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    元スレ朋也「軽音部? うんたん?」

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    スレッド評価: スレッド評価について
    みんなの評価 : ★★★×5
    タグ : - 魔王 + - CLANNAD + - けいおん! + - クラナド + - ドラクエ + - 朋也 + - 朋也「けいおん?うんたん + - 涼宮ハルヒの憂鬱 + 追加: タグについて ※前スレ・次スレは、スレ番号だけ登録。駄スレにはタグつけず、スレ評価を。荒らしタグにはタグで対抗せず、タグ減点を。
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    551 : 以下、名無しにか - 2010/09/25(土) 20:13:32.63 ID:1qYNd8dxO (+60,+30,-183)
    朋也「………」

    こいつの言わんとすることはわかる。
    つまりは…

    春原「行ってみない? 軽音部」

    どういう心境の変化だろう。こいつも丸くなったものだ。
    でも…

    朋也「…行くか。どうせ、暇だしな」

    俺も、同じだった。

    春原「ああ、暇だからね」

    弁当箱を小脇に抱えた平沢が戻ってくるのが見える。
    あいつに言ったら、どんな顔をするだろうか。
    喜んでくれるだろうか…こんな俺たちでも。
    だとするなら、それは少しだけ贅沢なことだと思った。

    ―――――――――――――――――――――

    がちゃり

    部室のドアを開け放つ。

    「ヘイ、ただいまっ」

    「おー、弁当箱回収でき…」
    552 : 以下、名無しにか - 2010/09/25(土) 20:13:58.69 ID:cUBlBpOS0 (+95,+30,-193)
    春原「よぅ、邪魔するぞ」

    朋也「ちっす」

    ずかずと入室する俺たち。

    「って、唯、この二匹も連れて来たんかいっ」

    春原「単位が匹とはなんだ、こらぁ」

    「遊びにきてくれたんだよん」

    「うげぇ、めんどくさぁ…」

    春原「あんだと、丁重にもてなせ、こらぁ」

    「いらっしゃい。今、お茶とケーキ用意するね」

    春原「お、ムギちゃんはやっぱいい子だね。どっかの部分ハゲと違ってさ」

    「どの部分のこと言ってんだ、コラっ! 返答次第では殺すっ!」

    「まぁま、りっちゃん、落ち着いて…」

    「ほら、岡崎くんも、春原くんも座った座った」

    平沢に促され、席に着く。

    「ぐぬぬ…」
    553 : 以下、名無しにか - 2010/09/25(土) 20:14:44.38 ID:630/GOrz0 (+22,+29,-2)
    1は休憩してないのか
    554 : 以下、名無しにか - 2010/09/25(土) 20:15:15.75 ID:1qYNd8dxO (+60,+30,-220)
    春原「けっ…」

    「険悪だねぇ~…それじゃ、仲直りに、アレをしよう」

    「はい、春原くん、これくわえて」

    春原「ん、ああ…」

    春原に棒状の駄菓子をくわえさせる。

    「で、りっちゃんは、反対側くわえて、食べていく」

    「そうすると、真ん中までいったとき、仲直りできますっ」

    「やっほう、た~のしそぅ~」

    春原「ヒューっ、最高にクールだねっ」

     「って、アホかっ!」
    春原「って、アホかっ!」

    「うわぁ、ふたり同時にノリツッコミされちゃった…」

    「こういう時って、どう反応すればいいのかわかんないよ…」

    「澪ちゃん、正しい解答をプリーズっ」

    「いや、別に何もしなくていいと思うぞ…」

    「何もしない、か…なるほど、深いね…」
    555 : 以下、名無しにか - 2010/09/25(土) 20:15:35.64 ID:cUBlBpOS0 (+95,+30,-199)
    「そのまんまの意味だからな…」

    「どうやら、私には高度すぎたみたいで、さばき切れなかったよ…」

    「ごめんね、りっちゃん、春原くん…」

    春原「僕、こいつの土俵に入っていけそうにないんだけど…」

    「ああ、心配するな。付き合いの長いあたしたちでも、たまにそうなるから」

    「えへへ」

    まるで褒められたかのように照れていた。

    「はい、ふたりとも。どうぞ」

    琴吹が俺と春原にそれぞれせんべいとケーキをくれた。

    春原「ありがと、ムギちゃん」

    朋也「サンキュ」

    「お茶も用意するから、待っててね」

    言って、食器棚の方へ歩いていく。

    「岡崎くん、おせんべいひとつもらっていい?」

    朋也「ああ、別に。つーか、俺も、譲ってもらった身だしな」
    556 : 以下、名無しにか - 2010/09/25(土) 20:16:06.46 ID:utjQfWBU0 (+19,+29,-4)
    ぶっ続けだよな・・・すごいな
    557 : 以下、名無しにか - 2010/09/25(土) 20:16:55.56 ID:1qYNd8dxO (+60,+30,-177)
    「えへへ、ありがと」

