私的良スレ書庫
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元スレ八幡「俺の後輩がこんなに非力なわけがない」
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いろは「あっ、先輩」
八幡(うげっ)
いろは「ちょうどいいところに。今から探そうと思ってたんですよー」トコトコ
八幡「……こちらスネーク、潜入する前に発見された。逃亡を開始する」
いろは「逃がしませんっ♪」ガシ
八幡(こちらスネーク。死んだ)
いろは「明日なんですけど、生徒会のほうでちょこーっとだけ手伝ってもらいたいお仕事がありまして」
八幡「絶対ちょこっとじゃないやつでしょそれ…」
いろは「そんなことないですよー」
八幡「つーか明日学校ねぇだろ、祝日だぞ」
いろは「土日でも祝日でも学校はありますよ?」
八幡「違う、そんな小学生なぞなぞがしたいんじゃない。授業が無い以上登校する義務も無いってこった」
いろは「そうですかー……あれ? こんなところに戸塚先輩が部室で着替えてるときの写真が」サッ
八幡「で、どこに何時だ?」
翌日
いろは「先輩、おはようございまーす」
八幡「おう」
八幡(学生のうちから休日出勤とか完全に社畜体質じゃねぇか。なんで来ちゃったんだろう)
八幡(いや写真に釣られたんですけどね。なんで釣られちゃったんだろう…)
いろは「ではさっそくですけど、この段ボールを倉庫まで運ぶの手伝ってください」ポム
八幡「何入ってんだそれ?」
いろは「さあ? 備品としか聞いてない…です…っ」グッ
八幡「……」
いろは「……」ゼェ ゼェ
いろは「せーんぱぁーーい!」
八幡「はいはい重い物持てないわたし可愛い可愛い」
いろは「えっ、かわいいですか?」
八幡「ポジティブだな……よっこらせ」グッ
八幡(って、マジで重いなこれ!)ズシ
いろは「わー、先輩すごい。力もちですね」
八幡「ま、まあな。で、これをどこの倉庫って?」
いろは「美術室の横んとこっぽいです」
八幡(遠いなおい。階こそ同じだが別棟じゃねぇか)
いろは「先輩ひとりでいけそうですか? 応援いります?」
八幡「一人だと正直きついかもしれん……頼んでもいいか?」
いろは「任せてくださいっ」
八幡(副会長あたり呼んでくれりゃなんとかなるか。あいつまたイチャついてんのかな。よし全部やらせよう)
いろは「せーんぱいっ、ファーイト!」
八幡「……」
いろは「がんばれ? がんばれ?」
八幡「そういう応援かよ…」
八幡(でも不思議、ちょっと頑張りたくなっちゃう! 頑張って働きたくなるとかマジ闇の呪文だな…)
いろは「じゃ、台車出しますか」
八幡「」
八幡「台車あんなら最初に言えよ……なに? わざと?」
いろは「やだなぁ、忘れてたんですよー」
八幡(本当だろうな)
いろは「えーと、たしかこの辺に……あーありましたありました。よいしょ」グイ
八幡(まぁ一色も早く終わらせたいだろうし、わざわざ時間かけるような真似はしないか)
いろは「ふーんーっ!」ググ
いろは「……」ゼェ ゼェ
いろは「せーんぱぁーーい!」
八幡「えぇ……」
八幡(台車動かせないのは流石に非力すぎでしょ。ヒリキングなの? いやヒリクイーンか。なにそれカラムーチョみたい)
いろは「なんか全然動かないんですよー」
八幡「どれ、任せてみ」
八幡(確かに別のもんが乗ってるけど動かないなんてことは無いだろ)ガッ
八幡「……あれ?」
八幡「なんだ? なんか引っかかってるような」
いろは「壊れてるんですかねー?」
八幡(しばらく放置されてたっぽいし、車輪がバカになってんのか?)
八幡(……あ、違うわ。輪留め掛かってるってだけだ)カチ
ガラ…
いろは「おー、動きました!」
八幡「問題なさそうだな。んじゃ乗せ変えて運ぶか。よっこいせ」ドサ
いろは「なんか魔法みたいですね。先輩将来は魔法使いになるんじゃないですか?」
八幡「いや輪留め外しただけだから。つーか台車を動かす魔法って……確実に需要ねぇだろ」
いろは「ものを直す魔法ってことですよ」
八幡「あーまぁ、そう考えればわりとすごいな」
八幡(ところで将来は魔法使いとか『30歳で童貞じゃないですか?』って言われてるみたいでドキッとするんでやめてくれませんかね…)
ガラガラ
八幡「美術室の隣の倉庫……ここか。鍵付いてるけど」
いろは「はい。わたし鍵もってるんで」
八幡(試しに10円玉積んでみりゃよかったかな)
八幡(いや無理だ、万一成功でもして一色と二人で閉じ込められたらもうね、うん。そもそも体育館倉庫じゃないしね)
いろは「これでよしと。いまあけま…」ガッ
いろは「ふっ! んーっ! ……!」
いろは「……」ゼェ ゼェ
いろは「せーんぱぁーーい!」
八幡「はいよ…」
八幡(何回目だよこのやり取り)
八幡「よっ……てなんだこれ、立て付け悪いな」ガタ ガタ
いろは「ボロいんですかねー」
八幡「まぁでもスライド式のドアじゃよくある話だ。こういうのは少し持ち上げて動かせば大抵なんとかなる」グッ
ガララ
いろは「おーっ! 先輩ナイスです」
八幡「フッ、俺の経験値を舐めてもらっちゃ困るぜ」
いろは「やっぱり将来は魔法使いですね」
八幡(だからそれやめて! 完全に経験値ゼロだから!)
