元スレ京太郎「その片思いは八方塞がり」
SS+覧 / PC版 /みんなの評価 : ★
51 = 1 :
「でも、こんな高価なモノ……」
「気にしなくて大丈夫ですから」
「だ、だって今日初めて会ったんだよ?なのに……」
「塞さんが使う所を見たかったので、だから俺のためだと思って受け取ってください!」
「なっ」
申し訳ないと言って扇子を受け取るのを拒もうとする塞さんにそう言って無理矢理に扇子を押し付ける。扇子を受け取った塞さんは俺の言葉に唖然とし、しばらくして溜息を吐いた。
「もう……そんなこと言われたら断れないじゃん」
小さな声でそう呟くと扇子を広げる。扇子を複雑そうな面持ちでじっと見つめた後、塞さんは俯きがちになりながら俺の目を見て言った。
「あ、ありがと」
噂に聞く上目遣いの破壊力というものを初めて体感した瞬間だった。
52 = 1 :
何故あの扇子をわざわざ買ったのかと言えば特に理由はない、家がわりとお金持ちでお小遣いに余裕があるとは言え普段の俺ならばただよかれと思っただけではそこまで高額な物をその日初めて会った少女にプレゼントするなんてことは無かっただろう。
だが俺は扇子をプレゼントしたことは全く後悔していない、むしろ目の前の少女が自分の渡した扇子を持って嬉しそうに笑う姿を見るだけで心が満たされていた。
きっと惹かれていたのだと思う。初めて出会った時から、臼沢塞という少女に。
その時俺は確信していた、自分の塞さんに対する想いを。
「あの……!」
そして決意した。告白しよう、と。出会ったその日に告白するなんて、もしかしたら気持ち悪がられるかもしれない。だけどきっとこれが最初で最後のチャンスだ。
自分の中のちっぽけな勇気を振り絞って声をかけようとしたその時だった。
「あ!塞!」
「ちょー会いたかったよー!」
「く、胡桃に豊音?」
俺の声は突如現れた二人の少女によって掻き消された。
53 = 1 :
振り向くとそこには背の高い少女と小柄な少女が並んでいた。よく見るとその後ろには白髪の少女と彼女を引っ張って歩く異国の少女が居る。
「今帰るところ?」
「うん!」
「偶然だよー」
「ダル……」
「シロ!チャント、アルク!」
「あはは、シロはまたエイちゃんに引きずられてるのかー」
俺を取り残して塞さんと楽しそうに談笑する四人の少女たち。その様子で察する、きっとこの人たちが塞さんの大切な仲間なのだ、と。
「その子……誰?」
「ああ、こっちは清澄の部員の須賀京太郎くん。今日は偶然会って一緒に浅草を回ってくれたんだ」
「清澄の!?それじゃあ原村さん達とチームメイトなんだ!ちょー羨ましいよー」
「塞と浅草って、おじいちゃん?」
「キミも麻雀、つよいの?」
「キヨスミ!ワカメの!」
「あ、あはは」
54 = 1 :
初対面の少女たちに囲まれて愛想笑いを浮かべる俺。普段女子部員に一人混ざっているとは言え気心が知れた仲間であるかどうかという差は大きい。そんな俺の様子に気付いてか、塞さんが助け舟を出してくれた。
「ほらほら、京太郎くんが困ってるでしょ。そういえばさっき何か言いかけた?」
そして笑顔で問いかける塞さん。言うのか?ここで?そんな考えが頭を駆け抜ける。ここで言わなければ恐らく二度と次の機会はやってこないだろう。
しかしこの場で想いを告げて、どうなるのだろうか。よしんばOKして貰えたとしても、自分のせいで塞さんの大切な場所に亀裂を入れてしまうのでは無いだろうか。
結局俺は、一歩を踏み出す勇気を持てなかった。
「い、いえ、何でも無いので気にしないで下さい」
「そう?」
「塞!そろそろホテル戻るよ!」
「早く帰って寝たい……」
「シロ!ドウロデネナイ!」
「ちょ、ちょっと待ってよ」
友人達に急かされた塞さんは振り向くと最後に一言だけ俺に言葉をくれた。
「京太郎くん!ありがとう、すっごく楽しかった!」
「お、俺もですっ!!」
そして俺は遠ざかって行く塞さんの背中が小さくなって角を曲がって見えなくなった後も、ずっとその方角を見つめていた。
55 = 1 :
今日はここまで
ここからしばらく塞さんの出番が無いかもしれませんが許してください何でもしますから!