    俺の隣に腰掛ける。

    「唯先輩っ」

    それと同時、中野が金切り声を上げた。

    「な、なに? あずにゃん…」

    「そこに座っちゃダメです! 私の席と代わってください!」

    「へ? な、なんで…」

    「その人の隣は、危険だからですっ」

    「そんなことないよ、安全地帯だよ。地元だよ、ホームだよ」

    「違いますっ、敵地です、アウェイですっ! いいから、とにかく離れてくださいっ」

    席を立ち、平沢のところまでやってくる。

    「ふんっ!」

    「わぁっ」

    ぐいぐいと引っ張り、椅子から立たせた。
    席が空いた瞬間、さっと自分が座る。

    「うう…強引過ぎるよぉ、あずにゃん…」
    558 : 以下、名無しにか - 2010/09/25(土) 20:17:18.66 ID:cUBlBpOS0 (+95,+30,-207)
    肩を落とし、とぼとぼと旧中野の席へ。

    「………」

    中野は俺に嫌な視線を送り続けていた。

    「梓…なにも睨むことないだろ。やめなさい」

    「……はい」

    少ししおれたようになり、俺から目を切った。

    「ははは、相変わらず嫌われてんなぁ」

    朋也「………」

    春原「なに、おまえ、出会い頭にチューでもしようとしたの?」

    春原「ズキュゥゥゥウンって擬音鳴らしながらさ」

    朋也「無駄無駄無駄無駄ぁっ」

    ドドドドドッ!

    春原のケーキをフォークで崩していく。

    春原「うわ、あにすんだよっ」

    「おまたせ、お茶が入っ…」
    559 : 以下、名無しにか - 2010/09/25(土) 20:18:36.97 ID:1qYNd8dxO (+60,+30,-201)
    そこへ、琴吹がティーカップを持って現れた。

    「…ごめんなさい。ケーキ、気に入らなかったのね…」

    ぼろぼろになったケーキを見て、琴吹が悲しそうな顔でそうこぼした。

    春原「い、いや、これはこいつが…」

    朋也「死ね、死ね、ってつぶやきながらフォーク突き刺してたぞ」

    春原「僕、どんだけ病んでんだよっ!?」

    「…う、うぅ…」

    その綺麗な瞳に涙を溜め始めていた。

    「あーあ、春原が泣ぁかしたぁ」

    春原「僕じゃないだろっ!」

    春原「岡崎、てめぇっ!」

    朋也「そのケーキ、一気食いすれば、なかったことにしてもらえるかもな」

    春原「つーか、もとはといえばおまえが…」

    「…ぐすん…」

    朋也「ああ、ほら、早くしないと、本泣きに入っちまうぞ」
    560 : 以下、名無しにか - 2010/09/25(土) 20:19:00.41 ID:cUBlBpOS0 (+95,+30,-140)
    春原「う…くそぅ…」

    皿を掴み、顔を近づけて犬のように食べ始めた。

    「きちゃないなぁ…」

    春原「ああ~、超うまかったっ」

    たん、と皿をテーブルに置く。

    「あはは、なんだか滑稽♪」

    春原「切り替え早すぎませんかっ!?」

    「わははは! さすがムギ!」

    がちゃり

    さわ子「お菓子の用意できてるぅ~?」

    扉を開け、さわ子さんがだるそうに現れた。

    「入ってきて、第一声がそれかい」

    さわ子「いいじゃない、別に。って、あら…」

    俺と春原に気づく。

    春原「よぅ、さわちゃん」
    561 : 以下、名無しにか - 2010/09/25(土) 20:20:25.41 ID:1qYNd8dxO (+60,+30,-208)
    朋也「ちっす」

    さわ子「あれ、あんたたち…なに? 新入部員?」

    春原「んなわけないじゃん。ただ間借りしてるだけだよ」

    春原「まぁ、今風に言うと、借り暮らしのアリエナイッティって感じかな」

    某ジブリ映画を思いっきり冒涜していた。

    さわ子「確かに、そんなタイトルありえないけど…」

    さわ子「なに? つまるところ、たまり場にしてるってだけ?」

    春原「噛み砕いて言うと、そうなるかな」

    さわ子「…ダメよ。そんなの許されないわ」

    やはり、顧問として、部外者が居座ってしまうのを認めるわけにはいかないんだろうか…。

    「さわちゃん、どうして? 私たちは、別に気にしてないんだよ?」

    「私たちって…あたし、まだなにも言ってないんだけど」

    「じゃあ、りっちゃんは反対派なの?」

    「う…まぁ、いっても、そんな嫌って程じゃないけどさ…」

    「ほら、お偉いさんもこう言ってらっしゃるわけだし…」
    562 : 以下、名無しにか - 2010/09/25(土) 20:20:57.84 ID:cUBlBpOS0 (+95,+30,-155)
    さわ子「そういうことじゃないわ」

    「なら、どうして?」

    さわ子「お菓子の供給が減ったら困るじゃないっ」

    ずるぅっ!

