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元スレ貴音「宵待草のやるせなさ、今宵も月は出ぬそうな」
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あの方はプロデューサーが天職だとおっしゃっていました。
忙しいけれど、この仕事が大好きだと日頃からおっしゃっていました。
それなのに自ずからこの仕事をやめるのです。
なぜやめねばならぬのか。それは明白です。
わたくしと男女の付き合いをしてしまったからです。
どれほどの無念で、これを書かねばならなかったのか。
どれだけの自責の念と後悔でこれを書いたのか。
一筆一筆にそういった思いが刻みつけられているような書面でした。
そして、それをを書かせてしまったのはわたくしなのです。
眠っているあの方からは、お酒の匂いがしました。
きっと相当な量を飲まれたのでしょう。
あらゆる憂いを忘れようと、慣れもせぬ強いお酒を浴びせ飲んでいるあの方の姿が、ありありと浮かびました。
貴音「申し訳ございません……あなた様」
忙しいけれど、この仕事が大好きだと日頃からおっしゃっていました。
それなのに自ずからこの仕事をやめるのです。
なぜやめねばならぬのか。それは明白です。
わたくしと男女の付き合いをしてしまったからです。
どれほどの無念で、これを書かねばならなかったのか。
どれだけの自責の念と後悔でこれを書いたのか。
一筆一筆にそういった思いが刻みつけられているような書面でした。
そして、それをを書かせてしまったのはわたくしなのです。
眠っているあの方からは、お酒の匂いがしました。
きっと相当な量を飲まれたのでしょう。
あらゆる憂いを忘れようと、慣れもせぬ強いお酒を浴びせ飲んでいるあの方の姿が、ありありと浮かびました。
貴音「申し訳ございません……あなた様」
わたくしはあの方と添い遂げたかっただけなのです。
この方との幸せな未来と比べれば、夢など軽いものと簡単に考えておりました。
けれどもこの結末はどうでしょうか。
まことに世は不条理です。己の夢を捨て恋を取ろう決意したのに、
わたくしはあの方の夢を取り上げてしまっただけなのです。
そして自分は浅ましくも、未だに夢を追いかけている。
覚悟といったのは結局口だけの話で、あの時渡した辞表も
あの方のそれとは比べものにならないほど薄っぺらく、軽いものでした。
それなのにそんなわたくしの夢を守ろうとして、あの方はここを去ろうとしている。
わたくしに、あの方を引き止める資格などありませんでした。
夜が明け、前日の背広をきると、あの方はそっとしゃがみこみ、
しばらくわたくしの顔をじいっと見た後で、家から出て行きました。
貴音「さよならすら、言ってはくださらないのですね……」
もしも声をかけてくれたのなら、わたくしはおそらく泣いてすがっていたことでしょう。
無様でも、みっともなくとも、そしてそれが自業自得であることがわかっていたとしても、
やはりそうしていたと思います。
それがわかっていたからあの方は何もいわずに出ていったのでしょうか。
しかしそれが違うことには、すぐにわかりました。
この方との幸せな未来と比べれば、夢など軽いものと簡単に考えておりました。
けれどもこの結末はどうでしょうか。
まことに世は不条理です。己の夢を捨て恋を取ろう決意したのに、
わたくしはあの方の夢を取り上げてしまっただけなのです。
そして自分は浅ましくも、未だに夢を追いかけている。
覚悟といったのは結局口だけの話で、あの時渡した辞表も
あの方のそれとは比べものにならないほど薄っぺらく、軽いものでした。
それなのにそんなわたくしの夢を守ろうとして、あの方はここを去ろうとしている。
わたくしに、あの方を引き止める資格などありませんでした。
夜が明け、前日の背広をきると、あの方はそっとしゃがみこみ、
しばらくわたくしの顔をじいっと見た後で、家から出て行きました。
貴音「さよならすら、言ってはくださらないのですね……」
