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元スレモバP「まゆ、アイドルをやめろ」
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凛「プロデューサー、今日帰ってくるんだよね」
卯月「ちひろさん、ドッキリのこと、まだプロデューサーさんには伝えていないんですよね?」
「ええ、まだ……」
震える声で呟くわたしに、杏ちゃんがぼやく。
杏「帰ってきてほしくない、ってのまであるよねぇ」
卯月「ちひろさん、ドッキリのこと、まだプロデューサーさんには伝えていないんですよね?」
「ええ、まだ……」
震える声で呟くわたしに、杏ちゃんがぼやく。
杏「帰ってきてほしくない、ってのまであるよねぇ」
P「おはようございます、ちひろさん……ってあれ?」
P「今日は、アイドル百五十人近くが全員オフの、祝福すべき日だぞ? なんでお前ら来てるんだ?」
杏「……ちょっとね」
P「お前が来てんのが一番びっくりだよ。お前に至っては明日もオフなのに」
杏「由々しき事態なんだ」
「わたしから説明します」
これは、わたしが言わなければならないこと。
事務所に亀裂を入れてしまった、わたしがやらなくちゃいけない。
P「今日は、アイドル百五十人近くが全員オフの、祝福すべき日だぞ? なんでお前ら来てるんだ?」
杏「……ちょっとね」
P「お前が来てんのが一番びっくりだよ。お前に至っては明日もオフなのに」
杏「由々しき事態なんだ」
「わたしから説明します」
これは、わたしが言わなければならないこと。
事務所に亀裂を入れてしまった、わたしがやらなくちゃいけない。
「Pさん、おとといのお昼から早退して、昨日も休まれましたよね」
P「ええ、少し、用事があったもので」
「Pさんが帰ったあと、わたし、魔がさして……ドッキリを仕掛けようと思ったんです」
P「なにやってんですか」
「ここにいるのは、わたしがおととい、ドッキリを仕掛けたアイドル達です」
P「一応お聞きしますが、どんなドッキリを?」
凛「ちひろさん、Pが死んだなんて言い出したんだよ」
卯月「今までもたくさんドッキリされましたけど……今回はすっごくびっくりしたんですよ」
杏「で、そのお詫びに、今日のオフは、プロデューサーとデートできる権利を、とか言いだして」
P「ええ、少し、用事があったもので」
「Pさんが帰ったあと、わたし、魔がさして……ドッキリを仕掛けようと思ったんです」
P「なにやってんですか」
「ここにいるのは、わたしがおととい、ドッキリを仕掛けたアイドル達です」
P「一応お聞きしますが、どんなドッキリを?」
凛「ちひろさん、Pが死んだなんて言い出したんだよ」
卯月「今までもたくさんドッキリされましたけど……今回はすっごくびっくりしたんですよ」
杏「で、そのお詫びに、今日のオフは、プロデューサーとデートできる権利を、とか言いだして」
P「ああ、だから集まったのか。でも俺仕事ですよ?」
「はい。でもまあスタドリで釣ればそこは大丈夫かと……そうではなくて」
わたしは息を吸い、ぽつりと零した。
「まゆちゃんにも、同じドッキリをしかけちゃったんです」
「はい。でもまあスタドリで釣ればそこは大丈夫かと……そうではなくて」
わたしは息を吸い、ぽつりと零した。
「まゆちゃんにも、同じドッキリをしかけちゃったんです」
P「」
P「……」
P「…………はっ」
P「ちょっと待ってくださいちひろさん」
P「俺……おとといに帰るとき、ちひろさんに渡しものをしましたよね。昨日まゆの誕生日だからって、そのプレゼント……」
「はい……」
杏「そのプレゼント使って、まゆに仕掛けたら……まゆ、事務所を飛び出して……」
P「……」
P「…………はっ」
P「ちょっと待ってくださいちひろさん」
P「俺……おとといに帰るとき、ちひろさんに渡しものをしましたよね。昨日まゆの誕生日だからって、そのプレゼント……」
「はい……」
杏「そのプレゼント使って、まゆに仕掛けたら……まゆ、事務所を飛び出して……」
毎回思うけどドッキリじゃ済まされねぇ問題だよな
死んだって吹聴するとか
死んだって吹聴するとか
P「え?」
P「なにそれ」
凛「ちゃ、ちゃんとちひろさん、ネタばらしはしたんだよ」
卯月「ええ、ただ……ちひろさん、見てもらった方が、良いかも……」
「……そう、ですね」
わたしはDVDをプレーヤーにセットし、再生ボタンを押した。
Pさんはわたしを押しのけて、鬼気迫った表情でディスプレイを見つめていた。
凛「ぷ、プロデューサー……」
その表情に、少し怯えたように凛ちゃんが、肩を震わせていた。
P「なにそれ」
凛「ちゃ、ちゃんとちひろさん、ネタばらしはしたんだよ」
卯月「ええ、ただ……ちひろさん、見てもらった方が、良いかも……」
「……そう、ですね」
わたしはDVDをプレーヤーにセットし、再生ボタンを押した。
Pさんはわたしを押しのけて、鬼気迫った表情でディスプレイを見つめていた。
凛「ぷ、プロデューサー……」
その表情に、少し怯えたように凛ちゃんが、肩を震わせていた。
『まゆちゃん、落ち着いて聞いて……』
まゆ『どうしたんですかぁ……?』
『Pさんが、亡くなったの』
ディスプレイの中の自分が、憎い。こんな女の子を傷付けて、何が面白かったのだろう。
まゆ『……今日はまゆ、誕生日、なんですけど』
まゆ『そうですか』
まゆ『そう、なんですね』
まゆ『どうしたんですかぁ……?』
『Pさんが、亡くなったの』
