元スレ男「お前があのハエトリグモだって……?」 女「借りを返しに来たぞ」
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101 = 78 :
チャラ男「君がチクったって、俺がメンバーに言ったら……」
チャラ男「まあ…… それじゃよろしくねー」
男「あ、待ってください!!」
チャラ男「あー、大丈夫。もう店に行く気分じゃないし今日は止めるわ」
チャラ男「でも…… あと一つあったわ」
男「……?」
チャラ男「もしかして、あんたってあの娘のことが好きっしょ?」
男「だから…… 友達です……!!」
チャラ男「必死になって悪党から守って、それでヒーローになってゴールインしたいって感じ?」
男「ち、違います……!」
チャラ男「あのね…… こういうのって、自分から行けない奴はダメなんだよね」
チャラ男「何もしなくても向こうから寄ってくるのなんて、今どきイケメンでもそーそーないわけよ」
チャラ男「受身に徹しているだけじゃ、ただの優しい人なんだよね」
チャラ男「自分に都合がいい潰しが利く人…… って意味ね」
チャラ男「ま、そういうわけだから」
チャラ男「あ―― あと、これ俺のメルアドと電話番号ね」
チャラ男「あの娘に渡しといてくんね?」
チャラ男「それじゃー、ちーっす」
102 :
まだあったか
103 :
アドバイスする辺りちょっといいやつに思えてきた
104 = 78 :
男(あの男が俺の本質を見抜いたのかどうかは分からない)
男(しかし…… その矢は俺のど真ん中を射抜いた)
男(何も言い返せなかった)
男(こちら側には一切の非はない)
男(そのはずなのに―― 俺は堂々と戦えなかった)
男(俺は…… 俺は何なんだ!?)
男(女さんにとって、俺という存在は!?)
男(もう…… 何も分からない)
男(こちら側には弱点はない、勝てると思っていた)
男(そのはずなのに…… けん制のリードパンチ、ジャブにやられた)
男(俺という城は簡単に攻略されてしまったのだ…… だった一本の矢に)
105 = 78 :
男「もう…… 何なんだよ……」
男「俺は何も悪くないはずだ……!」
男(いつも通り始まる正当化)
男(逃げの口実だ。現実逃避だ)
男(そうして流されて…… 自分の道を見失っていくんだ)
男(いつものことさ)
男「平和が…… 一番」
男(ああ…… ほんとに馬鹿みたいだ)
男「少し、頭を冷やそう」
男(まだ女さんは帰ってこないみたいだし)
男(書置きしておけば…… 合鍵はいつも持ち歩いているはずだし)
男「少し…… 河川敷の遊歩道を歩いてこよう」
106 = 78 :
女「――戻ったぞ」ガチャ
女「む、閉まっているな……」
女「寄り道でもしてるのか?」
女「けしからん。今日は奴が好物だと言っていたメニューにしたのに」
女「まあ、そのうち帰って来るだろう」
女「合鍵を―― よし」ギィイイイイ
女「む…… これは……」
女(テーブルに置かれた書置き)
女(少し散歩に行ってきます……?)
女(なんてことを―― 夜は奴らの行動時間だっ!)
女(恰好の餌食だぞ……!!)
女(ん……? もう一枚何かあるな)
女「なんだ『チャラ男』とは…… それにこの記号と番号は」
女「メールアドレス…… 電話番号ということか……」
女「チャラ男…… なるほどな」
女「後輩が言っていた―― 男君が奴と話をつけている、と」
女「そのお礼をしようと…… とびっきり美味しい夕飯を作ろうと思ってたのにな」
女「孝行したい時に限って――」
女「よく言ったものだ」
女「……」
女「馬鹿」
107 = 78 :
男(ふう…… コンビニに寄り道してしまった)
男「すっかり遅くなってしまったな……」
男「た、ただいまー……」ギイイイ
男「暗い…… 当たり前か」
男「でも、どうやら帰って来ているみたいだな…… 良かった」
男「電気は一番暗いやつにして…… と」
男「――ッ」
女「……」スゥ スゥ
男(テーブルに突っ伏して寝てる……)
男(あんたの寝床はロフトだろ……)
男(それに…… これは)
男「……」
男(俺の好きな…… メニューを)
男(俺は――)
男(馬鹿野郎……!!)
