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    元スレ狩人「スライムの巣に落ちた時の話」

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    151 = 143 :

    クロ「そうです、お母さん、気持ちいい事をしましょう」

    狩人「え?」

    クロ「先日は有耶無耶になりましたが、お互いの愛情を確認しあえたのですから」

    クロ「性的欲求を解消しあうのは当然のことです」

    クロ「好きです、好きです、大好きです、私も愛してます、愛してます」

    狩人「いや、私の愛情は家族に対するものだと思うんだけど」

    クロ「いいじゃないですか!家族で性的な事をしても!」

    狩人「クロだけ何か反応が違う……」



    その日、高ぶるクロに襲われかけたけど。

    アオとアカとミドリが助けてくれた。



    ああ、家族同士助け合うのって、いいなあ。

    152 = 143 :

    ~85日目~


    あれから、私達は細かい話し合いをした。

    私が外に出たいこと。

    希望するスライム達を、連れて行ってあげたいこと。



    アカやアオ、そして無言のミドリは私の意見を肯定してくれた。

    クロだけは少し渋った。



    クロ「ですから、外は恐ろしいものが一杯なのです」

    クロ「その点、ここは本当に理想郷で……」

    アオ「母さま、外に出たら弓の使い方教えてね」

    アカ「……ゆみって?」

    アオ「母さまが得意な道具だよ、きっと格好良いんだろうなあ」

    アカ「……アカも、やってみたい」

    狩人「うん、いいよ、アカにも教えてあげる」

    アカ「……やった」

    アオ「母さまと、私達3人でやる狩り、きっと楽しいよね」

    クロ「……まちなさい、その三人というのは誰と誰と誰なんですか?」

    アオ「え?ボクと、アカと、ミドリだけど」

    クロ「な、何でそうなるんですか!私はどうなるのです!」

    アオ「だってクロは理想郷に残るんだよね?」

    クロ「ガボガボガボガボガボガボ……」



    結局、最後はクロも折れてくれた。

    153 = 143 :

    その後は早かった。

    クロ達は即座に洞窟から離脱し、蔦を収集。

    それを編み上げて簡易の吊り上げ具を作成。

    洞窟の下と上から補佐を受けた私は、実にあっさりと。



    洞窟から脱出することが出来た。



    凡そ、85日ぶりに地上へ戻ることが出来たのだ。

    154 :

    いよいよ85日目か…

    155 = 143 :

    狩人「やっぱり、洞窟の中とは空気が違うね、湿度も軽いし」

    アオ「母さま、この後どうするの?」

    狩人「そうだね……まず、村に行こうと思うんだけど」

    狩人「……いきなり皆で村に押しかけると、凄い騒ぎになる気がするなあ」

    クロ「まあ、そうでしょうね、村って言うのはヒトの住む所ですから」

    ミドリ「……」コクコク

    狩人「だから、まずは私だけで村に行こうと思う」

    狩人「クロ達は、もう少し洞窟で待ってて」

    アオ「ええー、ボクも行きたい……」

    狩人「ちょっとの間だけだから、ね?」

    アオ「……うん」

    アカ「アカは、待てるよ」

    狩人「そっか、アカは偉いね」ナデナデ

    アカ「……えへへ」

    狩人「じゃあ、そういう訳だから、私が村に言ってる間、皆の事をお願いね、クロ」

    クロ「……」

    狩人「クロ?」



    クロは、私の手を掴むと、こう言った。

    156 = 143 :

     



    「本当に、戻ってきてくださいね」

    「もし、戻ってこなかったら」

    「多分、酷い事になると思いますから」



     

    157 = 143 :

    洞窟を出て少し離れた所に、弓と矢筒が落ちていた。

    弦は外れているが、特に損傷は無いようだ。



    洞窟に落ちた時に瓦礫に潰されたのかと思ってたけど。

    地上に取り残されてたんだね。



    良かった。

    この弓は、割と気に入ってたんだ。



    弦を付け直し、指で弾いてみる。

    ビンっと音がした。



    久しぶりに聞く音だ。

    とても、気持ちがいい。

    158 = 143 :

