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元スレ扶桑「私たちに、沈めとおっしゃるのですか?」 提督「そうだ」
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投稿するつってんのにしなかったらそりゃ文句も出るわな。それを無視するというのはさすがに傲慢でしょ。
敵に背を向けての逃走ほど、屈辱的なものは無い。
作戦上、致し方ないものなのかもしれない。しかし、それでも、だ。
逃げるように走る自分達の姿が、あまりにも惨めで。
強く唇を噛み、悔しさを押し殺し、敵の手に落ちる島を見もせずに走る。
あと、2つ。
扶桑、山城が掴む鎮守府全員から託された命綱は、あと2つ。
はぁ、はぁ、と乱れた息を胸を押さえて整えようとする。
相手の目の前の海面に何発も砲弾を撃ち込み、水柱を立てることで相手の視界を奪い、撤退。
弾薬をかなり消耗するが、撤退し体勢を立て直すには致し方ないと割り切る。
ほとんど無傷の扶桑と、傷を負った山城。
2人の役割をみれば、この結果は必然なものでもある。
山城が敵の攻撃を引き付けてくれているから、扶桑は傷を負わずにすんでいる。
負い目はある。妹に、こんな辛い役割を担わせることに対して扶桑は、自分が変わりに、と言い出したかった。
そもそも、自分がその役割を務めるつもりだった。
それを。山城のあの眼を見てしまっては、何も言えない。言うことは、できない。
山城が見せた、その覚悟を決めた眼に。一瞬狼狽え、そして少し、嬉しかった。
――あなたも、あんな眼ができるようになったのね……
そんな場合ではないというのに、思わず頬が緩んだ。
夜の鎮守府の静けさを破るように、駆け抜ける音が響く。
帰投したばかりで疲れもあるというのに、構うことなく彼女たちはそのペースを落とすことはしない。
反対に、目的地が見えると落とすどころか逆に心なしかさらに上げたようにも見えた。
結局、扉を開けるために少し止まっただけで、しかし部屋には勢いよく飛び込んだ。
「帰投したよっ、司令官!」
先頭を走っていた時雨が声を上げる。
その声とほぼ同時に、扶桑たちの護衛についていた西村艦隊のメンバーが雪崩れ込む。
薄暗い部屋に反して、努めて明るい声音が響く。
「ご苦労」
「司令官の指示通り、各諸島に燃料と弾薬の補給分を置いてきたよ。……微々たるものだけどね」
第2、3、4諸島に補給用として燃料と弾薬をそれぞれ設置。
撤退したとしても、これで少しだろうが回復をすることができる。
もっとも、鎮守府の貯蔵量、他海域への派遣部隊に持たせた分などもあるため、その量は微々たるものだ。
さらに言えば、補給できるのは燃料と弾薬のみであり、傷の手当てができるようなものは何もない。
戦闘で消費した燃料と弾薬は回復できても、擦り減った体力と、その身を襲う痛みを癒す手段はない。
「援軍は、後どれ位で到着しますか?」
「つい30分ほど前、北方海域から出撃した、との連絡が入った。……早くてもあと3時間といったところだな」
「3時間……」
だれかが、その長すぎる時間を呟いた。
敵の大群を、たった2人で、あと3時間も耐え凌がなければならない。
その壮絶さを想像して、改めて扶桑と山城が赴いた地獄を思い知る。
誰もが、拳を握りしめ、唇を噛みしめる。
だがしかし、誰もがその眼に、表情に、悲壮感はない。
其処にいるものの誰もが、信じていた。
扶桑と山城は、きっと勝つ。
根拠は、ない。
その絶望的なまでの戦力差にあって、99%敗北が決まっている状況において。
妄想の垂れ流しだとでも、夢物語だとでも、好きに言えばいい。笑いたい奴は笑えばいい。
それでも、誰もが勝利を疑わない。
扶桑と山城は、私たちの家族は、負けない。
血が流れ、弾が尽きようとも、彼女たちの心は折れないと。
そう信じているからこそ。その身を案じはすれども、結果は案じなどしない。
「あ、そうだ提督」
「なんだ?」
「間宮さんに料理作ってくれるよう、お願いしてもいい?」
その突然のお願いに、提督は意味が解せない、と頭に?を浮かべる。
そんな提督を見て、クスッと笑い、笑みを浮かべ、言う。
「祝勝会の準備さ」
ようやく全体の、3分の4ほどまで到達。
もっと早く終わる予定だったんだけどなぁ……
もっと早く終わる予定だったんだけどなぁ……
いつだっただろうか。
夕日に染まる美しい海を、ゆっくりと眺めていた。
優しく頬を撫でる風と、心落ち着く磯の香が、眺めるだけの時間に優雅ささえ感じさせた
。
この海を、少し沖に進めば、そこは激しい戦場となるのに。
その場だけは、穏やかに波音を立てる。
磯風に揺れる髪を押さえながら、隣に座る者が語る言葉に耳を傾けた。
それが楽しくて、思わずクスクスと笑いが漏れる。
子供のように無邪気な笑顔で、時に可笑しな冗談も交えながら。
この語らいの時間が、愛しく感じた。いつまでも、ずっとこの時間が続けばいいのに、と
。
――この海を、争いのない平和な海にしたいんだ……
男が語るその言葉に。
思わず、口をつぐんだ。
