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元スレ用心棒「派手にいくぜ」
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その頃 江戸
油商人の館
油商人「まさか、あの剣士が負けるとは……」
油商人「『あの武士の一家の生き残りが、用心棒を雇って油商人様を殺そうとしている』と知らせてきたのも、奴なのに……」
油商人「……用心棒というやつは、そこまで強いのだろうか?」
武士「クックック……恐れることはありません油商人様。剣士は近衛四天王の中でも最弱……」
武士「剣士を打ち負かしたとしても……槍使いや大男を倒すことは、思いもよらないでしょう」
武士「……俺が相手なら、俺を楽しませることもできないだろう……はあ……」ポツリ
油商人「……そうか?まあ、現に奴は江戸から逃げ出しているしな……」
大男「う、う……つぎは、おでが、いく」
大男「……おでが、そいつ、ころす」
油商人「……フッフフフ。こっちも気合充分だな」
油商人「そうだ、恐れることはないのだ……私は日の本の明かりの全てを統べる油商人……!」
油商人「だが大男。お前に次鋒を任せることはできんな」
大男「う……?」
油商人「既に槍使いが奴の後を追っている。奴が宿で休んでいるなら、そろそろ追いつくはずだ……」
油商人「フッフフフ……用心棒、私に牙を剥こうとて、そうはいかんぞ……!」
?「……」コソッ
?(もし油商人が手勢を集めて館にこもるようだったら、どうにかして妨害しなければならなかったが……)
?(そんな知恵はないようだな、馬鹿どもめ……よくもこれほどこちらの想定通りに動いてくれるものだ)
?「ンッフッフッフ……」
武士「むっ?」クルッ
?(おっと)サッ
武士「……」
武士(今、邪な気配を感じたように思ったが……気のせいだったようだな)
武士(どんな手練の忍だろうと、館の最深部であるこの部屋までたどり着くことはできやしない)
武士(一つ。この館は高い壁と警備の浪人たちに守られている。門以外から入ることはできないが、門の警備は特に厳重だ)
武士(浪人たちの目を逃れて館に入れる秘密の入口は、作った大工と俺たち四天王、それに油商人しか知らんだろう)
武士(二つ。この館は迷路のような構造だ。八幡の藪知らずだ)
武士(たとえ秘密の入口を見つけて忍び込んだとしても必ず迷う)
武士(三つ。館の中も大勢の浪人が巡回している……)
武士(順路は厳密に定められていてやり残しはありえない。侵入者は即、殺されるのだ)
武士(……あーあ。それにしても、ヒマだぜ……)
武士(どうせ用心棒は、槍使いには勝てねえだろう)
武士(だがその槍使いも、俺の相手じゃあない……)
武士(俺の血を沸き立たせてくれるような好敵手が現れないものか……)
少年「ごちそうさまでした……」
少年「……用心棒さんはどちらにいらっしゃったんです?」
相棒「……」
少年「……?」
相棒「……」
相棒「さあ?」
少年「……はあ」
相棒「……」
少年(相棒さん、なんか様子がおかしいな……ずっとぼうっとしてるし)
ガラッ
用心棒「今戻った」
少年「あ……今までどこに?」
用心棒「お前を鍛えるのに手頃な道具を拾いに行っていたんだ」スッ
少年「……それ、ただの棒じゃ?」
用心棒「たかが棒、されど棒……」グッ
少年(用心棒さんはそう言って、棒を槍のように構えた)
少年(そして突然天井を向き、棒を天井に突き刺した!)
ドガッ!
<ギャッ
用心棒「……」スッ
少年(引き抜かれた棒の先端には――)
少年(べっとりと血がついていた)
用心棒「……と、このように使い道がいろいろあるわけだが、それを教えるのはまた今度だ」ポイッ
少年「……えっ!?あっ、これ、どうすればいいんですか!?」パシッ
用心棒「持ってろ」
用心棒「……外に妙な目つきのやつらが居る。全部で四人……宿を取り囲むように立っていた」
少年「!」
用心棒「その中の一人は槍を持っていた。十文字槍だ」
少年「『槍使い』……!」
用心棒「……しかし……」
相棒「少ない」
用心棒「ああ」
相棒「天井裏のゴミムシを含めても、五人」
用心棒「ゴミ……」
用心棒「……とにかく。剣士が三人がかりで襲い、しくじったことは奴らも知っているはずだ」
用心棒「それにしては少なすぎる。奴らの狙いがわからない」ジャキッ
少年「……どうするんです?」
用心棒「出て行くと待ち伏せを食う恐れがある。少し様子を見る」
用心棒「伏兵がいるなら出て行かない」
用心棒「いないなら出て行く……速やかにな。奴らは増援の到着を待っているのかもしれない」
用心棒「踏み込んできたら部屋の前の狭い廊下で迎え撃つ」
用心棒「……ないとは思うが、宿に火をつける奴や爆薬を仕掛ける奴がいたら窓から撃って阻止する」
用心棒(……本当に、これでいいんだろうか?可能性はこれだけなんだろうか……?)
