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    元スレ用心棒「派手にいくぜ」

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    1 : 以下、名無しにか - 2016/04/02(土) 19:32:43.46 ID:Q5Q1PHd30 (+125,+30,-221)

     スボッ スボッ スボッ スボッ スボッ…

    番頭「おお、寒い寒い……」ブルブル

    番頭(江戸にこんな大雪なんて、いつぶりだろう……歩くたびに、すぼ、すぼ、って音がすらあ)

    番頭(黒船が来てから全部狂っちまったみてえだ……ナンマンダブナンマンダブ)ハアー


    番頭「おい!居るんだろう!開けろ」バンバン

    大工「誰です何です一体?」ガラッ

    大工「げっ……番頭さんじゃないですか」

    番頭「そうだよ番頭さんだよ。なんか文句あるのかい」

    番頭「わざわざ雪の中を来たんだ、今日こそは三両、耳を揃えて返してもらうよ」

    大工「きょ、今日は都合が悪くて……」

    番頭「何言ってるんだい、おとついに明後日返すと言ってたじゃないか」

    番頭「今日は返してもらうまでてこでも……ん?」


     スボッスボッスボッスボッ…

    少年「はあ……はあ……」

    少年「痛っ!」ズキッ


    番頭「……子供が……」

    大工「……江戸もすっかり物騒になったもんでさ」

     ガラッ ピシャリ


    SSWiki :http://ss.vip2ch.com/jmp/1459593163
    2 : 以下、名無しにか - 2016/04/02(土) 19:33:27.03 ID:Q5Q1PHd30 (+95,+30,+0)

     スボッスボッスボッスボッ…

    少年「はあ……はあ……」

    少年「あっ」ズルッ

     ズボッ! 

    少年「……う、う……」


    「鬼ごっこはこれくらいで十分だろう、小童」

    少年「!」クルッ

    浪人甲「そろそろ首と体にお別れしてもらう時間だぜぇ」スラッ

    浪人乙「でもまあ、嬉しいだろう?親父とお袋のところに行けるんだからよ!」スラッ

    浪人丙「……お前の家の人間を一人も残すな、との依頼なんでな。念仏でも唱えていろ」

    少年「……!」ギロッ

    浪人甲「そう睨むなよぉ。ね、いい子ちゃ~ん……」ジリジリ

    浪人乙「痛いのは最初だけだからよ……なあ、おとなしく……」ジリジリ

    少年「うあーっ!」ダッ

    浪人甲「おっ!?」ガッ グラッ

    浪人乙「わっ!?」ガッ グラッ

     ズボッ! ズボッ ズボボッ

    少年「はあっ、はあっ……」ヨロヨロ

    浪人丙「はっ!」シュッ

    少年「ぎゃあっ!」スパッ

    浪人丙「手間取らせやがって……」

    少年「ううっ……」ヨロッ ドサッ

     グラグラ

    浪人丙「……む?」

     ドサドサッ

    浪人丙「うおっ!?ゆ、雪が!」

    少年「!」

     スボッスボッスボッ…

    浪人甲「逃げやがった!」バタバタ

    浪人乙「おのれ、クソガキ!」バタバタ

    浪人丙「いつまで雪遊びしてんだお前らは!?」バタバタ

    浪人甲・乙『田舎と雪質が違うんですよ!』バタバタ

    浪人丙「クソッ、坊主め!この代償は高くつくぞ!」バタバタ
    3 : 以下、名無しにか - 2016/04/02(土) 19:33:57.45 ID:Q5Q1PHd30 (+95,+30,-194)

     スボッ スボッ スボッ…

    少年「はあ……はあ……」トボトボ


    少年(……おや、橋だ……)

    少年(……武家の家に生まれながら、家族も守れないなんて……)

    少年(……いっそ、川に飛び込んで死んでしまおうか……)

    少年「っ……目眩が……」クラッ

     ズボッ

    少年「……」

    少年(もう、起き上がる気力もない……)


    <スボッ スボッ スボッ…
     <スボッ スボッ スボッ…

    ?甲「……」

    ?乙「……」


    少年(……男と、女だ……)

    少年「……父上……」

    少年「……母上……」

    <スボッ スボッ スボッ…
     <スボッ…

    ?乙「……」ピタ…

    ?甲「……?」クルッ

    ?乙「……」

    ?甲「……ほうっておけ。行くぞ」

    ?乙「……」

    ?甲「……おい!」
    4 : 以下、名無しにか - 2016/04/02(土) 19:34:28.87 ID:Q5Q1PHd30 (+95,+30,+0)

    <ズボッズボッズボッズボッ
     <ズボッズボッズボッズボッ
      <ズボッズボッズボッズボッ

    浪人甲「おっ!いやがった、クソガキ!」

    少年「!……」

    浪人乙「へっへっへえ、雪の布団が火照った体に心地よかろう?」

    浪人丙「……む?何だ手前らは」

    ?甲「!」

    浪人甲「さては正義の味方だな?」ヘラヘラ

    浪人乙「おう、おう、とっとと尻尾巻いて逃げたほうが自分のためだぞ?」

    浪人丙「……男、貴様は見たところ浪人のようだが」

    ?甲→用心棒「……いや、俺は用心棒。こっちは相棒だ」

    ?乙→相棒「……」

    浪人丙「そうか。とっとと消え……」


    浪人甲「わかった、こいつ、このガキの叔父だな!」

    浪人乙「そうだった!こいつの叔父は、家を襲ったとき留守だったから逃がしちまったんだった!……待てよ?」

    浪人乙「……そういえば、追ったのはお前だったな?そして仕留めそこねた……」

    浪人甲「うっ……」

    浪人丙「お、おいキサマら、何を早とちりして……」

    用心棒「そうだ、人違い……」

    浪人甲「ええい問答無用!死ねっ!」ビュンッ

    用心棒「チッ!」ゴソッ

     ガキインッ!

    浪人甲「――な!?」

    浪人乙「――に!?」

    浪人丙(あ、あいつ……刀を短銃で受け止めやがった!?)

    浪人丙(それより、何であいつは短銃なんて持っていやがる?)

    浪人丙(もしや、浪人のような風貌だが――幕府の役人か!?)

    浪人丙(だとしたらそいつに斬りかかった俺たちは――)
    5 : 以下、名無しにか - 2016/04/02(土) 19:35:03.60 ID:Q5Q1PHd30 (+93,+30,+0)

    浪人丙「殺せ!早く殺せ、証拠を残すな!」

    浪人甲「!?――は、はい!せいやっ!」ビュンッ!

    用心棒「馬鹿め!」ジャキッ

     ズドンッ! ズドンッ!

    浪人甲「ゴフッ」ドサッ

    浪人乙「ガフッ」ドサッ

    浪人丙「は、速――」ゴソッ

    用心棒「遅い」ジャキッ

     ズドンッ!

