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元スレ唯「憂ー。脳みそが少しこぼれちゃったから、掻き集めてくれない?」
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4月4日。午前4時。
ぱっくりと割れた隙間からその身を零れ落としながら、
物言わぬ脳みそは朝を待ち続けていた。
ぱっくりと割れた隙間からその身を零れ落としながら、
物言わぬ脳みそは朝を待ち続けていた。
4月2日。午後4時。
コンコン。
病室にノックの音が響く。
その数秒後、恐る恐ると言った様子でドアは開かれた。
憂「お姉ちゃん。体調の方はどう?」
ドアの隙間から身を滑り込ませ、憂が姉である唯へと声をかける。
ほんの六畳ほどの個室は、壁もカーテンもシーツも全てが真っ白で、
それらが大きな窓から差し込む西日を反射させていて、眩しいくらいだった。
コンコン。
病室にノックの音が響く。
その数秒後、恐る恐ると言った様子でドアは開かれた。
憂「お姉ちゃん。体調の方はどう?」
ドアの隙間から身を滑り込ませ、憂が姉である唯へと声をかける。
ほんの六畳ほどの個室は、壁もカーテンもシーツも全てが真っ白で、
それらが大きな窓から差し込む西日を反射させていて、眩しいくらいだった。
憂「……」
ベッドの上で上体を起こし、こちらに背を向け、
電源の入っていないテレビをぼんやりと眺めている唯の反応を、
憂は根気強く待っていた。
憂「……」
焦っちゃダメだ。憂は自分に言い聞かせる。
しかし、こうして、変わってしまった姉を目の当たりにすると、
どうしても思い出してしまう。
あの日の”事故”のことを。
ベッドの上で上体を起こし、こちらに背を向け、
電源の入っていないテレビをぼんやりと眺めている唯の反応を、
憂は根気強く待っていた。
憂「……」
焦っちゃダメだ。憂は自分に言い聞かせる。
しかし、こうして、変わってしまった姉を目の当たりにすると、
どうしても思い出してしまう。
あの日の”事故”のことを。
ピンク色のパジャマを着た唯の上体が、ゆっくりとこちらへ向けて回り始める。
まるで、ゼンマイの切れかかった機械仕掛けの人形のような、緩慢な動きだ。
焦点の合っていない瞳が憂を少し通り過ぎたところで、唯は体の向きを固定させる。
唯「憂ー。来てたんなら声かけてよー」
憂「ごめんね、お姉ちゃん。起こしたらいけないと思って」
無理に笑顔を作った憂の言葉に、唯は首を傾げた。
まるで、ゼンマイの切れかかった機械仕掛けの人形のような、緩慢な動きだ。
焦点の合っていない瞳が憂を少し通り過ぎたところで、唯は体の向きを固定させる。
唯「憂ー。来てたんなら声かけてよー」
憂「ごめんね、お姉ちゃん。起こしたらいけないと思って」
無理に笑顔を作った憂の言葉に、唯は首を傾げた。
唯「私、寝てないよ? 今だってずっとテレビ見てて」
背後を指さしながら、先程とは打って変わって素早く上体を回転させた唯は、
途中で言葉を止めた。
憂「……」
そして、何も映っていない真っ黒な画面を十数秒ほど眺め、
そのまま視線を戻すこともなく、憂へと疑問を投げる。
唯「あれえ……。憂、テレビ消した?」
背後を指さしながら、先程とは打って変わって素早く上体を回転させた唯は、
途中で言葉を止めた。
憂「……」
そして、何も映っていない真っ黒な画面を十数秒ほど眺め、
そのまま視線を戻すこともなく、憂へと疑問を投げる。
唯「あれえ……。憂、テレビ消した?」
憂「……カードの度数が、切れちゃったんじゃないかな」
この病院では、通常の病室と違って、個室のテレビはカードなど無くとも見ることができる。
しかし、憂は姉に対して嘘をついていた。
唯「そっかぁ。……憂、悪いんだけど、後でカード買ってきてもらえる?
