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元スレ志希「フレちゃんがうつになりまして。」
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おつ
ようやく見つけた飽きないものを無意識にいじくりすぎた結果って感じなのかね
やるせねえな
ようやく見つけた飽きないものを無意識にいじくりすぎた結果って感じなのかね
やるせねえな
乙
どう見ても鬱一歩手前の臨界状態です、本当に(ry
メンタル面のギフテッドじゃなければ
隠すの上手いだけで感性は人並みで、人並みに傷つくんやな
だけど志希が「飽きて」しまうとフレちゃんが危機的状況に......
どう見ても鬱一歩手前の臨界状態です、本当に(ry
メンタル面のギフテッドじゃなければ
隠すの上手いだけで感性は人並みで、人並みに傷つくんやな
だけど志希が「飽きて」しまうとフレちゃんが危機的状況に......
志希にゃんは天才すぎて誰も理解してくれないけど一人の人間だから理解求めちゃう心理
わかるわ
わかるわ
現実のギフテッドも大半は良好な人間関係築けないらしいね
しかししゅがはのときも思ったけどほんとキャラを限界まで引き出すな
しかししゅがはのときも思ったけどほんとキャラを限界まで引き出すな
一週間後、旅行に行くといってバッグに荷物を詰め込んだ。
あたしがフレちゃんの部屋に遺した痕跡は思ったよりも多く、ぱんぱんにふくれたバッグは過ごした月日の永さを物語っていた。
フレちゃんはそっかー最近どこにも行けてなかったもんね、ごめんねーといって、かつての日課だったお菓子作りにチャレンジしていた。
視線は一回も交わることはなかった。
フレちゃんが目を合わせられなかったんじゃない、あたしが目を合わせなかったからだ。
また荷物を取りにくるねといって、久々に自分の部屋に戻った。一息ついてからペンを握る。
これまでの延長なんだ、と思うことにした。
あたしは今までそうやって生きてきた。
海外留学なんてしないで、優遇するからうちの学校に残ってくれないかとせがまれたときだって。
一世一代の実験を行う、協力してくれるなら有力なポストを用意してあげないこともない、と遠まわしな援助要請がきたときだって。
きみは科学における時代の寵児なんだ、なのにこの大学を辞めるなんて、損失に対してどう責任をとるんだと泣きつかれたときだって。
あたしはどこにも定まることはなく、自分勝手にふらふらと放浪してきた。
アイドルだって、その通過点のひとつなんだ、と思うことにした。
一週間が気づけば過ぎていて、目薬を何本もさしながら完成させた置き土産をもって事務所へ向かう。
さてはて、これをどこに置いておくべきか。
決まった曜日に使用するロッカーにこっそり忍ばせておけばいずれ誰かが発見してくれるだろーか。でもこれだけは確実に渡しておきたい。
それじゃ誰かに預けておくべきか、だとしたら奏ちゃんとかはダメだ。あの子は非常に察しがいい。ほんの1日だけ時間稼ぎができればそれでいいんだけど。
ふと、視線を感じた。むっとするほど熱量が込められたとてもとても熱い視線。
それに加えて、今回はたっぷりの湿気も混じっているようだ。かっかしててじめじめしてる。言うなればスチーム。やかんだねー?
振り返れば、燃える瞳をひどくうるませた日野茜ちゃんがあたしの背後に立っていた。そして。
「あっあのっ! すっ、すいませんでしたっ!!!」
90度の体育会系のお辞儀をさらに曲げて、茜ちゃんは全力投球で謝罪の言葉を盛大に吐き出した。
……ん、ん。なにかな、いきなり。まぁなんとなく予想はできるけど。
茜ちゃんは鼻をぐずぐずと鳴らして、つづける。
「事務所の人が話してるの、聞いてしまったんですっ……! フレデリカさんがっ……! フレデリカさんがっ大変なことになってるって……! けっして言っちゃダメな言葉があるって……!」
嗚咽を混じらせながらつづける。
「なのにっ、私あのとき何も知らないでっあんなこと……! ど、どどどどうしましょう……!」
男泣き、といったらシツレーかなぁ。水たまりができそうなほどに滝のような水滴を目から落とす茜ちゃん。
「かくなるうえは……スポーツマンシップに乗っ取って……切腹しますっ!」
いやいやどうしてそうなるのかな。ブシドーには乗っ取ってるかもしれないけど今は平成だよ。自害は現代スポーツの観点からみればかなりルール違反だよ。
えぇ、切腹ってスポーツじゃなかったんですか?! ってきみは一体なにに影響受けてそういう結論になったのかな?