    「先生、それなら気にしないでください。ちゃんと用意しますから」

    さわ子「いつものクオリティを維持したまま?」

    「はい、もちろん」

    さわ子「じゃ、いいわ」

    あっさり許可が下りてしまった。
    なんともいい加減な顧問だった。

    ―――――――――――――――――――――

    さわ子「それにしても…なんだか懐かしい光景ね」

    「なにが?」

    さわ子「いや、岡崎と春原のことよ」

    春原「あん? 僕たち?」

    さわ子「ええ。覚えてない? あんたたちが初めて会った時のこと」
    563 : 以下、名無しにか - 2010/09/25(土) 20:22:42.14 ID:1qYNd8dxO (+60,+30,-237)
    さわ子「宿直室で、お茶飲みながら話してたじゃない?」

    さわ子「あの時と、なんとなく重なって見えちゃってね」

    この人も、俺たちと同様、あの日のことを覚えてくれていたのだ。

    さわ子「まぁ、今は、ふたりともが顔腫らしてるわけだけど…」

    さわ子「あの時は、春原が大喧嘩してきて、顔がひどいことになってたのよね」

    思い出したのか、可笑しそうにやさしく微笑んだ。

    さわ子「あなたたち、知ってる? このふたりの、馴・れ・初・め」

    「うん。春原くんから、聞いたよ」

    さわ子「あら? そうなの? 意外ね…」

    驚いたように春原を見る。

    さわ子「まぁ、でも、このふたりがわざわざ遊びに来るくらいだしね」

    さわ子「それくらい仲はいいんでしょう」

    春原「まぁ、それも、僕とムギちゃんの仲がめちゃいいってだけの話なんだけどね」

    「えっと…白昼夢って、ちょっと怖いな」

    春原「寝言は寝て言えってことっすかっ!?」
    564 : 以下、名無しにか - 2010/09/25(土) 20:23:11.04 ID:cUBlBpOS0 (+95,+30,-250)
    「わははは!」

    さわ子「拒絶されてるじゃない」

    春原「く…これからさ」

    さわ子「ま、がんばんなさいよ、男の子」

    ばしっと気合を入れるように、背を叩いていた。

    朋也「…あのさ、さわ子さん」

    さわ子「ん?」

    朋也「あの時のことだけど、やっぱ、幸村のジィさんと打ち合わせしてたのか」

    さわ子「ああ…やっぱり、わかっちゃう?」

    朋也「まぁな。なんか、でき過ぎてたっていうかさ」

    さわ子「そうね。あの話は幸村先生が私に持ちかけてきたんだけどね」

    さわ子「私、春原の担任だったから。以前からあんたたちのことで、よく話をされてたのよ」

    さわ子「どうにかしてやらないといけない連中がいる、ってね」

    やっぱり、そうだった。全て、見透かされていたんだ。

    春原「あのジィさん、なにかと世話焼きたがるよね」
    565 : 以下、名無しにか - 2010/09/25(土) 20:24:28.02 ID:1qYNd8dxO (+60,+30,-302)
    さわ子「それは、あんたたちが、幸村先生にとって…最後の教え子だからよ」

    朋也「最後…?」

    さわ子「幸村先生ね、今年で退職されるのよ」

    朋也「そうだったのか…知らなかったよ」

    春原「僕も」

    朋也「でも、俺の担任だったのは一年の時だし…」

    朋也「今は担任持ってないんじゃなかったっけか」

    さわ子「最後の教え子っていうのは、担任を持ってるとか、そういう意味じゃないわよ」

    さわ子「最後に、手間暇かけて指導した、って意味よ」

    朋也「ああ…」

    さわ子「幸村先生はね、5年前まで、工業高校で教鞭を執っていたの」

    さわ子「一時期、生徒の素行が問題になって、有名になった学校ね」

    どこの学校を指しているかはわかった。
    町の不良が集まる悪名高い高校だ。

    さわ子「そこで、ずっと生活指導をしていたのよ」

    朋也「あの細い体で?」
    566 : 以下、名無しにか - 2010/09/25(土) 20:24:55.05 ID:cUBlBpOS0 (+95,+30,-234)
    さわ子「もちろん、今よりは若かったし…それにそういうのは力じゃないでしょ?」