テレビでも見てないと、退屈で退屈で死んじゃいそうなんだよぉ」
憂「うん。分かったよ、お姉ちゃん」
うんざりとした様子を気取られないように、憂は努めて明るくそう言った。
実は、以前にも似たようなことが何度かあって、困ったことがあったのだ。
この病院では、通常の病室と違って、個室のテレビはカードなど無くとも見ることができる。
しかし、憂は姉に対して嘘をついていた。
唯「そっかぁ。……憂、悪いんだけど、後でカード買ってきてもらえる?
テレビでも見てないと、退屈で退屈で死んじゃいそうなんだよぉ」
憂「うん。分かったよ、お姉ちゃん」
うんざりとした様子を気取られないように、憂は努めて明るくそう言った。
実は、以前にも似たようなことが何度かあって、困ったことがあったのだ。
その時は『最初からテレビなんてついてなかったよ』とか、
『お姉ちゃんと話したいから私が消したんだよ』とか、
憂もこんな風に答えていた。それに対して、唯は突然怒りをあらわにしたのだった。
『憂! 何言ってるの!? 私は今まで見てたんだよ!?』
『勝手なことしないで! ここは私の部屋なのに!』
狂ったように暴れる姉をなだめる方法が思いつかず、
憂は嘘をつくことに決めたのだった。
どうせ、リモコンの使い方も分からないのだろうから。
憂はそう考えていた。
『お姉ちゃんと話したいから私が消したんだよ』とか、
憂もこんな風に答えていた。それに対して、唯は突然怒りをあらわにしたのだった。
『憂! 何言ってるの!? 私は今まで見てたんだよ!?』
『勝手なことしないで! ここは私の部屋なのに!』
狂ったように暴れる姉をなだめる方法が思いつかず、
憂は嘘をつくことに決めたのだった。
どうせ、リモコンの使い方も分からないのだろうから。
憂はそう考えていた。
憂「じゃあ、私はそろそろ帰るね」
1時間ほど他愛のない話をした後、憂はそう切り出した。
(もっとも、会話をしている時間よりも、唯が沈黙していた時間の方が圧倒的に長かったが)
唯「あ、そうだ」
相変わらず、焦点の合っていない瞳を上の方へと向けながら、
何かを思いついたように唯が手を打った。
唯「さっきね、律ちゃん達が来た時に、おいしそうなお菓子を置いていったんだけど」
その言葉に、憂の心臓が大きく跳ねた。
反射的に胸に手を当て、苦しげに呻く。
――お姉ちゃん。律さん達は、もう……。
唯「あっれぇ。おっかしいなぁ」
そんな憂の様子には目もくれず、
唯はサイドテーブルの引き出しや戸棚をガサゴソと漁っている。
しばらくして、探すのを諦めた唯は顔を上げ、困ったように笑った。
唯「憂ごめんねぇ。どうしても見つからないや」
1時間ほど他愛のない話をした後、憂はそう切り出した。
(もっとも、会話をしている時間よりも、唯が沈黙していた時間の方が圧倒的に長かったが)
唯「あ、そうだ」
相変わらず、焦点の合っていない瞳を上の方へと向けながら、
何かを思いついたように唯が手を打った。
唯「さっきね、律ちゃん達が来た時に、おいしそうなお菓子を置いていったんだけど」
その言葉に、憂の心臓が大きく跳ねた。
反射的に胸に手を当て、苦しげに呻く。
――お姉ちゃん。律さん達は、もう……。
唯「あっれぇ。おっかしいなぁ」
そんな憂の様子には目もくれず、
唯はサイドテーブルの引き出しや戸棚をガサゴソと漁っている。
しばらくして、探すのを諦めた唯は顔を上げ、困ったように笑った。
唯「憂ごめんねぇ。どうしても見つからないや」
4月2日。午後5時半。
憂は病室を出ると、足早に病院を後にした。
姉や、姉の友人たちのことを思うと、今にも泣き出してしまいそうだったためである。
