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元スレ八幡「やはり俺のアイドルプロデュースはまちがっている。」凛「またね」
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声をあげる凛と、キョロキョロと辺りを見回して言う楓さん。
先程まで暗く何も見えなかった廊下が、パッと昼光色の光で明るくなったのである。どうやら無事に予備電源に切り替わったらしい。
ホッ、と。女将さんが安堵したのが分かった。やっぱ旅館側の人間としては気が気じゃなかっただろうな。
八幡「良かったですね」
「ええ。ご心配をおかけしました」
楓「これで飲み会に戻れますね♪」
そっち?
八幡「そんじゃ戻るか」
凛「そうだね。……でも、これはどうするの?」
手に抱える防寒着を見て言う凛。
八幡「まぁこの後も何があるか分からんから、念のため持ってった方が良いかもな」
と、言ってから女将さんに視線を向ける。
よく考えれば、俺が決めていい事ではない。ホテルの備品だし。
「そうですね。お手数ではありますが、格部屋へお持ち帰りして頂く方が宜しいかと思います」
八幡「だ、そうだ」
楓「それじゃ、すぐに戻りましょうか」
凛も頷き、一同は荷物を抱えたまま夕食会場の和室へと戻る事にする。
今頃はあっちも安心している事だろう。
戻る途中、ふと楓さんが思いついたように話し始める。
楓「けれど、案外あっさり解決してしまったわね」
けれど、という言い回しが本当に雪ノ下そっくりだったのだが、それはひとまず置いておく。
八幡「と、言うと?」
楓「ほら。こういう時って電気が回復するまでの間に、何か事件が起きたりするじゃない?」
悪戯っぽい笑顔で言う楓さん。
何か事件とは、また物騒な事を言い始める。まぁ言いたい事は分かるけど。
楓「暗がりに生じて、か弱い少女を……ぐわぁっと!」
凛「ひゃっ……! ちょっ、楓さん!?」
凛のらしくも無い悲鳴に、思わずバッと振り返る。え、今なに。何されたの!?
凛「ど、どこ触ってるんですか」
楓「ごめんなさい。後ろ姿が無防備だったから、つい」
顔を赤くしてジト目で抗議する凛。対する楓さんはにこやかである。完全に親父キャラやないですか。……で? 一体どこを? 凛のどこをどう触ったんですかねぇ!? プロデューサー気になります!
どうやら明るくなった事で気が緩んでいるらしい。こうやって遊ぶ余裕も出て来た(一人に関しては元々な気もするが)。
しかし楓さんが言った、こういう時は何かしらの事件が起きるものだという台詞。
冗談めかして言ったであろうが、実は案外的を射ていたりする。
というのも……
凛「あれ?」
元の和室へと戻り、襖を開けた凛が声をあげる。
文香「……お帰りなさい」
凛「ただいま。……文香だけ?」
凛の後を追って中を除いてみれば、確かにそこには鷺沢さんしかいない。
凛「他のみんなは?」
文香「それが、電気がついた途端、部屋から飛び出していきまして……」
部屋から飛び出してった? 鷺沢さん以外?
