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    元スレ巫女「来たれ!異界の勇者よ!」

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    51 : 創る名無しに見る - 2012/03/17(土) 11:44:55.81 ID:LLy6zin3.net (+33,+30,+0)
    マギー「っかし、マオも変わったわね」

    マオ「何が?」

    マギー「最初はあんなにトゲトゲだったのに、
        なんつーか、性格が丸くなった?
        今じゃ訓練時に素直に礼を言ったりするし」

    マオ「………うっ……」

    マギー「まぁ、良い事だよ
        最初の頃のアンタは見てられなかったからね」

     マギーは笑いながら宿に戻っていく。

     自己嫌悪という訳でも無いのだが、最初の頃は
    人間如きに良いように負けるのが嫌だったのもあり、
    命を半ば投げ出そうと自暴自棄になっていた感じも
    確かにあった。

     魔王時代の人間を下に見る意識もあったのだろうが、
    次第に人間を認めるにつれて、その辺りの意識も
    変わって来たのかもしれない。

    マオ「…………しかし。」

     マオはオルテガに言いつけられた通りの型を
    意識して剣の素振りをしながら考える。

     ………鍛えるか?普通?元・魔王を。
    オルテガが何をしているか知らないが、半年も
    ロマリアに滞在して、リハビリ…と言うより訓練に
    付き合ってくれている訳で。
     魔族がどうとか、魔王がどうとかも疑わず
    それでいて詳しく訪ねてくる様子もない。

     元来、勇者はお人よしだと言うのが通説ではあるが
    勇者の父親と呼ばれる人物も大概お人よしなのかも
    しれない。

     オルテガに分からない事はマギーが教えてくれたりした、
    実生活や常識については非常に助かっている。
     人間の女は髪型や服装を意識し、化粧をしたりとか、
    作法とか色々あるらしい。

     その辺りはオルテガは適当で良いだろうと
    思っていたようだが、月に一度の所謂"お祭り"を初めて
    経験した際、「マタからなんか血ィ出た、病気かもしれない
    世話になったな」と言った辺りからマズイと思ったらしく、
    その場で即座にマギーに引き渡された。

     宿屋でタダ飯を食らうのも気が引ける(人間に借りを
    作りたくないし)故に、宿の仕事や食事の仕事を手伝う内に
    マギーとは友人と呼んでも差支えない仲となり、
    それもあって色々教えてもらっているのもある。

     以上、大体半年間はそんな感じの人間生活を送っていた。
    ますます持って、魔王の意識は薄れて人間じみてきたのかもしれない。
    52 : 創る名無しに見る - 2012/03/17(土) 12:31:11.70 ID:LLy6zin3.net (+33,+30,+0)

     ◆◇◆◇ 夜、ロマリアの宿屋 ◆◇◆◇

     宿屋の1Fは酒場であり、夜になると
    ロマリアの港などから荒くれ者が酒を
    飲みに集まってくる。

     そんな中、ウェイトレスとして切り盛り
    しているのがマギー、半年前にマオが来るまでは
    一人で酒場を回していたのだから大したものだ。

    荒くれ「マオちゃん、生中三つくれ」

    マオ「はーい、ただいま
       マギー、生中三つ」

    マギー「あいよ、持って行っとくれ」

     昼にはオルテガと訓練、夜には酒場の手伝い
    半年もそんな生活をしていれば慣れた者だった。
     見た目は14歳の少女で、顔立ちも整っているからこそ、
    酔いの回った荒くれに絡まれた事もあったのだが。

     オルテガに習った通り、頸動脈を斬ろうとした所で
    慌てたマギーや居合わせたオルテガに止められ。
    酔いが覚めて青ざめた男にマジ謝りされた、なんて事件があって
    以来、手を出してくる奴は殆ど居なくなった。

     社交辞令的に口を出してくるのは居るけど、元3メートルの
    魔族の男と知ったらどんな顔をするのだろうか。

     扉のドアベルが鳴り、見慣れた姿が酒場に入って来る。

    マオ「いらっしゃ………なんだ師匠ですか」

    オルテガ「なんだは無いだろう…マギー
       少しマオを借りるぞ」

    マギー「ちゃんと後で返してくれよ
       ウチの看板娘、居ると居ないで売り上げ違うんだから」

     看板娘………ねぇ………、
    もっとも、半年もそんな生活をしていれば、いちいち落ち込む気も
    失せて来るが。

    オルテガ「すまんな、すぐ済む」

     オルテガは軽く謝ると、マオを連れて階段へ向かう。

    荒くれA「オルテガ!手を出すんじゃねーぞ」

    荒くれB「マオちゃんは俺が狙っているんだからよー」

    オルテガ「馬鹿言え、娘ぐらいの年の子だろうが」

     声を掛ける荒くれに応えるオルテガ、
    巫女の体はどうか知らないが、実際には数千年生きている訳だが。
    53 : 創る名無しに見る - 2012/03/17(土) 12:32:19.26 ID:LLy6zin3.net (+29,+29,-6)
    今日もまた、遅筆で少しずつ
    とりあえず、今日はここまで。
    54 : 創る名無しに見る - 2012/03/18(日) 12:13:59.23 ID:Q0eCKLnP.net (+35,+30,+0)

    マオ「盗賊カンダタ?」

    オルテガ「そうだ、シャンパーニ地方に
       潜伏すると言う盗賊カンダタが
       近くにこのロマリアを襲うという
       情報が入ったらしい」

    マオ「襲撃?王都をですか?」

    オルテガ「ああ、随分思い切ったもんだ
       だが、情報を先に掴んだ以上
       奴らを一網打尽出来るはずだ………が」

     オルテガは浮かない顔をする。
    その理由はマオも容易に察する事が出来た。

    マオ「その情報の出所…と言う事ですね」

    オルテガ「そう…それが問題だ
       城の連中は奴らを上手く出し抜いたと
       思っているようだが、連中に
       踊らされているような気がしてならない」

    マオ「わざと嘘の情報をタレコミして警戒させ
       疲労した頃を見計らって、忍び込む」

     常套手段と言えば、常套手段ではあるが。

    オルテガ「俺はそう読んでいる
       考え過ぎならそれで良いけどな」

    マオ「それで?何をしろと言うのですか?」

    オルテガ「それとなく、気を付けてくれればよい
       気を張って疲れたら城の連中と同じだ
       万が一の時は…………これを使え」

     オルテガは手に持って居た包みを解くと、
    中から綺麗に装飾された剣が姿を見せる。

    オルテガ「誘惑の剣…と言う
       気を付けろよ、魔剣だ」

     マオは剣を手にして、鞘から剣をゆっくりと
    引き抜いて、光に翳す…ランプの光を反射して、赤い金属の
    刀身が輝いた。
     見た事も無い金属であり、かなりの業物なのは間違いない。
    やや小ぶりで重さも程よく、まるでマオの為に打たれたかのように
    手に吸い付くようにきっちりと馴染んだ。

    マオ「いいんですか?かなりレアな剣だと思うんですが」

    オルテガ「それは女にしか扱えない、特殊な魔剣らしくてな
       そいつをずっと身に着けておけ
       一応仕事中もだ、寝る時も一応そばに置いておけ」
    55 : 創る名無しに見る - 2012/03/18(日) 12:14:27.65 ID:Q0eCKLnP.net (+35,+30,+0)
     オルテガの警告からさらに二か月後、
    ロマリアの街が寝静まった頃、怪しい影が城の窓から
    出入りしていた。

     覆面を被った男とその部下達、盗賊カンダタ一味だった
    連れて来ていた馬に城から盗み出したお宝を積み込み。

    カンダタ「5分ジャスト!撤収だ!
         そろそろ兵が出るぞ!」

    カンダタ子分「あい!親分」

     部下に指示を下すと、馬は物凄い勢いで走り出す。
    街の中心街に差し掛かった時に、カンダタはさらに
    部下に指示を出す。

    カンダタ「火矢を撒け!追撃の手を遅らせるんだ!」

     カンダタの指示に従い、油が染みついた布を先端に
    巻き付けた矢に火をつけて、辺りの家にまき散らそうとする。

    オルテガ「マオ!今だ!」

    マオ「バギマ!!」

     突如襲った豪風が火矢を跳ね飛ばし、巻き込まれた
    火矢は海へと落下する。

    カンダタ「ちっ!カンの良いのがいやがったか!」

     正面通りに現れた男が部下を次々と切り倒していく、
    大柄な屈強な男、オルテガだった。
     カンダタの部下7人に囲まれているものの、互角以上の
    戦いを見せている。

    カンダタ「こいつはやっべぇ、逃げろ!」

     異様な強さを感じ取り、カンダタは馬に鞭を打ち込み
    慌ててロマリアの外に逃げようとする。
     数百メートル走り出した所で、赤い光が辺りを包み
    今度は馬が暴れ出す。

    カンダタ「な!なんだ!?
         どうしたってぇんだ!」

     馬に振り落とされて、地面に落下する際に受け身を取る
    カンダタ、馬はさらに暴れ出し城から盗んだ宝も
    地面に落とす。

    カンダタ「メ…メダパニか!」

     なかなかの高位の魔法使いが扱う呪文のはずだ、
    襲ってきたのは魔法使いだろうと、カンダタは検討を
    つける。

    カンダタ「上等じゃねぇか!出てきやがれ!」

    56 : 創る名無しに見る - 2012/03/18(日) 12:15:20.20 ID:Q0eCKLnP.net (+35,+30,+0)
     叫ぶが素直に姿を現さない、厄介な相手だ。
    次の瞬間、闇から飛び出した影がカンダタを狙って
    剣を振るう。

    カンダタ「うぉっ!?」

     ギン!