56 :
おつん
58 :
おつー
空気読もうぜチーム宮守さんよぉ...
59 :
乙ー
まあトントンいかなくてもね
60 :
そういう安直なネタは良いから完結させーや
小ネタで塞さん書いてもいいのよ?
61 :
何でもって言ったな?
じゃあしっかりハッピーエンドにしてください
62 :
乙です
>>52
こっそり他スレのタイトルネタ仕込むのやめーやw
63 :
おつー
わりとお金持ちと、よかれと思ってを仕込むとはwwwwww
64 :
最近のss作者様は仲良しね
65 :
狭いジャンルのssなんて作者が読者だから
66 :
1日で告白しようとするとかww
実質知り合ってから5,6時間程度だろう
68 :
「……ってなわけだ」
京太郎は頭の中にあの日のことが鮮明に思い起こすと重要な部分を抜粋して部員の面々に話した。
冷静になって考えてみればあの場で告白に踏み切るのは早計だったし連絡先の交換くらいはしておくべきだった、思い出す度にそんな自責の念に駆られる京太郎は少し緊張した面持ちで顔を上げた。
まず始めに京太郎の目に入ったのは正面に座り雀卓に突っ伏して眠る優希だった。苦笑混じりに見回すとそこには三者三様の表情があった。
「そうじゃのぅ……」
「臼沢さん、ですか」
「嘘……」
真剣に何か考えこむまこに難しい顔をする和、そしてこの世の終わりでも見たかのような表情の咲。
「なるほどねぇ」
部員たちの中に沈黙が流れたその時、京太郎の背後から聞き慣れた声がした。一同が慌てて声のした方を振り向くがそこには誰も居ない。
一体どういうことかと京太郎が首を傾げようとしたその瞬間だった。突然ロッカーが勢い良く開き中から一人の少女が姿を現した。
「話は聞かせてもらったわ!」
その様子を見た四人が口をあんぐりと開ける。何故なら突如ロッカーから現れた少女とは夏のインターハイで清澄高校麻雀部を全国優勝に導いた張本人、麻雀部元部長の竹井久だったからだ。
69 = 1 :
「部長。おんし何をやっとるんじゃ」
「あら、私はもう部長じゃないわよまこ」
「ああそうじゃった、なかなか慣れんのう」
「そ、そんなことよりどうしてロッカーの中なんかに居たんですか!?」
「落ち着きなさいよ和。うーん、そうねぇ……理由なんて特に無いけど、強いて言うなら狭い所って落ち着くじゃない?」
「そんなところで落ち着くなんてありえません!」
「えー?和も一度入ってみたらどうかしら、きっとわかるわ」
「わかりたくありません!!」
「まあまあ落ち着いて、そろそろ須賀くんの話に戻すわよ」
横道に逸れた会話を久が仕切り直す。
70 = 1 :
「それで、須賀くんはどうしたいのかしら」
「そりゃあ塞さんと付き合うことが出来るなら付き合いたいですけどもう会えるかもわかりませんし……」
「会えるか分からない?高校が分かってるんだから須賀くんが岩手まで行けば会えないことは無いんじゃないかしら」
「それは、そうですけど……」
「竹井先輩は臼沢さんの連絡先とか知らないんですか?もし知っているなら須賀くんに教えてあげてはどうでしょうか」
京太郎がはっきり答えられずに俯く様子を伺っていた和が助け舟を出した。
和の問いかけに対してスマホの連絡先を確認しながら久が答える。
「んー、臼沢さんのは無いけど胡桃の連絡先ならあるわね」
「そ、それじゃあっ!」
「胡桃経由で臼沢さんの連絡先を教えてもらう?私は構わないけど、須賀くんはそれで良いの?」
「それで良いってどういうことですか」