八幡「このへんでいいのか?」ドサ
いろは「いいと思います。配置はテキトーらしいんで」
八幡「しかしなんでまたこんな場所に。もっと近くの倉庫もあるだろ」
いろは「ここゴミステ近いんで、ほぼほぼ使わないもの集めてるみたいですよ」
八幡「あー、そういうこと」
いろは「それと、今回は持ってくものもあるんで。えーっと…」
八幡「持っていくもの?」
いろは「生徒会室の資料見てて気づいたんですけどー、ここに昔買って使ってない絵の具缶とかがあるはずなんですよねー」ゴソゴソ
いろは「今日の材料の足しになるかなーと思って。棚って書いてあったからたぶんこの辺に…」
八幡(古い資料とかちゃんと読み込んでんのか。案外きっちり仕事してんなぁ)
いろは「あっ、これじゃないですか? これですこれです!」
八幡「ほーん、結構あんのな」
いろは「体育館まで運ぶんですけど、せっかく台車あるんで一式持ってっちゃいましょう」
八幡「一色が一式?」
いろは「あっはっはっはっは」パチパチ
八幡「やめて! 真顔で拍手は本当につらい!」
いろは「もー、バカなこと言ってないでちゃっちゃと運びますよ。ていっ…!」グッ
八幡「あーあー無理すんな。俺がやるから」
いろは「待ってください! これくらい、ならっ…」ググッ
八幡(お、持ち上げた)
いろは「んしょ………っと!」ドサ
いろは「ふー……ど、どうですか」
八幡「すごいすごい」
いろは「うわー、全然心こもってませんね」
いろは「せっかくがんばったのに。ちょっとくらいごほうびあってもいいんじゃないですかねー」
いろは(たとえば、あたまなでてくれるとか……なんて)
八幡「そんだけで給料貰えるほど仕事は甘くないんだよ。鍵貸せ、締めるから」
いろは「はーい」
八幡「これでよしと。んじゃ体育館に……あ」
いろは「どうかしました?」
八幡「ちょいと失礼」ポンポン
いろは「ひゃっ。な、なんですかー?」
八幡「いや、髪になんかワタが。こん中結構ホコリっぽかったしな」
八幡(ってやべ。何の気なしに触っちゃったよ……お触り禁止ですよねそうですよね)
いろは「……ありがとうございます」フイ
八幡(……セーフか? ふぅ、おいくら万円請求されるのかと思ったぜ…)
いろは(えへへっ)
ガラガラ
八幡「で、なんで体育館なんだ?」
いろは「もうすぐ学校を会場にしたイベントがあって、生徒会で立て看板作ってるんですよ」
八幡「へぇ。どんなのを?」
いろは「んー、案内板とかがメインですけど、まぁ見たほうが早いですかね」
八幡(そんなもんまで作るのか)
いろは「あ、それとりあえず壁際に置いといてくれます? わたしちょっと進捗見てくるんで」
八幡「おう」
いろは「おつかれさまでーすっ。みなさん順調ですかぁー?」トテトテ
八幡(壁際壁際、と。この辺でいいか)
八幡「……」
八幡(おー、会長らしくちゃんと仕切ってるな)
八幡(というか、見事に副会長あたりを顎で使ってますね……いいぞもっとやれ)
八幡(それより俺は待機でいいんだろうか。こっそり帰っても……いや、後が怖いからやめておこう)
八幡(お、戻ってきた)
いろは「先輩先輩ー、持ってきた絵の具に白ってありましたっけ? なんか足りないっぽくてー」
八幡「えーと……あー、あるある。ほれ」
いろは「さっそく役立ちましたねっ」
八幡「その茶碗は?」
いろは「小分け用ですよ。まるごと使うとうっかりほかの色混ぜちゃうかもですし」
八幡「なるほど、確かにそうだな」
いろは「いったんフタあけないとですね。ここを持って…」
八幡(あ、これは)
いろは「んー! ふぎぎぎ…っ!」ググ
いろは「……」ゼェ ゼェ
いろは「せーんぱぁーーい!」
八幡「だと思ったよ…」
いろは「うー、指いたいですー」
八幡「未開封だと固いもんな。貸してみ」
いろは「……粗茶ですが」スッ
八幡「白い茶とか聞いたことねぇよ…」
八幡(開けたら飲めってことなの? 顔が真っ白になった上に白泡吹くっつの)
いろは「緑のほうがよかったですか?」
八幡「いや色の問題じゃないから…」グッ
八幡(ぐっ、やっぱ固いな。テコでも使ったほうがいいか?)
いろは「あ、少し浮いてきてます! いい感じですっ」
八幡「おお……そうか。つーかあんま、顔近づけないほうが…」ググッ
ポン!