もしも声をかけてくれたのなら、わたくしはおそらく泣いてすがっていたことでしょう。
無様でも、みっともなくとも、そしてそれが自業自得であることがわかっていたとしても、
やはりそうしていたと思います。
それがわかっていたからあの方は何もいわずに出ていったのでしょうか。
しかしそれが違うことには、すぐにわかりました。
枕元には、一枚の写真だけが置かれていました。
貴音「これは……あの時の写真ではないですか」
その写真をみた瞬間、わたくしはわかってしまったのです。
あの時のあの方もわたくしと同じ気持ちでいてくれたことにも、
別れの言葉すら言わずに去ってしまわれた意味も。
それは、言うに尽くせぬ思いが込められた、一葉の恋文でした。
おそらく世界中でわたくしにしか伝わらない、けれども
どんな愛の言葉にも勝るに違いない一枚の写真だけを残してあの方は行ってしまった。
そしてその写真が持つ別れの意味の重さも、わたくしにはわかりました。
わたくしが二人で渡ろうといった道を、あの方は一人で行くつもりなのです。
月程遠い、わたくしの手が届かないところまで。
おそらく、わたくしに二度と会わないために。
貴音「そんなこと……わたくしは耐えられません」
貴音「これは……あの時の写真ではないですか」
その写真をみた瞬間、わたくしはわかってしまったのです。
あの時のあの方もわたくしと同じ気持ちでいてくれたことにも、
別れの言葉すら言わずに去ってしまわれた意味も。
それは、言うに尽くせぬ思いが込められた、一葉の恋文でした。
おそらく世界中でわたくしにしか伝わらない、けれども
どんな愛の言葉にも勝るに違いない一枚の写真だけを残してあの方は行ってしまった。
そしてその写真が持つ別れの意味の重さも、わたくしにはわかりました。
わたくしが二人で渡ろうといった道を、あの方は一人で行くつもりなのです。
月程遠い、わたくしの手が届かないところまで。
おそらく、わたくしに二度と会わないために。
貴音「そんなこと……わたくしは耐えられません」
乱れ髪、寝巻き姿のまま、裸足で外に飛び出してみても、あの方の姿が見えようはずもなく、
わたくしは道の途中で泣き崩れてしまいました。
道の果てまで目を凝らしても、邪魔をするのは桜吹雪か溢れる涙か、あの方の姿だけはやはりどこにも見つかりません。
貴音「わたくしをおいていかないでください……どうか、わたくしも一緒に連れて行ってください……」
それからのことは律子もご存知のとおりです。
あの方からの連絡は無く、行方は杳としてしれません。
わたくしの罪がおわかりになったでしょうか。
わたくしはあの方の夢を奪うのみならず、今、春香からも夢を奪おうとしてしまっているのです。
そしてわたくしは罰せられるわけでもなく、のうのうと夢を目指して生きている。
世の中は、真に不条理です。
長い話に付きあわせてしまって申し訳ありません。
話はこれで終いです。
律子「なんで今まで黙ってたのよ! もっと早く言ってくれてれば、
あんたもそんなに苦しまなくてすんだかもしれないのに」
貴音「申し訳ありません」
律子「それに今のプロデューサーは私よ? もっと頼ってくれてもいいじゃない」
貴音「律子は全てを知りつつ、黙していたのだとおもっておりました」
律子「私のことを買いかぶりすぎよ。
……まぁいいわ。誰にも言えなくて、今まで辛かったでしょう?」
律子は急に優しい顔になると、わたくしにそういいました。
貴音「わたくしよりも苦しんでいるものがいるのに、辛いなどとは言えません。
こんなことを頼める立場ではないのはわかっています。ですが、どうか春香を助けてあげてください。
彼女を救いたくとも、今のわたくしには、何もすることができません」
律子「それに春香のプロデューサーは今は私よ?そんなの助けるに決まってるじゃない。
それと、さっきも言ったでしょ。今の貴音のプロデューサーも私なの。
だから貴音の問題は私の問題でもあるわけ。いえば少しは楽になるわ……
どうせだから一年分の愚痴もここで吐き出していきなさい」
