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    元スレ沙希「ねぇ…」 八幡「」

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    101 = 91 :




    雪ノ下が顔を上げたことで視線が交わる。
    彼女の顔が、とても優しくて、温かくて、儚げで、視線を逸らせない。身動きがとれない。



    雪乃「いつの間にか、更生されてたのは私の方だったのかもしれないわね」

    八幡「は?」



    クスッと微笑んで彼女は喋る。



    雪乃「あなたと居るの、嫌いだわ」



    雪ノ下はそれだけ言うと、視線を外して残りの紅茶を飲み干す。
    俺もそれに吊られて固まっていた身体を動かして紅茶を一気に飲み干した。



    雪乃「彼女と、きちんと仲直りしなさい」

    八幡「………」



    何も応えない俺に尚も優しい視線を送ってくる。
    その目を見れば、俺の全てが引き込まれてしまいそうで、俺はつい顔を背ける。



    雪乃「あなたが求めたのでしょう?らしくもなく……いや、むしろあなたらしい理想を」

    八幡「………そうだな」




    102 = 91 :




    俺の言葉に満足したように頷くと、雪ノ下は立ち上がり、俺のカップも回収して一緒に片付ける。
    片付け終えた雪ノ下は、自分の席に戻ると座ることはせずにカバンを持ち上げた。



    雪乃「さて、今日はもう終わりよ」



    先ほどまでの表情は消え、いつもの毅然とした顔でそう告げると俺にも出るよう促す。
    そんな時、ガラガラと教室のドアが開き、外から亜麻色の髪をした女子生徒が元気よく入ってくる。



    いろは「お邪魔しますー。…ってアレ?もしかして今ちょっとアレな感じでした?」

    八幡「……別に。んでなんだよ、依頼か?」

    いろは「いえ先輩が暇してたらー、生徒会のお仕事手伝ってもらおうかなーって思って来たんですけどー、もし今アレならまた後日でも全然良いですよ?」



    なぜ頼みに来た奴の方が偉そうなのか。
    もうその言い方だと俺が手伝うのは決定事項ってことなの?
    つうか後日でも全然良い仕事なら生徒会だけで回せないのかよ…。



    雪乃「一色さん、今日はちょっと…」



    チラッと俺を見てくる雪ノ下。
    おそらく今の俺、だいぶ雪ノ下に気を遣わせてるんだろうな…。
    なのでそんな雪ノ下に顔を横に振ってから立ち上がり、カバンを手に取る。



    八幡「別に問題ない」



    103 :

    いろはす登場!

    104 :

    このゆきのん凄く良いわ

    105 :




    いろは「んー、ホントに良いんですかー?」

    八幡「良いっつったろ。すぐ行くから先行っといてくれ」



    一色のもとまで行って、そう告げる。
    少し困ったように首を傾げながらも一色は先に生徒会室へと向かった。
    雪ノ下を振り返る。



    雪乃「別に断っても良いと思うのだけれど」

    八幡「…俺にはあいつを会長にした義務があるからな」

    雪乃「そう、まああなたが良いなら止めはしないわ」

    八幡「……なあ、お前今日なんか変なもんでも食ったのか?」

    雪乃「はい?」



    俺の言葉の意味することを素早く察するとクスッと微笑む。



    雪乃「言ったでしょう。私は部長なのだから部員のメンタルケアををするのは当然のことよ」

    八幡「そうか」

    雪乃「ええ」



    なら、雪ノ下のメンタルケアは誰がするのだろうか、疑問に思ったことを口にしようとしたが、やめた。
    そんなことを聞いても何の意味もない。
    俺にできるのはいつだって、ただいつも通りの俺であることだけだ。
    だから、その代わりに。



    八幡「雪ノ下」


    107 :




    言葉の先を視線だけで促される。
    ……こんな事を言うのも俺らしくない。
    だが良いだろう、らしくない日にはらしくないことをどれだけ言っても。
    今日の俺は本当に俺らしくない。
    由比ヶ浜の言葉についムキになって、論理も、理屈も、屁理屈も、一切それらの欠片も込めず反論した。感情で反論した。
    結果的としては由比ヶ浜と喧嘩したようなものだ。
    そして、雪ノ下に支えられた。
    大袈裟な表現かもしれない。
    でも確かに俺は、彼女に支えてもらった。
    こういう時、どんな言葉を言えば良いのか。
    決まってる。