    浪人丙(お、俺は……なんてついてないんだ)

    浪人丙「ゲフッ」ドサッ

    用心棒「……!」スッ

    用心棒「……」スッ ゴソッ


    用心棒「……ところで、そいつは生きてるのか?」

    相棒「たぶん」

    少年「……う……」

    用心棒「……生きてるみたいだな」

    相棒「うん」

    用心棒「どうするんだ?」

    相棒「……」グイッ

    用心棒「何でそいつを背負って……まさか」

    相棒「助ける」

    用心棒「……まったく……」ハア

    <スボッ スボッ スボッ…
     <スボッ スボッ スボッ…


    (用心棒と相棒……?なぜこんなところに現れたんだ)

    (俺の計画では、浪人どもが子供を殺し、俺が浪人どもを殺すはずだったんだが……)

    (……まあいい。どうせあの坊主は助からん。浪人どもも死んだ)

    (しかし、あの用心棒……俺の計画に組み込むには少々『強すぎる』かな)

    (始末してしまうか)

     スボッ スボッ スボッ スボッ スボッ…
    6 : 以下、名無しにか - 2016/04/02(土) 19:35:29.39 ID:Q5Q1PHd30 (+74,+24,+0)
    今日はここまで
    7 : 以下、名無しにか - 2016/04/02(土) 20:48:46.34 ID:YdAxEpJAO (+24,+29,-7)
    おお、時代物のSSなんて嬉し過ぎる
    頑張ってくれ!
    8 : 以下、名無しにか - 2016/04/03(日) 22:26:14.40 ID:Ev2Sdsqg0 (+35,+30,+0)

    少年(……はっ)

    少年「……こ、ここ、は……」

    ?甲「俺の家だ、坊主」

    少年「!?」ガバッ

    少年「っ……」ズキッ

    少年「……?」

    少年(ケガが手当されている……)

    ?甲「あいつが妙なところで人情味を発揮しやがるから、また面倒のタネが……」ブツブツ


    少年(……長方形の部屋だ。短い一辺に土間があり、竈と玄関がある。長屋の一室だろうか?)

    少年(大きな衝立で区切られている。僕はその奥側に敷かれた布団に寝かされていたようだ)

    少年(浪人風の男はやはり奥側に置かれた卓の上で、手のひらに収まるくらいの大きさの何かをいじっている)


    少年「……すいません、あなたは……」

    ?甲「俺は用心棒だ」

    少年「用心棒……さん」

    用心棒「言っておくが……俺がお前を助けたのは偶然の結果に過ぎない」

    用心棒「お前をここまで連れてきたのも、手当したのも、相棒なんだからな」

    少年「相棒……」

    用心棒「俺と一緒に居た女だ」

     ガラッ ピシャリ

    相棒「……」

    用心棒「噂をすれば影が差す、とはよく言ったもんだ……」

    用心棒「おい、相棒。坊主が目を覚ましたぞ」

    相棒「……そう」

     ガサガサ カチッカチッ ボッ

    用心棒「おい、わざわざ飯なんて作ってやらなくても……」

    相棒「……温め直すだけ」

    用心棒「フン、そうかよ……」
    9 : 以下、名無しにか - 2016/04/03(日) 22:26:59.76 ID:Ev2Sdsqg0 (+35,+30,+0)

    少年「……」

    少年(僕は、殺された家族のことを思い出していた)


    少年(僕は養子だが、家族は僕を至極優しく迎えてくれた。歴史ある武家にも関わらず、その家庭は温かだった)

    少年(源氏の子孫である立派な父上、温厚な母上、物知りな叔父上と、僕の四人での生活は実に楽しかった……)

    少年(しかしある日、叔父上の留守中に、浪人たちが我が家を襲った)

    少年(父上に恨みのある、油商人が差し向けたのだ!十中八九間違いない)

    少年(父上と母上は僕を逃がし、刀を取って戦ったが……)

    少年(……たまらなくなって家に戻ってしまった僕が目にしたのは、父上と母上の死体だった)

    少年(そして戻ったために浪人たちに見つかり、追われたが、用心棒さんたちに匿われたのだ)

    少年(今となっては叔父上の生死もわからない……もしかしたら、僕を除いて一家は全滅してしまったのかも……)


    相棒「……坊主」

    少年「っ!はい!?」

    相棒「ん」スッ

    少年(……粥だ)

    少年「あ、ありがとうございます」

    相棒「……」

     ノシノシ… ドカッ

    相棒「……」ゴソゴソ

    相棒「……」パラ…

    用心棒「おう、また借本屋から借りてきたのか。好きだな」

    相棒「ん」パラ…


    少年(よく見たら、相棒さんはかなり器量がいいようだ。愛想はともかく親切なようだし……)カチャッ

    少年(しかし頬には傷があるし、杖を持っているということは足も悪いんだろうか?)フーフー

    少年(……これからどうしよう)パクッ

    少年(油商人を……仇を、討ちたいけれど……僕には力がない)モグモグ


    少年(……そういえば、意識が朦朧としていたけれど、見た気がする)ゴクン

    少年(用心棒さんが短銃で、浪人たち三人をあっという間に倒してしまったところを)フーフー

    少年(……強いんだな。格好いいな……)パクッ

    少年(僕にもそんな力があったら、仇が討てるのに……)モグモグ


    少年(……弟子にしてくれないだろうか)ゴクン

    少年(どうせ家族はいないんだ。構うことはない……掃除でも洗濯でも何でもしてやるぞ)フーフー

    少年(……弟子にしてくれるだろうか?)パクッ

    少年(用心棒さんは少し、とっつきずらそうだけれど……)モグモグ

    少年(いや、弟子にしてくれるまで頼み込んでやるぞ。土下座だってしてやる……もう失うものなんてないんだ)ゴクン

    少年「ごちそうさまでした」カチャッ

    相棒「ん」


    少年(でも、それは明日にしよう……)ウトウト

    少年(……今日は少し、眠い……)ウトウト
    10 : 以下、名無しにか - 2016/04/03(日) 22:27:25.32 ID:Ev2Sdsqg0 (+35,+30,+0)

    用心棒「……おい。これを見てみろ」ヒソヒソ

    相棒「?」

    用心棒「この前の浪人が持ってたものだ」ヒソヒソ

     ガチャリ

    相棒「……洋式短銃?」

    用心棒「ああ。火縄銃より遥かに高価で高性能だ」ヒソヒソ

    用心棒「そんなもんをただの浪人が持ってる訳無いだろう?あいつらは誰かに雇われたんだ」ヒソヒソ

    用心棒「役人か……もしくは商人。おそらくは後者だろうな」ヒソヒソ

    用心棒「あの坊主、なかなか面倒なことを持ち込んでくれたかもしれん……」ヒソヒソ

    相棒「……そうかな」

    用心棒「否定しようと思えば簡単だが……この短銃、欲しいか?」ヒソヒソ

    相棒「いらない」

    用心棒「そうか。じゃあ折を見て売り払ってしまおう」ヒソヒソ ゴソリ

    相棒「……ところで、何で小声なの?」

    用心棒「え、そりゃあ坊主に聞こえるとまずいから……」ヒソヒソ

    相棒「……」チョイチョイ

    用心棒「……?」クルッ


    少年「……ぐう……ぐう……」


    用心棒「ケッ、呑気なヤツ」

    相棒「……」
    11 : 以下、名無しにか - 2016/04/03(日) 22:28:11.69 ID:Ev2Sdsqg0 (+35,+30,+0)