それから面会時間が終了するまで、今まで誰にも言えなかった胸の裡を、律子はひとつひとつ聞いてくれました。
あんたもそんなに苦しまなくてすんだかもしれないのに」
貴音「申し訳ありません」
律子「それに今のプロデューサーは私よ? もっと頼ってくれてもいいじゃない」
貴音「律子は全てを知りつつ、黙していたのだとおもっておりました」
律子「私のことを買いかぶりすぎよ。
……まぁいいわ。誰にも言えなくて、今まで辛かったでしょう?」
律子は急に優しい顔になると、わたくしにそういいました。
貴音「わたくしよりも苦しんでいるものがいるのに、辛いなどとは言えません。
こんなことを頼める立場ではないのはわかっています。ですが、どうか春香を助けてあげてください。
彼女を救いたくとも、今のわたくしには、何もすることができません」
律子「それに春香のプロデューサーは今は私よ?そんなの助けるに決まってるじゃない。
それと、さっきも言ったでしょ。今の貴音のプロデューサーも私なの。
だから貴音の問題は私の問題でもあるわけ。いえば少しは楽になるわ……
どうせだから一年分の愚痴もここで吐き出していきなさい」
それから面会時間が終了するまで、今まで誰にも言えなかった胸の裡を、律子はひとつひとつ聞いてくれました。
【三月中旬】
お久しぶりです。
急に電話しちゃってごめんなさい。
覚えていますか?秋月律子です。
今、お時間大丈夫ですか?
プロデューサーがいなくなってから一年たちましたけど、
今じゃ竜宮小町以外のアイドルもみんな私の受け持ちですよ。
やめるって聞かされた時は驚きましたけど、引き継ぎがある程度すんでいたせいか
思ったほどの苦労はしないですみました。
しんどいかですって?
当たり前じゃないですか。かなりしんどいですよ。
竜宮小町だけのときでも十分しんどかったんですから。
でも仕方ないですよね。
新人のプロデューサーは入ったそばからみんなきつくてやめていくし、
私しかいないんですから。
ただ少し頑張りすぎちゃったみたいです。
おかげで最近まで、過労で寝こんでました。
おっと、愚痴はここまでにして、早速本題に入らせていただきます。
今日電話したのは、春香のことでです。
お久しぶりです。
急に電話しちゃってごめんなさい。
覚えていますか?秋月律子です。
今、お時間大丈夫ですか?
プロデューサーがいなくなってから一年たちましたけど、
今じゃ竜宮小町以外のアイドルもみんな私の受け持ちですよ。
やめるって聞かされた時は驚きましたけど、引き継ぎがある程度すんでいたせいか
思ったほどの苦労はしないですみました。
しんどいかですって?
当たり前じゃないですか。かなりしんどいですよ。
竜宮小町だけのときでも十分しんどかったんですから。
でも仕方ないですよね。
新人のプロデューサーは入ったそばからみんなきつくてやめていくし、
私しかいないんですから。
ただ少し頑張りすぎちゃったみたいです。
おかげで最近まで、過労で寝こんでました。
おっと、愚痴はここまでにして、早速本題に入らせていただきます。
今日電話したのは、春香のことでです。
プロデューサーが居なくなってから、ひと月たった五月のことです。
一気に増えた仕事を前に、私がため息をついていると
春香が事務所に帰ってきました。
春香「律子さん、お疲れ様です」
律子「ははは、お疲れも何も、まだ全然終わりそうにないわよ。
あんたたちみんなの面倒みてたプロデューサーって本当化け物だわ」
春香「プロデューサーさんもすぐに帰ってきますよ。
それまでの辛抱ですから頑張ってください」
そういって春香は番組でつくったお菓子をくれました。
そんな彼女に言えるわけ無いですよね。プロデューサーは多分帰ってこないだろうって。
だって、あなたみたいな人がプロデューサーやめるだなんて、よほどのっぴきならない理由があってでしょうから。
それからも、春香にだけはそのことが言えませんでした。
律子「そういえば貴音は……」
貴音は昔から浮世離れした感がありましたが、
プロデューサーがいなくなってからは余計にひどくなったみたいで、
いつも上の空でした。