いろは「わっ」
八幡「っと、あぶね」
八幡(溢れるとこだった。こんなブルーシートもないとこでぶちまけたら最悪だ)
いろは「……なんか飛んできましたぁー」
八幡「え」
八幡「だ、大丈夫か? まさか目に入ったんじゃ…」
いろは「いえ、目は大丈夫なんですけど……たぶんこのへんに」
八幡「あー、頬んとこに付いてるな」
八幡(やっちまった。けど目が無事なのは不幸中の幸いか。確かハンカチ持ってたよな…)ゴソ
八幡「他のとこは……一応大丈夫そうか」
いろは「ぽいですね。ま、水性って書いてあるんで洗えば落ちますよ」
八幡「いきなり水洗いすると伸びるだろうから、とりあえずこれで付いたとこ拭いとけ」スッ
いろは「えっ、いいですいいです。わたしの不注意ですし……それにハンカチ汚れちゃいます」
八幡「いや、俺も配慮が足りなかった。使ってくれ」
いろは「んー」
いろは「あっ、じゃあ先輩がふいてください」
八幡「……は?」
八幡「いやいや、そこは自分でやれよ」
いろは「いま鏡もってきてないですもん」
八幡「あーほら、手洗いにあるだろ、どうせ」
いろは「ここからトイレってちょっと遠いじゃないですかー。それに途中で乾いちゃうかもですし」
いろは「ってことで先輩! はいっ」
八幡「マジかよ…」
八幡(どう考えても恥ずかしいやつでしょこれ……けど仕方ねぇな、今回は俺の不手際だし)スッ
いろは「っ!」
八幡(あー、これ既に若干固まってやがる。一回じゃ取れん)キュッ
いろは「んー…」
八幡(肌柔らかいな…)
八幡(つーか目瞑って軽く仰いでるせいかアレの顔に見える。なんだっけ、キス待…っていやいやいやアホか)
八幡(うん、キスマイね。クリップとかでそういうシーンよくあるよね、知らんけど)
八幡「はいよ、大体取れた」
いろは「はーい。ありがとうございますっ」
八幡「洗いに行くか?」
いろは「んー、見た目わかんないならいいです。メイクにじむのもイヤですし」
八幡(既に拭いたとこ落ちかけてるんだよなぁ。まぁよほど注意しなきゃ分からんくらいだけど)
いろは「それじゃ白もらっていきますねー」
いろは「あ、先輩も塗るのとか手伝ってくれてもいいですよ? コミュ力あればの話ですけど」
八幡「コミュ力無いからここで見てるわ」
いろは「冗談ですよー。気が向いたらきてくださいね」
八幡(つまり気が向かなけりゃ別にいいってことだな。よし向かないぞー)
八幡「……」ボー
八幡(本でも持ってくりゃ良かったな)
八幡(って、また戻ってきた)
いろは「洗濯のりめっちゃついちゃいましたぁー…」
八幡「何してんだ…」
いろは「ってことで、ちょっと洗ってきます」
八幡「手洗うんなら外の水道のほうが近いぞ」
いろは「へ? 外にありましたっけ?」
八幡「一口だけな。いつだったか掃除で使ったことがある。案内するわ」
いろは「あ、すみません」
八幡「その石の裏側だ。地味に蛇口がある」
いろは「へー、こんなとこにひっそりと。まるでお昼休みの先輩みたい」
八幡「ひっそり影に隠れてんのは昼休みに限らないけどな」
いろは「悲しいこと言わないでくださいよ…」
八幡「そういや手があれか。開けてやろうか?」
いろは「いえいえー、片手だけなんでヘーキですっ」グッ
八幡(おててベトベトでカピカピのいろはす。やだ、響きだけすごく卑猥っ!)
いろは「……あれ?」
八幡「……」
いろは「えい、えい…っ!」グッ グッ
いろは「……」ゼェ ゼェ
八幡(さん、はい)
いろは「せーんぱぁーーい!」
八幡「へいへい…」
いろは「めっちゃかたいですー…なんかふといですし」
八幡「多分、散水用の作りなんだろうな」
八幡(それより今の台詞も目を閉じて聞くとすごく卑猥。いろはすって結構えっち! ……俺ですね)クイッ
ジャーー
八幡「はいよ、水だ」
いろは「いつもすまないねぇー」
八幡「それは言わない約束でしょ」
いろは「おー! さすが先輩、はじめて通じました」
八幡「マジ? 結構有名じゃね?」
いろは「スッと返してくれたのは先輩が初ですねー」ジャブジャブ
八幡「なるほどね……つまり俺が初めてと」
いろは「………その言いかた、なんか引っかかりますね」
八幡「なんかって?」
いろは「っ! な、なんでもないですー!」
八幡(なーんてわざとだけどね! やっぱりいろはすえっち! キメェな俺)
いろは(ばかばか先輩、これでもくらえっ)ブシャー
八幡「うおおお馬鹿やめろ! かかるかかる! つーかもうかかってる!」
いろは「あっはっは、局所的豪雨ですねー」
八幡「横殴りにも程があるわ! 風速何メートルだよ…ってマジでやばい超濡れてるごめんなさいやめて下さい!」
いろは「ふん。乙女心をもてあそんだ天誅ですっ」ブシャシャー
いろは「……」
八幡「……」ポタポタ
いろは「ごめんなさい。ほんとにごめんなさい」
八幡「いや……うん。流石にもうちょっと節度をね」
いろは「おこっちゃいました…?」
八幡「あ?」
いろは「ひえっ…」ビクッ
八幡「……」
八幡「まぁ、あれだ。ここまで濡れると逆に怒る気も出ねぇわ」
いろは「あぅ………ごめんなさい…」ジワ
八幡「あー! いや違う、そういうんじゃないから。大丈夫大丈夫、マジで怒ってない」
いろは「……ほんとですか?」
八幡「ほら、クールダウン(物理)的なね? 気化熱的なやつね? 熱膨張って知ってるか?」
いろは「あっ、着替えっ……あの、わたしのジャージなら……」
八幡「いらんいらん。インナーは無事だし。それにこの天気ならシャツくらい干してりゃすぐ乾くだろ」
八幡(ズボンは若干気持ち悪いが、だとしても一色のジャージとか借りられるわけない。だって、興奮しちゃう。男の子だもん!)