あれは、いつのことだっただろうか。
あの時、自分はいったい何を言いたかったのだろう。
あの時、自分はどんな眼で、彼を見ていたのだろう。
第二諸島の戦いも、戦況は深海棲艦の圧倒的な物量に終始押されていた。
敵の一斉射撃は、扶桑の反撃など意に介さず山城を次々と襲う。
流れ弾がたまに 扶桑の近くに着弾することもあるが気にする必要もない程度。
扶桑が攻撃を1発当てても、その何倍もの攻撃を山城が受ける。
敵を1体沈めても、山城の受けるダメージは着実に蓄積していく。
起死回生の一手など無く。
ただひたすら、攻撃が当たらないように祈り、動き続ける。
休むことすら許されず、体力も限界に近い。
もはや、気力で倒れることだけは避けているといってもいい。
だが、それだけだ。
動きは明らかに鈍っているし、砲弾が当たれば矢継ぎ早に何発も襲い掛かってくる。
その猛攻を受けて、ついに山城は膝をつく。
ゼイゼイ、と激しく肩を上下させ、痛みに身を、苦しさに心を震わせる。
辛い、痛い、もうダメだ、早く楽になりたい。
思わず、弱い心が口から出そうになる。
「山城っ!」
妹の名を呼ぶ扶桑の声には、焦燥も宿っていた。
しかし、最も強く感じられるのは、叱咤の激励。
何をしているの、と一見非情ともとれる扶桑の心。
しかし、泣き言など聞いている意味も時間もない。
ここで倒れたら、敗北は決定する。
そして、一度戦場に立つ覚悟を決めたならば、最後まで立ち続けなさい、立って、敵と向かい合いなさい。
言葉でなくとも伝わる姉の思いに、無理やり恐怖を押さえつけ、蓋を閉める。
「分かって……いますっ!」
ギンッと、より鋭さを増した眼光を、敵に向けフラフラと立ち上がる。
だが、さらなる絶望が、すぐに訪れた。
「――ぇっ?」
自分の真後ろから飛んできたと思われる攻撃の着弾に、扶桑は声を漏らす。
敵は、全て自分の眼前にある。真後ろから攻撃が来ることはないはずだ。
まさか、と思うと同時に、どこかで覚悟もしていた。
ギリッと歯ぎしりしながら振り向き、睨み付ける。
警戒はしていた。報告よりも数が少ない敵。楽観するならば、報告が間違えていたと言う捉え方で済んだ。
だが、物事はそう都合の良い方に進まないらしい。考え得る最悪の現実を扶桑はその眼で捉えた。
「……引きましょう」
これが相手の作戦だったのか。いや、深海凄艦は最初の扶桑たちによる奇襲に狼狽えていた。
反撃があるなどとは思わなかったはずだ。
となれば、何らかの事情でその一部を離脱させていたのか。
真偽は不明だ。しかし、そんなことはどうでもいい。
どちらにしても、扶桑と山城からすれば、その結果、現実がすべて。
戦艦2、軽巡3、駆逐艦10近く。
確認できた新たな敵影に、扶桑は撤退を選択せざるをえなかった。
上陸するその足取りが重いことは一目見て明らかであった。
必死で耐えて耐えて。食らいつき、少しずつだが敵戦力を削っていたところに。
まるで心をへし折るかのようなタイミングで現れた、新たな軍勢。
ギリギリだった。
山城のダメージは深刻なものではあるが、このペースでいけば若干の光が見えたかもしれない。
もともと、勝ち目など無かった戦。
それでも必死で前を見据えた。そうでないと、戦場に立つことすらできない。
しかし、前を見据えた眼も今は俯いてしまう。
食らいついて、しがみついて。どれだけ絶望的だとしても、心は強く持った。
その希望を、嘲笑うように踏む抜かれた。精神的なダメージは計り知れない。
特に山城が危険だ。
あれだけ傷を負って、痛みを、苦しみを、一身に背負って走り続けたのに。
なんて酷い仕打ちだろう。なんて救いのない現実だろう。
フラフラと、覚束ない足取りで歩く山城。
身体を動かしてきた気力が、もう尽きそうになり、まともに動ける状態ではなくなった。
必死で耐えて耐えて。食らいつき、少しずつだが敵戦力を削っていたところに。
まるで心をへし折るかのようなタイミングで現れた、新たな軍勢。
ギリギリだった。
山城のダメージは深刻なものではあるが、このペースでいけば若干の光が見えたかもしれない。
もともと、勝ち目など無かった戦。
それでも必死で前を見据えた。そうでないと、戦場に立つことすらできない。
しかし、前を見据えた眼も今は俯いてしまう。
食らいついて、しがみついて。どれだけ絶望的だとしても、心は強く持った。
その希望を、嘲笑うように踏む抜かれた。精神的なダメージは計り知れない。
特に山城が危険だ。
あれだけ傷を負って、痛みを、苦しみを、一身に背負って走り続けたのに。
なんて酷い仕打ちだろう。なんて救いのない現実だろう。
フラフラと、覚束ない足取りで歩く山城。
身体を動かしてきた気力が、もう尽きそうになり、まともに動ける状態ではなくなった。
一歩を踏み出すのに、こんなに力を使うのは初めての経験かもしれない。
立っていることが、こんなにも対r直を消耗することだとは思わなかった。
――もう……疲れた、な……
視界が霞む。
身体の感覚が掴めない。
痛みも感じなくなった。
私は立派に戦った。こんな勝ち目のない戦で、頑張った。
だから、もう、いいでしょう?
