元スレ一夏「俺が殺し屋に・・・?」 男「・・・・そうだ」
SS覧 / PC版 /みんなの評価 : ☆
1 :
IS学園 夏
ここ連日の猛暑と湿気、さらにISを使用しての野外授業。
そして放課後の特訓。精神的にも肉体的にも疲労が溜まる。
「今日も疲れたなぁ」
ISスーツを脱ぎながらひとりごとがポツリと口から自然と出る。
俺はシャワーを浴び、俺と同じように疲れきったと言わんばかりの夕日を
左手に見つめながら、寮への帰路を歩いていた。周りには誰もいない。
夕日が作るオレンジ色の世界。
疲労からだろうか、俺の注意不足からだろうか、その男の気配に気付かなかった。
男「貴様が織斑一夏か?」
俺の後ろから突然声がした。
2 = 1 :
俺は突然の問いかけにゆっくりと振り返る・・・・。
細長いめがねを付け、無精髭を生やし、髪がぼさぼさの男がそこにいた。
身長は俺と同じくらい、歳は30代後半といったところだろうか。
真っ黒なスーツにノーネクタイ。暑さからだろう、Yシャツのボタンは第二ボタンまで外されている。
Yシャツの隙間から見える体と、黒という収縮色にも関わらず伝わってくる無駄の無い筋肉質な体。
まるで総合格闘技の選手のような体付きだ。
男は俺の顔を品定めするかのように見ていた。
俺は明らかに自分の置かれている状況が非常事態であると咄嗟に判断する。
タイミングを見計らう。
・・・・今だ!
3 = 1 :
俺はカバンを男に向けて放り投げ一気に逃げ出す!
しかし、男はその動きを予測していたかのように体を左へ90度回転させる。
鞄は、バタンという音を立てて虚しく地面に落ちる。
気付いた時には、男は俺の顔に向けて拳銃を向けていた。
カチッ
安全装置の解除される音。
俺は男の顔を見ながら、体を若干崩れた大の字のような形にさせ静止した。
夕日が沈みかけながら、俺達の影を実物よりも数倍に引き伸ばす。そこにある銃と言う名の『異物』と共に。
夕日により引き伸ばされた『異物』の影の大きさは、その物のサイズよりも、存在感を主張するようだ。
4 = 1 :
『人違いだ』と言っても、俺の風体からしてまったく説得力が無い。
ISを使える唯一の男・・・。相手を刺激するだけだ。発砲されては元も子もない。
数秒だろうか、数十秒だろうか時が過ぎる・・・・。
そして俺は諦めたように自然体になり、男を睨み付けながら答える。
「そうだ・・・・。」
すると男は少し口元に笑みを浮かべ、銃を向けながら俺の方へ歩いてくる。
そして、もう片方の手でポケットを探る。開閉式の白い輪のようなものを取り出した。非常に細い。
銃は遂に俺の眉間に押し当てられた。男の笑みが消える。
指は既に引き金に置かれていることが確認できる。俺の思考が混乱する。
死ぬのか?死にたくない。体は動かない。心拍数が上がる。
男「・・・・・右腕をゆっくり前に突き出せ。」
俺はその言葉に、『そうすれば解放してやる』という意味を含めていることに気付き、すぐに右腕を出す。
男は俺の右腕を見て、また少し口元を緩ませる。
5 :
一夏は既に6人ほど女を孕ませたらしいって噂立てるだけで勝手に殺されると思う
6 = 1 :
そしてゆっくりと、俺の右腕、待機状態になっている、
白式のガントレットの少し上の辺りに白い輪をはめ込む。
パチッ・・・
軽い音を立てる。細長い針金のような輪。しかし、まるで手錠を付けられたような錯覚を覚えた。
かなり手が込んでいる。ものすごいフィット感だ。
男は銃を降ろしながら、この輪について説明をする。
男「俺を殺せば、その輪からナノマシンが血液中に注入されて貴様は死ぬ。」
男「外そうとしても死ぬ。そして、遠隔操作でも俺はお前を殺せるようになっている。」