「臼沢さんの連絡先を私から貰って、それでどうするの?」
「そりゃあ電話とかメールとか……」
「そうね、でも臼沢さん達も三年生、きっとこれからは受験でどんどん忙しくなるわ。そんな状況で本当に付き合える?」
「……わかりません」
71 = 1 :
「須賀くんには覚悟が足りないわ」
「本当に臼沢さんと付き合いたいという覚悟が伝わってこない」
「まあ今の話を甘酸っぱい青春の一ページとして思い出に残していくって言うなら別にそれで良いけど、そうじゃないんでしょう?」
「竹井先輩!言い過ぎですっ」
「いや、良いんだ和。本当のことだ」
「ですが……」
京太郎は自覚していた。一時の感情に押し流されたとはいえ告白しようとしたにも関わらず結局告白に踏み切れなかったことも、その後何の行動も起こせずにいたのも自分に覚悟が足りなかったからだ、と。
変えなければいけない、弱さに甘えて諦めを許してしまう自分を。
そして久が再び同じ問を繰り返す。
「それで、須賀くんはどうしたいのかしら」
ここだ。京太郎の本能が叫ぶ。塞さんと付き合う為ならなんだってする、そんな揺るぎない覚悟を決めるにはここしかない。
瞼を閉じてゆっくりと深呼吸した後、京太郎は目を見開いた。
「塞さんと付き合いたい……いや、付き合ってみせます」
そう言い放った京太郎の目からは先程までの迷いは消え、ただまっすぐに前を見据えていた。
72 = 1 :
「それで、これからどうするんじゃ?」
まこが尋ねると京太郎は勢い良く立ち上がり答える。
「俺、今週末にでも岩手に行ってきます!」
「資金はあるんか?」
「あー……」
「なんじゃ、そんなことも忘れとったんか。熱くなるのも言いがちっとは冷静に物事を見んさい」
「そ、それじゃあ染谷先輩のところでバイトを!」
「まあ須賀くん、ちょっと待ちなさい」
「はい?」
「確かに直接会いに行ったり電話やメールでコンタクトを取るのは悪くないと思うわ」
「でも、それじゃ平凡すぎる」
「そういう竹井先輩には何か平凡じゃない考えがあるんですか?」
「そうねぇ、それじゃあ須賀くん」
久は不敵に笑うと言った。
「賭けを、してみない?」
73 = 1 :
「賭け……ですか?」
「そうよ」
「……俺はどうすれば?」
「……インターハイで優勝する」
「なっ!?」
「久、おんしは何を言うとるんじゃ」
「そうですよ、須賀くんはまだ初心者でっ」
「まあまあ、落ち着きなさい。人の話は最後まで聞くものよ」
「じゃが……」
「わかりました……」
「それじゃあ続けるわね。インターハイで優勝する、そして優勝すればインタビューがある。それも全国で放送される、ね」
「そこで、臼沢さんへの思いの丈をぶつけるの」
「そ、そんな破廉恥な……」
「ロマンチックで良いじゃない、私だったら惚れちゃうわ」
「それは竹井先輩の願望であって臼沢さんがそんなことされて喜ぶとは限りません!」
「そう?和はときめかないの?何気なくテレビを見ていたら昔会った麻雀初心者の男の子が全国優勝して、その後のインタビューで自分に告白するのよ?」
「そ、それは……嬉しいかもしれませんがやっぱり恥ずかしいです」
「恥ずかしくても、気持ちは届くわ」
そんなやりとりを見て、京太郎はいつのまにか笑い出していた。
74 = 1 :
「あら須賀くん何を笑ってるのかしら?」
「面白い案だなって」
「あら、そう言って貰えると嬉しいわ」
「でも、その案かなり無理がありますよね」
「そうね、まず優勝出来ても臼沢さんがインタビューを見なければ不発に終わるしOKが貰える保証は無いわ」
