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元スレ吸血鬼「アナタの血をいただくわ」格闘家「なんだと!?」
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格闘道場──
ある夜、格闘家は一人きりで遅くまで鍛錬をしていた。
といっても、この道場に所属するのは道場主である彼一人だけなのだが。
格闘家「──せいいっ!」
バシィッ!
格闘家の蹴りで、サンドバッグが揺れる。
格闘家「……ふう」
格闘家(長い戦いの末、ようやく世界チャンピオンへの挑戦権を得られた……)
格闘家(俺の最強を証明するためにも、この道場を立て直すためにも、必ず勝つ!)
彼は一週間後に大一番を控えていた。
ある夜、格闘家は一人きりで遅くまで鍛錬をしていた。
といっても、この道場に所属するのは道場主である彼一人だけなのだが。
格闘家「──せいいっ!」
バシィッ!
格闘家の蹴りで、サンドバッグが揺れる。
格闘家「……ふう」
格闘家(長い戦いの末、ようやく世界チャンピオンへの挑戦権を得られた……)
格闘家(俺の最強を証明するためにも、この道場を立て直すためにも、必ず勝つ!)
彼は一週間後に大一番を控えていた。
格闘家「!?」ピクッ
格闘家(──今、なにやら気配を感じた!)ザッ
格闘家「だれかいるのかっ!?」
シ~ン…
格闘家「……気のせいか」
吸血鬼「気のせいじゃないわよ」
格闘家「!?」
吸血鬼「こっちこっち」
格闘家(──上っ!?)サッ
格闘家(──今、なにやら気配を感じた!)ザッ
格闘家「だれかいるのかっ!?」
シ~ン…
格闘家「……気のせいか」
吸血鬼「気のせいじゃないわよ」
格闘家「!?」
吸血鬼「こっちこっち」
格闘家(──上っ!?)サッ
こういう既視感しか感じないようなものしか書けないことを才能がないっていうんだろうなぁ
女が天井に立っていた。
格闘家「なっ……!」
(ど、どうなってるんだ!?)
吸血鬼「よっと」スタッ
格闘家「君は……何者だ!? どうやって天井に立っていた!?
……いや、どうやってここに入った!?」
吸血鬼「アタシは吸血鬼。ちょっと栄養が足りなくてね」
格闘家「吸血鬼!?」
吸血鬼「アナタの血をいただくわ」
格闘家「なんだと!?」
格闘家「なっ……!」
(ど、どうなってるんだ!?)
吸血鬼「よっと」スタッ
格闘家「君は……何者だ!? どうやって天井に立っていた!?
……いや、どうやってここに入った!?」
吸血鬼「アタシは吸血鬼。ちょっと栄養が足りなくてね」
格闘家「吸血鬼!?」
吸血鬼「アナタの血をいただくわ」
格闘家「なんだと!?」
格闘家は身構えるが、得体の知れない相手に心は引けていた。
吸血鬼「どうしたの?」
格闘家「なにっ!?」
吸血鬼「抵抗しないの? アナタ、鍛えてるんでしょ?」
吸血鬼「ま、大人しく吸われてくれるんなら、それに越したことはないけど」スタスタ
格闘家「ち、近づくな!」
吸血鬼「どして?」
格闘家「俺は女性を……殴りたくない!」
吸血鬼「クスクス……」スタスタ
格闘家(くっ、やむを得ない!)
「とりゃあっ!」
ビュッ!
吸血鬼「どうしたの?」
格闘家「なにっ!?」
吸血鬼「抵抗しないの? アナタ、鍛えてるんでしょ?」
吸血鬼「ま、大人しく吸われてくれるんなら、それに越したことはないけど」スタスタ
格闘家「ち、近づくな!」
吸血鬼「どして?」
格闘家「俺は女性を……殴りたくない!」
吸血鬼「クスクス……」スタスタ
格闘家(くっ、やむを得ない!)
「とりゃあっ!」
ビュッ!
