなかった。
    宙を舞った西園寺の小さな体は、見事に"母"の中へボッシュートされる。

    すとんっと着地した終里は「えーと……」と自信なさげに頬をかく。

    終里  「あ、あれでよかったんだよな……?」

    小泉  「よ、よかったけど……ダンクってああいうのじゃないからね?」

    霧切  「あとはただ祈るしかないわ……二人とも無事に帰ってくるのをね」

    _________

    切ります。



    141 : 以下、名無しにか - 2017/04/11(火) 00:35:19.19 ID:jeM4GMRc0 (+29,+29,-21)
    乙です!一気に読ませてもらいました 展開にわくわくです
    142 : ◆XksB4A - 2017/04/14(金) 21:57:39.53 ID:+gndf1D00 (+28,+30,+0)
    >>141
    あざっす。


    日向  (隣に住む可愛い巨乳の幼なじみが罪木。現実の罪木よりスタイルがいい気がする)

    七海  「日向くん、おはよー!昨日貸してあげたゲーム、もうやった?」

    日向  (友達以上恋人未満の委員長、七海。ぼんやり七海も捨てがたいがこっちもまたよし)

    ウサミ 「みなさーん、授業が始まりまちゅよー!席についてくだちゃーい!」ふりふり

    日向  (優しくてあったかい担任の先生……ウサミ)


    ザワザワ… オマエシュクダイヤッタ?
    クッソー、テストノケッカサイアクダー ザワザワ…


    日向  (これは夢だ。七海に取りこまれた中で見ている夢だ)

    日向  (それは分かってるんだが……いまいちクリアの方法が分からないな。
         ゲームだったらボスがいるんだが)

    日向  (…………)

    日向  「そうだ、ボスだ!!」ガタッ


    しーん……


    ウサミ 「えーと、日向くん……?今の注釈に何か質問がありまちゅかー?」

    日向  「お腹が空いたので保健室に行ってきます!」バッ

    ウサミ 「日向くん!?いろいろと間違ってまちゅよー!!」


    たったったっ…


    日向  「どこだ、どこにいるんだ!?」ガラガラッ

    日向  「……ここも外れか!」チッ


    電子生徒手帳の地図を頼りに、だだっ広い希望ヶ峰学園の中を走り回る。
    くそっ、夢なのになんだって校舎のデカさは現実と同じなんだ!


    日向  「ここか!?」ガラッ

    モブ 「きゃー!!エッチー!!」ビュンッ

    日向  「更衣室だったのか!すまん!!」


    顔に当たったパンツを投げ返すと、着替えていた女子から「サイテー!」「死ねよ!」の怒号が送られる。
    全部の教室を探したが、出口らしきものは見当たらない。時間だけが刻一刻と過ぎていく。


    日向  「……ん?」


    ピンポンパンポーン


    『3年B組日向くん。B組の日向くん。至急学級裁判場まで。繰り返します、3年B組の日向くん……』


    日向  「このふざけた声……モノクマだな」

    日向  「ここから脱出するためには、やはりモノクマを倒すのが手っ取り早いか」たったったっ

    日向  「よし、行こう。武器……は、このネクタイを」カッ


    "変(へん)"


    日向  「モノケモノ召喚とかされたらまずいな。早めにケリをつけるか」

    日向  (エレベーターに乗りこんで、弾倉を確認。ちゃんと6発入ってるな)

    日向  「待ってろよ、モノクマ……」
    143 : ◆XksB4A - 2017/04/14(金) 21:58:17.79 ID:+gndf1D00 (+95,+30,+0)

    チーン ガラガラ


    日向   「おいモノクマ!来てやった……ぞ?」

    モノクマ 「待ちくたびれたよ日向くん……約束の時間からちょっと遅れてくる方がマナーだって
          カンチガイしてるパターンでしょ、君。あのねぇ、大名行列じゃあるまいし、
          ボクが呼んだらさっさと来るのが礼儀だよ。あ、クマよ」