    朋也「だな…」

    さわ子「とにかく厳しかったの」

    春原「マジで…?」

    さわ子「ええ、本当よ。親も生活指導室に放り込んで説教したり…武勇伝はたくさんあるわ」

    信じられない…。

    さわ子「そんな型破りな指導者だったけど…」

    さわ子「でも、たったひとつ、貫いたことがあったの」

    朋也「なにを」

    さわ子「絶対に、学校を辞めさせない」

    さわ子「自主退学もさせなかったの」

    さわ子「幸村先生は、学校を社会の縮図と考えていたのね」

    さわ子「学校で過ごす三年間は、勉強のためだけじゃない」

    さわ子「人と接して、友達を作って、協力して…」

    さわ子「成功もあったり、失敗もあったり…」
    567 : 以下、名無しにか - 2010/09/25(土) 20:25:16.40 ID:SBICiwHrO (-26,-21,-1)
    8割くらい>>1のレス
    568 : 以下、名無しにか - 2010/09/25(土) 20:27:42.95 ID:zNA9c7SL0 (+17,+29,-1)
    そりゃそうだろ
    569 : 以下、名無しにか - 2010/09/25(土) 20:30:11.52 ID:uvp/vcj8O (+27,+29,-20)
    てかずっとレスしてるのか。
    まあ読んでる自分には需要あるからいいけど。
    570 : 以下、名無しにか - 2010/09/25(土) 20:30:45.90 ID:iMgd5qpBO (-4,+7,-2)
    試演
    571 : 以下、名無しにか - 2010/09/25(土) 20:32:04.15 ID:y1qBevVn0 (+27,+29,-4)
    現在423
    最高だ
    作者よがんがれ超がんがれ
    572 : 以下、名無しにか - 2010/09/25(土) 20:34:29.35 ID:cUBlBpOS0 (+95,+30,-273)
    さわ子「楽しいこともあったり、辛いこともあったり…」

    さわ子「そして、誰もが入学した当初に描いていた卒業という目標に向かって、歩んでいく」

    さわ子「それを途中で諦めたり、挫折しちゃったりしたら…」

    さわ子「人生に挫折したも同じ」

    さわ子「その後に待つ、もっと大きな人生に立ち向かっていけるはずがない」

    さわ子「だから、生徒たちを叱るだけでなく、励ましながら、共に歩んでいったのね」

    さわ子「でも、この学校に来てからは…」

    さわ子「その必要がなくなったの。わかるわよね?」

    さわ子「みんなが優秀なの」

    さわ子「きっと、幸村先生にとっての教育、自分の教員生活の中で為すべきこと…」

    さわ子「それを必要とされず、そして、否定されてしまった5年間だったと思うの」

    さわ子「ほとんどの生徒が…中には違う子たちもいるけど…」

    平沢たち、軽音部のメンバーをぐるっと見渡した。

    さわ子「この学校で過ごす三年間は、人生のひとつのステップとしか考えていないでしょうから」

    さわ子「自分の役目だと思っていたことは、ここではなにひとつ必要とされていない」
    574 : 以下、名無しにか - 2010/09/25(土) 20:34:39.23 ID:vASF969k0 (-21,-9,-2)
    支援
    575 : 以下、名無しにか - 2010/09/25(土) 20:36:08.20 ID:1qYNd8dxO (+58,+30,-201)
    さわ子「それを感じ続けた5年間」

    さわ子「そして、その教員生活も、この春終わってしまうの」

    朋也「………」

    俺も春原も、何も言えなかった。
    結局、俺たちは、ガキだったのだ。
    あの人がいなければ、俺たちは進級さえできずにいた。

    さわ子「…そういうことよ」

    朋也「今度、菓子折りでも持っていかなきゃな」

    さわ子「それは、いい心がけね。きっと、喜ぶわよ」

    春原「水アメでいいよね」

    さわ子「馬鹿、お歳召されてるんだから、食べづらいでしょ…」

    さわ子「っていうか、そのチョイスも最悪だし」

    「ほんっと、アホだな、おまえは」

    春原「るせぇ」

    …最後の生徒。
    やけにリアルに、その言葉だけが残っていた。
    本当に、俺たちでよかったのだろうか。
    さわ子さんは、最後に言った。
    576 : 以下、名無しにか - 2010/09/25(土) 20:36:39.22 ID:cUBlBpOS0 (+95,+30,-95)
    光栄なことね。
    いつまでも、ふたりは幸村先生の記憶に残るんでしょうから…と。
    これから過ごしていく穏やかな時間…
    その中であの人はふと思い出すのだ。
    自分が教員だった頃を…。
    そして…
    最後に卒業させた、出来の悪い生徒ふたりのことを。

    ―――――――――――――――――――――
    ―――――――――――――――――――――

    笑ってくれるだろうか。

    ただでさえ細いその目を、それ以上に細めて。

    何も見えなくなるくらいに。

    笑ってくれるだろうか。

    その思い出を胸に。

    笑ってくれるだろうか…


    長い、旅の終わりに。


    ―――――――――――――――――――――
    ―――――――――――――――――――――
    577 : 以下、名無しにか - 2010/09/25(土) 20:37:10.69 ID:cUBlBpOS0 (+95,+30,-287)
    4/20 火

    朋也「毎朝そんなもん持って、大変じゃないのか」

    平沢が抱えるギターケース。
    見た目、割と体積があり、女の子が抱えるには重そうだった。

    「全然平気だよ? 愛があるからね、ギー太へのっ」

    朋也「ぎーた?」

    「このギターの名前だよ」

    こんこん、と手の甲でケースを叩く。

    朋也「名前なんてつけてんのか」

    「そうだよ。愛着湧きまくりなんだぁ」

    朋也「ふぅん、そっか」

    「岡崎くんは、なにか持ち物に名前つけたりしないの?」

    朋也「いや、しないけど」

    「もったいないよ。なにかつけてみようよっ」

    朋也「なにかったってなぁ…」

    「憂だって、校門前の坂に、サカタって名前つけてるんだよ?」
    578 : 以下、名無しにか - 2010/09/25(土) 20:38:48.85 ID:1qYNd8dxO (+60,+30,-309)
    坂が擬人化されていた。

