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元スレほむら「あなたの欠片を」
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「これはまた、大勢でお出ましね」
「何だこの量、いくらなんでも捌ききれねーぞ!?」
「どうすれば……!?」
「落ち着きなさい」
「死ぬわよ」
混乱した頭は、その刺すような一言で何とか落ち着きを取り戻す。
さっきよりも増えているのではないかと思うくらいの数。
冷えた頭に追い討ちのように、纏わり付くような悪寒が走る。
死んでしまう。
その恐怖は、がっちりと私の足を掴んで離そうとしない。
「暁美さん、佐倉さん、早く逃げなさい。 こいつらは私が引き受けるわ」
進むことも戻ることも出来ず、ただ逃げ惑うだけの戦闘。
その中で巴マミが、絶望的な言葉を口にした。
絶対に受け入れられない提案を。
「ふざけんじゃねえ! てめえだけ置いて逃げられるか!」
「あなたが残った所で、私と一緒に死ぬだけよ」
「…………てめえ、囮になる気すらねえじゃねえか……!」
「そうね。 でも、全員共倒れよりまし」
冗談じゃない。
あなたを引き入れた私が、あなたを見捨てて逃げられるものか。
そう告げようとした所で、また光線が足場を崩す。
「あなたを残すくらいなら、私が残る!」
「聞き分けのないことを言わないで」
目まぐるしく飛び回りながら、それでも声を張り上げる。
けれど彼女の心は揺るがない。
静かな声には、絶望など微かにも感じさせない強靭な意志が。
「そもそも、逃げられるのはきっとあなただけ」
「誰かが足止めをして、あなたが全速力で飛んで、それでやっと」
「佐倉さんは足止めには向かないから」
「行きなさい」
そう言い遺し、一人魔獣の前に立ち聳える。
背筋を伸ばして、前を見つめて。
刹那、どこにそれだけの力を残していたのか、視界を埋め尽くすほどのマスケット銃を呼び出した。
「お前、本当に」
いや、真に力は尽き果てていた。
今現れ出ているそれは、文字通り命を削って創り出されたもの。
その証拠に、美しい飴色をしていた彼女のソウルジェムは、急速にその輝きを失っていく。
これが現実だった。
どうしようもない現実だった。
私は杏子を抱え、背を向けて走り出す。
「じゃあね、二人とも。 あなたたちを守れただけでも、私は満足よ」
「クソッ、離せ! 離せよ! あたしはこんなこと望んでねえぞ!」
暴れる杏子を必死に抑え込みながら、銃撃音と共に羽を広げ飛び上がる。
地面に突き刺さるいくつもの光条は、決して私たちの体を焼くことはない。
「あなたは、逃げなくていいの」
「最後くらいは看取らせてもらおうと思ってね」
「そう」
「なに、僕は体をいくつも持っているから」
「羨ましいわ」
背後に不退転の証を刻んだけれど。
もとより動くつもりなどない。
「怖くないのかい?」
「怖いに決まってるじゃない」
「それなら」
「何で笑ってるんだい?」
「さて、どうしてかしら」
誰かの為に生きて死ぬ。
それはきっと私の本望。
この生命を燃やし尽くそう。
他の誰でもない私の為に。
*****************************************
降り立つ場所は巴マミの部屋。
結界を抜け、元の世界へ辿り着いた。
腕の中の杏子はもう暴れる気配もない。
静かに床へ座らせると、そのまま崩れ落ちる。
ただただ言葉が出ない。
せめてと、空間の歪みに視線を移す。
どうか奇跡が起こりますようにと。
彼女が五体満足で、余裕の笑みを浮かべながら出てきますようにと。
いや、少しくらい怪我をしているかもしれない。
それならちゃんと手当てをしてあげないと。
そんな儚い願いを。
当たり前のように現実は壊していく。
歪みは一瞬生き物のように蠢き、震えながら物体を吐き出して消える。
それは透明な欠片。
かつんと床に跳ね返り、何度か乾いた音を立てて転がる。
ただ、それだけだった。
