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    元スレ雪歩「ライフ・イズ・ビューティフル」

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    151 = 68 :

    そして迎えたレコーディング当日

    「はじめまして。ディレクターの落合杏美です」

    ディレクターの落合さんは笑顔の素敵な大人の女性でした

    「緊張してる?」

    「してます…だけど…早く歌いたいですぅ!」

    その返事を聞いてニッコリと笑った落合さん
    私の思ってたこと、分かってくれたみたいです

    「素敵な曲にしましょう」

    そう言って軽く肩を叩いてくれましたから

    152 = 122 :

    がんばれ雪歩

    153 :

    見てるよ

    154 = 68 :

    「それでは始めます」

    「よろしくお願いしますぅ!」

    ヘッドホンからあのイントロが流れてきて、私は一瞬だけ目を閉じました

    そしてゆっくり目を開け、この曲を聴いてくれるすべての人に向けて語りかけるように歌い出しました


    『Kosmos,Cosmos 跳び出してゆく 無限と宇宙(そら)の彼方
     Kosmos,Cosmos もう止まれない イメージを塗り替えて』

    スタジオの中の景色は、もう見えませんでした

    155 = 68 :

    歌っている間のことは、良く覚えていません
    気付いたら曲が終わっていて、ヘッドホンからは落合さんの声が聞こえていました

    「オッケーよ、萩原さん」

    「もう…終わりですか?」

    「ボーカルラインはね。少し休憩してから、コーラス部分を録音しましょう」

    もっと歌いたかったです
    全部の録音が終わったあとで落合にそう告げると、苦笑いされちゃいました

    「初めてのレコーディングで1発オッケーだったのも驚いたけどね」

    そう言ってまた肩を叩いた落合さん
    こうして、私の初めてのレコーディングは終了しました

    156 = 68 :

    15分の休憩を…

    157 = 153 :

    158 :

    しっかり休んでこいー

    159 = 68 :

    CDは7月23日に発売されました
    まだほとんど名前も知られていなかった私、そして宣伝にお金をかける余裕の無かった765プロ

    当たり前かも知れませんけど、CDは泣きたくなるくらい売れませんでした
    発売から一週間後の売上は876枚…

    そのうちの何十枚かは、いわゆる「身内」が購入してくれたものでした

    ホントに泣きそうになっていたけど、事務所に届いた私宛のファンレターにはたくさん励まされました

    160 = 68 :

    『雪歩ちゃんの声が大好きです!』

    『カラオケで配信されたら歌いまくりますからね!』

    『めっちゃ良い曲! 友達にも勧めてます!』

    『1発でファンになりました!

    決して多いとはいえないファンレターに込められた、たくさんの気持ち
    うん! 泣いてる場合じゃないよね!
    私はこの人たちに、ちゃんとお返ししなきゃ!

    高校最後の夏が盛りを迎える中、私はまた少し強くなれました

    161 = 66 :

    帰るまで残しといて下さいお願いします

    162 = 68 :

    「合宿!どこで!?海?それとも山?」

    クーラーが故障したせいで扇風機とうちわがフル稼働していた8月初旬の事務所

    「落ち着け響。大声出すと余計熱くなるだろ」

    「より一層のレベルアップを図る」っていう名目のもと、海での合宿が企画されました
    どう考えても避暑のためなんですけど、もちろん異論を唱える人はいませんでした
    なにしろ発案者が、氷満載のバケツに両足を突っ込んでいる律子さんでしたから!

    163 = 68 :

    「見えたぁ!海だよ、海!」

    春香ちゃんの声に誘われるように、みんなで電車の窓から身体を乗り出しました
    いつもは怒るハズの律子さんも、一緒になって乗り出してました

    「キレイな砂浜だね、雪歩!」

    「そうだね真ちゃん!堀り甲斐がありそうだね!」

    「…ん?」

    みんなで海に行くのは小学校の臨海学校以来だったから、思わずはしゃいじゃいました
    たまにはいいですよね?