ディスプレイの中の自分が、憎い。こんな女の子を傷付けて、何が面白かったのだろう。
まゆ『……今日はまゆ、誕生日、なんですけど』
まゆ『そうですか』
まゆ『そう、なんですね』
まゆ『……死んじゃったなら、仕方ないですよねぇ』
呻くような、そんな声。
わたしはここで、とんでもない間違いを犯したのだと気付いた。
呻くような、そんな声。
わたしはここで、とんでもない間違いを犯したのだと気付いた。
まゆちゃんの表情。
笑顔の張り付いた、不気味な表情。
その笑顔は、とても、冷たくて……美しかった。
笑顔の張り付いた、不気味な表情。
その笑顔は、とても、冷たくて……美しかった。
まゆ『自分でもびっくりです』
まゆ『こんなにも、冷静でいられるものなんですね、まゆは』
まゆ『泣かなきゃ、って思うんですけど』
まゆ『涙が、出てこない……いえ、』
まゆ『悲しくないんですよ』
まゆ『不思議、ですねえ……』
まゆ『代用品だから、でしょうか』
『――まゆちゃん!』
張り上げた声が、事務所に響く。
『ご、ごめんね、これ、どっきりなの』
まゆ『どっきり、ですかぁ……?』
まゆ『こんなにも、冷静でいられるものなんですね、まゆは』
まゆ『泣かなきゃ、って思うんですけど』
まゆ『涙が、出てこない……いえ、』
まゆ『悲しくないんですよ』
まゆ『不思議、ですねえ……』
まゆ『代用品だから、でしょうか』
『――まゆちゃん!』
張り上げた声が、事務所に響く。
『ご、ごめんね、これ、どっきりなの』
まゆ『どっきり、ですかぁ……?』
『そ、そうなの。嫌な思いさせちゃったかな、でも、明日プロデューサーさんとデートできる権利が』
まゆ『いりません』
『え?』
まゆ『……だって』
まゆ『聞かれちゃったじゃないですかぁ、まゆの心』
まゆ『聞かれた。聞かれた。聞かれた。聞かれた……聞いちゃったでしょう、まゆの言葉』
まゆ『うふふ、多分もう、手遅れなんですよぉ』
まゆちゃんはそう言って事務所の扉に手をかけた。そして、少し立ち止まる。
まゆ『それに、聞いちゃったのは、あなただけじゃないみたいですし……?』
ぐりん、とまゆちゃんが振り返る。その視線の先は、私じゃない。
観葉植物の中に隠された、とても小さなカメラ。晶葉ちゃんに作ってもらった、高画質高音質で録画できるビデオカメラ。
その先の、卯月ちゃんや凛ちゃん、杏ちゃん。
――そして、プロデューサーさん。
まゆ『いりません』
『え?』
まゆ『……だって』
まゆ『聞かれちゃったじゃないですかぁ、まゆの心』
まゆ『聞かれた。聞かれた。聞かれた。聞かれた……聞いちゃったでしょう、まゆの言葉』
まゆ『うふふ、多分もう、手遅れなんですよぉ』
まゆちゃんはそう言って事務所の扉に手をかけた。そして、少し立ち止まる。
まゆ『それに、聞いちゃったのは、あなただけじゃないみたいですし……?』
ぐりん、とまゆちゃんが振り返る。その視線の先は、私じゃない。
観葉植物の中に隠された、とても小さなカメラ。晶葉ちゃんに作ってもらった、高画質高音質で録画できるビデオカメラ。
その先の、卯月ちゃんや凛ちゃん、杏ちゃん。
――そして、プロデューサーさん。
杏「杏、このとき鳥肌立ったよ」
卯月「わ、私もです……」
凛「うん、なんだかすごく……怖かった」
凛「で、このあと事務所に電話がかかってきて……」
P「この事務所を、やめる、と」
Pさんは、思い悩むように窓の外に視線を放り投げたあと、椅子の背凭れに背中を預けた。
P「一度、話してきますね」
その言葉に、わたしは首を横に振った。
「まゆちゃん、寮には帰ってないみたいなんです」
卯月「わ、私もです……」
凛「うん、なんだかすごく……怖かった」
凛「で、このあと事務所に電話がかかってきて……」
P「この事務所を、やめる、と」
Pさんは、思い悩むように窓の外に視線を放り投げたあと、椅子の背凭れに背中を預けた。
P「一度、話してきますね」
その言葉に、わたしは首を横に振った。
「まゆちゃん、寮には帰ってないみたいなんです」
P「はい?」
卯月「正門からふらふらって、出ていったのが監視カメラに映ったっきりで……」
P「どこにいるのかもわからないってことですか?」
わたしは小さくこくりと頷いた。
「他のアイドルには、まゆちゃんに伝えなきゃいけないことがあるから見かけたり連絡取れたりしたら、事務所の方に連絡して、っていったんですけど……」
結果はなし。
凛「プロデューサー、まゆの携帯の番号知ってたでしょ、一度かけてみなよ」
P「ああ、そうだな……」
ポケットから取り出した携帯を操作して、耳に当てるPさん。わたしはその電話に、まゆちゃんが出ることを期待していた。
P「もしもし、まゆか?」
出た! わたしの心臓が、大きく跳ね上がる。
P「ん……ああ、すまん、少し電波が遠い。ちょっと移動してくれないか……ああ、そこでいい。それで、仕事のことだが……」
怒ることもなく、淡々と、まゆちゃんに質問を重ねていく。それも、詰問ではない、優しい語り。それでも、まゆちゃんはまったく聞く耳を持っていないようだった。
卯月「正門からふらふらって、出ていったのが監視カメラに映ったっきりで……」
P「どこにいるのかもわからないってことですか?」
わたしは小さくこくりと頷いた。
「他のアイドルには、まゆちゃんに伝えなきゃいけないことがあるから見かけたり連絡取れたりしたら、事務所の方に連絡して、っていったんですけど……」
結果はなし。
凛「プロデューサー、まゆの携帯の番号知ってたでしょ、一度かけてみなよ」