──ピタッ
拳は寸止めだった。
吸血鬼「あら、優しいのね……クスクス」
格闘家「……くっ!」
吸血鬼「でも優しいだけじゃ、自分の命は守れないわよ?」
格闘家「いいから消えてくれ!」
吸血鬼「イヤよ」
吸血鬼「……もしかしてアナタ、怖いんじゃないの?
吸血鬼(アタシ)に自分の技が通用しないかもって……」
吸血鬼「だからパンチを当てないことで情に訴えようとしたり、
口で説得しようとしてるんでしょ?」
吸血鬼「見た目に反して、ずいぶんと女々しいヒト……ガッカリね」
格闘家「な、なんだと……!」
拳は寸止めだった。
吸血鬼「あら、優しいのね……クスクス」
格闘家「……くっ!」
吸血鬼「でも優しいだけじゃ、自分の命は守れないわよ?」
格闘家「いいから消えてくれ!」
吸血鬼「イヤよ」
吸血鬼「……もしかしてアナタ、怖いんじゃないの?
吸血鬼(アタシ)に自分の技が通用しないかもって……」
吸血鬼「だからパンチを当てないことで情に訴えようとしたり、
口で説得しようとしてるんでしょ?」
吸血鬼「見た目に反して、ずいぶんと女々しいヒト……ガッカリね」
格闘家「な、なんだと……!」
格闘家(ここまでいわれて黙っていられるか……やるしかない!)
吸血鬼「あら、やる気になったみたいね。さ、どうぞ」
格闘家「はぁっ!」
ズガァッ!
格闘家の手刀が、吸血鬼の肩に炸裂した。
吸血鬼「フフ……攻撃を通して、アナタの怯えが伝わってくるわ」
格闘家(笑ってる……!? 俺の手刀が、効いてないのか!?)
吸血鬼「肩を狙ったのは、やっぱりアナタなりの優しさなのかしら?
でもどんどん攻撃しないと、一滴残らず吸われちゃうわよ?」
格闘家「うぅっ……!」
格闘家「うわあぁぁぁっ!」
吸血鬼「あら、やる気になったみたいね。さ、どうぞ」
格闘家「はぁっ!」
ズガァッ!
格闘家の手刀が、吸血鬼の肩に炸裂した。
吸血鬼「フフ……攻撃を通して、アナタの怯えが伝わってくるわ」
格闘家(笑ってる……!? 俺の手刀が、効いてないのか!?)
吸血鬼「肩を狙ったのは、やっぱりアナタなりの優しさなのかしら?
でもどんどん攻撃しないと、一滴残らず吸われちゃうわよ?」
格闘家「うぅっ……!」
格闘家「うわあぁぁぁっ!」
ドボォッ!
吸血鬼の腹に、格闘家の拳がめり込む。
吸血鬼「クスクス……」
格闘家「うぐぅ……!(やはり全然効いていない!)」
格闘家「せりゃあっ!」
脇腹への回し蹴り。
ドガッ!
肩への正拳突き。
バキッ!
さらには顔面へのヒジ打ち。
ベキッ!
しかし、これだけの攻撃をもってしても、吸血鬼の微笑みを消すことはできなかった。
吸血鬼の腹に、格闘家の拳がめり込む。
吸血鬼「クスクス……」
格闘家「うぐぅ……!(やはり全然効いていない!)」
格闘家「せりゃあっ!」
脇腹への回し蹴り。
ドガッ!
肩への正拳突き。
バキッ!
さらには顔面へのヒジ打ち。
ベキッ!
しかし、これだけの攻撃をもってしても、吸血鬼の微笑みを消すことはできなかった。
格闘家(なぜだ……たしかに攻撃が柔肌に食い込んでいる感触はある。
なのに、なぜ効いていないんだ!?)
吸血鬼「フフ……もう終わり?」
格闘家「うっ……」ギクッ
格闘家「ま、まだだァッ!」
敗北すなわち死。
格闘家は己の格闘人生の全てを賭して、猛ラッシュを仕掛けた。
鍛え抜かれた拳足が、吸血鬼の全身を打つ。
バキッ! ドゴッ! ガスッ! メキッ! ドスッ!
