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元スレメイド「冥土にお送りいたします」主人「かかって来い」

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<寝室>
主人「ん……」
若き主人が目を覚ました。
めざまし時計のベルによってではなく、強烈な殺気によって。
ドスッ!
ベッドに包丁が突き立てられた。
が、その位置に横たわっていた主人はいない。かわしたのだ。
メイド「おはようございます、ご主人様」
主人「おはよう」
メイド「冥土にお送りいたします」
主人「かかって来い」
主人「ん……」
若き主人が目を覚ました。
めざまし時計のベルによってではなく、強烈な殺気によって。
ドスッ!
ベッドに包丁が突き立てられた。
が、その位置に横たわっていた主人はいない。かわしたのだ。
メイド「おはようございます、ご主人様」
主人「おはよう」
メイド「冥土にお送りいたします」
主人「かかって来い」
包丁を振りかざし、メイドが主人に襲いかかる。
主人はすかさず机の上にあった万年筆を、メイドの眼球めがけて投げつける。
ビュッ!
飛んでくる万年筆を冷静に包丁でハジくメイド。
ガキンッ!
しかし、弾丸のような万年筆をハジいたため、包丁も砕けた。
主人「………」
メイド「………」
主人「食事にしよう」
メイド「リビングに用意してあります」
主人はすかさず机の上にあった万年筆を、メイドの眼球めがけて投げつける。
ビュッ!
飛んでくる万年筆を冷静に包丁でハジくメイド。
ガキンッ!
しかし、弾丸のような万年筆をハジいたため、包丁も砕けた。
主人「………」
メイド「………」
主人「食事にしよう」
メイド「リビングに用意してあります」
<リビング>
主人「今日の朝食はキノコスープか」
メイド「はい。ぜひご賞味下さいませ」
主人「ワライタケ、ベニテングタケ、ドクツルタケにコレラタケ……」
主人「実に美味そうだ」ニコッ
メイド「ありがとうございます」
主人「うん、これは美味しい」ジュルリ
主人は大量の毒キノコを煮詰めたスープを全て平らげた。
主人「君もコーヒーでもどうだい。淹れてあげよう」
メイド「ありがたくいただきます」
主人「今日の朝食はキノコスープか」
メイド「はい。ぜひご賞味下さいませ」
主人「ワライタケ、ベニテングタケ、ドクツルタケにコレラタケ……」
主人「実に美味そうだ」ニコッ
メイド「ありがとうございます」
主人「うん、これは美味しい」ジュルリ
主人は大量の毒キノコを煮詰めたスープを全て平らげた。
主人「君もコーヒーでもどうだい。淹れてあげよう」
メイド「ありがたくいただきます」
主人はコーヒーを淹れると、
メイドの目の前でコーヒーカップに青酸カリのカプセルを入れた。
主人「俺はコーヒーにはうるさいんだよ」
主人「さ、どうぞ」スッ
メイド「ご主人様のコーヒーを堪能できるなんて、光栄ですわ」ゴクゴク
メイドは青酸カリ入りのコーヒーを全て飲み干した。
メイド「美味でございました」
メイド「私、これほど美味しいコーヒーを飲んだのは生まれて初めてでございます」
主人「君に喜んでもらえると、とても嬉しいよ」
メイドの目の前でコーヒーカップに青酸カリのカプセルを入れた。
主人「俺はコーヒーにはうるさいんだよ」
主人「さ、どうぞ」スッ
メイド「ご主人様のコーヒーを堪能できるなんて、光栄ですわ」ゴクゴク
メイドは青酸カリ入りのコーヒーを全て飲み干した。
メイド「美味でございました」
メイド「私、これほど美味しいコーヒーを飲んだのは生まれて初めてでございます」
主人「君に喜んでもらえると、とても嬉しいよ」
テレビ『民家に飲酒運転をしていた大型ダンプカーが突っ込み~』
テレビ『世界的に暗躍しているテロリストが、日本に潜伏したという情報が~』
テレビ『連続殺人事件を起こした犯人は現在も逃走中~』
どんなに物騒なニュースも主人とメイドにとっては脅威ではない。
主人「君は料理の天才だよ」
メイド「ご主人様こそ、このコーヒーなら今すぐにでも喫茶店を開けますわ」
二人にとって、もっとも脅威となるのは目の前にいるお互いなのだから。
テレビ『世界的に暗躍しているテロリストが、日本に潜伏したという情報が~』
テレビ『連続殺人事件を起こした犯人は現在も逃走中~』
どんなに物騒なニュースも主人とメイドにとっては脅威ではない。
主人「君は料理の天才だよ」
メイド「ご主人様こそ、このコーヒーなら今すぐにでも喫茶店を開けますわ」
二人にとって、もっとも脅威となるのは目の前にいるお互いなのだから。
メイド「では、そろそろ洗顔などいかがでしょうか?」
主人「水を用意してもらえるかな?」
ザバァッ!
