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元スレ京太郎「俺が三年生?」ネリー「手、つないでもいい?」
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・三年、夏の終わりに
揺杏「あー、始業式かったるかった~」
成香「校長先生のお話が長かったです……」
誓子「そうだね、私もちょっと眠かったかも」
揺杏「マジメ寄りなチカセンまで……うちの校長もなかなかの強者だなー」
由暉子「ええ、私も思わず笑っちゃいそうになりました」
成香「はい?」
誓子「笑いどころなんてあったっけ?」
由暉子「奥さんの話をしてた時なんか笑いをこらえるのに精一杯で」クスッ
揺杏「やばい、全く記憶にない。なんかすっげー気になってきた」ヒソヒソ
成香「私は途中でウトウトしてて……」ヒソヒソ
誓子「ごめん、私も」ヒソヒソ
揺杏「みんなして眠くなるタイミングを狙ってくるなんて……やるな校長」ヒソヒソ
爽「やーやー、待たせたね」
誓子「ね、ねえ……どんな話だったか教えてくれるかな?」
成香「私も気になりますっ」
由暉子「わかりました……まずは二人の出会いの場面からなんですけど」
揺杏「いくらなんでもさかのぼり過ぎじゃね?」
爽「ちょいちょーい、みなさんちょっとお話いいですかね?」
成香「あ、爽さん」
由暉子「さっきぶりです」
誓子「遅刻。なにしてたの?」
揺杏「それよりさ、なんか校長の話がすっげー面白かったみたいでさ」
爽「ああ、あれね……中々良かったよ」
誓子「爽もちゃんと聞いてたの!?」
成香「意外です」
爽「うんうん……実にいい子守歌だった! おかげで今はスッキリだね!」
誓子「……でしょうね」
揺杏「さ、話に戻りますか」
成香「ユキちゃん、お願いします」
由暉子「ええ、三十年くらい前のことらしいんですけど――」
爽「この薄情者どもー!」
爽「ふーんだ、どうせ私なんてさー」
成香「どうしましょう、爽さんがいじけちゃいました……」
揺杏「ああ、それなら大丈夫だって」
誓子「そうね、そのうち復活するし」
由暉子「お話、面白くなかったんでしょうか?」シュン
成香「そんな……とっても面白かったです!」
誓子「それで私たちだけ盛り上がっちゃったのがちょっとね……」
揺杏「それよりさ……夏休み終わっちゃったよ。短すぎでしょ」
成香「そうですか? 前からこんな長さだったと思うんですけど」
揺杏「だってさー、むこうじゃ今月の終わりまで続いてるっしょ。絶対不公平だって」
誓子「その代わり冬休みが長いでしょ、こっちは」
由暉子「……でも、よく考えたらあまり遊びに行く暇がなかったような気がします」
揺杏「でっしょー?」
爽「こんなこともあろうかと!」
成香「わっ、本当に復活しました!」
爽「実は清澄の人たちがこっちに来るんだよねー。二泊ぐらいするって」
誓子「え、いつの間にそんな話になったのよ!?」
爽「ついさっき。なんとなーく電話したらなんとなーくそんな流れになって」
揺杏「遅刻の理由はそれか……で、いつ来んのさ?」
爽「今度の金曜。洞爺湖の方で花火あるからいいかなーって」
由暉子「花火……」
誓子「また勝手に決めてきて……」
成香「でも、楽しそうです」
揺杏「だなー。竹井のねーさんや須賀のにーさんに会うのも悪くないし」
爽「よしよし、事後承諾だけど決定だね」
誓子「わかったわよ、もう……」
由暉子「誓子先輩はイヤですか?」
誓子「そういうわけじゃないけど、また部屋に上げることになったらその……は、恥ずかしいし」