    山を降りて、森に足を踏み入れる。



    深い木々の匂い。

    動物や虫の匂い。

    湿度を孕んだ土の匂い。

    緑色。

    土色。

    水色。

    草の音。

    川の音。

    虫の声。



    それらが、私の五感に染み渡ってくる。



    ああ、帰ってきたんだ。

    私は、ここに、故郷に。



    心が躍る。

    気持ちが高ぶる。

    走り出したくなる。

    そう、そうだ、ここは私の住処なのだ。

    ずっと、そうだったのだ。

    私は、ここで生まれて。

    ここで、暮らして。

    ここで……。



    ……。

    ……。

    ……いや、落ち着こう。

    まずは、村に行かないと。

    幼馴染が、待っているのだから。



    私は、村へ向かう最短経路を走り始めた。

    天候は晴れ。

    昼頃には到着できるだろう。

    159 = 143 :

    走り始めて10分後。

    周囲に気配を感じた。



    何者かが、私を追跡している。

    ケモノかな。

    数は……1、2、3、4。

    4体。



    集団で狩りをするケモノ、狼だろうか。

    ……いや、狼は吼える事で連携し、獲物を狩場まで誘導する。

    私を追跡している連中は、まったく吼えていない。

    それどころか、移動音すら殆ど立てていない。

    にも関わらず、きっちりと連携して私を追跡してくる。



    本当なら足を止めて観察したいけど、今は村へ急ぎたい。

    だから……。

    160 = 143 :

    そのまま速度を緩めず疾走する。

    獲物たちも、離れずに追跡してくる。



    獲物の姿は視認出来ない、つまり私の死角。

    獲物の匂いは確認できない、つまり風下。

    獲物の移動音は鈍い、つまり音が出にくい経路。



    周辺地形は湿地に差し掛かる。

    獲物が選択できる移動経路は極端に少なくなる。



    ここであれば、どの場所に足を掛けて移動しているのか、容易に予想がつく。



    一歩進む間に、私は四本の矢を放った。

    二歩進む間に、その矢は獲物達が通ると予想される地点に、落下する。

    三歩進む間に、獲物に矢が食い込んだ。



    一匹目、命中。

    二匹目、命中。

    三匹目、命中。

    四匹目……弾かれた?



    硬い殻に覆われた動物だろうか。

    その割には、他の三体はあっさりと倒れた。

    複数の種族の動物が群れになっている?

    まあ、例が無いわけじゃないけど。


    ……。

    ……。

    ……。


    このままだと、村まで着いてきちゃうか。

    よし、ここで仕留めよう。

    161 = 143 :

    急制動。

    それと同時に、矢を番う。



    獲物も急停止したが、止まりきれなかったのか木々の死角から姿を現す。



    それは、巨大な猪だった。

    凄い、こんな身体で私を追跡してたのか。

    いや、そんな事よりも気になる点がある。



    「全身鉄に覆われた猪なんて、見たこと無いんだけど」



    猪は、私の姿を確認すると、再び移動を開始した。

    いや、それは移動ではなく「攻撃」だった。

    凄まじい速度で、私に向けて突撃を掛けてくる。



    仮に、猪を覆っている鉄が本物なのだとしたら。

    その重量は凄まじいことになる。

    そんな重量の突撃を受ければ、私は忽ち死んでしまうだろう。



    何より、鉄には、矢が通らない。

    162 = 143 :