    「そんなことしてないよぉ…っていうか、もう普通に人の名前だよ、それ」

    憂ちゃんも俺と同じ感想を持ったようだった。

    朋也(つーか、なんかつけるもんあったかな…)

    朋也(まぁいいや、適当に…)

    朋也「あそこの、あれ、あの飛び出し注意の看板な」

    朋也「あれを春原陽平と名づけよう」

    「って、縁起悪いよ、それ…」

    朋也「そうか?」

    「うん。だって、あれ、車に衝突されて首から上がなくなってるし」

    朋也「身をもって危険だってことを教えてくれてるんだな」

    朋也「人身御供みたいで、かっこいいじゃん」

    「それが縁起悪いって言ってるんですけどっ」

    「ていうか、愛着のあるものにつけようよ」

    朋也「じゃあ…おまえだ」
    579 : 以下、名無しにか - 2010/09/25(土) 20:39:06.54 ID:cUBlBpOS0 (+95,+30,-185)
    ぽん、と平沢の頭に手を乗せる。

    「わ、私…? そ、それって…」

    朋也「おまえに、『憂ちゃんの二番煎じ』って名前をつけよう」

    「って、私が姉なのにぃっ!?」

    「ひどいよっ、ばかっ!」

    ひとりでとことこ先へ歩いていった。

    「あ、お姉ちゃん待ってぇ~」

    憂ちゃんもその後を追う。

    朋也(朝から元気だな…)

    俺はそのままのペースで歩き続けた。

    ―――――――――――――――――――――

    ………。

    ―――――――――――――――――――――

    昼。もう、何も言わずとも、自然とみんなで食堂へ集まるようになっていた。
    ほんの二週間前までは、春原とふたり、むさ苦しく食べていたのに。
    あの頃からは考えられない。
    580 : 以下、名無しにか - 2010/09/25(土) 20:41:30.99 ID:1qYNd8dxO (+60,+30,-223)
    「それ、おいしそうだね。ごはんに旗も刺さってて、おもしろいしっ」

    春原「だろ? O定食っていって、僕が贔屓にしてるメニューなんだぜ?」

    朋也「お子様ランチをカッコつけていうな」

    「お子様ランチなんてあったっけ?」

    朋也「月に一度、突如現れるレアメニューなんだよ」

    「そんな遊び心があんのか…やるな、うちの学食も」

    「春原くん、その旗、私にくれない?」

    春原「ああ、いいけど」

    「やったぁ、ありがとう」

    春原から旗を受け取る。

    「よし、これを…」

    ぶす、と自分の弁当に刺した。

    「憂ランチの完成~」

    「はは、ガキだなぁ」

    「む、そんなことないもん、えいっ」
    581 : 以下、名無しにか - 2010/09/25(土) 20:41:57.87 ID:QfkttWQJ0 (+22,+29,-3)
    やっと追い付いた
    582 : 以下、名無しにか - 2010/09/25(土) 20:42:01.15 ID:cUBlBpOS0 (+95,+30,-156)
    旗を取り、それを部長の弁当に突き刺した。

    「あ、なにすんだよっ。こんなのいらねぇっての、おりゃっ」

    隣に回す。

    「ごめん、澪」

    それだけ言って、流れ作業のように受け流した。

    「え…私も、ちょっと…ごめん、ムギ」

    最後に、琴吹の弁当に行き着く。

    「あら…」

    「これがたらい回しって現象だね」

    春原「…なんか、ちょっと傷つくんですけど…」

    「さよなら♪」

    バァキァッ!

    琴吹の握力で粉々にされ、粉塵がさらさらと空に還っていた。

    春原「すげぇいい顔でトドメさしてきたよ、この子っ!」

    「わははは!」
    583 : 以下、名無しにか - 2010/09/25(土) 20:43:21.05 ID:1qYNd8dxO (+60,+30,-236)
    ―――――――――――――――――――――

    ………。

    ―――――――――――――――――――――

    放課後。軽音部の部室へ赴き、茶をすする。

    春原「そういやさぁ、あの水槽なんなの」

    部室の隅、台座の上に大きめの水槽が設置されていた。
    初めてここに来た時には、あんなものはなかったような気がする。

    「あれはね、トンちゃんの水槽だよ」

    春原「とんちゃん? とんちゃんって生き物がいんの?」

    「違うんだなぁ。トンちゃんは名前で、種族はスッポンモドキだよ」

    「まぁ、正確には、あずにゃんの後輩なんだけどね」

    「いや、スッポンモドキの方が正解だからな…」

    春原「スッポンが部員ってこと?」

    「そうだよ」

    それでいいのか、軽音部は…。

    春原「もう、なんでもありだね。いっそ、部長もなんかの動物にしちゃえば?」
    584 : 以下、名無しにか - 2010/09/25(土) 20:43:42.06 ID:cUBlBpOS0 (+95,+30,-203)
    春原「デコからポジション奪い取ったってことで、獰猛なヌーとかさっ」