108 = 99 :
補修
109 = 78 :
男(あれから何日か経った)
男(あの日を境に…… 俺と女さんの雰囲気は明らかにぎこちない)
男(それは俺の思い込みというわけでもなく、どうやら彼女もそうであるようだった)
男(決定的な改善策もなく…… 依然として嫌なムードだ)
男(いつも通り逃げ癖が発動している俺は…… こんな現状から逃避しようともがいていた)
男(最低な男だ)
男(大学の授業も受ける気にはなれないが…… それでは女さんに余計な心配をかけてしまう)
男(重い足を引きずって、今日もなんとか大学へやって来た)
男(三限、必修の時間だ)
男(ちなみに―― チャラ男はあの日以来店に姿を見せなくなったという)
男(女さんやマスター、後輩にもお礼を言われたり、褒められたりしたが)
男(別れ際の言い分…… あの言い分からするに、あれで終わるわけがない)
男(次の一手を模索しているということか?)
男(だとしたら…… そろそろ仕掛けてくる頃合いではないか?)
男(俺は…… 俺はどうするべきなんだ)
110 = 78 :
A「おっす、男」
男「あ、Aくん―― お疲れ」
A「授業これからだけどな」
男「あ…… そうだったごめんごめん」
A「お前おもしれーな」
A「あ、そうだ―― サークルの件、考えてくれたか?」
男(やべ…… 忘れてた)
男「いや…… 実はまだ迷っててさ」
男「やっぱり今更入るのも難しいかなってさ」
男(逃げの口実……)
A「そっか。まあ、強制とかじゃないしな…… 自分の好きなことやるのが一番ってことよ」
A「それでも気になったら、うちなら歓迎するしいつでも言ってこいよ?」
男「あ、ありがとう!」
A「あ、それと―― お前、聞いたか?」
男「え……? 何の話?」
A「お前、聞いてなかったのか」
A「あのチャラ男が、また何かやらかすらしいぜ!?」
112 = 78 :
男「えっ―― それって」
A「例の、チャラ男と同じクラスの友達が言ってたんだけど」
A「大々的に言いふらしてたみたいだぜ」
男「それって…… どういうこと?」
A「なんでも、『とある喫茶店の店員さんにガチ惚れしたから絶対落とすわ』とか」
男「……!」
A「なんか、最近その喫茶店は一部では有名らしいな」
男「有名……?」
A「ああ、その美人店員が働いてるって…… うちの学生でも通ってる奴いるらしいぜ?」
A「チャラ男も、その噂聞いてそこに行ってみたら―― 後は話の通りってわけだ」
A「しかしよくやるよなー…… しまいにはオッズみたいな賭け事まで始まったらしい」
男(な、なんて奴だ……!!)
A「チャラ男曰く、『勝率はある』とか自信満々に胸張ってたらしい」
男「勝率……」
A「ああ…… なんでも、向こうから連絡が来たってはしゃいでたらしいぞ!?」
男「な―― なんだって!?」
A「お、おい…… いきなりがっつき過ぎだろお前」
男「ご、ごめん……」
男(そんな―― 女さんから!?)
男(そんなはずは……!!)
113 :
残ってた
114 = 78 :
A「よくやるよな…… 高校生かっての」
男「……」
A「お、おい…… お前、顔青くね?」
A「大丈夫か?」
男「あ…… う、うん!」
男「ごめんごめん、そこまで行くとさすがにビビッたわー……」
A「だよなー」
男(なんてことだ――)
男(早く女さんのところへ行かなければ……!!)
男(しかし…… 授業が)
男(くそ、くそ、くそ……!!)
男(一限、二限、三限と来た…… 今日は四限までだ)
男(もうあとほんの数分で三限が始まる……)
男(一度くらい休んでも―― いや、それはいけない!)
男(俺はぼっちだ…… サボり=死と言ってもあまり間違いにはならないだろう)
男(けど…… 一度の授業と女さんを比べるというのか!?)
男(別に命の危険が差し迫っているわけではない…… けどっ!)
男(俺は――!!)
男「Aくん……」
A「どうした? 急に立ち上がって」
男「俺、今日は帰るわ!」
115 = 78 :
A「お、おい……!! どういうことだ!?」
男「ちょっとどうしても外せない急用が――」
A「お、おい……!!」
男(今すぐ真意を問いただすんだ……!)