    ここで復習をしよう。

    ごく簡単な、職業の復習。



    狩人は、対人戦闘では戦士に劣る。

    集団戦闘では、騎士に劣る。

    射程では狙撃手に劣る。

    器用さでは盗賊に劣り、速度では無手の武闘家に劣る。

    魔法使いのように火炎を起こすことも、僧侶のように人を癒すことも出来ない。

    死霊術師のように、シビトを操ることは出来ない。

    通訳者のように、多種族の言葉を操ることは出来ない。

    では、狩人は、何に秀でているのか。



    狩人は、ケモノを狩ることが出来る。



    人類がまだ国という概念を持たぬ、古い時代。

    言語体系さえ確立されていない時代から、彼らはケモノの狩り方を研鑽し始めた。

    その技術を磨き続けた。

    視線を読み、匂いを嗅ぎ、音を聞く。

    空気の流れを読み、湿度を嗅ぎ別け、鼓動を聞分ける。

    移動範囲を予想し、空間を把握し、ケモノの意識の死角を突く。



    長く継承され続けた「経験」がそれを可能にする。

    人類最古の戦闘職、狩人。



    その系譜の最先端が、彼女である。

    163 = 143 :

    猪が突撃を開始した次の瞬間、鉄に覆われていない部分に矢が殺到した。



    相手を視認すのに必要な軟体構造、眼。

    呼吸時に粘液が必要な、鼻腔。

    運動時に可動性が必要な五つの間接部。



    射線が通る範囲の急所全てに矢が突き刺さる。

    その数、合計12本。



    それでも、猪は止まらなかった。

    眼が潰れているにもかかわらず、まるで狩人が見えているかのように。

    突撃し、牙を突きたてようとする。



    その牙が、狩人に届く直前。



    13本目の矢が、再び猪の目に突き刺さり。

    そのまま貫通し、体内を蹂躙、背中からボシュッと突き出た。



    そこまでして、猪はやっと息絶えた。

    164 = 143 :

    「何なんだろうね、この猪」

    「どう見ても普通じゃないんだけど」

    「突然変異?」

    「いや、けど……」



    何故か、クロ達の姿が頭を過ぎった。

    そうだ、私は最初、彼女達を突然変異で巨大化したスライムだと思って……。



    「……ううん、判んないや」

    「ねえ、貴方なら判る?」

    「そこに、隠れてずっと見てるよね?」



    100m程先の大木。

    その陰から、ヒトの匂いがする。

    害はなさそうだから放置してたけど。

    流石に、この状況だと、少し気になる。



    「出てこないようなら、もう行くけど」

    165 = 143 :

    「ま、ま、待ってくだ、さいっ!」



    大木から姿を現したのは、黒い髪の女性だった。

    あれ、私、このヒトと……会ったことがある?

    けど、名前も何も思い出せない。

    おかしいな、確かに、見覚えが……。



    「う、うふふふ、わ、悪気は無かったんです、ちょっと、ちょっとだけ」

    「迷いの森の狩人さんの力を、た、た、確かめたかっただけで」

    「も、も、も、勿論、殺す気なんてなかったんですよ」

    「だって、だって、うふふふ、わ、私は、迷いの森の狩人さんの、ファンですし」



    女性は、私に視線を合わせないまま会話を続けた。

    166 = 143 :

    「そう、そうです、私、私、ファンなんです!」

    「見ました、私、見ました、あの時、大会会場に居たんです」

    「100年に一度行われる、帝国主催の狩猟大会!」

    「高名な弓師や帝国の騎士達を押しのけて、優勝を果たした貴女の姿を!」

    「凄かったです、ほ、本当に!特に凄かったのは終盤に行われた竜種狩り!」

    「か、感動したんです!ヒトの力で竜を狩れるなんて!」

    「うえへへへ、す、すごいなあ、話しちゃった、私、迷いの森の狩人さんと話しちゃった!」



    一度、幼馴染と一緒に帝国を訪れて狩猟大会に参加したことがある。

    あの時も、森から離れた影響で体調悪くして幼馴染に介抱された。

    まあ、大会会場が帝国領内の大き目の森だったので、体調は戻ったけど。



    森じゃなかったら、私はかなり序半に脱落してたんじゃないかなあ。

    167 = 143 :