P「ああ、そうだな……」
ポケットから取り出した携帯を操作して、耳に当てるPさん。わたしはその電話に、まゆちゃんが出ることを期待していた。
P「もしもし、まゆか?」
出た! わたしの心臓が、大きく跳ね上がる。
P「ん……ああ、すまん、少し電波が遠い。ちょっと移動してくれないか……ああ、そこでいい。それで、仕事のことだが……」
怒ることもなく、淡々と、まゆちゃんに質問を重ねていく。それも、詰問ではない、優しい語り。それでも、まゆちゃんはまったく聞く耳を持っていないようだった。
杏「で……どうだったの? まあ、聞いてたらわかったけどさ」
P「ああ……」
P「結局何も話してくれなかったよ。346をやめますって、そればっかだった」
凛「プロデューサーの説得も駄目なんて……」
P「当たり前だろ」
そのPさんの声が、やけに厳しい。普段とはまるで様子の違うPさんに少し驚いたのか、凛ちゃんは視線を落とした。
P「でも、ほんの少しわかったことがある。ちょっとでかけるよ」
凛「出かけるって……」
P「765プロ。まゆは今、そこのアイドルの近くにいるはずだ。電話の向こう側は、どこかの撮影現場だった。そこで、まゆのすぐ後ろで765のアイドル……星井美希の声がした」
P「今から765プロへ行って、星井美希のいる現場を突き止める」
「わ、わたしも行きます!」
Pさんが、わたしを見る。その、何の感情もはらんでいない目が、わたしを射抜いた。
P「当たり前でしょう」
杏「プロデューサー、怒ってるの? らしくないよ」
P「怒ってなんかないぞ。でもな、責任ってやつが大人にはあるんだ」
P「さあ、行きましょう、ちひろさん」
P「ああ……」
P「結局何も話してくれなかったよ。346をやめますって、そればっかだった」
凛「プロデューサーの説得も駄目なんて……」
P「当たり前だろ」
そのPさんの声が、やけに厳しい。普段とはまるで様子の違うPさんに少し驚いたのか、凛ちゃんは視線を落とした。
P「でも、ほんの少しわかったことがある。ちょっとでかけるよ」
凛「出かけるって……」
P「765プロ。まゆは今、そこのアイドルの近くにいるはずだ。電話の向こう側は、どこかの撮影現場だった。そこで、まゆのすぐ後ろで765のアイドル……星井美希の声がした」
P「今から765プロへ行って、星井美希のいる現場を突き止める」
「わ、わたしも行きます!」
Pさんが、わたしを見る。その、何の感情もはらんでいない目が、わたしを射抜いた。
P「当たり前でしょう」
杏「プロデューサー、怒ってるの? らしくないよ」
P「怒ってなんかないぞ。でもな、責任ってやつが大人にはあるんだ」
P「さあ、行きましょう、ちひろさん」
車の中で、Pさんはずっと黙ったままだった。
「あの、Pさん……本当に、ごめんなさい」
P「謝る相手は俺じゃないです。とりあえず今は、まゆと話をすることです」
「Pさんは、……その、変だと思いませんでしたか。まゆちゃんの反応」
P「……」
Pさんは、ほんの少し遠い目をしたあと、ぽつりとつぶやいた。
P「まゆも言ってたでしょう。俺は代用品なんですよ」
「代用品……」
「なんの、ですか」
P「……もうすぐ着きますよ」
Pさんは、私の質問に気付いていないふりをして、車の速度を緩めた。
「……アポなしで他の事務所に伺うのって、どうなんでしょう」
P「俺の先輩がここで働いてます。どうにかして星井美希の居場所を教えてもらいます」
「先輩って……もしかして、業界でもかなりの噂の敏腕プロデューサー、ですか?」
P「ええ」
346の社屋よりも、ずっと小さいこの雑居ビル。
それの前に立つと、どうしてだかとてつもないプレッシャーを感じた。
P「……どこから入ればいいんでしょうね」
?「あ、あのー……」
?「もしかして、765プロに御用でしょうか?」
P「ん……? ああ、あなたは、天海春香さん。ご活躍、テレビなどで拝見しています」
春香「え、あ、はい! えへへ、ありがとうございます」
ライバル企業として目を光らせている、ということなのだろうが、こちらを知らない春香ちゃんはそう照れくさそうに笑った。
春香「ところで……御用でしたら、こちらからどうぞ」
P「ああ、ありがとう」
―――
――
―
?「あ、あのー……」
?「もしかして、765プロに御用でしょうか?」
P「ん……? ああ、あなたは、天海春香さん。ご活躍、テレビなどで拝見しています」
春香「え、あ、はい! えへへ、ありがとうございます」
ライバル企業として目を光らせている、ということなのだろうが、こちらを知らない春香ちゃんはそう照れくさそうに笑った。
春香「ところで……御用でしたら、こちらからどうぞ」
P「ああ、ありがとう」
―――
――
―
765プロの事務所の中はとても狭く、でもどこかぬくもりのある場所だった。
春香「ただいまー、小鳥さん」
小鳥「あら、春香ちゃん。早かったのね……ってピヨ!?」
P「突然すみません、私、こういう者です」
Pさんを見るなり奇声を上げて固まった事務員の――小鳥さん?に、Pさんは名刺を差し出した。
小鳥「ぇえと……346プロの方!」
P「ええ、アポも取らずに申し訳ございません」
春香「346プロの……もしかして、プロデューサーさん、ですか?」
P「はい。紹介が遅れました、346のアイドル部門でプロデューサーをさせていただいている、Pと申します」
春香「そ、そうだったんですか……」
「わ、わたしのほうは、同じく346にて事務員をさせていただいております、千川ちひろと申します」