    日向   「な……なんで、んなデカいんだ、お前……」プルプル


    そこにいたのは、天井まで届きそうなくらい膨らんだモノクマだった。
    自分の持っている拳銃が、とたんに頼りないものに思えてくる。


    モノクマ 「ボスキャラが巨大化するのってインパクトあるでしょ?だからボクもやってみたの」

    モノクマ 「ま、時間もないしちゃっちゃと殺っちゃおうか!んじゃ、どっからでもかかってこーい!!」ガオー

    日向   「」


    __________



    西園寺 「いだっ!」ドサッ

    西園寺 「うう……罪木のやつ、覚えてろよ……」ヒリヒリ


    ぶつけた尻をおさえて立ち上がる。わたしの目の前で、メリーゴーランドが回っていた。

    右に視線を向けるとコーヒーカップ。左には100円入れると動くパンダとかの乗り物。

    ――夕暮れの空。


    西園寺 「ふーん、遊園地か。いかにも庶民が喜びそうな安っぽいアトラクションばっかだねー」くすくす

    西園寺 「つーか、罪木はどこ……」きょろきょろ

    ??? 「そふとくりーむ、うっ、そふとくりーむぅ♪」

    ??? 「あらあら蜜柑、そんなに一気に食べたらお腹壊すわよ」


    当たり前だけど、夢の中の罪木は小さいし。あちこちぺたんこだった。
    幸せそうだし、いっそこのままのほうがこいつのためかもしんないけど。


    西園寺 「……帰るよ、罪木」ぐいっ

    幼罪木 「ふゆぅ?おねえちゃん、だれぇ?」

    ??? 「おいおまえ!みかんになにしてんだ!」ドンッ

    西園寺 「そのアンテナ……日向おにぃ!?」

    幼日向 「おばさん、こいつみかんをゆうかいしようとしてる!けいさつにいわなきゃ!」

    母親  「そうねぇ、創くんの言うとおり……悪い人はけけけいいさつつに」ガタガタ

    幼日向 「けけけけいさつににににこ、ここころしてもももらわな」ガタガタ

    西園寺 「!?」

    幼罪木 「ふえ?ママ……はじめくん?」


    子どもの日向おにぃと、罪木の母親。
    二人の輪郭がぶれて、巨大な化け物に変わる。皮膚は緑色だし、ブヨブヨしてるし。もう二人の面影なんかない。
    144 : ◆XksB4A - 2017/04/14(金) 21:58:59.19 ID:+gndf1D00 (+90,+30,+0)

    西園寺 「何、あいつら……頭にメスと注射器ブッ刺さってるし……もしかして、ここが罪木の夢だから?」

    母親  『さあみかんんんんん、こっちにおいででええええ』グチョッ、ブチュッ

    幼日向 『みかんんんんん』ベタン、ベタン

    幼罪木 「い、いやだよぉ……こわいもん……」ぎゅっ

    西園寺 「ふんっ、わたしを追い出すためなら罪木に怖いもの見せてもいいんだ。ずいぶん身勝手な"母"だね」

    わたしの親とそっくりだ。

    西園寺 「……逃げるよ。おねぇの背中にしっかりつかまって」

    幼罪木 「う、うん……」ぴとっ


    わたしは、罪木を背中におぶって駆け出した。
    着物のすそがめくれて、転びそうになるのをなんとかこらえて、遊園地の出口に向かって走る。


    幼日向 『にげるなあああああ!!!』ゴオッ

    西園寺 「あつっ……!」

    幼罪木 「おねえちゃん!」

    西園寺 「だい、じょうっ……ぶ!」


    ああ、そういえば。
    あんたがわたしに弱みを見せたことなんか、なかったよね。


    出口までたどり着いたところで、罪木を地面に下した。

    西園寺 「たぶん、そこが夢の出口だと思う。あとは一人で行くんだよ」

    幼罪木 「で、でもぉ……おねぇ……」

    西園寺 「……わたしがここまでやってやってんだぞ、その前足は何のためについてんだよゲロブタぁ!!」

    幼罪木 「!」びくっ

    幼罪木 「……おねぇも、ちゃんときてね」とてとて


    罪木は出口の向こう、真っ暗な中を走っていく。
    そこでやっと、化け物どもが追いついてきた。


    西園寺 「……あとは、こいつらを倒すだけだよね」カッ


    "舞(まい)"


    幼日向 『あああああfぢんlふぉqqi:@』ビッタンビッタン

    母親  『青fwt3wq』-*1』ベタンッベタンッ


    西園寺 「消えろよ偽物どもぉ!!」ブンッ


    西園寺の体がくるりと回転し、左手の扇が空間を一文字に切り裂く。

    瞬間、彼女を食べようと涎を垂らしていた化け物は、お互いの腹に牙を突き立て息絶えた。


    西園寺 「終わった……って、あんた」

    幼罪木 「………」ぷるぷる


    出口のところでもじもじしてたのは、先に行かせたはずの罪木だった。


    西園寺 「……しょうがないか」きゅっ


    手をつないでやると、にへらっと安心したみたいに笑ってる。きもっ。かわいいとか絶対思わないからね。


    少しずつ、少しずつ消えていく遊園地に背を向けて、わたしたちは光に向かって歩き出した。
    145 : ◆XksB4A - 2017/04/14(金) 21:59:36.62 ID:+gndf1D00 (+90,+30,+0)