    八幡「その、、助かった。サンキュな」



    これしかない。
    雪ノ下はすべき事を提示してくれた。
    『彼女と、きちんと仲直りしなさい』と。
    雪ノ下は励ましてくれた。
    『あなたが求めたのでしょう?らしくもなく……いや、むしろあなたらしい理想を』と。
    なら、それに応えなくては。
    俺の言葉に少し驚いた後、雪ノ下は優しく微笑んで応えた。
    それを確認してから教室を後にして一色を追った。
    だからその時俺は気付かなかった。
    その微笑みの中に隠された、悲しみの目をした雪ノ下に。



    108 = 107 :




    いろは「せんぱーい、何ずっと携帯見てるんですかー?」



    雪ノ下と別れた後、生徒会の仕事を手伝って現在帰り道。
    朝から小雨が降っていた事と、近頃おかしくなってしまった妹に生活リズムを管理されているのとで、今日は歩きで登校した。
    そんな俺の横を歩く一色いろはに視線を向けることなく、俺は適当に応える。



    八幡「こうはーい、なんで一緒に歩いてるんですかー?」

    いろは「うざっ」

    八幡「これ一応お前の真似なんだけど?」

    いろは「私が言うと可愛いから良いんですよっ」

    八幡「あそう」

    いろは「その反応酷過ぎですっ!キモ過ぎですっ!可愛い後輩を構わない先輩とか需要なさ過ぎですっ!」

    八幡「そーだなー」



    とりあえず適当に会話を交わす。
    俺の言葉に憤怒する一色には一切視線は向けない。
    なぜならもっと大事な事をしているからだ。
    右手にある端末に表示された宛名欄にはスパムメールよろしく長ったらしい名前が表示されている。
    そう由比ヶ浜に送るメールの内容を考えているのだ。
    本日は金曜日であるから、休日に部活を行わない奉仕部員である俺と由比ヶ浜は、今度会う時は月曜日になってしまうのだ。
    それ以降でもおそらく仲直りはできるだろうが、やはり早いに越したことはない。
    なので明日からの休日間にできれば会うなりして、気まずい関係を払拭しておきたいと考えた。
    のだが………。

    110 = 107 :




    八幡「……なんて書けば良いんだよ…」



    全く思い浮かばない…orz。
    こういう時、何をどんな風に書けば良いのか皆目見当もつかない。
    まずどんな挨拶から始めれば正解なのだろうか…。
    ホントこんな時だけはリア充どもが羨ましいぜ。



    いろは「独り言とか気持ち悪いんでやめてください」



    ここで初めて隣を歩く一色に視線を向ける。
    ……俺の隣にはリア充筆頭の女子がいるんだがなぁ、ここでこいつに聞くのは何かアレだしなぁ。
    いやもうホントアレだわ、アレ。
    つかマジでなんでこいつと一緒に帰ってんの?
    いやもう問題はそこじゃないんだけどね!



    八幡「一色」

    いろは「はい?」



    問題は俺と一色の現状にこそある。
    見上げてくる一色の顔がやけに近い。
    ホントなんでこんな近いんでしょうね俺たちの距離。
    うん、いやマジでなんで俺は後輩の女の子と相合傘してるんだろうねいやホント…。


    111 = 107 :




    八幡「もうちょい離れろよ」

    いろは「これ以上離れたら先輩が濡れちゃうじゃないですかっ!」

    八幡「俺が濡れる前提なの?つかこれ以上って、お前全然離れてねえだろ…。気になんないのかよお前は」

    いろは「そんなこと気にするのは先輩くらいですよー。あ、でも可愛い後輩と肩がくっついてるからって変な気起こさないで下さいよ?」



    え?リア充って付き合ってもない女の子と相合傘しても何とも思わねえの?
    まぁ俺自身そんな変な気が起きるようなことはないんだけどね。
    いやもうホント溜息とか余裕で吐いちゃう!
    いやつうかもう自分でそこまで言われちゃうと何の気も起きないし。つかかえって萎える。つかあざとさに拍車かかり過ぎてて逆にテンション上がりまくっちゃうしっ!
    やだなにこの可愛い後輩っ!
    『おいおいマジかよ……そりゃ勘弁してくれよ…』
    とか言っちゃいそう!
    もう俺マジで主人公!



