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    元スレ扶桑「私たちに、沈めとおっしゃるのですか?」 提督「そうだ」

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    101 = 95 :

    12回ゲージ回復するんですねわかります

    102 = 1 :


     時雨のその言葉に、扶桑は思わず目を伏せる。

    「……ええ」

     山城は、胸の前で拳を握る。

    「必ず」

     それぞれが、短く言葉を紡ぐ。 
     ただの一言ずつではあったが、そこには十分すぎる強い決意が溢れていた。
     
     ありがとう、と言葉にする必要もなかった。
     そんな言葉を求めているわけではないことなど、言われなくとも分かっている。
     自分たちにできることは、彼女たちの願いを叶えてあげることだけだ。
     
     だからこそ、勝つ。作戦の成功に力を尽くす。
     それが自分たちに与えられた使命であり、責任。
     例え壊滅必須なものであっても、それが命を守ることになるのなら。
     

     ――この娘たちを守れるのならば、これ程嬉しいことはない


    「満潮」
    「え?」

     扶桑に名前を呼ばれて、間抜けの声を出す。
     そんなことを気にもせず、扶桑は自らの髪飾りへと手を伸ばした。
     シャリンッ、と耳に心地よい金属音を残し、1つ離し取る。
     それを未だ困惑する満潮に、微笑みながらそっと差し出す。

    「これは……?」
    「今まで、何もあげられてなかったから。だから、受け取って」
    「それって……」

     このタイミングで、こんな贈り物。こんなの、ただの形見ではないか。
     それに、何もあげられていなかった、などというのは間違いだ。
     満潮だけではなく、時雨も最上も、皆みんな、扶桑と山城から沢山のものをもらっているのだ。
     突き返したいとも、思った。だけれど、口から出た言葉は違った。


    103 = 1 :



    「……預かっておくわ」
    「え?」

     さすがに、予想していなかったのか、今度は扶桑がキョトンとした表情を作る。
     
    「預かっておくって言ったの! 綺麗に手入れして! ずっと!」
    「……そうね」
    「だから、その時が来たら……」

     悲しみを乗り越えることは容易ではない。
     それでも、見せかけでもいい。作った笑顔であっても、今はいいではないか。
     必要なものは、悲しみを乗り越えようとすることなのだから。


     だから満潮は、悲しみを覗かせながらも、目一杯笑って見せた。


    「絶対、返してあげるから!」
    「……ありがとう」

     満潮の温かさと強さを目の当たりにして、扶桑の心が震えた。
     そして、それを見守っていた山城も。

    「時雨」
    「山城、君もかい?」
    「そうよ、姉さまの二番煎じで悪いわね」

     クスクスとからかう様に笑う時雨に、ムスッとした表情で自分の髪飾りを押し付ける。
     仕方ないな、と微笑みながら時雨は受け取る。
     普段からクールな時雨だったが、今日ばかりは歯を見せて笑う。

    「じゃあ僕も、預かっておこうかな」
    「……そうしておいてくれるとありがたいわ。ほら皆も」

     そう言って、一人ひとり、髪飾りを贈る。
     皆、大事そうに、胸に抱えていた。
     別れが近いというのに、皆の顔には笑顔が浮かんでいた。




    「それじゃあ……もう行くね」
    「ええ、本当にありがとう、提督によろしく言っておいてね」
    「うん。手筈通りに、こっちはやっておくから」 
      
     それだけ言い残して、満潮たちは去っていく。
     何度も振り返りながら、手を振り続けていた。
     暗闇で何も見えないだろうが、ずっと笑顔で。
     扶桑と山城も、それに答え続けていた。
     ずっと、笑顔だった。満潮たちも、扶桑たちも。
     その笑顔も、再び沈黙が周囲を支配すると、キッ、と引き締まる。

    「山城……覚悟は、できた」
    「……はい」

     そう、とその言葉に一瞬だけ頬を緩める。しかし、すぐさま表情を戻し山城に向かい合う。
     月明かりに照らされた、扶桑の姿は、どこか可憐で、儚く。

    「戦艦扶桑、戦艦山城」

     そして、怖かった。

    「出撃します」



    104 = 1 :

    西村艦隊の改二はみんな時雨みたいに扶桑たちの髪飾りをしていてほしい
    そう思っているのは私だけ?

