元スレモバP「杏なんて大嫌いだ」
SS覧 / PC版 /みんなの評価 : ☆
51 :
うわ、なんかクズが改心するフラグ立って萎えた
52 = 1 :
「いや、もうライブ始まるぞ。どうした?」
「えっと、いいから待ってて」
どんな時でもノンビリしている杏が慌てている。
これは何かある、もしかして最近の変な理由が分かるかも知れない。
そう思って俺はドアを開けた。
「ばっ、馬鹿!」
俺は言葉を失くした。
別にトラブった訳では無い。
そんなに良いものではなかった。
53 = 1 :
杏はステージ衣装を、覆い隠すように持っていた。
しかし、杏の小さな体では隠しきれていなかった。
衣装は、切り刻まれていた。
一体どういう事だ。あまりに予想のしない事態に言葉が出ない。
杏は、大きな瞳に涙を溜めている。
「ごめんなさい」
そう言って、溜めていた涙をこぼしはじめる。
「いや、謝るな。…説明してくれないか」
54 = 1 :
杏は泣きながら、俺に話す。
事の始まりは、二ヶ月程前らしい。
杏はその頃から、人気が出始めていた。
家に帰ると、白紙の手紙がポストに入っていた。
それが始まりだった。
そのうち白紙の手紙には、杏を傷付ける文字が入った。
手紙は電話に変わり、段々と色々な嫌がらせを受けるようになったらしい。
そして、今日は衣装を切り刻まれた。
55 = 1 :
「相手は分かるか?」
「多分」
「誰だよ?」
「サイン会によく来るファンの人だと思う。一度だけかかってきた電話の声が一緒だったと思う」
「何か恨まれる事をしたのか?」
「わかんない」
そう言って杏はメソメソと俯いてしまう。
二ヶ月の間、嫌がらせを受けているのか。
最近になるまで、全然気づかなかった。
56 = 1 :
俺は唇を噛みしめる。
「何で黙っていた?」
声が震えてしまう。
杏は消えそうなほど小さな声で「心配をかけたくなかった」と言う。
「何でだよ?俺が信用できないか」
「違うよぅ、だってプロデューサー仕事がいっぱいで大変そうだったから」
俺は、杏は自分が思うように生きていると思っていた、けれどそうではないようだ。
58 = 1 :
俺なんかが思っていたよりも、杏は優しい子なのかもしれない。
でも、やはり俺は杏が嫌いだ。
俺は杏の肩を掴んで怒鳴る。
「ふざけんな、ちゃんと言えよ!」
杏はそれでも「でも」だなんて泣きながら反論する。
「でもじゃねえよ!確かに俺は疲れてるよ、大嫌いなアイドルのプロデューサーなんかさせられてよ」
感情が昂ぶって、余計な事まで言ってしまう。
「特に、お前なんか大嫌いだよ!」
こんな事を言いたくはないのに、本音が全部こぼれてしまう。
俺は、夢を持つ人間が大嫌いだ。
アイドルなんて言うまでもない。
59 = 1 :
「けどさ」
俺の中に溜め込んでいたものまでぶつけてしまい、少し落ち着いて話しかける。
本当に余計な事を言ってしまった、と何だか笑えて来る。
「俺は男だぜ、可愛い女の子が泣いてるなんて放っとけないよ」
杏の涙を指で拭う。
杏の頬に触れると、思ったよりもずっと柔らかくて驚く。
「男は可愛い女の子に頼られると、それだけで嬉しくなる馬鹿なんだからよ、変な心配すんな。ほら、助けて、って可愛くお願いしてみろ」
60 = 1 :
杏はまだ少し泣きながらも、可愛く笑ってお願いした。
「助けて、プロデューサー」
「よっしゃ、任しとけ」
俺は夢を持つ人間が大嫌いだ。
アイドルなんて言うまでもない。
けど、俺は男だ。
可愛い女の子を傷付ける奴の方が大嫌いだ。
ライブの衣装はどうにかなった。
なったと言えるかどうか怪しいような気もするが、どうにかなった。
61 = 1 :
衣装の代わりに、いつも杏が着ているTシャツと短パンでライブをした。
働いたら負け、という名言の刻まれたTシャツだ。
思った以上にファン達に好評なようだった。
何だか、杏のキャラなら何をしても許される気がしてきた。
******
「本当に泊まるの?」