    八幡「起こさねえよ。つかどこまで付いてくんだよ、俺の家もうちょいなんだけど」

    いろは「先輩のお家まで行って傘もらってから帰りますー」



    あー、マジかー…。
    一色は現在傘を持っていない。
    まぁだから相合傘なんてしてるわけだが…。
    どうやら学校で盗難にあったのだそうだ。
    いやホント人の傘とか平気で取っていく奴なんなの?
    なんでてめぇが忘れたモンをこっちが補ってやらにゃならんのだ。
    お前の物は俺の物とか頭なんか湧いてんじゃねぇの?いつからこんなにジャイアニズム浸透しちゃったの?お前らが俺の傘盗んでいくから俺は他人の傘取らなくちゃいけねぇんだぞ?
    やれ日本人はマナーが良いだの、やれ奥ゆかしいだの、やれ親切で心優しいだの言われてるけど全くそんなことねーよ。
    基本みんな卑怯で姑息で保身的で偽善的なんだからな!日本人なめてっとマジで痛い目見るぞどちくしょうっ!!



    112 = 107 :




    いろは「どうせなら先輩のお宅に上がってお茶なんか頂いてあげますけど?」



    なんでこんなに図々しいの?つかなんで上から目線…。
    あー、てか家に帰ったらまた最近ちょっとアレな妹が待ってるのかー…、考えただけでヤバいなー。
    と、小町の顔が浮かんだ瞬間、何かの危険信号が身体中を駆け回る。
    最近の小町はブラコンにしても度が過ぎている気がする。いや、シスコンの俺が言うのもアレだけどね?
    そこに傘を貸すだけだとしても、一色を連れて帰ったら………うん、何かこわい。



    八幡「一色、ちょっとこっち来い」

    いろは「ふぇ?ちょっ、先輩?!」



    あざとらしく声を上げる一色の手を軽く握ると、すぐそばの民家の屋根の下へと連れて行く。
    ちょうど雨宿りにはピッタリで傘を閉じると握っていた手を離し、代わりにその傘を渡す。
    手を離した瞬間一色の口から、ぁっ、と少し吐息めいたものが溢れたが気にしない。



    八幡「その傘貸してやるからまた今度返せ」

    いろは「え?なんでですか?えっ?ていうか先輩はどうするんですか?」

    八幡「俺は家近いから走って帰れるがお前はそうも行かねぇだろ」

    いろは「え、でも」

    八幡「先輩らしいことしてカッコつけてるんだから有難く受け取っとけ」

    いろは「そのセリフは気持ち悪いですけど…。で、でもそんな事されたって私の好感度は少ししか上がりませんからねっ!」

    八幡「あーはいはいそりゃ残念だなー。まぁそういう事だから、じゃあな」



    113 :

    フラグ回避だと!!

    115 :




    それだけ言って走り出そうと前方に体重をかけようとした瞬間にブレザーの袖を握られていたことに気付いた。
    一色の方を向くと、一色はすぐさま視線を外した。



    いろは「……あの、ありがとうございます」



    一色の普段とは似つかわしくない歯切れの悪さに少し戸惑いを覚える。
    むしろ一色が俺に素直に礼を述べるのがなんだか新鮮で、少し朱に染まった頬が小動物めいていて可愛らしい。



    いろは「そ、その、今度、なんかおごらせてあげても、良いです、よ?」

    八幡「………」



    そしてこの後に及んでもこの傲慢な態度がうざ可愛いとさえ思える。
    これが雨の日マジックか…、いわ知らんけど。つか雨の日マジックってなんぞ?



    八幡「あー、まぁなら今度学校の自販機で何か買ってやるよ」

    いろは「は?いや、そういう意味じゃないんですけど……先輩のバカ…」



    何やらゴニョゴニョと言っているが、生憎俺は懐も財布も性根も小さな男ですからね、変に大きな期待はしないでよねっ!