吸血鬼はかわすことも守ることもせず、全てを受け入れた。
不敵な笑みを浮かべながら。
10分後──
格闘家「はぁっ……はぁっ……!」
吸血鬼「……ん、もう終わったの?」
格闘家(ダ、ダメか……!)ドサッ
無駄を悟った格闘家は、大の字になって崩れ落ちた。
なのに、なぜ効いていないんだ!?)
吸血鬼「フフ……もう終わり?」
格闘家「うっ……」ギクッ
格闘家「ま、まだだァッ!」
敗北すなわち死。
格闘家は己の格闘人生の全てを賭して、猛ラッシュを仕掛けた。
鍛え抜かれた拳足が、吸血鬼の全身を打つ。
バキッ! ドゴッ! ガスッ! メキッ! ドスッ!
吸血鬼はかわすことも守ることもせず、全てを受け入れた。
不敵な笑みを浮かべながら。
10分後──
格闘家「はぁっ……はぁっ……!」
吸血鬼「……ん、もう終わったの?」
格闘家(ダ、ダメか……!)ドサッ
無駄を悟った格闘家は、大の字になって崩れ落ちた。
吸血鬼「よく頑張ったわね。じゃあ、さっそく──」
血を吸おうと、吸血鬼が横たわる格闘家に近づく。
すると──
格闘家「……うぅっ」グスッ
吸血鬼「あらあら、死ぬのが怖くなっちゃったの? クスクス……」
(安心なさい。アナタを殺すつもりはないから……。
ちょっとだけ血をもらうだけだから……)
格闘家「ぢ、ぢくじょう……」グスッ
吸血鬼「?」
格闘家「おれのわざ、全然きがなかった……」グスッ
格闘家「おれの今までのじんぜいは、なんだったんだ……!」グスッ
吸血鬼「…………」
血を吸おうと、吸血鬼が横たわる格闘家に近づく。
すると──
格闘家「……うぅっ」グスッ
吸血鬼「あらあら、死ぬのが怖くなっちゃったの? クスクス……」
(安心なさい。アナタを殺すつもりはないから……。
ちょっとだけ血をもらうだけだから……)
格闘家「ぢ、ぢくじょう……」グスッ
吸血鬼「?」
格闘家「おれのわざ、全然きがなかった……」グスッ
格闘家「おれの今までのじんぜいは、なんだったんだ……!」グスッ
吸血鬼「…………」
吸血鬼「よいしょ」スッ
吸血鬼は涙を流す格闘家の頭を、膝枕の上に置いた。
格闘家「な、なにを……?」グスッ
吸血鬼「ごめんなさいね。少しやりすぎてしまったみたい」
吸血鬼「アタシはアナタを殺すつもりはないし、
ましてやアナタの人生を否定するつもりなんて毛頭なかった」
吸血鬼「アナタは強そうだったから、
ちょっとからかってみたかっただけなの……本当にごめんなさい」
吸血鬼は涙を流す格闘家の頭を、膝枕の上に置いた。
格闘家「な、なにを……?」グスッ
吸血鬼「ごめんなさいね。少しやりすぎてしまったみたい」
吸血鬼「アタシはアナタを殺すつもりはないし、
ましてやアナタの人生を否定するつもりなんて毛頭なかった」
吸血鬼「アナタは強そうだったから、
ちょっとからかってみたかっただけなの……本当にごめんなさい」
格闘家「君は……人の血を吸って生きているんじゃないのか?」
吸血鬼「別に血を吸わなくても生きてはいけるわ。
アタシが血を吸う時は、本当に命が危ない時くらいよ」
吸血鬼「それに……アタシは人を殺したことはないわ」
吸血鬼「血を吸うといっても、献血の量よりずっと少ないくらいだし」
吸血鬼「吸う前にはちゃんと下調べをして、
吸っても健康に影響がない人間だと判断した上で吸うわ」
吸血鬼「吸った後にこちらから魔力を注入しなければ、
アナタに呪いが移るということもないしね」
格闘家「──ってことは、俺のことも……?」
吸血鬼「えぇ、とても大きな試合を控えている格闘家さんでしょ?