    164 = 68 :

    「とりあえず夕方まで自由行動な!アイドルとしての自覚を持って」

    「真!あそこの岩まで競争だぞ!」

    「よーし!負けないからね!」

    「はて?何やらあちらの小屋かららぁめんの香りが…」

    「ちょっとやよい。ちゃんと日焼け止め塗った?」

    「持ってくるの忘れちゃいましたぁ…。伊織ちゃん、日焼け止め貸して!」

    当然と言うべきでしょうか…
    プロデューサーが言い終わる前に、早くも自由行動開始ですぅ!

    165 :

    166 = 68 :

    私は砂浜にいた子供たちに混じって、ひたすら穴を掘ってました
    思う存分掘れる機会なんてなかなか無いですからね!
    2メートルくらい掘ったところで太陽が沈み始めて、打ち止めになっちゃいました

    そのあと人の少なくなった砂浜にみんなで集まって、ゆっくりと水平線に沈んでゆく太陽を眺めていました

    「来年もまたみんなで来れるかなぁ」

    そんな亜美ちゃんの呟きに、伊織ちゃんが答えました

    「みんなで来れないくらい忙しくなってるわよ、きっと」

    晩夏の夕焼けに身体を染めながら、私はその言葉に頷いていました

    167 = 68 :

    夜は泊まっている民宿の近くの砂浜でバーベキュー
    BGM代わりのラジオからは、夏らしい爽やかな曲が流れていました

    私が四条さんのお皿に焼き上がったお肉を載せていた、そのときでした

    『続いてはP.N しそっぱさんからのリクエスト。現在じわじわとラジオチャートを上昇中のナンバーです。萩原雪歩で「Kosmos,Cosmos」』

    「あら~。雪歩ちゃんの曲だわ~」

    曲が流れ始めると、みんな箸を止めて耳をラジオに傾けていました
    もちろん私も、目を閉じて

    168 :

    ちょっとコスモス聞いてくる

    169 = 68 :

    夜の砂浜に流れる私の声
    自分でも分かるくらい、細くて頼りない声ゆっくりと眼を開けて夜空を見上げてみました

    東京で見るよりもハッキリと見える天の川
    気が付くとみんなも同じように夜空を見上げていていました
    私は右手の小指へ、それからプロデューサーへと視線を移しました

    私をここまで連れてきてくれたプロデューサー
    いつも優しい笑顔を向けてくれる人

    曲がクライマックスを迎える中、私はハッキリと、その人への気持ちの正体に気付きました
    みんなといた、あの日の砂浜で…

    170 = 68 :

    9月の半ばを迎えるころ
    ラジオから火が付いた『Kosmos,Cosmos』は、オリコンチャートでも13位まで順位を上げていました

    累計の売上枚数は10万枚に迫っていて、律子さんからは

    「雪歩のおかげでソファー買い替えられそうね」

    って言われちゃいました
    落合さんからも

    『まだまだ売れるわよ!』

    ってメールが届きました

    細くて頼りない私の声だけど、少しずつ鳴り響き始めたような気がしました

    171 = 68 :

    「新ユニット?私がリーダーなの?」

    「そうよ。あずささん、伊織、亜美の3人。リーダーは伊織」

    『Kosmos,Cosmos』がオリコンチャートの8位を記録した9月最後の週末
    765プロにまた新しい動きがありました

    律子さんがプロデューサーを務める新ユニット結成
    ユニット名は『竜宮小町』

    由来は、3人の名字に「水」にちなんだ漢字が含まれているからだそうです

    「私の名字にも海って漢字が使われてるんだけどなぁ」

    春香ちゃんは少し残念そうでした

    172 :

    貴音かわいいよ貴音

    173 = 68 :

    「雪歩のヒットのおかげで、765プロがいままで以上に注目されてるわ。この機を逃さずに、一気に攻勢をかけるわよ!」

    「えぇ~。良いなぁ亜美。真美ももっとお仕事したいよ兄ちゃん!」

    「私ももっともーっとお仕事して、家計を助けたいですぅ!」

    「そう言うと思ってな、オーディションに書類送りまくっといたぞ!」

    えへへ…
    自分のお仕事がキッカケで物事が前に進み始めるのって、何だか誇らしい気持ちになりますね

    千早も待望のCDデビューが決まりそうだし、響ちゃんはゴールデンタイムの動物バラエティーの準レギュラーに起用されそう
    みんなが本格的に、前へと進み始めていました

    175 :

    しそっぱお兄ちゃんwww

    176 = 68 :