――もう、休んでも……いいわよね……?
もうあと少しで、意識が飛ぶ。
ほんの少し、体の力を抜くだけで、闇に意識をゆだねる。
楽になりたい、解放されたい。
苦しみ、痛みから逃げたい。
そんな誰もが思う、逃げの思考。
それを、愛する姉が許さない。
倒れかけた山城の腕を、がしっと掴み無理やり立たせる。
「まだよ、山城」
かけた言葉はそれだけ。
非情な言葉に、縋るような目を向ける。
「姉さま……」
もう、もういいじゃないですか。
これ以上、どうやって戦えというのか。
「その眼は、ダメよ。まだ、誇りを失ってはダメ」
「誇り……」
またか、と山城は心で呟く。
誇り。
言葉にしてみれば、これほど清々しく、綺麗で心躍る言葉もない。
だからこそ、山城は扶桑の言葉を聞いて、出撃を決意したのだ。
―――
「あなたは、残りなさい」
扶桑の口から出た言葉が、鋭く、深く、突き刺さった。
それは容赦ない切り捨ての言葉。
「今のあなたじゃ、居ても居なくても同じだから」
足手まといだ、と愛する姉に言われてショックじゃないわけがなかった。
その言葉、眼差しが、冷たく山城を射る。
「なんで、ですか……」
そう答えるしかなかった。
厳しい言葉に、冷たい視線に、耐えて。
しかし、内心そう言われることも仕方がないとさえ感じた。
姉の覚悟を知った。胸に秘めた熱い思いを、知ってしまった。
死を厭わず、皆を守る戦に出られることが幸いだと。
玉砕覚悟の無謀な作戦だと、無意味な死だと後世に伝えられてしまうかもしれない。
敵の罠に嵌ったがため、ヤケクソな特攻作戦で沈んでいった哀れな艦娘だ、と。
名誉も武勲も何もなく沈む、そんな可能性だってあるのに、いやむしろその可能性のほうが高いのに。
それが誉だという。
それが艦娘としての矜持だという。
一花咲かし、死に場所にこの海を選ぶことが。
戦う機会さえ与えられなかった自分が、最後に戦場に立つことができる。
それが、最悪の戦場であっても、だ。それだけの覚悟が、扶桑にはある。
対して自分はどうだ、と山城は自問する。
自分に、姉のような覚悟があったか、と。
皆を守るために、我が身を省みず勇んで行くことができるかと。
答えは明白で、悩む余地すらない。
姉は熱く静かに戦う意思を燃やしているというのに。
惨めに、メソメソと。
作戦内容を聞いて、死を背に受けてただ恐怖に身がすくんだ。
皆の、大好きな家族のために戦おうとすら思わずに。
13日から夏休みなんで今月中の完結を目指します。
今日もまだ少し更新予定です。
今日もまだ少し更新予定です。
「今のあなたには、誇りがないからよ」
「誇り……」
艦娘としての誇り。戦艦としての誇り。
海で戦うことへの誇り。愛する者のために力を振るう誇り。
誇り無き者に闘志は無い。
闘志無き者は戦場に不要。
そうと言わんばかりに容赦なく吐き捨てる。
今のままでは、海に出たとしても数秒の命。
何の役にも立てず、砲弾の1発も当てることなく沈むだろう。
そうなるならば、最初からいらない。自分1人で出撃したほうがましだ。
だからあなたは、ゆっくり陸で、休んでいなさい。
そんな皮肉が、心に響く。
「姉さまはっ……誇りのために、沈むというのですかっ」
「ええ」
必死で噛みついた、その言葉にさえ扶桑は迷わない。揺らがない。
ならっ、と歯軋りを鳴らし、睨み付ける。その眼は、懇願し訴えかける。
「その誇りは、どこから来るのですかっ!」
教えてほしい、と山城は思った。
そのあなたの強く静かな闘志、意思、覚悟。
それらの元となる誇りとやらは、いったいなんですか、と。
私にはないその強さは、一体、何を依代にしているのですか、と。
「簡単よ」
目を伏せ、風にたなびく綺麗な黒髪を気にも留めず、扶桑は即答する。
その顔には優しげな、嬉しげな微笑み。
「私の誇りは――」
続く言葉を聞いて、山城は息をのんだ。
自分はどうかしていたのではないか、と今更になって思ってしまう。
あんな、一時の感情の昂ぶりに身を任せてしまったのではないか。
姉の言葉に、誇りなどという言葉に勝手に心奪われ、自ら地獄へと足を踏み入れた。
自分に酔っていたのか、過酷な囮役まで引き受けて。
「不幸、だわ……」
「そうね……不幸、よね」
肩を貸す扶桑も同じように呟く。
忘れていた。自分たちが何と呼ばれて揶揄されてきたのかを。
馬鹿にされてきた欠陥戦艦が、粋がったところでできることは限られている。
それさえ忘れて、身の程を弁えずに。活躍できると、勝つことができると夢を見た。