「とにかくっ……自分で自分が不甲斐ないですっ……!」
……。
ちゃーんと人のために涙を流せるきみはきっととてもまっすぐで。
「茜ちゃん、きみさー月9のドラマの主人公になれるよ」
「はっ、はいっ?!」
「よしよし、きみに託したー。はい、これ」 と、置き土産を手渡す。
「うっうわっ、なんですかこれっ?! お、重いですっ! それになんだか文字がいっぱいなんですが……!」
「大丈夫大丈夫、猿がうつ病になってもいいように猿でもわかるように書いたから~だれでも読める~もちろんきみでも読める~」
1週間で行ったこと。あたしがこれまでレポートしてきたフレちゃん観察記をすべてまとめて論文として体系付けた。
あたしの頭脳はすべてここに詰め込んだ。この研究成果が、まるまるあたしの代わりになる。これであたしは必要ない。
そういえば、はじめて暇つぶし以外の目的で論文を書いた気がする。
願わくばこの研究が後世の病理の礎とならん、なーんてらしくないおまじないをこっそりかけておく。んーなんとなくそれっぽい感じになったかな。
「あのさ、その代わりになんていうわけじゃないけどさ、これからはさ、みんなでフレちゃんを支えてあげてね」
茜ちゃんはぽかんと口をあけてから、それからしばらくして。
「……はい、もちろんです! だってみんなフレデリカさんがだいすきですから!」といって笑った。
よかった。これで心配事がぐっと減った。天秤にかけた結果だ。
あたしが存在することで得られるメリットよりも、存在しないメリットが今回は優った。
ただそれだけのことだ、と無理やりにでも思うようにした。
帰り路にポストに「レイジー・レイジーの休止理由はすべてあたしのせいにしてほしい」とだけ書いたハガキを放り込んだ。
別にヒロイックな気分に浸りたかったわけじゃない。
あたしに対しての評価がどうなろうと別段興味はなかったし、このほうがみんなにとって都合がよかったから選択しただけ。
「ふぅー」
これでおしまいっ。
あとは、邪魔をしていたどこまでも利己的な悪役が消え去るのみだ。
あたしがフレちゃんの部屋に遺した痕跡は思ったよりも多く、ぱんぱんにふくれたバッグは過ごした月日の永さを物語っていた。
フレちゃんはそっかー最近どこにも行けてなかったもんね、ごめんねーといって、かつての日課だったお菓子作りにチャレンジしていた。
視線は一回も交わることはなかった。
フレちゃんが目を合わせられなかったんじゃない、あたしが目を合わせなかったからだ。
また荷物を取りにくるねといって、久々に自分の部屋に戻った。一息ついてからペンを握る。
これまでの延長なんだ、と思うことにした。
あたしは今までそうやって生きてきた。
海外留学なんてしないで、優遇するからうちの学校に残ってくれないかとせがまれたときだって。
一世一代の実験を行う、協力してくれるなら有力なポストを用意してあげないこともない、と遠まわしな援助要請がきたときだって。
きみは科学における時代の寵児なんだ、なのにこの大学を辞めるなんて、損失に対してどう責任をとるんだと泣きつかれたときだって。
あたしはどこにも定まることはなく、自分勝手にふらふらと放浪してきた。
アイドルだって、その通過点のひとつなんだ、と思うことにした。
一週間が気づけば過ぎていて、目薬を何本もさしながら完成させた置き土産をもって事務所へ向かう。
さてはて、これをどこに置いておくべきか。
決まった曜日に使用するロッカーにこっそり忍ばせておけばいずれ誰かが発見してくれるだろーか。でもこれだけは確実に渡しておきたい。
それじゃ誰かに預けておくべきか、だとしたら奏ちゃんとかはダメだ。あの子は非常に察しがいい。ほんの1日だけ時間稼ぎができればそれでいいんだけど。
ふと、視線を感じた。むっとするほど熱量が込められたとてもとても熱い視線。
それに加えて、今回はたっぷりの湿気も混じっているようだ。かっかしててじめじめしてる。言うなればスチーム。やかんだねー?