     辛うじて出した鉄の斧が運よく、相手の出して来た
    剣を受け止める、迷いも無く急所を狙って繰り出してきた。
     月明かりに照らし出された相手の姿は、黒髪の女だった。

    カンダタ「女か…随分とえげつねぇ
        手を使うじゃねぇか!」

    マオ「お喋りな奴だ!バギマ!」

     突風がカンダタを襲い、カンダタが足を止めた瞬間に
    繰り出された剣を受け止める。

    カンダタ「うぉらっ!!」

     受け止めた剣を力で押し返し、壁に叩き付けようとしたが
    相手は壁を蹴って、離れた場所に着地する…
    不要な体重や筋肉は随分絞り込まれているようだ。

     一撃は重くは無いが、急所を丁寧に狙って来る以上、
    油断は出来ない、相手の方が遥かに速い。

     動きはまだどこか素人臭い所があるが、多分に実戦経験を
    積んでいるようにも見受けられる。
     付け入る隙はいくらかありそうだが。

    カンダタ「…時間切れになっちまうな」

     先ほどの男が部下を叩きのめすか、もしくは兵士連中に
    追いつかれたら終わりだ。

    カンダタ「悪いが、さっさと決着をつけさせて
         もらうぜ」

    マオ「やってみろ!」

     カンダタは呪文を唱えると、女は剣を構えて
    打ち込んでくる────かかった!
     呪文詠唱はフェイク…カンダタは懐から白い玉を取り出すと
    マオに向かって投げつける。
     白い玉は空中でばらけて…白い糸となり、マオの体を
    包み込む。

     糸に絡まれて、先ほどまでの素早さが見る影も無く
    衰える。
    57 : 創る名無しに見る - 2012/03/18(日) 12:38:13.39 ID:Q0eCKLnP.net (+35,+30,+0)
    マオ「しまった!斑蜘蛛の糸!?」

     油断したつもりではなかったが、名のある盗賊だけあって
    騙す手段は相手の方が上だった…。
     正面から打ち合っても勝機は無い、相手の力が上である以上
    ガードしても間に合わない…ならば。
     相手に向かって、剣を繰り出す

    カンダタ「足を止められたのに、
         突っ込んでくるとは良い度胸だ!」

     カンダタは武器を構えて応戦しようとする、
    マオの放った剣をカンダタの斧が止める。
     一瞬動きが止まった所で、左手をカンダタの斧に
    当て──────。

    マオ「バギマ!!」

     ゼロ距離で放った突風がカンダタの斧を遠くに
    弾き飛ばす。

    カンダタ「甘ぇっつってんだよ!」

     僅かな隙にカンダタが放った回し蹴りが
    マオの胴を見事に捉え、叩き付ける。

     ─────ゴフッ!

     たった一撃で肋骨を数本へし折ったらしい、
    そんなに線は太くないように見えたが
    随分な怪力の男のようだ…。
     下手したら内臓までやられたかもしれない、
    マオは口から血を吐き出す。

    カンダタ「殺すにゃ惜しい奴だ…
        素直に俺の女になれば生かしてやるぜ?」

    マオ「………………。」

     意識を繋ぎ止めて、次の手を模索するマオ、
    カンダタからは死角になる位置に手を当てて、ホイミを
    唱える。
     相手は勝利を確信している───チャンスだ!

    カンダタ「おっと…油断ならねぇ奴だ…
        まだ何かを狙ってやがる」

    オルテガ「マオ!無事か!?」

     そこにカンダタ子分を倒したであろう、オルテガが
    兵を引き連れて追いついてきた。

    カンダタ「ちっ…時間切れか…部下の命は預けておいてやる
         シャンパーニの塔に来い、そこで決着つけてやる」

     カンダタは宝の入った袋を手にすると城門を潜り抜け
    手にしたキメラの翼を放り投げ、その姿を消した。
    58 : 創る名無しに見る - 2012/03/18(日) 12:42:45.75 ID:Q0eCKLnP.net (+35,+29,-31)
    一日4~5スレ投下が限度か、
    何気に書くのは時間がかかるな
    60行いっぱいいっぱい書いて居るからかもしれないが
    まだ57・・1000まで遠いや。
    ごめん>>19、1000まで埋まらない気がする。

    で、とりあえず今日はこの辺まで。
    59 : 創る名無しに見る - 2012/03/19(月) 01:14:09.02 ID:tsYJbTaT.net (+28,+29,-28)
    アレじゃね、名前がたくさんでてきてなぁ・・・。最初の魔王、王、巫女さんだけでよかった気がする。

    素人があーだこーだいってごめんなさい
    60 : 創る名無しに見る - 2012/03/19(月) 22:44:11.69 ID:a8sJAq9/.net (+32,+30,-200)
    >>59
    指摘サンクス、
    オルテガとかカンダタとか、DQ3をやった事も無い人だと
    イメージが付かなかったかもしれない。
    指摘の通り、魔王、王、巫女だけで、ゾーマを倒しました
    めでたしめでたしと言う考えもあったが
    着地予定が>>1000だと、話が作れないので再構成した際、
    魔王を弱体化させる必要もあった訳で、こんな形に
    キャラ説明とか書こうともおもったけど、キャラの生い立ちがどうとか
    神話がどうとかダラダラ説明書きするのは見苦しいので
    出来るだけ書かないようにしていたら、置いてきぼりになって
    しまった感が出たかも、甘えるつもりはないけど
    俺もド素人な訳で申し訳ない。

    指摘とか貰えたら改善したいと思っているけど、
    固有名詞を出した分はもう無理かも。
    (機会があれば次回で)
    61 : 創る名無しに見る - 2012/03/20(火) 13:18:23.12 ID:Smj8KxuS.net (+35,+30,+0)

     ◆◇◆◇ ロマリア城、謁見の間 ◆◇◆◇

    ロマリア国王「何と言う事だ!
        オルテガ、お主が居ながらにして
        このワシの大事な金の冠が奪われてしまうとは」

    オルテガ「面目次第もございません」

     翌日、オルテガとマオはロマリア城に
    呼び出され、先日の盗賊カンダタ撃退の謝礼を貰えるのかと
    思っていたのだが、待っていたのは国王のお説教だった。

     ロマリア国王の3時間程の説教を要約すると…。

     1.ロマリア王家に代々伝わる、至宝である金の冠が奪われたのは
       お前達のせいだ。

     2.カンダタを捕まえてくれば、今回の失態は見逃してやる。

     3.それだけではなく、ロマリア王国の王位を譲っても構わない。

     ………………………………………………とのこと、
    そもそもカンダタがわざわざ襲撃して来る事を
    知って居ながらも、態々城への侵入を許してしまったのは
    オルテガ以前にロマリア兵達の大失態な気もするのだが。

     たかが冠一つと国とを比べて、冠の方が大事なのかと
    思うに思ったのだが、どうにもこのロマリアの王様は王位に
    それほど執着している訳でも無いようである。

     ……魔族の王であった立場として、それもまた
    分からなくは無いのだが……。

     外交やら、内政やら、経済やら、法の発令、民衆の生活、
    自身が好き勝手に外に出る事もままならない、自分の言葉
    一つが国の運命を左右する──ロマリアみたいな大国ならなおさらだ。

     例え、大量の給料が貰えたとしても、こんなキッツイ仕事
    誰も好き好んでやりたいとは思わないかもしれない。

     王とはただ、椅子に座って踏ん反り返って居れば良い訳でも無い、
    他国は隙あらば、島一つ、小さな岩礁でも奪い取ろうと
    手ぐすね引いている訳である。

     どうにも、この王は冠を奪われた責より信頼できる勇者オルテガに
    自らの王位を譲って、とっとと隠居生活にでも引っ込んで
    やりたいと…そんな感じにも見えたりする。