    相棒「……」ペラ…

    用心棒「……何の本だ?」

    相棒「……」スッ

    用心棒「『滅ビシ剣法』……需要あるのかこんな本?」

    相棒「ある」コクコク

    用心棒「ふうん……ちょっと見せてくれ」パラパラ

    用心棒「『三日月流』、『不破流』、『南部流』に『呑流』……」

    用心棒「……ん?『草薙流』ってお前の流派じゃ……」

    相棒「!」バシッ

    用心棒「……フフッ、何で滅びたことにされてんだ?クックック」

    相棒「……」ワナワナ

    用心棒「まあ、女で、しかも得物が仕込み刀じゃあな……流派以前に、剣術家かどうかの時点で外道だ」

    相棒「……」ウルウル

    用心棒「……あっ!?いや、その……」

    用心棒「戦う上では有利だと思うぞ?不意打ちもできるし……な!な!」

    相棒「……」スック

     ノシノシ… ガラッ ドサッ ストンッ

    相棒「寝る」ゴロリ

    用心棒「……ところで、この家には布団が二つしかなかったよな?俺のぶんは?」

    相棒「ぐーぐー」

    用心棒「おいこら」


    用心棒(チッ……あっ、火鉢の炭まで切れやがった)

    用心棒(……もう雪はやんだし、これから買いに行くか)

    用心棒(その間には相棒の機嫌も直るだろう……)スック

    用心棒「炭を買ってくる」

    相棒「……」

    用心棒「……」ハア

     ノシノシ… ガサガサ ガラッ ピシャンッ

    相棒「……」

    <スボッ スボッ スボッ…
    12 : 以下、名無しにか - 2016/04/03(日) 22:28:43.08 ID:Ev2Sdsqg0 (+35,+30,-120)


    相棒「……」ゴソゴソ


    相棒「……」ペラ…


    相棒「……」ペラ…


    相棒「……」チラッ

    少年「……ぐう……ぐう……」


    相棒「……」ペラ…


    <…スボッ スボッ


    相棒「……?」


    <スボッ スボッ スボッ
     <スボッ スボッ スボッ


    相棒「!」

    相棒「……」グイッ

    少年「うぅん?あ、相棒さん?」ムニャムニャ

    相棒「……」ピッ

    少年(相棒さんは緊張した面持ちで押し入れを指した。隠れろ、ということだろう)

    少年「……」コクリ

     ガラッ ゴソゴソ ストンッ

    少年(また、浪人たちが襲って来るんだろうか……)

    少年(相棒さんはどうするつもりなんだろう)
    13 : 以下、名無しにか - 2016/04/03(日) 22:29:38.35 ID:Ev2Sdsqg0 (+33,+30,-176)

    刺客甲「……ここか、兄貴」ヒソヒソ

    刺客乙「……そのはずだ」ヒソヒソ

    刺客乙「標的は女だ。外出した男は『狐小僧』が仕留める」ヒソヒソ

    刺客甲「女に二人がかりとはね……まあいい」ヒソヒソ

    刺客甲「準備はいいか?」ジャキッ

    刺客乙「いいとも」スラッ


     ガラッ


    刺客甲「死ね……あ?」キョロキョロ

    刺客乙「馬鹿な、誰もいないだなんて……そんなはずは」キョロキョロ


    刺客甲「ちくしょう!どこに行き……」

     バキャアッ ドスッ

    刺客甲「ぐあっ!?か、肩が!」ズブッ

    刺客乙「天井裏か!?くらえっ!」ビュッ

     バキャッ

    刺客乙(手応え……なし……)
    14 : 以下、名無しにか - 2016/04/03(日) 22:30:08.39 ID:Ev2Sdsqg0 (+33,+30,-306)

     ガタゴトッ

    相棒「……」スタッ

    刺客乙(やはり無傷か……おそろしい女だ)

    刺客甲「てめえ……そんな杖で……戦うつもりか?」

    刺客甲「……ンフッフッフッフ……ハッハッハッハッハ!」

    刺客甲「さっき使った刀はどこにやったんだよ?斬れ!おう、俺を斬ってみろ!」ズカズカ

    刺客乙「ま、待て!そいつは――」

    刺客甲「女のくせに、よくも!」ジャキッ

    相棒「……」スラッ


     ズバッ! ドバッ! ドヒュッ!

    刺客甲「グウッ」ドシャッ

    刺客乙「ば、馬鹿な……!」

    相棒「……見せてあげる」

    相棒「女の……力」

    刺客乙「……」

    刺客乙「……ヒッ、ヒヒヒヒヒヒヒ」

    刺客乙「ォオオッ!」ダッ

    相棒「……!」チャキッ


    刺客乙「てやぁっ!」ブンッ!

    相棒「……」カキイン


    刺客乙「はあっ!」ビュンッ!

    相棒「……」キインッ


    刺客乙「うりゃあっ!」ブオンッ!

    相棒「……」バッ


    刺客乙「――!」ヨロッ

    相棒「フッ」シュッ

     ズバッ

    刺客乙「ぐわっ!」ドタッ カランッ

    相棒「……」チャキッ

    刺客乙「――な」

    刺客乙(な、なんてやつ――)

    相棒「……」ブンッ


     ドシャッ

    15 : 以下、名無しにか - 2016/04/03(日) 22:30:36.30 ID:Ev2Sdsqg0 (+35,+30,+0)

    <スボッスボッスボッスボッ…

    用心棒「無事か!?」ガラッ

    用心棒「うっ、死体……やっぱり、こっちにも刺客が来ていやがったか」

    相棒「そっちにも?」

    用心棒「ああ。スリの名手狐小僧と名乗る刺客が、帰り道に襲ってきてな」

    用心棒「例の洋式短銃をスリ盗って『これでお前は丸腰だ』とか抜かした」

    用心棒「とりあえず俺の短銃で蜂の巣にして川に放り込んで、全速力で帰ってきたんだが……」

    用心棒「……急ぐことはなかったな」

    相棒「……」フフン

    用心棒「とりあえず、死体を床下の秘密倉庫に隠してしまおう」


     ガチャッ ドサッ ドチャッ ギイー バタンッ


    用心棒「……で、あいつらは何者だ?」

    用心棒「また浪人か?それにしては帯刀していないのが妙だが……」

    相棒「……彼岸花兄弟」

    用心棒「は?」

    相棒「こいつらは彼岸花兄弟……殺し屋の」

    用心棒「……こ、殺し屋だと……?」

    用心棒「……一体、誰に雇われたんだ?」

     ガラッ

    少年「油商人です……!父の仇、油商人に違いありません!」

    少年「奴が僕を狙って差し向けたんです……」

    少年「いたたたた……」ズキッ

    相棒「……油、商人……?」

    用心棒「……江戸の油の売買を、一人で仕切っている大物だ。いよいよ面倒になってきやがった」

    相棒「……!」

    用心棒「おい、坊主……もう俺たちは一蓮托生だ」

    用心棒「身の上話くらい、聞かせてくれんだろうな?」

    少年「……はい」
    16 : 以下、名無しにか - 2016/04/03(日) 22:31:18.67 ID:Ev2Sdsqg0 (+35,+30,-203)

     …スボッ スボッ スボッ スボッ

    「……」

    (用心棒と相棒に、狐小僧と彼岸花兄弟を差し向けたのはいいが……)

    (狐小僧が追った用心棒は、無事長屋に帰ってきたし)

    (彼岸花兄弟はいつまで経ってもあの長屋から出てこない。留守番の女に敗れたようだな)

    (……相棒の女でさえそれほどの力を持つということは……)

    (用心棒は、相当の手練なのだろうな)

    「……ンフッ、フッフッフッフッフ……」

    (戦いたい、戦いたいぞ……)

    (やはり計画には用心棒を利用しよう……)

    (計画を実行する中で用心棒と戦い、そして計画の目的をも達成する……まさに一石二鳥だ……)