振り返れば、燃える瞳をひどくうるませた日野茜ちゃんがあたしの背後に立っていた。そして。
「あっあのっ! すっ、すいませんでしたっ!!!」
90度の体育会系のお辞儀をさらに曲げて、茜ちゃんは全力投球で謝罪の言葉を盛大に吐き出した。
……ん、ん。なにかな、いきなり。まぁなんとなく予想はできるけど。
茜ちゃんは鼻をぐずぐずと鳴らして、つづける。
「事務所の人が話してるの、聞いてしまったんですっ……! フレデリカさんがっ……! フレデリカさんがっ大変なことになってるって……! けっして言っちゃダメな言葉があるって……!」
嗚咽を混じらせながらつづける。
「なのにっ、私あのとき何も知らないでっあんなこと……! ど、どどどどうしましょう……!」
男泣き、といったらシツレーかなぁ。水たまりができそうなほどに滝のような水滴を目から落とす茜ちゃん。
「かくなるうえは……スポーツマンシップに乗っ取って……切腹しますっ!」
いやいやどうしてそうなるのかな。ブシドーには乗っ取ってるかもしれないけど今は平成だよ。自害は現代スポーツの観点からみればかなりルール違反だよ。
えぇ、切腹ってスポーツじゃなかったんですか?! ってきみは一体なにに影響受けてそういう結論になったのかな?
「とにかくっ……自分で自分が不甲斐ないですっ……!」
……。
ちゃーんと人のために涙を流せるきみはきっととてもまっすぐで。
「茜ちゃん、きみさー月9のドラマの主人公になれるよ」
「はっ、はいっ?!」
「よしよし、きみに託したー。はい、これ」 と、置き土産を手渡す。
「うっうわっ、なんですかこれっ?! お、重いですっ! それになんだか文字がいっぱいなんですが……!」
「大丈夫大丈夫、猿がうつ病になってもいいように猿でもわかるように書いたから~だれでも読める~もちろんきみでも読める~」
1週間で行ったこと。あたしがこれまでレポートしてきたフレちゃん観察記をすべてまとめて論文として体系付けた。
あたしの頭脳はすべてここに詰め込んだ。この研究成果が、まるまるあたしの代わりになる。これであたしは必要ない。
そういえば、はじめて暇つぶし以外の目的で論文を書いた気がする。
願わくばこの研究が後世の病理の礎とならん、なーんてらしくないおまじないをこっそりかけておく。んーなんとなくそれっぽい感じになったかな。
「あのさ、その代わりになんていうわけじゃないけどさ、これからはさ、みんなでフレちゃんを支えてあげてね」
茜ちゃんはぽかんと口をあけてから、それからしばらくして。
「……はい、もちろんです! だってみんなフレデリカさんがだいすきですから!」といって笑った。
よかった。これで心配事がぐっと減った。天秤にかけた結果だ。
あたしが存在することで得られるメリットよりも、存在しないメリットが今回は優った。
ただそれだけのことだ、と無理やりにでも思うようにした。
帰り路にポストに「レイジー・レイジーの休止理由はすべてあたしのせいにしてほしい」とだけ書いたハガキを放り込んだ。
別にヒロイックな気分に浸りたかったわけじゃない。
あたしに対しての評価がどうなろうと別段興味はなかったし、このほうがみんなにとって都合がよかったから選択しただけ。
「ふぅー」
これでおしまいっ。
あとは、邪魔をしていたどこまでも利己的な悪役が消え去るのみだ。
シリアスなのにゴエモンネタのせいであれ思い出して噴出しただろ…wwwwww
最後に荷物を引き取りに、フレちゃんの部屋に向かった。
必要なものなんてひとつもなかったけれど、この際きれいさっぱりあたしを忘れて欲しかった。
フレちゃんはピンクのエプロンを腰に巻いて、チョコレートムースを作っていた。ぺろりと味見をすると、ちゃんと甘い味がした。
「にゃはは、ごめんねーなんだか突然温泉にでも行きたくなっちゃってさー自由を求めるもの志希ちゃん~」
「フレちゃんの分まで楽しんできてねー」
「……」
きみには、なにも知らせずに行くから。
何もかも放り出して突然いなくなるあたしをフレちゃんは恨むだろーか。