    11月を迎えるころには、いろいろな場所で765プロのみんなの姿を見かけるようになりました

    春香ちゃんと美希ちゃんは有名な演出家さん舞台で、それぞれが重要な役柄を演じることになりました

    やよいちゃんはNHKの夕方の子供向け番組でお料理コーナーを担当

    貴音さんは存在感と歌唱力を認められてミュージカルに進出

    真美ちゃんはローティーン向けのファッション誌でモデルオーディションに合格しました

    竜宮小町は3人の個性を活かして幅広いファンを獲得することに成功
    特にあずささんは、うちのお弟子さんたちの間でも大人気でした!

    177 = 68 :

    そして真ちゃん
    私の大事な親友は…

    「また王子さまキャラですか…」

    「そう言うな。お前が出れば女性の視聴者が増えるって評判なんだ」


    何故か不満げでした

    「ボク、雪歩や伊織みたいな服も着たいです」

    おかしいよ真ちゃん!
    そんなのぜったいおかしいよ!
    そんなの誰も望んでない、誰も得しないよぅ!

    「ぜんぶ聞こえてるからね、雪歩…」

    「あ、ごめん…」

    真ちゃんのことになると、いつも我を忘れてしまいますぅ…

    178 = 68 :

    そして、高校最後の誕生日
    つまり、高校最後のクリスマスイブ

    忙しい時間を縫って、みんな私のお誕生日会のために集まってくれました

    「今年もケーキ焼きましたぁ!」

    「今年はチョコレートだよ、チョコレート!」

    「ありがとう…。春香ちゃん、やよいちゃん…」

    「ふふ…。泣き出すのはまだ早いですよ?蝋燭に火も着いていないというのに」

    「えへへ…。ごめんなさい」

    18歳になった私を包む、みんなの笑顔
    もちろん、プロデューサーの笑顔もそこにはありました

    ありがとう、みんな

    精一杯の感謝の気持ちを込めて、18本のローソクを吹き消しました

    180 = 68 :

    「今年も車出した方が良さそうだな」

    「お願いしますぅ…」

    1年前より増えたプレゼントの前で途方に暮れている私に、プロデューサーが声をかけてくれました

    「では、おうちには私から連絡を」

    「毎度すいません、小鳥さん」

    「うふふ。気にしないでください」

    前の年にあんなことがあったからちょっと気が引けちゃったんですけどね

    だけど…えっと…
    プロデューサーと2人切りになりたかったから…

    うぅ…
    穴掘りたくなってきましたぁ…

    181 = 68 :

    「今年はやけに混んでるなぁ」

    渋滞に捕まってしまってちっとも進まない車の中
    私は緊急してしまって、何も喋れずにあました

    だって久しぶりだったから…
    プロデューサーと2人切りになるのは…

    「眠かった寝てていいぞ?」

    「だ、大丈夫ですぅ!」

    寝ちゃうのは勿体無いですから…

    183 = 68 :

    「もう1年になるんだな」

    「え?」

    「お前のうちの前で、『お弟子さんたち』に囲まれてから」

    「あうぅ…その節はご迷惑をおかけしましたぁ…」

    「はは。今となっては笑い話だよ」

    当時は笑い話じゃなかったんですね…?
    当然といえば当然ですけど…

    「雪歩もだいぶ強くなったよな」

    「まだまだですぅ…相変わらずひんそーでちんちく」

    「いや、雪歩は可愛いよ」

    「りん……………ふえぇっっっ!?」

    184 = 68 :

    プロデューサーのせいで挙動不審になった私は、心を落ち着けるために『穴掘りの歌』を口ずさんでいました

    「ひ、ひとつ掘っては父のため…人を呪わば穴ふたつ…」

    「ゆ、雪歩?」

    「みっつ見かねた悪党を…よっつ四つ葉のクローバー…」

    「お、落ち着け雪歩!」

    「は、はわわ…私…私ぃ…」

    「クリスマスイブに何て歌うたってんだよ…」

    プ、プロデューサーが悪いんですぅ!
    いきなりあんなこと言われたら、誰だって自作の歌くらい口ずさんじゃますよぅ!