     スボッ スボッ スボッ スボッ…
    17 : 以下、名無しにか - 2016/04/03(日) 22:31:51.17 ID:Ev2Sdsqg0 (+14,+24,+0)
    今日はここまで
    18 : 以下、名無しにか - 2016/04/03(日) 22:32:44.17 ID:jOoJ2wIwO (+1,+16,-2)
    おつ
    19 : 以下、名無しにか - 2016/04/04(月) 21:04:05.03 ID:ynz1bF3I0 (+30,+30,-73)


     ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…

    魔物「ゴアーッ」

    魔物「オオオーン」

    魔物「ヒャアアアアアアアア」

     ワラワラワラワラ… ゴソゴソゴソゴソ…

    少年「うわ、わ、わっ!」

    少年「く、来るな……来るなぁーっ!」

    ……

    20 : 以下、名無しにか - 2016/04/04(月) 21:04:37.45 ID:ynz1bF3I0 (+35,+30,-288)

    少年「はっ!」ガバッ

    少年「はあっ、はあっ、はあっ、はあっ……」

    少年(……夢か)


     <チュンチュン ピピッ チチチチチ… バタタタ

    少年(……朝だ。肌寒い……)


    少年(……僕は、さっきの夢とそう違わない状況にあるのかもしれない)

    少年(長屋に漂う嫌な匂いと、畳に残る黒ずんだ染み)

    少年(……昨夜の殺し合いの、痕跡……)

    少年(しかし、二人の刺客を切り捨てた人物は涼しい顔で刀を研いでいた)


    相棒「……」ショリ…ショリ…

    相棒「……」チャキッ

    相棒「……坊主」

    少年「は、はい」

    相棒「水はあれを使え」

    少年(相棒さんはそう言って、土間に置いてある瓶を指さした)

    相棒「飯はもう少し待て」

    少年「はい……あれ」

    少年「……あ、あの……用心棒さんは?」

     ガラッ

    用心棒「手前の仇討ちの準備をしてきたんだよ。手前が眠り込んでる間にな」

    少年「あ……」
    21 : 以下、名無しにか - 2016/04/04(月) 21:05:04.01 ID:ynz1bF3I0 (+35,+30,+0)

     ピシャリ ガサガサッ ドスドス…

    用心棒「まったく、とことん呑気なやつだぜ」ドカッ

    相棒「……怪我人」

    用心棒「知ったことか」

    相棒「……寝る子は育つ」

    用心棒「こんな状況で子供も大人もあるかよ」

    少年「……す、すいません」

    用心棒「……別に謝るこたねえよ……」ゴソゴソ

    用心棒「……チッ、煙草まで昨日の雪で湿気たようだ」フー

    少年「……」


    <もし?


    少年「!」ビクッ

    相棒「!」ガチャッ

    用心棒「落ち着け。刺客は踏み込む前に声なんてかけない……ただの客かもしれん。俺が対応する」ヒソヒソ

    用心棒「ただ、坊主と相棒は衝立の裏に隠れていろ」ヒソヒソ

    相棒「わかった……坊主、こっちへ」ヒソヒソ

    少年「はい……」ヒソヒソ

    用心棒「安心しろ、妙な動きをしたら即座に俺が始末する」ヒソヒソ


    用心棒「どなたかな?」

    <仕事を頼みに参った……開けてもらいたいな。

    用心棒「おっと、これは失礼」

     ガラッ

    用心棒「茶でもお出ししよう……!?」


    覆面の「いえ、お構いなく」

    22 : 以下、名無しにか - 2016/04/04(月) 21:05:31.03 ID:ynz1bF3I0 (+14,+24,+0)
    今日はここまで
    23 : 以下、名無しにか - 2016/04/04(月) 21:09:18.00 ID:6CWitDpJo (+11,+26,-3)
    がむば
    24 : 以下、名無しにか - 2016/04/05(火) 16:52:25.34 ID:sTxvg2L80 (+35,+30,+0)

    覆面の「……おっと、この覆面はお許しいただきたいな」

    覆面の「私は武士。あまり褒められたものではない稼業のあなたを訪れたことは、誰にも知られたくはないのだ」

    覆面の「わざわざ早朝に人目を忍んで訪れることからもおわかりいただけると思うがね」

    用心棒「……こちらもこういう客は初めてではないが、信頼関係に支障が出るんでね……」

    用心棒「報酬なんかの条件面で、ある程度譲歩いただくがよろしいか?」

    覆面の「全く問題ない」

    用心棒「では早速話を伺おう。こちらへ」

     ガサガサ ドスドス ドカッ

     ゴソリ トストス スッ

    用心棒「……で、どんなご依頼かな?」

    覆面の「……依頼は」


    覆面の「油商人の暗殺」

    用心棒「な――!?」

    相棒「!?」

    少年「!?」


    用心棒「……貴方は、用心棒と殺し屋を取り違えていらっしゃるようだ」

    覆面の「そんなことはない」

    用心棒「……でははっきり申し上げる」

    用心棒「無理だ!そんな仕事はとてもお受けできない」

    用心棒「油商人は腕の立つ浪人を雇って身辺警護にあたらせていると聞く」

    用心棒「俺は……いや、俺以外でも不可能だ!」

    覆面の「そんなことはない。貴方ならできる……間違いない」

    用心棒「!?」
    25 : 以下、名無しにか - 2016/04/05(火) 16:52:58.35 ID:sTxvg2L80 (+35,+30,+0)

    用心棒「……あんた、何を知ってる?」

    覆面の「いつとも、どことも申さないが……ある雄藩で、発生したと聞く」

    覆面の「陣屋撫で斬り事件」

    用心棒「――!」

    覆面の「……撫で斬りとは言っても、使われたのは鉄砲」

    覆面の「それも、最新型の――アメリカよりもたらされたコ式短銃。持っている者はそうそういない」


    覆面の「用心棒、貴方はそれをお持ちだと小耳に挟んだ」

    覆面の「そして、事件が発生したときその雄藩にいらっしゃったということも」

    覆面の「……これは偶然の一致とは思えないな」ニヤリ

    用心棒「……あんた……」

    用心棒「一体何者だ?」

    覆面の「フッフッフッフ、それを申し上げては覆面の意味がない」

    用心棒「……」


    覆面の「で、報酬だが……一千両でいかがかな?」

    用心棒「……仕事の難易度にもよるから、下調べをしないことにはその額が妥当かどうかわからん」

    覆面の「ふん……それもそうだ。ではその『下調べ』をしていただこうか……」ゴソゴソ

    覆面の「これは前金として用意したが、その費用として使っていただいて結構」ガシャッ

    用心棒「……これは?」

    覆面の「一応、百両用意した」

    覆面の「下調べした上でどうしても無理だというのなら、無理と言ってもらっても構わない」

    覆面の「まあ……そう言われると、こちらもそちらも損しかないとは思うがね」ニヤリ

    用心棒「……」

    覆面の「では、私はこれでお暇する」スック

     トス トス ゴソッ ガラッ

    覆面の「おっと、うっかり忘れるところだった……」ゴソゴソ

    覆面の「これは油商人の館の見取り図だ。役立てたまえ」

    覆面の「用心棒君、それに衝立の向こうの君、次の面会の後も平和に別れられることを期待する。さらばだ」

     ピシャンッ
    26 : 以下、名無しにか - 2016/04/05(火) 16:53:43.51 ID:sTxvg2L80 (+35,+30,+0)