だが所詮、できるのはみっともなく逃げ惑い時間を稼ぐことだけだ。
だからこそ、この戦に出撃してしまったことを恨んでしまう。
張りぼての気勢で囮役を担ったところで、所詮は張りぼてでしかない。
扶桑の心に触発され、自分も強くなれると思った。
たかだか、そんな短期間で変われるはずもないのに。
愚かな夢を見た。見てしまった。
強くなりたい、姉と同じ土俵に立ちたいと、願った。
「山城、逃げたい?」
「……はい」
扶桑の問いかけに、キュッと弱く姉の袖をつかむ。
そう、とその山城の手に自分のものを重ねる。
「私も、よ。怖くて怖くて、逃げ出してしまいたい」
「姉さま?」
山城に添えられた扶桑の手は微かに震えていて、それを抑え込めるかのように強く握る。
見上げた扶桑の顔は、眉が下がり唇を噛み、戦場で見せた凛々しい表情とは打って変わっていた。
「痛いのが怖くて、あなたを失うのが怖くて……早く終わってほしいのよ」
それは山城も同じだ。
攻撃が当たれば痛いし、走り続ければ肺が破裂しそうだ。
自分の死も怖いし、扶桑が沈むのも怖い。鎮守府の皆を守ることができないのも辛い。
あんなに、強いと思っていた扶桑が。
常に憧れの存在で、儚くも優しく、そして熱い。
そんな扶桑が、自分と同じように情けなく泣き言を言っている。
「……大丈夫、です。姉さま」
「……山城?」
愛する姉が、すごく強いのだと、ずっと思っていた。
だが、実は違った。扶桑も、実のところ気勢を張っていただけなのだ。
なんだ、と。こんな時なのに小さく笑ってしまう。
――この人は、やっぱり私の姉さまだ……
「姉さまは、私が守ります」
「え……?」
抱き付くように、扶桑によりかかる。
「これからも、ずっと、私が……」
「ありがとう……ふふっ」
「どうしました?」
「ううん。これじゃ、山城がお姉さんみたい」
冗談交じりに笑う扶桑に、山城も答える。
「姉さまは、私の姉さまです」
「そうね」
優しく山城の頭を撫でる扶桑の手は優しく、心地よかった。
張りぼての気勢でも。穴だらけの覚悟でも。
こうやって、最愛の人と寄り添えるのなら、一緒に戦えるのならば。
「……見つけました」
「え? なに?」
なにもないです、と顔をうずめる。
――私の誇りを、今……
誉も、誇りも、強く持った者が勝ちだ。
心の奥底で恐怖が蔓延っていようとも、気勢を張り、それを外に出さず。
凛と、堂々と、振る舞っていれば。足が震えるのを隠せる。喉がカラカラに乾くのも誤魔化す。
最後に、こんな作戦だろうと出撃ができたことは本当にうれしかった。
海で沈むのなら、本望だと。
その言葉に嘘はない。
だが、しかし。
痛いものは痛い。怖いものは怖い。
絶望が襲い掛かる、死の恐怖が波のように押し寄せる。
それも、また本心だった。
皆のためだと、送り出してくれた提督のためだと。
そして、最後になるであろう戦闘で、恥のない終わりを迎えるためにも。
逃げ出すことだけは、出来なかった。
ずっと、その背中を見ていた。
大好きな家族と接するとき、その背中はさながら母親のごとく優しかった。
戦場を翔けて敵を屠るとき、その背中はさながら英雄のごとく頼もしかった。
愛する男と寄り添うとき、その背中はただの可憐な女性のそれで、幸せそうだった。
ずっと、その背中を見ていた。
いつか、いつかその背中に追いつけることを願って。
遥かな目標として、少しでも近づきたいと思って、手を伸ばし続けた。
その小さく、しかし大きな背中に、いったいどれだけのものを背負っているのだろうか。
その重さを知りたい。
その重さを背負って眺める景色を知りたい。
そしていつの日か、背中を眺めるだけで終わらず、隣に立って歩いてみたい。
その偉大すぎる背中に、存在に。
追いついて、自分も一緒に。
手を取り、助け合い、共に在りたいと……。
いつの日か、きっと……。
そんな日が来れば、と願った。
耳元で鳴り響く轟音に、もうすでに聴力がおかしくなっていた。
海水の飛沫と自らの血で視界もかすみ、蔓延する火薬の匂いで鼻も利かない。
足がもつれ、よろける。よろけて、膝をつき、容赦なく上から降り続ける鉄の雨。
それをその身ですべて受け止める。腕に、足に、背中に。
肉の焦げた匂いと、夥しく流れ出る血。しかし、既に痛みも感じなくなっていた。
衝撃を感じても、そういった感覚はすでに失われている。
立ち上がろうとしても、力が入らない。状況も分らない。
