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    元スレモバP「脱・響子宣言」

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    1 :



    「いいですか、冷蔵庫に食材一式を入れておきましたから」

    「必要に応じてチンして食べてくださいねっ」

    「はい」

    「ご飯も小分けにして冷凍してありますから」

    「炊く時間がないときはこっちを食べてくださいね」

    「はい」

    「Yシャツは洗ってアイロンをかけておきましたっ」

    「シミも綺麗にとれましたよっ、ほらっ」

    「おー」



    SSWiki :http://ss.vip2ch.com/jmp/1480844995

    2 = 1 :


    「あっ、あとこれ買ってきたんです」

    「?」

    「シューキーパーっていうんですよ」

    「革靴を保管するとき、中に入れて使うんです」

    「靴が長持ちしますから、脱いだら必ず入れるようにしてくださいねっ」

    「うん」

    「それと、洗剤が切れかけていたので」

    「ストック用も含めて買い置きしておきました」

    「常に予備をおいておくと便利ですよっ」

    「うん」

    3 = 1 :


    「あっ、もうこんな時間!」

    「それじゃあ私は学校に行きますから」

    「Pさんもお仕事に遅れないようにしてくださいね!」

    「うん」

    「そうだ、お鍋にお味噌汁が入っていますから」

    「温めて食べてくださいね、それと……」

    「はいっ、これ、お弁当ですっ」

    「うん」

    「今日のは自信作なんですっ」

    「あとで感想、聞かせてくださいね!」

    「うん」

    4 = 1 :


    「ふふ、じゃ、行ってきますね」

    「戸締まりとガスの元栓だけ、忘れないようにしてくださいね」

    「うん」

    「しっかり朝ご飯、食べなきゃダメですよっ」

    「それじゃまた、事務所で!」


    ガチャ


    バタン


    「……」

    5 :

    ええ嫁さんや…

    6 = 1 :


    「……」

    「そうだ、味噌汁……」


    カチッ


    「温めて……」


    ズズー


    「……」

    「うまい」

    「でも」

    7 = 1 :



    「まずいよな、これは」



    8 = 1 :



    ―――

    ――――――

    9 = 1 :




    美穂「脱?」


    卯月「響子ちゃん宣言?」


    10 = 1 :


    「うん」

    美穂「えっと……?」

    卯月「どういうことですか?」

    「読んで字のごとく」

    「響子からの脱却を図ろうと思ってな」

    卯月「だっきゃく?」

    美穂「響子ちゃんと、何かあったんですか?」

    11 = 1 :


    「よく聞いてくれた」

    「二人ともうすうす感付いていると思うが」

    「最近の俺と響子はその、なんつうか……」

    「目に余るというかな、まあひどいもんだろ?」

    卯月「?」

    美穂「?」

    卯月「ひどい、ですか?」

    「うん」

    「相談する相手、間違えたかな……」

    12 = 1 :


    「まあ、実際に見せた方が早い」

    「例えばこれだ」スッ

    美穂「あ、お弁当」

    卯月「Pさんのお弁当箱ですか?」

    卯月「ちっちゃくてかわいいですね!」

    「ありがとう」

    「何を隠そうこれは、響子が作ってくれたものでな」

    美穂「えっ! そうなんですか!」

    卯月「へえー! 中見てもいいですか?」

    「いいよ」


    パカッ


    美穂「わあ~」

    卯月「すごい、おいしそうです!」

    13 = 1 :


    「だろ?」

    「俺のオススメはこれだ」

    「うずらの卵をベーコンで巻いたやつな」

    「爪楊枝に刺してあって、非常に食べやすくてグッドだ」

    「ベーコンをわざわざ焼いてくれてるのもポイントが高い」

    卯月「いいなあ~」

    美穂「こっちのハンバーグもすごい手が込んでますよね」

    「これソースがな、お手製なんだよ」

    「肉も粗挽きだし、冷えててもすっごい美味いぞこれ」

    美穂「お腹すいてきちゃいました……」

    卯月「これ全部響子ちゃんが?」

    「うむ」

    「おかしいだろ?」

    美穂「えっ?」

    卯月「おかしい、ですか?」

    「……」

    「おかしいだろ! どう見ても!」

    「どこの世界にプロデューサーに手作り弁当を差し入れるアイドルがいるんだよ!」

    14 = 1 :