一気に増えた仕事を前に、私がため息をついていると
春香が事務所に帰ってきました。
春香「律子さん、お疲れ様です」
律子「ははは、お疲れも何も、まだ全然終わりそうにないわよ。
あんたたちみんなの面倒みてたプロデューサーって本当化け物だわ」
春香「プロデューサーさんもすぐに帰ってきますよ。
それまでの辛抱ですから頑張ってください」
そういって春香は番組でつくったお菓子をくれました。
そんな彼女に言えるわけ無いですよね。プロデューサーは多分帰ってこないだろうって。
だって、あなたみたいな人がプロデューサーやめるだなんて、よほどのっぴきならない理由があってでしょうから。
それからも、春香にだけはそのことが言えませんでした。
律子「そういえば貴音は……」
貴音は昔から浮世離れした感がありましたが、
プロデューサーがいなくなってからは余計にひどくなったみたいで、
いつも上の空でした。
春香「絶対私がなんとかしてみせますから、律子さんは心配しないで下さい」
優しい子ですよね。
自分のことよりもいつも他人。
犠牲にするのはいつも自分。
それが長続きするはずはないことなんて、少し考えればわかることだったのに、
そんなこと考えようともしなかったんです。
優しさに甘えっぱなしで、どれだけあの子が傷ついていたのかなんて私は知ろうともしなかった。
そしてそのことを知ったのはそれから五ヶ月後のことです。
千早「最近の春香はどう、律子」
レコーディングの後、千早は唐突に春香の話題を振ってきました。
律子「どうっていわれても……いつもと変わんないわよ」
千早「最近、いいえ、ここ半年くらいの間、春香はずっと無理をしている気がするの」
律子「確かに仕事の忙しさは殺人級だけど、それは春香に限ったことじゃ」
千早「そういうことではなくて、何というか辛いのを押し殺して、無理やり明るく振舞っている気がするわ。
……見ていてなんだか痛々しく感じられるくらい」
優しい子ですよね。
自分のことよりもいつも他人。
犠牲にするのはいつも自分。
それが長続きするはずはないことなんて、少し考えればわかることだったのに、
そんなこと考えようともしなかったんです。
優しさに甘えっぱなしで、どれだけあの子が傷ついていたのかなんて私は知ろうともしなかった。
そしてそのことを知ったのはそれから五ヶ月後のことです。
千早「最近の春香はどう、律子」
レコーディングの後、千早は唐突に春香の話題を振ってきました。
律子「どうっていわれても……いつもと変わんないわよ」
千早「最近、いいえ、ここ半年くらいの間、春香はずっと無理をしている気がするの」
律子「確かに仕事の忙しさは殺人級だけど、それは春香に限ったことじゃ」
千早「そういうことではなくて、何というか辛いのを押し殺して、無理やり明るく振舞っている気がするわ。
……見ていてなんだか痛々しく感じられるくらい」
言われてみれば、プロデューサーがいなくなったっていうのに
春香が暗い顔を見せたのは、報告された時の一回きりで、それからは会うたびにニコニコしていました。
けど春香ってもともと笑顔の多い娘じゃないですか?
だから私は、そんなこと全く気づきませんでした。
律子「半年……プロデューサーがいなくなった頃からね」
千早「多分、ずっとプロデューサーのことを待っているんだと思うわ」
律子「それは私も知ってるけど、中々言いにくくて……
帰ってこないって、いっそはっきり言ったほうがいいのかしら」
千早「それだけはダメ! そんなこと言われたら、春香は絶対耐えられないわ」
じゃあどうすればいいのか、って話です。
いろいろ話を聞いてみたりはしたんですが、あんまり効果はなくて、
結局春香は千早の言うとおりの痛々しい笑顔のままでした。
その笑顔の違和感に、私は今まで気づかなかったんです。
忙しくてそこまで気が回らなかったっていえば、言い訳になっちゃいますけど。
春香が暗い顔を見せたのは、報告された時の一回きりで、それからは会うたびにニコニコしていました。
けど春香ってもともと笑顔の多い娘じゃないですか?
