元スレ運転士「電車が脱線するぅぅぅ!!!」男「よし……置き石成功!」
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51 = 1 :
……
ある日の深夜、走るトラック。
ブロロロロ…
運転手「ふんふ~ん」
ガッ!
運転手「な、なんだ!? なにか轢いちまって……」ガクガクガク
運転手「うわああああああ!!!」
ズズウン……
52 = 1 :
―男の家―
ブロロロロ…
女「あっ!」ギュルルッ
女「ひどい! アイテムボックスの近くにバナナの皮を置くなんて!」
男「ふふふ、相手がどう動くかを読む……これが置き石の極意」
ブロロロロ…
女「でもレースは私が勝ちました!」
男「ぐうう……!」
53 = 1 :
TV『深夜にトラックが横転する事故が発生しました』
TV『ドライバーは何かにタイヤが乗り上げたと思ったら、あっという間に横転したと話しており……』
女「!」
女「これってまさか……」
男「ああ、置き石の可能性が高い」
男「もしかすると、本格的に動き出したのかもしれないな……」
54 = 1 :
その後も――
ドライバー「うわっ! な、なんだ!? なにかに乗り上げて――」ガクガク
キキーッ!
ドカァンッ!
生徒「やっと塾終わったよ……早く帰らなきゃ」シャーッ
ガクンッ!
生徒「うわああああっ!」
ガシャーン…
55 = 1 :
……
女「“石かなにかにつまずいた”っていう、事故がますます増えてますね」
男「どんどんエスカレートしてるな」
女「このままいけば、いずれ死者が出てしまうかもしれませんね……」
男「それにしても、急に止まれない電車はともかく、自動車や自転車にも置き石を成功させるとは……」
男「いったいどんな置き石をしてるんだか……」
女「…………」
男「とりあえず、俺も仕事の合間にパトロールしてみるよ」
56 = 1 :
……
女「どうですか?」
男「ダメだ」
男「知り合いの刑事さんに尋ねてみても、これといった成果なし」
男「現場近くで塗料つきの石の破片が見つかったそうだが、ありきたりな塗料で手掛かりにはならないようだ」
女「塗料ですか……」
男「監視カメラも熟知してるらしく、なかなか映らないし」
男「現場周辺で、コートを着た怪しい男を見たって人もいるようだが、どの証言もあやふやで頼りにならない」
男「くそっ、こうしてる間にも……!」
女「…………」
女「焦っちゃダメです」
男「!」
57 :
思ったより長編だった
58 = 1 :
女「こういう時こそ、冷静になりましょう」
女「どんな時でも、じっとしている石のように」
男「そうだな……ありがとう」
女「…………」カチーンッ
男「ホントに石みたいになってどうする」
女「す、すみません!」
男「まずは、犯人が“どういう置き石をしてるのか”――改めて考えてみよう」
女「はいっ!」
59 :
だんだんジョジョみたいになってきたな
60 = 1 :
男「置き石を成功させるコツは二つ」
男「標的の動くコース上に置くことと、もう一つは標的にバレないように石を置くことだ」
男「コース上に置くことは、よく人間を観察してればさほど難しくはない」
女「電車に至っては絶対線路を通りますもんね」
男「が、問題は後者だ」
男「前につまずいて転ぶような石があったら、よほど視野が狭くなってない限り普通は気づく」
男「俺が前、ひったくりを転ばせられたのも、奴が逃げるのに夢中になってたからだ」
男「なのに、なぜこうも成功させてるのか……」
61 = 1 :
話し合いは進み――
女「ちょっと思ったんですけど」
男「ん?」
女「例えばこの石をこうやって……」ヌリヌリ
筆で石に色を塗り始める。
女「石にトリックアートが施されてたら、気づきにくくないですか?」コトッ
男「…………!」
男「たしかに……これは分からないな。カメレオンみたいだ」
62 = 1 :
男「もし夜中、ライトの光さえも考慮した装飾(アート)が施された石があったら――」
男「かなり大きくても、まず気づけないだろう」
男「俺はどうやって石を置いているのか、しか考えてなかったが」
男「石そのものに細工をしてるという発想は出てこなかった」
男「これなら、塗料つきの石の欠片が見つかったのにも説明がつく。回収し損ねたんだな」
女「私の推理、いいセンいってますか?」
男「ああ……可能性は高い」
男「つまり、犯人はトリックアートの達人……! それも並大抵じゃない」
男「そして俺には、思い当たる人間が一人いる」
女「え……」
63 = 1 :
女「それってまさか――」
男「今夜、あんたのお師匠さんのところに行こう」
女「今夜ですか……!?」
男「ああ、早い方がいい。案内してくれるな」
女「は、はい……」
女(そんな……そんな! あの人が犯人かもしれないだなんて……!)