    ヌーにそんなイメージはない。

    「デコだとぉ!? おまえなんか最初から珍獣のクセにっ!」

    「トンちゃんより格下なんだよっ!」

    春原「あんだと、コラっ」

    「なんだよっ」

    春原「………」
     「………」

    朋也「人間の部員はいいのか」

    いがみ合うふたりをよそに、そう訊いてみた。

    「人間の方は、全然きてくれないんだよね…」

    「だから、せめて雰囲気だけでも、あずにゃんに先輩気分を味わってもらいたくて」

    「それ、後付じゃないのか?」

    「おまえが単純に、ホームセンター行った時、欲しがってたように見えたんだけど」

    「てへっ」

    舌を出し、愛嬌でごまかしていた。
    585 : 以下、名無しにか - 2010/09/25(土) 20:44:23.78 ID:cUBlBpOS0 (+95,+30,-165)
    「それでもいいんです。今ではもう、私の大切な後輩ですから」

    「あずにゃん…」

    中野は、俺に向ける厳しい眼差しとは違う、優しい目をしていた。
    本来のこいつは、こんなふうなのかもしれない。
    それが少しでも俺に向いてくれればいいのだが。

    「あずにゃんっ、いいこすぎるよっ」

    中野の後ろに回り、背後から抱きしめて、頬をすりよせる。

    「あ…もう、唯先輩…」

    春原「うおりゃああああ!」
      「うおりゃああああ!」

    突然雄たけびを上げるふたり。

    「なにやってるんだ、律…」

    「みてわかんないのか!? ポテチ早食い対決だよっ」

    「これで白黒つけてやろうってなっ」

    春原「ん? 勝負の最中に余所見とは、余裕だねぇ…」

    春原「おまえ、ヘタすりゃ死ぬぜ?」

    指についたカスを舐めな取りがら言う。
    586 : 以下、名無しにか - 2010/09/25(土) 20:44:58.55 ID:cUBlBpOS0 (+95,+30,-170)
    セリフとまったく噛み合っていないその姿。

    「死ぬって言ったほうが死ぬんだよ、ばーかっ」

    春原「そんな理屈、僕には通用しないね」

    「どうかな…」

    春原「へっ…」

    一瞬の間があり…

      「どりゃあああああ!」
    春原「どりゃあああああ!」

    勝負が再開された。

    「なんか、楽しそう。私も参加するっ」

    「やめとけって…」

    「いいや、やるよっ。私もこの世紀の一戦に参加して、歴史に名を刻みたいからっ」

    「そんな、おおげさな…」

    「って、あれ? お菓子がもうないよ…」

    机の上に広げられた駄菓子類は、全て空き箱になっていた。

    「唯ちゃん、タクアンならあるけど、いる?」
    587 : 以下、名無しにか - 2010/09/25(土) 20:46:14.54 ID:1qYNd8dxO (+60,+30,-129)
    どこからかタッパーを取り出す。

    「ほんとに? じゃあ、ちょうだいっ」

    「はい、どうぞ」

    「ありがとーっ。よし、いくぞぉ」

    ガツガツと勢いよく素手で食べ始めた。

    「はぁ、まったく…」

    ―――――――――――――――――――――

    「おし、そんじゃ、もう帰るか」

    西日も差し込み始め、会話も途切れてきた頃、部長が言った。

    「って、まだ練習してないだろ!」

    「そうですよっ、帰るのは早すぎだと思います」

    「でぇもさぁ、今から準備すんのめんどくさいしぃ」

    「お菓子食べて幸せ気分なとこ邪魔されたくないしぃ」

    「それが部長の言うことかっ」

    ぽかっ
    588 : 以下、名無しにか - 2010/09/25(土) 20:46:33.00 ID:cUBlBpOS0 (+95,+30,-245)
    「あでっ」

    「いいじゃん、澪ちゃん。ここはいったん退いて、様子見したほうがいいよ」

    「なにと戦ってるんですか、軽音部は…」

    「ダメだ。今日こそ、ちゃんと練習をだな…」

    「ムギ、食器片付けて帰ろうぜ」

    「うん」

    席を立ち、食器を持って流しに向かった。

    「って、ああ、もう…」

    動き出した部長たちを前にして、呆然と立ち尽くす秋山。

    「明日は絶対練習するからなっ」

    「へいへい」

    以前、平沢は、こんな光景が日常だと言っていたが、まさに聞いていた通りの展開だった。
    先日は先に帰ったので、どうだったかは知らないが…
    実際目の当たりにしてみて、俺は妙な親近感を覚えていた。
    無為で、くだらないけど…でも、笑っていられるような時間。
    そんな時間を過ごしているのなら、きっと、俺や春原からそう遠くない位置にいるんだろうから。
    もしかしたら、最初から遠慮することはなかったのかもしれない。
    だから、平沢は言っていたのだ。俺たちのような奴らでも、受け入れてくれると。
    ささいなことを気にするような連中ではないと。
    589 : 以下、名無しにか - 2010/09/25(土) 20:49:24.69 ID:y1qBevVn0 (+27,+29,-20)
    万札出すくだりで大爆笑しちまったが
    よく考えたら芽衣ちゃん√であったっけね
    590 : 以下、名無しにか - 2010/09/25(土) 20:50:10.00 ID:1qYNd8dxO (+60,+30,-177)
    一緒にいれば、きっと楽しいだろうから、と。
    全部、本当だった。

