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元スレ刹那「IS?」
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今の刹那は招かれざる来訪者である。
振り返るわけにはいかなかった。
再び、沈黙。
だが、眼鏡の女性が戻ってきたことで、その空気は打ち破られた。
「あの、先生……」
先生。なるほど、学園と言うだけあり、スーツの女性は教職に就いているらしい。
刹那を尻目に、眼鏡の女性はスーツの女性にいくらか耳打ちする。
「……それは、確かか」
「ええ。今、直接指示が来ました」
「……そうか」
スーツの女性はもう一度複雑な表情を作って、刹那を見据えた。
「……付いて来い」
◆
振り返るわけにはいかなかった。
再び、沈黙。
だが、眼鏡の女性が戻ってきたことで、その空気は打ち破られた。
「あの、先生……」
先生。なるほど、学園と言うだけあり、スーツの女性は教職に就いているらしい。
刹那を尻目に、眼鏡の女性はスーツの女性にいくらか耳打ちする。
「……それは、確かか」
「ええ。今、直接指示が来ました」
「……そうか」
スーツの女性はもう一度複雑な表情を作って、刹那を見据えた。
「……付いて来い」
◆
案内された先は、格納庫のような場所だった。
灯りはぼけており、いまいち薄暗い。
壁にはいくつもの焦げや傷がそのままに放置されており、ここが長い間使われてきたのだろうことを直感させる。
外見は違えど、用途はプトレマイオスのドックと変わらない。
ならば、ここにはMSに相当する兵器の類が存在するはずだが、
「これだ」
手の甲でノックするように、スーツの女性は目的のモノを示した。
第一印象としては、強化装甲、だろうか。
ヒトガタのモノが装甲することを前提に設計されたのだろう、
腕部と脚部を保護するように備え付けられた鋼鉄と、既存のMSにおけるスラスター代わりの翼が備え付けられている。
MSと言うより、ガンダムのアタッチメントとしての色が強いGNアームズに近い。
これは何だ、と視線で問うと、本当に知らないのか、とどこか驚いたように、スーツの女性は言った。
「ISだ。試験で使用したもので、正式機ではないがな」
これが、何度か話に出ていたISと言うやつか。
刹那の記憶には、全く引っかかるところがなかったが。
「あの……本当に、ISのことをご存知ないんですか?」
眼鏡の女性が、横から刹那の顔を覗き込む。
ああ、と刹那が答えると、眼鏡の女性はスーツの女性を一瞥してから、説明を始めた。
◆
(ティエリア、記録には?)
≪いや……僕の記憶が確かなら、ヴェーダにも記述がない単語だ。
インフィニット・ストラトス……これほどのものが、ヴェーダの情報網から漏れていたとは思えないな≫
(ああ。何にしろ、時代に対して技術が進みすぎている。
単体で飛行し、なおかつ戦闘すら可能……
俺たちの世界なら、今頃、軍事運用されていてもおかしくはない)
眼鏡の女性から一通りの講釈を受け、刹那は改めて自身の置かれた状況と、それに付随する異常性を認識した。
インフィニット・ストラトス。宇宙空間での活動を想定し、開発されたマルチフォーム・スーツ。
サイズに比して、異常なまでに高い能力値を誇るその技術。
しかし、女性にしか動かせないと言う独自のルール。それによる、女尊男卑の風潮。
ましてや世界中に公開されているのだから、刹那らソレスタルビーイングが知り得ないはずがないのだ。
だが、目の前の女性二人は、知っていて当然であるとばかりに話を進めていた。
≪いや……僕の記憶が確かなら、ヴェーダにも記述がない単語だ。
インフィニット・ストラトス……これほどのものが、ヴェーダの情報網から漏れていたとは思えないな≫
(ああ。何にしろ、時代に対して技術が進みすぎている。
単体で飛行し、なおかつ戦闘すら可能……
俺たちの世界なら、今頃、軍事運用されていてもおかしくはない)
眼鏡の女性から一通りの講釈を受け、刹那は改めて自身の置かれた状況と、それに付随する異常性を認識した。