    日向  「はあ、はあっ、はあ……」

    モノクマ「ハァ……まったく、これだからゆとり世代は。
         あのねぇ、ボクはまだ変身を残してるんだよ?オラ、もっとケツの穴締めてこいやあああ!!」

    日向  「はっ、ははっ……キャラブレすぎだろ……」ヨロッ

    日向  「モノクマ……江ノ島か。あいつ、最後まで理解不能だったって事なんだな」チャキッ

    日向  「もっとも、あいつを理解できる奴なんか……あいつ一人だけだろうけど」


    ――パンッ!!


    モノクマの眉間を撃ちぬいたが、奴はまだ倒れてくれない。

    日向  「なんだ……何が、足りないんだ……?」

    モノクマ「うぷぷぷ、だって君は」


    もう時間切れだもん。


    日向  「嘘……だろ」

    モノクマ「ボクを倒すって決めた所まではよかったんだけどね。そこまでが長すぎダレすぎ。
         君だってこの心地いい夢から覚めたくなかったんでしょ?命がけの試練を強制される
         現実なんてもううんざりだったんでしょ?」

    日向  「ちがう」

    モノクマ「なにが違うっていうのさ。毎朝おっぱいで起こしてくれる罪木さんがいいんでしょ?
         左右田くんや九頭龍くんと行くゲーセンは楽しかったでしょ?
         七海さんと放課後デートがしたかったんでしょ?」

    日向  「違う……俺は、現実へ……」

    モノクマ「もういいじゃない。永遠に幸せな夢の中で、らーぶらーぶしてこうよ」

    日向  「嫌だ!!俺は、絶対に現実へ帰るんだ!!」


    だから、俺に力を――


    カッ!!


    伸ばした手の先に、"変"の字が浮かび上がるのを見届けて。

    俺の意識は途切れた。

    __________


    罪木  「……う、ん……」ぱちっ

    霧切  「目が覚めた?……お手柄ね、西園寺さん。あと数分遅れていたら、帰ってこられなかったわよ」

    西園寺 「……」

    罪木  「あ、ありがとうございましたぁ!!……こんな、私なんかを助けてくれて……」ばっ

    西園寺 「はぁ?わたしがこんな使えないゲロブタ一匹助けるために命かけたとか思ってんの?
         思い上がりもいい加減にしろよ、日向おにぃに恩売ってやろうって考えただけなんだからね」

    罪木  「あうぅ……」

    西園寺 「あんたがいなくなったら、張り合いがないし」

    罪木  「?……今、なんて「ところで日向おにぃは?まだ出てきてないの?」

    照れくさいのか、むりやり話題をそらした西園寺。

    しかし、霧切は暗い表情で首を横に振った。


    霧切  「……これが、日向くんだった"もの"よ」

    西園寺 「……は?」

    指さされたのは、透明なカプセルの中にゆらゆらと浮かぶ卵子。
    146 : ◆XksB4A - 2017/04/14(金) 22:00:02.38 ID:+gndf1D00 (+95,+30,+0)

    小泉  「うそ、これが日向……?」

    両手で口をおさえる小泉。

    豚神  「さっき西園寺がやったように、連れ戻せないのか!?」

    霧切  「無理よ。ここまで"戻って"いるということは、完全に"母"へ取りこまれたということ……彼の文字の力は
         すべて、養分とされてしまったでしょうね」

    西園寺 「そんな……おにぃ……」へなっ


    しくしくと泣き出した罪木の横で、西園寺はへたりこんだ。


    身勝手な自分に根気よく付き合ってくれた。
    絶望として、希望として。自分たちを導いてくれた。
    そして、今も……この理不尽な試練を強いられる中、十神と共に皆をまとめ上げようと努力していた。

    その、日向が。


    罪木  「うそです……そんなの、嘘に決まってます!!
         だって……日向さんは約束してくれたんです、必ずここを出るんだって!
         その日向さんが……し、死ぬわけっ……」

    左右田 「畜生、返せ!日向を返せよ!!」ガンッガンッ

    田中  「やめろ、雑種。それ以上叩いても、お前の拳が傷つくだけだ」

    左右田 「ちくしょう……」ずるずる

    左右田 「ぜってー認めねェかんな……まだ蝕は終わってねェ……空島が出る前に帰ってくりゃいいだけの話だ……」


    黙って空を見上げた田中は、太陽の影から空島が顔を出しているのを見て心の中で呟いた。

    田中  (だが、なぜだ……なぜ、特異点の死という現実に違和感がある?)