メイドはバケツ一杯に入った硫酸を、主人めがけて浴びせかけた。
ジュワァ~……
主人は硫酸をジャンプでかわしていた。
だが、メイドは空中に逃れた主人のスキを見逃さない。
ビュバババッ!
メイドは大量の爪楊枝を、散弾のように投げつけた。
主人(これは、かわせないな……やむをえん!)
主人「水を用意してもらえるかな?」
ザバァッ!
メイドはバケツ一杯に入った硫酸を、主人めがけて浴びせかけた。
ジュワァ~……
主人は硫酸をジャンプでかわしていた。
だが、メイドは空中に逃れた主人のスキを見逃さない。
ビュバババッ!
メイドは大量の爪楊枝を、散弾のように投げつけた。
主人(これは、かわせないな……やむをえん!)
ドドドドドスッ!
主人は全身の筋肉を硬直させ、爪楊枝を受け止めた。
ほとんど刺さっていないので、ダメージはないに等しい。
主人「ふう、今のは少しヒヤッとしたよ」
メイド「あれでダメージ無しとはさすがです、ご主人様」
主人「ハハ、ちょっとチクッとしたけどね」
主人「さて、そろそろ本当に準備するか」
主人「あの退屈な時間も、この生活を維持するのには必要だからね」
メイド「かしこまりました、すぐに着替えを用意いたします」
主人は全身の筋肉を硬直させ、爪楊枝を受け止めた。
ほとんど刺さっていないので、ダメージはないに等しい。
主人「ふう、今のは少しヒヤッとしたよ」
メイド「あれでダメージ無しとはさすがです、ご主人様」
主人「ハハ、ちょっとチクッとしたけどね」
主人「さて、そろそろ本当に準備するか」
主人「あの退屈な時間も、この生活を維持するのには必要だからね」
メイド「かしこまりました、すぐに着替えを用意いたします」
ヒゲを剃り、洗顔し、歯を磨き、髪を整え、主人はメイドのところに向かった。
メイドの用意したスーツに着替える主人。
メイド「いつもながら、見事なスーツの着こなしにございます」
主人「ありがとう」
主人「ところで、ちょっと後ろを向いてもらえないかな?」
メイド「かしこまりました」クルリ
主人「………」シュルリ
グイッ!
主人はネクタイを外すと、それで後ろからメイドの首を絞めた。
もちろん全力で、である。
メイドの用意したスーツに着替える主人。
メイド「いつもながら、見事なスーツの着こなしにございます」
主人「ありがとう」
主人「ところで、ちょっと後ろを向いてもらえないかな?」
メイド「かしこまりました」クルリ
主人「………」シュルリ
グイッ!