なんでまた……と思っていると、そこに上機嫌に鼻歌を歌いながら一人戻ってくる。
早苗「いや~危なかったわ。あ、比企谷くんたちお帰りなさい。電気戻って良かったわね!」
八幡「早苗さん。どこ行ってたんすか?」
早苗「もう、そんなの女性に訊く事じゃないわよ? トイレよトイレ。それよりも武蔵を……」
と、どうでもいいとばかりにそそくさとお酒の元へと行ってしまう。あの、一応さっきまで非情事態だったんですが……
まぁ、平気そうなら別に良いか。他のメンバーも同じ理由かもしれないしな。それならば確かに早苗さんが言うように野暮な詮索だ。
八幡「懐中電灯と防寒着は各々で部屋に持ち帰るとして、とりあえずは部屋に置いておきますか」
「ありがとうございます。……こちらの和室のご利用時間は当初の予定通りに?」
八幡「いえ。さすがに申し訳ないんで、飯だけ食べてすぐに各自部屋へ戻ることにします」
なんか点検とか、問題が無いかチェックとかやりそうだしな。迷惑にならないよう早く寝てしまった方が良いだろう。
女将さんにそう言った所で、チラと楓さんを伺ってみる。
何か異を唱えるかとも思ったが、特段そんな様子は見えない。
楓「事態が事態ですし、仕方ありませんね……」
お、おお……ちょっと感動した。
いや、そりゃ楓さんだって大人だし、そうだよな。こんな時くらいは自重するよな。
楓「改めてお部屋で飲みましょう」
八幡「そう来るか」
期待を裏切らない人だった。
「それでは私は戻りますが、何かあればお声がけ下さい」
八幡「ええ。ありがとうございました」
一度深く礼をして、女将さんはその場を後にする。
しかしこんな不足の事態になってもお客さん第一に行動しなきゃならんとか、本当に大変そうな仕事だ。それこそミステリーなんか起きよう日には堪ったもんじゃないだろうな。……これまであったりしたんだろうか。
八幡「そんじゃ、さっさと飯食って…」
早苗「ぎいぃえぇぇーーーーーーーーーーーっ!!?」
八幡「……………」
早苗さんの、悲鳴。
だが何故だろう。とてつもなくギャグ臭がハンパないのは。全然危機感が襲わない。
八幡「今度はどうしたんすか早苗さん。そんなアイドルらしからぬ声出して。凛との歳の差が干支一回り以上って事実に恐怖でもしたんすか?」
早苗「え? 嘘だぁ……ひい、ふう、……で、だから……うん。あ、マジだ。…………って違うわよ! 殴るわよ!?」
しっかり殴られた。グーで。
早苗「そんな事より、これよこれ! 見てよ!」
ずい、と早苗さんが差し出してきたのは、俺が持ち寄った例の桐箱。開かれたその箱の中には、しかしお酒の瓶は入っていない。
そう、空であった。
早苗「無いのよ! 剣聖武蔵がっ!!」
部屋の中へと木霊する、早苗さんの叫び。
八幡「あ。そうすか」
早苗「反応薄っ!? そんだけ!?」
八幡「いやそう言われても……」
正直どうでもいい……という反応の俺と凛(鷺沢さんはよく分からん)。しかし、過敏に反応する人物が一人。言わなくても分かるな。
楓「……早苗さん。それは本当ですか?」
静かに、だがしっかりと、焦りの色を浮かべている。
下手をすれば、彼女がこんなに感情を露にしているのを見るのは初めてかもしれない。それで良いのか現役アイドル。
早苗「ホントよホント! ほら!」
楓「確かに空ですね……この中に入っていたんですか?」
早苗「ええ。確かに中……に…………?」
記憶を辿るように思い出していた早苗さんは、そこではたと気づく。そして、そのまま視線はゆっくりと俺へ。あ、これまずいやつだ。
早苗「……比企谷くん! 確か、最後に持ってたのあなただったわよね!?」
八幡「最後に箱にしまったのは俺ですけど…」
早苗「その時本当はどこか別の所に置いたんじゃないの!? どうなの!?」
八幡「あがががががががが」
強引に掴まれ、がっくんがっくんと肩を揺すられる。いやちょっと落ちついて痛い痛い痛い!