    用心棒「……」

    相棒「……何だあれは」

    用心棒「……さあな」


    少年「……用心棒さん、依頼は……引き受けるんですか?」

    用心棒「……後ろ向きに検討中だ」

    少年「後ろ向きに?なぜです?」

    用心棒「仕事が難しいということもあるが……胡散臭いんだよ」

    用心棒「この騒ぎ自体が、今までないほどに胡散臭い」

    用心棒「なぜか油商人の館の見取り図を持っている覆面の依頼人にしてもそうだし……」

    用心棒「油商人は浪人を大勢雇っているのに、わざわざ殺し屋を雇うというのも妙だ」

    少年「……」


    用心棒「それに……お前もだ、坊主」

    少年「僕?」

    用心棒「最近江戸は物騒でね。俺たちも忙しいんだ」

    用心棒「しかし、お前と会った時はちょうど仕事帰り……暇だったんだよ」

    用心棒「そんなとき、お前と出くわすというのはどうにも『出来すぎている』……」

    少年「っ!」

    少年「ぼ……僕が、油商人の手のものだとでも……」

    用心棒「そうは言わんが……もしこの騒ぎに、油商人ではなく別の『黒幕』が居たとしたら……」

    少年「やめてくださいっ!」

    用心棒「!……」


    少年「僕は……僕は、貴方を尊敬していました。弟子にしてほしいとも思っていました」

    少年「強さはもちろん、なにより『面倒のタネ』である僕を匿ってくれた優しさを尊敬していたんです」

    少年「それなのに……信用されないだけならともかく、そんな風に思われていただなんて!」

    少年「……かままでかけられるなんて……」
    27 : 以下、名無しにか - 2016/04/05(火) 16:54:10.53 ID:sTxvg2L80 (+35,+30,+0)

    用心棒「……ええと」

    少年「失礼しますっ」スック

    相棒「何処へ行く」

    少年「油商人のところです。金物屋かどこかで包丁を盗んで、あいつだけでも道連れに……」

    用心棒「ま、待て待て!俺が悪かった、弟子にでも何でもしてやるから落ち着け!」

    少年「……」

    用心棒「……というのは物の例えだが」

    少年「やっぱり行きます」

    用心棒「わかった!わかったから落ち着け……」


    <もスもス?馬借でス、馬をお届けに参りまスた。


    用心棒「おっ!馬が到着したようだぞ、坊主!」パンッ

    少年「馬……?」

    相棒「私が対応する」スック

     トストス ゴソッ ガラッ ピシャリ

    少年「……馬って?」

    用心棒「ああ、油商人の手の者から逃れるため、一度江戸を離れようと思ってな……」

    用心棒「その足として、朝に出かけたとき手配した」

    少年「何処に?」

    用心棒「箱根の方のあばら家だ。今朝『闇商人』を通じて手に入れたんだ」

    用心棒「その代金と、『鍛冶屋』に頼んだ武器の代金で、この前の仕事の報酬は吹っ飛んじまったがな」

    用心棒「お前も来るだろう?命あっての物種だろう、な?」

    少年「……弟子にしてくれるんですよね」

    用心棒「わかった、わかったから……」

     ガラッ ピシャリ

    相棒「荷物をまとめろ」

    用心棒「……こんな血の匂いの染み込んだボロ屋、引き払うのは惜しくないが……」

    用心棒「道中で油商人の手の者が襲ってくる可能性もある」

    用心棒「いよいよこの先は茨の道だ……しかし、弟子にしろと言うならそのくらい耐えられるだろうな?」

    少年「……」


    少年「無論です!」

    用心棒「……よく言った」ニヤリ
    28 : 以下、名無しにか - 2016/04/05(火) 16:54:37.91 ID:sTxvg2L80 (+35,+30,-232)


    手下甲「……おっ?用心棒が長屋から出てきました!相棒の女も一緒です……」

    手下甲「あっ、大きなタンスを運び出してきました」

    手下甲「本当に大きいです、中をくり抜けば子供の一人くらい入りそうです……」

    手下甲「運び出す家財道具はあれだけのようですね。今、車に積みました」

    手下甲「車を馬に繋いで……歩き始めました。南に向かうようです」


    剣士「しかし、南蛮渡来の遠眼鏡とは便利なものだな。遠くの敵の行動も手に取るようにわかる……」

    手下乙「どうしますか剣士さん、早速襲いますか?」

    剣士「まあ待て……敵は手練だというだろう。待ち伏せのほうが良い」

    剣士「とはいえどんな状況でも、油商人近衛四天王の一人である私は遅れなど取らぬが、な……」

    剣士「用心棒、そしてその相棒よ、せいぜい今のうちに生を楽しんでおくがよいわ。クックックックック……」
    29 : 以下、名無しにか - 2016/04/05(火) 16:55:08.91 ID:sTxvg2L80 (+14,+24,+0)
    今日はここまで
    30 : 以下、名無しにか - 2016/04/06(水) 20:51:17.76 ID:oUihMxIc0 (+24,+29,-19)
    多忙のためしばらく投下を中断します
    エタらないように頑張ります
    31 : 以下、名無しにか - 2016/04/09(土) 18:23:19.35 ID:v0obwIXm0 (+35,+30,+0)


     ガラガラガラ ガタッ ガラガラガラガラガラ…

    用心棒「おら、どう、どう……暴れるな、引いてる車が揺れるだろうが」

    「ブヒヒン」

    用心棒「……ところで相棒、なんでお前まで車に乗ってるんだ」

    相棒「休憩……」

    用心棒「かれこれ半刻は乗ってるだろうが……代われよ」

    相棒「……」

    <旅のお方、寄って行きませんかァ?

    相棒「おや、茶屋だ。寄ろう」トッ スタスタ

    用心棒「おいこら!」

    用心棒「……チッ、今度はお前が歩くんだからな……」スタスタ


    店番「いらっしゃいませェ……あっ、お客様ァ、外に馬を繋ぐ杭があるんですが分かりましたかァ?」

    用心棒「ああ。ちゃんとそこに繋いできたさ」スタスタ

    相棒「……」モグモグ

    用心棒(もう食ってやがるよ、こいつ)

    店番「お客様は何に致しますゥ?」

    用心棒「茶を一杯と、団子を一本……いや二本くれ」

    店番「承りましたァ」スッ


    相棒「この団子、一本でも結構な量だぞ」モグモグ

    用心棒「……一本は坊主の分だ」ヒソヒソ

    相棒「……てっきり甘党かと」モグモグ

    用心棒「こっちの台詞だ。食いながら喋るんじゃない、汚いな」
    32 : 以下、名無しにか - 2016/04/09(土) 18:23:47.14 ID:v0obwIXm0 (+35,+30,+0)

    店番「団子と茶ですゥ」コトッ

    用心棒「どうも」

    店番「ところでお客様は、お伊勢参りですかァ?」

    用心棒「え?……」

    相棒「違う。引越し」ズズー

    店番「ああ、だからタンスなんて引いてたんですねェ……奥さん、新しい住まいはどちらですゥ?」

    相棒「小田原」モグモグ

    店番「小田原ですかァ!あそこはいいですよォ?江戸ほどせわしくはなく、箱根ほど寂しくはないんですゥ」

    相棒「それは良かった」モグモグ


    用心棒「……嘘はお前に叶わないな」ヒソヒソ

    相棒「……『馬』に団子を食わせてみるんじゃなかったのか」ズズー

    用心棒「おっと、そうだった。『馬』にな」スック

    店番「細かくしてやらないと喉につっかえますよォ?」

    用心棒「相分かった」スタスタ


    店番「でも馬は甘い物が好きだって言いますよねェ、奥さん?」

    相棒「初耳だ」モグモグ

    店番「……実は私も『甘い物』に目がなくてねェ」ギュッ

    相棒「フンッ」グサッ

    店番「うぎゃっ、容赦ねェ!」
    33 : 以下、名無しにか - 2016/04/09(土) 18:24:31.06 ID:v0obwIXm0 (+35,+30,+0)