    オルテガ「この私が、責任を持って
       シャンパーニの塔へ向かい、盗賊カンダタより
       金の冠を取り戻してまいりましょう」

    ロマリア国王「おおっ!さすがはオルテガどの
       わしの見込んだ通りの方じゃ…」

    62 : 創る名無しに見る - 2012/03/20(火) 13:18:38.88 ID:Smj8KxuS.net (+35,+30,+0)
     ロマリアからカンダタの住むシャンパーニの塔へ向かうには
    一度、北にあるカザーブ村を経由する必要があった。

     カザーブ村に立ち寄り、必要物資を整えて村より
    南西のシャンパーニの塔へ向かっていた。

    マオ「…………………お人よし」

     マオの抗議にオルテガは頭を抱える。

    オルテガ「分かっている…お前の言いたい事は
       よーく分かっている…つもりだ」

    マオ「別に何の義理が有る訳でも無し、
       わざわざ盗賊退治…ねぇ……。」

     半年以上の付き合いがあって、心から分かったのは
    このオルテガは重度のお人よしなのだ、
     目の前で困っている人間…魔王であっても、放置する事は
    出来ない。

     そして、だからこそ色んな人間に好かれているのだ、
    老人から子供…果ては動物にまで。
     オルテガが声をかければ、ロマリア中の連中が
    無償で手を貸してくれるだろう。

    マオ「けどまぁ、こんなお人よしじゃ、
       ロマリア国王なんて務まらないだろうけど」

    オルテガ「俺はロマリア王なんてなるつもりはない、
       俺は自由気ままが好きなんだ
       気が進まないならカザーブに残ってても良いんだぞ?」

    マオ「カンダタには少し借りがあるから
       丁度良いっちゃ丁度良いんだけどさ」

     ややあって、見上げる程の巨大なレンガ造りの塔
    シャンパーニの塔の近くまで接近し、塔の近くの木陰から
    建物や入口を観察する。

     塔の形状からして、灯台として使われていたようだが、
    魔物が海にまで出現し、さらにカザーブ村からも離れているため、
    放置されてしまい、今や盗賊の巣窟になってしまっているよう
    だった。

    オルテガ「連中……素直に降伏勧告に応じると思うか?」

     オルテガは抱えた得物を地面に下し、塔を見上げる

    マオ「無理でしょうね…
       入口にも見張りが居ない辺り、
       せいぜい、罠を張って待ってくれているとは思う」

    オルテガ「だろうな…わざわざ自分のアジトを教えて
       ご招待してくれた訳だからな」

    マオ「では、手筈通りに行きましょうか」
    63 : 創る名無しに見る - 2012/03/20(火) 13:18:58.73 ID:Smj8KxuS.net (+33,+30,+0)
     一方その頃。

     ◆◇◆◇ シャンパーニの塔(昼):最上階 ◆◇◆◇

     金の冠を被り、ワインを瓶ごとラッパ飲みしている
    斧を持った若い男が居た、先日ロマリア国を襲った男
    盗賊カンダタだ。

    子分「親分、来ましたぜ!
       この前の女です」

    カンダタ「来やがったか!待ちわびたぜ」

     カンダタはワインのボトルを投げ捨てて立ち上がり、
    斧を肩に担ぎなおす。

     塔の窓から塔の下を見下ろすと、先日の黒髪の女が
    木に隠れながら様子を伺っているようだ。

     どうやらロマリア兵を率いて攻め込んで
    来る気などは無いようだ。

    カンダタ「良い度胸だぜ、気に入ったぜ
         お嬢ちゃん」

     カンダタは笑みを浮かべて、斧を持つ手に力を入れる、
    久しく忘れて居た自分と互角の相手、ロマリアで捕えた
    部下を人質にする訳でも無く、白昼堂々と真正面から
    攻め込んで来てくれた訳だ。

    子分「親分、弓でもくれてやりやすか?
       今ならこちらの方が有利ですぜ」

    カンダタ「馬鹿、無粋な真似するんじゃねぇよ
         俺は直接あの女を戦りてぇんだよ」

     あわよくば、無傷であの女を手に入れたい、
    俺と互角の力を持つ女なんて、最高だ。
    ロマリアで戦って以降、カンダタはそんな風に思っていた。

    子分「親分、ああ言うのが好きなんすか?」

    カンダタ「あの鍛えられた四肢、
       たまらねぇじゃねぇか、脳髄が蕩けちまうぜ」

    子分「随分ご執心っすね」

     早く手に入れたい…だが、焦ってはいけない、逸る気持ちを
    抑えて、カンダタは策を考えていた。

     捕える為には、トラップが張り巡らされた塔の中にどうにか
    して誘い込まないといけない。

     様子を伺っていると、木陰から出てきた女が塔の最上階に
    向かって声を上げる。
    64 : 創る名無しに見る - 2012/03/20(火) 13:19:37.48 ID:Smj8KxuS.net (+33,+30,+0)
    マオ『あー……あー……
       マイテス!マイテース!本日は晴天なり
       本日は晴天なり』

     バギの呪文の応用だろうか、拡声された声が塔の
    最上階まで楽々と届く。

     不意打ちをする気も無いらしい、重ね重ね
    良い度胸をした奴だ。

    マオ『盗賊カンダタに告ぐ!盗賊カンダタに告ぐ!
       ただちに、武装を解除し降伏しなさい』

    カンダタ「降伏だと?馬鹿言っているんじゃねぇ!」

     カンダタは塔の下に向かって、声を張り上げる
    こちらは呪文による拡声はしていなかったが
    塔の下には届いたようだった。

    マオ『今なら、貴方達の命だけは保障します
       速やかに武装を解除し、降伏しなさい』

    カンダタ「うるせぇ!喰らいやがれ!」

     カンダタは部下から弓を奪い取ると、
    弓の先に括りつけられた火薬に火をつけて
    塔の下に向けて素早く放つ。

     マオが飛び退くまでも無く矢は外れて地面に刺さるが、
    一瞬遅れて、地面に刺さった矢が爆発する。

    マオ『降伏の意志は無し…どうあっても
       戦うつもりなんだな?』

     白けさせてくれる、こちらは元々直接対決の
    つもりだ。

    カンダタ「てめぇら!アイツを塔の中へ追い込め」

    子分「へい!親分!」

     子分はカンダタと同様に炸薬が付いた矢を
    塔の下に射る、雨のように矢が降り注ぎ
    降り注いだ矢が片っ端から炸裂する。

     黒髪の女は踊るかのような素早い動きで矢を
    かわして逃げ回る。

    子分「あの女!塔の外へ逃げて行きやした!」

    カンダタ「ちっ…!」

     塔の中に誘い込む積りが、アテが外れてしまい
    カンダタは舌打ちする。
    65 : 創る名無しに見る - 2012/03/20(火) 13:19:59.82 ID:Smj8KxuS.net (+35,+30,+0)

     ◆◇◆◇ シャンパーニの塔(夜):最上階 ◆◇◆◇

     先日の昼の騒ぎがあってから、丸2日、
    再度襲撃して来る様子も無く、カンダタは内心
    イライラしていた。

     先日ロマリア城に対して行った、カンダタの方法が
    逆にやられている訳だ。

     疲弊した所に襲撃を掛けて来るつもりなのだろう、
    疲弊を最小限に抑える為、カンダタは見張りを残して
    休んでいた。

    子分「親分!てぇへんです!」

     慌てた子分が扉を開けて飛び込んでくると、
    子分と共に煙も入り込んでくる。

    子分「塔の1Fが燃えています!」

    カンダタ「野郎!やりやがったな」

     カンダタは飛び起きて、煙を吸わないように身を
    屈める。

     まさか、塔に入らずこんな暴挙に出て来るとは。
    塔の1Fや2Fは物置として使っても居た、
    石で造られた塔とは言え、火のまわりも早過ぎ。
    最上階には火薬もある…。

    カンダタ「テメェらは火を消せ!」

    子分「無理です!油も撒かれているのか
       火のまわりが早過ぎまさぁ」

     元々、塔に住んでいる訳だから生活に必要な
    見ずも備蓄しているが、火を消す程の大量の水が
    置いて有る訳でも無い。

     カンダタの決断は早かった。

    カンダタ「テメェら外に出るぞ!!」

    子分「了解でさ」

     外には確実にあの女が居るだろう、カンダタは
    武器を手にして部下と共に塔を飛び降りる。
    66 : 創る名無しに見る - 2012/03/20(火) 13:30:28.20 ID:Smj8KxuS.net (+35,+30,-61)
    一回の投下4000バイト程度だから
    大体、400字詰め原稿用紙5枚分。

    短いのもあるから、45回ぐらい投下した
    と考えて、空白分を考えずに
    原稿用紙225枚分。
    これ、1000に辿り着く頃には
    原稿用紙何枚分ぐらいにはなるんだろ。