八幡「ちゃ、ちゃんと箱に入れましたよ。見てなかったんすか?」
早苗「あんな暗い中で見えるわけないでしょ!」
楓「まぁあぁ。とりあえず、部屋の中を探してみましょうか」
楓さんが早苗さんを宥め、仕方なく部屋の中でのお酒捜索が始まる。と言ってもただの広い和室だからな。探せる所など殆ど無い。5分とかからず終えてしまった。
早苗「やっぱり無いわねー」
凛「仲居さんが持ってったとか?」
文香「待っている間、他の方が入ってくる事は無かったので、それはないかと……」
鷺沢さんの証言通りならば、俺たちが部屋を出てからは誰もここへ立ち寄ってはいない。つまり誰かが持ち出す事は不可能という事だ。……いや、
八幡「……明かりついて出ていった人たちなら、一応持ち出す事は出来るな」
凛「!?」
早苗「っちょ、あなた、みんなを疑う気!?」
八幡「別にそこまでは言ってないですよ。あくまで可能性の話です」
と、そこで襖が再び開けられる。
皆が視線を向けてみれば、そこにはいなかったメンバー全員が戻って来ていた。
レナ「ど、どうしたの。みんなしてそんなに見て」
幸子「はぁー……一時はどうなる事かと思いましたよ……」
莉嘉「あれ? みんなまだご飯食べてなかったの?」
見た感じ、特に怪しい所は無い。
俺が早苗さんを見ると、彼女はとても真剣な表情で、本当に仕事の時にしてくれと言いたくなる程に真剣な表情で、呟いた。
早苗「これは、事情聴取の必要があるわね……!」
そこまでの事か。
その後戻ってきたメンバーに事のあらましを説明。お酒の行方を知らないか訊いてはみたが、残念ながら誰も知らないようだった。
レナ「なるほど……これは確かに事件ね」
早苗「そうでしょう!? 誰か、無意識に持ってったりしてない?」
一体どれだけお酒が好きなら無意識にそんな行動に出るのか。むしろあなたの方があり得そうじゃありません?
八幡「ってか、早苗さんも部屋からすぐに出てったんですよね。それこそ酒に目が眩んで持ち出したんじゃ…」
早苗「なんですってぇ!」
再び、がっくんがっくん揺らされる。今度は胸ぐらだ。段々余裕無くなってきてるぞこの人……!
早苗「さっきも言ったけど、あたしはトイレに行ってただけよ! そりゃ、アリバイは無いけど……とにかく元婦警のあたしがそんな事しないっての!」
力説する早苗さん。
正直、こんなしょうもない事でアリバイうんぬんとか言わんでほしい。なんか嫌だ。
レナ「私は部屋に携帯電話を取りに行ったけど、それも特に証明は出来ないわね」
莉嘉「アタシも、部屋に戻って電話してたよ? お姉ちゃんに報告しておこうと思って」
幸子「ぼ、ボクは、えぇっとー……そう、トイレ! トイレに行ってました!」
約一名焦り過ぎな気もするが、一応は全員が知らないと言っている。しかし、証明は出来ない。
八幡「…………」
早苗「あれ? でもあたし幸子ちゃんとトイレで会ってないわよ?」
幸子「うぇっ!? いや、あの、えっと……そう、ボクは一人じゃないと集中出来ないんですよ! だから部屋まで戻ったんです! ええ!」
そんな情報は別にいらん。っていうか君アイドルだよ? もうちょっと言い方ない?