小鳥「た、大したおもてなしもできませんが、よろしければこちらに――」
?「ただいま戻りましたー」
小鳥さん、が引き攣った表情で案内をしてくれるのと同時に、男性の声が事務所に響く。
春香「ただいまー、小鳥さん」
小鳥「あら、春香ちゃん。早かったのね……ってピヨ!?」
P「突然すみません、私、こういう者です」
Pさんを見るなり奇声を上げて固まった事務員の――小鳥さん?に、Pさんは名刺を差し出した。
小鳥「ぇえと……346プロの方!」
P「ええ、アポも取らずに申し訳ございません」
春香「346プロの……もしかして、プロデューサーさん、ですか?」
P「はい。紹介が遅れました、346のアイドル部門でプロデューサーをさせていただいている、Pと申します」
春香「そ、そうだったんですか……」
「わ、わたしのほうは、同じく346にて事務員をさせていただいております、千川ちひろと申します」
小鳥「た、大したおもてなしもできませんが、よろしければこちらに――」
?「ただいま戻りましたー」
小鳥さん、が引き攣った表情で案内をしてくれるのと同時に、男性の声が事務所に響く。
小鳥「プロデューサーさん!」
P「……本命が帰ってきたようですね」
765P「どうしたんですか小鳥さん、そんな血相変えて……って、P!? どうしてお前がここにいるんだよ!?」
P「お久しぶりです、先輩。今日は少し、お尋ねしたいことがありまして」
彼はPさんの落ち着いた声で冷静さを取り戻したのか、ぎこちない笑みを浮かべながらPさんの前のソファに座り込んだ。
P「……本命が帰ってきたようですね」
765P「どうしたんですか小鳥さん、そんな血相変えて……って、P!? どうしてお前がここにいるんだよ!?」
P「お久しぶりです、先輩。今日は少し、お尋ねしたいことがありまして」
彼はPさんの落ち着いた声で冷静さを取り戻したのか、ぎこちない笑みを浮かべながらPさんの前のソファに座り込んだ。
765P「で、訊きたいことって?」
P「今日は、星井美希の付き添いですか?」
765P「ん? ああ、今日は千早の……如月千早のレコーディングだよ。美希のほうは律……もうひとりのプロデューサーの方に頼んである。どうしたんだよ、藪から棒に?」
P「うちのアイドルが、今日、星井美希の行っている現場に逃げ込んだみたいなんですよ。で、とりあえず確保したくてその、今日の仕事先を訊きに来ました」
765P「逃げ出したって……仕事は大丈夫なのか?」
P「ええ。今日は偶然全員オフでしたから。ただ、早く見つけたいとは思っています」
765P「そうか、まあそうだよな。うちにもたまに行方不明に……っていうか迷子になる人がいるし」
765P「美希の仕事先を教えるのは別に構わないが、多分その子は美希と一緒には行動してないぞ?」
P「構いませんよ。足跡を追いたいだけです」
765P「……そういうところは、全く変わってないな」
そう呟いて、765のPさんはメモ用紙に何かを書きつけてPさんに手渡す。
二人の間には、友情のような、でももっと反発的な、そんな空気が垣間見えた。
P「今日は、星井美希の付き添いですか?」
765P「ん? ああ、今日は千早の……如月千早のレコーディングだよ。美希のほうは律……もうひとりのプロデューサーの方に頼んである。どうしたんだよ、藪から棒に?」
P「うちのアイドルが、今日、星井美希の行っている現場に逃げ込んだみたいなんですよ。で、とりあえず確保したくてその、今日の仕事先を訊きに来ました」
765P「逃げ出したって……仕事は大丈夫なのか?」
P「ええ。今日は偶然全員オフでしたから。ただ、早く見つけたいとは思っています」
765P「そうか、まあそうだよな。うちにもたまに行方不明に……っていうか迷子になる人がいるし」
765P「美希の仕事先を教えるのは別に構わないが、多分その子は美希と一緒には行動してないぞ?」
P「構いませんよ。足跡を追いたいだけです」
765P「……そういうところは、全く変わってないな」
そう呟いて、765のPさんはメモ用紙に何かを書きつけてPさんに手渡す。
二人の間には、友情のような、でももっと反発的な、そんな空気が垣間見えた。
765P「……そうだ。突然の訪問と、美希の居場所をおねだりにきたのを許してやる代わりに……そこの事務員さん、千川さんを少しお借りしても?」
P「構いませんよ」
何を勝手に決めてるんですか、という言葉を必死に飲み込む。
P「先輩がうちの事務員と話してる間、自分は天海春香さんをお借りします」
765P「それじゃあ貸し借りチャラになんないだろ」
P「三回生の時の六月十四日、先輩にジュースを奢ったじゃないですか」
765P「ほんと、嫌な奴だよ……でも、春香と何を話すんだ?」
P「そりゃあ決まってるじゃないですか。うちのアイドル……佐久間まゆのことを訊くんです。何か知ってますよね?」
Pさんに見つめられた春香ちゃんが、蛇に睨まれた蛙のように縮みあがる。
それを見た765Pさんは、微かに首を横に振って、わたしの手を引いた。
765P「社長室の方へ。少し、お話したいことが――お話しなければならないことがあります」
……わたしが空っぽの社長室に連れ込まれる寸前、トリップしたような表情を浮かべる小鳥事務員が見えた。
P「構いませんよ」
何を勝手に決めてるんですか、という言葉を必死に飲み込む。
P「先輩がうちの事務員と話してる間、自分は天海春香さんをお借りします」
765P「それじゃあ貸し借りチャラになんないだろ」