用心棒(何だか嫌な予感がするな……)
相棒「もし」
用心棒「え?」
相棒「もし槍使いと戦うなら……私に、やらせてほしい」
少年「!」
用心棒「……それは、駄目だ」
相棒「なぜ?」
用心棒「お前は怪我人だ。それに、今のお前は冷静じゃない」
相棒「私は冷静」
用心棒「冷静じゃない!」
相棒「……」
用心棒「……お前と俺とは長い付き合いだろう。今回だけは、俺の言うことを聞いて欲しい……」
用心棒「わかってくれるな?」
相棒「……」
相棒「わかった」
用心棒「後で団子でも奢ってやるから、な」
相棒「……」ジロッ
用心棒「……冗談だ」
少年「……」
少年(きっとこの人たちは、こうやってバカを言ったり、諌め合ったりしながら生き抜いてきたんだろうな……)
用心棒「……さて、外の奴らはどうしているのか」
少年(そう言って用心棒さんは窓に近づくと、障子を細く開けて外の様子を窺った)
用心棒「……」
用心棒「……まずい、かもしれない」
少年「!?」
相棒「増えた?」
用心棒「……いや、減った。三人しかいない」
少年「減ったなら、別に……」
用心棒「さっきの俺の想定のどれかが当たっているなら、人が減るなんてことは有り得ないんだ」
少年「……!」
……ドン……
用心棒「っ!?何だ、今の音は!?」
少年「太鼓?いや、こんな時間に……」
ズドォンッ
グラグラ
用心棒「な!?」
相棒「っ!?」
少年「い、今のは一体……」
メキメキ パリーンッ
<キャアアアア!
<カミナリカ!?
<ブツバツダ!ブツバツダ!
用心棒「……まさか!」
……ドン……
用心棒「あ、あの音は……やはり!」
用心棒「くそっ、何てことだ!伏せろっ!」バッ
相棒「坊主!」バッ
少年「い、一体、何が――」バッ
ズドォンッ
グラグラ
ガラガラ…
ゴゴンッ
ズズンッ
ドン… ズドォンッ
部下甲「西に逸れた。東に修正させろ」
部下乙「『東に修正』はこの振り方だったな……」ブンブン
部下丙「砲撃班への合図とはいえ、提灯を振り回すのは何だか馬鹿らしいな」
ドン… ズドォンッ
部下甲「次は北に逸れたぞ」
部下乙「『南に修正』っと……外しすぎじゃないのか?」ブンブン
部下丙「さっきドンピシャだっただろう。夜中でこれなら抜群の腕だ」
ドン… ズドォンッ
ギギイッ キャーグシャ
部下甲「おっ!当たったぞ!」
部下乙「『修正なし』っと」ブンブン
部下丙「……それにしても、槍使いさん」
槍使い「『二人を始末するのに大筒とはあまりにも大げさだ』と言いたいんだろう?」
部下丙「えっ……は、はい」
部下丙(相変わらず人の言いたいことを読むなあ……)
槍使い「それだけ油商人はあの二人が怖いのだろう」
槍使い「臆病なあの男らしいことだ。大げさな対策をとるのも無理はない」
部下丙「まあ……そうですね」
槍使い「しかし……そいつらが怖いというそれだけの理由で……」ゴゴゴゴゴ
部下丙「……?」
槍使い「私を夜中に呼びつけ、こき使うとは!」ビュンッ
部下丙「ヒイッ!?」
槍使い「この!私は!人束いくらの浪人とは違うのだ!」ブンッ
槍使い「日々人の暮らすそれならざる世界より形なき文を受けその内容のすべてを代行者としてこの世へ生み出す宿命を神仏すら超越する大いなる存在より受けた人であって人ではない私を個人の恐怖心を由に軽々しく呼びつけるなど許されんのだぁああ!」ビューンビューンビューン
部下丙「わ、わかりました!わかりましたから、落ち着いてください!」
槍使い「……」ピタッ
部下丙(……本当に落ち着いた?)
槍使い「……おい、下郎ども……今すぐ、砲撃班に加勢しに向かえ」
部下甲「え?」
部下乙「へ?」
部下丙「な、なぜです?」
槍使い「……砲撃班が、奴らの片割れに襲撃される」
部下甲「ええっ!?奴ら、もう死んだのでは!?」
部下乙「たとえ襲撃が行われるにしても……片割れということは、一人でしょう?」
部下丙「たった一人なら、砲手たちと、さっき伝令に向かった部下丁で充分に始末できるのでは?」
槍使い「無理だ。襲撃者は女だが、砲撃班は撫で斬りにされる」
部下達「「「!?」」」
部下甲「や、槍使いさん!そんなこと起こるわけが……縁起でもない!」
槍使い「……『視えた』んだよ」
部下達「「「……?……」」」
槍使い「とっとと行け。今私は気が立ってるんだ」
槍使い「二度同じことを言うくらいなら、手前らを全員この槍の錆にするぞ!」
部下達「「「今すぐ向かいますっ!」」」ピュー
槍使い(……面倒だが、もう一人は私が相手せざるをえないな)
槍使い(もうあの宿屋から脱出し、攻撃を仕掛けてきてもいいことだが……)
槍使い(……!)
――――――――
――――
――
ズドンッ!
槍使い『ぐっ!?』ガクッ
槍使い『う、撃たれ……あ、あそこの木の裏からか……!』ジャキッ
……ザッ
用心棒『……お前が〈槍使い〉か』
槍使い『……〈用心棒〉……』スック
用心棒『クックック……無茶するな。傷が広がるぞ……』ジャキッ
槍使い〈――短銃だと!?〉
ズドンッ!
――
――――
――――――――
槍使い(……『視えた』)
槍使い(浪人とはいえ武士だろうに、短銃とは……)ジャキッ
槍使い「……まあ、外道はお互い様だな」ボソリ
槍使い「そこだ、短銃使い!」ビュンッ!
ジャララララララララ…
用心棒「何ッ!?くっ!」ゴロゴロッ
バキャアッ!