だから私は、そんなこと全く気づきませんでした。
律子「半年……プロデューサーがいなくなった頃からね」
千早「多分、ずっとプロデューサーのことを待っているんだと思うわ」
律子「それは私も知ってるけど、中々言いにくくて……
帰ってこないって、いっそはっきり言ったほうがいいのかしら」
千早「それだけはダメ! そんなこと言われたら、春香は絶対耐えられないわ」
じゃあどうすればいいのか、って話です。
いろいろ話を聞いてみたりはしたんですが、あんまり効果はなくて、
結局春香は千早の言うとおりの痛々しい笑顔のままでした。
その笑顔の違和感に、私は今まで気づかなかったんです。
忙しくてそこまで気が回らなかったっていえば、言い訳になっちゃいますけど。
そして先月、私が倒れた日のことです。
事務所でね、春香が言うんです。
春香「ニューイヤーライブ、どうせプロデューサーさんは来ないんですよね」
去年、プロデューサーが大怪我した後も、そっくり同じ目をしていましたっけ。
嫌な予感しかしませんでした。
律子「それはわからないけど……来るんならきっと連絡くれるはずだから。
連絡が来たらその時教えるわね」
春香「もういいんです。ごまかすのはやめてください」
春香の言うとおりなんです。どうせあなたは来ない。
でも、そのことをもし伝えていたとしたら、こういう風になるのが早かっただけでしょうね。
それが怖いから私も千早も言えなかった。
春香「私たち、見捨てられたのかなぁって最近よく思うんです。
その証拠に、プロデューサーさんがあれから連絡くれた
ことなんてないじゃないですか。いなくなるときも、私たちには
何もありませんでしたし」
事務所でね、春香が言うんです。
春香「ニューイヤーライブ、どうせプロデューサーさんは来ないんですよね」
去年、プロデューサーが大怪我した後も、そっくり同じ目をしていましたっけ。
嫌な予感しかしませんでした。
律子「それはわからないけど……来るんならきっと連絡くれるはずだから。
連絡が来たらその時教えるわね」
春香「もういいんです。ごまかすのはやめてください」
春香の言うとおりなんです。どうせあなたは来ない。
でも、そのことをもし伝えていたとしたら、こういう風になるのが早かっただけでしょうね。
それが怖いから私も千早も言えなかった。
春香「私たち、見捨てられたのかなぁって最近よく思うんです。
その証拠に、プロデューサーさんがあれから連絡くれた
ことなんてないじゃないですか。いなくなるときも、私たちには
何もありませんでしたし」
拗ねたふうにそう言う春香は、まるで捨てられた子供のようでした。
いいえ、あなたがいなくなってから、春香は親に捨てられた子供同然だったんですよ。
それなのにあの子は来るはずのない連絡を、帰るはずもないプロデューサーを、ひたすらに待ち続けてたんです。
そして、ついに待てなくなったんでしょう。
今まで押し殺してきた感情が堰が切れたみたいにどっと溢れてきて、
あの子自身どうすればいいのかわからない感じがしました。
律子「プロデューサーにも色々事情があったのよ。
でもライブのほうは心配しないで。プロデューサーはいないけど
この一年で私もだいぶ力をつけて――」
かける言葉がうまく見つからず、お茶をにごすようなことを言おうとしたんですが、
途中、春香は大きな声でそれを遮りました。
春香「けど律子さんはプロデューサーさんじゃないじゃないですか!
私は、プロデューサーさんじゃないとダメなんです。
律子さんじゃ、プロデューサーさんの代わりにはなれません」
正直ショックでしたよ。
そんなこと言われちゃったから。
でも、何度も言うように、私は春香がプロデューサーを待っているのを知っていたんです。
それなのに、どこかで時間が解決してくれるだろうって考えてて、結局何もしなかった。
今のこの子のプロデューサーは私なのに、手を差し伸べてあげる事すらできなかったんです。
律子「ごめんね、春香」
いいえ、あなたがいなくなってから、春香は親に捨てられた子供同然だったんですよ。
それなのにあの子は来るはずのない連絡を、帰るはずもないプロデューサーを、ひたすらに待ち続けてたんです。
そして、ついに待てなくなったんでしょう。
今まで押し殺してきた感情が堰が切れたみたいにどっと溢れてきて、
あの子自身どうすればいいのかわからない感じがしました。
律子「プロデューサーにも色々事情があったのよ。
でもライブのほうは心配しないで。プロデューサーはいないけど
この一年で私もだいぶ力をつけて――」
かける言葉がうまく見つからず、お茶をにごすようなことを言おうとしたんですが、
途中、春香は大きな声でそれを遮りました。
春香「けど律子さんはプロデューサーさんじゃないじゃないですか!