    「ヒヒインッ!ブルルッ、ヒヒインッ!」

    用心棒「畜生に団子なんてやるわけないだろう」

    「」ガーンッ


     ゴトゴトッ ギイッ…

    用心棒「おーい坊主生きてるか……」

    少年「ぷはあっ!ぜえ、ぜえ、はあ、はあ……」

    用心棒「……生きてるか?」

    少年「ち、窒息死するところでしたよ!」

    少年「何ですかこのタンス、作った奴入って確かめてみたんですか!?」

    用心棒「人を入れるのを想定したタンスなんて無いだろう……」

    用心棒「非常事態だ、我慢しろ。団子やるから、ほら」

    少年「そ、それより水を……」

    用心棒「欲が無いな」スッ

    少年「ゴクッゴクッゴクッ……ぷはっ。タンスの中に入ってみればわかりますよ、僕の気持ちが」

    少年「……ちょっと入ってみませんか」

    用心棒「冗談じゃない!軟体人間でもあるまいし入るものか……」

    用心棒「というより……思ったより余裕だな?よし、もう少し入っていろ!」

    少年「ま、待ってください!厠に……」

    用心棒「そこの茂みでしてこい」ビシッ

    少年「……ひぃい……」スタスタ
    34 : 以下、名無しにか - 2016/04/09(土) 18:25:12.74 ID:v0obwIXm0 (+35,+30,+0)

    用心棒「……」

    用心棒(団子が余ってしまったな……しかし、捨てるのも勿体無い)

    用心棒「……」チラッ

    「……」チラッ

    用心棒「……」

    用心棒「……」ブチッ

    用心棒「……」スッ…

    「……」アーン

    「本当に馬に団子をやってるのか。店番の冗談かと思ったが」

    用心棒「!?」クルッ

    「おっと、そんなに緊張するなよ……俺だ。闇商人だよ」

    用心棒「……」チラッ

    相棒「……」コソッ

    用心棒「……闇商人が、何の用だ?」

    闇商人「そう邪険にするなよ。例の隠れ家を調達してやったのも俺だろうが」

    闇商人「……おい、用心棒。俺たち、長い付き合いだよなあ」

    用心棒「……ああ。そうだな」

    用心棒「だから、お前がそういう切り出し方をするときは大概ロクなことじゃないということも知ってる」

    闇商人「なに、御城を攻め落としてこいとかは言わないさ……」

    用心棒「じゃあ海を渡ってペルリ提督の眉間に弾丸を叩き込んでくればいいのか?」

    闇商人「まあ茶化さずに聞けって!」

    闇商人「話だ、話を聞かせてくれよ……どうもお前の周囲は、昨日から物騒じゃねえか?」

    闇商人「どことは言わねえが……長屋の床下とかよ?」

    用心棒(……彼岸花兄弟の死体を見つけやがったな)

    闇商人「その後すぐに、こうやって江戸を出たってのも物騒だ。実に物騒だ」

    闇商人「その騒ぎに関して、知ってることを教えて欲しいのさ」

    用心棒「……」

    闇商人「もちろん金は払うぜ?こっちもそれで儲けさせてもらうからな」

    闇商人「お互い損はないだろう?断っちゃお前も損だぜ、な?」

    用心棒「……」

    闇商人「……頑なだな、おい?」
    35 : 以下、名無しにか - 2016/04/09(土) 18:26:31.48 ID:v0obwIXm0 (+35,+30,+0)

    「闇商人殿」

    闇商人「ん?忍か?」

    「たった今、なかなか興味深い奴らが街道を通っていきました」

    闇商人「誰だ?」

    「それは……ヒソヒソ」

    用心棒「……物騒な話のようだな?」

    闇商人「ああ、物騒な話だ。実に物騒だ、死人が出るぜ」

    闇商人「だが教えてやらんぞ。お前も俺に教えてくれないからな……仕方ないなあ?」

    用心棒「……」

    闇商人「じゃあ、俺はこれで失礼するぜ。損したな、用心棒」

    闇商人「油商人を敵に回して、俺の助けも得られないんじゃ死ぬしかないぜ……」

    用心棒「……!?待て、手前なぜそれを……」


    闇商人「教えられんな。あばよ!」タタッ

    「……」タタッ


    用心棒「……くっ……」

    相棒「……何故、あいつが油商人のことを」

    用心棒「……あいつは……今回の騒ぎにはほとんど関係していないはずだ」

    用心棒「情報を手に入れられるとしたら、せいぜい彼岸花兄弟からだが……」

    用心棒「とすると、やはり殺し屋を雇ったのは油商人なのか……?」

     ガサガサ

    少年「……もう出ても大丈夫ですよね?」

    用心棒「おう……あの状況で、出てこないという判断は妥当だ。一度殺されかけただけのことはあるな」

    用心棒「タンスの中に入れ、坊主……出発だ。どうやら立ち止まってはいられんらしい」
    36 : 以下、名無しにか - 2016/04/09(土) 18:27:17.59 ID:v0obwIXm0 (+35,+30,+0)

     ガラガラガラガラ…

    用心棒「……そういえば、団子はいくらだったんだ?」

    相棒「タダにしてくれた」

    用心棒「……何をしたんだ?」

    相棒「何もしてない」

    用心棒「……」


    用心棒(……『物騒な奴』が、茶屋の前を通っていったという)

    用心棒(『物騒な奴』とは、十中八九油商人からの刺客だろう)

    用心棒(そいつらが、俺たちを追い越したとして――何をするか?)

    用心棒(待ち伏せだろうな)

    用心棒(しかしこのあたりは人家があり、そこそこ明るい。待ち伏せには適さない)

    用心棒(待ち伏せするとしたら、この先の橋を渡った先の、林沿いの道――)

    「――!」ピクッ

    用心棒「!?……!」

    相棒「!」


    用心棒(橋の上に、仁王立ちしている男――手には、ぎらつく打刀)


    剣士「――私は油商人近衛四天王が一角、剣士だ」

    37 : 以下、名無しにか - 2016/04/09(土) 18:27:53.69 ID:v0obwIXm0 (+14,+24,+0)
    今日はここまで
    38 : 以下、名無しにか - 2016/04/09(土) 19:03:45.77 ID:H2rPPC72o (+24,+29,-21)
    四天王ってカマセなイメージなんだけどここの剣士さんは大丈夫だろうか
    39 : 以下、名無しにか - 2016/04/09(土) 20:55:39.90 ID:nipauuzAO (+19,+29,-2)
    お馬さん可愛いじゃん
    40 : 以下、名無しにか - 2016/04/11(月) 21:04:43.94 ID:HKSBpva10 (+33,+30,+0)


    用心棒「……思ったより早いな。ここまで追ってくるのも、襲って来るのも……」

    用心棒「襲ってくるのについては早すぎなくらいだ。待ち伏せの才能がないな」

    剣士「浪人を何人か斬った程度でいい気になるなよ、下郎……」

    剣士「私は、あんな掃いて捨てるほどいるような者共とは違う」

    用心棒「フン、どうかな」

    剣士「軽口はそこまでだ。私と勝負しろ……」

    剣士「お前も侍なら、種子島で撃たれるより斬られて死にたかろう?」

    剣士「既に私の手下が手前らに狙いをつけている……抜け!」

    用心棒「……」


    相棒「私が勝負する」スッ

    用心棒「!?……大丈夫なんだろうな」

    相棒「私を誰だと思っている……」

    剣士「……お前など相手になるものか」

    剣士「馬鹿にしているのか……それとも、よほど頭が悪いのか……どちらにしても死ぬべきだが」


    相棒「……」スラッ

    剣士「……ほう、仕込み刀か。それに、構えも思ったより様になっておるわ」チャキッ

    剣士「参る」シュザッ

    相棒「ッ!」チャキ

    用心棒(――速い……あいつ、滑るように動く!)