頭が真っ白になる。自分がどこにいるのかも分からなくなる。
呼吸がきちんとできているのか、それさえも分らない。
それでも、まだ生きている。まだ、戦える。
――姉さまは……あそこ、か……
右後方で今も必死に抵抗を続ける姉の姿を見て、安心したように小さく笑みを作る。
その姉の姿さえ、すでに朧げにしか見えていないというのに。
攻撃を受け続ける自分を見つめる眼差しが、どんな感情なのかも分からないというのに。
そこに、最愛の人がいる。
それだけで、山城は笑顔になれる。
不思議なことに、恐怖心など、いつの間にか消えていた。
共に在ると、戦うのだと。そう誓った、その想いは、もう揺るがない。
重い瞼を、無理やりこじ開ける。
視界は黒く染まるが、敵影だけははっきりと分かる。
ほとんど言うことを聞かない身体を気持ちだけで動かす。
ガクガクと足は震え、水面に吸い付いたように固まっている。
フラフラの身体で、ボロボロの身体で、それでも顔は前を向く。
砲弾が当たろうと、倒れない。倒れるものか、と歯を食いしばる。
霞む視界で敵を見据え、フラフラの砲塔で狙いを定める。
「舐めるんじゃ……ないわよっ」
自慢の主砲が火を噴く。その衝撃で、後ろに倒れそうになる。
砲弾の行方は分からない。それでもいい、と。少しでも多く、敵を沈める。
共に戦うと誓ったのだ。
扶桑の横で、同じように戦って見せる、と。
――姉さま……見つけましたよ
自分の近くで駆け回る扶桑の姿を思い、嬉しげに呟く。
「私の……誇り、を……」
この地獄で、いや、今までも戦えてこられた、理由を。
艦娘としての誇り。戦艦としての誇り。海で戦うことへの誇り。
それらすべて、胸に秘めた確かな思い。しかし、それは艦娘であれば誰でも持ち得る誇り。
山城の、自分自身の為の誇りではない。
山城を、山城たらしめる存在意義は、それとは別のものだ。
声に出さず、胸の奥底で明るく呟く。
――姉さまの家族として、戦えること……
扶桑の、その誇りから来る強さに憧れた。
扶桑の、時折見せる弱さに同調した。
強さも弱さも、全部ひっくるめて最愛の家族だ。
ただ、純粋に、凄いと思う。
これだけの地獄に、その誇りだけで踏み込める強さが。
絶望の中でも、決して揺るがず、前だけを見据える強さが。
山城は、その強さが羨ましく、そしてこんな凄い人の、ただ1人の妹なのだ。
世界一強い扶桑の、誰よりも近くで想いを共有し、ともに戦うことができる。
それが嬉しくて、こんなにも胸が熱くなる。
扶桑の隣で、ともに戦い、傷つき、笑い合う。
それだけで、十分戦うべき理由になる。堂々と立てる、誇りとなる。
その誇りを知ったからこそ、山城は笑える。
現状も忘れ、大好きな家族の笑顔を思い浮かべることができる。
――もう……何も見えないのに。聞こえないはず、なのに……
扶桑だけではない。満潮も、時雨も、最上も、朝雲も夕雲も。
皆の笑顔が、脳裏に焼き付く。皆の笑い声が、耳の奥に響く。
こんなにも温かい場所が他に、どこにあるというのだろう。
こんなにも幸せな居場所など、他に、考えられない。
その眼からは一筋の涙。
脳裏に焼き付いた幻想をそのままに、山城はもう何も見えない両目を開いて弱々しく、呟いた。
「帰り……ましょう、ねぇ、さま」
だから、思った。
思ってしまった。
「勝って……もう一度、あの場所にっ」
直後。
その日、一番の轟音が鳴り響いた。
――海は、気分屋だ。
あたりに鳴り響く轟音に、扶桑も思わず立ち止まり耳を塞いでしまう。
この戦闘でこれほど脳を揺さぶる轟音はなかった。
顔をしかめ、視界を閉ざしてしまう。しかし、其処はさすがと言っていいか。
その間はわずかに5秒にも満たない。すぐさま周囲を見渡し状況を確認する。
あたりは煙が立ち込め、月明かりも役には立たない。
耳を頼りに敵の鳴き声が聞こえる方へと身体を向け、砲塔を向ける。
そして、近くにいるはずの山城へと声をかける。
「山城! 無事!?」
――飄々と穏やかに見守ってくれていると思えば、突如怒りの矛先を向けてくる。
「……山城?」
帰ってくるはずの返事がなく、怪訝な表情を作る。
しかし、もうすぐ煙も晴れるころ合いで、敵の姿も見渡せる。
目を逸らすわけには、いかず、ただ声だけで呼びかける。
――本当に、海は気分屋だ
「山城! どうしたの!? 返事をしなさい!」
薄らと敵影も見え、その眼と身体に力を込める。
煙が完全に晴れたら、またもう一度走り回って、反撃を与えて……。