私は、プロデューサーさんじゃないとダメなんです。
律子さんじゃ、プロデューサーさんの代わりにはなれません」
正直ショックでしたよ。
そんなこと言われちゃったから。
でも、何度も言うように、私は春香がプロデューサーを待っているのを知っていたんです。
それなのに、どこかで時間が解決してくれるだろうって考えてて、結局何もしなかった。
今のこの子のプロデューサーは私なのに、手を差し伸べてあげる事すらできなかったんです。
律子「ごめんね、春香」
春香「なんで律子さんが謝るんですか? おかしいですよ……」
律子「おかしくなんかないわよ」
春香「謝らなきゃいけないのはひどいこと言っちゃった私じゃないですか。
それなのに律子さんが謝るなんて、やっぱりおかしいですよ」
律子「ごめんね、ほんとうにごめんね」
なんで私が今日の今日まで連絡しなかったのかわかりますか?
私、意地を張ってたんです。
もう私しかプロデューサーはいないんだって、だからなるべく自分の力だけでみんなをサポートしなきゃって。
でもそれって違いますよね。
だってプロデューサーが一番最初に考えなきゃいけないのはアイドルのことです。
そんな簡単なことに気付こうともしなかった。
私はプロデューサー失格かもしれません。
だけどもう、意地をはるのはやめました。
今の春香を救えるのは私じゃない。
プロデューサー、あなただけです。
だから力を貸してください。
律子「おかしくなんかないわよ」
春香「謝らなきゃいけないのはひどいこと言っちゃった私じゃないですか。
それなのに律子さんが謝るなんて、やっぱりおかしいですよ」
律子「ごめんね、ほんとうにごめんね」
なんで私が今日の今日まで連絡しなかったのかわかりますか?
私、意地を張ってたんです。
もう私しかプロデューサーはいないんだって、だからなるべく自分の力だけでみんなをサポートしなきゃって。
でもそれって違いますよね。
だってプロデューサーが一番最初に考えなきゃいけないのはアイドルのことです。
そんな簡単なことに気付こうともしなかった。
私はプロデューサー失格かもしれません。
だけどもう、意地をはるのはやめました。
今の春香を救えるのは私じゃない。
プロデューサー、あなただけです。
だから力を貸してください。
来月も、事務所のみんなでお花見をします。
みんなには話しておきますから、プロデューサーも来てください。
もちろんこちらの予定はうまく調整しておきますから。
本当なら仕事に復帰してくれるのが一番いいんですけど、それはやっぱりプロデューサーの人生ですから。
お願いすることはできても、私が決めることじゃありません。
もし、復帰しないのであればその時は……
プロデューサーの口から春香に、いえ、みんなに直接そのことを話してあげてください。
それがあなたのプロデューサーとしての最後のけじめです。
罵られるかもしれないですけど、そのくらいは覚悟しといてください。
じゃないと本当の意味での引継ぎも、いつまでたっても終わらないままです。
みんなには話しておきますから、プロデューサーも来てください。
もちろんこちらの予定はうまく調整しておきますから。
本当なら仕事に復帰してくれるのが一番いいんですけど、それはやっぱりプロデューサーの人生ですから。
お願いすることはできても、私が決めることじゃありません。
もし、復帰しないのであればその時は……
プロデューサーの口から春香に、いえ、みんなに直接そのことを話してあげてください。
それがあなたのプロデューサーとしての最後のけじめです。
罵られるかもしれないですけど、そのくらいは覚悟しといてください。
じゃないと本当の意味での引継ぎも、いつまでたっても終わらないままです。
それから! 貴音とのことは全部聞きました。
アイドルとプロデューサーの恋愛の是非なんて難しい問題、私にはわかりかねます。
だけどあんな別れ方、悲しすぎるし、貴音もかわいそうです。
貴音の心に、一生傷を残したままのつもりですか?