主人はネクタイを外すと、それで後ろからメイドの首を絞めた。
もちろん全力で、である。
主人「君のか細い首には、この色のネクタイがよく似合う」グググ…
主人「窒息で済ませるつもりはない……首をヘシ折る」グググ…
メイド「………」
メイドはネクタイに指をかけると──
ブチッ
ネクタイを引きちぎり脱出した。
主人「ヒュウ、さすがだね」
メイド「私にはもったいないお言葉ですわ」
主人「さて、そろそろ俺は出かけるよ」
メイド「かしこまりました」
主人「窒息で済ませるつもりはない……首をヘシ折る」グググ…
メイド「………」
メイドはネクタイに指をかけると──
ブチッ
ネクタイを引きちぎり脱出した。
主人「ヒュウ、さすがだね」
メイド「私にはもったいないお言葉ですわ」
主人「さて、そろそろ俺は出かけるよ」
メイド「かしこまりました」
<玄関>
メイド「ご主人様」
主人「ん?」
メイド「どうかお気をつけて」
メイド「くれぐれも……私以外の者に冥土に送られてしまうことがないよう」
主人「分かっているよ」
主人「もっともこの地球上で単独で俺を殺せる可能性があるのは、君くらいのものだろ」
主人「じゃ、行ってくる」
メイド「行ってらっしゃいませ、ご主人様」
メイド「ご主人様」
主人「ん?」
メイド「どうかお気をつけて」
メイド「くれぐれも……私以外の者に冥土に送られてしまうことがないよう」
主人「分かっているよ」
主人「もっともこの地球上で単独で俺を殺せる可能性があるのは、君くらいのものだろ」
主人「じゃ、行ってくる」
メイド「行ってらっしゃいませ、ご主人様」
主人を見送ると、メイドは後片付けを始めた。
砕けた包丁、穴のあいたベッド、折れた万年筆、割れた食器類、
床にぶちまけられた硫酸、同じく散らばった爪楊枝、ちぎれたネクタイ……。
全てを猛スピードで片付け、可能な限り元通りに修復する。
淡々と作業をこなしながらも、メイドの頭にふと今朝の攻防がよぎる。
メイド(爪楊枝攻撃は……惜しかったですわ)
メイド(あれが包丁やナイフだったなら、ダメージを与えられたかもしれないのに)
メイド(しかし、今更悔いても仕方ないこと)
メイド(その後のご主人様の首絞めは、なかなか強烈でしたわ)
メイド(私の頸動脈に食い込むネクタイの感触……十分に死を予感させるものでした)
メイド「さすがは、私のご主人様……」
メイドはぽつりと、そう漏らした。
砕けた包丁、穴のあいたベッド、折れた万年筆、割れた食器類、
床にぶちまけられた硫酸、同じく散らばった爪楊枝、ちぎれたネクタイ……。
全てを猛スピードで片付け、可能な限り元通りに修復する。
淡々と作業をこなしながらも、メイドの頭にふと今朝の攻防がよぎる。
メイド(爪楊枝攻撃は……惜しかったですわ)
メイド(あれが包丁やナイフだったなら、ダメージを与えられたかもしれないのに)
メイド(しかし、今更悔いても仕方ないこと)
メイド(その後のご主人様の首絞めは、なかなか強烈でしたわ)
メイド(私の頸動脈に食い込むネクタイの感触……十分に死を予感させるものでした)
メイド「さすがは、私のご主人様……」
メイドはぽつりと、そう漏らした。
<会社>
主人は若手ナンバーワンの社員だった。
いや、もはや能力は会社でナンバーワンといえた。
課長「いや、まさかあの契約を取ってくるとは!」
課長「君はすばらしいよ! ハッハッハ!」
主人「ありがとうございます」
課長「それにしても君は入社以来ミスといえるミスが一度もない」
課長「いいかたは悪いかもしれんが、まるで機械のようだね」
主人「ハハハ、さすがに機械にはかないませんよ」
主人は若手ナンバーワンの社員だった。
いや、もはや能力は会社でナンバーワンといえた。
課長「いや、まさかあの契約を取ってくるとは!」
課長「君はすばらしいよ! ハッハッハ!」
主人「ありがとうございます」
課長「それにしても君は入社以来ミスといえるミスが一度もない」
課長「いいかたは悪いかもしれんが、まるで機械のようだね」
主人「ハハハ、さすがに機械にはかないませんよ」
主人は機械以上だった。
なぜなら機械は命令以上のことはしないが、彼は命令以上のこともこなすのだ。