    美穂「といわれましても……」

    卯月「響子ちゃん、料理得意ですもんね……」

    「(得意不得意の問題か?)」

    「まあいい、これでもまだ序の口だ」

    「ここ最近は輪をかけてひどくてな」

    「なんと、休日になると家にあがり込んできて」

    「炊事洗濯家事掃除と、全部やってくれるようになったんだ」

    「信じられるか? ありえんだろ!」

    「若干15歳のアイドルが、男やもめの、家にだよ!」

    美穂「……」

    卯月「……」

    「薄いな、反応」

    卯月「いえ~……その、実はですね」

    美穂「私たち、響子ちゃんから全部聞かされていたので……」

    「え」

    15 :

    合法的に響子なしでは生きていけなくするんだな

    16 = 1 :


    卯月「響子ちゃんがPさんのおうちに通うようになったのも」

    卯月「毎日お弁当作っているのも、全部知っていましたよっ」

    「知っててあんな白々しいリアクションしたんか」

    卯月「い、いえっ、実際に見たのは初めてだったので」

    美穂「シ、シャツを洗濯している姿も見ましたっ」

    美穂「同じ寮なので、色々お話ししてくれるんです」

    「……」

    「それで、問題があるとは思わんのか、君らは」

    卯月「でも、響子ちゃん楽しそうですし……」

    美穂「毎日献立考えるのが大変だとは、聞きましたけど」

    美穂「響子ちゃん、以前と違って最近すごく笑うようになったんです」

    美穂「だから、よかったねって卯月ちゃんと話してて……」

    「ふむ……」

    卯月「Pさんは、その、嫌なんですか?」

    卯月「響子ちゃんがおうちに来るの……」

    「まさか、嫌なわけないよ」

    「でもな」

    17 = 1 :


    「少し、歪んでる気がしてな」


    18 = 1 :



    ―――
    ――


    19 = 1 :


    「……」フムフム

    「豚ひき肉」

    「キャベツ」

    「ニラ……と」カキカキ…


    「何見てるんですかっ?」ヒョコッ


    「わっ」

    「きょ、響子、いたのか」

    20 = 1 :


    「ふふっ、驚きました?」

    「学校が終わって急いできたんです」

    「やっぱり事務所のみんなといるのが一番落ち着きますから!」

    「う、うん、そうか」

    「それで、何見ていたんですか?」

    「あー、いや……」

    「……くっくぱっど?」

    21 = 1 :


    「うん」

    「いろんなレシピが載っててな」

    「眺めてるとちょっと面白いんだ、これが」

    「へえー……あれ?」

    「Pさん、まだ冷蔵庫に食べるもの残ってますよね?」

    「まだあるよ」

    「食べきれないくらい」

    「ですよね! よかったです」

    「てっきりもう無くなっちゃったのかと思いました」

    「あー、えと、大丈夫だよ」

    「今週いっぱいはもつよ、きっと」

    「はいっ、足りなくなったらまた言ってくださいね!」

    「すぐに作って持っていきますから!」

    22 = 1 :


    「……そのことなんだけど、響子」

    「あの、別に無理して毎日弁当とか作ってくれなくてもいいんだぞ?」

    「今はこうやって、手軽にレシピやら何やら検索できる時代なんだし」

    「簡単な料理なら、俺にだって……」

    「そんな、全然無理なんてしてないですよ!」

    「私、好きなんです、誰かのためにお料理したりお洗濯したりするのが」

    「全部私が好きでやっていることなんですから、遠慮なんていりませんよっ」

    「いや、遠慮というか」

    「それに私、少しでもお役に立ちたいんです」

    「いつも遅くまでお仕事してくれているPさんのために」

    「せめてご飯くらいはちゃんとしたものをと思って……」

    「う」

    「だから、心配しなくても大丈夫ですよ」

    「明日もおいしいお弁当、作ってきますから!」

    23 = 1 :