瞬時に、次にすべきことを頭の中で整理、優先づけていく。
扶桑が考えている間も、山城の返事はない。
煙が完全に晴れても、聞こえてくるのは波の音と猛々しく叫ぶ敵の声。
痺れを切らし、扶桑は山城の方へと、顔を向ける。
「どうしたの! 返事をしなさい! やまし……ろ……?」
目を見開く。
一瞬、時間が止まった。
ドクンッ、と心臓が大きく脈打つ。
ワナワナ、と身体が震えだす。
覚悟はしていたつもりだった。
いや、むしろ、こうなることくらい、簡単に予想できた。
こうなるほうが自然なことで、なにもおかしいことでもなかった。
ただ、どこか、心の片隅で、願っていたのだろうか。
奇跡が起きて、無事に帰投できる未来を。
バカバカしいほど、最高に幸せなハッピーエンドを。
有り得ないと思って、そう思いながらも、どこかで期待していたとでもいうのだろうか。
現実は、残酷な答えを突きつけた。
そんな期待を、嘲笑い、馬鹿にするかのように。
――海は、あっという間に、全てを簡単に飲み込む。
山城が先ほどまでいた場所に、人影はなく。
――別れを述べる時間も、ない。
見慣れた髪飾りだけが浮かんでいた。
あたりに鳴り響く轟音に、扶桑も思わず立ち止まり耳を塞いでしまう。
この戦闘でこれほど脳を揺さぶる轟音はなかった。
顔をしかめ、視界を閉ざしてしまう。しかし、其処はさすがと言っていいか。
その間はわずかに5秒にも満たない。すぐさま周囲を見渡し状況を確認する。
あたりは煙が立ち込め、月明かりも役には立たない。
耳を頼りに敵の鳴き声が聞こえる方へと身体を向け、砲塔を向ける。
そして、近くにいるはずの山城へと声をかける。
「山城! 無事!?」
――飄々と穏やかに見守ってくれていると思えば、突如怒りの矛先を向けてくる。
「……山城?」
帰ってくるはずの返事がなく、怪訝な表情を作る。
しかし、もうすぐ煙も晴れるころ合いで、敵の姿も見渡せる。
目を逸らすわけには、いかず、ただ声だけで呼びかける。
――本当に、海は気分屋だ
「山城! どうしたの!? 返事をしなさい!」
薄らと敵影も見え、その眼と身体に力を込める。
煙が完全に晴れたら、またもう一度走り回って、反撃を与えて……。
瞬時に、次にすべきことを頭の中で整理、優先づけていく。
扶桑が考えている間も、山城の返事はない。
煙が完全に晴れても、聞こえてくるのは波の音と猛々しく叫ぶ敵の声。
痺れを切らし、扶桑は山城の方へと、顔を向ける。
「どうしたの! 返事をしなさい! やまし……ろ……?」
目を見開く。
一瞬、時間が止まった。
ドクンッ、と心臓が大きく脈打つ。
ワナワナ、と身体が震えだす。
覚悟はしていたつもりだった。
いや、むしろ、こうなることくらい、簡単に予想できた。
こうなるほうが自然なことで、なにもおかしいことでもなかった。
ただ、どこか、心の片隅で、願っていたのだろうか。
奇跡が起きて、無事に帰投できる未来を。
バカバカしいほど、最高に幸せなハッピーエンドを。
有り得ないと思って、そう思いながらも、どこかで期待していたとでもいうのだろうか。
現実は、残酷な答えを突きつけた。
そんな期待を、嘲笑い、馬鹿にするかのように。
――海は、あっという間に、全てを簡単に飲み込む。
山城が先ほどまでいた場所に、人影はなく。
――別れを述べる時間も、ない。
見慣れた髪飾りだけが浮かんでいた。
今日はここまでにします。
ここまでくればもう終わりも見えてきたので、なんとか今月中には完結できると思うので。
こんな展開ですが、最後までよろしくお願いします。
新実装艦が皆可愛いのでしばらく更新できません。
……冗談です。
水曜辺りに更新予定です。
……冗談です。
水曜辺りに更新予定です。
弾飛び交う戦場において、その伸ばした手は何の為に。
その意味もない行動に、扶桑はすぐに我に返り握り拳を作る。
思わず叫びそうになった妹の名を、唇を噛みしめて押し殺す。
その行動に、意味はない。
手を伸ばしたところで、その手を掴めるでもない。
名を叫んだところで、返事があるわけでもない。
ここは、今もなお弾が飛び交い、血が流れる無情な戦場。
沈んでいった者を偲ぶ時間など、ない。
だからこそ、扶桑は一瞬だけ悲哀の顔を浮かべはするが、すぐに押し殺す。
耳に聞こえるのは、敵の歓喜の咆哮。敵を仕留めたことへの、狂気じみた歓声。
深海棲艦の士気が、今の攻防で最高潮へと達したのが見てわかる。