凛「そもそも、明かりがついた後に持ってったらさすがにバレるんじゃない?」
八幡「どうなんですか?」
文香「……正直、皆あっという間に出て行ったので、何とも」
早苗「あー……確かに、そこまで気に留めてなかったわね」
じゃあ、どさくさに紛れて持ち出した可能性は否定できないわけだ。
まぁ俺以外は全員浴衣だし、瓶はデカイが隠そうと思えば隠せるか。……なんかエロいな(小並感)。
八幡「……とりあえず、ちゃっちゃと飯にしちゃいましょう。片付けられないんで」
早苗「うう……折角良いお酒で晩酌出来ると思ったのに……」
八幡「ちなみに飯食ったらすぐ部屋に戻ってくださいね。二次会も無しで」
早苗「嘘でしょぉッ!?」
そんなこんなで、喚く早苗さんを宥めつつ、夕食をなんとか終える。
ちなみに撮影が遅れる事はこの時に伝えた。危ねぇ……普通に忘れる所だった。
レナ「嵐で来れない……いよいよサスペンスじみてきたわね」
文香「三日も何もしないでいて、大丈夫なのでしょうか……?」
八幡「予備日があるのでその点は心配いらないそうです」
早苗「うう…武蔵……」
まだ言ってんのかこのアラサーは。
凛「その間って、私たちは何してればいいのかな」
莉嘉「ヒマになっちゃいそうだよねー」
八幡「まぁ、台本とか読んで……ゆっくり休んどきゃいいんじゃないか」
正直俺も特に指示する事は無いし、する事も無い。休んでくれとしか言いようが無かった。
しかし、さっきから一つ気になる事が。
楓「…………」
飯食う前あたりから黙りこくってる楓さんである。
珍しく、その表情は思い詰めてると言える。……まぁ、何となく想像はつくけどな。
レナ「それじゃあ、そろそろお開きにしましょうか」
八幡「ええ。お酒を飲むのも良いっすけど、各自自己責任でお願いします」
早苗「くっ……子供のくせにまともな事言っちゃって……!」
大人のくせにまともじゃない人が多いんです。とは言えない。また鉄拳制裁くらっちゃう。
そして自分の部屋へ戻る間際、件の楓さんがそっと耳打ちしてきた。思わず、バッと後ずさる。
楓「――後で部屋に行きますね」
そう、彼女は言っていた。
これが何も無い場合の台詞なら何と心くすぐられた事だろうか。しかし、実際はそんな色気づいたものではない。
……一体何を言い出す事やら。
相変わらず短いですが、今回はこの辺で。ミステリーだと思った? 残念、ギャグだよ!
楓さん編はこのままずぅーっとこんな感じなんで、期待していた方には正直申し訳ないと思っている。
楓さん編はこのままずぅーっとこんな感じなんで、期待していた方には正直申し訳ないと思っている。
>>112
また明日から学校でリア充にイジメられる1週間が始まるのかwwww大変だよなwwwwwwww
また明日から学校でリア充にイジメられる1週間が始まるのかwwww大変だよなwwwwwwww
>>112
ここの葉山たちはいいキャラなんだよなぁ
ここの葉山たちはいいキャラなんだよなぁ
乙
楓さん編が終わったらあの9人のようにヒッキーと楓さんをニアミスさせてほしい
楓さん編が終わったらあの9人のようにヒッキーと楓さんをニアミスさせてほしい
*
“後で部屋へ言く”。
そう俺に告げた楓さんは夕食を終え別れた後、30分程で宣言通り俺の部屋を尋ねてきた。
……二人のお供を連れて。
楓「こんばんは」
八幡「どもっす。……で、どうしたんすか。凛と鷺沢さんまで連れて」
楓さんの後ろには、何とも複雑そうな表情をした凛と相変わらず感情を読み取り辛い鷺沢さんが控えている。何と言うか、巻き込まれました感がハンパない。俺含めて。
楓「まぁまぁ。とりあえず、中に入れさせれ貰ってもいいかしら?」
八幡「そりゃ、まぁ……どうぞ」
特に断る理由も無いので、入室を許可する。……いやーでもこれなんか長くなりそうだなぁ。だって手になんかビニール袋持ってるもん。あれ缶的なもの入ってるよシルエットで分かる!