    「……」

    「ささっ、お弁当箱、回収しますからねっ」

    「ふふっ、味の感想も聞かせてくださいねっ♪」

    「あ、ああ」スッ

    パカッ

    「あっ、すごい! 全部食べてくれたんですね!」

    「これ、どうでしたか? 私、ちょっと味が濃いかなって不安だったんですけど」

    「や、ちょうどよかったよ」

    「おいしかった」

    「本当ですか? ふふ、ありがとうございます」

    「あ、そうだ、ここにあった里芋なんですけど……」

    「これな、俺これ好きだわ、すごい好きな味」

    「やっぱり! Pさん好きだろうなって思ったんです」

    「えへへ、じゃこれは当たりですね、次も入れておきますね」

    「そうだ、明日の献立案、考えてきたんです、ほら――」

    「……」

    「(うーん……)」

    24 = 1 :


    「(無理してない、か)」

    「(これは、本腰入れる必要がありそうだ)」


    25 :

    何が問題なのかサッパリわからないな(すっとぼけ)

    26 = 1 :



    ――――

    ――週末

    27 = 1 :


    「♪~~」


    ピンポーン


    「はーいっ」


    ガチャッ


    「あ、響子」

    「はいっ、響子ですっ」

    「今週もお世話になりますっ」

    「おう」

    「まああがってくれ」

    28 = 1 :


    「失礼します」

    「ふふっ、今日もいろいろ買ってきましたよ」

    「ん?」

    「卵が安かったんです、だから鶏肉と合わせてですね」

    「オムライスなんかいいかなって――」

    「――あれ?」

    「ああ、買い物してきてくれたのか」

    「悪いことしたな、そりゃ」

    「Pさん、あの」

    「それは……」

    「これか」

    「これはニラだ」

    「みじん切りにしてやった」

    29 = 1 :


    「ニラ?」

    「これからキャベツも刻む」

    「キャベツ?」

    「えっと……」

    「Pさん、ひょっとして料理、するんですか?」

    「うん」

    「なんでまあ、響子は適当にくつろいでいてくれ」

    「また少ししたら呼ぶからさ」

    「え、あ」

    「あ、あの、私、手伝いますよっ」

    「というか、言っていただければ私が作りますっ!」

    「だって私、そのために来たんですから!」

    「ありがとう」

    「でも俺はそうは思っちゃいない」

    「え?」

    30 = 1 :


    「響子は俺のお手伝いさんじゃないからな」

    「あくまで俺の友人であり、客人だ」

    「客人に夕食を作らせるやつはいないよな」

    「え? で、でも」

    「今までは……」

    「そう」

    「だから今までがおかしかったんだな」

    「これからは無しにしよう、そういうのは」

    「」

    「とは言っても俺は料理なんて慣れてないからさ」

    「そばで見ていて、いろいろと口出ししたくなるとは思うけど」

    「とりあえずは何も言わず、見守っていてくれないか?」

    「えと……」

    「そうしてくれると、俺も嬉しい」

    「……」

    31 = 1 :


    「……」

    「……」


    トントントントン……


    「……」

    「……あの、もしかしてご迷惑、でしたか?」

    「私がおうちにお邪魔したり」

    「お料理、作ったりするの」

    「まさか」

    「そう思ったことはない」

    「じゃあ……」

    「あと、豚ひき肉を……」

    「あ、ここに……」スッ

    「お、ありがとう」

    「かきまぜて……」


    カチャカチャ……


    「……」

    32 = 1 :