    ―――――――――――――――――――――

    「えい、影踏~んだっ」

    「あ、やったなっ」

    坂を下る途中、影踏みを始めた部長と平沢。

    「小学生じゃないんだから…」

    「やんちゃでいいじゃない」

    「母親みたいなこと言うな、ムギは…」

    春原「はは、ほんと、ガキレベルだな。普通、頭狙って踏むだろ」

    こいつもガキだった。

    「ガキとはなんだっ」

    「そうだそうだっ」

    「うりゃうりゃっ」
    「えいえいっ」

    げしげしげしっ!
    591 : 以下、名無しにか - 2010/09/25(土) 20:50:44.09 ID:cUBlBpOS0 (+95,+30,-258)
    春原の影が踏まれる。

    春原「あにすんだ、こらっ」

    「うわ、怒ったぞ、こいつ。逃げろぉい」

    「うひゃぁい」

    春原「うっらぁっ! まてやっ」

    どたどたと走り出す三人組。
    坂の上り下りを繰り返し、めまぐるしく攻守が入れ替わる。

    「ひぃ、疲れたぁ…っと、わぁっ」

    足がもつれ、体勢が崩れる。

    朋也「おいっ…」

    たまたま近くにいた俺が咄嗟に支えた。

    「あ、ありがとう、岡崎くん…」

    朋也「気をつけろよ。なんか、おまえ、ふわふわしてて危なっかしいからさ」

    「えへへ、ごめんね」

    だんだんだんだんっ!

    地団駄を踏む音。
    592 : 以下、名無しにか - 2010/09/25(土) 20:52:15.62 ID:1qYNd8dxO (+55,+30,-268)
    振り返る。

    「ふんふんふんふんっ!」

    中野が俺の影、股間部分を激しく踏み砕こうとしていた。

    朋也(わざわざ急所かよ…)

    ―――――――――――――――――――――

    「岡崎くーん、どうしたのぉ」

    平沢が俺の前方から声をかけくる。

    「なんでそんなに離れてるのぉ」

    朋也「………」

    春原と坂の下で別れてからというもの、俺はあの集団の中で男一人になってしまっていた。
    あいつがいる間は考えもしなかったが、こうなってみると、異様なことのように思えた。
    俺のわずかに残った体裁を気にする心が、輪に入っていくことを拒むのだ。
    だから、一定の距離を取るべく、歩幅を調節して歩いていた。

    「唯先輩、察してあげましょう。岡崎先輩は、きっとアレです」

    「アレ?」

    「はい。お腹が痛くて、手ごろな草むらを探しているんです」

    「それで、私たちの視界から消えて、自然にフェードアウトして…その…」
    593 : 以下、名無しにか - 2010/09/25(土) 20:52:55.68 ID:cUBlBpOS0 (+95,+30,-239)
    「ひっそりと…催す計画だったんでしょう」

    「ええ? そうなの?」

    中野に誘導され、俺がとんでもなく汚い男になろうとしていた。

    「おーい、岡崎、この先に川原あるから、やるなら、そこがいいぞぉ」

    朋也「んなアドバイスいらねぇよっ」

    急いで平沢たちに追いつく。

    「岡崎くん、そんなに急いだら、お腹が…」

    朋也「もういいっ、そこから離れろっ。俺は腹痛なんかじゃないっ」

    「でも、あずにゃんが岡崎くんはもう限界だって…」

    朋也「信じるなっ。ほら、俺は健康体だ」

    その場でぴょんぴょん跳ねてみせる。

    「あはは、なんか、可愛い」

    朋也「これでわかったか?」

    「うん、まぁね」

    なんとか身の潔白を証明できたようだ。
    にしても…
    594 : 以下、名無しにか - 2010/09/25(土) 20:54:06.54 ID:1qYNd8dxO (+60,+30,-211)
    朋也「おい、おまえ、あんまり変なこと言うなうよ」

    「あれ? 違いましたか? それは、すみません」

    反省した様子もなく、突っぱねたように言う。

    朋也(こいつは…)

    今後は、もっと警戒しておくべきなのかもしれない。
    平気で毒でも盛ってきそうだ。

    ―――――――――――――――――――――

    部長たちとも別れ、平沢とふたりきりになる。
    今朝一緒に来た道を、今は引き返すような形で逆行していた。

    「あ、みて、岡崎くん、バイア○ラ販売します、だってさ」

    古ぼけて、いつ貼られたかわからないような、朽ちた張り紙を見て言った。
    連絡先なのか、下に電話番号が書いてある。

    「懐かしいね。バイアグ○って、昔話題になってたけど、結局なんだったんだろう」

    「岡崎くん、知ってる?」

    朋也「さぁな。でも、おまえは多分知らなくていいと思うぞ」

    下半身の事情を解決してくれるらしい、ということだけはぼんやりと知っていた。

    「そう? まぁ、あんまり興味なかったんだけどね」
    595 : 以下、名無しにか - 2010/09/25(土) 20:55:44.59 ID:1qYNd8dxO (+60,+30,-275)
    朋也「じゃ、訊くなよ」