――
男「駅前についた……!!」
男「店へはもう少し……」
男「早く――」
チャラ男「あ、君ぃ…… また会ったね」
男「――えっ」
チャラ男「ちぃーす、男君」
116 = 78 :
男「チャラ男…… くん」
チャラ男「だいぶ息が上がってるようだけど」
チャラ男「そっか―― 話、耳に入ってる感じ?」
男「君は…… 君は一体何がしたいんだ!!」
チャラ男「だから、言ったじゃん」
チャラ男「行動しないと、何一つ変わらないってさー」
チャラ男「これは俺のやり方なの。分かる?」
チャラ男「欲しいものな何がなんでも手に入れたいわけよ」
チャラ男「そして…… ライバルとかいると余計燃えちゃうんだよね」
チャラ男「ま、そういうわけだから」
チャラ男「ただの『友達』である君にはもう邪魔できないねー、残念」
チャラ男「今度の日曜日、デートに行くことになったから」
男「で、デートって……」
チャラ男「そういえばちゃんと連絡先の紙渡してくれたんだねー あざーっす!」
チャラ男「あの娘の方から電話かけてきてくれたんだわ」
男「そんな……」
チャラ男「マジだよマジ!」
チャラ男「それじゃ、じゃーね」
チャラ男「もう会うことはない―― のかな? ははっ」
男「……」
117 = 78 :
男「一体どういうことだ……」
男(女さんから電話を…… どうして!?)
男(あの時テーブルに置きっぱなしにしてしまった紙……)
男(クソ……!!)
男「店に…… 店に行こう!!」
男(女さん……!!)
後輩「あ…… 男さん」
後輩「いらっしゃいま――」
男「女さんは!?」
後輩「それが……」
マスター「女さんは―― 数日間休ませて欲しい」
マスター「そう連絡が来たよ」
男「そんな……!!」
マスター「あのことが心にこたえたみたいだ…… こちらとしても女さんを無理やり働かせるわけにはいかない」
マスター「こちらは大丈夫だから、女さんにはゆっくり休んでもらうことにしたよ」
男「わ、分かりました―― ありがとうございます!」
男(なら…… 家にいるに違いない!!)
118 = 78 :
男「ただいま――!!」ガチャ
男「って、あれ……?」
男「女さん…… いない!!」
男「そんな…… そんな!!」
男(テーブルの上にメモ用紙!?)
男「何だって……」
男「探さないで下さい……」
男「どういうことだよ!!」
男「それに―― 必ず全てを終わらせて、日曜日に戻ります」
男「どういうことだよ……!!」
男「俺は…… 俺は」
男「もうどうしたらいいんだよ……」
そして、女さんはいなくなった。
119 = 78 :
俺はまた一人になってしまった。
あのぴょこぴょこ跳ねる大きな目をした小さい奴はもういない。
そして、栗色の髪の綺麗な女も…… もういない。
俺は絶望の底まで逃避を続けた。
孝行されていたのは俺の方だ……
俺は、あなたが好きだ。
俺はその想いからも逃げていたのだ。
孝行したいときに、相手はいない。
俺に…… 俺に孝行させてくれ。
ハエトリグモ。
女さん。
120 = 78 :
男(そして…… 日曜日はやって来る)
男(女さんは、『全てを終わらせて戻ってくる』と言っていた)
男(もしかして…… 彼女は自分を犠牲にすることで)
男(それを俺の恩返しにするつもりなのか?)