女(私はどうすれば……!?)
…………
……
64 = 1 :
―アトリエ―
女「ここが……師匠のアトリエです」
男「ありがとう」
女「…………」
男「画家さん、夜分遅くすみません」
ギィィ…
画家「やぁ……入りたまえよ」
65 :
ここまで読んだけど
カラスって頭いいんだな
66 = 1 :
男「近頃、車両が横転する事故が急増してるのはご存じですか」
画家「ああ、これでもニュースはよく見るからね。情報は芸術の肥やしになる」
男「その犯人なのですが……トリックアートの達人かもしれない、という推理に至りました」
女「…………」
画家「ほう……」
男「そこで、あなたがおっしゃってた“破門したお弟子さん”について教えて下さいませんか?」
女「え!?」
男「『え!?』ってなに?」
67 :
いい展開だ
68 = 1 :
女「犯人は師匠じゃなかったんですか!?」
男「いや、そんなこと全く思いもしなかったけど……」
女「…………!」
男「この人は、置き石なんかやる人じゃないだろう」
男「仮にやるとしたら実際に道路に石を置くんじゃなく、“石みたいなアート”を描くだろうしな」
男「まあ、それも立派な犯罪だけど」
画家「ハッハー! たしかにワタシならやりそうだ!」
女「なーんだ……よかったぁ……」ボトッ
男「ん? なにか落としたぞ」
69 = 1 :
男「これは……手錠? こっちは催涙スプレー……なんなのこれ?」
女「師匠が犯人だったら……必要になるかと思って」
男「おいおい……」
画家「そう、たとえ師匠でも容赦はしてはいかん! それでこそ我が弟子! ハッハッハー!」
女「ありがとうございます! アッハッハー!」
男(こういう師弟関係もあるんだな……)
70 :
アッハッハー!
71 = 1 :
画家「さて、と。ワタシの疑いが晴れたところで、弟子の話をしよう」
画家「昔、ワタシは一人の弟子を育成していた」
画家「才能はあった。ワタシと同等、いやそれ以上だったかもしれん」
女「そんなに……」
男「なのに、どうして破門を?」
画家「あいつは天才だったが、人を騙して驚かせたり楽しませるというより」
画家「人を騙すことそのものに魅力を感じるようになっていった」
画家「作品も、むやみに人を怯えさせるような悪趣味なものが多かった」
画家「トリックアートを駆使し、一歩間違えば怪我をさせてたようなイタズラを仕掛けることもあった」
画家「ワタシは幾度となく咎めたが、やがて――」
72 = 1 :
弟子『人は目から情報を得ているといっても過言ではない生き物です』
弟子『その目を欺くことのできるトリックアートは、まさしく神の所業!』
弟子『俺はこれを利用して世の中の連中をもっともっと恐怖させたい! 悲鳴を上げさせたい!』
画家『分かった……もういい』
画家『お前は破門だ。これ以上教えることはなにもない』
画家「破門したのだ」
画家「あいつの技量なら、ペイントした石で車を事故らせることなど容易いだろうし」
画家「もし一連の事件の犯人があいつだったとしても、ワタシは全く驚かないだろう」
男「…………」
女「…………!」
73 = 1 :
男「連絡は取れますか?」
画家「いや……もうどこにいるかすら分からない。すまない……」
女「師匠がなかなか弟子を取らなかったのはそういう事情があったんですね」
画家「ああ、ワタシは怪物を生み出し、しかも見捨てて野に放ってしまった」
画家「もし……あいつが犯人だとするなら――」
画家「どうか、止めてくれ。取り返しのつかない犠牲者が出てしまう前に……!」
男「あなたの元弟子が犯人かどうかはまだ分かりませんが、いずれにせよ、車両への置き石は許せない犯罪――」
男「絶対に食い止めてみせます」
74 = 1 :
……
女「師匠の話を聞いてどうですか?」
男「俺は……元弟子が犯人の可能性が高いと思う」
女「私もそう思います……」
男「だが、おそらくどこかに定住してるってことはないだろうし、捜すのは困難だろう」
男「むしろ“犯人はどういう事故を起こすか”を考えないとな」
女「そうですね!」
75 = 1 :
男「そろそろ、犯人も大事故を起こしたがる頃だ。やるとしたら――」
女「空港でしょうか!? 滑走する飛行機を事故らせるとか……」
男「さすがに空港は無理だろう。警備が厳しすぎる。やるとしたら、電車だろうな」
男「しかも、なるべく大惨事を起こしたいはず……」
女「ということは、満員電車が狙われる可能性が高いですね」