槍使い「……避けたか。中々の身のこなしだ」
用心棒(何故だ……完璧に気配を消していたはずなのに、見つかるとは……)
用心棒(――それよりも……あの槍は、一体何だ?)
用心棒(柄と穂先が鎖で繋がっている……なるほど、鎖鎌のようにも使える仕掛けか)
用心棒(夜闇で遠くが狙えず弱体化している短銃が相手なら、引けを取らぬ得物……)
用心棒(いや、発射炎で現在位置を露呈する短銃より強力か――?)
槍使い「……フッフッフッフッフ。思ったより私を楽しませてくれるようだな」
槍使い「だが、それだけだ。どうあがいても私に勝つことなどできんぞ……」
槍使い「――私には全てが『視える』!」
ドンッ!
砲手甲「ヒュウ……これで弾は最後だったな?」
砲手乙「ああ。宿屋は用心棒ごと木っ端みじんさ」
砲手甲「いや、何だか知らんがしばらく修正の合図が無いから、後半は外したかもしれん」
<ザッザッザッ
砲手甲「うっ!?敵か!?」ジャキッ
砲手乙「待て、合図に使う提灯を持っているぞ。味方だ」
砲手甲「何?……じゃあ、合図を中断したのはこっちに移動するためだったのか?」
砲手乙「だろうな」
部下甲「大筒はこのあたりだったか?」ザッザッ
部下乙「たぶん……おっ、居たぞ」ザッザッ
部下丙「無事か砲手ども!」ザッザッ
砲手甲「はっ、無事です!」
砲手乙「一体何故こちらにお越しになったんです?」
部下甲「あ、いや……槍使いさんが、お前らが襲撃を受けると言ったものだからな」
部下乙「しかし、このぶんでは外れだな。珍しいことだ、博打でも外したことはないのに」
部下丙「いや、すでに敵は近くまで来ているのかもしれん。急いで撤収だ!」
<ガチャガチャ ゴトゴト
<アブラショウニンサンハ、ドコカラオオヅツナンテモッテキタンデショウ?
<サアナ
少年「敵が増えましたよ」ヒソヒソ
相棒「……見ればわかる」ヒソヒソ
相棒(短銃を持っているのが二人と、腕が立ちそうなのが三人……)
相棒(坊主を抱えたままでは持て余す……)
相棒(……しかし、坊主を一人にするのは心許ないような)
少年「……相棒さん、僕に何かできることはありませんか?」ヒソヒソ
相棒「!」
少年「……戦いたいんです。いつまでも守ってもらうなんて嫌だ」ヒソヒソ
少年「家族の……家族の仇を、討ちたいんです!」ヒソヒソ
少年「……それに、僕は用心棒さんの弟子でもあります」ヒソヒソ
相棒「……」
相棒「……」
相棒「……」ゴソゴソ
相棒「ん」スッ
少年「これは……短銃?」パシッ
相棒「浪人どもから奪った洋式短銃……これが早合」ヒソヒソ
少年「ずっと持っていらっしゃったんですか?何故使わずに……」ヒソヒソ
相棒「元々は用心棒が持っていた。団子屋の話をしたら護身用にと渡された」ヒソヒソ
少年(団子屋……?)
相棒「……坊主。お前はこの短銃を持って山から下り、街道を南へ向かえ」ヒソヒソ
相棒「大きな楠にぶつかったら、右の脇道を上れ。そこに隠れ家がある」ヒソヒソ
少年「あ、相棒さん!僕も一緒に……」
相棒「坊主。お前の仕事は、何としても生き延びることだ」
少年「……!?」
相棒「……万に一つもないことだが」
相棒「もし私たちも死んだら、誰が仇を討ってくれる?」
相棒「誰がお前の家族の仇を討つ?」
少年「……」
相棒「……お前は何としても生き延びるんだ、坊主」
相棒「分かったら行け。静かに、な……」
少年「……」
少年「待ってますからね……これでお別れなんて、いやですからね!」ダッ
相棒「……」
相棒「……さて」スッ
短刀「ジャキッ」
短刀「ジャキッ」
短刀「ジャキッ」
短刀「ジャキッ」
相棒「……始めるか」
砲手甲「そっち引っ張れ!」
砲手乙「待て、車輪がつかえている……」ゴソゴソ
部下甲「ええい、何を手間取ってるんだ、大筒を牛に繋ぐだけだというに……」
ヒュッ
部下甲「ッ」ブスリ
部下乙「……?おい、どうした、甲……」トンッ
部下甲「」ドシャッ
部下乙「な……!?せ、背中に短刀が……」
部下丙「どうしたッ!」バタバタ
ヒュッ
部下丙「ぐおっ!」ブスリ
部下丙「う、腕が……短刀を投げやがったのか!」
部下乙「用心棒の手の者か!?」スラッ
ヒュッ
部下乙「馬鹿め、そうそう何度も通用……」カキインッ
相棒「……」シュザッ
部下乙「何ッ!?」
相棒「……」スラッ
ヒュパッ! ドバッ!
部下乙「」ドシャッ
部下丙「お、おのれ……!」スラッ
砲手乙「このアマがァ!」
相棒「……」ザッ
部下丙「喰らえッ!」ビュッ
相棒「……」ヒョイッ
砲手乙「風穴を開けてやるッ!」ジャキッ
相棒「……」グイッ
砲手乙「うおっ!?」ブンッ グッカチッ
部下丙「馬鹿野郎どこを狙って……」
バアンッ!