八幡「まぁタオルであらかた拭いたし、俺しばらくここで日向ぼっこしてるわ。お前は作業戻れ」
いろは「はい…」
いろは(先輩、風邪引いちゃったらどうしよう…)
八幡「……なに、こんくらいじゃ風邪引かねぇよ」
いろは「へっ? なんでわかったんですか!?」
八幡「いや思いっきり顔に出てたからね? 行ったれ行ったれ。マジで平気だから」
いろは「むむ……わかりました」
いろは「でもなにかあったらすぐ言ってくださいね? ちゃんと責任はとりますんで」
八幡「おう。んじゃもし身籠もったらよろしく」
いろは「……それ、どっちかっていうとわたしのセリフなんですよねー」
八幡(あれれ~? わりとドン引きなジョークのつもりだったんですけど……つーか一色の台詞ってのもどうなの)
八幡(ま、まぁ、どっちかと言えばだしね? 他意はないよね?)
八幡「……」
八幡(日向ぼっこというより天日干しの気分だな)
八幡(なんならこのまま干されて干物妹になるまである。うまるーんとはちまーんってちょっと似てるしね。似てませんね)
八幡「暇だ…」
八幡(それに眠くなってきた。夜更かしのわりに早く起きたもんなぁ)
八幡「……」コク
八幡「……」
パシャッ
八幡「……ん」
いろは「あ、おきました?」
八幡「一色…」
八幡(そうか、寝てたのか)ムク
いろは「あー先輩、髪とか背中いろいろついちゃってるじゃないですかー」ペシペシ
八幡「やめいやめい。自分でやるから」
八幡(つーかさっきシャッター音らしきものが聞こえたようななかったような…)
八幡(けどまぁ、聞いて勘違いだったらうわ何こいつ自意識過剰…とかなるし。そもそも撮るメリットが無いか)
いろは「でも、おかげでだいぶ乾いたみたいですね」
八幡「そうだな……ん? ってことは結構時間経ってる?」
いろは「そうでもないですよ? 体育館に来たときにはもう11時まわってましたし」
八幡(なら正味30分程度か。お日様の力は偉大っすねぇ)
八幡「それよりこっち来たってことはひと段落ついたのか?」
いろは「いやー作業はまだ全然ですねー。ただみんなのお昼休憩に合わせて飲みもの買いに行こうと思ったんで」
八幡「あー、了解。ついて来いってことね」
いろは「あ、いえ。先輩もなにかいるならいっしょに買ってこようかなって」
八幡「マジ? いいの?」
いろは「はい。ついでですし、それにちょっと罪ほろぼしっていうかですね…」
八幡(なるほど。いや、そんな気遣われると逆に悪い気がしてくるんですけど)
八幡「んじゃ適当にパンかサンドイッチあたりを2つ頼むわ」
いろは「男の人にしては少なめですね」
八幡「繋ぎだからな。家帰れば飯あるだろうし」
八幡(あ、そうだ。あとマッ缶を)
いろは「あれはいいんですか? なんでしたっけ、あのやたら甘いコーヒー」
八幡「おお……やるなお前。今まさにMAXコーヒーを追加しようとしてたとこだ」
いろは「やっぱり! できるオンナですからねーわたしっ」
八幡(計算高いだけあってちゃんとそういうのも分かるんかね。わりと嫁に欲しいスキルだ)
いろは「先輩のこともだんだん分かってきましたし、手玉にとるのも時間の問題ですね……ふふふ」
八幡「その黒い台詞で手玉落としちゃってるんだよなぁ…」
いろは「それじゃ、ちょっとコンビニいってきますね」
八幡「金は立て替えでいいか? あれなら今払っとくけど」
いろは「いえいえーちゃんと活動費から出るんで大丈夫ですよ」
八幡「は? いや、まずくね? 俺生徒会でもないのに」
いろは「その生徒会のお仕事を手伝ってるんじゃないですか」
八幡「そりゃそうなんだけど…」
いろは「会長のわたしがいいって言うんだからいいんですよー。先輩のだけ領収書分けてもらうのもめんどいですし」
いろは「というわけでせーんぱいっ、わたしにドンとまかせてくださいっ」
八幡(どうも濫用な気がするんだよなぁ。後で払うか。いや、でも領収書切っちゃったら差異が出るし…)
八幡「あー、やっぱ俺も行くわ」
いろは「へっ? いいですってば! じゃないとお詫びになりませんし」
八幡「んな気にしなくていいっつの。それよか経費の私的利用かなんかで問題になるほうが困る」
いろは「むむ、わたしが信用できないってことですか?」
八幡「逆だ逆。俺も他の奴らもお前を信用してるから、それを無碍にしかねん行為をさせたくないってこと」
いろは「う……そう言われると。でもほんとに大丈夫だと思うんですけど」
八幡「僅かでもグレーが混ざるんならやらないに越したことは無いだろ。つまりあれだよ、えーと」
八幡(石橋は叩いて……いや、君子危うきに……これも違うな。なんかあった気がするけど思い出せん)
いろは「つまり…? なんですか?」
八幡(やばい。何がやばいって、諺をド忘れしたとか国語成績上位者としてはプライドがね?)