男「だろうな。だが、いったいいつの満員電車になるやら……」
女「これだけじゃ絞るのは難しいですね……」
76 :
師匠も止めにいけよ
77 = 1 :
男「近々なにか大きなイベントがあるだろうか?」
女「調べてみます」
女「スポーツの試合、自動車の展示会、新型ゲーム機の発表会……」
女「……あ」
男「どうした?」
女「もうすぐ開かれます……≪ワールドアート展≫が……!」
女「師匠も出展しますし、初日はおそらくものすごい盛り上がりになるはず……」
男「それだ!」
…………
……
78 = 1 :
……
当日――
―ワールドアート展会場―
ワイワイ… ガヤガヤ…
リポーター「世界中の現代美術・美術家が集まる、このワールドアート展!」
リポーター「開催初日ということもあり、ものすごい人が集まっています!」
リポーター「さあ、さっそく会場にお邪魔したいと思いまーす!」
79 = 1 :
リポーター「こちらはトリックアートの第一人者、画家氏のコーナーです!」
リポーター「こんなところに水たまりが……いえ、これは違います! 絵です!」
画家『ハッハッハー! 騙されてくれたね!』
リポーター「靴が水で濡れた気分ですよ」
リポーター「ではさっそく、取材を……」
画家『…………』
リポーター「もしもし?」
画家「それはワタシの絵さ! 本物はこっちこっち! さっき喋ったのは録音テープなのさ!」
リポーター「え~~~~~!?」
80 = 1 :
大盛況で初日が終わり、来客が最寄駅に向かう。
ワイワイ… ガヤガヤ…
「面白かったなー」
「ああ、どの芸術品も素晴らしかった……」
「みんな閉会時間までいたから、電車めちゃくちゃ混むな……」
ゾロゾロ… ガヤガヤ…
81 = 1 :
―線路近く―
コートを着た男が一人ほくそ笑む。
コート男(もうすぐ、ワールドアート展の客を乗せた電車がここを通る……)
コート男(計算した結果、このカーブに置き石すれば、電車は派手に脱線し、横転……)
コート男(満員の客どもはお互い押し潰しあって、ペシャンコになる……)
コート男(死者は軽く見積もっても数百名になるだろう……)
コート男(師匠……俺の才能を恐れた愚かな師匠よ)
コート男(あんたのアートを楽しんだ奴らが、大勢死ぬことになるんだ!)
82 = 1 :
男「おい、どこに石置こうとしてんだ」
コート男「!?」ギクッ
女「線路の絵が描かれた石……運転士さんは絶対気づきませんね」
男「そのコートも、なるべく人の印象に残らない色遣いにしてあるんだろう」
男「だから、目撃証言があやふやなんだ」
コート男「……なんだお前たちは!?」
男「置き石の達人」
女「駆け出しイラストレーターです!」
コート男「…………!?」
男「お前の凶行を食い止めに来た」
83 = 70 :
対決か
84 = 1 :
女「あなたの正体は分かってます……。師匠――画家さんの元弟子ですよね?」
コート男「なぜそれを……!」
女「私は……今、画家さんの弟子になってます。あなたは私にとって兄弟子です」
女「お願いします! 石とトリックアートを悪用するのはやめて下さい!」
女「自首して下さい!」
コート男「あの野郎……俺を破門しておいて、こんな小娘を弟子にしやがったのか」
女「!」
コート男「誰が自首なんかするかァ!」
コート男「俺はな……俺のアートでバカどもがギャーギャーわめく姿が楽しくて仕方ないんだよ!」
コート男「特に置き石は最高だった! 石一つ置くだけでとんでもねえ事故が起こる!」
コート男「“最小の労力で最大の効果を得られる”ってのはまさにこのことだァ!」
男「せっかくの才能を……とことん腐らせちまったようだな」
85 = 1 :
女「自首しないんなら……覚悟してもらいます!」
男「ああ、俺が警察に通報すれば、お前は終わりだ」
コート男「そう上手くいくかな?」バサッ
コートのポケットには、大量の石が隠されていた。
男「!」
コート男「今まで誰かに尻尾を掴まれたことはなかったが……もしもの時の自衛手段はちゃんと用意してある」
コート男「この石、どうすると思う? なぁ、どうすると思う?」
女「どうするんです……?」
コート男「投げるんだよォ!!!」ビュオッ!
86 :
>>85
ショボくてワロタ
87 = 1 :
石が飛んでくる。
男「うわっ!」
女「きゃっ!」
コート男「ほらほらァ!」ビュンッ ビュンッ
男「危ないっ!」
ガンッ!