爽「まあ、今回は部室使えるんだけどね」
誓子「あ、そうだった……」
揺杏「チカセンさぁ、なーに想像してたのかなー?」ニヤニヤ
爽「そこらへんじっくりねっとり聞かせて欲しいなー」ニヤニヤ
誓子「……二人とも、また温泉の時と同じ目にあいたいの?」
「「ごめんなさいでしたぁ!」」
成香「温泉? なにがあったのでしょうか?」
由暉子「ミステリー……サスペンスの香りがしますね」
成香「えっ」
久『というわけで北海道に遊びに行くことになったから』
京太郎「また急だなぁ」
久『なんとなーく話してたらなんとなーくそういう流れになって』
京太郎「おいおい、そういう適当なのはどっちかって言うと俺の役目なんだけど」
久『いいじゃない。避暑よ、避暑』
京太郎「それはいいけど、費用は?」
久『部費使う。一応は合宿だしね。優勝の実績あるから出せちゃうのよねー』
京太郎「おい、さっき思いっきり遊びに行くって聞こえたぞ」
久『表現の問題ね。日本語って難しいわぁ』
京太郎「ま、かたいことはこの際いいか」
久『そういうこと。出発は金曜、帰りは日曜ね』
京太郎「他の奴には?」
久『もう連絡済み。みんな行けるって』
京太郎「夏休みの思い出ってところか。あんまり遊ぶ暇もなかったし」
久『じゃあ、細かい時間とか決まったらまた連絡するから』
京太郎「ああ、わかった」
和「おはようございます」
咲「おはよう」
京太郎「来たか、二人とも」
和「今回の合宿、有珠山の方々と一緒なんですよね?」
咲「合宿? 私は遊びに行くって聞いたんだけど」
京太郎「どっちもだ。前にやった時もそんな感じだったろ」
咲「そっか、そうだね」
和「秋にはまた大会がありますし、実のあるものにしたいですね」
京太郎「真面目だなー、もうちょっと肩の力抜けよ、ほら」モミモミ
和「ひゃっ、そんないきなりっ」ビクン
京太郎「ん、結構こってんな」
咲「京ちゃん、セクハラだよ」ジトッ
京太郎「軽いスキンシップだろ、な?」
和「は、はいぃ……」トロン
咲「いいから離れるのっ!」グイッ
和「あっ」
咲「もう……部長たち早く来ないかな」
京太郎「あー、そのことなんだけどな……」
咲「染谷先輩たちが」
和「来られない?」
京太郎「来られないっつーか、遅れてくるっていうかだな」
和「あの、二人は大丈夫なんでしょうか?」
京太郎「体調的な問題は優希だけだな」
咲「優希ちゃん、風邪ひいちゃったのかな?」
京太郎「いや、かき氷の食べすぎで腹壊したって」
和「……なにやってるんですか」
咲「あはは……」
京太郎「暑いからって冷たいもの一気食いするのはやめろって言ったのにな……」
京太郎(ちなみにまこっちゃんは実家の手伝い)
京太郎(急にバイトが休んで人手が足りなくなったらしい)
咲「でも、部長遅いね」
和「寝坊でしょうか?」
京太郎「たよりがないのは元気な証拠っていうけどな」
久「お、おはよう……」フラフラ
京太郎「おはよう……ってか大丈夫か?」
久「大丈夫、薬飲んできたから……」
京太郎「飲んでからどれぐらい経った?」
久「ん……一時間ぐらい」
京太郎「ちょっと熱いな……薬が効いててこれか」
久「暑いからって薄着にしすぎたかしらね……」
京太郎「行けるのか?」
久「行くわよ、キャンセル料もったいないし」
京太郎「わかった。無理はすんなよ」
久「誰かにうつしたら治るらしいんだけど」ギュッ
京太郎「やめろよ、こんなとこで」
久「別の場所だったらいいわけ?」
咲「……」
和「……」
((すごく、距離が近い……!))
