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元スレ京太郎「扉のこちら側」
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それはこれまでずっと京太郎が胸に秘めてきた疑問の吐露
相手の気持ちを察しろだとか、相手の身になって考えろだとか
生まれも育ちも、性別すらも違う相手に
どうやって自分を重ねればいいのか分からない京太郎は
こうやって直截な物言いで訊くことでしか“現状”を知ることができない
そしてこういった行動は拒絶されやすい
考えれば解るだろうと吐き捨てられ
そんなことも分からないのかと罵られ
言葉にしなければ伝わらないものがある世の中だというのに
口にすることが忌み嫌われるというのも
奇妙極まりない話ではないか
視線をモルタルの写真に向けたままの京太郎の言葉は
隣にいる女性に語り掛けているようでも、写真に写っている
かつての少女の姿をした女性に問いかけているようにも思われた
しばしの沈黙
とっぷりと陽は落ちて周囲の喧騒も遠く
時間が経つごとに、体温を共有した二人だけが
この世界に取り残されているのではないか
そんな不安にも似た焦燥を京太郎に抱かせる
隣から発せられたのは、質問の答えではなく
逆に京太郎へと問いかける言葉であった
予想もしていなかった内容に一瞬面食らって
しかしすぐさま平生の思考へと切り替える
幸せか、と問われれば
京太郎にとってその答えは
半ば決まっているようなものだった
京太郎「怖いくらいに、幸せさ」
かつての京太郎――『扉』の鍵を手中にしていた頃の人生は
何もかもが満ち足りて充足していることが当たり前であった
傲慢なほどに万能で、冒涜的な全知を掌握し
自由であることを当たり前のように侵犯して
淀んだ世界で狂喜に酔い痴れる
醜くて、気ままで、けれども誰に左右されることもない
そんな、生き方
だが、その歩みは果たして
“生きている”と、言い切ることができるものだろうか?
理不尽に抗い、もがき、苦しんで
自身の命には代えられないと不自由を受け入れ
それでも、と
明日こそは最良であれと祈り
前に進もうという意思の蠢動がない日々……
不変の理想を弄び時間を浪費することが
果たして“生きている”と、いえるのだろうか
否、と京太郎は考える
いや、考えるようになったというのが正確か
京太郎「少し、例え話になるんだけど」
京太郎「俺はさ、ずっと、静かな場所で生きてきたんだ」
京太郎「そこには生命活動を満たすもの以外は」
京太郎「遥か遠くに、とても素晴らしい景色が見えるだけで」
京太郎「あとはその景色を共有する何人かの、それこそ」
京太郎「片手で数えられるくらいの人間がいて」
京太郎「誰にも靡かない。何物にも惑わされない」
京太郎「世界と位相のズレたような場所で生きてきた」
京太郎「もし未来永劫そこから動かずに」
京太郎「死ぬまでの時間を過ごしていたら――」
京太郎「俺は『当たり前』のことがとても得難いことで」
京太郎「幸いなことである。そう理解できないままでいたんだと思う」
京太郎「――雑然として、騒々しくて」
京太郎「虚構に塗れた“こちら側”に戻って来て」
京太郎「俺は『生きるている』ことがどういうことなのか」
京太郎「理解することができた」
京太郎「理解して、実感したんだ」
苦しみ、辛酸を嘗め、屈辱に汚れて疲弊して
そこから抜け出そう、欠けている物を取り戻そうと人は方策を練る
考えて、工夫して、努力して
昨日とは違う明日を夢見て今日に最善を尽くすのだ
それはとても困難なことではあるが
達成できれば無上の幸いを得ることができるのは間違いなく
それが分かっているからこそ、我武者羅にでも行動をするのだ
そしてそれこそが――
『人として生きている』ということなのだろう
京太郎「『人として生きている』ということは、幸せなことだって」
京太郎「俺にとっては君がまさにそうさ」
京太郎「君とこうして寄り添っていることだけが」
京太郎「失ってしまった心の隙間を埋めてくれる」
京太郎「かつては『当たり前』だった、満ち足りた状態へと」
京太郎「俺を戻してくれるんだ」
京太郎「――もう二度と手に入らないと思っていたものが」
京太郎「こうして今、確かに両腕の中にあるんだから」
