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    元スレ男「お前があのハエトリグモだって……?」 女「借りを返しに来たぞ」

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    1 :

    「110番しないと……!!」

    「やめろ……!! 嘘じゃない!!」

    「いや…… あなたが誰だか知らないけど、急に『私はハエトリグモだ』と言われましても」

    「よく分からないが、気付いたらお前のような姿、形に変わっていたのだ」

    「ということで―― クモ時代の借りを返しにやって来た」

    「なるほど…… 分からん」


    ハエトリグモかわいい

    2 :

    なるほど分からん

    3 :

    可愛いからって1年間見逃し続けてたら今リビングに20匹ぐらいいる

    4 = 1 :

    (俺は今年大学生になった)

    (しかし現在進行形で、いわゆる『ボッチ』である)

    (そんな俺には友人的存在がいた)

    (春から住み始めたばかりのアパート。6畳、ロフト付きの部屋)

    (気付いたら奴が現れた―― そう、ハエトリグモだ)


    >>3
    マジか 俺の部屋には一匹か二匹いる

    5 :

    /nox/remoteimages/84/39/03bc527b7f3734a6fe81661a90c1.jpeg

    6 :

    (最初はビックリした…… しかし)

    (小さな体、ぴょこぴょこと跳ねる姿、大きな目、Gの幼虫や小バエなど不快害虫を食ってくれるという事実)

    (結果的にハエトリグモが好きになってしまった)

    (孤独な一人暮らしだが…… 小さな友人が住んでいると思えば寂しさは和らいだ)

    (彼…… いや、調べたところによると『彼女』と呼ぶのが適切だろう)

    (恐らくアダンソンハエトリかミスジハエトリのメスだということが分かったからだ)

    7 = 6 :

    (彼女と出会った春以降、相変わらず俺の生活は代わり映えしないものだったが)

    (部屋にいる時間はほんの少し楽しくなった)

    (自分から探しに行くわけではないが…… ふと気が付くと彼女が壁を歩いていたり)

    (PCのマウスポインターをエサと勘違いして追っかけていたり)

    (益々ハエトリグモが好きになったのだった)

    (しかし…… ある日を境にしてめっきり見なくなった)

    8 = 6 :

    (それは―― ある日、小さなキッチンの流し台)

    (そこに動きが鈍い彼女がいたのだ)

    (排水溝付近でのろのろとしていた…… 液体洗剤が混じった水に触れてしまったのかもしれない)

    (焦った俺はひとまず彼女をシンクから救い出した)

    (しばらくはじっとしたままだったが…… 動き出したので安心した)

    (しかし―― それを境に彼女を見ることはなくなったのだ)

    10 :

    読みやすくて面白い

    11 = 6 :

    (恐らく…… 弱って死んでしまったか、寿命が来たのか)

    (俺はまた一人になってしまったのだ)

    (メスだったようだし子供がいればなぁ…… とか考えたりもした)

    (ともかく―― どうでもいいが、このような出来事があったのだ)

    (そして今日、日曜日…… やることもなくダラダラと過ごしていた午前中のこと)

    (突然インターホンが鳴った)

    (用件もないのに来訪して来る人間―― 俺は宗教勧誘かセールスだと決め込んで居留守を決め込んだ)

    (しかし、何回も鳴るインターホン。近所迷惑になるので遂に出ることにした)

    (そしたら『私はクモだ』と名乗る女が乗り込んできたのだった)

    12 = 6 :

    >>11
    訂正・来訪して来る→来訪する だったわ


    (栗色の髪は肩より少し長い、いわゆる『ミディアム』と呼ばれる長さか)

    (そして洗練された無駄のないスタイル。スッと伸びた手足)

    (目はパッチリとしているが、少々鋭い)

    (そんな女が『入るぞ』と乗り込んで来て…… そして今に至るわけだ)

    「あの、本当にこういうの困るんですけど」

    「まだ私が信用できないのか!?」

    「いや…… 当たり前でしょう?」

    「ならば―― お前を信用させるしかあるまい」

    13 = 6 :

    「あれはいつのことだったか」

    「私はお前を『厄介な同居人』だと思っていた」

    「あのね…… 軽くショックだわ」

    「私の方が先に見つけた住処なのに、不法に占拠し始めたのだからな)