    てことで今日はここまで

    105 :

    乙 扶桑姉妹は何回沈まないといけないんですかね……
    > 西村艦隊の改二はみんな時雨みたいに扶桑たちの髪飾りをしていてほしい

    106 :

    今帰ってきたので明日投稿します

    こんな話書いてると、ほのぼのが書きたくなってきたw

    107 :

    え?扶桑姉妹が沈んだ後にほのぼのを前日譚として書く?(難聴)

    108 :

    申し訳ない
    会社の人と飲んでました
    明日こそは……

    109 :

    そんな・・・楽しみにしていたのに

    110 :



    扶桑たちが守るべき諸島は大小合わせて8つの島々からなる。 
    東をから西へ、進むには1つひとつ順に通過することになる。
     
    提督からの作戦内容はあくまで諸島全体の防衛。
    主力艦隊がどの程度応援に駆け付けられるか不明なことを鑑みると、後退ラインは4番目島まで。
    3つまでならば艦隊を投入すれば奪い返すことができるという算段だった。
     
    もちろん、上手くいくかは不明だが少しでも作戦を成功させるためには、全ての島を守る必要はない。
     1番目の島からすべてを守ろうと尽力を尽くし、時間を稼がないのならば、少しずつ後退してでも時間稼ぎに努めたほうがいい。
     幸いなことに、この3つの島は無人島であり人の生死は関わらない。
     しかし、逆に言えば3つまでしか後退できないともいえる。

    4つ目以降の島も奪われるとなると奪還も非常に厳しくもなる。
     扶桑たちは、稼ぐべき時間も分からないまま、2人でひたすら耐える必要がある。
     
    終わりが分からない。
    ペース配分も分からない。
    燃料、弾薬も、そしてスタミナもどれだけ持つかわからない。
     
    そんな中で、敵を打ち倒すのではなく、唯ひたすら耐え抜くという苦行。
     想像もできないほどの地獄をこれから迎えるというのに。

    扶桑の顔は涼しげで、汗1つかいていなかった。


    111 :



    「来た、わね……」
    「はい……」

     遠くから、人のものではない鳴き声が戦慄く。
     低く、重く、大気を震わすかのような振動が伝わってくる。
     意気揚々と、敵地を侵略しようと乗り込んできたのだろうか、非常に戦意が高く見えた。
     百鬼夜行のごとく、群れを成して航行していくさまは見るからに獰猛、凶悪。
     暗闇の中でも、その大群の存在感は大きかった。

    「準備はいい、山城?」
    「はい。姉さま」

     敵はまだこちらの存在に気づいていないようだ。
     スピードを落とさずにそのままの勢いで第一諸島にと進行を続ける。

     よもや、敵も自分たちの迎撃のために送られた艦娘が2人のみとは思いもしなかっただろう。
    これだけの大群の対処に当たるには、艦隊を組み、それを運用してするものだ。
     目視でそのような艦隊は確認できない。そこに油断が生まれる。

     岩陰に潜んでいた扶桑たちは、タイミングを計る。
     
     先手必勝。戦力的に大きく劣る彼女たちにとって取りうる手は限られてくる。
     扶桑は指を三本たて、ゆっくりとカウントしていく。
     
     そして、敵が射程圏内に入った瞬間。

    「砲撃開始っ!」

     轟音とともに、数発の砲弾が深海棲艦の大群の中心に着弾した。

    112 :

    提督が必死に大型建造して大鳳が来る流れだよね(願望)

    114 :

    他の戦艦たちの反応も気になるな
    特に伊勢型姉妹と扶桑と同じ国の名前を艦名に背負っている大和

    115 :


    鼻を突く火薬の匂い。
    身も心も揺さぶるかのような衝撃。
    巨大な艤装は、威風堂々と熱を帯びていた。

    誇らしげに。
    嬉しそうに。
    それはきっと、見間違いではなかった。

    116 = 1 :