京太郎「これで『幸せじゃない』なんて言えるはずもないよ」
薄く笑いかける京太郎に、女性もまた目を細めると
彼の腕をしっかりと抱き寄せて、頭を凭れ懸けさせた
仄かに立ち上る甘い香りに
京太郎は内心の動揺を押し隠しつつも
先程の質問を質問で返されたことに対する問答は
一体何だったのか、と再び問おうと口を開いて
「それが、さっきの質問への私の答えですよ」
笑みを含んだ女性の答えに
京太郎はもう一度面食らって、二、三度瞬きをする
自分の質問に対する答えが、彼女の質問に対する自分の答えと同じ
構造としてみれば単純明快で、帰結する結論も同様ではあるのだが
彼女が自分に対して抱いている想いそのものまでもが
自分とまるっきり同じである、ということは
俄には信じられないことであった。京太郎にとっては
分からない、という風に惑った視線を送る京太郎に
女性は目を細めながら、ゆったりと語り始めた
「それでは、私も少し話をしましょう」
「昔々、あるところに一人の女の子がいました」
「その女の子は何でもできる……というワケではありませんが」
「別に一人でもそれなりにやっていける。そういう娘でした」
「一人でやっていけるが故に、そこで完結した世界」
「誰にも干渉されず、自ら誰かに干渉することを望まず――」
「彼女は独りぼっちでした」
「けれども不自由ではありませんでしたから」
「そのことを気に留めていませんでした」
「でも、転機は訪れます」
「彼女に手を差し伸べてくれる人たちがいたんです」
「本当に偶然で、大した事のない理由での邂逅」
「接点だってなくて、関わり合いになるはずなんてなかった」
「でも、その人たちは『独りぼっちは寂しいだろ』って」
「完成されきった世界から、彼女を連れだしたんです」
「勿論、閉ざされた世界から出て初めての感覚に戸惑いましたけど」
「決して不快なんかじゃなくって、寧ろ」
「――温かくて、幸せだった」
京太郎に寄り添うこの女性にとって
初めて『須賀京太郎』という存在に出会った時に憶えた感触は
心を乱されるというものであった
気にかかって、彼のことを考えれば落ち着かなくなって
それからずっと、顔を合わせる度に大きくなっていく感情の
理由と、答えを探し求めて辿り着いたのが
大きな『扉』の前で蹲り、涙を流す少年であった
寒さに震えながら、『扉』の先には行かせまいと独りで佇み
嗚咽を堪えて、しかし堪え切れない涙を溢れさせる少年
その光景が意味するところを、彼女は理解することができなかった
しかしそれでも、ハッキリと分かることは一つだけあった
「『貴方は独りじゃない』」
「私の知ったこの幸せを、温もりを」
「必要としてくれる誰かに出会えることができるのであれば」
「その人に寄り添って、お互いの温もりも喜びも悲しみも」
「何もかもを共有して、それでも生きていけることは」
「とても幸せなことですよ」
そういって女性は京太郎の正面に回り込むと
そのスラリと伸びた長身を、ゆっくりと抱きしめた
京太郎の胸板に顔を埋めて、心音を確かめるその様子は
もしこれで分からないのであるのならば
鈍感や朴念仁という言葉すら生温い
そう思わせるほどのアプローチに
京太郎はようやく自身の愚かさを思い至った
思い至り、けれど過去の行いは取り戻せないと振り切って
謝罪するよりもまず口を突いて出たのは
京太郎「……そう、か」
などという、全く気の利かない独り言のような声で
不意に零れ落ちてきた涙を拭うこともせずに
その理由を考えて、しかし分からなくて
涙を見られまいと女性を抱き返すことだけが
その時に唯一下せた理性的な判断であった
この二人からなる夫婦の間に
『恋』というものは、果たして存在しなかったのかもしれない
相手を独占しようと熱烈に焦がれて
その一挙手一投足に悶絶するような関係性は、これっぽちも
だがしかし
一人の人間として互いを認め合って、尊重して
温もりと慈しみを共有しながら支え合って生きていく
その関係性に安寧を求めるのであるのならば――
「咲もおいでよ、こっちに」
「ううん。私たちなら行ける。もっと先に、ずっと先に」
「『扉』の“向こう側”にある地平線のその先へ――」
一人の少女が、朗らかに笑った
濁りきった目をした少女だ。腐り落ちた目をした少女だ
「ダメだよ、お姉ちゃん」
「ダメなの。それだけは絶対に、やらせない」
もう一人の少女が、首を横に振った