ちゃんと調べてあるわ」
吸血鬼「アナタは強い……それにものすごく努力している。
だからアタシに勝てなかったからって、気に病む必要なんてないのよ」
吸血鬼「別に血を吸わなくても生きてはいけるわ。
アタシが血を吸う時は、本当に命が危ない時くらいよ」
吸血鬼「それに……アタシは人を殺したことはないわ」
吸血鬼「血を吸うといっても、献血の量よりずっと少ないくらいだし」
吸血鬼「吸う前にはちゃんと下調べをして、
吸っても健康に影響がない人間だと判断した上で吸うわ」
吸血鬼「吸った後にこちらから魔力を注入しなければ、
アナタに呪いが移るということもないしね」
格闘家「──ってことは、俺のことも……?」
吸血鬼「えぇ、とても大きな試合を控えている格闘家さんでしょ?
ちゃんと調べてあるわ」
吸血鬼「アナタは強い……それにものすごく努力している。
だからアタシに勝てなかったからって、気に病む必要なんてないのよ」
格闘家「……なぜ俺の攻撃は、君に効かなかったんだ?」
吸血鬼「人間とアタシたちじゃ、肉体の頑強さがちがいすぎるわ。
たとえ銃でもアタシに傷一つ付けることはできない」
吸血鬼「生身でアタシを倒そうというなら、それこそ大地を割るくらいのパワーか、
あるいは拳に魔力を付加する、とかしないと無理でしょうね」
吸血鬼「もちろんそんな術、格闘家であるアナタが知るはずがない」
吸血鬼「だから……気にしないでいいの」
吸血鬼「アタシは下調べした時、修業するアナタにずっと見とれてた。
とてもかっこよくて、美しかった……」
格闘家「かっこよくて美しい……? まるで君に歯が立たなかった俺が?
なにをバカな……」
吸血鬼「人間とアタシたちじゃ、肉体の頑強さがちがいすぎるわ。
たとえ銃でもアタシに傷一つ付けることはできない」
吸血鬼「生身でアタシを倒そうというなら、それこそ大地を割るくらいのパワーか、
あるいは拳に魔力を付加する、とかしないと無理でしょうね」
吸血鬼「もちろんそんな術、格闘家であるアナタが知るはずがない」
吸血鬼「だから……気にしないでいいの」
吸血鬼「アタシは下調べした時、修業するアナタにずっと見とれてた。
とてもかっこよくて、美しかった……」
格闘家「かっこよくて美しい……? まるで君に歯が立たなかった俺が?
なにをバカな……」
吸血鬼「あらそう?」
吸血鬼「一生懸命努力している姿って、とても尊いじゃない」
吸血鬼「それともアナタは、アナタより弱いヒトが一生懸命練習してるのを見て
俺より弱いくせにってバカにするの?」
格闘家「いや、そんなことは……ない、けど」
吸血鬼「でしょ?」
吸血鬼「実力はたしかに大事だけど、努力している姿はそれだけでも美しい。
少なくともアタシにとってはね」
格闘家「…………」
格闘家「さっきまで、俺は君のことを非常識な存在だと思っていた」
格闘家「……しかし、だんだんと親しみを持ってきたよ。
俺なんかより、よっぽど正しい心を持ってるしな」
吸血鬼「ありがと」
吸血鬼「一生懸命努力している姿って、とても尊いじゃない」
吸血鬼「それともアナタは、アナタより弱いヒトが一生懸命練習してるのを見て
俺より弱いくせにってバカにするの?」
格闘家「いや、そんなことは……ない、けど」
吸血鬼「でしょ?」
吸血鬼「実力はたしかに大事だけど、努力している姿はそれだけでも美しい。
少なくともアタシにとってはね」
格闘家「…………」
格闘家「さっきまで、俺は君のことを非常識な存在だと思っていた」
格闘家「……しかし、だんだんと親しみを持ってきたよ。
俺なんかより、よっぽど正しい心を持ってるしな」
吸血鬼「ありがと」
格闘家「なぁ……もう一度、改めて俺と勝負してくれないか?