    116 = 115 :




    八幡「んじゃそろそろ帰るわ。じゃあな」

    いろは「はいっ、ホントありがとうございますー、ではまたー」



    それだけ交わして雨の中へと飛び出した。
    とはいっても結局は小雨なので大して気にならないし、まぁほらあとアレな。
    雨に濡れる男はかっこいい理論で今の俺マジかっこいんじゃね?!とか考えて走ってるとテンション上がってくるから好き。
    まぁ多分この時間帯に雨の中目つきの悪い男が傘も差さずに走ってるとか不審者認定待ったなしだろうけどな。
    俺という存在が罪。
    罪を背負って走る男とかかっこよさに拍車かかっててすごい好き。愛してるまである。



    八幡「意外と濡れたな…」



    家の玄関に入り込んで、自分の髪やブレザーを確認して呟く。
    何度か水たまりに突っ込んでしまったので靴はビショビショだ。
    と、足に視線がいって気付いたこと一つ。
    ローファーが多い。
    あー、まぁ小町の友達でも来てるんだろ。
    うん、そうに違いない。
    そうであってくれお願します。
    俺が玄関の扉を閉める音に気付いた小町がリビングからパタパタと出てくる。



    小町「おかえりーってえっ?!なんでそんな濡れてるの?朝確か小町、傘持たせたよね?」

    八幡「あー、困ってる奴に貸してやった」


    117 = 115 :




    小町「そんなこと言ってどうせまた盗まれたんでしょー、もうホントそういうことする人って最低だよ」



    しかめっ面しながら文句を垂れると、ちょっと待ってて、とだけ言って走り去り、少ししてからタオルを持って帰ってくる。
    そのタオルを受け取ろうと手を出すが、なぜか小町にその手を叩かれる。



    小町「良いの!小町が拭いてあげるから!」

    八幡「いやいいっつの。タオル貸せ」



    再び小町からタオルを奪おうとするがその手をヒョイと避けられる。
    はぁ、と大きくため息を吐いてから、なら髪だけ頼む、と言って玄関に腰を下ろす。
    それに満足したように小町がワシャワシャと髪を拭いてくれている間に靴を脱いで、ついでにびしょ濡れの靴下も脱ぎ捨て、ブレザーを上下脱いでいく。



    八幡「誰か友達でも来てんのか?」

    小町「んー、まぁそうだけど…」



    小町の要領を得ない回答に少し疑問を持ちつつもブレザーとその下のシャツも脱ぎ終え、Tシャツとパンツだけのあられもない姿になる。
    小町の作業も終わり、立ち上がる。


    118 = 115 :




    小町はそのまま俺の脱いだ衣類を腕にかける。
    んー、こういうことって兄妹といえど、やってくれるものなのだろうか?とか疑問に思う。
    いやブレザーとかならまだしも、濡れた靴下まで普通に拾い上げるから何か不安になる。
    まぁ小町は良いお嫁さんになるだろうな……嫁に出す気はないけど。



    八幡「サンキュな、ならまぁ後は楽しんで」



    感謝を述べてからそのまま立ち去ろうと背中を向けるが、その手を小町が空いた手で捕まえてくる。



    小町「着替え終わったら降りてきて」

    八幡「は?なんでだよ、妹の友達に挨拶して笑い者にされたりとかしたら俺のハート壊れちゃうんだけど?」

    小町「そんなことする人とは付き合わないし、仮にそんなことしたら小町が許さないもんっ!とりあえず降りてきてね」

    八幡「……まぁ了解した」



    半ば小町の迫力に押されながらも不承不承に了解すると、その場を後にして自室に入る。
    んー、これは悪い予感が的中したかもしれんなぁ…とか思いながら着替えを済まして一階のリビングへと降りた。


    119 = 115 :




    中にいる人物を見て息を呑む。
    俺の予想していた人物とは違う人物がいて、これはこれで最悪である。
    俺が入ってきたことに気付いたその人物と視線が合った時は心臓が耳元に来たのではないかと言うほど鼓動の音が聞こえた。
    しばし交錯する視線。
    驚き。焦り。不安。恐怖。期待。希望。安堵。様々な思いがその数瞬に二人の間を行き交った。



    八幡「……由比ヶ浜」

    結衣「や、やっはろー」



    ソファに行儀よく腰掛ける由比ヶ浜。
    普段の快活なアホ丸出しな挨拶は全くと言っていいほど元気が無く、互いに何を話して良いのか分からず再び黙り込んでしまう。
    それをキッチンの方から見ていたのであろう小町が俺と由比ヶ浜の間に入って口を開いた。