インフィニット・ストラトス。宇宙空間での活動を想定し、開発されたマルチフォーム・スーツ。
サイズに比して、異常なまでに高い能力値を誇るその技術。
しかし、女性にしか動かせないと言う独自のルール。それによる、女尊男卑の風潮。
ましてや世界中に公開されているのだから、刹那らソレスタルビーイングが知り得ないはずがないのだ。
だが、目の前の女性二人は、知っていて当然であるとばかりに話を進めていた。
(……やはり)
≪ああ、刹那の予想通りかもしれない。
この星は、僕たちの知っている地球ではない。だが、ここは地球だ。
平行世界、と言う可能性もあるが……やはり、地球に酷似している星に流れ着いた、と見ていいだろう≫
話を切り上げた眼鏡の女性に、
ティエリアとの話を終わりにして、刹那は感謝の気持ちを伝える。
「すまない、助かった……、」
「あ、自己紹介がまだでしたね。私は、山田 真耶です」
「……私は織斑 千冬だ」
二人の名前をようやく聞き出した刹那は、本題に話を戻すべくスーツの女性―――― 千冬を見やる。
とうにわかっていたのだろう、千冬は刹那に目を向けて、
≪ああ、刹那の予想通りかもしれない。
この星は、僕たちの知っている地球ではない。だが、ここは地球だ。
平行世界、と言う可能性もあるが……やはり、地球に酷似している星に流れ着いた、と見ていいだろう≫
話を切り上げた眼鏡の女性に、
ティエリアとの話を終わりにして、刹那は感謝の気持ちを伝える。
「すまない、助かった……、」
「あ、自己紹介がまだでしたね。私は、山田 真耶です」
「……私は織斑 千冬だ」
二人の名前をようやく聞き出した刹那は、本題に話を戻すべくスーツの女性―――― 千冬を見やる。
とうにわかっていたのだろう、千冬は刹那に目を向けて、
「これに乗ってみろ」
女性にしか動かせないと聞いたが、と刹那は反論しかけて、自身がイノベイターであると告白した事実を思い出した。
おそらくは、先ほど千冬の尋問を監視していた何者かが、眼鏡の女性――――真耶に指示したのだろう。
ISを動かせるかどうか、試してみろ、と。
≪価値があるかもしれん故に生かされているようだな。
刹那、いざとなれば切り捨てられかねない。警戒は怠るな≫
(了解した)
相手は生身の侵入者、そんな相手を自由にさせる理由など、身内に取り込める可能性があるからに他ならない。
これでISを動かせれば、学園側としては世界初の男性IS操縦者を取り入れ、
駄目なようであれば侵入者として排除する。なるほど、ローリスクでハイリターンな賭けだ。
女性にしか動かせないと聞いたが、と刹那は反論しかけて、自身がイノベイターであると告白した事実を思い出した。
おそらくは、先ほど千冬の尋問を監視していた何者かが、眼鏡の女性――――真耶に指示したのだろう。
ISを動かせるかどうか、試してみろ、と。
≪価値があるかもしれん故に生かされているようだな。
刹那、いざとなれば切り捨てられかねない。警戒は怠るな≫
(了解した)
相手は生身の侵入者、そんな相手を自由にさせる理由など、身内に取り込める可能性があるからに他ならない。
これでISを動かせれば、学園側としては世界初の男性IS操縦者を取り入れ、
駄目なようであれば侵入者として排除する。なるほど、ローリスクでハイリターンな賭けだ。
膝をついているISに歩み寄り、刹那は右手でその装甲に触れる。
もしISがイノベイター、もしくは脳量子波に反応するのであれば、何らかのリアクションがあるはずだ。
……が、
もしISがイノベイター、もしくは脳量子波に反応するのであれば、何らかのリアクションがあるはずだ。
……が、
支援ありがとう でも投げっぱなしエンドなのであんまり期待しないでね
≪……やはり失敗か≫
(そのようだ……!?)
案に相違しなかった結果を受け入れ、刹那が右手を離そうとした瞬間。
接触したポイントを介し、ELSが行動を開始した。
同化・融合によるコミュニケーション。
対象が金属であれば、その融和性はより高くなる。
≪刹那!≫
止めろ! そうティエリアが口にする寸前。
それよりも早く、ELSは作業を終了させていた。
≪……やはり失敗か≫
(そのようだ……!?)