同僚「ふんふ~ん」カチャカチャ
主人「おい、そこ計算間違ってるぞ」
同僚「あっ、ホントだ! いっけね!」
同僚「わりぃわりぃ、サンキュー。よく気づいたな」
同僚「ずっと資料と格闘してた俺が気づかなかったのに」
主人「岡目八目ってやつだよ」
なぜなら機械は命令以上のことはしないが、彼は命令以上のこともこなすのだ。
同僚「ふんふ~ん」カチャカチャ
主人「おい、そこ計算間違ってるぞ」
同僚「あっ、ホントだ! いっけね!」
同僚「わりぃわりぃ、サンキュー。よく気づいたな」
同僚「ずっと資料と格闘してた俺が気づかなかったのに」
主人「岡目八目ってやつだよ」
OL「いえ、あの課長や部長も席を外してまして……」
OL「あ、いえっ、はいっ!」
OL「しょっ、少々お待ち下さい」カチャ
主人「どうかした?」
OL「ものすごい怒鳴り声で変なクレームが入ってて……」
OL「上司がいないんなら、社長を出せとか、もうメチャクチャなのよ……」
主人「代わるよ。こっちに電話回して」
OL「う、うん……」
主人はみごとにクレーマーを鎮めてみせた。
OL「あ、いえっ、はいっ!」
OL「しょっ、少々お待ち下さい」カチャ
主人「どうかした?」
OL「ものすごい怒鳴り声で変なクレームが入ってて……」
OL「上司がいないんなら、社長を出せとか、もうメチャクチャなのよ……」
主人「代わるよ。こっちに電話回して」
OL「う、うん……」
主人はみごとにクレーマーを鎮めてみせた。
主人(退屈だ……)
主人(早く家に帰りたい)
主人(メイドとの攻防に比べ、仕事のなんと退屈なことか)
主人(彼女との戦いは一瞬のミスも油断も許されない)
主人(ひとたびミスをすれば、負傷し、その先に待ち受けるのは死だ)
主人(一方、仕事は考える時間がたっぷりある)
主人(はっきりいって、ミスりようがない)
主人(仮にミスったところで怪我するわけでも、死ぬわけでもない)
主人(たまにわざと会社の存亡に関わるようなミスをしたくなる衝動に駆られるが)
主人(それは俺のポリシーに反する)
主人(俺は雇われている身だし、他の社員に迷惑がかかるからな……)
主人(ああ、早く帰りたい……)
主人(早く家に帰りたい)
主人(メイドとの攻防に比べ、仕事のなんと退屈なことか)
主人(彼女との戦いは一瞬のミスも油断も許されない)
主人(ひとたびミスをすれば、負傷し、その先に待ち受けるのは死だ)
主人(一方、仕事は考える時間がたっぷりある)
主人(はっきりいって、ミスりようがない)
主人(仮にミスったところで怪我するわけでも、死ぬわけでもない)
主人(たまにわざと会社の存亡に関わるようなミスをしたくなる衝動に駆られるが)
主人(それは俺のポリシーに反する)
主人(俺は雇われている身だし、他の社員に迷惑がかかるからな……)
主人(ああ、早く帰りたい……)
<居酒屋>
仕事が終わり、主人は課長たちと酒を飲んでいた。
課長「ウィ~、ちゃんと飲んでるか?」
主人「もちろんですよ~、課長~。焼酎最高!」
同僚「しっかしホントお前って顔赤くならないよな」
OL「ホントよね~。でもたまにこういう人っているけどね」
主人「顔は赤くならんけど、酒自体は弱いよ。もうグデングデンだもん」ヨロッ
課長「ハハハ、おいおいしっかりしろよ」
主人は全く酔っていなかった。
毒が通じない人間が、酒(アルコール)で酔えるわけがない。
酔ったフリがうまいだけだ。
仕事が終わり、主人は課長たちと酒を飲んでいた。
課長「ウィ~、ちゃんと飲んでるか?」
主人「もちろんですよ~、課長~。焼酎最高!」
同僚「しっかしホントお前って顔赤くならないよな」
OL「ホントよね~。でもたまにこういう人っているけどね」
主人「顔は赤くならんけど、酒自体は弱いよ。もうグデングデンだもん」ヨロッ
課長「ハハハ、おいおいしっかりしろよ」
主人は全く酔っていなかった。
毒が通じない人間が、酒(アルコール)で酔えるわけがない。
酔ったフリがうまいだけだ。
<自宅前>
主人(ふぅ、今夜はすっかり遅くなってしまったな)
主人(だが感じるぞ……)
主人(このドア一枚へだてた向こう側から……)
主人(俺の帰りを待っていたメイドの強烈な殺気を!)