憂「……」
陰鬱に沈み込んだ気持ちがそうさせるのか、
ここへ来る時よりも重くなった体を引きずるように、憂はノロノロと家路につく。
冬に比べれば日が長くなったとは言っても、
この時間になるともう太陽もその役目を終えようとしていて、
夜の足音がそろりそろりと近づいてきていた。
ひんやりとした春風が、頬を撫でつける。
ふと、憂は立ち止まり、顔を上げた。
電球が切れかかっているのか、等間隔に並んだ街灯のひとつがしきりに明滅を繰り返している。
――ああ、あの時もそうだったな。
憂は思い出した。
――律さんの運転する車が突っ込んで、真ん中より下部分がひしゃげた街灯も、
こんな風にチカチカとみんなを照らしていたっけな。
憂は病室を出ると、足早に病院を後にした。
姉や、姉の友人たちのことを思うと、今にも泣き出してしまいそうだったためである。
憂「……」
陰鬱に沈み込んだ気持ちがそうさせるのか、
ここへ来る時よりも重くなった体を引きずるように、憂はノロノロと家路につく。
冬に比べれば日が長くなったとは言っても、
この時間になるともう太陽もその役目を終えようとしていて、
夜の足音がそろりそろりと近づいてきていた。
ひんやりとした春風が、頬を撫でつける。
ふと、憂は立ち止まり、顔を上げた。
電球が切れかかっているのか、等間隔に並んだ街灯のひとつがしきりに明滅を繰り返している。
――ああ、あの時もそうだったな。
憂は思い出した。
――律さんの運転する車が突っ込んで、真ん中より下部分がひしゃげた街灯も、
こんな風にチカチカとみんなを照らしていたっけな。
10月5日。午後4時。
唯「すっごーい! 律ちゃん、車の免許取ったの!?」
律「おう! いいだろー?」
紬「いいなぁ、律ちゃん」
澪「こ、怖くないのか? 運転とか」
律「なんだー? 澪ちゅわんは怖がりですなー」
澪「わ、私はだな。律、お前のことを心配して」
唯「澪ちゃんは律ちゃんのこと大好きだねぇ」
澪「な、な、な……」
律「平気だよ。オートマ限定だし、あんなのおもちゃみたいなもんだ。
走らないようにドラム叩く方がよっぽど難しいぜ」
唯「すっごーい! 律ちゃん、車の免許取ったの!?」
律「おう! いいだろー?」
紬「いいなぁ、律ちゃん」
澪「こ、怖くないのか? 運転とか」
律「なんだー? 澪ちゅわんは怖がりですなー」
澪「わ、私はだな。律、お前のことを心配して」
唯「澪ちゃんは律ちゃんのこと大好きだねぇ」
澪「な、な、な……」
律「平気だよ。オートマ限定だし、あんなのおもちゃみたいなもんだ。
走らないようにドラム叩く方がよっぽど難しいぜ」
梓「律先輩!」
律「ん? どうした梓。目ぇキラキラさせて」
梓「私、ドライブ行きたいです!」
唯「あー! いいね、いいねぇ! 今度の連休にでも、みんなでどこか行こうよぉ!」
紬「私も賛成!」
律「じゃあ親父に車借りないとだなあ」
澪「……」
律「澪は行かないのか?」
澪「……く」
律「んん?」
澪「……私も行く」
律「ん? どうした梓。目ぇキラキラさせて」
梓「私、ドライブ行きたいです!」
唯「あー! いいね、いいねぇ! 今度の連休にでも、みんなでどこか行こうよぉ!」
紬「私も賛成!」
律「じゃあ親父に車借りないとだなあ」
澪「……」
律「澪は行かないのか?」
澪「……く」
律「んん?」
澪「……私も行く」
10月10日。午前10時。
律「ひゃっほーい!」
紬「ちょ、ちょっと律ちゃん! 飛ばし過ぎよ!」
澪「ひぃぃ……」
律「ムギ、固いこと言うなって! 高速なんて飛ばしてナンボだろ」