和「……仕方ない、ですよね」
咲「和ちゃん?」
和「具合が悪いなら仕方ない、ですよね……?」ギリギリギリギリ
咲「ひっ」
誓子「そろそろ時間だけど……」ソワソワ
爽「チカは落ち着きがないなぁ」
成香「な、なんだか私もドキドキしてきました」
揺杏「そんな初対面ってわけじゃないんだからさー」
由暉子「……」
由暉子(まだかな……)
京太郎「あ、いたいた。おーい」
誓子「――!」
由暉子「――!」
京太郎「よう、久しぶり」
和「お元気でしたか?」
咲「えっと、こんにちはっ」
誓子「ひ、久しぶりだね」
由暉子「お久しぶりです」
揺杏「おっひさー」
成香「お、おひしゃしぶりです」
爽「やーやー、よく来てくれたね。でもなんか人足りなくない?」
京太郎「それなんだけどな……」
久「う~ん……」
揺杏「ありゃ、竹井のねーさんはダウン中ね」
京太郎「無理すんなとは言ったんだけどな……」
爽「困ったね。一応は合宿のつもりだったんだけど」
誓子「え、そうだったの?」
爽「言わなかったっけ?」
由暉子「初耳です」
成香「私もです」
京太郎「ここら辺の適当さはうちに通じるものがあるな……」
和「そうですか?」
咲「たしかに京ちゃんは適当だけど」
京太郎「まあ、去年と一昨年の話だな。咲は後で説教な」
久「……あら? なんかいっぱいいる」
揺杏「生きてるー?」
久「死んでるー」
爽「つまりリビングデッド……これは見過ごせないね。学校的に」
誓子「こら、変な方向にそらさない」
由暉子「こう、ハンドパワー的なものでなんとかならないでしょうか?」
咲「え、ハンドパワー?」
由暉子「時々手が光るので、もしかしたらと」
成香「そ、それはさすがに……」
咲「手が光る……お姉ちゃんはギュルギュルいってるけど」
久「あれ生身でくらったら、この世とお別れしちゃうわよ……」
和「ハンドパワーやら手が光るだのは置いておいて、回復を早めたいならおとなしく休むことが一番だと思います」
京太郎「和の言うとおりだな。それは久ちゃんもわかってると思うけど」
久「……だからこうして横になってるんじゃない」
和「薬は持ってきてますか?」
久「もちろんよ。でも解熱剤が心もとないかも……」
和「わかりました。後で買っておきますから無理はしないでください」
久「ん……ありがと」
爽「治療かぁ……今はカムイほとんどいないし。あ、パウチならいるけど使ってみる?」
誓子「ちょっ、それはダメ!」
京太郎「前もチラッと言ってたけど、そんなヤバいやつなのか?」
誓子「ヤバイというか……その」
爽「じゃあ私と二人で試してみる? 須賀くんとなら別にいいよ?」
誓子「爽!?」
成香「私もそれ、ちょっと気になります」
由暉子「カムイ……なんだかカッコイイ響きです!」
爽「あらー、いきなり多人数というのもレベル高いし、また今度だね」
京太郎「そのカムイって風邪治せるのか?」
爽「どうだろうね。まぁ、誰かにうつせば治るらしいし」
京太郎「……大体わかった」
揺杏「ところで、このあとの予定はどうすんのさ?」
京太郎「ノープランだ。合流してからって思ってたし」
和「どのみち部長がこの状態ではあまり動けませんし」
久「この際、私のことは放置してもいいんだけど……明日には動けるようになる予定だし」
成香「一人になるのはやめたほうがいいと思いますっ。心も弱っちゃいますから……」
揺杏「だね。竹井のねーさんが弱ってちゃ調子狂うし」
京太郎「麻雀に関しては明日の予定だし……そういや洞爺湖で花火あったな」
爽「それそれ、せっかくだからいいかなって思ってたんだけど」
咲「花火かぁ」
和「……いいですね」
和(先輩と二人きりで……ありですね!)
京太郎「よし、じゃあ行ってこいよ。俺は久ちゃんの様子みてるから」
和「えっ」
由暉子「……」
由暉子(やっぱり、こうなっちゃいましたか……)
誓子「それなら私が残ろうかな。竹井さんとゆっくりおしゃべりしたいし」
京太郎「さすがにそれは申し訳ないな。迷惑かけるのは気が引ける」
誓子「部長同士でつもる話があるからいいのよ。引率は副部長さんにお任せします」
久「そうね、あんたが残ると咲と和も残りそうだし」
京太郎「……わかった。じゃあ頼むよ」
誓子「うん、楽しんできて」
成香「……いいんですか、チカちゃん?」
誓子「いいの」
揺杏「チカセンがそう言うならいいけどさ」
由暉子「誓子先輩……」
誓子「そんな顔しないで、いっぱい楽しんできて……ね?」
由暉子「……わかりました」
爽「チカ……君の死は無駄にしないよ」
誓子「勝手に殺さないで」
久「……」
誓子「みんないなくなると一気に静かだね」
久「……どうして貧乏くじ引いたの?」
誓子「ユキが残念そうな顔してたから」
久「そう……」
誓子「竹井さんも、本当は須賀くんに残ってもらいたかったんじゃないの?」
久「あれでいいの。残られたらあいつに甘えちゃうし」