「なんでだよ」
「どうしてマミが、死ななくちゃいけないんだよ…………」
吐き捨てるような声。
その問いには答えられない。
「ごめんなさい」
「ごめんなさい…………」
ただ訳も分からず、口から零れる謝罪。
きっとそれは彼女を苛立たせるだけだろう。
分かっていても止められずに。
いたずらに互いの心を傷付けていく。
そんな負の連鎖を断ち切ったのは、どういう因果かこの生き物だった。
「その問いには、僕が答えられるかもしれないね」
「キュゥべえ……?」
「まず断っておくけど、これは僕の推測にすぎない」
「暁美ほむら、君の話が全て正しいと仮定したときの話だ」
「鹿目まどかという魔法少女は世界を改変した」
「魔法少女が絶望して魔女が生まれる、そんな仕組みを消滅させた」
「するとどうなるだろう?」
「魔女に殺されるはずだった人が生き延びて、生まれるはずではなかった命が生まれる」
「過去現在未来、全ての時間軸に跨ってそれだけの干渉を行ってしまったのなら」
「それは世界を一つ作り直すことに等しい、人の営みを一からやり直すことに等しい」
「以前と同じような縁を持って生きる事など、ありえないだろう」
「でも、君達は何も変わらずここにいる。 暁美ほむら、君がその生き証人だね」
「さあ、質問だ」
"暁美ほむら、君は何故ここにいる?"
まどかと最期に概念になる瞬間まで会えたのって時間遡行者だったからだっけ
その問いは鋭く私の胸を抉り取る。
鉛を詰め込まれたような重みが五臓六腑に圧し掛かる。
答えは無意識に、私の唇から紡ぎ出される。
「魔獣、が」
「その通りだろうね」
口の中がカラカラに乾いていく。
二の句は紡げない。
最悪の想像が、肯定によって返され、思考は下り坂を転がり落ちていく。
「魔女に殺されず生き残ったXが、本来Bと子を成すはずのAと子を成したりしたら」
「まあ、君や、マミたちが産まれて来る保証は、どこにもないよね」
「けど、かつて魔女に殺されたモノが、魔獣によってまた殺されるとしたら、辻褄は合う」
「巴マミは君の世界で、そういう死に方をしたんじゃないのかい?」
ただ無情に、言葉は音に乗って私の頭を蝕んでいく。
こみ上がる感情は強烈な吐き気へと変わり、逃げるように手洗いへと飛び込んだ。
「何言ってるのか、さっぱりなんだけどさ」
「無理もないことだね、そもそも僕だって半信半疑だ」
「マミの奴は、前の世界がどうのこうのって、そんな報われない理由で死んだってのかよ」
「まあ、幸せそうに見えたけどね」
「はあ?」
「僕にもわけがわからないよ、死に逝く子があんな表情をするなんて」
「あの野郎……」
体を引きずる。
泥の中を泳ぐように重い。
「杏子」
居間で俯く彼女に言わなければならないことがある。
キュゥべえの推測が真実である保証など、どこにもないが。
私にはもう、選択の余地もありはしなかった。
言葉を続けようとして、
「回復したら、行くよ」
「…………え?」
「次の場所、心当たりあるんだろ」
そして先手を奪われる。
「あなたは連れて行けない」
「何でだよ」
「命の保証、もう私には出来ないから」
「何であんたにあたしの命を保証してもらわなきゃいけねーんだよ」
「それは、だって」
「バカにすんな」
涙の筋を残しながら。
それでも彼女は、胸を張って言い放つ。
「この命はあたしだけのもんだ。
何のために動いて、何のために動かないかなんて、誰かにとやかく言われるもんじゃない」
もう私には、何も言い返すことはできない。
その先にある未来が視えてなお、彼女の歩みを止めることはできない。
「あの子の暮らしていた家に、きっと」
いつしか賽は振られていた。
*****************************************
ふと、自分の記憶を辿ってみる。
ろくでもない人生だった。
大切に思った家族を失い、友人を失い、仲間を失った。
神サマなんてモノは、本当にいるのだろうか?
もしいるのなら、どうしてこんなに残酷な世界を作ったのだろう?