    本来は全部書いてから通しで読んで
    投下すべきなんだろうけど。

    とりあえず今日はここまで。
    67 : 創る名無しに見る - 2012/03/20(火) 21:14:51.05 ID:HI/DB5Cf.net (+28,+29,-11)
    スゴイ考えてるなぁ、一から読んだけ面白い1000目指して頑張ってください
    68 : 創る名無しに見る - 2012/03/20(火) 22:00:26.43 ID:Smj8KxuS.net (+32,+29,-21)
    >>67
    感想サンクス、
    まだまだ甘い所があるし、>>1000まで達成できるか
    わからないけど、出来る限り頑張ってみるよ。
    69 : 創る名無しに見る - 2012/03/21(水) 00:50:13.79 ID:7/SQeJVa.net (+33,+30,+0)

     ◆◇◆◇ シャンパーニの塔(夜):塔付近の平原 ◆◇◆◇

     シャンパーニの塔が燃える明かりが、辺りを照らし、
    真夜中であるにも関わらず、まるで昼のように明るかった。

     カンダタは煤煙で汚れた覆面を投げ捨てて、斧を構える…
    見据えた先には例の黒髪の女が居た。

    カンダタ「そういや、まだ名乗っていなかったな
         俺の名はカンダタ、ロマリアの大盗賊だ」

    マオ「……………………マオだ。」

     凛とした声でカンダタに応えるマオ、その声には一分の隙も
    無いようだ、戦い方はどこか慣れていない感じがしたが、
    不思議と戦度胸はあるようだ…。

    手下「………………親分~~…」

     子分の声に後ろにカンダタは背後に視線を送ると、
    そこには屈強な中年の男が居た、以前も一度見た事があるし
    ロマリアでは有名な男だ。

    カンダタ「アンタは…勇者オルテガか
        勇者にしちゃ、結構エグイ手を使うんだな」

    オルテガ「降伏しろ、貴様に勝ち目は無い
        おとなしくその金の冠を返すんだ」

    カンダタ「ケッ…アンタもロマリア王国の
        犬って訳かい…このまま無傷で返してやっても良いけど、
        二つ条件がある」

    オルテガ「言ってみろ」

    カンダタ「………俺の首と財宝はくれてやる…
        だが、部下共は見逃してくれ、先日
        ロマリアで捕えられた連中もだ」

    オルテガ「…………………もう一つは?」

    カンダタ「そこの女、マオと一騎打ちさせろ
        もちろん、俺の部下には手出しはさせねぇ」

     オルテガがマオに目線を向けると、マオは微かに
    頷いた…。

    オルテガ「………………良いだろう
        この俺が頼まれたのは"金の冠を取り戻す事"と
        "盗賊カンダタを捕える事"だ、部下どもの命は
        どうでも良い」

    カンダタ「オラ行け!お前ら!とっとと逃げろや」

    手下「………ひぃ…」

     カンダタの子分達が慌てて逃げ出して行き、オルテガは
    得物を収めてその場に座り込む。
    70 : 創る名無しに見る - 2012/03/21(水) 00:53:33.47 ID:7/SQeJVa.net (+33,+30,+0)
    カンダタ「さて…と…」

     カンダタは斧を構えて、戦いの構えを取る、
    そんなカンダタにマオは武器を正眼に構えたまま声を投げかける。

    マオ「何故、師匠ではなく私と戦う事を選んだ?」

    カンダタ「…おめぇさんとは、以前決着を
        付けられなかったからな……それに…」

     カンダタは未だに燃える塔に向かって、僅かに視線を向ける。

    カンダタ「…こいつはテメェの仕業なんだろ?
        勇者オルテガがこんなエグイ手を使う訳ねぇよ
        ……………じゃぁ………行くぜっ!」

     カンダタは地を蹴って爆進する、大振りの鉄の斧がマオを襲うが
    マオは羽のように身軽に斧を避ける、大振りな攻撃が当たらないのは
    百も承知…本命は左手に仕込んだ斑蜘蛛の糸。

     左手の裾から斑蜘蛛の糸を放り投げようとするが。

    マオ「バギ!」

     マオの放った真空の刃が斑蜘蛛の糸を弾き飛ばす。

    カンダタ「…………同じ手は使えねぇか」

     吐き捨てつつ…マオの攻撃を斧でガードする、正確に的確に
    急所を狙って攻撃してくるマオの攻撃もまた同じ事。

    カンダタ「正確過ぎて、どこを狙っているかバレバレだぜ!」

    マオ「お喋りな奴だ!」

     ギン…!

     鉄の斧と誘惑の剣が激しい火花を上げてぶつかり合う、
    カンダタの攻撃は一撃一撃が大きい、だからこそ…丁寧に力の
    方向を受け流す─────。

     ───力の大きい相手と戦う時、正面から
     打ち合ってはいけない───。

     マオの頭の中で染みついたオルテガの言葉を繰り返す、
    かつて魔王だった自分と互角に戦ったのは、オルテガに戦い方を教えられた
    オルテガの娘だった。

    カンダタ「野郎!小癪な真似をっ!」

    マオ「…………くっ!」

     カンダタの重い攻撃を、必要最小限の力で体力を消耗しないよう
    丁寧に攻撃を受け流し続ける。

     ───空振りや受け流しは直撃以上に体力を使う
     体力が無いなら、相手に無駄な体力を使わせればよい───。
    71 : 創る名無しに見る - 2012/03/21(水) 00:59:02.39 ID:7/SQeJVa.net (+33,+30,+0)
     魔王の力も魔力も今の自分にはもう何も残ってない、
    無くなった事に嘆いても何も始まらない!

     しかし…失った代りに手に入れた物は幾つもあるはず、
    その一つがこの身軽な体…、身軽さを殺さない為に
    防具は最低限の革の鎧しか装備していない…
     身軽さと素早さを重視し、この八か月ずっと訓練してきた。

    カンダタ「ゼイ…ゼイ…ゼイ……くそっ!」

     体力が失われてきたカンダタが肩で息をし始める…、
    焦りの表情が浮かびあがる、焦りで攻撃の隙が大きくなっていく。

     ───隙を逃すな、己が優位に立ったその瞬間にこそ
     勝者と敗者がひっくり返る可能性がある、仏心なんぞ出すな
     チャンスが出来たらそれは、確実にモノにしろ───。

    カンダタ「死ねやぁぁぁ…マオォ!」

     カンダタとマオが正面からぶつかり、カンダタが
    大きく振り下ろした斧をマオはジャンプして躱す。
     そのまま頭を踏み台にして、カンダタの背面に着地し…
    前転して衝撃を殺す…。

    マオ「…セイッ!!」

     マオの誘惑の剣がカンダタの両足のアキレス健を斬り付ける。

    カンダタ「グアァァァァァ!」

     ダン…!

     カンダタが倒れ…マオの誘惑の剣がカンダタの首筋に当てられ、
    カンダタの瞳から戦意が失われていく。

    手下「………お…親分~……」

    オルテガ「………………勝負あったな…」

     傍観していたオルテガが決着を口にする。

    カンダタ「ちっくしょおおおおおっ!」

     カンダタは吠えて地面に大の字に寝っころがる。

    カンダタ「俺の負けだ、ほら!俺の首が欲しいんだろ
         持っていきやがれ!」

     カンダタは斧を投げ捨てて首を斬れと、差し出すが
    オルテガは首を横に振る。

    オルテガ「…必要なのはお前の首じゃなくて、お前の身柄と
         金の冠だ、悪いがロマリアまで付き添ってもらうぞ
         安心しろ、部下の身の安全は俺が責任を持って
         掛け合おう」
    72 : 創る名無しに見る - 2012/03/21(水) 01:07:36.46 ID:7/SQeJVa.net (+42,+30,-62)
    やっと、次でカンダタの話が終わる
    と、言うよりここまで書いて…まだ>>72
    カンダタが終わるぐらいで>>200ぐらいの
    予定だったんだけど全然足りない、
    それに、もう10日目か…。
    いつまでも創作板に個人スレが居座っててスマン
    このまま、3か月ぐらい居たら、本当スマン。

    とりあえず、今日が始まったばかりだけど今日はここまで。
    73 : 創る名無しに見る - 2012/03/22(木) 23:12:45.45 ID:s6Bn9saW.net (+26,+29,-14)
    >>19
    どうやら、風邪を引いたようだ
    人稲だけど一応、諦めた訳じゃないよ
    今日はおとなしくDQ3でもやって、ロケハン(?)する事にする。
    74 : 創る名無しに見る - 2012/03/25(日) 01:42:51.55 ID:k++6tQNh.net (+35,+30,+0)
     ◆◇◆◇ カザーブ村 ◆◇◆◇

