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元スレ吹雪「新しい司令官? はぁそうですか・・・」
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はじめまして、私は特型駆逐艦の1番艦、吹雪といいます。
私たちは今、正門で司令官の帰りを待っています。
曙「あーもうおっそいなあ……なにしてんだよあのクソ提督……心配ばかりかけさせやがって……」
摩耶「到着時間5分も過ぎてんじゃねえか。これほんとに時間あってんのかよ? 五十鈴、こっちから連絡取れないのか?」
五十鈴「まだ5分でしょ? 渋滞に掴まったのかもしれないし、あんた達これくらい静かに待ちなさいよ」
曙「なによ、そういう五十鈴だってさっきからあっちこっち意味もなく歩いてるじゃない」
山城「もしかして提督に何か不運が降りかかったのかしら……? 私の所為で? ああお姉さま……」
みんなそわそわしています。一刻も早く司令官の顔を見たいんでしょう。もう一月も会っていません。
かくいう私もさっきから落ち着きません。そんな私たちの様子を、憲兵さんが苦笑いしながら見ていますが誰も気にしません。
ふと視界に映った桜の花が目について、私はつぶやきました。
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吹雪「そういえば」
摩耶「なんだ!? 提督と連絡取れる手段でもあるのかっ!?」
吹雪「いえ……ただちょうど一年ぐらい前だなって……」
曙「はぁ? 何言ってんのよ吹雪?」
山城「ああ……提督と会った日ね?」
吹雪「はい……」
五十鈴「……なるほど。言われてみるとそうね」
そう。ちょうどこんな陽気な日でした。司令官がこの鎮守府に着任したのは……
新しく着任する司令官が憲兵に案内されながらこの鎮守府に入るのが見えます。
本来なら私たちも同伴するべきなのですが、遠巻きに眺めているだけです。
五十鈴「……何人目だっけ?」
山城「私は13人目」
五十鈴「そう。じゃあ私は10人目ね……」
つまらない世間話のように五十鈴さんは口にしました。
私にとっては8人目です。新しい司令官をこの鎮守府に向かい入れるのは。
3人目までは付き添いをしたりもしたけれど、今では皆と一緒に遠巻きに眺めるだけです。
摩耶「で、今度は何か月に賭ける?」
曙「何か月……? 何日の間違いじゃないの?」
摩耶「あたしは2か月と見るね」
曙「はぁ? マジで言ってんの……? あのナリを見なよ。どうみてもぺーぺーじゃない。新米の提督がここに来るの、初めて見たわ。あたしは1週間に賭ける」
五十鈴「五十鈴は20日ね……」
山城「わたしは初日に賭けるわ」
曙「あんたも大きく出たわね……まあ2か月よりは可能性ありそうだけど……」
摩耶「吹雪は……?」
吹雪「私は……」
ぼうっと眺めていたら、新しい司令官がこちらに気が付いて目が合いました。
若いなと思いました。真新しい制服に身を包んでいることから新米将校なのだと思います。
そんな人がここに来るのは初めてです。いつもはもう少し年を取り、やつれた顔をした人たちが来るのです。
ただどんな人であれ、ここに来る人種というのはなにかしらやらかして厄介払いされた人達です。それは私たちも含めて、ですけど。
吹雪「……一か月かな」
それからしばらくして、私たちは執務室に呼び出されました。
いつ来てもこの執務室は辛気臭くて嫌です。
まず日当たりが良くないし、埃が溜まっていて薄汚い。物が少なく質素なのに全然片付いてません。そしてお酒と、なにか据えたような嫌なにおいが漂ってるのです。
家具もボロボロで、あの電球も今は消えているけど、夜つけるとちかちか点滅します。多分目の前のこの司令官はまだ気が付いてないだろうけど……
ひとつ……前に来た時と違ったのは、壁にこぶし大の穴が開いていたことです。きっと前任の司令官がやったんだと思います。
提督「……」