    小町「んーとですねお兄ちゃん、結衣さんは今日の部活でお兄ちゃんと口論になったのを気にかけてわざわざ謝りに来たのだそうです。まぁ別にもう小町的にはお兄ちゃんを将来面倒見てくれる人は要らないと思ってるんだけど、それでもやっぱ一人の友人として、4月からの先輩として放っておけなくてですね、ここにこうしてお兄ちゃんの帰りを待ってもらっていたのですっ!」



    あぁなるほど、何となく分かった。
    由比ヶ浜としても今日の事を思って、仲直りにしに来たということでおそらく間違いなかろう。
    これは好都合だ。
    送り方の分からんメールに四苦八苦するよりこういうのの方が簡潔で分かりやすいし、やりやすい。


    120 :

    ええこやな

    121 :

    ふぇぇぇ
    小町がヤンデレ化してるよ

    122 :

    このまま小町ルートがいいな…

    123 :

    沙希ちゃんとくっついて小町が病む展開が見たい

    124 :

    八幡てサキサキのアドレスか携番持ってましたっけ?

    125 = 124 :




    小町「それじゃ結衣さんごゆっくりー。邪魔者はこれにてドロンっ」



    それだけ言うと小町は踵を返し、リビングから出て行く。
    またしばしの静寂が部屋の中を支配する。
    小町に簡潔に説明されても、やはりこう面と向かって対峙するとどうすれば良いのか分からない。
    そんな中、先に口を開いたのは由比ヶ浜だった。



    結衣「と、とりあえず座って話しようよ」

    八幡「お、おう」



    ずっとリビングのドア付近で立ち尽くしていたためか、一歩が重い。
    あれ?これ俺はどこに座るのが正解なの?え?まさか由比ヶ浜の隣?それとも床?
    由比ヶ浜の近くまで行き少し考えあぐねていると、その思考を読み取ったのか、由比ヶ浜がソファの端に避けてスペースをつくってくれたので、そこに腰を下ろした。
    あぁ、何か気まずいよぉ。



    結衣「ご、ごめんね急に来ちゃって」

    八幡「いや、別にいい。俺もお前にどんなメール送ろうか悩んでたから」

    結衣「………そっか…。ヒッキーも、ヒッキーも仲直りしたいって思ってくれてたの?」

    八幡「……まぁ、同じ部活だしな」

    結衣「………それだけ?」

    八幡「は?」

    結衣「それだけの理由しか、アタシと仲直りする意味、ないの…?」



    127 = 124 :




    どんどんとか細くなる声。
    俯いた顔。
    なんて答えるのが正解なのだろう?
    この質問の真意は何なのだろうか?
    俺はなぜこの質問に即答できないのだろうか?



    八幡「………」



    横に座る由比ヶ浜の顔はうかがい知れない。
    俯いた顔にしなだれた髪の毛が邪魔をして、その目を捉えることができない。
    分かるのは、少しだけ、震えた唇。



    八幡「……個人的に、お前とは、お前と雪ノ下とは、その、口論とか喧嘩とかになっても、仲直りできる、関係でいたい…」



    俺の声も震えていたと思う。
    ただ素直に、純粋に、自分の想いを口に出すのは恥ずかしい。
    心音はうるさいし、手汗ハンパないし、頭ん中真っ白だし、声は上ずって震えるし。
    でも言わなくちゃダメだ。
    ちゃんと今日のことを互いに謝って仲直りしなければ、雪ノ下に合わせる顔もない。
    何の反応も示さない由比ヶ浜。
    なら今度は俺から謝って、仲直りの一歩を踏み出さなくてはならないだろう。
    そう思って由比ヶ浜に顔を向け、謝ろうと口を開きかけたが、そんなものも全て由比ヶ浜の言葉に呑み込まれて、どこかへと消え去ってしまった。





    結衣「………………スキ…」





    128 = 124 :




    世界が止まった感覚に陥った。
    小さい声で呟かれたその単語を、俺の高性能な耳が完璧に拾い上げてしまった。
    何も言葉を発することができない。
    ただ目を見開いて、こちらに振り向く由比ヶ浜のとても紅潮した顔を見つめることしかできない。
    ソファの端と端で、見つめ合っている女の子が、全く異次元の存在に思えた。