    ______________


    ???  「……体が重くなっている……脂肪、ではなさそうですが」

    モノクマ 「君は……」

    ???  「時間がありません」すっ


    地面を蹴った青年の膝が、巨大モノクマの頬に命中する。
    一瞬の、静止。体勢を崩したモノクマにもう一発蹴りを叩きこんで、地面に沈めた。


    ???  「……命を賭けるにしては、単純すぎる試練ですね。
          この現実も、僕を高揚させることはできないということですか」

    ???  「……ああ、そういえば時間がないんでしたね」


    空間にピシッとひびが入る。崩れゆく裁判場の中、光に向かって彼は歩き出した。
    147 : ◆XksB4A - 2017/04/14(金) 22:00:36.91 ID:+gndf1D00 (+95,+30,+0)


    空島はすでに、その大部分を見せている。脱落者と生還者がほぼ決定する時刻になっても、
    左右田はまだカプセルに縋りついていた。罪木は祈るように指を組んで、西園寺も手を合わせている。
    仲間たちが見守る中、カプセルから『ピシッ』と音がした。


    左右田  「なっ、なんだ!?」バッ

    霧切   「!……これは、まさか……いえ、ありえないわ」

    小泉   「見て、カプセルが!」


    "母"の顔が苦悶に歪み、カプセルが真っ二つに割れる。
    カプセルを蹴破ったのは、日向ではなく。


    ???  「……こんな時は、なんと言えばいいんでしたか」

    田中   「貴様……カムクライズルかッ……!」

    カムクラ 「ああ、思い出しました。"お久しぶりです、お元気でしたか"。でした」


    羊水の中から立ち上がった日向――否、カムクライズルは、
    まったく感情のこもっていない再会の挨拶をした。


    カムクラ 「……そんな顔をしなくても、すぐに日向創は返しますよ。彼を生還させるという目的は果たされましたから」

    少しだけ眉を動かしたカムクラが、こめかみに指を当てて目を閉じる。

    カムクラ 「では、またいつか……」

    すうっ、とカムクラが消える。同時に、日向の体がぐらりと地面に倒れこむ。

    罪木   「、日向さん!」

    左右田  「大丈夫だ、生きてっぞ!」

    わあっ、と喜ぶ77期生たちを見届けて、霧切は踵を返す。

    霧切   「やはり彼は、イレギュラー……あの状態からの生還は、私でも予想できなかったわ。
          だけど……」

    膝をついて、呆然と地面に落ちた制服を見つめる九頭龍を見下ろした霧切。

    霧切   「あなたは、ずっと夢を見ているようなものだったのね。九頭龍くん」


    言われた九頭龍は、「くっ」と声のない嗚咽を漏らしてその場にうずくまった。
       


    (通常型)母(寄生型)
     死亡者数:73名
     生存者数:1438名
     総生徒数:1511名→1438名 】


    ________

    切ります。
    148 : 以下、名無しにか - 2017/04/15(土) 01:03:08.95 ID:OSmpoMDQ0 (+24,+29,-10)
    乙です いったい誰の制服なのか… 怖いっすわ…
    149 : ◆XksB4A - 2017/04/19(水) 17:33:57.00 ID:31PTZRtF0 (+30,+30,+0)

    日向  「カムクラが!?……それ、本当なのか!?」

    小泉  「うん。みんな見てたし。あのワカメみたいな髪の毛は間違えようがないよ」

    左右田 「つーか、カムクラさんってやっぱ迫力あるよなァ。ちょっと目が合っただけでこう、
         ビリビリーって来るっつーか……体の芯のあたりが凍るっつーか……」

    田  「共振?みたいな感じっすよね」


    頭の上にはてなマークを浮かべた面々に、
    「音叉を二つ並べると、もうかたっぽもブルブルーってなる、アレっす!」と解説してくれる。


    豚神  「……しかし、カムクラがまだ日向の脳に残っていたなら、なぜ今さら出てきた?
         日向の肉体が失われる事態は避けたいはず。"始"で出てきてもよかったはずだ」

    狛枝  「たしかに気になるね……あのさ、日向君。ちょっと"変わる"ことってできるかな」

    日向  「カムクラに変身しろってことか?」

    狛枝  「うん」


    俺は両手を合わせて「むむむ……」と念じる。


    カッ!!