部下丙「」ドシャッ
砲手乙「ひっ……」
相棒「ご苦労」チャキッ
ズバッ! ドヒュッ!
砲手乙「」ドシャッ
相棒(残り一人は……居ない?逃げたか?)
砲手甲「うおおおおッ!」ザザッ
相棒(し、茂みの中に――!?)
砲手甲「死ねぇ――ッ!」ジャキッ
バアンッ
ザザザッ
ズドンッ
シュザザッ パキパキ
ズドンッ ズドンッ
ザザッ ジャラランッ バキャッ
シュザザッ
用心棒「……」ザッ
用心棒(槍使いはどこに隠れた……?)キョロキョロ
用心棒(くそっ、夜のうえに森の中だから隠れられると見つからん……!)
用心棒(森に逃げるあいつに取り合わず、宿屋の跡地に居座るべきだったんだろうが……)
用心棒(砲台の敵と合流されると相棒が危険になるから、奴を自由にするわけにはいかなかったんだ……仕方ないことだ!)
槍使い「喰らえ!」ジャララッ
用心棒「うおっ!?」サッ
用心棒「そこか!鼠野郎!」ズドンッ ズドンッ
槍使い「フン、視えてるぞ……」サッ サッ
槍使い「これならどうだ、鼠野郎!」ジャラランッ
用心棒「くそっ!」サッ チュインッ
バキャアッ!
用心棒(――くっ、腕にかすったが、何とかかわしたぞ)
槍使い「……」ニヤリ
メキメキ
用心棒(ハッ!?槍が刺さった木が――!)
メキメキッ ズドッ
槍使い「そしてこれは、大筒用の火薬を少々失敬して作ったものだ……」ゴソゴソ
槍使い「とっておきな!」シュバッ ポイッ
バチバチ…
ドゴオンッ!
メラメラ… パチパチ…
槍使い「……流石に、死んだか?」
槍使い「――!」
槍使い「ハッ!」バッ
ドゴオンッ! チュイーンッ
用心棒「……チッ」
槍使い「……フフッ。あの一瞬で……私の後ろに回り込むとは……」
槍使い「剣士が敗れたのも無理はない、といったところか……フフフ……」
用心棒(……再装填……)スッ
槍使い「おっと、再装填なら急がなくていいぞ」
用心棒「!……親切なことだな」ガシャッ
槍使い「フフフ……相模くんだりまで追ってきたんだからな、もう少し楽しませてもらう」
槍使い「ところで、もうわかっているだろう?」ゴソゴソ
用心棒(野郎、銀の櫛を出して……髪を整え始めたぞ……)
槍使い「私に攻撃は通用しない……『視え』てるんだ、全部な……」サッサッ
用心棒「フン、面白い目なんだな。目薬をやろう」ドゴオンッ
槍使い「いらないな」サッ
バキイーンッ!
用心棒(――!こ、こいつ、櫛で銃弾を弾きやがった!)
用心棒(まるで弾丸の軌道がわかっていたかのような――ハッ!?)
槍使い「フフ、フ、ようやくわかったようだな」
槍使い「そう、私の目は未来が視える面白い目なのさ……」
槍使い「『無意識のうちに相手の体の小さな動きを見て、しようとしていることを読み取っている』……」
槍使い「外国で医学を学んだ医者はそう予想していたな……フン」
用心棒「……」
槍使い「この力は神が私に分け与えた神通力ゆえ、一介の医者風情にはそのようにしか定義付けできまいよ」
槍使い「神通力というのは人の言葉では説明できないのだ。言葉は神通力の産物なのだから、な……」
槍使い「鏡に鏡を写すことができないのと同義よ」
用心棒(……なかなか頭がイってる鼠野郎だな)
用心棒(しかしこのままでは俺がジリ貧だ……ならば……)
槍使い「おい、何とか言ったらどうなん……」
槍使い「――!」
用心棒「視えたな?避けてみろッ!」ジャキッ
ドゴンッ
ドゴンッ
ドゴンッ
ドゴンッ
ドゴンッ
槍使い「――ハッ」
槍使い「考えが!」サッ
槍使い「安易だ!」バッ
槍使い「鼠野郎!」シュバッ
槍使い「視えててもかわせないほど攻撃すればいい、なんてな……!」
槍使い「次はこっちの番……」ジャキッ
用心棒「うおおおおお」ダダダダダ
槍使い「な!?アイツ逃げやがった!?」
槍使い(あれほどの戦闘力を持ちながら……逃げるだと?)
槍使い(どこまでも安易な……いや……なめているのか?私を?)
槍使い(私を……私を……オレを馬鹿にしてるってのかッ!)