    結衣「……好き…好きだよ、ヒッキー。アタシ、ヒッキーのことが好きだから、だから、仲直りしたい」



    真っ直ぐ据えられたその瞳は、視線を逸らすことを許してくれない。



    八幡「ちょ、ちょっと待て。え?由比ヶ浜、お前、ちょっ、何言ってーーー」

    結衣「ねぇヒッキー」



    由比ヶ浜から視線を逸らしていないはずなのに、そう言って由比ヶ浜が立ち上がって俺の目の前まで移動してきたことに気付かなかった。
    由比ヶ浜の震えた華奢な手が、俺の頬に添えられてはじめてその現状を把握した。
    俺の両足を跨いでソファについた膝。
    膝立ちのせいで俺より少し上から見下ろしてくる瞳。今にもくっつきそうな鼻。
    互いの吐息を確認できる距離に、由比ヶ浜はいる。
    その大きな瞳に吸い込まれたかのように、身動き一つとることができない。
    その口の動きが、とてもゆっくり、パノラマ写真のようにスローモーションに見えた。





    結衣「アタシに、してよ」




    129 = 124 :




    どんどんと近付いてくる顔をただ見ていることしかできなかった。
    頬に添えられた手は、いつ間にかそこを離れ、首をホールドしている。
    正直、キスされるのかと思った。
    だが、その顔はゆっくりと俺の顔の横を通過していった。
    由比ヶ浜はただ抱きついてきたのだ。
    彼女のお尻が腿の上に優しく降ろされる。
    その豊満な胸が俺の胸と密接に重なり合う。
    柔らかなシャンプーの匂いが鼻をくすぐる。
    優しく、温かい吐息が首筋にかかる。
    互いの心音が伝わり合う。



    八幡「お、おい、いくらなんでもこれは…」

    結衣「ヒッキー…」



    消えてしまいそうなほど小さな声。
    首に絡まった腕に力が入ったのが分かる。
    由比ヶ浜を押し倒してしまいたい気持ちと葛藤している自分がいる。



    結衣「アタシと、付き合ってよ…」

    八幡「由比ヶ浜……」



    由比ヶ浜の言葉に嘘偽りは微塵も感じない。
    冗談でも、ドッキリでもない。
    震えた身体が、伝わってくる心音が、それを証明している。
    でも、そんな距離に由比ヶ浜を感じて、尚且つ心臓が爆音をたてていても、男として高翌揚している気持ちがあっても、俺はその震えた身体を抱き締め返すことができなかった。



    八幡「………それは、できない」

    結衣「…………」



    130 :

    俺には小町がいるから…

    131 :

    俺には京華がいるから…

    132 :

    ここでお預けとか生殺しがヤバイwww

    133 :

    <●> <●>

    134 :

    八幡とゆきのん、さきさき、いろはす、小町との結婚生活は想像出来るのに
    ガハマさんと平塚先生の結婚生活だけが浮かばない

    135 :

    この展開で八幡がOK出すとは思えないだろうに、ガハマさんも一発逆転の勝負に出たなあ。

    137 :

    自爆特攻でしょ、こんなん

    138 :

    >>135
    いざとなれば既成事実作るために襲うから大丈夫だな

    139 = 135 :

    その辺は女の武器ですわなあ。男→女でこれをやって成功させるには相当なイケメン+トーク力がないと…でも女なら気持ち+体でなんとか!ってなる部分がわりと大きい。

    141 :

    由比ヶ浜可愛いよ由比ヶ浜

    142 :




    なぜ、ダメなのだろう?
    自分の中で、その問いが反芻している。
    そこにコレといった確定的な理由が見つけられない。
    すでに断っているのに、そんなことを考えてしまい、またその結論が出ない。
    もし今ここで由比ヶ浜に、どうして?と聞かれたら何と言えばいいんだろうか?
    だが無言を貫いていた由比ヶ浜の次の言葉はそれではなかった。



    結衣「………そっか」

    八幡「……理由、聞かねえのか?」



    俺の問いに、ただ小さく頷く由比ヶ浜。
    理由を尋ねてくると思っていた。
    だがその端的な反応は、まるでこうなることを予期していたかのようにも感じられる。
    俺の上に向かい合わせで座って、首に手を回して、かたに顔を埋めて、少し震える身体で抱き付いてきて、俺には今の由比ヶ浜がまるで読めない。
    でも由比ヶ浜は意味のないことをするような人間ではない。
    ならこの行動にいったいどんな意味があるのだろうか?