    久々に放った砲弾による衝撃に、思わずバランスを失いそうになった。
    しかし、久々といっても身体がその対処法を覚えているため意識することなく体勢を立て直す。
    美しい放物線を描いた砲弾は、残念ながら敵に直撃はしなかった。

    ただ、相手の群れのど真ん中に着弾したことで相手を浮き足だ立たせることには成功した。
    敵影もなにも見えない、邪魔する者はいないと意気揚々に 乗り込んできた深海棲艦にとって、その襲撃全くの予想外と言っていい。
    もとより、初弾は命中させるつもりはなかった。
    相手を動揺させることが目的、当たれば儲けもの。
    第2撃からが、本当の意味での攻撃。
    細かい修正はほとんどいらない。たも、相手の群れのど真ん中にぶちこむだけ。
    あれだけいれば、どれかには当たる……。
    そんな、大雑把な考え。

    だが、扶桑たちちとって、狙いを定めることで神経を集中させるくらいならば、その方が疲労も少なくてすむ。

    117 :

    お、来てた

    118 :

    ネット環境の不備で更新できてませんでした……
    昨夜のもスマホでポチポチと打ったものだったりw

    今日もできれば夜更新します

    119 :


    「次弾、ってぇぇっ!」

     扶桑の掛け声とともに、初弾での水柱が静まらない中、続けさまに砲撃。 
     今度は、着弾と同時に盛大な爆発と破壊音が続いた。

    「第2撃命中! 駆逐艦2隻!」
    「もう1度砲撃したらすぐに移動開始するわよ!」
    「はい!」

     返事と同時に、三度の砲撃。
     扶桑たちはその砲弾の行方に目もくれず、すぐに次のポイントへと移動を開始する。
     数に大きく劣る扶桑と山城がとりうる手は、限られてくる。
     正々堂々真正面から戦いを挑めば、数分で無残にも散っていくことだろう。
     だからこそ、泥臭く戦う。

     当てては逃げ、当てては逃げ。そこに華々しさなど無い。
     けれど、戦など、本来はこういうものであったのではないだろうか。
     艦隊決戦、などと聞こえはいいかもしれない。だが、戦場は華々しいだけものではない。
     血生臭く、おびただしく流れる汗と涙。其処には見たくもないものがいたるところに点在している。
     それでも戦う。勝つために。守りたいものをその手で守るために。

    120 = 119 :

    とりつけ忘れた・・・
    上のは私です

    121 :

    うるさい外野が減って読みやすくなったな

    122 = 1 :

     
     足の遅い身体を必死で前に動かしながら、扶桑と山城は暗闇に身を溶け込ませながら波をかき分けていく。
     後ろから敵の砲撃が着弾する音が聞こえてくるが、おそらく先ほどまで二人がいた場所めがけて砲撃をしているのだろう。
     ちらっと、扶桑は敵の様子を轟々と燃える炎と、深海棲艦が放つ砲弾の光を頼りに伺う。
     見当違いの方向へ攻撃を続ける深海棲艦に思わず口元が緩む。しかし、すぐに怪訝な表情を浮かべてしまう。

    「報告よりも、敵が少ない……?」

     移動しながらなので正しい数字とは言えないだろう。
     戦艦、重巡の数は10前後と報告の数字と一致しているが、駆逐艦は多く見積もっても40もいない。
     
    「報告が間違っていたのでしょうか?」
    「そうかもしれないけれど……用心だけはしておきましょう」
     
     実際、追撃のために体を二手に分けていることも考えられる。 
     もちろん、山城の言葉通りかもしれないが、そのような都合のいい考えは持たないほうがいい。
     この場で考えるのは常に最悪のシチュエーションのみ。少しでも甘い考えは油断に繋がってしまう。
     気を引き締めるためにも、楽観的になってはいけない。
     冷静に、慢心せず、着々と作戦を進める。
     そうしてこそ、死を少しでも遅らせることができる。
     