男(腹が減った、喉が渇いた…… 力が出ない)
男(早朝に目が覚めてしまった……)
男(ほとんど寝ていない)
男「それでも―― 俺は」
男「行かなくちゃ……」
男(衰弱した体で、俺は部屋を出た)
男(目的地は…… あの公園だ)
121 = 78 :
男(今なら…… 走れメロスとか)
男(ああいった話に共感できる気がする)
男(なんなら作者の気持ちを完璧に回答できる)
男(そんな馬鹿みたいな冗談を思いついたら、いつの間にか公園に着いていた)
男(もちろん、そこには誰の姿もない)
男(時々犬を連れて散歩する人が通るだけ)
男(俺は少し、ベンチに横になり寝ることにした)
男(このまま…… このまま深い眠りについて)
男(そのまま人生からも逃避できたら――)
122 = 78 :
男(夢を見た)
男(こんなときに、あのハエトリグモが夢に出た)
男(俺の手の中をちろちろと歩き回っている)
男(時々、そのつぶらな瞳を俺の方へじーっと向ける)
男(ああ、やっぱりこいつはかわいいな)
男(そう思ったときだった)
男(トントン、と肩を叩かれる)
男(振り向くと―― そこには女さんがいた)
男(真剣な眼差しで、トントン、トントンと肩を叩く)
男(俺は気付いているのに、一向に止めようとはしない)
男(すると彼女は手から糸を出して、俺に巻きつける)
男(まるでとあるコミックヒーローのようであった)
男(そして女さんは、糸でぐるぐるになった俺を)
男(――食べた)
123 = 78 :
男「――はっ」
女「やっと起きたな…… 馬鹿者」
男(これは夢か幻か)
男「いや…… 夢では……」
女「夢じゃない、起きろ」
男「女さん……」
男(公園で眠っていたら、どういうわけか女さんに起こされた)
男「女さん…… どうして!」
女「それはな―― 奴と決着をつけるためだ」
男「奴……?」
チャラ男「あちゃー、こんな話聞いてないんすけど」
男(視界の前方…… わざとらしく肩を落とすチャラ男がいた)
男「チャラ男…… くん!!」
チャラ男「それで、これはどういうことっすか?」
チャラ男「女さん」
女「そうだな…… ここで私の本音を直接君に言っておこうと思ってな」
チャラ男「ここで…… どちらの男がふさわしいか決めてくれるってことっすか?」
女「――そうだ」
124 :
見てるぞ
125 = 78 :
女「君なら来てくれると思っていた…… 男くん」
女「だが…… 辛い思いを、負担をかけてしまったな」
女「本当に君には…… 迷惑をかけてばかりだ」
女「結果がどうであれ…… 必ず恩は返すから」ヒソッ
男「女……さん?」
チャラ男「それじゃ、早いとこジャッジしてくれないっすか?」
チャラ男「デート楽しみたいんで」
女「分かった…… では、ジャッジを下そう」
女「私は――」
男「ま、待ってください……!!」
女「男くん……!?」
男「俺は、俺は……」
男「女さんが好きなんです!!」
126 = 78 :
女「男、くん……」
チャラ男「へぇー、やっぱり?」
チャラ男「でも残念、もう遅いんだわ」
男「遅くてもなんでも構わない……」
男「俺は…… 自分の想いから逃げていた」
男「だから―― 自分から行けない奴はダメなんだろ?」
チャラ男「……」
男「欲しいものなら何をしてでも手に入れる……!!」
チャラ男「へぇ…… おもしれーじゃん」
男「あんたの言った通りだ」
男「これは俺のやり方だ」
男「俺は…… 何としてでも現状を守る」
男「誰に何を言われようが…… 自分の生活を守る」
男「守る為に戦う……!!」
男「俺は女さんが好きだ…… だから、チャラ男くんには負けない……!」
チャラ男「なるほどね」
チャラ男「それで十分か?」
チャラ男「答えを出すのは彼女だ」
チャラ男「分かりきってる勝負でアピールする必要もない」
チャラ男「君の気持ちを聞かせて欲しい…… 女さん」
127 :
やっとか
128 = 78 :
女「分かった…… 答えを出そう」
女「私も現実から逃げていた」
女「もし相手に嫌われていたら…… 負担ばかりかけていたら、と」
女「そして、このような『なあなあ』の日々が続いてくれたら、と」
女「しかし、このように終わりは来てしまう」
女「答えは出さなければならない……」
チャラ男「……」