    「……このままだと良くないと思った」

    「このままだと、きっといずれ依存してしまうことだろう」

    「だから、そうなる前になんとかしようと思ってな」

    「えーと、にんにく、ごま油……」


    カチャカチャ……


    「依存だなんて、そんな……」

    「私はほんの少し、身の回りのお世話をさせてもらっているだけで」

    「それにPさんは、ちゃんとお仕事だってこなしているじゃないですか」

    「私に依存なんて――」

    「ちがう」

    「逆だ」

    「え?」

    「俺が響子に依存することを危惧しているんじゃない」

    「逆だ」

    33 = 1 :


    「逆?」

    「えと、それってつまり」

    「私がPさんに、ってことですか?」

    「……」

    「ここで蓮根を入れる」

    「シャキシャキしておいしいらしい」


    トンットンットンッ…


    「……」

    「……おかしいと思った」

    「どうしてこんなにあれこれ世話を焼いてくれるんだろうって」

    「俺が響子のプロデューサーだから? まさか」

    「流石にそこまでうぬぼれちゃいない」

    「色々考えると、一つだけ思い当たる節があった」

    「前に響子の、鳥取の実家に行ったときのことだ」

    「……私の、実家ですか?」

    34 = 1 :


    「あのとき響子、言ったよな」

    「東京だとなんでも一人分なんです、って」

    「一人分……」

    「料理も、洗濯も、掃除も、買い物も」

    「こっちでは自分一人のためだけにしかやらない」

    「でも、実家は違う、両親がいて、弟妹がいて、……一人じゃなくて」

    「誰かの為に家事をする事ができて」

    「余計なことを考える時間もない」

    「それが例えようもなく嬉しいんです、と」

    「そう言っていたこと、俺は覚えてる」

    「……」

    35 = 1 :


    「あのとき、俺はいくつかの質問をすべきだった」

    「"東京の生活はもう慣れたか?"」

    「"新しい高校に友達はできたか?"」

    「"女子寮のみんなとは仲良くしているか?"」

    「"卯月や美穂とは、どうか?"」

    「……」

    「俺は鈍感に過ぎたな」

    「何も疑問に思わなかったんだから」

    「響子がうちに上がり込んでくる、そのときまでな」


    カチャカチャ……


    「……もう、混ざったかな」

    36 = 1 :


    「……つまり、Pさんはこう言いたいんですか」

    「私は寂しさを紛らわすために、Pさんの家にきていると」

    「一人でいたくなくて、誰かのお世話がしたくて、Pさんに依存している、と」

    「何言ってんだって思うよな」

    「さんざん飯やらなんやら作ってもらっておいてさ」

    「もちろん、これは俺の勝手な推測でしかない」

    「聞いた限りじゃ、卯月や美穂とも仲良くやってるみたいだし」

    「俺の勘違いってことも、十分にあるだろう」

    「でも、たとえ俺の杞憂だったとしても」

    「やはりこのままでいるのは問題だと思う」

    「だから――」

    「……そうですか?」

    「え?」

    「問題なんて、ありますか?」

    「へ?」

    37 = 1 :


    「い、いいじゃないですか、別に」

    「Pさんのおうちに行く理由が何であっても」

    「だってPさん言ってくれましたよね?」

    「私がこうすること、迷惑じゃないって」

    「いやまあ、それは」

    「確かに助かってはいるけどな」

    「だったら、何も問題ないじゃないですかっ」

    「よく言いますよね、Win-Winの関係って」

    「私たち、きっとそれだと思うんです」

    「私がお世話することで、Pさんの負担が軽くなる」

    「私は家事したい欲を満たせて、一人でいる時間がなくなる」

    「まさに、理想的な関係じゃないですか」

    「Win-Win……」

    「その結果、私がPさんに依存することになったとしても」

    「私、それはそれで、いいかなって」

    「ちょっとだけ思うんです、あの、ちょっとだけ、ですけどね」

    「……」

    38 = 1 :