     とにかくまずは、目の前にいる敵に集中しよう。
     そう思い、扶桑は主砲を深海棲艦へと向ける。
     例にもよって、標準はあえて合わせない。砲弾の行方は、神のみぞ知る。
     
     行く先も、運命も、すべて。

    123 = 1 :

     

     海は、気分屋だ。
     飄々と穏やかに見守ってくれていると思えば、突如怒りの矛先を向けてくる。
     海は、いつ、機嫌を損ねるかわからない。
     
     本当に、海は気分屋だ。
     

    124 = 1 :

    砲弾を撃つ音と爆発音が激しさを増していく。
     突然の奇襲に最初は混乱していた深海棲艦だったが、今となってはすでに来た砲弾にたいして冷静に対処を続けている。
     それでも狙いを定めさせないため、扶桑と山城は常に移動を怠らない。
     相手は無数の砲弾の雨を降らせてくる。少しでも立ち止まると容赦なく、身体に突き刺さるだろう。
     決して回避力があるとはいえない扶桑型。それでも、寸でのところで避け続ける。
     頬を掠め、すぐ横に着弾しても、決してひるまない。足を竦めている暇など、ない。
     

     その表情には怯えなど一切なく、両目と砲塔は敵影のみを睨み付ける。
     鬼気迫るとは、獅子奮迅とは、まさにそのことを言うのだろう。
     圧倒的戦力差を恐れていない、なんてことはない。
     恐怖は、心を大きく蝕んでいる。気を抜くと、手足の震えも止まらなくなるだろう。
     怖くて、怖くて。今すぐにでも逃げ出したくもなる。
     それを、抑え込む。守るために、と理由をつけ、死の恐怖を受け入れる覚悟がある。
     
    「姉さま! 魚雷っ!」
    「分かっているわっ!」 
      
     避けるべき攻撃は、上だけではない。
     水中からは、相手の駆逐艦郡が発射する魚雷の群れ。
     直撃すれば、敵の砲弾よりも致命的かもしれない。
     通常の火力が低い駆逐艦の最大の武器であり、まともに命中すれば戦艦ですら無事ですまない。
     しかも、夜戦ともなるとその航跡も確認しにくく、回避難度も高い。
     それだけ、魚雷は扶桑たちにとっても最も気を付けなければならない攻撃。

     魚雷の防御方法は、音響遮蔽などが一般的だが、そんな装備はすべて主力艦隊のほうに預けている。
     防護ネットなら一応あるが、敵魚雷の性能の前にはほとんど無いものと変わりがない。
     つまり、基本的に回避行動をとるしかないのだ。
     ジグザグと動き、攻撃の的にならないように不規則な動きを続ける。

     ただ、何十本、という数の魚雷を避けるためには魚雷の動きを見極め、より細かく、集中して動く必要がある。
     それだけではなく、空から落ちてくる砲弾にも気を配らなければならない。
     そんな極限まで高めた集中力で、2人は全ての攻撃を避けきる。

     そして、休む間もなく砲撃。
     2人が放った砲弾は、それぞれ1隻ずつを仕留めた。

    「次っ」
    「はいっ」

     緒戦は、扶桑たちの奇襲攻撃によって主導権を握ることに成功した。
     ただ、忘れてはならない。ちょっとした油断が、隙が、命取りになることを。
     

    125 = 1 :


     荒れた海とは正反対に、空は穏やかに雲を流す。
     空は続いていく。どこまでも遠く離れていようとも、そこから見上げた空は繋がっている。
     人々は空を見上げ、思う。願い、祈る。
     この思いが、どうか風に乗って、思い人へと届くことを信じて。

    126 = 1 :

     
     月明かりが淡くひかり、電気も付けない執務室をほのかに照らす。 
     窓際で椅子に腰かけながら、提督は一人煌々と輝く月を見上げていた。
     その表情は、深く被った帽子に遮られ詳しく読み取ることができない。
     しかし、固く結んだ唇と、 微動だにしない身体が、周りの空気を冷たく、重いものへと変えている。
     右手には、クシャクシャになった書類。上層部から送られた、今作戦の要綱。
     