八幡(……誤魔化すか)
八幡「いやその、つまり……単に俺も一緒に行きたいんだよ。言わせんな恥ずかしい」
いろは「えっ」
八幡(あれ? これもなんか違くね?)
いろは「……わたしと、ってことですか?」
八幡「ば、ばっか違ぇよ。コンビニに、だよ」
いろは「っ! な、なんですかぁーもー! いじわるですか!?」
八幡「え? なに? 意地悪?」
いろは「……口説いてるのかと思ったじゃないですか」
八幡「いやいや…」
八幡(まーたこいつにフラれるとこだった。危ない危ない)
店員「シャッシャシャシャッシャッセー」
八幡「飲み物って、でかい茶とスポドリ1本ずつとかでいいのか?」
いろは「お茶は2本ですかねー。備蓄ぶんも兼ねて緑茶と烏龍茶で」
八幡「そうか、冷蔵庫あるからストックもペットボトルでいいんだな」
いろは「水出しのほうがコスパいいんですけどね。それだと麦茶しかないんで、他のはペットボトルなんですよ」
八幡「あー、人それぞれ好みもあるしな」
八幡(ちなみにうちじゃ俺の好みは全く考慮されてない。いや、美味いからいいんですけどね…)
いろは「わたしおつまみ見てくるんで、先輩先にお昼選んじゃってください」
八幡「おう」
八幡(さて……パン、パンっと)
八幡(あ、パンパン言ってるけど違うからね? コンビニでとかそういう大人のビデオあるけど断じて違うからね? 良い子は分かるね?)
八幡(つーか俺の頭やべぇな……近くに一色がいなくてよかった。想像したら終わりだ)
いろは「そうだ、せんぱーいっ」トコトコ
八幡「ブッ!?」
いろは「うわっ、なに吹き出してんですか気持ちわるい…」
八幡(狙いすましたかのようなタイミングで現れてんじゃねぇよ! とは言えない…)
いろは「わたしもお昼買うんで、スパサラ1個なんか選んでもらっていいですか? 明太子かトマト系ので」
八幡「ん、ああ。分かった」
いろは「はーい。よろしくでーす」
八幡(パスタサラダのことだよな。あの辺か。んじゃ俺もサンドイッチでいいや)
八幡(俺のは選んだけど、一色のやつまだか? 吟味してるんだろうか)
八幡(まぁ、先買っといていいよな)
店員「シャッセ」
いろは「あーいたいた先輩。決まりました?」
八幡「もう買った。そっちもそれでいいのか?」
いろは「はいっ。おつまみはばっちり1000円に収めました」
八幡(なるほど、そういう計算もしてたから時間掛かったのね。本当意外ときっちりしてるよなぁ…ちゃっかりもしてるけど)
いろは「って先輩! わたしのお昼選んでないじゃないですかー!」
八幡「あ? だからもう買ったって」ガサ
いろは「へっ? それって先輩の……いっしょに買っちゃったんですか?」
八幡「え?」
八幡「もしや、これと一緒に会計するつもりだった?」
いろは「はい……あっ、でもちゃんとお昼のぶんは領収書分けるつもりでしたよ?」
八幡「そりゃ感心。なら問題なくね?」
いろは「いえ、わたし今日お財布忘れちゃってて、金庫のお金しか持ってきてないんですよー」
いろは「活動費なら後で合わせれば済みますけど、先輩に立て替えてもらっちゃうと……返すの明日になっちゃいます」
八幡「んじゃあれだ、そこの現金から俺が貰えば実質同じことになる」
いろは「あ、たしかに。先輩あたまいい! 数学はゴミなのに不思議ですね」
八幡「ゴミ言うな……別に頭の良さ関係ねぇし、ついでに数学はもっと関係ない」
いろは「でもこの中お札しかないですよ?」
八幡「端数が無いか。俺も細かいのはさっき使ったな」
八幡「……いや待て、これ買うついでに両替して貰えばいけるわ」
いろは「なるほどー、その手がありましたねっ」
八幡「……え?」
店員「ダメなんスよ」
八幡「いや、でも五円を一円にするだけ…」
店員「ッセン、両替は防犯的にマニュアルでダメなんスよ」
八幡(こいつマジかよ…)
八幡「……」
八幡「一色、出番だ」ボソ
いろは「えっ!? わたしですか!?」
店員「……」
いろは「あー…」
いろは「いいじゃないですかぁー。ねっ? おにーさんっ☆」パチン
店員「ダメなんスよ」
いろは「……」
八幡「……」
店員「シャッシャシャッシター」
ウィーン
八幡「身だしなみと挨拶はクソなくせして妙なとこキッチリしやがって…」
いろは「なんか、わたしすごい傷つきました…」
八幡「けしかけて悪かったよ。男だしお前ならいけると思ったんだ」
いろは「……もし先輩が店員さんだったら?」
八幡「断れるわけねぇだろ。余裕でマニュアル破ってる」
いろは「ふーん…」
八幡(相手はお客様、それも女性ともなれば俺に為す術はないな、うん)
いろは「ならいいですけど…」ボソ
八幡「あ?」
いろは「な、なんでもないですっ」
八幡「つーか男でも無理だわ。恐いし」