    185 :

    しえん

    186 = 68 :

    そのあとに続いた20分くらいの沈黙
    耐えかねたように、プロデューサーが口を開きました

    「えっとだな…」

    「は、はい…」

    「こんなことを言うのはプロデューサーとしてだけじゃなくて人間失格なのかもしれないけど」

    そのときの私は、心臓止まっちゃうんじゃないかってくらいドキドキしてました
    いくら私が鈍感で男の人と犬が苦手でひんそーでちんちくりでおぎわらでも…

    これからプロデューサーが言おうとしてることくらいは分かりましたから

    187 = 68 :

    「お前のことが…好きだ」

    まるでその言葉を待っていたかのように、街角から聞こえてきた山下達郎さんのあの曲
    ズルいですよね、こんなシチュエーション…

    こんなの…
    言うしかないじゃないですか…

    「私もですぅ…」

    って、言うしかないじゃないですか!
    日本で一番深い穴ってどこにありますかぁ!

    188 = 68 :

    「えっとな、雪歩」

    「は、はいぃ…」

    このときの私は…一番キツいレッスンを終わらせた後よりも疲れてました

    「お前はまだ未成年の、しかもアイドルだ。つーか高校生だ」

    「そ、そうですぅ…」

    「さすがに手を出せない。今度こそドラム缶に放り込まれちまう」

    そう…なっちゃうかもしれません…
    割と本気で…

    「それに来春からは短大生だろ?」

    お父さんが

    「女子大生の雪歩が見たい」

    って言ってきかなくて…

    189 = 68 :

    「だからだな…あと4年我慢する」

    「4年…ですか?」

    「4年だ。4年後の22歳の誕生日に、もう一度同じこと言うよ」

    「その後は…?」

    「それは…雪歩の返事次第だよ」

    いまだったら…もっと違うこと言えると思います
    だけどあのときの私は、まだまだ子供でしたから…

    「じゃあ…お父さんに挨拶してください!」

    「はっ!?何て!?」

    「ゆ、雪歩の彼氏ですって挨拶してくださいぃ!!!」

    ヒドいですね、あのときの私…

    190 :

    さるよけ

    191 = 68 :

    「あ、あのお父さんにか…?」

    「あのお父さんにですぅ!」

    プロデューサーの身体が小刻みに震え始めました
    あのときはごめんなさい、プロデューサー…

    「あ、挨拶すれば良いんだな?」

    「よ、4年後の今日!」

    「クリスマスイブだな!!」

    「私の誕生日でもありますぅ!!!」

    2人しておかしなテンションになってましたね…

    笑い話には…
    あまりなって無いかもですぅ…

    192 = 68 :

    予定より1時間おうちの前に着いた私を、仁王立ちのお父さんが出迎えてくれました
    お母さんから何か言われてたみたいで、お弟子さんたちが車を取り囲むことはありませんでした

    「そ、それじゃあまた明日!」

    「あ、ありがとうございましたぁ!」

    あのときのプロデューサーってば、絶対に4年後のこと考えてましたよね…?
    自分で言ったこと、後悔したりしませんでしたか?

    私はちゃんと信じ続けてましたけどね。えへへ

    194 = 68 :

    ラストの15分休憩を…
    次からラストスパートです

    195 :

    雪歩は可愛いなあ

    197 = 68 :

    高校生活最後の日
    クシャクシャになった顔でみんなと抱きしめ合いながら、私の高校生活が幕を閉じました

    ここにも、大切な人たちがたくさんいました
    仕事が忙しくては勉強が遅れている私のために、みんなが協力してくれました
    この場所にも間違いなく、私の青春がありました

    「またね、みんな!」

    簡単には会えなくなるだろうけど、みんなからも見えるように、もっともっと頑張るから!

    ありがとう、みんな!
    またね!

    198 :

    ええなあ…

    199 = 68 :

    短大生になって最初のお仕事は、映画のヒロインでした!
    と言っても、幽霊役なんですけどね

    「あらあら~。雪歩ちゃんにとっとも似合うわ~」

    「雪歩にぴったりなの!」

    …一応、みんなも喜んでくれたみたいです

    「ゆ、幽霊などと…。面妖な…」

    貴音さんはどうやら幽霊系が苦手みたいです
    可愛いですよ、貴音さん

    200 = 153 :


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