女「私は――」
男「……」
女「私は……」
女「私は…… 君のことが好きだ」
女「……」
女「男くん」
129 = 78 :
男「女、さん……」
女「本当に君には…… 私はこれからも君に恩を返さなくてはいけない」
男「そんな…… もう十分いただいています……」
男「だから…… 今度は俺が」
男「後から部屋に来て迷惑をかけたこと」
男「孤独に暮らす俺を迷惑と感じながらもそっと寄り添ってくれたこと」
男「そして…… こうなってからも」
男「俺のそばにいてくれたこと……」
男「例えあなたがどんな経歴を持った人間でも」
男「俺は…… あなたが好きです」
男「俺にも恩返しをさせてください……」
女「私も君と同じ気持ちだ……」
女「最初は迷惑に思っていた」
女「しかし、君との生活はとても楽しかった」
女「私も一人…… いや、一匹だったからだ」
女「しかしこうなった今でも…… 君が傍にいてくれる」
女「これかも渡しに恩返しをさせてくれ」
女「そして…… 私が人間でいるうちは、傍にいてくれ」
男「はい…… もちろんです……!」
130 = 78 :
男「例えまたクモの姿に戻ったって……! ずっと一緒にいますから」
女「ありがとう、大好きだ」
男「女さん……」
チャラ男「あのさー」
チャラ男「いい雰囲気のとこ悪いんだけど」
チャラ男「人のこと呼んでおいて公開処刑って酷くね?」
女「黙れ。お前は敗北したのだ」
女「求愛に敗れたオスはどうなると思う……?」
女「野たれ死ぬか、別のメスを探して無様にさ迷うのだ」
女「敗者は君だったようだな」
女「立ち去れ」
チャラ男「わざわざ社会的に恥かかせるつもりでこうしたわけねー」
チャラ男「やってくれんじゃん」
女「立ち去れ―― と言っても、立ち去ってくれないのだろうな」
女「害虫が何匹かうろついているようだし」
131 = 113 :
見てる
132 = 78 :
男「――なっ」
男「これは……」
チャラ男「お前ら…… 見つかってんじゃん。死ねよ」
仲間「たくチャラ男よぉ…… マジウケるわっ!! 振られてやがんの!!」
仲間「しっかり動画撮っておいたからぁ!」
仲間「それでさ…… 付き合ってあげたんだから」
仲間「この女…… いいよな?」
チャラ男「ちょっと…… 黙んないと殺すぞ? お前らは手出すんじゃねぇ」
仲間「振られた身分で何言ってんの!? マジウケるっ!」
133 :
女「どういうことだ……」
仲間「絶対告白成功するから…… とか言って、録画までさせてこのザマだもんな!」
仲間「マジうけるわッ!」
女「……」
女「どうやら、お前も色々と思うところはあるみたいだな」
チャラ男「くそ……! お前ら帰るぞ……!」
仲間「何言ってんの!?」
仲間「だいたいさー、お前面白くないんだよね」
仲間「先輩にも気に入られてるしよー」
仲間「俺たちの方がよっぽどサークルに貢献してんだよね」
仲間「もうお前、サークルから消えてくんね?」
仲間「お前も、そこの奴もボコして…… この美人さんをいただいちゃおうぜ?」
135 = 133 :
男「そんな……」
チャラ男「はっはっ……! やっぱりそう来たか無能ども!」
仲間「は? 自分そんな口きいていいわけ?」
チャラ男「本性を見せやがったな!」
チャラ男「俺はもうこんなクソみたいな人間どもに飽き飽きしてたところだ」
チャラ男「金魚の糞みてーにわらわらと」
チャラ男「そして人が弱みを見せたその時を見逃さないハイエナ根性」
チャラ男「いい機会だ」
チャラ男「せめてお前たちはまっとうな人間であること祈ってたが…… 残念ながらこれでクソだということが証明されたな」
男「これは…… どういうことなんですか……!?」
チャラ男「すまねぇ…… これは想定外だ」
チャラ男「これ以上説明してる時間もないようだ」
仲間「まあ、でも…… お前がボコされるのは変わらないけどな!!」
男(き、きたああああああああああ!?)
女「……」
136 = 133 :
男(俺はもうボロボロだし……)
男(いくらチャラ男さんと女さんでも…… 四対二は……)
男(すげーオラオラ系のマッチョマンが迫ってくるよおおおおおお!!!!)
男(でも…… 俺だけ逃げるわけにはいかない……!)
男(たとえ刺し違えても…… 女さんだけは!!)