案に相違しなかった結果を受け入れ、刹那が右手を離そうとした瞬間。
接触したポイントを介し、ELSが行動を開始した。
同化・融合によるコミュニケーション。
対象が金属であれば、その融和性はより高くなる。
≪刹那!≫
止めろ! そうティエリアが口にする寸前。
それよりも早く、ELSは作業を終了させていた。
ISが、淡い緑色に輝き。
右腕には巨大な実体剣が、左腕には楕円形の盾が。
肩部装甲は上方へと跳ね、頭部にはV字型のアンテナが形作られる。
≪これは……≫
「エクシア……!?」
ELSが融合し、変化させた形状は、奇しくも、刹那の中でも強いイメージ――――ガンダムエクシアのものであった。
「……うわぁ~……」
「……驚いたな。まさか、適応を通り越して形態移行にまで持っていくとは……」
学園の教師二人は、鳩が豆鉄砲を食らったように呆気に取られている。
男性がISを作動させられるだけでも、既に常識外れのことなのだ。
それが、よもや触れるだけで自己進化にまで持ち込もうとは。
これも、ある種の変革なのだろうか。
◆
それから、刹那は千冬とも真耶とも違う職員に連れられ、とある一室に通された。
持ちかけられたのは、IS学園に入らないかと言う誘いである。
世界で唯一の男性操者を、みすみす手放したくはない、ということだろう。
≪どうするつもりだ、刹那≫
(……他に方法がない)
結局、刹那はその申し出に対しイエスと答える他なかった。
ノゥと答えれば、即座に不法侵入でブタ箱送りなのである。
クアンタに搭乗すれば簡単に脱出できるだろうが、死傷者が出てしまうことは確実だ。
イエスと答え、すぐに逃げ出す選択肢はないでもなかったが、
先ほどの部屋にもカメラがしかけられていたのだ、こっそり脱走しようとしたところで、見つかって強制送還されるのがオチだ。
それに、ここを飛び出したところで、行くアテなどなかった。
比較的科学技術の進んでいるこの施設ならば、星間航行や元の地球に帰る方法も見つかるかもしれないと言う利点もある。
ともあれ、宇宙空間をひたすら彷徨い続けるよりマシだろう。
ひとまずはここを拠点として、帰還の手段を探さなければならない。
≪……こうなった以上は仕方がないな。
ISも随分なオーバーテクノロジーだ、何か足がかりに出来るかもしれない≫
(すまない、ティエリア。また付き合わせることになる)
≪慣れたさ。それに、どのような任務もこなすのが、ガンダムマイスターだろう?≫
(……ああ、そうだな)
二人は、小さく笑った。
◆
刹那に与えられた私室は、なかなかに豪勢なものであった。
もともとは二人用の部屋だったのだろう、学生一人にくれてやるにしては広すぎる。
まあ、同室の人間がいては、監視にも不便だからだろう。
あの後、真耶から連絡があった。
何でも、明日から早速授業を受けることになるらしい。
外見年齢23歳、実年齢73歳の男に高校の授業を受けさせるのかと思わないでもなかったが、ISの操作に関して、刹那はズブの素人である。
部屋の壁にかけられた男性用の制服と、机の上に詰まれた分厚い参考書をちらと見て、仕方がないことだ、と刹那は割り切る他なかった。
◆
「今日はなんと、転校生を紹介します!」
教室に、真耶の元気な声音が響く。
そこかしこから上がる黄色い声は全て女性のもので、事実、この教室には女子生徒の姿しか見えなかった。
それもそのはず、ISとは女性にしか操作できないもの。IS専門の学校であるIS学園に男子生徒がいないのは、当然のことである。
が。
教室のドアがスライドし、来訪者を招きいれた。
途端、皆が黙る。虚を突かれた女子生徒全員、あっけらかんと固まっている。
教壇の隣に到達したその人物は、落ち着いた声色で名乗った。
「……刹那・F・セイエイだ」
◆
そういや刹那って子供の頃から戦ってばっかりだったから学校には行ったことないんだよな
「よろしく頼む」
刹那が自己紹介を終えると同時、この時を待っていたかのように、再度黄色い歓声が教室中を包み込む。
鼓膜をブチ抜こうかと言う言葉の波を受けてなお、刹那は直立不動であった。
ELSである彼の体は、強靭なのである。
(……やはり、擬似人格タイプR35を使用した方が)
≪……悪いことは言わない。やめておいた方がいい≫