司令官はしばらく何も言いませんでした。
この執務室を見て、自分がどこに飛ばされたのか理解したんだと思います。
今まで来た人たち同様、自分はこんなところに来るはずじゃなかった……とでも思ってるのかもしれません。
提督「今日からこの鎮守府に着任することになった。私の名は――」
摩耶「あーいーからいーから、そーいうの」
提督「……何?」
曙「どうせすぐ居なくなっちゃうんだし、名前とか覚えてもしょうがないでしょ?」
五十鈴「私たちの名前、資料を見て知ってるのよね?」
提督「あ、ああ……勿論だ。把握している」
山城「……ならそれでいいです。無駄なことは省きましょう」
司令官はしばし押し黙った後、これからよろしく頼むと硬い表情で言いました。
提督「ところで、君たちは前任の提督が何処にいるのか知らないか? 彼からの引継ぎがまだ済んでないんだ」
摩耶「しらねーよ、そんな奴」
吹雪「私が最後に見たのは2週間ぐらい前です」
五十鈴「脱走でもしたんじゃないの?」
提督「上からは……彼からここを引き継ぐよう言われたんだが……」
曙「そんなのあたし達に言われても知らないわよ。探したいなら自分で探せば?」
提督「……」
そのまま解散になり、私たちは部屋を出ました。
はじめの一か月、司令官は私たちと必要以上の会話をしませんでした。
演習でちょくちょく口を出すぐらいでした。
山城「気取ってるのかしらね」
曙「ふん、お高くとまってるのよ。ここに来るクソ提督はみんなそうよ」
摩耶「見下してるのさ、こんな鎮守府にいるあたしたちを。自分だって同類なのによ」
かといって話しかけられても、こちらも適当にあしらうのだけど……
でも摩耶さんの言う通りで、ここに着任したかつての司令官達は皆わたしたちを見下すような目で見てきました。
そして道具のようにコキ使うのです。自分に溜まったうっぷんを私たちで解消するかのように。そしてやがてそれにも耐えられなくなり、ここを出ていくのです。
あの新米司令官もきっとそれは変わらないでしょう。
今思えば、それはとんだ勘違いでした。彼は新人でとてもじゃないけど器用と言えるような人間じゃありませんでした。
ただここの生活に慣れようと、必死に頑張っていたんだと思います。
司令官の着任からひと月経って、私の予想がついに外れた日に……司令官ははじめて世間話をしてきました。相手は私でした。
提督「吹雪」
吹雪「はい」
提督「ここの生活は楽しいか?」
吹雪「……は?」
思わず声が上がってしまったのも無理はないと思います。
提督「いや……ただの世間話だ」
吹雪「そうですね……」
吹雪「万年資材不足で、人材不足で……ろくな装備も補充も無くて、修理ドックも壊れかけてて、ついでに個室の扉の立て付けが悪くてベッドも硬くて、
出撃後に疲れてても料理は自炊しないと出てこない環境を楽しいと言えるかといえば……どうでしょうね」
私は嫌味で返しました。でも本当の事です。
こういうことがすらすらと言えるようになった当たり、私も随分変わったんだなと思います。
提督「……楽しくはないか」
吹雪「その質問……世間話ですか。ほかの人にはしないほうがいいですよ。みんなきっと怒ります」
提督「そうか」
吹雪「……司令官はどうしてこんなところに飛ばされたんですか?」
提督「飛ばされた?」
吹雪「ここがどういうところか、知ってるでしょう。なにかしらやらかして、居場所がなくなった人が最後に来るところです。こんなところに来るのには相応の理由があるはずです」
提督「私は飛ばされたとは思っていない」
司令官の物言いに私は笑ってしまいました。彼は怪訝な顔をして聞いてきました。
提督「何故笑うんだ?」
吹雪「いえ、みんなそう言うので、つい」
提督「みんな?」
吹雪「ここを出て行った人たちです」
司令官が掃除をする姿を見かけるようになったのは、そのあたりからでした。
摩耶「ここはいつから家政婦なんて雇ったんだ?」
曙「ま、無能なクソ提督よりは家政婦のほうが役に立つからいいんじゃないの?」