でも、世界の理とやらは、意外と人の手でどうにかできるものらしい。
それなら、奇跡を起こしてしまえるような奴なら、きっとどうにかできるよね。
ただ自分のために力を使うと決めておいて、皮肉なものだけど。
それも悪くないかな。
「君も笑うんだね」
「やるべき事が分かったからな」
祈りを捧げる。
どうかあなたの進む道に、幸運がありますように。
「分かっていたことなんだろう?」
その声はとても遠い。
耳には届いているのに、頭が理解しようとしない。
「彼女もまた、そういう運命を背負っていた」
かつて鹿目まどかが暮らした家の屋根の上に、私は一人横たわる。
胸に透明な欠片を抱きながら。
佐倉杏子がその命と引き換えに、遺して託した結晶を握り締めながら。
頭の中には彼女の遺言が、止め処なく回る。
ぐるぐるぐるぐる回る。
『最後くらいはさ、誰かのために生きたいんだよ』
やっぱり最初から死ぬつもりだったんじゃないのか。
文句は幾らでも湧き出るのに、それをぶつける相手はいない。
どこにもいない。
ただ生温い風が私の体を撫でて行く。
結局また私は、ひとりぼっちになってしまった。
「君はこれからどうするんだい」
「――――決まってる」
唇を硬く硬く噛み、その痛みで無理やりに思考を現実へ戻す。
私のやるべきことは、たった一つだったはず。
手の中でその存在を主張する三つの欠片へ視線を落として。
「次の場所へ」
今はまだ泣く時じゃない。
*****************************************
視界を覆うは夕暮れ空。
無骨なビル街の片隅を赤く染め上げる。
昼の光と夜の影が交差するこの時間帯は、逢魔時や誰彼時とも称される。
魔とはこの世の存在ならざるもの。
では今、私の目の前に立つ彼女は何か。
予想外のこの状況に、言葉にならない思いが溢れ、巡り、ようやく形になる。
「まど、か」
「ほむらちゃん」
初め向こうを向いていた彼女は、ゆっくりと見上げるような形で振り返る。
夕日に照らされて表情はよく分からない。
その姿は、いつか最後に見た、別れたときのもの。
髪は長く伸びて揺蕩い、荘厳さすら感じさせる白き装いに身を纏う。
記憶に強く焼き付く彼女とは、似ても似つかない。
それでも彼女は、確かにまどかだった。
返ってきた声がその証だった。
握り締める欠片が脈動している。
還るべき所に還って来たと主張している。
「まどか…………まどか…………!」
足取りはおぼつかない。
震える体は言う事を聞かない。
それでも少しずつ、少しずつ、足を前に進める。
心から希ったその人の存在を確かめようと。
そして、彼女は首を横に振る。
とても哀しそうな顔をして、拒絶するように。
「っ、あ」
気付けば、手の平から欠片が零れていた。
私の手を離れ、吸い寄せられるようにまどかの所へと飛び、
彼女の手の中で、砂粒と解けていく。
粒子は高く空へと立ち昇り、三重の螺旋を描いてまどかを包み込む。
そして、まどかもまた、光の粒へと崩れていく。
「ほむらちゃん、ありがとう」
「わたしはやっぱり、この世界にいちゃいけないから」
「だから、持って行くね」
欠片は次第にその形をなくしていく。
透き通るその光の中に、見つける色は赤と青と黄色。
「なんで、どうして」
「この欠片ね、みんなの中のわたしの記憶なんだ」
「みんな、の?」
「うん」
思い返してみれば、これらの欠片を得たのはどこだったか。
地下鉄のホーム。美樹さやかが死んだ。
巴マミの家。巴マミが死んだ。
まどかの家。佐倉杏子が死んだ。
みんな死んで、その代わりに欠片が落ちた。
その関係はまるで、魔獣と魔獣が持つグリーフシードの関係のようで。
「そんな、それなら、私のしたことって」
そんなの、だって。
つまり、私が欠片を集めようとしていたってことは。
魔法少女と魔獣とグリーフシードの関係を、そのまま私と彼女たちと欠片の関係に置き換えてみれば。
「私がみんなを、殺したようなものじゃない」
音にすることで、その言葉は私を押し潰していく。
がくりと膝をつき、力なく地面にくずおれる。
立っている事はもうできなかった。
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