無難な選択が無難に成功したことに、ティエリアはほっと胸をなでおろした。
流石に、この精悍な顔つきをした男が開口一番
「ちょりぃっす~! 転校生の刹那でぇす、よろしちょりぃ~っす」などと言おうものなら、空気が凍てつきかねない。
しかし、随分な対応である。それほど、世界初の男性操縦者と言うネームバリューは大きいのだろう。
もっとも、刹那がISに適応していたわけではなく、ELSと同化させることで強引に操っているだけなのだが。
ひとまずは、この歓迎に対してどう応えたものかと、刹那は頭を悩ませた。
◆
>>(……やはり、擬似人格タイプR35を使用した方が)
≪……悪いことは言わない。やめておいた方がいい≫
クッソワロタwwwwwwwwwww
≪……悪いことは言わない。やめておいた方がいい≫
クッソワロタwwwwwwwwwww
授業そのものは、特殊なものではあれど、説明があり、サンプルがある以上、
イノベイターである刹那からすれば、不可能と言うほどではなかった。
そも、彼はELSと同化することによって、脳まで金属と化しているのである。
情報の記録・活用・処理においては、人間と比して比べ物にならないほど発達しているのだ。
さしたる障害もなく、刹那は授業を乗り越えた。
◆
イノベイターである刹那からすれば、不可能と言うほどではなかった。
そも、彼はELSと同化することによって、脳まで金属と化しているのである。
情報の記録・活用・処理においては、人間と比して比べ物にならないほど発達しているのだ。
さしたる障害もなく、刹那は授業を乗り越えた。
◆
「あの子よ、世界で唯一ISを使える男性って!」
「入試の時にISを動かしちゃったんだってね~!」
「世界的な大ニュースだったわよね!」
「やっぱり入ってきたんだ……!」
「ねえ、話しかけなさいよぅ」
「私、行っちゃおうかしら……」
「待ってよ、まさか抜け駆けする気じゃないでしょうね!」
きゃいきゃい姦しく騒ぐ女性陣の真っ只中に、刹那はいた。
やはり、入学式の次の日に来た転校生であり、世界で唯一の男性IS適合者ともなれば、その名前には相当の価値がある。
まあ、入試など受けていないから、それらは学園側が用意したデマゴギー、あるいはプロパガンダなのだろうが。
(争いがない……皆、自分が生きたいように生きている。
歪みが断たれた先には、このような世界が待っているのか)
だが、椅子に腰掛け、教室を観察している刹那の意思は、それとはズレたところにあった。
そもそも、刹那は幼いころには少年兵として、高校に通うべき時期には既にガンダムマイスターとして活動していたのだ。
彼にとって、学園と言う舞台は初めての経験なのである。
このような世界を、作っていければ。そう夢想の海へ沈もうとする刹那を、ふと声が呼び止めた。
「ちょっとよろしくて?」
振り向くと、そこには女生徒が一人。
腰まで伸びた長い金髪、サファイアのような深い青の瞳。
まるで人形のようなかわいらしさと、それに反して色気を感じさせる女性らしさが同居しており、文句なしで美人と言えるだろう。
刹那は少女の存在に気づくと、反射的に問い返す。
「俺に何か用か?」
「まあ! 何ですのそのお返事!
私に話しかけられるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度と言うものがあるのではないかしら?」
「……すまない」
何やら尊大な物言いで言葉を並べ立てる少女に、刹那は思わず謝っていた。
これと言って罪悪感もないが、まあ遠まわしに謝れと言われているのだから、謝るほかないというものである。
「あら、一応の礼儀はわきまえておりますのね。
いいでしょう、このセシリア・オルコットは貴族なのですから、下々の者にも寛大であらねばなりませんもの」
――――セシリア・オルコット。
その名前には、刹那にも覚えがあった。
「セシリア・オルコット……イギリスの代表候補生か」
代表候補生。
国家を代表するIS操縦者の候補生として選出される、超エリートである。
読んで字の如く、‘代表’の‘候補生’なのだ。
専用機を所持しているとかで、一年生の中でも、かなりの有名人である。
周囲の生徒が噂しているのを、刹那も耳にしていた。
「ええ、ええ、いかにも!