山城「こんなことされても、別に印象良くなったりはしないんだけど……」
五十鈴「何のつもりか知らないけど、やることやってからそういうのはして欲しいわね」
そういった陰口はきっと司令官の耳にも入っていたと思います。
でも司令官は手を休めず、聞いてないふりを続けました。
私たち艦娘が司令官に最も期待することは何かといえば、それは実力です。
司令官の人柄がどうであれ実力があれば歓迎されるし、なければ歓迎されない。これは私たちの命に関わる問題で、当たり前のことです。
そして意外なことに彼の指揮は優秀で海戦は百戦錬磨の強者だった……と本当は言いたいけれど、世の中そんなに甘くはありません。
こんな辺鄙なところに飛ばされる者の実力などたかが知れてます。ここに来たかつての司令官同様……そして今回来た司令官は若く新米で、それにふさわしい実力でした。
曙「無能クソ提督」
提督「すまない……わたしのミスだ」
演習はこれまでに何度か行ったけど、司令官にとっては初の実戦。
命に関わるようなことではなかったけれど、摩耶さんと曙ちゃんがしなくてもいい被弾をして彼は失敗しました。
摩耶「あたりめーだろ。あたしだったらそんな馬鹿な真似はしねーよ。今後はお前の指揮には従わない。これからはあたし達で勝手にやらせてもらうからな」
提督「それは困る。お前たちを指揮するのは私の仕事でもあるんだ。もう同じミスはしない。次はうまくいくよう努力する」
摩耶「あのなあ……」
摩耶「その努力に殺されんのはあたしたちなんだよ! お前は遠くの安全な場所で適当な事言ってればいいかもしれないけどな、
こっちは命はってやってんだよ! わかってんのか、え!?」
提督「……申し訳ない」
山城「5人です」
提督「……なに?」
山城「私がここに着任してから、提督の無茶な指揮で沈んでいった娘達です。不幸ですよね。どうせ沈むなら自分の納得できる形で沈みたいですよね」
五十鈴「私たちのやり方が気に気に入らないって言うなら、上に報告でもしたら? なんなら解体でもする?」
提督「……」
摩耶「二度と口出しするなよ」
司令官はそのまま押し黙り、私は口を挟みませんでした。
私もここに着任して何度も理不尽な指揮に身を投じてきました。それで沈んでしまった娘も見ています。
激戦を潜り抜け、華々しく散りたい……なんて希望はもうないけれど、どうせ沈むのなら仲間の判断で沈みたいと思うのは当然のことでした。
この提督には頑張ってもらいたい
反抗的な艦娘は沈んでもいいから
反抗的な艦娘は沈んでもいいから
初戦の失敗で無能の烙印を押された司令官だったけれど、彼はそのままでいることを良しとしませんでした。
司令官に必要なのは経験だけでした。一度実戦に出ればカラカラのスポンジが水を吸うようにあらゆるものを吸収しようとし、それを身内にしたがりました。
そして隙を見ては質問や進言をするので、海戦では口論が絶えませんでした。
どんなに無視をしても、あるいは言っても口を出すことを止めず……ついには摩耶さんが折れました。
司令官は時に突拍子もないことを言って失笑や罵倒を買いましたが、その中には無視できないことも多分にありました。
彼の言葉に従うかどうかの判断は私たちに任されています。私たちはある時は司令官の言葉を無視したけれど、ある時は従いました。
そうして時が流れていき……そんなお決まりの日常が半年も続きました。
司令官は相変わらず世間話が下手で、家政婦だなんだと陰口を叩かれ無視されたけれど、それでも不満を言うことも無く、また掃除も止めませんでした。
そして海戦においては……私たちは司令官の言葉を無視するより、従うほうが多くなっていました。
五十鈴「結局、賭けはみんな外れね」
摩耶「あいつ、予想以上に鈍感というか、タフというか……」
曙「あのクソ家政婦、生意気なのよ。ことあるごとにグチグチグチグチ横やり刺して……あーもうほんと気に食わないっ」
吹雪「他の司令官と違ってお掃除してくれるのはありがたいですよ。結構綺麗になりましたし……」
山城「ずっとそのまま家政婦でいればいいのに……」