    "変(へん)"


    スゥ…


    日向  「どうだ?ちゃんとカムクラになってるか?」


    変身の能力を使うのは初めてだから、自信がない。
    視界をふさぐ前髪をかきあげて聞くと、狛枝は「見た目だけはね」と頷く。


    豚神  「意識は日向のまま、見た目だけがカムクラになったか……"また、いつか"と言っていたが、
         あいつが出てくれば日向の肉体を人質に取られてしまうぞ」

    田  「んん??イズルちゃんは創ちゃんを助けてくれたんすよね?」

    狛枝  「残念だけど、"母"の中に閉じこめられて困るのは、カムクラも同じだから……それだけの理由だと思うよ」

    田  「ぐぎぎ……てっきり漫画でよくある、敵キャラが味方になってくれる熱い展開かと思ったら
         裏切られたっす……」

    狛枝  「でもさ、さっき十神くんが言ってたとおり、出てくるなら初日でもよかったはずなんだよ。それが
         日向君の大ピンチになってやっと出てきたってことは……」

    日向  「カムクラは自由に俺の肉体を使えない?」

    狛枝  「少なくとも、日向君が死ぬギリギリにならないと出てこられないのかも。
         カムクラの状態で"変"の字を使えるかどうかも気になるところだけど……あのさ、そろそろ戻ってくれないかな。
         さっきから君の髪の毛が当たってチクチクするんだよね」

    日向  「あ、悪い」


    シュウッ…


    元の姿に戻ると、「やっぱりおにぃはそのモブっぽい頭が一番だよ」と西園寺が言う。
    150 : ◆XksB4A - 2017/04/19(水) 17:34:24.38 ID:31PTZRtF0 (+95,+30,+0)


    西園寺 「今度カムクラおにぃが出てきたら、"美容師の才能は持ってないの?"って聞いてやるんだー」

    日向  「西園寺……それがお前の最後の言葉になるかもしれないぞ」

    小泉  「えーと……まとめると、今は心配いらないってことでいい?」

    十神  「それでいいが……お前も、だいぶおおらかになったな」

    小泉  「悪い?」ジロッ

    十神  「いや、好ましい変化だ」フッ

    小泉  「そういうあんたも、よく笑うようになったよね……えいっ」パシャッ

    十神  「何をする!」

    小泉  「いいじゃん、いいじゃん。私たちだけで固まってるのはよくないことかもしれないけど……おかげで
         協力して蝕をクリアしていける。それって、すごいことだよ!だって私たち、今まで一人も死んでないんだから!」

    西園寺 「そういえば、九頭龍のチビはどうしてんの?」

    花村  「なんか落ちこんでるみたいだったから、ご飯をドアの前に置いてきたよ。
         ……そういえば、辺古山さんもいないね」

    豚神  「誰か、あとでメモを挟んでやれ。さて、次は蝕の対策会議をするか」


    十神が手を叩くと、全員の表情が真剣なものに変わる。
    いつもの、作戦会議だ。

    豚神  「現在、生徒数は1438名……3の倍数だ。だが、罪木によると保健室にいる重傷者のうち、7、8人は今夜が山らしい。
         となれば、おそらく通常型になるだろうな」

    日向  「じゃあ、通常型が来るという前提で話すぞ。まず、天気予報だ。午前中が晴れるのは、今日から6日後の水曜日。
         高気圧の動きから見て、ずれることはないと思う。
         左右田、七海の改造は終わったか?」

    左右田 「おうっ、いつでも行けんぜ!」

    弐大  「なんじゃ、七海をパワーアップでもしたんか」

    左右田 「まず腕にガトリングだろ、それから背中に外部端子くっつけてバッテリーを増やして、目にサーチ機能つけて……あと、
         小型のレーザーガンも作ったんだぜ!」

    日向  「それ以上七海を人間から離さないでくれるか?」

    西園寺 「そもそも人間じゃないじゃん、あいつ」

    豚神  「そっちは心配いらないな。では次、弐大とソニア」

    ソニア 「はい!」

    弐大  「応ッ!」

    豚神  「お前たちはどちらも文字の能力を強化するサポートだ。いつも通りソニアが田中、弐大が終里につく編成で行こう。
         花村は次回、田中について行ってくれるか?」

    花村  「うん、次もたくさんお肉をとるから期待して待っててね!」


    また、あの麻薬みたいなステーキを食わされるのか……。
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