唯「そうだよぉ。あ、律ちゃん! あの黒い車抜かそう!」
律「オーケー! 私のドライビングテクしっかり見とけよ!」
澪「降ろして降ろして降ろして降ろしてぇ……」
紬「もう……」
律「いえーい!」
梓「かっこいい……」
律「ひゃっほーい!」
紬「ちょ、ちょっと律ちゃん! 飛ばし過ぎよ!」
澪「ひぃぃ……」
律「ムギ、固いこと言うなって! 高速なんて飛ばしてナンボだろ」
唯「そうだよぉ。あ、律ちゃん! あの黒い車抜かそう!」
律「オーケー! 私のドライビングテクしっかり見とけよ!」
澪「降ろして降ろして降ろして降ろしてぇ……」
紬「もう……」
律「いえーい!」
梓「かっこいい……」
10月10日。午後12時。
澪「この馬鹿律! なんであんなに危険なことをするんだ!」
律「な、なんだよ。サービスエリア来た途端元気になりやがってよお」
紬「澪ちゃんの言う通りよぉ……。さすがに160キロは出し過ぎじゃない……?」
唯「まだまだだよ! 黒い車に追いつけなかったし!」
梓「そうです! まだ行けますよ!」
澪「二人も煽るようなことを言うな! 交通法規を守らずに事故起こしたら、
誰も同情なんてしてくれないんだぞ!」
律「澪ちゅわんは頭が固いでちゅねぇ」
澪「なんだとっ!」
紬「コンパクトカーであの速度はさすがに自殺行為よ……」
澪「この馬鹿律! なんであんなに危険なことをするんだ!」
律「な、なんだよ。サービスエリア来た途端元気になりやがってよお」
紬「澪ちゃんの言う通りよぉ……。さすがに160キロは出し過ぎじゃない……?」
唯「まだまだだよ! 黒い車に追いつけなかったし!」
梓「そうです! まだ行けますよ!」
澪「二人も煽るようなことを言うな! 交通法規を守らずに事故起こしたら、
誰も同情なんてしてくれないんだぞ!」
律「澪ちゅわんは頭が固いでちゅねぇ」
澪「なんだとっ!」
紬「コンパクトカーであの速度はさすがに自殺行為よ……」
10月10日。午後4時。
澪「はぁ……。ようやく帰れるのか……」
律「……」
紬「律ちゃん大丈夫? 半日も一人で運転したから、さすがに疲れたんじゃないかしら」
律「疲れたけど……、私以外に運転できるやついないしな」
唯「私、代わろうか!?」
梓「私も運転してみたいです!」
澪「馬鹿! やめろ!」
唯「う……、冗談なのに……」
梓「す、すいません」
律「……お前ら少し黙ってろ。気が散る」
澪「はぁ……。ようやく帰れるのか……」
律「……」
紬「律ちゃん大丈夫? 半日も一人で運転したから、さすがに疲れたんじゃないかしら」
律「疲れたけど……、私以外に運転できるやついないしな」
唯「私、代わろうか!?」
梓「私も運転してみたいです!」
澪「馬鹿! やめろ!」
唯「う……、冗談なのに……」
梓「す、すいません」
律「……お前ら少し黙ってろ。気が散る」
10月10日。午後5時半。
澪「高速降りたからもう安心だな」
紬「律ちゃん、適当なところで降ろしてくれて平気よ。
私達、電車で帰るから」
律「……いいよ。全員家まで送る」
梓「ここからだと唯先輩の家が一番近いですかね。
ちょうど助手席にいるんだし、ナビしてあげたらいいんじゃないでしょうか」
唯「あ、じゃあそこの信号右ね」
律「……無理。今左車線いるし」
唯「なんでよー。ケチー」
律「……」
紬「律ちゃん。イライラしないで、落ち着いてね……?」
澪「高速降りたからもう安心だな」
紬「律ちゃん、適当なところで降ろしてくれて平気よ。
私達、電車で帰るから」
律「……いいよ。全員家まで送る」
梓「ここからだと唯先輩の家が一番近いですかね。