    剣士「はあっ!」ビュンッ

    相棒「……」カキインッ

    剣士「とぉッ!」ブンッ

    相棒「ッ」キンッ

    剣士「ぜあっ!」ビューンッ

    相棒「くっ……」ガキンッ

    剣士「喰らえァ!」ビュッ

    相棒「……死ねッ!」ビュンッ


     ガキインッ!
    41 : 以下、名無しにか - 2016/04/11(月) 21:05:55.17 ID:HKSBpva10 (+33,+30,-247)

    剣士「……」

    相棒「……」

    剣士「……フッ」

    相棒「ぐっ!?」ガクッ

    相棒(馬鹿な……!?)ボタボタ

    剣士「踏み込みが甘かったな……フフ、フ」

    剣士「では、とどめを――!?」

     シュザッ ドゴオンッ!

    相棒「……用心棒」

    剣士「手前、よくも邪魔を――」

    用心棒「……ヘッ、ヘッヘッヘ」

    剣士「――何がおかしい?」

    用心棒「この距離で俺の弾を避けやがるとはな。なかなかの化物だぜ……」

    剣士「化物か……フッフッフッフッフッ。確かにお前にとって、私は化物だろう」

    剣士「お前の命を奪うのは私だからな!」シュザッ

    用心棒「ほざけ、トンマが!」ジャキッ

     ドゴオンッ! ドゴオンッ! ドゴオンッ!

    剣士「死ね!」シュザザッ ザッ!

    用心棒「うおっ!?」バッ ゴロゴロッ
    42 : 以下、名無しにか - 2016/04/11(月) 21:07:41.60 ID:HKSBpva10 (+35,+30,+0)

    用心棒「……フン、四天王の名は伊達じゃないということか……」

    相棒「駄目だ、用心棒……!」

    用心棒「弱音なんてお前らしくないぞ。ところで……傷は大丈夫か?動けるか?」

    相棒「ああ……しかし……」

    用心棒「お前は奴の手下を始末してくれ。多分、隠れているのは周りの家の陰だ……」

    相棒「こ、こいつは?剣士はどうするんだ……?」

    用心棒「俺はどうにかする……早く、行け!」

    相棒「……ッ!」バッ

     タタタ…

    剣士「!逃がすか!」シュザッ

    用心棒「おっと待てよ」ジャキッ

     シュザッ ドゴオンッ!

    用心棒(……また避けられた)

    剣士「……チッ。いちいち癪に障るやつだ……そろそろケリをつけてやる!」シュザッ


    剣士「フッ!」ブンッ

    用心棒「うおっ」ヒョイッ

    剣士「ハッ!」ビュンッ

    用心棒「よっと……」トッ

    剣士「おのれ……」グッ

    用心棒(やつめ、力を溜めているな――今だ!)ジャキッ


     シュザッ ドゴオンッ!


    剣士「……」ニヤッ

    用心棒「な……!?」

    用心棒(まずい、弾切れだ!こいつ、わざと隙を作りやがったな……!)


    剣士「――死ね!」シュザッ

    用心棒「うおおっ!」ガシッ

    剣士「何ッ!?」

    用心棒「手前が死ねぇ――ッ!」グイーッ

     ブンッ ドボーンッ!
    43 : 以下、名無しにか - 2016/04/11(月) 21:09:05.52 ID:HKSBpva10 (+35,+30,+0)

    用心棒(再装填……)ガシャッ

    用心棒「駄目押しだ!」ジャキッ

     ドゴオンッ! ドゴオンッ! ドゴオンッ!

    用心棒「……」

    用心棒(雪解け水が流れ込んで増水しているせいで、川の水が濁っていてよく分からないが……死んだだろう)

    用心棒「踏み込みの勢いが良すぎたな……」


    相棒「用心棒」

    用心棒「手下は?始末したか?」

    相棒「……」ブンッ

    手下甲「」ドサッ
    手下乙「」ドシャッ

    相棒「良い銃を持っていた」

    用心棒「売りに行く余裕はない。死体もろとも川に沈めるか……」

    相棒「私が」

    用心棒「おい、怪我は大丈夫なのか?」

    相棒「……」ズルズル

    用心棒(……負けたのがこたえているようだな……)


     ガチャッ

    少年「ぷはあっ……」

    少年「……刺客が、来ていたんですか」

    用心棒「……ああ。化物だった」

    <ドボーンッ ボチャンッ…

    相棒「済んだ」

    用心棒「……進むぞ」

     バタンッ

     ガラガラガラガラガラガラ…
    44 : 以下、名無しにか - 2016/04/11(月) 21:09:38.94 ID:HKSBpva10 (+35,+30,+0)

    闇商人「……行ったか」コソッ

    「行きましたね」コソッ

    闇商人「しかしすごい戦いだったな。特に剣士の腕前だ……最終的に勝ったのは用心棒ではあるが」

    「しかも自分は四天王の一人だと名乗っていました。あんな奴があと三人居るのでしょうか」

    闇商人「いや、それはわからない。あいつが四天王の中で最強なのかもしれない」

    闇商人「しかし……もし、剣士以上の奴らが三人居るとしたら、用心棒に勝ち目はないぜ」

    闇商人「……待てよ?用心棒が死んだら、次に狙われるのは誰だ?」

    闇商人「次に狙われるのは、用心棒と腐れ縁の俺じゃないのか……?」

    闇商人「……ううむ。俺はどうしたものか……用心棒に力を貸すべきか、それとも……」

    「……闇商人様。もう少し様子を見ましょう」

    「その上で判断しても、遅くはないはずです……」
    45 : 以下、名無しにか - 2016/04/21(木) 20:24:07.17 ID:afyGBDLB0 (+35,+30,-258)

    医者「……うん、包帯も巻いたし、とりあえずこれでよかろう」

    医者「あとは時々包帯を取り替えて……傷にこの薬を塗ると良い」

    医者「これは南蛮渡来の医学書をもとに作った薬でな。支那の漢方など問題にならんほどよく効く」

    医者「毎日、奥さんに塗ってやるんだよ」

    農夫?「はい、わかりました」

    妻?「鉈を使うときは注意しなきゃいけないねえ、亭主にまで迷惑をかけちまったよ……」

    農夫?「……ところでお医者さん、このことは秘密にしておいてくれませんかねえ」

    農夫?「私を目の敵にしてる履物屋がこのことを知ったら、私が妻を切りつけたとか言い出しかねませんから」

    医者「ああ、わかったよ」

    農夫?「じゃあこれ、お代です。ありがとうございました、本当に」ジャラ

    医者「はいよ……」

     ガラッ ピシャリ

    農夫?「……傷が浅くてよかったな、相棒」

    妻?「……」


    用心棒「……あまり気にするなよ」

    相棒「何が」

    用心棒「……何がって……」

    相棒「何が」

    用心棒「……」ハア
    46 : 以下、名無しにか - 2016/04/21(木) 20:24:46.49 ID:afyGBDLB0 (+35,+30,+0)