主人(待たせて悪かったな)
主人(今、開けるから──)
ガチャッ
主人(ふぅ、今夜はすっかり遅くなってしまったな)
主人(だが感じるぞ……)
主人(このドア一枚へだてた向こう側から……)
主人(俺の帰りを待っていたメイドの強烈な殺気を!)
主人(待たせて悪かったな)
主人(今、開けるから──)
ガチャッ
<玄関>
メイド「お帰りなさいませ、ご主人様」
主人「ただいま」
メイド「冥土にお送りいたします」
主人「かかって来い」
ヒュヒュヒュヒュッ!
メイドが主人の顔面めがけて道具を投げた。
ハサミ、刃の出たカッターナイフ、ボールペン、マイナスドライバー。
主人(マイナスドライバーなんて家にあったんだ……)
などと考えつつ、主人は四つ全てをキャッチしてみせた。
メイド「お帰りなさいませ、ご主人様」
主人「ただいま」
メイド「冥土にお送りいたします」
主人「かかって来い」
ヒュヒュヒュヒュッ!
メイドが主人の顔面めがけて道具を投げた。
ハサミ、刃の出たカッターナイフ、ボールペン、マイナスドライバー。
主人(マイナスドライバーなんて家にあったんだ……)
などと考えつつ、主人は四つ全てをキャッチしてみせた。
主人は負けじと近くにあった靴ベラを取り、メイドめがけて殴りつける。
ブオンッ!
メイドはバク宙でこれをかわした。
ドガァッ!
主人が振り下ろした靴ベラがぶつかった廊下が、砕けた。
たとえ靴べらでも力と速度を伴えば、立派な鈍器だ。
メイド「すばらしい一撃ですわ。さすがはご主人様」
主人「君こそ、マイナスドライバーなんてどこで見つけたんだい?」
ブオンッ!
メイドはバク宙でこれをかわした。
ドガァッ!
主人が振り下ろした靴ベラがぶつかった廊下が、砕けた。
たとえ靴べらでも力と速度を伴えば、立派な鈍器だ。
メイド「すばらしい一撃ですわ。さすがはご主人様」
主人「君こそ、マイナスドライバーなんてどこで見つけたんだい?」
メイド「ところでお風呂が沸いておりますので、どうぞお入り下さい」
主人「ありがとう、入らせてもらうよ」
<風呂場>
浴槽には大量の氷が浮かんでいた。
水温はおそらく5℃とないだろう。
もちろん、主人はためらうことなく入る。
ザバァッ
主人「ああ、いい湯加減だ。心も体もポカポカだよ」
外にいるメイドが答える。
メイド「ありがとうございます、ご主人様」
主人「ありがとう、入らせてもらうよ」
<風呂場>
浴槽には大量の氷が浮かんでいた。
水温はおそらく5℃とないだろう。
もちろん、主人はためらうことなく入る。
ザバァッ
主人「ああ、いい湯加減だ。心も体もポカポカだよ」
外にいるメイドが答える。
メイド「ありがとうございます、ご主人様」
主人「ところでどうだい? せっかくだし、背中でも流してもらえるかな?」
メイド「よろしいのですか?」
主人「今更遠慮する仲でもないだろう」
主人は浴槽に浮かんでいる小さな氷を口に含み、噛み砕いた。
そして、一番大きな氷の塊を手に取った。
ガラッ
メイド「では失礼いたし──」
主人「──プププゥッ!」
メイド「よろしいのですか?」
主人「今更遠慮する仲でもないだろう」
主人は浴槽に浮かんでいる小さな氷を口に含み、噛み砕いた。
そして、一番大きな氷の塊を手に取った。
ガラッ
メイド「では失礼いたし──」
主人「──プププゥッ!」
主人は口の中で噛み砕いた大量の氷を、メイドめがけて吹きかけた。
メイド「!」
主人(よし、さすがに怯んだか!)