「じゃないと犯人を捕まえれないだろ」
63 = 1 :
一度だけかかってきた電話の声が似ているとだけの理由では、ファンを捕まえる事など出来ない。
捕まえるなら、現行犯だろう。
杏の話によると、最近は毎日ドアのポストに手紙や写真などが入れられるらしい。
そこを狙って捕まえてやる。
その為には、杏の家に泊まるのが一番だろう。
「何を心配してんだ?俺はロリコンじゃないから安心しろ」
女子高生はけっこう好きだったりするが、杏は小学生みたいだから欲情する事はあるまい。
64 = 1 :
杏の事だから、あまり気にしないと思って言ったが、頬を膨らませて黙り込んでしまった。
「あれ、怒った?」
「とときんの胸とか凛の足を、やらしい目で見る時があるの知ってるよ」
こいつは意外と周りを見ているな。
しかし、これについては仕方が無いではないだろうか。
今までは、華の無い職場に居たのだ、あれをやらしい目で見るなというのは無理だろう。
65 = 1 :
「そりゃあ、俺だって男だしぃ」
「凛は杏より年下だよ。杏の事はやらしい目で見た事ないよね」
だからどうした。お前はやらしい目で見られたいのか。
「…いいからもう寝ろ。夜更かしは美容の敵だ」
丑の刻を過ぎた頃に、誰かが階段を登ってくる足音が聞こえた。
俺は足音を忍ばせながら、玄関の方に行った。
67 :
足音は、この部屋へと近づいて来る。
そしてこの部屋の前で止まった。
恐らく犯人だろう。
一体どんな奴だろうか。
もしかしたら、いかれた奴かもしれない。凶器を持っているかも。
今になって恐怖が湧いてくる。
汗ばんだ掌をズボンで拭いた。
カチャッ カチャ
ドアノブを余り音を立てないように回してきた。
そして、鍵が掛かっているのが分かると、ドアの向こう側で舌打ちをしたのが聞こえた。
その音を聞くと、俺の中から恐怖は吹き飛んだ。
68 = 67 :
代わりに、抑えつけるのが難しい程の怒りが溢れる。
今すぐにドアを開けて、こいつをグチャグチャにしたくなる。
必死に抑えて、奴が何かを入れるのを待った。
数秒してポストから写真らしき物が入れられた。
それを手に取り、確認するとそれは、ライブ前に切り刻まれた衣装の写真だった。
69 = 67 :
俺は急いで鍵を開け、思いっきりドアを開けて外に飛び出した。
階段の方を見ると、大きな影が慌てて降りるのが見える。
走って階段を下りると、すぐに犯人に近づいた。
恐らく、動きが鈍い奴なのだろう。後ろから肩を掴んで、思いっきり引っ張った。
そいつは、コンクリートの床に鈍い音を立てて倒れる。
「ひいっ!」
そいつは、いかにもオタクっぽい見た目の男だった。
割と杏のファンにはそういった人が多いが、こいつはその中でも群を抜いてそれっぽい。
70 = 67 :
襟元を握り締めて、余り大きな声を出さないように声を絞って喋る。
気をつけないと大声で怒鳴りそうだ。
「何でこんな事をした、正直に言えよ」
こいつはこんな状況なのに、にやにやと気味の悪い笑みを浮かべている。
「へへっ、杏ちゃんは泣いた時が一番可愛いんだ。僕は杏ちゃんを可愛くしてあげただけさ」
「おい、確かに泣いている杏は可愛いかった。いつもふてぶてしくて、ダラダラとしている女の子っぽくない杏が、小さな体を震わせて泣いている姿は可愛かったさ。かなりそそるものがあったさ」
俺はどうやら頭に血が登ると、本音をベラベラと喋ってしまうみたいだ。
71 = 67 :
「だ、だろう?!」
「しかし!」
こいつは分かっていないな。
「泣いている杏が俺に頼って来た時の方がグッときたね。想像しろっ、杏が声を震わせながらお前の名を呼ぶ」
「ああっ、あああっ!!」
こいつは頭を抱えて、眉間に皺を寄せている。
己の浅はかさに気づいたようだ。
「そしてお前に、助けて、と言うんだ!」
「うひょおおお!!僕が間違ってました!!!」
「うっひょおおお!そうだろう!!だから、杏に頼られるような人間になれぇ!!」
72 :
闘え!プロデューサー!