    「素通りしたら、張り紙張った人がかわいそうじゃん」

    朋也「悪徳業者だろ、貼ったの」

    「そうなの? くそぉ、よくもだましたなっ」

    「電話して、お説教してやるっ」

    朋也「おまえそれ、注文してるぞ」

    「え? 電話しただけで?」

    朋也「ああ」

    というか、そもそももう繋がらないだろうと思う。
    だが、万が一を考えて、そういうことにしておいた。

    「ちぇ~、私のお説教で改心させようと思ったのになぁ…」

    朋也「残念だったな」

    頭に手を乗せる。

    「岡崎くん、手乗せるの好きだよね」

    朋也「嫌だったか?」

    「ううん、逆だよ。もっとしていいよ?」
    596 : 以下、名無しにか - 2010/09/25(土) 20:56:39.00 ID:5LtM96Rl0 (+16,+28,-1)
    本当に面白い
    597 : 以下、名無しにか - 2010/09/25(土) 20:56:56.88 ID:1qYNd8dxO (+60,+30,-137)
    朋也「おまえは、乗せられるの好きなのか?」

    「う~ん、そういうわけじゃないけど…なんか、落ち着くんだよね」

    朋也「そっか」

    「うん。えへへ」

    夕日を浴びて、微笑むこいつ。
    それを見ているだけで、俺も何故か心が落ち着いた。

    ―――――――――――――――――――――

    「じゃあね、また明日」

    朋也「ああ、じゃあな」

    家の前で別れる。
    俺はその背を、見えなくなるまで見送っていた。
    少しだけ、別れが名残惜しかった。
    いや…かなり、か。

    ―――――――――――――――――――――
    598 : 以下、名無しにか - 2010/09/25(土) 20:57:25.27 ID:cUBlBpOS0 (+95,+30,-195)
    4/21 水

    「へいっ、憂、パァスッ!」

    「わ、軌道がめちゃくちゃだよぉ」

    「あ~、ごめんごめ~ん」

    このふたりは登校中、小石を蹴って、ずっとキープしたまま進んでいた。

    「岡崎さん、いきますよっ」

    俺にパスが回ってきた。
    とりあえず受ける。

    朋也「これ、ゴールはどこなんだ」

    「教室だよっ」

    朋也「無理だろ…」

    「大丈夫、階段とかはリフティングして登るからっ」

    そういう問題でもない。

    朋也(まぁいいか…)

    小石を蹴って、前方に転がす。

    「お、いいとこ放るねぇ。フリースペースにどんぴしゃだよ」
    599 : 以下、名無しにか - 2010/09/25(土) 20:57:58.64 ID:cUBlBpOS0 (+95,+30,-169)
    「キラーパスってやつだね、見事に裏をかいてるよっ」

    そもそも敵なんかない。

    朋也(ふぁ…ねむ…)

    眠気を感じながらも、はしゃぐ平沢姉妹をぼうっと眺めていた。
    結局、この後小石は溝に吸い込まれ、そこでゲームセットになってしまったのだが。

    ―――――――――――――――――――――

    ………。

    ―――――――――――――――――――――

    昼。

    「ひっ! り、律っ…」

    「あん? なんだよ」

    「い、今あそこの影からこっちをじっと見てる人が…」

    「どこだよ…そんな奴いねぇぞ」

    「あ…そ、そうか…」

    「澪ちゃん、こんな昼間から幽霊なんか出ないよ」

    「あー、そうじゃなくてな、こいつさ…」
    600 : 以下、名無しにか - 2010/09/25(土) 20:58:31.34 ID:cUBlBpOS0 (+95,+30,-193)
    部長が話し出す。
    秋山が、朝から誰かの視線を感じて仕方がなく、気味悪がっている…とのことだった。

    「そんで、マジで一人、澪を舐め回すように見てた奴がいたんだけどさ…」

    制服の胸ポケットに手を突っ込み、なにやら取り出した。

    「詰め寄ったら、逃げてったんだけど…これ、落としてったんだよな」

    プラスチックのカード。
    表面には、秋山澪ファンクラブ、と印字され、秋山本人の写真が貼ってあった。

    「ぶっ!…げほげほっ」

    真鍋が突然むせていた。
    注目が集まる。

    「和ちゃん、大丈夫?」

    「え、ええ…」

    どこか動揺した様子でハンカチを取り出し、口周りを拭き取る真鍋。

    「そ、それで、なにか直接被害はあったの?」

    「いや…なにもないけど…」

    「でもさぁ、じっと見られてるってのも、なんか目障りじゃん?」

    「だから、どうにかしてやりたいんだけどなぁ…」
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