君が勝ったら……俺の血を吸ってもいいってことでどうだ?」
吸血鬼「えっ?」
格闘家「むろん、勝敗は分かり切っている」
格闘家「君との差を……知りたいんだ」
吸血鬼「……分かったわ」
二人とも立ち上がる。
格闘家「行くぞっ!」ダッ
君が勝ったら……俺の血を吸ってもいいってことでどうだ?」
吸血鬼「えっ?」
格闘家「むろん、勝敗は分かり切っている」
格闘家「君との差を……知りたいんだ」
吸血鬼「……分かったわ」
二人とも立ち上がる。
格闘家「行くぞっ!」ダッ
シュッ!
格闘家の右ストレートを、吸血鬼は指一本で止めた。
格闘家「…………!」
吸血鬼「じゃあアタシから……」
ピンッ
なんの変哲もないデコピン──
ドガァン!
しかし、百戦錬磨の格闘家はなんの変哲もないデコピン一発で、
壁まで吹き飛ばされ、ノックアウトされた。
格闘家の右ストレートを、吸血鬼は指一本で止めた。
格闘家「…………!」
吸血鬼「じゃあアタシから……」
ピンッ
なんの変哲もないデコピン──
ドガァン!
しかし、百戦錬磨の格闘家はなんの変哲もないデコピン一発で、
壁まで吹き飛ばされ、ノックアウトされた。
格闘家「デコピンでKO、か……」
吸血鬼「……本気でやらなかったこと、怒ってる?」
格闘家「いいや」
格闘家「君が本気を出してたら、俺は今頃三途の川にいるだろう」
格闘家「俺の君との差は、それだけのものがあるってだけのことだ。
怒る理由なんか、あるはずがないさ」
格闘家「もちろん、もう自分の人生を否定したりはしない。
君には通用しなかったが、俺は俺なりに精一杯やってきたんだからね」
格闘家「さぁ、俺の血を吸うといい」
吸血鬼「……うん」
吸血鬼「……本気でやらなかったこと、怒ってる?」
格闘家「いいや」
格闘家「君が本気を出してたら、俺は今頃三途の川にいるだろう」
格闘家「俺の君との差は、それだけのものがあるってだけのことだ。
怒る理由なんか、あるはずがないさ」
格闘家「もちろん、もう自分の人生を否定したりはしない。
君には通用しなかったが、俺は俺なりに精一杯やってきたんだからね」
格闘家「さぁ、俺の血を吸うといい」
吸血鬼「……うん」
格闘家は首筋を差し出した。
吸血鬼「いただきます」カプッ
吸血鬼の牙が、首筋に甘く刺さる。
吸血鬼「…………」チュルッ
吸血鬼「…………」ゴクゴク
吸血鬼「──っぷはぁっ」
格闘家「え、もういいのか?」
吸血鬼「えぇ、これだけで十分よ。いったでしょ、献血よりずっと少ないって」
格闘家「変な質問だが、俺の血の味ってのはどうだった?」
吸血鬼「クスクス……気になる?」
格闘家「いや、まぁ……変な味だったらやっぱりイヤだしな」
吸血鬼「血の味なんか、だれでも大差ないわよ。
少なくともまずくはなかったわ。安心して」
吸血鬼は嘘をついていた。
吸血鬼「いただきます」カプッ
吸血鬼の牙が、首筋に甘く刺さる。
吸血鬼「…………」チュルッ
吸血鬼「…………」ゴクゴク
吸血鬼「──っぷはぁっ」
格闘家「え、もういいのか?」
吸血鬼「えぇ、これだけで十分よ。いったでしょ、献血よりずっと少ないって」
格闘家「変な質問だが、俺の血の味ってのはどうだった?」
吸血鬼「クスクス……気になる?」
格闘家「いや、まぁ……変な味だったらやっぱりイヤだしな」
吸血鬼「血の味なんか、だれでも大差ないわよ。
少なくともまずくはなかったわ。安心して」
吸血鬼は嘘をついていた。
吸血鬼(な、なんて……)
吸血鬼(なんて力強く、濃厚な味……!)