わからない。フレちゃんに対してはなにもかもわからなくなる。でも最後に確認したいことがあった。
「フレちゃん、ハグしよっか」
「ん、はぐー?」
「うん」
水道で手を洗ってエプロンで水気を拭き取ってから、はい、とフレちゃんは両手を広げた。
そっと背中に手を回す。ふっくらとした感触がやさしく包む。
あのときは必死だったからなにも気づけなかったけど。
もう背骨は浮き上がってないし、体の線も正常の範囲内。よしよし触診の結果異常なし。外見上は。
中身までは測定できない。フレちゃんに何が残ったんだろーか。たくさんの感性を落っことしてしまった後に何が残ったんだろーか。
もしなにか失ったものがあるんだとしたら、それは全部あたしのせい。
「ごめんね、フレちゃん」
「どうして、謝るの?」
「……」
「シキちゃんは悪くないよー。なーんにも悪くないんだ、よー」
フレちゃん。
こんなあたしを少しでも理解しようとしてくれて、ありがとう。
でも、もういいよ。もう十分だから。
最後に息をすうっと吸い込む。
あとひとつだけ確認したかったことだった。
──きみのにおいをけっして忘れないよ。
いってらっしゃーい、といういつも通りの言葉を背に、あたしはドアをしめた。
必要なものなんてひとつもなかったけれど、この際きれいさっぱりあたしを忘れて欲しかった。
フレちゃんはピンクのエプロンを腰に巻いて、チョコレートムースを作っていた。ぺろりと味見をすると、ちゃんと甘い味がした。
「にゃはは、ごめんねーなんだか突然温泉にでも行きたくなっちゃってさー自由を求めるもの志希ちゃん~」
「フレちゃんの分まで楽しんできてねー」
「……」
きみには、なにも知らせずに行くから。
何もかも放り出して突然いなくなるあたしをフレちゃんは恨むだろーか。
わからない。フレちゃんに対してはなにもかもわからなくなる。でも最後に確認したいことがあった。
「フレちゃん、ハグしよっか」
「ん、はぐー?」
「うん」
水道で手を洗ってエプロンで水気を拭き取ってから、はい、とフレちゃんは両手を広げた。
そっと背中に手を回す。ふっくらとした感触がやさしく包む。
あのときは必死だったからなにも気づけなかったけど。
もう背骨は浮き上がってないし、体の線も正常の範囲内。よしよし触診の結果異常なし。外見上は。
中身までは測定できない。フレちゃんに何が残ったんだろーか。たくさんの感性を落っことしてしまった後に何が残ったんだろーか。
もしなにか失ったものがあるんだとしたら、それは全部あたしのせい。
「ごめんね、フレちゃん」
「どうして、謝るの?」
「……」
「シキちゃんは悪くないよー。なーんにも悪くないんだ、よー」
フレちゃん。
こんなあたしを少しでも理解しようとしてくれて、ありがとう。
でも、もういいよ。もう十分だから。
最後に息をすうっと吸い込む。
あとひとつだけ確認したかったことだった。
──きみのにおいをけっして忘れないよ。
いってらっしゃーい、といういつも通りの言葉を背に、あたしはドアをしめた。
……。
バスの窓がこする景色をぼんやりと眺める。
あたしの体はどこに向かうんだろう。それすらも興味が沸かない。とにかく遠くであればどこに置いてくれていってもいい。
しばらくはいつもの一ノ瀬志希の失踪癖として誰も気に咎めないだろう。3日くらいすれば騒ぎになるかもしれないけど、3ヵ月すれば落ち着いてきて、3年もすれば忘れてくれる。
なんだかんだ、あらゆる事象は自然と収束していく。世界はあたしがいなくても勝手に回るし、勝手に閉じていく。別にそれでいーよ。
「……」
どれだけていの良い言葉で誤魔化そうとしても、だめだった。
あたしは、結局のところ挫折したのだ。もしかしたら人生ではじめての挫折かもしれない。
この挫折はこれからあたしの背景にどれだけ色濃く影を落とすのだろーか。犯した代償はなにをもって帳消しになるんだろーか。
それともそれすらもさっぱり忘れてしまうんだろーか。
去り際に茜ちゃんとした会話を思い出す。
それと、もちろんみんなやさしい志希さんもだいすきです!