    「それで、貴女は何者なの?」

    「この猪は、貴女が飼育していたの?」



    話が逸れそうなので、修正してみる。

    本当ならさっさと村に向かいたいが、何故か、この女性のことが気にかかる。



    「あ、す、すみません、そう、そうです」

    「その猪は、私が作ったもので、えっと、その」

    「わ、私は、合成術師なんです、そう、今風の言い方をすると」

    「キマイラマイスター、って感じです、えへへへ」



    そっか、気になる理由かわかった。

    イライラするからだ。

    何故か、このヒトが喋っているのを聞くと。

    心が騒ぐ。

    何でだろう。

    168 = 143 :

    「じ、実はですね、私は探し物をしてるんです」

    「私が作った合成生物なんですけど、ずっと前に逃げ出しちゃいまして」

    「この近くに、隠れてるって事は判るんです」

    「最後に魔力反応が途絶えたのは、この『迷いの森』の近辺でしたから」

    「きっと、きっとこの森に入ったから、魔力反応が途絶えたんだと思うんです」

    「こ、この森の中は、魔力が濃すぎて、探知魔法とか通りませんから」

    「だから、こ、こ、困ってたんです」

    「……そんな時、思い出したんですよ、迷いの森には」

    「狩人さんが居るって」




    「ふ、ふふふ、狩人さんに手伝ってもらえたら、きっと探し物もすぐに見つかります」

    「ああ、私は運がいいなあ、うふふふふふ……」

    「けど、誤算でした」

    「近くの村を訪れて聞いたら、三ヶ月近く前から狩人さんが消息不明だって言われましたから」

    「きっともう死んでるんだろうって、あの村長は言ってましたから」

    「がっかりです」

    「けど」

    「けど、村長の娘から、聞いたんです」

    「アイツは、きっと戻ってくるって」




    「そう、そうですよね!」

    「ヒトの可能性を凝縮したような狩人さんが」

    「自分のテリトリーの中であっさり命を落とすはずがありませんから!」

    「きっと、きっと何か特殊な事態に巻き込まれて帰ってこれないだけなんです!」

    「私はそう信じて!」

    「信じて信じて信じて信じて信じて信じて信じて信じて信じて信じて」

    「待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って」

    「探して探して探して探して探して探して探して探して探して探して」




    「そして、今日、狩人さんを見つけたんです」

    「めでたし、めでたし」

    「ところで、狩人さん」

    169 = 143 :

    「どうして、今まで戻ってこなかったんですか」

    「ひょっとして、何か変な物に遭遇したりしませんでしたか」

    「具体的に言うと、純白の魔物とか」

    「だって、それくらいじゃないと説明がつかない」

    「貴女のような優秀な狩人が行方不明になる理由が」

    「思いつかないんですよ」

    「ねえ、狩人さん」



    そいつは、何時の間にか私の目の前にまで迫っていた。



    ああ、私がどうしてイライラしているのか判った。

    こいつの顔は。

    クロと似ているからだ。

    髪形が違うので、すぐには気付かなかったけど。



    きっと、クロはこいつの顔を模している。

    171 :

    クロと顔が似てるだけでどうしてイライラするんですかね?

    172 :

    仮にクロと関係があるとしたら色々繋がるだろう
    読み返せばよーわかる

    173 :

    つまりガチレズ

    174 :

    自分の子供4匹の内、3匹は自分に似てるのに1匹だけ似ていない

    176 :

    また危ないやつが出たなあ

    177 :

    クロが何故、コイツと同じ顔をしているのかは判らない。

    恐らく純白のスライムだった頃に何か因縁があったのだろう。



    けど。

    クロは、こう言っていたのだ。



    「外は、辛いばかりでした、怖かったという記憶しかありません」



    コイツが探している合成生物というのは、きっとクロ達だ。

    コイツをあの子達に、会わせてはならない。

    絶対に。

    178 = 177 :