     カンダタとの一戦後、カンダタを連れて
    カザーブ村まで戻っていた。
     そのカンダタはカザーブ村の酒場で焼酎なんて
    飲んでいたりしていた。

    カンダタ「なぁ…思うんだけどよ
         俺って拘束とかされなくても良いのか?」

    オルテガ「逃げるつもりが無い奴を縛っても拘束しても
         面倒なだけだろう?」

     カンダタにしたら、逃げる隙はいくらでもあるのだが
    大人しくロマリアに付いて来るつもりのようだ。

    マオ「拘束した人間や、死体を運ぶのは手間がかかるんだ
       あまり面倒を起こすな」

    カンダタ「……そりゃぁ、アジトも焼け落ちちまったし
         逃げ出す先もねぇし、部下どもの命が助かるってーんなら
         かまわねーんだけどよ」

    カンダタ「どっちにせよ、ロマリアに引き渡されたら
         賊は打ち首なんだ、最後にこうして酒が飲めるのは
         感謝はしているさ」

     手にしたグラスを一気に呷るカンダタ。

    オルテガ「随分簡単に自分の命を諦めるんだな」

    カンダタ「でねーと、賊なんてしてらんねーよ
         ヒト様のモノを盗むってこたー、それだけの
         リスクもまたあるって訳だ…はっはっはっは」

     まるで他人毎のように笑うカンダタ、ふと気が付くと
    遠目に少女がこちらを見ている。

    若い「……………………もしかして…
        お姉ちゃん?」

    マオ「へ?」

    若い「やっぱり、お姉ちゃん!」

     茫然とするマオに、少女が飛びついてくる。

    若い「勝手に町を飛び出して、
        探したんだから!ノアニールに帰るよ」

    マオ「待てって…」

     一方的に手を掴んで外に出ようとする女を
    振り払うマオ。
    75 : 創る名無しに見る - 2012/03/25(日) 01:43:20.11 ID:k++6tQNh.net (+35,+30,+0)
    オルテガ「確かに…マオと瓜二つだが」

     丁度カンダタに関する報告書が書き終わったのか、
    書状を書簡に詰めながらオルテガが言う。

    オルテガ「実はこいつは記憶喪失でな…
         今は俺達と魔王バラモスを討伐する旅をしている」

    マオ「ちょっと!」

    カンダタ「俺達って…俺もかよ!?」

     勝手な話を進めるオルテガにマオは抗議の声を上げ、
    カンダタは疑問の声を上げる。

    マオ(師匠、何を勝手な作り話を言っているんですか!)

    オルテガ(元々、巫女の体であって
       記憶が一切無いのは確かだろうが)

     それにしても作り話と言え、元異世界の魔王がこの世界の魔王を
    討伐するって話は一体何の冗談なんだか。

     魔王を討伐するかどうかなんて、知った事ではないが
    ひとまずこの場は、オルテガの話に乗って置く事にする。

    マオ「…………と、とにかく…そういう訳だから
       悪いけど、そのノアニールとやらに帰るつもりは
       ………………………………って…泣くなよっ!」

     マオの言葉半ばに大粒の涙を流す娘、女の涙は武器だと
    マギーは言っていたが、まさにその通りだ、今は自分も
    女だったりする訳だけど…で話を聞いてみた所。

     双子の姉が居なくなったのは約1年程前の話らしい、
    両親が目の前でモンスターに喰われる事件を引き金に
    姉が突如ノアニール村から行方をくらませたらしい。

     妹である彼女はその後、親戚の住むカザーブ村へと
    引っ越し、1年後の今日、両親の墓参りに行くために
    護衛の冒険者を探してこの酒場に来たと言う。

    オルテガ「なるほどな…、マオがお前さんの姉かどうかは
        判らないが、これも精霊ルビス様の巡り合わせだろう」

    マオ「って…師匠?」

    オルテガ「ノアニールならすぐそこだ、
         丁度良いからこの娘さんを送って差し上げろ」
    76 : 創る名無しに見る - 2012/03/25(日) 01:43:44.92 ID:k++6tQNh.net (+33,+30,+0)
    カンダタ「送って差し上げろは良いんだけどよ」

     カザーブ村からさらに北のノアニールへ向かう途中、
    娘と共に付いてきているカンダタが不平の声を漏らす。

    カンダタ「なんだって、俺様まで一緒にノアニールに
         行く必要があるんだ?」

    マオ「師匠に言えって」

     不満を言おうにも、そのオルテガは金の冠を持って
    一人でロマリアへと向かった訳だが。

    カンダタ「第一、ロマリアに報告に行くなら
         俺様も一緒に行くべきだろ、金の冠を持って
         逃げや───がったかっ!」

    マオ「逃げたら逃げたで貴様は自由の身になれるから
       問題ないだ─────ろっ!!」

     カンダタと二人で街道を塞ぐ巨大なモンスター達を
    討伐しながらも言葉を交わす…。

    若い「……………あの…」

    カンダタ「オメェは…下がってな!
         それならそれで、俺はカザーブ村で
         のんびりして居たかったんだけどな」

    マオ「働かざる者、食うべからずって言葉知らんのか?
       貴様が飲み食いした金は、全部必要経費ってことで
       国民の税金から出るんだぞ!」

     言いながらも、木の幹を蹴って飛び上がり、
    ジャンプしながらデスフラッターを斬り落とす。

    マオ「これでラスト!
       ……手伝いが居るか?」

    カンダタ「馬鹿言え!こっちも終わりだぜっ!」

     カンダタの斧が最後の毒イモムシの頭を粉砕し、
    飛び散った毒からマントで身を守る。
    77 : 創る名無しに見る - 2012/03/25(日) 01:44:04.80 ID:k++6tQNh.net (+35,+30,+0)
    マオ「それで?
       ………どうかしたのか?」

     剣に付着した血を拭い去り、自称妹に向かって
    マオは振り向く。

    若い「……………あの…
       いえ…その…お姉ちゃん強いなって…
       昔はずっと村から出た事も無かったのに」

    マオ「そりゃぁ…………」

     アンタの姉じゃないからな、と言葉に出しそうなのを
    ぐっと堪える。

     アンタの姉(確定ではないけど)は、筋骨隆々の魔族の
    男と体を交換しました、なんて言ったらどんな顔をする
    のだろうか?

    カンダタ「見えたぞ!ノアニールだ
         けど…様子が変だぜ?…」

     平原の先にノアニールの街が見えてくる…
    しかし…、今は夕方であるにも関わらず
    どの家からも夕餉の煙が立ち上っていない。

     それに…村の入り口に草が生い茂っており
    まるで破棄された村のように見える。

    若い「………………!!」

    カンダタ「…おい!俺達も追うぞ!」

     ◆◇◆◇ ノアニール ◆◇◆◇

     ノアニール村は無事ではあった、モンスターに襲撃
    されたとかではなく、町民も無事に生存していたし
    建物が破壊された後も無かった…しかし…。


    町民A「…Zzzzzzz……」

    町民B「すぴー……」

    町民C「…Zzz…Zzz………」
    78 : 創る名無しに見る - 2012/03/25(日) 01:44:37.93 ID:k++6tQNh.net (+33,+30,+0)
    カンダタ「…なんだこりゃぁ!?
         寝てやがるのか?、しかも立ったまま」

     カンダタが驚きの声を上げる、無理も無い…
    町民達は一人残らず眠っていた。
     カンダタが寝ている町民に手を触れようとするが。

    マオ「……二人とも…触れるな!
       それと布を口元に当てておけ!」

    カンダタ「急にどうしたんでぇ!?」

    マオ「最悪、伝染病の危険性もある…
       原因が判らない以上、むやみやたらに
       触れない方が良い」

    カンダタ「でっ…伝染病!?」

     命が惜しくは無いとは言っていたカンダタも
    流石に病気には掛かりたくは無いらしい。
     驚くついでに町民から慌てて遠ざかる。

    若い「でも、このままにしておくなんて…」

    マオ「様子を見る限り…
       随分と長い間放置されているみたいだが」

     しかし、不思議と衰弱している感じも無く
    衣服も雨風に晒されて汚れている感じも無い。

     何より、まるで時が止まったかのように立って
    寝ているのだ。

    マオ「普通…寝る時は横になるはずだ…
       立ったまま寝てても、力が抜けるから
       地面に倒れるはずなんだが」

    カンダタ「普通の眠りじゃねーって事か
       それで、どうするんだ?」

    マオ「どうもこうも無いだろう、頼まれた事は
       この娘をノアニールに送る事だけだ、
       宿で一休みさせてもらったら、カザーブに帰るさ」

    若い「そんな!酷い!
        ノアニールの皆がこんな目にあっているのよ!
        お姉ちゃん」

     ─────って…言われてもなぁ。

    マオ「再三言っているけど、私は姉ではない
       それに…どこで、何をして、どうすれば
       こいつらの目が覚めるんだ?」

    若い「そ…それは…………。」
    79 : 創る名無しに見る - 2012/03/26(月) 00:14:57.04 ID:yy+Wl0EG.net (+29,+30,+0)
    カンダタ「ドライだなー…おめぇ
       オルテガのおっさんとえらい違いだ」