でも私たちの評価は相変わらずで……転機が訪れたのは突然でした。
西方泊地奪還作戦。
内容はその名の通りで、三日前に占領されたという友軍基地を取り返す作戦です。
各鎮守府と合同して行う作戦に私たちが組み込まれたのには、理由がありました。
それは司令官の赴任後、私たちが地味に戦果をあげ続け、それが上の目に留まったから……というわけではなく、
深海棲艦に領地を奪われるなどという汚名を一刻も早く拭うため、軍は猫の手も借りたい状況で、かつ私たちの鎮守府が比較的近かったから……とのことです。
軍はこれ以上世間からのバッシングを避けるため、威信をかけてこの作戦を遂行する。お前たちも気を引き締めて取り掛かるように……なんて言われましたけど。
摩耶「こんな後方支援でやる気のあるやつがいるなら見てみたいね」
山城「しかもこんな雨が土砂降りで……暗いし波も風も冷たいし……ああ不運だわ……」
曙「あんたは発想がそれしかないのよ。交戦も少なくて、やることは前線への物資の補充だけ……楽して報酬が貰えるならいいじゃない」
五十鈴「どうせ雀の涙程度のものよ。これだけ艦隊を引っ張ってきたんだから、役割を考えて私たちの配分なんて少ないに決まってるわよ」
吹雪「まあ……少しでも報酬があれば、それでいいじゃないですか。もうすぐこの任務も終わりそうですし……」
なんて前向きに言ったけれど……私は一刻も早く帰投したい気持ちでいっぱいでした。
作戦開始から三日……疲れも溜まっていたし、辺りは薄暗く視界は悪くて、おまけに天候は最悪でした。
服は雨に打たれてびちゃびちゃで……きっとみんな同じことを思っていたはずです。
かなり前に軍は西方泊地を取り囲み、あとは敵主力艦隊との交戦を残すだけだと司令官から通信があったので、今夜にも片がつくかもしれません。
提督「お前たち、状況は聞いているか!?」
だから司令官の怒鳴り声が響いたのは突然だったのです。
摩耶「は?」
提督「友軍からの連絡は!?」
摩耶「なに言ってんだよ。あたしたちはなんも聞いてねーぞ」
司令官からの通信に、私たちは顔を見合わせました。
提督「みんな、聞いてくれ。作戦は成功した。西方泊地は無事奪還した」
五十鈴「ならいいじゃない」
曙「終わったなら帰投していい? あたし疲れたわー」
提督「だが敵主力艦隊を取り逃した。こちらの主力艦隊はほぼ壊滅。防衛ラインも突破された。まもなくお前たちと会敵する」
摩耶「……は? おい、ふざけるな聞いてねーぞそんなこと! なんでもっと早く言わなかった!?」
提督「現状、指揮系統が麻痺している。加えて総指揮官が私たちの存在を認知していなかったようだ。それが決定的になった」
曙「は、はぁ? なによそれ、ふざけてんの!?」
私も曙ちゃんと同じことを思いました。
確かに私たちは鎮守府が保有する艦隊としては最小ですけど……存在さえ把握していないというのは酷いです。
摩耶さんも舌打ちをして、それでも流石は私たちの旗艦です。すぐに切り替えました。
摩耶「わかった。やりゃーいいんだろ。で、敵戦力はどのくらいなんだ? 手負いなんだろう? 勝算はあるのか?」
提督「お前たちの戦力では到底敵わない。今作戦の主力艦隊のメンツは知っているな? 相手はこれを潰し、まだ余力を残している。更にそれを核に残存戦力も集まりつつあるらしい」
言われて、自分の装備を見ます。
古臭い武装です。メンテナンスも自分でやって、なんとか生きながらえている骨董品です。
最新鋭の装備を整えていた主力艦隊の面々に比べれば、ガラクタみたいなものなのかもしれません。
摩耶「じゃあ撤退するしかないな。無駄死にはごめんだ」
提督「……撤退は許されない。たった今、上から通達された」
摩耶「は?」
提督「言っただろう。軍はこの作戦に威信をかけていると。これだけの艦隊を引っ張って、奪還は成功したとしても敵主力艦隊を逃したとなればまた世間から非難を浴びる。
故に、敵前逃亡は許されない。総力を持って事にあたれ……だそうだ」
雨の音が聞こえなくなりました。