ちょうど助手席にいるんだし、ナビしてあげたらいいんじゃないでしょうか」
唯「あ、じゃあそこの信号右ね」
律「……無理。今左車線いるし」
唯「なんでよー。ケチー」
律「……」
紬「律ちゃん。イライラしないで、落ち着いてね……?」
唯「えっとぉ、それでぇ」
律「もうナビはいい。なんとなく道に見覚えあるから」
梓「わっ!?」
澪「な……。おい律! なんでアクセル踏み込んで……」
律「うっせぇ。どうせ人なんて通らねぇだろ」
紬「ちょっと……、ここ住宅街よ!?」
唯「きゃっほー!」
律「さっさとお前ら送って、早く家に帰りたいんだよ。私は」
紬「危……っ! 危ないわよ! 律ちゃん!」
律「……」
律「もうナビはいい。なんとなく道に見覚えあるから」
梓「わっ!?」
澪「な……。おい律! なんでアクセル踏み込んで……」
律「うっせぇ。どうせ人なんて通らねぇだろ」
紬「ちょっと……、ここ住宅街よ!?」
唯「きゃっほー!」
律「さっさとお前ら送って、早く家に帰りたいんだよ。私は」
紬「危……っ! 危ないわよ! 律ちゃん!」
律「……」
澪「律! いい加減にしろ!」
律「なんだよ! 触るな! 放せ!」
梓「わわわわわ……」
紬「律ちゃん! 前見て! 澪ちゃんも律ちゃんから手を放して!」
澪「だってこいつが……」
律「こっちは運転中なんだぞ!? いいから放せよ!」
唯「わああああああーーー! まえー!!! 前ーーーー!!!!!!!」
律「あ……っ。うおお……っ!?」
紬「きゃあああああああああああっ!!!!!」
律「……っ!」
律「なんだよ! 触るな! 放せ!」
梓「わわわわわ……」
紬「律ちゃん! 前見て! 澪ちゃんも律ちゃんから手を放して!」
澪「だってこいつが……」
律「こっちは運転中なんだぞ!? いいから放せよ!」
唯「わああああああーーー! まえー!!! 前ーーーー!!!!!!!」
律「あ……っ。うおお……っ!?」
紬「きゃあああああああああああっ!!!!!」
律「……っ!」
(あれ?ジャクリーンかよって書き込もうと思ったのに)
4月2日。午後6時半。
どれだけ時間が過ぎただろうか。
ほんのりと明るかった空も、完全に夜の闇へと落ちている。
薄ぼんやりとした頭の中を占めている、嫌な思い出を断ち切るように、憂は首を軽く横に振った。
意を決したように、再びのそのそと歩き始める。
あの時、外から聞こえたただならぬ激しい物音に、憂は弾かれたように家を飛び出した。
そこで見たものは、原型を留めないほどに大破した車と、ひしゃげた街灯。
そして、血塗れで動かないみんなの姿。
どれだけ時間が過ぎただろうか。
ほんのりと明るかった空も、完全に夜の闇へと落ちている。
薄ぼんやりとした頭の中を占めている、嫌な思い出を断ち切るように、憂は首を軽く横に振った。
意を決したように、再びのそのそと歩き始める。
あの時、外から聞こえたただならぬ激しい物音に、憂は弾かれたように家を飛び出した。
そこで見たものは、原型を留めないほどに大破した車と、ひしゃげた街灯。
そして、血塗れで動かないみんなの姿。
憂が慌てて救急車を呼んでいる間に、
比較的軽症だった紬と梓の二人は、自力で車の後部座席から這い出してきた。
運転席に座っている律も、痛みで動けないだけで、意識はあるようだった。
しかし、真に憂が案じていたのは残りの二人。
フロントガラスを突き破り、車外に投げ出されている唯と澪のことだった。
服があちこち破け、血塗れで、死んだように動かない二人の姿を、
倒れかかった街灯が、頼りない明かりでチカチカと照らしていた。