    「それに、もとからこういう性格なんですよ」

    「いつも考えちゃうんです」

    「誰かの役に立ちたいって」

    「誰かのお手伝いをしたいって」

    「……」

    「好きなんです、人のため、みんなのためっていうのが」

    「きっと私がアイドルをしているのも、その延長線なんだと思います」

    「ファンの人に笑顔を届けるのが、アイドルのお仕事ですもんねっ」

    「……」

    「そうです、これもトップアイドルになるための修行のひとつなんですよ!」

    「だからやっぱり、Pさんは遠慮なんかしなくていいんですっ!」

    「……」

    「なるほど、やっとわかった」

    「本当の問題が何か」

    「……え?」

    「響子は、多分」

    「与えることに慣れすぎてる」

    39 = 1 :


    「与えることに……?」

    「ここ数週間、一緒に過ごしてきて」

    「俺は一度も響子のわがままを聞いたことがなかった」

    「食べるものでも行くところでも」

    「常に俺の意思を優先してくれたよな」

    「俺は思ったよ、すげえいい子だなって」

    「でも同時にこうも思った」

    「あまりに一方的すぎるな、って」

    「俺はいつも受け取る側で、響子はいつも与える側にいる」

    「さっき言ってくれたように」

    「響子はいつも誰かのために動いてる」

    「それが少し、歪んでるように見えたんだろうな」

    40 = 1 :


    「私が……?」

    「さて、もういいだろう」

    「タネは完成したから、後はあっちの机でやろう」

    「え」

    「新聞紙ひいて……」

    ガサガサッ

    「あ、あの」

    「あと薄力粉、水、皮だな」

    「ここからは響子にも手伝ってもらうぞ」

    「なんせ引くほど不器用だからな、俺は」

    「これって……」

    「もう気づいてると思うし、今更だけど」


    「餃子、作ろうぜ、一緒に」

    41 = 1 :


    ―――
    ――


    「このな、皮を包むのがどうも不慣れなんだ」

    「まず具を乗せるだろ」

    「そんで皮の周りに水をつける」

    「で端からひだを作るように閉じていって……」

    グチャ

    「……失敗しました」

    「……はみ出てますね」

    「というわけで、響子さん、教えてください」

    「は、はいっ、それはいいんですけど」

    「あの、さっきの話は……」

    「まあ、それは作りながらでいいじゃないか」

    「え、あ」

    「さ、はじめからやり直すぞ」

    「は、はいっ」

    42 = 1 :


    「まず具を乗せる……」

    「あんまり乗せすぎない方がいいんです」

    「そして全体的に平べったくしてですね……」

    「ふむふむ」

    「こんな感じか」

    「周りは1センチくらい余らせるようにするんです」

    「それでこれは私のやり方なんですけど」

    「端からじゃなくて真ん中から閉じていくんです、ほら、こんな感じに」

    「ほお」

    「それから左右にひだを作っていって……」

    「はいっ、完成ですっ!」

    「すげえ」

    「超きれい」

    「えへへ……そうですか?」

    43 = 1 :


    「俺もやるぞ」

    「中央から閉じるんだったな……」

    「はい」

    「そして両側を交互に閉じていって」

    「三日月型になるよう意識してくださいね」

    「うむ」

    「こう……こうか」

    「あっ、いいじゃないですか」

    「できた」

    「比べるとだいぶ不格好だが、どうだろう?」

    「ふふっ、おいしそうですよ」

    「よし、ちょっとコツが分かったかもしれん」

    「この調子でばんばんと……ん?」

    「?」

    44 = 1 :


    「響子、それ、何個目?」

    「ええと、1、2、……これで4個目ですね」

    「……」

    「俺が1個作る間に、か?」

    「えへへ」

    「慣れてますからっ」

    「……」

    「うおおっ」バババッ

    「あっ、駄目ですよ! 形が崩れちゃいますって!」


    45 = 1 :