澄みきった目をした少女だ。光を目に宿した少女だ
四角い宇宙を囲んで二人の少女は対峙する
一人は嬉しそうに、一人は強い意志を携えて
「ふうん……?」
「…………」
「ま、いいけど。咲がそのつもりじゃないなら……」
「ここから先は、競争だよ?」
「っ! お姉ちゃん――!」
「行くよ、咲――!」
少年は、何もできない
二人の間に広がる世界には割って入れない
かつてはその輪の中に自分もいたはずなのに
立ち竦んだまま、何もできない
何をすればいいのかもわからない
何が正しくて、間違っているのか
その判断すらもできなくて
ゆらゆらとさざめく水面のように
足元は不安定に揺らめく。少女の笑顔が瞼の裏で揺らめく
やがて立ち竦む少年は、笑顔から切り取られた
三日月形に象られた口に呑みこまれ――
声にならない悲鳴を上げて
京太郎は横になっていたベッドから跳ね起きた
隣で同じように眠りに就いていた女性も
只事ではない京太郎の様子にすぐさま目を覚ましたのか
流麗な黒髪を靡かせ起き上がると
荒い息を吐く京太郎の背中を何度も一定の間隔で摩った
目を見開いて発作のように短く呼吸を繰り返す京太郎は
息も絶え絶えに嘔吐感を堪え、必死に平静を保とうとする
普段は気を張って力強く見せているその様相も
睡眠という無防備な姿に立ち返ってしまえば
一転して、彼の弱さと脆さを露呈することとなってしまう
京太郎「はぁ……はぁ……はぁ……」
冬だというのに額に浮かんだ大粒の汗が物語るのは
彼を蝕む悪夢が、未だに彼を掴んで離してくれない証拠であった
“こちら側”へと戻ってくる契機となったあの日の光景
何も為せないまま、何者にもなれないまま
戻ってくることしか出来なかった自分自身の過去――
お前だけが幸せになることなど許さないと
彼と出会い、関わり、生き様を変えられた全ての人々が
怨嗟の声を上げているような錯覚だ
そんなものは自分の妄想に過ぎないと頭では分かっていても
どこかそれを肯定できない自分自身がいて
決して自分の行いを忘れさせまいとするためのものだと
感じられてしまっているのもまた悲惨であった
荒い息もしばらくすれば治まってくる
どうにか落ち着きを取り戻した京太郎は
再び襲い掛かってきた睡魔に抗うことなく瞼を落とし
飛び起きてからというもの、自身を介抱してくれた
伴侶たる女性に身体を預けると
そのままゆっくりと、もう一度ベッドへと横倒れになる
女性も背中を丸めた彼の身体をしっかりと支え
癖のある柔らかな金の頭髪を優しく撫でると
強く、自身の身体へと押し付けるように抱き留めた
豊満な肢体が生み出した柔らかさと温かさに包まれた京太郎は
睡眠によって真っ白に塗りつぶされていく思考の中で
一抹の安心を感じながら、緩やかな眠りに落ちることができた
男は聖女の腕に抱かれ、微睡みの中で夢を見る
四年前と、七年前と、もっとずっとその前の情景を
まだまだつづくよ
大切なものが壊れて戻って来ても、そこが欠けたまま
結局は人間のフリをしている何か止まりで進めない
だから京太郎は自分を人間だとは思ってない
人間でいたいと願っているのに
ひとまずこれで現在の状況はほぼお分かりいただけたかと
この次は時系列が前後するんじゃないかな
高校か、大学か
まだ京太郎と照が一緒だった頃のお話
純粋で、無垢で、無敵で、残酷
そんな頃の、お話
なんとなく雰囲気が違う気がするんだよな
本当に本物だったら謝るが、本人証明をしないで偽物と疑われながらやる意味がわからん
本当に本物だったら謝るが、本人証明をしないで偽物と疑われながらやる意味がわからん
なんの使命があって咲のキャラの中で外界の知名度0のこいつのSS書き続けるの
前作で本人降臨してどうぞやっちまってくださいて書き込みあったの見てない人案外多いね
知らない人はもう一回前回の見るといいよ
知らない人はもう一回前回の見るといいよ
書いてる人が違うとこうもつまらなくなんのな。
やっぱ都市伝説イッチはスゲーな
やっぱ都市伝説イッチはスゲーな
なんだかんだで扉開けてないんやし結局は咲ちゃんとかなんじゃないかと
面白かったでー
面白かったでー
なりすましかどうかは最後の一言コメント見れば分かる。
取敢ず乙です。
取敢ず乙です。
みんなの評価 : ☆
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