「それに須賀くんは麻雀初心者で前回の地区予選は初戦敗退で全国出場すら絶望的」
「でもね、最悪な方法に見えるかもしれないけど私にとってはこれが最善なの」
「これまで分の悪い賭けをし続けて来たから、私はこういうやり方しか教えられない」
「このやり方よりも良い方法なんていくらでもあるだろうし私の戯言に耳を貸す必要もないわ」
「だけどね、私はあなたの力になってあげたいの」
「私は分の悪い賭けに勝って、最後の最後に団体のメンバーが揃って優勝出来た」
「これは皆のおかげ。勿論咲をここに連れてきてくれたあなたも例外じゃないわ」
「それなのにあなた一人だけ、全国の舞台に立たせてあげることが出来なかった」
「だからこれは私のわがままでもあるの」
「須賀くんに全国を感じて欲しい、私達の味わった緊張を、興奮を、高揚を、本当の意味で実感させてあげたい」
「須賀くんが初心者なのはわかってる、でも麻雀を知らないということはそれだけまだ無限の可能性があるということ」
「だから私に手伝わせて欲しいの、あなたが臼沢さんと付き合うという夢を叶えのも、全国で優勝するのも」
そこまで言い切ると久は最後に尋ねた。
「さあ、どうする?」
まっすぐに久の目を見つめる京太郎。彼の胸中は感謝の思いで一杯だった。まさかそこまで自分のことを思ってくれているとは考えもしなかった。目頭が熱くなる。
そして京太郎は久の最後の問いかけに答えた。
「やりますよ、分の悪い賭けは嫌いじゃありません」
75 :
良い話だけど咲を当て馬にするのはやめて欲しかった
76 = 1 :
今日はここまででー
>>60
小ネタかあ、本編以外で特に書きたいものも無いからこのスレでは多分無いと思う、ごめんね
>>61
わかりました(ハッピーエンドにするとは言ってない)
>>62
なんのことですかねー(すっとぼけ)
77 :
おつですー
京ちゃん大改造計画スタート?
78 :
乙です
燃える展開
79 :
雀キチになった京太郎を塞さんが救うところまで想像した
81 :
「それじゃあ特訓開始……と行きたいところだけれどももう遅いし今日は解散。須賀くんの特訓は明日からね」
「わかりました、ほらボケっとしてないで行くぞ咲」
「ふえ!?あ……そ、そうだね京ちゃん」
「ゆーきも起きて、帰りますよ」
「うーん、もうたべられないじぇ」
「優希はいつまで寝とるんじゃ」
「まこ、私達も行くわよ」
「ちょっと、待ちんさい」
そうしてそれぞれが帰路に着く。
82 = 1 :
「そう言えば咲、ずっと喋ってなかったけどどうかしたのか?」
「へ!?べ、別に何もないよっ!?」
「そうか?それなら良いけど」
「……京ちゃん」
「なんだ?」
「あの話……ううん、やっぱりなんでもない」
「咲?」
「ごめん、本当になんでもないから。気にしないで」
「ん、なんか変な咲だな」
「あ、あはは」
83 = 1 :
「須賀くん、大丈夫でしょうか……」
「ん?犬がどうかしたのか?」
「そういえば優希は寝ていたんでしたね」
「ああ、ぐっすりだったじぇ」
「……優希は、須賀くんがインハイで優勝できると思いますか?」
「犬が?そんなの無理に決まってるじぇ」
「ですよね」
「でも……」
「でも?」
「あいつはやる時はやる男だじぇ」
「……ふふっ」
「のどちゃん、なに笑ってるんだ?」
「いえ……確かに、優希の言うとおりかもしれませんね」
「じぇ?」
84 = 1 :
「ねえまこ」
「なんじゃ」
「どう思う?」
「好きにしたらええ、わしは黙って付いて行くだけじゃ」