不思議です。土砂降りで風も強いのに、一切耳に届きません。
押し黙った提督に、摩耶さんが言いました。
摩耶「それはつまり……死ねって言うのか? あたし達に……?」
提督「……違う」
摩耶「どう違うんだ?」
提督「……」
摩耶「違わねえだろ! 多少でも勝ち目がある戦いなら私たちだってやってやるさ! でもこれはどうなんだ、勝算はあるのか!?」
提督「……無い。数も戦力も向こうが上だ」
摩耶「……」
提督「待て……待ってくれ。今考えている……」
摩耶「はっ」
摩耶さんが乾いた笑いを上げました。
摩耶「考えるも何も、やるしかねえじゃねえかよ。たとえここで逆らって敵前逃亡してもどうなる? 今度は軍法会議で殺されるようなもんじゃねえか」
提督「……」
摩耶「あんたはいいだろうさ。ここであたし達が死ねば多少のお咎めで済むだろうぜ。気楽なもんさ。でもあたしたちはなんだ? ここで沈むことに意味があるのか?」
提督「……」
摩耶さんの言葉の意味を、私は考えました。
進んでも引いても……私たちが艦娘として終わるのは変わりありません。
沈黙の後、摩耶さんは吐き捨てました。
摩耶「ちっ……艦娘として戦って、こんな地にまで堕とされて……それでもしがみついた結果がこれかよ。クソが……」
山城「いろいろ転々して生きながらえてきたけど、ここも壊滅して……結局私は姉さんとは会えず仕舞いに終わるのね……やっぱり不幸だわ……ああ姉さん……」
五十鈴「散るのなら華やかな場所でって思ってたけど……そうそう上手くいかないものね。ま、ただの雑魚深海棲艦に落とされるよりかは、マシなのかもね……」
曙「……」
曙ちゃんは何も言いませんでした。じっと、ただ遠くを見つめてるだけです。
私は……ただ急すぎて実感が湧いてきませんでした。それでも敵主力艦隊がここに来れば嫌でも思い知るんだと思います。
雨音が再び聞こえて、静寂を破ったのは司令官でした。
提督「敵は殲滅する」
摩耶「出来ないんだろ」
提督「そうだ私たちには無理だ。だから他の艦隊にやってもらう」
摩耶「どうやって? あたしたちで時間稼ぎが出来るのか?」
提督「無理だ。まっとうに交戦すれば瞬く間にやられる。だが深海棲艦は拠点を奪われ、今やっきになっているはずだ。
逃げ出しはしたが、一隻でも多くの艦娘を沈めたいはず……だから連れていく。今のお前たちは恰好の的だ。
ここから西南西30㎞に小島がある。お前たちは付かず離れずの距離を保ち、逃げる振りをしてその場所に敵を連れていけ」
摩耶「それから?」
提督「私はこれから総指揮官と近い鎮守府に通達して、その島に高速艦隊を向かわせる」
摩耶「……できるのか?」
提督「軍はその面子にかけてこの作戦は完遂させないとならない。ならばせいぜいそれを見させてもらう」
この時の私は余裕がなかったので気が付きませんでしたが……今思えば、たぶん司令官は怒っていたんだと思います。
提督「これが……今私が考えることのできる最善の策だ。お前たちはどうする?」
司令官の言葉に皆が顔を合わせて……最初に口を開いたのは曙ちゃんでした。
曙「従うわ」
五十鈴「まっ、他に方法考えてる時間もなさそうだしね」
山城「すこしでも姉さんに会える確率が上がるなら、そうするわ」
吹雪「私も異論ありません」
摩耶「……だそうだ。わかったか?」
提督「わかった。これより先は私がお前たちの指揮を執る」
新米提督が切れ者に化けたな
上層部はそんな切れ者をいつまでも放置しないだろうが…
上層部はそんな切れ者をいつまでも放置しないだろうが…
西方泊地奪還作戦は次の日に終わりました。
長い長い夜……その明け方に敵主力艦隊は撃沈。摩耶さんと山城さんが大破して、五十鈴さんと曙ちゃん、そして私は中破しました。
私たちは友軍の軍艦に拾われ、そこで簡易処置を受けつつ夕方に鎮守府に戻ってきました。
軍港でボロボロになった私たちを迎えた司令官の狼狽ぶりは忘れられません。
無線越しの毅然とした態度は何処へやら……顔面蒼白になった司令官は必要以上に私たちの安否を気遣うので五十鈴さんに怒鳴られ、