これは完全なる脅迫だ。俺の目を真剣に見つめる男。
眼鏡越しに見えるその目は、細長い眼鏡のせいもあってか、俺に命令するかのようだった。
7 = 1 :
「・・・・・あんたの目的はなんだ?」
俺は思ったことを言う。これ以上事態が悪化することは無い。そう踏んでの発言だった。
男は夕日に背を向けて俯く・・・・・。まるで陰と陽。悪魔と天使。
・・・・・夕日は男の発言が悪魔の言葉であると教えてくれる。
男「貴様には・・・・殺し屋になってもらう。」
俺の思考の抑えていた物が弾ける・・・。
「理由は?!」
「なぜ俺なんだ!?」
「お前は誰だ!?」
咄嗟に思いついた3つのキーワードをまくし立てるように男にぶつける。
9 = 1 :
男は何も答えず、俺のカバンをゆっくり拾い上げ、土を払って俺に返す。
男「いずれ分かる・・・・・こっちだ、付いて来い。」
男はそういうと、正門の方向ではなく庭を走りぬけ、森も走り抜ける・・・・・。
こちらは付いていくので精一杯だ。男は余裕な様子で走る。俺に合わせてくれているようだった。
壁を越え、さらに走り続け・・・・森を抜けた。
そこには車の通りが疎らな道があり、道の端に黒いセダンが停まっていた。
男は、急かすように助手席に乗るよう指示してくる。
俺は渋々車に乗り込む。
車はこの静かな空間に自己主張をするかのようなエンジン音を立てて走り出す。
だが俺という存在は逆に薄れていく・・・・。
10 = 1 :
車内での会話は無い。男はラジオのニュースを流し始める。
『先日、経済産業大臣が射殺された事件ですが・・・・・』
『・・・・暴力団関係者によるものとの情報が警察からありました。続きまして・・・・』
ラジオを聴きながら、男は時折り舌打ちをする。ニュースに舌打ちする人間など初めて見た。
俺は左腕をドアに引っ掛け、顎を突いて外を眺める。
夕日が沈んでどんどん空が暗くなっていく・・・。腕輪に目をやる。
俺はもう死んだ人間のようなものなのだと思った・・・。
車は月極めの駐車場に付く。近くにはモノレールの駅。
男「降りろ。モノレールに乗るぞ。」
俺は男に促されるように車から降り、男の後ろを歩く。
恐らくこの男も殺し屋なのだろう。その前後に揺れる腕と手で、一体何人殺したのだろうか・・・。
11 = 1 :
モノレールに乗る。
また月極め駐車場に連れて行かれた。次は白のセダン。
足が付かないようにしているのか?
車に乗るよう促される・・・・。
車は走り出す。高速道路を走り、大分南下しているようだった。
真上から少し傾いた三日月が、コンパス代わりになって優しく俺に教えてくれる。
車は港の倉庫のような所についた・・・・。
既に午後9時。人は誰もいない・・・・。
車の速度が落ちる。そしてゆっくりと『4』と書かれた倉庫へ車を入れる男。
ここがこの男のアジトなのだろう。しかし、大きい倉庫だ。
車が倉庫に入る・・・そこには20台近い車が左右に向かい合うように並んでいた。
12 = 1 :
セダン、ワゴン、SUV・・・・・・。
コンパクトカーや軽まであるが数は少ない。防弾を考えてのことだろうか。
男は車をあるべき場所に止める。
男「付いてこい。」
男は俺に促す。『殺し屋になってもらう』そう言われて連れてこられた奴のアジト。
俺に危害を加えるつもりはなさそうだが、接待をしてくれるというわけでも・・・なさそうだ。
『6』と書かれた倉庫に着く。入り口に立ち尽くして中を見渡す。
4番とは大きく変わって、中には何も無い。倉庫奥にある多数のレンガ。
そして・・・・・俺の右方向には多数の重火器。俺はすぐに勘付く。
ここは射撃場だ。
13 = 1 :