    「それに加え…… 私を見つけるとお前はちょっかいをかけてきて非常に不愉快だった」

    「指で追い回したり―― だが、いつの日だったかお前は私にちょっかいをかけようとして転んだ時があったな?」

    「な、何でそれを……!?」

    「はっきり覚えているぞ。私に夢中になってお前は足を踏み外したのだ」

    「そうだ、俺も覚えてる……」

    「あれは愉快だったぞ」

    「ク……」

    14 = 6 :

    「それに、そこのパソコンとやら――」

    「ああ…… これ?」

    「今、何故かお前たちのような人間の姿になって、人間の知識が私にはあるが」

    「時に、『食えないエサ』を私の前にチラつかせたな?」

    「非常にイラついたぞ」

    「あの、パソコンのディスプレイ…… マウスポインタのこと?」

    「そうだ」

    「どうしてそれを……」

    「他にもあるぞ」

    16 = 6 :

    「私はお前のことをよく観察してきた」

    「お前は夜遅くまで起きている」

    「私はどちらかというと昼行性だ…… お前が深夜まで照明を付けているので私の生活リズムも崩れたぞ」

    「それで、夜遅くまで何をしているかといえば―― そのパソコンとか、テレビとか」

    「お前はアニメが好きだな?」

    「な、なぜそれを知っている!?」

    「私は目がいい。お前はいわゆる萌え系の作品よりもリアルな作品の方が好きなようだ」

    (なんか公開処刑くらってる気分だ)

    (ん…… まてよ)

    (この女があのハエトリグモだというなら……)

    「それに…… その……」

    「非常に言いづらいことだが…… 夜になるとお前は自家発電をしていたな」

    「しかもほぼ毎日」

    (やっぱり―― 見られていた!?)

    「それ以上はやめて下さい!!」

    17 = 6 :

    「どうだ? これで信用できたか?」

    「いやぁ…… さすがにクモが人間になって俺の前に現れるなんて」

    「流石に受け入れられないですよ」

    「まだそう言うか…… ならばこれで最後だ」

    「お前は弱った私を助けてくれたな?」

    「そ、それは……!」

    「そこの流し台で弱った私を、お前は助けてくれた」

    「だが…… 弱った私はその数日後に命を失ったのだ」

    (ボッチな俺は、ハエトリグモのことなんて話す友人はいないし)

    (仮に友人がいても、わざわざそんなエピソード話さないだろう)

    (だったら…… 俺の部屋に隠しカメラが!?)

    (いや、こんな俺を監視して得する人間なんていない。考え過ぎだ)

    (だったらこの女は…… 本当にあのハエトリグモなのか!?)

    「死んだ…… どうやら私はその時命を失ったと分かった」

    「ど、どういうことですか……?」

    18 = 6 :

    「私の目の前に『神様』と名乗る者が現れたのだ」

    「め、めちゃくちゃ過ぎる……」

    「その神様とやらに知識を授けられ、人間の姿に変えられた」

    「な、なんで……」

    「知らん。余興だと彼は言っていた」

    「ともかく―― そういうわけで人間のメス、いや、女にされてしまったわけだ」

    「せっかく転生したのだから、二度目の生涯が終わる前にお前へ借りを返しておこうと思ってな」

    「厄介な同居人と言っても…… お前は私を助けてくれた」

    「結果的には命を失ったが…… あの時お前が気付いてくれなかったら、私はあそこで無様に野垂れ死んでいただろう」

    「そこは感謝している。ありがとう」

    「だから、その恩を返しに来たぞ!」

    「なんなりと申し付けてくれ!」

    19 = 6 :

    「申し付けろと言われても……」

    「別に困ったこともないですし」

    「そうだ――!!」

    「何だ、やっぱり何かあるんじゃないか」

    「お引取りください」

    「――は?」

    「ですから、お引取り下さい。それが願いです」

    「お前……! せっかく私が何でもしてやると言っているのに!」

    「何でもしてくれるんでしょう?」

    「んぐ…… しまった……!!」

    「確かにありがたいけど…… ぶっちゃけありえなさすぎて、まだこの現実を飲み込めていません」

    「だからお気持ちだけということで…… 今日はお引取り下さい!」

    「……」

    20 = 6 :

    「ヤダ!! ヤダもん!!」

    (しまいには駄々をこねた!?)