比較的軽症だった紬と梓の二人は、自力で車の後部座席から這い出してきた。
運転席に座っている律も、痛みで動けないだけで、意識はあるようだった。
しかし、真に憂が案じていたのは残りの二人。
フロントガラスを突き破り、車外に投げ出されている唯と澪のことだった。
服があちこち破け、血塗れで、死んだように動かない二人の姿を、
倒れかかった街灯が、頼りない明かりでチカチカと照らしていた。
10月10日。午後6時半。
憂「大丈夫ですか!? 二人とも……」
紬「私は、平気だけど……。みんなが……」
梓「ゆ、唯先輩……。み、みお……」
憂「触らないで!」
梓「ひっ……!」
憂「お姉ちゃんも、澪さんも、頭を打っているかも知れないから……。
下手に動かさない方が、いいと思う」
梓「憂……、ごめん……」
憂「ううん。私の方こそ怒鳴ってごめん。
もうすぐ救急車が来るから、それまではそっとしておこう」
憂「大丈夫ですか!? 二人とも……」
紬「私は、平気だけど……。みんなが……」
梓「ゆ、唯先輩……。み、みお……」
憂「触らないで!」
梓「ひっ……!」
憂「お姉ちゃんも、澪さんも、頭を打っているかも知れないから……。
下手に動かさない方が、いいと思う」
梓「憂……、ごめん……」
憂「ううん。私の方こそ怒鳴ってごめん。
もうすぐ救急車が来るから、それまではそっとしておこう」
紬「ねえ、憂ちゃん。梓ちゃん」
憂「なんでしょうか」
梓「? なんですか?」
紬「あれって……、何かしら」
憂「あれ? あれとは……」
梓「……!」
紬「唯ちゃんの、頭から出てるの……」
憂「お姉ちゃんっ!」
梓「ダメだよ! 憂!」
憂「放して……。放してよおっ! お姉ちゃんが……! お姉ちゃんがぁ……っ!」
梓「動かしたらダメなんでしょ!? 救急車が来るのを待たないと……!」
憂「なんでしょうか」
梓「? なんですか?」
紬「あれって……、何かしら」
憂「あれ? あれとは……」
梓「……!」
紬「唯ちゃんの、頭から出てるの……」
憂「お姉ちゃんっ!」
梓「ダメだよ! 憂!」
憂「放して……。放してよおっ! お姉ちゃんが……! お姉ちゃんがぁ……っ!」
梓「動かしたらダメなんでしょ!? 救急車が来るのを待たないと……!」
4月2日。午後8時。
憂は気付くと、電気もつけていない自室の隅で一人、背中を丸めていた。
どうやら、記憶を辿っているうちに、いつのまにか家に帰っていたらしい。
憂「あー……。あー、あー」
意識的に声を出すことによって、憂は現実の世界に無理やり自分を引き戻した。
もやがかかったような頭の中が覚醒するにつれ、
まるで、思い出そうとしても思い出せない夢から覚めたばかりのような、妙な喪失感に襲われる。
憂「……喉、渇いたな」
時間の感覚もはっきりしないまま憂は立ち上がると、
喉の渇きを癒すため、キッチンのある階下へと降りていった。
憂は気付くと、電気もつけていない自室の隅で一人、背中を丸めていた。
どうやら、記憶を辿っているうちに、いつのまにか家に帰っていたらしい。
憂「あー……。あー、あー」
意識的に声を出すことによって、憂は現実の世界に無理やり自分を引き戻した。
もやがかかったような頭の中が覚醒するにつれ、
まるで、思い出そうとしても思い出せない夢から覚めたばかりのような、妙な喪失感に襲われる。
憂「……喉、渇いたな」
時間の感覚もはっきりしないまま憂は立ち上がると、
喉の渇きを癒すため、キッチンのある階下へと降りていった。
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