73 = 67 :
「でも師匠」
変態に師匠も呼ばれると、まるで俺が変態の師匠になった気分だ。
「何だ?」
弟子は涙をボロボロと溢れさせながら口を開いた。
「俺はっ、杏ちゃんにひどい事をしました。こんなクズな俺には杏ちゃんに頼ってもらう事なんて」
俺は右足を引く。そしてリラックスした上半身を捻りながら、後ろ足の右足から、体重を全て前に移動させる。
そして弟子に拳が触れた瞬間に力を込めて、思いっきり振り抜く。
鈍い音を立てながら弟子は吹き飛んだ。
74 = 67 :
「確かに、お前のした事は最低だ。お前は屑だ。お前のやった事は一生変わりはしない」
うずくまる弟子に近づいて、手を差し伸べた。
「でも、人は変われるんだ。変わろうぜ」
「しっ、師匠!」
俺と弟子が熱い抱擁を交わしていると、警察の方が来られて大変だった。
深夜に騒ぐのは駄目だな。
75 = 67 :
******
杏の受けた嫌がらせの問題は解決して、杏は調子を取り戻した。
そして、今までよりも一気に人気を伸ばしていった。
ジジイからも褒められて、給料も上がった。
アイドル達にも、少しずつではあるが慣れてきた。
でも、上手くいくほどに、俺の中にポッカリと空いた部分があるのが感じられた。
そこは本当に空っぽだ。
何にもない。
ただ虚しさだけが感じられる。
77 = 67 :
人は大人になるにつれて、大事な物を失っていくのに気付くと聞く事がある。
しかし、俺はそうではない。
元からないのだ。
初めから持っていないのだ、大事な物を。
だからそれを持っている奴が、羨ましかった。
俺はそんな奴らに嫉妬して、馬鹿だの無謀だのと笑っていた。
そうやって、自分を誤魔化していた。
78 = 67 :
けれど、それも出来なくなってきた。夢に向かって、努力し少しずつ夢に近付く少女達を、笑う事が出来なくなってきたのだ。
そうして必死に隠して来た、俺の中の隙間に目を背ける事が出来なくなった。
ある日、限界が来た。
ふと、ふざけた考えが頭によぎったのだ。
いつも降りる駅の、二つ程前の駅を過ぎた時に、ふざけた考えがよぎったのだ。
79 = 67 :
このまま、どこか遠くまで行ってみようか。
ふざけた考えだ、馬鹿らしい。
けど、今は何故かそれに妙に惹かれてしまう。
いつも降りる駅、そこに着いた時に俺は席を立たなかった。
電車はドアを閉める事を、機会音を鳴らして知らせる。
まるで俺に、本当にいいのかよ?と何度も尋ねているように聞こえた。
心臓の鼓動が高鳴る。
本当にこんな幼稚な事をするのか。
80 = 67 :
電車の扉は、空気の抜けるような音を立てながら閉まった。
ゴトンゴトンと電車が動き出すと、体が一気に軽くなった。
こうなったら、行けるとこまで行ってみよう。
電車を幾つか乗り換えたところで、ポケットの中の携帯が震える回数が一気に跳ね上がった。
時間を確認すると、事務所に着く筈の時間を一時間も過ぎている。
昼を過ぎた時に、外の景色を見ると海があった。
お腹も空いて来たので、次の駅で降りる事にした。
この頃には、携帯の方もだいぶ大人しくなった。
81 = 67 :
電車を降りると、冷たくて、強い風に身震いする。
辺りを見回すと、すぐ近くに飯屋があった。
取り敢えずそこに入って昼食を取る事にした。
飯を食べ終わって、次はどうしようか困る。
遠くまで来てみたが、当たり前だが何も変わらない。
ポッカリと空いた穴が、埋まるような事はない。
俺はなにを馬鹿な事をしているのだろうか。
82 = 67 :
ふらふらと彷徨うように歩く。
海の目の前まで行ってみた。
冬に来るとこではないな。