すかさず主人は、浴槽から飛び出す。
主人は右手に持っている大きな氷塊でメイドの頭を殴りつけた。
ガゴンッ!
主人(クリーンヒットォ! ……いや、これは──)
メイド「危ないところでしたわ」
メイドは石鹸で氷をガードしていた。
メイド「!」
主人(よし、さすがに怯んだか!)
すかさず主人は、浴槽から飛び出す。
主人は右手に持っている大きな氷塊でメイドの頭を殴りつけた。
ガゴンッ!
主人(クリーンヒットォ! ……いや、これは──)
メイド「危ないところでしたわ」
メイドは石鹸で氷をガードしていた。
主人はパジャマに着替えると、風呂場での攻防の感想を述べた。
主人「さっきは鳥肌が立ったよ」
メイド「氷水に浸かったからではありませんか?」
主人「いや、さっきの連続攻撃は我ながら完璧だと思ったんだが──」
主人「アレを瞬時に石鹸でガードしてみせた君に、鳥肌が立ったんだ」
主人「君の冷静さに比べれば、氷水などぬるま湯にも等しい」
メイド「ありがとうございます」
主人「では、今夜はもう休むとするよ。おやすみ」
メイド「おやすみなさいませ、ご主人様」
主人は寝室に入っていった。
主人「さっきは鳥肌が立ったよ」
メイド「氷水に浸かったからではありませんか?」
主人「いや、さっきの連続攻撃は我ながら完璧だと思ったんだが──」
主人「アレを瞬時に石鹸でガードしてみせた君に、鳥肌が立ったんだ」
主人「君の冷静さに比べれば、氷水などぬるま湯にも等しい」
メイド「ありがとうございます」
主人「では、今夜はもう休むとするよ。おやすみ」
メイド「おやすみなさいませ、ご主人様」
主人は寝室に入っていった。
主人が眠りにつくと、朝と同じくメイドは後片付けを始める。
投げつけた道具の数々、砕けた廊下、びしょぬれの風呂場などを
猛スピードでまるで戦いなどなかったかのように清掃・修復する。
これが終わると、彼女も就寝することになる。
メイド(先ほどのご主人様の攻撃は見事でしたわ)
メイド(私が作った氷風呂を逆に利用するなんて……)
メイド(石鹸でのガードが間に合わなければ、頭部打撲は避けられなかったでしょう)
メイド「さすがは、私のご主人様……」
メイドはぽつりと、そう漏らした。
このようにして、この家の一日は終わりを告げる。
投げつけた道具の数々、砕けた廊下、びしょぬれの風呂場などを
猛スピードでまるで戦いなどなかったかのように清掃・修復する。
これが終わると、彼女も就寝することになる。
メイド(先ほどのご主人様の攻撃は見事でしたわ)
メイド(私が作った氷風呂を逆に利用するなんて……)
メイド(石鹸でのガードが間に合わなければ、頭部打撲は避けられなかったでしょう)
メイド「さすがは、私のご主人様……」
メイドはぽつりと、そう漏らした。
このようにして、この家の一日は終わりを告げる。
楽しかった
>>1乙
>>1乙
<町中>
ある日の午後、メイドは買い物をしていた。
すると──
少年「あ、ボールが道路に転がっちゃった」
母「ダメよ、飛び出しちゃ!」
ブロロロロロッ
少年「あ」
母「イヤアアアッ!」
少年の目前に、大型トラックが迫っていた。
それを見つけたメイドは走った。
ある日の午後、メイドは買い物をしていた。
すると──
少年「あ、ボールが道路に転がっちゃった」
母「ダメよ、飛び出しちゃ!」
ブロロロロロッ
少年「あ」
母「イヤアアアッ!」
少年の目前に、大型トラックが迫っていた。
それを見つけたメイドは走った。
ダダダッ! パシッ!