「そっか」
「ほうじゃ」
「……いつもありがとね、まこ」
「殊勝なおんしは珍しいのう」
「ふふっ、そうかも」
「全く、何を笑っとるんじゃ」
85 = 1 :
その日の夜、京太郎は自室で一人考えていた。
自分は本当に強く成れるだろうか。
一人になって冷静に考えているとそんな不安が頭を過る。
いや、成れるかでは無く成るのだ。
臆病風に吹かれないよう自分に自分で言い聞かせる。
昨日までの京太郎だったらきっと弱い自分に負けてしまっていただろう。
だが今の京太郎は違う。
強くなって憧れの少女と付き合うという覚悟がある。
その覚悟は京太郎の中で火種となって小さいながらも確かに燃えていた。
目を閉じて今日のことを思い返す。
自分のことなど気にかけてなど居ない、そう思っていたあの竹井先輩があそこまで言ってくれた。
ならば自分もそれに応えねばなるまい。
そして目を閉じると瞼の裏に映し出されるのは何度思い出したかわからない憧れの少女の笑顔だ。
手を強く握り、京太郎は瞼を開くと窓の外の夜空を見上げる。
「俺、強くなってみせます。だから待っててください、塞さん」
86 :
…これ京ちゃん強くしてあげたいってのもあるけどヒッサが面白がってってのが8割ほど占めてそうだな…
87 :
このヒッサはなぜ成功する可能性が極端に低いことをやらせようとするのか理解に苦しむな
88 :
鉄が熱くなりやすい状態になったから叩き始めるってそういう竹井式育成論
89 :
ここのヒッサは聖人っぽいから大丈夫だよ(震え声)
90 :
「さて、全員揃ったわね」
放課後の部室には清澄高校麻雀部のメンバーと元部長の久の合計六名が集まっていた。
「それじゃあ早速須賀くんの特訓を始めるわよ」
「確認するけど須賀くんは麻雀のルールと役くらいは分かってるわよね?」
「はい、一応は」
「それなら十分よ」
「それで、特訓って一体何をするんですか?」
「須賀くんには優希と東風戦をしてもらうわ。他の面子は私とまこと和で交代で入って空いた一人は須賀くんの打ち筋を見て指導ね」
「あの、私はなにをすれば……?」
「咲はパソコンでネトマよ」
「ネ、ネトマ……!?」
「貴女は感覚に頼らずに打つことを覚えなさい」
「そんなぁ……」
「最初は私が須賀くんの指導に入るわ。さあ、始めるわよ」
こうして、京太郎の特訓は幕を開けた。
91 = 1 :
「うあー、疲れたじぇ」
日が暮れてすっかり暗くなった部室で優希が声を上げた。雀卓に突っ伏す優希の様子を横目に久は時計を一瞥すると部活の終了を告げた。
「今日はこの辺りでお開きにしましょうか」
「じゃな。皆気をつけて帰るんじゃぞ」
「ほら優希、いつまでも寝ていないで帰る支度をしますよ」
「咲、俺達も帰ろうぜ」
「ヤッパリアンナノマージャンジャナイ……」
京太郎がうわ言のようにそう繰り返す咲を連れて帰ろうとすると久に呼び止められる。
「あ、須賀くんは帰っちゃダメよ?」
「へ?」
「これからまこのお店で特訓の続きよ」
「……マジっすか?」
「マジよ」
「ほれ、おんしはこっちじゃ京太郎」
唖然としながらまこに引きずられていく京太郎。放心状態の咲も和と優希に連れられて部室を後にする。
そうして部室には久だけが残った。
92 = 1 :
暗くなった部室で一人、久は牌譜を片手に今日の部活の様子を振り返る。
「今日の優希、東風戦でも最後の方は息切れしてたわね」
「須賀くんはまだまだこれからってところかしら」
「咲は相変わらずネトマだとダメダメね」