P「三回生の時の六月十四日、先輩にジュースを奢ったじゃないですか」
765P「ほんと、嫌な奴だよ……でも、春香と何を話すんだ?」
P「そりゃあ決まってるじゃないですか。うちのアイドル……佐久間まゆのことを訊くんです。何か知ってますよね?」
Pさんに見つめられた春香ちゃんが、蛇に睨まれた蛙のように縮みあがる。
それを見た765Pさんは、微かに首を横に振って、わたしの手を引いた。
765P「社長室の方へ。少し、お話したいことが――お話しなければならないことがあります」
……わたしが空っぽの社長室に連れ込まれる寸前、トリップしたような表情を浮かべる小鳥事務員が見えた。
765P「手荒なことをしてすみません。どうしても、お聞きしたいことがありまして」
「い、いえ、お気になさらず。それで、お話というのは」
765P「Pのことです。アイドルが逃げ出した、というのは、本当ですか」
「はい……恥ずかしながら、わたしの責任なんです」
765P「あなたの? 彼女は、Pから逃げ出したのではないのですか」
「いえ、完全にわたしがきっかけだと思いますが……」
765P「……うちのアイドル、天海春香が、そちらの佐久間まゆさんと何らかの話をしたのは事実です。Pが気付いていた通りです」
「では、居場所の方も……!」
765P「ええ。把握しています。佐久間さんはうちの事務所に駆け込んだあと、必死な声で春香を呼び出しました――全く面識のない、春香を。ただならぬ様子だったので、通しました。それで、この社長室でしばらく話し込んだ彼女は、二日後……すなわち今日、美希の仕事があることを確認して、同行させてほしいと頼み込んできました。仕事もないので、どうかお願いしますと」
「い、いえ、お気になさらず。それで、お話というのは」
765P「Pのことです。アイドルが逃げ出した、というのは、本当ですか」
「はい……恥ずかしながら、わたしの責任なんです」
765P「あなたの? 彼女は、Pから逃げ出したのではないのですか」
「いえ、完全にわたしがきっかけだと思いますが……」
765P「……うちのアイドル、天海春香が、そちらの佐久間まゆさんと何らかの話をしたのは事実です。Pが気付いていた通りです」
「では、居場所の方も……!」
765P「ええ。把握しています。佐久間さんはうちの事務所に駆け込んだあと、必死な声で春香を呼び出しました――全く面識のない、春香を。ただならぬ様子だったので、通しました。それで、この社長室でしばらく話し込んだ彼女は、二日後……すなわち今日、美希の仕事があることを確認して、同行させてほしいと頼み込んできました。仕事もないので、どうかお願いしますと」
「それは……申し訳ございません」
765P「いえ。俺も勝手に了承しましたしね。彼女の動きですが、恐らくこの後は春香の家に行くと思います。今までもそうだったようですし」
「なるほど、では今日、春香ちゃんの家にお邪魔しても……?」
765P「いや、それはダメです。多分手遅れです。春香は恐らく、あなた達が帰ったあと彼女に連絡をするでしょう。そうなれば、きっと彼女はそこを出ていく。もうあなた達は後手に回ってしまっています」
「そんな……なんとか阻止できませんか」
765P「できる限りの努力はしたい、と言いたいところなんですが。俺には、まゆさんは何かから逃げているように見えたんです」
どくん。
わたしの心臓が大きく脈打った。
765P「いえ。俺も勝手に了承しましたしね。彼女の動きですが、恐らくこの後は春香の家に行くと思います。今までもそうだったようですし」
「なるほど、では今日、春香ちゃんの家にお邪魔しても……?」
765P「いや、それはダメです。多分手遅れです。春香は恐らく、あなた達が帰ったあと彼女に連絡をするでしょう。そうなれば、きっと彼女はそこを出ていく。もうあなた達は後手に回ってしまっています」
「そんな……なんとか阻止できませんか」
765P「できる限りの努力はしたい、と言いたいところなんですが。俺には、まゆさんは何かから逃げているように見えたんです」
どくん。
わたしの心臓が大きく脈打った。
765P「……一応お聞きします、Pの奴は、きちんとプロデューサーをやれていますか? アイドルから信頼されていますか?」
「ええ、とても仲が良く、家族みたいに毎日過ごしています」
765P「では、その明るいPの姿と今のあいつの姿に、矛盾はないですか?」
「…………いえ」
765P「俺は、学生時代のあいつのことを知っています。俺は社長にスカウトされてプロデューサーになった身ですが、あいつは学生時代からアイドルにとても興味を持ってました」
学生時代……まったく想像もつかない。
765P「あいつは言っていました――俺は、アイドルのことが大好きだと」
「Pさんらしいです」
微笑むわたしを尻目に、彼はなおもPさんの言葉を再現する。
765P「だから俺は知りたい。アイドルという存在そのものを。知り尽くして、研究し尽くして、高みを望んで――」
「ええ、とても仲が良く、家族みたいに毎日過ごしています」
765P「では、その明るいPの姿と今のあいつの姿に、矛盾はないですか?」
「…………いえ」
765P「俺は、学生時代のあいつのことを知っています。俺は社長にスカウトされてプロデューサーになった身ですが、あいつは学生時代からアイドルにとても興味を持ってました」
学生時代……まったく想像もつかない。
765P「あいつは言っていました――俺は、アイドルのことが大好きだと」
「Pさんらしいです」