男「女さんっ!!」スッ
女「男くん……」
女「ふふ…… ありがとう」
女「益々惚れたぞ……」
女「だが―― 大丈夫だ、男くん」ナデナデ
男「……?」
女「私が家を空けていた理由を知っているか?」
男「――えっ!?」
女「それは……」
女「クモの感覚を取り戻すためだ!!」
男「そ、それは……!?」
女「その修行をしていたのだ!!」
男「――えっ」
女「かかってこおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおいいいいい!!!!!!」
137 = 113 :
ほ
138 = 133 :
女「うらあああああああああああああああああああ!!!!!!!!」
その日…… 大地は揺れ、木々は震え上がり、風は泣き叫んだ。
阿鼻叫喚の地獄絵図とはこのことだろう。
一人をちぎっては投げ、また一人をちぎっては投げる。
その女は地獄から蘇った蜘蛛女もかくやというほどで、鬼神、阿修羅の如く無双の限りを尽くした。
天地は引っくり返り、新たな宇宙が誕生してしまうのか。
そんな嘆きが生まれる。
この日、人間は思い知った。
クモの恐ろしさを。
139 = 133 :
男(――というのは盛りすぎかもしれない)
男(しかし、まさにそんな状態であった)
男(もちろん、決して殺傷はしていない)
男(その証拠が『顔はヤバイし、ボディーにしてやるボディー』というどこぞのスケバンを彷彿とさせるようなセリフだった)
男(目では捉えきれないような刹那の刻に、どうやら蹴り、拳、蹴り、拳で勝負をつけたらしい)
男(四人は一撃で順に仕留められたというわけだ)
男(しかし、うずくまって唸っているから…… 命はあるらしい)
男(本当に良かった…… 四人が)
140 = 133 :
男(そして……)
女「なるほど…… お前は『私に告白する』などと言いふらして注目を集め」
女「負け戦とは知りつつも、己の腐った人間関係を清算するために」
女「私たちを利用した―― そういうわけだな」
チャラ男「そうだ…… 悪かった」
男「そんな…… チャラ男くん」
チャラ男「言い訳にしか聞こえないだろうが…… 最初は、本当に」
チャラ男「あんたに惚れてた……」
女「……」
チャラ男「だが…… 俺は悟った」
チャラ男「あんたの目には俺が映っていないことにな」
チャラ男「どうせ負けるなら道連れに…… そういう嫉妬があったのかもしれねぇ」
チャラ男「腐った人間に囲まれているうちに、俺も腐っちまったのさ」
チャラ男「いや…… 最初から俺は」
チャラ男「腐ってたのかもしれねぇな」
男「チャラ男さん……」
チャラ男「お前も、すまなかった…… 俺が『勝つためならなんでもする』なんて言う権利はなかった」
チャラ男「そのままそっくり…… 自分に言い聞かせていたのかもしれねぇな」
チャラ男「腐っちまった俺に」
女「……」
男「チャラ男さ――」
女「やかましかああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」ドゴオオオオオオオオオオオオオオン
男「あっ、チャラ男さあああああああああああああああああああああん!?」
141 = 133 :
男「女さん…… さすがにチャラ男さんも殴るのは……!!」
女「やかましい!」
男「ひっ」
女「この男に私たちは利用されたんだぞ!?」
女「もっとやってやらないと気が済まない!!」
男「もうやめてください……!!」
女「何故男くんはそこまで優しいというか…… やられたままでいられるんだ!!)
男「もう十分勝ちました! 勝てました! これでいいんですこれで!」
女「そうは言っても私が納得しないのだ!!!!」
男「これ以上やったら…… それこそ通報されておしまいですよ!!」
女「……」
男「……」
仲間「――」チーン
チャラ男「――」チーン
女「男くん……」
男「は、はい……?」
女「逃げるぞ――!!」
男「は、はあああああああああああああああっ!?」
142 :
えんだあああああああああああああ
143 = 133 :
A「それにしても―― ほんとに奴はやらかしてくれたな」
男「え……? 何が?」
A「知らないのかよ」」
A「あのな、チャラ男が…… 前の日曜に例のねーちゃんとデートして公園に行ったんだってよ」
男「……」
A「そしたらよ…… あいつの取り巻きの一部が待ち伏せしてたらしくて」
A「ねーちゃんの奪い合いで仲間割れ」
A「ねーちゃんは逃げたらしく、あいつらは自滅」
A「それが通報されて、駐在さんが出動したらしく」
A「不祥事発生…… あいつらはまとめて停学処分。サークル自体はなんとか存続」
A「よく停学で済んだよなぁ…… まぁ、でも問題起こした奴らはサークル追放ということらしいし、妥当な判断かね」
男「そ、そんなことがあったんだ……」
A「でも情報が錯綜していて、ねーちゃんが男どもをぶっ飛ばしたとか…… もしくはもう一人男がいたとか」
A「そんな情報もあるらしいが…… 真相は不明だ」
男「は、ははっ……」
男(危なかった…… 助かった…… のか?)