「このまま練習を続けて優希には集中力の持続時間を、咲にはネトマでもそれなりに打てるようなって貰うとして」
「須賀くんは経験を積む為にも東風戦とまこの店の手伝いをして……そうね、東場の優希に少しは食らいつけるくらいになるまではこのままかしら」
「まこと和については私が助言できることは無さそうね」
「さて、それじゃあこっちの準備も始めようかしら」
眺めていた牌譜をパタリと閉じた久は携帯を取り出すとある人物に電話をかける。
数回のコールの後に電話が繋がる。
「もしもし、私だけど」
「うん、少しお願いがあるの」
電話越しにそう語る久の顔には不敵な笑みが浮かんでいた。
93 = 1 :
短いけどここまで
麻雀に関しては少しルールをかじった程度なので特訓の内容が謎だったりこれから出てくるであろう麻雀描写でおかしな部分があるかもです
脳内変換して生暖かい目で見守ってやって下さい
それでは
94 :
乙でーす
98 :
乙
今年のインハイはもう終わったのでは?
99 :
「流石に疲れたあ……」
特訓開始から月日は経ち日が沈むのも早くなったある日、雀卓に突っ伏した京太郎が吐き出す様に呟く。
彼の目の下には隈が出来、一目見ただけでも分かるほどに疲れきっていた。
それもそのはず、あの日からと言うもの部活の間は優希との東風戦をして部活が終わってからはまこの家の店で手伝いながら合間に常連のおじさん達から手ほどきを受け自宅に帰ってからは教本を読みあさるという生活を続けていたのだから。
「気持ちはわかりますが無理は禁物ですよ?」
「そうだよ、最近の京ちゃんちょっと根を詰め過ぎだよ?」
「ああ……だけど、俺はもっと頑張らないと」
チームメイト達からの気遣いは有難いがこれでもまだまだ足りない、京太郎はそう思っていた。
これまで部活で行った優希との東風戦では一位どころか二位になれたことすら無い。良くて三位、酷い時は起家の優希の連荘で飛ぶこともざらだ。
このままでは全国など夢のまた夢だという焦りと、僅かだが確かに上達しているという感覚が京太郎をハードな練習へと駆り立てていた。
「京太郎、おんしは……」
新しく部長となったまこはそんな一年生達の様子を眺めながら京太郎の特訓が始まる前日、前部長の久との会話を想起していた。
100 = 1 :
「そうだまこ、須賀くんをあなたの家のお店の手伝いに行かせることってできるかしら?」
「ん?ほうじゃな、大したバイト代は出せんがそれでええんなら大丈夫じゃ」
「ありがとう、それじゃあ明日からお願いしたいのだけれど」
「……なあ、おんしは何を考えとるんじゃ?」
「黙って着いて来てくれるんじゃなかったの?」
「腹ん中が分からんのはいつものことじゃが今回は大切な後輩の行く末が懸かっとるけえ、やっぱりそのくらいは聞いとかんといかんと思ってのう」
「ちゃんと部長らしくなってきたじゃない」
「茶化すのはやめんさい、それで京太郎をどうするつもりじゃ?」
「あら、聞いてなかったの?全国の舞台に立って、インハイチャンプの座まで登りつめて貰う。それだけよ」
「……本当に出来ると思っとるんか?」
「ええ」
「何を根拠に……」
「そうねぇ……勘、かしら」
「おんしは勘だけで後輩にインハイチャンプを目指せっちゅうんか」
「そうよ」
「そんな……」
「荒唐無稽な話よね、わかってるわ」
「なら!」
「でも本当に感じるのよ、可能性って奴をね」
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