    「だいたい私の方が先に住み始めたんだぞ!」

    「主が自分の部屋に戻るのは当たり前だろう!!」

    「お金を払って契約してるのは俺だから!!」

    「ぐぬぬ……!!」

    「とにかく! ここは私の部屋だし、住まわせてもらうぞ!」

    「それは困りますよ……! ここは単身者用のアパートなんですから!」

    「通報でもされたら、規約違反で追い出される……!!」

    「だったら引っ越せ!」

    「無理がありますよさすがに!!」

    「それでは、私に飢えて死ねと言うのか……!?」

    「うっ…… それは……」

    (なんてことだ…… こんな美女にそんなこと言われたら)

    (だけど、無理なものは無理だし)

    (本当に、厄介なことになった)

    21 = 6 :

     [数日後]

    「――起きろ。一限目に遅刻するぞ」

    「……」

    (どうしてこうなった)

    22 = 6 :

    (結局『恩を返すまでここに居座る』と押し切られた)

    (通報でもされたら一発退去だ)

    (しかし彼女は『見つからなければどうということはない』と余裕の態度)

    (思考はまるで犯罪者のそれだ)

    (押し返せない俺も俺だが―― こうして居座らせてしまったわけである)

    「それじゃ…… 行ってきます」

    「朝食はどうするのだ」

    「まだ時間に余裕があるし、学食で済ませるから大丈夫です……」

    「そうか。それでは行ってこい」

    「はあ……」

    (本当に困った)

    23 = 6 :

     [放課後]

    (それにしても―― 本当にこれからどうしようか)

    (彼女は『人間としての名前もあるし大丈夫だ』とか言っているし)

    (最悪『食うに困った親類ということにすれば大丈夫だろう』とのこと)

    (ぶっちゃけ困ったことなんてないんだけどな……)

    (いや、この現状が既に『困ったこと』なんだけれども)

    (人間として居場所がない者を追い出して、死なれたりしたらもっと困るし)

    (どうしたものか……)

    (悲しいかな…… こんなこと無闇に相談できることではないし)

    (とりあえず今日の授業は終わったし帰ろう……)

    24 :

    うちにもハエトリグモちゃんこないかなぁ…

    25 = 6 :

    「――ただいま」

    (とか言っても以前までは一人だったんだけど)

    「お、戻ったか」

    (どういうわけか俺のただいまに反応してくれる人間がいる)

    (元は人間じゃないけど……)

    「喜べ。埃だらけなお前の部屋を掃除しておいたぞ」

    「あ、ありがとうございます……」

    「というか…… もうこれで十分恩返しになってますけど……」

    「な……! いや、これでは足りん!」

    「一時的とは言え、命を救われたんだぞ! そのことと掃除や家事じゃ釣り合わないだろう!」

    「それに、汚くしているとあいつとかあいつが寄ってくる」

    「クモの頃なら喜ばしいことだろうが、人間となった今では不快なだけだ」

    「だからこれは私のためでもある」

    「ゆえにお前への恩返しということでもないのだ!」

    (こじつけだ)

    26 = 6 :

    「それでは私はちょっと出てくる」

    「どこに行くんですか?」

    「今日の夕飯の材料を買ってくるのだ」

    (先ほど言っていた通り…… 何故か彼女は家事全般を俺の代わりにしてくれている)

    (単身者用の部屋でできることなんて限られているが…… それでもありがたい)

    (しかも全て完璧に、だ…… 完璧超人かよ)

    「――なんだかいつも悪いし、俺も手伝いますよ」

    「む、それは大丈夫だ」

    「いや…… いつも作ってくれてるし」

    「手伝いますよ」

    「そうか…… それでは頼む」

    27 = 6 :

    「どうだ―― うまいだろう」

    「はい、美味しいです」

    (なんだかんだ馴染んできてるのがまた……)

    (だけど、ぶっちゃけ――)

    「あの…… ちょっと相談があるんですけど」

    「お……! やっと来たか!」

    (困ったことが発生して欲しいというのも困ったことなんだけどな)

    「あの……」

    「ちょっと女さんが来て、その…… 金銭的に困ったことが」

    「……」

    (ぶっちゃけ困ったことがこれだ)

    「女さんが来て、その…… 食費とか、日用品とか、服とか」

    「そういうものの費用がかさんで……」

    28 = 6 :

    「まあ、いつかはバイトしようと思ってたんで」

    「俺もできるだけなんとかしますけど」

    「何度も仕送りしてもらうようでは色々と怪しまれると思うので」

    「……」

    「分かった」

    「そうだな…… 私もお金を入れないとまずい」

    「私がなんとかしないとな…… 自分にかける費用くらい自分でなんとかしてみせるさ」

    「家事の方が追いつかなくなってしまうかもしれないが」

    「決めたぞ―― アルバイトとやらをしよう」

    「――えっ」

    「パソコン借りるぞ」

    「え……」

    29 = 6 :