    マオ「なら、お前がなんとかしてやるんだな」

     吐き捨てて宿へ向かう、この分だと宿屋も
    機能しているとは思えないが、勝手に宿代を置いておけば
    問題は無いだろう…。

      馬鹿らしい、私は元魔王だ…
     なんだって無償で人助けなんてしてやらなければいけないんだ。
     本当に馬鹿馬鹿しい。

     外は夕暮れ、やがて外は暗くなり、月明かりの元で村人達を
    家に運び込む娘とカンダタの二人が見える。

    マオ「…触れるなと言ったのに
       ……………………ん?」

     見るとノアニール村の外れの一件の家の一部屋にだけ
    明かりが灯っているようだ…。
     村人達を家に運び入れるカンダタ達からは気が付かない角度の
    ようだが…。

    マオ「まぁ…私には関係ないか…」

     窓を閉めて、ベッドに潜り込み寝ようとするが…。

    マオ「……………寝られない…。」

     外で村人達を、運び入れるカンダタ達…
    そして、恐らく事情を知っているであろう村はずれの明かり、
    自分には微塵も関係ない…翌日になれば、カザーブに
    帰る積りだ…。

     しかしだ…、誘いの祠で倒れていた自分を助けてくれて
    さらに見返りを要求せず、半年も面倒を見てくれたお節介な
    男が居た、あの男なら見返りを要求せずにも手を貸していただろう
    外に居るカンダタのように…。

     良いのか?魔王、お前は人如きに借りを作ったままで。
    心の中でそんな声が響く…。

    マオ「……………くそっ!…わかったよ!」

     マオは誘惑の剣を手に取り、腰のホルダーに固定して
    部屋を飛び出す。
    80 : 創る名無しに見る - 2012/03/26(月) 00:15:29.06 ID:yy+Wl0EG.net (+35,+30,+0)
     ◆◇◆◇ ノアニール:外れの家 ◆◇◆◇

     ノアニール郊外の家を訪れてみると一人の
    中年の男が住んでいた。

     夜に突然現れたにも関わらず、飲み物まで用意してくれた。
    北国であるノアニール地方は夜になると夏でもかなり冷え込む
    らしく、暖房も効いていない宿では一晩を過ごすのは厳しい
    とのことらしい…。

     「全ては…この村の男とエルフの娘…
      アンのせいなんですじゃ」

     なんでも…、偶然森に迷い込んだ男が偶然森で出会った
    エルフの娘と恋に落ち、駆け落ちしたらしい…、

     その上エルフ達の至宝である確『夢見るルビー』を盗み出したらしく、
    怒ったエルフの女王(そのエルフの母親)はこの村を
    眠りの呪いで閉ざしたらしい…。

    マオ「………なんとも、はた迷惑は話だ。」

     第一…その娘と男が気に入らないなら
    なんで、その娘と男だけでは無く村人達に呪いを掛ける?

     ついでに、娘と男も何故にその村の至宝であるルビーを
    わざわざ盗み出したんだ?

     尤も、魔物の住処にわざわざ入り込んで剣を振るい、
    宝物を盗み、魔物を惨殺して毛皮や武器を剥ぎ取っていく
    連中を勇者と崇める者達が人間であるから、そんなもの
    かもしれないが。

    マオ「けど、それなら話は簡単だ
       村で眠っている娘と男を台車にでも載せて、ルビー共々
       エルフの女王とやらに引き渡せば問題は解決だ。」

     「その二人は…もう居ないのですじゃ」

     なんでも、駆け落ちした挙句に
    半島の先端にある洞窟の地底湖で身投げをしたらしい…。

     本当に…自分勝手な連中だ。
    マオはひそかに頭を抱えた。


     ◆◇◆◇ ノアニール:街の出入り口 ◆◇◆◇

    カンダタ「一体おめぇ…どこに行くつもりだよ」

     村から出ようとしていたら、カンダタに背後から
    声を掛けられる。

    マオ「少し出かけて来る…明朝までには戻る
       戻らなかったら先にカザーブ村まで行っていろ」

    カンダタ「この村の連中……どうにかするつもりなんだろ?」

    マオ「…ちっ…」
    81 : 創る名無しに見る - 2012/03/26(月) 00:16:26.33 ID:yy+Wl0EG.net (+35,+30,+0)
     うるさい奴に捕まったもんだが、わざわざ嘘を教える
    理由が有る訳でも無い、村の人間に聞いた話を
    完結にカンダタに話す。

    カンダタ「……うっ…うっ……いまどき恋に落ちた二人が
         種族を越えた愛を育む為に駆け落ちたぁ…
         泣かせる話じゃねぇか…」

     …………………そして、マジ泣きしていた。

    マオ「死ぬぐらいの度胸があるなら、死ぬ気で母親を
       説得しろって話だな」

    カンダタ「……うおぉおうぃ……うおぉおうぃ
         誰にも認められず…駆け落ちの果てに
         …地底湖に身を投げちまうなんてぇぇぇぇ」

     カンダタはハンカチを涙で濡らして号泣しているが、
    マオの声は冷ややかだった。

    マオ「地底湖の死体を引き上げるのって…かなり嫌だな
       水で死体が膨れてブヨブヨになっていそうだ
       『夢見るルビー』とやらを置いて自殺してくれていれば
       良いんだが」

    カンダタ「……うおぉおうぃ……うおぉおうぃ
         エルフの女王様も、きっと…人間を誤解しちまって
         呪いを……ブビィイイイイィイイィイ………」

     カンダタが号泣しながら鼻をかむが…。

    マオ「まるっきり逆恨みだな…
       よくもまぁそんなもんで女王の職務が務まる物だ」

    カンダタ「……おめぇ…なんとも思わねェのか?
       どこまでもクールな奴だな、脳みその代りに
       氷でも入っているんじゃないか?」

    マオ「思わない…同情する余地はまるで無いな
       その二人とエルフの女王とやらのせいで、この村は
       面倒な事になっているんだ」

     泣くだけ泣いて、カンダタは落ち着いたらしく。

    カンダタ「……それで、話は戻って
       おめぇさんは、その女王を説得するってェ事か?」

    マオ「話してはみるつもりだな」

    カンダタ「なんのかんの言いながら
       おめぇはあのオルテガの弟子だよ」

    マオ「あんな善人でも無いけどな」
    82 : 創る名無しに見る - 2012/03/26(月) 00:17:01.82 ID:yy+Wl0EG.net (+35,+30,+0)
     ◆◇◆◇ ノアニール半島:エルフの村 ◆◇◆◇

    マオ「動くな!武器を捨てて!
       両手を頭の上に上げろ」

    エルフの娘「ひぃっ!!」

     ノアニール半島の先端近くにある森の中、
    エルフ達の村はその森の中にあった。
     村に入るなり、適当なエルフの一人に狙いを付けて
    剣を抜きざまに首筋に当てる。

    マオ「妙な動きはするなよ…
       抵抗する素振りを見せたり、大声を上げたら
       容赦なく殺す」

    エルフの娘「たっ!助けてっ!」

    カンダタ「ちょ!おめぇ!」

     首筋に誘惑の剣を当てたままエルフの娘の体をまさぐり
    衣服の下からナイフを取り出す。

    マオ「女王の居場所はどこだ?」

    エルフの娘「泉の……奥の…建物……。」

    マオ「よーし…案内しろ…
       …ただし…ゆっくりとだ…」

    カンダタ「交渉じゃなかったのかよ!?」

    マオ「これが私の交渉術だが…?」

    カンダタ「これは脅迫って言うんだ!」

     カンダタが頭を抱えるが、何か間違った事をしただろうか?
    第一、こう言った交渉はむしろ、カンダタのお家芸だとも
    思うのだが。
    83 : 創る名無しに見る - 2012/03/26(月) 00:20:03.00 ID:yy+Wl0EG.net (+29,+29,-10)
    なんか、回を増すごとに
    話がどんどんチープになっていくな、
    とりあえず、休日が終わるのでここまで
    84 : 創る名無しに見る - 2012/03/30(金) 00:14:22.68 ID:+e62wst3.net (+33,+30,+0)
    エルフの女王「その娘を離しなさい」