やさしいー? あたしがー?
はい、だって志希さんは今までずっとフレデリカさんを支え続けていたじゃないですか! そんな志希さんが、やさしくないわけないじゃないですか! という会話。
はじめて言われたなぁ、やさしいなんて。同じことを無関係の3人に言われるとそれは真実だっていうけど。
んーやさしさの証明って他にどうやってできるのかな。
なにが証明書になるのかな。
どちらにせよひとりではできなさそうだからそれはとてもとても厄介だ。
さて、これからどうしよう。
六畳のワンルームでも借りて懸賞金付きのクロスワードでも解いて応募でもしようか。
ひたすら解いて、解いて。
それからどうする?
バスの窓がこする景色をぼんやりと眺める。
あたしの体はどこに向かうんだろう。それすらも興味が沸かない。とにかく遠くであればどこに置いてくれていってもいい。
しばらくはいつもの一ノ瀬志希の失踪癖として誰も気に咎めないだろう。3日くらいすれば騒ぎになるかもしれないけど、3ヵ月すれば落ち着いてきて、3年もすれば忘れてくれる。
なんだかんだ、あらゆる事象は自然と収束していく。世界はあたしがいなくても勝手に回るし、勝手に閉じていく。別にそれでいーよ。
「……」
どれだけていの良い言葉で誤魔化そうとしても、だめだった。
あたしは、結局のところ挫折したのだ。もしかしたら人生ではじめての挫折かもしれない。
この挫折はこれからあたしの背景にどれだけ色濃く影を落とすのだろーか。犯した代償はなにをもって帳消しになるんだろーか。
それともそれすらもさっぱり忘れてしまうんだろーか。
去り際に茜ちゃんとした会話を思い出す。
それと、もちろんみんなやさしい志希さんもだいすきです!
やさしいー? あたしがー?
はい、だって志希さんは今までずっとフレデリカさんを支え続けていたじゃないですか! そんな志希さんが、やさしくないわけないじゃないですか! という会話。
はじめて言われたなぁ、やさしいなんて。同じことを無関係の3人に言われるとそれは真実だっていうけど。
んーやさしさの証明って他にどうやってできるのかな。
なにが証明書になるのかな。
どちらにせよひとりではできなさそうだからそれはとてもとても厄介だ。
さて、これからどうしよう。
六畳のワンルームでも借りて懸賞金付きのクロスワードでも解いて応募でもしようか。
ひたすら解いて、解いて。
それからどうする?
「くぁ」
欠伸がでた。そういえば徹夜続きだったことを思い出す。
ゆっくりと瞼を閉じる。次に瞼を開いたら、きっとあたしの体は見知らぬ土地に運ばれている。
瞼のうらに、混じりっけのない金髪がぼんやりと浮かんだ。
…………。
………。
……。
「……ぇ、ねぇ、お姉ちゃん」
「んにゃ……」
体を揺すられて、目を醒ます。むむ、まるで眠気が取れてないとゆーことはあたしの目的はまだ達成されてないようだ。
視線を落とすと、小さな女の子があたしを見上げていた。
「お姉ちゃんって、博士さんなの?」
「ほぇ?」
よくよく周りを見渡すと、バスの床に試験管やらちょっとキケンな薬品やらが散らばっていた。
むむ。どうやらバスが揺れて、ぱんぱんに詰まったバッグがはじけ飛んだらしい。
女の子は試験管をちっちゃな手のひらできゅっと握って、あたしに差し出す。
「にゃはは、ありがとー、きみは優秀な助手になれるねー」
女の子はあたしの言葉にきょとんと首をかしげて、あたしの荷物を拾ってくれる。
あたしも適当に散らばったガラス器具をバッグに放り込む。シャーレーアスピレーターリービッヒ冷却器ー。
ふぅ、これで全部かな。
「よしよし、ありがとー。きみは天才だねー」
ご褒美、になるかはあずかり知らないけど女の子の頭を撫でてあげるとよろこんで席に戻っていった。
さて、あたしももうひと眠り……。
と、女の子がまたにこにこと笑って、あたしの席へ戻ってくる。
なにかを握っていた。
女の子はとびきりの笑顔を浮かべながら、はい、といってあたしに差し出した。
それは。
ぼろぼろになった立方体だった。
緑色と青色以外がきれいに揃えられた、たしかに秩序が与えられたルービックキューブだった。
「なん、で」
あたしは入れてない。じゃあ誰が?