代表候補生、即ちエリートなのですわ!
本来なら、私のような選ばれた人間とクラスを同じくするだけでも奇跡! 幸運なのよ!」
自分のペースでべらべら喋っている少女、セシリア。
「その現実を理解して頂こうかと思いまして」
要するに、よろしくと言うことか。
そう解釈した刹那は、セシリアに向け頷いた。
「了解した」
「……あれ、私もしかしてバカにされていますの?」
「いや、そのつもりはない」
「はあ……そうですか」
何やら空回っている事実に気づいたのか、ややクールダウンしたセシリアは、小さく咳払いをして続ける。
「ともかく、私は優秀ですから。優しくしてあげますわよ?
わからないことがあれば、まあ泣いて頼まれたら教えて差し上げてもよくってよ?
何せ私、入試で唯一教官を倒したエリート中のエリートですから」
そう言われても、入試を受けていない刹那にはそれがどれほど難しいものなのかわからないが、
これだけ生徒が居て唯一なのだから、誇れるほどの腕前ではあるのだろう。
「そうか、これから頼む」
「ええ、もちろん! 私を頼ってくれていいんですのよ!」
何やらキラキラとまばゆいばかりのオーラを放っているので、
目の前の少女がそれでいいのならそれでいいか、と、そのうち刹那は考えるのをやめた。
◆
これだけ生徒が居て唯一なのだから、誇れるほどの腕前ではあるのだろう。
「そうか、これから頼む」
「ええ、もちろん! 私を頼ってくれていいんですのよ!」
何やらキラキラとまばゆいばかりのオーラを放っているので、
目の前の少女がそれでいいのならそれでいいか、と、そのうち刹那は考えるのをやめた。
◆
馬鹿!刹那さんは50年も話し相手がティエリアだけだったんだぞ!
常識も糞もあるか
常識も糞もあるか
一日が終わり、部屋へ戻る。
一日中女子にざわざわ騒がれていたが、文字通り鉄の心臓を持っている刹那は特に気にすることもなく、普通に過ごしていた。
むしろ、刹那の一日はここから始まるといってもいい。
(ティエリア、ダブルオークアンタは?)
≪海に隠してある。隠蔽工作は完璧と言ってもいい。誰かに気づかれた様子もない≫
(現在地の割り出しは?)
≪……芳しくないな。方位磁石が狂っているような状態だ≫
(……どうやら、地球とこの星では地理からして違うようだな)
一日中女子にざわざわ騒がれていたが、文字通り鉄の心臓を持っている刹那は特に気にすることもなく、普通に過ごしていた。
むしろ、刹那の一日はここから始まるといってもいい。
(ティエリア、ダブルオークアンタは?)
≪海に隠してある。隠蔽工作は完璧と言ってもいい。誰かに気づかれた様子もない≫
(現在地の割り出しは?)
≪……芳しくないな。方位磁石が狂っているような状態だ≫
(……どうやら、地球とこの星では地理からして違うようだな)
教室から借用した世界地図を、自室のカーペットの上に広げる。
ELSと同化したクアンタ=ターミナルユニットのティエリアと、刹那は別固体であり同一固体である。
視界の共有程度、難しいことではない。
(具体的な相違点として……まず、アザディスタンやクルジス、スイール等、中東諸国が存在しない)
それ以外の国名がそのままなのに対し、中東の国のみ、別の名前に置き換えられている。
アザディスタンにしろ、クルジスにしろ、ここ数百年で名称を変更したわけではないと言うのに。
(次に、連邦政府はおろか、ユニオンやAEU、人革連などの軍組織も構成されていないようだ)
代表候補生などのシステムなどから鑑みるに、それも当然だろうが。
≪僕たちの知る地球とは、随分と違っているな≫
何にせよ、現在位置すらままならない状態で量子ワープを使うのはリスキーすぎる。
微少であれど、太陽に突っ込んでしまう可能性すら存在しているのだ。下手には動けない。
とにかく、クアンタのシステムとこの地球とを上手くすり合わせ、もう一度量子ワープで移動するしかないのだ。
しばらくは、その調整にかかりきりにならねばならないだろう。
(先は長いが……必ず会いに行く)
だから、待っていてくれ。口に出さず、刹那は決意を深めた。
◆
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