男「ぐあっ……!」
男「うぐっ……(この石にも見えにくくなるよう色を塗ってある……!)」
コート男「投石をナメちゃいけないぜ」
コート男「戦国時代じゃ、剣や槍なんかより、石で死ぬ奴がよっぽど多かったぐらいだからなァ!」
88 = 1 :
ガツッ!
男「うぐぁっ!」
今度は頭に命中。
男「ううっ……」ガクッ
女「しっかりして下さい!」
コート男「もう動けねえだろ……。さて、俺は歴史に残る脱線事故を演出してから、逃げるとするよ」
コート男「トリックアートを極めた俺なら、警察から逃げることなど造作もない」
女「トリックアートを極めた……? 笑わせないで!」
コート男「あ?」
89 = 67 :
地味に石に詳しいやつ多いな
90 = 1 :
女「あなたは……人を騙して、傷つけて、自分が偉くなったつもりでいるんだろうけど」
女「ただ、自分の才能や技量に溺れてるだけじゃない!」
女「あなたは誰も騙せてない。あなたの人生そのものが錯覚なのよ!」
コート男「…………」ビキッ
目を血走らせ、怒りをあらわにする。
コート男「仮にも妹弟子らしいから……無事に済ませてやろうと思ってたのによォ……」
女「私もトリックアートは見慣れてる……石なんか喰らわないわよ」
コート男「安心しろよ……てめえは直接殴り殺してやるからよォ!」
91 = 1 :
コート男「頭蓋骨割ってやるゥ!」ダッ
石を持って、二人に迫る。
だが――
グサッ!
コート男「う!?」
コート男「ぐあああっ……!?」
コート男「いって……なにかが足に刺さって――」
コート男(これは……尖った石!? ぐうっ……!)
92 = 1 :
コート男「だったら、石がない方へ……」サッ
コート男「うわっ!?」ズルッ
盛大にこける。
コート男「いででで……! どうなってやがる……!」
男「俺は、お前がどこで置き石するかを読んで、ここで待ってた」
男「ってことは当然、俺も置き石し放題だったわけだ」
女「しかも、私がトリックアートを施してます!」
女「騙すことは得意でも、騙される方は慣れてなかったようですね!」
男「さっきの挑発で、見事その“置き石エリア”に入ってくれたわけだ」
コート男「ふざけやがってえ……!」
93 = 1 :
コート男「だったらまた石を投げ――」
ズルッ
コート男「ぐはっ!」ドサッ
コート男「く、くそっ!」
グサッ
コート男「いでえええええ!」
石に刺さる、石で滑る、石でこける、を繰り返す。
男「一度入ったらもう抜け出せない……これぞ俺流“石兵八陣”!」
94 :
孔明の罠か
95 = 1 :
コート男「うぐうう……!」
コート男「まだだ……!」
男「!」
殺傷力を抑えていたので、元弟子を動けなくするまでには至らない。
コート男「どうやら……もう置き石はないみたいだな……。殺してやるぞ、てめえら……!」
女「そこまでです」
コート男「?」
女「その位置からなら……見えるはず」
コート男「……あ」
96 = 1 :
コート男(見える……)
今彼がいる位置からしか見ることのできないトリックアート。
コート男「あれは……」
地面に、大勢の人間の顔が――
女「あなたが苦しめてきた人々の怒りの顔です!」
コート男「わっ……わわわっ!」
コート男「うわあああああああああああああああああああっ!!!」
コート男「あうううう……!」ガタガタガタ
97 :
面白い
98 = 1 :
犯人に手錠をかけると――
男「やったな」
女「やりましたね!」
男「俺の置き石で、肉体的・精神的に揺さぶりをかけて――最後はあんたのトリックアートで追い込む」
女「共同作業、大成功ですね!」
男「…………」
女「なんで赤くなってるんです?」
男「い、いやなんでもない。さあ、石や絵を掃除しよう。後から来た人が引っかかったらマズイからな」
女「はいっ!」
99 :
追いついた
クソ面白い
100 = 1 :
……
コートの男――画家の元弟子は逮捕された。
住処からは置き石に使われた石や、事故の様子を撮影した動画などが押収され、
一連の事故の犯人に間違いないとされた。
―アトリエ―
画家「このたびは、不肖の弟子を退治してくれてありがとう」
男「いえ……」
画家「本来なら、ワタシがストップさせるべきだったんだろうが……残念ながら出来なかった」
女「師匠は悪くありませんよ!」
男「ええ、悪いのは才能に溺れたあの男です」
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