    ―――
    ――


    「お水を入れて……」

    「うん」


    ジューー


    「しばらく蒸し焼きにします」

    「よし、ふたをして……」


    カポッ


    46 = 1 :



    ジューー


    「……」

    「……」

    「さっきの話な」

    「俺はどっちに偏っていてもいけないと思う」

    「……偏る、ですか?」

    「世の中ギブアンドテイクで回ってるなんていったら」

    「単純な奴だって鼻で笑われるかもしれない」

    「でも俺は割とそれを信じていてさ」

    「どっちが多くてもいけないって思ってる」

    「誰かから受け取ったら、その分誰かに与えてやる」

    「誰かに与えたら、その分誰かから受け取るようにする」

    「そうやって世の中バランス取ってんじゃないかって感じるんだ」

    「……私は、みんなに与えることを考えすぎだと」

    「そう、仰りたいんですよね?」

    47 = 1 :



    ジューー


    「……あと何分かな」

    「……3分くらいですね」

    「そうか」

    「……ここは鳥取じゃない」

    「響子が家事をする必要もない」

    「だからもう少し、肩の力を抜いてもいいんじゃないかと思う」

    「もっと、自分のために時間を使っていいんだ」

    「卯月や美穂と遊ぶのでもいい」

    「うちに来て、何をするでもなくぼんやりしているのでも構わない」

    「もっと誰かに寄りかかって、誰かに甘えて生きても」

    「誰も文句は言わないって、そう思う」

    「誰かを頼ることは、依存することとは全く違うからさ」

    「……」

    48 = 1 :



    ジューー


    「……私、こっちにきてから一人の時間が増えたんです」

    「……」

    「実家だと毎日忙しくて、特にご飯のときなんててんやわんやで」

    「料理を運んだり弟たちのお代わりをよそったりで」

    「私自身、ろくに食べる暇もありませんでした」

    「それがこっちに来ると、まるで逆で」

    「自分で作って、自分で食べて、自分で片づけて……」

    「本当に、自分のためだけの時間が増えたんです」

    「私、いつもそわそわして落ち着きませんでした」

    「こんなことしてていいのかなって罪悪感すらわいてきました」

    「……」

    「でも、今ならその理由も分かります」

    「私きっと、慣れていなかったんですね」

    「変な話ですよね、誰かに何かしてあげることは得意なのに」

    「自分自身を甘やかすのは、大の苦手だなんて」

    「……そういう人も世の中にはいる」

    「自分に厳しくて、他人にやさしい人も」

    「それを変えるかどうかは、その人次第だけどな」

    49 = 1 :



    ジューー


    「……Pさん、私、いいんでしょうか?」

    「ん?」

    「何もしなくても、Pさんのおうちに来てもいいんでしょうか?」

    「料理をしなくても、家事をしなくても、何の用が無くても」

    「ただ私が行きたいからという理由で来ても、いいんでしょうか?」

    「……もちろんだ」

    「今までずっと、受け取る側だったからな」

    「これからは全力で与える側にまわってやるさ」

    「精一杯おもてなししてやるからな、覚悟しろよ」

    「……といっても、餃子すら満足につくれない男だけどな」

    「Pさん……」

    50 = 1 :


    「それに、俺だけじゃない」

    「響子には卯月や美穂、それにファンのみんながいる」

    「そいつらにもたくさん迷惑かけてやりゃいい」

    「大丈夫、みんなきっと自分が喜ぶことよりも」

    「響子が喜ぶことを優先してくれるはずだよ」

    「少しくらい甘えたって、罰は当たらないさ」

    「……」

    「ふふっ」

    「ん?」

    「いえ、よかったって思って」

    「よかった?」

    「Pさんが私のプロデューサーさんで、よかったって」

    「今、そう思ったんです」

    「……」

    「それは、その」

    「ど、どういたしまして」

    「はいっ、ふふふ」


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