    「バイトか…… どれがいいだろうか」

    「おっ、ここは給料がいいぞ」

    「あの…… それキャバクラ……」

    「なんだ? 何かまずいのか?」

    「いや…… さすがにそこまで負担させるのは俺の心情的にまずいです」

    「そうか……」

    「というか、女さんがバイトしなくてもいいですよ?」

    「駄目だ…… 人間という立場になった以上、人間として迷惑をかけるわけにはいかないだろう」

    「自分でやるべきことは自分でやるさ」

    「そうですけど……」

    「おっ…… これはいいな」

    (なんだかなあ……)

    30 = 6 :

    「お、来たか」

    (そして―― 彼女はバイトを始めた)

    (決めあぐねていた彼女だったが…… スーパーでしばしば遭遇するおばちゃんと仲良くなったらしく)

    (そのおばちゃんの伝手で、個人経営の喫茶店を紹介してもらったらしい)

    (人手を欲していたらしく、店員として即採用になったとのこと)

    (給料も昼の仕事、喫茶店にしてはなかなか良いみたいだ)

    (恐るべきコミュ力…… 俺とは正反対だ)

    (ともかく…… それで彼女の仕事ぶりが気になって、今日は放課後に店へお邪魔した次第である)

    「とりあえず、アイスコーヒー一つ」

    「かしこまりました」

    31 = 6 :

    (なんだか不思議というかなんというか……)

    (本当に彼女がハエトリグモだったのか)

    (クモの恩返し……)

    (最早クモってなんだよ…… 鶴でも雀でも狐でも猫でも犬でもなく)

    (虫……)

    マスター「失礼します」

    「あ、はいっ……?」

    マスター「あなたが女さんのお友達ですか?」

    「あ…… は、はい!」

    マスター「私はここを経営している者ですが」

    マスター「女さんが『友達が来る』と嬉しそうにおっしゃっていたので」

    「は、初めまして……! 女さんの友人の男と申します!」

    マスター「ははっ、そんなにかしこまらなくてもいいよ」

    マスター「こちらこそ、よくいらっしゃいました。ゆっくりしていって下さい」

    「は、はい……」

    (そうだ――)

    「あの…… 女さんはどうですか?」 

    32 = 3 :

    頑張ってたんか
    支援

    33 = 6 :

    マスター「どう…… とは?」

    「その…… うまくやれていますか?」

    マスター「ああ…… いや、それはもう!」

    マスター「彼女は恐ろしいくらい完璧だよ…… ははっ」

    マスター「仕事もすぐに覚えてこなしてしまうし、今では調理関係もやってくれるし」

    マスター「お客も増えたしね」

    「そうなんですか……?」

    マスター「明らかに女さん目当ての人もいるようだし……」

    マスター「ここはスナックしゃないんだから、とは言ってあるが……」

    マスター「まあ、女さんのおかげで大いに助かっているよ」

    「失礼します。お待たせしました、アイスコーヒーです」

    「あ、ありがとうございます……」

    34 = 6 :

    「そういえば男くん…… 今日の夜はどうするんだ?」

    「あー、それは……」

    (――って、それは)

    マスター「おや、おやおや……」

    マスター「二人とも若いねぇ、いいことだ」

    (しまった……!!)

    (このクモは何を言って――)

    「いやー、違いますよ!」

    「ただ女さんの仕事が終わったら、どこかで夕飯を食べようって約束をしていて……!!」

    「ん……? 今日は外で済ませるのか?」

    「……」

    マスター「おやおやぁ、やっぱりお二人はそういう――」

    「ち、違います!!」

    35 = 6 :

    (あの時は散々な目にあった)

    (なんとか誤解を解いてコーヒーを飲み干し、そそくさと帰宅)

    (女さんも仕事を終えて帰ってきた)

    「どうした?」

    「いや…… あの、あのような発言はさすがに」

    「まあ、冷めないうちに食え」

    「あ、はい…… いただきます」

    「いただけ」

    「……」

    「いや、あのですね」

    「何だ? 困りごとか……!?」

    「何でも聞くぞ!!」

    「いや、そうじゃなくて……」

    「あのような発言は誤解を招くので、できるだけ控えてもらいたいんですが」

    「なぜだ?」

    「いや…… 女さんは、その」

    「俺の恋人って勘違いされてもいいんですか……?」

    36 = 3 :