海には楽しくて騒がしい、そんなイメージを持っていた。
だけども、目の前に広がる海は孤独で淋しい感じだ。
まあ、夏の海と冬の海の違いなんだろうが。
携帯が震える。
誰かの声が聞きたくなって、誰からかも確かめずに出た。
「もしもし?」
「プロデューサー、どこにいるの?」
子供のように、高い声だった。
「杏かぁ」
83 = 67 :
「なに、どういう事?」
「いや、で何か用か?」
「用かじゃないでしょ!何してるの!どこに居るの!?」
杏は電話越しで怒鳴るが、まるで子供に怒られているようで少しも怖くない。
「いやぁ、なにしてるんだろ?」
ははっ、と声に出して笑う。
駅に降りた時に見た看板を、どうにか思い出す。
「△△△駅ってとこに居るよ。海が見える」
「どうしたの?壊れた?」
「ははっ、ひどい事を言うな」
そう言えば、前に俺もひどい事を言ったなぁ。
84 = 67 :
「なあ、前にお前の事を大嫌いだって言ったろ」
「…覚えてるよ」
「あれな、俺はお前が羨ましかっただけだから気にすんなよ」
「…別にきにしてなかったし」
少し、杏の声のトーンが上がった気がする。
「じゃあな、寝るわ」
「えっ!?」
何かを言おうとする電話の電源を落として、眠りについた。
起きた時には、何かが変わるだろうか。
85 = 67 :
*****
目を覚ますと隣に杏がいた。
幻覚かな。幻覚だろう。
杏は仕事があるのだ、ここにいるはずがないじゃないか。
でも、待てよ。
その理屈だと俺もここにはいないはずだ。
俺は杏に気づかれないように、そっと手を伸ばす。
手の甲が、杏のほっぺたにぶつかる。
手を裏返して、手のひらで頬を触って見る。
柔くて、気持ち良いな。
どうやら本物のようだ。
86 = 67 :
「何してんの?」
「プロデューサーにその質問を返すよ」
「ははっ、何でかな」
杏は俺を呆れたように笑って、海の方を見た。
「ねえ、私の何が羨ましかったの?」
「…簡単に言うと夢を持って、才能を持ってるところかな」
杏は「私の夢ね」と苦い笑みを浮かべた。
「夢ないの?」
「ないなぁ、昔から無いんだよ。何かやりたい事とか」
「ふーん」
「流れで生きてきて、これからも何となく選んだ物を着て生きていくんだろうけど、嫌なんだよ。俺じゃなきゃ駄目なものが欲しいんだ」
「ここまで来たら見つかった?」
杏は茶化すように言った。
87 = 67 :
「見つからない」
「じゃあ、杏があげるよ」
「何を?」
「プロデューサーじゃなきゃ駄目なもの」
「何だ?」
「杏のプロデューサー。杏はプロデューサーじゃなきゃ嫌だよ」
杏は目を細めて、優しく微笑む。
こんな笑い方もできたんだな。
「あと、夢も上げよう。杏をトップアイドルにする事。どうかな?」
「それは、簡単に叶えれそうな夢だな」
杏が眩しくて、杏から目を逸らす。
88 = 67 :
俺は杏を知れば知るほど、話せば話すほどに、杏の良いとこを見つけてしまう。
嫉妬して、嫌う事が出来なくなった俺には、とても直視できやしない。
「まあ、悪くないや」
本当は嬉しいのに、ついそんな風に言ってしまう。
興奮すると本音が言えるのにな。
「ありがとうな杏」
「いいよ、プロデューサーの事好きだから」
いつもと変わらぬトーンで言うから、意味が掴めずに「プロデューサーとして?」と驚きながらも、平然を装って尋ねる。
89 = 67 :
「ううん、異性として」
杏は悪戯をした子供のようにな笑顔を俺に見せた。
俺は恥ずかしくて「あっそ」だなんてそっけない事を言ってしまう。
杏は鋭いから、俺の気持ちがばれてしまうと怖くなった。
でも杏は、悲しそうに笑った。
何でこういうとこは鈍いんだよ。