     ふと…威厳のある声が響き、
    十数人のエルフ達と共に、一人小奇麗な衣服をまとった
    エルフが現れる。

     どうやらこいつが女王らしい。

     エルフ達は弓を構えて、マオへと狙いを定める。

    マオ「貴様がエルフの女王か」

    エルフの女王「もう一度言います、その娘を離しなさい」

    マオ「…離してやっても良いが
       ノアニールの村の呪いを解いてもらおう」

    エルフの女王「なるほど…
          それでこの村まで来た訳ですか
          ……………断ると言ったら?」

    マオ「この集落が今日限りで無くなるかもな
       そちらと同じく、私も手段を選ぶつもりは無い」

    カンダタ「なんでこうなるんだよ…」

    エルフの女王「魂の中に荒々しい力を
          感じます…本気…なんですね」

    マオ「けどまぁ…とりあえずアンタの命は最後にしてやるよ
       死なれて呪いが解けなくなっても困るしな」

    エルフの女王「我々は人間如きに屈するつもりはありません」

    マオ「10秒待ってやる…そこで気が変わらなかったら
       …一人づつこの集落の人口が減っていと思え」

    人間の老人「……待って下され!!」
    85 : 創る名無しに見る - 2012/03/30(金) 00:15:00.60 ID:+e62wst3.net (+33,+30,+0)
     10カウントを始めようとした所で、老人に止められる
    エルフの村の中にたった一人だけ、人間の老人が居たようだ。

    人間の老人「貴方様がどんな方かは存じませんが
          この場は剣を退いてくだされ!」

    カンダタ「……オメェは?」

    人間の老人「私は…エルフの娘と共に駆け落ちした
          男の父ですじゃ…」

    エルフの女王「まだ村に居たのですか…さっさと去りなさい」

    人間の老人「この老いぼれの命ならいくらでも差し出します
          ですが、ウチの愚息のせいで人様の命だけは
          取らないでくださいませ」

     マオがエルフの喉元から剣を下げると同時に、
    女王も弓を下ろすように合図する…。

    マオ「行け」

     先ほど奪ったナイフを差し出すと、エルフの娘は
    ナイフを受け取って、慌てて逃げ出す。

     ◆◇◆◇ エルフの村:村はずれ ◆◇◆◇

    老人「お許し下され、旅の方」

    マオ「許すも何も、許しを乞うのは
       ノアニール村の連中に対してだろう?」

    人間の老人「その…通りですじゃ…
       なんとか、ノアニール村を元に戻すため
       こうして単身、エルフ達の村へ参ったのですが」

    カンダタ「無茶しやがるぜ、じーさん…
       この辺りは結構狂暴なモンスターが出るぜ?」

    老人「ですが…エルフの女王には聞き入れてもらえません
       女王は息子が女王の娘をたぶらかし、夢見るルビーを
       盗ませたものと思い込んでおるのです」
    86 : 創る名無しに見る - 2012/03/30(金) 00:15:26.48 ID:+e62wst3.net (+33,+30,+0)

    マオ「その夢見るルビーとは何物なんだ?」

    カンダタ「俺は話には聞いた事があるぜ、赤子の頭ぐらいはある
       どでけぇルビーの塊なんだとよ、ただそのルビーは
       エルフどもの呪いがあって、覗き込んだが最後
       体が石みてぇに動かなくなるんだとさ」

    マオ「そんなルビーを何故?」

    カンダタ「なにはともあれ、価値はあるからな
       売り飛ばして新居でもおっ建てるつもりだったんじゃね?
       夢見るルビーとやらを取り戻せば、ひとまずは
       話を聞いてくれそうな気もするけどな」

    マオ「手っ取り早く脅迫した方が早いんだろうけどな」

    エルフの女王「貴女が何をしようと…
         我々は人間の脅しに屈するつもりはありません」

     話を聞いていたのか、エルフの女王は供を連れて
    湖の畔にやって来る。

    マオ「…………………盗み聞きか?」

    エルフの女王「いつまでも我々の村から立ち去れない
         貴方達に注意しに来ただけです」

    マオ「アンタの娘…アンって言ったか?男と逃げた上で
       地底湖に身投げをしたって話は聞いたか?」

    エルフの女王「何を言い出すかと思えば、
         そのような下らない作り話、
         アンはそのような心の弱い子ではありません」

    カンダタ「じゃー…証拠を見せれば納得するんだな?
       オメェの娘と男が地底湖でテメェの意志で無理心中したって
       証拠を見つければよ」

    カンダタ「そうすりゃぁ…全部テメェの思い込み、
       人間に非は無ぇ以上、ノアニールを戻して
       ちゃんと詫びをいれるんだろうな」

    エルフの女王「…………良いでしょう…」
    87 : 創る名無しに見る - 2012/03/31(土) 03:59:33.00 ID:yfqbsbYS.net (+35,+30,+0)

     ◆◇◆◇ ノアニール西の洞窟 ◆◇◆◇

    マオ「せいっ!」

    ヴァンパイア「クケェーっ!」

     背中から羽根を生やした男のような魔物、ヴァンパイア達を
    切り捨てつつ、マオとカンダタの二人は地底湖へと
    歩みを進める。

    カンダタ「こいつを見てみろ…
       古い松明だ」

     カンダタが指で示す先には随分古い松明の燃え残りが
    地面に捨てられていた。

     どうやら…人が入って来たのは間違い無いようだ。

    マオ「…………心中した二人のものか判らないが…先に進んだのか
       にしても、この洞窟は天井や横幅が広いのは有り難いが
       奥行は随分あるな」

    カンダタ「狭かったら武器も振るえねぇからな
       おっと…こっちのルートは外れだ、さっきの
       十字路まで戻るぜ?」

     カンダタは書いていた地図に×印を記入すると、
    歩いて来た道を引き返す。

    88 : 創る名無しに見る - 2012/03/31(土) 04:00:09.15 ID:yfqbsbYS.net (+35,+30,-254)
    マオ「聞きたかったんだが…なぜ
       お前はこの件に首を突っ込んだ?」

    カンダタ「オメェに付いて行けって
       言ったのは、オルテガのおっさんだろうが」

    マオ「そうではなくて…ノアニールの一件は
       お前にとってはどうでも良いだろう?」

    カンダタ「確かにそーなんだけどよ、
       でも、それを言ったらオメェだってそうじゃねぇか」

     ──────全くだ…。

    マオ「わ…私は…そのォ…
       寝付けなかったから、ただの散歩な…だけだ」

    カンダタ「じゃー…俺も
       それでいいだろうよ…って…おろ?」

     洞窟を進むと、地底湖の近くに青い栗のような形をした
    モンスターが4匹程集まっていた。

    マオ「なんだって…こんな奥に
       スライムが?」

    カンダタ「さぁなぁ…
       ほーら、どけどけ…踏み潰しちまうぞぉ?」

    89 : 創る名無しに見る - 2012/03/31(土) 04:00:37.36 ID:yfqbsbYS.net (+35,+30,-205)
     カンダタが足でスライムを小突くと、スライムは
    カンダタの足にかみつく。

    カンダタ「いでぇっ!せっかく見逃してやろうと思ったのに
       テメェ!何してくれやがる!」

     斧を振るうがスライム達の動きは予想外に機敏であり、
    4匹も居るのに、1匹も仕留める事が出来ない…。

    マオ「一体…何を遊んでいるんだ?」

    カンダタ「…いい加減にしやがれっ!」

     カンダタがようやくスライムの一匹を仕留めるが。

    スライム「ピキー!!」

     残ったスライム達が吠えると、スライムの声が洞窟に
    こだましてゆき…。

    マオ「うわっ!?」

    カンダタ「…仲間を呼びやがったのか!?」

     ありとあらゆる所から、スライムの声に応じた
    スライムの仲間達が現れる…。

    90 : 創る名無しに見る - 2012/03/31(土) 04:01:00.03 ID:yfqbsbYS.net (+35,+30,-201)
     この世界では見なかったが、マオには呼び出される前の
    世界で、このタイプのスライムを見た事があった。

    マオ「まさか…合体スライム!?」

    カンダタ「合体スライムって何なんだ?」

     カンダタの声に応じるかのように、
    スライム達が一つの箇所に集まり、積み重なっていく。

    マオ「逃げろ!」

    カンダタ「アイツら…何をしようってんだ?」

    マオ「いいから!」

     スライム達に背を向けて、マオは走り出し、
    カンダタがそれに続いて走り出す。
     やがて辺り一帯のスライムが全て集まり。

     ボン!