だとしたら、プロデューサーとかそういう問題以前に、男として最低です。
結局あなたは、貴音を、そしてみんなを見捨てて逃げただけじゃないですか。
その証拠に、あなたがいなくなったことで、みんな傷ついてる。
……もちろん私もですよ。おかげで入院までしちゃったんですから。
もし逃げたんじゃないんなら、絶対花見、来てください。
そしていろいろなこと、全部すっきりさせましょう。
……来てくれるっていうまで、何回だって連絡してやるんだから。
長くなって申し訳ありません。
予定が決まり次第、また連絡しますね。
それでは失礼します。
アイドルとプロデューサーの恋愛の是非なんて難しい問題、私にはわかりかねます。
だけどあんな別れ方、悲しすぎるし、貴音もかわいそうです。
貴音の心に、一生傷を残したままのつもりですか?
だとしたら、プロデューサーとかそういう問題以前に、男として最低です。
結局あなたは、貴音を、そしてみんなを見捨てて逃げただけじゃないですか。
その証拠に、あなたがいなくなったことで、みんな傷ついてる。
……もちろん私もですよ。おかげで入院までしちゃったんですから。
もし逃げたんじゃないんなら、絶対花見、来てください。
そしていろいろなこと、全部すっきりさせましょう。
……来てくれるっていうまで、何回だって連絡してやるんだから。
長くなって申し訳ありません。
予定が決まり次第、また連絡しますね。
それでは失礼します。
【今年四月の出来事】
春のひだまりは眠気を誘うほど優しいのに、桜の花の慌ただしさはいったいなんなのでしょう。
散るさまがいかに美しくとも、心が掻き立てられ、なんだか落ち着かない気持ちになってしまいます。
今日の花見に、あの方がやってくる。
頑なであったであろうあの方の決意を、律子はどのように翻意させたのでしょうか。
魔法でも使ったとしか考えられません。
そのことは後で直接聞いてみることとして、今は心を静めることに集中いたしましょう。
全てを話して一月、いろいろと考えた結果、
ようやくわたくしは自分なりの答えを見つけるところまで至りました。
後はそれを実行できるかにかかっています。
それができるほどの強さをいまのわたくしは持ち得たのでしょうか?
自分でもいささか疑問ですが、己を信じる他運命を切り開く術はありません。
春香「貴音さん、随分早くに来たんですね」
始まるまで、まだ時間は一時間ほどありました。
貴音「そういえば、たしか十月前にもここで春香と話しましたね」
春香「あれからもう十ヶ月かぁ……なんだか十年くらい経っちゃった気がします」
春のひだまりは眠気を誘うほど優しいのに、桜の花の慌ただしさはいったいなんなのでしょう。
散るさまがいかに美しくとも、心が掻き立てられ、なんだか落ち着かない気持ちになってしまいます。
今日の花見に、あの方がやってくる。
頑なであったであろうあの方の決意を、律子はどのように翻意させたのでしょうか。
魔法でも使ったとしか考えられません。
そのことは後で直接聞いてみることとして、今は心を静めることに集中いたしましょう。
全てを話して一月、いろいろと考えた結果、
ようやくわたくしは自分なりの答えを見つけるところまで至りました。
後はそれを実行できるかにかかっています。
それができるほどの強さをいまのわたくしは持ち得たのでしょうか?
自分でもいささか疑問ですが、己を信じる他運命を切り開く術はありません。
春香「貴音さん、随分早くに来たんですね」
始まるまで、まだ時間は一時間ほどありました。
貴音「そういえば、たしか十月前にもここで春香と話しましたね」
春香「あれからもう十ヶ月かぁ……なんだか十年くらい経っちゃった気がします」
貴音「春香の言ったとおり、今年もみんなで花見をすることになりました」
春香「でも、プロデューサーさんが事務所に戻ってきてくるかはわからないじゃないですか」
あの方が帰ってくると知った春香は徐々に明るさを取り戻してはいましたが、
まだどこか暗いわけはそうした不安からなのでしょう。
貴音「それなら心配はいりません。あの方はまたプロデューサーに戻ってきてくれます」
春香「なんでそんなこと言い切れるんですか?」
貴音「それはとっぷしーくれっとです。答えはじきにわかりますからご安心を」
次第に皆も集まってきて、予定の時間五分前には全員が揃いました。
残るのは、あの方だけです。
小鳥「プロデューサーさん、子供の作り方知ってます?」の貴音編の続きかな?