     ……扶桑、山城の2人による無謀ともいえる特攻作戦。その作戦の許可書。
     それをきつく、きつく握りしめていた。
     
     上に、この作戦を却下して欲しかったわけじゃない。
     むしろ、許可してもらわないと困るほど、この作戦の重要性は最上位に位置する。
     だが、実際にその許可の二文字を目にして。
     鼓動が、バクバクと大音量で脈を打ち始めた。
     掻いたこともないような汗が流れ落ちた。
     眩暈がした。
     吐き気がした。

     お前が立案した作戦じゃないか、と言われるかもしれない。
     それでも、込上げる思いを、抑えることができなかった。
     ふつふつと沸き立ち、キリキリと締め付ける、言葉にならない思いを。
     
     それでも思いのままに身を任せるような真似だけはしない。
     それが、上に立つものの責務だと、作戦を考案した者の取るべき行動だと自分に言い聞かせて。
     そして、この後の行動も……。

    127 = 1 :


     そこまで考えたところで、ドアをたたく乾いた音が響いた。
     はいれ、と短く、空を見つめたまま一言だけ発する。
     
    「失礼します」
    「大淀か。どうだ?」

     あらかじめ伝えるよう言っていた事柄を、前置きもなく聞く。 
     大淀も、電気もつけていないことを咎める事もなく、手にした書面を読み上げる。

    「はい。南方に出撃していた空母機動部隊ですが、その一部が先ほど出発したようです」
    「諸島に着くのは、あとどれくらいだ?」
    「……早く見て、5時間後、かと」
    「……北方への派遣部隊は?」
    「まだ出発しておらず、足の速い者を選別しても、大して変わらないかと……」
    「夜明けまで……か」

    128 = 1 :



     夜明けまでの間、扶桑たちは二人で食い止めなければならない。
     分かってはいたが、なんと酷な作戦だろうか。
     大淀は顔をしかめ、ふるふると首を振る。
     無事でいることは、まずないだろう。
     だからせめて、一刻も早く援軍が到着することを祈る。
     そうすることでしか、心から身を案じエールを送ることでしか、彼女はともに戦えないから。


    「扶桑さんたちは、勝ちます」
    「……そうだな」

     信じている。
     祈っている。
     
     その思いが届くよう、提督と大淀、空を見つめ続けた。

    129 = 1 :

    今日は、ここまでにします

    132 :

    この小説にあった絵とかないかなーっと検索しまくってたら、素晴らしい絵を見つけました

    という訳でこんばんは、出来れば夜更新します。

    133 :


     爆発音がより激しく、荒々しく、夜の海で鳴り響く。
     物量に任せた深海棲艦による一斉射撃によって、扶桑たちは徐々に主導権を喪失。
     戦は、少しずつとだが深海棲艦のペースとなっていった。
     もともと、奇襲による混乱など時がたてばいずれ沈静化するもの。
    だからこそ、その間にもうひとつ決定打となるべき奇襲を仕掛けなかればならなかった。
     そうすれば、おそらくもう少し長く、相手を混乱させることができただろう。
     しかし、扶桑たちたった2人だ。取り得る手段も限られているのに、それを行うことはできいない。
     遅かれ早かれ、こうなることは目に見えていた。圧倒的物量の前に、精神論など通用しない。

     技術の差でカバーできるのは極僅かだ。
     精神力でのカバーも、いずれは途切れてしまう。
     ただ、次々と襲い掛かってくる攻撃に、やむことのないその黒い雨に。
     何もかも、押されていく。力も、戦局も、扶桑たちにとって悪い方向へと進んでいく。

    「ぐっ!?」
    「姉さま!? 大丈夫ですか!」
    「ええ……直撃はしなかったわ」

     真横に着弾した敵の砲撃による水飛沫を、扶桑はモロに被り思わず呻き声を上げる。
     山城の言葉に短くそれだけ答えると、キッと敵をにらめ付ける。

     幾分か減りはしたが、それでもなお2人を沈めるのに十分過ぎるほどの数。 
     特に、相手側の戦艦にいたっては1隻も落とせないでいた。
     その、高い相手の防御力と自分たちの命中率の低さに思わず歯軋りをしてしまう。
     逆に戦艦の砲弾をまともに受ければ、自分たちはたちまち大怪我を負うだろう。
     もしかしたら、一撃で大破してしまうかもしれない。
     何があっても、直撃は避けないといけない。