微笑むわたしを尻目に、彼はなおもPさんの言葉を再現する。
765P「だから俺は知りたい。アイドルという存在そのものを。知り尽くして、研究し尽くして、高みを望んで――」
息が、詰まる。
765P「……彼女が逃げてきたとき、俺は、Pが遂に何かをやらかしたのかと疑いました。心配が本当にならなくて、本当に良かったです」
765P「ですが、気をつけていてください。あいつはそういう奴です。Pの本質は多分、いまだに変わっていない。Pは何かを奪おうとしている」
「そんなふうには、まるで、見えなくてもですか」
765P「あいつは、錯覚させるのがうまい。相手にとって都合のよい人間になるのがとてもうまい。Pはとても敏い。人のことを、あまりによく見すぎている。だから、何を悩んでいるのかもわかるし、わかってしまう」
「……わかる気がします。でも多分、Pさんはそれに気付いていないんですよね」
765P「いえ、気付いていると思いますよ。言ったでしょう。彼は、錯覚させるのがうまいって。学生時代もそうでした。その優しさに惹かれた人が何人もいた。でもね。そう長くは続かなかった。どうしてかはわかりません。皆が、不幸になったと嘆いた。彼の優しさが、不幸だと泣いた。そしてその優しさが、人を二人――いえ、やめましょう」
765P「とにかく俺が言いたいことは――Pの奴は、なにかとんでもない思惑を腹の底に秘めています。そのことを、知っておいてください」
わたしの背筋を、冷たい汗が滑り落ちた。
いつも見ているPさん。笑って、わたしと一緒にいろんな仕事をやってきたPさん。
わたしの目に映っていた景色と、Pさんが見ていた景色は、果たして同じだったのだろうか。
同じ光景を見て、笑えていたのだろうか。
同じ光景を見て、泣けていたのだろうか。
「わたしからも、ひとつ。あなたは……Pさんの、何なんですか?」
「……わかる気がします。でも多分、Pさんはそれに気付いていないんですよね」
765P「いえ、気付いていると思いますよ。言ったでしょう。彼は、錯覚させるのがうまいって。学生時代もそうでした。その優しさに惹かれた人が何人もいた。でもね。そう長くは続かなかった。どうしてかはわかりません。皆が、不幸になったと嘆いた。彼の優しさが、不幸だと泣いた。そしてその優しさが、人を二人――いえ、やめましょう」
765P「とにかく俺が言いたいことは――Pの奴は、なにかとんでもない思惑を腹の底に秘めています。そのことを、知っておいてください」
わたしの背筋を、冷たい汗が滑り落ちた。
いつも見ているPさん。笑って、わたしと一緒にいろんな仕事をやってきたPさん。
わたしの目に映っていた景色と、Pさんが見ていた景色は、果たして同じだったのだろうか。
同じ光景を見て、笑えていたのだろうか。
同じ光景を見て、泣けていたのだろうか。
「わたしからも、ひとつ。あなたは……Pさんの、何なんですか?」
765P「俺、ですか? 俺にとってあいつは、何を考えているのかわからない、どうしようもないほどに可愛い後輩です。でもPにとっての俺は……歯止めであってほしいと、願っています」
ありがとうございます、と礼を言ってわたしは社長室を出た。彼の視線が、わたしの無防備な背中を襲う。
いや、視線ではないか。形容しがたい恐怖だ。
彼が紡ぐことを躊躇った言葉。
その優しさが、人を二人――その言葉の先は、なに?
知っているような、知らないような、或いは知りたくないような。
それはきっと、知ってはならない、一人の人間の過去なのだろう。
いや、視線ではないか。形容しがたい恐怖だ。
彼が紡ぐことを躊躇った言葉。
その優しさが、人を二人――その言葉の先は、なに?
知っているような、知らないような、或いは知りたくないような。
それはきっと、知ってはならない、一人の人間の過去なのだろう。
P「……あれ、お話は終わったんですか、先輩」
765P「ああ終わったよ。有意義な時間だった」
P「こっちのほうも、それなりに話は聞けましたし……そろそろお暇しますか」
Pさんがソファから立ち上がった、その瞬間。
春香「あっ、あの!」
春香ちゃんが、Pさんを呼び止めた。
春香「……まゆちゃんだって、女の子なんです。きっと、誰かからの言葉が必要なんです」
春香「だから、……その、」
P「言いたいことはよくわかるよ」
P「でもその誰かは、俺じゃない」
そう吐き捨てたPさんは、765プロの扉に手をかけた。
P「それでは、今日は失礼しました。また、一緒にお仕事ができればと思います」
「し、失礼します……」
ドアの閉まる刹那、765のPさんの目が光った。
Pに気を付けろ。その目は、確かにそう語っていたような気がする。
765P「ああ終わったよ。有意義な時間だった」
P「こっちのほうも、それなりに話は聞けましたし……そろそろお暇しますか」
Pさんがソファから立ち上がった、その瞬間。
春香「あっ、あの!」
春香ちゃんが、Pさんを呼び止めた。
春香「……まゆちゃんだって、女の子なんです。きっと、誰かからの言葉が必要なんです」
春香「だから、……その、」
P「言いたいことはよくわかるよ」
P「でもその誰かは、俺じゃない」
そう吐き捨てたPさんは、765プロの扉に手をかけた。
P「それでは、今日は失礼しました。また、一緒にお仕事ができればと思います」
「し、失礼します……」
ドアの閉まる刹那、765のPさんの目が光った。
Pに気を付けろ。その目は、確かにそう語っていたような気がする。
P「社長室で、何を話していたんですか?」