しかし気付いた所で時既に遅し。仕方ないので、残りの二人も中へ招く。ツインルームの洋室を一人で使うという贅沢な状態のため座る所には困らない。
ちなみにアイドルたちもそれぞれ一人一部屋あてがわれているが、莉嘉と輿水のみ同室である。まぁ、あいつらまだ中学生だしね。子供扱いは嫌だろうが、実際子供なので我慢してもらうほかない。ってか、よく考えれば高校生は俺と凛だけだな。……いやだから何だって話なんだけど。
八幡「ほら」
凛「ありがと」
文香「……失礼します」
二人を椅子へ促し(楓さんは既にベッドに腰掛けていた)、全員が座ると、自然と部屋の中央を見る囲ったような位置になった。そして、何が始まるのかと楓さんへと視線を向ける。他の二人も同様だ。この分じゃ、二人にもまだ話してないんだろうな。
楓「それじゃあ早速だけど、ここへ来た理由を話すわね」
八幡「ええ」
俺が返事をすると、楓さんは持って来ていたビニール袋を少し持ち上げ、とても良い笑顔をつくる。
楓「まず一つは、比企谷くんたちと飲み明かしたいなぁ……と思って来たのと」
八幡「………………」
文香「(……比企谷さんが、頭を抱えています…)」
楓「あ。もちろん、比企谷くんたちの分のソフトドリンクも持ってきてるから、安心してね」
八幡「…………………………」
凛「(楓さん、たぶんそういう事じゃないと思うよ……)」
いや、うん。これは予想通り。予想通りだけど、出来れば外れてほしかったなーって。
八幡「……早苗さんと、あと兵藤さんは?」
楓「今は早苗さんの部屋で飲んでるんじゃないかしら。私は用事があると言って抜けてきたけれど」
そうか、そこだけは運が良かったな。あんだけ不貞腐れてたし、部屋に押し掛けてきて更に絡み酒とか目も当てられない。まぁまだ来ないとは限らないのだが。
楓「でも、とりあえずは本題の後ね。二つ目が重要なの」
八幡「……二つで全部ですか」
楓「全部です。……あ、でも三つあるかも…」
八幡「二つでお願いします」
絶対今この人思いつきで言っただろ。ほら、だって舌出したよ今!
何とも良いように弄ばれてるものだ。この大人の余裕はどことなく陽乃さんを思い出す。全く違うタイプなのにな。不思議だ。
八幡「……それで、その二つ目ってのは?」
楓「ええ。みんな薄々気付いてるかもしれないけれど……」
凛「……もしかして」
楓「剣聖武蔵を、見付けましょう」
表情を一転、キリッとした顔つきで言う楓さん。だがあまり締まらないのは何故だろうか。
まぁ、これも予想通りだな。
楓「正確には、武蔵を隠し持っている人を暴く、と言った方が良いかしら」
八幡「……やっぱ、そうなりますよね」
凛「ちょっと待って」
そこで介入してくる凛。
どうやら楓さんの言い方に気になる点があった様子。
凛「その言い方だと、誰かが持ってるって確信してるように聞こえるけど」
楓「確信、ではないけれど、私はその可能性が高いと思っているわ」
顎に手を当て、考えるように言う楓さん。何とも絵になるな。探偵役でもいけそうだ。
八幡「確かに、あの状況じゃ自然に無くなるなんてまずあり得ないからな。第三者が介入する術も無いようなもんだし、あの部屋から出た誰かってのが有力だろ」
文香「…それで、このメンバーが集められたんですね……」
納得したように呟く鷺沢さん。
まぁ、この面子って時点で何となく想像はついたけどな。
楓「あの時私と比企谷くんと凛ちゃんは部屋を出ていて、文香ちゃんはずっと部屋にいました。なので協力を仰ぐならこのメンバーだと思ったの」
文香「ですが、皆さんが出て行った後……私にも一人の時間がありました。そこは良いのですか……?」
何故か自らアリバイが無い事を告げる鷺沢さん。それを言う時点で犯人では無さそうだが、その発言に対する楓さんの返答はこれだ。
楓「ふむ……」
文香「…………」
楓「……その発想は無かったわね」
無かったのかよ。
思わずガクッとなる。どうやら探偵役は無理そうだな。ってか本当に探す気ある?