     冠を被った一匹の大きなスライムに変身する。

    カンダタ「なんじゃありゃぁ!
         あいつら…合体しやがったぞ!?
         スライムってあんな事が出来んのかよ!」
    91 : 創る名無しに見る - 2012/03/31(土) 04:01:36.84 ID:yfqbsbYS.net (+35,+30,-312)

    マオ「キングスライムだ」

     巨体なスライムはバウンドしながら接近し、逃げる
    カンダタを跳ね飛ばす…。

    カンダタ「ぐはぁぁぁっ!」

     キングスライムの攻撃に跳ね飛ばされたカンダタに
    さらに追撃を掛けようとする、キングスライム。

    マオ「カンダタ!!」

     マオが剣を抜き、カンダタとキングスライムの間に
    割り込む。
     幸いに洞窟の中は狭く、キングスライムは思った以上に
    俊敏に動けないようでもある。

    マオ「ハッ!!」

     マオはキングスライムの体当たりを躱して、巨体を深く斬り付けるが…、
    キングスライムの体が白い光に包まれたかと思うと、切り口が
    一瞬で塞がる。

    マオ「…べホイミか」

     スライムの厄介な所は急所が無い所だ、力任せに粉砕出来れば良いが
    その力は無い…。

    カンダタ「おぅら!ベギラマァ!!!」

    マオ「よせ、無駄だ!」

     カンダタの放った閃光呪文が空を切り裂き
    キングスライムを両断するかと思われた…。
     しかし、キングスライムの手前で紫色の呪文に
    包まれて霧散する。
    92 : 創る名無しに見る - 2012/03/31(土) 04:02:24.91 ID:yfqbsbYS.net (+35,+30,+0)

    カンダタ「呪文が利かねぇ!!」

    マオ「走れ!逃げるしかない!
       細い通路に逃げ込めば撒けるかもしれない」

     カンダタを連れてマオは全力で走り抜ける、
    背後からは冠を被った巨体スライムが凄い速度で
    転がってくる。

    カンダタ「避けろ!マオ!」

     カンダタが叫ぶと同時に、横に飛び
    巨体スライムの体当たりを躱す…。

    キングスライム「ピギー!!」

     巨体が洞窟の壁に激突し、天井から
    ぱらぱらと破片が落ちる…。
     飛び退いた際に手放してしまったのか、
    誘惑の剣が乾いた音を立てて転がる。

     戦いの音に誘われたのか…さらにモンスターが
    通路の奥から出現する。

    カンダタ「スライムの次は鉄の化け物が
        でやがった…!」

     青く輝くブルーメタルのボディ、勇者が着込んでいた
    ロトの鎧やロトの盾と同じ材質、感情の無い一つ目に
    右手に大振りの刀、左手にマウントされたボウガン。
     4足の足…殺人機械の名を冠するモンスター。

    マオ「お次は、キラーマシンだと!?
       どうなっているんだ!」
    93 : 創る名無しに見る - 2012/03/31(土) 04:03:11.93 ID:yfqbsbYS.net (+35,+30,-239)

    カンダタ「無茶苦茶強そうだぞ、オイ」

    マオ「前門のメカ、後門のキングスライムか」

    カンダタ「ああ…俺様もここまでなのね…
        さようなら…俺の愛しい子分達よ…」

    マオ「アホ言っていないで、戦えっての」

    カンダタ「無茶言うなよ…
        こんな状況で…どーしろっていうのよ」

     キングスライム一匹相手にここまで苦戦している
    と言うのに、キラーマシンまで出て来られると
    流石に…旗色が悪すぎる。

     しかも…マオに至っては今は武器も持って居ない
    丸腰状態なのだ。

    マオ「カンダタ!なんでも良い!
       奴らを引き付けろ!」

    カンダタ「分かった!おうおうテメェら…
       俺様を見やがれ!」

     カンダタが大声でモンスター達の気を引き、
    マオがその間にキングスライムの横をすり抜けて、誘惑の剣に
    向かって飛びつく。

    94 : 創る名無しに見る - 2012/04/03(火) 02:24:16.45 ID:UEUWInk3.net (+33,+30,-199)

    カンダタ「1番、カンダタ…
       とりあえず脱ぎます!」

     カンダタは自らのパンツに手をかける…。

     ───オマエ、パンツ一丁だろうが────。

     と言う、突っ込みをいれようとしたのか、しなかったのか
    キラーマシンと、キングスライムはひとまずカンダタに
    注目してはいる。

    マオ「ハッ!!」

     マオは手にした誘惑の剣を高く掲げると、赤い光がキングスライムを
    包み込む。

    キングスライム「ピギー!?」

     赤い光…誘惑の剣には呪文…メダパニの効果がある…を
    まともに受けたキングスライムは混乱し、キラーマシンに対して
    襲いかかる。

    カンダタ「おおっとぅ…!?」

     キングスライムとキラーマシンが争いはじめ、
    マオやカンダタ達を相手にする余裕が無くなったよう見える。
    95 : 創る名無しに見る - 2012/04/03(火) 02:24:39.08 ID:UEUWInk3.net (+33,+30,+0)
     キラーマシンの注意が逸れた隙に、マオはキラーマシンの背後に回り込み、
    首の後ろのレバーを回す。
     重い音と共に、背後の装甲板が上下に開き人間が一人ぐらい入れるぐらいの
    スペースがそこに現れる。

    カンダタ「まさか…乗れるのか!?」

    マオ「しばらく、スライムを引き付けていてくれ」

    カンダタ「わかった!」

     カンダタにキングスライムを任せてキラーマシンの内部に滑り込み、
    キラーマシンを自動操縦から手動操縦に切り替える。
     普通は魔王となるものの魔力で動き戦うはずだが、このキラーマシンには
    なぜか主人となる魔王は居ないようだ。

     実際、動力源となる魔王の魔力が無ければ、やがて機内の魔力を使い果たし
    勝手に止まるはずである、実際このキラーマシンは魔力が殆ど空だったりも
    したのだが。

    マオ「随分旧型のキラーマシンだが
       主は…誰なんだろうか?」

     疑問に思う所だが、今はそれどころではない…
    人間にされてしまい、魔力も随分弱まったがキラーマシン一体動かすぐらいなら
    なんとでもなるだろう。

     操縦桿を握り、魔力を流し込んでキラーマシンを再起動する。
    96 : 創る名無しに見る - 2012/04/03(火) 02:24:53.98 ID:UEUWInk3.net (+33,+30,-141)

    カンダタ「動きやがった!?」

    マオ『よし!なんとかなりそうだ
       下がっていろ!』

     カンダタに下がるように指示し、キングスライムの前に出る。

    キングスライム「ピギーっ!」

     キラーマシンを完全に敵とみなしたのか、キングスライムが突撃してくる、
    マオはキラーマシンに攻撃を指示し…。
     キングスライムはたったの一撃で真っ二つに両断された。

    カンダタ「おめぇ、どこでこんなのの動かし方を…」

    マオ『背中に乗れ、このまま突破するぞ…』

    97 : 創る名無しに見る - 2012/04/03(火) 02:25:17.56 ID:UEUWInk3.net (+33,+30,+0)
     ◆◇◆◇ ノアニール西の洞窟:奥 ◆◇◆◇

     キラーマシンを入手できたのは幸運だった、
    動かす度にMPを消費するものの、キラーマシンの強さは
    かなりのもので、敵と言う敵を片っ端から両断して行った。

     さらに、防水も効いているようであり、
    水嵩が増した地下水の中も平気で歩いて行けるのだ。
     ややあって、広い部屋に辿り着く…広い湖のある部屋…地底湖だ。

    カンダタ「…随分奥まで来たな」

    マオ『……ここらが、最奥部か?…』

    カンダタ「いくらなんでも、これ以上は素人には
         入り込めないだろうよ、おっと…そこに
         上がれそうだぜ」

     カンダタの指す方向にキラーマシンを上陸させ、
    マシンの照明で辺りを照らしたままマシンの外に出る。

    マオ「綺麗な所だな…」

    カンダタ「マオ!こいつを見てみろ
        遺書だ!」

     カンダタの言う辺りを見てみると、遺書と書かれた
    手紙が置いてある、その手紙の重しに使われているのは
    赤い巨大な宝石。

    カンダタ「すんげー、でっけールビーだ」

    マオ「これが、夢見るルビーか」

    98 : 創る名無しに見る - 2012/04/07(土) 00:59:30.71 ID:dXFEFhgU.net (+24,+29,-24)
    執筆速度が鈍ってまいりました
    まぁいいや、誰も見ておらんだろう
    99 : 創る名無しに見る - 2012/04/10(火) 12:51:25.11 ID:SCh5U9f+.net (+23,+28,-6)
    見とるわ、たわけ(^_-)
    手ぇ抜くんじゃねーぞ?
    100 : 創る名無しに見る - 2012/04/11(水) 21:11:07.03 ID:Ns9sAMNE.net (+27,+29,-6)
    OKボス
    でもまた、風邪ひいたから、今日は無理ぽ
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