吸血鬼(こんな血を飲んだのは、生まれて初めて……。
ああ、アタシの全身にこの人の炎のような闘志が浸透していく……!)
吸血鬼(体内でこの人の赤い血が、縦横無尽に暴れ回っている……!)
吸血鬼(スゴイ、なんてスゴイんだろう!)
吸血鬼(ああ、全て飲みたい……この人の血の全てを!)
吸血鬼(でもダメ……アタシには自分で決めたルールがあるんだから……)
吸血鬼(拳ではアタシにダメージを与えられなかったけど、
アナタの血はまちがいなくアタシに大ダメージを与えたわよ。
……格闘家さん)
吸血鬼(なんて力強く、濃厚な味……!)
吸血鬼(こんな血を飲んだのは、生まれて初めて……。
ああ、アタシの全身にこの人の炎のような闘志が浸透していく……!)
吸血鬼(体内でこの人の赤い血が、縦横無尽に暴れ回っている……!)
吸血鬼(スゴイ、なんてスゴイんだろう!)
吸血鬼(ああ、全て飲みたい……この人の血の全てを!)
吸血鬼(でもダメ……アタシには自分で決めたルールがあるんだから……)
吸血鬼(拳ではアタシにダメージを与えられなかったけど、
アナタの血はまちがいなくアタシに大ダメージを与えたわよ。
……格闘家さん)
吸血鬼「ねぇ」
格闘家「ん?」
吸血鬼「アナタ、ここに住んでいるんでしょう? アタシをしばらく置いてくれない?」
格闘家「かまわないが」
吸血鬼「えっ、ホント?」
格闘家「ああ。世界チャンピオンとの試合の前に気が立ってたところに、
君のおかげでだいぶ気がほぐれたしな」
吸血鬼「ありがとう……」
格闘家「ん?」
吸血鬼「アナタ、ここに住んでいるんでしょう? アタシをしばらく置いてくれない?」
格闘家「かまわないが」
吸血鬼「えっ、ホント?」
格闘家「ああ。世界チャンピオンとの試合の前に気が立ってたところに、
君のおかげでだいぶ気がほぐれたしな」
吸血鬼「ありがとう……」
吸血鬼「ところで、なんでこの道場ってアナタ一人なの?」
格闘家「元々はオヤジが建てたんだ」
格闘家「オヤジは強かったから、どんどん人が集まってきたんだが、
絶望的なまでに教え方がヘタでな」
格闘家「厳しい上に分かりにくかったら、ついてくる人間なんているわけない」
格闘家「門下生は一人、また一人と去っていき、残ったのは息子の俺だけだった」
格闘家「……で、意外に繊細なとこもあったのか、急に体を悪くして
今はお袋と一緒に田舎で暮らしてる」
格闘家「そして後を継いだ俺が、道場の立て直しを図ってるってわけだ。
俺もそれなりに有名になったが、オヤジの悪評も根強く残ってて
入門してくるヤツは一人もいない……」
吸血鬼「……イヤになったことはない?」
格闘家「辛い時はあるが、イヤになったことはないな。好きでやってることだし」
吸血鬼「やっぱりアナタってステキね」
格闘家「元々はオヤジが建てたんだ」
格闘家「オヤジは強かったから、どんどん人が集まってきたんだが、
絶望的なまでに教え方がヘタでな」
格闘家「厳しい上に分かりにくかったら、ついてくる人間なんているわけない」
格闘家「門下生は一人、また一人と去っていき、残ったのは息子の俺だけだった」
格闘家「……で、意外に繊細なとこもあったのか、急に体を悪くして
今はお袋と一緒に田舎で暮らしてる」
格闘家「そして後を継いだ俺が、道場の立て直しを図ってるってわけだ。
俺もそれなりに有名になったが、オヤジの悪評も根強く残ってて