車の中で、Pさんは不意にそう切り出した。やはり、気になるのだろうか。
「え……っ? その……まゆちゃんがこうなった経緯、などを」
P「なるほど、そうですか」
「あの、Pさん……Pさんには今回の事態、どのように映っているんですか?」
P「まゆは、何かを隠していた。腹の底で蠢く何かを。必死になって隠し続けてきたそれが、遂に白日の下に晒されてしまった。佐久間まゆという自我を崩壊させかねないその事実を知られたからには、自分は346を離れるしかない――こんな感じでしょうか」
「……どうしたら、まゆちゃんは戻ってきてくれるでしょうか」
P「難しい質問ですね。それだけにとても重要なことだ」
P「佐久間まゆの秘密――それを、認めること。もう隠さなくても良いのだと彼女が安心できること。そうしてやれば、まゆはもう一度、笑顔でステージに立ってくれるでしょうか」
「佐久間まゆの、秘密――……それって、いったい何なんですか?」
P「ちひろさんは、俺が気付いていると?」
「ええ。Pさんは、アイドルのことをとてもよく見ていますから」
P「買いかぶりすぎですよ」
P「そうですね。まゆは、アイドルをとても楽しんでいた。まず、このことは間違いないんです。嘘じゃない」
P「彼女が見せた綻びから攻めていけば、一番に突き当たるのは、俺のことを代用品だと言ったことですね。ちひろさんは、何の代用品だと思います?」
「……他に替えのきく、消耗品的な言葉で言ったのだと思いました」
P「なるほど。でも、多分間違いです。まゆは恐らく、俺のことをファンの代用品だと思っていたんだと思います。顔の見えないファン。無数の人間達。それを繋ぎ止めるのが、俺の役目です。漠然としたファン達の象徴、それが俺なんだと」
車の中で、Pさんは不意にそう切り出した。やはり、気になるのだろうか。
「え……っ? その……まゆちゃんがこうなった経緯、などを」
P「なるほど、そうですか」
「あの、Pさん……Pさんには今回の事態、どのように映っているんですか?」
P「まゆは、何かを隠していた。腹の底で蠢く何かを。必死になって隠し続けてきたそれが、遂に白日の下に晒されてしまった。佐久間まゆという自我を崩壊させかねないその事実を知られたからには、自分は346を離れるしかない――こんな感じでしょうか」
「……どうしたら、まゆちゃんは戻ってきてくれるでしょうか」
P「難しい質問ですね。それだけにとても重要なことだ」
P「佐久間まゆの秘密――それを、認めること。もう隠さなくても良いのだと彼女が安心できること。そうしてやれば、まゆはもう一度、笑顔でステージに立ってくれるでしょうか」
「佐久間まゆの、秘密――……それって、いったい何なんですか?」
P「ちひろさんは、俺が気付いていると?」
「ええ。Pさんは、アイドルのことをとてもよく見ていますから」
P「買いかぶりすぎですよ」
P「そうですね。まゆは、アイドルをとても楽しんでいた。まず、このことは間違いないんです。嘘じゃない」
P「彼女が見せた綻びから攻めていけば、一番に突き当たるのは、俺のことを代用品だと言ったことですね。ちひろさんは、何の代用品だと思います?」
「……他に替えのきく、消耗品的な言葉で言ったのだと思いました」
P「なるほど。でも、多分間違いです。まゆは恐らく、俺のことをファンの代用品だと思っていたんだと思います。顔の見えないファン。無数の人間達。それを繋ぎ止めるのが、俺の役目です。漠然としたファン達の象徴、それが俺なんだと」
>>35の部分でちひろの頭の中のPにノイズが走ったように感じた
……腑に落ちない。
なんだか、そんなことを考えるまゆちゃんを想像できない。
まゆちゃんはいつだって、Pさんのことを追いかけていた。
車に忍び込んだり、鞄の中にGPSを入れたり、勝手に家の合鍵を作ったり……彼女の行動は、Pさんを個人として見ていたはずなのに。
P「釈然としない顔をしてますね。まあ無理もないでしょう。俺自身、結論を出せずにいますからね。スケジュールを確認してみたところ、まゆの次の仕事は四日後。なんとかできるとは思います」
「Pさん、事務所に戻るんですか?」
P「ええ。まゆは天海春香の家にいるんでしょう。彼女から聞きました。俺がそこに行かないことを条件に、まゆの安全と位置を確保してもらいました。佐久間まゆを、手放すわけにはいかない」
わたしは、ぞっとした。
……Pさんがまゆちゃんの名前を呼んだ時のその声が、とても冷たかったから。
なんだか、そんなことを考えるまゆちゃんを想像できない。
まゆちゃんはいつだって、Pさんのことを追いかけていた。
車に忍び込んだり、鞄の中にGPSを入れたり、勝手に家の合鍵を作ったり……彼女の行動は、Pさんを個人として見ていたはずなのに。
P「釈然としない顔をしてますね。まあ無理もないでしょう。俺自身、結論を出せずにいますからね。スケジュールを確認してみたところ、まゆの次の仕事は四日後。なんとかできるとは思います」
「Pさん、事務所に戻るんですか?」
P「ええ。まゆは天海春香の家にいるんでしょう。彼女から聞きました。俺がそこに行かないことを条件に、まゆの安全と位置を確保してもらいました。佐久間まゆを、手放すわけにはいかない」
わたしは、ぞっとした。
……Pさんがまゆちゃんの名前を呼んだ時のその声が、とても冷たかったから。
会社の中に入ってから事務所の扉を開けるまで、わたしとPさんの間に会話らしい会話はなかった。
ときどき盗み見た彼の横顔には、焦りも、悲哀も、何も湛えられてはいない。