    「……私は狩りで遠出してていただけ」

    「別の用事もあるから、貴女の手伝いをしてる余裕は無い」



    幸い、コイツはクロ達が森の中にいると思い込んでいる。

    だが実際は、森の外……山の洞窟にいるのだ。

    恐らく、発見する事は出来ないだろう。


    けど、コイツは頭がよさそうだ。

    私が思いつかない策を練る可能性もある。

    だから、ここは頭が良いヒト。

    幼馴染に、相談してみよう。

    それまでの時間を稼げれば……。



    「う、うそ!協力してもらえないんですか!?」

    「そ、そ、そんなぁ……折角待ってたのに……」

    「てっきり協力してもらえるものと思って、準備進めちゃったのに……」



    コイツは、酷くガッカリした顔を見せた。

    クロと同じ顔だから、少し罪悪感が湧く。



    「準備って?」

    「ご、合成生物です……あ、キマイラって言ったほうが判りやすいですかね?」

    「この周辺にですね、30体ほど待機させていたんです……」

    「その子達に、今から仕事だからご飯食べていいよーって指令をさっき送っちゃいまして……」

    「ううう、あの子達、燃費が悪いからなあ……稼働時間、延ばせないかなあ……」

    179 = 177 :

    食事は確かに大切だ。

    30体ともなれば、かなりの量を食べるのだろう。

    けど。

    ……。

    ……。

    何だろう、何か悪い予感が。



    「……そのキマイラ達って、何を食べるの?」

    「勿論、人間です」

    180 = 177 :

    「幸い、この近くには手頃な村があります」

    「しかも、あの村の連中は狩人さんのワルクチばかり言ってました」

    「聞いていて、イライラしました」

    「まあ、1人だけ狩人さんを庇ってる子もいましたが、1人だけなんでただの誤差です」

    「という訳で、あんな村、無くなっちゃったっていいんです」

    「狩人さんだって、そう思いますよね?」 

    「無くなっちゃったほうが、清々しま」

    181 = 177 :


    ソイツが言葉を最後まで言い切る前に、額を矢で貫いた。

    倒れるのを待たず、転進し村へ向かう。



    仮にキマイラ達があの猪と同程度の存在だとすると、恐らく村は数刻と持たない。

    いや、けど、幼馴染は聡い。

    勝てないと判れば恐らく何処かに避難するはずだ。



    だから、きっと間に合うだろう。

    間に合ってくれるだろう。

    間に合って欲しい。



    ああ、けど。

    182 = 177 :

    疾走を再開して42分後。

    私は荒れ果てた村の中で、幼馴染の死体を発見した。




    間に合いはしなかったのだ。

    間に合うはずがなかったのだ。

    183 = 177 :

    村には、既にキマイラ達は残っていない。

    合成術師を殺した事で、統制が解除され方々へ散ったのだろうか。



    思っていたより村人の死体は少なかった。

    きっと、一部は村長や幼馴染が避難させたのだろう。

    その結果、自身が逃げ送れてキマイラ達に包囲された。

    恐らく、そんな所なのだろう。



    大きな裂傷が三箇所。

    骨折が十箇所。

    細かい傷を挙げればキリが無いけど。

    不思議と、顔だけは綺麗だった。



    意外なことに、ショックは大きくない。

    ただ「ああ、そうか、残念だな」と思うだけだ。



    村人達が言っていたように、私にはやはり心という物が無いのだろうか。

    森でケモノ達を狩るうちに、私もケモノのようになってしまったのだろうか。



    グルルルル



    背後から、何かの唸り声がした。

    184 = 177 :

    今からでは、到底回避が間に合わない。

    そこまで接近されていたのに、どうして気付かなかったのだろう。



    ここが、森ではなく村だからかな。

    それとも、やっぱり幼馴染の死がショックだったからかな。



    後者だと、いいなあ。

    そのほうが、私は嬉しい。



    致命傷を避ける為に、首だけは右手で守った。

    その右手は容易く噛み千切られた。

    185 = 177 :

    右手が食いちぎられたと同時に、左手の親指をケモノの眼に突き立てる。

    だが、親指が眼に突き刺さる直前、ケモノの前肢で弾かれた。

    こいつ、私の動きを読んでる?