槍使い「……ふ」
槍使い「ふざけんなゴミが――ッ!」
槍使い「槍の射程内だ!その無防備な背中にぶち込んでやる!」ジャキッ
用心棒「出てこい!木の陰から!」ガシッ ズルッ
部下丁「わっ!?ば、ばれて……!?」スラッ
用心棒「当たり前だ!オラァ!」バシッ
部下丁「ひいい――っ!」カランッ
用心棒「行け!」ゲシッ
槍使い「チッ……」ヒョイッ
部下丁「うわあっ!」ドタッ
槍使い「何をやっていやがる、役立たずめ!」
部下丁「た、た、た、大変なんです!砲台が!砲台班が全滅です!」
部下丁「私は命からがら逃げて、槍使いさんに合流するためにここまで来たのですが……」
部下丁「戦闘中で割り込めなくて隠れていたらあんなことに……」
槍使い「砲台班が全滅……?増援をよこしたのに……」
槍使い「チッ、奴の相棒も手練ってのか?オレの想定外だってか?」
槍使い「どこまでもオレをコケにしやがって……」
槍使い「――!」
用心棒「刀を返すぞ!」ブンッ
槍使い「よけろボンクラ!」バッ
部下丁「ひいっ!」ドタッ
ビューンッ
部下丁「あ、ありがとうございますっ」
槍使い「なに、大事な盾だからな」ガシッ
部下丁「はっ?」
用心棒「こいつはおまけだ!」ドゴオンッ
槍使い「それも視えてる!」グイッ
部下丁「や、槍使いさ――グハッ!」バスッ
部下丁「」ガクッ
用心棒「チッ、便利な目だ……!」ダッ
槍使い「逃がさん……絶対に逃がさんぞ……!」ダッ
シュザザザザ…
用心棒(チッ、道が崖でドン詰まりになってやがる……回り込んで崖をよけるか)ダダダ
用心棒(しかし……さっきのひと悶着で少し引き離せただろう)ダダダ
用心棒(そうだ、この隙に弾倉を交換しなければ……)カシャッ
<ビューンッ
用心棒「っ!?」サッ
ズバッ
用心棒「ぐうっ!」
用心棒(くそっ、左腕が……奴の『槍』か!)
用心棒(弾倉交換のために少し速度を緩めたところを狙われたか……)
用心棒(しかし何故だ!?奴は俺の後方に居たはずだ、何故左から槍が……!)
用心棒「――!そこかッ!」ドゴオンッ
チュイーンッ
槍使い「当たらねえな、そんな攻撃は」ザッ
用心棒「……貴様……」
槍使い「『どうやってそこに移動した』と聞きたいんだろう?」
用心棒「!」
槍使い「……フフフフ、ウッフフフ……誰が手前に教えるかよ!」
用心棒「……」ジャキッ
槍使い「おーおー、勇ましいな。だが手前は間抜けだぜ」
槍使い「逃げ続ければ良かったものを、動揺して無駄な攻撃を試みた結果……槍の射程内から逃れられていないッ!」
用心棒(……!し、しまった!)
槍使い「そしてこれからは二度と逃さない!槍を喰らえ!」ブンッ
用心棒「チッ……!」
用心棒(……むっ?槍の穂先の速さが……宿屋の跡地で対峙していたときより、落ちている?)
用心棒「これなら……撃ち落とせる!」ドゴオンッ!
カキインッ!
ガシャッ
槍使い「くっ、小癪な……」ジャラジャラ
槍使い「――!……これならどうだ!」ビュンッ!
用心棒(近くの木を狙っている?また倒木を引き起こす気か……だが、遅い)
用心棒(――そうか、わかったぞ)
用心棒(奴は、俺がよけたあの崖を飛び降りてきやがったんだ。だから先を行く俺に追いつけた)
用心棒(そのとき足を痛めたせいで、槍を振るとき十分踏み込めず、その結果攻撃が遅くなっているんだ)
バギャッ
メキメキメキ…
用心棒(倒木の当たらないところに移動しよう)サッ
用心棒(そして奴に反撃を――)ジャキッ
用心棒「――ハッ!?あいつはどこに行った!?」
槍使い「手前の後ろだッ!喰らえ!」ブンッ
用心棒「ぐはっ!?」ポロッ
用心棒(うっ、短銃が!)バッ
槍使い「取らせん!」ビュンッ
用心棒「ぐふぅっ」ドタッ
用心棒(し、しまった……俺が倒木に気を取られるのを視ていやがったな!)
用心棒(その隙に後ろへ回り込み、槍の柄で攻撃してきたのか!)
槍使い(穂先を回収……)ジャラジャラ
用心棒(――はっ!槍使いの後ろの、木の陰に……!)
相棒「……」コソッ
用心棒(やっと……合流できた!)
用心棒(俺が槍使いから逃げたのは、砲台の敵を排除して戻る相棒といち早く合流するためだったんだ!)
相棒「……」チャキッ
用心棒(槍使いはこれから俺にとどめを刺すため、槍を振りかぶるだろうが……)
用心棒(その瞬間、すなわち隙が生じた瞬間、相棒が後ろから短刀を投げて奴の心の臓を突き通す!)
槍使い「――!……」
槍使い「……さて……これでとどめだッ!」グッ
用心棒(今だ相棒!)
相棒「ッ!」ビュンッ
カキインッ!
用心棒「……!?」
相棒「……!?」
槍使い「……」
用心棒(ば……馬鹿な!)
用心棒(槍使いがッ!槍を振りかぶると見せかけて、飛んでくる短刀を叩き落としやがったッ!)
槍使い「フッ……フハハハ……ハーッハッハッハァ!」
槍使い「全部視えてんだよクソボケどもがあああッ!」
用心棒「ぐ……!」
相棒「……!」ゴソリ チャキッ
槍使い「雑魚が一匹増えたところで何も変わらねえよ……転がる死体が一つ増えるだけだ」
槍使い「さて……順番は、用心棒からかな?」チャキッ
相棒「ッ……!」ダッ
槍使い「手前はおとなしくしてろッ!」ポイッ
相棒「!」
ドガアンッ!
用心棒「あ、相棒――ッ!」
槍使い「おいおい!向こうを気にしてる暇があるのか用心棒?」チャキッ
用心棒「ぐッ……!」
槍使い「ヒッハッハッハッハ!そう睨むなよ、できるだけ苦しんで死ねるように取り計らってやるから――」
ピシッ
槍使い「――あ?」
用心棒(……地割れ?)