メイドは目にも止まらぬ速さで子供をキャッチし、トラックの走行コースから離脱した。
メイド「お怪我はありませんか?」
少年「ご、ごめんなさい……。お姉ちゃん、ありがとう……」
母「本当にありがとうございます! なんとお礼をしたらいいか……」
メイド「いえ、それには及びません」
メイド「買い物途中ですので、これで失礼いたします」
何事もなかったかのように、メイドは買い物に戻った。
メイドは目にも止まらぬ速さで子供をキャッチし、トラックの走行コースから離脱した。
メイド「お怪我はありませんか?」
少年「ご、ごめんなさい……。お姉ちゃん、ありがとう……」
母「本当にありがとうございます! なんとお礼をしたらいいか……」
メイド「いえ、それには及びません」
メイド「買い物途中ですので、これで失礼いたします」
何事もなかったかのように、メイドは買い物に戻った。
メイドはさっきの大型トラックと普段の主人との攻防を比較した。
メイド「………」
メイド(やはり、ご主人様の足元にも及びませんわね)
メイドにとっては高速で突っ込んでくるトラックよりも、
毎日の主人との戦いの方がよっぽどスリリングであった。
メイド「………」
メイド(やはり、ご主人様の足元にも及びませんわね)
メイドにとっては高速で突っ込んでくるトラックよりも、
毎日の主人との戦いの方がよっぽどスリリングであった。
<駅 プラットホーム>
ある日の夜、主人は帰りの電車を待っていた。
すると──
サラリーマン(なんということだ。リストラされてしまうとは……)
サラリーマン(妻よ、子よ、許してくれっ!)
バッ!
一人のサラリーマンが線路の中に飛び込んだ。
もう電車は目前まで迫っていた。
ある日の夜、主人は帰りの電車を待っていた。
すると──
サラリーマン(なんということだ。リストラされてしまうとは……)
サラリーマン(妻よ、子よ、許してくれっ!)
バッ!
一人のサラリーマンが線路の中に飛び込んだ。
もう電車は目前まで迫っていた。
シュバッ!
主人は線路の中に飛び込むと、サラリーマンを担ぎ上げ、
瞬く間に線路から脱出した。
その一秒後、急行電車が高速で駆け抜けていった。
サラリーマン「はぁ、はぁ。す、すいませんっ……!」
主人「大変な勇気です」
主人「死にたくないばかりに、毎日見苦しく格闘している俺には到底できない芸当です」
主人「それほどの勇者であるあなたに感動し、つい余計なマネをしてしまいました」
主人「ジャマをして申し訳ありませんでした。では……」
サラリーマン「あ、いえ……」ハァハァ
サラリーマン(行ってしまった……。いったい何者だったんだろう、彼は……)ハァハァ
サラリーマン(私が勇者……か……)ハァハァ
サラリーマン(もう一度……私も立ち上がってみるか……)
主人は線路の中に飛び込むと、サラリーマンを担ぎ上げ、
瞬く間に線路から脱出した。
その一秒後、急行電車が高速で駆け抜けていった。
サラリーマン「はぁ、はぁ。す、すいませんっ……!」
主人「大変な勇気です」
主人「死にたくないばかりに、毎日見苦しく格闘している俺には到底できない芸当です」
主人「それほどの勇者であるあなたに感動し、つい余計なマネをしてしまいました」
主人「ジャマをして申し訳ありませんでした。では……」
サラリーマン「あ、いえ……」ハァハァ
サラリーマン(行ってしまった……。いったい何者だったんだろう、彼は……)ハァハァ
サラリーマン(私が勇者……か……)ハァハァ
サラリーマン(もう一度……私も立ち上がってみるか……)
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