男「好きな銃を選べ。」
男は重火器の辺りに立ち、命令するように言う。
俺はゆっくりと銃を見ながら歩いていく・・・・暗い倉庫内にも関わらず、
濃厚で重厚感を感じさせる拳銃が並んでいた。
一目で分かる、これは本物だ・・・・。
男「ハンドガンだ。この中から握りやすいものを選べ。重過ぎて持てないものは除外しろ。」
「・・・わかった。」
そこにあったハンドガン10種類ほどを握り、銃を構え、目を瞑る。右手の感触を頼りに選ぶ。
まるで服を前後間違えて反対に着てしまったような、そんな違和感のある銃ばかりだ。
だが2つ、しっくり来るものがあった。
「これと、これだ。」
男はにやりと笑い、俺に銃の説明をする。
14 = 1 :
男「この銃はリボルバーという種類だ。」
男「警官が持ってるのに似てるだろう?」
男「誤作動を起こしにくいシンプルな構造が利点だが、
弾丸が6発しか入らない。弾の交換も面倒なのが欠点だ。」
男「名前はコルトパイソン。.357マグナム弾を秒速400mで発射する。
百聞は・・・・というからな。耳に指を突っ込んで向こうのレンガを見ろ。」
そういうと男は片手で40mほど離れた向こうのレンガを撃ちぬく。
レンガは粉々だ。すごい威力。そして撃ち出した瞬間に真っ暗な倉庫内が昼間のように一瞬眩く照らされる。
銃口を直視していては、ただでは済まない・・・・。
そう考えながら銃口を見ていると男は物知り顔で言う。
15 = 1 :
男「・・・・・・今のがマズルフラッシュだ。夜の屋内で撃つ際は気をつけろ。」
男「目がやられて当分視界を奪われる。殺し屋としては致命傷だ。」
男「そして・・・・貴様が選んだもう一つの銃だが・・・・・。」
俺はまたレンガを見る。
男は3連射した。
1つ目のレンガには1発、隣にあったレンガには2発撃ちこんだ。
男「レンガを見てみろ。パイソンよりも威力が低いだろう。だからあっちには2発撃ちこんだ。」
16 = 1 :
男「名前はベレッタM92F。米軍が採用している信頼性のある銃だ。」
男「利点は、装弾数と弾の交換速度だ。」
男「15発の弾数。弾の補充はカートリッジ式、迅速かつ確実に行える。反動も低い。」
男「欠点は、威力だ。初速は秒速360m。弾もパイソンに比べ小さい。」
男「まぁ、そんな欠点を補って余りある程に利点がでかいがな。」
俺はそのとき、はたと気付く。そういえばこの男が使っている銃もベレッタだ。
薦めている、といったところか。
「・・・・ベレッタにする。」
17 :
ほうほう
18 = 1 :
男「わかった。今日はもう遅い、寮まで送ってやる。4番へ来い。」
4番倉庫へ向かう俺。男はなにやら荷物を片付けているようだ。
時計に目をやると、時刻は午後10時を差していた・・・・。
空を見る。三日月が斜めを向いて・・・・不気味ににやりと笑っているようだった。
携帯の番号を登録させられた。
男「何かあったら連絡する。」
俺はまた例の森からIS学園へ帰る。
車から降りる際、男がまた少し笑みをこぼしながら俺に言う。
男「良い事を教えてやる。」
男「貴様の時計で、午後11時10分21秒になった瞬間に、寮の入り口から自分の部屋へ走り抜けろ。」
「・・・・あんた、何を言っているんだ?」
しかし男は少し笑みを浮かべながら俺の言葉に耳を貸さず、走り去って行った。
19 = 1 :
俺は理解に苦しむが、言うとおりにしてみる。
寮の入り口。隠れるように中を見る。
11時10分15秒・・・・16・・・17・・・18・・・19・・・20・・・21 !!
俺はダッシュする!可能な限り音を抑えてのダッシュ。
周りから見たらいびつだろうが誰も居ない、知ったことか!