144 :
男(あの後…… 俺と女さんはあの場から逃げた……)
男(後に聞いた噂によれば、女さんにのされた彼らは奇跡的に軽症だったらしい)
男(軽症のダメージであそこまで行動不能にさせるとは一体……)
男(クモの感覚―― ということなのか)
男(とにかく、そうして何とか誰にも見つかることなく逃げ切れた)
男(本当はいけないことだとは思いつつも……)
男(しかし、チャラ男くんがあんな動機を抱えていたなんて)
男(なんとか解決? することができて良かった)
男(細かいことは後にして…… 今は平和を噛み締めたい)
145 :
やったね
146 = 144 :
男「ところで―― なんで修行なんてしていたんですか?」
女「だから、クモの感覚を取り戻すためだと言っただろう」
男「でも…… 急に何で……」
女「奴に電話したのは事実だ」
女「そして奴を呼び出したのも」
女「全ては…… 決着をつけるためだった」
女「みんなに、そして男君にこれ以上迷惑はかけたくなかった」
女「だから…… 私がなんとかするしかないと思ったのだ」
男「それは…… 危険だって」
女「そのための修行だ」
男「……」
女「そのために修行に出た。万が一のためにな」
女「結果的にそれが功を奏したわけだがな」
男「でも……」
女「男君、君は気にするな」
女「もう終わったことだし、君は何も悪くない」
女「それに…… 本当に男前だったぞ」
女「あの言葉……」ギュッ
男「あ―― 女さん」ドキドキ
女「出来れば、もう一度聞いてみたいな」
男「そ、それは……」
男「恥ずかしいんで、後で!!」
女「……」
女「いくじなし」
147 = 144 :
女「悪い子はクモのエサになってしまんだぞ~」ガバッ
男「う、うわぁ……! やめてくださいよ!」
女「嬉しいくせにっ」ギュウウウ
男「そんな……!」
女「そういえば修行によってまた糸も出せるようになったぞ」
男「それなんてス○イダーマン!?」
女「背中から四本の足を生やすことにも成功した。これで人とクモの強さを併せ持った最強の戦士に生まれ変わった」
男「修行どんだけっ!? あなたどこに向かってるんですかぁ!!」
男「俺の前でその姿見せないで下さいね!?」
女「冗談だよ冗談」
男「冗談に聞こえない!!」
148 = 144 :
女「でも…… 酷いぞ男君」
女「またクモに戻ったとしても一緒にいるって言ってくれたじゃないか」
女「嫁のありのままの姿を愛してくれないなんて」
男「よ、嫁ぇ!?」
女「む? 嫌なのか君は」
男「いや…… これ以上ないほどの幸せです!」
男「死んでもいいくらいに……」
女「いや、死なれては困る」
女「まだ恩を返せていない」
男「それは…… もういいって」
女「いや、ダメだ」
女「君には私が一生をかけて恩を返すと決めたのだ」
女「それがクモの恩返しだ」
男「クモの恩返し…… か」
女「そうだ。クモだって意外と情熱的な生き物なのだぞ?」
149 = 144 :
女「今は人間だけどな」
女「私たちのような種族のオスはな―― 体を使って愛を表現するんだ」
男「か、体を使って……?」
女「ちょっといやらしいことを考えたな?」
男「そ、そんなことは……」
女「求愛のダンスを踊るのさ」
男「ダンス……?」
女「そう、だから―― 君はどんなダンスを踊ってくれるんだ?」
女「ワルツか、フラメンコか…… それとも」
男「ダ、ダンスは踊れません……」
女「ふふっ、物の例えだ」
男「あっ―― でも」
女「どうした?」
男「今まで、俺たちって互いに気持ちをうまく表現できていませんでしたよね」
女「む、そうだな…… それでお互いにいらぬ不安を与えてしまったのも事実」
男「だから、これからはもっと」
男「頑張って素直になってみるのは、どうですか?」
男「こ、こういう風に――」ギュッ
150 :
あらすてき
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