八幡「……まぁ、どっちにしろ、鷺沢さんには無理だと思いますよ」
凛「何か理由があるの?」
八幡「単純に、電気が付いてから全員が居なくなるなんて分からないからだよ。突発的に行動した可能性もあるにはあるがな」
全員が部屋を出て行って、今がチャンス! とお酒を隠す行動に出る等どんな状況だろうか。いや、それを言ったらお酒を持ってく奴の動機も良く分からんって話になるんだが。
八幡「それに、俺らがいつ戻って来るかも分からんのに行動するのはリスクが高い」
凛「なるほどね。確かにそんな短い時間で隠すのは難しいかも」
文香「一応、窓から放り投げるという手も……」
楓「文香ちゃん、そんな事をしてはダメよ。絶対にダメ」
とても迫真の表情でおっしゃる楓さん。だから、そう言う時点でまずやってないって。
凛「私たち三人はいいの? 一緒にいたし、難しいとは思うけど」
楓「そうね……」
楓さんは少しだけ考え込む素振りをするが、すぐに顔を上げて告げる。
楓「そこまで考え出したら切りが無いし、私たちの中に犯人がいるとは考えないようにしましょうか」
八幡「……ノックスの十戒、とはまた違うか」
凛「ノックス……って、何?」
俺の呟きに首を傾げる凛。
それに答えてくれたのは鷺沢さんだった。
文香「ロナルド・ノックスが提唱した、推理小説における十個のルールのようなものです……」
さすがは鷺沢さん。色々読むとは聞いていたが、どうやら推理小説にも精通しているらしい。
凛「十個のルール……」
文香「はい。その内の一つに、“登場人物が変装している場合を除いて、探偵役が犯人であってはならない”……というものがあります。それが今回で言う、私たちのこと……ですね、比企谷さん」
八幡「ええ」
まぁ、あくまで推理小説を作る上での基本指針みたいなもんだし、現実に当てはめるのは無理があるがな。しかし可能性を絞るという意味においては、身内の可能性を排除するのは悪い手ではない。それこそ考え出したら切りが無いからだ。
すると、そこで鷺沢さんが俺に視線を向けているのに気付く。
文香「十戒をご存知という事は…比企谷さんも、推理小説をお読みになるんですね……」
八幡「まぁ、割と」
文香「そう…ですか」
何とも口数の少ない会話。
だが、初めて面と向かって彼女の笑顔を見た。僅かに微笑むその表情は、普段とのギャップも相俟って色々やばい。いや可愛過ぎないかこの人。思わず、目を逸らす。そして逸らした先には、ややジトッとした目の凛。バッチリ見ラレテター。
取りあえず、意味も無く一度咳払い。
八幡「……えー、で、何の話でしたっけ」
楓「ひとまず私たちは抜いて、残った四人の中から考えましょう。という所です」
そうだった。となると、残りは兵藤さん、輿水、莉嘉、そして早苗さんか。……元婦警が一番動機としては怪しいってこれどうなの。
凛「……けど、疑うのってあまり良い気がしないね」
文香「確かに、そうですね。……同じ事務所の仲間…ですから」
ばつが悪そうに言う凛に、同調する鷺沢さん。
まぁ、言いたい事は分かる。たかだか酒が無くなっただけだが、それでも誰かが盗んだじゃないかと疑うのは良い気分じゃないだろう。
しかしそこで、発起人である楓さんは言う。
楓「そうね。……でも、以前私の先生が言っていたわ」
八幡「先生……?」
楓「“信じる事と思考の放棄は別物だ。だから、信じたい奴ほど疑わないといけない時がある”」
うえっ!?