そして、俺もちゃんと言えよ。
ポッカリと空いたところを、モヤッとしたものが埋めてしまった。
少しモヤモヤするけども、とても心地が良い。
90 = 67 :
******
「ちょっと待てよ、杏。心の準備が」
「うるさいなぁ」
躊躇う俺を、後ろに杏は勢いよく事務所のドアを開ける。
「杏、プロデューサーを自分探しの旅から連れ戻しました」
きゃあああ、やめて。
そういう風に言われると恥ずかしくて死にそう。
穴があったら入りたい。
これだけ個性的なアイドル達が居るんだ、一人ぐらい穴掘りの上手い奴がいないかな。
91 = 67 :
「戻りました、すいません。ご迷惑をかけました」
「見つかりました?自分」
ちひろさんの素敵なスマイルで、心をズタボロにされる。しかし、俺が悪いので反抗できない。
「自分探しって何ですか?」
千枝ちゃんが純粋な瞳で俺に聞く。
やめてくれよ。
93 = 67 :
******
「プロデューサー」
俺は、杏の家に杏を送っているところです。
「プロデューサー」
杏ちゃんの髪から、少し甘い匂いが漂ってきます。
とてもいい匂いです。
「プロデューサー!」
「あっ、ああ何だよ」
「杏の家を過ぎてる」
「うっ、知ってるわ!」
杏は俺に怒鳴られてしょげてしまった。
しょげた顔も愛おしい。
一体俺は何をしているのだ。
94 = 67 :
初めて恋して、素直に慣れない男の子じゃないんだぞ!
ちゃんとやるんだ。
思い出せ、どうやって初めての彼女を作った?
あれ。うん。そうだ。
俺は彼女を作った事が無かった。
それなら、初めての告白はどうやった?
…うん、うん、うん。
告った事無かったな。
というか初恋ではないだろうか。
二十一歳にして初恋かよ。
いくらなんでもおかしいだろ。枯れてんのかよ俺。
しかし、どうしよう。
一体どうすればいいのだ。恥ずかしくて冷たく当たってしまう。
95 :
働いたら負けという割には働くよねこの子
96 = 67 :
「プロデューサーはさ、杏の事を嫌いなのぉ?」
いつの間にか杏は泣いていた。
何をやっとるんだ俺は!
落ち着け、冷静に、優しい言葉を掛けてやるんだ。
「何で答えなくちゃいけないんだ」
俺の馬鹿野郎!!
「へへっ、そっか、ごめんね。でも杏の事を嫌いでも、杏は好きだからね」
俺は帰りの車で泣きじゃくった。
俺がこんなツンデレボーイだとは思わなかった。
98 = 67 :
家に帰ると、母さんが寝巻き姿で迎えてくれた。
「おかえりぃ」
「ただいま」
「自分は見つかったのかな?」
母さんはにやにやとしながら言う。
クソジジイか、あいつが教えたのか。
「んー、見つかった見つかった」
「良かったねえ」
99 = 67 :
俺は母さんと自分の靴を納める。
それを見て母さんは「ごめんね、納めるの忘れてた」と謝った。
「ねぇ、父さんってさツンデレだった?」
母さんは、蒸発した父さんの話をするのを嫌がらない。
というかむしろ、喜んで話す。
「えへー、そうだねぇ、ツンツンでした。何で分かったの」
「何となく」
どうやら俺は、父親譲りのツンデレらしい。
100 = 67 :
♀
「ふあぁ」
目を覚まして時計を見る。
朝の六時だ。前まではいつも、ギリギリの8時まで寝ていた。
けど、最近はいつも六時に起きている。目を覚まして、プロデューサーの事を考えると胸がフワフワとしてあったかくなる。
そうすると、眠気など消えてしまい朝起きれるようになった。
でも今日は、何だか胸が痛い。
理由は分かっている。
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