寮長をしている千冬姉が竹刀を持って巡回しているはずだが・・・・
俺は階段を駆け上がる・・・・・やばい、1階から俺の物音に気付いた千冬姉が階段に・・・・・
千冬姉「ぬぉっ!・・・・・なんだゴキブリか。死ね。」ぶちっ
俺がドアの鍵を開けると同時に、千冬姉のびっくりする声が聞こえた。
鍵を開ける音はそれによって掻き消され、千冬姉は俺に気付かなかったみたいだ。
俺はそっとドアノブを回しながらドアを閉めた。
20 = 1 :
しかしあの男、一体何者なんだろうか・・・・。
時間指定までしてきて・・・・・。
秒単位どころか、0.1秒の世界だったぞあのタイミングは・・・・・。
そして右手に目をやる。目立たないよう、ご丁寧に白式のガントレットと同じ色にしてくれて・・・・。
「殺し屋、か・・・・・」俺はまだ夢の中にいる気分だった。
頭の中で男の無精髭と眼鏡、ぼさぼさの頭・・・・・マズルフラッシュ、銃声・・・・・・色々なものが入り混じる。
携帯に目をやる。
2010年9月4日、俺の新しい人生の誕生日だ。
今日はなんてひどい日なんだろう・・・・誰かに相談・・・・・遠隔操作の可能性が捨てきれない、か。
当分このまま過ごそう。まだ殺しはさせられないはずだ・・・・・訓練させてからになるだろう。
その間に対策を練ることにすればいい。
疲れた、今日はもう寝よう・・・・・体が重い・・・・ベッドに沈み込んで行く・・・・・・・・。
21 = 1 :
2日後
朝起きると同時に、あの男から連絡が来る。どこからか監視されているのだろうか?
この腕輪が怪しい。遠隔操作と言っていたが他にも機能を持たせているのだろう。
休日だというのに・・・・少しイライラしながら電話に出る
「なんだよ・・・・」
男『今からモノレールに乗って私服でこっちへ来い。発着場のターミナルで待っている。』
そういうと同時に奴は電話を切る。特に予定は無かったのが幸い、と言ったところか。
ターミナルへ着く。50mほど離れたところから男が俺の方を見ている。
傍にはシルバーのSUV。俺はゆっくり車へ歩いて行き、無言で助手席に乗り込む。
車の中では、俺も奴も無言だ。
例の倉庫に付く。車を4番に止め、6番へ向かう。
男「今日はナイフだ。」
22 = 1 :
そう言うと奴は、俺に木を削ってできたナイフのようなものを投げてよこした。
奴も同じものを持っている。
すると突然、奴は俺に襲い掛かってきた。俺の首を狙う。俺はそれを弾き返す。
「何するんだよ!」
男「ナイフ、と言ったろう。」
奴の攻撃は止まない、奴は動きながら言う。
男「人間の急所は頭部から真下へ向けて、並んでいる。」
男「どこかに刺せば死亡・もしくは重症を負わせることができる。」
俺は奴の攻撃を防ぐので手一杯だ。反撃ができない・・・・・。
木製とは言え、当たれば痛い。腕や足を狙われ、隙を作れば急所に容赦なく当ててくる。
男「これで5回、お前は死んだことになる」
俺の急所にナイフを当てる度に挑発するかのように言う。
23 = 1 :
1時間に15分休憩が入る。ミネラルウォーターを渡され、がぶ飲みする。
真夏の倉庫は、汗が滝のようにでるほど暑い。
あの男はスーツでも汗一つかいていないというのに・・・。
俺は、そろそろ急所に当てられることも無くなり、反撃に転じ始める。
奴はあくまで冷静に、少し笑みを浮かべて言う。
男「飲み込みが良くて嬉しいな。次のステップだっ!!」
そういい終わると突然、奴は俺の顔面に向けて左足で蹴りを入れてくる。
速い!