八幡「でもって未成年の酒やタバコも断れず販売したのがバレて罪に問われるまでがテンプレート。よって俺は働くべきではない。q.e.d.」
いろは「わー、ダメだーこの先輩…」
八幡「まぁ、とりあえず今日のところは立て替えとくから」
いろは「うー……なんかいろいろすみません。絶対明日返すんで」
八幡「別に急がなくていいぞ。大した額でもない」
いろは「いえいえ、ちゃんとリマインダーにメモしときますね。えーと、先輩、お金、明日…」スイスイ
八幡(いいってのに。律儀だなマジで)
いろは「期日厳守、遅れたらカラダで…」スイスイ
八幡「ちょっと? 人を悪徳闇金みたいに記したメモ残さないでもらえる?」
いろは「冗談ですよー。でもほんとにありがとうございます」
八幡「別に礼言われる程のことじゃねぇよ。貸したってだけだし」
八幡(っと、流石に6Lにプラスアルファで入ってると重いな…)ガサ
八幡(つーか手への負荷がやばい。チャリでカゴ使うべきだったか。今さらだな)
いろは「……」ジー
いろは「先輩、こっちと袋交換しましょう」
八幡「はっ? いや、いいよ別に」
いろは「だって不公平じゃないですかー。それにさっきから手痛そうにしてますよね?」
八幡「まぁ多少その感はあるけど……いいって。そこまで重くねぇし」
いろは「ならわたしでも持てると思います。ていうか、ちょっとでも先輩の役に立ちたいんですっ」
八幡(こいつまだ濡らしたこと気にしてるのか)
八幡「そこまで言うなら……けど、女子が持つには実際かなりきついと思うぞ?」
いろは「大丈夫ですよー。わたし意外と筋肉ありますし!」フン
八幡「あー、うん。確かに。脂肪少ないしな」
いろは「へっ? そ、そうですか? いやいやーまぁ知ってましたけどー」
八幡(ピッと胸張っても主張してないもんなぁ…)
いろは「腕ずもうとかけっこう得意なんですよねー。あれです、見た目わかんなくても、隠れマッチョみたいな?」
八幡「だな。あればいいってもんじゃないし。元気出せよ」
いろは「そうそう重要なのは……って、はい?」
八幡「んじゃ、あの電柱までよろしく」
いろは「短っ!? 電柱って、小学生のカバン持ちじゃないんですから」
八幡(あったなー鞄持ち。あれだ、ある一人が負けるまでじゃんけんをやり直して、負けたそいつに全員の鞄を運搬させる微笑ましい……いっけね、懐かしすぎて涙出てきた)ガサ
いろは「はぁー。まったく先輩、わたしのことナメすぎじゃ…」
いろは「っ…!?」グンッ
八幡(おお、さっきと比べると手が浮くように軽い)
いろは(なにこれ、重っ…!?)
八幡(こう見るとつまみもけっこうな量だな。1000円で賢く買い物したもんだ)
いろは「……くっ……」ヨロ
八幡「いけそうか?」
いろは「ふ、ふふふっ……よゆう、です…!」
八幡(ここまで余裕の無い余裕発言は初めて聞いたな…)
いろは(これ、思ったよりつらっ…! 先輩こんなの片手で持ってたの…!?)
八幡「もうちょいでゴールだぞ。ほら頑張れ頑張れ」
いろは「くぅ、テキトーな感じがむかつきます…」
八幡「がんばれ? がんばれ?」
いろは「なんかもっとむかつくんですけどっ!?」
八幡「お、到着したな。ご苦労さん」
いろは「はーっ、はーっ…」ドサッ
八幡「んじゃまた交換するか」
いろは「いえ、学校まで持ちます!」
八幡「えぇ……無茶すんなよ」
いろは「無茶なんかしてません。余裕ですっ」グッ
いろは「……あぅ」ヨロ
八幡(ヤムチャしやがって…)
八幡(なんだかんだで校門まで来たな。亀のようなペースだったけど)
いろは「うぅ……手いたぁ…」グスッ
八幡「一色、そろそろ」
いろは「ダメです! ここまできたら最後までやりますっ」
八幡(なにこの子ったら頑固! がんこちゃん!)
八幡(でもがんこちゃんみたいにドンドンズズン進んでないし、めげてしょげて泣きそうなんだよなぁ…)
いろは「ふ……んっ…!」グッ
いろは(あぅ……でも、もう手が…)
八幡(なんか俺まで泣けてきた。さながら初めてのおつかい見てる親の気分…)
いろは「……」ゼェ ゼェ
八幡「……大丈夫か?」
いろは「……」
いろは「せーんぱぁーーい…」ウル
八幡(ああ……流石に限界でしたね)
いろは「悔しいですー…」
八幡「いやいや、むしろよく運んだほうだろ」
いろは「でも…」
八幡「少なくとも俺よりは運んだ距離長いぞ? ここまでくりゃもうすぐそこだ」
八幡(で、あとは塗り塗りイチャコラしてる副会長に運ばせればいいって寸法。天才だなガハハ!)
いろは「……」
八幡「だからまぁ、その、助かったよ」
いろは「……お役に立てました?」
八幡「ばっちりだ。サンキュな」ポン
八幡(ってぇ! しまった、小町専用のはずのお兄ちゃんスキルが…)
いろは「ん…」
八幡(拒まれては…ない。よしこれもセーフ! 危ねー!)