思わず、変な声が出そうになった。いやいやいや、その台詞は……
楓「確かに大切な仲間を疑うのは良くないと思うけれど……信じたいから、やっていないと証明したいから調査する。そういうのもありなんじゃないかしら」
文香「やっていない事を…証明する為に……」
反芻する鷺沢さん。表情を見るに、目から鱗といった感じだ。
しかし、それに対して凛はどこか踏ん切りがつかないように見える。まだ、納得し切れていないという様子。
凛「それも分かるけど、でも……」
楓「でも?」
凛「……それでも私は、どうしたって信じたい人はいると思う。何の根拠も無く、それこそ、思考を放棄しても良いくらいに」
とてもとても真っ直ぐに、凛はそう言い切った。
今度は、俺が目から鱗が落ちるかと思ったよ。
……本当、こいつはハッキリ言ってくれるよな。そこが良いとこなんだが。
そして楓さんはと言うと、こちらも特に否定する事は無く…
楓「そうね。それも間違ってないわね」
凛「へ?」
楓「そう言える凛ちゃんの考えは、とても素敵だと思う」
まさかの切り返しに、逆に拍子抜けの凛。
楓さんも、恐らくはこれで本心なんだろうから敵わないよな。とらえ所の無い人だ。
楓「でも、今回はそこまで真剣に考えなくてもいいんじゃないかしら。私も、残り三日をどう過ごそうか考えて、時間もあるし、折角だから調査してみようかなって、そんな思いつきだったから」
凛「……それってつまり」
ヒマ潰し……とまではさすがに言わないが、まぁ、概ねそんな所だろう。
だが実際、そんな大した事じゃないからなぁ……正直事件とすら呼べない。物が物だけに大騒ぎしてる人はいたけど。
楓「だからそんなに重く考えないで、気楽にやってみましょう?」
凛「は、はぁ」
楓さんは楽しげだが、凛は困惑するばかり。
たぶんここで楽しめるかどうかで人柄が分かるな。本田とかはノリノリで加担しそうだし、島村は……あいつも以外と楽しみそうだな。
鷺沢「それでは…残りの三日で、お酒の行方を私たちで辿る……という事で良いでしょうか」
楓「そうね。見事探し出した暁には、皆で祝杯を上げましょう。武蔵で」
八幡「飲めるの楓さんだけですよ」
まぁ、どうせその時は兵藤さんと早苗さんも一緒だろうがな。仮に二人のどっちかが犯人でも一緒に飲むんだろう。想像つく。
凛「あの四人の内の誰か、か……」
八幡「……けど、確かに気になる事はある」
凛「気になる事?」
凛が疑問符を浮かべ、そして楓さんと、鷺沢さんも俺へと視線を向ける。
八幡「あの時早苗さん以外の三人は、嘘をついていた」
自分たちが何をしていたかを説明した、あの時。彼女たちは確かに嘘をついていた。
俺がハッキリそう告げると、凛たちが少なからず驚いたのが分かった。
凛「嘘をついてた……?」
八幡「ああ。輿水が出任せを言ってたのは気付いてただろうが、兵藤さんと莉嘉の証言も怪しかった」
輿水はあんだけ動揺してたからな。犯人かどうかは置いといて、何かしら隠してるのは間違いない。あれで全部演技だったらマジで女優だ。
八幡「まず兵藤さんだが、部屋に携帯電話を取りに行ったって言ってたよな。けど実際、元々持ってたんだよ。実際確認した」
凛「確認したって、どうやって?」
八幡「電気が消えた時、隣にいた兵藤さんが持ってた巾着に間違って手が触れたんだよ。あの形は携帯電話で間違いないはずだ」
恐らくは形状からしてスマートフォン。さすがにiPodなんて持って来るはずないし、そうすると何故わざわざ部屋に取りに行ったなどと嘘をついたのか。
楓「それじゃあ、莉嘉ちゃんは?」
八幡「莉嘉は部屋に電話しに行ったって言いましたけど、それもおかしい。この旅館は“三階の談話室まで行かないと電波が届かない”はずですからね」
これも俺は実際に確かめたし、何より莉嘉自身が言っていた事でもある。自分の部屋じゃ、電話をする事は不可能。
八幡「早苗さんがトイレに行ったって言ってたのは恐らく本当だろうな。幸子がいなかったのを知っていたし、本人も認めていた。まぁ、別の理由で行った、という可能性もあるが」
鷺沢「……洗面所に…流した、とか」
楓「ダメよ文香ちゃん。そんな事をしては絶対にダメ」
だから物の例えでしょーに。
八幡「とにかく、嘘をついてる以上、何かを隠してるのは事実でしょうね」
楓「そう。……では、やる事は一つね」
あ、今の言い方も雪ノ下っぽい。
楓「これから私たちは、剣聖武蔵の行方、及び犯人の捜索を開始します」
またもキリッとした表情の楓さん。だがやはり何故だろう、全然シリアス感が無い。ってか絶対楽しんでますよね?