    /nox/remoteimages/35/11/09d6cf319aa5756d560f0e31efa9.jpeg

    37 = 6 :

    「いや…… 別に」

    「――え」

    「男くんはそれで支障があるのか?」

    「いや……」

    「私には別にこれといった支障はないが」

    「お、俺にはあります!」

    「む…… 何だ?」

    「なれそめとか深いことを知り合いに聞かれて…… それでつい口を滑らせてクモだったことがバレたらどうするんですか!?」

    (まずそんな状況ないけどさ)

    「な…… 確かに!!」

    「クモだったとばれたら…… 私はここを追い出されるのかっ!?」

    (完璧だと思ってたけど、こんなところでアホだった……)

    「いや…… でも、もし一緒に住んでることとかが外に漏れたら」

    「人伝いに話が広まって、色々とまずい事態が起きかねないですし」

    (俺の方からは話が伝染しないのは唯一の救いだけど…… ボッチが有効になるときがこようとは)

    「だから、外ではなんでもかんでも喋るのは控えていただきたいと思いまして」

    「そうか―― まだ何も返せていないうちにここを追い出されたらたまらないしな」

    「そうしよう」

    (なんとか分かってもらえたか)

    38 = 6 :

    「そういえば―― 男くんが店を出た後に」

    「常連の客が来てな」

    「は、はい……」

    「ばーべきゅーとやらをやるそうだ」

    「マスターとは旧知の仲みたいで、ちょうど定休日だから彼も参加するらしい」

    「は、はあ……」

    「それで私も誘われた」

    「――え」

    「そしてマスターが『良かったら男くんも』とのことなので」

    「君も来てくれ。いや、来い」

    「いや…… いつやるか知らないけど、日曜以外は授業あるし」

    「そうだな」

    「だけど―― 夕方から夜にかけてやるようだ」

    「つまり、授業が終わった後に参加ができる」

    「そういうことだ」

    39 = 6 :

    (そして――)

    「ほら、肉ばかりではなく野菜も食え」

    マスター「いやー、夫婦みたいだなぁ。はっはっ」

    「マスター、グラスが空いてますよ」

    「お酒、お注ぎします」

    マスター「あー、悪いねぇ!」

    (どういうわけか…… 俺はBBQに参加してしまった)

    マスター「男くんもどう!?」

    「いや、自分未成年ですから!!」

    (どうしてこうなった)

    40 = 6 :

    常連「いやー、若い人がいるのはいいことだ」

    常連「男くんもよろしくねぇ」

    「あ、いえ…… なんか自分がお邪魔してすみません」

    常連「いやー、いいんだよ!」

    常連「こんな老いぼれになっていつも暇だし」

    常連「こうしてワイワイできるのは実にいいことだ」

    常連「だから大歓迎だよ。こちらこそ参加してくれてありがとう!」

    「あ、ありがとうございます……」

    「む―― あれはゴキブリッ!!」

    「はああああああああ!!!!」ザシュッ ブチィッ!

    41 = 6 :

    (あっ――)

    マスター「あ、女さん…… 屋内ならまだしも」

    マスター「庭にいるゴキブリをわざわざ殺さなくても……」

    (何をやってんだこのクモ…… まずい!!)

    「何を言っているんですかマスター!」

    「庭に出没したということは、やがてエサや住処を求めて屋内へ侵入するでしょう!」

    「いや…… 既に侵入し増殖しているかもしれません!」

    「彼らの繁殖力をなめてはいけません……!」

    「対策を強くオススメします!!」

    マスター「だ、だってさ――」

    常連「なるほど…… 今度毒エサを買ってくるかな」

    「一つだけではなく、燻蒸タイプや設置型など二段構えをオススメします」

    常連客「なるほど……」

    (押し切った……!?)