ピシッ ピシピシッ ピシッ ピシッ
ズズズズズズズズズ… グラグラグラグラ
槍使い「おっ?うおおっ?」
槍使い「な、な、な、な、な、何だこれは――っ!?こんなの視えなかったぞッ!?」
用心棒(地震!?……いや、違う!)
用心棒(『土砂崩れ』だ!今いる場所は、崖の上だったんだ!)
用心棒(この前の雪で土が緩んでいたから、爆発の衝撃で崖が崩れ始めたんだ……!)
用心棒(好機ッ!この隙に短銃を手に入れる!)ダッ
槍使い「――!させるか!槍を喰ら――」グッ
ミシミシミシ グラグラグラ
槍使い「うおっ!?」スポッ
ガキッ
槍使い(しまった!足元が揺れて狙いが狂って――槍の穂先が木に突き刺さっちまった!)
槍使い「ぬ、抜けない……!」グッグッ
用心棒(もう少し!もう少しで短銃に手が届く――)
ゴゴゴゴゴゴゴ
ガラガラガラガラガラッ
用心棒「うおっ!」ドタッ
用心棒(や、やばいぞ!地面が傾いて……!)
ゴゴゴゴゴゴガガガガガガッ
槍使い「お、落ちる――ッ!」ズルッ
用心棒「うおあああ!?」ズルッ
槍使い(――ハッ!槍が!木に突き刺さった槍が手がかりになってくれているッ!)プラーンッ
槍使い(用心棒!滑ってこい、こっちに!槍は使えないが、爆弾で爆殺してやる!)ゴソッ
槍使い(――!)
用心棒(ま、まずい!このまま槍使いのほうに落ちていくと爆弾の餌食だ!)ズルズル
用心棒(何かに捕まらなければ!くそっ、手がかりが無い――)ズルーッ
ガシッ
用心棒「!?お、お前は――」
相棒「……」ギュッ
用心棒「相棒――ッ!」
槍使い(くそっ!やはり生きていた――さっきの爆弾を紙一重でよけていやがったな!)
槍使い(視えてはいたが、崖からぶら下がっているこの状況では対応できん……!)
グワン ガラララッ ズズズズズ
相棒「あ」ズルッ
用心棒「おい」ズルッ
槍使い(来たッ!傾斜が酷くなって、奴らこっちに落ちてきやがった!)
槍使い(あと六尺落ちてこい!そうすれば投げた爆弾が届く!)
用心棒(踏ん張るッ!ぐぐぐぐぐ)ズザザッ
相棒「……」ズルーッ ゴソゴソ
槍使い(あと四尺!……――!)
用心棒(ダメだ!傾斜がきつすぎる!)ズザザッ
相棒「フンッ!」ズルーッ ビュンッ
槍使い「また短刀を――だが、視えているぞッ!」ピシッ
用心棒(し、真剣白羽取り!)ズルーッ
相棒(……もう打つ手は……!)ズルーッ
槍使い(あと二尺!……――!)
ヒュウーッ
用心棒「!落ちてきた!短銃がッ!」パシッ
用心棒「喰らいやがれ槍使い――ッ!」ドゴオンッ ドゴオンッ ドゴオンッ
槍使い(視えていた!視えていたが――避けられん!この姿勢では!)
槍使い(俺の――俺の取るべき行動は――最も生き残る可能性の高い方法は――!?)
槍使い「これだ――っ!南無三!」ピョーンッ
用心棒「何ッ!?」
用心棒(崖から飛び降りた!?何て奴だ!)
用心棒(――だが、後から落ちてくる土砂に生き埋めにされてお陀仏は確実……)
用心棒(俺の勝ちだ、槍使い!)
用心棒「俺たちまで落ちてはたまらん!奴の槍に掴まれ!」ズルルーッ パシッ
相棒「はっ」パシッ
ガラガラガラ……
ズズンッ ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……
……
……
用心棒「……ひゅう……」プラーンッ
相棒「……」プラーンッ
付近の山中
闇商人「……終わったようだな」
忍「熾烈な戦いになったようですな」
闇商人「ああ……偶然に味方されて用心棒が勝ったものの、油商人四天王は強者ぞろいのようだ……」
闇商人「残り二人はおそらく槍使いよりも強いのだろう……用心棒は勝てんだろうな」
忍「……では」
闇商人「……」
闇商人「俺は油商人につくことにする」
忍「……はっ」
闇商人「……用心棒と相棒の姿が消えた。土砂崩れの跡へ行くぞ」
忍「槍使いを探すのですか」
闇商人「ああ。四天王の一人である奴を救助したとなれば、俺は油商人から信頼されるに違いない」
闇商人「まあ、槍使いが生きていればの話だが……さあ、行くぞ」
忍「御意」
ザッ ザッ ザッ ザッ……
ここまで説明するなら使った方がスッキリすると思うけど
向き不向きもあるし入れたら入れたでどれ位入れるかも難しいからねぇ
向き不向きもあるし入れたら入れたでどれ位入れるかも難しいからねぇ
土砂崩れの描写は、よく台本形式で書いたなと感心
引き込まれたよ
しかし>>51でやられる悪役のフラグ立ちすぎでワロタ