     だからこそ、するべきことは攻撃よりも回避に重点を置くこと。
     当たらなければ、どうということはない。どんなに火力が強かろうと、だ。
     すべての弾をよけきる、なんてもちろんそんなこと出来るなんて、扶桑は思っていない。
     それでも、そのくらいのことをしなければ、勝利は見えてこないことは知っている。

     もともと無謀な作戦なのだ。求められる行動も、とるべき行動も、少し位無謀でないと、勝機は訪れない。

    134 = 1 :


    暗闇の中で、無理やりにでも光を見出そうとした。
     無茶苦茶だと分かっていても、やるしかなかった。
     希望とはまた違ったものを、強引ながらも作り出し、それを見据えて。
     
     ……見据えて、見たものは、無慈悲なまでの絶望だった。
     
     
     「――ぁ」

     そう小さく漏らしたのは、山城だった。
     今まで2人を、言い方はおかしいが、均等に狙ってきた敵の攻撃。
     その砲弾の雨が、すべて自分に向かっている。
     敵は、おそらく既に自分たちが戦う相手が僅か2人であることに気づいたのだろう。
     であるならば、何もわざわざ2人同時に攻撃を加える必要もない。
     各個撃破した後、もう一方を嬲ればいい。戦力的にも、時間的にも、戦況は深海棲艦側に大きく分があるのだから。
     

    「くっ!?」

     振り落ちる砲弾を見据え、必死で回避を試みる。
     着弾点を予測し、行動に移る。
     1発目はすぐ横に移動し、簡単に避ける。
     2発目はひらりと身を翻し、華麗に。
     3発目、4発め、5発目、と増えていくたびぎりぎりの行動になっていく。
     そして。

    「ぐっ!? きゃああっ!?」 

     ついに避け切れなかった攻撃が、山城に直撃した。


    135 = 1 :


    「山城っ!?」

     心配するそぶりを見せながらも、扶桑は山城に近寄らない。
     自分が今駆け寄ったところで、どうにかなるものでもない。
     今も、砲弾の雨は山城の周囲に降り注いでいるし、下手をすれば自分も巻き込まれてしまう。
     そうなるくらいならば、と扶桑は攻撃が山城に集中している隙に、初めて敵に標準を合わせる。
     狙いは、戦艦ル級。睨み付け、全砲門を向け、何も言わずに放つ。

     砲弾は、正確に真っ直ぐ、敵戦艦に直撃をした。
     悲鳴を上げ、直撃であがった炎に体をくねらせ、もがいている。
     そこにもう一撃、扶桑は静かに砲弾を与えた。
     扶桑の目は冷たく、敵が沈んでいくのを確認した後、山城にようやく声をかける。

    「山城! 無事!?」
    「は、はい。直撃はしましたが、たいした傷ではないです」

     そう、とだけ。ほんの一瞬だけ安堵の表情を見せたが、すぐさま敵を見やる。
     足を止めている暇はない。敵は既に次の攻撃の準備をはじめている。
     敵は、次も山城にのみ攻撃を浴びせるだろう。確かに、それは有効な作戦で、扶桑たちにとって最悪といってもいいものだ。
     扶桑は、ちらりと山城を横目で見る。確かに直撃はしていたが、かすり傷程度のもので対した実害はないだろう。
     
     ……思いついた作戦があった。
     敵が一方にのみ攻撃を集中してくれるということは、もう一方は相手への攻撃に集中できるということでもある。
     攻撃よりも回避重視、とは言ったものの、この状況であるならば一方が攻撃したほうが良いに決まっている。 
     それを、囮役を、どちらがするのか、それが問題である。
     