    42 :

    常連「ところで―― 男くんは学生かい?」

    「は、はい…… 大学一年です」

    常連「ほう、青春真っ盛りだね」

    (悲しいかな…… こうなる前は夢のキャンパスライフがくるものだとばかり……)

    (現実は残酷である)

    常連「大学かぁ―― サークル活動とかやっていたりするのかい?」

    「あ、あの……」

    (やはりこうくるだろうな…… 悲しくなってきたぜ)

    「いやぁ…… 実はサークルには入っていないんですよね」

    常連「それじゃあ、部活とか?」

    「いや、部活もやってないんですよ……」

    常連「なるほど……」

    (自分で言ってて悲しくなってきた)

    (いかにも向こうも何か察した表情だし…… 地雷踏んだとか思わせてしまってごめんなさい)

    43 = 42 :

    「……」

    常連「まあ、生き方は人それぞれだし、価値観も同様だ」

    常連「それに一年生なんだし、まだまだこれからだよ」

    常連「サークルや部活に必ず入らなければいけないということではないだろうし、なにより学生は学業がメインなんだから」

    常連「今しかない学生という時間を有意義に過ごして欲しいなぁ」

    常連「何だか年寄りのアドバイスみたいで申し訳ないが」

    「いえいえ…… それに年寄りだなんて……」

    「ありがとうございます……」

    「……」

    44 = 42 :

    (そうして―― はじめはビクビクしていたが)

    (みんなのおかげで楽しい時間を過ごした)

    (解散した今となっては名残惜しくも感じる)

    「そういえば男くん…… 酒ってうまいんだな」

    「もしやあなた、飲んだんですか」

    「冗談だ」

    「そうですか―― ふぅ、眠い」ドサッ

    「……」

    「男くん」

    「はい……?」

    「腹が減った」

    「え? あれだけ食べて?」

    「ああ」

    「はあ…… それじゃ何か作ります?」

    「いや、大丈夫だ」

    「え……?」

    「――君を食べるから」

    45 = 42 :

    「――は?」

    「ふんっ!!」ガバッ

    「うわ……! な、何するんですかっ!?」

    「ははは…… 君は私のエサとなるのだ」スッ

    「――ッ!!」

    (一瞬で組み伏された!)

    (マウントポジション…… 抵抗しようにもビクともしない!)

    (なんて力だ……)

    「な、何するんですかやめてください!!」

    「ふふっ、君はうまそうだ」ジュルリ

    (近い近い近い!!)ドキドキ

    「ふふふっ……」

    (それに―― 酒臭っ!!)

    「やっぱり飲んだんですね!?」

    「なんのことかなあ」

    「絶対酔ってるよこの人…… いや、クモ!」

    「今は人間だ」

    「だが…… 狩猟本能の名残というべきか」

    「え…… 本当に俺を文字通り食う気ってこと……?」

    (猟奇的過ぎるっ!!)

    46 = 42 :

    「いや…… 種の存続本能と言うべきか」

    「私の子孫を残さねばならない!」

    「今がそのときだ」

    「え……」

    (何言ってんだコイツ)

    「や、止めてください!!」

    「さあ、子作りするぞ!!」

    「い、嫌あああああああああああ!!!!」

    47 = 42 :

    「――んぷ」

    「……!?」

    「き―― き゛も゛ち゛わ゛る゛い゛」

    「え……!? ま、まずい……!!」

    「トイレに行きましょう!!」

    「あ゛あ゛…… トイレ!!」ダッ

    「おええええええええええええええええ」

    「……」

    (見てられない……)

    「おえっ……」

    「はい、水飲んでください」

    「ありがとう―― 私はもう寝るぞ」

    「明日は君が起こしてくれ…… 頼むぞ」

    「分かりましたよ…… さっさと休んでください」

    (危なかった)

    (とりあえず助かった―― のか?)

    48 = 3 :

    ID変わったーー のか?

    49 = 42 :

    (はあ、昨夜は危なかった)

    (しかし…… 女さん、いい匂いだった)

    (――とか考えるな俺!)

    講師「男くん、どうしたの?」

    「あ…… すみません」

    (くそ…… とりあえずあの人に酒は飲ませちゃダメだ)

    (まったく―― あの人が来てから何もかもおかしい)

    (あの人がハエトリグモだなんて…… 未だに信じきれていないけど)

    (しかしそれ以外に説明がつかないのも事実)

    (でも、何か楽しいと思ってる自分もいて)

    (事実、あの人が来てから楽しいことも増えたし)

    50 = 42 :

    (彼女を伝って寂しい人脈が改善された…… 些細だけど)

    (歳が離れていて友人という感じでもないけれど、常連さんと親しくなったし)

    (マスターとも同様に親しくなった)

    (今度どこかへ行こうと誘ってくださったし……)

    (女さんがいなかったらまずありえなかったことだ)

    (それに、どこか変なところで抜けている彼女には俺がついていてあげないと)

    (勘違いも甚だしいかもしれないが、そんな感情もある)

    (はあ…… 俺、どうすればいいんだろう)


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