     ガラガラガラガラ…

    用心棒(……もう暗くなってきたな)

    用心棒(今日一日歩き通せば、隠れ家に着けるかと思っていたんだが……)

    用心棒「どうやらそろそろ宿をとらなければならないようだ……」

    相棒「……野宿?」

    用心棒「それが一番危険だ。右からも左からも正面からも後ろからも上からも襲われる」

    用心棒「ちゃんとした宿屋なら、窓と扉以外からは襲われない……」

    用心棒「それに、腹が減った。飯を食わないと倒れそうだ」

    相棒「……」

    用心棒「しかし……このタンスの中の『貴重品』はどう扱ったらいいものか」

    用心棒「かなり目立つが、どうにかして部屋の中に持ち込むしかないか……」


    用心棒「……待てよ。そもそも宿なんてあるのか?東海道からは少し離れているが……」

    相棒「……地図」スッ

    用心棒「どれどれ……ん、ここしかないな。この先の『湊屋』」

    相棒「……あれか?」

    用心棒「え?……何だ、もうあそこに見えてるのか。あやうく通り過ぎるところだった」

    用心棒「さあ馬!急げ、急げ!」

    「ヒヒーンッ」

     ガラガラガラガラガラガラ…
    47 : 以下、名無しにか - 2016/04/21(木) 20:25:31.19 ID:afyGBDLB0 (+33,+30,+0)

     ガラッ

    「はいはい、いらっしゃいませ……木賃ですか?旅籠ですか?」

    用心棒「旅籠で……できれば一階の部屋がいいんですがね」

    用心棒「貴重な家具を持っていまして、部屋に持ち込みたいんですよ」

    「はいはい、では、すぐそこの『柳の間』へどうぞ」

    「すぐ夕餉をお出ししますので、少々お待ちください」


    用心棒「よし、タンスを運び込もう」

    相棒「……」コクリ

    「手ぇ貸したろうか?」

    用心棒「いや、結構……!?お前は!」

    「そうや、鍛冶屋や」

    鍛冶屋「へへ、あんたを探し当てるのは骨が折れたで……闇商人に聞いたんで、奴に借りが出来てしもたわ」

    鍛冶屋「何や相棒の姉ちゃん怪我しとるやんけ!大丈夫か?」

    相棒「……」コクリ

    鍛冶屋「……あ!それよりよく見たらこれ、うちがやった船箪笥やん!」

    鍛冶屋「うちのからくり趣味を散々に馬鹿にしとるけど、何だかんだ大切にしてくれとるんやなあ……」

    用心棒「お、おう……」

    鍛冶屋「ほな運ぶで!」
    48 : 以下、名無しにか - 2016/04/21(木) 20:27:11.34 ID:afyGBDLB0 (+35,+30,+0)

     スッ

    「失礼します。夕餉を持って参りました……」

    「本当に三人分でよろしかったんですか?その……お代も、少しお高くなりますが」

    用心棒「いや、全然構わないです」

    相棒「ほほほ、夫は旅先で食事をするといつも足りない足りないと騒ぐんですよ」

    「ああ、左様ですか……では、ごゆっくり」

     ストンッ


    用心棒「……さて」スック

     ガチャッ

    少年「刺客?刺客ですか!?」オドオド

    用心棒「うろたえんな。飯だ」

    相棒「あんたの分」ズイッ

    少年「あ、ああ……どうもありがとうございます」


    用心棒「モグモグ……そういえば、坊主。『油商人近衛四天王』って聞いたことがあるか」

    少年「は、はい……油商人の私兵の中でも、特に強い浪人たちです」

    少年「『剣士』、『槍使い』、『大男』、『武士』の四人です……おそらく、いつか戦うことになるかと……」

    用心棒「なるほどな……剣士はさっき、地獄に叩き込んでやったが」

    少年「本当ですか!?」

    用心棒「ああ……おっと、悪いな。食事中にこんなこと聞いて」

    用心棒「この湯豆腐を食ってみろ、なかなかいけるぞ……」
    49 : 以下、名無しにか - 2016/04/21(木) 20:27:59.63 ID:afyGBDLB0 (+35,+30,+0)

    鍛冶屋「一緒に飯食おうや……おっ!?なんじゃそのガキ、どっから湧いた!?」スパーンッ

    相棒「!?」ガタッ

    用心棒「しまった、見られた!」ガタッ

     チャキッ ジャキッ

    鍛冶屋「な、何や?何や!?」

    用心棒「このことをよそで喋ってみろ……」

    相棒「……死ぬぞ」

    鍛冶屋「わ、わかった!わかったわ、はよその物騒なもん下ろしてえな!」

    用心棒(……闇商人はともかくこいつに裏表はない、と思いたいが……)スッ

    相棒「……」スッ

    鍛冶屋「……一体、何事なんや……?」

    用心棒「……」


    用心棒「……鍛冶屋。この騒ぎは、耳に入れるだけで口封じに殺されかねない」

    用心棒「お前を憎からず思っている俺としては、話すわけにはいかない……わかるだろう?」

    鍛冶屋「……」
    50 : 以下、名無しにか - 2016/04/21(木) 20:28:41.91 ID:afyGBDLB0 (+35,+30,+0)

    鍛冶屋「……ええわ、とりあえず納得しといたる。うちも後暗い奴ら相手に商売してる身や、わきまえとるがな」

    鍛冶屋「でも、『あんたから頼まれてるもの』は値段上乗せにさしてもらうで。百両分な」

    鍛冶屋「うちにどんな火花が飛んでくるかわからんわ……」

    用心棒「……ああ」

    鍛冶屋「それだけや。精々死なないように……」スック

    相棒「チョクトウ」

    鍛冶屋「え?何や?」

    相棒「直刀をひと振り。出来るだけ良い物を……」

    鍛冶屋「……あんなあ、相棒の姉ちゃん」

    鍛冶屋「江戸は今黒船騒ぎでぴりぴりしとる。火薬も、鉄も、そうそう手に入らんもんなんやで?」

    鍛冶屋「長い付き合いやから『用心棒の頼んだもの』は引き受けたけど、この上刀なんて……」

    相棒「頼む」ペコリ

    用心棒「……!」

    鍛冶屋「……もう百両、上乗せやで」

    相棒「ありがとう」

    鍛冶屋「まったく、大赤字や……」


    鍛冶屋「……もたもたしとるとあんたらの言う『騒ぎ』に巻き込まれる。うちは退散さしてもらうで」

    鍛冶屋「夜道やけど……あんたらの依頼の品も用意せなあかんしな」

    用心棒「ああ、頼む」

     ドスドス… スッ

     スパンッ

    用心棒「さて、夕餉だ、夕餉だ」パンッ

    用心棒「坊主、冷めたから食いたくないとか我が儘言うんじゃないぞ?」

    用心棒「いつまでタンスに隠れていられるかもわからん。腹が減っては戦はできぬ、だ……」

    少年「はい……!」
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