いろは(ほんとにしてほしいのは妹あつかいじゃないんだけど……これはこれでいっか)
八幡「……」モグ
八幡(まさかベストプレイスに休日に来ることになるとは)
八幡(今日はテニス部の練習は無しと。単純に休みか、はたまた遠征か……戸塚に会いたかった)グビ
いろは「あー先輩っ、いないと思ったらやっぱりここに」
八幡「定位置が一番落ち着くもんで。まだ昼休憩だろ? どうかしたのか?」
いろは「べつにどうもしないですけどー……よいしょ」スト
八幡「……え? 何してんの?」
いろは「なにってお昼食べるに決まってるじゃないですか」ガサ
八幡「んなもん見りゃ分かる。じゃなくて生徒会室使えよ。皆いるんだろ?」
いろは「いいんですよ、もう差し入れは済みましたし」パカ
八幡「はあ」
八幡「だとしても机あったほうが食いやすいだろ」
いろは「それはまぁ、そうなんですけど」
八幡「ならなんで……っておい、仕切り外す前にソース掛けてどうする」
いろは「へっ? あ、やばっ。うっかりしてました」
八幡(最近のコンビニ飯って見た目や鮮度は良い代わりに、妙に複雑だったりするよな)
いろは「できたっ。いただきまぁーす」チュル
八幡(……まぁ、外で食う飯は美味いって言うか)
いろは「わー、このスパサラおいしー」
八幡「そうだろう。流石は俺の選んだパスタ・サラダ氏」
いろは「わー、このわたしが指定したトマトのスパサラおいしー」
八幡「なんでわざわざ言い直したんですかねぇ…」
いろは「……」ゴクン
いろは「なんでだと思いますか?」
八幡「ん? あーまぁ、確かにジャンルと味絞ったのはお前だしな」
いろは「あ、いや、そっちじゃなくて」
いろは「わたしがこっちで食べる理由、みたいな…」
八幡「……」
八幡「あの中で浮いてる?」
いろは「違います」
いろは「とは言いきれないのがヤですねー……ぶっちゃけまだそれもちょっとあるんですけど」
八幡(あるのかよ……でもメインは他の理由ってことだよな)
八幡(他ねぇ。あるとすれば、いや思いつかなくはないんだけど……なんかなぁ)グビ
いろは「やっぱいいです。宿題にするんで、おうちに帰ってからゆっくり考えてください」
八幡「宿題出されちゃったよ…」
いろは「それより先輩、午後のことなんですけどー」ポロッ
カシャン
いろは「あっ、おはしが…」
八幡「あーあー何してんだ」ヒョイ
いろは「すみません」
いろは「あ、ほらっ! わたしおはしより重いものって持てないじゃないですかぁー」
八幡「おい、隠れマッチョはどこへ行った」
いろは「そんなこと言いましたっけ?」
八幡(こいつ…)
八幡「どうする? 箸洗ってくるか?」
いろは「いえ、フォークももらってたんで大丈夫です」ガサ
いろは「でもなんか、やたら手がふるえるんですよね」
八幡「そりゃ多分疲労のせいだな。あんだけ手に負担かけりゃ無理もない」
いろは「うわー地味な後遺症ですねー」
八幡(言われてみれば心なしか手プルプルしてんな。ヤムチャするから…)
いろは「あっ。じゃあ先輩、フォークをどうぞ」スッ
八幡「……は? なに?」
いろは「食べさせてくださいっ♪」
八幡「……は? なに?」
いろは「なんで同じ反応なんですか。ほらあれです、また落としたらもう後がないっていうか」
八幡「だからってそれはおかしいでしょ…」
八幡(いくら食器のライフがもう無いったって、んなことしたら俺のライフがゼロになっちゃうんですけど……次回、比企谷死す。デュエルスタンバイ!)
いろは「いいじゃないですかー運ぶのがんばったんですし」
八幡「罪滅ぼしとか言ってなかったっけキミ」
いろは「うっ、そうですけど…」
いろは「ひとくちだけでいいですからー! ねっ? せーんぱぁーーい」クイクイ
八幡「袖引っ張んなよ……あーもう分かった、一回だけな」
いろは「ほんとですか? わーいっ」
八幡(なぜ一色とこんなことに…)クルクル
八幡「はいよ」スッ
いろは「量多すぎですよー。やりなおし」
八幡(うおおお、ケチ付けてきやがった)
いろは「はっ! もしかしておっきく口あけさせて中をのぞこうって魂胆でした!? ごめんなさいそういうのはさすがにちょっと恥ずいんで無理です!」
八幡「勝手に変態扱いするのやめてくれませんかね…」クルクル
八幡「……こんくらい?」スッ
いろは「はい。そんくらいですっ」
八幡「……」
いろは「先輩?」
八幡「いや、口開けろよ」
いろは「なら先に言うことがありますよねー?」
八幡「オープンザドア」
いろは「なんかいろいろ間違ってるんですけど…」
八幡(分かるけどさぁ。超絶言いたくないんだよなぁ…)
八幡「はぁ……仕方ねぇな」
いろは「あ、やっと言う気になりました?」
八幡「今すぐ口開けなかったら1本ずつ鼻から食わせる」
いろは「ひえっ!? あけます、あけますからぁー!」
八幡「最初からそうすりゃいいんだよ」スッ
いろは「もー、なんですかその鬼畜キャラ…」パク
八幡(結局俺も手が震えてるっていう……緊張するわこんなん)
いろは(先輩に食べさせてもらっちゃった)モグ
八幡「ちゃんと噛めよ。一口20回が理想らしいし」
いろは「……」ゴクン
いろは「……えへへ、飲んじゃいました」
八幡「おい……つーかその台詞はなんかおかしい」
いろは「えー、なんのことですかー?」
八幡(狙ってるの? 狙ってますねこれは。やっぱりいろはすえっちぃと思います!)