俺は咄嗟に右腕で頭部を守り、左腕で右腕を支えるように防御の体勢を取る。
「くっ!」
蹴りが重い・・・・。俺は踏ん張っていたにも関わらず体全体が左に少し「ジャリッ」っという音を立ててスライドする。
奴は間髪居れずに、次は俺の右足を蹴る。俺は体勢を崩してしまい・・・・。
男「26回目だ。」
24 = 1 :
これが次のステップだった。体全体を使っての攻撃だ。ナイフだけに意識を集中させない近接戦闘。
男「ナイフや格闘はあまり音を経てない。無音での殺人は敵の応援を呼ばれることもない。」
「解説付きの御指導とは、ありがたくて涙が出るぜ!ふんっ!」
ナイフによる殺しの練習は続く。
打撃に始まり、投げ、間接技、フェイント、呼吸のタイミングをずらしての攻撃・・・・。
男「・・・もう夜か。近接戦は一通りやった。これを今後も当分続ける。」
奴は平然と、大の字になってぶっ倒れ、呼吸が荒くなった俺に言う。奴はまったく息切れしていない。
男「まずは基礎トレーニングだ。明日から始めろ。アリーナと部屋でやれば目立たないだろう。」
25 = 1 :
男「アリーナ20周、腹筋500回、腕立て伏せ200回、これらを1日でこなせ。」
男「時間が許す限り順番に、そして3日に1日は休め。あと魚ばかり食うな、肉を食え。」
「ふ、ふざけんじゃ・・・・はぁはぁ・・・・・ねぇぞ・・・・はぁはぁ・・・・・・・・」
男「今すぐできるようになれとは言わん。少しずつ、確実にやっていけ。」
男「ただ、無理はしろ。限界が来たら意地を張れ。俺の顔でも思い出してな・・・・。」
男はそう言うと、含み笑いをして車を取りに行った。
俺は次の日から言われたメニューをこなす。
アリーナは10周も周れない、腹筋は200回止まり、腕立て伏せに至っては50回が限界だった。
26 = 1 :
翌朝
箒「おい、一夏!朝稽古を始めるぞ!!」
そういえばコレがあったんだった・・・。
まだ午前5時だ。昨日の疲労がまだ取れていない。俺は箒に断りを入れる。
「頼む、今日は勘弁してくれないか・・・?」
箒の顔が歪む。何ヶ月も続けてきた毎日の朝練。
分からなくもない。
箒「一夏!貴様、気が弛んでいるのではないか!?」
箒は俺を無理やり起こそうとするが、俺は足腰が立たない。
よろよろと箒によりかかりって抱きついてしまった。
「すまん・・・・本当に今日は無理なんだ・・・・・・。」
俺が力の抜けた声で箒に言うと、初めは怒っていた箒も異変に気付いたようだ。
27 :
これワンサマーを鍛えるのが目的なんじゃないの
28 = 1 :
箒「・・・・・一夏、体の調子でも悪いのか?」
心配そうに声をかけながら、俺をベッドに座らせる箒。
「あぁ・・・・今日は学校を休むよ・・・・・・千冬姉と山田先生にも、そう伝えてくれないか・・・・・・」
さすがの箒もそんな俺に稽古をさせる訳もなく
箒「分かった。今日はゆっくり休め。」
「ありがとう・・・・箒・・・・・・・。」
俺はそこで意識が飛ぶ。気がつくと午後3時を回ったところだった・・・・。
なんとか動ける程には回復したが、筋肉痛で体が痛い。
時刻は放課後。奴から指示された筋トレを体に無理をさせてでも始める。
完全にやけくそだ。
29 = 1 :
アリーナを走っていると、ISに乗ったシャルが俺と併走しながら話しかける。
シャル「ねぇ一夏、何してるの?」
興味津々、というよりは病み上がりでランニングをしている俺を心配するように声をかけて来る。
「はっはっ・・・はっはっ・・・ISの操縦をするにしても・・・・はっはっ・・・はっはっ」
「基礎体力は大事だろ?・・・・・はっはっはっ・・・・・」
シャル「うん、それはそうだけど・・・・体には気をつけてね?」
心配するシャルを横目に、俺はシャルを突き放すように走るペースを上げる。
誰も巻き込みたく無い。俺は一心不乱に走った・・・・。
30 = 1 :
次の日から、箒の朝稽古を断る。
「基礎体力を付けたいんだ。」
箒はなかなか納得してくれなかった。
箒「一夏・・・・貴様、もしかして私と稽古をしたくないのか!?」
鬼の形相で俺に迫る箒。
「そういうわけじゃないんだ。稽古をするにしても、基礎体力が無いと意味がないだろ?」
取り繕うように言う。これで当分はやり過ごせると思ったのだが・・・・
箒「な、ならば・・・・・私も付き合おう!!」