空に向かって、叫び拳を振り上げ、艤装をガチャガチャと鳴らし威嚇する。
そして、山城を沈めた、そのままの勢いで、標的は扶桑へと移ることだろう。
悲しみに暮れる時間など、ない。与えてくれない。
扶桑は走り出す。山城のいた場所へ、走り、孤独に浮かぶ髪飾りを拾い上げ、深海棲艦から距離をとる。
――待っていて、山城……
髪飾りを懐へしまい、十分に距離をとれたことを確認してから、敵と向き合う。
もう、山城はいない。敵の攻撃はすべて、今度は自分に降りかかる。
反撃の暇もほとんどなく、回避に意識を取られることだろう。
そうなれば、いや、もう既に、と言ったほうが良いか。
見えていたかすかな希望の糸も、既に千切れている。
――私も、すぐにそっちに……
それでも、この戦場から逃げ出すわけにはいかない。
山城は、立派に戦った。名誉ある死を遂げた。
無駄になんかできない。いや、させない。
今、この場には1人。
しかし、戦う覚悟は2人分。
背負った想いは、数えきれない。
「――来なさいっ」
その眼に、諦めなど無く。
爛々と闘志だけが燃えていた。
「昔……」
「提督?」
ずっと、時雨たちに背を向け窓から外の景色を眺めていた提督が、沈黙を破り言葉を発する。
提督が語る言葉を、聞き逃すまいと、皆耳を傾ける。
「昔、まだ私が鎮守府にきて間もないころ」
ただ、提督は誰かに聞いてほしいと思い言葉を紡いでいるのではなかった。
無性に、ふと思い出したことをそのまま口に出しただけだった。
「一度、扶桑に語ったたことがあったんだ。あの埠頭の先で、夕焼けが綺麗だったことは覚えている」
「扶桑と、何を?」
「夢の話だよ」
夢? と誰かが呟いた。
「ずっと、思っていたんだ。今も、そんな日が来ればと、そう思っている」
「提督の夢とは、いったい?」
その夢は、まさに「夢」。
希望に満ちた綺麗な、夢。
しかし、実現は非常に困難で、まさしく夢物語だ。
「この海を、争いのない平和な海にしたい」
だが、本気だった。
可能だと、思った。
皆が力を合わせれば、必ず、と。
「もちろん、今もそう思っているし、そのために力を振るっている」
「それを聞いて、扶桑はなんて答えたんです?」
誰もが一度は考えたことがあるだろう。
平和、という言葉のその響きに、心躍らせ希望を見る。
それがいかに実現が困難だとしても、信じ続ければ必ず、と。
皆の心が一つになれば、必ず、と。
「…………」
「提督?」
「何も、答えなかった」
「……え?」
間抜けな声を出してしまうが、提督は構わず続ける。
「扶桑は、何も言わなかった。笑わずに聞いてくれていた」
「だったら何が……」
「その時の扶桑の眼が、忘れられないんだ」
肯定するでもなく、否定するでもなく。
扶桑は、いつだって話を聞いてくれた。
語らい、笑い合う。いつだって真面目に、話を聞いてくれた。
だからこそ、忘れられない。忘れることなどできない。
「あの、困ったような眼を。悲しげな眼を。そして、憐れむような眼を」
あの時、君は、何を思ったのだろうか。
あの時の、あの眼は、いったい、何を言いたかったのだろうか。
いったい、何を伝えたかったのだろうか。
それだけ、聞いておきたかった。
その圧倒的な物量の前に、精神論など馬鹿馬鹿しく思ってしまう。
数の暴力の前には、技術でのカバーなどただの希望的観測にすぎない。
開戦から、いったいどれくらい時がたったのだろう。どれだけ、走ったことか。
もはや、時間の感覚などない。
ただ必死で、がむしゃらに、走り続けた。
この永遠とも思える苦痛の時間を、歯を食いしばって、必死に耐えた。
必ず勝つと。絶対に負けてたまるかと、
援軍が駆け付けるまでは、必ず持ちこたえてみせると。
扶桑は、ボロボロの身体で地べたに倒れこみながら、それだけははっきりと強く思った。
ゼイゼイ、と息も絶え絶えに補給ポイントへと這いずってたどり着く。
その一身に降りかかる殺意の波が、幾重にも押し寄せる。
その重圧が、これ程までに重く激しく圧し掛かるものかと、扶桑は改めて思った。
そして、山城が先ほどまで味わってきた世界を知った。
――山城……あなたは、こんな中で……
こんな苦痛にまみれた、死の恐怖を背に。
手足も心もガタガタに震えるそのような世界で、それでも折れずに戦った。
そんな山城を、尊敬する。そして、誇りに思う。
「あなたも、私の誇りよ……山城」
強く、強く、心を持った。
最後の、死の際まで決して光を失わない。
今更ながらにして、思う。山城は、勇猛果敢に戦った。