――あの方がやってまいりました。
皆の視線が、いっせいにあの方に注がれます。
わたくしはすっと立ち上がって、あの方に相対しました。
貴音「わたくしは、今この場であいどるをやめさせていただきます。
だからあなた様はこの事務所で、ずっとプロデューサーをしてください。
もう、独りになどさせません。ずっとそばに置いていただきます。
もし逃げようとも、地の果てまでも追いかけて、絶対にあなた様から離れません」
春の空に響く声で高らかにそう言うと、わたくしはあの方に歩み寄り、その胸元に飛び込んで、強く抱きしめました。
突然の宣言と行動に、皆は面食らっているようです。
この方が己の夢を犠牲にしてまで守ってくれたものを自ら捨てるなど、わがままにも程があることはわかっております。
けれどもわたくしは、夢よりも何よりもこの恋が大切で、それ以外を捨てる覚悟なら、今度こそ決めてまいりました。
もしこの一年で、皆のいろいろな強さを知ることがなかったのなら、きっとそれはかなわなかったでしょう。
答えはあの日と同じでも、覚悟だけは違います。
もっとも私の罪は何も許されたわけではない。それはもちろんわかっております。
ですからそのことは後ほど全てを話した上で、きちんと謝らねばならぬでしょう。
――ですがほんの少しだけ、今だけは誰にも邪魔されないままに、この方と二人で過ごさせてはいただけませんか。
願いが天に通じたのか、突然吹いた春一番が舞い散らせた幾千もの花びらが、わたくしたちを隠してくれました。
目に映る薄桃色の世界には、わたくしたち二人だけで他には誰もおりません。
首筋にするりと手を回すと、わたくしはこの方の唇を奪いました。
一年分の思いを込めた接吻からは、するはずもない、桜の花の香がするような気がいたします。
皆の視線が、いっせいにあの方に注がれます。
わたくしはすっと立ち上がって、あの方に相対しました。
貴音「わたくしは、今この場であいどるをやめさせていただきます。
だからあなた様はこの事務所で、ずっとプロデューサーをしてください。
もう、独りになどさせません。ずっとそばに置いていただきます。
もし逃げようとも、地の果てまでも追いかけて、絶対にあなた様から離れません」
春の空に響く声で高らかにそう言うと、わたくしはあの方に歩み寄り、その胸元に飛び込んで、強く抱きしめました。
突然の宣言と行動に、皆は面食らっているようです。
この方が己の夢を犠牲にしてまで守ってくれたものを自ら捨てるなど、わがままにも程があることはわかっております。
けれどもわたくしは、夢よりも何よりもこの恋が大切で、それ以外を捨てる覚悟なら、今度こそ決めてまいりました。
もしこの一年で、皆のいろいろな強さを知ることがなかったのなら、きっとそれはかなわなかったでしょう。
答えはあの日と同じでも、覚悟だけは違います。
もっとも私の罪は何も許されたわけではない。それはもちろんわかっております。
ですからそのことは後ほど全てを話した上で、きちんと謝らねばならぬでしょう。
――ですがほんの少しだけ、今だけは誰にも邪魔されないままに、この方と二人で過ごさせてはいただけませんか。
願いが天に通じたのか、突然吹いた春一番が舞い散らせた幾千もの花びらが、わたくしたちを隠してくれました。
目に映る薄桃色の世界には、わたくしたち二人だけで他には誰もおりません。
首筋にするりと手を回すと、わたくしはこの方の唇を奪いました。
一年分の思いを込めた接吻からは、するはずもない、桜の花の香がするような気がいたします。
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