誓子「竹井さんって須賀くんのこと、その……なんだよね?」
久「あなたも真屋さんもそうなんでしょ?」
誓子「う、うん……」
久「まあ、なんとも言い難いのよね。この件に関しては」
誓子「そうだね……」
久「ちなみに、一緒のベッドで寝たこともあったり」
誓子「えっ」
久「なにもなかったけどね」
誓子「……本当に?」
久「あいつが何かしてくると思う?」
誓子「むしろ竹井さんが何かしそうだけど」
久「そうね……まあ、乗ってこないんだけど」
誓子「むー、やっぱり二人きりにさせなくて正解だった」
おやすみ>>1
フラグ回収完了
安心と信頼の寝落ちです
続きはまた後で
寝ます
安心と信頼の寝落ちです
続きはまた後で
寝ます
こんばんはー
今日こそは寝落ちしないで頑張ります
じゃあ、もうちょっとしたらってことで
今日こそは寝落ちしないで頑張ります
じゃあ、もうちょっとしたらってことで
京太郎「さて、このまま直行するか?」
和「私はそれで構いません」
咲「あ……ちょ、ちょっとお花摘みに……」
京太郎「よし、監視を一人付けるから迷子にならないように」
咲「な、なりません!」
爽「じゃあ私がついて行ってあげよう」
咲「獅子原さんが、ですか?」
爽「この前はお世話になったしね。そのお礼参りってことで」
咲「え、お礼参りって……」
爽「さ、行っくぞー」
揺杏「私らは着替えあるから」
由暉子「また新作ですか?」
成香「それは楽しみです!」
和「試合の時に来ていた服、もしかして自作なんですか?」
揺杏「あれ、もしかして興味あっちゃったりする?」
和「可愛い服だと思ってました」
揺杏「こんなこともあろうかと、原村さん用にもう一着作ってみたんだよねー」
和「えっ」
揺杏「いやー、無駄にならなくてよかった」
由暉子「お揃い、ですか」
成香「ふ、二人が並んでいる姿を想像したらドキドキしてきましたっ」
揺杏「じゃ、早速むこうで着替えてこようかー」
和「ちょっ、私はまだ着るとは……」
由暉子「大丈夫ですよ。慣れたら結構楽しいですから」
京太郎「……それで俺は放置か」
京太郎「まあ、あの中に割って入れっても無理だけどさ」
咲「お、お待たせしました」
爽「いいよ、今来たとこだし」
咲「最初から待っていたのに今来たって……」
爽「気にしない気にしない。神様だって細かいところにはきっとこだわらないからさ」
咲「はぁ」
爽「しかし、宮永さんは試合のときとは別人だね」
咲「え、そうですか?」
爽「この前雑誌で、姉妹揃って魔王って煽りだったよ?」
咲「……どこの雑誌ですか、それ?」ゴッ
爽「えーっと」
爽(確実にこういうののせいだと思うんだけど)
爽「とりあえず戻ろっか」
咲「そうですね」スタスタ
爽「宮永さん、ストップ」
咲「え?」
爽「そっち、違うよ?」
咲「あれ、そうでしたっけ?」スタスタ
爽「そっちも違うからね?」
咲「わ、わかってますってば」
爽「うーん、これは……」
爽(姉妹揃って方向音痴っていうのも本当っぽいなぁ)
由暉子「着替えてきました」クルッ
和「ど、どうでしょうか?」
京太郎「ふむ」
京太郎(ミニでフリフリな改造浴衣ってとこか……)
京太郎「うん、二人ともよく似合ってるな。かわいいかわいい」
由暉子「やりました」ブイ
和「ふふ、先輩がかわいいって……」
成香「……どう思います?」
揺杏「んー、年下の女の子にって感じ」
成香「ですけど、あの様子じゃ原村さんも……」
揺杏「あの分だと他にもいそうだなー」
成香「そ、そうですね……」
揺杏「須賀のにーさんは誰にでもすぐ優しくするからさ」
成香「……揺杏ちゃんは優しくされたこと、あるんですか?」
揺杏「べ、べっつにー?」
成香「そういえば準決勝の後――」
揺杏「わー! なんにもないったらなんにもないっての!」
和「先輩、失礼します」ムニュッ
由暉子「私も……」ムニュッ
京太郎「……腕を取られてたら動けないんですけど」
由暉子「だそうですよ?」
和「私はいいんです」
由暉子「なら私も問題ありませんね」
和「大ありです。先輩が迷惑しています」
由暉子「私たち、お友達ですよね?」
和「それとこれとは話が違いますっ」
京太郎(あ~、めっちゃやわらけー)
爽「おまたーって、修羅場?」
咲「……なにやってるの?」
京太郎「よし、行くぞっ」スルッ
由暉子「あっ」
和「先輩っ」
京太郎「早くしないと遅れるぞー」
爽「うーん、見事なすり抜けっぷりだね」
揺杏「あのホールド状態からあれだもんなー」
京太郎(危ない危ない……やっぱ緩くなってんな)
京太郎「さて、ここらへんか」
由暉子「花火の時間までもうちょっとですね」
成香「そ、そのせいか人が多いような気が……」
咲「き、気を付けないとはぐれちゃ――きゃっ」
和「咲さん、大丈夫ですか?」ガシッ
咲「うん、ありがと」
爽「危ないから手をつないだほうがいいかもね」
和「――っ」
揺杏「原村さんの左手もーらいっ」
和(そんな、これじゃ先輩と……!)