そんなのひとりしかいない。
フレちゃんがあたしの荷物にこっそりと入れたのだ。
裏側には歪んだ文字で、小さなメモが貼りつけられていた。
おそらへとんでいくんだね。たのしんでね。いままでほんとうにごめんね。ほんとうにありがとう。
「すごいぼろぼろだねーお姉ちゃんにとって、大切なものなんだねー」
「……」
フレちゃんは。それじゃあフレちゃんは、あのときぜんぶわかっていて。
あたしが二度と戻ってこないってことをわかっていて。あたしがもう二度と姿を見せないってことをわかっていて。
なのに、フレちゃんはいつもと変わらずにあたしを送り届けてくれて。それはきっとあたしのためにしてくれて。
「フレちゃん……」
きみはなんでもないよ、という風に自然にこういうことをしてくるから。
もういいよっていってるのに、それでもこんなあたしをどこまでもどこまでも理解しようとしてくれるから。
もう十分だよっていってるのにあたしの予想をいくらだっていくらだってきみは超えてきてしまうから。
「フレちゃん、そっかー……」
それじゃあフレちゃんがいってた、空を飛びたがってるのに飛べない哀しんでいるペンギンっていうのは、あたしのことを言っていて。
だとしたらあたしの回答は間違ってたよ。
きみは重力なんかじゃないよ。
重力だなんて思っちゃ、やだよ。
「きみは、フレちゃん、なんだねー……」
あたしさ、きみの看病しててさ、ちょっと大変だなーとは思ったけど。
それでもぜんぜん、へっちゃらだったよー。ずっとずっときみの部屋にいても飽きなかったよ。
それは、なんでって。
……。
きみが、大切だったからだよ。
きみが大切な友達だったから、そばにいたんだよ。
それじゃさ。
フレちゃんもあたしが大切だったから、そばでずっと笑ってくれていたの?
「──っ」
あたしはどうして立ち上がってるんだろう。あたしは一体なにを叫んだんだろう。あたしは何処へ走り出してるんだろう。
矛盾している。なにもかも矛盾していると思った。
きみを大切にするんだったらもう会わないべきなのに。
きみをちゃんと大切にしたいからこそ、また会いたいと思ってしまう。
ごめんね。どこまでも気まぐれで自分勝手なあたしを許してほしい。
あたしはみんなのようにあんなに上手に、あんなにきれいに涙を流すことはできないけど。
その代わりにもし血が涙の代わりになり得るんだったら、きみのためだったらいくらでも流しても構わないよ。
きみといっしょになら、知らない局面に触れたいから。
おきまりのストーリーなんていらないから。もうなにもいらないから。
お願い。あたしの未来を、またなにもかもわからなくさせてよ!