次鋒とか言ってる時点で負ける気マンマンじゃねーかwww
ま、時代劇だとそれくらいベタな悪役のが良いかー
引き込まれたよ
しかし>>51でやられる悪役のフラグ立ちすぎでワロタ
次鋒とか言ってる時点で負ける気マンマンじゃねーかwww
ま、時代劇だとそれくらいベタな悪役のが良いかー
隠れ家
少年「……」ハラハラ
少年「……」ソワソワ
少年「!」スック
少年「……」ストン
少年「……」ハラハラ
<…パカラ パカラ パカラ
少年「!」スック
少年「……!」ソワソワ
パカラ パカラ パカラ…>
少年「……?……?」オロオロ
少年「……」ストン
少年「……」ソワソワ
少年「……」キョロキョロ
少年「!」スック
少年「……」スタスタ
少年「……」ゴトゴト
少年「……」ガサガサ
少年「……」ギュッギュッ
<…パカラ パカラ パカラ パカラ
少年「!」
用心棒「居るか坊主ゥ!」ガラッ
相棒「生きてるか坊主」
少年「ああっ!用心棒さん!相棒さん!よくご無事で……!」
用心棒「は、は、は。俺にかかれば槍使いでさえも……」
用心棒「……何で蓑なんか着てるんだ?」
少年「あ、これは……手持ち無沙汰で、何となく……」
用心棒「……お、おう」
ガパッ
用心棒「よーし、闇商人はちゃんと食料も用意しておいてくれたな」
少年「何で床下に食料保管庫が?」
用心棒「さあな。あいつの用意する家ってのは大概床下に仕掛けがあるんだよな……たぶん闇商人の趣味じゃないか」
少年「ふうん……変わった趣味ですねぇ」
用心棒(……これでとりあえず、食料の不安はないが)
用心棒(――弾薬が残り少ないな……剣士と槍使いに散々使わされてしまったからな……)
用心棒(隠れ家を出て調達するわけにもいかん……どうしたものか……)
少年(……用心棒さんは何だか難しそうな顔をして考え込んでしまったな)
少年(そういえば、相棒さんは……)クルッ
相棒「……」キョロキョロ
少年「?どうされました?」
相棒「……風呂……」
少年「お風呂ですか?」
少年(改めて見れば相棒さんは、至近距離で爆裂弾が爆発したかのようにススだらけだった)
少年「向こうにありましたよ。この廊下の突き当たりに」
相棒「……用心棒」スッ
用心棒「……ん?」
用心棒「……ああ。おうよ……勝ったほうが薪割り、負けたほうが水汲みだ」スッ
二人「じゃーんけーん……」
少年「あ!お風呂の準備なら出来てますよ」
用心棒「ほう?よく気が回るやつだな!」
少年「……手持ち無沙汰で」
用心棒「……お、おう」
相棒「……坊主」
少年「はい!沸かすのもやります、少しだけお待ちを!」ダッ
ガラッ ピシャリ
相棒「……」
相棒「……手ぬぐいは……」キョロキョロ
相棒「!」ヒョイッ
用心棒「ん?どうした?……おい、それは」
相棒「坊主に持たせた……洋式短銃」
用心棒「……俺たちが帰ってきたとはいえ、暴発すりゃ人死が出る凶器を置きっぱなしにして行くとは」
用心棒「あの坊主……気が回るんだか、そそっかしいんだか……」
用心棒「なんにせよ俺たちみたいな仕事は向いてないな」
相棒「……全く」
用心棒「……短銃なんて持たせておいて大丈夫なのか?」
相棒「……」
相棒「……護身用」
用心棒「まあ、そうだが……」
用心棒(……おっと。馬と荷車を外に置きっ放しだった)
用心棒(油商人の追っ手に見つからないとも限らん。裏手の厩に移動しておかなければ……)
用心棒「馬を移動してくる」
相棒「ん」
ガラッ ピシャリ
用心棒(しかし、寒いな……このあたりはまだ雪が融けていないのか)
用心棒(考えてみれば、あの馬も悪運が強いな。あの砲撃の中でも無傷だった)スボッ スボッ
用心棒(おかげで箪笥を捨てずに済んだ……)スボッ スボッ
用心棒(……?)スボッ…
用心棒(何だ……馬の近くに……人影が……)
用心棒「……!?」
覆面の男「……」
覆面の男「……おや、用心棒」
用心棒「……貴方は……何故、ここに」
覆面の男「……全く、無用心が過ぎるな」
覆面の男「これこれこういうものが借りた、ということが知れ渡っている馬を繋いでおけば」
覆面の男「これこれこういうものはその近くにいる、ということは猿でもわかる……」
覆面の男「……さて。勉強代として茶の一杯でもいただけるかな」
覆面の男「手土産は持ってきたのでね……」
用心棒(そういえば……覆面の男は、大きな袋を背負っている。あれが手土産なのだろう)
用心棒(……それよりも)
用心棒(――何故この男は、俺がこの街道沿いに居るとわかったんだ……?)