その妹の姿を、誇りに、そして讃える。
ならば、と。
それならば、私が折れるわけにはいかない。
誇りに思った山城が、愛してくれた自分。
その自分が、山城の期待を裏切ってはならない。
山城が耐えたこの地獄に、自分が折れてはならない。
だからと、懐にしまった山城の髪飾りを強く握りしめる。
出撃前、あれほど萎んでいた山城が、あそこまで戦ってくれた。
そこに、妹の成長を確かに見た。
焚き付けてしまったのかもしれないと思ったが、最後は自分の意志で、その誇りをもって戦ってくれた。
自らを鼓舞するかのように、扶桑は、力強く、口にする。
「――私の名前は、扶桑」
山城を焚き付けた言葉を。
自らを奮い立たせた言葉を。
戦場に赴く覚悟を決めた誇りを。
「――国の名を背負った、この誇りは、誰にも負けない」
涼しげな顔で、熱き心を胸に。
最後の戦場へと赴くその足取りは軽く、後ろ姿は何よりも大きく見えた。
果てなき理想へ、歩を進めるのは容易いことではない。
幾度となく、高く厚い壁が目の前を遮ることだろう。
何度も、何度も、その心は挫けそうになるだろう。諦め、歩を止めることになるかもしれない。
だが、その程度で諦める理想など、夢など、所詮その程度のものだということではないか。
その理想が険しい道の先にあるものだと、理解しているのならば、きっとその程度の障害など予想の範囲内。
それに折れるのならば、理想が理想で終わっているだけか、またはただの馬鹿か。
本当に、その理想を最後まで貫きたいのならば。
馬鹿にされても、馬鹿のようにただ愚直に進むしかない。
手足が折れ、這いつくばろうとも、心だけは折れてはならない。
その覚悟もないものが語る理想など、それは所詮、夢物語で終わる。
――あなたは、どうですか?
ふと昔を思い出して、扶桑は呟いた。
その声を聴く者は、傍に誰もいない。
主砲を構え、敵に砲弾を与える。
扶桑が1発敵に攻撃を与えても、その何十倍もの砲弾がその身に襲い掛かる。
その痛みに、声を漏らすが歯を食いしばって耐える。
そして、敵に向かって全速力で翔けてゆく。
なかなか当たらない攻撃。向こうは数の暴力で押してくる。
ならば、と。あえて敵の懐に飛び込む。至近距離で攻撃の命中率を上げる。
相手は、同士討ちを恐れてわずかに攻撃の手が緩むことだろう。
それでも、そんな至近距離でまともに砲弾を受ければ、ひとたまりもない。
それでも、自分は戦艦だ。そうそう簡単に沈むものではないことも重々承知している
。
相手戦艦の攻撃にさえ気を付ければ。それ以外の攻撃は一切無視だ。
水面を滑らかに滑り、深海棲艦の懐へと入り込む。
最初の標的は軽巡ホ級。特に理由はなく、近くにいたという理由でだけだ。
ホ級の手を掴み、主砲を相手の身体へ押し付ける。
さすがにホ級も焦ったように、同じように主砲を向けてくる。
が、それよりも早く、扶桑は砲弾を見舞う。
至近距離で、戦艦の主砲を受けたホ級の身体には大きな穴が出来上がっていた。
ビチャッと、肉片と返り血を浴びるが気にすることもなく、死骸を放り棄てる。
その眼は、もう既に次の標的を見据え、そして同時に再び走り出す。
敵の攻撃が、頬を、腕を、足を掠めていく。
それでも扶桑はスピードを緩めはしない。
標的にされた重巡リ級は、狂ったかのように扶桑に向けて砲弾を打ちまくる。
危険だ、とそう判断したのだろう。先ほどまでの、回避に重点を置いていた時とは違って、今はその扶桑の眼に恐怖さえ覚えた。
しかし、当たらない。いくら撃とうが、扶桑の身体に直撃はしない。
敵が、緒戦の奇襲以降、初めて焦り、動揺している。
この機を逃すほど、扶桑は愚かではない。グンッ、と相手の眼前へ迫る。
眼前に突き付けられた砲塔をヒラリと華麗にかわし、相手の真横へとつける。
リ級も、あわてて標準を変えるが、それでも、遅い。
扶桑の攻撃が、リ級の頭部を吹き飛ばす。命絶えたリ級は、膝から崩れ落ちる。
それを確認し、三度走り出す。
少しでも停止している時間を短く、敵に狙われないように。
相手の攻撃は、近くにいた敵を楯代わり使い凌ぐ。
少しでも多くの敵を道連れに。
そして、少しでも長い時間を稼ぐ。
作戦は絶対に成功させる。絶対に、勝って見せる。
それと同時に、今までにない高揚感を覚えていた。
その口元に、笑みがこぼれていた。
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