入門してくるヤツは一人もいない……」
吸血鬼「……イヤになったことはない?」
格闘家「辛い時はあるが、イヤになったことはないな。好きでやってることだし」
吸血鬼「やっぱりアナタってステキね」
格闘家「じゃあ今度は俺から質問だ」
格闘家「吸血鬼ってのは君以外にもいるのか?」
吸血鬼「もちろんいるわ」
格闘家「……ってことは、家族も?」
吸血鬼「えぇ、父と母と兄がいる。
もっとも、もう何十年も会っていないけどね……」
格闘家(何十年……そうか、若く見えるけど人間よりずっと長生きなんだな)
格闘家「なぜ、離れ離れになってしまったんだ?」
吸血鬼「アタシたちは常に人間の“ハンター”に狙われてるわ。
ひと固まりになっているワケにはいかないの」
格闘家「吸血鬼ってのは君以外にもいるのか?」
吸血鬼「もちろんいるわ」
格闘家「……ってことは、家族も?」
吸血鬼「えぇ、父と母と兄がいる。
もっとも、もう何十年も会っていないけどね……」
格闘家(何十年……そうか、若く見えるけど人間よりずっと長生きなんだな)
格闘家「なぜ、離れ離れになってしまったんだ?」
吸血鬼「アタシたちは常に人間の“ハンター”に狙われてるわ。
ひと固まりになっているワケにはいかないの」
吸血鬼「実はね……ここに来る前にも、アタシ狙われてたの」
格闘家「ハンターってヤツにかい?」
吸血鬼「そうよ」
格闘家「君ほどの力なら、そんなヤツら簡単に倒せるんじゃないのか?」
吸血鬼「彼らの装備は万全の魔物対策をしてあるから、アタシは絶対に勝てないの。
アタシの攻撃は彼らに一切通用しないわ」
格闘家「そういうもんなのか……」
(なるほど……そいつらとなにかあって、俺の血を欲してたってワケか)
吸血鬼「もし興味があったら、コンタクト取ってみたら?
アタシを倒せるようになるかもよ」
格闘家「……興味ないな」
格闘家「あくまで俺は人間としての最強を目指すよ」
格闘家「ハンターってヤツにかい?」
吸血鬼「そうよ」
格闘家「君ほどの力なら、そんなヤツら簡単に倒せるんじゃないのか?」
吸血鬼「彼らの装備は万全の魔物対策をしてあるから、アタシは絶対に勝てないの。
アタシの攻撃は彼らに一切通用しないわ」
格闘家「そういうもんなのか……」
(なるほど……そいつらとなにかあって、俺の血を欲してたってワケか)
吸血鬼「もし興味があったら、コンタクト取ってみたら?
アタシを倒せるようになるかもよ」
格闘家「……興味ないな」
格闘家「あくまで俺は人間としての最強を目指すよ」
夜が更けてきた。
格闘家「──さて、俺はそろそろ寝るが、君はやっぱり箱の中で寝るのか?
棺桶とか……。ロッカーならいっぱいあるんだけど」
吸血鬼「アナタたちと同じよ。フツーでいいわ」
格闘家「そうか。じゃあ向こうの部屋に布団を敷いておくよ」
格闘家「おやすみ」
吸血鬼「えぇ、おやすみなさい」
格闘家「──さて、俺はそろそろ寝るが、君はやっぱり箱の中で寝るのか?
棺桶とか……。ロッカーならいっぱいあるんだけど」
吸血鬼「アナタたちと同じよ。フツーでいいわ」
格闘家「そうか。じゃあ向こうの部屋に布団を敷いておくよ」
格闘家「おやすみ」
吸血鬼「えぇ、おやすみなさい」
そういう世界観なら魔法格闘家が存在してそうなもんだがどうなんだろ
邪道とかで表に出てこないとか?