同時刻 江戸
油商人の館
油商人「や、や、や、槍使いまでも敗れ去るとは……虎の子の大筒も持たせたにも関わらず!」
油商人「用心棒とは一体どれほどの実力を持っているというのだ……!」
油商人「恐ろ……いや!いやあ!恐ろしくはない!まずいんだ!まずいだけだ!」
油商人「そうだ、まずい、まずい、まずいんだ!私は死にたくない……もとい……死んではならない人間だ、この国にとって!」
油商人「武士!館の防備は十分なのか?固めろガチガチに!死んでからではどうにもならん!」
武士「落ち着いてくだされ油商人殿……」
武士(チッ……面倒くせえなあ……)ボリボリ
武士(こういうとき剣士がいると押し付けやすかったんだが……今この場にいるのは……)チラッ
大男「ああー……うう」
武士(……こいつではなあ……)
武士「聞くところによると、用心棒が槍使いに勝利したのは単に偶然が味方したためのようです。何ら恐れることは……」
油商人「何だ!?何を言っているお前は!?」
油商人「お前は江戸から動いていないではないか、戦いの顛末などわかるものか!」
油商人「私にとりいりたいのか騙したいのか知らんが出鱈目を言うんじゃあないッ!」ブンッ
武士(!ボケが、香炉を……)ゴソッ
ドキューンッ
バキーンッ ゴトッ ゴロロ…
油商人「ひいっ!?き、きさま、短銃を……まさか……きさま……」ブルブル
武士「……落ち着いてくだされ油商人殿」
武士「父上が朱印船貿易で手に入れたとかいう、『まにら』の煙草でもお吸いになったらいかがです」
油商人「『まにら』の煙草……?」ブルブル
油商人「……」ブルブル ゴソゴソ
油商人「……」ブルブル スパーッ
油商人「……」スパーッ
油商人「……」スパーッ
油商人「……」コトッ
油商人「……ふ」
油商人「ふふふふふ……ははははは」
油商人「すまんな武士よ。私ともあろうものが何を取り乱していたのか……」
武士(……あの煙草、何が入ってるんだろうか)
油商人「にして……武士よ……何故貴様が用心棒と槍使いの戦いについて知っているのか……」
武士「全てを見ていた『協力者』から文が届いたからです油商人殿」
油商人「『協力者』……とな?」
武士「はい。文にて、用心棒の抹殺に関して油商人殿に協力したいと申し出た男にございます……『闇商人』と名乗っておりました」
武士「現在用心棒が身を隠している隠れ家を用意した男らしく」
油商人「ほう……」
武士「現在相模からこの屋敷へ向かっているそうです」
武士「到着次第、隠れ家の位置と用心棒に関する情報、『とっておきの襲撃手段』を油商人様に全てお伝えするほか、襲撃にも自分の部下を加勢させるとのことです」
油商人「……ふむ。隠れ家の位置に……『とっておきの襲撃手段』……」
油商人「それにしても、隠れ家を用意しておきながらこちらに協力するとはなかなか良い根性をしているな」
武士(そういう話を世間話でもするような顔でできるあんたも大概だけどな……)
油商人「まあ……協力の申し出を受けることに損はあるまい。返事は?」
武士「そう仰ると思い、既に返事を出してございます」
油商人「良い良い……ふっふっふ……その協力者から情報を聞き出し次第、隠れ家の襲撃を決行するとしよう」
油商人「襲撃の音頭は大男、お前にとってもらう……存分に刀を磨いておくのだぞ」
大男「う……」
大男「……」
大男「御意」
ホーッホーッ ホッホーッ
ホーッホーッ ホッホーッ……
少年「……」
少年「……」
少年「……」パチリ
少年「……」ムクリ
少年「……」
少年「……」キョロキョロ
用心棒「グゴゴゴゴ……グゴゴゴゴ……」
相棒「……ワガダンゴケンハムテキ……ムニャムニャ」
少年(……癖で、早く起きてしまった)
少年(毎朝、父上に剣を教えてもらっていたから……)
少年「……」
少年(いかん、いかん、こんな弱気では!)フルフル
少年(……顔を洗おう)スック
少年(水は土間の瓶にあるけど……桶と手ぬぐいは……あ、あった)パシッ
少年(うう……寒い……)スタスタ
ガサゴソ スタスタ
カタッ…ザパッ バシャバシャ バシャバシャ ビシャッ…カタン
少年「つ、冷たい……目が覚めたぞ……!」ブルリ
少年(しかし……あまりにも寒すぎるような。昨日は囲炉裏の火をずっと燃やしていたのに……)ゴシゴシ
少年(……隠れ家のどこかに大穴でも空いてるんじゃあないか?)キョロキョロ
少年(……ないか)
少年(ひょっとして、昨晩僕が寝た後に雪が降ったんだろうか?)
少年(少し外の様子を見てみよう……)
ホーッホーッ ホッホーッ
ホーッホーッ ホッホーッ…
ガラッ バササササ…>
少年(寒い……けれど、新しく積もった様子はないな……)
少年(なぜ隠れ家の中はあんなに寒かったんだろうか……?)
少年(……気のせいかな)
少年「……」
少年「……」クルッ
<グゴゴゴゴ… グゴゴゴゴ…
少年「……」
少年「……」キョロキョロ…
少年(……おや)
少年(雪の重さで折れたのか、太い木の枝が落ちている……ちょうど、打刀ほどの長さだ)
用心棒『たかが棒、されど棒……』
少年「……」
少年「……」
スボッ スボッ スボッ ヒョイッ
少年「……」グッ
少年「フンッ!」ブンッ
少年「フンッ!」ブンッ
少年「フンッ!」ブンッ
…
少年「はあ……はあ……」
少年(少し休憩しよう……どこか座るところは……)キョロキョロ
少年(おや、戸口の近くに岩が雪から突き出しているぞ……雪の下には庭があるんだろうか)
少年(何にせよ丁度いい、あそこに腰掛けよう)
少年「……ふう」
少年「……」
少年(雪の上には、ついさっきの僕のもののほかに幾筋かの足跡が伸びている)
少年(そのうちのほとんどは僕と用心棒さん、相棒さんのものだが……二筋だけは違う)
少年(それは……あの得体の知れない覆面の男が往復したときのものだ……)
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