    体重では到底勝てそうに無い。

    私はそのまま押し倒された。

    反撃の手を探るが、文字通り手は無い。

    右手は床に転がっているし、左手も前肢で押さえられている。



    そのまま、ケモノの大きな顎が私の首筋に

    186 = 177 :

    「す、ストップ!駄目駄目!食べちゃ駄目!」



    その声で、ケモノの動きはピタリと止まった。

    聞き覚えが有る声だった。

    クロ?

    いや、違うか。



    ケモノの背後に、アイツが立っていた。

    おかしいな、ちゃんと額を貫いたと思ったんだけど。



    呼吸が速くなってきた。

    それと同時に、体温が下がってきている。

    きっと、血が足りないんだろう。

    当然だ。

    今もまだ、右手の断面からは血が流れ続けているのだから。



    「す、すみません、こんな事になるなんて……」

    「わ、私はただ足止めしてって命令しただけなのに」

    「こら!駄目でしょちゃんと言う事聞かなきゃ!」

    「この子は知性も戦闘力も高いんですけど、制御がしにくいんですよね」

    「因みに、この子、何か見覚えありませんか?」

    「そう!狩人さんが倒した竜種の身体が組み込まれてるんです!」

    「竜種って、攻撃力は高いんですけど、何か大雑把なんですよね」

    「隠密行動とか、潜入行動にはまったく向いてませんし」

    「その点、竜種とケモノを組み合わせたこの子は違います」

    「竜種の戦闘力と、ケモノの隠密性を兼ね備えてるんです!」

    「サイズも凄くコンパクト!」

    「内臓が駄目になるんで多用は出来ませんけど、なんとブレスだって吐けちゃうんですよ!」

    「凄いですよね!」

    187 = 177 :

    顔を上げると、アイツの顔がすぐ近くにあった。

    額には僅かに傷跡が残っている。

    私の矢が刺さった場所かな。



    それにしても……。

    ああ、本当にイライラする顔だなあ。



    「大丈夫ですか?お話できます?」

    「えっとね、私、本当の事を知りたいんです」

    「狩人さん、森の中で純白のスライムに会いましたよね?」

    「それ、どこで会いました?」

    「あ、勿論、その傷で案内しろなんていいません」

    「ただ、どの辺かだけでも教えてもらえたらなって……」



    うん、意識がある間に、応えてしまおう。



    「しらない」

    188 = 177 :

    「え、えっと、その、何か勘違いしてませんか?」

    「私には、貴女を害する気なんて無いんです」

    「その傷だって、ちゃんと治してあげます」

    「ですから、その、強情張らないで欲しいんです」

    「お願いします、狩人さん!」



    薄れてくる意識の中で、私は再び応えた。



    「あなたには、なにも」

    「おしえてあげない」

    189 = 177 :

    「そう、ですか……」

    「残念です……けど、仕方ないですよね」

    「手間がかかりますけど、自力で探そうと思います……」




































    「殺せ」

    190 = 177 :

    アイツの声を聞いたケモノの牙が、私の首に食い込む。



    「くひゅ」



    自分でも意識しない奇妙な声が出る。

    噛み千切られた箇所が、とても熱い。




    死ぬのは、嫌だ。

    けど、怖くはない。

    だって、それは当たり前の事なのだ。



    ずっと、ずっとそうだったのだ。

    古い時代。

    原初の狩人が居た時代から。



    どんな優秀な狩人であろうと。

    どんな技術を持つ狩人であろうと。

    どんな最先端の狩人であろうと。

    狩人である限り、絶対に覆せない事柄がある。



    『最後は、狩るべくケモノに食い殺されて、終わる』



    父もそうだった。

    母もそうだった。



    だから、私がそうなるのも。

    当たり前のことだ。



    それが、私が最初に狩人として教わった事。



    事実、私は十数秒後に息絶える。

    その僅かな間に、私は夢を見た。

    191 = 177 :