楓「凛ちゃん。あなたには、これから私の助手としてサポートしてもらうわね。ワトソン君」
凛「ワトソン君!?」
楓「……ミス・ワトソン」
凛「いやそこじゃなくて!」
だから助手でもクリスティーナでもないと……
楓「文香ちゃん。文香ちゃんはあまり足で捜査という感じはしないから……情報を聞いて思考する役目をお願い」
八幡「ミス・マープルみたいだな」
文香「いわゆる…安楽椅子探偵……というやつですね」
そこでまた、目が合う。いやその微笑は本当にやばいですって……
楓「そして、比企谷くん」
八幡「…………」
楓「比企谷くんは……特に、無いわね」
無いんかい。
なんかこう、ちょっと期待しちゃった自分が恥ずかしいよ!
八幡「……そんじゃ、事件が解決した時は語り部でもやりますよ」
凛「誰に語るの?」
八幡「そりゃもちろん、温泉饅頭待ってる蘭子あたりに」
美味しい土産に楽しげな土産話。羨ましそうにする姿を見るのが楽しみである。
まぁ、語るに値するかはこれから次第だがな。
楓「では早速……」
八幡「…………」
楓「今夜は飲みましょうか♪」
え。
袋から缶ビールを取り出し始める楓さん。
あれれー? この流れは早速捜査を開始するんじゃないの~?(コナンくん並感)
楓「まだ三日あるし、今日はもう遅いわ。本格的な捜査は明日からという事で」
凛「まぁ、確かにね」
文香「今夜も、長くなりそうです……」
八幡「これ明日になったら面倒くさくなってるパターンじゃないか?」
こうして、夜は更けていく。
明日から始まるは、行方をくらました高級酒・剣聖武蔵の捜索。探偵(役)が来るまでの三日がタイムリミットとは、何とも皮肉なものだ。
正直俺としては、捜査よりも毎晩行われるであろう宴会の方が厄介なのだが……
……まぁ、これもプロデューサーの役目…………じゃないよね、絶対。
乙乙
まあ、十戒も二十則も破られてる作品の方が多いから、楓さんが犯人の可能性もなくはない
まあ、十戒も二十則も破られてる作品の方が多いから、楓さんが犯人の可能性もなくはない
正直あんまり気にしてなかったけど言われてから意識して読んじゃうときもちわるくなってきたな
全員犯行可能で全員証言が怪しい、全員に動機があれば開いたトランプ状態だな。
凛ちゃんの新SSRを輝子SSRと並べてみると割りと映える
このSS好きだからちょっとうれしい
このSS好きだからちょっとうれしい
更新できず申し訳ありません。もう少しお待たせする事になりそうなので、その報告です…
本当は3年丁度か凛ちゃんとヒッキーの誕生日に会わせて終わらせたかったんですが、それも恐らく無理そうです。
出来るだけ早く更新するように頑張りますので、何卒よろしくお願いします!
本当は3年丁度か凛ちゃんとヒッキーの誕生日に会わせて終わらせたかったんですが、それも恐らく無理そうです。
出来るだけ早く更新するように頑張りますので、何卒よろしくお願いします!
>>140
すいません酉つけ忘れてました。1です!
すいません酉つけ忘れてました。1です!
ヒッキー、凛ちゃん、誕生日おめでとう! 更新無くてごめんね!
お盆には、お盆中には更新します。マジで。
お盆には、お盆中には更新します。マジで。
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- 八幡「やはり俺のシンクロ率は間違っている」アスカ「は?」 (274) - [53%] - 2014/1/23 5:45 ★
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