揺杏「まぁまぁ、それじゃ三人仲良く行くかー」グイグイ
和「ちょっ」
咲「わっ」
爽(悪いね、原村さん。ユキのためにも時間作ってあげたいんだ)
爽「じゃ、私は成香と」
成香「あ、はい」
爽「ユキのことは任せたよー」
京太郎「だってさ、俺らも――ってあれ?」
京太郎「……早速はぐれた感じか」
由暉子「……」ズキズキ
由暉子(痛い、です)
由暉子(転んで擦りむいてしまいました……)
由暉子(ほかの人ともはぐれちゃいましたし)
由暉子(……)
由暉子「……ひとりぼっち」
由暉子(それがこんなに心細いものだったなんて)
由暉子(先輩たちと出会う前は全然気にならなかったのに……)
由暉子(道端に座り込んでいる私に声をかけてくる人はいません)
由暉子(みんな家族と、友人と、恋人と仲良く話しています)
由暉子(その光景が私にはとても羨ましく映って……)
由暉子「だれか……」
由暉子(思わず漏れ出た声は自分で思うよりも揺れていて)
由暉子(誰の耳に届くこともなく、喧騒に飲まれてしまいました)
由暉子(それで、私の視界も揺れてしまって――)
「大丈夫か?」
由暉子(不意にかけられた声に顔を上げます)
由暉子(正直に言うと、まったくの予想外というわけではありませんでした)
由暉子(だって、この人ならこういう時に見つけてくれる……)
由暉子(心の隅でそう信じてましたから)
由暉子(だから、私は差し出された手を通り越して――)
由暉子「須賀さん!」
京太郎「おっと」
由暉子(暖かなその胸に、飛び込んでいました)
京太郎「膝のすりむけは大したことないけど、足首は……少し熱いな」
由暉子「転んだ時に捻ってしまったのでしょうか?」
京太郎「捻挫か……とりあえず動かさないほうがいいな」
由暉子「大丈夫です。こうやって立てば――あうっ」
京太郎「無理すんな。はは、さっきは飛びついてきたのにな」
由暉子「嬉しかったんです、来てくれたのが」
京太郎「そりゃまた嬉しいこと言ってくれるな……ほら」
由暉子「えっと、おんぶですか?」
京太郎「とりあえず移動しようぜ。買いたいものもあるし」
京太郎「お待たせ。氷、買ってきた」
由暉子「氷ですか?」
京太郎「捻挫の時は動かさずに冷やせってよく言われたからな。まぁ、本当は病院で診てもらうのが一番だけど」
由暉子「スポーツ、やってたんですか?」
京太郎「ああ、結構いい感じだったんだけどな。まぁ、ドロップアウトしたんだけど」
由暉子「ごめんなさい、ちょっと無神経でした」
京太郎「そうやって言われるのにも飽きたよ。だからほら、そんな顔すんな」
由暉子「どんな顔してます?」
京太郎「申し訳なさそうな顔。眉が下がってる」
由暉子「じゃあこうして……」グイッ
京太郎「つり目になったな。怒ってる?」
由暉子「じゃあ――」
京太郎「笑ってろよ。多分それが一番似合う」
由暉子「……はい」ニコッ
京太郎「本当にここでいいのか?」
由暉子「はい。ちょっと遠いけど、花火は見えますから」
京太郎「ま、人もいないからゆっくりはできるか」
由暉子「……みんな、心配してるでしょうか?」
京太郎「ああ、さっきメールしといたから心配すんな」
由暉子「あの、怪我のことは……」
京太郎「黙っといたよ。向こうの楽しい気分に水差したくないしな」
由暉子「良かった……じゃあ、お願いします」
京太郎「それじゃ」ピトッ
由暉子「――んんっ」ピクッ
京太郎「冷たかったか?」
由暉子「ちょっとびっくりしちゃいました」
京太郎「まあ、我慢してくれ。こうやって冷やしてりゃ、治るのも早くなるから」
由暉子「は、はい……」
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