    「ねえ見た!アイツらの顔!」

    「滅茶苦茶驚いてたわ!」

    「そりゃそうよね、アンタが帝国狩猟大会で優勝するなんて、誰も思ってなかったでしょうから!」

    「あー!凄くすっきりした!」

    「これで普段からアンタを馬鹿にしてた連中も、少しは見直すでしょうよ」

    「大会の報酬も半分は村に引き渡したし、私とアンタを育ててくれた恩も返したから」

    「後は、まあ、自由にやっていいんじゃない?」

    「それで、その、ね」

    「ちょっと相談なんだけどさ」

    「私、もうすぐ誕生日よね」

    「うん、18歳の」

    「村ではさ、18歳になったら成人したと看做されて、色々な権利がもらえるの」

    「仕事の権利と、住む場所の権利を自由に選べるのよ」

    「だからね」



    それは、とても大切な約束を交わした時の夢だった。

    もう既に、居なくなってしまった相手との。

    大切な約束の。

    194 :

    おまえら落ちつけ!

    はよはよ

    195 :

    ぬおおおお

    196 :

    「もう、何よ、森以外で暮らすのが怖い?」

    「大丈夫よ、だって……」

    「私が一緒にいてあげるんだから」

    「そうと決まれば、準備をしないとね」

    「私の誕生日なんて、すぐに来ちゃうんだから」

    「ほら、笑ってないで、アンタも考えるのよ」

    「2人の事なんだからさ」

    「ね」



    ≪これは驚きました、世代交代したのですか≫

    ≪道理で私の魔力感知に引っかからないはずです≫

    ≪しかも、増殖しただけでなく、ヒトの形を模している≫

    ≪素晴らしい結果です!ああ、解体したい!調べたい!≫



    ああ、もう。

    うるさいなあ。

    いま、とても。

    よいゆめを。

    みているのに。

    197 = 196 :

             「私以外とはあんまり喋らないし」

    「アンタって狩人の癖にボーっとしてて」

          「ねえ、聞こえてるの?返事くらいしたら?」

                     「アンタ、どうして寝込んでるの?」

      「はい、水を持ってきてあげたわよ」

              「私が一緒に」

      「うぷぷぷぷ」

                      「笑わないし」

           「ちょっと水鳥を」

                        「18歳の」

         「だからね」

                     「お母さん」

               「自由に」

          「お母さん」



    ああ、この夢が。

    ずっと、続けば。



          「お母さん」

    198 = 196 :

    「お母さん、聞こえますか」

    「大丈夫です、大丈夫ですよ、お母さん」



    あれ。

    このこえは。

    クロの。



    ≪強制制御術式も解除されていますか≫

    ≪ええ、いいでしょう、では力づくで≫



    ああ、ほんとうに。

    うるさい。

    なあ。

    199 = 196 :

    「聞く必要はありません、お母さん、私だけを」

    「私だけを見ていてください」

    「私の声だけを聞いてください」

    「間に合いました、間に合ったんです」

    「ミドリが、お母さんの声を聞いてたんです」

    「不測の事態だと言うのは即座に判りましたから」

    「その段階で私達は洞窟から出ました」

    「だから」

    「ああ、良かった、間に合った」

    「命の火が消えてしまったら、幾ら私達でも蘇生させる事は出来なかった」

    「けど」

    「けど、間に合ったんです」

    「私達の、私達の大本である純白のスライムの能力は」

    「再生です」

    「私達の力を合わせれば、物理的な傷なんて、忽ち再生させる事が出来るんです」

    「ほら、見てください、もう手も首もお腹も再生されています」

    「だから、大丈夫です」

    「あとは、あとは再生しつつある身体に脳が同調すれば」

    「多少身体に障害は出るかもしれませんが」

    「生き残れるんです」

    200 = 196 :

    「ですから」

    「楽しい事を考えてください」

    「同調する前に脳が死んでしまわないように」

    「生き続ける事を考えてください」

    「そうすれば」


    楽しい。

    ことを。

    生きつづける。

    ことを。


    「……身体のうごきがにぶくなっら、もう狩りはできないかな」

    「平気ですよ、もう狩人なんてやらなくてもいいです」

    「私が」

    「私達が、養ってあげますから」

    「だから、私達のお母さんでいてください」


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