……。
それから。
汗だくでドアをあけたら、とろけるような甘いにおいが鼻孔に飛び込んできて。
そして。
ほんとうにきみは一体どこからどこまでを知ってか知らずか。
きちんとお菓子を2つ分用意しながら、あ、おかえりなーさいなんていつもの調子でいうものだから。
あたしはすっかり体の力が抜けて、へなへなと倒れ込んでしまって。
でも、あたしと同じくきみのためと、同じく別れを選択したきみは、きっと同じ気持ちでいてくれたよね。また会いたいって思っててくれたよね。
「にゃ、にゃははは、フレちゃん、これー」
「あ、それ……」
ルービックキューブを、力のこもらない指先でかちゃかちゃと組み立てる。
頭の中では1秒で済むんだけど、思ったよりもずっと時間がかかっちゃった。
「はい、返すね。これからも、どーぞよろしくー。あたしのパートナー」
このルービックキューブみたいに心の模様が何度バラバラになってもさ。何度でもきれいに揃えてあげるから、ねー。
フレちゃんはあたしの手元をぼんやり見てから、そして。
口元に手を添えて。
「わぁ、シキちゃんすごーい、あは、は」
「……笑っ、た。フレちゃんいま笑った、の?」 笑った。フレちゃんが。たしかに笑った。
「だって、フレちゃんがずっとやっても全然揃わなかったんだよー。やっぱりシキちゃんはすごいねー」
「……にゃははっ」
なるほどきみを笑顔にするためだったらあたしのギフテッドもそう悪いものじゃないんじゃないかと思えてくる。
気づいたことがある。
あたしは解き明かす方だけどね。きみは逆なんだよ。
きみはそのやわらかくてふわふわな心で、きっと自然にね。
どんなものにも価値を吹き込んでくれる。
どんなひとにだって意味を分け与えてくれる。
街の看板にだって、ちいさな飴玉にだって、南極のペンギンにだって、ただのルービックキューブにだって、そしてあたしにも。
それが宮本フレデリカ。
あたしを惹きつけて止まない、きみの素晴らしいところ。
なーんてまた解析してしまうのは、きっとあたしの悪い癖。
そんなこと、どうだっていいのだ。
どうやらあたしにも観測されたらしい非化学な成分が起こす、胸の熱源反応に比べれば、どんなことだってちっぽけなものだ。
明日になれば記憶としてはきれいさっぱり忘れちゃうかもしれないけれど、きっとこれはあたしの深層に永遠に残り続けるのだ。
「さーなんだかお腹減っちゃったにゃー。一流パテシィエのフレちゃんが作るお菓子食べたいにゃー」
これからとりとめもないお喋りして、お腹いっぱいになって、お皿を洗ってゆっくりしたら、ダッドに手紙でもしたためてみようか。
フレちゃんはあたしをじいっと見つめてから、かすかに微笑んで言った。
「いいのー、シキちゃん。あたし一生このまま、かもしれないよ?」
「……」
きっとあたしたちはどこまでいっても別の個体で。
いっつも勘違いしあって何度もすれ違って、たくさんこすれあって、ときには傷つけあって。
それなのにどこまでも調和を求めてしまう、なんとも矛盾したどーしようもない有機体。
でもさ。
それでもいいよね。
それでもいつか完全に分かりあえる日がくるって信じて、すこしでもうまくやっていこうよ。
「うん、いいよ、それでもいい」
フレちゃん、あたしまたひとつおかしくなっちゃったのかも。
だって、きみとだったらね。
どんなにどんなにどんなにどんなに。
遠回りしてもいいだなんて、どうしようもなく思ってしまうのだ。
すこやかなるときも
病めるときも
きみと一緒にいたい
-fin-
乙 つい夜更かししちゃった
ものすっごい個人的なアレなんだけど、深夜テンションって事で……エンディング曲があるとしたらこれを推したい
http://www.youtube.com/watch?v=tOBZTftiTrA
―――朝が来るまで、君と話を続けよう
ものすっごい個人的なアレなんだけど、深夜テンションって事で……エンディング曲があるとしたらこれを推したい
http://www.youtube.com/watch?v=tOBZTftiTrA
―――朝が来るまで、君と話を続けよう
蛇足のはなし。
あるひとりの女の子は、フラッシュが炊かれる檀上にあがって、息を吸い込んでいった。
「橘です」
ぶっと顔を真っ赤にして吹き出したのは、正真正銘の橘ありすちゃん。
「あはは、うっそー☆ 今日は会いにきてくれて、あーりーがーと~~!!! えっ復帰会見なんだからそんなノリじゃない? あーそっかそっか」
「みんな久しぶりー。ぼんじゅー しるぶぷれー?」
お久しぶりはサフェロントンだねー。
「えっとね、みんなにはもういってたと思うけどーフレちゃんねーうつ病だったんだよねー」
あまりにあっけらかんというものだから、かすかに場内がざわめく。
「ネットではねーフレちゃんがうつ病になるわけねーだろー無理あるわーとかいわれてるみたいだけど、なっちゃったんだから驚きだよねーワオ☆」
「病気のときはねー大変だったなー。うーん大変だったねー。あれはもう宮本フレデリカじゃないよねー山本フレデリカとかだよねー」
「でもねーフレちゃんじゃないよーってフレちゃんとフレちゃんだよーってフレちゃんがいてねーでもそれはフレちゃんじゃないよーってフレちゃんじゃない人がいってくれてるからでねー」
「あれあれ、こんがらかっちゃった、えっとね、つまりー」
「フレちゃーんって言ってくれる人がまわりにいるから、フレちゃんはフレちゃんでいられるんだよー」
「いちばん大変だったときも、ずっとフレちゃーんって言ってくれた友達がいてくれてねー、本当は今ありがとーって紹介したいんだけど、あたしそんなガラじゃないからパスパス~って言われちゃったから秘密にしておくね」
結構バレバレじゃないかにゃ?