「えっ・・・・・?」
31 = 1 :
俺は固まる。箒は頬を高潮させ、腕を組み左上を見上げている。
思ってもいない提案だった。断り様が無い・・・・・。
「わかった、じゃあ放課後にアリーナに来てくれ。ISスーツの方が動きやすくていい。」
俺は観念して、箒の提案を受け入れる。
仕方が無い・・・・まさかこんな形で巻き込むことになるとは・・・・。
箒「よ、よしよし!そうこなくてはな!ふふん♪」てくてくてく・・・
箒も一緒なら、周りから見てもあまり気にされないだろう。
それに、あわよくば道場を使うこともできる。
まがりなりにも箒が味方になってくれたのだから・・・・。
しかし一線は引かなければならない。箒に知られてはいけない。
俺が人殺しのためにこの訓練をしているなどとは・・・・。
32 = 1 :
放課後
箒「な、なんだこのメニューは!?」
俺が手書きのメニュー表を渡すと、箒は唖然とする。
「とりあえずアリーナ20周からな。行くぞ。」
箒はメニュー表を握り締めて俺についてくる・・・
初めこそ付いてこれたが4周もすればペースが落ちて、俺とは半周ほどの差ができる。
6周目には倒れてしまっていた。完全に足手まといじゃないか、箒・・・・。
俺は足踏みしながら箒の横で言う。
「おい、箒大丈夫か?俺はあと10周あるからそのまま寝ててくれ。」
「まぁこの調子じゃあと5周が俺も限界だけどな。」
箒「き、貴様は・・・・化け物かぁ・・・・・・・。」
部屋に戻り、腹筋、腕立て伏せ・・・・・箒は途中で挫折してしまった。
33 :
続きが気になる
34 = 1 :
完全に精神力の差だ。俺は死と隣り合わせの状況。
筋肉が悲鳴を上げれば奴の顔を思い出し、耳に蓋をする。
続けるうちに筋肉の悲鳴が逆に感じなくなる、意識が遠のいてくる。さすがにヤバイ、止めよう。
隣で箒がぶっ倒れているのに気付く。腕立てしていた状態で寝てしまっている・・・。
俺の隣のベッドで寝かせてやろう。しかし、こんな細い体でよくついてこれたな、と関心する。
次の日、箒は学校を休んだ。
箒「す、すまない・・・・・」
それから箒は朝稽古の話を出さなくなったが、逆に距離を取れてありがたい。
俺は黙々とトレーニングを続ける・・・・・。
2週間経った頃からだろうか、奴に言われたメニューをこなすことができるようになっていた。
そして、また奴から連絡が入る。俺の休日を全て取り上げる気か?
今日もナイフの特訓だ。
35 :
これ、パクりじゃん
あーあ
36 = 1 :
特訓後に、奴は俺の体を触り始める。
「おい、何やってんだ」
男「ふむ。良い感じに筋肉が付いてきたな。それに、息切れもしていない。」
「あっ・・・・・」
言われて初めて気付く。俺の体は確実に殺し屋の体に近づいている・・・・。
男「メニューを一部変更する。アリーナを走るスピードを今の1.5倍まで上げろ。歩幅は変えてもいい。」
男「腹筋は3000回に変更。腕立て伏せは片腕で200回ずつやれ。」
「ふ、腹筋3000回!?」
俺は思わず目を見開いて問いかける。桁が一気に上がった。
「ふざけるな!だいいち、時間がねーよ!」
男「ペースを上げろ。1秒に1回やれば1時間で釣りが来る。余った時間でゆっくり茶でも飲めばいい。」
奴は平然と言い放つ。話としては破綻はしていない・・・・。確かに1回1秒は可能だが・・・・3000回もできるだろうか。
「・・・・・・・・わかった」
男「何かあったらまた連絡する。帰るぞ。」
37 = 1 :
帰りの車の中・・・・・
相変わらずニュースのラジオを垂れ流す男。
俺は窓の外をただぼーっと見る・・・・・。
ただの歩道。ただの街灯。ただのビル・・・・・。
なぜだ、なぜ違和感を感じる・・・・・ただの『もの』のはずだ。
必要があるからそこにある、ただそれだけなはず。
そして気付く・・・・・・・・俺がこの町にとって異物なのだ。
隣にいる男に命を握られ、毎日の特訓。
体が、脳が、心を壊さないように気遣って、俺の精神を冷酷にしていく。
俺は俯いてしまった。俺はもう後戻りできないのだ・・・・・。
そんな時、奴は言った。
38 = 1 :
男「篠ノ之箒は元気にしているか?」
「は?」
思考が停止する。体が震える。恐怖?怒り?悲しみ?
自分の感情が分からない。この男は何を言っているんだ?