    結衣「その代わり…」



    再び囁かれる言葉は依然として小さく、震えている。
    腕には少し力がこもり、かすかに嗚咽が聞こえる。
    そして、徐々に由比ヶ浜の顔が乗った肩が温かくなっていくのが分かった。




    結衣「その代わり、少しだけで、良いから………ギュッて、して…」



    143 = 142 :




    嗚咽がもれて、言葉が少し裏返ったり、切れ切れになったり、そんな由比ヶ浜のお願いをさすがの俺でも断ることなどできなかった。
    指先が由比ヶ浜のブレザーに触れた瞬間、俺の中でブレーキ信号が出されて思わずその手を止めてしまった。
    どこまで行っても俺はただの臆病者だ。
    でも、泣いている由比ヶ浜のお願いを、泣かしてしまった由比ヶ浜のお願いを、無視することは万死に値する気がする。
    その宙で止まった手に力をこめて、由比ヶ浜の震える身体を強く抱き締めた。



    結衣「 うっ、、ヒッ、うっぐ、、ヒッキー…ヒッキー………ッ!」



    嗚咽をもらしながら、俺の名前を何度も呼んで、俺のTシャツの肩を大粒の涙で濡らして、そんな少女をただ抱き締めて。
    今すぐ自分の出した答に理由が欲しかった。
    でないと俺はただ由比ヶ浜を傷付けただけになってしまう気がした。
    自分のしたことが悪で、罪な気がする。
    それなのに、それなのに謝罪の言葉すら見つからず、由比ヶ浜の柔らかな身体を堪能することもなく、ただその身体を強く抱き締めるだけだった。
    告白されたという実感も大して湧かない。
    フったという罪悪感だけが押し寄せる。
    行動には何かしらの理由があるはずだ。
    フィーリングで由比ヶ浜をフったなんて事はあり得ないはずだ。
    そう思わないと、俺が俺じゃなくなってしまう。
    理論と論理と理屈と屁理屈で塗り固められた俺がなくなってしまう。

    『彼女と、きちんと仲直りしなさい』

    雪ノ下、これは仲直りできたのだろうか?
    仲直りもしないまま次の問題にぶち当たってしまったのだが、どうすればいい?

    『そうやっていつも義理とか理由とか下らないこと言って………バカじゃないの』

    川崎の言う通りだ。
    でも、だって俺は、そんなやり方しか知らねぇんだよ。
    お前らみたいには、なれないんだよ。
    バカなのはお前たちだ。
    正しいか間違ってるかを深く追求せず、闇雲に突っ走って、跳ね返されて、泣いて、また突っ走って、跳ね返されて、泣いて。
    由比ヶ浜、お前はバカだ。
    好きになる相手を間違えてる。




    でも、本当にバカなのはーーー。



    145 :




    ____________________
    __________
    _____



    ベッドに仰向けに寝転がって、ただぼーっとしていた。
    時折深く溜息を吐いたりしてみて、心機一転を図ろうとするが何も変わらない。
    先ほど風呂に入ったせいで、濡れた髪の毛からほのかにシャンプーの香りがして、余計に心は暗くなった。


    ーーーあの後、泣き止んだ由比ヶ浜は俺から顔を離すと、ありがと、とだけ優しく呟いてから帰っていった。
    由比ヶ浜を玄関で見送った後、俺はしばらくそこに立ち尽くしていた。
    もうそこに由比ヶ浜は居ないのに。
    あの由比ヶ浜の温もりはないのに。
    あの由比ヶ浜の涙は拭えないのにーーー


    現在風呂から上がってベッドで横になり、自問自答を繰り返している。いや、答が出ていないので自答はしていないが…。
    結局仲直りしたかどうかも曖昧なままで、週明けからどんな顔して会えば良いのかすら分からない。
    コレってもしかして雪ノ下に怒られるヤツ?え、すげー嫌なんだけど。月曜学校に行きたくない。
    ちなみに普段から月曜は学校行きたくない。なんなら毎日休みたいまである。