「フレちゃんね、うつ病になってからありがとーってもっともっといっぱい言うようになって、普段からもっとみんなにお菓子あげたいなーって思うようになったんだー」
「それとね、ほらっこれキューちゃん! ルービックキューブだから、キューちゃん」
「あたしね、色が見えなくなっちゃったときがあって、それで代わりにキューちゃんに文字を書いてみたんだー、これで一石二鳥! あれ、違うか」
「そしたらね、フレちゃんは天才だねーあたしもこうやって遊ぶなんて思いつかなかったよーって褒められちゃった。えへへ」
「でもさ、これもアタシがうつ病になったから気づいたことなんだよねー」
「病気になったから、ご飯がもっと美味しいって気づけたし、ファンのみんなの応援のファンレターいっぱい読めたし、マイベストフレンドとももっと仲良くなれたし、歌を歌えることってすごいことだなーって思えたんだよね」
「だから、こんな事いったら怒られちゃうかもしれないけどね」
「あたしは、うつ病になれて幸せだなぁって今ならいえるかなー、いえーいハッピーニューイヤー!」
気づけばありすちゃんの怒りは吹き飛んでいて、ぐすぐすと号泣していた。舞台袖で見守っていたみんなの拍手が飛ぶ。
「あ、そうそう。それとね、これも病気になったからわかったことなんだけど」
「男性問題とユニットの不仲説、ここで解消しちゃうねー!」
そういって、こちらに向かって、両手を広げられる。
えっもしかしてあたし? いま? 行ってきなさいよ、と背中をとんと押される。
「ハグするとね、とーってもハッピーになれるんだよー! やーもういっそ、みんなおいでー!」
それから会見がめちゃくちゃになって、その瞬間の写真が一面を飾って
相変わらずのお騒がせコンビだ、とまたもや世間の注目の的になったのはほんとうに、蛇足のおはなし。
おしまい。
以上となります
読んでくれていただき本当にありがとうございました
誤字脱字あげていきます
多いですが直していただければ幸いです
読んでくれていただき本当にありがとうございました
誤字脱字あげていきます
多いですが直していただければ幸いです
乙乙
覗いたの今日が初めてだったんだけど、するすると最後まで読めたよ
覗いたの今日が初めてだったんだけど、するすると最後まで読めたよ
閉店がらがら
扱ってる題材が題材なので手を抜かずに書いたつもりです
1文字でも読んでいただければそれで幸福です
次はもうちょっと肩の力を抜いた明るめな話にしようかと思います
タイトルだけは決まってるので早めに投下できたら…
扱ってる題材が題材なので手を抜かずに書いたつもりです
1文字でも読んでいただければそれで幸福です
次はもうちょっと肩の力を抜いた明るめな話にしようかと思います
タイトルだけは決まってるので早めに投下できたら…
あ、それと例のあっちの方は申し訳ないですが一旦html依頼だしてしばらくしたら投下しなおそうと思います…
ではこちらも依頼だしてきます
本当にありがとうございました
ではこちらも依頼だしてきます
本当にありがとうございました
乙乙
大変素晴らしいSSでした
それにしてもハッピーエンドで本当に良かった……
大変素晴らしいSSでした
それにしてもハッピーエンドで本当に良かった……
毎回最後はちゃんとハッピーエンドで終わってくれるから好き
大変よかった、ありがとう
大変よかった、ありがとう
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