俺は叫んだ。
「てめぇ、箒にまで手を出したのか!!」
俺は運転中にも関わらず奴の体を揺さぶる。
しかし、奴はあくまで冷静に、俺の腕を振りほどく。
その勢いで俺は窓に頭をぶつけた。
39 = 1 :
男は、前を向きながら少し焦点の合っていない目で、呟くように言う。
男「昔の・・・知り合いだ・・・・・・。」
それでも興奮する俺に向かって奴は宥めるように言う。
男「もう、会いたくても会えないんだ。手を出す以前の問題だ。」
奴の説明が不足し尽くしている。
詳細な事を言わない。
問い詰めても、答えないと言わんばかりの威圧感だけで返してくる・・・。
とりあえず俺は奴の言葉をそのままとらえ、黙り込んだ。
40 = 1 :
それから4ヵ月が過ぎた。
実物のナイフにカバーをつけてのリアルな訓練、
格闘、重火器の取り扱い、スナイピングの練習、
トラップの仕掛け方、死体処理の方法、思考戦、
偽名による身分証名書の偽造、車の運転と盗み方・・・・・・
俺は完全に殺し屋になっていた。
今の俺なら奴とやりあっても刺し違えるか、若干優勢な程に・・・・・。
41 = 1 :
1年1組・2組合同でのIS野外授業。
セシリア「一夏さん?なんだかすごく体が・・・・筋肉質で男性らしいですのね・・・・・///」
ISスーツ越しに見える俺の明らかな体の変化。腹筋の割れ具合。誰がどうみてもおかしい。
「半年ほど特訓していたからな。触ってみるか?ははははは」
俺はセシリアに近づきながら、無理に冗談を飛ばし、話の方向を変える。
セシリア「い、いえ・・・・と、殿方の体を無闇に触るのはやはり気が引けますわ・・・///」
そういって俯いてもじもじするセシリア。とりあえずこれで問題ないだろう。
42 = 1 :
授業が始まる。
既に俺の殺し屋としての腕前はほぼ一流。ISの操縦においてもそれは発揮される。
奴から訓練を受けたナイフ、格闘戦、そして思考戦の成果が裏目に出た。
千冬姉「おい、一夏、凰。前に出ろ。」
千冬姉「これより近接戦闘における模擬戦を行う。」
千冬姉「よく見ておけ。よし、ふたりとも行け。」
その日の俺は精神的に疲れていた。これまで通りの学園生活を続けるために無理に笑顔を作り、
ISでの操縦ではわざと動きが悪いように見せかける・・・・・。
いつも緊張の糸が引っ張られていて、疲れていたのだろう・・・・。
この日、少し糸が緩んでしまった。
鈴「いくわよぉ、一夏!また前みたいにボッコボコにしてあげるからねぇ!」
「あぁ、望むところだ。」
ピーッ
千冬姉の開始を告げる笛が鳴る
43 = 1 :
俺は動かない。自然体で止る。
鈴は、少しブーストで後ろに移動した後、一瞬思考が止ったようだ。
様子見、という感じで龍砲のチャージを行いながら左へブーストを・・・・・
俺は次の瞬間一気に左へブーストをかけ鈴の目の前に突っ込む。
右手で雪片を振りかざす。それを防御する体勢を取る鈴。
「がら空きだぞ?」
俺の一言に我に帰った鈴が俺の顔を呆然と見つめる。
俺は右方向にブーストを一気に掛けながら鈴の右わき腹に左蹴りを叩き込む。
吹っ飛ぶ鈴。俺は容赦しない。そのままブーストの勢いで吹っ飛ぶ鈴を追い詰める。
鈴はほとんどパニックだ。
吹っ飛ばされながら龍砲で弾幕を張る。当たる訳が無い。
吹っ飛ぶ鈴を真上から雪片で斬りつけようとする。これもフェイントだ。
44 = 1 :
鈴はまたもそのフェイントにかかる。『もっと柔軟な思考をしろ』
俺は奴に言われた言葉とまったく同じ言葉を鈴に向けていた。
俺のフェイントに気付かず両腕でガードをする鈴。
またも腹ががら空きだ。俺はブーストをかけ、右足で鈴を地面に踏み潰した。
マウントポジションからの、雪片による突き、突き、突き・・・・防御しにくい攻撃だ。
両腕で、まるで旗を地面に突き刺すように繰り出される、強力・迅速・確実・防御不可能な攻撃。
龍砲を撃てば自爆。
鈴は恐怖のあまり泣きそうな顔をしている。
俺の顔は太陽の逆光で、さぞや怖かっただろう。