邪道とかで表に出てこないとか?
明朝から、格闘家は黙々と鍛錬を続けた。
格闘家「──せりゃあっ!」
ビュババッ! ババッ!
吸血鬼「………」
吸血鬼(キレイ……)
吸血鬼(この人は、一人きりのトレーニングで、世界チャンプに挑めるまでになった。
よほど血のにじむ努力をしてきたんでしょうね……)
吸血鬼「ねぇ」
格闘家「ん?」
吸血鬼「もしジャマでなければ、アタシにも手伝わせてくれない?」
格闘家「かまわないけど……吸血鬼なのにこんなに朝早くて平気なのか?」
吸血鬼「夜じゃない時はたしかに動きは鈍るけど、大した影響はないわ」
格闘家「──せりゃあっ!」
ビュババッ! ババッ!
吸血鬼「………」
吸血鬼(キレイ……)
吸血鬼(この人は、一人きりのトレーニングで、世界チャンプに挑めるまでになった。
よほど血のにじむ努力をしてきたんでしょうね……)
吸血鬼「ねぇ」
格闘家「ん?」
吸血鬼「もしジャマでなければ、アタシにも手伝わせてくれない?」
格闘家「かまわないけど……吸血鬼なのにこんなに朝早くて平気なのか?」
吸血鬼「夜じゃない時はたしかに動きは鈍るけど、大した影響はないわ」
格闘家「つおぁっ!」
格闘家の繰り出す拳を、ミットで受ける吸血鬼。
バシッ! バババッ! バシィッ!
吸血鬼(拳を通じて、この人の熱いハートが伝わってくる……)
吸血鬼(昨日のこの人の攻撃には焦燥と困惑しかなかったけど、
今日のこの人の攻撃は熱い……!)
吸血鬼(闇に生きるアタシには、熱すぎるくらい……!)
吸血鬼(んもう……ダメだったら……そんなに激しくしちゃ……!)
格闘家(妙にニコニコしてるな。そんなにミット打ちが面白いのか……?
なんにせよ、練習相手になってくれるのはありがたい。
彼女なら、怪我させる心配もないしな)
シュババッ! バシッバシッ!
格闘家の繰り出す拳を、ミットで受ける吸血鬼。
バシッ! バババッ! バシィッ!
吸血鬼(拳を通じて、この人の熱いハートが伝わってくる……)
吸血鬼(昨日のこの人の攻撃には焦燥と困惑しかなかったけど、
今日のこの人の攻撃は熱い……!)
吸血鬼(闇に生きるアタシには、熱すぎるくらい……!)
吸血鬼(んもう……ダメだったら……そんなに激しくしちゃ……!)
格闘家(妙にニコニコしてるな。そんなにミット打ちが面白いのか……?
なんにせよ、練習相手になってくれるのはありがたい。
彼女なら、怪我させる心配もないしな)
シュババッ! バシッバシッ!
…
……
………
格闘家「はぁ、はぁ、はぁ……」
吸血鬼「ねぇ、アナタってなんで世界チャンピオンになりたいの?
やっぱり道場を立て直すため?」
格闘家「それもあるが……俺は今のチャンプを尊敬している。
尊敬してるからこそ、勝ちたいんだ」
格闘家「なにしろデビュー戦以降、無敗……。
そんな相手とようやく戦えるんだ、悔いのない試合をしたい」
吸血鬼「ふうん……」
……
………
格闘家「はぁ、はぁ、はぁ……」
吸血鬼「ねぇ、アナタってなんで世界チャンピオンになりたいの?
やっぱり道場を立て直すため?」
格闘家「それもあるが……俺は今のチャンプを尊敬している。
尊敬してるからこそ、勝ちたいんだ」
格闘家「なにしろデビュー戦以降、無敗……。
そんな相手とようやく戦えるんだ、悔いのない試合をしたい」
吸血鬼「ふうん……」
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