摩耶さんと曙ちゃんにはウザいと背中を蹴られて追い出されました。
たぶん司令官は一睡もせずに待ってくれてたんだと思いますけど……まあ、私たちも疲れていたので……
今でも摩耶さんや曙ちゃんはその話題を出しては笑います。
曙「一週間安静って言われてもね……」
摩耶「なんつーか、こうゆっくりするのも久しぶりだけど……三日で飽きるな……」
五十鈴「私は……今まで余裕なかったからうれしいかな……いや、今もないけどさ」
山城「今回の作戦の報酬は貰えるのよね? 結構がんばったわよ、私たち……」
吹雪「療養期間が終わったら祝賀会だって司令官が言ってましたよ」
曙「吹雪、あんたクソ提督と会ったの?」
吹雪「うん。朝にちょっと。すぐまた出て行っちゃったけど……」
曙「ふーん、そう」
作戦終了からしばらくの間、司令官はよく鎮守府を空けていました。
その時は忙しそうだなとしか思わなかったけど、後から聞いた話では作戦報告に追われ、各地を奔走していたらしいです。
私たちは知る余地もなかったけれど、指揮系統が麻痺したとき、司令官はその権限がないにも関わらず指示や各地に応援要請したことについての是非を問われていたみたいです。
吹雪「曙ちゃん、何してるの?」
曙「ひゃあっ! ふっ吹雪!? あんたいつからそこに!?」
吹雪「今だけど」
曙「……」
吹雪「曙ちゃん?」
そして祝賀会の当日。すっかり全快していた私は暇を持て余していました。
なので散歩をしていると、車の荷台に乗った荷物を漁ってる曙ちゃんを見つけたので声を掛けました。
居心地が悪そうにもじもじしている曙ちゃんを不思議に思っていると
提督「む……吹雪」
吹雪「……司令官?」
曙「もーこのクソ提督! あんたがノロノロしてるから見つかっちゃったじゃないの!」
提督「あーすまん」
吹雪「……?」
聞くところによると……どうやら司令官はサプライズパーティーを開こうとしていたらしいです。
それを最初に曙ちゃんに見抜かれて、それからはふたりで祝賀会の準備を重ねていたみたいです。
そして今は買い出しから戻り、これから食堂で料理をするとのことでした。
吹雪「でも司令官、あらかじめ祝賀会開くって言ってたんですから、サプライズにはならないと思うんですけど……?」
曙「あはは、だっさ。同じこと言われてやんの」
提督「いや、でもクラッカーも買ったし……サプライズにならんかな」
その理屈はよくわかりませんでしたが……
結局全員に見つかり、司令官の企みはあえなく頓挫しました。
山城「やっぱりカレーなのね……」
提督「最初は一人で作る予定だったんだ。そうなると手の込んだものは作れなくてな……悪い」
曙「だ、か、ら! 最初からあたしに言ってれば、もう少しはマシなメニューにしてやったのに。まったくこのクソ提督は」
提督「お前たちはまだ病み上がりだろう? 無理に手伝う必要はないんだぞ」
吹雪「司令官、私たちは艦娘ですよ? 怪我なんて日常茶飯事ですし、これぐらいならすぐ治っちゃいます」
提督「……そうか、じゃあ次やる時は最初から手伝ってもらうか」
次……次。
次やる機会が、果たしてあるのでしょうか?
提督「肉は奮発したんだ。期待していいぞ。ケーキは曙に選んでもらった」
山城「ケーキですって!? そんなものがこの場に用意されているというの!?」
曙「厳選してきたわ。期待しなさい」
摩耶「おーすげえ、この肉霜降ってるぜ」
五十鈴「こらっ、触んないの」
吹雪「私、サラダ作りますね。曙ちゃん盛り付け手伝って」
曙「仕方ないわね。あたしに任せなさい」
みんなで祝賀会の準備をします。
なんだか、こういう皆でワイワイするのって本当に久しぶりで……私は昔のことを思い出しました。
この鎮守府に来る前は……私もよく休日にお菓子を作っていたのです。他の娘に分けてあげたり、一緒に食べたり、あるいは貰ったりして……懐かしい記憶です。
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