それとも冷徹な殺し屋の眼をしていたのが怖かったのだろうか・・・・。
終了の笛が鳴る。
俺は動けなくなった鈴をかかえて千冬姉のところへ行く。
千冬姉は押し黙ってしまった。
千冬姉の眼を見る・・・・その瞳に映った俺は・・・・・『奴』と同じ眼をしていた。
46 = 1 :
ある休日の昼、男が言う。
男「試験だ。ミニバンを出せ。」
「わかった。」
俺は4番倉庫からMPVを出す。
奴は後部座席に色々と載せているようだ。
昼間だというのに、今日は冷える・・・しかし試験とは何だろうか・・・・・。
そんなことはどうでもいい。俺の冷酷な部分が心を侵食しきっていた。
それを遠くから見つめる俺がいた・・・・。
奴がナビを設定した。
番地名しか入っていない。施設ではないようだ。
民家か、空き地か、工事中か・・・。
俺がナビ通りに車を運転する。
47 = 1 :
すると突然、奴が道を指示し始める。
男「そこを左だ。そして右。あとは直進しろ。」
奴の言うルートはやたらと狭く、MPVではかなり運転しにくい。
男「よし、ナビ通り元の道にもどれ。」
俺は言われたままに運転する・・・・・。
元の道に出る・・・・。
男「バックミラーで後ろを見てみろ」
警察が検問をしている・・・・・・なぜ分かる?こいつは何者だ?
俺は問い詰めたい衝動に駆られるが、止めた。この男は答えない。
ただ1つ分かったことが、いや確信したことがある。
これまでの奴の行動や言動は、全てにおいて結果が伴っているということだ。
48 = 1 :
『この男に付いて行け』と本能が言う。
その通りだ。この男に付いて行けば、何もかもが上手く行くのだ・・・・。
(何もかも・・・・ねぇ・・・・・・人を殺すこともか・・・・・・・・・?)
上から俺を見ている、もうひとりの俺が言う。
俺は耳に蓋をし、聞こえないようにさらに冷酷で冷徹になった・・・・・・。
着いた。場所はビルの工事現場。
男「このまま車で中に入れ。ゆっくりな。」
淡々と説明を始める。
男「このビルは建設途中で建築会社が破綻してな、今は工事が一時凍結されている。」
男「後部座席のものを持って、着いて来い。」
49 = 1 :
俺は左脇のホルスターに入っているベレッタの残弾を確認し、
予備マガジンの存在を確認してから荷物を持った。
車は奥に隠し、すぐ出られるよう進行方向を出口に向けて止める。
この重量と長さ・・・スナイパーライフルだ。
恐らくいつも練習に使用しているレミントンM700。
工事用の階段をつたう。11階建てのビルだが、8階で配置に着くよう奴から言われる。
柱と床、天井しかないビル。ところどころ青いビニールシートで外から覆われている。
奴は、そのシートの陰に隠れるような場所を指定してくる。
男「あっちに銃を向けてセッティングしろ。」
やはりM700・・・えっ、セッティング・・・・・・?
「人を・・・・・撃つ・・・・・・・?」
50 = 1 :
俺は、いつかこういう日が来ると、そしてこのビルに付いた時もこうなるだろうと予測していた。
しかし今までのレンガとは違う。人だ。人間だ。
俺が殺すのか?なぜ殺さなければならない?
今になってあの冷徹だった俺はどこかへ行ってしまった。少しパニックになる。
男はそんな俺に檄を飛ばす。
男「そうだ、殺すんだ。早くセッティングしろ」
俺は奴に促され、薬きょうの装填、体の固定、奴が事前に仕掛けた布切れによる風向きと風速の確認・・・・・・・。
少しずつ冷静さを取り戻す俺・・・・・そしてこの『セッティング』という名の儀式により、冷徹な心を取り戻した。
男「距離は600m。今のお前の腕ならレミントンでも1kmは余裕だろう?」
奴は隣で双眼鏡を構え、俺と同じように寝そべっている。観測手という奴だ。
男「正面のあのでかいホテルが分かるか?入り口の左右にクリスマスのツリーがでかでかとある。」
分かる。分かるさ。でもそんなことより分からないことがあるんだ・・・・・。
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