八幡(ま、どうにか乗り切ったな)
いろは「……ぅぐっ」
いろは(やばっ、つまったかも)トントン
八幡「え、なに、つっかえた?」
いろは「……!」コクコク
八幡「だからちゃんと噛めとあれほど……飲み物は?」
いろは「……」フルフル
八幡(まずいな、俺もマッ缶しかない。いやこの際仕方ないか)
八幡「ほら、これで流せ」
いろは(えっ、でもこれ先輩の…?)
いろは「っ……」クピ
いろは「ぷは……すみません、助かりました」
八幡「いや。それより味大丈夫か? マッ缶は慣れると美味いけど慣れるまでがな…」
いろは「ん、んー……そういえばちょっと甘いかもです」
八幡(この甘さをもってしてちょっと…だと…? 味覚やばくね? 亜鉛不足じゃね?)
いろは(あんまり味覚えてない…)
八幡「さてと、作業再開か」
いろは「腹ごしらえも済んだところで、先輩には力仕事ちゃんが待ってますよ」
八幡「力仕事ちゃんて…」
八幡(ついに仕事までも擬人化されてしまったのか……ゲームになったらユーザー数だけ社畜が増えるんですかね)
八幡(『俺この子(仕事)推しだわー』『ばっかお前こっち(仕事)だろ』『このカプ(仕事×仕事)こそ至高』的な会話が街中に。やっぱ日本終わってんな…)
いろは「午前中にできた看板がもう乾いたと思うんで、その設置をお願いしますっ」
八幡「具体的には?」
いろは「いまあるのは校門の近くのと、1階の階段の前に置くぶんですねー。わたしも運ぶんで同時にいっちゃいましょう」
八幡「まぁそのルートなら一本だけど、お前箸より重いもん持てんの?」
いろは「真に受けないでくださいよ……そっちはちっちゃめなんで大丈夫ですっ」
八幡「なるほど。了解」
八幡(着いた。見かけほど重くはなかったな)
八幡「……よっこいせ。この辺か?」ガタ
いろは「んー、見やすいですけど、倒れるとあぶないんでその電灯のとこに固定しましょう」
八幡「ああ、それでスズランテープ持ってんのね」
いろは「外だと風もありますしね。あ、もう少し寄ってください」
八幡「こう?」
いろは「ばっちりです。そのまま動かないでくださいねー」グールグール
八幡「……」
八幡「いや、俺まで固定する必要ないよね?」
いろは「えっ? 好きですよね?」
八幡「何が? 縛りプレイが? んなわけねぇだろアホかお前」
いろは「そうですかー……すみません今度から気をつけますね。じゃ、おつかれさまでした」ペコ
八幡「えっ、待って何これで終わりみたいな空気出してんの? ほどくよね? ちょっと一色さん?」
いろは「やだなぁ冗談ですよー」パシャパシャ
八幡「なにそれ写メ? 写メなの? おいやめろ、いややめてくださいお願いします!」
いろは「へへへー、大漁大漁~」
八幡「お前マジで何してくれてんの…」
いろは「いやー、こんな貴重な写真なかなかとれないですし」
八幡「でしょうね……じゃなくて消せっつの。んなもん見られたら色々と終わる」
いろは「そのへんは心配しなくてだいじょぶです。とりあえずインスタインスタっと」
八幡「いや、うん、何もだいじょばないよね? つーかそれだけはやめろ。下手すりゃ炎上もんだぞ」
いろは「やだなぁー冗談ですよ。わたしがそんなバカなことするわけないじゃないですか」
八幡(わりとやらかしそうな人種なんだよなぁ…)
いろは「ちゃんと写真消しましたから。見てくださいっ」スッ
八幡「あー……まぁそれなら良いけど」ジッ
いろは「うわ先輩、女の子のケータイそんなジロジロ見るのはちょっと」
八幡「なんなのお前…」
いろは(あとで復帰しとこっと♪)
いろは「じゃあみなさん、おつかれさまでしたー」
八幡(結局最後まで手伝っちゃったよ)
いろは「先輩もおつかれさまでーす」トコトコ
八幡「ああ。本当に疲れた」
いろは「そこは全然ヘーキだよって言うところですよ」
八幡「そうやって自分の体調を偽るから日本で過労死が絶えねぇんだよ。もはやKaroshiとか英語化されて海外で呆れられてんだぞ」
いろは「いや、聞いたことありますけど……いまそれ関係なくないですかー?」
八幡「大アリだ。こういうのは個人レベルで防衛策を取れなきゃいずれもっと大きな問題になるからな。で、俺はこんな社会を変えたいと思ってる」
いろは「は、はあ」
いろは(先輩、変なとこ真面目だなぁ。でもちょっとだけかっこいいかも…)
八幡「要するに、過労死のない世の中を実現するためにも俺は絶対に働かない」
いろは「かっこわる…」
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