    「山城……」

     自分が、と。そう山城に言い聞かせようとした。
     しかし、言い切る前に、山城が扶桑の言葉を遮った。

    「姉さま、私が囮になるので、姉さまは攻撃を」

     妹の口から出たその力強い言葉に、扶桑は何か言いたげに口を開き、何も言わずに閉じた。
     山城のその目を見て、駄目だと、言うことが出来ずに。
     ただ、気づけば首を縦に振っていた。
     

    136 :

    短いけど今日はここまでで

    これからもしばらくはゆっくり更新していきます……

    137 :

    おつ

    138 :

    仕方ない俺が支援艦隊に出よう

    140 :

    10時頃から投稿予定で

    141 :

     山城が敵の攻撃をひきつけ、その間に扶桑が攻撃に集中。
     その作戦は、今取り得る中でも最善のものである。
     現に、扶桑の攻撃は少しずつだが確実に相手の数を減らしている。
     今まで狙ってもいなかった攻撃を、照準を合わせ撃ち込んでいるのだからそうでないと困るのだが。
     
    「ぁぐっ!?」

     この作戦は最善のものだ。現状、持ちこたえられる為の術はこれしかない、と。
     山城の苦痛の声を聞きながら、そう自分に言い聞かせ続けた。

    142 :

    更新予定っていいながらほとんど更新しないし
    なんかだらだらしてきているし

    143 :


    横目に、着実と痛々しくも傷を増やし続ける妹がいる。
     この現状を打破するために、なんとか敵の足止めを続けようと。
     その体全身を使って、山城は敵の攻撃を引き受けた。
     
    回避に自信があるわけではない。現に低速の身であるが故に、避け切れない攻撃も出始めている。
     今のところ、致命的なダメージは負わない。重い攻撃は、つまり戦艦の攻撃だけは受けないよう細心の注意を払っている。
     
     それでも。
     小さなダメージも、積もり積もって。
     それは、山城の体へと、突然襲い掛かる。
     

    「ぁぁぁああああっ!?」
    「山城っ!」

    144 = 1 :


    比較的小規模の爆発音が鳴り響く。
     噴煙と、わずかな血飛沫が舞い、山城が膝をつく。
     
    「だ、大丈夫……です。小破、ですから問題ありません」
     
     だらりと下がった左腕を抑えながら、気丈に振る舞う。
     姉を心配させまいと、作戦を中断させまいと、目はしっかりと敵艦隊を見据え立ち上がる。
     しかし、足は震え、流れ出るその血と歯を強く噛み耐える表情が、山城を襲う痛みを物語る。
     扶桑は、そんな山城の姿を見て、次に深海棲艦へと目を向ける。
     ようやく崩れ落ちた山城に、敵はさらに戦意を高揚させているのが見て取れる。
      
     今、どれほど走ったのだろう。
     体力は、正直言ってきついものがあるが、まだまだ大丈夫だろう。
     燃料と弾薬に関しては、消費が激しい。このペースでいけば途中、必ず両者とも尽きることは間違いない。
     そうならないための策はあるが、そのためには一度引かなければならない。
     
     だが、まだ早い。
     敵の残存勢力を見る限り、もう少しここで減らしておきたい。
     ここで一旦退けば、その‘つけ’は必ず後に響いてくる。
     だからこそ、まだ粘って少しでも敵を。

    「……引きましょう」 

     しかし、扶桑の出した決断は、それとは異なるものだった。


     

    145 = 1 :

    投稿が遅れるのは、本当に申し訳ないです……
    ただ、最近忙しくてなかなかパソコンに触れず、という状況だったので

    146 :

    >>142みたいなのは無視して>>1のペースで書いたらいいよ
    ゆっくりでも続きが読めるのが嬉しい

    148 :

    お久しぶりです

    保守ありがとうございます


    今日はもう遅いので、また明日投稿します

    149 = 1 :

    お久しぶりです

    保守ありがとうございます


    今日はもう遅いので、また明日投稿します

    150 = 1 :

    お久しぶりです
    保守ありがとうございました

    今日は遅いので、また明日から投稿します


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