P「ただいま」
凛「プロデューサー! まゆは見つかった?」
P「どこにいるのかはわかったよ。何も心配はいらない」
杏「へええ、どこにいるの?」
P「天海春香の家だよ」
卯月「春香ちゃんの!? あの、トップアイドルの……ぁ、」
P「ん、どうかしたか、卯月」
卯月「ああ、いえ……そういえば前にまゆちゃんとおしゃべりしてた時に、春香ちゃんの話になったなぁって思って」
杏「なになに、どんな話?」
卯月「まゆちゃん、言ってたんです。天海春香ちゃんは、なんだかまゆにとっても似ているような気がします、って」
P「……そのことか。さっき天海春香と喋ってきたよ。彼女も同じことを言ってた。似てるって言われたって。まあ天海春香本人は、何が似てるのか全く分からなかったみたいだが」
凛「まゆ……不憫な子……」
P「似てる……か」
「どうか、しましたか」
P「いえ、少し思うところがありまして。……すみませんがちひろさん、今日は俺、帰らせてもらいます」
「えっ」
淡々と言いたいことを告げたPさんは、わたしの返事を待たずにすぐに鞄を持って事務所を出ていってしまった。
その、瞬間だった。机上の電話が鳴る。
「はい、346プロ……」
『ああ、どうも。765Pです』
「先ほどは失礼いたしました……Pさんはたった今帰ったのですが」
『構いません。お伝えしたいことがあります。佐久間まゆさんが、春香の家から失踪しました』
「それは本当ですか」
『ええ。間違いありません。非常に申し訳ない』
「いえ……」
『明日になれば、捜索願を出したほうがいいかもしれません。彼女の実家の方にも帰っていない、のなら』
まゆちゃんの、実家。確か仙台にあったはずだ。
「あとで確認してみます」
『それから、Pのことですが。俺は、佐久間さんの行方を探すのと同時に、あいつのことを調べたほうがいいとも思っています』
「Pさんを、ですか」
『ええ。俺は確かにあいつと学生時代からの付き合いですが、それ以前の奴を俺は知りません。Pの言葉――アイドルから全てを奪う。もしも佐久間さんが無事に見つかったとして……Pは佐久間さんから大切な何かを、奪ってしまうかもしれない』
わたしはパソコンを操作し、Pさんの履歴書の写しを表示する。右上の方に、微笑むこともなく堅苦しく映っているPさんが、全くの他人に見えた。
「……ああ、」
書き記された彼の住所。それを調べてわたしは思わず呻く。
「Pさんの、住所……全くのでたらめじゃないですか」
『それで今まで、よく隠し通せてこれましたね。大方会社からの通達なんかは、会社経由にしてたんでしょう……そこまでして居場所を隠そうとしてたなんて、Pはまた何か――』
765Pさんはそこで不自然に言葉を切った。
その沈黙に耐えかねて、わたしは遂に口を開いた。
「……あの。Pさんは、人を殺したんですか?」
「はい、346プロ……」
『ああ、どうも。765Pです』
「先ほどは失礼いたしました……Pさんはたった今帰ったのですが」
『構いません。お伝えしたいことがあります。佐久間まゆさんが、春香の家から失踪しました』
「それは本当ですか」
『ええ。間違いありません。非常に申し訳ない』
「いえ……」
『明日になれば、捜索願を出したほうがいいかもしれません。彼女の実家の方にも帰っていない、のなら』
まゆちゃんの、実家。確か仙台にあったはずだ。
「あとで確認してみます」
『それから、Pのことですが。俺は、佐久間さんの行方を探すのと同時に、あいつのことを調べたほうがいいとも思っています』
「Pさんを、ですか」
『ええ。俺は確かにあいつと学生時代からの付き合いですが、それ以前の奴を俺は知りません。Pの言葉――アイドルから全てを奪う。もしも佐久間さんが無事に見つかったとして……Pは佐久間さんから大切な何かを、奪ってしまうかもしれない』
わたしはパソコンを操作し、Pさんの履歴書の写しを表示する。右上の方に、微笑むこともなく堅苦しく映っているPさんが、全くの他人に見えた。
「……ああ、」
書き記された彼の住所。それを調べてわたしは思わず呻く。
「Pさんの、住所……全くのでたらめじゃないですか」
『それで今まで、よく隠し通せてこれましたね。大方会社からの通達なんかは、会社経由にしてたんでしょう……そこまでして居場所を隠そうとしてたなんて、Pはまた何か――』
765Pさんはそこで不自然に言葉を切った。
その沈黙に耐えかねて、わたしは遂に口を開いた。
「……あの。Pさんは、人を殺したんですか?」
昔765Pのこう言う作風なSS見たな
なんか闇がある感じが楽しくなる
なんか闇がある感じが楽しくなる
>>45
タイトルは思い出せないが黒井社長に珈琲豆を使いうまく操って殺ったり高木社長も間接的に殺ったりして最後は社長の座に見事ついて貴音釘刺された感じのやつかな?
タイトルは思い出せないが黒井社長に珈琲豆を使いうまく操って殺ったり高木社長も間接的に殺ったりして最後は社長の座に見事ついて貴音釘刺された感じのやつかな?
わたしの背後で、三人が息を呑む音が聞こえた。
電話の向こう側の、雑音が痛い。
凛ちゃんが電話のスピーカーホンのボタンを押す。
『……ええ。奴は大学生時代、付き合っていた女性を二人、自殺に追い込みました』
電話の向こう側の、雑音が痛い。
凛ちゃんが電話のスピーカーホンのボタンを押す。
『……ええ。奴は大学生時代、付き合っていた女性を二人、自殺に追い込みました』
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