    小町「なにしてんの?」

    八幡「……ノックくらいしようね?」



    いつの間にやらドアを開けて小町が侵入してきていた。
    お兄ちゃんビックリ!うちの妹ってくノ一だったの?お銀さんよりも可愛いから水戸のご老公も鼻の下伸びっぱなし間違いなしだね!
    っていうかホントノックしてほしかった。
    今お兄ちゃん、枕を優しく抱き締めて反省会してたんだからさ。
    そりゃもう枕をあの時の由比ヶ浜と仮定してね。


    146 :

    小町を代わりに抱きしめるとかポイント高いんじゃないかな?

    148 :




    八幡「んで、なんだよ」

    小町「んー、ただ今日は結衣さんとどんな話してたのかなぁって」

    八幡「………別に。お前に言うようなことは何もなかったぞ」



    嘘をついた。
    いや、確かに小町に言うことではないのは事実だが、今回のことは明らかに俺一人の力では何もできない気がする。
    俺には余りにも大き過ぎる案件だったのは間違いない。そしてその大き過ぎる案件を俺は『それはできない』とたったの7文字でぶった切ったのだ。



    小町「…ふーん」



    疑いの色を込めた目を細め、相槌を打つ小町に、これ以上追求されたら何と答えようか…と考えていたが、それは杞憂に終わった。
    少しの間、沈黙が降りて互いに見合っていると小町の顔が少し朱に染まる。
    こちらの怪訝な視線には動じることなく、お兄ちゃん!と声高に呼んでくる小町に嫌な予感がする。



    小町「一緒に寝よっか」

    八幡「は?」



    見事予感は的中。
    もうお兄ちゃん最近小町ちゃんの頭の中が心配で仕方ないよ。
    もはや怖いまである。
    ただ、最近やけにべったりしてきて、尚且つそんなことを言ってくる小町が可愛いとさえ思えてきて嬉しくなってる俺もいる。
    あぁ、八幡はダメなお兄ちゃんです…。


    149 = 148 :




    八幡「小町、お前最近おかしくないか?」

    小町「んー?なにが?あ、そっち詰めて」



    喋りながらズカズカとベッドの上に乗っかると俺を端へと追いやる。
    いやホントおかしくね?
    もう何が一番おかしいって俺がその小町の指示に従って端によけてることだよねっ!
    コレそろそろ高坂家みたいになるんじゃね?
    こんなとこあの小町溺愛のバカな父親に見られたら本気で東京湾に沈められそうなんだけど…。
    どうせだったら俺の千葉愛に免じて亀山湖にして欲しい。



    八幡「小町」

    小町「ん、なあに?」

    八幡「……なんかあったのか?」

    小町「ほぇ?なんで?」

    八幡「いや妹の最近のこういう行動にお兄ちゃん不安を隠せないんだけど…」

    小町「………」

    八幡「…やっぱなんかあったか?」



    小町の無言で不安が加速する。
    隣に寝転がる妹を横目でチラリと見ると、小町が横向きになりこちらを睨んでいることに気付いた。



    小町「お兄ちゃんっ!」

    八幡「はい」



    150 :




    小町「小町はお兄ちゃんに言われた通りにしてるだけだよ!」

    八幡「…俺、お前にこんなことしろなんて言ったか?」



    え?寝言とか呟いてた?
    それでこんなことしてきてんの?
    それはそれで小町にも問題ありそうなんだけど…
    もちろん一番の有罪は俺ですね。
    くそっ!俺のバカっ!なんで言っちまうんだよぉ!!



    小町「違うもんっ!けど小町に癒してくれって言ったでしょ!」

    八幡「…………あぁ、そういや言ったかも…」

    小町「あぁもう!これだからゴミいちゃんは」



    あぁ、、確かに言ったな。
    あ、それで最近のコレだったのか。
    うん納得。
    ………………。
    ………………。
    ………………いや待て、全然わかんない。
    その言葉からなんでこうまで激しいスキンシップになるんだ?
    え、お兄ちゃん余計に妹が心配…。



    八幡「あーっと小町?俺は確かに小町の家事スキルで癒してくれみたいなことは言ったと思うが、ここまでしろとは…」

    小町「………嫌?」




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